特許第6957618号(P6957618)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6957618
(24)【登録日】2021年10月8日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】アキュムレータ
(51)【国際特許分類】
   F15B 1/10 20060101AFI20211021BHJP
【FI】
   F15B1/10
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-526980(P2019-526980)
(86)(22)【出願日】2018年6月27日
(86)【国際出願番号】JP2018024370
(87)【国際公開番号】WO2019004284
(87)【国際公開日】20190103
【審査請求日】2020年12月18日
(31)【優先権主張番号】特願2017-126983(P2017-126983)
(32)【優先日】2017年6月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】吉原 永朗
(72)【発明者】
【氏名】上村 真也
【審査官】 北村 一
(56)【参考文献】
【文献】 西独国特許出願公開第02754606(DE,A1)
【文献】 実開平06−040403(JP,U)
【文献】 特開平11−082401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 1/00− 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス封入口とオイルポートとを有し、前記ガス封入口側から前記オイルポート側へかけて内径寸法が徐々に拡大する第1の曲面と、前記オイルポート側から前記ガス封入口側へかけて内径寸法が徐々に拡大する第2の曲面とを内面に有するアキュムレータハウジングと、
前記第1の曲面と前記第2の曲面とが交わる位置で前記アキュムレータハウジングの内面に固定された環状の固定部と、前記固定部の内周端部から前記オイルポート側へ向けて設けられた円筒状のフック部とを有するダイアフラム保持部と、
前記フック部と前記第2の曲面との間に挟まれて保持される外周取付部と、前記アキュムレータハウジングの内部の圧力変動に応じて変形する可撓部と、前記外周取付部と前記可撓部との間に設けられて前記可撓部と共に反転する方向に変形する反転部とを備え、前記アキュムレータハウジングの内部を前記ガス封入口に通じるガス封入室と前記オイルポートに通じるフルード室とに仕切るダイアフラムと、
前記ダイアフラム保持部と前記第1の曲面の一部とにまたがって接するように前記アキュムレータハウジングの内部に設けられ、前記アキュムレータハウジング内部の圧力変動によって変形した前記ダイアフラムの前記反転部とこの反転部に続く前記可撓部の一部と接触面に接触させて前記ダイアフラムの変形姿勢を規制する応力緩和部材と、
を備え
前記接触面は、前記オイルポートから軸方向に遠ざかるにしたがって内径寸法が徐々に縮小する凸状の断面円弧形に形成された傾斜面を有しており、
前記応力緩和部材が接している前記第1の曲面の一部の領域の軸方向長さよりも、前記第1の曲面の残りの一部の領域の軸方向長さの方が長い、
ことを特徴とするアキュムレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アキュムレータに係り、更に詳しくは、アキュムレータハウジングの内部に可撓性を備えるダイアフラムを設けたダイアフラム型アキュムレータに関する。本発明のアキュムレータは、例えば自動車用車載アキュムレータとして用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来から図3に示すように、ガス封入口22およびオイルポート23を設けたアキュムレータハウジング21を有し、このアキュムレータハウジング21の内部空間をガス封入室24とフルード室25とに仕切るように可撓性を備えるダイアフラム41をアキュムレータハウジング21の内部に設けたダイアフラム型アキュムレータ11が知られている。ガス封入室24は、ガス封入口22に通じている。フルード室25は、オイルポート23に通じている。
【0003】
ダイアフラム41は、外周取付部42と可撓部43と反転部44とを一体に有する樹脂またはゴムの積層構造物である。外周取付部42は、アキュムレータハウジング21の側部内面に設けたダイアフラム保持部31に保持される。可撓部43は、アキュムレータハウジング21内部の圧力変動に応じて変形する。反転部44は、外周取付部42および可撓部43間に設けられ、可撓部43と共に変形する断面略U字形の反転部44とを一体に有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−372002号公報
【特許文献2】特開2004−286193号公報
【特許文献3】特開2007−270872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記アキュムレータ11には、以下の点で改良の余地がある。
【0006】
上記アキュムレータ11では、アキュムレータハウジング21内部に圧力変動が生じると、これに伴ってダイアフラム41が圧力均衡点を求めて変形する。このとき作動圧縮比(=作動圧/封入ガス圧)が高くなると、ダイアフラム41の可撓部43がガス封入室24側へ大きく変位し、反転部44の反転度合いがきつくなって、反転部44がダイアフラム保持部31の内周面に押し付けられる。これによって反転部44に過大応力が発生し、これが繰り返されることで、ダイアフラム41の破損に至ることがある。
【0007】
例えば図4に示す比較例のアキュムレータ11では、図5に示すように圧縮比が高くなるのに伴って、発生する内部応力(応力比)が以下のように変化する。
図5(A)/圧縮比:2.5
図5(B)/圧縮比:6.0 →図5(A)対比の応力比:1.0
図5(C)/圧縮比:11.0 →図5(A)対比の応力比:1.4
図5(D)/圧縮比:18.9 →図5(A)対比の応力比:1.7
図5(D)の状態になると、発生する内部応力が170%にまで達することから、これが繰り返されることで、ダイアフラム41の破損に至ることがある。
【0008】
キュムレータの作動圧縮比が高くなっても、ダイアフラムに発生する内部応力を緩和することができ、もってダイアフラムの破損を抑制し、ダイアフラムの耐久性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
キュムレータは、ガス封入口とオイルポートとを有し、前記ガス封入口側から前記オイルポート側へかけて内径寸法が徐々に拡大する第1の曲面と、前記オイルポート側から前記ガス封入口側へかけて内径寸法が徐々に拡大する第2の曲面とを内面に有するアキュムレータハウジングと、前記第1の曲面と前記第2の曲面とが交わる位置で前記アキュムレータハウジングの内面に固定された環状の固定部と、前記固定部の内周端部から前記オイルポート側へ向けて設けられた円筒状のフック部とを有するダイアフラム保持部と、前記フック部と前記第2の曲面との間に挟まれて保持される外周取付部と、前記アキュムレータハウジングの内部の圧力変動に応じて変形する可撓部と、前記外周取付部と前記可撓部との間に設けられて前記可撓部と共に反転する方向に変形する反転部とを備え、前記アキュムレータハウジングの内部を前記ガス封入口に通じるガス封入室と前記オイルポートに通じるフルード室とに仕切るダイアフラムと、前記ダイアフラム保持部と前記第1の曲面の一部とにまたがって接するように前記アキュムレータハウジングの内部に設けられ、前記アキュムレータハウジング内部の圧力変動によって変形した前記ダイアフラムの前記反転部とこの反転部に続く前記可撓部の一部と接触面に接触させて前記ダイアフラムの変形姿勢を規制する応力緩和部材と、を備え、前記接触面は、前記オイルポートから軸方向に遠ざかるにしたがって内径寸法が徐々に縮小する凸状の断面円弧形に形成された傾斜面を有しており、前記応力緩和部材が接している前記第1の曲面の一部の領域の軸方向長さよりも、前記第1の曲面の残りの一部の領域の軸方向長さの方が長い。
【発明の効果】
【0010】
キュムレータの作動圧縮比が高くなっても、ダイアフラムに発生する内部応力を緩和することができるので、ダイアフラムの破損を抑制し、ダイアフラムの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態のアキュムレータの断面図。
図2】他の実施の形態のアキュムレータの断面図。
図3】背景技術のアキュムレータの断面図。
図4】比較例のアキュムレータの断面図。
図5】同アキュムレータにおける圧縮比および応力比の変化を示す説明図。
図6】比較試験の結果を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態を図1及び図2に基づいて説明する。図3及び図4に示したアキュムレータと同一部分または相当する部分は同一符号で示す。
【0013】
図1は、実施の形態のアキュムレータ11を一部で裁断した断面図を示している。実施の形態のアキュムレータ11は、アキュムレータハウジング21の内部に可撓性を備えるダイアフラム41を設けたダイアフラム型アキュムレータである。
【0014】
実施の形態のアキュムレータ11は、ガス封入口22およびオイルポート23を設けたアキュムレータハウジング21を有し、このアキュムレータハウジング21の内部に可撓性を備えるダイアフラム41を設けている。ダイアフラム41は、アキュムレータハウジング21の内部空間を、ガス封入口22に通じるガス封入室(ガス室)24とオイルポート23に通じるフルード室(液室)25とに仕切っている。
【0015】
アキュムレータハウジング21は、金属部品の絞り加工によって成形されたシェル26を有しており、その内面は、断面円弧形の曲面27,28の組み合わせ形状を備えている。ハウジング21内面に形成される曲面は、ガス封入口22側からオイルポート23側へかけて内径寸法が徐々に拡大する向きのガス封入口側の曲面27と、反対にオイルポート23側からガス封入口22側へかけて内径寸法が徐々に拡大する向きのオイルポート側の曲面28との組み合わせを有している。オイルポート側の曲面28は、円筒面からの絞り加工によって形成されている。
【0016】
シェル26の最大内径部には、ダイアフラム41を保持するためのフック状を呈する環状のダイアフラム保持部(ホルダ)31が設けられている。ダイアフラム保持部31は、アキュムレータハウジング21の内面に固定された環状平板状の固定部32と、固定部32の内周端部からオイルポート23側(図では下方)へ向けて設けられた円筒状のフック部33とを一体に有している。ダイアフラム保持部31は、断面L字形を呈するフック状に形成されている。
【0017】
ダイアフラム41は、外周取付部42と可撓部43と反転部44とを一体に有する樹脂またはゴムの積層構造物である。外周取付部42は、アキュムレータハウジング21の側部内面に設けたダイアフラム保持部31に保持される。可撓部43は、アキュムレータハウジング21内部の圧力変動に応じて変形する。反転部44は、外周取付部42および可撓部43間に設けられ、可撓部43と共に変形する断面略U字形の反転部44とを一体に有している。可撓部43の平面中央には、ダイアフラム41がオイルポート23の透孔にはみ出すのを抑制するためのポペット45が取り付けられている。ダイアフラム41は全体に高圧縮対応として、ガス封入室24側に凸形状のダイアフラムとされている。ダイアフラム41はブラダとも称される。
【0018】
上記の構成は、図4に示した比較例のアキュムレータ11と基本的に同じ構成であり、作動圧縮比(=作動圧/初期封入ガス圧)が高くなると、ダイアフラム41の可撓部43がガス封入室24側へ大きく変位し、このとき反転部44の反転度合いがきつくなって、反転部44がダイアフラム保持部31の内周面に押し付けられる。図4に示すアキュムレータ11ではこのとき反転部44に過大応力が発生し、これが繰り返されることで、ダイアフラム41の破損に至ることがある。この課題に対して、本実施の形態は、以下の対策をとっている。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態のアキュムレータ11は、アキュムレータハウジング21の内面に、ダイアフラム41に発生する応力を低減させる応力緩和部材51を備えている。応力緩和部材51は、アキュムレータハウジング21内部の圧力変動によってダイアフラム41の可撓部43がガス封入室24側へ変位したときに、ダイアフラム41の可撓部43および反転部44が接触することにより、可撓部43および反転部44の変形姿勢を規制して変形を停止させ、変形量を少なく抑える。
【0020】
応力緩和部材51は、ガス封入室24に配置されている。応力緩和部材51は、ダイアフラム保持部31の内周側から、ダイアフラム保持部31のガス封入口22側(図では上方)であってかつアキュムレータハウジング21におけるガス封入口側の曲面27の内周側へかけての位置に配置されている。応力緩和部材51は、ダイアフラム保持部31およびアキュムレータハウジング21に対して固定されている。
【0021】
応力緩和部材51は、樹脂またはゴムによって環状に形成され、ダイアフラム保持部31の内周側に配置される薄肉の部分52と、ダイアフラム保持部31のガス封入口22側であってかつアキュムレータハウジング21におけるガス封入口側の曲面27の内周側に配置される厚肉の部分53とを一体に有している。応力緩和部材51は、ダイアフラム保持部31におけるフック部33の内周面に接する円筒面状の外周面と、ダイアフラム保持部31における固定部32のガス封入口側端面に接する軸直角平面状の端面と、アキュムレータハウジング21におけるガス封入口側の曲面27に接する外周曲面と、更に内周面とを有している。内周面は、ダイアフラム41が変形時に接離可能に接触する環状の接触面55とされている。
【0022】
接触面55は、ダイアフラム41の反転部44から軸方向に遠ざかるのにしたがって、即ちオイルポート23側からガス封入口22側へかけて内径寸法が徐々に縮小する向きのテーパ状の傾斜面とされている。傾斜面は断面直線状であっても良いが、本実施の形態では凸状の断面円弧形に形成されている。
【0023】
応力緩和部材51はその全体として、ダイアフラム41の変形位置に模した形状(シェル26に沿うよう設けられ、更にダイアフラム保持部31のオイルポート側端部に向かって薄くなる構造)に形成されている。応力緩和部材51は緩衝部材とも称される。
【0024】
上記構成を備えるアキュムレータ11では、アキュムレータハウジング21内部の圧力変動によってダイアフラム41の可撓部43がガス封入室24側へ変位したときに、ダイアフラム41の可撓部43および反転部44が応力緩和部材51の接触面55に接触する。この接触によって可撓部43および反転部44の変形姿勢が規制されて変形が停止され、変形量が少なく抑えられる。その結果アキュムレータ11は、ダイアフラム41に発生する内部応力を低減させ、ダイアフラム41の破損を抑制し、ダイアフラム41の耐久性を向上させることができる。
【0025】
本実施の形態のアキュムレータ(応力緩和部材あり)と図4に示した比較例のアキュムレータ(応力緩和部材なし)とを比較すると、図6の比較試験結果のグラフ図に示すとおり、本実施の形態のアキュムレータの方が、ダイアフラム41に発生する内部応力(最大応力)が小さくなっている。したがって応力緩和部材51による効果が確認されている。
【0026】
実施に際しては、応力緩和部材51の内周面に設定する接触面55を本実施の形態のようにオイルポート23側からガス封入口22側へかけて内径寸法が徐々に縮小するテーパ状の傾斜面とせずに、アキュムレータ中心軸線Oと平行な円筒面(軸方向ストレート面)にすることも可能である。この場合には、ダイアフラム41に発生する内部応力(最大応力)が図4に示した比較例のアキュムレータ(応力緩和部材なし)と比較してかえって上回ることがある。したがって応力緩和部材51の内周面に設定する接触面55は、これを本実施の形態のようにテーパ状の傾斜面とするのが好適である。
【0027】
テーパ状の傾斜面は、接触面55の全面でなく一部のみに設定されても良い。図2はこの場合の一例を示している。接触面55は、ダイアフラム41に比較的近い位置の軸方向ストレート面56と、ダイアフラム41から比較的遠い位置の傾斜面57との組み合わせによって形成されている。傾斜面57は、ダイアフラム41から軸方向に遠ざかるのにしたがって、つまりオイルポート23側からガス封入口22側へかけて内径寸法が徐々に縮小する。傾斜面57は断面直線状であっても良いが、本実施の形態では凹状の断面円弧形に形成されている。図2に示す一例では、応力緩和部材51のオイルポート側端部(図における下端部)がダイアフラム保持部31のオイルポート側端部よりもオイルポート23側(図では下方)へ突出し、ここに断面円弧形を呈する接触面延長部58が設けられている。ダイアフラム41は、接触面延長部58、軸方向ストレート面56および傾斜面57よりなる接触面55に接触する。
【符号の説明】
【0028】
11 アキュムレータ
21 アキュムレータハウジング
22 ガス封入口
23 オイルポート
24 ガス封入室
25 フルード室
26 シェル
27,28 曲面
31 ダイアフラム保持部
32 固定部
33 フック部
41 ダイアフラム
42 外周取付部
43 可撓部
44 反転部
45 ポペット
51 応力緩和部材
52,53 部分
55 接触面
56 軸方向ストレート面
57 傾斜面
58 接触面延長部
図1
図2
図3
図4
図5
図6