特許第6957419号(P6957419)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6957419可撓性導波管、可撓性導波管の製造方法および可撓性導波管を用いる映像伝送装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6957419
(24)【登録日】2021年10月8日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】可撓性導波管、可撓性導波管の製造方法および可撓性導波管を用いる映像伝送装置
(51)【国際特許分類】
   H01P 3/12 20060101AFI20211021BHJP
   H01P 3/16 20060101ALN20211021BHJP
【FI】
   H01P3/12 200
   !H01P3/16
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-131064(P2018-131064)
(22)【出願日】2018年7月10日
(65)【公開番号】特開2020-10234(P2020-10234A)
(43)【公開日】2020年1月16日
【審査請求日】2020年10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 正
【審査官】 佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−099310(JP,A)
【文献】 特開2018−099172(JP,A)
【文献】 特開2015−185858(JP,A)
【文献】 特開昭49−033187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/04
H01P 3/12
H01P 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に誘電率が均一、かつ、長手方向に断面が同一形状を呈する線状の可撓性を有する誘電体と、
前記誘電体の外周を覆う位置に配設され、可撓性を有する筒状に形成された外部導体と、
を有する、ミリ波電波を伝送するための可撓性導波管であって、
前記誘電体は、長手方向の中心に連続した管形状の空間を有する第2の誘電体と、前記第2の誘電体が有する前記管形状の空間に配される第1の誘電体と、と有し、
前記第2の誘電体は、連続気孔を有する樹脂多孔体により形成され、
前記第1の誘電体は、結晶粉末の集合体であって、当該結晶粉末の大きさが、前記第2の誘電体に係る前記樹脂多孔体が有する前記連続気孔の大きさよりも大きい
ことを特徴とする可撓性導波管。
【請求項2】
前記第2の誘電体における前記樹脂多孔体は、発泡PTFE(e−PTFE)により形成され、
前記第1の誘電体における前記結晶粉末は、高純度のα−Al23結晶により形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の可撓性導波管。
【請求項3】
前記第1の誘電体における前記結晶粉末は、当該結晶粉末の表面にフッ素樹脂による表面被覆を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の可撓性導波管。
【請求項4】
前記外部導体は、金属箔と樹脂フィルムと有する平箔糸を、前記第2の誘電体の外周に円筒組紐状に編んで形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の可撓性導波管。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の可撓性導波管を製造する方法であって、
前記結晶粉末と液体とを混合してスラリーを得る工程と、
前記スラリーを前記第2の誘電体における前記管形状の空間の内部に流し込むとともに、前記結晶粉末を当該第2の誘電体における前記管形状の空間の内部に残留する工程と、
前記液体を揮発乾燥させる工程と、
を含むことを特徴とする可撓性導波管の製造方法。
【請求項6】
前記スラリーを前記第2の誘電体における前記管形状の空間の内部に流し込むとともに、前記結晶粉末を当該第2の誘電体における前記管形状の空間の内部に残留する工程において、前記第2の誘電体における前記管形状の空間の一方の端にポーラスセラミックスを配するとともに、当該空間の別の端からスラリーを注入する
ことを特徴とする請求項5に記載の可撓性導波管の製造方法。
【請求項7】
前記スラリーは比抵抗が1MΩ・cmよりも大きい純水と、純度99.95%以上の高純度結晶粉末と、の混合により形成される
ことを特徴とする請求項5に記載の可撓性導波管の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の可撓性導波管を用いる映像伝送装置であって、
前記可撓性導波管は所定の映像信号を伝送する
ことを特徴とする可撓性導波管を用いる映像伝送装置。
【請求項9】
前記可撓性導波管は、200万画素(FHD相当)以上の映像信号を非圧縮で伝送する
ことを特徴とする請求項8に記載の可撓性導波管を用いる映像伝送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波の電波信号伝送に利用する可撓性導波管、より詳しくはミリ波またはサブミリ波帯以上の電波伝送に適した可撓性導波管、可撓性導波管の製造方法および可撓性導波管を用いる映像伝送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆるFTTH(Fiber To The Home)等の技術により、1Gpbsを超える通信速度を有する通信環境が一般の家庭にも浸透してきている。また、スマートフォン等の高い処理能力を有する端末が広く普及し、利用可能な通信技術、および、情報処理の速度、すなわち「ハード性能」が著しく向上してきている。
【0003】
また、いわゆるFHD(Full High Definition)を超える4K/8K画像に代表される高精細/大容量映像の利用、インターネットを介した情報アクセスの拡大等により、個人、または企業において利用可能な情報の質と量、すなわち「ソフト利用」についても飛躍的に拡大している。
【0004】
これらは、近年とくに注目をあびているビックデータ解析、ディープラーニング(深層学習)によるAI(artificial intelligence;人工知能)の発展など、新しい手法・付加価値の誕生にも大きく貢献している。
【0005】
このように、「ハード性能」の向上と「ソフト利用」の拡大とが両輪となって近年の技術は著しく発展し、新しい付加価値が誕生している。その結果として、現時点の情報通信技術に求められる性能は、以前とは比べものにならないほど高いものになっている。そして、情報通信に必要な技術要素の中でも信号伝送線路に着目すると、この分野でも求められる性能は著しく高くなっていることが判る。
【0006】
ところで、情報通信に必要な技術要素の中でも信号伝送線路に着目すると、この分野でも求められる性能は著しく高くなっていることが判る。たとえば、上述した高精細/大容量映像の伝送では、その情報伝送速度は少なくとも3Gbps程度以上を確保する必要があり、より臨場感のある映像を求める場合(たとえば、輝度情報を増加する場合、または、毎秒当たりのフレーム数を増加する場合等)には、50Gbpsを超えるような情報伝送速度さえ求められ始めようとしている。
【0007】
すなわち、Gbpsオーダーを超える情報伝送速度は、特殊な用途、たとえば、大陸間を結ぶ長距離情報伝送、または、極めて大きな情報を扱うデータセンターでの高速通信、等の特殊な用途だけでなく、普及価格帯の製品においても求められ始めている。
【0008】
一方、高速な情報伝送に対応した信号伝送線路としては、従来、特開2015−41519号公報(特許文献1)に示されるような差動信号伝送方式が広く用いられてきた。
【0009】
しかし、このような差動信号伝送方式では、2本の信号導体線を伝う信号のずれ(スキュー)が原理的に避けられないという問題がある。また差動信号伝送方式では、このほかに、伝送信号の周波数が上がるにつれて前記2本の信号導体線の電気抵抗に起因する伝送ロスが大きくなるという問題、または、前記信号導体線を回路に接続するには高度な技術が必要となるという問題もある。
【0010】
すなわち差動信号伝送方式は、上述した如き種々の問題により、実質的には数Gbpsを超える高速信号の伝送への利用は簡単でなく、換言すると、数十Gbpsを超えるような場合への利用は、非常に困難であると言わざるを得ない。
【0011】
このため、GHzオーダー以上の通信には、従来から長距離情報伝送、または、データセンターでの高速通信において利用されてきた光通信技術を、普及価格帯製品にも利用する動きがある。しかし、光通信ユニットは非常に高価であり、普及価格帯の製品、中でも短距離通信に対してはより安価な別の手段が求められている。
【0012】
このような状況から、Gbpsオーダー以上の高速通信と廉価性を両立する有線通信手段として、近年になってたとえば、特許第4724849号明細書(特許文献2)、特開2015−144336号公報(特許文献3)、または、特願2016−247031号において提案されるような導波管を利用した信号伝送の検討が開始されている。
【0013】
因みに、導波管を利用した通信技術は1970年代くらい(光通信技術が世に出る前)までは、高速通信が可能な通信線路として期待されていたが、当時は回路技術も低く光通信技術に駆逐される形で検討が終了している。
【0014】
しかし現在、ミリ波を用いたGbpsオーダー以上の無線高速通信技術が普及しつつあり、ミリ波高速通信用ICの安価な供給が始まりつつあるなど、導波管を用いた通信技術を取り巻く環境は大きく変わっている。すなわち、ミリ波用の導波管が安定して安価に供給されれば、普及価格帯の製品におけるGbpsオーダーを超える情報伝送において、有力な手段となりうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2015−41519号公報
【特許文献2】特許第4724849号明細書
【特許文献3】特開2015−144336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、特許文献2(特許第4724849号明細書)では、導波管に可撓性を付与すると共に導波管伝送特性の最適化を図る手段として、導波管の内部に屈折率の異なる糸を配する技術が提案されている。しかし、この技術では内部誘電体に可撓性の高い糸を用いたことと引き換えに、導波管内部の誘電率分布を導波管長手方向に安定させることが難しいという欠点が有る。
【0017】
すなわち、導波管芯材の製造時、または、導波管を曲げたときに糸の配置がずれ易く、結果として、伝送される電波のモードが安定せず、伝送損失が増大しやすいという問題がある。
【0018】
また特許文献3(特開2015−144336号公報)では、導波管の内部に配する誘電体を、合成樹脂等の柔軟性を備える誘電性材料とした上で、これを製造するための手段として、押出し成形法を開示している。この技術によれば、導波管の形状は安定し、意図しない伝送損失の増大を避け易くはなるものの、内部に配する誘電体の構成に係る自由度が小さく、伝送特性の向上・最適化が難しいという欠点がある。
【0019】
なお、上述した課題解決を目的に、本発明者は、特願2016−247031号明細書において、導波管の伝送特性を最適化しうる誘電体の構成を示し、これらの欠点を解決する手段を提案している。
【0020】
この特願2016−247031号明細書においては、内部誘電体の構成例として有用な例が提案されるものの、特に内部誘電体の内側エリアに結晶粉末を配して外側エリアに極性樹脂の押出し成形品を配する構成例としてより具体的な構成を有する可撓性導波管および当該可撓性導波管の製造方法についての開示が嘱望されていた。
【0021】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、内部誘電体の内側エリアに結晶粉末を配して外側エリアに極性樹脂の押出し成形品を配し、基本周波数が10GHzを超えるような高速信号の伝送線路、中でも数センチメートル〜5メートル程度以下の長さで5Gbps以上の通信速度を実現しうるミリ波(サブミリ波を含む)領域で用いる可撓性導波管、可撓性導波管の製造方法および可撓性導波管を用いる映像伝送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の一態様の可撓性導波管は、長手方向に誘電率が均一、かつ、長手方向に断面が同一形状を呈する線状の可撓性を有する誘電体と、前記誘電体の外周を覆う位置に配設され、可撓性を有する筒状に形成された外部導体と、を有する、ミリ波電波を伝送するための可撓性導波管であって、前記誘電体は、長手方向の中心に連続した管形状の空間を有する第2の誘電体と、前記第2の誘電体が有する前記管形状の空間に配される第1の誘電体と、と有し、前記第2の誘電体は、連続気孔を有する樹脂多孔体により形成され、前記第1の誘電体は、結晶粉末の集合体であって、当該結晶粉末の大きさが、前記第2の誘電体に係る前記樹脂多孔体が有する前記連続気孔の大きさよりも大きい。
【0023】
本発明の一態様の可撓性導波管の製造方法は、前記可撓性導波管を製造する方法であって、前記結晶粉末と液体とを混合してスラリーを得る工程と、前記スラリーを前記第2の誘電体における前記管形状の空間の内部に流し込むとともに、前記結晶粉末を当該第2の誘電体における前記管形状の空間の内部に残留する工程と、前記液体を揮発乾燥させる工程と、を含む。
【0024】
本発明の一態様の可撓性導波管を用いる映像伝送装置は、前記可撓性導波管を用いる映像伝送装置であって、前記可撓性導波管は、所定の映像信号を伝送する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、内部誘電体の内側エリアに結晶粉末を配して外側エリアに極性樹脂の押出し成形品を配し、基本周波数が10GHzを超えるような高速信号の伝送線路、中でも数センチメートル〜5メートル程度以下の長さで5Gbps以上の通信速度を実現しうるミリ波(サブミリ波を含む)領域で用いる可撓性導波管、可撓性導波管の製造方法および可撓性導波管を用いる映像伝送装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の第1の実施形態の可撓性導波管の構成を示す要部斜視図である。
図2図2は、第1の実施形態の可撓性導波管における第1の誘電体を構成するアルミナ粉末を示した要部拡大図である。
図3図3は、第1の実施形態の可撓性導波管における第2の誘電体を示した要部拡大斜視図である。
図4図4は、第1の実施形態の可撓性導波管における第2の誘電体の長手方向に垂直な方向の断面を示した要部拡大断面図である。
図5図5は、第1の実施形態の可撓性導波管における第2の誘電体を構成するe−PTFEチューブの内周面表面を示した要部拡大図である。
図6図6は、第1の実施形態の可撓性導波管における平箔糸を組紐形状に編んでなる外部導体および内部誘電体の構成を示した要部拡大断面図である。
図7図7は、第1の実施形態の可撓性導波管における平箔糸を組紐形状に編んでなる外部導体の外観を示した外観図である。
図8図8は、第1の実施形態の可撓性導波管における外部導体の構成を示した要部断面図である。
図9図9は、第1の実施形態に対応するシミュレーションモデルの長手方向に垂直な方向の断面を示した要部拡大断面図である。
図10図10は、第1の実施形態における伝送損失量のシミュレーション結果を示す図である。
図11図11は、第1の実施形態と比較例とにおける伝送損失量のシミュレーション結果を示す図である。
図12図12は、第1の実施形態の可撓性導波管における製造方法を示したフローチャートである。
図13図13は、第1の実施形態の可撓性導波管を製造する際における第1の誘電体を第2の誘電体に挿入する前の様子を示した要部拡大斜視図である。
図14図14は、第1の実施形態の可撓性導波管を製造する際における第1の誘電体を第2の誘電体に挿入する際の様子を示した要部拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
なお、この実施の形態により、この発明が限定されるものではない。さらに、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付している。さらにまた、図面は、模式的なものであり、各部材の厚みと幅との関係、各部材の比率等は、現実と異なることに留意する必要がある。また、図面の相互間においても、互いの寸法や比率が異なる部分が含まれている。
【0028】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態の可撓性導波管の構成を示す要部斜視図である。
【0029】
本実施形態の可撓性導波管は、誘電率の高さ、誘電正接の小ささ、適切な可撓性の3条件を適切に満たす誘電体材料を含みミリ波領域(サブミリ波を含む)で用いるものであって、ミリ波またはサブミリ波(以下、場合により代表してミリ波と記載する)を通す導波路により構成されることを特徴とする。
【0030】
なお、本実施形態においてミリ波、サブミリ波は、ミリからサブミリオーダ(0.5〜10mm程度)の波長をもつ電波を指すものとする。
【0031】
<可撓性導波管における内部誘電体および外部導体>
図1に示すように、本第1の実施形態の可撓性導波管50は、長手方向に誘電率が均一、かつ、長手方向に断面が同一形状を呈する線状の可撓性を有する内部誘電体(第1の誘電体51、第2の誘電体52)と、当該内部誘電体の外周を覆う位置に配設された外部導体53と、を有する。
【0032】
なお本実施形態において、「誘電率が均一」とは、導波管内部を伝搬する電波(ミリ波またはサブミリ波)の波長オーダーの寸法でみたときに均一であることを意味するものである。すなわち、波長オーダーよりも1〜2桁以上寸法の異なる構造による誘電率分布は、導波管内部を伝搬する電波には影響を与えないため、本実施形態においては、これを含めて誘電率が均一と表現している。
【0033】
<内部誘電体の構成>
図2は、第1の実施形態の可撓性導波管における第1の誘電体を構成するアルミナ粉末を示した要部拡大図である。また、図3は、第1の実施形態の可撓性導波管における第2の誘電体を示した要部拡大斜視図、図4は、第1の実施形態の可撓性導波管における第2の誘電体の長手方向に垂直な方向の断面を示した要部拡大断面図、図5は、第1の実施形態の可撓性導波管における第2の誘電体を構成するe−PTFEチューブの内周面表面を示した要部拡大図である。
【0034】
前記内部誘電体は、本第1の実施形態においては、長手方向に垂直な断面において相対的に内側に位置する第1の誘電体51と、長手方向に垂直な断面において前記第1の誘電体51より外側に位置し(かつ、本実施形態においては、第1の誘電体51の外周部の全周を覆うように配置され)、前記第1の誘電体51よりも低い誘電率を備える第2の誘電体52と、を有する。
【0035】
また、本実施形態において前記内部誘電体は、図1に示すように、長手方向の中心に連続した管形状を呈する空間を有する第2の誘電体52における当該空間内部に、結晶粉末により形成された第1の誘電体51を充填することで構成される。
【0036】
この第1の誘電体51における前記結晶粉末は、本実施形態においては、高純度のα−Al23結晶粉末(本実施形態においては、住友化学株式会社製高純度アルミナAA−18、純度=99.99%以上)を適用する。この高純度α−Al23結晶粉末は、図2に示すように、例えば、平均直径が約18μmの略球状を呈する。
【0037】
なお、図1において、第1の誘電体51は、便宜上、棒状の固体形状として描いているが、上述するように第1の誘電体51はアルミナ結晶粉末であり、第2の誘電体52における前記管形状の空間内部に充填されることで形状を保つようになっている。
【0038】
一方、第2の誘電体52は、発泡PTFE(e−PTFE)により形成され、図3図4に示すように、長手方向の中心には、連続した管形状を呈する空間を有する。また、第2の誘電体52は、図5に示すように、前記管形状の内面には連続気孔が形成される。
【0039】
ここで前記第1の誘電体51における高純度α−Al23結晶の大きさ(径)は、前記第2の誘電体52における前記連続気孔における大きさよりも大きく、すなわち、α−Al23結晶は、前記連続気孔を通過し得ない。
【0040】
<外部導体の構成>
図6は、第1の実施形態の可撓性導波管における平箔糸を組紐形状に編んでなる外部導体および内部誘電体の構成を示した要部拡大断面図であり、図7は、第1の実施形態の可撓性導波管における平箔糸を組紐形状に編んでなる外部導体の外観を示した外観図である。また、図8は、第1の実施形態の可撓性導波管における外部導体の構成を示した要部断面図である。
【0041】
本実施形態において外部導体53は、図1に示すように、前記内部誘電体(第1の誘電体51および第2の誘電体52)の外周を覆う位置に配設され、可撓性を有する筒状を呈する金属層部として構成される。具体的に外部導体53は、帯状の複数の平箔糸により構成される。
【0042】
この帯状の平箔糸は、図8に示すように、延伸方向に垂直な断面が長方形断面を呈し、樹脂などの非金属物質を包含する下地層55と、金属物質を包含する金属箔56を有して構成される。より具体的に当該平箔糸は、下地層55として厚さ25μmの樹脂フィルム(例えば、PET)を採用し、また、金属箔56としては厚さ9μmの銅箔を採用し、幅0.2mmの帯状を呈して形成される。
【0043】
また、外部導体53は、複数(例えば、32本)の平箔糸を、図6および図7に示すように円筒組紐状に組んで形成される。具体的には、前記内部誘電体における外側誘電体である第2の誘電体52の外周面において、当該第2の誘電体52に接する側に前記金属箔56を配置して巻きつけられるように延在すると共に、互いの平箔糸が組紐状形態を形成するように編成されるようになっている(図6における拡大図参照)。
【0044】
なお、当該外部導体53は、上述したように所定の金属層部(金属箔56)を含み、当該金属箔56の導電率は純銅相当の59×10S/mに設定される。なお、ここでは導電率を一意に定めたが、本発明において金属層部の導電率は、これに限定されず、実施形態においては、導電率の良い金属層を用いることが好ましい。
【0045】
なお、上述したように本実施形態において外部導体53である前記平箔糸は、第2の誘電体52に接する側に金属箔56を配し外側に樹脂フィルム55を有するように構成したが、これに限ることなく、金属層を含む別の形態によって(例えば金属層のみによって)構成されてもよい。
【0046】
また、上述したように外部導体53である複数の平箔糸を、第2の誘電体52の外周に対して、例えば角度45度にて巻き付けて組紐状に組むと、糸と糸の間に、いわゆる「製紐孔」と称される孔が生じる。図6における拡大図に示すように、この製紐孔を符号54で示す。
【0047】
この製紐孔54は、“孔”の部分においては下方側の第2の誘電体52の表面が露出することになる。このように、本実施形態の可撓性導波管50は、導波管の長手方向(伝搬方向)に向かって金属部分の割合が周期的に変化するように外部導体53が形成される。換言すれば、本実施形態の可撓性導波管50は、外部導体53について長手方向に周期的な形状変化が生じていると共に、外部導体の抵抗(インピーダンス)分布が伝搬方向に対して所定の周期性をもって変化することとなる。
【0048】
<可撓性導波管の可撓性>
本実施形態の可撓性導波管50は「可撓性」に優れるが、その理由について以下、説明する。
【0049】
上述したように、本実施形態の可撓性導波管50は、可撓性を有する内部誘電体(第1の誘電体51、第2の誘電体52)と、当該内部誘電体の外周面において平箔糸を組紐形状に組んで形成された外部導体53と、を有する。
【0050】
本実施形態において第1の誘電体51は、上述したように、互いの結晶間の隙間に空気を含むアルミナ結晶粉末を第2の誘電体52における管形状の空間内部に充填されることにより形成される。
【0051】
この空間内部に充填されるアルミナ結晶粉末は略球状を呈しているので、第1の誘電体51、すなわちアルミナ結晶粉末の集合体は外力に応じて柔軟に変形する。これにより、第1の誘電体51は自らの断面形状(すなわち、第2の誘電体52における管形状の空間断面)を維持しつつ、適切な可撓性を有することができる。
【0052】
なお、本実施形態において可撓性導波管50の曲折作用に伴って第1の誘電体51および第2の誘電体52が曲げられる場合、第2の誘電体52における管形状の空間の断面形状、すなわち第1の誘電体51の断面形状は、可撓性を得るに伴い生じる弾力性に因ってその断面形状はわずかに滑らかに変化しうる。
【0053】
ここで、この断面形状の変化が、波長程度(正確には波長の1/4)よりも大きい長さにおいて滑らかに発生する場合には、波の反射または散乱は抑えられ、波の伝送に影響を与えない。これは、例えば、特許第5826463号明細書に開示されるような反射防止構造体における考え方と同一である。
【0054】
したがって、可撓性導波管50に係る曲折作用により、第1の誘電体51における断面形状の「変化」が生じたとしても、当該「変化」が上述の如き波長の1/4よりも大きい長さにおいて滑らかに発生する限り、本発明においてはこの「変化」を「断面形状の変化」とは捉えず、「断面形状は同一形状を保っている」、換言すれば、「断面が同一形状」であることを維持していると解釈する。
【0055】
また本実施形態において第2の誘電体52は、発泡PTFE(e−PTFE)により形成され、すなわち、無極性樹脂と連続気孔(空気)とを有して形成される誘電体混合材料により構成される。
【0056】
一般に無極性樹脂は分子を構成する原子同士の結びつきが強い材料であり、これにより、誘電正接tanδが小さく、導波管の内部に配する誘電体の構成材料としては好適である。しかしこの特質は、機械的には「硬い」材料が多いことも同時に示しており、このままの状態では可撓性を得ることが難しいと考えられる。
【0057】
このような特質を有する材料に有効な可撓性を付与するためには、樹脂の結合を弱める必要があるが、本実施形態の第2の誘電体52においては連続気孔(空気)の存在が樹脂の結合を弱めることに寄与する。
【0058】
すなわち、本実施形態における第2の誘電体52は、無極性樹脂の内部に連続気孔を含むが故に、当該無極性樹脂が網の目のような構造をとることになり、これにより樹脂の結合が弱まり、断面形状を維持しながらも適切な可撓性を有することができる。
【0059】
一方、外部導体53は、上述したように、前記内部誘電体(第2の誘電体52)の外周面において平箔糸を組紐形状に組んで形成されるので、外力の印加に対しても可撓性に優れる構造となっている。
【0060】
<可撓性導波管の伝送特性>
次に、本実施形態の可撓性導波管50に係る伝送特性の特徴について説明する。
本実施形態において第2の誘電体52は、樹脂多孔体である発泡PTFE(e−PTFE)により形成され、すなわち、無極性樹脂と連続気孔(空気)とを有して形成される。ここで、無極性樹脂に連続気孔(空気)を含むことで、第2の誘電体として必要な低い誘電率(本実施形態においては、2.0以下)を実現することができる。
【0061】
また、一般に無極性樹脂は分子を構成する原子同士の結びつきが強い材料であり、これにより、第2の誘電体52は、誘電正接tanδが小さく(10−4以下)、導波管の内部に配する誘電体の構成材料として好適である。
【0062】
一方、本実施形態において第1の誘電体51は、上述したように高純度α−Al23結晶と空気とを含んで形成される。ここで、一般に結晶材料は無極性樹脂よりも高い誘電率を有する。このため、本実施形態の第1の誘電体51は、第2の誘電体52より高い誘電率に設定することができる(本実施形態においては6.0程度)。
【0063】
これらを踏まえて本実施形態において第1の誘電体51および第2の誘電体52の比誘電率は、それぞれ、
第1の誘電体51については、比誘電率εr1=6.0
第2の誘電体52については、比誘電率εr2=2.0
に設定される。このように、本実施形態において第1の誘電体51の比誘電率εr1は3以上に設定され、第2の誘電体52の比誘電率εr2は、2以下に設定される。
【0064】
また、第1の誘電体51および第2の誘電体52における長手方向に垂直な断面形状は、以下のとおりである。
【0065】
図4に示すように、第2の誘電体52は、前記第1の誘電体51の外周部を覆う筒状であって、その内側に第1の誘電体51の中心を配し、
その内周部は、長径a=1.66mm、短径b=0.83mm
その外周部は、径r=2.26mm
に設定される。
【0066】
さらに、外部導体53は、第2の誘電体52の外周部に密着して覆うように配設され、その内周面は平坦であり、導電率は純銅相当の59×10S/mに設定される。
【0067】
なお、図4等においては、外部導体53は所定の厚みを持って表現されているが、上述したように、図面は模式的なものであり、各部材の厚みと幅との関係、各部材の比率等は現実とは異なり、すなわち、当該外部導体53は、実際には十分に薄い金属箔56により構成される。
【0068】
上述したように、本実施形態における第1の誘電体51は、断面形状を維持し易く構成され、これにより、当該誘電体内部を伝送する電波の伝送モードを安定させることができるという効果を奏する。
【0069】
さらに可撓性導波管50は、上述したように、第1の誘電体51において長手方向に安定した断面形状が延設されることにより、外部から印加される外力により導波管自体が曲折されたとしても当該曲折に起因する伝送損失の増大が抑えられ、結果として伝送損失量が安定するという効果を奏する。
【0070】
一方、上述したように、本実施形態において第2の誘電体52は、第1の誘電体51の外周部の全周を覆うように配設され、かつ、第1の誘電体51と金属層である外部導体53とに挟まれる領域に配設されることを特徴とする。
【0071】
ここで、上述したように、第2の誘電体52は第1の誘電体51よりも低い誘電率を備える。すなわち、第1の誘電体51の誘電率が第2の誘電体52の誘電率よりも高いことから、かつ、第2の誘電体52は、第1の誘電体51の外周部の全周を覆うように配置されることから、可撓性導波管50内を伝送する電磁波のエネルギーを第1の誘電体51に閉じ込めることができる。
【0072】
その結果、本実施形態の可撓性導波管50においては、金属層である外部導体53体に起因する伝送損失の発生を抑えることができる。
【0073】
<第1の実施形態の可撓性導波管50に係る伝送損失>
本実施形態の可撓性導波管50の伝送損失は、電磁界シミュレーションにより知ることができる。
【0074】
図9は、第1の実施形態に対応するシミュレーションモデルの長手方向に垂直な方向の断面を示した要部拡大断面図である。
【0075】
図9に示す如き可撓性導波管50の近似形状のシミュレーション150により電磁界解析シミュレーションを行い、本実施形態の可撓性導波管50について伝送帯域を確認した。ここで、本実施形態の可撓性導波管50に係る伝送損失を求めるにあたり、長さ20mmの円筒形導波管のシミュレーションモデル150を想定した。また、当該シミュレーションモデル150において、第1の誘電体151の誘電率は6.0、第2の誘電体152の誘電率は1.3とした。さらに、当該シミュレーションモデル150において外部導体153は、第2の誘電体152の外側に密着するように配設されており、その内周面は平坦であり、かつ、その導電率は純銅相当の59×10S/mとした。
【0076】
またここで、前記シミュレーションモデル150との比較のため、フッ素樹脂(εr=2.0,tanδ=0,2.66×1.33の矩形断面)を芯に用いた場合の伝送損失のシミュレーション(比較例1)を行った。
【0077】
図10は、第1の実施形態における伝送損失量のシミュレーション結果を示す図であり、図11は、第1の実施形態と第1比較例における伝送損失量のシミュレーション結果を示す図である。
【0078】
図10に示すように、本第1の実施形態の可撓性導波管50は、カットオフ周波数は44GHz程度であり、60GHz帯にて使用可能な導波管であることが判る。また、図11では、縦軸を拡大すると共に、比較例1の伝送損失量のシミュレーション結果を重ねた。
【0079】
これらの比較から、本第1の実施形態の可撓性導波管50は、単一樹脂のみで構成された導波管(比較例1)よりも伝送特性が優れていることがわかる。すなわち、例えば60GHzで損失量が半分程度にまで小さくなっていることがわかる。
【0080】
次に、上述した第1の実施形態の可撓性導波管50の製造方法を説明する。
図12は、第1の実施形態の可撓性導波管における製造方法を示したフローチャートである。また、図13は、第1の実施形態の可撓性導波管を製造する際における第1の誘電体を第2の誘電体に挿入する前の様子を示した要部拡大斜視図であり、図14は、第1の実施形態の可撓性導波管を製造する際における第1の誘電体を第2の誘電体に挿入する際の様子を示した要部拡大斜視図である。
【0081】
本第1の実施形態の可撓性導波管50を製造する際には、まず、長手方向の中心に連続した管形状の空間を有する第2の誘電体として、図3にある断面形状を持つ長さ約1mの発泡PTFE(e−PTFE)のチューブと、第1の誘電体となる結晶粉末として高純度のα−Al23結晶粉末(住友化学株式会社製高純度アルミナAA−18)と、スラリー作成時の溶媒として比抵抗が1MΩ・cm以下である「純水」を用意した。
【0082】
この他、スラリーを作るための道具として、PTFE製のビーカー、スプーン、ヘラ、注入冶具としてディスポーザブル且つオールプラスチック(ポリプロピレン製)の注入針(アズワン2-9054-02ディスポテーパーチップ)と、シリンジ(アズワン1-2387-01ディスポシリンジ)、注入時の栓としてポーラスセラミック(西村陶業株式会社 ポーラスセラミックス N−99EP)を用意した。
【0083】
ここでビーカー、スプーン、ヘラ、シリンジ、針をすべてプラスチック製としたのは、誘電損失(tanδ)の悪化を避けるためである(すなわち、誘電損失の大きい材料を使用しないことで、誘電損失の大きい材料が混入することを防ぐ)。
【0084】
また、ポーラスセラミックは表面処理(撥水処理)の無いタイプであり、いわゆる毛細管現象に拠ってスラリーから水分を吸入する能力をもつ。
【0085】
図12に示すように、当該製造工程では、まず、前記ビーカーに10gの前記α−Al23結晶粉末と純水360gを入れ、これに超音波を照射しながら攪拌し、前記純水中に前記結晶粉末を十分に分散させ、スラリーを得る(工程S1)。
【0086】
ここで本実施形態におけるスラリーは、結晶粉末が10vol%程度と比較的濃度の薄いものではあるが、前記α−Al23結晶粉末が平均φ18μm程度と大きいため、攪拌を停止すると純水と結晶粉末とは混濁した状態を維持できない。(以上、工程S1)。
【0087】
この工程S1で得たスラリーの攪拌を継続した状態で、前記シリンジにスラリーを吸引する。吸引したスラリーは、シリンジ内部で容易に水と結晶粉末とで分離するが、シリンジに振動を与えることで容易に混濁した状態を得ることができる。(以上、工程S2)。
【0088】
一方、上記工程S1におけるスラリーの作成とは別に、前記ポーラスセラミックを前記e−PTFEチューブの内径形状に合うように作成して(削り出して)、前記チューブの片端に挿入(図13図14参照)する。挿入後には前記チューブ外側に適当なテープを巻き、前記チューブから前記ポーラスセラミック片が外れないようにする。(以上、工程S3)。
【0089】
次に、工程S2で用意したシリンジに前記注入針をセットし、この先を工程S3で用意したチューブのポーラスセラミックを挿入した端とは逆側の端に差し込む。シリンジを斜めとし、これに振動を加えて内部のスラリーが混濁した状態で、スラリーを少量ずつ注入する。このとき、前記チューブは寝かせず、下に垂らす。また、ポーラスセラミック部には乾いた布を用意する。(工程S4)。
【0090】
前記チューブに注入されたスラリーは、チューブ内を通り、注入側端から反対側端(ポーラスセラミック側端)に到達する。前記チューブ内を通るスラリーが含む水分は、前記チューブの素材(e−PTFE)がもつ撥水性により、途中で漏れることなく管内を通っていく。同様に前記スラリーが含む結晶粉末も、前記チューブのもつ気孔の大きさが前期結晶粉末よりも小さいために、チューブから漏れることなく管内を通っていく。
【0091】
注入されたスラリーがポーラスセラミックに到達すると、ポーラスセラミックの吸水性により、スラリー中の水分を吸入し、更に外側に用意された乾いた布に水分を排出する。(排出は重力の効果と、乾いた布の吸水性の相乗効果に拠る)。
【0092】
この排水に伴い、管内には結晶粉末がポーラスセラミック側より順次残留し、チューブの内部に第1の誘電体が形成されていく。(以上、工程S5)。
【0093】
水分の排出が止まったあと、更にスラリーの注入を繰り返す形となるが、その都度チューブ内に結晶粉末が充填され、ムラ無く第1の誘電体が形成されているかを確認する。もしもチューブ途中に結晶粉末の隙間など充填のムラがある場合には、スラリーの注入を継続せず、純水のみを注入するとともに、充填ムラ部分を曲げ・延ばすことで充填ムラの解消を図る。(工程S6および工程S4,S5の繰返し)。
【0094】
結晶粉末がスラリーの充填側まで十分に充填されたら、注入針を外し、そこをポーラスセラミックで蓋をする。(工程S7)。
【0095】
できた線材は、内部に未だ水分を含むため、清浄な空気の流れる場所、具体的にはクリーンベンチ内にて乾燥する。ここで内部に含む水分は、第2の誘電体であるe−PTFEがもつ気孔を通じて揮発し、完全に乾燥する。尚、ここで乾燥のために、加熱等の処理を行ってもよい。(工程S8)。
【0096】
乾燥後の線材は、導波管の内部に配置できる状態を得ているため、このあとこの外周に、製紐機により金属層(外部導体53)を形成することで、第1の実施形態の可撓性導波管50に相当する導波管を完成することができる。
【0097】
以上説明したように、本第1の実施形態の可撓性導波管50によると、断面の誘電率分布構造を長手方向に安定させることができ、伝送される電波のモードが安定し、伝送損失を低く安定させることができる。また、内部に配する誘電体構成の自由度が高く、伝送特性の向上・最適化を図ることが可能な構成を示した。結果として、従来よりも伝送特性が高く、細く、可撓性の高い導波管を得ることができるため、導波管の利用価値を大きく高めた。
【0098】
またここでは、上記伝送損失の低減・安定・最適化と、細径化、可撓性向上を併せて実現できる構成を、具体的に製造するための方法を示したことで、産業利用を具体的に示した。
【0099】
これらの結果として本第1の実施形態の可撓性導波管の構成およびその製造方法は、内視鏡を含めた多くの機器における高精細映像の非圧縮伝送において、ミリ波有線通信の利用可能性を飛躍的に高め、4K8K/3Dのような高精細・高機能画像伝送の利用可能な範囲を広げることができる。
【0100】
なお、本第1の実施形態における内部誘電体の断面形状は、伝送特性を向上できる一形態を示したに過ぎず、他の断面形状においても同様の効果を得ることができる。
【0101】
また本第1の実施形態においては、本発明の導波管として最も効果が得られる一形態として、前記第2の誘電体(樹脂多孔体)が発泡PTFE(e−PTFE)により形成され、前記第1の誘電体である結晶粉末は、高純度のα−Al23結晶から成るとしたが、これらは前記第2の誘電体として概ね2以下の誘電率と、10−4以下の低い誘電損失(tanδ)を持つとともに連続気孔を有する樹脂多孔体と、前記第1の誘電体が概ね6以上の誘電率と10−4以下の低い誘電損失(tanδ)を持つ結晶粉末を用いれば高い効果を得ることができる。
【0102】
また同様に、本第1の実施形態においては、本発明の導波管が最も効果が得られる一形態として、筒状の外部導体53は、金属箔56と樹脂フィルム55とから成る平箔糸を前記可撓性の誘電体の外周に円筒組紐状に編んで成る形態を示したが、外部導体53による損失を十分に抑えることができる外導体を用いることができれば、やはり高い効果を得ることができる。
【0103】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0104】
本第2の実施形態の可撓性導波管は、その基本的な構成は第1の実施形態と同様であり、第1の誘電体である結晶粉末として、その表面にフッ素樹脂による表面被覆を有する高純度のα−Al23結晶を用いたことを特徴とする。すなわち、第2の実施形態は、第1の実施形態に対して、第1の誘電体である結晶粉末の表面処理についてのみ異にするものであり、その他の構成は第1の実施形態と同様であるので、ここでは第1の実施形態との差異のみの説明にとどめ、共通する部分の説明については省略する。
【0105】
上述したように、第2の実施形態の可撓性導波管50は、第1の誘電体である結晶粉末として、その表面にフッ素樹脂による表面被覆を有する高純度のα−Al23結晶を用いたことを特徴とする。
【0106】
このように、前記結晶粉末の表面にフッ素樹脂による表面被覆が施されたことで、結晶粉末同士の張り付きのような現象が発生し難く、お互いの滑り性が向上する。結果として、第2の誘電体である線状可撓性(管状)の誘電体の内部における結晶粉末の形状変化がよりスムーズとなり、可撓性導波管の可撓性が向上する。
【0107】
なお、前記フッ素樹脂による表面被覆は、第1および第2の誘電体の誘電特性にほとんど影響を及ぼさず、第2の実施形態の可撓性導波管は、第1の実施形態の可撓性導波管50と同様の伝送特性を得ることができる。
【0108】
本第2の実施形態の可撓性導波管によると、第1の実施形態の可撓性導波管50と同様の伝送特性を保持したまま、導波管の可撓性をさらに向上することができる。
【0109】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
【0110】
本第3の実施形態は、第1の実施形態の如き可撓性導波管50を所定の画像信号を伝送する映像伝送装置に適用するものである。
【0111】
この第3の実施形態に係る映像伝送装置は、いわゆるFHD(Full High Definition)を超える4K/8K画像に代表される高精細/大容量の画像信号を伝送可能とする伝送装置であって、換言すれば、基本周波数が10GHzを超えるような高速信号の伝送線路を有する伝送装置である。
【0112】
さらに、本第3の実施形態に係る当該伝送路は、数センチメートル〜5メートル程度以下の長さで5Gbps以上の通信速度を実現しうるミリ波(サブミリ波を含む)領域で用いることを想定するものあって、かつ、可撓性を要するものである。
【0113】
上記の第1の実施形態として説明した誘電体材料を含む可撓性導波管は、斯様な条件を要する第3の実施形態の如き映像伝送装置にあっても適切に適用することができる。
【0114】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変等が可能である。
【符号の説明】
【0115】
50:可撓性導波管(導波路)
51:第1の誘電体
52:第2の誘電体
53:外部導体
55:樹脂フィルム(下地)
56:金属箔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14