【実施例】
【0167】
以下の実施例は例証のために提示するものであって、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。
【0168】
実施例1 ベータ細胞の複製を亢進させるためのGABA受容体活性化リガンドのアルプラゾラムとの併用
この実施例において、本発明者らは、ベンゾジアゼピン アルプラゾラム(XANAX(登録商標))のGABAとの併用を、ベータ細胞の増殖及び/または生存に及ぼすその効果に関して検討した。アルプラゾラムは、不安症及びパニック障害の治療に広く処方されている。アルプラゾラムは1981年の導入後、急速に処方箋が5千万件を超える大ヒット薬物となった。アルプラゾラムは、指示通りに用いられれば長期間使用しても安全である(www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2011/018276s045lbl.pdfにおけるFDA認可のラベル及びJonas and Cohon (1993) J. Clin. Psychiatry. 54 Suppl:25−45;discussion 6−8を参照のこと)。本発明者らは、アルプラゾラムを、1)その長期的安全性プロファイル、及び2)その適合するGABA
A−Rサブユニットとの相互作用に基づいて、検討することを選択した。
【0169】
GABA受容体活性化リガンド
GABAはヒトによる摂取に対して安全である。GABAは栄養補助食品として処方箋なしで販売されている。本発明者らは、26週間のGABA処理によって、脾臓単核細胞の総数またはCD4+、CD8+、T及びBリンパ球の割合が有意に変化しない(Tian et al. (2004) J. Immunol. 173(8): 5298−5304)だけでなく、自己反応性T細胞がGABA媒介性阻害に対して脱感作されることもない(Tian et al. (2004) J. Immunol. 173(8): 5298−5304;Tian (2011) Autoimmunity, 44: 465−470)ことを認めた。1950年代〜1980年代に、ヒトによる治験において、長期間の経口投与でのGABAによる治療が、数百人の個人において、てんかん発作を低減する能力及び脳血管障害を改善する能力について試験された(Otomo et al. (1981) Arzneimittelforschung. 31(9): 1511−1523;Loeb et al. (1987) Epilepsy Res. 1(3): 209−212;Tower and Roberts eds. Inhibition in the Nervous System and GABA. New York: Pergamon Press, 1960;Kuriyama and Sze (1971) Neuropharmacol. 10(1): 103−108)。結果は、悪影響は示さなかったが臨床的利点も示さず、これはGABAが血液脳関門を通過しないためである可能性がある。
【0170】
薬学的関心が、血液脳関門を通過し、CNS神経細胞上のGABA−Rを調節して、発作性障害、不安症及び不眠症を改善することができる薬物に集まっている。GABAは、血液脳関門を通過できないことによって、CNSへの副作用を伴わずに末梢GABA−Rを調節することに関して理想的である。炎症反応を下方制御するGABAの能力は適度であり、本発明者らはこのことが、他の免疫抑制剤によるような免疫系機能への妨害が少なく、白血球の減少がないことから、有利であると見なしている。GABAは、その温和な効果にもかかわらず、異なる遺伝的背景を有するマウスにおいて、1型糖尿病(T1D)(Tian et al. (2004) J. Immunol. 173(8): 5298−5304: Soltani et al. (2011) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108: 11692−11697)、好酸球性血管性浮腫(EAE)(Bhat (2010) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107(6): 2580−2585)及び関節リウマチ(Tian (2011) Autoimmunity, 44: 465−470)を効率的に予防し、2型糖尿病(T2D)を改善した(Tian et al. (2011) PloS one. 6(9): e25338)。
【0171】
GABA
A−R及びGABA
B−R
GABA−Rには2種の異なる型、すなわちGABA
A−R及びGABA
B−Rがある。免疫細胞は主としてGABA
A−Rを発現する(Tian et al. (1999) J. Neuroimmunol. 96(1): 21−28;Tian et al. (2004) J. Immunol. 173(8): 5298−5304;Bhat (2010) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107(6): 2580−2585;Bjurstom et al. (2008) J. Neuroimmunol. 205: 44−50)一方、β細胞はGABA
A−R及びGABA
B−Rの両方を発現する(Ligon et al. (1997) Diabetologia, 50(4): 764−773;Tian et al. (2013) Diabetes, 62(11): 3760−3765;Braun et al. (2010) Diabetes, 59(7): 1694−2701;Gu et al. (1993) Life Sci. 52(8): 687−694;Brice et al. (2002) Diabetologia, 45(2): 242−252;Martin et al. (1988) Neuropsychobiology, 19(3): 146−148)。GABA
A−Rは、迅速作動性(fast−acting)塩素イオンチャネルを形成する種々のサブユニットの五量体である。GABA
B−Rは2種のサブユニットのみのヘテロ二量体であるが、それらの特性は他の細胞タンパク質によって変化し得る(Schwenk et al. (2010) Nature, 465(7295): 231−235)。GABA
B−Rは遅効性(slow−acting)Gタンパク質共役型受容体を形成する(Bettler et al. (2004) Physiol. Rev. 84(3): 835−867)。したがって、GABA
A−R及びGABA
B−Rは大きく異なる(塩素イオンチャネル対Gタンパク質共役型受容体)。この実施例において本発明者らはGABA
A−Rに焦点を当てている。というのもGABA
A−Rは自己免疫応答を阻害するのと同時にβ細胞の複製及び生存を促進する能力を有するからである。
【0172】
19種の異なるGABA
A−Rサブユニット、すなわち、6種のαサブユニット、3種の異なるβサブユニット、3種のγサブユニット、ならびにδ、ε、π、及びθサブユニット、加えて3種の非古典的ρサブユニットがある。5種のこれらのサブユニットが異なる様式で結合して、通常は2のα、2のβ、及び1の他のサブユニットタイプからなるGABA
Aチャネルを形成する(
図1の模式図を参照のこと)。異なるサブユニットの組み合わせを有するGABA
A−Rは、異なる薬理学的特性ならびに特異的アゴニスト及びアンタゴニストを有する(Olsen and Tobin (1990) FASEB J. 4(5): 1469−1480;Luddens et al. (1995) Neuropharmacology, 34(3): 245−254)。β細胞において、GABA
A−R Cl
−チャネルの活性化によって脱分極、電位開口型カルシウムチャネルの開口、ならびにCa
2+依存性Pi3K/Akt細胞の増殖及び生存シグナル伝達経路の活性化が生じる(Soltani et al. (2011) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108: 11692−11697;Purwana et al. (2014) Diabetes, ;63(12):4197−4205;Braun et al. (2010) Diabetes, 59(7): 1694−2701)。
【0173】
ベンゾジアゼピン
ベンゾジアゼピンはGABA結合部位ではなく、GABA
A−R上の他の部位(図中の「BZD」部位)に結合する。ベンゾジアゼピンは塩素イオンチャンネルを開口することはできないが、GABAが上記受容体に結合している場合にはCl
−コンダクタンスを増加させる陽性アロステリック調節因子として作用する。血液脳関門を通過する能力がほとんどまたは全くないGABAとは異なり、ベンゾジアゼピンは血液脳関門を通過し、CNS神経細胞によって産生されるGABAの作用を亢進させることができる。異なるベンゾジアゼピンは、異なるサブユニット組成を有する異なるGABA
A−R(サブタイプ)に優先的に結合する。
【0174】
異なるGABA
A−Rサブタイプ特異性を有するベンゾジアゼピンが、発作、不眠症、または不安症を改善するために用いられてきた。この実施例において、本発明者らはベンゾジアゼピン アルプラゾラム(XANAX(登録商標))を検討する。アルプラゾラムは不安症及びパニック障害の治療に広く処方されている。アルプラゾラムは1981年のその導入後、急速に処方箋が5千万件を超える大ヒット薬物となった。アルプラゾラムは、指示通りに用いられれば長期間使用しても安全である(www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2011/018276s045lbl.pdfにおけるFDA認可のラベル及びJonas and Cohon (1993) J. Clin. Psychiatry. 54 Suppl:25−45;discussion 6−8を参照のこと)。本発明者らは、アルプラゾラムを、1)その長期的安全性プロファイル、2)ヒト膵島において適合するGABA
A−Rサブユニットが発現されること(Braun et al. (2010) Diabetes, 59(7): 1694−2701)、及び3)グルコース制御が低下した個人においてHbA1cレベルを低減するアルプラゾラムの能力(Lustman et al. (1995) Diabetes Care, 18(8): 1133−1139、下記を参照のこと)に基づいて、検討することを選択した。
【0175】
アルプラゾラムはグルコース制御が低下した患者においてHbA1cを低減した。
本発明者らは、ヒトβ細胞により発現される特定のGABA
A−Rサブタイプ(複数可)に結合するベンゾジアゼピンが、膵島内で局所的に放出されるGABAの作用を亢進させることができるとの仮説を立てた。臨床治験において、T1DまたはT2Dによってグルコース制御が低下した(HbA1cの平均値が約12)不安症の及び不安症ではない個人にアルプラゾラムを投与した。8週間の治療後、アルプラゾラムの投与を受けた患者においてはHbA1cレベルが有意に低下したが、プラセボにおいては低下が見られなかった(Lustman et al. (1995) Diabetes Care, 18(8): 1133−1139)。この効果は不安症の及び不安症ではない患者の両方で同様であり、このことは、HbA1cの低下は不安症の改善に依存しないことを示した。
【0176】
アルプラゾラムはイン・ビトロでヒト膵島細胞の増殖を促進する。
本発明者らはパイロットでの検討において、アルプラゾラム単独及び低レベルのGABAとの併用によって、イン・ビトロでヒト膵島細胞の複製が亢進し得るかについて試験した。本発明者らは、ベンゾジアゼピン自体はGABA
A−R塩素イオンチャンネルを開口させることはできないが、β細胞はGADを発現しGABAを分泌することから、アルプラゾラム単独を試験した。したがって、本発明者らは、アルプラゾラムが、内因的に産生された膵島GABAの作用を亢進させることができるとの仮説を立てた。
【0177】
アルプラゾラムを0.5〜6.0mg/日を送達する持続放出性錠剤で処方し、治療として当該薬物の投与を受けた人の血清中のアルプラゾラム濃度は通常10〜100ng/mlの範囲である(Jones et al. (2007) Therap. Drug Monitor. 29(2): 248−360;Fraser and Bryan (1991) J. Analyt. Toxicol., 15(2): 63−65)。本発明者らは30ng/mlのアルプラゾラムと共に、またはアルプラゾラムなしでヒト膵島を培養した。本発明者らは、アルプラゾラムが、アルプラゾラムなしでの培養物と比較して、約123%ヒト膵島細胞増殖を促進することを見出した(
図2)。本発明者らはこれらの培養物にGABAを添加しなかったことから、アルプラゾラムがβ細胞から分泌されたGABAと共に作用して、膵島細胞の増殖を促進した可能性が高い。この場合、50個の培養膵島/ウェルから分泌されたGABAは、おそらく非常に速やかに拡散して離れ、それによってアルプラゾラムの有効性が制限されており、この考え方は、GABAを培養培地に添加した本発明者らの検討の結果によって支持される(後述を参照のこと)。
【0178】
新たにT1Dと診断された患者においては、β細胞の量が大幅に減少し、その結果膵島内の分泌GABAのレベルが低くならざるを得ない。本発明者らは、残っているGABA分泌がアルプラゾラムと共に、残存するβ細胞の複製及び生存に対するGABAの作用を亢進させ、このことが、T1D及びT2D患者においてアルプラゾラムが如何にしてHbA1cレベルを減少させるかを説明することができるとの仮説を立てた。注目すべきことに、本発明者らは、GABA単剤療法によって、新たに糖尿病になったNODマウスにおいてβ細胞の複製及び生存が亢進し得ることを明らかにしている(Soltani et al. (2011) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108: 11692−11697;Tian et al. (2014) Diabetes. 63(9): 3128−3134)。
【0179】
この検討で試験した本発明者らの仮説は、残存するβ細胞のGABAを分泌する能力が最適なものよりも低いこと、及び外因性GABAによる治療が新たに糖尿病になったマウスにおいて、β細胞の複製及び生存を促進するのに有益であることであった。更に、本発明者らは、GABAとアルプラゾラムとによる併用療法が、β細胞の複製及び生存を促進する亢進した能力を有するか、及び/またはこれらの効果を達成するために必要ないずれかの薬物の量を低減することができるかを更に試験した。
【0180】
アルプラゾラムとGABAとは相乗的に作用して、イン・ビトロにおいて少ない用量でヒト膵島細胞の複製を促進する。
次に本発明者らは、アルプラゾラム(30ng/ml)と共に、またはアルプラゾラムなしで、ある用量範囲のGABAを含有するヒト膵島培養物におけるヒト膵島細胞の増殖を比較した。0.03mMのGABAによる処理ではヒト膵島細胞の増殖が有意に亢進しなかった一方で、同一用量のGABAとアルプラゾラムとで一緒に処理するとヒト膵島細胞の増殖が138%亢進した(
図3)。GABAを単独で用いて同様のレベルの増殖を達成するには、10倍高いレベルのGABA(0.3mM)を必要とした。したがって、アルプラゾラムによって、十分確実なβ細胞の増殖を誘導するのに必要なGABAの量が大幅に低下する。これらのデータは、GABAとアルプラゾラムとの併用が、イン・ビトロでのヒト膵島細胞の増殖に対して相乗的なプラスの効果を有することを実証している。
【0181】
複合化アルプラゾラム−GABAは相乗的に作用し、β細胞の自己免疫を阻害する。
アルプラゾラムと共にGABAを投与することの更なる利点は、相乗的に自己反応性T細胞を阻害し、Tregを促進する可能性である。血液中のGABAのレベルは非常に低い(GABAを産生するCNS外のGADは非常に僅かしかなく、GABAの循環系中での半減期は非常に短い)。GABAを伴わずにアルプラゾラム単独では、免疫細胞に対する大きな効果はないはずであるが、併用においては、アルプラゾラムとGABAは、おそらくは少ない用量のそれぞれの薬物を用いても、相乗的に作用して炎症を抑制しTregを促進し得る。アルプラゾラム+GABAの免疫応答に対する効果の研究は大きな関心事ではあるが、これらの研究は本研究の範囲外であり、本研究はヒトβ細胞の複製に特化した。ヒトにおけるβ細胞の複製及び生存を亢進させるためのアルプラゾラムの変換能。アルプラゾラムはヒトにおいて、免疫抑制を起こさずまたは感染症に対する感受性を高めることはなく(http://labeling.pfizer.com/ShowLabeling.aspx?id=547にてアルプラゾラムの概況報告書を参照のこと)、このことは、GABAを伴わない場合、アルプラゾラムはヒト免疫細胞上のGABA−Rを活性化できないという考えと整合する。アルプラゾラムの主な副作用は眠気である。
【0182】
長期間のアルプラゾラムの使用後には、一般的に離脱及びリバウンド症状が起こり、このことから用量を徐々に減少させる必要がある(Verster and Volkerts (2004) CNS Drug Rev., 10(1): 45−76)。げっ歯動物における研究において、アルプラゾラムはストレスを与えたラットのEAE及び脊髄における炎症を抑制しており(Nunez−Iglesias et al. (2010) Pharmacol. Biochem., Behav. 97(2): 350−356)、このことは、アルプラゾラムにより、神経細胞によって産生されたGABAの浸潤性免疫細胞に対する作用が亢進した可能性があることから興味深い。この場合、アルプラゾラムは、膵島の浸潤性免疫細胞に対しても同様に有利に作用する可能性がある。アルプラゾラムが免疫系に影響を及ぼすことの他の報告としては、1)1つのグループが、アルプラゾラムがマウスリンパ球の増殖応答を阻害し、T細胞によるIL−2の産生及びマクロファージによるTNFの産生を低下させたことを報告し(Chang et al. (1991) Int. J. Pharmacol., 13(2−3): 259−266;Chang et al. (1992) Int. J. Pharmacol., 14(2): 227−337)、2)別のグループが、直接対比することによって、アルプラゾラムが有糸分裂促進因子誘導性のリンパ球の増殖及びNK細胞の活性を亢進させることを報告した(Fride et al. (1990) Life Sci., 47(26): 2409−2420)ものしかない。
【0183】
アルプラゾラムは、免疫系及びCNSに対する有害な副作用のあるジアゼパム(バリウム)及びロラゼパムなどの他のベンゾジアゼピンと混同してはならない。本発明者らは、アルプラゾラムが、かつては「末梢性ベンゾジアゼピン受容体」として知られ、現在はミトコンドリア外膜上のトランスロケータータンパク質(translocator protein)(TSPO)(Papadopoulos et al. (2006) Trend. Pharmacol. Sci. 27(8): 402−409)として知られ、ジアゼパムの二次結合部位であるタンパク質に対して有意に結合することの如何なる報告も認識していない。
【0184】
上述のように、アルプラゾラムはグルコース制御が低下した患者においてHbA1cを有意に低下させた(Lustman et al. (1995) Diabetes Care, 18(8): 1133−1139)。本発明者らのパイロットによる検討によって、適度なレベルのアルプラゾラム(単独)がイン・ビトロでヒト膵島細胞の増殖に対して十分確実な効果を有していたことが明らかになっている(
図2)。アルプラゾラムとGABAとの併用には、同様の増殖効果を達成するためには10倍高いレベルのGABA(単独)が必要とされるような、ヒト膵島細胞の増殖に対する相乗効果がある(
図3)。このことは、GABAとの併用において、より低いレベルのアルプラゾラムがβ細胞の複製及び生存を促進し得ることを示唆する。アルプラゾラムは血液脳関門を通過する必要がないことから、抗不安(anxiolytic)(抗不安(anti−anxiety))作用を目的として用いられる用量よりも低い用量のアルプラゾラムが、末梢におけるβ細胞GABA
A−Rの調節に有効な場合がある。また、CNSにおいて、GABA
A−Rは神経細胞のシナプス上で互いにクラスタ形成する一方、シナプス外GABA−Rは拡散性分布を有する(Craig et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91(26): 12373−12377)。クラスタ形成したGABA
A−Rは、GABAに対する親和性の低下によって、散在性のシナプス外GABA−Rに比較して3〜4倍高いGABAに対するEC
50を有し、より速やかに不活性化すると考えられている(Chen et al. (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97(21): 11557−1156)。クラスタ形成したGABA−R間のタンパク質−タンパク質相互作用が結合部位またはチャネル活性化に影響を与えると考えられている(Chen et al. (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97(21): 11557−1156)。特定の理論に拘束されるものではないが、本発明者らは、β細胞上のGABA
A−Rは散在し、GABA及びアロステリック調節因子に対してより感受性であると考える。
【0185】
β細胞に対する自己免疫応答を有意に低下させることができない場合、β細胞の再生及び健全性を促進することはほとんど役に立たないことを強調する必要がある。この点に関して、提案するアルプラゾラム+GABA併用療法は、自己反応性T細胞を阻害するのと同時にTregを促進する該療法の能力に起因して勝ると考えられる。注目すべきことに、抗不安剤としての用量のアルプラゾラムは、糖尿病患者においてHbA1cを減少させることができた(Lustman et al. (1995) Diabetes Care, 18(8): 1133−1139)。本発明者らは、β細胞の生存及び複製を促進するために抗不安剤としての用量のアルプラゾラムが必要であるとしても、短期のアルプラゾラムによる治療の利点は副作用(主として眠気)に勝ると主張する。例えば膵島移植の場合、アルプラゾラムによる治療は、低酸素及びストレスに起因するβ細胞の減損を低減するために、膵島移植直後の期間に限定されることとなる。新たに発症したT1Dの場合、アルプラゾラムによる治療はGABA及び、例えば、抗CD3剤との併用で短期間行ってもよく、これは相乗的に自己免疫を抑制し且つTregを誘導し、Cペプチドレベルを抗CD3剤単独による治療後よりもより長期間維持することができる場合がある。
【0186】
実施例2 イン・ビトロにおけるINS−1細胞の増殖に対するミダゾラム及びクロナゼパムの効果の試験
この実験の目的は、イン・ビトロにおいて、INS−1細胞の増殖に対する以下の化合物の効果を試験することであった。
【0187】
ミダゾラム(MW 325):6.25mMで液体に可溶、及び
【0188】
クロナゼパム(MW315):50mMでエタノールに溶解。
【0189】
方法:
1.
3H−チミジン取り込みアッセイ:1×10
5/ウェルのINS−1細胞を表示した濃度の個々の化合物で処理し(同一試料を3回繰り返し)、0.3μCi/ウェルの
3H−チミジンの存在下、10%のFCS RPMI164培地中で48時間(最適な期間)培養した。上記細胞を回収し、個々のウェルにおける
3H−チミジンの取り込み量のレベルをベータカウンターにより測定した。
【0190】
2.MTTアッセイ:1×10
5/ウェルのINS−1細胞を、10%のFCS RPMI164培地(フェノールを含まない)中、表示した化合物で44時間処理した(同一試料を4回繰り返し)。上記細胞を20mlのMTT(20mg/ml)に4時間接触させ、培養した細胞の上清を取り出した。得られた生成物を100mlのDMSOに溶解し、マイクロプレートリーダーにて540/650nmの吸光度で測定した。
【0191】
結果:
1.ミナゾラムによる処理には、イン・ビトロでINS−1細胞の増殖を亢進させる多少の能力があるが、クロナゼパムによる処理にはその能力はない。本発明者らは、10
−4〜10
−9Mのクロナゼパムによる処理では、INS−1細胞の増殖は有意に変化しないことを見出した。10
−5Mのミダゾラムによる処理では、INS−1細胞に対して僅かに毒性が見られ、10
−7〜10
−8Mによる処理では、イン・ビトロでINS−1細胞の増殖が有意に亢進した(
図4A、p<0.05)。次に本発明者らは、これらの結果に基づいて、これらの薬物をより少ない用量範囲にわたって、更に中間的な用量も追加して試験し、10
−7〜3×10
−8Mのミダゾラムによって、イン・ビトロにおいてINS細胞の増殖が有意に亢進することを認めた(
図4B)。同様のパターンの細胞増殖がMTTアッセイによって認められた(データ非表示)。
【0192】
2.ミダゾラムまたはクロナゼパムによる処理では、イン・ビトロにおいて、GABA刺激性のINS−1細胞の増殖が亢進する。次に本発明者らは、イン・ビトロにおいて、GABA誘導性のINS−1細胞の増殖に対するミダゾラム及びクロナゼパムの効果を試験した。本発明者らは、1〜0.1mMのGABAによる処理によって、イン・ビトロにおいて、INS−1細胞の増殖が刺激されることを見出した。10
−7または3×10
−8Mのミダゾラムによる処理では、GABA誘導性のINS−1細胞の増殖が亢進した。0.03〜0.01mMのGABAによる処理ではINS−1細胞の増殖が誘導できなかった一方で、かかる低用量のGABAと10
−7または3×10
−8Mのミダゾラムの両方による処理では、INS−1細胞の増殖が有意に亢進した。低用量のGABAとミダゾラムの両方で処理した細胞におけるINS−1細胞の増殖の程度は、ミダゾラム単独で処理した細胞の増殖の程度よりも高く、このことは、ミダゾラムがGABA誘導性の細胞増殖を亢進させたことを示している。同様に、10
−7または3×10
−8Mのクロナゼパムによる処理では、イン・ビトロにおいて、GABA刺激性のINS−1細胞の増殖が有意に亢進した。GABA誘導性の細胞増殖に対するこれらの薬剤の同様のパターンの薬理学的効果がMTTアッセイによって検出された。
【0193】
上記ミダゾラムまたはクロナゼパムの亢進効果は、いくつかのベンゾジアゼピンに結合することができるトランスロケータータンパク質(18kDa)(TSPO)によって媒介されない。
【0194】
ミダゾラム及びクロナゼパムの上記効果が部分的にTSPOによって媒介されるかを試験するために、本発明者らは、ミダゾラムまたはクロナゼパムに対するTSPO阻害因子PK11195の影響によって、GABA誘導性のINS−1細胞の増殖が亢進することを試験した。本発明者らは、表示したGABAまたはミダゾラムによる処理ではINS−1細胞の増殖が誘導されるが、クロナゼパムまたはPK11195による処理では誘導されないことを見出した。GABAとミダゾラムの両方、またはGABAとクロナゼパムの両方による処理では細胞増殖が亢進し、これはPK11195の影響を受けなかった。これらのデータは、ミダゾラムまたはクロナゼパムによるINS−1細胞の増殖の亢進は、INS−1細胞におけるTSPOの活性化によって媒介されないことを示した。
【0195】
実施例3 イン・ビトロにおけるINS−1細胞の増殖に対するAP325及びAP3の効果の試験
この実験の目的は、イン・ビトロにおいて、INS−1細胞の増殖に対する以下の化合物の効果を試験することであった。
【0196】
AP32
5:DMSOに50mMで可溶、及び
【0197】
AP
3:DMSOに50mMで溶解。
【0198】
方法:
1.
3H−チミジン取り込みアッセイ:1×10
5/ウェルのINS−1細胞を表示した濃度の個々の化合物で処理し(同一試料を3回繰り返し)、0.3uCi/ウェルの
3H−チミジンの存在下、10%のFCS RPMI164培地中で48時間(最適な期間)培養した。上記細胞を回収し、個々のウェルにおける
3H−チミジンの取り込み量のレベルをベータカウンターにより測定した。
【0199】
2.MTTアッセイ:1×10
5/ウェルのINS−1細胞を、10%のFCS RPMI164培地(フェノールを含まない)中、表示した化合物で44時間処理した(同一試料を4回繰り返し)。この細胞を20mlのMTT(20mg/ml)に4時間接触させ、培養した細胞の上清を取り出した。得られた生成物を100mlのDMSOに溶解し、マイクロプレートリーダーにて540/650nmの吸光度で測定した。
【0200】
結果:
AP325またはAP3(単独)による処理では、イン・ビトロにおいて、INS−1細胞の増殖は刺激されない。
本発明者らは、10
−4〜10
−5MのAP325またはAP3による処理では、イン・ビトロにおいて、INS−1細胞の増殖が有意に阻害されることを見出した(
図6)。10
−6〜10
−10ではどちらの化合物による処理でもINS−1細胞の増殖は阻害されなかったが、これらの処理ではINS−1細胞の増殖は有意に増加することはなかった。注目すべきことに、10
−7〜10
−8のAP325による処理ではINS−1細胞の増殖が僅かに増加した(但し、これは有意な増加ではなかった)が、AP3による処理では増加は見られなかった。同様のパターンの細胞の生存がMTTアッセイによって検出された(データ非表示)。したがって、高用量の両方の化合物はINS−1細胞に対して毒性を有し、10
−6〜10
−10のこれらの化合物はイン・ビトロにおいてINS細胞の増殖の如何なる刺激も示さなかった。
【0201】
AP325による処理では、イン・ビトロにおいて、GABA刺激性のINS−1細胞の増殖が亢進する。
次に本発明者らは、イン・ビトロにおいて、GABA誘導性のINS−1細胞の増殖に対するAP325またはAP3の効果を試験した。本発明者らは、1〜0.1mMのGABAによる処理では、イン・ビトロにおいて、INS−1細胞の増殖が刺激されるが、GABA 0.03または0.01mMによる処理では、イン・ビトロにおいて、INS−1細胞の増殖は有意に刺激されないことを見出した(
図7)。10
−6MのAP325による処理ではINS−1細胞の増殖は有意に変化しなかった(データ非表示)。しかしながら、10
−7〜10
−8MのAP325による処理、特に3×10
−7〜3×10
−8MのAP325による処理では、GABA誘導性のINS−1細胞の増殖が有意に亢進した。注目すべきことに、0.03または0.01mMのGABA単独での処理では、本発明者らの実験条件下でINS−1細胞の増殖を刺激することができなかった一方で、0.03mMのGABAを伴う3×10
−7〜10
−8MのAP325による処理では、INS−1細胞の増殖が有意に促進された。更に、0.01mMのGABAを伴う10
−7MのAP325による処理でも、イン・ビトロにおいて、INS−1細胞の増殖が有意に刺激された。同様のパターンのデータがMTTアッセイから得られた(データ非表示)。したがって、これらのデータは、AP325によって、イン・ビトロにおいて、GABA刺激性のINS−1細胞の増殖が亢進することを示した。
【0202】
AP3による処理では、イン・ビトロにおいて、GABA刺激性のINS−1細胞の増殖が亢進する。
AP3の分析によって、10
−6MのAP3による処理では、INS−1細胞の増殖が有意に変化しないことが明らかになった(データ非表示)。しかしながら、3×10
−7〜3×10
−8MのAP3による処理では、0.1mM GABA誘導性のINS−1細胞の増殖が有意に亢進した(
図8)。注目すべきことに、0.03mMのGABAを伴う3×10
−7〜10
−8MのAP3による処理ではINS−1細胞の増殖が有意に促進された。更に、0.01mMのGABAを伴う10
−7〜10
−8MのAP3による処理でも、イン・ビトロにおいて、INS−1細胞の増殖が有意に刺激された。同様のパターンのデータがMTTアッセイから得られた(データ非表示)。したがって、これらのデータは、AP3によって、イン・ビトロにおいて、GABA刺激性のINS−1細胞の増殖が亢進することを示した。
【0203】
結論:
AP325及びAP3はイン・ビトロにおいてGABA誘導性のINS−1細胞の増殖を亢進させることができる。
【0204】
実施例4 臨床的に適用可能なGABA受容体陽性アロステリック調節因子がβ細胞の複製を促進することができる。
1型糖尿病(T1D)研究の重要な目標は、ヒトβ細胞の複製を安全に促進するための治療法を開発することである。β細胞上のγ−アミノ酪酸受容体(GABA−R)の活性化がβ細胞の生存及び複製を促進することができることが最近認識されるようになっている。神経細胞のGABA
A−Rに対するGABAの作用を亢進させる多くの陽性アロステリック調節因子(PAM)が臨床で使用されている。これらのGABA
A−R PAMを糖尿病の治療に役立てるための別の目的に用いることは、それらの安全性ならびに、β細胞から分泌される、または外因的に投与されるGABAのβ細胞の複製及び生存を促進する能力を亢進する潜在的能力という理由により、理論的に魅力がある。ここでは、本発明者らは、臨床的に適用可能なGABA
A−R PAMがINS−1 β細胞の複製を亢進させることができること、及びこれが外因性GABAの適用によって増幅されることを示す。更に、GABA
A−R PAMは、イン・ビトロにおいて、ヒト膵島細胞の複製を促進した。この効果はGABA
A−Rアンタゴニストによって消失し、このことはβ細胞から放出されたGABAが、PAMによって亢進し得る自己分泌有糸分裂促進効果を有し得ることを示唆した。PAMと低レベルの外因性GABAの併用によって、ヒトβ細胞の複製を促進する能力が向上した。これらの検討によって、T1D治療に対する可能性をもつ新規な種別の薬物が特定され、GABA
A−R PAMが糖尿病患者においてHbA1cを低減した過去の所見を説明することができる。
【0205】
序論
T1D研究の目標は、β細胞の複製を安全に促進できる手法を見出すことである。しかしながら、ヒトβ細胞の複製を亢進させることができる薬剤はほとんど見つかっていない。げっ歯動物及びヒトのβ細胞は、GABA−R(GABA
A−R及びGABA
B−Rの両方)を発現することが長い間知られている(Braun et al. (GABA) (2010) Diabetes, 59: 1694−1701)が、ごく最近になって、GABA−Rを活性化することによってβ細胞の生存及び複製を促進し、量を増加させることができることが明らかになっている(Ligon et al. (2007) Diabetologia, 50: 764−773;Soltani et al. (2011) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108: 11692−11697;Tian et al. (2013) Diabetes, 62: 3760−3765;Prud’homme et al. (2103) Transplantation, 96(7): 616−623;Purwana et al. (2014) Diabetes, 63(12): 4197−4205)。GABA
A−R PAMはGABAの作用を亢進させる。GABA
A−R PAMはGABA結合部位に結合するのではなく、GABA
A−R上の他の場所に結合し、GABA
A−R塩素イオンチャネルを開口させることができない一方で、GABAが受容体に結合していると、Cl
−コンダクタンスを増加させる。GABAは血液脳関門(BBB)を通過する能力がほとんどまたは全くないことから、ベンゾジアゼピンなどのBBB透過性GABA
A−R PAMが、発作、不眠症、及び不安症などのCNS障害を治療するために、CNS神経細胞によって分泌されるGABAの作用を亢進させるために開発された。理論的には、これらのPAMを、β細胞の有糸分裂誘導を促進するために膵島内で放出されるGABAの作用を亢進させるための異なる目的に用いることができる。
【0206】
ここでは、本発明者らは、臨床的に適用可能なGABA
A−R PAMをβ細胞の複製を促進する能力について試験した。詳細には、異なる種別のベンゾジアゼピンを代表するアルプラゾラム、ミダゾラム、及びクロナゼパムを、β細胞株INS−1の複製を促進する能力について試験した。アルプラゾラムは不安症の治療に広く使用されており、この薬剤に対して年間5千万件近くの処方箋が書かれている。アルプラゾラムは、指示通りに用いられれば長期間使用しても安全である(Jonas et al. (1993) J. Clin. Psychiatry, 54 Suppl: 25−45;discussion 46−28及びhttp://www.fda.gov/safety/medwatch/safetyinformation/ucm271398.htm)。また、本発明者らは、末梢に制限されている新規に開発された非ベンゾジアゼピン系GABA
A−R PAMであるAP3を試験した。次いで本発明者らは、イン・ビトロでのヒト膵島細胞の複製に対する、外因性GABAを伴うまたは伴わないアルプラゾラムの効果を調べた。
【0207】
研究設計及び方法
アルプラゾラム、ミダゾラム、クロナゼパム、PK11195、及びビククリンはSigma−Aldrichから購入し、AP3はAlgiax Pharmaceuticals GmbHから供給を受けた。アルプラゾラム(10mMのDMSO溶液)、ミダゾラム(6.25mMの水溶液)、クロナゼパム(50mMのEtOH溶液)、またはAP3(50mMのDMSO溶液)の原液を表示した濃度へと培地中で希釈した。
【0208】
増殖アッセイ
1×10
5/ウェルのINS−1細胞を表示した濃度の個々の化合物で処理し(同一試料を3回繰り返し)、
3H−チミジン(0.3μCi/ウェル)の存在下、10%のFCS RPMI164培地中で48時間(最適な期間)培養した。個々のウェルにおける
3H−チミジンの取り込み量のレベルをシンチレーションカウンターにより測定した。
【0209】
新鮮なヒト膵島を、the Integrated Islet Distribution Programより入手し、膵島(50〜75IEQ/ウェル)を、
3H−チミジン(0.2μCi/ウェル)の存在下、表示したPAMと共に、またはPAMなしで4日間、表示した用量のGABAで処理した。
【0210】
結果
INS−1細胞はベンゾジアゼピン結合GABA
A−Rサブユニットを発現する。
GABAはINS−1細胞の増殖を亢進させることができる(Soltani et al. (2011) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108: 11692−11697)が、INS−1細胞がベンゾジアゼピンに感受性のGABA
Aサブユニットを発現するかは不明である。本発明者らは、qRT−PCRを用いて、ベンゾジアゼピンに対する感受性を付与するGABA
A−Rサブユニット(α
1、α
2、α
3、及びα
5)の発現に関して、INS−1細胞RNAを試験した。本発明者らは、α
1、α
3、及びα
5転写物ならびにβ1、γ1、γ2、γ3サブユニットを検出し(データ非表示)、このことはINS−1細胞がベンゾジアゼピンに感受性であるGABA
A−Rを発現し得ることを示す。
【0211】
INS−1細胞はGABAを合成する能力が比較的低い。
β細胞はGADを発現し、自己分泌の形態で作用し得るGABAを分泌する。INS−1細胞もまたGABAを合成するかどうかは不明である。したがって、本発明者らはINS−1細胞におけるGAD酵素活性を試験した。本発明者らは、INS−1細胞におけるGAD活性はヒト膵島におけるGAD活性よりもかなり小さく、同様にマウスの脳におけるGAD活性よりも小さいことを見出した(
図9A)。それにもかかわらず、INS−1細胞におけるGAD活性は、陰性対照293T細胞のGAD活性よりも一貫して約2倍大きく、このことは、INS−1細胞が自己分泌の形態で作用し得る低レベルのGABAを産生することができることを示唆している。
【0212】
GABA
A−R PAMはイン・ビトロにおいてINS−1の増殖を促進する。
本発明者らは、イン・ビトロにおいてINS−1細胞の増殖に対する種々の濃度の各PAMの影響を試験した。10nMまたは/及び100nMのアルプラゾラムまたはミダゾラムによる処理ではINS−1細胞の増殖が有意に刺激されたが、クロルナゼパムまたはAP3による処理では刺激されなかった(
図9B)。更に、0.03〜0.3mMのGABA(単独)による処理では、以前の所見と同様にINS−1細胞の増殖が刺激された(
図9C〜G)(Soltani et al. (2011) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108: 11692−11697)。0.01mMのGABAによる処理ではINS−1の増殖が刺激されなかった(
図9C〜G)一方で、30nMまたは100nMのアルプラゾラムの存在下での同一用量のGABAでは、INS−1細胞の増殖が有意に増加し、該増殖はアルプラゾラム単独による処理または10倍高い濃度のGABA単独(0.1mM)による処理と比較した場合でさえも有意に高かった(
図9C)。しかし、高濃度のGABA(0.1mMまたは0.3mM)では、アルプラゾラムのGABAの有糸分裂促進効果を亢進させる能力がより小さく、これはおそらく高濃度のGABAが既に最大のGABA
A−R応答を誘導したためであった。同様に、低用量のミダゾラム、クロナゼパム、またはAP3では、GABA刺激性のINS−1細胞の増殖が亢進した(
図9D〜G)。したがって、GABA
A−R PAMは、GABA誘導性のβ細胞の増殖を亢進させることができる。
【0213】
いくつかのベンゾジアゼピンは、以前「末梢性ベンゾジアゼピン受容体」と呼ばれていたミトコンドリアトランスロケータータンパク質(TSPO)に結合する。アルプラゾラムはTSPOに結合しない(Schmoutz et al. (2014) Behav. Brain. Res. 271: 269−276)。ミダゾラム及びクロナゼパムがTSPOを介してINS−1細胞の増殖を亢進させ得るかを試験するために、INS−1細胞をTSPO阻害因子PK11195と共に培養し、ミダゾラムまたはクロナゼパムの存在下、0.3mMのGABAで刺激した。PK1119による処理では、GABA及び被験ベンゾジアゼピンのINS−1細胞の複製を亢進させる能力に影響はなく(
図9H)、このことは、この効果がTSPOによって媒介されてはいないことを示す。
【0214】
アルプラゾラムは膵島産生GABAのヒト膵島細胞の複製を促進する能力を亢進させる。
次に本発明者らは、PAMがヒト膵島細胞の複製を亢進させることができるかを試験した。本発明者らはアルプラゾラムの試験に絞り込んだ。その理由はアルプラゾラムの安全性の記録及びアルプラゾラムによる治療が糖尿病患者のHbA1cを低減したとの知見にあった(Lustman et al. (1995) Diabetes Care18: 1133−1139)。本発明者らはある用量範囲のアルプラゾラムと共にヒト膵島を培養し、低濃度のアルプラゾラムがヒト膵島細胞の増殖を促進することを認めた(
図10)。免疫組織学的研究により、GABAはヒトβ細胞の複製を増加させるが、α細胞の複製には影響を及ぼさないことが明らかになっており(Purwana et al. (2014) Diabetes, 63(12): 4197−4205及び本発明者らの未発表の所見)、他の膵島細胞型はGABA−Rを発現しないことから、複製する膵島細胞の大部分はβ細胞である可能性が高い。これらの培養物にCa
2+チャネル遮断因子であるニフェジピン(1uM)を添加したところ、アルプラゾラムの有糸分裂促進効果がブロックされ(データ非表示)、このことは、このPAMがGABA
A−R媒介性のPI3K/Akt経路の活性化を亢進させるとの考えと整合する(Soltani et al. (2011) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108: 11692−11697)。
【0215】
アルプラゾラムは、GABAと無関係にはGABA
A−Rを有意に活性化することができないことから、アルプラゾラムは、膵島β細胞から分泌されるGABAと連動して作用し、β細胞の複製をその基礎レベルを超えて増加させたと考えられる。本発明者らは、アルプラゾラムを、GABA
A−Rに対するGABAの結合を競争的に阻害するGABA
A−Rアンタゴニストであるビククリン(Johnston (2013) Br. J. Pharmacol. 169: 328−336)と共にヒト膵島培養物に添加した。本発明者らは、ビククリンの適用によって、膵島細胞の増殖を促進するアルプラゾラムの能力が消失したことを認めた(
図11)。このことは、膵島産生GABAが自己分泌の形態でβ細胞の複製を促進する可能性があること、及びGABA
A−Rの活性を亢進させることがβ細胞の複製をより高いレベルに押し上げる可能性があることを示唆している。
【0216】
アルプラゾラムとGABAの併用では、イン・ビトロにおいて、低用量でヒト膵島細胞の複製を促進する能力が亢進する。
次に本発明者らは、イン・ビトロにおいて、アルプラゾラムが、外因性GABAのヒト膵島細胞の複製を促進する能力を亢進させることができるかを試験した。ヒト膵島を、100nMのアルプラゾラムの存在下または非存在下で、種々の濃度のGABAを用いてまたは用いずに処理した。本発明者らは、0.3〜3mMのGABA(単独)では、用量依存の形態でヒト膵島細胞の増殖が有意に亢進するが、より低い用量では亢進しないことを見出した(
図12)。アルプラゾラムとGABAとの併用療法では、対応するGABA(単独)の用量と比較してヒト膵島細胞の増殖が有意に増加した(
図12)。注目すべきことに、0.03mMのGABAによる処理ではヒト膵島細胞の増殖は有意に亢進しなかった一方で、同一用量のGABAとアルプラゾラムとで一緒に処理すると、ヒト膵島細胞の増殖が有意に亢進した(
図12)。GABAを単独で用いて同様のレベルの増殖を達成するには、10倍高いレベルのGABA(0.3mM)を必要とした。したがって、アルプラゾラムは、β細胞の増殖を誘導するのに必要なGABAの量を大幅に減少させる。
【0217】
考察
GABA−Rの活性化によって、β細胞をアポトーシスから保護し、β細胞の複製を促進することができる(Ligon et al. (2007) Diabetologia, 50: 764−773;Soltani et al. (2011) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108: 11692−11697;Tian et al. (2013) Diabetes, 62: 3760−3765;Prud’homme et al. (2103) Transplantation, 96(7): 616−623;Purwana et al. (2014) Diabetes, 63(12): 4197−4205)。経口投与でのGABAによる処置によって、膵島異種移植物において、ヒトβ細胞の複製が数倍、一般的には成人のヒトβ細胞の1%未満から約2〜3%へと増加し(Tian et al. (2013) Diabetes, 62: 3760−3765;Purwana et al. (2014) Diabetes, 63(12): 4197−4205)、これは出生直後に起こる最大レベルのβ細胞の複製に類似する。この亢進はGABAによる処置の5週間後において減弱せず、ヒト膵島異種移植物においてβ細胞の量及び機能が増加する結果となった(Purwana et al. (2014) Diabetes, 63(12): 4197−4205)。したがって、臨床的に適用可能なPAMを、膵島内で産生されるGABAの活性または外因性GABAの効果を亢進するための別の目的に用いることは、T1Dの治療に役立つ魅力的な戦略である。
【0218】
本発明者らはまず、3種の臨床的に適用可能なBBB透過性ベンゾジアゼピンPAM、ならびに末梢に制限されている非ベンゾジアゼピンPAMが、INS−1細胞の増殖を促進することができるかを試験した。本発明者らは、INS−1細胞がベンゾジアゼピン感受性を付与するであろうGABA
A−Rサブユニットを発現すること、及びこれらの細胞が低レベルのGABAを産生することができることを見出した。本発明者らは、4種の被験PAMの内の2種が、少なくとも1の試験した用量において、低位ではあるが有意である、INS−1の複製を促進する能力を有することを見出した。GABAを外因的に培養培地に加えたところ、全ての被験PAMによって、低レベルのGABAのINS−1細胞の増殖を誘導する能力が亢進した。事実、INS−1細胞の複製を促進する能力を殆どまたは全くもたなかった低レベルの外因性GABAが、ナノモルレベルのそれぞれのPAMの存在下では上記能力を有していた。
【0219】
本発明者らは、本発明者らがINS−1細胞に対して試験した4種のPAMの中から、アルプラゾラムの安全性プロファイル及びアルプラゾラムによる治療によって糖尿病患者におけるHbA1cが低下したとの過去の所見(Lustman et al. (1995) Diabetes Care18: 1133−1139、後述を参照のこと)を理由に、アルプラゾラムを前に進めて、ヒト膵島細胞の複製に対するその効果を検討した。本発明者らは、アルプラゾラム(単独)がイン・ビトロにおいてヒト膵島細胞の複製を亢進させることを認めており、これは、アルプラゾラムがβ細胞から分泌されたGABAと連動して作用したためである可能性が最も高い。実際に、アンタゴニストであるビククリンによってGABAの結合を遮断することにより、アルプラゾラムの膵島細胞の複製を亢進させる能力が消失した。このことは、β細胞から放出されるGABAがβ細胞に対する有糸分裂促進活性を有することができ、この活性がPAMによって亢進し得ることを示唆する。これらの培養物にニフェジピンを添加することによってアルプラゾラムの有糸分裂促進効果が遮断されており、このことは、アルプラゾラムによってGABA
A−R媒介性のPI3K/Akt経路の活性化が亢進することを示唆している(Soltani et al. (2011) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108: 11692−11697)。
【0220】
アルプラゾラムと外因性GABAとは、併用においてより高いヒトβ細胞の複製を促進する能力を有し、10倍高いレベルのGABAと同様のレベルのβ細胞の複製を実現した。免疫組織学的分析によって、GABAはヒトβ細胞の複製を増加させるが、α細胞の複製に対しては影響を及ぼさないことが明らかになっており(Purwana et al. (2014) Diabetes, 63(12): 4197−4205、及び本発明者らの未発表の所見)、また膵島δ及びPP細胞がGABA−Rを発現することは知られていないことから、本発明者らのアッセイにおいて複製が起きた膵島細胞の大部分はβ細胞である可能性が高い。
【0221】
1990年代初頭に実施された臨床治験において、糖尿病が十分に管理されていない不安症の及び不安症ではない個人をアルプラゾラムによって治療し、不安症を軽減することが、不安症の患者が当該患者の糖尿病をより良好に管理することに対して役立つことができるかを判定した。アルプラゾラムによる治療では、当該患者が不安症を患っているか否かにかかわらずHbA1cレベルが低下し、プラセボでは低下が見られなかったことが予期せぬ知見であった(Lustman et al. (1995) Diabetes Care18: 1133−1139)。これらの結果は、アルプラゾラムが神経伝達物質及び神経ホルモンの放出を鈍化させることに起因すると考えられた。本発明者らの知見に照らして、HbA1cに対するアルプラゾラムの有益な効果は、少なくとも部分的に、β細胞の生存及び複製を促進する膵島GABAの能力の亢進から生じている可能性がある。
【0222】
本発明者らは、本発明者らの知見が臨床上の利益につながることができるいくつかの異なる経路を想定している。第1に、BBB透過性PAMをCNS適応症に用いられる用量よりも低い用量で用いて、糖尿病患者においてβ細胞の量及び機能を向上させることができる可能性がある。第2に、T1D発症後のβ細胞の量が介入療法の成功を決定づける主要な要因であることから、短期間のPAMによる治療が残存するβ細胞の量を維持することに役立ち、それによって介入療法の結果を改善する可能性がある。この線に沿って、GABAによる治療が、新たに糖尿病になったNODマウスにおけるβ細胞の複製及び生存を亢進させており(Soltani et al. (2011) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108: 11692−11697;Tian et al. (2014) Diabetes, 63: 3128−3134)、このことは、僅かな量のβ細胞しか残存していない場合であっても、β細胞の自己反応性の存在下では、GABA−R活性を亢進させることが有益であり得ることを示している。第3に、ヒト膵島異種移植においてβ細胞の生存を向上させるGABAによる治療の能力(Tian et al. (2013) Diabetes, 62: 3760−3765;Purwana et al. (2014) Diabetes, 63(12): 4197−4205)によって示唆されるように、短期間のPAMによる治療が、膵島移植後の低酸素及びストレスに起因するβ細胞の減損を低減するのに役立つ可能性がある。最後に、免疫細胞もまたGABA−Rを発現し、免疫細胞の活性化は炎症促進性免疫応答を阻害し、その結果、T1D、実験的自己免疫脳脊髄炎、関節リウマチ及びT2Dのマウスモデルにおいて、GABAによる治療が疾患を改善する(Soltani et al. (2011) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108: 11692−11697;Prud’homme et al. (2103) Transplantation, 96(7): 616−623;Tian et al. (2014) Diabetes, 63: 3128−3134;Mendu et al. (2011) Mol. Immunol. 48: 399−407;Bhat et al. (2010) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107: 2580−2585;Huang et al. (2015) J. Cell Physiol. 230: 1438−1447;Duthey et al. (2010) Exp. Dermatol. 19: 661−666;Tian et al. (2011) PLoS One, 6(9): e25338;Tian et al. (2014) J. Immunol. 173: 5298−5304;Tian et al. (2011) Autoimmunity, 44: 465−470)。したがって、末梢に制限されているGABA
A−R PAM、または臨床的用量未満のBBB透過性PAMと低用量GABAとの併用は、CNSの影響を回避し、β細胞の量/機能を促進し、ならびに自己反応性T細胞の応答を制御するのに役立つ可能性がある。
【0223】
本明細書に記載の実施例及び実施形態は例証のみを目的とすること、ならびにその目的に照らして種々の改変または変更が当業者に示唆されることとなり、該改変または変更は、本出願の趣旨及び範囲ならびに添付の特許請求の範囲に包含されることが理解される必要がある。本明細書において引用される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、この記載により、あらゆる目的のためにそれらの全体が参照により援用される。