(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記シクロオレフィン系オリゴマー又は前記芳香族化合物の含有量は、前記シクロオレフィン系重合体と前記フルオレン骨格含有重合体の合計質量に対して1〜30質量%である、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0014】
前述の通り、シクロオレフィン系重合体にフルオレン化合物を添加することで、フィルムの機械的強度を高めることができる。これは、シクロオレフィン系重合体の近傍にフルオレン化合物が存在し、相互作用することによると考えられる。しかしながら、溶媒含有状態では、シクロオレフィン系重合体とフルオレン化合物との間に溶媒が存在するため、シクロオレフィン系重合体とフルオレン化合物との相互作用が十分には得られず、フルオレン化合物を添加しても、溶媒含有状態での膜状物の強度は向上しにくい。
【0015】
溶媒含有状態での膜状物の強度を向上させるためには、溶媒含有状態でもシクロオレフィン系重合体とフルオレン化合物とを近傍に存在させて、相互作用を生じさせることが有効であり;そのためには、フルオレン化合物をポリマー化して、シクロオレフィン系重合体の分子鎖とフルオレン化合物の分子鎖が絡み合うようにすることが有効であると考えられる。一方で、フルオレン化合物をポリマー化すると、分子量が大きくなるため、シクロオレフィン系重合体との相溶性が低下し、得られるフィルムの透明性が損なわれやすい。また、相溶性が低下すると、シクロオレフィン系重合体とフルオレン重合体とがそれぞれ単独で凝集しやすくなるため、分子鎖の絡み合いが少なくなり、相互作用が生じにくい場合がある。
【0016】
これに対し、シクロオレフィン系重合体とフルオレン骨格含有重合体に加えて、「プロトン供与性基又はカルボニル基を有するシクロオレフィン系オリゴマー/又はプロトン供与性基を有する芳香族化合物」をさらに添加することで、相溶性を損なうことなく、シクロオレフィン系重合体とフルオレン骨格含有重合体との間で相互作用を生じさせやすくすることができる。
【0017】
即ち、プロトン供与性基又はカルボニル基を有するシクロオレフィン系オリゴマーは、シクロオレフィン系重合体と類似の構造を有するため、シクロオレフィン系重合体と相互作用しやすく;一定以上の長さの分子鎖を有するので、フルオレン骨格含有重合体の分子鎖とも絡みやすく相互作用しやすいと考えられる。プロトン供与性基を有する芳香族化合物は、そのプロトン供与性基がシクロオレフィン系重合体の極性基と相互作用しやすく;芳香族環がフルオレン骨格含有重合体のフルオレン骨格の芳香族環と相互作用しやすいと考えられる。
【0018】
このように、プロトン供与性基又はカルボニル基を有するシクロオレフィン系オリゴマー/又はプロトン供与性基を有する芳香族化合物によって、相溶性を損なうことなく、シクロオレフィン系重合体とフルオレン骨格含有重合体との間で相互作用を生じさせやすくすることができる。従って、溶液流延法による製膜工程において、溶媒含有状態での膜状物の機械的強度を高めることができるので、膜状物を金属支持体から剥離する時やロール搬送する時の膜状物の端部の裂けや切れの発生を抑制できる。また、得られる光学フィルムの透明性も高めることができる。本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0019】
1.光学フィルム
本発明の光学フィルムは、シクロオレフィン系重合体と、フルオレン骨格含有重合体と、プロトン供与性基又はカルボニル含有基を有するシクロオレフィン系オリゴマー又はプロトン供与性基を有する芳香族化合物とを含む。
【0020】
1−1.シクロオレフィン系重合体
シクロオレフィン系重合体は、極性基を有するシクロオレフィン単量体を含むシクロオレフィン単量体の重合体、又は当該シクロオレフィン単量体とそれ以外の共重合性単量体との共重合体である。
【0021】
極性基を有するシクロオレフィン単量体における「極性基」の例には、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリロキシカルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基及びアリール基が含まれる。アリール基は、シクロオレフィン環に置換基として結合していてもよいし、シクロオレフィン環に縮合していてもよい。
【0022】
シクロオレフィン系重合体を構成するシクロオレフィン単量体は、ノルボルネン系単量体であることが好ましい。
【0023】
極性基を有するノルボルネン系単量体は、下記一般式(A)で表されるノルボルネン系単量体であることが好ましい。
【化1】
【0024】
一般式(A)のR
1〜R
4は、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜5の炭化水素基又は極性基を表す。
【0025】
ハロゲン原子の例には、フッ素原子、塩素原子等が含まれる。炭素原子数1〜5の炭化水素基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が含まれる。炭素原子数1〜5の炭化水素基は、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子又はケイ素原子を含む連結基;例えばカルボニル基、イミノ基、エーテル結合、シリルエーテル結合、チオエーテル結合等の2価の連結基をさらに有していてもよい。
【0026】
R
2とR
3は、互いに結合して芳香族環又は脂肪族環を形成してもよい。
【0027】
但し、R
1〜R
4のうち少なくとも一つは、極性基である。極性基は、前述の極性基と同義である。
【0028】
また、R
1〜R
4のうちR
1とR
2が同時に水素原子であるか、又はR
1、R
2及びR
3が同時に水素原子であってもよい。そのようなノルボルネン系単量体は、置換基が片側炭素に置換されているので、分子の対称性が低く、製膜工程における溶媒揮発時の樹脂と添加剤同士の拡散運動を促進しうる。
【0029】
一般式(A)のpは、0〜2の整数を示す。光学フィルムの耐熱性を高める観点では、pは、1〜2であることが好ましい。pが1〜2であると、得られる樹脂が嵩高くなり、ガラス転移温度が向上しやすいからである。
【0030】
一般式(A)で表されるノルボルネン系単量体の具体例を以下に示す。このうち、極性基を有するノルボルネン系単量体の例には、以下の化合物が含まれる。
【化2】
【0031】
シクロオレフィン系重合体を構成するノルボルネン系単量体は、極性基を有するノルボルネン系単量体だけでなく、極性基を有しないノルボルネン系単量体をさらに含んでいてもよい。
【0032】
極性基を有しないノルボルネン系単量体は、例えば一般式(A)のR
1〜R
4が、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、シリル基、又は炭素数1〜5の炭化水素基である単量体でありうる。
【0033】
極性基を有しないノルボルネン系単量体の例には、以下の化合物が含まれる。
【化3】
【0034】
極性基を有するノルボルネン系単量体由来の構造単位の含有割合は、シクロオレフィン系重合体を構成するノルボルネン系単量体由来の構造単位の合計に対して例えば50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは100モル%とし得る。極性基を有するノルボルネン系単量体由来の構造単位を一定以上含むと、樹脂の極性が高まりやすく、シクロオレフィン系重合体を溶媒に溶解させやすくすることができるので、溶液製膜法(キャスト法)での製膜が容易となる。
【0035】
ノルボルネン系単量体と共重合可能な共重合性単量体の例には、ノルボルネン系単量体と開環共重合可能な共重合性単量体、ノルボルネン系単量体と付加共重合可能な共重合性単量体が含まれる。
【0036】
ノルボルネン系単量体と開環共重合可能な共重合性単量体の例には、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、ジシクロペンタジエン等のノルボルネン系単量体以外のシクロオレフィンが含まれる。
【0037】
ノルボルネン系単量体と付加共重合可能な共重合性単量体の例には、不飽和二重結合含有化合物、ビニル系環状炭化水素単量体、(メタ)アクリレートが含まれる。不飽和二重結合含有化合物の例には、炭素原子数2〜12(好ましくは2〜8)のオレフィン系化合物であり、その例には、エチレン、プロピレン、ブテンが含まれる。ビニル系環状炭化水素単量体の例には、4−ビニルシクロペンテン、2−メチル−4−イソプロペニルシクロペンテン等のビニルシクロペンテン系単量体が含まれる。(メタ)アクリレートの例には、メチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の炭素原子数1〜20のアルキル(メタ)アクリレートが含まれる。
【0038】
ノルボルネン系単量体由来の構造単位の含有割合は、シクロオレフィン系重合体を構成する構造単位の合計に対して50〜100モル%、好ましくは60〜100モル%、より好ましくは70〜100モル%とし得る。
【0039】
シクロオレフィン系重合体は、前述の通り、極性基を有するノルボルネン系単量体を含むノルボルネン系単量体を重合又は共重合して得られる重合体である。重合又は共重合は、開環重合又は開環共重合であってもよいし、付加重合又は付加共重合であってもよい。重合体の例には、以下のものが含まれる。
(1)ノルボルネン系単量体の開環重合体
(2)ノルボルネン系単量体とそれと開環共重合可能な共重合性単量体との開環共重合体
(3)上記(1)又は(2)の開環(共)重合体の水素添加物
(4)上記(1)又は(2)の開環(共)重合体をフリーデルクラフツ反応により環化した後、水素添加した(共)重合体
(5)ノルボルネン系単量体と不飽和二重結合含有化合物との付加共重合体
(6)ノルボルネン系単量体のビニル系環状炭化水素単量体との付加共重合体及びその水素添加物
(7)ノルボルネン系単量体と(メタ)アクリレートとの付加共重合体
【0040】
(1)〜(7)の重合体は、いずれも公知の方法、例えば特開2008−107534号公報や特開2005−227606号公報に記載の方法で得ることができる。例えば、(2)の開環共重合に用いる触媒や溶媒は、特開2008−107534号公報の段落0019〜0024に記載のものを使用できる。(3)及び(6)の水素添加に用いる触媒は、特開2008−107534号公報の段落0025〜0028に記載のものを使用できる。(4)のフリーデルクラフツ反応に用いる酸性化合物は、特開2008−107534号公報の段落0029に記載のものを使用できる。(5)〜(7)の付加重合に用いる触媒は、例えば特開2005−227606号公報の段落0058〜0063を使用できる。(7)の交互共重合反応は、特開2005−227606号公報の段落0071及び0072に記載の方法で行うことができる。
【0041】
中でも、(1)〜(3)及び(5)が好ましく、(1)〜(3)がより好ましい。即ち、シクロオレフィン系重合体は、ノルボルネン系単量体の開環重合体若しくは開環共重合体又はそれらの水素添加物であることが好ましい。そのようなシクロオレフィン系重合体は、下記一般式(B)で表される構造単位を含みうる。一般式(B)で表される構造単位は、前述の一般式(A)で表されるノルボルネン系単量体の開環物に由来する。
【0043】
一般式(B)のXは、−CH=CH−又は−CH
2CH
2−である。
【0044】
一般式(B)のR
1〜R
4及びpは、一般式(A)のR
1〜R
4及びpとそれぞれ同義である。
【0045】
シクロオレフィン系重合体は、市販品であってもよい。シクロオレフィン系重合体の市販品の例には、JSR(株)製のアートン(Arton)G(例えばG7810等)、アートンF、アートンR(例えばR4500、R4900及びR5000等)、及びアートンRXが含まれる。
【0046】
シクロオレフィン系重合体の双極子モーメントは、0.5〜8.0debyeであることが好ましい。シクロオレフィン系重合体の双極子モーメントが0.5debye以上であると、一定以上の極性を有するので、溶媒に溶解しやすく、溶液製膜法(キャスト法)での製膜が行いやすい。シクロオレフィン系重合体の双極子モーメントが8.0debye以下であると、極性が高まりすぎないので、他の成分との相溶性が損なわれにくい。シクロオレフィン系重合体の双極子モーメントは、0.5〜5.0debyeであることがより好ましい。
【0047】
シクロオレフィン系重合体の双極子モーメントは、以下の方法で算出することができる。
シクロオレフィン系重合体が単独重合体である場合、1)分子力学法(MM3法)と半経験的分子軌道法(AM1法、PM6法)により、分子構造の最適化及び空間配座の最適化を行った後、2)富士通(株)製のシミュレーション・ソフトウェアであるFUJITSU Technical Computing Solution SCIGRESSを用いて、双極子モーメントを算出する。
【0048】
シクロオレフィン系重合体が二以上の単量体の共重合体である場合、共重合体における各単量体の含有比率と各単量体の単独重合体について算出した双極子モーメントの積の和を採ることにより、双極子モーメントを算出することができる。例えば、シクロオレフィン系重合体が、単量体1と単量体2の80/20の共重合体である場合、双極子モーメント=(単量体1の単独重合体の双極子モーメント1×単量体1の含有比率)+(単量体2の単独重合体の双極子モーメント2×単量体2の含有比率)として算出することができる。
【0049】
シクロオレフィン系重合体の双極子モーメントは、極性基の種類や極性基を有するノルボルネン系単量体の含有比率によって調整することができる。
【0050】
シクロオレフィン系重合体の重量平均分子量(Mw)は、20000〜300000であることが好ましい。重量平均分子量が上記範囲にあると、シクロオレフィン系重合体の耐熱性、耐水性、耐薬品性、機械的特性とフィルムとしての成形加工性が良好となる。シクロオレフィン系重合体の重量平均分子量(Mw)は、30000〜250000であることがより好ましく、40000〜200000であることがさらに好ましい。シクロオレフィン系重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にてポリスチレン換算にて測定することができる。
【0051】
シクロオレフィン系重合体のガラス転移温度(Tg)は、通常、110℃以上であり、110〜350℃であることが好ましく、120〜250℃であることがより好ましく、120〜220℃であることがさらに好ましい。Tgが110℃以上であると、高温条件下での変形を抑制しやすい。一方、Tgが350℃以下であると、成形加工が容易となり、成形加工時の熱による樹脂の劣化も抑制しやすい。
【0052】
1−2.フルオレン骨格含有重合体
フルオレン骨格含有重合体は、フィルムの機械的強度を高めつつ、シクロオレフィン系重合体と組み合わせることで、位相差を低減させる機能を有しうる。フルオレン骨格含有重合体は、フルオレン骨格含有化合物由来の構造単位を含む重合体である。
【0053】
フルオレン骨格含有化合物由来の構造単位の含有比率は、重合体を構成する単量体由来の構造単位の合計モル数に対して2モル%以上、好ましくは10モル%以上でありうる。
【0054】
フルオレン骨格含有重合体の例には、フルオレン骨格含有ポリエステル重合体、フルオレン骨格含有ポリカーボネート重合体、及びフルオレン骨格含有(メタ)アクリレート重合体が含まれる。
【0055】
(フルオレン骨格含有ポリエステル重合体)
フルオレン骨格含有ポリエステル重合体は、フルオレン骨格含有ジオールを含むジオール成分と、ジカルボン酸成分とを反応させて得られる重合体である。即ち、フルオレン骨格含有ポリエステル重合体は、フルオレン骨格含有ジオール構造単位を含むジオール構造単位と、ジカルボン酸構造単位とを含む。
【0056】
ジオール構造単位は、フルオレン骨格含有ジオール由来の構造単位を含む。フルオレン骨格含有ジオールは、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物であることが好ましく、下記式(1)で表される化合物であることがより好ましい。
【化5】
【0057】
式(1)のZは、芳香族炭化水素環を示す。芳香族炭化水素環は、ベンゼン環;又はナフタレン環、アントラセン環等の縮合多環式芳香族炭化水素環であり、好ましくはベンゼン環である。
【0058】
式(1)のR
1及びR
2は、それぞれ炭素数1〜4のアルキル基を示す。アルキル基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が含まれる。R
3は、炭素数1〜4のアルキレン基を示す。アルキレン基の例には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が含まれる。
【0059】
式(1)のkは、0〜4の整数であり、好ましくは0である。mは、0以上の整数であり、好ましくは1又は2である。nは、0以上の整数であり、好ましくは1である。pは、1以上の整数であり、好ましくは1である。
【0060】
式(1)で表される化合物は、下記式(1A)で表される化合物であることがより好ましい。式(1A)のR
2及びR
3は、式(1)のR
2及びR
3とそれぞれ同義である。
【化6】
【0061】
式(1A)で表されるフルオレン骨格含有ジオールの例には、9,9−ビス−(4−ヒドロキシエトキシフェニル)−フルオレン、9,9−ビス−(4−ヒドロキシプロポキシフェニル)−フルオレン、9,9−ビス−(4−ヒドロキシブトキシフェニル)−フルオレン等が含まれる。中でも、9,9−ビス−(4−ヒドロキシエトキシフェニル)−フルオレンが好ましい。
【0062】
ジオール構造単位は、フルオレン骨格含有ジオール以外の他のジオールに由来する構造単位をさらに含んでいてもよい。他のジオールの例には、脂肪族ジオール、脂環族ジオール、フルオレン骨格含有ジオール以外の芳香族ジオールが含まれ、好ましくは脂肪族ジオールである。
【0063】
脂肪族ジオールは、炭素数2〜4の脂肪族ジオールであることが好ましい。炭素数2〜4の脂肪族ジオールの例には、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオールが含まれる。中でも、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールが好ましく、エチレングリコールがより好ましい。
【0064】
フルオレン骨格含有ジオール構造単位の含有比率は、ジオール構造単位の合計モル数に対して5〜100モル%であることが好ましい。フルオレン骨格含有ジオール構造単位の含有比率が5モル%以上であると、芳香族化合物やシクロオレフィンオリゴマーとの間で相互作用を生じやすいだけでなく、フィルムに十分な機械的強度を付与しやすい。また、フィルムの位相差値を十分に低減しやすい。フルオレン骨格含有ジオール構造単位の含有比率は、ジオール構造単位の合計モル数に対して15〜95モル%であることがより好ましい。
【0065】
ジカルボン酸構造単位は、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位を含むことが好ましい。芳香族ジカルボン酸は、炭素数8〜15の芳香族ジカルボン酸であることが好ましく、その例には、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、及びこれらのエステル等が含まれる。中でも、テレフタル酸又はそのエステルが好ましい。
【0066】
ジカルボン酸誘導体構造単位は、必要に応じて脂肪族ジカルボン酸や脂環族ジカルボン酸に由来する構造単位をさらに含んでいてもよい。
【0067】
芳香族ジカルボン酸構造単位の含有比率は、ジカルボン酸構造単位の合計モル数に対して50〜100モル%であることが好ましい。芳香族ジカルボン酸構造単位の含有比率が50モル%以上であると、フィルムに十分な機械的強度を付与しやすい。芳香族ジカルボン酸構造単位の含有比率は、ジカルボン酸構造単位の合計モル数に対して70〜100モル%であることがより好ましい。
【0068】
(フルオレン骨格含有ポリカーボネート重合体)
フルオレン骨格含有ポリカーボネート重合体は、フルオレン骨格含有ジオールを含む芳香族ジオール成分を、ホスゲンや炭酸ジエステルと反応させて得られる重合体である。即ち、フルオレン骨格含有ポリカーボネート重合体は、フルオレン骨格含有ジオールを含む芳香族ジオール成分由来の構造単位を含む。
【0069】
フルオレン骨格含有ジオールは、フルオレン骨格含有ポリエステル重合体を構成するフルオレン骨格含有ジオールと同様のものを用いることができる。
【0070】
芳香族ジオール成分は、フルオレン骨格含有ジオール以外の他の芳香族ジオールをさらに含んでいてもよい。他の芳香族ジオールは、通常、芳香族ポリカーボネートのジオール成分として使用されているものであればよく、その例には、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4′−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールE)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4′−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン(ビスフェノールM)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン等が含まれる。中でも、ビスフェノールが好ましく、ビスフェノールAがより好ましい。
【0071】
フルオレン骨格含有ジオール由来の構造単位の含有比率は、芳香族ジオール成分由来の構造単位の合計モル数に対して2〜100モル%であることが好ましい。フルオレン骨格含有ジオール由来の構造単位の含有比率が5モル%以上であると、芳香族化合物やシクロオレフィンオリゴマーとの間で相互作用を生じやすいだけでなく、フィルムに十分な機械的強度を付与しやすい。フルオレン骨格含有ジオール由来の構造単位の含有比率は、芳香族ジオール成分由来の構造単位の合計モル数に対して10〜95モル%であることがより好ましい。
【0072】
(フルオレン骨格含有(メタ)アクリレート重合体)
フルオレン骨格含有(メタ)アクリレート重合体は、重合性不飽和結合を有するフルオレン骨格含有化合物と(メタ)アクリレート化合物とを付加共重合反応させて得られる重合体である。即ち、フルオレン骨格含有(メタ)アクリレート重合体は、重合性不飽和結合を有するフルオレン骨格含有化合物由来の構造単位と、(メタ)アクリレート化合物由来の構造単位とを含む。
【0073】
重合性不飽和結合を有するフルオレン骨格含有化合物における「重合性不飽和結合」は、(メタ)アクリロイル基であることが好ましい。
【0074】
重合性不飽和結合((メタ)アクリロイル基)の数は、1個以上であればよく、2個以上(例えば、2〜6個、好ましくは2〜4個、特に2個)であることが好ましい。このようなフルオレン骨格含有化合物を用いると、ポリマーの一部に架橋構造(三次元構造)を導入でき、得られるフィルムの耐熱性や機械的強度を高めやすい。
【0075】
重合性不飽和結合を有するフルオレン骨格含有化合物は、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物であることが好ましく、下記式(2)で表される化合物であることがより好ましい。
【化7】
【0076】
式(2)のZ、R
1、R
2、R
3、k、m、n及びpは、式(1)のR
1、R
2、R
3、k、m、n及びpとそれぞれ同義である。R
4は、水素原子又はメチル基を示す。
【0077】
式(2)で表される化合物の例には、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシ−3−フェニルフェニル)フルオレン等の9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシアリール)フルオレン類;9,9−ビス(4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル)フルオレン等の9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン類が含まれる。
【0078】
重合性不飽和結合を有するフルオレン骨格含有化合物由来の構造単位の含有比率は、重合体を構成する単量体由来の構造単位の合計モル数に対して2〜50モル%であることが好ましい。上記含有比率が2モル%以上であると、芳香族化合物やシクロオレフィンオリゴマーとの間で相互作用を生じやすいだけでなく、フィルムに十分な機械的強度を付与しやすい。上記含有比率は、フルオレン骨格含有(メタ)アクリレート重合体を構成する構造単位の合計モル数に対して2〜20モル%であることがより好ましい。
【0079】
(メタ)アクリレート化合物は、(メタ)アクリロイル基を有し、且つフルオレン骨格を有しない化合物である。(メタ)アクリレート化合物は、単官能の(メタ)アクリレート化合物であってもよいし、二官能以上の(メタ)アクリレート化合物であってもよい。
【0080】
単官能の(メタ)アクリレート化合物の例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸C1−20アルキル(好ましくはC1−10アルキル、より好ましくはC1−4アルキル);(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキル;(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリール;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシC2−10アルキル(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の(ポリ)オキシC2−6アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが含まれる。
【0081】
二官能以上の(メタ)アクリレート化合物の例には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のC2−10アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)オキシC2−6アルキレングリコールジ(メタ)アクリレートが含まれる。
【0082】
これらのフルオレン骨格含有重合体の中でも、シクロオレフィン系重合体との相溶性が良好である点から、フルオレン骨格含有ポリエステル重合体が好ましい。
【0083】
フルオレン骨格含有重合体の重量平均分子量は、2000〜150万であることが好ましい。フルオレン骨格含有重合体の重量平均分子量が2000以上であると、分子鎖が一定以上の長さを有し、シクロオレフィン系重合体の分子鎖との絡み合いを生じやすいので、製膜工程での膜状物の強度を一層高めやすく、且つ位相差も一層低くできる。フルオレン骨格含有重合体の重量平均分子量が150万以下であると、シクロオレフィン系重合体との相溶性が損なわれにくいので、得られるフィルムのヘイズを一層低くできる。フルオレン骨格含有重合体の重量平均分子量は、5000〜100万であることがより好ましい。フルオレン骨格含有重合体の重量平均分子量は、シクロオレフィン系重合体の重量平均分子量と同様の方法で測定されうる。
【0084】
シクロオレフィン系重合体とフルオレン骨格含有重合体の合計含有量は、光学フィルムの全質量に対して60質量%以上であることが好ましい。上記合計含有量が60質量%以上であると、得られるフィルムの耐水性を一定以上に高めやすく、且つ位相差(RoやRt)を一定以下に調整しやすい。シクロオレフィン系重合体とフルオレン骨格含有重合体の合計含有量は、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0085】
シクロオレフィン系重合体とフルオレン骨格含有重合体の含有比率は、99/1〜40/60(質量比)であることが好ましい。上記含有比率が上記範囲内にあると、得られるフィルムの透明性と機械的強度のバランスが一層良好であり、位相差も一定以下に調整しやすい。シクロオレフィン系重合体とフルオレン骨格含有重合体の含有比率は、95/5〜50/50(質量比)であることがより好ましい。
【0086】
1−3.シクロオレフィン系オリゴマー又は芳香族化合物
シクロオレフィン系オリゴマー又は芳香族化合物は、シクロオレフィン系重合体とフルオレン骨格含有重合体との間で相互作用を生じさせやすくし、相溶させやすくする機能を有する。
【0087】
(シクロオレフィン系オリゴマー)
シクロオレフィン系オリゴマーは、プロトン供与性基又はカルボニル含有基を有するシクロオレフィン単量体の低分子量重合体である。即ち、シクロオレフィン系オリゴマーは、プロトン供与性基又はカルボニル含有基を有するシクロオレフィン単量体由来の構造単位を含む。但し、シクロオレフィン系オリゴマーは、前述のシクロオレフィン系重合体とは異なるものである。
【0088】
プロトン供与性基の例には、−OH、−SHが含まれる。カルボニル含有基の例には、−COOR(R:アルキル基又はアリール基)が含まれる。
【0089】
シクロオレフィン系オリゴマーを構成するシクロオレフィン単量体は、ノルボルネン系単量体であることがより好ましい。ノルボルネン系単量体の例には、シクロオレフィン系重合体を構成するノルボルネン系単量体と同様のものが含まれる。
【0090】
シクロオレフィン系オリゴマーの重量平均分子量は、シクロオレフィン系重合体の重量平均分子量よりも低く、1000〜10000であることが好ましい。シクロオレフィン系オリゴマーの重量平均分子量が1000以上であると、その分子鎖がフルオレン骨格含有重合体の分子鎖と絡みやすいので、フルオレン骨格含有重合体との間で十分な相互作用を生じやすく、相溶性も得られやすい。シクロオレフィン系オリゴマーの重量平均分子量が10000以下であると、相溶性が損なわれにくい。シクロオレフィン系オリゴマーの重量平均分子量は、3000〜6000であることがより好ましい。シクロオレフィン系オリゴマーの重量平均分子量は、シクロオレフィン系重合体の重量平均分子量と同様の方法で測定されうる。
【0091】
(芳香族化合物)
プロトン供与性基を有する芳香族化合物は、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環と、これらの環に結合したプロトン供与性基とを有する化合物である。プロトン供与性基は、前述したプロトン供与性基と同義である。
【0092】
芳香族炭化水素環の例には、ベンゼン環等の単環式芳香族炭化水素環;ナフタレン環、アントラセン環等の縮合多環式芳香族炭化水素環が含まれる。芳香族複素環の例には、ピリジン環、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール等の単環式芳香族複素環;キノリン、クメン等の縮合多環式芳香族複素環が含まれる。芳香族炭化水素環又は芳香族複素環は、二以上の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環が単結合を介して結合したものであってもよい。中でも、芳香族炭化水素環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。
【0093】
プロトン供与性基を有する芳香族化合物の例には、
チオフェノール等のチオール基を有する芳香族化合物;
フェノール、p−エチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール、3−メトキシフェノール、4−ノニルフェノール、p−ドデシルフェノール、カテコール、4−tert−ブチルピロカテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、tert−ブチルヒドロキノン、メチルヒドロキノン、クレゾール、キシレノール、ナフトール、2,3−ジヒドロキシナフタレン、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、ビフェノール、4−フェニルフェノール、4−フェノキシフェノール、4,4’−スルホニルジフェノール、ビスフェノールA、p−(α−クミル)フェノール、1,1,2,2‐テトラキス(4‐ヒドロキシフェニル)エタン、2−(3−ヒドロキシフェニル)エタノール等のヒドロキシ基を有する芳香族化合物;
ピリジノール等のヒドロキシ基を有する芳香族複素環化合物;
4−(4−ヒドロキシフェニル)−2−ブタノン、p−ヒドロキシフェニルピルビン酸、3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸メチル、4−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサノン、サリチル酸、サリチル酸エチル、チオサリチル酸、o−ヒドロキシアセトフェノン、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、サリチルアルデヒド、4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸、ヒドロキシフェニル酢酸、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸等のヒドロキシ基とカルボニル含有基とを有する芳香族化合物等が含まれる。
【0094】
プロトン供与性基を有する芳香族化合物は、重合体であってもよい。そのような重合体は、重合性不飽和結合とプロトン供与性基とを有する芳香族単量体の単独重合体又はそれと共重合可能な共重合性単量体との共重合体でありうる。
【0095】
重合性不飽和結合とプロトン供与性基とを有する芳香族単量体における「重合性不飽和結合」は、ビニル基や(メタ)アクリロイル基でありうる。重合性不飽和結合とプロトン供与性基とを有する芳香族単量体の例には、パラビニルフェノールが含まれる。
【0096】
パラビニルフェノールと共重合可能な共重合性単量体の例には、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(アルキル部分の炭素数が1〜18);(メタ)アクリル酸等のα,β−不飽和酸;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物等が含まれる。
【0097】
重合性不飽和結合とプロトン供与性基とを有する芳香族単量体の単独重合体又はそれと共重合可能な共重合性単量体との共重合体の市販品の例には、マルカリンカーM、S−1〜S−4、CMM、CST(丸善石油化学株式会社製)等が含まれる。
【0098】
プロトン供与性基を有する芳香族化合物の重量平均分子量は、100〜10000でありうる。プロトン供与性基を有する芳香族化合物の重量平均分子量が上記範囲内であると、他の成分との相溶性を損なうことなく、シクロオレフィン系重合体とフルオレン骨格含有重合体とを相互作用させやすい。
プロトン供与性基を有する芳香族化合物が重合体ではない場合、その重量平均分子量は100〜300であることがより好ましく;プロトン供与性基を有する芳香族化合物が重合体である場合、その重量平均分子量は1000〜10000であることがより好ましく、1500〜8000であることがさらに好ましい。
プロトン供与性基を有する芳香族化合物の重量平均分子量は、シクロオレフィン系重合体の重量平均分子量と同様の方法で測定されうる。
【0099】
シクロオレフィン系オリゴマー又は芳香族化合物の含有量は、シクロオレフィン系重合体とフルオレン骨格含有重合体の合計質量に対して0.1〜50質量%であることが好ましい。シクロオレフィン系オリゴマー又は芳香族化合物の含有量が0.1質量%以上であると、溶媒含有状態での膜状物の機械的強度を高めやすく、50質量%以下であると、シクロオレフィン系オリゴマー又は芳香族化合物の他の成分との相溶性が損なわれにくい。
【0100】
また、シクロオレフィン系オリゴマー又は芳香族化合物の添加により、シクロオレフィン系重合体とフルオレン骨格含有重合体との間で相互作用を生じさせることで溶媒含有状態での膜状物の機械的強度が向上するが、一方で、シクロオレフィン系重合体とフルオレン骨格含有重合体とを含むポリマー成分に対して、シクロオレフィン系オリゴマー又は芳香族化合物の量が多すぎると、溶媒含有状態での膜状物の機械的強度が得られにくいことがある。即ち、シクロオレフィン系オリゴマー又は芳香族化合物そのもの同志の相互作用はそれほど強くないため、シクロオレフィン系オリゴマー又は芳香族化合物がシクロオレフィン系重合体とフルオレン骨格含有重合体の間に多量に存在しすぎると、シクロオレフィン系重合体分子とフルオレン骨格含有重合体分子とが近傍に存在しにくくなる場合があり、重合体間で十分な相互作用が得られにくい場合がある。また、シクロオレフィン系オリゴマー又は芳香族化合物は比較的低分子量のため、これが多量に存在しすぎると、シクロオレフィン系重合体とフルオレン骨格含有重合体の分子鎖の絡み合いが十分には得られにくい場合もある。従って、シクロオレフィン系オリゴマー又は芳香族化合物の含有量は、シクロオレフィン系重合体とフルオレン骨格含有重合体の合計質量に対して1〜30質量%であることがより好ましい。
【0101】
1−4.その他の成分
光学フィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分の例には、微粒子(マット剤)や紫外線吸収剤、酸化防止剤等が含まれる。
【0102】
微粒子(マット剤)は、光学フィルムの滑り性を高める機能を有する。微粒子の例には、二酸化珪素(SiO
2)、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等の無機微粒子が含まれる。
【0103】
中でも、得られるフィルムのヘイズの増大を少なくするためには、二酸化ケイ素が好ましい。二酸化ケイ素粒子の市販品の例には、アエロジルR812、R972(日本アエロジル社製)、NanoTek SiO
2(シーアイ化成社製)等が含まれる。
【0104】
微粒子の形状は、不定形、針状、扁平、球状のいずれであってもよく、得られるフィルムの透明性が損なわれにくい点から、球状であることが好ましい。
【0105】
微粒子は、一種類で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。また、粒径や形状(例えば針状と球状など)の異なる粒子を併用することで、透明性と滑り性を高度に両立させてもよい。
【0106】
微粒子の平均一次粒子径は、5〜50nmであることが好ましい。微粒子の平均一次粒子径が5nm以上であると、フィルムの表面を粗面化することができるので、滑り性を付与しやすく、50nm以下であると、ヘイズの増大を抑制しやすい。微粒子の平均一次粒子径は、5〜30nmであることがより好ましい。
【0107】
微粒子の含有量は、シクロオレフィン系重合体の全質量に対して例えば0.1〜5質量%とし得る。無機微粒子の含有量が0.1質量%以上であると、光学フィルムの表面の滑り性を十分に高めやすく、5質量%以下であると、光学フィルムのヘイズの増大を抑制しやすい。微粒子の含有量は、シクロオレフィン系重合体の全質量に対して0.1〜2.5質量%であることがより好ましく、0.3〜2質量%であることがさらに好ましい。
【0108】
1−5.フィルム物性
(ヘイズ)
光学フィルムのヘイズは、0.01〜2.0であることが好ましい。光学フィルムのヘイズが2.0以下であると、ディスプレイの表示画像のコントラストを高めうる。光学フィルムのヘイズは、0.01〜1.0であることがより好ましい。光学フィルムのヘイズは、ヘイズメーター(型式NDH 2000、日本電色(株)製)により測定することができる。
【0109】
光学フィルムのヘイズは、例えばプロトン供与性基を有する芳香族化合物又はプロトン供与性基又はカルボニル含有基を有するシクロオレフィン系オリゴマーの添加量によって調整することができる。光学フィルムのヘイズを低くするためには、例えばプロトン供与性基を有する芳香族化合物又はプロトン供与性基又はカルボニル含有基を有するシクロオレフィン系オリゴマーの添加量を一定以上とすることが好ましい。
【0110】
(位相差Ro及びRt)
光学フィルムが、偏光板保護フィルム又は位相差フィルムとして用いられる場合、その用途に応じた位相差値Ro及びRtを有しうる。例えば、光学フィルムがゼロ位相差フィルムとして用いられる場合、測定波長590nm、23℃55%RHの環境下で測定される面内方向の位相差Roは、0nm≦Ro≦3nmを満たすことが好ましく、厚み方向の位相差Rtは、−5nm≦Rt≦5nmを満たすことが好ましい。
【0111】
光学フィルムのRo及びRtは、それぞれ下記式で定義される。
式(2a):Ro=(nx−ny)×d
式(2b):Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
(式中、
nxは、光学フィルムの面内遅相軸方向(屈折率が最大となる方向)の屈折率を表し、
nyは、光学フィルムの面内遅相軸に直交する方向の屈折率を表し、
nzは、光学フィルムの厚み方向の屈折率を表し、
dは、光学フィルムの厚み(nm)を表す。)
【0112】
光学フィルムの面内遅相軸とは、フィルム面において屈折率が最大となる軸をいう。光学フィルムの面内遅相軸は、自動複屈折率計アクソスキャン(AxoScan Mueller Matrix Polarimeter:アクソメトリックス社製)により確認することができる。
【0113】
光学フィルムのRo及びRtの測定は、以下の方法で行うことができる。
1)光学フィルムを23℃55%RHの環境下で24時間調湿する。この光学フィルムの平均屈折率をアッベ屈折計で測定し、厚みdを市販のマイクロメーターを用いて測定する。
2)調湿後の光学フィルムの、測定波長590nmにおけるリターデーションRo及びRtを、それぞれ自動複屈折率計アクソスキャン(AxoScan Mueller Matrix Polarimeter:アクソメトリックス社製)を用いて、23℃55%RHの環境下で測定する。
【0114】
光学フィルムの位相差Ro及びRtは、シクロオレフィン系重合体とフルオレン骨格含有重合体の含有比率、シクロオレフィン系オリゴマーや芳香族化合物の含有量、延伸倍率等によって調整することができる。光学フィルムの位相差Ro及びRtを一定以下とするためには、シクロオレフィン系重合体とフルオレン骨格含有重合体の含有比率を前述の範囲内としたり、シクロオレフィン系オリゴマーや芳香族化合物の含有量を一定以上としたり、延伸倍率を低くしたりすることが好ましい。
【0115】
(厚み)
光学フィルムの厚みは、例えば5〜100μm、好ましくは5〜40μm、より好ましくは10〜30μmとし得る。
【0116】
2.光学フィルムの製造方法
本発明の光学フィルムは、任意の方法で製造されうるが、生産効率が良く、膜厚均一性の高いフィルムが得られやすい等の点から、溶液製膜法(キャスト法)で製造されることが好ましい。
【0117】
即ち、本発明の光学フィルムは、1)前述のシクロオレフィン系重合体と、前述のフルオレン骨格含有重合体と、前述のシクロオレフィン系オリゴマー又は芳香族化合物と、溶剤とを含むドープを得る工程、2)当該ドープを支持体上に流延した後、乾燥させて膜状物を得る工程、3)得られた膜状物を支持体から剥離する工程、及び4)得られた膜状物を乾燥するか、又は乾燥しながら延伸する工程を経て製造されうる。
【0118】
1)の工程について
ドープに用いられる溶媒は、前述のシクロオレフィン系重合体を溶解させ得る有機溶媒(良溶媒)を含むことが好ましい。そのような良溶媒の例には、塩化メチレン(メチレンクロライド)等の塩素系有機溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、テトラヒドロフラン等の非塩素系有機溶媒が含まれる。中でも、塩化メチレン(メチレンクロライド)が好ましい。
【0119】
ドープに用いられる溶媒は、貧溶媒をさらに含んでいてもよい。貧溶媒の例には、炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールが含まれる。ドープ中のアルコールの比率が高くなると、膜状物がゲル化しやすく、金属支持体からの剥離が容易になりやすい。炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることができる。これらのうちドープの安定性、沸点も比較的低く、乾燥性もよいこと等からエタノールが好ましい。
【0120】
2)の工程について
得られたドープを、金属支持体上に流延する。ドープの流延は、流延ダイから吐出させて行うことができる。次いで、金属支持体上に流延されたドープ中の溶媒を蒸発させ、乾燥させて、膜状物を得る。
【0121】
3)の工程について
得られた膜状物を、乾燥されたドープを金属支持体から剥離する。金属支持体から剥離する際のドープの残留溶媒量(剥離時の残留溶媒量S
0)は、得られる光学フィルムの位相差RoやRtを低減しやすくする点では、30〜120質量%であることが好ましい。剥離時の残留溶媒量S
0が30質量%以上であると、乾燥又は延伸時にシクロオレフィン系重合体が流動しやすく無配向にしやすいため、得られる光学フィルムのRoやRtを低減しやすい。剥離時の残留溶媒量S
0が120質量%以下であると、ドープを剥離する際に要する力が過剰に大きくなりにくいので、ドープの破断を抑制しやすい。
【0122】
ドープの残留溶媒量は、下記式で定義される。以下においても同様である。
ドープの残留溶媒量(質量%)=(ドープの加熱処理前質量-ドープの加熱処理後質量)/ドープの加熱処理後質量×100
尚、残留溶媒量を測定する際の加熱処理とは、120℃60分の加熱処理をいう。
【0123】
4)の工程について
得られた膜状物を乾燥するか、又は乾燥しながら延伸する。延伸は、少なくとも一方向に行うことができる。延伸方向は、膜状物の長手方向(MD方向)と膜状物の長手方向と直交する幅手方向(TD方向)のいずれであってもよい。
【0124】
延伸倍率は、求められる光学性能に応じて設定されるが、光学フィルムをゼロ位相差フィルムとして機能させる観点では、例えば1.01〜1.3倍とすることができる。延伸倍率は、(延伸後のフィルムの延伸方向大きさ)/(延伸前のフィルムの延伸方向大きさ)として定義される。
【0125】
延伸温度は、シクロオレフィン系重合体のガラス転移温度をTgとしたとき、(Tg−30)℃〜(Tg+60)℃であることが好ましく、(Tg−10)℃〜(Tg+50)℃であることがより好ましい。延伸温度が(Tg−30)℃以上であると、乾燥又は延伸時に膜状物に加わる張力が過剰には大きくなりにくいので、得られる光学フィルムのRoやRtが過剰には増大しにくい。延伸温度が(Tg+60)℃以下であると、膜状物中の溶媒の気化による気泡の発生を高度に抑制しやすい。延伸温度は、具体的には140〜220℃とし得る。
【0126】
延伸開始時の膜状物中の残留溶媒量S
1は、5〜20質量%であることが好ましい。延伸開始時の残留溶媒量S
1が5質量%以上であると、残留溶媒による可塑化効果で、延伸時の膜状物の実質的なTgが低くなるため、光学フィルムのRoやRtが増大しにくい。延伸開始時の残留溶媒量S
1が20質量%以下であると、膜状物中の溶媒の気化による気泡の発生を高度に抑制できる。延伸開始時の膜状物中の残留溶媒量S
1は、8〜15質量%であることがより好ましい。
【0127】
膜状物のMD方向の延伸は、例えば複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用する方法(ロール法)で行うことができる。膜状物のTD方向の延伸は、例えば膜状物の両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げる方法(テンター法)で行うことができる。
【0128】
本発明では、ドープを乾燥させて得られる膜状物が、前述のシクロオレフィン系オリゴマー又は芳香族化合物を含むことから、シクロオレフィン系重合体と、フルオレン骨格含有重合体との相溶性が十分に高められている。従って、溶媒含有状態での膜状物の機械的強度が高められているので、金属支持体から膜状物を剥離するときや(3)の工程)、膜状物をロール搬送するときに(4)の工程)、膜状物の端部に裂けや切れ目が発生するのを抑制することができる。従って、透明性が高く、且つ機械的強度が高い光学フィルムを得ることができる。
【0129】
3.用途
本発明の光学フィルムは、高い透明性と、良好な機械的強度とを有することから、表示装置の偏光板保護フィルムや位相差フィルム、透明基板、表示画面用保護フィルム、タッチパネル用フィルム(電極フィルム)等に用いることができる。中でも、本発明の光学フィルムは、位相差を一定以下に調整しうることから、偏光板保護フィルムや位相差フィルムとして好ましく用いることができる。
【0130】
3−1.偏光板
本発明の偏光板は、偏光子と、本発明の光学フィルムとを含む。
【0131】
偏光子は、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光子は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムである。ポリビニルアルコール系偏光フィルムには、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと、二色性染料を染色させたものとがある。
【0132】
ポリビニルアルコール系偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムを一軸延伸した後、ヨウ素又は二色性染料で染色したフィルム(好ましくはさらにホウ素化合物で耐久性処理を施したフィルム)であってもよいし;ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素又は二色性染料で染色した後、一軸延伸したフィルム(好ましくは、さらにホウ素化合物で耐久性処理を施したフィルム)であってもよい。偏光子の吸収軸は、通常、最大延伸方向と平行である。
【0133】
偏光子の厚みは、5〜30μmであることが好ましく、偏光板を薄型化するため等から、5〜20μmであることがより好ましい。
【0134】
偏光子の一方の面のみに本発明の光学フィルムが配置される場合、他方の面には、他の光学フィルムが配置されてもよい。他の光学フィルムの例には、市販のセルロースアシレートフィルム(例えば、コニカミノルタタックKC8UX、KC4UX、KC5UX、KC8UY、KC4UY、KC12UR、KC8UCR−3、KC8UCR−4、KC8UCR−5、KC4FR−1、KC8UY−HA、KC8UX−RHA、KC8UE、KC4UE、KC4HR−1、KC4KR−1、KC4UA、KC6UA以上コニカミノルタオプト(株)製)等が含まれる。
【0135】
本発明の偏光板は、偏光子と本発明の光学フィルムとを接着剤を介して貼り合わせて得ることができる。接着剤は、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液(水糊)や活性エネルギー線硬化性接着剤でありうる。
【0136】
3−2.液晶表示装置
本発明の液晶表示装置は、液晶セルと、それを挟持する一対の偏光板とを含む。
【0137】
図1は、液晶表示装置の基本的な構成の一例を示す模式図である。
図1に示されるように、本発明の液晶表示装置10は、液晶セル30と、それを挟持する第一の偏光板50及び第二の偏光板70と、バックライト90とを含む。
【0138】
液晶セル30の表示モードは、例えばTN(Twisted Nematic)、VA(Vistical Alignment)、又はIPS(InPlane Switching)等のいずれの表示モードであってよい。例えば、モバイル機器向けの液晶セルとしては、IPSモードが好ましい。
【0139】
第一の偏光板50は、液晶セル30の視認側の面に配置されており、第一の偏光子51と、第一の偏光子51の視認側の面に配置された保護フィルム53(F1)と、第一の偏光子51の液晶セル側の面に配置された保護フィルム55(F2)とを含む。
【0140】
第二の偏光板70は、液晶セル30のバックライト側の面に配置されており、第二の偏光子71と、第二の偏光子71の液晶セル側の面に配置された保護フィルム73(F3)と、第二の偏光子71のバックライト側の面に配置された保護フィルム75(F4)とを含む。
【0141】
第一の偏光子51の吸収軸と第二の偏光子71の吸収軸とは直交している(クロスニコルとなっている)ことが好ましい。
【0142】
保護フィルム53(F1)、55(F2)、73(F3)及び75(F4)の少なくとも一つを、本発明の光学フィルムとしうる。中でも、本発明の光学フィルムは、ゼロ位相差フィルムとして機能しうることから、保護フィルム55(F2)又は73(F3)として用いられることが好ましい。
【実施例】
【0143】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0144】
1.光学フィルムの材料
(1)シクロオレフィン系重合体
<シクロオレフィン系重合体1>
シクロオレフィン単量体(ノルボルネン系単量体)として、下記化合物を100質量部と、分子量調節剤である1−ヘキセンを3.6質量部と、トルエンを200質量部とを窒素置換した反応容器に仕込み、80℃に加熱した。これに、重合触媒としてトリエチルアルミニウム((C
2H
5)
3Al)1.5モル/lのトルエン溶液を0.17質量部と、t−ブタノ−ル及びメタノールで変性した六塩化タングステン(WCl
6)を含み、t−ブタノール:メタノール:タングステン=0.35:0.3:1(モル比)であるWCl6溶液(濃度0.05モル/l)を1.0質量部とを加え、80℃で3時間加熱攪拌して開環重合反応させて、重合体溶液を得た。この重合反応における重合転化率は98%であった。
【化8】
【0145】
得られた重合体溶液の4000質量部をオートクレーブに入れ、この重合体溶液にRuHCl(CO)[P(C
6H
5)
3]
3を0.48質量部加え、水素ガス圧を10MPa、反応温度160℃の条件で3時間加熱攪拌して、水素添加反応を行った。
得られた反応溶液を冷却した後、水素ガスを放圧し、この反応溶液を大量のメタノール中に注いで凝固物を分離回収した。回収した凝固物を乾燥させて、シクロオレフィン系重合体1(COP1)を得た。
【0146】
得られたシクロオレフィン系重合体1の重量平均分子量と双極子モーメントを、それぞれ以下の方法で測定したところ、重量平均分子量は140000であり、双極子モーメントは4.79debyeであった。
【0147】
(重量平均分子量)
シクロオレフィン系重合体1の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にてポリスチレン換算にて測定した。具体的な測定条件は、以下の通りである。
(測定条件)
溶媒:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所(株)製)
流量:1.0ml/min
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いた。
【0148】
(双極子モーメント)
シクロオレフィン系重合体1の双極子モーメントは、1)分子力学法(MM3法)と半経験的分子軌道法(AM1法、PM6法)により、分子構造の最適化及び空間配座の最適化を行った後、2)富士通(株)製のシミュレーション・ソフトウェアであるFUJITSU Technical Computing Solution SCIGRESSを用いて、双極子モーメントを算出した。
【0149】
(2)フルオレン骨格含有重合体
(2−1)フルオレン骨格含有ポリエステル重合体
<フルオレン骨格含有ポリエステル重合体1>
テレフタル酸ジメチルエステル230質量部、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−フルオレン210質量部、エチレングリコール130質量部を原料とし、エステル交換触媒として酢酸カルシウム1.5質量部及び酢酸マンガン0.04質量部を用い、これらを反応槽に投入し、攪拌しながら常法に従って150℃から230℃に徐々に加熱してエステル交換反応を行った。所定のメタノールを系外に抜き出した後、重合触媒として酸化ゲルマニウム0.2質量部、着色、酸化防止剤としてリン酸トリエチルエステル0.26質量部を添加して、昇温と減圧を徐々に行い、発生するエチレングリコールを抜きながら、加熱温度を270℃、真空度を0.5Torr以下に到達させた。この条件を維持し、粘度の上昇を待ち、攪拌にかかるトルクが所定の値に達した時点で反応を終了し、水中に押し出してフルオレン骨格含有ポリエステル重合体1(フルオレン骨格含有ジオール構造単位の全ジオール構造単位の合計モル数に対する含有比率=18.6モル%)のペレットを得た。得られたフルオレン骨格含有ポリエステル重合体1の重量平均分子量を前述の方法で測定したところ、11万であった。
【0150】
<フルオレン骨格含有ポリエステル重合体2〜7>
フルオレン骨格含有ポリエステル重合体1の合成において、粘度上昇後のトルクの値を変更して、表1に示される重量平均分子量とした以外は同様にして、フルオレン骨格含有ポリエステル重合体2〜7を得た。
【0151】
<フルオレン骨格含有ポリエステル重合体8>
テレフタル酸ジメチルエステル230質量部、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−フルオレン50質量部、エチレングリコール130質量部を原料とし、エステル交換触媒として酢酸カルシウム1.5質量部及び酢酸マンガン0.04質量部を用いこれらを反応槽に投入し、攪拌しながら常法に従って150℃から230℃に徐々に加熱してエステル交換反応を行った。所定のメタノールを系外に抜き出した後、重合触媒として酸化ゲルマニウム0.2質量部、着色、酸化防止剤としてリン酸トリエチルエステル0.26質量部を添加して、昇温と減圧を徐々に行い、発生するエチレングリコールを抜きながら、加熱温度を270℃、真空度を0.5Torr以下に到達させた。この条件を維持し、粘度の上昇を待ち、攪拌にかかるトルクが所定の値に達した時点で反応を終了し、水中に押し出してフルオレン骨格含有ポリエステル重合体8(フルオレン骨格含有ジオール構造単位の全ジオール構造単位の合計モル数に対する含有比率=5.1モル%)のペレットを得た。得られたフルオレン骨格含有ポリエステル重合体8の重量平均分子量を前述の方法で測定したところ、11万であった。
【0152】
(2−2)フルオレン骨格含有(メタ)アクリレート重合体
<フルオレン骨格含有(メタ)アクリレート重合体1>
無水トルエン520質量部に、メタクリル酸メチル(関東化学(株)製)30質量部、9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン7.5質量部(重合成分全体に対して5モル%)、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.4質量部(重合成分100質量部に対して1質量部)を投入し、50℃で5時間反応させた。反応後、へキサンに投じて沈殿物を分離し、洗浄乾燥させて、フルオレン骨格含有(メタ)アクリレート重合体1(メタクリル酸メチル/9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン共重合体)を得た。得られたフルオレン骨格含有(メタ)アクリレート重合体1の重量平均分子量を前述の方法で測定したところ、12万であった。
【0153】
(2−3)フルオレン骨格含有ポリカーボネート重合体
<フルオレン骨格含有ポリカーボネート重合体1>
温度計、撹拌機、還流冷却器付き反応器にイオン交換水380質量部、25%水酸化ナトリウム水溶液210質量部を入れ、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(以下“ビスクレゾールフルオレン”と略称することがある)87質量部、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下“ビスフェノールA”と略称することがある)23質量部、及びハイドロサルファイト0.22質量部を溶解した後、塩化メチレン360質量部を加えた後、撹拌下15〜25℃でホスゲン45質量部を、60分を要して吹き込んだ。ホスゲンの吹き込みが終了した後、p−tert−ブチルフェノール0.4質量部を塩化メチレン7質量部に溶解させた溶液と、25%水酸化ナトリウム水溶液26質量部とを加え、乳化後、トリエチルアミン0.08質量部を加えて28〜33℃で1時間撹拌して反応を終了した。反応終了後、生成物を塩化メチレンで希釈して水洗した後、塩酸酸性にして水洗し、水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになったところで、塩化メチレン相を濃縮、脱水して、フルオレン骨格含有ポリカーボネート重合体の濃度が20%の溶液を得た。この溶液から溶媒を除去して、フルオレン骨格含有ポリカーボネート重合体1(フルオレン骨格含有ジオール構造単位の芳香族ジオール構造単位の合計モル数に対する含有比率=69.5モル%)を得た。フルオレン骨格含有ポリカーボネート重合体1の重量平均分子量を前述の方法で測定したところ、8万であった。
【0154】
(3)特定の添加剤
(3−1)プロトン供与性基又はカルボニル基を有するシクロオレフィン系オリゴマー
<シクロオレフィン系オリゴマー1の合成>
シクロオレフィン単量体(ノルボルネン系単量体)として、下記化合物を100質量部、分子量調節剤である1−ヘキセンを10質量部と、トルエン200質量部を、窒素置換した反応容器に仕込み、80℃に加熱した。これに、重合触媒としてトリエチルアルミニウム[(C
2H
5)
3Al]の1.5モル/Lのトルエン溶液0.17質量部と、t−ブタノ−ル及びメタノールで六塩化タングステン(WCl
6)を変性し、t−ブタノール、メタノール、タングステンのモル比を0.35:0.3:1としたWCl
6溶液(濃度0.05モル/L)1.0質量部を加え、80℃で3時間加熱攪拌することにより開環重合反応させて重合体溶液を得た。この重合反応における重合転化率は98%であった。
【化9】
【0155】
得られた重合体溶液の4000質量部をオートクレーブに入れ、これの重合体溶液にRuHCl(CO)[P(C
6H
5)
3]
3を0.48質量部加え、水素ガス圧を10MPa、反応温度160℃の条件で3時間加熱攪拌して水素添加反応を行った。
得られた反応溶液を冷却した後、水素ガスを放圧し、この反応溶液を大量のメタノール中に注いで凝固物を分離回収した。回収した凝固物を乾燥して、シクロオレフィン系オリゴマー1を得た。シクロオレフィン系オリゴマー1の重量平均分子量を前述の方法で測定したところ、5000であった。
【0156】
<シクロオレフィン系オリゴマー2の合成>
シクロオレフィン単量体(ノルボルネン系単量体)として、下記化合物を100質量部、分子量調節剤である1−ヘキセン12質量部とトルエン200質量部を、窒素置換した反応容器に仕込み、90℃に加熱した。これに、重合触媒としてトリエチルアルミニウム((C
2H
5)
3Al)の1.8モル/Lのトルエン溶液0.22質量部と、t−ブタノ−ル及びメタノールで変性した六塩化タングステン(WCl
6)を変性し、t−ブタノールとメタノール及びタングステンのモル比が0.35:0.3:1とされたWCl
6溶液(濃度0.05モル/L)1.0質量部を加え、80℃で5時間加熱攪拌することにより開環重合反応させて重合体溶液を得た。この重合反応における重合転化率は97%であった。
【化10】
【0157】
得られた重合体溶液の4000質量部をオートクレーブに入れ、これの重合体溶液にRuHCl(CO)[P(C
6H
5)
3]
3を0.48質量部加え、水素ガス圧を10MPa、反応温度160℃の条件で3時間加熱攪拌して水素添加反応を行った。
得られた反応溶液を冷却した後、水素ガスを放圧し、この反応溶液を大量のメタノール中に注いで凝固物を分離回収した。回収した凝固物を乾燥して、シクロオレフィン系オリゴマー2を得た。シクロオレフィン系オリゴマー2の重量平均分子量を、前述の方法で測定したところ、3500であった。
【0158】
(3−2)プロトン供与性基を有する芳香族化合物
芳香族化合物1:p−ヒドロキシ安息香酸メチル(下記式参照、分子量152)
【化11】
芳香族化合物2:p−(α−クミル)フェノール(下記式参照、分子量212)
【化12】
芳香族化合物3:マルカリンカーM、S−1(パラビニルフェノール単独重合体、重量平均分子量1600〜2400)
【0159】
(4)比較用化合物
ポリスチレン(重量平均分子量22万)
BPEF:ビスフェノキシエタノールフルオレン(重量平均分子量438.5)
【0160】
2.光学フィルムの作製・評価
(実施例1)
<光学フィルム1の作製>
(マット剤添加液の調製)
下記材料をディゾルバーで50分間撹拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、マット剤含有量が4.0質量%のマット剤添加液1を調製した。
マット剤:アエロジルR812(日本アエロジル株式会社製):4質量部
ジクロロメタン:48質量部
エタノール:48質量部
【0161】
(ドープの調製)
はじめに、加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを投入した。次いで、前記加圧溶解タンクに、シクロオレフィン系重合体1(COP1)を撹拌しながら投入した。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244(濾過精度0.005mm)を使用して濾過流量300L/m
2・h、濾圧1.0×10
6Paにて濾過し、ドープを調製した。
(ドープの組成)
COP1(シクロオレフィン系重合体):83.0質量部
フルオレン骨格含有ポリエステル重合体1(フルオレン骨格含有重合体):13.0質量部
芳香族化合物1(特定の添加剤):2.5質量部
ジクロロメタン:300.0質量部
エタノール:20.0質量部
4質量%マット剤添加液1:37.5質量部(マット剤量:1.5質量部)
上記ドープにおける固形物は、シクロオレフィン系重合体1(83.0質量%)、フルオレン骨格含有ポリエステル重合体1(13.0質量%)、芳香族化合物1(2.5質量%)、マット剤(1.5質量%)の組成を有する。
【0162】
(製膜)
上記調製したドープを加圧溶解タンクからギヤポンプで加圧ダイスまで送液し、ステンレス製無端支持体(ベルト)上に流延(キャスト)した。流延したドープ中の残留溶媒量が40質量%になるまで溶媒を蒸発させた後、得られた膜状物をステンレス製無端支持体上から剥離張力130N/mで剥離した。剥離した膜状物を乾燥しながらテンター延伸装置に搬送し、幅方向に延伸倍率5%(1.05倍)でテンター中を搬送した。このとき、延伸時の残留溶媒量が11質量%になるように、剥離からテンターまでの乾燥条件を調整した。また、テンター延伸装置の温度は160℃にし、延伸速度は200%/minとした。
次いで、乾燥装置内を多数のローラーで搬送させながら乾燥を終了させた。乾燥温度は130℃で、搬送張力は100N/mとした。その後、得られた光学フィルムの両端部をスリットした後、エンボス加工を施し、乾燥膜厚が20μmの光学フィルム1を作製した。
【0163】
<光学フィルム2〜5の作製>
特定の添加剤の種類を表1に示されるように変更した以外は光学フィルム1と同様にして光学フィルム2〜5を得た。
【0164】
<光学フィルム6〜10の作製>
フルオレン骨格含有重合体とシクロオレフィン系重合体の含有量を表1に示されるように変更した以外は光学フィルム1と同様にして光学フィルム6〜10を得た。
【0165】
<光学フィルム11〜16の作製>
特定の添加剤とシクロオレフィン系重合体とフルオレン骨格含有重合体の含有量を表1に示されるように変更した以外は光学フィルム1と同様にして光学フィルム11〜16を得た。
【0166】
<光学フィルム17〜23の作製>
フルオレン骨格含有重合体の重量平均分子量Mwを表1に示されるように変更した以外は光学フィルム1と同様にして光学フィルム17〜23を得た。
【0167】
<光学フィルム24〜29の作製>
フルオレン骨格含有重合体と特定の添加剤の組み合わせを表1に示されるように変更した以外は光学フィルム1と同様にして光学フィルム24〜29を得た。
【0168】
<光学フィルム30の作製>
フルオレン骨格含有重合体と特定の添加剤の両方を添加しなかった以外は光学フィルム1と同様にして光学フィルム30を得た。
【0169】
<光学フィルム31〜32の作製>
フルオレン骨格含有重合体に代えて表1に示される比較用重合体を添加し、特定の添加剤を添加しなかった以外は光学フィルム1と同様にして光学フィルム31〜32を得た。
【0170】
<光学フィルム33〜35の作製>
フルオレン骨格含有重合体として表1に示されるものを添加し、且つ特定の添加剤を添加しなかった以外は光学フィルム1と同様にして光学フィルム33〜35を得た。
【0171】
光学フィルム1〜35の主要な組成を表1に示す。
【0172】
【表1】
【0173】
光学フィルム1〜35を製膜する工程における、溶媒含有状態でのフィルム強度と相溶性を、以下の方法で評価した。
【0174】
(溶媒含有状態での膜状物の強度)
溶媒含有状態での膜状物の強度が十分でないと、膜状物の剥離及び搬送時に、フィルム端部から裂けや切れ目が発生する。極端な場合は、この裂けや切れ目から、搬送中の膜状物(又はフィルム)が完全に破断してしまい、著しく生産性が低下する。
従って、溶媒含有状態での膜状物の強度は、支持体上に流延したドープを支持体から剥離するときの剥離部分を目視観察し、1000mの製膜を行う間に端部の裂けや切れ目が確認された回数をカウントした。
裂けや切れ目が確認された回数が、5回以下であれば良好であると判断した。
【0175】
(相溶性)
ドープを調製するときの樹脂の溶解状態を目視観察して、以下の基準により評価した
◎:まったく濁りがなく透明
○:ほとんど濁りがない
△:少し濁りがある
×:明らかに濁りがある
【0176】
さらに、得られた光学フィルム1〜35の透明性と位相差を、それぞれ以下の方法で評価した。
【0177】
(透明性)
得られたフィルムのヘイズを、JIS K−7136に準拠して、23℃55%RHの環境下で、日本電色工業株式会社製ヘイズメーターNDH−2000にて測定した。
ヘイズは、2以下であると良好であると判断した。
【0178】
(位相差)
得られたフィルムを、温度23℃、相対湿度55%RHの環境下で24時間調湿した。その後、フィルムの波長550nmにおける3次元の屈折率(nx、ny及びnz)を、Axometrics社製Axoscanを用いて測定した。得られた屈折率nx及びny、nzを、下記式に当てはめて、面内方向の位相差Ro、及び厚み方向の位相差Rtを算出した。
Ro=(nx−ny)×d
Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
Roは3nm以下であり、Rtは−5nm〜5nmの範囲であれば良好であると判断した。
【0179】
光学フィルム1〜35の評価結果を表2に示す。
【0180】
【表2】
【0181】
表2に示されるように、本発明の光学フィルム1〜29は、製膜工程での裂けや切れ目の発生回数が少なく、溶媒含有状態でのフィルム強度が高いことがわかる。また、相溶性も良好であることがわかる。また、製膜後に得られる光学フィルムのヘイズ(透明性)も低く、位相差RoやRtも低いことがわかる。
【0182】
特に、フルオレン骨格含有重合体の重量平均分子量を5000以上とすることで、製膜工程での裂けや切れ目の発生回数を一層少なくし、且つ位相差も一層低くできることがわかる(光学フィルム17と18〜21との対比)。フルオレン骨格含有重合体の重量平均分子量を100万以下とすることで、製膜工程でのドープの相溶性を一層高め、得られるフィルムのヘイズを一層低くできることがわかる(光学フィルム18〜21と22との対比)。
【0183】
また、シクロオレフィン系オリゴマー又は芳香族化合物の含有量が、シクロオレフィン系重合体とフルオレン骨格含有重合体の合計質量に対して1〜45質量%の範囲内であると、溶媒含有状態でのフィルム強度や相溶性が一層高いことがわかる(光学フィルム12〜15と、12又は16との対比)。
【0184】
これに対して、フルオレン骨格含有重合体を含まない光学フィルム30や比較用重合体を含む光学フィルム31及び32は、いずれも製膜工程で裂けや切れ目が多く発生し、溶媒含有状態でのフィルム強度が低いことがわかる。また、フルオレン骨格含有重合体を含んでいても、特定の添加剤を含まない光学フィルム33〜35は、製膜工程での裂けや切れ目が依然として発生するだけでなく、相溶性が低く、得られるフィルムのヘイズが高いことがわかる。