【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シェルに、コア剤として揮発性膨張剤が内包された熱膨張性マイクロカプセルであって、前記シェルは、黒色材及び重合体化合物を含有する、熱膨張性マイクロカプセルである。
以下、本発明を詳述する。
【0008】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルを構成するシェルは、黒色材を含有する。
上記黒色材を含有することで、成形時の溶融混錬に対するシェルの強度を高めることができ、また遮光性や外観性能をより一層高めることができる。
本発明では、加熱膨張時において、ガスバリア性を向上させて耐久性を改善できるとともに、発泡倍率及び耐熱性が向上させることが可能となる。
なお、上記黒色材は、太陽光のうちの可視光領域を含む全ての光線を吸収することで黒色を示すものである。一般的な黒色顔料は可視光領域(約380〜780nm)の光を吸収して黒色を示すが、実際には、熱に寄与する度合いの大きい800〜1,400nmの波長領域を含む近赤外領域の光も吸収する。
【0009】
上記黒色材のOD値の好ましい下限は1.5、好ましい上限は5.0である。上記範囲内とすることで、高い遮光性ならびに漆黒性を両立させた黒色塗膜、ならびにブラックマトリクスを得ることができる。
上記黒色材のOD値は、上記黒色材を50重量%含有するアクリル樹脂(塗膜厚み1μm)を測定した場合のOD値をいう。
なお、本明細書において、光学濃度(OD値)とは、光学濃度変化素子に対する入射光強度をI
0、透過光強度をI
Tとした際に、X=−log(I
T/I
0)で表される値Xのことを差す。
なお、光学濃度(OD値)は、色彩色差計、マクベス濃度計等を用いることで測定することができる。
【0010】
上記黒色材としては、黒色顔料、黒色染料、黒色導電性ポリマー等が挙げられる。なかでも、黒色顔料が好ましい。
上記黒色顔料としては、炭素系黒色顔料、酸化物系黒色顔料等の無機系黒色顔料のほか、有機系黒色顔料が挙げられる。なかでも、炭素系黒色顔料及び酸化物系黒色顔料からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
上記炭素系黒色顔料としては、カーボンブラック、黒鉛、活性炭、グラフェン等が挙げられる。
上記酸化物系黒色顔料としては、チタンブラック、酸化鉄、マグネタイト、酸化第一銅(亜酸化銅)のほか、銅とクロム、銅とマンガン、銅と鉄とマンガン、コバルトとクロムと鉄を主金属成分とした複合酸化物黒色顔料等が挙げられる。
上記有機黒色顔料としては、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等が挙げられる。
なかでも、優れた耐熱性に加え、樹脂中での分散性に優れること、均質な黒色を付与できる点でカーボンブラックがより好ましい。
【0011】
上記黒色染料としては、無機系黒色染料、有機系黒色染料等が挙げられる。なかでも、有機系黒色染料が好ましい。
上記無機系黒色染料としては、金属錯塩アゾ系黒色染料が挙げられる。
上記金属錯塩アゾ系黒色染料としては、NeoSuper Black C−832(商品名、ソルベントブラック27、中央合成化学社製)等が挙げられる。
【0012】
上記有機系黒色染料としては、ジスアゾ系黒色染料、アジン系黒色染料、フタロシアニン系黒色染料、アントラキノン系黒色染料、インジゴイド系黒色染料等が挙げられる。
上記ジスアゾ系黒色染料としては、Chuo Sudan Black 141(商品名、中央合成化学社製、ソルベントブラック3)等が挙げられる。
上記アジン系黒色染料としては、として知られているChuoBrack F5(商品名、中央合成化学社製、ソルベントブラック7)等が挙げられる。
【0013】
上記黒色導電性ポリマーとしては、例えば、ポリチオフェン、ポリドーパミン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレン、ポリアセチレン、ポリキノキサリン、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアジアゾール等や、これら導電骨格を複数有するポリマー等が挙げられる。これらのなかではポリチオフェンおよびその誘導体が好ましく、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)[PEDOT]、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルホナート)[PEDOT/PSS]、ポリチエノチオフェンが特に好ましい。
【0014】
上記黒色材のなかでは、微粒子状の黒色材(黒色微粒子)が好ましい。
上記黒色微粒子としては、平均粒子径が1μm以下であることが好ましく、より好ましくは10〜500nmである。上記範囲内とすることで、樹脂中で黒色微粒子が分散され、色相(黒色)が均一となる。
上記平均粒子径は、粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製)を用いた観察により測定することができる。
【0015】
上記黒色材の含有量の好ましい下限は、上記重合体化合物及び揮発性膨張剤の合計量に対して0.01重量%、好ましい上限は7重量%である。0.01重量%以上とすることで、成形時に樹脂中での熱膨張性マイクロカプセル同士の融着を抑制することができる。7重量%以下とすることで、成形時の溶融混錬に対するシェルの強度を高めることができ、また遮光性や外観性能をより一層高めることができる。より好ましい下限は0.3重量%、より好ましい上限は5重量%である。
【0016】
上記黒色材としては、比表面積が500m
2/g以下であることが好ましく、より好ましくは5〜300m
2/gである。上記範囲内とすることで、樹脂中で黒色材が分散され、色相(黒色)が均一となる。
上記比表面積は、カンタクローム・インスツルメンツ社製「NOVA4200e」を用いて、窒素の吸着等温線を測定し、測定結果から、BET法に準拠して、黒色材の比表面積を算出することで測定できる。
【0017】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルを構成するシェルは、重合体化合物を含有する。
上記重合体化合物は、ニトリル系モノマーと、カルボキシル基を有するモノマーとを含有するモノマー組成物の重合体であることが好ましい。
【0018】
上記ニトリル系モノマーは特に限定されず、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマルニトリル、又は、これらの混合物等が挙げられる。これらのなかでは、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが特に好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0019】
上記モノマー組成物中のニトリル系モノマーの含有量の好ましい下限は40重量%、好ましい上限は90重量%である。40重量%以上とすることで、シェルのガスバリア性を高めて発泡倍率を向上させることができる。90重量%以下とすることで、耐熱性を向上させたり、黄変を防止したりすることができる。より好ましい下限は50重量%、より好ましい上限は80重量%である。
【0020】
上記カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、カルボキシル基を有し、炭素数が3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマーを用いることができる。
具体的には例えば、不飽和ジカルボン酸やその無水物又は不飽和ジカルボン酸のモノエステルやその誘導体が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記不飽和ジカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸等が挙げられる。
上記不飽和ジカルボン酸のモノエステルとしては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル等が挙げられる。
これらのなかでは、特にアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸が好ましい。
【0021】
上記モノマー組成物中における、上記カルボキシル基を有するモノマーの含有量の好ましい下限は5重量%、好ましい上限は50重量%である。5重量%以上とすることで、最大発泡温度を高めることができ、50重量%以下とすることで、発泡倍率を向上させることが可能となる。より好ましい下限は10重量%、より好ましい上限は30重量%である。
【0022】
上記モノマー組成物は、分子内に二重結合を2つ以上有する架橋性モノマーを含有することが好ましい。上記架橋性モノマーは、架橋剤としての役割を有する。上記架橋性モノマーを含有することにより、シェルの強度を強化することができ、熱膨張時にセル壁が破泡し難くなる。
【0023】
上記架橋性モノマーとしては、ラジカル重合性二重結合を2つ以上有するモノマーが挙げられ、具体例には例えば、ジビニルベンゼン、ジ(メタ)アクリレート、3官能以上の(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記ジ(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。更に、重量平均分子量が200〜600であるポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレートを用いてもよい。
上記3官能の(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリアリルホルマールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、上記4官能以上の(メタ)アクリレートとしては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらのなかでは、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能性のものや、ポリエチレングリコール等の2官能性の(メタ)アクリレートが、アクリロニトリルを主体としたシェルには比較的均一に架橋が施される。
【0024】
上記モノマー組成物中における、上記架橋性モノマーの含有量の好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は1.0重量%である。上記架橋性モノマーの含有量を0.1重量%以上とすることで、架橋剤としての効果を充分に発揮することができ、上記架橋性モノマーの含有量を1.0重量%以下とすることで、熱膨張性マイクロカプセルの発泡倍率を向上させることが可能となる。上記架橋性モノマーの含有量のより好ましい下限は0.15重量%、より好ましい上限は0.9重量%である。
【0025】
上記モノマー組成物は、上記ニトリル系モノマーと、カルボキシル基を有するモノマー、架橋性モノマー以外の他のモノマーを含有することが好ましい。上記他のモノマーを含有することで、熱膨張性マイクロカプセルと熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂の混和性が良好となり、該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡成形体が優れた外観を有する。
上記他のモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルのほか、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、スチレン等のビニルモノマー等も挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、特に、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル等のメタクリル酸アルキルエステル類、又は、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸イソボルニル等の脂環・芳香環・複素環含有メタクリル酸エステル類が好ましい。
【0026】
上記モノマー組成物中における、上記他のモノマーの含有量の好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は25重量%である。上記他のモノマーの含有量を0.1重量%以上とすることで、熱膨張性マイクロカプセルを用いた組成物の分散性を向上させることができ、25重量%以下とすることで、セル壁のガスバリア性を向上させて、熱膨張性を改善することが可能となる。上記他のモノマーの含有量のより好ましい下限は0.3重量%、より好ましい上限は22重量%である。
【0027】
上記モノマー組成物は、上記ニトリル系モノマー、カルボキシル基を有するモノマー、架橋性モノマー、他のモノマー以外に熱硬化性樹脂を含有していてもよい。
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂等が挙げられる。これらのなかでは、エポキシ樹脂、フェノール樹脂が好ましい。
【0028】
上記エポキシ樹脂としては特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
上記フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ベンジリックエーテル型フェノール樹脂等が挙げられる。これらのなかでは、ノボラック型フェノール樹脂が好ましい。
【0029】
上記熱硬化性樹脂は、カルボキシル基と反応する官能基を1分子中に2個以上有することが好ましい。上記カルボキシル基と反応する官能基を2個以上有することで、熱硬化性樹脂の硬化性をより強固なものとすることができる。特に、上記モノマー組成物がカルボキシル基を有するモノマーを含有する場合は、加熱発泡させる際の熱によって、カルボキシル基と熱硬化性樹脂とがより強固に結合し、耐熱性や耐久性を大幅に向上させることが可能となる。
なお、上記熱硬化性樹脂は、ラジカル重合性の二重結合を有しないものであることが好ましい。
【0030】
上記カルボキシル基と反応する官能基としては、例えば、グリシジル基、フェノール基、メチロール基、アミノ基等が挙げられる。なかでも、グリシジル基が好ましい。上記カルボキシル基と反応する官能基としては、同種のものを用いてもよく、2種以上のものを用いてもよい。
【0031】
上記モノマー組成物中における、上記熱硬化性樹脂の含有量の好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は30重量%である。
上記熱硬化性樹脂の含有量を0.01重量%以上とすることで、加熱発泡時の耐圧縮性を向上できる。上記熱硬化性樹脂の含有量を30重量%以下とすることで、シェルのガスバリア性を改善し、発泡性が向上する。より好ましい下限は0.1重量%、より好ましい上限は15重量%である。
【0032】
上記モノマー組成物には、上記モノマーを重合させるため、重合開始剤を添加する。
上記重合開始剤としては、例えば、過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、アゾ化合物等が好適に用いられる。
具体例には、例えば、メチルエチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなどの過酸化ジアルキル;イソブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの過酸化ジアシル等が挙げられる。
また、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート等が挙げられる。
また、クミルパーオキシネオデカノエート、(α、α−ビス−ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼンなどのパーオキシエステル;ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピル−オキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
更に、ジ(2−エチルエチルパーオキシ)ジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
加えて、2、2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)などのアゾ化合物等が挙げられる。
【0033】
上記シェルを構成する重合体化合物の重量平均分子量の好ましい下限は10万、好ましい上限は200万である。10万未満であると、シェルの強度が低下することがあり、200万を超えると、シェルの強度が高くなりすぎ、発泡倍率が低下することがある。
【0034】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルを構成するシェルは、更に、Si系化合物及びMg系化合物からなる群から選択される少なくとも1種の無機系化合物を含有することが好ましい。
上記無機系化合物を含有することで、成形時に樹脂中での熱膨張性マイクロカプセル同士の融着を抑制することが可能となる。
なお、上記無機系化合物は、上記黒色材とは異なるものである。
【0035】
上記Si系化合物、Mg系化合物としては、ケイ素、マグネシウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩又は炭酸水素塩を含有するものであることが好ましい。
これらのSi系化合物、Mg系化合物は、単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
【0036】
上記Si系化合物としては、コロイダルシリカ、ケイ酸ゾル等のほか、3号水ガラス、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム等が挙げられる。なかでも、コロイダルシリカが好ましい。
上記Mg系化合物としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、ジハイドロタルサイト、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウムカルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、ピロリン酸マグネシウム、ホウ酸マグネシウム等が挙げられる。なかでも、水酸化マグネシウムが好ましい。
【0037】
上記無機系化合物としては、他に例えば、リン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、シュウ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム等を添加してもよい。また、必要に応じて、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩や、亜硝酸アルカリ金属塩、塩化第一スズ、塩化第二スズ、重クロム酸カリウム等を添加してもよい。
【0038】
上記無機系化合物としては、微粒子状のものが好ましい。
上記無機系化合物が微粒子状である場合、1次粒子径は0.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは5〜100nmである。上記範囲内とすることで、成形時に樹脂中での熱膨張性マイクロカプセル同士の融着を抑制することができる。上記1次粒子径は、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製「Regulus8220」)を用いた観察により測定することができる。
【0039】
上記無機系化合物の含有量は、熱膨張性マイクロカプセルの重合体化合物及び揮発性膨張剤の合計量に対して0.01重量%、好ましい上限は7重量%である。0.01重量%以上とすることで、成形時に樹脂中での熱膨張性マイクロカプセル同士の融着を抑制することができる。7重量%以下とすることで、成形時の樹脂分散性をより一層高めることができる。より好ましい下限は0.3重量%、より好ましい上限は5重量%である。
【0040】
上記黒色材に対する無機系化合物の重量比率(無機系化合物/黒色材)は、0.001〜300であることが好ましい。0.001以上とすることで、成形時に樹脂中での熱膨張性マイクロカプセル同士の融着を抑制することができる。300以下とすることで、成形時の樹脂分散性をより一層高めることができ、また遮光性や外観性能をより一層高めることができる。より好ましい下限は0.3、より好ましい上限は100である。
【0041】
本発明では、上記黒色材及び無機系化合物は、熱膨張性マイクロカプセルの表面に存在していてもよく、内部に存在していてもよいが、上記黒色材、無機系化合物が熱膨張性マイクロカプセルの表面に存在することが好ましい。また、本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、最外層を有し、最外層に黒色材、無機系化合物が含まれることが好ましい。このような構成とすることで、成形時の樹脂での分散性をより一層高めることが可能となる。
【0042】
上記シェルは、更に必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、シランカップリング剤、色剤等を含有していてもよい。
【0043】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、上記シェルにコア剤として揮発性膨張剤が内包されている。
上記揮発性膨張剤は、シェルを構成するポリマーの軟化点以下の温度でガス状になる物質であり、低沸点有機溶剤が好適である。
上記揮発性膨張剤としては、例えば、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、n−ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n−へキサン、ヘプタン、石油エーテル、イソオクタン、オクタン、デカン、イソドデカン、ドデカン、ヘキサンデカン等の低分子量炭化水素等が挙げられる。
また、CCl
3F、CCl
2F
2、CClF
3、CClF
2−CClF
2等のクロロフルオロカーボン;テトラメチルシラン、トリメチルエチルシラン、トリメチルイソプロピルシラン、トリメチル−n−プロピルシラン等のテトラアルキルシラン等が挙げられる。なかでも、イソブタン、n−ブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−へキサン、イソオクタン、イソドデカン及び、これらの混合物が好ましい。これらの揮発性膨張剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、揮発性膨張剤として、加熱により熱分解してガス状となる熱分解型化合物を用いてもよい。
【0044】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルでは、上述した揮発性膨張剤のなかでも、炭素数が5以下の低沸点炭化水素を用いることが好ましい。このような炭化水素を用いることにより、発泡倍率が高く、速やかに発泡を開始する熱膨張性マイクロカプセルとすることができる。
また、揮発性膨張剤として、加熱により熱分解してガス状になる熱分解型化合物を用いることとしてもよい。
【0045】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、光学濃度(OD値)が0.5以上であることが好ましい。0.5以上とすることで、高い遮光性及び漆黒性を両立させた黒色塗膜、ブラックマトリクスを得ることができる。より好ましい下限は0.8、好ましい上限は1.6である。
なお、光学濃度(OD値)は、マクベス濃度計等を用いることで測定することができる。
【0046】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、750℃で180分間加熱した後の灰分含有量の好ましい下限が0.1重量%、好ましい上限が7重量%である。上記範囲内とすることで、熱膨張性マイクロカプセルの発泡性、耐圧縮性を確保しつつ、優れた外観性能を発揮することができる。
なお、本明細書において、灰分含有量は、加熱前の熱膨張性マイクロカプセルの重量、及び、750℃で180分間加熱した後の灰分の重量から算出する。
上記灰分含有量は、熱膨張性マイクロカプセルに含まれる黒色材及び無機系化合物の含有量の目安となる。
【0047】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度(Tmax)の好ましい下限が190℃である。190℃以上とすることで、耐熱性が高くなり、熱膨張性マイクロカプセルを含有する組成物を高温領域で塗工する際に、熱膨張性マイクロカプセルが破裂、収縮することを防止することができる。また、塗工時における熱膨張性マイクロカプセル同士の凝集を抑制して、外観を良好なものとすることができる。より好ましい下限は200℃、好ましい上限は240℃である。
なお、本明細書において、最大発泡温度は、熱膨張性マイクロカプセルを常温から加熱しながらその径を測定したときに、熱膨張性マイクロカプセルの径が最大となったとき(最大変位量)における温度を意味する。
【0048】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、熱機械分析で測定した最大変位量(Dmax)の好ましい下限が10μmである。10μm未満であると、発泡倍率が低下し、所望の発泡性能が得られないことがある。より好ましい下限は20μm、更に好ましい下限は100μm、更により好ましい上限は300μmである。また、上記最大変位量の好ましい上限は2000μm、より好ましい上限は1800μm、更に好ましい上限は1500μmである。
なお、上記最大変位量は、所定量の熱膨張性マイクロカプセルを常温から加熱しながらその径を測定したときに、所定量全体の熱膨張性マイクロカプセルの径が最大となるときの値をいう。
【0049】
また、発泡開始温度(Ts)の好ましい上限は175℃である。175℃以下とすることで、発泡が容易となり所望の発泡倍率を実現することができる。好ましい下限は130℃、より好ましい上限は170℃である。
【0050】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径の好ましい下限は5μm、好ましい上限は40μmである。5μm未満であると、得られる成形体の気泡が小さすぎるため、発泡倍率が不充分となることがあり、40μmを超えると、得られる塗工物の気泡が大きくなりすぎるため、外観の面で問題となることがある。より好ましい下限は10μm、より好ましい上限は30μmである。
【0051】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法としては特に限定されないが、例えば、黒色材、無機系化合物を含有する水性分散媒体を調製する工程、モノマー組成物、揮発性膨張剤とを含有する油性混合液を水性分散媒体中に分散させる工程、及び、上記モノマーを重合させる工程を行うことにより製造することができる。
上記モノマー組成物としては、上記ニトリル系モノマー、カルボキシル基を有するモノマー、架橋性モノマー、他のモノマーを含有するものを用いることができる。
【0052】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルを製造する場合、最初に水性分散媒体を調製する工程を行う。具体例には例えば、重合反応容器に、水、黒色材、無機系化合物、必要に応じて補助安定剤を加えることにより、黒色材、無機系化合物を含有する水性分散媒体を調製する。
【0053】
上記補助安定剤としては、例えば、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物、尿素とホルムアルデヒドとの縮合生成物等が挙げられる。また、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ゼラチン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ジオクチルスルホサクシネート、ソルビタンエステル、各種乳化剤等が挙げられる。
【0054】
また、補助安定剤に加えて、縮合生成物、水溶性窒素化合物を添加してもよい。
上記縮合生成物としては、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物が好ましく、特にジエタノールアミンとアジピン酸との縮合物やジエタノールアミンとイタコン酸との縮合生成物が好ましい。
【0055】
上記水溶性窒素化合物としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリジメチルアミノエチルメタクリレートやポリジメチルアミノエチルアクリレートに代表されるポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミドやポリジメチルアミノプロピルメタクリルアミドに代表されるポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ポリアクリルアミド、ポリカチオン性アクリルアミド、ポリアミンサルフォン、ポリアリルアミン等が挙げられる。これらのなかでは、ポリビニルピロリドンが好適に用いられる。
【0056】
上記黒色材、無機系化合物、補助安定剤を含有する水性分散媒体は、脱イオン水に配合して調製され、この際の水相のpHは、使用する黒色材、無機系化合物、補助安定剤の種類によって適宜決められる。例えば、無機系化合物としてコロイダルシリカ等のSi系化合物を使用する場合は、酸性の水性分散媒体を用いて重合が行われ、水性分散媒体を酸性にするには、必要に応じて塩酸等の酸を加えて系のpHが3〜4に調製される。一方、無機系化合物として水酸化マグネシウム等のMg系化合物やリン酸カルシウムを使用する場合は、pHが8〜11に調製されたアルカリ性の水性分散媒体を用いて重合させる。
【0057】
次いで、熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法では、モノマー組成物と、揮発性膨張剤とを含有する油性混合液を水性分散媒体中に分散させる工程を行う。
具体的には、モノマー組成物と、揮発性膨張剤とを含有する油性混合液を水性分散媒体中に分散させる工程を行う。この工程では、モノマー組成物及び揮発性膨張剤を別々に水性分散媒体に添加して、水性分散媒体中で油性混合液を調製してもよいが、通常は、予め両者を混合し油性混合液としてから、水性分散媒体に添加する。この際、油性混合液と水性分散媒体とを予め別々の容器で調製しておき、別の容器で攪拌しながら混合することにより油性混合液を水性分散媒体に分散させた後、重合反応容器に添加しても良い。
なお、上記モノマーを重合するために、重合開始剤が使用されるが、上記重合開始剤は、予め上記油性混合液に添加してもよく、水性分散媒体と油性混合液とを重合反応容器内で攪拌混合した後に添加してもよい。
【0058】
上記油性混合液を水性分散媒体中に所定の粒子径で乳化分散させる方法としては、ホモミキサー(例えば、特殊機化工業社製)等により攪拌する方法や、ラインミキサーやエレメント式静止型分散器等の静止型分散装置を通過させる方法等が挙げられる。
なお、上記静止型分散装置には水性分散媒体と重合性混合物を別々に供給してもよいし、予め混合、攪拌した分散液を供給してもよい。
【0059】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、上述した工程を経て得られた分散液を、加熱することによりモノマーを重合させる工程、及び、洗浄する工程を行うことにより、製造することができる。このような方法により製造された熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度が高く、耐熱性に優れ、高温領域での塗工時においても破裂、収縮することがない。
【0060】
本発明の熱膨張性マイクロカプセル及び熱可塑性樹脂(ベースレジン)を含有する発泡性マスターバッチもまた本発明の1つである。
【0061】
上記ベースレジンに使用される熱可塑性樹脂は特に限定されず、通常の発泡成形に用いられる熱可塑性樹脂を用いることができる。上記熱可塑性樹脂として、具体的には、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、塩化ビニル、ポリスチレン、熱可塑性エラストマー、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)等が挙げられる。
これらのなかでは、融点が低く加工しやすいことから、LDPE、EVA、EMMA等が好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0062】
発泡性マスターバッチにおける上記熱膨張性マイクロカプセルの配合量は特に限定されないが、上記熱可塑性樹脂100重量部に対する好ましい下限が10重量部、好ましい上限が90重量部である。
【0063】
上記発泡性マスターバッチを製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂等のベースレジン、各種添加剤等の原材料を、同方向2軸押出機等を用いて予め混練する。次いで、所定温度まで加熱し、熱膨張性マイクロカプセル等の発泡剤を添加した後、更に混練することにより得られる混練物を、ペレタイザーにて所望の大きさに切断することによりペレット形状にしてマスターバッチとする方法等が挙げられる。また、熱可塑性樹脂等のベースレジンや熱膨張性マイクロカプセル等の原材料をバッチ式の混練機で混練した後、造粒機で造粒することによりペレット形状のマスターバッチを製造してもよい。
上記混練機としては、熱膨張性マイクロカプセルを破壊することなく混練できるものであれば特に限定されず、例えば、加圧ニーダー、バンバリーミキサー等が挙げられる。
【0064】
また、本発明の熱膨張性マイクロカプセル、発泡性マスターバッチを用いて得られる発泡成形体もまた本発明の1つである。特に本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、高温での後加工が必要な用途にも好適に使用可能であることから、凹凸形状等の高外観品質を有する発泡シートが得られ、住宅用壁紙等の用途に好適に用いることができる。
具体的には、本発明の熱膨張性マイクロカプセル又は本発明の熱膨張性マイクロカプセルを含有する発泡性マスターバッチと、マトリックス樹脂とを混練し、成形することで発泡成形体が得られる。
【0065】
上記発泡成形体の成形方法としては、特に限定されず、例えば、混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等が挙げられる。射出成形の場合、工法は特に限定されず、金型に樹脂材料を一部入れて発泡させるショートショート法や金型に樹脂材料をフル充填した後に金型を発泡させたいところまで開くコアバック法等が挙げられる。