特許第6957907号(P6957907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友ベークライト株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6957907
(24)【登録日】2021年10月11日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】フェノール樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 8/00 20060101AFI20211021BHJP
   C08G 8/04 20060101ALI20211021BHJP
【FI】
   C08G8/00 F
   C08G8/04
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-48215(P2017-48215)
(22)【出願日】2017年3月14日
(65)【公開番号】特開2018-150464(P2018-150464A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2020年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】国実 貴夫
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−095152(JP,A)
【文献】 特開2006−233062(JP,A)
【文献】 特開平06−234824(JP,A)
【文献】 特表平03−503545(JP,A)
【文献】 特開2003−292725(JP,A)
【文献】 特開2001−131253(JP,A)
【文献】 特表2005−510599(JP,A)
【文献】 特開平04−234452(JP,A)
【文献】 特開平04−175323(JP,A)
【文献】 特開平10−119010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 4/00−16/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール類とアルデヒド類とを反応させて、フェノール樹脂及び水を含む反応溶液を得る工程と、
前記反応溶液中に、有機溶剤を添加せずに、前記アルデヒド類と反応し、かつ前記アルデヒド類の水溶性を高める水溶性促進剤を添加する工程と、
前記水溶性促進剤を添加した後の前記反応溶液に対して静置し、水層と樹脂層との2層分離を行い、前記樹脂層中の前記フェノール樹脂を回収する工程と、を含み、
前記水溶性促進剤が、亜硫酸、および亜硫酸塩からなる群から選択される一種以上を含む、
フェノール樹脂の製造方法。
【請求項2】
フェノール類とアルデヒド類とを反応させて、フェノール樹脂及び水を含む反応溶液を得る工程と、
前記反応溶液中に、有機溶剤を添加せずに、前記アルデヒド類と反応し、かつ前記アルデヒド類の水溶性を高める水溶性促進剤を添加する工程と、
前記水溶性促進剤を添加した後の前記反応溶液に対して静置し、水層と樹脂層との2層分離を行い、前記樹脂層中の前記フェノール樹脂(ただし、フェノール尿素共縮合樹脂を含まない)を回収する工程と、を含む、
フェノール樹脂の製造方法。
【請求項3】
アルカリ性触媒を添加して、または酢酸亜鉛、蟻酸亜鉛および酢酸亜鉛の水和物の少なくともいずれかを含む亜鉛系触媒を添加して、フェノール類とアルデヒド類とを反応させて、フェノール樹脂及び水を含む反応溶液を得る工程と、
前記アルカリ性触媒または前記亜鉛系触媒を含む前記反応溶液中に、有機溶剤を添加せずに、前記アルデヒド類と反応し、かつ前記アルデヒド類の水溶性を高める水溶性促進剤を添加する工程と、
前記水溶性促進剤を添加した後の前記反応溶液に対して静置し、水層と樹脂層との2層分離を行い、前記樹脂層中の前記フェノール樹脂を回収する工程と、を含む、
フェノール樹脂の製造方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載のフェノール樹脂の製造方法であって、
前記水溶性促進剤が、亜硫酸、亜硫酸塩およびアミン化合物からなる群から選択される一種以上を含む、フェノール樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のフェノール樹脂の製造方法であって、
前記アミン化合物が、尿素系化合物、アルカノールアミン系化合物およびヒドロキシルアミン系化合物からなる群から選択される一種以上を含む、フェノール樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項1、4および5のいずれか1項に記載のフェノール樹脂の製造方法であって、
前記亜硫酸塩が、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸リチウムからなる群から選択される一種以上を含む、フェノール樹脂の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のフェノール樹脂の製造方法であって、
前記アルデヒド類が、ホルムアルデヒドまたはアセトアルデヒドを含む、フェノール樹脂の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のフェノール樹脂の製造方法であって、
前記フェノール類が、フェノール、クレゾール、キシレノール、およびビスフェノールからなる群より選ばれる1種以上を含む、フェノール樹脂の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のフェノール樹脂の製造方法であって、
前記水溶性促進剤を添加する前の前記反応溶液を得る工程は、アルカリ性条件下またはpH4から6の弱酸性条件化で行うものである、フェノール樹脂の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のフェノール樹脂の製造方法であって、
前記フェノール樹脂を回収する工程は、前記水溶性促進剤を添加した後の前記反応溶液を中和することにより、水層と樹脂層とを2層分離する工程を含む、フェノール樹脂の製造方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載のフェノール樹脂の製造方法であって、
前記フェノール樹脂を回収する工程は、前記2層分離して得られた樹脂層に水を加え、水層と樹脂層を分離させ、分離した樹脂層を回収する工程を含む、フェノール樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂の製造方法に関する技術としては、例えば、特許文献1に記載の技術が挙げられる。同文献によれば、フェノールとホルマリンとを反応させてレゾール型フェノール樹脂を得ることが記載されている(特許文献1の実施例1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−201245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討したところ、上記文献に記載のフェノール樹脂の製造方法においては、ホルムアルデヒド残渣を高度に低減する点において、改善の余地を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
安全性の観点から、フェノール樹脂中に残存するホルムアルデヒドなどのアルデヒド類の残量をさらに低減することが要求されている。
本発明者は、こうした使用環境に鑑み、フェノール樹脂から残存アルデヒド類を除去する工程について検討した結果、フェノール類とアルデヒド類とを反応させて、フェノール樹脂を含む反応溶液に対して、アルデヒド類の水溶性を高める水溶性促進剤を添加することにより、水層と樹脂層との2層分離によって、フェノール樹脂から残存アルデヒド類を除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、
フェノール類とアルデヒド類とを反応させて、フェノール樹脂及び水を含む反応溶液を得る工程と、
前記反応溶液中に、有機溶剤を添加せずに、前記アルデヒド類と反応し、かつ前記アルデヒド類の水溶性を高める水溶性促進剤を添加する工程と、
前記水溶性促進剤を添加した後の前記反応溶液に対して静置し、水層と樹脂層との2層分離を行い、前記樹脂層中の前記フェノール樹脂を回収する工程と、を含み、
前記水溶性促進剤が、亜硫酸、および亜硫酸塩からなる群から選択される一種以上を含む、
フェノール樹脂の製造方法が提供される。
また本発明によれば、
フェノール類とアルデヒド類とを反応させて、フェノール樹脂及び水を含む反応溶液を得る工程と、
前記反応溶液中に、有機溶剤を添加せずに、前記アルデヒド類と反応し、かつ前記アルデヒド類の水溶性を高める水溶性促進剤を添加する工程と、
前記水溶性促進剤を添加した後の前記反応溶液に対して静置し、水層と樹脂層との2層分離を行い、前記樹脂層中の前記フェノール樹脂(フェノール尿素共縮合樹脂を含まない)を回収する工程と、を含む、
フェノール樹脂の製造方法が提供される。
また本発明によれば、
アルカリ性触媒を添加して、または酢酸亜鉛、蟻酸亜鉛および酢酸亜鉛の水和物の少なくともいずれかを含む亜鉛系触媒を添加して、フェノール類とアルデヒド類とを反応させて、フェノール樹脂及び水を含む反応溶液を得る工程と、
前記アルカリ性触媒または前記亜鉛系触媒を含む前記反応溶液中に、有機溶剤を添加せずに、前記アルデヒド類と反応し、かつ前記アルデヒド類の水溶性を高める水溶性促進剤を添加する工程と、
前記水溶性促進剤を添加した後の前記反応溶液に対して静置し、水層と樹脂層との2層分離を行い、前記樹脂層中の前記フェノール樹脂を回収する工程と、を含む、
フェノール樹脂の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アルデヒド類の残渣を高度に低減できるフェノール樹脂の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態のフェノール樹脂の製造方法の概要について説明する。
本実施形態のフェノール樹脂の製造方法は、フェノール類とアルデヒド類とを反応させて、フェノール樹脂を含む反応溶液を得る工程と、反応溶液中に、アルデヒド類と反応し、かつアルデヒド類の水溶性を高める水溶性促進剤を添加する工程と、反応溶液に対して水層と樹脂層との2層分離を行い、樹脂層中のフェノール樹脂を回収する工程と、を含むことができる。
【0009】
本実施形態のフェノール樹脂の製造方法によれば、フェノール類とアルデヒド類とを反応させて、フェノール樹脂を含む反応溶液に対して、アルデヒド類の水溶性を高める水溶性促進剤を添加することができる。これにより、水層と樹脂層との2層分離によって、フェノール樹脂と、水溶性促進剤と反応したアルデヒド類とを分離できるため、残存するアルデヒド類を効率的に除去できる。
【0010】
本実施形態のフェノール樹脂の製造方法により得られたフェノール樹脂中における、ホルマリンなどのアルデヒド類の残渣量は、水溶性促進剤を添加しない場合や、水層と樹脂層とによる2層分離を実施しない場合と比べて低減させることができる。
【0011】
以下、本実施形態のフェノール樹脂の製造方法の各工程について詳述する。
本実施形態のフェノール樹脂の製造方法は、反応溶液を得る工程、水溶性促進剤を添加する工程および、フェノール樹脂を回収する工程を含むことができる。
【0012】
上記反応溶液を得る工程は、フェノール類とアルデヒド類とを反応させる工程を含むことができる。これにより、フェノール類とアルデヒド類とが反応してなるフェノール樹脂を含む反応溶液を得ることができる。
【0013】
本実施形態において、レゾール型フェノール樹脂を製造する観点から、反応溶液を得る工程は、アルカリ性条件下で行うことができる。この場合、アルカリ性触媒を用いることができる。また、レゾール型フェノール樹脂を製造する反応溶液を得る工程は、弱酸性下で行うことができる。この場合、亜鉛系触媒を用いることができる。
以下、レゾール型フェノール樹脂を製造する方法について説明する。
【0014】
上記フェノール類としては、例えば、フェノール環数は1核体、2核体または3核体などのいずれでもよく、フェノール性水酸基数は、1個でも2個以上でもよい。
上記フェノール類の一例としては、特に限定されないが、例えば、フェノール;オルソクレゾール、メタクレゾール、パラクレゾール等のクレゾール;2、3−キシレノール、2、4−キシレノール、2、5−キシレノール、2、6−キシレノール、3、5−キシレノール等のキシレノール;2,3,5−トリメチルフェノール、2−エチルフェノール、4−エチルフェノール、2−イソプロピルフェノール、4−イソプロピルフェノール、n−ブチルフェノール、イソブチルフェノール、tert−ブチルフェノール、ヘキシルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、フェニルフェノール、ベンジルフェノール、クミルフェノール、アリルフェノール、カルダノール、ウルシオール、ラッコール等のアルキルフェノール;1−ナフトール、2−ナフトール等のナフトール;フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール、p−フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体;ビスフェノールS、ビスフェノールF、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールZ、ビスフェノールE等のビスフェノール;レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ジヒドロキシナフタリン、ナフタレン等の多価フェノール;などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、フェノール類は、フェノール、クレゾール、キシレノール、アルキルフェノールおよびビスフェノールからなる群より選ばれる1種以上を含むことができ、安価な観点から、フェノール、クレゾール、ブチルフェノール、ビスフェノールAを用いることができる。
【0015】
上記アルデヒド類としては、特に限定されないが、例えば、ホルマリンやパラホルムアルデヒド等のホルムアルデヒド;トリオキサン、アセトアルデヒド、パラアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、tert−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒド類は単独または2種以上を組み合わせて使用してもよい。この中でも、アルデヒド類は、ホルムアルデヒドまたはアセトアルデヒドを含むことができ、生産性および安価な観点から、ホルマリンまたはパラホルムアルデヒドを用いることができる。
【0016】
上記反応溶液を得る工程において、上記のフェノール類とアルデヒド類とは、アルカリ性触媒を使用し、例えばpH7以上のアルカリ条件下にて反応させることができる。
【0017】
上記アルカリ性触媒としては、特に限定はされないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア水、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、トリエチルアミンなどのアミン、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物、炭酸ナトリウム、ヘキサメチレンテトラミンなどのアルカリ性物質を用いることができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、水酸化ナトリウムを用いてもよい。
【0018】
また、上記反応溶液を得る工程において、上記のフェノール類とアルデヒド類とは、亜鉛系触媒を使用し、例えばpH4から6の弱酸性条件下にて反応させることができる。
【0019】
上記亜鉛系触媒としては、特に限定されず、二価金属塩触媒であればいずれも使用できるが、例えば、酢酸亜鉛や蟻酸亜鉛等を用いることができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、酢酸亜鉛の水和物を用いてもよい。
【0020】
上記アルカリ性触媒または上記亜鉛系触媒の添加量は、フェノール類100重量%に対し、例えば、0.01重量%〜20重量%としてもよく、好ましくは0.1重量%〜10重量%とすることができる(以下、「〜」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す)。
【0021】
また、フェノール類とアルデヒド類のモル比(F/Pモル比)は、フェノール類1モルに対し、例えば、アルデヒド類を0.9モル〜4.0モルとしてもよく、好ましくは1.0モル〜3.0モルとすることができる。アルデヒド類を上記範囲とすることで、上記のようにフェノール類1モルに対して、アルデヒド類の転化率が高まり、残留未反応アルデヒド類を低減させることができる。
【0022】
また、反応温度は、例えば、40℃〜120℃としてもよく、好ましくは60℃〜100℃としてもよい。これにより、ゲル化を抑制して、反応を十分に進めることができる。なお、反応時間は、特に制限はなく、出発原料の種類、配合モル比、触媒の使用量及び種類、反応条件に応じて適宜決定すればよい。
【0023】
本実施形態における溶媒としては、水を用いてもよいが、有機溶剤を用いてもよい。有機溶剤としては、非極性溶媒を用いて非水系を用いることができる。有機溶剤の一例としては、例えば、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、炭化水素類で、アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等で、ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等で、エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸アミル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等で、エーテル類としては、プロピルエーテル、ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、炭化水素類としては、トルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ソルベントナフサ、工業ガソリン、石油エーテル、石油ベンジン。リグロイン等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
以上により、レゾール型フェノール樹脂を含む反応溶液を得ることができる。
【0025】
次いで、水溶性促進剤を添加する工程は、アルデヒド類とフェノール類とを反応させる工程の後、得られた反応溶液中に、残存するアルデヒド類と反応し、かつ当該アルデヒド類の水溶性を高める水溶性促進剤を添加することができる。すなわち、当該反応溶液中に残存するホルムアルデヒドなどのアルデヒド類に対して、水溶性促進剤を反応させる。これにより、水溶性促進剤と反応したアルデヒド類を、後述の2層分離工程にて、得られたレゾール型フェノール樹脂と分離することが容易になる。
【0026】
上記水溶性促進剤としては、アルデヒド類と反応し、かつアルデヒド類の水溶性を高めるものを用いることができ、例えば、亜硫酸、亜硫酸塩およびアミン化合物からなる群から選択される一種以上を含むことができる。上記アミン化合物としては、例えば、尿素、チオ尿素、エチレン尿素、プロピレン尿素等の尿素系化合物;モノメタノールアミン、ジメタノールアミン、モノエタノールアミン、メタノールエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアルカノールアミン系化合物;ヒドロキシルアミン、塩酸ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン、硝酸ヒドロキシルアミン、リン酸ヒドロキシルアミン等のヒドロキシルアミン系化合物;パラバン酸、ジシアンジアミド、モルホリン、アンモニア、等を用いることができる。この中でも、アミン化合物は、例えば、尿素系化合物、アルカノールアミン系化合物およびヒドロキシルアミン系化合物からなる群から選択される一種以上を含むことができる。亜硫酸塩としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、および亜硫酸リチウムからなる群から選択される一種以上を含むことができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本実施形態において、上記水溶性促進剤の添加量としては、上記反応溶液の全量100重量%に対して、例えば、0.01重量%〜50重量%でもよく、好ましくは0.1重量%〜30重量%でもよく、より好ましくは1重量%〜20重量%でもよい。
【0028】
次いで、反応溶液に対して水層と樹脂層との2層分離を行う。これにより、反応溶液中に残存する、水溶性促進剤と反応したアルデヒド類を水層に移動させることができるので、レゾール型フェノール樹脂とアルデヒド類とを良好に分離できる。したがって、回収されたレゾール型フェノール樹脂に残存するアルデヒド類の残渣をさらに低減させることができる。
【0029】
本実施形態において、2層分離操作としては、例えば、反応溶液を中和すること、反応溶液の温度を調整すること、溶媒を添加すること等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。一例として、反応溶液を中和する場合、例えば、アルカリ性の反応溶液に対して、酸で中和することができる。
【0030】
上記酸としては、特に限定されないが、例えば、蓚酸、ギ酸、酢酸、酪酸、乳酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸などの有機カルボン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、フェノールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの有機スルホン酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸などの無機酸などが挙げられる。この中でも無機酸を用いることができる。
【0031】
樹脂層中のレゾール型フェノール樹脂を回収する工程は、上記2層分離工程の後に、さらに、水洗による液液分離を行うことができる。水洗による液液分離は、1回でも複数回行ってもよい。これにより、水溶性促進剤と反応したアルデヒド類の残渣を十分に除去することができる。
【0032】
また、脱水工程をさらに行ってもよい。脱水方法としては、減圧脱水を用いてもよいが、常圧脱水を用いてもよい。例えば、減圧脱水時の真空度は、例えば、110torr以下としてもよく、さらに好ましくは80torr以下としてもよい。これにより、脱水時間を短縮することができ、樹脂特性のばらつきの少ない安定的なレゾール型フェノール樹脂を得ることができる。これらの方法により水分を十分に除去することができるが、更に除去するために、真空乾燥機や薄膜蒸発装置などの公知の水分除去装置を使用する工程と組み合わせてもよい。
【0033】
以上により、樹脂層中のレゾール型フェノール樹脂を回収することができる。
【0034】
また、得られたレゾール型フェノール樹脂は、液状で使用されてよく、固形状で使用されてよい。液状のレゾール型フェノール樹脂は、室温25℃において液状でもよい。また、室温25℃において固形状のレゾール型フェノール樹脂は、粉状、塊状、フレーク状、マーブル状、棒状のいずれでもよい。なお、レゾール型フェノール樹脂は、水溶性でもよく、分散媒に分散させたエマルジョンタイプでもよい。
【0035】
本実施形態のフェノール樹脂の製造方法により得られたフェノール樹脂中における、ホルマリンなどのアルデヒド類の残渣量は、水溶性促進剤を添加しない場合や、水層と樹脂層とによる2層分離を実施しない場合と比べて低減することができ、具体的には、例えば、0.5%以下であり、好ましくは0.1%以下であり、より好ましくは0.05%以下とすることができる。
本実施形態において、フェノール樹脂中における遊離ホルムアルデヒド等の遊離アルデヒド類の残渣量は、JIS K 6910に規定されたフェノール樹脂試験方法に記載の遊離ホルムアルデヒド試験方法(塩化ヒドロキシルアンモニウム法)に準拠して測定することができる。
【0036】
このようにホルマリン残渣を高度に低減できるフェノール樹脂は、例えば、クラッチ摩擦材用、ブレーキ摩擦材用、砥石用、研磨布紙用、断熱材用、鋳物用、耐火物用、塗料用、接着剤用、プリント回路板用、FPR用、断熱フォーム用、成型材料用、カーボン原料用などの工業用フェノール樹脂に用いることができる。この中でも、例えば、クラッチ摩擦材用、ブレーキ摩擦材用、砥石用、研磨布紙用、塗料用、接着剤用、プリント回路板用、FPR用、断熱フォーム用に用いることができるが、好ましくは、塗料用、接着剤用に用いることができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. フェノール類とアルデヒド類とを反応させて、フェノール樹脂を含む反応溶液を得る工程と、
前記反応溶液中に、前記アルデヒド類と反応し、かつ前記アルデヒド類の水溶性を高める水溶性促進剤を添加する工程と、
前記反応溶液に対して水層と樹脂層との2層分離を行い、前記樹脂層中の前記フェノール樹脂を回収する工程と、を含む、フェノール樹脂の製造方法。
2. 1.に記載のフェノール樹脂の製造方法であって、
前記アルデヒド類が、ホルムアルデヒドまたはアセトアルデヒドを含む、フェノール樹脂の製造方法。
3. 1.または2.に記載のフェノール樹脂の製造方法であって、
前記水溶性促進剤が、亜硫酸、亜硫酸塩およびアミン化合物からなる群から選択される一種以上を含む、フェノール樹脂の製造方法。
4. 3.に記載のフェノール樹脂の製造方法であって、
前記アミン化合物が、尿素系化合物、アルカノールアミン系化合物およびヒドロキシルアミン系化合物からなる群から選択される一種以上を含む、フェノール樹脂の製造方法。
5. 3.または4.に記載のフェノール樹脂の製造方法であって、
前記亜硫酸塩が、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸リチウムからなる群から選択される一種以上を含む、フェノール樹脂の製造方法。
6. 1.から5.のいずれか1つに記載のフェノール樹脂の製造方法であって、
前記フェノール類が、フェノール、クレゾール、キシレノール、アルキルフェノールおよびビスフェノールからなる群より選ばれる1種以上を含む、フェノール樹脂の製造方法。
7. 1.から6.のいずれか1つに記載のフェノール樹脂の製造方法であって、
前記反応溶液を得る工程は、アルカリ性条件下または弱酸性条件化で行うものである、フェノール樹脂の製造方法。
8. 1.から7.のいずれか1つに記載のフェノール樹脂の製造方法であって、
前記フェノール樹脂を回収する工程は、前記反応溶液を中和することにより、水層と樹脂層とを2層分離する工程を含む、フェノール樹脂の製造方法。
9. 1.から8.のいずれか1つに記載のフェノール樹脂の製造方法であって、
前記フェノール樹脂を回収する工程は、水洗による液液分離を行う工程を含む、フェノール樹脂の製造方法。
【実施例】
【0038】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない
【0039】
(実施例1)
撹拌装置、還流冷却器及び温度計を備えた反応装置に、フェノール1000部、37%ホルマリン水溶液1294部、50%水酸化ナトリウム水溶液100部を添加し、80℃に加熱昇温させ90分撹拌し、反応させた。その後50℃まで冷却し、水溶性促進剤として尿素100部を添加し、30分間撹拌混合した。水500部を添加混合し、25%硫酸水溶液でpHが4.0となるまで中和した。その後撹拌を停止し60分間静置、水層と樹脂層を分離させ、樹脂層を回収した。回収した樹脂層を反応装置に戻し水1000部を加えて30分間撹拌し、60分間静置し、水層と樹脂層を分離させ、分離した樹脂層を回収した。この2層分離操作を2回繰り返した。その後反応容器に樹脂層を戻し、3kPaまで減圧し、系内の温度が80℃に達するまで脱水を行った。その後メタノール1000部を添加し、不揮発分50%のフェノール樹脂A2100部を得た。
得られたフェノール樹脂A中における遊離ホルムアルデヒド量は0.03%であった。この遊離ホルムアルデヒド量は、JIS K 6910に規定されたフェノール樹脂試験方法に記載の遊離ホルムアルデヒド試験方法(塩化ヒドロキシルアンモニウム法)に準拠して測定した。以下の実施例・比較例でも同様にして遊離ホルムアルデヒド量を測定した。
【0040】
(実施例2)
実施例1と同様の装置にフェノール1000部、86%パラホルムアルデヒド446部、酢酸亜鉛二水和物6部を添加し、100℃に加熱昇温させ300分撹拌し、反応させた。その後80℃まで冷却し、水溶性促進剤として尿素100部を添加し、60分間撹拌混合した。水500部を添加混合し、その後撹拌を停止し60分間静置、水層と樹脂層を分離させ、樹脂層を回収した。回収した樹脂層を反応装置に戻し水1000部を加えて30分間撹拌し、60分間静置し、水層と樹脂層を分離させ、分離した樹脂層を回収した。この2層分離操作を2回繰り返した。その後、反応容器に樹脂層を戻し、3kPaまで減圧し、系内の温度が100℃に達するまで脱水を行った。その後ブタノール1200部を添加し、不揮発分50%のフェノール樹脂B2400部を得た。
得られたフェノール樹脂B中における遊離ホルムアルデヒド量は0.02%であった。
【0041】
(実施例3)
実施例1と同様の装置にm/p混合クレゾール(m−クレゾール60%、p−クレゾール40%)1000部、86%パラホルムアルデヒド387部、イソプロパノール100部、50%水酸化ナトリウム水溶液100部を添加し、90℃に加熱昇温させ120分撹拌し、反応させた。その後50℃まで冷却、水500部を添加混合し、25%硫酸水溶液でpHが4.0となるまで中和した。その後、水溶性促進剤として亜硫酸ナトリウム150部を添加し、30分間撹拌混合した。さらに撹拌を停止し60分間静置、水層と樹脂層を分離させ、樹脂層を回収した。回収した樹脂層を反応装置に戻し水1000部を加えて30分間撹拌し、60分間静置し、水層と樹脂層を分離させ、分離した樹脂層を回収した。この2層分離操作を2回繰り返した。その後反応容器に樹脂層を戻し、3kPaまで減圧し、系内の温度が80℃に達するまで脱水を行った。その後無水エタノール1000部を添加し、不揮発分50%のフェノール樹脂C2150部を得た。
得られたフェノール樹脂C中における遊離ホルムアルデヒド量は0.01%であった。
【0042】
(実施例4)
実施例1と同様の装置にビスフェノールA1000部、37%ホルマリン水溶液881部、50%水酸化ナトリウム水溶液200部を添加し、100℃に加熱昇温させ60分撹拌し、反応させた。その後50℃まで冷却、その後水溶性促進剤としてモノエタノールアミン150部を添加し、30分間撹拌混合した。水500部を添加混合し、25%硫酸水溶液でpHが4.0となるまで中和した。さらに撹拌を停止し60分間静置、水層と樹脂層を分離させ、樹脂層を回収した。回収した樹脂層を反応装置に戻し水1000部を加えて30分間撹拌し、60分間静置し、水層と樹脂層を分離させ、分離した樹脂層を回収した。この2層分離操作を2回繰り返した。その後反応容器に樹脂層を戻し、3kPaまで減圧し、系内の温度が80℃に達するまで脱水を行った。その後イソプロパノール950部を添加し、不揮発分50%のフェノール樹脂D1900部を得た。
得られたフェノール樹脂D中における遊離ホルムアルデヒド量は0.03%であった。
【0043】
(比較例1)
実施例1と同様の装置にフェノール1000部、37%ホルマリン水溶液1294部、50%水酸化ナトリウム水溶液100部を添加し、80℃に加熱昇温させ90分撹拌し、反応させた。その後50℃まで冷却し、水500部を添加混合し、25%硫酸水溶液でpHが4.0となるまで中和した。その後撹拌を停止し60分間静置、水層と樹脂層を分離させ、樹脂層を回収した。回収した樹脂層を反応装置に戻し水500部を加えて30分間撹拌し、60分間静置し、水層と樹脂層を分離させ、分離した樹脂層を回収した。この2層分離操作を2回繰り返した。その後反応容器に樹脂層を戻し、3kPaまで減圧し、系内の温度が80℃に達するまで脱水を行った。その後メタノール1100部を添加し、不揮発分50%のフェノール樹脂E2300部を得た。
得られたフェノール樹脂E中における遊離ホルムアルデヒド量は0.8%であった。
【0044】
(比較例2)
実施例1と同様の装置にフェノール1000部、37%ホルマリン水溶液1294部、50%水酸化ナトリウム水溶液100部を添加し、80℃に加熱昇温させ90分撹拌し、反応させた。その後50℃まで冷却し、水溶性促進剤として尿素100部を添加し、30分間撹拌混合した。その後反応容器に樹脂層を戻し、3kPaまで減圧し、系内の温度が80℃に達するまで脱水を行った。その後メタノール800部を添加し、不揮発分50%のフェノール樹脂F1800部を得た。
得られたフェノール樹脂F中における遊離ホルムアルデヒド量は0.6%であった。
【0045】
実施例1〜4の製造方法で得られたレゾール型フェノール樹脂は、比較例1、2の場合と比べて、ホルマリン残渣を高度に低減できていることが分かった。