特許第6957250号(P6957250)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6957250
(24)【登録日】2021年10月8日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】非水系リチウム型蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/06 20130101AFI20211021BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20211021BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20211021BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20211021BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20211021BHJP
   H01G 11/68 20130101ALI20211021BHJP
   H01G 11/42 20130101ALI20211021BHJP
   H01G 11/32 20130101ALI20211021BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20211021BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20211021BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20211021BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20211021BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20211021BHJP
【FI】
   H01G11/06
   H01G11/50
   H01G11/30
   H01G11/60
   H01G11/62
   H01G11/68
   H01G11/42
   H01G11/32
   H01M10/052
   H01M10/0568
   H01M10/0569
   H01M4/587
   H01M4/62 Z
【請求項の数】25
【全頁数】63
(21)【出願番号】特願2017-139246(P2017-139246)
(22)【出願日】2017年7月18日
(65)【公開番号】特開2019-21775(P2019-21775A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2020年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】木村 維摩
【審査官】 北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/076261(WO,A1)
【文献】 特開2016−178125(JP,A)
【文献】 特開2017−123385(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0006738(US,A1)
【文献】 特開2010−225291(JP,A)
【文献】 特開2006−261516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/06
H01G 11/50
H01G 11/30
H01G 11/60
H01G 11/62
H01G 11/68
H01G 11/42
H01G 11/32
H01M 10/052
H01M 10/0568
H01M 10/0569
H01M 4/587
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極;
負極;
セパレータ;及び
リチウムイオンを含む非水系電解液;
を含む非水系リチウム型蓄電素子であって、
前記負極が、負極集電体と、前記負極集電体の片面上又は両面上に設けられた、負極活物質を含む負極活物質層とを有し、かつ前記負極活物質はリチウムイオンを吸蔵・放出できる炭素材料を含み、
前記正極が、正極集電体と、前記正極集電体の片面上又は両面上に設けられた、正極活物質を含む正極活物質層とを有し、かつ前記正極活物質は活性炭を含み、
式CHOX{式中、Xは、−(O)Li又は−(COO)Liであり、かつnは0又は1である。}で表される化合物の、前記正極物質層の単位質量当たりの含有量をAとし、かつ
式COX{式中、Xは、−(O)Li又は−(COO)Liであり、かつnは0又は1である。}で表される化合物の、前記正極物質層の単位質量当たりの含有量をBとしたとき、1.80≦A/B≦20.00であり、そして、
下記式(1)〜(3):
LiX−ORO−XIILi (1)
{式(1)中、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基、又は炭素数1〜4のハロゲン化アルキレン基であり、かつX及びXIIは、それぞれ独立に−(COO)(ここで、nは0又は1である。)である。}
LiX−ORO−XII (2)
{式(2)中、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基、又は炭素数1〜4のハロゲン化アルキレン基であり、Rは、水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のモノ若しくはポリヒドロキシアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のモノ若しくはポリヒドロキシアルケニル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、又はアリール基であり、かつX及びXIIは、それぞれ独立に−(COO)(ここで、nは0又は1である。)である。}
−ORO−XII (3)
{式(3)中、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基、又は炭素数1〜4のハロゲン化アルキレン基であり、R及びRは、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のモノ若しくはポリヒドロキシアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のモノ若しくはポリヒドロキシアルケニル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、又はアリール基であり、かつX及びXIIは、それぞれ独立に−(COO)(ここで、nは0又は1である。)である。}
の中から選択される化合物の、前記正極物質層の単位質量当たりの含有量をCとしたとき、Cが1.60×10−4mol/g〜150.0×10−4mol/gであり、かつ前記正極が、炭酸リチウム、酸化リチウム、水酸化リチウム、フッ化リチウム、塩化リチウム、シュウ化リチウム、ヨウ化リチウム、窒化リチウム、シュウ酸リチウム、及び酢酸リチウムから選択される1種以上のリチウム化合物を含む非水系リチウム型蓄電素子。
【請求項2】
前記式CHOX{式中、Xは、−(O)Li又は−(COO)Liであり、かつnは0又は1である。}で表される化合物の、前記負極物質層の単位質量当たりの含有量をDとし、かつ
前記式COX{式中、Xは、−(O)Li又は−(COO)Liであり、かつnは0又は1である。}で表される化合物の、前記負極物質層の単位質量当たりの含有量をEとしたとき、1.10≦D/E≦15.00である、請求項1に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
【請求項3】
前記リチウム化合物の平均粒子径をXとするとき、0.1μm≦X≦10μmであり、前記正極活物質の平均粒子径をYとするとき、2μm≦Y≦20μmであり、X<Yであり、かつ前記正極中に含まれる該リチウム化合物の量が、1質量%以上50質量%以下である、請求項1又は2に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
【請求項4】
前記非水系電解液が、ジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を含有し、かつ
前記エチルメチルカーボネートに対する前記ジメチルカーボネートの体積比率(DMC/EMC)が、0.5以上8.0以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
【請求項5】
前記非水系電解液が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート及びフルオロエチレンカーボネートから成る群から選択される少なくとも1種の有機溶媒を含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
【請求項6】
前記正極集電体及び前記負極集電体が、無孔状の金属箔である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
【請求項7】
前記非水系電解液が、LiPF及び/又はLiBFを含有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
【請求項8】
前記非水系電解液におけるLiN(SOF)の濃度が、前記非水系電解液の総量を基準として0.3mol/L以上1.5mol/L以下である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
【請求項9】
前記正極活物質層に含まれる前記正極活物質が、BJH法により算出した直径20Å以上500Å以下の細孔に由来するメソ孔量をV1(cc/g)、MP法により算出した直径20Å未満の細孔に由来するマイクロ孔量をV2(cc/g)とするとき、0.3<V1≦0.8、及び0.5≦V2≦1.0を満たし、かつ、BET法により測定される比表面積が1,500m/g以上3,000m/g以下を示す活性炭である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
【請求項10】
前記正極活物質層に含まれる前記正極活物質が、BJH法により算出した直径20Å以上500Å以下の細孔に由来するメソ孔量V1(cc/g)が0.8<V1≦2.5を満たし、MP法により算出した直径20Å未満の細孔に由来するマイクロ孔量V2(cc/g)が0.8<V2≦3.0を満たし、かつ、BET法により測定される比表面積が2,300m/g以上4,000m/g以下を示す活性炭である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
【請求項11】
前記負極に含まれる前記負極活物質のリチウムイオンのドープ量が、単位質量当たり530mAh/g以上2,500mAh/g以下である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
【請求項12】
前記負極活物質のBET比表面積が100m/g以上1,500m/g以下である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
【請求項13】
前記負極に含まれる前記負極活物質のリチウムイオンのドープ量が、単位質量当たり50mAh/g以上700mAh/g以下である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
【請求項14】
前記負極活物質のBET比表面積が1m/g以上50m/g以下である、請求項1〜10及び13のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
【請求項15】
前記負極活物質の平均粒子径が、1μm以上10μm以下である、請求項13又は14に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
【請求項16】
セル電圧4Vでの初期の内部抵抗をRa(Ω)、静電容量をF(F)、電力量をE(Wh)、電極積層体を収納している外装体の体積をV(L)、及び環境温度−10℃における内部抵抗をRbとした時、以下の(a)、(b)、及び(c)の要件:
(a)RaとFの積Ra・Fが0.3以上3.0以下である、
(b)E/Vが15以上50以下である、
(c)Rb/Raが10以下である
を同時に満たす、請求項1〜15のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
【請求項17】
セル電圧4Vでの初期の内部抵抗をRa(Ω)、セル電圧4V及び環境温度60℃において2か月間保存した後の25℃における内部抵抗をRc(Ω)とした時、以下の(d)及び(e)の要件:
(d)Rc/Raが0.3以上3.0以下である、
(e)セル電圧4V及び環境温度60℃において2か月間保存した時に発生するガス量が、25℃において30×10−3cc/F以下である、
を同時に満たす、請求項1〜16のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
【請求項18】
セル電圧4.0V、釘径2.5mmΦ、及び釘刺し速度20mm/secの条件下で実施した釘刺し試験において、試験時の発熱温度ΔTが80℃未満である、請求項1〜17のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子を用いた蓄電モジュール。
【請求項20】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子、又は請求項19に記載の蓄電モジュールを用いた電力回生システム。
【請求項21】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子、又は請求項19に記載の蓄電モジュールを用いた電力負荷平準化システム。
【請求項22】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子、又は請求項19に記載の蓄電モジュールを用いた無停電電源システム。
【請求項23】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子、又は請求項19に記載の蓄電モジュールを用いた非接触給電システム。
【請求項24】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子、又は請求項19に記載の蓄電モジュールを用いたエナジーハーベストシステム。
【請求項25】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子、又は請求項19に記載の蓄電モジュールを用いた蓄電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系リチウム型蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全及び省資源を目指すエネルギーの有効利用の観点から、風力発電の電力平滑化システム又は深夜電力貯蔵システム、太陽光発電技術に基づく家庭用分散型蓄電システム、電気自動車用の蓄電システム等が注目を集めている。
これらの蓄電システムに用いられる電池の第一の要求事項は、エネルギー密度が高いことである。このような要求に対応可能な高エネルギー密度電池の有力候補として、リチウムイオン電池の開発が精力的に進められている。
第二の要求事項は、出力特性が高いことである。例えば、高効率エンジンと蓄電システムとの組み合わせ(例えば、ハイブリッド電気自動車)又は燃料電池と蓄電システムとの組み合わせ(例えば、燃料電池電気自動車)において、加速時には蓄電システムにおける高出力放電特性が要求されている。
現在、高出力蓄電デバイスとしては、電気二重層キャパシタ、ニッケル水素電池等が開発されている。
【0003】
電気二重層キャパシタのうち、電極に活性炭を用いたものは、0.5〜1kW/L程度の出力特性を有する。この電気二重層キャパシタは、耐久性(サイクル特性及び高温保存特性)も高く、前記高出力が要求される分野で最適のデバイスと考えられてきた。しかしながら、そのエネルギー密度は1〜5Wh/L程度に過ぎない。そのため、電気二重層キャパシタは、更なるエネルギー密度の向上が必要である。
【0004】
他方、現在ハイブリッド電気自動車で採用されているニッケル水素電池は、電気二重層キャパシタと同等の高出力を有し、かつ160Wh/L程度のエネルギー密度を有している。しかしながら、そのエネルギー密度及び出力をより一層高めるとともに、耐久性(特に、高温における安定性)を高めるための研究が精力的に進められている。
【0005】
また、リチウムイオン電池においても、高出力化に向けての研究が進められている。例えば、放電深度(蓄電素子の放電容量の何%を放電した状態かを示す値)50%において3kW/Lを超える高出力が得られるリチウムイオン電池が開発されている。しかしながら、そのエネルギー密度は100Wh/L以下であり、リチウムイオン電池の最大の特徴である高エネルギー密度を敢えて抑制した設計となっている。また、その耐久性(サイクル特性及び高温保存特性)については、電気二重層キャパシタに比べ劣る。そのため、リチウムイオン電池に実用的な耐久性を持たせるためには、放電深度が0〜100%の範囲よりも狭い範囲での使用となる。実際に使用できるリチウムイオン電池の容量は更に小さくなるから、耐久性をより一層向上させるための研究が精力的に進められている。
【0006】
前記のように、高エネルギー密度、高出力特性、及び耐久性を兼ね備えた蓄電素子の実用化が強く求められている。しかしながら、上述した既存の蓄電素子には、それぞれ一長一短がある。そのため、これらの技術的要求を充足する新たな蓄電素子が求められている。その有力な候補として、リチウムイオンキャパシタと呼ばれる蓄電素子が注目され、開発が盛んに行われている。
キャパシタのエネルギーは1/2・C・V2(ここで、Cは静電容量であり、かつVは電圧である)で表される。
【0007】
リチウムイオンキャパシタは、リチウム塩を含む非水系電解液を使用する蓄電素子(非水系リチウム型蓄電素子)の一種であって、正極においては約3V以上で電気二重層キャパシタと同様の陰イオンの吸着・脱着による非ファラデー反応、負極においてはリチウムイオン電池と同様のリチウムイオンの吸蔵・放出によるファラデー反応によって、充放電を行う蓄電素子である。
上述の電極材料とその特徴をまとめると、電極に活性炭等の材料を用い、活性炭表面のイオンの吸着・脱離(非ファラデー反応)により充放電を行う場合は、高出力かつ高耐久性を実現するが、エネルギー密度が低くなる(例えば1倍とする。)。一方、電極に酸化物又は炭素材料を用い、ファラデー反応により充放電を行う場合は、エネルギー密度が高くなる(例えば活性炭を用いた非ファラデー反応の10倍とする。)が、耐久性及び出力特性に課題がある。
これらの電極材料の組合せとして、電気二重層キャパシタは、正極及び負極に活性炭(エネルギー密度1倍)を用い、正負極共に非ファラデー反応により充放電を行うことを特徴とし、高出力かつ高耐久性を有するが、エネルギー密度が低い(正極1倍×負極1倍=1)という特徴がある。
【0008】
リチウムイオン二次電池は、正極にリチウム遷移金属酸化物(エネルギー密度10倍)、負極に炭素材料(エネルギー密度10倍)を用い、正負極共にファラデー反応により充放電を行うことを特徴とし、高エネルギー密度(正極10倍×負極10倍=100)であるが、出力特性及び耐久性に課題がある。更に、ハイブリッド電気自動車等で要求される高耐久性を満足させるためには放電深度を制限しなければならず、リチウムイオン二次電池では、そのエネルギーの10〜50%しか使用できない。
【0009】
リチウムイオンキャパシタは、正極に活性炭(エネルギー密度1倍)、負極に炭素材料(エネルギー密度10倍)を用い、正極では非ファラデー反応、負極ではファラデー反応により充放電を行うことを特徴とし、電気二重層キャパシタ及びリチウムイオン二次電池の特徴を兼ね備えた新規の非対称キャパシタである。そして、高出力かつ高耐久性でありながら、高エネルギー密度(正極1倍×負極10倍=10)を有し、リチウムイオン二次電池の様に放電深度を制限する必要がないことが特徴である。
【0010】
リチウムイオンキャパシタの用途としては、例えば、鉄道、建機、自動車用蓄電等が挙げられる。これらの用途では、作動環境が過酷なため、使用されるキャパシタは40℃以上の高温から0℃以下の低温まで幅広い温度範囲において優れた特性を有する必要がある。40℃以上の高温環境下では電解液の分解によるガス発生によって引き起こされる性能低下が問題となっている。このような課題への対策技術として、非水系電解液中に添加剤を加え、負極活物質の表面に、その分解物から成る被膜を形成させることによって、以後の充放電に伴う非水系電解液の還元分解を抑制し、電池の耐久性を向上させる技術がある。これに関連する技術として、特許文献1及び2では、電解液中に異なる構造を持つ2種の添加剤を含有させる蓄電素子が提案されている。また、特許文献3では、非水系電解液に添加剤を加えることで負極活物質の表面上に一定量の被膜を形成させた蓄電素子が提案されている。
【0011】
また、0℃以下の低温環境下では、蓄電素子の内部抵抗が大きくなり、急激な出力低下が引き起こされるという問題がある。
このような問題を解決する手段として、特許文献4及び5では、電解液中に特定の溶媒を含有させることで低温特性を向上させたリチウムイオンキャパシタが提案されている。特許文献5では、電解液中の混合溶媒の比率を最適化し、特定の負極活物質との適合性を高めることで、低温特性を向上させ、かつ高温試験時のガス発生を抑制することが出来るリチウムイオンキャパシタが提案されている。
【0012】
なお、本明細書において、メソ孔量はBJH法により、マイクロ孔量はMP法により、それぞれ算出されるが、BJH法は非特許文献1において提唱されており、かつMP法は、「t−プロット法」(非特許文献2)を利用して、マイクロ孔容積、マイクロ孔面積、及びマイクロ孔の分布を求める方法を意味し、非特許文献3において示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2014−27196号公報
【特許文献2】特開2013−206791号公報
【特許文献3】特開2014−137861号公報
【特許文献4】特開2015−70032号公報
【特許文献5】特開2011−258915号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】E.P.Barrett,L.G.Joyner and P.Halenda,J.Am.Chem.Soc.,73,373(1951)
【非特許文献2】B.C.Lippens,J.H.de Boer,J.Catalysis,4319(1965)
【非特許文献3】R.S.Mikhail,S.Brunauer,E.E.Bodor,J.Colloid Interface Sci.,26,45(1968)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1及び2に記載の技術は、高温保存時のガス及び電極劣化を抑制させるものであるが、低温特性については言及されていない。特許文献3では、高温におけるサイクル特性に優れたキャパシタが提供されているが、特許文献3においては、高温サイクル試験後の特性変化に関しては結果が示されていない。また、特許文献4及び5に記載のリチウムイオンキャパシタは、低温における蓄電素子の特性を向上し得るものであるが、高温における耐久性の改善についての効果は確認されていない。特許文献5では、低温特性の向上に加えて、高温試験時のガス発生が抑制されたリチウムイオンキャパシタが提供されているが、高温試験後の特性変化については言及されていない。
【0016】
以上のように、従来のリチウムイオンキャパシタにおいては、低温特性又は高温耐久性のどちらかに着目して、その優劣を評価しているに過ぎず、実用化に重要となる高温から低温までの幅広い温度範囲における蓄電素子の入出力特性と耐久性については考慮されていない。また、キャパシタに求められる寿命は10年〜15年であり、高温環境下で長期間使用した場合の特性変化が少ないことも、キャパシタの実際の使用において重要とされるが、その点についても従来のリチウムイオンキャパシタでは検討されていない。
【0017】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、幅広い温度範囲での高い入出力特性と優れた高温耐久性を両立することができ、さらに、その特性を長期間に亘って保持することが出来る非水系リチウム型蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、リチウムイオンキャパシタにおいて、正極活物質として活性炭を使用し、正極活物質層に特定の構造式で示されるリチウム(Li)化合物を特定量含有させることにより、幅広い温度範囲での高い入出力特性と、高温環境下における電解液の分解によるガス発生及びこれによる特性劣化の抑制とを両立することが可能となることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記のとおりのものである。
[1]
正極;
負極;
セパレータ;及び
リチウムイオンを含む非水系電解液;
を含む非水系リチウム型蓄電素子であって、
前記負極が、負極集電体と、前記負極集電体の片面上又は両面上に設けられた、負極活物質を含む負極活物質層とを有し、かつ前記負極活物質はリチウムイオンを吸蔵・放出できる炭素材料を含み、
前記正極が、正極集電体と、前記正極集電体の片面上又は両面上に設けられた、正極活物質を含む正極活物質層とを有し、かつ前記正極活物質は活性炭を含み、
式CHOX{式中、Xは、−(O)Li又は−(COO)Liであり、かつnは0又は1である。}で表される化合物の、前記正極物質層の単位質量当たりの含有量をAとし、かつ
式COX{式中、Xは、−(O)Li又は−(COO)Liであり、かつnは0又は1である。}で表される化合物の、前記正極物質層の単位質量当たりの含有量をBとしたとき、1.80≦A/B≦20.00であり、そして、
下記式(1)〜(3):
LiX−ORO−XIILi (1)
{式(1)中、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基、又は炭素数1〜4のハロゲン化アルキレン基であり、かつX及びXIIは、それぞれ独立に−(COO)(ここで、nは0又は1である。)である。}
LiX−ORO−XII (2)
{式(2)中、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基、又は炭素数1〜4のハロゲン化アルキレン基であり、Rは、水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のモノ若しくはポリヒドロキシアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のモノ若しくはポリヒドロキシアルケニル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、又はアリール基であり、かつX及びXIIは、それぞれ独立に−(COO)(ここで、nは0又は1である。)である。}
−ORO−XII (3)
{式(3)中、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基、又は炭素数1〜4のハロゲン化アルキレン基であり、R及びRは、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のモノ若しくはポリヒドロキシアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のモノ若しくはポリヒドロキシアルケニル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、又はアリール基であり、かつX及びXIIは、それぞれ独立に−(COO)(ここで、nは0又は1である。)である。}
の中から選択される化合物の、前記正極物質層の単位質量当たりの含有量をCとしたとき、Cが1.60×10−4mol/g〜150.0×10−4mol/gである非水系リチウム型蓄電素子。
[2]
前記式CHOX{式中、Xは、−(O)Li又は−(COO)Liであり、かつnは0又は1である。}で表される化合物の、前記負極物質層の単位質量当たりの含有量をDとし、かつ
前記式COX{式中、Xは、−(O)Li又は−(COO)Liであり、かつnは0又は1である。}で表される化合物の、前記負極物質層の単位質量当たりの含有量をEとしたとき、1.10≦D/E≦15.00である、[1]に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
[3]
前記正極が、炭酸リチウム、酸化リチウム、水酸化リチウム、フッ化リチウム、塩化リチウム、シュウ化リチウム、ヨウ化リチウム、窒化リチウム、シュウ酸リチウム、及び酢酸リチウムから選択される1種以上のリチウム化合物を含み、該リチウム化合物の平均粒子径をXとするとき、0.1μm≦X≦10μmであり、前記正極活物質の平均粒子径をYとするとき、2μm≦Y≦20μmであり、X<Yであり、かつ前記正極中に含まれる該リチウム化合物の量が、1質量%以上50質量%以下である、[1]又は[2]に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
[4]
前記非水系電解液が、ジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を含有し、かつ
前記エチルメチルカーボネートに対する前記ジメチルカーボネートの体積比率(DMC/EMC)が、0.5以上8.0以下である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
[5]
前記非水系電解液が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート及びフルオロエチレンカーボネートから成る群から選択される少なくとも1種の有機溶媒を含有する、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
[6]
前記正極集電体及び前記負極集電体が、無孔状の金属箔である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
[7]
前記非水系電解液が、LiPF及び/又はLiBFを含有する、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
[8]
前記非水系電解液におけるLiN(SOF)の濃度が、前記非水系電解液の総量を基準として0.3mol/L以上1.5mol/L以下である、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
[9]
前記正極活物質層に含まれる前記正極活物質が、BJH法により算出した直径20Å以上500Å以下の細孔に由来するメソ孔量をV1(cc/g)、MP法により算出した直径20Å未満の細孔に由来するマイクロ孔量をV2(cc/g)とするとき、0.3<V1≦0.8、及び0.5≦V2≦1.0を満たし、かつ、BET法により測定される比表面積が1,500m/g以上3,000m/g以下を示す活性炭である、[1]〜[8]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
[10]
前記正極活物質層に含まれる前記正極活物質が、BJH法により算出した直径20Å以上500Å以下の細孔に由来するメソ孔量V1(cc/g)が0.8<V1≦2.5を満たし、MP法により算出した直径20Å未満の細孔に由来するマイクロ孔量V2(cc/g)が0.8<V2≦3.0を満たし、かつ、BET法により測定される比表面積が2,300m/g以上4,000m/g以下を示す活性炭である、[1]〜[8]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
[11]
前記負極に含まれる前記負極活物質のリチウムイオンのドープ量が、単位質量当たり530mAh/g以上2,500mAh/g以下である、[1]〜[10]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
[12]
前記負極活物質のBET比表面積が100m/g以上1,500m/g以下である、[1]〜[11]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
[13]
前記負極に含まれる前記負極活物質のリチウムイオンのドープ量が、単位質量当たり50mAh/g以上700mAh/g以下である、[1]〜[10]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
[14]
前記負極活物質のBET比表面積が1m/g以上50m/g以下である、[1]〜[10]及び[13]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
[15]
前記負極活物質の平均粒子径が、1μm以上10μm以下である、[13]又は[14]に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
[16]
セル電圧4Vでの初期の内部抵抗をRa(Ω)、静電容量をF(F)、電力量をE(Wh)、電極積層体を収納している外装体の体積をV(L)、及び環境温度−10℃における内部抵抗をRbとした時、以下の(a)、(b)、及び(c)の要件:
(a)RaとFの積Ra・Fが0.3以上3.0以下である、
(b)E/Vが15以上50以下である、
(c)Rb/Raが10以下である
を同時に満たす、[1]〜[15]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
[17]
セル電圧4Vでの初期の内部抵抗をRa(Ω)、セル電圧4V及び環境温度60℃において2か月間保存した後の25℃における内部抵抗をRc(Ω)とした時、以下の(d)及び(e)の要件:
(d)Rc/Raが0.3以上3.0以下である、
(e)セル電圧4V及び環境温度60℃において2か月間保存した時に発生するガス量が、25℃において30×10−3cc/F以下である、
を同時に満たす、[1]〜[16]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
[18]
セル電圧4.0V、釘径2.5mmΦ、及び釘刺し速度20mm/secの条件下で実施した釘刺し試験において、試験時の発熱温度ΔTが80℃未満である、[1]〜[17]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子。
[19]
[1]〜[18]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子を用いた蓄電モジュール。
[20]
[1]〜[18]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子、又は[19]に記載の蓄電モジュールを用いた電力回生システム。
[21]
[1]〜[18]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子、又は[19]に記載の蓄電モジュールを用いた電力負荷平準化システム。
[22]
[1]〜[18]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子、又は[19]に記載の蓄電モジュールを用いた無停電電源システム。
[23]
[1]〜[18]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子、又は[19]に記載の蓄電モジュールを用いた非接触給電システム。
[24]
[1]〜[18]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子、又は[19]に記載の蓄電モジュールを用いたエナジーハーベストシステム。
[25]
[1]〜[18]のいずれか一項に記載の非水系リチウム型蓄電素子、又は[19]に記載の蓄電モジュールを用いた蓄電システム。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、幅広い温度範囲での高い入出力特性と、高温における電解液の分解によるガス発生及びこれによる特性劣化の抑制とを両立するリチウムイオンキャパシタを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)を詳細に説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。本実施形態の各数値範囲における上限値及び下限値は任意に組み合わせて任意の数値範囲を構成することができる。
一般に、非水系リチウム型蓄電素子は、正極、負極、セパレータ、電解液、及び外装体を主な構成要素として備える。電解液としては、リチウム塩を溶解させた有機溶媒(以下、非水系電解液という。)を用いる。
【0021】
[正極]
正極は、正極集電体と、その片面又は両面に存在する正極活物質層とを有する。
また、正極は、蓄電素子組み立て前の正極前駆体として、リチウム化合物を含むことが好ましい。後述のように、本実施形態では蓄電素子組み立て工程内で、負極にリチウムイオンをプレドープすることが好ましい。そのプレドープ方法としては、前記リチウム化合物を含む正極前駆体、負極、セパレータ、外装体、及び非水系電解液を用いて蓄電素子を組み立てた後に、正極前駆体と負極との間に電圧を印加することが好ましい。前記リチウム化合物は前記正極前駆体の正極集電体上に形成された正極活物質層に含有されることが好ましい。
本明細書中、リチウムドープ工程前における正極状態のことを正極前駆体、リチウムドープ工程後における正極状態のことを正極と定義する。
【0022】
[正極活物質層]
正極に含まれる正極活物質層は、活性炭を含む正極活物質を含有する。正極活物質層は、これ以外に、必要に応じて、導電性フィラー、結着剤、分散安定剤等の任意成分を含んでいてもよい。
また、正極前駆体の正極活物質層には、正極活物質以外のリチウム化合物が含有されることが好ましい。
【0023】
[正極活物質]
正極活物質は、活性炭を含む。正極活物質としては、活性炭のみを使用してよく、又は活性炭に加えて、後述するような他の炭素材料を併用してよい。この炭素材料としては、カーボンナノチューブ、導電性高分子、又は多孔性の炭素材料を使用することがより好ましい。正極活物質には、活性炭を含む1種類以上の炭素材料を混合して使用してもよく、炭素材料以外の材料(例えば、リチウムと遷移金属との複合酸化物等)を含んでもよい。
好ましくは、該正極活物質の総量に対する該炭素材料の含有率が、50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。該炭素材料の含有率は、100質量%であることができるが、他の材料の併用による効果を良好に得る観点から、例えば、90質量%以下又は80質量%以下であることが好ましい。
【0024】
正極活物質として用いる活性炭の種類及びその原料には特に制限はない。しかしながら、高い入出力特性と、高いエネルギー密度とを両立させるために、活性炭の細孔を最適に制御することが好ましい。具体的には、BJH法により算出した直径20Å以上500Å以下の細孔に由来するメソ孔量をV1(cc/g)、MP法により算出した直径20Å未満の細孔に由来するマイクロ孔量をV2(cc/g)とするとき、
(1)高い入出力特性のためには、0.3<V1≦0.8、及び0.5≦V2≦1.0を満たし、かつ、BET法により測定される比表面積が1,500m/g以上3,000m/g以下である活性炭(以下、活性炭1ともいう。)が好ましく、また、
(2)高いエネルギー密度を得るためには、0.8<V1≦2.5、及び0.8<V2≦3.0を満たし、かつ、BET法により測定される比表面積が2,300m/g以上4,000m/g以下である活性炭(以下、活性炭2ともいう。)が好ましい。
【0025】
以下、前記(1)活性炭1及び前記(2)活性炭2について、個別に順次説明していく。
【0026】
[活性炭1]
活性炭1のメソ孔量V1は、蓄電素子に組み込んだときの入出力特性を大きくする観点で、0.3cc/gより大きい値であることが好ましい。他方、正極の嵩密度の低下を抑える観点から、0.8cc/g以下であることが好ましい。上記V1は、より好ましくは0.35cc/g以上0.7cc/g以下、更に好ましくは0.4cc/g以上0.6cc/g以下である。
活性炭1のマイクロ孔量V2は、活性炭の比表面積を大きくし、容量を増加させるために、0.5cc/g以上であることが好ましい。他方、活性炭の嵩を抑え、電極としての密度を増加させ、単位体積当たりの容量を増加させるという観点から、1.0cc/g以下であることが好ましい。上記V2は、より好ましくは0.6cc/g以上1.0cc/g以下、更に好ましくは0.8cc/g以上1.0cc/g以下である。尚、下限と上限の組み合わせは任意のものであることができる。
【0027】
マイクロ孔量V2に対するメソ孔量V1の比(V1/V2)は、0.3≦V1/V2≦0.9の範囲であることが好ましい。すなわち、高容量を維持しながら出力特性の低下を抑えることができる程度に、マイクロ孔量に対するメソ孔量の割合を大きくするという観点から、V1/V2が0.3以上であることが好ましい。一方で、高出力特性を維持しながら容量の低下を抑えることができる程度に、メソ孔量に対するマイクロ孔量の割合を大きくするという観点から、V1/V2は0.9以下であることが好ましい。より好ましいV1/V2の範囲は0.4≦V1/V2≦0.7、更に好ましいV1/V2の範囲は0.55≦V1/V2≦0.7である。尚、下限と上限の組み合わせは任意のものであることができる。
【0028】
活性炭1の平均細孔径は、得られる蓄電素子の出力を最大にする観点から、17Å以上であることが好ましく、18Å以上であることがより好ましく、20Å以上であることが最も好ましい。また、容量を最大にする観点から、活性炭1の平均細孔径は25Å以下であることが好ましい。
【0029】
活性炭1のBET比表面積は、1,500m/g以上3,000m/g以下であることが好ましく、1,500m/g以上2,500m/g以下であることがより好ましい。BET比表面積が1,500m/g以上の場合には、良好なエネルギー密度が得られ易く、他方、BET比表面積が3,000m/g以下の場合には、電極の強度を保つためにバインダーを多量に入れる必要がないので、電極体積当たりの性能が高くなる。尚、下限と上限の組み合わせは任意のものであることができる。
【0030】
上記のような特徴を有する活性炭1は、例えば、以下に説明する原料及び処理方法を用いて得ることができる。
本実施形態では、活性炭1の原料として用いられる炭素源は、特に限定されるものではない。例えば、木材、木粉、ヤシ殻、パルプ製造時の副産物、バガス、廃糖蜜等の植物系原料;泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭、石油蒸留残渣成分、石油ピッチ、コークス、コールタール等の化石系原料;フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、レゾルシノール樹脂、セルロイド、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の各種合成樹脂;ポリブチレン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン等の合成ゴム;その他の合成木材、合成パルプ等、及びこれらの炭化物が挙げられる。これらの原料の中でも、量産対応及びコストの観点から、ヤシ殻、木粉等の植物系原料、及びそれらの炭化物が好ましく、ヤシ殻炭化物が特に好ましい。
【0031】
これらの原料を上記活性炭1とするための炭化及び賦活の方式としては、例えば、固定床方式、移動床方式、流動床方式、スラリー方式、ロータリーキルン方式等の既知の方式を採用できる。
これらの原料の炭化方法としては、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン、キセノン、ネオン、一酸化炭素、燃焼排ガス等の不活性ガス、又はこれらの不活性ガスを主成分とした他のガスとの混合ガスを使用して、400〜700℃(好ましくは450〜600℃)程度において、30分〜10時間程度に亘って焼成する方法が挙げられる。
【0032】
上記炭化方法により得られた炭化物の賦活方法としては、水蒸気、二酸化炭素、酸素等の賦活ガスを用いて焼成するガス賦活法が好ましく用いられる。これらのうち、賦活ガスとして、水蒸気又は二酸化炭素を使用する方法が好ましい。
この賦活方法では、賦活ガスを0.5〜3.0kg/h(好ましくは0.7〜2.0kg/h)の割合で供給しながら、上記炭化物を3〜12時間(好ましくは5〜11時間、更に好ましくは6〜10時間)掛けて800〜1,000℃まで昇温して賦活することが好ましい。
更に、上記炭化物の賦活処理に先立ち、予め上記炭化物を1次賦活してもよい。この1次賦活では、通常、炭素材料を水蒸気、二酸化炭素、酸素等の賦活ガスを用いて、900℃未満の温度で焼成してガス賦活する方法が、好ましく採用できる。
上記炭化方法における焼成温度及び焼成時間と、上記賦活方法における賦活ガス供給量、昇温速度及び最高賦活温度とを適宜組み合わせることにより、本実施形態において使用できる、上記の特徴を有する活性炭1を製造することができる。
【0033】
活性炭1の平均粒子径は、2〜20μmであることが好ましい。
上記平均粒子径が2μm以上であると、活物質層の密度が高いために電極体積当たりの容量が高くなる傾向がある。ここで、平均粒子径が小さいと耐久性が低いという欠点を招来する場合があるが、平均粒子径が2μm以上であればそのような欠点が生じ難い。一方で、平均粒子径が20μm以下であると、高速充放電には適合し易くなる傾向がある。上記平均粒子径は、より好ましくは2〜15μmであり、更に好ましくは3〜10μmである。上記平均粒子径の範囲の上限と下限は、任意に組み合わせることができる。
【0034】
[活性炭2]
活性炭2のメソ孔量V1は、蓄電素子に組み込んだときの出力特性を大きくする観点から、0.8cc/gより大きい値であることが好ましい。他方、V1は、蓄電素子の容量の低下を抑える観点から、2.5cc/g以下であることが好ましい。上記V1は、より好ましくは1.00cc/g以上2.0cc/g以下、さらに好ましくは、1.2cc/g以上1.8cc/g以下である。
【0035】
他方、活性炭2のマイクロ孔量V2は、活性炭の比表面積を大きくし、容量を増加させるために、0.8cc/gより大きい値であることが好ましい。一方、V2は、活性炭の電極としての密度を増加させ、単位体積当たりの容量を増加させるという観点から、3.0cc/g以下であることが好ましい。V2は、より好ましくは1.0cc/g超2.5cc/g以下、更に好ましくは1.5cc/g以上2.5cc/g以下である。
【0036】
上述したメソ孔量及びマイクロ孔量を有する活性炭2は、従来の電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ用として使用されていた活性炭よりもBET比表面積が高いものである。活性炭2のBET比表面積の具体的な値としては、2,300m/g以上4,000m/g以下であることが好ましい。BET比表面積の下限としては、3,000m/g以上であることがより好ましく、3,200m/g以上であることが更に好ましい。一方、BET比表面積の上限としては、3,800m/g以下であることがより好ましい。BET比表面積が2,300m/g以上の場合には、良好なエネルギー密度が得られ易く、他方、BET比表面積が4,000m/g以下の場合には、電極の強度を保つためにバインダーを多量に入れる必要がないので、電極体積当たりの性能が高くなる。
なお、活性炭2のV1、V2及びBET比表面積については、それぞれ上記で説明された好適な範囲の上限と下限を、任意に組み合わせることができる。
【0037】
上記のような特徴を有する活性炭2は、例えば以下に説明するような原料及び処理方法を用いて得ることができる。
活性炭2の原料として用いられる炭素源としては、通常活性炭原料として用いられる炭素源であれば特に限定されるものではなく、例えば、木材、木粉、ヤシ殻等の植物系原料;石油ピッチ、コークス等の化石系原料;フェノール樹脂、フラン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、レゾルシノール樹脂等の各種合成樹脂等が挙げられる。これらの原料の中でも、フェノール樹脂、及びフラン樹脂は、高比表面積の活性炭を作製するのに適しており特に好ましい。
【0038】
これらの原料を炭化する方式又は賦活処理時の加熱方法としては、例えば、固定床方式、移動床方式、流動床方式、スラリー方式、ロータリーキルン方式等の公知の方式が挙げられる。加熱時の雰囲気は窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス、又はこれらの不活性ガスを主成分として他のガスとの混合したガスが用いられる。炭化温度は400〜700℃(下限について、好ましくは450℃以上、更に好ましくは500℃以上。上限について、好ましくは650℃以下)程度で0.5〜10時間程度に亘って焼成することが好ましい。
【0039】
上記炭化処理後の炭化物の賦活方法としては、水蒸気、二酸化炭素、酸素等の賦活ガスを用いて焼成するガス賦活法、及びアルカリ金属化合物と混合した後に加熱処理を行うアルカリ金属賦活法があるが、高比表面積の活性炭を作製するにはアルカリ金属賦活法が好ましい。
この賦活方法では、炭化物とKOH、NaOH等のアルカリ金属化合物との質量比が1:1以上(アルカリ金属化合物の量が、炭化物の量と同じかこれよりも多い量)となるように混合した後に、不活性ガス雰囲気下で600〜900℃(好ましくは650℃〜850℃)の範囲において、0.5〜5時間に亘って加熱を行い、その後アルカリ金属化合物を酸及び水により洗浄除去し、更に乾燥を行う。
【0040】
炭化物とアルカリ金属化合物の質量比(=炭化物:アルカリ金属化合物)は1:1以上が好ましいことを先記したが、アルカリ金属化合物の量が増えるほど、メソ孔量が増えるが、質量比1:3.5付近を境に急激に孔量が増える傾向があるので、質量比は、1:3よりもアルカリ金属化合物が増えることが好ましく、1:5.5以下であることが好ましい。質量比は、アルカリ金属化合物が増えるほど孔量が大きくなるが、その後の洗浄等の処理効率を考慮すると上記範囲であることが好ましい。
なお、マイクロ孔量を大きくし、メソ孔量を大きくしないためには、賦活する際に炭化物の量を多めにしてKOHと混合するとよい。マイクロ孔量及びメソ孔量の双方を大きくするためには、KOHの量を多めに使用するとよい。また、主としてメソ孔量を大きくするためには、アルカリ賦活処理を行った後に水蒸気賦活を行うことが好ましい。
活性炭2の平均粒子径は2μm以上20μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以上10μm以下である。
【0041】
[活性炭の使用態様]
活性炭1及び2は、それぞれ、1種の活性炭であってもよいし、2種以上の活性炭の混合物であって上記した各々の特性値を混合物全体として示すものであってもよい。
上記の活性炭1及び2は、これらのうちのいずれか一方を選択して使用してもよいし、両者を混合して使用してもよい。
正極活物質は、活性炭1及び2以外の材料(例えば、前記特定のV1及び/若しくはV2を有さない活性炭、又は活性炭以外の材料(例えば、リチウムと遷移金属との複合酸化物等))を含んでもよい。例示の態様において、活性炭1の含有量、又は活性炭2の含有量、又は活性炭1及び2の合計含有量が、それぞれ、全正極活物質の50質量%より多いことが好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0042】
正極活物質層における正極活物質の含有割合は、正極前駆体における正極活物質層の全質量を基準として、35質量%以上95質量%以下であることが好ましい。正極活物質の含有割合の上限としては、45質量%以上であることがより好ましく、55質量%以上であることがさらに好ましい。他方、正極活物質の含有割合の下限としては、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることが更に好ましい。この範囲の含有割合とすることにより、好適な充放電特性を発揮する。
【0043】
[リチウム化合物]
本実施形態の正極前駆体の正極活物質層には、正極活物質以外のリチウム化合物が含有されることが好ましい。また、本実施形態の正極の正極活物質層には、正極活物質以外のリチウム化合物が含有される。
前記リチウム化合物としては、後述のリチウムドープ工程において正極で分解し、リチウムイオンを放出することが可能であるという観点から、炭酸リチウム、酸化リチウム、水酸化リチウム、フッ化リチウム、塩化リチウム、シュウ化リチウム、ヨウ化リチウム、窒化リチウム、シュウ酸リチウム、及び酢酸リチウムから成る群から選択される1種以上が好適に用いられる。中でも、炭酸リチウム、酸化リチウム、及び水酸化リチウムが、より好ましく、空気中での取り扱いが可能であり、かつ吸湿性が低いという観点から、炭酸リチウムがさらに好ましい。このようなリチウム化合物は、電圧の印加によって分解し、負極へのリチウムドープのドーパント源として機能するとともに、正極活物質層において空孔を形成するから、電解液の保持性に優れ、イオン伝導性に優れる正極を形成することができる。
【0044】
[正極前駆体のリチウム化合物]
リチウム化合物は、粒子状であることが好ましい。正極前駆体に含有されるリチウム化合物の平均粒子径は0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。正極前駆体に含有されるリチウム化合物の平均粒子径の上限としては50μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが更に好ましく、10μm以下であることが最も好ましい。他方、正極前駆体に含有されるリチウム化合物の平均粒子径の下限としては0.1μm超であることがより好ましく、0.5μm以上であることが更に好ましい。リチウム化合物の平均粒子径が0.1μm以上であれば、正極におけるリチウム化合物の酸化反応後に残る空孔が電解液を保持するのに十分な容積を有することとなるため、高負荷充放電特性が向上する。リチウム化合物の平均粒子径が100μm以下であれば、リチウム化合物の表面積が過度に小さくはならないから、該リチウム化合物の酸化反応の速度を確保することができる。リチウム化合物の平均粒子径の範囲の上限と下限は、任意に組み合わせることができる。
リチウム化合物の微粒子化には、様々な方法を用いることができる。例えば、ボールミル、ビーズミル、リングミル、ジェットミル、ロッドミル等の粉砕機を使用することができる。
【0045】
正極前駆体の正極活物質層におけるリチウム化合物の含有割合は、正極前駆体における正極活物質層の全質量を基準として、5質量%以上60質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。この範囲の含有割合とすることにより、負極へのドーパント源として好適な機能を発揮するとともに、正極に適当な程度の多孔性を付与することができ、かつ両者相俟って高負荷充放電効率に優れる蓄電素子を与えることができる。この含有割合の範囲の上限と下限は、任意に組み合わせることができる。
【0046】
[正極のリチウム化合物]
正極は、正極活物質以外のリチウム化合物を含有することが好ましい。正極が含有する、正極活物質以外のリチウム化合物の平均粒子径をXとするとき、0.1μm≦X≦10μmであることが好ましく、より好ましくは、0.5μm≦X≦5μmである。Xが0.1μm以上の場合、高負荷充放電サイクルで生成するフッ素イオンを吸着することにより高負荷充放電サイクル特性が向上する。Xが10μm以下の場合、高負荷充放電サイクルで生成するフッ素イオンとの反応面積が増加するため、フッ素イオンの吸着を効率良く行うことができる。
【0047】
正極が含有する、正極活物質以外のリチウム化合物は、正極における正極活物質層の全質量を基準として、1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以上25質量%以下であることがより好ましい。リチウム化合物量が1質量%以上であると、高温環境下における正極上での電解液溶媒の分解反応を炭酸リチウムが抑制するため、高温耐久性が向上し、2.5質量%以上であると、その効果が顕著になる。また、リチウム化合物量が50質量%以下であると、正極活物質間の電子伝導性がリチウム化合物により阻害されることが比較的小さいため、高い入出力特性を示し、25質量%以下であると、高入出力特性が顕著になる。尚、下限と上限の組み合わせは任意のものであることができる。
【0048】
<電極中のリチウム化合物の同定方法>
正極中に含まれるリチウム化合物の同定方法は特に限定されないが、例えば下記の方法により同定することができる。リチウム化合物の同定には、以下に記載する複数の解析手法を組み合わせて同定することが好ましい。
以下に記載するSEM−EDX、ラマン、XPSを測定する際には、アルゴンボックス中で非水系リチウム蓄電素子を解体して正極を取り出し、正極表面に付着した電解質を洗浄した後に測定を行うことが好ましい。正極の洗浄方法については、正極表面に付着した電解質を洗い流せればよいため、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート溶媒が好適に利用できる。洗浄方法としては、例えば、正極重量の50〜100倍のジエチルカーボネート溶媒に正極を10分間以上浸漬させ、その後溶媒を取り替えて再度正極を浸漬させる。その後正極をジエチルカーボネートから取り出し、真空乾燥させた後に、SEM−EDX、ラマン分光法、及びXPSの解析を実施する。真空乾燥の条件は、温度:0〜200℃、圧力:0〜20kPa、時間:1〜40時間の範囲で正極中のジエチルカーボネートの残存が1質量%以下になる条件とする。ジエチルカーボネートの残存量については、後述する蒸留水洗浄、液量調整後の水のGC/MSを測定し、予め作成した検量線を基に定量することができる。
後述するイオンクロマトグラフィーでは、正極を蒸留水で洗浄した後の水を解析することにより陰イオンを同定することができる。
解析手法にてリチウム化合物を同定できなかった場合、その他の解析手法として、Li−固体NMR、XRD(X線回折)、TOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)、AES(オージェ電子分光)、TPD/MS(加熱発生ガス質量分析)、DSC(示差走査熱量分析)等を用いることにより、リチウム化合物を同定することもできる。
【0049】
[走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析(SEM−EDX)]
リチウム化合物及び正極活物質は、観察倍率を1000倍〜4000倍にして測定した正極表面のSEM−EDX画像による酸素マッピングにより判別できる。SEM−EDX画像の測定例としては、加速電圧を10kV、エミッション電流を1μA、測定画素数を256×256ピクセル、積算回数を50回として測定できる。試料の帯電を防止するために、金、白金、オスミウム等を、真空蒸着、スパッタリング等の方法により表面処理することもできる。SEM−EDX画像の測定方法については、明るさは最大輝度に達する画素がなく、明るさの平均値が輝度40%〜60%の範囲に入るように輝度及びコントラストを調整することが好ましい。得られた酸素マッピングに対し、明るさの平均値を基準に二値化したとき、明部を面積で50%以上含む粒子をリチウム化合物とする。
【0050】
[顕微ラマン分光]
リチウム炭酸塩及び正極活物質は、観察倍率を1000倍〜4000倍にして測定した正極前駆体表面の炭酸イオンのラマンイメージングにより判別できる。測定条件の例として、励起光を532nm、励起光強度を1%、対物レンズの長作動を50倍、回折格子を1800gr/mm、マッピング方式を点走査(スリット65mm、ビニング5pix)、1mmステップ、1点当たりの露光時間を3秒、積算回数を1回、ノイズフィルター有りの条件にて測定することができる。測定したラマンスペクトルについて、1071〜1104cm−1の範囲で直線のベースラインを設定し、ベースラインより正の値を炭酸イオンのピークとして面積を算出し、頻度を積算するが、この時にノイズ成分をガウス型関数で近似した炭酸イオンピーク面積に対する頻度を炭酸イオンの頻度分布から差し引く。
【0051】
[X線光電分光法(XPS)]
XPSにより電子状態を解析することによりリチウム化合物の結合状態を判別することができる。測定条件の例として、X線源を単色化AlKα、X線ビーム径を100μmφ(25W、15kV)、パスエネルギーをナロースキャン:58.70eV、帯電中和を有り、スイープ数をナロースキャン:10回(炭素、酸素)20回(フッ素)30回(リン)40回(リチウム元素)50回(ケイ素)、エネルギーステップをナロースキャン:0.25eVの条件にて測定できる。XPSの測定前に正極の表面をスパッタリングにてクリーニングすることが好ましい。スパッタリングの条件として例えば、加速電圧1.0kV、2mm×2mmの範囲を1分間(SiO換算で1.25nm/min)の条件にて正極の表面をクリーニングすることができる。
得られたXPSスペクトルについて、
Li1sの結合エネルギー50〜54eVのピークをLiOまたはLi−C結合、55〜60eVのピークをLiF、LiCO、LiPO(式中、x、y、及びzは、それぞれ1〜6の整数である);
C1sの結合エネルギー285eVのピークをC−C結合、286eVのピークをC−O結合、288eVのピークをCOO、290〜292eVのピークをCO2−、C−F結合;
O1sの結合エネルギー527〜530eVのピークをO2−(LiO)、531〜532eVのピークをCO、CO、OH、PO(式中、xは1〜4の整数である)、SiO(式中、xは1〜4の整数である)、533eVのピークをC−O、SiO(式中、xは1〜4の整数である);
F1sの結合エネルギー685eVのピークをLiF、687eVのピークをC−F結合、LiPO(式中、x、y、及びzは、それぞれ1〜6の整数である)、PF
P2pの結合エネルギーについて、133eVのピークをPO(式中、xは1〜4の整数である)、134〜136eVのピークをPF(式中、xは1〜6の整数である);
Si2pの結合エネルギー99eVのピークをSi、シリサイド、101〜107eVのピークをSi(式中、x及びyは、それぞれ任意の整数である)
として帰属することができる。
得られたスペクトルについて、ピークが重なる場合には、ガウス関数又はローレンツ関数を仮定してピーク分離し、スペクトルを帰属することが好ましい。得られた電子状態の測定結果及び存在元素比の結果から、存在するリチウム化合物を同定することができる。
【0052】
[イオンクロマトグラフィー]
正極前駆体を蒸留水で洗浄し、洗浄した後の水をイオンクロマトグラフィーで解析することにより、水中に溶出した炭酸イオンを同定することができる。使用するカラムとしては、イオン交換型、イオン排除型、逆相イオン対型を使用することができる。検出器としては、電気伝導度検出器、紫外可視吸光光度検出器、電気化学検出器等を使用することができ、検出器の前にサプレッサーを設置するサプレッサー方式、またはサプレッサーを配置せずに電気伝導度の低い溶液を溶離液に用いるノンサプレッサー方式を用いることができる。また、質量分析計や荷電化粒子検出器を組み合わせて測定することもできる。
サンプルの保持時間は、使用するカラム、使用する溶離液等の条件が決まれば、イオン種成分毎に一定であり、またピークのレスポンスの大きさはイオン種毎に異なるが、イオン種の濃度に比例する。トレーサビリティーが確保された既知濃度の標準液を予め測定しておくことでイオン種成分の定性と定量が可能となる。
【0053】
上記方法でリチウム化合物を同定できなかった場合、その他の解析手法として、固体Li−NMR、XRD(X線回折)、TOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)、AES(オージェ電子分光)、TPD/MS(加熱発生ガス質量分析)、DSC(示差走査熱量分析)等を用いることにより、リチウム化合物を同定することもできる。
【0054】
(リチウム化合物の平均粒子径)
正極は、正極活物質以外のリチウム化合物を含有する。正極が含有する、正極活物質以外のリチウム化合物の平均粒子径をXとするとき、0.1μm≦X≦10μmであり、正極活物質の平均粒子径をYとするとき、2μm≦Y≦20μmであり、かつX<Yであることが好ましい。Xは、更に好ましくは、0.5μm≦X≦5μmである。Xが0.1μm以上の場合、高負荷充放電サイクルで生成するフッ素イオンを吸着することにより高負荷充放電サイクル特性が向上する。Xが10μm以下の場合、高負荷充放電サイクルで生成するフッ素イオンとの反応面積が増加するため、フッ素イオンの吸着を効率良く行うことができる。Yが2μm以上の場合、正極活物質間の電子伝導性を確保できる。Yが20μm以下の場合、電解質イオンとの反応面積が増加するために高い出力特性を発現できる。X<Yである場合、正極活物質間に生じる隙間に炭酸リチウムが充填されるため、正極活物質間の電子伝導性を確保しつつ、エネルギー密度を高めることができる。
【0055】
及びYの測定方法は特に限定されないが、以下に示す正極断面のSEM画像、及びSEM−EDX画像から算出することができる。正極断面の形成方法については、正極上部からArビームを照射し、試料直上に設置した遮蔽板の端部に沿って平滑な断面を作製するブロード・イオン・ビーム(BIB)加工を用いることができる。正極に炭酸リチウムを含有させる場合、正極断面のラマンイメージングを測定することで炭酸イオンの分布を求めることもできる。
【0056】
[X及びYの算出方法]
及びYは、前記正極断面SEMと同視野にて測定した正極断面SEM−EDXから得られた画像を、画像解析することで求めることができる。前記正極断面のSEM画像にて判別されたリチウム化合物の粒子X、及びそれ以外の粒子を正極活物質の粒子Yとし、断面SEM画像中に観察されるX、Yそれぞれの粒子全てについて、断面積Sを求め、下記数式(1)にて算出される粒子径dを求める。
【0057】
【数1】
{式中、円周率をπとする。}
【0058】
得られた粒子径dを用いて、下記数式(2)において体積平均粒子径X及びYを求める。
【数2】
【0059】
正極断面の視野を変えて5ヶ所以上測定し、それぞれのX及びYの平均値をもって平均粒子径X及びYとする。
【0060】
正極中に含有されたリチウム化合物は、約4.0V以上の高い電位に曝されると徐々に分解してガス化してしまい、発生したガスが電解液中のイオンの拡散を阻害するために抵抗上昇の原因になってしまう。そのため、リチウム化合物の表面にフッ素含有化合物から構成される被膜を形成し、前記リチウム化合物の反応を抑制することが好ましい。
【0061】
[リチウム化合物の定量方法]
正極中に含まれるリチウム化合物の定量方法を以下に記載する。
正極を有機溶媒で洗浄し、その後蒸留水で洗浄し、蒸留水での洗浄前後の正極質量変化からリチウム化合物を定量することができる。測定する正極の面積は特に制限されないが、測定のばらつきを軽減するという観点から5cm以上200cm以下であることが好ましく、更に好ましくは25cm以上150cm以下である。面積が5cm以上あれば測定の再現性が確保される。面積が200cm以下であればサンプルの取扱い性に優れる。正極を洗浄するための有機溶媒としては、正極表面に堆積した非水系電解液分解物を除去できればよく、特に限定されないが、リチウム化合物の溶解度が2%以下である有機溶媒を用いることでリチウム化合物の溶出が抑制されるため好ましい。正極を洗浄するための有機溶媒としては、例えば、メタノール、アセトン等の極性溶媒が好適に用いられる。
【0062】
正極の洗浄方法は、例えば、正極の質量に対し50〜100倍のメタノール溶液に正極を3日間以上十分に浸漬させる。この時、メタノールが揮発しないよう容器に蓋をするなどの対策を施すことが好ましい。その後正極をメタノールから取り出し、真空乾燥し、真空乾燥後の正極の質量をM[g]とする。真空乾燥の条件としては、例えば、温度:100〜200℃、圧力:0〜10kPa、時間:5〜20時間の範囲で正極中のメタノールの残存が1質量%以下になる条件とする。メタノールの残存量については、後述する蒸留水洗浄後の水のGC/MSを測定し、予め作成した検量線を基に定量することができる。真空乾燥後、正極の質量の100倍(100M[g])の蒸留水に正極を3日間以上十分に浸漬させる。この時、蒸留水が揮発しないよう容器に蓋をする等の対策を施すことが好ましい。なお、イオンクロマトグラフィーを測定する場合は、蒸留水の量が100M[g]になるように液量を調整する。蒸留水に3日間以上浸漬させた後、蒸留水から正極を取り出し、上記のメタノール洗浄と同様に真空乾燥する。この時の正極の質量をM[g]とし、続いて、得られた正極の集電体の質量を測定するため、スパチュラ、ブラシ、刷毛等を用いて集電体上の正極活物質層を取り除く。得られた正極集電体の質量をM[g]とすると、正極中に含まれるリチウム化合物の質量%Zは、下記数式(3):
Z=100×[1−(M−M)/(M−M)] ...数式(3)
により算出できる。
【0063】
[リチウム化合物と正極活物質の判別方法]
酸素を含有するリチウム化合物及び正極活物質は、観察倍率を1000倍〜4000倍にして測定した正極表面のSEM−EDX画像による酸素マッピングにより判別できる。SEM−EDX画像の測定例として、加速電圧を10kV、エミッション電流を1μA、測定画素数を256×256ピクセル、積算回数を50回として測定できる。試料の帯電を防止するために、真空蒸着、スパッタリング等の方法により金、白金、オスミウム等で表面処理することもできる。SEM−EDX画像の測定条件としては、明るさは最大輝度に達する画素がなく、明るさの平均値が輝度40%〜60%の範囲に入るように輝度及びコントラストを調整することが好ましい。得られた酸素マッピングに対し、明るさの平均値を基準に二値化した明部を面積50%以上含む粒子をリチウム化合物とする。
【0064】
[正極活物質層の任意成分]
本実施形態における正極活物質層は、必要に応じて、正極活物質及びリチウム化合物の他に、導電性フィラー、結着剤、分散安定剤等の任意成分を含んでいてもよい。
導電性フィラーとしては、特に制限されるものではないが、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相成長炭素繊維、黒鉛、カーボンナノチューブ、これらの混合物等を用いることができる。導電性フィラーの使用量は、正極活物質100質量部に対して、好ましくは0質量部以上30質量部以下である。より好ましくは0.01質量部以上20質量部以下、さらに好ましくは1質量部以上15質量部以下である。導電性フィラーの使用量が30質量部よりも多くなると、正極活物質層における正極活物質の含有割合が少なくなるために、正極活物質層体積当たりのエネルギー密度が低下するので好ましくない。
【0065】
結着剤としては、特に制限されるものではないが、例えばPVdF(ポリフッ化ビニリデン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリイミド、ラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体、フッ素ゴム、アクリル共重合体等を用いることができる。結着剤の使用量は、正極活物質100質量部に対して、好ましくは1質量部以上30質量部以下、より好ましくは3質量部以上27質量部以下、さらに好ましくは5質量部以上25質量部以下である。結着剤の使用量が1質量部以上であれば、十分な電極強度が発現される。一方で結着剤の使用量が30質量部以下であれば、正極活物質へのイオンの出入り及び拡散を阻害せず、高い入出力特性が発現される。
【0066】
分散安定剤としては、特に制限されるものではないが、例えばPVP(ポリビニルピロリドン)、PVA(ポリビニルアルコール)、セルロース誘導体等を用いることができる。分散安定剤の使用量は、正極活物質100質量部に対して、好ましくは、0質量部超又は0.1質量部以上、10質量部以下である。分散安定剤の使用量が10質量部以下であれば、正極活物質へのイオンの出入り及び拡散を阻害せず、高い入出力特性が発現される。
【0067】
[正極集電体]
本実施形態における正極集電体を構成する材料としては、電子伝導性が高く、電解液への溶出及び電解質又はイオンとの反応等による劣化が起こらない材料であれば特に制限はないが、金属箔が好ましい。本実施形態の非水系リチウム型蓄電素子における正極集電体としては、アルミニウム箔が特に好ましい。
該金属箔は凹凸又は貫通孔を持たない通常の金属箔でもよいし、エンボス加工、ケミカルエッチング、電解析出法、ブラスト加工等を施した凹凸を有する金属箔でもよいし、エキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチング箔等の貫通孔を有する金属箔でもよい。
電極作製の容易性、及び高い電子伝導性の観点から、本実施形態における正極集電体は、無孔状であることが好ましい。本願明細書において、無孔状の正極集電体とは、少なくとも正極活物質層の塗工された領域において、リチウムイオンが正極集電体を通過して正極の表裏でリチウムイオンが均一化する程度の孔を有しない正極集電体を意味する。したがって、本願発明の効果を奏する範囲内において、極めて小径又は微量の孔を有する正極集電体、及び正極活物質層の塗工されていない領域に孔を有する正極集電体をも排除するものではない。また、本実施形態において、正極集電体のうち少なくとも正極活物質層が塗工された領域は無孔状であり、正極集電体のうち正極活物質層が塗工されていない余剰部分には孔があってもよいし、無くてもよい。
正極集電体の厚みは、正極の形状及び強度を十分に保持できれば特に制限はないが、例えば、1〜100μmが好ましい。
【0068】
[正極前駆体の製造]
本実施形態において、非水系リチウム型蓄電素子の正極となる正極前駆体は、既知のリチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等における電極の製造技術によって製造することが可能である。例えば、正極活物質及びリチウム化合物、並びに必要に応じて使用されるその他の任意成分を水又は有機溶剤中に分散又は溶解してスラリー状の塗工液を調製し、この塗工液を正極集電体上の片面又は両面に塗工して塗膜を形成し、これを乾燥することにより正極前駆体を得ることが出来る。さらに、得られた正極前駆体にプレスを施して、正極活物質層の膜厚又は嵩密度を調整してもよい。代替的には、溶剤を使用せずに、正極活物質及びリチウム化合物、並びに必要に応じて使用されるその他の任意成分を乾式で混合し、得られた混合物をプレス成型した後、導電性接着剤を用いて正極集電体に貼り付ける方法も可能である。
【0069】
前記正極前駆体の塗工液は、正極活物質を含む各種材料粉末の一部若しくは全部をドライブレンドし、次いで水若しくは有機溶媒、及び/又はそれらに結着剤若しくは分散安定剤が溶解又は分散した液状又はスラリー状の物質を追加して調製してもよい。また、水又は有機溶媒に結着剤又は分散安定剤が溶解又は分散した液状又はスラリー状の物質の中に、正極活物質を含む各種材料粉末を追加して、塗工液を調製してもよい。前記ドライブレンドする方法として、例えばボールミル等を使用して正極活物質及びリチウム化合物、並びに必要に応じて導電性フィラーを予備混合して、導電性の低いリチウム化合物に導電性フィラーをコーティングさせる予備混合をしてもよい。これにより、後述のリチウムドープ工程において正極前駆体でリチウム化合物が分解し易くなる。前記塗工液の溶媒に水を使用する場合には、リチウム化合物を加えることで塗工液がアルカリ性になることもあるため、必要に応じてpH調整剤を添加してもよい。
【0070】
前記正極前駆体の塗工液の調製には、特に制限されるものではないが、好適にはホモディスパー又は多軸分散機、プラネタリーミキサー、薄膜旋回型高速ミキサー等の分散機等を用いることが出来る。良好な分散状態の塗工液を得るためには、周速1m/s以上50m/s以下で分散を行うことが好ましい。周速が1m/s以上であれば、各種材料が良好に溶解又は分散するため好ましい。また、周速が50m/s以下であれば、分散による熱又はせん断力により各種材料が破壊されることなく、再凝集が生じることがないため好ましい。
前記塗工液の分散度は、粒ゲージで測定した粒度が0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。分散度の上限としては、より好ましくは粒度が80μm以下、さらに好ましくは粒度が50μm以下である。粒度が0.1μm未満では、正極活物質を含む各種材料粉末の粒子径以下のサイズとなり、塗工液作製時に材料を破砕していることになり好ましくない。また、粒度が100μm以下であれば、塗工液吐出時の詰まり、塗膜のスジ発生等がなく、安定に塗工ができる。
【0071】
前記正極前駆体の塗工液の粘度(ηb)は、1,000mPa・s以上20,000mPa・s以下が好ましく、より好ましくは1,500mPa・s以上10,000mPa・s以下、さらに好ましくは1,700mPa・s以上5,000mPa・s以下である。粘度(ηb)が1,000mPa・s以上であれば、塗膜形成時の液ダレが抑制され、塗膜幅及び膜厚が良好に制御できる。また、粘度(ηb)が20,000mPa・s以下であれば、塗工機を用いた際の塗工液の流路における圧力損失が少なく安定に塗工でき、また所望の塗膜厚み以下に制御できる。
また、該塗工液のTI値(チクソトロピーインデックス値)は、1.1以上が好ましく、より好ましくは1.2以上、さらに好ましくは1.5以上である。TI値が1.1以上であれば、塗膜幅及び膜厚が良好に制御できる。
【0072】
前記正極前駆体の塗膜の形成は特に制限されるものではないが、好適にはダイコーター又はコンマコーター、ナイフコーター、グラビア塗工機等の塗工機を用いることが出来る。塗膜は単層塗工で形成してもよいし、多層塗工で形成してもよい。多層塗工の場合には、塗膜各層内のリチウム化合物の含有量が異なるように塗工液組成を調整してもよい。また、塗工速度は0.1m/分以上100m/分以下であることが好ましく、より好ましくは0.5m/分以上70m/分以下、さらに好ましくは1m/分以上50m/分以下である。塗工速度が0.1m/分以上であれば、安定に塗工出来る。他方、塗工速度が100m/分以下であれば、塗工精度を十分に確保できる。
【0073】
前記正極前駆体の塗膜の乾燥については、特に制限されるものではないが、好適には熱風乾燥、赤外線(IR)乾燥等の乾燥方法を用いることが出来る。塗膜の乾燥は、単一の温度で乾燥させてもよいし、多段的に温度を変えて乾燥させてもよい。また、複数の乾燥方法を組み合わせて塗膜を乾燥させてもよい。乾燥温度は、25℃以上200℃以下であることが好ましく、より好ましくは40℃以上180℃以下、さらに好ましくは50℃以上160℃以下である。乾燥温度が25℃以上であれば、塗膜中の溶媒を十分に揮発させることが出来る。他方、乾燥温度が200℃以下であれば、急激な溶媒の揮発による塗膜のヒビ割れ又はマイグレーションによる結着剤の偏在、及び正極集電体又は正極活物質層の酸化を抑制できる。
【0074】
前記正極前駆体のプレスには、特に制限されるものではないが、好適には油圧プレス機、真空プレス機等のプレス機を用いることが出来る。正極活物質層の膜厚、嵩密度及び電極強度は、後述するプレス圧力、隙間、及びプレス部の表面温度により調整できる。
プレス圧力は0.5kN/cm以上20kN/cm以下が好ましく、より好ましくは1kN/cm以上10kN/cm以下、さらに好ましくは2kN/cm以上7kN/cm以下である。プレス圧力が0.5kN/cm以上であれば、電極強度を十分に高くできる。他方、プレス圧力が20kN/cm以下であれば、正極前駆体に撓み又はシワが生じることがなく、所望の正極活物質層膜厚又は嵩密度に調整できる。
また、プレスロール同士の隙間は、所望の正極活物質層の膜厚又は嵩密度となるように乾燥後の正極前駆体膜厚に応じて任意の値を設定できる。さらに、プレス速度は正極前駆体に撓み又はシワが生じない任意の速度に設定できる。
また、プレス部の表面温度は室温でもよいし、必要によりプレス部を加熱してもよい。加熱する場合のプレス部の表面温度の下限は、使用する結着剤の融点マイナス60℃以上が好ましく、より好ましくは融点マイナス45℃以上、さらに好ましくは融点マイナス30℃以上である。他方、加熱する場合のプレス部の表面温度の上限は、使用する結着剤の融点プラス50℃以下が好ましく、より好ましくは融点プラス30℃以下、さらに好ましくは融点プラス20℃以下である。例えば、結着剤にPVdF(ポリフッ化ビニリデン:融点150℃)を用いた場合、プレス部の表面を90℃以上200℃以下に加温することが好ましく、より好ましく105℃以上180℃以下、さらに好ましくは120℃以上170℃以下にプレス部の表面を加熱することである。また、結着剤にスチレン−ブタジエン共重合体(融点100℃)を用いた場合、プレス部の表面を40℃以上150℃以下に加温することが好ましく、より好ましくは55℃以上130℃以下、さらに好ましくは70℃以上120℃以下にプレス部の表面を加温することである。
【0075】
結着剤の融点は、DSC(Differential Scanning Calorimetry、示差走査熱量分析)の吸熱ピーク位置で求めることができる。例えば、パーキンエルマー社製の示差走査熱量計「DSC7」を用いて、試料樹脂10mgを測定セルにセットし、窒素ガス雰囲気中で、温度30℃から10℃/分の昇温速度で250℃まで昇温し、昇温過程における吸熱ピーク温度が融点となる。
また、プレス圧力、隙間、速度、及びプレス部の表面温度の条件を変えながら複数回プレスを実施してもよい。
【0076】
前記正極活物質層の膜厚は、正極集電体の片面当たり20μm以上200μm以下であることが好ましく、より好ましくは片面当たり25μm以上100μm以下であり、更に好ましくは30μm以上80μm以下である。この膜厚が20μm以上であれば、十分な充放電容量を発現することができる。他方、この膜厚が200μm以下であれば、電極内のイオン拡散抵抗を低く維持することができる。そのため、十分な出力特性が得られるとともに、セル体積を縮小することができるため、エネルギー密度を高めることができる。上記正極活物質層の膜厚の範囲の上限と下限は、任意に組み合わせることができる。なお、集電体が貫通孔又は凹凸を有する場合における正極活物質層の膜厚とは、集電体の貫通孔又は凹凸を有していない部分の片面当たりの膜厚の平均値をいう。
【0077】
[正極]
後述のリチウムドープ工程後の正極における正極活物質層の嵩密度は、0.25g/cm以上であることが好ましく、より好ましくは0.30g/cm以上1.3g/cm以下の範囲である。正極活物質層の嵩密度が0.25g/cm以上であれば、高いエネルギー密度を発現でき、蓄電素子の小型化を達成できる。他方、この嵩密度が1.3g/cm以下であれば、正極活物質層内の空孔における電解液の拡散が十分となり、高い出力特性が得られる。
【0078】
[正極活物質層中の化合物]
本実施形態に係る正極活物質層は、式CHOX{式中、Xは、―(O)Li又は−(COO)Liであり、かつnは0又は1である。}で表される化合物を含有する。
好ましい化合物は、CHOLi、及びCHOCOOLiである。
ここで、式CHOXで表される化合物の総量は、前記正極活物質層の単位質量当たり、5.00×10−6mol/g以上150.0×10−6mol/g以下であることが好ましく、10.0×10−6mol/g以上100.0×10−6mol/g以下であることがより好ましい。前記化合物の総量が5.00×10−6mol/g以上150.0×10−6mol/g以下であれば、Liイオンの拡散を阻害することがなく、高い入出力特性を発現することができる。
【0079】
本実施形態に係る正極活物質層は、さらに、式COX{式中、Xは、−(O)Li又は−(COO)Liであり、かつnは0又は1である。}で表される化合物を含有する。
好ましい化合物は、COLi、及びCHOCOOLiである。
ここで、式COXで表される化合物の総量は、前記正極活物質層の単位質量当たり、1.00×10−6mol/g以上60.0×10−6mol/g以下であることが好ましく、1.50×10−6mol/g以上40.0×10−6mol/g以下であることがより好ましい。前記化合物の総量が1.00×10−6mol/g以上60.0×10−6mol/g以下であれば、非水系電解液が正極活物質に接することがなく、非水系電解液が酸化分解してガスが発生することを抑制できる。
【0080】
本発明における上記の前記化合物を正極活物質層内に含有させるための方法としては、例えば、
正極活物質層に前記化合物を混合する方法、
正極活物質層に前記化合物を吸着させる方法、
正極活物質層に前記化合物を電気化学的に析出させる方法
等が挙げられる。
中でも、非水系電解液中に、分解してこれらの前記化合物を生成し得る前駆体を含有させておき、蓄電素子を作製する工程における前記前駆体の分解反応を利用して、正極活物質層内に前記化合物を堆積させる方法が好ましい。
前記化合物を形成する前駆体としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネートから選択される少なくとも1種の有機溶媒を使用することが好ましい。
【0081】
本実施形態では、式CHOX{式中、Xは、―(O)Li又は―(COO)Liであり、かつnは0又は1である。}で表される化合物の正極物質層の単位質量当たりの含有量をA、かつ式COX{式中、Xは、―(O)Li又は―(COO)Liであり、かつnは0又は1である。}で表される化合物の正極物質層の単位質量当たりの含有量をB、としたとき、A/Bは1.80以上20.00以下である。A/Bは、1.90以上15.00以下であることが好ましく、2.00以上8.00以下であることがより好ましい。A/Bが1.80以上であることで、正極界面におけるLiイオンの拡散性が向上し、低温環境下でも高い入出力特性を維持することができる。また、A/Bが20.00以下であることで、高温環境下でも非水電解液が正極界面で酸化分解してガスが発生することがない。そのため、A/Bが1.80以上20.00以下であることによって十分な高温耐久性と低温環境下での高い入出力特性を両立することができる。
【0082】
正極活物質層に含まれるリチウム(Li)化合物の含有量A、及びLi化合物の含有量Bの比を一定範囲にすることで十分な高温耐久性と低温環境下での高い入出力特性を両立できる原理は明らかではないが次のように推察される。含有量Aと対応するLi化合物はLiイオン伝導性が高い固体電解質膜であり、充放電反応時の正極活物質層内におけるLiイオンの拡散性を良好に保つことができる。一方、含有量Bと対応するLi化合物は耐酸化性の高い安定な固体電解質膜であり、高温環境下における正極‐電解液界面での酸化分解を抑制することができる。これらのLi化合物の正極活物質層内における存在比率を一定範囲内にすることで、正極活物質界面のLiイオンの拡散性と耐酸化性が向上し、十分な高温耐久性と低温環境下での高い入出力特性が両立できると考えられる。
【0083】
本実施形態に係る正極活物質層は、下記式(1)〜(3)の中から選択される1種以上の化合物を正極物質層の単位質量当たり1.60×10−4mol/g〜150.0×10−4mol/g含有する。
LiX−ORO−XIILi (1)
{式(1)中、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基、又は炭素数1〜4のハロゲン化アルキレン基であり、かつX及びXIIは、それぞれ独立に−(COO)(ここで、nは0又は1である。)である。}
LiX−ORO−XII (2)
{式(2)中、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基、又は炭素数1〜4のハロゲン化アルキレン基であり、Rは、水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のモノ若しくはポリヒドロキシアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のモノ若しくはポリヒドロキシアルケニル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、又はアリール基であり、かつX及びXIIは、それぞれ独立に−(COO)(ここで、nは0又は1である。)である。}
−ORO−XII (3)
{式(3)中、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基、又は炭素数1〜4のハロゲン化アルキレン基であり、R及びRは、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のモノ若しくはポリヒドロキシアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のモノ若しくはポリヒドロキシアルケニル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、又はアリール基であり、かつX及びXIIは、それぞれ独立に−(COO)(ここで、nは0又は1である。)である。}
【0084】
式(1)中、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基、又は炭素数1〜4のハロゲン化アルキレン基であり、X及びXIIは、それぞれ独立に−(COO)(ここで、nは0又は1である。)である。
式(1)で表される化合物は、好ましくは、LiOCOLi、LiOCOLi、LiOCOCOOLi、LiOCOOCOLi、LiOCOOCOCOOLi及びLiOCOOCOCOOLiである。
【0085】
式(2)中、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基、又は炭素数1〜4のハロゲン化アルキレン基であり、Rは、水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のモノ若しくはポリヒドロキシアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のモノ若しくはポリヒドロキシアルケニル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、又はアリール基であり、かつX及びXIIは、それぞれ独立に−(COO)(ここで、nは0又は1である。)である。
式(2)で表される化合物は、好ましくは、LiOCOH、LiOCOH、LiOCOCOOH、LiOCOCOOH、LiOCOOCOCOOH、LiOCOOCOCOOH、LiOCOCH、LiOCOCH、LiOCOCOOCH、LiOCOCOOCH、LiOCOOCOCOOCH、LiOCOOCOCOOCH、LiOCOC、LiOCOC、LiOCOCOOC、LiOCOCOOC、LiOCOOCOCOOC、及びLiOCOOCOCOOCである。
【0086】
式(3)中、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基、又は炭素数1〜4のハロゲン化アルキレン基であり、R及びRは、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のモノ若しくはポリヒドロキシアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のモノ若しくはポリヒドロキシアルケニル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、又はアリール基であり、かつX及びXIIは、それぞれ独立に−(COO)(ここで、nは0又は1である。)である。
式(3)で表される化合物は、好ましくは、HOCOH、HOCOH、HOCOCOOH、HOCOCOOH、HOCOOCOCOOH、HOCOOCOCOOH、HOCOCH、HOCOCH、HOCOCOOCH、HOCOCOOCH、HOCOOCOCOOCH、HOCOOCOCOOCH、HOCOC、HOCOC、HOCOCOOC、HOCOCOOC、HOCOOCOCOOC、HOCOOCOCOOC、CHOCOCH、CHOCOCH、CHOCOCOOCH、CHOCOCOOCH、CHOCOOCOCOOCH、CHOCOOCOCOOCH、CHOCOC、CHOCOC、CHOCOCOOC、CHOCOCOOC、CHOCOOCOCOOC、CHOCOOCOCOOC、COCOC、COCOC、COCOCOOC、COCOCOOC、COCOOCOCOOC、及びCOCOOCOCOOCである。
【0087】
式(1)〜(3)で表される化合物を正極活物質層内に含有させる方法としては、例えば、
正極活物質層に前記化合物を混合する方法、
正極活物質層に前記化合物を吸着させる方法、
正極活物質層に前記化合物を電気化学的に析出させる方法
等が挙げられる。
中でも、非水系電解液中に、分解してこれらの化合物を生成し得る前駆体を含有させておき、蓄電素子を作製する工程における前記前駆体の分解反応を利用して、正極活物質層内に前記化合物を堆積させる方法が好ましい。
【0088】
式(1)〜(3)で表される化合物を形成する前駆体としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートおよびフルオロエチレンカーボネートから成る群から選択される少なくとも1種の有機溶媒を使用することが好ましく、エチレンカーボネート、及びプロピレンカーボネートを使用することがさらに好ましい。
【0089】
式(1)〜(3)で表される化合物の正極活物質層中の総含有量Cは、前記正極活物質層の単位質量当たり、1.60×10−4mol/g以上であり、5.00×10−4mol/g以上であることが好ましい。前記化合物の総含有量Cが正極活物質層の単位質量当たり1.60×10−4mol/g以上であれば、非水系電解液が正極活物質に接することがなく、非水系電解液が酸化分解してガスが発生することを抑制できる。
また、前記化合物の総含有量Cは、前記正極活物質層の単位質量当たり、150.0×10−4mol/g以下であり、130.0×10−4mol/g以下であることが好ましく、100.0×10−4mol/g以下であることがより好ましい。前記化合物の総含有量Cが正極活物質層の単位質量当たり150.0×10−4mol/g以下であれば、Liイオンの拡散を阻害することがなく、高い入出力特性を発現することができる。
【0090】
[負極]
負極は、負極集電体と、その片面又は両面に存在する負極活物質層とを有する。
【0091】
[負極活物質層]
負極活物質層は、リチウムイオンを吸蔵・放出できる負極活物質を含む。負極活物質層は、これ以外に、必要に応じて、導電性フィラー、結着剤、分散安定剤等の任意成分を含んでいてもよい。
【0092】
[負極活物質]
前記負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な物質を用いることができる。具体的には、炭素材料、チタン酸化物、ケイ素、ケイ素酸化物、ケイ素合金、ケイ素化合物、錫及び錫化合物等が例示される。好ましくは該負極活物質の総量に対する該炭素材料の含有率が50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。該炭素材料の含有率が100質量%でよいが、他の材料の併用による効果を良好に得る観点から、例えば、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることが好ましい。
【0093】
負極活物質には、リチウムイオンをドープすることが好ましい。本明細書において、負極活物質にドープされたリチウムイオンとしては、主に3つの形態が包含される。
第一の形態としては、非水系リチウム型蓄電素子を作製する前に、負極活物質に設計値として予め吸蔵させるリチウムイオンである。
第二の形態としては、非水系リチウム型蓄電素子を作製し、出荷する際の負極活物質に吸蔵されているリチウムイオンである。
第三の形態としては、非水系リチウム型蓄電素子をデバイスとして使用した後の負極活物質に吸蔵されているリチウムイオンである。
負極活物質にリチウムイオンをドープしておくことにより、得られる非水系リチウム型蓄電素子の容量及び作動電圧を良好に制御することが可能となる。
【0094】
前記炭素材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素材料;易黒鉛化性炭素材料;カーボンブラック;カーボンナノ粒子;活性炭;人造黒鉛;天然黒鉛;黒鉛化メソフェーズカーボン小球体;黒鉛ウイスカ;ポリアセン系物質等のアモルファス炭素質材料;石油系のピッチ、石炭系のピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、コークス、合成樹脂(例えばフェノール樹脂等)等の炭素質材料前駆体を熱処理して得られる炭素質材料;フルフリルアルコール樹脂又はノボラック樹脂の熱分解物;フラーレン;カーボンナノフォーン;及びこれらの複合炭素材料を挙げることができる。
【0095】
これらの中でも負極の抵抗を下げる観点から、前記炭素材料1種以上(以下、基材ともいう。)と前記炭素質材料前駆体とを共存させた状態で熱処理を行い、該基材と該炭素質材料前駆体由来の炭素質材料とを複合させた複合炭素材料が好ましい。該炭素質材料前駆体としては、熱処理により該炭素質材料となるものであれば特に制限はないが、石油系のピッチ又は石炭系のピッチが特に好ましい。熱処理を行う前に、該炭素質材料前駆体の融点より高い温度において、該基材と該炭素質材料前駆体とを混合してもよい。熱処理温度は、使用する該炭素質材料前駆体が揮発又は熱分解して発生する成分が該炭素質材料となる温度であればよいが、好ましくは400℃以上2500℃以下、より好ましくは500℃以上2000℃以下、さらに好ましくは550℃以上1500℃以下である。熱処理を行う雰囲気は特に制限はないが、非酸化性雰囲気が好ましい。
【0096】
前記複合炭素材料の好ましい例は、後述の複合炭素材料1及び2である。これらの内どちらかを選択して使用しても良く、又はこれらの双方を併用してもよい。
【0097】
[複合炭素材料1]
複合炭素材料1は、BET比表面積が100m/g以上3000m/g以下の炭素材料1種以上を該基材として用いた該複合炭素材料である。該基材は、特に制限されるものではないが、活性炭、カーボンブラック、鋳型多孔質炭素、高比表面積黒鉛、カーボンナノ粒子等を好適に用いることができる。
【0098】
複合炭素材料1のBET比表面積は、100m/g以上1,500m/g以下が好ましく、より好ましくは150m/g以上1,100m/g以下、さらに好ましくは180m/g以上550m/g以下である。このBET比表面積が100m/g以上であれば、細孔を適度に保持することができリチウムイオンの拡散が良好となるため、高い入出力特性を示すことが出来る。他方、BET比表面積が1,500m/g以下であることにより、リチウムイオンの充放電効率が向上するため、サイクル耐久性が損なわれることがない。
【0099】
複合炭素材料1における該炭素質材料の該基材に対する質量比率は10質量%以上200質量%以下が好ましい。この質量比率は、より好ましくは12質量%以上180質量%以下、さらに好ましくは15質量%以上160質量%以下、特に好ましくは18質量%以上150質量%以下である。炭素質材料の質量比率が10質量%以上であれば、該基材が有していたマイクロ孔を該炭素質材料で適度に埋めることができ、リチウムイオンの充放電効率が向上するため、良好なサイクル耐久性を示すことが出来る。また、炭素質材料の質量比率が200質量%以下であれば、細孔を適度に保持することができ、リチウムイオンの拡散が良好となるため、高い入出力特性を示すことが出来る。
【0100】
複合炭素材料1の単位質量当たりのリチウムイオンのドープ量は、530mAh/g以上2,500mAh/g以下であることが好ましい。ドープ量は、より好ましくは620mAh/g以上2,100mAh/g以下、さらに好ましくは760mAh/g以上1,700mAh/g以下、特に好ましくは840mAh/g以上1,500mAh/g以下である。
リチウムイオンをドープすることにより、負極電位が低くなる。従って、リチウムイオンがドープされた複合炭素材料1を含む負極を正極と組み合わせた場合には、非水系リチウム型蓄電素子の電圧が高くなるとともに、正極の利用容量が大きくなる。そのため、得られる非水系リチウム型蓄電素子の容量及びエネルギー密度が高くなる。
該ドープ量が530mAh/g以上であれば、複合炭素材料1におけるリチウムイオンを一旦挿入したら脱離し得ない不可逆なサイトにもリチウムイオンが良好にドープされ、更に所望のリチウム量に対する複合炭素材料1の量を低減することができる。そのため、負極膜厚を薄くすることが可能となり、高いエネルギー密度が得られる。ドープ量が多いほど負極電位が下がり、入出力特性、エネルギー密度、及び耐久性は向上する。
一方で、ドープ量が2,500mAh/g以下であれば、リチウム金属の析出等の副作用が発生するおそれがない。
【0101】
以下、複合炭素材料1の好ましい例として、該基材として活性炭を用いた複合炭素材料1aについて説明する。
複合炭素材料1aは、BJH法により算出した直径20Å以上500Å以下の細孔に由来するメソ孔量をVm1(cc/g)、MP法により算出した直径20Å未満の細孔に由来するマイクロ孔量をVm2(cc/g)とするとき、0.010≦Vm1≦0.300、0.001≦Vm2≦0.650であることが好ましい。
メソ孔量Vm1は、より好ましくは0.010≦Vm1≦0.225、さらに好ましくは0.010≦Vm1≦0.200である。マイクロ孔量Vm2は、より好ましくは0.001≦Vm2≦0.200、更に好ましくは0.001≦Vm2≦0.150、特に好ましくは0.001≦Vm2≦0.100である。
【0102】
メソ孔量Vm1が0.300cc/g以下であれば、BET比表面積を大きくすることができ、リチウムイオンのドープ量を高めることができることに加え、負極の嵩密度を高めることができる。その結果、負極を薄膜化することができる。また、マイクロ孔量Vm2が0.650cc/g以下であれば、リチウムイオンに対する高い充放電効率が維持できる。他方、メソ孔量Vm1及びマイクロ孔量Vm2が下限以上(0.010≦Vm1、0.001≦Vm2)であれば、高い入出力特性が得られる。
【0103】
複合炭素材料1aのBET比表面積は、100m/g以上1,500m/g以下が好ましい。より好ましくは150m/g以上1,100m/g以下、さらに好ましくは180m/g以上550m/g以下である。このBET比表面積が100m/g以上であれば、細孔を適度に保持することができるため、リチウムイオンの拡散が良好となるため、高い入出力特性を示すことが出来る。また、リチウムイオンのドープ量を高めることができるため、負極を薄膜化することができる。他方、1,500m/g以下であることにより、リチウムイオンの充放電効率が向上するので、サイクル耐久性が損なわれることがない。
【0104】
複合炭素材料1aの平均細孔径は、高い入出力特性にする点から、20Å以上であることが好ましく、25Å以上であることがより好ましく、30Å以上であることがさらに好ましい。他方、高エネルギー密度にする点から、平均細孔径は、65Å以下であることが好ましく、60Å以下であることがより好ましい。
【0105】
複合炭素材料1aの平均粒子径は1μm以上10μm以下であることが好ましい。下限については、より好ましくは2μm以上であり、更に好ましくは2.5μm以上である。上限については、より好ましくは6μm以下であり、更に好ましくは4μm以下である。平均粒子径が1μm以上10μm以下であれば良好な耐久性が保たれる。
【0106】
複合炭素材料1aの水素原子/炭素原子の原子数比(H/C)は、0.05以上0.35以下であることが好ましく、0.05以上0.15以下であることがより好ましい。H/Cが0.35以下である場合には、活性炭表面に被着している炭素質材料の構造(典型的には、多環芳香族系共役構造)が良好に発達して容量(エネルギー密度)及び充放電効率が高くなる。他方、H/Cが0.05以上である場合には、炭素化が過度に進行することはないため良好なエネルギー密度が得られる。なお、H/Cは元素分析装置により測定される。
【0107】
複合炭素材料1aは、前記基材の活性炭に由来するアモルファス構造を有するが、同時に、主に被着した炭素質材料に由来する結晶構造を有する。X線広角回折法によると、該複合炭素材料1aは、(002)面の面間隔d002が3.60Å以上4.00Å以下であり、このピークの半価幅から得られるc軸方向の結晶子サイズLcが8.0Å以上20.0Å以下であるものが好ましく、d002が3.60Å以上3.75Å以下であり、このピークの半価幅から得られるc軸方向の結晶子サイズLcが11.0Å以上16.0Å以下であるものがより好ましい。
【0108】
上記の複合炭素材料1aの該基材として用いる前記活性炭としては、得られる複合炭素材料1aが所望の特性を発揮する限り、特に制限はない。例えば石油系、石炭系、植物系、高分子系等の各種の原材料から得られた市販品を使用することができる。特に、平均粒子径が1μm以上15μm以下の活性炭粉末を用いることが好ましい。該平均粒子径は、より好ましくは2μm以上10μm以下である。
【0109】
本実施形態において規定する細孔分布範囲を有する複合炭素材料1aを得るためには、該基材に用いる活性炭の細孔分布が重要である。
該活性炭においては、BJH法により算出した直径20Å以上500Å以下の細孔に由来するメソ孔量をV1(cc/g)、MP法により算出した直径20Å未満の細孔に由来するマイクロ孔量をV2(cc/g)としたとき、0.050≦V1≦0.500、0.005≦V2≦1.000、かつ、0.2≦V1/V2≦20.0であることが好ましい。
【0110】
メソ孔量V1については、0.050≦V1≦0.350がより好ましく、0.100≦V1≦0.300が更に好ましい。マイクロ孔量V2については、0.005≦V2≦0.850がより好ましく、0.100≦V2≦0.800が更に好ましい。メソ孔量/マイクロ孔量の比率については、0.22≦V1/V2≦15.0がより好ましく、0.25≦V1/V2≦10.0が更に好ましい。活性炭のメソ孔量V1が0.500以下である場合及びマイクロ孔量V2が1.000以下である場合、上記本実施形態における複合炭素材料1aの細孔構造を得るためには適量の炭素質材料を被着させれば足りるので、細孔構造を制御し易くなる。一方、活性炭のメソ孔量V1が0.050以上である場合及びマイクロ孔量V2が0.005以上である場合、V1/V2が0.2以上である場合、及びV1/V2が20.0以下である場合にも構造が容易に得られる。
【0111】
上記の複合炭素材料1aの原料として用いる炭素質材料前駆体とは、熱処理することにより、活性炭に炭素質材料を被着させることができる、固体、液体、又は溶剤に溶解可能な有機材料である。この炭素質材料前駆体としては、例えば、ピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、コークス、合成樹脂(例えばフェノール樹脂等)等を挙げることができる。これらの炭素質材料前駆体の中でも、安価であるピッチを用いることが、製造コスト上好ましい。ピッチは、大別して石油系ピッチと石炭系ピッチとに分けられる。石油系ピッチとしては、例えば原油の蒸留残査、流動性接触分解残査(デカントオイル等)、サーマルクラッカーに由来するボトム油、ナフサクラッキングの際に得られるエチレンタール等が例示される。
【0112】
上記ピッチを用いる場合、該ピッチを活性炭との共存下で熱処理し、活性炭の表面においてピッチの揮発成分又は熱分解成分を熱反応させて該活性炭に炭素質材料を被着させることにより、複合炭素材料1aが得られる。この場合、200〜500℃程度の温度において、ピッチの揮発成分又は熱分解成分の活性炭細孔内への被着が進行し、400℃以上で該被着成分が炭素質材料となる反応が進行する。熱処理時のピーク温度(最高到達温度)は、得られる複合炭素材料1aの特性、熱反応パターン、熱反応雰囲気等により適宜決定されるものであるが、400℃以上であることが好ましく、より好ましくは450℃〜1,000℃であり、さらに好ましくは500〜800℃程度である。また、熱処理時のピーク温度を維持する時間は、30分間〜10時間であることが好ましく、より好ましくは1時間〜7時間、更に好ましくは2時間〜5時間である。例えば、500〜800℃程度のピーク温度で2時間〜5時間に亘って熱処理する場合、活性炭表面に被着している炭素質材料は多環芳香族系炭化水素になっているものと考えられる。
【0113】
また、用いるピッチの軟化点は、30℃以上250℃以下が好ましく、60℃以上130℃以下が更に好ましい。軟化点が30℃以上であるピッチはハンドリング性に支障がなく、精度よく仕込むことが可能である。軟化点が250℃以下であるピッチには比較的低分子の化合物を多く含有し、従って該ピッチを用いると、活性炭内の細かい細孔まで被着することが可能となる。
上記の複合炭素材料1aを製造するための具体的方法としては、例えば、炭素質材料前駆体から揮発した炭化水素ガスを含む不活性雰囲気中で活性炭を熱処理し、気相で炭素質材料を被着させる方法が挙げられる。また、活性炭と炭素質材料前駆体とを予め混合し熱処理する方法、又は溶媒に溶解させた炭素質材料前駆体を活性炭に塗布して乾燥させた後に熱処理する方法も可能である。
【0114】
複合炭素材料1aにおける該炭素質材料の該活性炭に対する質量比率が10質量%以上100質量%以下であるものが好ましい。この質量比率は、好ましくは15質量%以上80質量%以下でありである。炭素質材料の質量比率が10質量%以上であれば、該活性炭が有していたマイクロ孔を該炭素質材料で適度に埋めることができ、リチウムイオンの充放電効率が向上するから、サイクル耐久性が損なわれることがない。また、炭素質材料の質量比率が100質量%以下であれば、複合炭素材料1aの細孔が適度に保持されて比表面積が大きいまま維持される。そのため、リチウムイオンのドープ量を高めることができる結果から、負極を薄膜化しても高出力密度かつ高耐久性を維持することができる。
【0115】
[複合炭素材料2]
複合炭素材料2は、BET比表面積が0.5m/g以上80m/g以下の炭素材料1種以上を前記基材として用いた前記複合炭素材料である。該基材は、特に制限されるものではないが、天然黒鉛、人造黒鉛、低結晶黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンブラック等を好適に用いることができる。
【0116】
複合炭素材料2のBET比表面積は、1m/g以上50m/g以下が好ましく、より好ましくは1.5m/g以上40m/g以下、さらに好ましくは2m/g以上25m/g以下である。このBET比表面積が1m/g以上であれば、リチウムイオンとの反応場を十分に確保できるため、高い入出力特性を示すことが出来る。他方、BET比表面積が50m/g以下であれば、リチウムイオンの充放電効率が向上し、かつ充放電中の非水系電解液の分解反応が抑制されるため、高いサイクル耐久性を示すことが出来る。
【0117】
複合炭素材料2の平均粒子径は1μm以上10μm以下であることが好ましい。この平均粒子径は、より好ましくは2μm以上8μm以下、さらに好ましくは3μm以上6μm以下である。平均粒子径が1μm以上であれば、リチウムイオンの充放電効率が向上できるため、高いサイクル耐久性を示すことが出来る。他方、平均粒子径が10μm以下であれば、複合炭素材料2と非水系電解液との反応面積が増加するため、高い入出力特性を示すことができる。
【0118】
複合炭素材料2における該炭素質材料の該基材に対する質量比率は、1質量%以上30質量%以下が好ましい。この質量比率は、より好ましくは1.2質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以上20質量%以下である。炭素質材料の質量比率が質量1%以上であれば、該炭素質材料によりリチウムイオンとの反応サイトを十分に増加でき、かつリチウムイオンの脱溶媒和も容易となるため、高い入出力特性を示すことが出来る。他方、炭素質材料の質量比率が30質量%以下であれば、該炭素質材料と該基材との間のリチウムイオンの固体内拡散を良好に保持できるため、高い入出力特性を示すことが出来る。また、リチウムイオンの充放電効率が向上出来るため、高いサイクル耐久性を示すことが出来る。
【0119】
複合炭素材料2の単位質量当たりのリチウムイオンのドープ量は、50mAh/g以上700mAh/g以下であることが好ましく、より好ましくは70mAh/g以上650mAh/g以下、さらに好ましくは90mAh/g以上600mAh/g以下、特に好ましくは100mAh/g以上550mAh/g以下である。
リチウムイオンをドープすることにより、負極電位が低くなる。従って、リチウムイオンがドープされた複合炭素材料2を含む負極を正極と組み合わせた場合には、非水系リチウム型蓄電素子の電圧が高くなるとともに、正極の利用容量が大きくなる。そのため、得られる非水系リチウム型蓄電素子の容量及びエネルギー密度が高くなる。
該ドープ量が50mAh/g以上であれば、複合炭素材料2におけるリチウムイオンを一旦挿入したら脱離し得ない不可逆なサイトにもリチウムイオンが良好にドープされるため、高いエネルギー密度が得られる。ドープ量が多いほど負極電位が下がり、入出力特性、エネルギー密度、及び耐久性は向上する。
一方で、ドープ量が700mAh/g以下であれば、リチウム金属の析出等の副作用が発生するおそれがない。
【0120】
以下、複合炭素材料2の好ましい例として、該基材として黒鉛材料を用いた複合炭素材料2aについて説明する。
【0121】
複合炭素材料2aの平均粒子径は1μm以上10μm以下であることが好ましい。この平均粒子径は、より好ましくは2μm以上8μm以下、さらに好ましくは3μm以上6μm以下である。平均粒子径が1μm以上であれば、リチウムイオンの充放電効率が向上できるため、高いサイクル耐久性を示すことが出来る。他方、10μm以下であれば、複合炭素材料2aと非水系電解液との反応面積が増加するため、高い入出力特性を示すことができる。
【0122】
複合炭素材料2aのBET比表面積は、1m/g以上20m/g以下であることが好ましく、より好ましくは1m/g以上15m/g以下である。このBET比表面積が1m/g以上であれば、リチウムイオンとの反応場を十分に確保できるため、高い入出力特性を示すことが出来る。他方、BET比表面積が20m/g以下であれば、リチウムイオンの充放電効率が向上し、かつ充放電中の非水系電解液の分解反応が抑制されるため、高いサイクル耐久性を示すことが出来る。
【0123】
該基材として用いる前記黒鉛材料としては、得られる複合炭素材料2aが所望の特性を発揮する限り、特に制限はない。例えば人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン小球体、黒鉛ウイスカ等を使用することができる。該黒鉛材料の平均粒子径は、好ましくは1μm以上10μm以下、より好ましくは2μm以上8μm以下である。
【0124】
上記の複合炭素材料2aの原料として用いる炭素質材料前駆体とは、熱処理することにより、黒鉛材料に炭素質材料を複合させることができる、固体、液体、又は溶剤に溶解可能な有機材料である。この炭素質材料前駆体としては、例えば、ピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、コークス、合成樹脂(例えばフェノール樹脂等)等を挙げることができる。これらの炭素質材料前駆体の中でも、安価であるピッチを用いることが、製造コスト上好ましい。ピッチは、大別して石油系ピッチと石炭系ピッチとに分けられる。石油系ピッチとしては、例えば原油の蒸留残査、流動性接触分解残査(デカントオイル等)、サーマルクラッカーに由来するボトム油、ナフサクラッキングの際に得られるエチレンタール等が例示される。
【0125】
複合炭素材料2aにおける該炭素質材料の該黒鉛材料に対する質量比率は、1質量%以上10質量%以下が好ましい。この質量比率は、より好ましくは1.2質量%以上8質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以上6質量%以下、特に好ましくは2質量%以上5質量%以下である。炭素質材料の質量比率が1質量%以上であれば、該炭素質材料によりリチウムイオンとの反応サイトを十分に増加でき、かつリチウムイオンの脱溶媒和も容易となるため、高い入出力特性を示すことが出来る。他方、炭素質材料の質量比率が10質量%以下であれば、該炭素質材料と該黒鉛材料との間のリチウムイオンの固体内拡散を良好に保持できるため、高い入出力特性を示すことが出来る。また、リチウムイオンの充放電効率が向上出来るため、高いサイクル耐久性を示すことが出来る。
【0126】
本発明における負極活物質層は、必要に応じて、負極活物質の他に、導電性フィラー、結着剤、分散安定剤等の任意成分を含んでいてもよい。
導電性フィラーの種類は特に制限されるものではないが、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相成長炭素繊維等が例示される。導電性フィラーの使用量は、負極活物質100質量部に対して、好ましくは0質量部以上30質量部以下である。より好ましくは0質量部以上20質量部以下、さらに好ましくは0質量部以上15質量部以下である。
【0127】
結着剤としては、特に制限されるものではないが、例えばPVdF(ポリフッ化ビニリデン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリイミド、ラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体、フッ素ゴム、アクリル共重合体等を用いることができる。結着剤の使用量は、負極活物質100質量部に対して、好ましくは1質量部以上30質量部以下であり、より好ましくは2質量部以上27質量部以下、さらに好ましくは3質量部以上25質量部以下である。結着剤の量が1質量部以上であれば、十分な電極強度が発現される。一方で、結着剤の量が30質量部以下であれば、負極活物質へのリチウムイオンの出入りを阻害せず、高い入出力特性が発現される。
【0128】
分散安定剤としては、特に制限されるものではないが、例えばPVP(ポリビニルピロリドン)、PVA(ポリビニルアルコール)、セルロース誘導体等を用いることができる。分散安定剤の使用量は、負極活物質100質量部に対して、好ましくは0質量部以上10質量部以下である。分散安定剤の量が10質量部以下であれば、負極活物質へのリチウムイオンの出入りを阻害せず、高い入出力特性が発現される。
【0129】
[負極集電体]
本発明における負極集電体を構成する材料としては、電子伝導性が高く、非水系電解液への溶出及び電解質又はイオンとの反応等による劣化が起こらない金属箔であることが好ましい。このような金属箔としては、特に制限はなく、例えば、アルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔等が挙げられる。本実施形態に係る非水系リチウム型蓄電素子における負極集電体としては、銅箔が好ましい。
該金属箔は凹凸又は貫通孔を持たない通常の金属箔でもよいし、エンボス加工、ケミカルエッチング、電解析出法、ブラスト加工等を施した凹凸を有する金属箔でもよいし、エキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチング箔等の貫通孔を有する金属箔でもよい。
電極作製の容易性、高い電子伝導性の観点から、本実施形態における負極集電体は、無孔状であることが好ましい。本願明細書において、「無孔状の負極集電体」とは、少なくとも負極活物質層の塗工された領域において、リチウムイオンが負極集電体を通過して負極の表裏でリチウムイオンが均一化する程度の孔を有しない負極集電体を意味する。したがって、本願発明の効果を奏する範囲内において、極めて小径又は微量の孔を有する負極集電体、及び負極活物質層の塗工されていない領域に孔を有する負極集電体をも排除するものではない。また、本実施形態において、負極集電体のうち少なくとも負極活物質層が塗工された領域は無孔状であり、負極集電体のうち負極活物質層が塗工されていない余剰部分には孔があってもよいし、無くてもよい。
負極集電体の厚みは、負極の形状及び強度を十分に保持できれば特に制限はないが、例えば、1〜100μmが好ましい。なお、負極集電体が孔又は凹凸を有するときには、孔又は凹凸が存在しない部分に基づいて負極集電体の厚みを測定するものとする。
【0130】
[負極の製造]
負極は、負極集電体の片面上又は両面上に負極活物質層を有して成る。典型的な態様において負極活物質層は負極集電体に固着している。
負極は、既知のリチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等における電極の製造技術によって製造することが可能である。例えば、負極活物質を含む各種材料を水又は有機溶剤中に分散又は溶解してスラリー状の塗工液を調製し、この塗工液を負極集電体上の片面又は両面に塗工して塗膜を形成し、これを乾燥することにより負極を得ることが出来る。さらに得られた負極にプレスを施して、負極活物質層の膜厚又は嵩密度を調整してもよい。代替的には、溶剤を使用せずに、負極活物質を含む各種材料を乾式で混合し、得られた混合物をプレス成型した後、導電性接着剤を用いて負極集電体に貼り付ける方法も可能である。
【0131】
塗工液の調製は、負極活物質を含む各種材料粉末の一部若しくは全部をドライブレンドし、次いで水又は有機溶媒、及び/又はそれらに結着剤若しくは分散安定剤が溶解又は分散した液状又はスラリー状の物質を追加して調製してもよい。また、水又は有機溶媒に結着剤や分散安定剤が溶解又は分散した液状又はスラリー状の物質の中に、負極活物質を含む各種材料粉末を追加して調製してもよい。前記塗工液の調製に特に制限されるものではないが、好適にはホモディスパー又は多軸分散機、プラネタリーミキサー、薄膜旋回型高速ミキサー等の分散機等を用いることが出来る。良好な分散状態の塗工液を得るためには、周速1m/s以上50m/s以下で分散することが好ましい。周速1m/s以上であれば、各種材料が良好に溶解又は分散するため好ましい。また、周速50m/s以下であれば、分散による熱又はせん断力により各種材料が破壊されることなく、再凝集が生じることがないため好ましい。
【0132】
前記塗工液の粘度(ηb)は、1,000mPa・s以上20,000mPa・s以下が好ましく、より好ましくは1,500mPa・s以上10,000mPa・s以下、さらに好ましくは1,700mPa・s以上5,000mPa・s以下である。粘度(ηb)が1,000mPa・s以上であれば、塗膜形成時の液ダレが抑制され、塗膜幅及び膜厚が良好に制御できる。また、20,000mPa・s以下であれば、塗工機を用いた際の塗工液の流路における圧力損失が少なく安定に塗工でき、また所望の塗膜厚み以下に制御できる。
また、該塗工液のTI値(チクソトロピーインデックス値)は、1.1以上が好ましく、より好ましくは1.2以上、さらに好ましくは1.5以上である。TI値が1.1以上であれば、塗膜幅及び膜厚が良好に制御できる。
【0133】
前記塗膜の形成は特に制限されるものではないが、好適にはダイコーター又はコンマコーター、ナイフコーター、グラビア塗工機等の塗工機を用いることが出来る。塗膜は単層塗工で形成してもよいし、多層塗工して形成してもよい。また、塗工速度は0.1m/分以上100m/分以下であることが好ましく、より好ましくは0.5m/分以上70m/分以下、さらに好ましくは1m/分以上50m/分以下である。塗工速度が0.1m/分以上であれば、安定に塗工出来る。他方、塗工速度が100m/分以下であれば、塗工精度を十分に確保できる。
【0134】
前記塗膜の乾燥は特に制限されるものではないが、好適には熱風乾燥、赤外線(IR)乾燥等の乾燥方法を用いることが出来る。塗膜の乾燥は、単一の温度で乾燥させてもよいし、多段的に温度を変えて乾燥させてもよい。また、複数の乾燥方法を組み合わせて乾燥させてもよい。乾燥温度は、25℃以上200℃以下であることが好ましく、より好ましくは40℃以上180℃以下、さらに好ましくは50℃以上160℃以下である。乾燥温度が25℃以上であれば、塗膜中の溶媒を十分に揮発させることが出来る。他方、乾燥温度が200℃以下であれば、急激な溶媒の揮発による塗膜のヒビ割れ又はマイグレーションによる結着剤の偏在、及び負極集電体又は負極活物質層の酸化を抑制できる。
【0135】
前記負極のプレスは特に制限されるものではないが、好適には油圧プレス機、真空プレス機等のプレス機を用いることが出来る。負極活物質層の膜厚、嵩密度及び電極強度は、後述するプレス圧力、隙間、プレス部の表面温度等により調整できる。プレス圧力は0.5kN/cm以上20kN/cm以下が好ましく、より好ましくは1kN/cm以上10kN/cm以下、さらに好ましくは2kN/cm以上7kN/cm以下である。プレス圧力が0.5kN/cm以上であれば、電極強度を十分に高くできる。他方、プレス圧力が20kN/cm以下であれば、負極に撓み又はシワが生じることがなく、所望の負極活物質層膜厚又は嵩密度に調整できる。また、プレスロール同士の隙間は、所望の負極活物質層の膜厚又は嵩密度となるように乾燥後の負極膜厚に応じて任意の値を設定できる。さらに、プレス速度は負極に撓み又はシワが生じない任意の速度に設定できる。また、プレス部の表面温度は室温でもよいし、必要により加熱してもよい。加熱する場合のプレス部の表面温度の下限は、使用する結着剤の融点マイナス60℃以上が好ましく、より好ましくは45℃以上、さらに好ましくは30℃以上である。他方、加熱する場合のプレス部の表面温度の上限は、使用する結着剤の融点プラス50℃以下が好ましく、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは20℃以下である。例えば、結着剤にPVdF(ポリフッ化ビニリデン:融点150℃)を用いた場合、90℃以上200℃以下に加温することが好ましい。より好ましく105℃以上180℃以下、さらに好ましくは120℃以上170℃以下に加熱することである。また、結着剤にスチレン−ブタジエン共重合体(融点100℃)を用いた場合、40℃以上150℃以下に加温することが好ましい。より好ましくは55℃以上130℃以下、さらに好ましくは70℃以上120℃以下に加温することである。
【0136】
結着剤の融点は、DSC(Differential Scanning Calorimetry、示差走査熱量分析)の吸熱ピーク位置で求めることができる。例えば、パーキンエルマー社製の示差走査熱量計「DSC7」を用いて、試料樹脂10mgを測定セルにセットし、窒素ガス雰囲気中で、温度30℃から10℃/分の昇温速度で250℃まで昇温し、昇温過程における吸熱ピーク温度が融点となる。
また、プレス圧力、隙間、速度、及びプレス部の表面温度の条件を変えながら複数回プレスを実施してもよい。
【0137】
[測定項目]
本明細書におけるBET比表面積及び平均細孔径、メソ孔量、マイクロ孔量は、それぞれ以下の方法によって求められる値である。試料を200℃で一昼夜真空乾燥し、窒素を吸着質として吸脱着の等温線の測定を行なう。ここで得られる吸着側の等温線を用いて、BET比表面積はBET多点法又はBET1点法により、平均細孔径は質量当たりの全細孔容積をBET比表面積で除すことにより、メソ孔量はBJH法により、マイクロ孔量はMP法により、それぞれ算出される。
BJH法は一般的にメソ孔の解析に用いられる計算方法で、Barrett, Joyner, Halendaらにより提唱されたものである(非特許文献1)。
また、MP法とは、「t−プロット法」(非特許文献2)を利用して、マイクロ孔容積、マイクロ孔面積、及びマイクロ孔の分布を求める方法を意味し、R.S.Mikhail, Brunauer, Bodorにより考案された方法である(非特許文献3)。
【0138】
本明細書における平均粒子径は、粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定した際、全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子径(すなわち、50%径(Median径))を指す。この平均粒子径は市販のレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0139】
本明細書における出荷時及び使用後の非水系リチウム型蓄電素子における負極活物質のリチウムイオンのドープ量は、例えば、以下のようにして知ることができる。
先ず、本実施形態における負極活物質層をエチルメチルカーボネート又はジメチルカーボネートで洗浄し風乾した後、メタノール及びイソプロパノールから成る混合溶媒により抽出した抽出液と、抽出後の負極活物質層と、を得る。この抽出は、典型的にはArボックス内にて、環境温度23℃で行われる。
上記のようにして得られた抽出液と、抽出後の負極活物質層と、に含まれるリチウム量を、それぞれ、例えばICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析計)等を用いて定量し、その合計を求めることによって、負極活物質におけるリチウムイオンのドープ量を知ることができる。そして、得られた値を抽出に供した負極活物質量で割り付けて、上記単位の数値を算出すればよい。
【0140】
本明細書における1次粒子径は、粉体を電子顕微鏡で数視野撮影し、それらの視野中の粒子の粒子径を、全自動画像処理装置等を用いて2,000〜3,000個程度計測し、これらを算術平均した値を1次粒子径とする方法により得ることができる。
【0141】
本明細書中、分散度は、JIS K5600に規定された粒ゲージによる分散度評価試験により求められる値である。すなわち、粒のサイズに応じた所望の深さの溝を有する粒ゲージに対して、溝の深い方の先端に十分な量の試料を流し込み,溝から僅かに溢れさせる。次いで、スクレーパーの長辺がゲージの幅方向と平行になり、粒ゲージの溝の深い先端に刃先が接触するように置き、スクレーパーをゲージの表面になるように保持しながら、溝の長辺方向に対して直角に、ゲージの表面を均等な速度で、溝の深さ0まで1〜2秒間かけて引き、引き終わってから3秒以内に20°以上30°以下の角度で光を当てて観察し、粒ゲージの溝に粒が現れる深さを読み取る。
【0142】
本明細書における粘度(ηb)及びTI値は、それぞれ以下の方法により求められる値である。まず、E型粘度計を用いて温度25℃、ずり速度2s−1の条件で2分以上測定した後の安定した粘度(ηa)を取得する。次いで、ずり速度を20s−1に変更した他は上記と同様の条件で測定した粘度(ηb)を取得する。上記で得た粘度の値を用いてTI値はTI値=ηa/ηbの式により算出される。ずり速度を2s−1から20s−1へ上昇させる際は、1段階で上昇させてもよいし、上記の範囲で多段的にずり速度を上昇させ、適宜そのずり速度における粘度を取得しながら上昇させてもよい。
【0143】
負極活物質層の膜厚は、片面当たり、5μm以上100μm以下が好ましい。該負極活物質層の膜厚の下限は、より好ましくは7μm以上であり、さらに好ましくは10μm以上である。該負極活物質層の膜厚の上限は、より好ましくは80μm以下であり、さらに好ましくは60μm以下である。この膜厚が5μm以上であれば、負極活物質層を塗工した際にスジ等が発生せず塗工性に優れる。他方、この膜厚が100μm以下であれば、セル体積を縮小することによって高いエネルギー密度を発現できる。なお、集電体が貫通孔又は凹凸を有する場合における負極活物質層の膜厚とは、集電体の貫通孔又は凹凸を有していない部分の片面当たりの膜厚の平均値をいう。
【0144】
負極活物質層の嵩密度は、好ましくは0.30g/cm以上1.8g/cm以下であり、より好ましくは0.40g/cm以上1.5g/cm以下、さらに好ましくは0.45g/cm以上1.3g/cm以下である。嵩密度が0.30g/cm以上であれば、十分な強度を保つことができるとともに、負極活物質間の十分な導電性を発現することができる。また、嵩密度が1.8g/cm以下であれば、負極活物質層内でイオンが十分に拡散できる空孔が確保できる。
【0145】
[負極活物質層中の化合物]
本実施形態に係る負極活物質層は、式CHOX{式中、Xは、−(O)Li又は−(COO)Liであり、かつnは0又は1である。}で表される化合物を含有することが好ましい。
式CHOXで表される化合物は、より好ましくは、CHOLi、及びCHOCOOLiである。
ここで、式CHOXで表される化合物の負極活物質層中の総含有量は、前記負極活物質層の単位質量当たり、0.50×10−6mol/g以上30.0×10−6mol/g以下であることが好ましく、0.70×10−6mol/g以上20.0×10−6mol/g以下であることがより好ましい。前記化合物の総含有量が0.50×10−6mol/g以上30.0×10−6mol/g以下であれば、Liイオンの拡散を阻害することがなく、高い入出力特性を発現することができる。
【0146】
本実施形態に係る負極活物質層は、さらに、COX{式中、Xは、−(O)Li又は−(COO)Liであり、かつnは0又は1である。}で表される化合物を含有することが好ましい。
OXで表される化合物は、より好ましくは、COLi、及びCOCOOLiである。
ここで、COXで表される化合物の負極活物質層中の総含有量は、前記負極活物質層の単位質量当たり、0.10×10−6mol/g以上20.0×10−6mol/g以下であることが好ましく、0.30×10−6mol/g以上10.0×10−6mol/g以下であることがより好ましい。前記化合物の総含有量が0.10×10−6mol/g以上20.0×10−6mol/g以下であれば、非水系電解液が負極活物質に接することがなく、非水系電解液が酸化分解してガスが発生することを抑制できる。
【0147】
本実施形態に係る式CHOX及び/又は式COXで表される化合物を負極活物質層内に含有させるための方法としては、例えば、
負極活物質層に前記化合物を混合する方法、
負極活物質層に前記化合物を吸着させる方法、
負極活物質層に前記化合物を電気化学的に析出させる方法
等が挙げられる。
中でも、非水系電解液中に、分解してこれらの化合物を生成し得る前駆体を含有させておき、蓄電素子を作製する工程における前記前駆体の分解反応を利用して、負極活物質層内に前記化合物を堆積させる方法が好ましい。
前記化合物を形成する前駆体としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネートから成る群から選択される少なくとも1種の有機溶媒を使用することが好ましい。
【0148】
式CHOX{式中、Xは、−(O)Li又は−(COO)Liであり、かつnは0又は1である。}で表される化合物の負極物質層の単位質量当たりの含有量をDとし、かつ式COX{式中、Xは、−(O)Li又は−(COO)Liであり、かつnは0又は1である。}で表される化合物の負極物質層の単位質量当たりの含有量をEとしたとき、D/Eは1.10以上15.00以下であることが好ましい。D/Eは2.00以上9.00以下であることがより好ましく、2.50以上8.00以下であることが更に好ましい。D/Eが1.10以上であることで、負極界面におけるLiイオンの拡散性が向上し、低温環境下でも高い入出力特性を維持することができる。また、D/Eが15.00以下であることで、高温環境下でも非水電解液が負極界面で酸化分解してガスが発生することがない。そのため、D/Eが1.10以上15.00以下であることによって十分な高温耐久性と低温環境下での高い入出力特性を両立することができる。
【0149】
負極活物質層に含まれるLi化合物の含有量D、及びLi化合物の含有量Eの比を一定範囲にすることで十分な高温耐久性と低温環境下での高い入出力特性を両立できる原理は明らかではないが、次のように推察される。含有量Dと対応するLi化合物は、Liイオン伝導性が高い固体電解質膜であり、充放電反応時の負極活物質層内におけるLiイオンの拡散性を良好にすることができる。一方、含有量Eと対応するLi化合物は、耐酸化性の高い安定な固体電解質膜であり、高温環境下における負極‐電解液界面での酸化分解を抑制することができる。これらのLi化合物の負極活物質層内における存在比率を一定範囲内にすることで、負極活物質界面のLiイオンの拡散性と耐酸化性が向上し、十分な高温耐久性と低温環境下での高い入出力特性が両立できると考えられる。
【0150】
[電解液]
本実施形態の電解液は、非水系電解液である。すなわち、この電解液は、後述する非水溶媒を含む。非水系電解液は、該非水系電解液の総量を基準として、0.5mol/L以上のリチウム塩を含有することが好ましい。すなわち、非水系電解液は、リチウムイオンを電解質として含むことが好ましい。
【0151】
[リチウム塩]
本実施形態の非水系電解液は、リチウム塩として、例えば、(LiN(SOF))、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiN(SOCF)(SOH)、LiC(SOF)、LiC(SOCF、LiC(SO、LiCFSO、LiCSO、LiPF、LiBF等を単独で用いることができ、2種以上を混合して用いてもよい。高い伝導度を発現できることから、非水系電解液は、LiPF、LiN(SOF)及びLiBFから成る群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、LiPF及び/又はLiBFとLiN(SOF)とを含むことがより好ましい。
非水系電解液中のリチウム塩濃度は、該非水系電解液の総量を基準として、0.5mol/L以上であることが好ましく、0.5mol/L以上2.0mol/L以下の範囲がより好ましい。リチウム塩濃度が0.5mol/L以上であれば、陰イオンが十分に存在するので蓄電素子の容量を十分高くできる。また、リチウム塩濃度が2.0mol/L以下である場合、未溶解のリチウム塩が非水系電解液中に析出すること、及び電解液の粘度が高くなり過ぎることを防止でき、伝導度が低下せず、出力特性も低下しないため好ましい。
【0152】
本実施形態の非水系電解液は、該非水系電解液の総量を基準として、0.3mol/L以上1.5mol/L以下の濃度のLiN(SOF)を含むことが好ましく、LiN(SOF)の濃度は、より好ましくは0.4mol/L以上1.2mol/L以下である。LiN(SOF)濃度が0.3mol/L以上であれば、電解液のイオン伝導度を高めるとともに、負極界面に電解質被膜が適量堆積し、これにより電解液が分解することによるガスを低減することができる。他方、この濃度が1.5mol/L以下であれば、充放電の時に電解質塩の析出が起きず、かつ長期間経過後であっても電解液の粘度が増加を引き起こすことがない。
【0153】
[非水溶媒]
本実施形態の非水系電解液は、非水溶媒として、好ましくは、環状カーボネートを含有する。非水系電解液が環状カーボネートを含有することは、所望の濃度のリチウム塩を溶解させる点、及び正極活物質層にリチウム化合物を適量堆積させる点で有利である。環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等が挙げられる。
環状カーボネートの合計含有量は、非水系電解液の総量基準で、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。上記合計含有量が15質量%以上であれば、所望の濃度のリチウム塩を溶解させることが可能となり、高いリチウムイオン伝導度を発現することができる。さらに正極活物質層にリチウム化合物を適量堆積させることが可能となり、電解液の酸化分解を抑制することができる。
【0154】
本実施形態の非水系電解液は、非水溶媒として、鎖状カーボネート化合物であるジメチルカーボネート(DMC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)を含有することが好ましい。前記ジメチルカーボネートに対する前記エチルメチルカーボネートの体積比率(DMC/EMC)が0.5以上8.0以下であることが好ましく、0.8以上6.0以下であることがより好ましく、1.0以上4.0以下であることがさらに好ましい。DMC/EMCが0.5以上であれば、電解液の低粘度化が可能であり、高いリチウムイオン伝導度を発現することができる。DMC/EMCが8.0以下であれば、混合溶媒の融点を低く保つことが可能となり、低温環境下でも高い入出力特性を発揮することが出来る。
【0155】
また、本実施形態の非水系電解液は、非水溶媒として、その他の鎖状カーボネートを含んでいてもよい。その他の鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート等に代表されるジアルキルカーボネート化合物が挙げられる。ジアルキルカーボネート化合物は典型的には非置換である。
鎖状カーボネートの合計含有量は、非水系電解液の総量基準で、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。上記鎖状カーボネートの含有量が30質量%以上であれば、電解液の低粘度化が可能であり、高いリチウムイオン伝導度を発現することができる。上記合計濃度が95質量%以下であれば、電解液が、後述する添加剤をさらに含有することができる。
【0156】
[添加剤]
本実施形態の非水系電解液は、更に添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、特に制限されないが、例えば、スルトン化合物、環状ホスファゼン、非環状含フッ素エーテル、含フッ素環状カーボネート、環状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、及び環状酸無水物等を単独で用いることができ、また、2種以上を混合して用いてもよい。
【0157】
前記スルトン化合物としては、例えば、下記一般式(5)〜(7)のそれぞれで表されるスルトン化合物を挙げることができる。これらのスルトン化合物は、単独で用いてもよく、又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0158】
【化1】
{式(5)中、R11〜R16は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、又は炭素数1〜12のハロゲン化アルキル基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく;そしてnは0〜3の整数である。}
【0159】
【化2】
{式(6)中、R11〜R14は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、又は炭素数1〜12のハロゲン化アルキル基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく;そしてnは0〜3の整数である。}
【0160】
【化3】
{式(7)中、R11〜R16は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、又は炭素数1〜12のハロゲン化アルキル基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。}
【0161】
本実施形態では、抵抗への悪影響の少なさの観点、及び非水系電解液の高温における分解を抑制してガス発生を抑えるという観点から、式(5)で表されるスルトン化合物としては、1,3−プロパンスルトン、2,4−ブタンスルトン、1,4−ブタンスルトン、1,3−ブタンスルトン又は2,4−ペンタンスルトンが好ましく、式(6)で表されるスルトン化合物としては、1,3−プロペンスルトン又は1,4−ブテンスルトンが好ましく、式(7)で表されるスルトン化合物としては、1,5,2,4−ジオキサジチエパン2,2,4,4−テトラオキシドが好ましく、その他のスルトン化合物としては、メチレンビス(ベンゼンスルホン酸)、メチレンビス(フェニルメタンスルホン酸)、メチレンビス(エタンスルホン酸)、メチレンビス(2,4,6,トリメチルベンゼンスルホン酸)、及びメチレンビス(2−トリフルオロメチルベンゼンスルホン酸)を挙げることができ、これらのうちから選択される少なくとも1種以上を選択することが好ましい。
【0162】
本実施形態における非水系リチウム型蓄電素子の非水系電解液中のスルトン化合物の総含有量は、非水系電解液の総量を基準として、0.5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。非水系電解液中のスルトン化合物の総含有量が0.5質量%以上であれば、高温における電解液の分解を抑制してガス発生を抑えることが可能となる。一方で、この総含有量が15質量%以下であれば、電解液のイオン伝導度の低下を抑えることができ、高い入出力特性を保持することができる。また、非水系リチウム型蓄電素子の非水系電解液に存在するスルトン化合物の含有量は、高い入出力特性と耐久性を両立する観点から、好ましくは1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上8質量%以下である。
【0163】
[環状ホスファゼン]
前記環状ホスファゼンとしては、例えばエトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、ジエトキシテトラフルオロシクロトリホスファゼン、フェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン等を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上が好ましい。
【0164】
非水系電解液中の環状ホスファゼンの含有率は、該非水系電解液の総量を基準として、0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。この値が0.5重量%以上であれば、高温における電解液の分解を抑制してガス発生を抑えることが可能となる。他方、この値が20質量%以下であれば、電解液のイオン伝導度の低下を抑えることができ、高い入出力特性を保持することができる。環状ホスファゼンの含有率は、より好ましくは2質量%以上15質量%以下であり、更に好ましくは4質量%以上12質量%以下である。
尚、これらの環状ホスファゼンは、単独で用いてもよく、又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0165】
[非環状含フッ素エーテル]
非環状含フッ素エーテルとしては、例えば、HCFCFOCHCFCFH、CFCFHCFOCHCFCFH、HCFCFCHOCHCFCFH、CFCFHCFOCHCFCFHCF等が挙げられ、中でも、電気化学的安定性の観点から、HCFCFOCHCFCFHが好ましい。
【0166】
非環状含フッ素エーテルの含有量は、該非水系電解液の総量を基準として、0.5質量%以上15質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下であることが更に好ましい。非環状含フッ素エーテルの含有量が0.5質量%以上であれば、非水系電解液の酸化分解に対する安定性が高まり、高温時耐久性が高い蓄電素子が得られる。他方、非環状含フッ素エーテルの含有量が15質量%以下であれば、電解質塩の溶解度が良好に保たれ、かつ、非水系電解液のイオン伝導度を高く維持することができるため、高度の入出力特性を発現することが可能となる。尚、非環状含フッ素エーテルは、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0167】
[含フッ素環状カーボネート]
含フッ素環状カーボネートについては、他の非水溶媒との相溶性の観点から、フルオロエチレンカーボネート(FEC)及びジフルオロエチレンカーボネート(dFEC)から選択して使用されることが好ましい。
フッ素原子を含有する環状カーボネートの含有量は、該非水系電解液の総量を基準として、0.5質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。フッ素原子を含有する環状カーボネートの含有量が0.5質量%以上であれば、負極上に良質な被膜を形成することができ、負極上における電解液の還元分解を抑制することによって、高温における耐久性が高い蓄電素子が得られる。他方、フッ素原子を含有する環状カーボネートの含有量が10質量%以下であれば、電解質塩の溶解度が良好に保たれ、かつ、非水系電解液のイオン伝導度を高く維持することができるため、高度の入出力特性を発現することが可能となる。尚、上記のフッ素原子を含有する環状カーボネートは、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0168】
[環状炭酸エステル]
環状炭酸エステルについては、ビニレンカーボネートが好ましい。
環状炭酸エステルの含有量は、該非水系電解液の総量を基準として、0.5質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下であることが更に好ましい。環状炭酸エステルの含有量が0.5質量%以上であれば、負極上の良質な被膜を形成することができ、負極上での電解液の還元分解を抑制することにより、高温における耐久性が高い蓄電素子が得られる。他方、環状炭酸エステルの含有量が10質量%以下であれば、電解質塩の溶解度が良好に保たれ、かつ、非水系電解液のイオン伝導度を高く維持することができるため、高度の入出力特性を発現することが可能となる。
【0169】
[環状カルボン酸エステル]
環状カルボン酸エステルとしては、例えば、ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン、ガンマカプロラクトン、イプシロンカプロラクトン等を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することが好ましい。中でも、ガンマブチロラクトンが、リチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から、特に好ましい。
環状カルボン酸エステルの含有量は、該非水系電解液の総量を基準として、0.5質量%以上15質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。環状酸無水物の含有量が0.5質量%以上であれば、負極上の良質な被膜を形成することができ、負極上での電解液の還元分解を抑制することにより、高温時耐久性が高い蓄電素子が得られる。他方、環状カルボン酸エステルの含有量が15質量%以下であれば、電解質塩の溶解度が良好に保たれ、かつ、非水系電解液のイオン伝導度を高く維持することができるため、高度の入出力特性を発現することが可能となる。尚、上記の環状カルボン酸エステルは、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0170】
[環状酸無水物]
環状酸無水物については、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、及び無水イタコン酸から選択される1種以上が好ましい。中でも工業的な入手のし易さによって電解液の製造コストが抑えられる点、非水系電解液中に溶解し易い点等から、無水コハク酸及び無水マレイン酸から選択することが好ましい。
環状酸無水物の含有量は、該非水系電解液の総量を基準として、0.5質量%以上15質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。環状酸無水物の含有量が0.5質量%以上であれば、負極上に良質な被膜を形成することができ、負極上における電解液の還元分解を抑制することにより、高温時耐久性が高い蓄電素子が得られる。他方、環状酸無水物の含有量が15質量%以下であれば、電解質塩の溶解度が良好に保たれ、かつ非水系電解液のイオン伝導度を高く維持することができ、従って高度の入出力特性を発現することが可能となる。尚、上記の環状酸無水物は、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0171】
[セパレータ]
正極前駆体及び負極は、セパレータを介して積層又は捲回され、正極前駆体、負極及びセパレータを有する電極積層体または電極捲回体が形成される。
前記セパレータとしては、リチウムイオン二次電池に用いられるポリエチレン製の微多孔膜若しくはポリプロピレン製の微多孔膜、又は電気二重層キャパシタで用いられるセルロース製の不織紙等を用いることができる。これらのセパレータの片面または両面に、有機または無機の微粒子からなる膜が積層されていてもよい。また、セパレータの内部に有機または無機の微粒子が含まれていてもよい。
セパレータの厚みは5μm以上35μm以下が好ましい。5μm以上の厚みとすることにより、内部のマイクロショートによる自己放電が小さくなる傾向があるため好ましい。他方、35μm以下の厚みとすることにより、非水系リチウム型蓄電素子の入出力特性が高くなる傾向があるため好ましい。
また、有機または無機の微粒子からなる膜は、1μm以上10μm以下が好ましい。1μm以上の厚みとすることにより、内部のマイクロショートによる自己放電が小さくなる傾向があるため好ましい。他方、10μm以下の厚みとすることにより、非水系リチウム型蓄電素子の入出力特性が高くなる傾向があるため好ましい。
【0172】
[非水系リチウム型蓄電素子]
本実施形態の非水系リチウム型蓄電素子は、後述する電極積層体又は電極捲回体が、前記非水系電解液とともに前記外装体内に収納されて構成される。
【0173】
[組立]
セル組み立て工程で得られる電極積層体は、枚葉の形状にカットした正極前駆体と負極を、セパレータを介して積層して成る積層体に、正極端子と負極端子を接続したものである。また、電極捲回体は、正極前駆体と負極を、セパレータを介して捲回して成る捲回体に正極端子及び負極端子を接続したものである。電極捲回体の形状は円筒型であっても、扁平型であってもよい。
正極端子と負極端子の接続の方法は特に限定はしないが、抵抗溶接、超音波溶接などの方法で行う。
【0174】
[外装体]
外装体としては、金属缶、ラミネート包材等を使用できる。
金属缶としては、アルミニウム製のものが好ましい。
ラミネート包材としては、金属箔と樹脂フィルムとを積層したフィルムが好ましく、外層樹脂フィルム/金属箔/内装樹脂フィルムから成る3層構成のものが例示される。外層樹脂フィルムは、接触等により金属箔が損傷を受けることを防止するためのものであり、ナイロン又はポリエステル等の樹脂が好適に使用できる。金属箔は水分及びガスの透過を防ぐためのものであり、銅、アルミニウム、ステンレス等の箔が好適に使用できる。また、内装樹脂フィルムは、内部に収納する非水系電解液から金属箔を保護するとともに、外装体のヒートシール時に溶融封口させるためのものであり、ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィン等が好適に使用できる。
【0175】
[外装体への収納]
乾燥した電極積層体又は電極捲回体は、金属缶又はラミネート包材に代表される外装体の中に収納し、開口部を1方だけ残した状態で封止することが好ましい。外装体の封止方法は特に限定しないが、ラミネート包材を用いる場合は、ヒートシール、インパルスシールなどの方法を用いる。
【0176】
[乾燥]
外装体へ収納した電極積層体又は電極捲回体は、乾燥することで残存溶媒を除去することが好ましい。乾燥方法に限定はないが、真空乾燥などにより乾燥する。残存溶媒は、正極活物質層又は負極活物質層の質量あたり、1.5質量%以下が好ましい。残存溶媒が1.5質量%より多いと、系内に溶媒が残存し、自己放電特性又はサイクル特性を悪化させるため、好ましくない。
【0177】
[注液、含浸、封止工程]
組立工程の終了後に、外装体の中に収納された電極積層体又は電極捲回体に、非水系電解液を注液する。注液工程の終了後に、更に、含浸を行い、正極、負極、及びセパレータを非水系電解液で十分に浸すことが望ましい。正極、負極、及びセパレータのうちの少なくとも一部に非水系電解液が浸っていない状態では、後述するリチウムドープ工程において、ドープが不均一に進むため、得られる非水系リチウム型蓄電素子の抵抗が上昇したり、耐久性が低下したりする。上記含浸の方法としては、特に制限されないが、例えば、注液後の電極積層体又は電極捲回体を、外装体が開口した状態で、減圧チャンバーに設置し、真空ポンプを用いてチャンバー内を減圧状態にし、再度大気圧に戻す方法等を用いることができる。含浸工程終了後には、外装体が開口した状態の電極積層体又は電極捲回体を減圧しながら封止することで密閉する。
【0178】
[リチウムドープ工程]
リチウムドープ工程において、好ましくは、前記正極前駆体と負極との間に電圧を印加して、上記で説明されたリチウム化合物を分解することにより、正極前駆体中のリチウム化合物を分解してリチウムイオンを放出し、負極でリチウムイオンを還元することにより負極活物質層にリチウムイオンがプレドープされる。
このリチウムドープ工程において、正極前駆体中のリチウム化合物の酸化分解に伴い、CO等のガスが発生する。そのため、電圧を印加する際には、発生したガスを外装体の外部に放出する手段を講ずることが好ましい。この手段としては、例えば、外装体の一部を開口させた状態で電圧を印加する方法;前記外装体の一部に予めガス抜き弁、ガス透過フィルム等の適宜のガス放出手段を設置した状態で電圧を印加する方法;等を挙げることができる。
【0179】
[エージング工程]
リチウムドープ工程の終了後に、電極積層体又は電極捲回体にエージングを行うことが好ましい。エージング工程において非水系電解液中の溶媒が負極で分解し、負極表面にリチウムイオン透過性の固体高分子被膜が形成される。
上記エージングの方法としては、特に制限されないが、例えば、高温環境下で非水系電解液中の溶媒を反応させる方法等を用いることができる。
【0180】
〈追加充電〉
エージング後に、電極積層体又は電極捲回体に追加充電を行うことが好ましい。追加充電により、非水系電解液中の電解質が正極で分解することでフッ化物イオン源が放出され、セパレータ表面に付着するとともに、粒子状の物質が生成される。これにより、セパレータへの電解液の浸透性および保液性が向上することで低抵抗な非水系リチウム型蓄電素子が得られ、また、高温下でのセパレータの機械的、電気化学的な耐久性が増すことで高温保存下での耐久性に優れる非水系リチウム型蓄電素子を得ることができる。
【0181】
[ガス抜き工程]
エージング工程の終了後に、更にガス抜きを行い、非水系電解液、正極、及び負極中に残存しているガスを確実に除去することが好ましい。非水系電解液、正極、及び負極の少なくとも一部にガスが残存している状態では、イオン伝導が阻害されるため、得られる非水系リチウム型蓄電素子の抵抗が上昇してしまう。
上記ガス抜きの方法としては、特に制限されないが、例えば、前記外装体を開口した状態で電極積層体又は電極捲回体を減圧チャンバーに設置し、真空ポンプを用いてチャンバー内を減圧状態にする方法等を用いることができる。
【0182】
[静電容量]
本明細書中、静電容量F(F)とは、以下の方法によって得られる値である:
先ず、非水系リチウム型蓄電素子と対応するセルを25℃に設定した恒温槽内で、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電を行い、次いで、3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分行う。その後、2.2Vまで2Cの電流値で定電流放電を施した際の容量をQとする。ここで得られたQを用いて、F=Q/(3.8−2.2)により算出される値をいう。
【0183】
[電力量]
本明細書中、電力量E(Wh)とは、以下の方法によって得られる値である:
先に述べた方法で算出された静電容量F(F)を用いて、F×(3.8−2.2)/2/3600により算出される値をいう。
【0184】
[体積]
非水系リチウム型蓄電素子の体積は、特に指定はないが、電極積層体又は電極捲回体のうち、正極活物質層及び負極活物質層が積重された領域が、外装体によって収納された部分の体積を指す。
【0185】
例えば、ラミネートフィルムによって収納された電極積層体又は電極捲回体の場合は、電極積層体又は電極捲回体のうち、正極活物質層および負極活物質層が存在する領域が、カップ成形されたラミネートフィルムの中に収納されるが、この非水系リチウム型蓄電素子の体積(V1)は、このカップ成形部分の外寸長さ(l1)、外寸幅(w1)、及びラミネートフィルムを含めた非水系リチウム型蓄電素子の厚み(t1)により、V1=l1×w1×t1で計算される。
【0186】
角型の金属缶に収納された電極積層体又は電極捲回体の場合は、非水系リチウム型蓄電素子の体積としては、単にその金属缶の外寸での体積を用いる。すなわち、この非水系リチウム型蓄電素子の体積(V2)は、角型の金属缶の外寸長さ(l2)と外寸幅(w2)、外寸厚み(t2)により、V2=l2×w2×t2で計算される。
【0187】
また、円筒型の金属缶に収納された電極捲回体の場合においても、非水系リチウム型蓄電素子の体積としては、その金属缶の外寸での体積を用いる。すなわち、この非水系リチウム型蓄電素子の体積(V3)は、円筒型の金属缶の底面または上面の外寸半径(r)、外寸長さ(l3)により、V3=3.14×r×r×l3で計算される。
【0188】
[エネルギー密度]
本明細書中、エネルギー密度とは、電気量Eと体積Vi(i=1、2、3)を用いてE/Vi(Wh/L)の式により得られる値である。
【0189】
[常温内部抵抗]
本明細書では、常温内部抵抗Ra(Ω)とは、以下の方法によって得られる値である:
先ず、非水系リチウム型蓄電素子と対応するセルを25℃に設定した恒温槽内で、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電し、続いて3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分間行う。続いて、20Cの電流値で2.2Vまで定電流放電を行って、放電カーブ(時間−電圧)を得る。この放電カーブにおいて、放電時間2秒及び4秒の時点における電圧値から、直線近似にて外挿して得られる放電時間=0秒における電圧をEoとしたときに、降下電圧ΔE=3.8−Eo、及びRa=ΔE/(20C(電流値A))により算出される値である。
【0190】
[低温内部抵抗]
本明細書では、低温内部抵抗Rcとは、以下の方法によって得られる値である:
先ず、非水系リチウム型蓄電素子と対応するセルを−10℃に設定した恒温槽内に2時間放置する。その後、恒温槽を−10℃に保ったまま、1.0Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電し、続いて3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で2時間行う。続いて、50Cの電流値で2.2Vまで定電流放電を行って、放電カーブ(時間−電圧)を得る。この放電カーブにおいて、放電時間2秒及び4秒の時点における電圧値から、直線近似にて外挿して得られる放電時間=0秒における電圧をEoとしたときに、降下電圧ΔE=3.8−Eo、及びRb=ΔE/(10C(電流値A))により算出される値である。
【0191】
[高温保存試験]
本明細書では、高温保存試験時のガス発生量、及び高温保存試験後の常温内部抵抗上昇率は、以下の方法によって測定する:
先ず、非水系リチウム型蓄電素子と対応するセルを25℃に設定した恒温槽内で、100Cの電流値で4.0Vに到達するまで定電流充電し、続いて4.0Vの定電圧を印加する定電圧充電を10分間行う。その後、セルを60℃環境下に保存し、2週間毎に60℃環境下から取り出し、前述の充電工程にてセル電圧を4.0Vに充電した後、再びセルを60℃環境下で保存する。この工程を繰り返し行い、保存開始前のセル体積Va、保存試験2か月後のセル体積Vbをアルキメデス法によって測定する。Vb−Vaをセル電圧4.0V及び環境温度60℃において2か月間保存した際に発生するガス量とする。
前記高温保存試験後のセルに対して、前記常温内部抵抗と同様の測定方法を用いて得られる抵抗値を高温保存試験後の常温内部抵抗Rcとしたとき、高温保存試験開始前の常温内部抵抗Raに対する高温保存試験後の常温内部抵抗上昇率はRc/Raにより算出される。
【0192】
[釘刺し試験]
本明細書では、釘刺し試験は、以下の方法によって実施する:
先ず、非水系リチウム型蓄電素子と対応するセルを25℃に設定した恒温槽内で、100Cの電流値で4.0Vに到達するまで定電流充電し、続いて4.0Vの定電圧を印加する定電圧充電を10分間行う。
前記の工程で電圧を4.0Vに調整した蓄電素子について、以下の条件で釘刺し試験を行う。
試験機:島津オートグラフAG−X
釘:φ2.5mm−SUS304
環境温度:25℃
評価方法:蓄電素子を水平に固定し、蓄電素子の正極端子、負極端子、及び外装体中央表面に熱電対を取り付けた後、蓄電素子中央部に、20mm/secの速度で貫通するまで釘を刺す。試験時の各部位の発熱温度、蓄電素子の挙動を観察する。
本明細書中では、釘刺し時試験の発熱温度ΔTは、
試験時の正極端子の最高到達温度、負極端子の最高到達温度、及び外装体中央表面の最高到達温度の中から、最も到達温度の高かったものをT1とし、環境温度をT2としたとき、ΔT=T1−T2で求められる値とする。
【0193】
また、釘刺し試験時の蓄電素子の挙動は以下4つの状態に分類され、
発火:非水系リチウム蓄電素子が燃えた状態、
破裂:非水系リチウム蓄電素子の外装体の一部又は全部が破損し、電極積層体の一部又は全部が外装体から飛び出た状態、
開裂:非水系リチウム蓄電素子の外装体の一部が破損し、電極積層体が外装体内部に留まった状態(外装体の破損箇所から非水系電解液が外部に流出しても構わない。)、
変化なし:外装体に損傷がない状態(ガス発生により外装体が膨張しても構わない。)、
と定義する。
【0194】
本実施形態の非水系リチウム型蓄電素子は、釘刺し時試験の発熱温度ΔTが80℃未満であることが好ましく、75℃未満であることがより好ましく、さらに好ましくは70℃未満である。ΔTが80℃未満であることで、外部からの衝撃により非水系リチウム型蓄電素子が破損した場合においても、電池内部の電極−電解液界面における熱暴走反応によって破裂・発火が引き起こされることがないため、十分な安全性を担保することが可能となる。
【0195】
本実施形態の非水系リチウム型蓄電素子は、セル電圧4Vでの初期の常温内部抵抗をRa(Ω)、静電容量をF(F)、電力量をE(Wh)、電極積層体を収納している外装体の体積をV(L)、及び環境温度−10℃における内部抵抗をRbとした時、以下の(a)、(b)及び(c)の要件:
(a)RaとFの積Ra・Fが0.3以上3.0以下である、
(b)E/Vが15以上50以下である、
(c)Rb/Raが10以下である、
を同時に満たすことが好ましい。
【0196】
(a)について、Ra・Fは、大電流に対して十分な充電容量と放電容量とを発現させる観点から、3.0以下であることが好ましく、より好ましくは2.6以下であり、更に好ましくは2.4以下である。Ra・Fが上記の上限値以下であれば、優れた入出力特性を有する非水系リチウム型蓄電素子を得ることができる。そのため、非水系リチウム型蓄電素子を用いた蓄電システムと、例えば高効率エンジンと、を組み合わせること等によって該非水系リチウム型蓄電素子に印加される高負荷にも十分に耐え得る。
【0197】
(b)について、E/Vは十分な充電容量と放電容量とを発現させる観点から、15以上であることが好ましく、より好ましくは18以上であり、更に好ましくは20以上である。E/Vが上記の下限値以上であれば、優れた体積エネルギー密度を有する蓄電素子を得ることができる。そのため、蓄電素子を用いた蓄電システムを、例えば、自動車のエンジンと組み合わせて使用する場合に、自動車内の限られた狭いスペースに蓄電システムを設置することが可能となる。
【0198】
(c)について、Rb/Raは、−10℃という低温環境下においても十分な充電容量と放電容量とを発現させる観点から、10以下であることが好ましく、より好ましくは8以下であり、更に好ましくは6以下である。Rb/Raが上記の上限値以下であれば、低温環境下においても優れた出力特性を有する蓄電素子を得ることができる。そのため、低温環境下での自動車・バイク等のエンジン始動時に、モーターを駆動するための十分な電力を与える蓄電素子を得ることが可能となる。
【0199】
本実施形態の非水系リチウム型蓄電素子は、セル電圧4Vでの初期の常温内部抵抗をRa(Ω)、静電容量をF(F)、セル電圧4V及び環境温度60℃において2か月間保存した後の25℃における内部抵抗をRc(Ω)とした時、以下の(d)及び(e)の要件:
(d)Rc/Raが0.3以上3.0以下である、
(e)セル電圧4V及び環境温度60℃において2か月間保存した時に発生するガス量が、25℃において30×10−3cc/F以下である、
を同時に満たすことが好ましい。
【0200】
(d)について、Rc/Raは、高温環境下に長時間曝された場合に、大電流に対して十分な充電容量と放電容量とを発現させる観点から、3.0以下であることが好ましく、より好ましくは2.0以下であり、更に好ましくは1.5以下である。Rc/Raが上記の上限値以下であれば、長期間安定して優れた出力特性を得ることができるため、デバイスの長寿命化につながる。
【0201】
(e)について、セル電圧4.0V及び環境温度60℃において2か月間保存した際に発生するガス量は、発生したガスにより素子の特性を低下させないという観点から、発生ガス量を25℃において測定した値として、30×10−3cc/F以下であることが好ましく、より好ましくは20×10−3cc/F以下であり、更に好ましくは15×10−3cc/F以下である。上記の条件下で発生するガス量が上記の上限値以下であれば、デバイスが長期間高温に曝された場合であっても、ガス発生によってセルが膨張するおそれがない。そのため、十分な安全性及び耐久性を有する蓄電素子を得ることができる。
【0202】
本実施形態に係る複数個の非水系リチウム型蓄電素子を直列、又は並列に接続することで蓄電モジュールを作製することができる。さらに、非水系リチウム型蓄電素子、及び前記蓄電モジュールは、電力回生システム、電力負荷平準化システム、無停電電源システム、非接触給電システム、エナジーハーベストシステム、蓄電システム等に使用されることができる。
本実施形態に係る非水系リチウム型蓄電素子は、高出力かつ高容量であり、幅広い環境温度でその特性を維持することができる。そのため、高負荷充放電サイクル特性が求められる自動車のハイブリット駆動システムの電力回生システム、太陽光発電又は風力発電等の自然発電又はマイクログリッド等における電力負荷平準化システム、工場の生産設備等における無停電電源システム、マイクロ波送電又は電界共鳴等の電圧変動の平準化及びエネルギーの蓄電を目的とした非接触給電システム、振動発電等で発電した電力の利用を目的としたエナジーハーベストシステムに好適に利用できる。
【実施例】
【0203】
以下に、本発明を実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0204】
(実施例1)
【0205】
<炭酸リチウムの粉砕>
平均粒子径53μmの炭酸リチウム200gを、アイメックス社製の粉砕機(液体窒素ビーズミルLNM)を用い、液体窒素で−196℃に冷却化した後、ドライアイスビーズを用い、周速10.0m/sにて9分間粉砕した。−196℃で熱変性を防止し、脆性破壊することにより得られた炭酸リチウムについて平均粒子径を測定することで仕込みの炭酸リチウム粒子径を求めたところ、1.5μmであった。
【0206】
<正極活物質の調製>
[正極活物質Aの調製]
破砕されたヤシ殻炭化物を、小型炭化炉において窒素中、500℃において3時間炭化処理して炭化物を得た。得られた炭化物を賦活炉内へ入れ、1kg/hの水蒸気を予熱炉で加温した状態で前記賦活炉内へ導入し、900℃まで8時間かけて昇温して賦活した。賦活後の炭化物を取り出し、窒素雰囲気下で冷却して、賦活された活性炭を得た。得られた活性炭を10時間通水洗浄した後に水切りした。その後、115℃に保持された電気乾燥機内で10時間乾燥した後に、ボールミルで1時間粉砕を行うことにより、活性炭Aを得た。
この活性炭Aについて、島津製作所社製レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2000J)を用いて平均粒径を測定した結果、4.2μmであった。また、ユアサアイオニクス社製細孔分布測定装置(AUTOSORB−1 AS−1−MP)を用いて細孔分布を測定した。その結果、BET比表面積が2360m/g、メソ孔量(V1)が0.52cc/g、マイクロ孔量(V2)が0.88cc/g、V1/V2=0.59であった。
【0207】
[正極活物質Bの調製]
フェノール樹脂について、窒素雰囲気下、焼成炉中600℃において2時間の炭化処理を行った後、ボールミルにて粉砕し、分級を行って平均粒径7μmの炭化物を得た。この炭化物とKOHとを、質量比1:5で混合し、窒素雰囲下、焼成炉中800℃で1時間加熱して賦活化を行った。その後、濃度2mol/Lに調整した希塩酸中で1時間に亘って混合物の撹拌洗浄を行った。さらに、蒸留水でpH5〜6の間で安定するまで混合物を煮沸洗浄した後に乾燥を行うことにより、活性炭Bを得た。
この活性炭Bについて、ユアサアイオニクス社製細孔分布測定装置(AUTOSORB−1 AS−1−MP)を用いて細孔分布を測定した。その結果、BET比表面積が3627m/g、メソ孔量(V1)が1.50cc/g、マイクロ孔量(V2)が2.28cc/g、V1/V2=0.66であった。
【0208】
<正極前駆体Aの製造>
上記で得た活性炭Aを正極活物質として用いて正極前駆体を製造した。
活性炭Aを57.5質量部、リチウム化合物として平均粒径1.5μmの炭酸リチウムを30.0質量部、KB(ケッチェンブラック)を3.0質量部、PVP(ポリビニルピロリドン)を1.5質量部、及びPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を8.0質量部、並びにNMP(N−メチルピロリドン)を混合し、それをPRIMIX社製の薄膜旋回型高速ミキサーフィルミックスを用いて、周速17m/sの条件で分散して塗工液を得た。得られた塗工液の粘度(ηb)及びTI値を東機産業社のE型粘度計TVE−35Hを用いて測定した。その結果、粘度(ηb)は2,700mPa・s、TI値は3.5であった。また、得られた塗工液の分散度をヨシミツ精機社製の粒ゲージを用いて測定した。その結果、粒度は35μmであった。上記塗工液を東レエンジニアリング社製のダイコーターを用いて厚さ15μmのアルミニウム箔の片面又は両面に塗工速度1m/sの条件で塗工し、乾燥温度100℃で乾燥して正極前駆体を得た。得られた正極前駆体についてロールプレス機を用いて圧力4kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスを実施した。上記で得られた正極前駆体の正極活物質層の膜厚を小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS−551を用いて、正極前駆体の任意の10か所で測定した厚さの平均値から、アルミニウム箔の厚さを引いて求めた。その結果、正極活物質層の膜厚は片面あたりの厚さは60μmであった。
【0209】
<正極前駆体Bの製造>
上記で得た活性炭Bを正極活物質として使用したこと以外は正極前駆体Aの製造と同じ方法に従って、正極前駆体Bを得た。
【0210】
以下、活性炭Aを用いた片面正極前駆体および両面正極前駆体を、それぞれ片面正極前駆体Aおよび両面正極前駆体A(総称して「正極前駆体A」)という。活性炭Bを用いた片面正極前駆体および両面正極前駆体を、それぞれ片面正極前駆体Bおよび両面正極前駆体B(総称して「正極前駆体B」)という。
【0211】
<負極活物質の調製>
[活物質Aの調製]
平均粒子径3.0μm、BET比表面積が1,780m/gの市販のヤシ殻活性炭150gをステンレススチールメッシュ製の籠に入れ、石炭系ピッチ(軟化点:50℃)270gを入れたステンレス製バットの上に置き、両者を電気炉(炉内有効寸法300mm×300mm×300mm)内に設置して、熱反応を行うことにより、複合炭素材料Aを得た。この熱処理は窒素雰囲気下で行い、600℃まで8時間で昇温し、同温度で4時間保持する方法によった。続いて自然冷却により60℃まで冷却した後、複合炭素材料Aを炉から取り出した。
得られた複合炭素材料Aについて、上記と同様の方法で平均粒子径及びBET比表面積を測定した。その結果、平均粒子径は3.2μm、BET比表面積は262m/gであった。石炭系ピッチ由来の炭素質材料の活性炭に対する質量比率は78%であった。
【0212】
<負極Aの製造>
次いで複合炭素材料Aを負極活物質として用いて負極を製造した。
複合炭素材料Aを85質量部、アセチレンブラックを10質量部、及びPVdF(ポリフッ化ビニリデン)を5質量部、並びにNMP(N−メチルピロリドン)を混合し、それをPRIMIX社製の薄膜旋回型高速ミキサーフィルミックスを用いて、周速15m/sの条件で分散して塗工液を得た。得られた塗工液の粘度(ηb)及びTI値を東機産業社のE型粘度計TVE−35Hを用いて測定した。その結果、粘度(ηb)は2,789mPa・s、TI値は4.3であった。上記塗工液を東レエンジニアリング社製のダイコーターを用いて厚さ10μmの貫通孔を持たない電解銅箔の両面に塗工速度1m/sの条件で塗工し、乾燥温度85℃で乾燥して両面負極Aを得た。得られた負極Aについてロールプレス機を用いて圧力4kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスを実施した。上記で得られた負極Aの負極活物質層の膜厚を小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS−551を用いて、負極Aの任意の10か所で測定した厚さの平均値から、銅箔の厚さを引いて求めた。その結果、負極Aの負極活物質層の膜厚は片面当たりの厚さは40μmであった。
【0213】
[活物質Bの調製]
複合炭素材料Aの代わりに平均粒子径4.9μmの人造黒鉛を基材として用い、石炭系ピッチの使用量を50gとし、さらに熱処理温度を1000℃とした他は活物質Aの調製と同様にして複合炭素材料Bを製造し、評価を行った。その結果、複合炭素材料BのBET比表面積は6.1m/gであった。石炭系ピッチ由来の炭素質材料の人造黒鉛に対する質量比率は2%であった。
【0214】
<負極Bの製造>
上記で得た複合炭素材料Bを負極活物質として用いて負極を製造した。
複合炭素材料Bを80質量部、アセチレンブラックを8質量部、及びPVdF(ポリフッ化ビニリデン)を12質量部、並びにNMP(N−メチルピロリドン)を混合し、それをPRIMIX社製の薄膜旋回型高速ミキサーフィルミックスを用いて、周速15m/sの条件で分散して塗工液を得た。得られた塗工液の粘度(ηb)及びTI値を東機産業社のE型粘度計TVE−35Hを用いて測定した。その結果、粘度(ηb)は2,798mPa・s、TI値は2.7であった。上記塗工液を東レエンジニアリング社製のダイコーターを用いて厚さ10μmの貫通孔を持たない電解銅箔の両面に塗工速度1m/sの条件で塗工し、乾燥温度85℃で乾燥して両面負極Bを得た。得られた負極Bについてロールプレス機を用いて圧力4kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスを実施した。上記で得られた負極Bの負極活物質層の膜厚を小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS−551を用いて、負極Bの任意の10か所で測定した厚さの平均値から、銅箔の厚さを引いて求めた。その結果、負極活物質層の膜厚は片面あたりの厚さは25μmであった。
【0215】
<電解液の調製>
有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC):メチルエチルカーボネート(EMC)=33.0:26.0:41.0(体積比)の混合溶媒を用い、全電解液に対してLiN(SOF)及びLiPFの濃度比が50:50(モル比)であり、かつLiN(SOF)及びLiPFの濃度の和が1.2mol/Lとなるようにそれぞれの電解質塩を溶解して得た溶液を非水系電解液として使用した。
ここで調製した電解液におけるLiN(SOF)及びLiPFの濃度は、それぞれ、0.6mol/L及び0.6mol/Lであった。
【0216】
<蓄電素子の組立>
得られた両面負極Aおよび両面正極前駆体Aを10cm×10cm(100cm)にカットした。最上面と最下面は片面正極前駆体Aを用い、更に両面負極A21枚と両面正極前駆体A20枚とを用い、負極Aと正極前駆体Aとの間に、厚み15μmの微多孔膜セパレータを挟んで積層した。その後、負極と正極前駆体とに、それぞれ負極端子と正極端子を超音波溶接にて接続して電極積層体とした。この電極積層体を80℃、50Paで、60hr真空乾燥した。この電極積層体を、露点−45℃のドライ環境下にて、アルミラミネート包材から成る外装体内に挿入し、電極端子部およびボトム部の外装体3方を180℃、20sec、1.0MPaでヒートシールした。該外装体に非水系電解液を注入して該外装体を密閉することにより、非水系リチウム型蓄電素子を組立てた。
【0217】
<蓄電素子の注液、含浸、封止工程>
アルミラミネート包材の中に収納された電極積層体に、露点−40℃以下のドライエアー環境下にて、上記非水系電解液約80gを温度25℃の大気圧下で注入した。続いて、減圧チャンバーの中に前記非水系リチウム型蓄電素子を入れ、常圧から−87kPaまで減圧した後、大気圧に戻し、5分間静置した。その後、常圧から−87kPaまで減圧した後、大気圧に戻す工程を4回繰り返したのち、15分間静置した。さらに、常圧から−91kPaまで減圧した後、大気圧に戻した。同様に減圧し、大気圧に戻す工程を合計7回繰り返した。(それぞれ−95,96,97,81,97,97,97kPaまで減圧した)。以上の工程により、非水系電解液を電極積層体に含浸させた。
その後、非水系リチウム型蓄電素子を減圧シール機に入れ、−95kPaに減圧した状態で、180℃で10秒間、0.1MPaの圧力でシールすることによりアルミラミネート包材を封止した。
【0218】
<リチウムドープ工程>
得られた非水系リチウム型蓄電素子に対して、東洋システム社製の充放電装置(TOSCAT−3100U)を用いて、25℃環境下、電流値0.2Aで電圧4.5Vに到達するまで定電流充電を行った後、続けて4.5V定電圧充電を30時間継続する手法により初期充電を行い、負極にリチウムドープを行った。
【0219】
<エージング工程>
リチウムドープ後の非水系リチウム型蓄電素子を45℃環境下、0.7Aで電圧3.0Vに到達するまで定電流放電を行った後、1Aで4.0Vまで定電流充電を行うことにより電圧を4.0Vに調整した。続いて、非水系リチウム型蓄電素子を60℃の恒温槽に48時間保管した。
【0220】
<ガス抜き工程>
エージング後の非水系リチウム型蓄電素子を、温度25℃、露点−40℃のドライエアー環境下でアルミラミネート包材の一部を開封した。続いて、減圧チャンバーの中に前記非水系リチウム型蓄電素子を入れ、KNF社製のダイヤフラムポンプ(N816.3KT.45.18)を用いて大気圧から−80kPaまで3分間かけて減圧した後、3分間かけて大気圧に戻す工程を合計3回繰り返した。その後、減圧シール機に非水系リチウム型蓄電素子を入れ、−90kPaに減圧した後、200℃で10秒間、0.1MPaの圧力でシールすることによりアルミラミネート包材を封止した。
【0221】
[エネルギー密度の算出]
完成した非水系リチウム型蓄電素子について、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、2Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電を行い、続いて3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分行った。その後、2.2Vまで2Cの電流値で定電流放電を施した際の容量をQとし、F=Q/(3.8−2.2)により算出された静電容量F(F)と、体積V(L)とを用いて、下記式:
E/V=F×(3.8−2.2)/2/3600/Vによりエネルギー密度を算出したところ36.1Wh/Lであった。
【0222】
[Ra・Fの算出]
完成した非水系リチウム型蓄電素子について、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電し、続いて3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分間行い、続いて、20Cの電流値で2.2Vまで定電流放電を行って、放電カーブ(時間−電圧)を得た。この放電カーブにおいて、放電時間2秒及び4秒の時点における電圧値から、直線近似にて外挿して得られる放電時間=0秒における電圧をEoとし、降下電圧ΔE=3.8−Eo、及びR=ΔE/(20C(電流値A))により常温内部抵抗Raを算出した。
静電容量Fと25℃における内部抵抗Raとの積Ra・Fは2.78ΩFであった。
【0223】
[Rb/Raの算出]
完成した非水系リチウム型蓄電素子について、−10℃に設定した恒温槽内に2時間放置した後、恒温槽を−10℃に保ったまま富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、1.0Bの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電し、続いて3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で2時間行った。続いて、50Bの電流値で2.2Vまで定電流放電を行って、放電カーブ(時間−電圧)を得て、前記内部抵抗算出方法により低温内部抵抗Rbを算出した。
−10℃における内部抵抗Rbと25℃における内部抵抗Raの比Rb/Raは6.3であった。
【0224】
[高温保存試験後のガス発生量]
完成した非水系リチウム型蓄電素子について、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、100Cの電流値で4.0Vに到達するまで定電流充電し、続いて4.0Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で10分間行った。その後、セルを60℃環境下に保存し、2週間毎に60℃環境下から取り出し、同様の充電工程にてセル電圧を4.0Vに充電した後、再びセルを60℃環境下で保存した。この工程を2か月間繰り返し実施し、保存試験開始前のセル体積Va、保存試験2か月後のセルの体積Vbをアルキメデス法によって測定した。Vb−Vaにより求めたガス発生量は8.3×10−3cc/Fであった。
【0225】
[Rc/Raの算出]
前記高温保存試験後の蓄電素子に対して、前記[Ra・Fの算出]と同様にして高温保存試験後の常温内部抵抗Rcを算出した。
このRc(Ω)を、前記[Ra・Fの算出]で求めた高温保存試験前の内部抵抗Ra(Ω)で除して算出した比Rc/Raは2.75であった。
【0226】
[釘刺し試験]
完成した非水系リチウム型蓄電素子について、25℃に設定した恒温槽内で、100Cの電流値で4.0Vに到達するまで定電流充電し、続いて4.0Vの定電圧を印加する定電圧充電を10分間行った。
前記の工程で電圧を4.0Vに調整した蓄電素子について、以下の条件で釘刺し試験を行った。
試験機:島津オートグラフAG−X
釘:φ2.5mm−SUS304
環境温度(T2):25℃
評価方法:蓄電素子を水平に固定し、蓄電素子の正極端子、負極端子、及び外装体中央表面に熱電対を取り付けた後、蓄電素子中央部に、鉛直方向に沿って、20mm/secの速度で貫通するまで釘を刺した。試験時の各部位の発熱温度、及び蓄電素子の挙動を観察した。
試験時に最も到達温度の高かった箇所は負極端子であり、最高到達温度(T1)は103℃であった。前記算出式(ΔT=T1−T2)に従い、ΔT=78℃を求めた。
【0227】
[リチウム化合物、及び活物質の粒径]
完成した非水系リチウム型蓄電素子のうちの1つを2.9Vに調整した後、23℃の部屋に設置された露点−90℃以下、酸素濃度1ppm以下で管理されているArボックス内で解体して正極を取り出した。得られた正極から1cm×1cmの小片を切り出し、日本電子製のSM−09020CPを用い、アルゴンガスを使用し、加速電圧4kV、ビーム径500μmの条件にて正極試料1の面方向に垂直な断面を作製した。上述の方法により正極断面SEM及びEDXを測定した。
【0228】
上記測定した正極断面SEM及びEDXから得られた画像を、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて画像解析することでリチウム化合物の平均粒子径X及び正極活物質の平均粒子径Yを算出した。得られた酸素マッピングに対し、明るさの平均値を基準に二値化した明部を面積50%以上含む粒子をリチウム化合物の粒子X、及びそれ以外の粒子を正極活物質の粒子Yとし、断面SEM画像中に観察されるX、Yそれぞれの粒子全てについて、断面積Sを求め、下記数式(1)にて算出される粒子径dを求めた。
【0229】
【数3】
{式中、円周率をπとする。}
得られた粒子径dを用いて、下記数式(2)において体積平均粒子径X及びYを求めた。
【0230】
【数4】
正極断面の視野を変えて合計5ヶ所測定し、それぞれのX及びYの平均値である平均粒子径Xは1.51μm、Yは4.32μmであった。
【0231】
<正極活物質層の解析>
完成した非水系リチウム型蓄電素子を2.9Vに調整した後、23℃の部屋に設置された露点−90℃以下、酸素濃度1ppm以下で管理されているArボックス内で解体して正極を取り出した。取り出した正極を、ジメチルカーボネート(DMC)で浸漬洗浄した後、大気非暴露を維持した状態下でサイドボックス中で真空乾燥させた。
乾燥後の正極を、大気非暴露を維持した状態でサイドボックスからArボックスに移し、重水で浸漬抽出して、正極抽出液を得た。抽出液の解析は、(1)IC及び(2)H−NMRにて行い、求めた正極抽出液中の各化合物の濃度A(mol/ml)、抽出に用いた重水の体積B(ml)、及び抽出に用いた正極活物質層の質量C(g)から、下記数式4:
単位質量当たりの存在量(mol/g)=A×B÷C...(数式4)
により、正極活物質層に堆積する各化合物の、正極活物質層の単位質量当たりの存在量(mol/g)を求めた。
なお、抽出に用いた正極活物質層の質量は、以下の方法によって求めた。
重水抽出後に残った正極の集電体から正極活物質層を剥がし取り、該剥がし取った正極活物質層を、水洗した後、真空乾燥した。真空乾燥して得た正極活物質層を、NMP又はDMFにより洗浄した。続いて、得られた正極活物質層を再度真空乾燥した後、秤量することにより、抽出に用いた正極活物質層の質量を調べた。
【0232】
以下、抽出液の解析方法を示す。
(1)正極抽出液のIC測定(ネガティブモード)により、LiCOLi由来のCO2−が検出され、絶対検量線法により、CO2−の濃度Aを求めた。濃度Aを用いて数式1に従い、単位質量あたりのLiCOLiの存在量(mol/g)を求め、正極中に含まれるLiCOLiの量を算出した。
【0233】
(2)上記(1)と同じ正極抽出液を3mmφNMRチューブ(株式会社シゲミ製PN−002)に入れ、1,2,4,5−テトラフルオロベンゼン入りの重水素化クロロホルムの入った5mmφNMRチューブ(日本精密科学株式会社製N−5)に挿し込み、二重管法にて、H NMR測定を行った。1,2,4,5−テトラフルオロベンゼンのシグナル7.1ppm(m,2H)で規格化して、観測された各化合物の積分値を求めた。
また、濃度既知のジメチルスルホキシドの入った重水素化クロロホルムを3mmφNMRチューブ(株式会社シゲミ製PN−002)に入れ、上記と同一の1,2,4,5−テトラフルオロベンゼン入りの重水素化クロロホルムの入った5mmφNMRチューブ(日本精密科学株式会社製N−5)に挿し込み、二重管法にて、H NMR測定を行った。上記と同様に、1,2,4,5−テトラフルオロベンゼンのシグナル7.1ppm(m,2H)で規格化して、ジメチルスルホキシドのシグナル2.6ppm(s,6H)の積分値を求めた。用いたジメチルスルホキシドの濃度と積分値の関係から、正極抽出液中の各化合物の濃度Aを求めた。
【0234】
H NMRスペクトルの帰属は、以下のとおりである。
[CHO―X、CO−X、及びXOCHCHOXについて]
OCHCHOXのCH:3.7ppm(s,4H)
CHOX:3.3ppm(s,3H)
CHCHOXのCH:1.2ppm(t,3H)
CHCHOXのCHO:3.7ppm(q,2H)上記のように、XOCHCHOXのCHのシグナル(3.7ppm)はCHCHOXのCHOのシグナル(3.7ppm)と重なってしまうため、CHCHOXのCHのシグナル(1.2ppm)から算出されるCHCHOXのCHO相当分を除いて、XOCHCHOX量を算出する。
上記化学式において、X及びXは、それぞれ、−(O)Li又は−(COO)Li(ここで、nは0又は1である)である。また、Xは、−(COO)Li又は−(COO)(ここで、nは0又は1であり、かつRは、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数1〜4のハロゲン化アルキル基である。)である。
【0235】
上記(1)の解析により、正極中に含まれる炭酸リチウムは5.8wt%であることが分かった。また、上記(2)の解析により求めた各化合物の抽出液中の濃度、及び抽出に用いた重水の体積、抽出に用いた正極活物質層質量に基づくと、上記の正極活物質層には、CHO−Xが69.8×10−6mol/g、CO−Xが32.3×10−6mol/g、XOCHCHOXが131.3×10−4mol/g存在した。
【0236】
<負極活物質層の解析>
前記正極活物質層の解析と同様の方法で、負極活物質層の解析を行った。負極活物質層には、CHO−Xが6.3×10−6mol/g、CO−Xが5.1×10−6mol/g存在した。
【0237】
(実施例2〜28、及び比較例1〜18)
上記実施例1において、負極、正極前駆体活物質、正極前駆体活物質の平均粒径、リチウム化合物、リチウム化合物の平均粒径、正極前駆体の構成比、及び電解液の非水溶媒組成比をそれぞれ表1に記載のとおりに使用した他は、実施例1と同様にして非水系リチウム型蓄電素子を作製し、各種の評価を行った。
評価結果は表2及び表3に示した。
【0238】
【表1】
【0239】
【表2】
【0240】
【表3】
【0241】
<実施例29>
<蓄電素子の組立>
得られた両面負極Aおよび両面正極前駆体Aを10cm×10cm(100cm)にカットした。最上面と最下面は片面正極前駆体Aを用い、更に両面負極A21枚と両面正極前駆体A20枚とを用い、負極Aと正極前駆体Aとの間に、厚み15μmの微多孔膜セパレータを挟んで積層した。その後、負極と正極前駆体とに、それぞれ負極端子と正極端子を超音波溶接にて接続して電極積層体とした。この電極積層体を80℃、50Paで、60hr真空乾燥した。この電極積層体を、露点−45℃のドライ環境下にて、アルミラミネート包材からなる外装体内に挿入し、電極端子部およびボトム部の外装体3方を180℃、20sec、1.0MPaでヒートシールした。該外装体に非水系電解液を注入して該外装体を密閉することにより、非水系リチウム型蓄電素子を組立てた。
【0242】
<蓄電素子の注液、含浸、封止工程>
アルミラミネート包材の中に収納された電極積層体に、露点−40℃以下のドライエアー環境下にて、上記非水系電解液約80gを温度25℃の大気圧下で注入した。続いて、減圧チャンバーの中に前記非水系リチウム型蓄電素子を入れ、常圧から−87kPaまで減圧した後、大気圧に戻し、5分間静置した。その後、常圧から−87kPaまで減圧した後、大気圧に戻す工程を4回繰り返したのち、15分間静置した。さらに、常圧から−91kPaまで減圧した後、大気圧に戻した。同様に減圧し、大気圧に戻す工程を合計7回繰り返した。(それぞれ−95,96,97,81,97,97,97kPaまで減圧した)。以上の工程により、非水系電解液を電極積層体に含浸させた。
その後、非水系リチウム型蓄電素子を減圧シール機に入れ、−95kPaに減圧した状態で、180℃で10秒間、0.1MPaの圧力でシールすることによりアルミラミネート包材を封止した。
【0243】
<リチウムドープ工程>
得られた非水系リチウム型蓄電素子に対して、東洋システム社製の充放電装置(TOSCAT−3100U)を用いて、25℃環境下、電流値0.2Aで電圧4.7Vに到達するまで定電流充電を行った後、続けて4.7V定電圧充電を30時間継続する手法により初期充電を行い、負極にリチウムドープを行った。
【0244】
<エージング工程>
リチウムドープ後の非水系リチウム型蓄電素子を45℃環境下、0.7Aで電圧3.0Vに到達するまで定電流放電を行った後、1Aで4.2Vまで定電流充電を行うことにより電圧を4.2Vに調整した。続いて、非水系リチウム型蓄電素子を60℃の恒温槽に48時間保管した。
【0245】
蓄電素子組立、注液・含浸・封止工程、リチウムドープ工程、エージング工程を上記に記載する方法にした以外は実施例2と同様にして非水系リチウム型蓄電素子を作製し、各種の評価を行った。
評価結果は表5及び表6に示した。
【0246】
<実施例30>
【0247】
<リチウムドープ工程>
得られた非水系リチウム型蓄電素子に対して、東洋システム社製の充放電装置(TOSCAT−3100U)を用いて、25℃環境下、電流値0.2Aで電圧4.6Vに到達するまで定電流充電を行った後、続けて4.6V定電圧充電を30時間継続する手法により初期充電を行い、負極にリチウムドープを行った。
【0248】
<エージング工程>
リチウムドープ後の非水系リチウム型蓄電素子を45℃環境下、0.7Aで電圧3.0Vに到達するまで定電流放電を行った後、1Aで4.1Vまで定電流充電を行うことにより電圧を4.1Vに調整した。続いて、非水系リチウム型蓄電素子を60℃の恒温槽に48時間保管した。
【0249】
リチウムドープ工程、エージング工程を上記に記載する方法にした以外は実施例29と同様にして非水系リチウム型蓄電素子を作製し、各種の評価を行った。
評価結果は表5及び表6に示した。
【0250】
<実施例31>
【0251】
<リチウムドープ工程>
得られた非水系リチウム型蓄電素子に対して、東洋システム社製の充放電装置(TOSCAT−3100U)を用いて、25℃環境下、電流値0.2Aで電圧4.4Vに到達するまで定電流充電を行った後、続けて4.4V定電圧充電を30時間継続する手法により初期充電を行い、負極にリチウムドープを行った。
【0252】
<エージング工程>
リチウムドープ後の非水系リチウム型蓄電素子を45℃環境下、0.7Aで電圧3.0Vに到達するまで定電流放電を行った後、1Aで3.9Vまで定電流充電を行うことにより電圧を3.9Vに調整した。続いて、非水系リチウム型蓄電素子を60℃の恒温槽に48時間保管した。
【0253】
リチウムドープ工程、エージング工程を上記に記載する方法にした以外は実施例29と同様にして非水系リチウム型蓄電素子を作製し、各種の評価を行った。
評価結果は表5、表6に示した。
【0254】
<実施例32>
【0255】
<リチウムドープ工程>
得られた非水系リチウム型蓄電素子に対して、東洋システム社製の充放電装置(TOSCAT−3100U)を用いて、25℃環境下、電流値0.2Aで電圧4.3Vに到達するまで定電流充電を行った後、続けて4.3V定電圧充電を30時間継続する手法により初期充電を行い、負極にリチウムドープを行った。
【0256】
<エージング工程>
リチウムドープ後の非水系リチウム型蓄電素子を45℃環境下、0.7Aで電圧3.0Vに到達するまで定電流放電を行った後、1Aで3.8Vまで定電流充電を行うことにより電圧を3.8Vに調整した。続いて、非水系リチウム型蓄電素子を60℃の恒温槽に48時間保管した。
【0257】
リチウムドープ工程、エージング工程を上記に記載する方法にした以外は実施例29と同様にして非水系リチウム型蓄電素子を作製し、各種の評価を行った。
評価結果は表5、表6に示した。
【0258】
<比較例19>
【0259】
<リチウムドープ工程>
得られた非水系リチウム型蓄電素子に対して、東洋システム社製の充放電装置(TOSCAT−3100U)を用いて、25℃環境下、電流値0.2Aで電圧5.0Vに到達するまで定電流充電を行った後、続けて5.0V定電圧充電を30時間継続する手法により初期充電を行い、負極にリチウムドープを行った。
【0260】
<エージング工程>
リチウムドープ後の非水系リチウム型蓄電素子を45℃環境下、0.7Aで電圧3.0Vに到達するまで定電流放電を行った後、1Aで4.6Vまで定電流充電を行うことにより電圧を4.6Vに調整した。続いて、非水系リチウム型蓄電素子を60℃の恒温槽に48時間保管した。
【0261】
リチウムドープ工程、エージング工程を上記に記載する方法にした以外は実施例29と同様にして非水系リチウム型蓄電素子を作製し、各種の評価を行った。
評価結果は表5、表6に示した。
【0262】
<比較例20>
【0263】
<リチウムドープ工程>
得られた非水系リチウム型蓄電素子に対して、東洋システム社製の充放電装置(TOSCAT−3100U)を用いて、25℃環境下、電流値0.2Aで電圧4.1Vに到達するまで定電流充電を行った後、続けて4.1V定電圧充電を30時間継続する手法により初期充電を行い、負極にリチウムドープを行った。
【0264】
<エージング工程>
リチウムドープ後の非水系リチウム型蓄電素子を45℃環境下、0.7Aで電圧3.0Vに到達するまで定電流放電を行った後、1Aで3.5Vまで定電流充電を行うことにより電圧を3.5Vに調整した。続いて、非水系リチウム型蓄電素子を60℃の恒温槽に48時間保管した。
【0265】
リチウムドープ工程、エージング工程を上記に記載する方法にした以外は実施例29と同様にして非水系リチウム型蓄電素子を作製し、各種の評価を行った。
評価結果は表5、表6に示した。
【0266】
[比較例21]
<負極Cの製造>
前記負極Aの製造において、負極集電体を厚さ15μmの貫通孔を持つ銅箔とした以外は同様の方法で負極Cを製造した。その結果、負極Cの負極活物質層の膜厚は片面あたりの厚さは40μmであった。
【0267】
<負極Dの製造>
前記負極Bの製造において、負極集電体を厚さ15μmの貫通孔を持つ銅箔とした以外は同様の方法で負極Dを製造した。その結果、負極Dの負極活物質層の膜厚は片面あたりの厚さは25μmであった。
【0268】
<蓄電素子の組立>
両面負極Cおよびリチウム化合物を含まない両面正極前駆体を10cm×10cm(100cm)にカットした。この両面負極Cの片面に、複合多孔性材料Aの単位質量当たり760mAh/gに相当するリチウム金属箔を貼り付けた。最上面と最下面には、リチウム化合物を含まない片面正極前駆体を用い、更に前記リチウム貼り付け工程を経た両面負極C21枚と両面正極前駆体20枚とを用い、負極と正極前駆体との間に、厚み15μmの微多孔膜セパレータを挟んで積層した。その後、負極と正極前駆体とに、それぞれ負極端子と正極端子を超音波溶接にて接続して電極積層体とした。この電極積層体を80℃、50Paで、60hr真空乾燥した。この電極積層体を、露点−45℃のドライ環境下にて、ラミネートフィルムから成る外装体内に挿入し、電極端子部およびボトム部の外装体3方を180℃、20sec、1.0MPaでヒートシールした。非水系電解液を注入して該外装体を密閉することにより、非水系リチウム型蓄電素子を組立てた。
【0269】
<リチウムドープ工程>
得られた非水系リチウム型蓄電素子に対して、45℃に設定した恒温槽内で21時間放置することで、負極にリチウムドープを行った。
【0270】
<エージング工程>
リチウムドープ後の非水系リチウム型蓄電素子をセル電圧3.0Vに調整した後、45℃に設定した恒温槽内で24時間保存した。続いて、アスカ電子製の充放電装置を用いて、充電電流10A、放電電流10Aとし、下限電圧2.0V、上限電圧4.0Vの間で定電流充電、定電流放電による充放電サイクルを2回繰り返した。
【0271】
蓄電素子組立、リチウムドープ工程、エージング工程を上記に記載する方法にした以外は実施例2と同様にして非水系リチウム型蓄電素子を作製し、各種の評価を行った。
評価結果は表5及び表6に示した。
【0272】
(比較例22〜24)
負極、正極前駆体の活物質、活物質粒径、及び正極前駆体の構成比、をそれぞれ表4に記載のとおりとした他は、比較例21と同様にして非水系リチウム型蓄電素子を作製し、各種の評価を行った。
評価結果は表5及び表6に示した。
【0273】
【表4】
【0274】
【表5】
【0275】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0276】
本発明の非水系リチウム蓄電素子は、例えば、自動車のハイブリット駆動システムの、瞬間電力ピークのアシスト用途等における蓄電素子として好適に利用できる。
本発明の非水系リチウム蓄電素子は、例えば、リチウムイオンキャパシタ又はリチウムイオン二次電池として適用したときに、本発明の効果が最大限に発揮されるため好ましい。