(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記混成領域は、前記複数種類の分割リング共振器の組合せからなる基本パターンを繰り返し配置して形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の偽造防止構造体。
所定方向を偏光方向とする所定周波数のテラヘルツ電磁波を照射したときに、前記混成領域における透過率が、前記複数種類の分割リング共振器が混在する比率に応じた値となることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の偽造防止構造体。
前記複数種類の分割リング共振器には、前記開放部の方向が互いに90度異なる少なくとも2種類の分割リング共振器が含まれることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の偽造防止構造体。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係る偽造防止構造体及び偽造防止媒体について詳細を説明する。本発明は、偽造防止構造体を透過するテラヘルツ電磁波の透過率が所定の値を示すように、複数種類の分割リング共振器(SRR:Split Ring Resonator。以下「SRR」と記載する)を利用する点に1つの特徴を有している。
【0022】
SRRは、開放部(分割:Split)を有するリング形状を呈する。例えば、円環形状に開放部を設けた略C字形状とする他、四角環形状に開放部を設けた形状とすることもできる。例えば、絶縁性材料のシート上に、導電性材料によって、開放部を有するリング形状のSRRを形成する。SRRにテラヘルツ電磁波を照射した場合、テラヘルツ電磁波の周波数及び偏光方向に応じて、テラヘルツ電磁波の透過率が変化する。具体的には、SRRと共振するテラヘルツ電磁波の透過率は、共振しないテラヘルツ電磁波の透過率に比べて低い値を示す。
【0023】
また、例えば、導電性材料のシートを、開放部を有するリング形状にくり抜いて、SRRを形成する。導電性材料をくり抜いて形成するSRRは、特に、相補的分割リング共振器(CSRR:Complementary Split Ring Resonator)と呼ばれる。この場合も、SRRにテラヘルツ電磁波を照射すると、テラヘルツ電磁波の周波数及び偏光方向に応じて、シートを透過するテラヘルツ電磁波の透過率が変化する。具体的には、SRRと共振するテラヘルツ電磁波の透過率は、共振しないテラヘルツ電磁波の透過率に比べて高い値を示す。
【0024】
多数のSRRを配置した領域を形成することにより、該領域における特定周波数のテラヘルツ電磁波の透過率を制御することができる。SRRの配置は、多数のSRRを縦方向及び横方向に等間隔で並べたマトリクス状の配置の他、市松模様状の配置やハニカム状の配置とすることができる。
【0025】
所定の透過率を示す領域を形成する方法として、絶縁性材料のシート上に導電性材料でリング形状のSRRを形成する方法と、導電性材料のシートをリング形状にくり抜いてSRRを形成する方法がある。いずれの方法を用いる場合も、テラヘルツ電磁波の透過率が所定の値を示す領域を形成することができるが、本実施形態では、導電性材料をくり抜いてSRRを形成する場合を例に説明する。
【0026】
本実施形態に示す偽造防止構造体は、所定方向を偏光方向とする所定周波数のテラヘルツ電磁波を照射して透過率を計測した際に、透過率が所定の数値を示す導電性層を含んで構成される。導電性層には、開放部の方向が90度単位で異なる少なくとも2種類のSRRが配列されている。透過率を計測するテラヘルツ電磁波の偏光方向、SRRの開放部の方向等の対応が分かるように、図面には座標軸を示している。なお、所定方向とは、透過率を計測する際に照射するテラヘルツ電磁波の偏光方向として選択した方向である。また、所定周波数とは、SRRによってテラヘルツ電磁波の共振が起こる周波数(共振周波数)であって、透過率を計測する際に照射するテラヘルツ電磁波の周波数として選択した周波数である。SRRによる透過率の違いを検出するためには、この所定周波数は、所定方向に対してSRRの開放部の方向を変化させたとき、透過率が大きく変化する周波数が望ましい。具体的には、所定周波数は、透過率がピークとなる周波数を中心に上下に幅を持たせた周波数帯とすることが望ましい。ただし、偽造防止構造体毎にピークとなる周波数が安定していれば、単一周波数とすることもできる。また、検出される透過率の変動が許容できるなら、ピークとなる周波数を外して所定周波数を設定してもよい。
【0027】
図1は、偽造防止構造体10の一態様を示す図である。
図1の左上には偽造防止構造体10の平面図を示し、右上には偽造防止構造体10の一部の領域を拡大した部分拡大図を示している。また、下側には、偽造防止構造体10に含まれる複数種類のSRR20〜23を示している。偽造防止構造体10は、紙幣(銀行券)、株券、債券、小切手、商品券等のシート状の有価媒体である偽造防止媒体(以下単に「媒体」と記載する)に設けて、媒体の偽造を防止するために利用される。
【0028】
図1は、開放部の方向が異なる複数種類のSRR20〜23が所定比率で混在するように、複数種類のSRR20〜23をマトリクス状に多数配列した偽造防止構造体10の例を示している。このような構造とすることで、偽造防止構造体10を透過する特定周波数のテラヘルツ電磁波の透過率を、所定の数値とすることができる。
【0029】
偽造防止構造体10は、複数種類のSRR20〜23が等間隔でマトリクス状に形成された導電性層16を有する。SRR20〜23は、リングの一部を切り欠いて開放部20a〜23aとした略C字形状を有する。SRR20は、
図1に示すように、リングの中心から見てX軸正方向に開放部20aを有し、SRR21はリングの中心から見てY軸正方向に開放部21aを有する。SRR22はリングの中心から見てX軸負方向に開放部22aを有し、SRR23はリングの中心から見てY軸負方向に開放部23aを有する。SRR20を時計回りに90度回転した形状がSRR21と一致し、SRR21を時計回りに90度回転した形状がSRR22と一致し、SRR22を時計回りに90度回転した形状がSRR23と一致する。すなわち、複数種類のSRR20〜23は、開放部の方向が90度単位で異なっている。本実施形態で言う開放部の方向とは、開放部を有するリング形状のSRRにおいてリングの中心から見た方向である。
【0030】
図1右上の部分拡大図に示すように、4種類のSRR20〜23は、所定パターンで等間隔に配列されている。具体的には、SRR20と、このSRR20の右側(Y軸正方向側)に配置されたSRR21及び下側(X軸負方向側)に配置されたSRR23と、このSRR23の右側に配置されたSRR22とによって、4つのSRR20〜23から成る2行2列の基本パターンが形成されている。この基本パターンの繰り返しとなるように、4種類のSRR20〜23が等間隔で配置されている。4種類のSRR20〜23によって形成される基本パターンの詳細は後述する。
【0031】
SRR20〜23は、導電性材料から成る導電性層16を、略C字形状にくり抜いて形成されている。4種類のSRR20〜23は、開放部20a〜23aが設けられた方向(リング上の位置)が異なる以外は同一構造を有する。SRR20を回転させることでSRR21〜23を実現することができるため、SRR20を例に、具体的な構造を説明する。
【0032】
図2は、SRR20の形状を説明するための図である。
図2の上側にはSRR20の平面図を示し、下側には、平面図に示すAAの断面図を示している。偽造防止構造体10は、絶縁性材料から成るベース部材17と、ベース部材17の表面に形成された薄膜状の導電性層16とを含む。ベース部材17は、紙や樹脂等、テラヘルツ電磁波が透過可能な絶縁性材料から成る。一方、導電性層16は、Al、Fe、Au、Cu、Ag、Mg、Zn、Sn等、テラヘルツ電磁波を遮断する導電性材料から成る。
【0033】
SRR20は、ベース部材17上に形成された導電性層16から、略C字形状の領域を取り除いて形成される。具体的には、開放部20aだけを残して、径方向に所定幅を有するリング状に導電性層16をくり抜いて、SRR20が形成される。この結果、略C字形状のリング部分の領域は溝状になって、溝の底面には、ベース部材17の表面が露出する。一方、開放部20aを含む、リング部分以外の領域は、ベース部材17の表面が導電性層16によって覆われたままとなる。略C字形状の溝を形成する際に開放部21a〜23aとして残す領域を変更することにより、SRR21〜23を形成することができる。導電性層にSRRを形成する加工方法やSRRの機能等は、特開2016−498号公報等に開示されているため詳細は省略する。
【0034】
シート状の偽造防止構造体10は、例えば、縦横が20mm程度の大きさとなっている。
図2上側に示すSRR20の内径dは数百μm、開放部20aの幅gは数十μm程度である。
図2下側に示すSRR20の径方向の幅Wは数十μm程度である。SRR21〜23もSRR20と同一サイズで形成される。偽造防止構造体10のSRR20〜23は、等間隔でマトリクス状に連続配置されている。上下左右に隣接するSRR20〜23の間隔は数十μm程度である。例えば、10mmの距離に数十個のSRR20〜23が等間隔で配置される。SRR20〜23の形状及び配置は、所定周波数のテラヘルツ電磁波が照射された際に共振を生じ、テラヘルツ電磁波が所定の透過率で透過するように決定される。テラヘルツ電磁波の周波数は、例えば0.1THz〜1THzの間に設定される。導電性層16に照射されるテラヘルツ電磁波の照射範囲の大きさは、照射対象のSRR20〜23に応じて決定され、半値幅で直径1mm〜5mm程度である。
【0035】
図2には、偽造防止構造体10の最小構成を示している。テラヘルツ電磁波に対する導電性層16の特性を妨げなければ、導電性層16の上やベース部材17の下に、別の層を設けてもよいし、導電性層16とベース部材17との間に別の層を設けてもよい。
【0036】
薄膜状の偽造防止構造体10は、偽造防止の対象とする商品券等の媒体内部に埋め込んで使用することもできるし、媒体上に貼り付けて使用することもできる。このとき、偽造防止構造体10として、導電性層16及びベース部材17の両方を、新たに設ける態様に限定されず、商品券等の媒体をベース部材17として、媒体に導電性層16を直接形成する態様であってもよい。
【0037】
図3は、SRR20〜23で形成されるパターンの例を示す図である。
図3(a)〜(c)の左側には基本単位となるパターンを示し、右側にはこの基本パターンをマトリクス状に繰り返し配置して形成した偽造防止構造体10の一部の領域を示している。各パターンは、複数種類のSRR20〜23が一定の比率で混在する混成領域となっている。
【0038】
図3(a)に示す第1パターン31は、左上のSRR20の右側及び下側にSRR22を配置して、下側のSRR22の右側にSRR20を配置した2行2列のパターンである。第1パターン31は、2種類のSRR20、22が一定の比率で混在する混成領域である。第1パターン31は、X軸方向に開放部20a、22aを有するSRR20、22のみによって構成されている。
【0039】
X軸方向を偏光方向とする所定周波数 (1次の共振周波数)のテラヘルツ電磁波を照射した場合、偏光方向であるX軸方向に開放部20a、22aを有するSRR20、22の透過率は最大となる。このため、第1パターン31の偽造防止構造体10に、テラヘルツ電磁波を照射した際の透過率は、X軸方向を偏光方向とする場合に最大値を示す。
【0040】
ここで、共振周波数の次数について説明する。
図4は、SRRが配置された領域にテラヘルツ電磁波を照射して得られる透過率の周波数特性の例を示す図である。テラヘルツ電磁波を照射する照射範囲よりも十分広い範囲に、
図3に示すように開放部を有する多数のSRRが等間隔で配置されている場合に、
図4に示す周波数特性が得られる。
【0041】
照射するテラヘルツ電磁波の偏光方向と、照射領域に形成されたSRRの開放部の方向とが、同一である場合、すなわち平行である場合に、
図4に実線で示す周波数特性が得られる。一方、照射するテラヘルツ電磁波の偏光方向と、照射領域に形成されたSRRの開放部の方向とが、垂直である場合に、
図4に破線で示す周波数特性が得られる。具体的には、例えばSRRの開放部の方向がX軸方向である場合に、テラヘルツ電磁波の偏光方向が、X軸方向であれば実線で示す周波数特性が得られ、Y軸方向であれば破線で示す周波数特性が得られる。
【0042】
SRRの開放部の方向と、テラヘルツ電磁波の偏光方向とが同一方向である場合、
図4に実線で示すように、明確な2つのピークP1、P2が観察される。一方、SRRの開放部の方向と、テラヘルツ電磁波の偏光方向とが垂直である場合、
図4に破線で示すように、明確な1つのピークV1が観察される。各ピークが得られる周波数は、小さい方から順にP1、V1、P2となっている。
【0043】
上述の通り、照射するテラヘルツ電磁波の周波数(所定周波数)は、照射するテラヘルツ電磁波の偏光方向(所定方向)に対してSRRの開放部の方向を変化させたときに、透過率が大きく変化する共振周波数であることが望ましい。各ピークP1、V1、P2におけるX偏光に対する透過率(実線)とY偏光に対する透過率(破線)との比に着目すると、比が大きいピークはP1、V1である。所定の偏光方向のテラヘルツ電磁波をSRRに照射した際の透過率の違いを比較するにはピークP1とピークV1を採用することが好ましい。よって、本実施形態では、ピークP1の周波数を1次の共振周波数とし、ピークV1の周波数を後述する2次の共振周波数として説明する。なお、上述の通り、1次の共振周波数はピークP1の周波数と周辺を含む周波数帯とし、2次の共振周波数はピークV1の周波数と周辺を含む周波数帯とすることもできる。
【0044】
図3(b)に示す第2パターン32は、左上のSRR20の右側にSRR21、下側にSRR22を配置して、下側のSRR22の右側にSRR20を配置した2行2列のパターンである。第1パターン31の右上のSRR22をSRR21に置き換えたパターンが第2パターン32である。第2パターン32は、3種類のSRR20〜22が一定の比率で混在する混成領域である。第2パターン32は、X軸方向に開放部20a、22aを有する3つのSRR20、22と、Y軸方向に開放部21aを有する1つのSRR21とによって構成されている。開放部20a、22aの方向がX軸方向と平行なSRR20、22の個数と、開放部21aの方向がX軸方向と垂直なSRR21の個数との比率は3:1である。
図3(b)右側に示すように第2パターン32でSRRを連続配置した領域から、2行2列のSRRを選択すると、開放部の方向がX軸方向と平行なSRRの個数と、開放部の方向がX軸方向と垂直なSRRの個数との比率が3:1になる。すなわち、第2パターン32と同形状の任意の領域を選択した際に、SRR20、22の個数とSRR21の個数が常に同じ比率を示す。
【0045】
X軸方向を偏光方向とする所定周波数(1次の共振周波数)のテラヘルツ電磁波を照射した場合、開放部20a、22aの方向が偏光方向(X軸方向)と平行なSRR20、22の透過率は最大となる。一方、開放部21a、23aの方向が偏光方向(X軸方向)と垂直なSRR21、23の透過率は最小となる。
【0046】
開放部の方向が異なる複数種類のSRRを含む偽造防止構造体10に、テラヘルツ電磁波を照射した際の透過率は、全てのSRRがテラヘルツ電磁波の偏光方向と平行な方向に開放部を有する場合の透過率Txと、全てのSRRがテラヘルツ電磁波の偏光方向と垂直な方向に開放部を有する場合の透過率Tyとの間の値を示す。
【0047】
第2パターン32の偽造防止構造体10では、開放部の方向が偏光方向(X軸方向)と平行なSRRの個数と、開放部の方向が偏光方向(X軸方向)と垂直なSRRの個数との比率が3:1である。このため、第2パターン32の偽造防止構造体10に、X軸方向を偏光方向とする所定周波数(1次の共振周波数)のテラヘルツ電磁波を照射した際の透過率の値は、(3×Tx+Ty)/4に近い値となる。なお、上述したテラヘルツ電磁波の照射範囲の大きさは、少なくとも2行2列のSRRが占める面積よりも大きな面積に対して照射されるように決定する。
【0048】
図3(c)に示す第3パターン33は、左上のSRR20の右側にSRR21、下側にSRR23を配置して、下側のSRR23の右側にSRR20を配置した2行2列のパターンである。第2パターン32の左下のSRR22をSRR23に置き換えて、右下のSRR20をSRR22に置き換えたパターンが第3パターンである。第3パターン33は、4種類のSRR20〜23が一定の比率で混在する混成領域である。第3パターン33は、X軸方向に開放部20a、22aを有する2つのSRR20、22と、Y軸方向に開放部21a、23aを有する2つのSRR21、23とによって構成されている。開放部20a、22aの方向がX軸方向と平行なSRR20、22の個数と、開放部21aの方向がX軸方向と垂直なSRR21、23の個数との比率は1:1である。
図3(c)右側に示すように第3パターン33でSRRを連続配置した領域から、2行2列のSRRを選択すると、開放部の方向がX軸方向と平行なSRRの個数と、開放部の方向がX軸方向と垂直なSRRの個数との比率が1:1になる。すなわち、第3パターン33と同形状の任意の領域を選択した際に、SRR20、22の個数とSRR21、23の個数が常に同じ比率を示す。
図1に示した偽造防止構造体10は、
図3(c)に示す第3パターン33に対応している。
【0049】
第3パターン33の偽造防止構造体10に、X軸方向を偏光方向とする所定周波数(1次の共振周波数)のテラヘルツ電磁波を照射した際の透過率は、全てのSRRが偏光方向(X軸方向)と平行な方向に開放部を有する場合の透過率Txと、全てのSRRが偏光方向(X軸方向)と垂直な方向に開放部を有する場合の透過率Tyとの間の値を示す。第3パターン33では、開放部が偏光方向(X軸方向)と平行なSRRの個数と、開放部が偏光方向(X軸方向)と垂直なSRRの個数との比率が1:1である。このため、透過率の値は、(Tx+Ty)/2に近い値となる。なお、上述したテラヘルツ電磁波の照射範囲の大きさは、少なくとも2行2列のSRRが占める面積よりも大きな面積に対して照射されるように決定する。
【0050】
4種類のSRR20〜23によって構成するパターンが、2行2列のSRRで形成されるパターンに限定されるものではない。
図5は、SRR20〜23で形成される他のパターンの例を示す図である。
図5の左側には基本単位となる第4パターン34を示し、右側には第4パターン34をマトリクス状に繰り返し配置して形成した偽造防止構造体10の一部の領域を示している。
【0051】
図5に示す第4パターン34は、9個のSRR20〜23を3行3列に配置したパターンである。中心にSRR22が配置され、このSRR22と対角方向に隣接する左上及び左下にSRR20が配置され、右上及び右下にはSRR22が配置されている。中心のSRR22の左側及び右側にはSRR23が配置され、上側及び下側にはSRR21が配置されている。第4パターン34は、4種類のSRR20〜23が一定の比率で混在する混成領域である。第4パターン34は、X軸方向に開放部20a、22aを有する5つのSRR20、22と、Y軸方向に開放部21a、23aを有する4つのSRR21、23とによって構成されている。開放部20a、22aの方向がX軸方向と平行なSRR20、22の個数と、開放部21aの方向がX軸方向と垂直なSRR21、23の個数との比率は5:4である。
図5右側に示すように第4パターン34でSRRを連続配置した領域から、3行3列のSRRを選択すると、開放部の方向がX軸方向と平行なSRRの個数と、開放部の方向がX軸方向と垂直なSRRの個数との比率が5:4になる。すなわち、第4パターン34と同形状の任意の領域を選択した際に、SRR20、22の個数とSRR21、23の個数が常に同じ比率を示す。
【0052】
第4パターン34の偽造防止構造体10に、X軸方向を偏光方向とする所定周波数(1次の共振周波数)のテラヘルツ電磁波を照射した際の透過率は、全てのSRRが偏光方向(X軸方向)と平行な方向に開放部を有する場合の透過率Txと、全てのSRRが偏光方向(X軸方向)と垂直な方向に開放部を有する場合の透過率Tyとの間の値を示す。第4パターン34では、開放部が偏光方向(X軸方向)と平行なSRRの個数と、開放部が偏光方向(X軸方向)と垂直なSRRの個数との比率が、5:4である。このため、透過率の値は、(5×Tx+4×Ty)/9に近い値となる。なお、上述したテラヘルツ電磁波の照射範囲の大きさは、少なくとも3行3列のSRRが占める面積よりも大きな面積に対して照射されるように決定する。
【0053】
このように、X軸方向と平行な方向又は垂直な方向に開放部20a〜23aを有する4種類のSRR20〜23の中からSRRを選択して、基本パターンを構成する。選択するSRRの種類、個数等を変更することにより、テラヘルツ電磁波の透過率を異なる値とすることができる。これを利用して、第1パターン31〜第4パターン34は、それぞれが異なる透過率を示すように設定されている。また、SRR20〜23を利用して設定した基本パターンをマトリクス状に連続配置して偽造防止構造体10とすることで、偽造防止構造体10が傾いた際に生ずる透過率の変動を抑制することができる。
【0054】
図6は、偽造防止構造体10の透過率の例を説明するための図である。
図6下側に示す周波数特性は、第1パターン31〜第4パターン34の偽造防止構造体10に、X軸方向を偏光方向とするテラヘルツ電磁波を照射した際に得られる透過率の変化を模式的に示したものである。横軸が、照射するテラヘルツ電磁波の周波数を示し、縦軸が透過率の値を示している。
図6上側に示すように、偽造防止構造体10が傾いた際の角度をαとする。偽造防止構造体10の傾きがない状態では(α=0度)、
図6下側に破線で示す透過率の周波数特性が得られる。一方、偽造防止構造体10が15度傾いた状態では(α=15度)、実線で示す透過率の周波数特性が得られる。
図6に示すrが、偽造防止構造体10が傾いた場合に生ずる、1次の共振周波数f1(THz)の透過率の変動幅を示している。偽造防止構造体10が傾いた場合でも、透過率の変動幅rは非常に小さく、透過率の絶対値で数%以下となる。
【0055】
具体的には、偽造防止構造体10の傾きがない状態で(α=0度)、X軸方向を偏光方向とする1次の共振周波数f1(THz)のテラヘルツ電磁波を偽造防止構造体10に照射した場合、第1パターン31の偽造防止構造体10における透過率は約40%である。また、第2パターン32の偽造防止構造体10における透過率は約35%、第3パターン33の偽造防止構造体10における透過率は約30%、第4パターン34の偽造防止構造体10における透過率は約30%である。テラヘルツ電磁波の偏光方向と全てのSRRの開放部との間の角度を60度とする従来の偽造防止構造体の場合、同様にテラヘルツ電磁波を照射すると、透過率は約30%である。
【0056】
偽造防止構造体10を−15〜15度の範囲で傾けた場合(−15度≦α≦15度)、同様にテラヘルツ電磁波を照射すると、第1パターン31の偽造防止構造体10では透過率が約40%から約38%の間で変動し、透過率の変動幅は約2%となる。同様に、第2パターン32の偽造防止構造体10では透過率の変動幅は約1%、第3パターン33の偽造防止構造体10では透過率の変動幅は略0%、第4パターン34の偽造防止構造体10では透過率の変動幅は約0.3%となる。上述した角度60度の従来の偽造防止構造体を−15〜15度の範囲で傾けた場合は角度が45〜75度の範囲で変化し、透過率の変動幅は約20%となる。
【0057】
偽造防止構造体10の傾きがない場合は、第3パターン33の偽造防止構造体10、第4パターン34の偽造防止構造体10、及び従来の偽造防止構造体の透過率は、約30%で略同じである。一方、偽造防止構造体を−15〜15度の範囲で傾けた場合、従来の偽造防止構造体の透過率の変動幅が約20%であるのに対し、第3パターン33の偽造防止構造体10及び第4パターン34の偽造防止構造体10の透過率の変動幅は1%未満に留まる。すなわち、本実施形態に係る偽造防止構造体10では、傾きに対する透過率の変動幅を従来に比べて抑制することができる。
【0058】
第1パターン31の偽造防止構造体10で透過率の変動幅が抑制されるのは、SRRの開放部の方向がテラヘルツ電磁波の偏光方向と平行である場合は、傾きに対する変動幅が小さくなるという性質によるものである。
【0059】
第2パターン32〜第4パターン34の偽造防止構造体10で透過率の変動幅が抑制されるのは、開放部の方向が90度単位で異なる複数種類のSRR20〜23を混在させていることによる。具体的には、例えば1次の共振周波数のテラヘルツ電磁波を照射する場合、開放部の方向がテラヘルツ電磁波の偏光方向と平行なSRRが傾くと透過率が低下する一方、開放部の方向が偏光方向と垂直なSRRが傾くと透過率が上昇する。このため、透過率の低下と上昇とが相殺され、透過率の変動幅が抑制される。
【0060】
テラヘルツ電磁波の偏光方向に対して偽造防止構造体10が傾いたときに透過率が増加するSRRと減少するSRRが混在すれば、傾きに対する透過率の変動幅を抑制する効果を得ることができる。よって、偽造防止構造体10を構成するSRRの種類が、開放部の方向が90度異なるSRRに限定されるものではない。ただし、開放部の方向が90度異なるSRRを混在させれば、テラヘルツ電磁波の偏光方向によらず、偽造防止構造体10が傾いた際に透過率が増加するSRRと減少するSRRとが混在することになる。このため、テラヘルツ電磁波の偏光方向によらず、偽造防止構造体10の傾きに対する透過率の変動幅を抑制できるという効果を奏する。
【0061】
図3及び
図5では、4種類のSRR20〜23の中からSRRを選択して構成した1つのパターンを、マトリクス状に連続配置して偽造防止構造体10とする例を示したが、複数種類のパターンを組み合わせて偽造防止構造体とすることもできる。
【0062】
図7は、複数種類のパターンを組み合わせた偽造防止構造体50の例を示す図である。第1領域11(11a、11b)、第2領域12、及び第3領域13(13a、13b)から成る偽造防止構造体50の平面図を左側に示し、これら3種類の領域11〜13を含む部分領域15の拡大図を右側に示している。第1領域11は略L字形状を有し、第3領域13は第1領域11を180度回転した形状を有している。そして、第1領域11と第3領域13によって囲まれた領域が第2領域12となっている。シート状の偽造防止構造体50は、例えば、縦横が20mmの正方形形状を有し、偽造防止構造体50の中央に設けられた第2領域12は縦横が10mmの正方形形状を有する。
【0063】
図7右側の部分拡大図に示すように、第1領域11は、
図3(a)に示す第1パターン31をマトリクス状に連続配置した領域である。第3領域13は、
図3(c)に示す第3パターン33をマトリクス状に連続配置した領域である。
【0064】
第2領域12は、第1パターン31を反時計回りに90度回転した第5パターン35で構成されている。
図8は、第5パターンの構成を示す図である。
図8の左側には基本単位となる第5パターン35を示し、右側には第5パターン35をマトリクス状に繰り返し配置して形成した第2領域12の一部の領域を示している。第5パターン35は、左上のSRR21の右側及び下側にそれぞれSRR23を配置して、下側のSRR23の右側にSRR21を配置した2行2列のパターンである。第5パターン35は、Y軸方向に開放部21a、23aを有するSRR21、23のみによって構成されている。
【0065】
図9は、
図7に示す偽造防止構造体50を設けた媒体100で観察される、テラヘルツ電磁波の透過率の変化を説明するための図である。
図9の上段には、偽造防止構造体50を設けた媒体100の平面図を示している。正方形形状の偽造防止構造体50は、各辺が、矩形形状の媒体100の対応する各辺と平行になるように配置されている。
図9の中段には、テラヘルツ電磁波による偽造防止構造体50の走査位置及び走査方向を矢印200で示している。
図9の下段には、この走査位置で得られる、テラヘルツ電磁波の透過率の波形を示している。この透過率波形は、偽造防止構造体50の1次の共振周波数におけるテラヘルツ電磁波の透過率の変化を模式的に示したものである。
【0066】
媒体100、すなわち偽造防止構造体50が、傾いていない状態で、偽造防止構造体50のX軸方向略中央部を、X軸方向を偏光方向とする所定周波数のテラヘルツ電磁波によって矢印200で示す方向に走査する。第1パターン31から成る第1領域11の透過率、第5パターン35から成る第2領域12の透過率、第3パターン33から成る第3領域13の透過率は、各パターンに応じた異なる値を示す。
【0067】
例えば、1次の共振周波数では、第1領域11の透過率は高い値(約40%)を示し、第2領域12の透過率は非常に低い値(約2%)を示す。第3領域13の透過率は、第1領域11の透過率と第2領域12の透過率との間の値(約20%)を示す。このため、
図9下段に示すように、右側の第1領域11で、略一定の高い透過率を示す波形71が得られた後、中央の第2領域12に入ると透過率が低下する。第2領域12で、略一定の透過率を示す波形72が得られた後、左側の第3領域13に入ると透過率が再び上昇するが、波形71よりも低い略一定の透過率を示す波形73が得られる。このように、所定のテラヘルツ電磁波を照射した際に異なる透過率を示す複数領域によって偽造防止構造体50を構成すれば、偽造防止構造体50を走査した際に透過率が変化する特徴的な波形を得ることができる。そして、得られた透過率波形の特徴に基づいて、媒体100の真贋を判別することができる。
【0068】
偽造防止構造体50が15度傾いた場合でも、第1パターン31から成る第1領域11の透過率の変動幅及び第2領域12の透過率の変動幅はいずれも2%程度に留まり、第3パターン33から成る第3領域13の透過率はほとんど変動しない。このため、偽造防止構造体50が傾いた場合でも、
図9下段に示すように、波形71から波形72へ透過率が低下し、波形72から波形73へ透過率が上昇する階段状の波形が得られる。また、波形71、波形72及び波形73の大小関係も変わらない。このため、透過率を測定する際に、媒体100、すなわち偽造防止構造体50が、傾いた状態で走査された場合も、透過率が3段階に変化する特徴的な波形を得ることができる。そして、得られた透過率波形の特徴に基づいて、媒体100の真贋を判別することができる。
【0069】
ここまでは、主に、X軸方向を偏光方向とする1次の共振周波数(
図4のP1)のテラヘルツ電磁波を偽造防止構造体10、50に照射する場合を例に説明したが、2次の共振周波数(
図4のV1)では異なる透過特性を示す。
図10は、2次の共振周波数で得られる透過率の変化を説明するための図である。
図10の上段には、偽造防止構造体50を設けた
図9と同じ媒体100の平面図を示し、中段には、テラヘルツ電磁波による偽造防止構造体50の走査位置及び走査方向を矢印200で示している。
図10の下段には、この走査位置で得られる、偽造防止構造体50の2次の共振周波数の透過率波形を示している。
【0070】
媒体100、すなわち
図7に示す偽造防止構造体50が、傾いていない状態で、偽造防止構造体50のX軸方向略中央部を、X軸方向を偏光方向とする所定周波数のテラヘルツ電磁波によって矢印200で示す方向に走査する。走査するテラヘルツ電磁波が、1次の共振周波数のテラヘルツ電磁波である場合は
図9下段に示す透過率の波形が得られ、2次の共振周波数のテラヘルツ電磁波である場合は
図10下段に示す透過率の波形が得られる。テラヘルツ電磁波の偏光方向及びSRR20〜23の開放部の方向と、透過率との関係は、共振モードによって異なる。1次の共振周波数では、テラヘルツ電磁波の偏光方向とSRRの開放部の方向とが平行である場合に、透過率が最大となる。一方、2次の共振周波数では、テラヘルツ電磁波の偏光方向とSRRの開放部の方向とが垂直である場合に、透過率が最大となる。
【0071】
2次の共振周波数でも、第1領域11〜第3領域13の各領域で異なる透過率が得られるが、第1領域11の透過率が数%の非常に低い値を示し、第2領域の透過率が高い値を示す。第3領域13の透過率は、第1領域11の透過率と第2領域12との間の値を示す。このため、
図10下段に示すように、右側の第1領域11で、略一定の低い透過率を示す波形81が得られた後、中央の第2領域12に入ると透過率が上昇する。第2領域12で、略一定の透過率を示す波形82が得られた後、左側の第3領域13に入ると透過率が再び低下するが、波形81よりも高い略一定の透過率を示す波形83が得られる。そして、得られた透過率波形の特徴に基づいて、媒体100の真贋を判別することができる。
【0072】
偽造防止構造体50が15度傾いた場合でも、1次の共振周波数の場合と同様に、第1領域11の透過率の変動幅、第2領域12の透過率の変動幅、及び第3領域13の透過率の変動幅は小さく、それぞれ4%程度に留まる。このため、偽造防止構造体50が傾いた場合でも、
図10下段に示すように、波形81から波形82へ透過率が上昇する階段状の波形が得られる。波形82が示す第2領域12の透過率と、波形83が示す第3領域13の透過率は、約15%の差を有する。偽造防止構造体50が15度傾いた場合でも、第2領域12の透過率の変動幅は約4%に留まり、第3領域13の透過率はほとんど変動しない。このため、偽造防止構造体50が傾いた場合でも、
図10下段に示すように、波形82から波形83へ透過率が低下する階段状の波形が得られ、波形81、波形82及び波形83の大小関係も変わらない。また、透過率を測定する際に、媒体100、すなわち偽造防止構造体50が、傾いた状態で走査された場合も、透過率が3段階に変化する特徴的な波形を得ることができる。そして、得られた透過率波形の特徴に基づいて、媒体100の真贋を判別することができる。
【0073】
図9及び
図10では、媒体100に設けた偽造防止構造体50をテラヘルツ電磁波によって走査するとして説明した。この走査は、テラヘルツ電磁波が送受信される位置が固定された真贋判別装置内で、媒体100を搬送することによって実現することができる。以下、
図9の測定を例に、真贋判別装置について説明する。
【0074】
図11は、側方から見た真贋判別装置の内部構成概略を示す模式図である。搬送部63は、矢印201で示す方向へ媒体100を搬送する。テラヘルツ電磁波送信部61は、搬送部63の上方に配置される。テラヘルツ電磁波受信部62は、搬送部63の下方に配置される。テラヘルツ電磁波送信部61は、X軸方向を偏光方向とする所定周波数のテラヘルツ電磁波を、矢印202で示すように下方に向けて送信する。このテラヘルツ電磁波が、搬送部63によって搬送される媒体100の偽造防止構造体50に照射される。テラヘルツ電磁波受信部62は、偽造防止構造体50を透過したテラヘルツ電磁波を受信する。テラヘルツ電磁波を送受信する位置は固定されている。テラヘルツ電磁波受信部62は、受信したテラヘルツ電磁波の強度を検出し、検出した強度を搬送部63に媒体100がない状態で検出されるテラヘルツ電磁波の強度に対する比率である透過率に変換する。
図11に示すように、媒体100は、搬送部63によって矢印201で示す方向へ搬送されて、テラヘルツ電磁波が送受信される位置を通過する。このとき、
図9に示すように、偽造防止構造体50が矢印200で示す方向へ走査され、透過率の波形を得ることができる。なお、透過率は、テラヘルツ電磁波受信部62で算出するほか、制御部64で算出してもよい。この場合、テラヘルツ電磁波受信部62が、受信したテラヘルツ電磁波の強度を出力して、制御部64が透過率を算出する。
【0075】
図12は、
図11に示す構成を上方から見た模式図である。
図12(a)は、媒体100が傾くことなく搬送される場合を示している。
図12(b)は、媒体100が、角度α傾いた斜行状態で搬送される場合を示している。偽造防止構造体50を透過するテラヘルツ電磁波の透過率は、
図12(a)に示す状態と
図12(b)に示す状態とで異なる値を示すが、透過率の変動幅は小さい。このため、透過率の値、偽造防止構造体50を走査して得られる透過率の波形等に基づいて、媒体100の真贋を高精度に判別することができる。
【0076】
図13は、真贋判別装置1の機能構成概略を示すブロック図である。真贋判別装置1は、
図11に示す構成に加えて、制御部64及び記憶部65を有する。記憶部65は、半導体メモリ等から成る不揮発性の記憶装置である。記憶部65には、偽造防止構造体50に所定のテラヘルツ電磁波を照射して得られる透過率の値、透過率の波形、該波形の特徴等のデータが、予め基準データとして準備されている。
【0077】
制御部64は、搬送部63による媒体100の搬送、テラヘルツ電磁波送信部61及びテラヘルツ電磁波受信部62によるテラヘルツ電磁波の送受信等を制御する。また、制御部64は、偽造防止構造体50を透過したテラヘルツ電磁波の透過率の値、透過率の波形等を取得する。制御部64は、透過率の値、透過率の波形、該波形の特徴等のうち少なくともいずれか1つを、記憶部65に予め準備されている基準データと比較して媒体100の真贋を判別する。制御部64は、真贋の判別結果を図示しない外部装置に出力する。例えば、表示装置に出力して真贋の判別結果を表示して報知する。
【0078】
本実施形態では、ベース部材17と、SRR20〜23を形成した導電性層16とによって偽造防止構造体10、50を形成する例を示したが、偽造防止構造体10、50の構造がこれに限定されるものではない。
図14は、偽造防止構造体10、50の他の構造例を示す断面模式図である。
図14に示す偽造防止構造体10、50は、
図1及び
図7に示した導電性層16が接着層41によって媒体100表面に接着され、導電性層16の上にホログラム層42及び離型層43が設けられた構造を有する。例えば、所定の基材上に、離型層43、ホログラム層42、導電性層16及び接着層41を順に形成した後、離型層43から上の層を基材から剥がして上下を反転し、接着層41によって媒体100に貼り付けることにより、
図14に示す構造を実現する。離型層43は、透明樹脂等の材料から成る。可視光下で、
図14に示す偽造防止構造体10、50を上方から目視した際には、ホログラム層42に記録された3次元像が観察されることになる。略C字形状のSRR20〜23は、数μm程度の薄膜から成る導電性層16に設けられた微小な構造で、目視で確認することは困難である。導電性層16の上に、ホログラム層等、所定の図柄が観察される層を設けることで、SRR20〜23の目視確認はさらに困難になり、偽造防止の効果を高めることができる。
【0079】
本実施形態では、SRRの開放部の方向が、テラヘルツ電磁波の偏光方向と平行又は垂直となる例を示したが、開放部の方向がこれに限定されるものではない。
図15は、開放部の方向が異なるSRR120〜123を有する偽造防止構造体10の例を示す図である。
図15に示すSRR120〜123は、
図1に示すSRR20〜23をそれぞれ時計回りに45度回転した形状を有する。各開放部120a〜123aは、X軸方向及びY軸方向と45度の角度を成す方向となっている。第1パターン31〜第5パターン35を構成するSRR20〜23を、それぞれ
図15に示すSRR120〜123に置き換えた場合にも、上述したように、テラヘルツ電磁波の透過率が所定の値を示す領域を実現することができる。
【0080】
また、
図7及び
図9では、偽造防止構造体50を備える媒体100が長方形で、SRRの開放部の方向と媒体100の辺との間の角度が平行又は垂直である例を示したが、この角度が45度であってもよい。具体的には、例えば、
図9に示す媒体100はそのままに、偽造防止構造体50のみを時計回りに45度回転させた態様であってもよい。また、例えば、偽造防止構造体50のSRRを、
図15に示すSRR120〜123に置き換えた態様であってもよい。この場合も、上述したように、第1領域11〜第3領域13でテラヘルツ電磁波の透過率が異なる波形を取得することができる。
【0081】
また、媒体100を搬送しながら偽造防止構造体50を走査した際に、領域毎に透過率が変化する構造として、
図7とは異なる構造を採用してもよい。
図16は、複数領域に分割された偽造防止構造体150の別の例を示す図である。
図16に示す正方形形状の偽造防止構造体150は、対角方向である45度方向に等間隔に分割された8つの領域を有する。8つの領域は、第1領域111及び第2領域112の2種類の領域を含み、これらの領域が交互に配列されている。例えば、第1領域111と第2領域112をそれぞれ、第1パターン31〜第5パターン35から選択した、異なるパターンで構成された領域とする。また、例えば、第1領域111は、テラヘルツ電磁波を透過する絶縁性材料又はテラヘルツ電磁波を遮断する導電性材料から成る、SRRを含まない領域とする。そして、第2領域112のみを第1パターン31〜第5パターン35から選択したパターンで構成されたSRRを含む領域としてもよい。これにより、所定のテラヘルツ電磁波によってX軸方向略中央部をY軸方向に走査した際に、第1領域111と第2領域112とで透過率が変化する偽造防止構造体150を実現することができる。そして、上述したように、偽造防止構造体150の透過特性に基づく真贋判別を行うことができる。
【0082】
本実施形態では、
図7に示す偽造防止構造体50の各領域を、
図3に示す第1パターン31、第3パターン33及び第5パターン35で構成する例を示したが、各領域を形成するパターンは特に限定されない。例えば、第2パターン32や第4パターン34を利用する態様であってもよい。また、偽造防止構造体50を2つに分割する態様であってもよいし、4つ以上の部分領域に分割する態様であってもよい。また、第1パターン31を90度回転した第5パターン35を基本パターンとして利用する例を示したが、第2パターン32、第3パターン33及び第4パターン34を90度回転したパターンを、基本パターンとして利用してもよい。
【0083】
本実施形態では、第1パターン31〜第5パターン35を基本パターンとする例を示したが、基本パターンがこれらに限定されるものではない。基本パターンをマトリクス状に繰り返し配置した領域内の任意の位置で、基本パターンと同一形状の領域を選択した際に、該領域に含まれる、開放部の方向がテラヘルツ電磁波の偏光方向と平行なSRRの個数と、開放部の方向がテラヘルツ電磁波の偏光方向と垂直なSRRの個数との比率が、基本パターンにおける比率と同一となるように構成されていれば、基本パターンの形状、基本パターンを構成するSRRの種類、個数、配置位置等は特に限定されない。具体的には、例えば、基本パターンにおけるSRRの配置は、SRRを縦方向及び横方向に繰り返し配置するマトリクス状の配置の他、市松模様状の配置やハニカム状の配置としてもよい。各領域に基本パターンを配置する方法についても、各基本パターンをマトリクス状に配置する他、ブロック模様状の配置やハニカム状の配置等、任意の繰り返しの配置とすることができる。SRRの形状についても、所定周波数のテラヘルツ電磁波を照射した際に所望の透過率を得ることができれば特に限定されず、例えばリングを矩形状に形成する態様であってもよい。また、共振周波数が同じであれば、複数種類のSRRが全て同一形状を有する態様に限定されず、矩形状のSRR等、形状が異なるSRRを含む態様であってもよい。
【0084】
本実施形態では、真贋判別に利用するテラヘルツ電磁波の偏光方向を、主にX軸方向とする例を説明したが、Y軸方向を偏光方向とするテラヘルツ電磁波を利用してもよい。テラヘルツ電磁波の偏光方向が変わると各基本パターンにおける透過率も変化するが、偏光方向に対応する透過率を予め取得しておけば、上述したように真贋判別を行うことができる。
【0085】
本実施形態では、偽造防止構造体の真贋判別に、テラヘルツ電磁波の透過率を利用する例を示したが、テラヘルツ電磁波の反射率を利用する態様であってもよい。テラヘルツ電磁波の透過率と反射率は、一方が増加すると他方が減少する関係にある。例えば、
図11において、搬送される媒体100を挟んで対向配置したテラヘルツ電磁波送信部61及びテラヘルツ電磁波受信部62を、媒体100に対して同じ側に配置する。テラヘルツ電磁波送信部61から送信されて媒体100で反射されるテラヘルツ電磁波をテラヘルツ電磁波受信部62で受信することで、反射率を測定することが可能である。よって、テラヘルツ電磁波の反射率を利用する場合も、上述したようにテラヘルツ電磁波の透過率に基づく偽造防止構造体の特徴を得て真贋判別を行うことができる。
【0086】
上述してきたように、本実施形態に係る真贋判別装置を利用すれば、偽造防止構造体を設けた紙幣や商品券等の偽造防止媒体にテラヘルツ電磁波を照射して、透過したテラヘルツ電磁波の周波数及び透過率等の透過特性に基づいて、偽造防止媒体の真贋を判別することができる。
【0087】
偽造防止構造体を構成する複数種類の分割リング共振器は、例えば、真贋を判別するために偽造防止媒体に照射するテラヘルツ電磁波の偏光方向と、平行な方向又は垂直な方向に開放部を有する。偏光方向と平行な方向に開放部を有する分割リング共振器の数と、垂直な方向に開放部を有する分割リング共振器の数との割合を調整することにより、所定周波数のテラヘルツ電磁波が所定の透過率で透過する偽造防止構造体を実現することができる。また、偏光方向と平行な方向又は垂直な方向に開放部を有する分割リング共振器を利用することで、テラヘルツ電磁波の偏光方向に対して偽造防止構造体が傾いた場合の透過率の変動を抑制することができる。これにより、偽造防止構造体による真贋判別を高精度に行うことができる。