【実施例1】
【0018】
図1(a)から
図2(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
図1(a)に示すように、圧電基板10上に付加膜14を形成する。圧電基板10は、例えばタンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板である。圧電基板10は支持基板に接合されていてもよい。付加膜14は、例えば酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、炭化シリコン膜、酸化タンタル膜もしくは酸化ニオブ膜等の絶縁膜、アルミニウム膜等の金属膜またはシリコン膜等の導電体膜である。付加膜14は、例えば真空蒸着法、スパッタリング法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い形成する。
【0019】
図1(b)に示すように、付加膜14上に開口52を有するマスク層50を形成する。マスク層50は、例えばフォトレジストであり、塗布、露光および現像を行うことにより形成する。
【0020】
図1(c)に示すように、マスク層50をマスクに付加膜14を除去する。付加膜14の除去は、例えばウェットエッチング法またはドライエッチング法を用いる。このとき、付加膜14をサイドエッチングする。これにより、付加膜14の開口53は開口52より大きくなる。付加膜14の側面はマスク層50の側面より内側に設けられる。マスク層50の両端部には、マスク層50と圧電基板10との間に付加膜14が設けられていないオーバーハング54が形成される。
【0021】
図1(d)に示すように、開口52および53内の圧電基板10上およびマスク層50上に金属膜12および13を形成する。金属膜12および13の形成は例えば真空蒸着法を用いる。金属膜12および13は、例えばアルミニウム膜または銅膜を含む膜であり、付加膜14より厚い。オーバーハング54が形成されているため、領域56のように、開口52および53内の圧電基板10上に形成された金属膜12とマスク層50上に形成された金属膜13とは接続されずに分断される。
【0022】
実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法の一例について、
図1(d)に相当するSEM(Scanning Electron Microscope)画像を取得した。
図3は、
図1(d)に相当するSEM画像の模式図である。
図3に示すように、マスク層50の側面に形成された金属膜13と金属膜12とは領域56において分断されている。金属膜12は、ルテニウム膜12aおよび銅膜12bを有している。
【0023】
図2(a)に示すように、マスク層50を除去することにより、マスク層50上に形成されていた金属膜13がリフトオフされる。金属膜12と13とが分断されているため、金属膜13は容易に除去できる。例えば金属膜12と13とが一部接続されていると、金属膜12端にバリ等が形成される。
【0024】
図2(b)に示すように、圧電基板10上に金属膜12および付加膜14を覆うように絶縁体膜16を形成する。絶縁体膜16は、例えば窒化シリコン膜または酸化シリコン膜である。絶縁体膜16は、例えば真空蒸着法またはCVD法を用い形成する。絶縁体膜16は例えば金属膜12より薄い。
【0025】
図2(c)に示すように、絶縁体膜16上に誘電体膜18を形成する。誘電体膜18は、例えば酸化シリコン膜である。誘電体膜18は、例えば真空蒸着法またはCVD法を用い形成する。誘電体膜18は例えば金属膜12より厚い。誘電体膜18の上面を例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用い平坦化する。
【0026】
図4は、実施例1に係る弾性波共振器の平面図である。
図5(a)は、
図4のA−A断面図、
図5(b)は、
図4の拡大図である。
図4および
図5(b)では、金属膜12および付加膜14を図示している。弾性波の伝搬方向(すなわち電極指の配列方向)をX方向、電極指の延伸方向をY方向、圧電基板10の上面の法線方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は、圧電基板10の結晶方位のX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向とは必ずしも対応しない。
【0027】
図5(a)に示すように、圧電基板10上に金属膜12が設けられている。金属膜12の間の圧電基板10上に付加膜14が設けられている。金属膜12および付加膜14を覆うように絶縁体膜16が設けられている。絶縁体膜16上に誘電体膜18が設けられている。付加膜14の膜厚H2は、金属膜12の膜厚H1より小さい。すなわち、付加膜14の上面の圧電基板10からの高さは、金属膜12の上面の圧電基板10からの高さより低い。
【0028】
誘電体膜18は、例えば圧電基板10の弾性率の温度係数と逆符号の弾性率の温度係数を有する。これにより、弾性波デバイスの周波数温度係数を小さくできる。圧電基板10がタンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板の場合、絶縁体膜16は、例えば酸化シリコン膜である。酸化シリコン膜に弗素を添加することで、弾性波デバイスの周波数温度係数をより小さくできる。絶縁体膜16は、圧電基板10の上面および金属膜12を保護する保護膜である。例えば金属膜12の原子の誘電体膜18への拡散を抑制する。
【0029】
図4および
図5(b)に示すように、圧電基板10上にIDT24および反射器26が設けられている。IDT24および反射器26は、金属膜12により形成される。IDT24は、対向する一対の櫛歯電極20aおよび20bを備える。櫛歯電極20aは、複数の電極指21a(櫛歯)と、複数の電極指21aが接続されたバスバー22aを備える。櫛歯電極20bは、複数の電極指21b(櫛歯)と、複数の電極指21bが接続されたバスバー22bを備える。一対の櫛歯電極20aおよび20bは、少なくとも一部において電極指21aおよび21bがほぼ互い違いとなるように、対向して設けられている。
【0030】
一対の櫛歯電極20aおよび20bの電極指21aおよび21bが交差する領域が交差領域である。交差領域において電極指21aおよび21bが励振する弾性波は、主にX方向に伝搬する。反射器26は、弾性波を反射する。これにより、IDT24の交差領域内に弾性波が閉じ込められる。同じ櫛歯電極20aおよび20bにおける電極指21aおよび21bのピッチλがほぼ弾性波の波長となる。
【0031】
付加膜14は、電極指21aと21bとの間に設けられている。電極指21aのX方向の両側に設けられている付加膜14は、電極指21aとバスバー22bとの間において接続されている。電極指21bのX方向の両側に設けられている付加膜14は、電極指21bとバスバー22aとの間において接続されている。反射器26内の電極指間の付加膜14は孤立している。付加膜14はIDT24および反射器26を囲むように設けられている。隣接する電極指21aと21bとの間における付加膜14の幅W2は、隣接する電極指21aと21bとの間の幅W1より小さい。
【0032】
圧電基板10は、例えば回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム基板である。金属膜12は、例えば圧電基板10側から膜厚が20nmのルテニウム膜および膜厚が125nmの銅膜である。絶縁体膜16は、例えば膜厚が20nmの窒化シリコン膜である。
【0033】
[比較例]
図6(a)および
図6(b)は、比較例1および比較例2における弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
図6(a)に示すように、比較例1では、付加膜14の幅とマスク層50の幅は同程度である。金属膜12と付加膜14とは離間しない。マスク層50の側面の金属膜13と圧電基板10上の金属膜12とが分断されない。よって、金属膜13をリフトオフすることが難しくなる。さらに、金属膜12(電極指21aおよび21b)と付加膜14とが接触すると、弾性波の励振効率が悪くなる。
【0034】
図6(b)に示すように、比較例2では、付加膜14の膜厚H2は金属膜12の膜厚H1より大きい。金属膜12および付加膜14を覆うように絶縁体膜16を形成すると、絶縁体膜16の被覆性が悪くなる。例えば、絶縁体膜16は、金属膜12の側面、付加膜14の側面、および/または圧電基板10上面の被覆性が悪くなる。よって、絶縁体膜16の保護膜としての機能が低下する。
【0035】
[実施例1の効果]
実施例1によれば、
図1(a)のように、圧電基板10上に付加膜14を形成する。
図1(b)のように、付加膜14上に開口52(第1開口)を有するマスク層50を形成する。
図1(c)のように、付加膜14がマスク層50より小さくなるように、マスク層50をマスクに付加膜14を除去し開口52に連通する付加膜14の開口53(第2開口)を形成する。
図1(d)のように、開口52および53内の圧電基板10上およびマスク層50上に付加膜14の膜厚より大きい膜厚を有する金属膜12および13を形成する。
図2(a)に示すように、マスク層50を除去することによりマスク層50上の金属膜13を除去する。
図4のように、圧電基板10上の金属膜12から、各々複数の電極指21aおよび21bを有し、少なくとも一部において各々の電極指21aおよび21bが互い違いに配列方向に配列する一対の櫛歯電極20aおよび20bを形成する。
図2(b)のように、圧電基板10上に、金属膜12および付加膜14を覆うように、絶縁体膜16を形成する。
【0036】
付加膜14を除去せずに絶縁体膜16を形成するため、付加膜14を除去する工程に起因した圧電基板10および電極指21aおよび21bのダメージを抑制できる。
図1(b)において付加膜14がマスク層50より小さいため、比較例1よりも
図2(a)のリフトオフを容易に行うことができる。また、付加膜14が電極指21aおよび21bから離間するため、電極指21aおよび21bの励振効率の低下を抑制できる。さらに、付加膜14の体積(重量)を小さくできるため、付加膜14が弾性波に影響することを抑制できる。さらに、付加膜14の膜厚が複数の電極指21aおよび21bの少なくとも1つの膜厚より小さいため、比較例2の
図6(b)のような絶縁体膜16の被覆性の劣化を抑制できる。
【0037】
一対の櫛歯電極20aおよび20bに大電力を加えると、電極指21aと21bとの間の圧電基板10と絶縁体膜16との界面において電極指21aおよび21bの原子がマイグレーションする。これにより、櫛歯電極20aおよび20bが破壊されることがある。実施例1では、付加膜14を設けることで、電極指21aと21bとの間の原子のマイグレーションを抑制できる。
【0038】
実施例1のように櫛歯電極20aおよび20bを形成すると、
図4および
図5(b)のように、付加膜14は、隣接する電極指21aおよび21bの間における圧電基板10上に設けられ、隣接する電極指21aおよび21bから離間する。
【0039】
また、櫛歯電極20aの電極指21aのX方向の両側に設けられた付加膜14は、電極指21aと櫛歯電極20bのバスバー22bとの間を経由して接続する。付加膜14は、櫛歯電極20aおよび20bを囲むように設けられる。付加膜14と一対の櫛歯電極20aおよび20bの離間距離は製造誤差程度に略一定となる。
【0040】
絶縁体膜16の被覆性を高めるため、付加膜14の膜厚H2は電極指21aおよび21bの少なくとも1つの膜厚H1の50%(1/2)以下が好ましく25%(1/4)以下がより好ましい。マスク層50と圧電基板10との間に隙間を設けるため、膜厚H2はH1の10%(1/10)以上が好ましい。
【0041】
金属膜12のリフトオフを容易に行うため、付加膜14の幅W2は電極指21aと21bとの間の幅W1の90%(9/10)以下が好ましく、75%(3/4)以下がより好ましい。
図1(b)においてマスク層50を機械的に補強するように、幅W2はW1の30%以上が好ましい。
【0042】
付加膜14の音響インピーダンスが絶縁体膜16および/または誘電体膜18と大きく異なると、弾性波に影響してしまう。よって、付加膜14の音響インピーダンスは、複数の電極指21aおよび21bの音響インピーダンスより絶縁体膜16および/または誘電体膜18の音響インピーダンスに近いことが好ましい。
【0043】
例えば、電極指21aおよび21bが主に銅膜の場合、銅の音響インピーダンスは34.1MPa・s/m
3である。絶縁体膜16を窒化シリコン膜とすると、その音響インピーダンスは15.2MPa・s/m
3である。誘電体膜18を弗素を添加した酸化シリコン膜とすると、その音響インピーダンスは10.9MPa・s/m
3である。この場合、電極指21aおよび21bの音響インピーダンスより絶縁体膜16および/または誘電体膜18の音響インピーダンスに近い材料としては、窒化シリコン、酸化シリコン(SiO
2)、シリコンおよびアルミニウムがある。酸化シリコン、シリコンおよびアルミニウムの音響インピーダンスは、それぞれ12.5MPa・s/m
3、20.8MPa・s/m
3および13.8MPa・s/m
3である。
【0044】
[実施例1の変形例1]
図7は、実施例1の変形例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
図7に示すように、電極指21aと21bとの間の圧電基板10上に付加膜14が設けられている。付加膜14と絶縁体膜16とは同じ材料からなり、例えば窒化シリコン膜である。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0045】
実施例1の変形例1では、付加膜14は絶縁体膜16と同じ材料からなるため、付加膜14の音響インピーダンスは絶縁体膜16の音響インピーダンスとほぼ同じである。これにより、付加膜14が弾性波に影響することを抑制できる。
【0046】
実施例1の変形例1では、付加膜14と絶縁体膜16との界面が不明瞭となり、付加膜14と絶縁体膜16とが一体の膜として見える場合がある。電極指21aと21bとの間においてはその中央部において付加膜14と絶縁体膜16とが一体となった膜の膜厚H4は、電極指21aと21bとの間の両側部の絶縁体膜16の膜厚H3より大きくなる。