特許第6957908号(P6957908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6957908
(24)【登録日】2021年10月11日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】放電加工用電極及び金型の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23H 1/04 20060101AFI20211021BHJP
   B23H 9/00 20060101ALI20211021BHJP
【FI】
   B23H1/04 Z
   B23H9/00 B
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-48439(P2017-48439)
(22)【出願日】2017年3月14日
(65)【公開番号】特開2018-149650(P2018-149650A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2020年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】藤木 圭史
【審査官】 奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−207529(JP,A)
【文献】 特開2009−178739(JP,A)
【文献】 特開昭54−113593(JP,A)
【文献】 特開2000−233257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 1/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状素材を軸方向に通過させることにより、前記軸状素材の外周面に複数の歯部及び複数の溝部を有するギヤ部を備えたピニオンギヤの製造に用いる金型を、形彫放電加工により形成する際に用いる放電加工用電極であって、
前記金型は、
前記複数の歯部に対応する形状に形成された複数の歯成形溝、及び、前記複数の溝部に対応する形状に形成された複数の溝成形歯を内周面に有し、前記軸状素材の外周面に前記ギヤ部をしごき成形するランド部と、
前記ランド部の軸方向の第一端部に連続して形成される部位であって、前記ランド部に前記軸状素材を導入するように前記金型の端面から前記ランド部の前記第一端部に向かって内径が縮径するガイド部と、
前記ランド部の前記軸方向の第二端部に連続して形成される部位であって、前記ランド部の前記歯成形溝よりも内径が大きい逃がし溝、及び、前記ランド部の前記溝成形歯よりも内径が大きい逃がし歯を内周面に有するランド逃がし部と、
を備え、
前記放電加工用電極は、
前記ランド部の前記歯成形溝及び前記溝成形歯を加工する部位であり、前記金型に対して前記放電加工用電極を径方向へ相対移動させることで前記歯成形溝及び前記溝成形歯が加工されるように、前記歯成形溝及び前記歯成形溝に対応する形状に形成されると共に、前記歯成形溝よりも小径に形成された螺旋状の凸部、前記溝成形歯よりも小径に形成された螺旋状の凹部を有するくびれ部と、
前記ガイド部を加工する部位であり、前記金型に対して前記放電加工用電極を径方向へ相対移動させることで前記ガイド部が加工されるように、前記ガイド部に対応する形状に形成されると共に、前記ガイド部よりも小径に形成される基端部と、
前記ランド逃がし部を加工する部位であり、前記金型に対して前記放電加工用電極を径方向へ相対移動させることで前記ランド逃がし部が加工されるように、前記ランド逃がし部に対応する形状に形成される先端部と、
を備える、放電加工用電極。
【請求項2】
前記先端部は、前記ランド部よりも小径に形成される、請求項1に記載の放電加工用電極。
【請求項3】
前記くびれ部と前記先端部との径方向における寸法差は、前記ランド部と前記ランド逃がし部との径方向における寸法差と同等である、請求項1又は2に記載の放電加工用電極。
【請求項4】
請求項1−3の何れか一項に記載の放電加工用電極を用いた金型の製造方法。
【請求項5】
前記金型が製造される金型素材に形成された下穴に対し、前記放電加工用電極を軸まわりに回転させながら、前記放電加工用電極を前記先端部から前記基端部まで挿入する挿入工程と、
前記下穴に前記放電加工用電極を挿入した後、前記放電加工用電極を径方向へ往復移動させることにより、前記下穴の内周面に前記ランド部、前記ガイド部及び前記ランド逃がし部を同時に形成する形成工程と、を備える、請求項4に記載の金型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電加工用電極及び金型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ヘリカルギヤを鍛造するために用いる金型を、形彫放電加工により製造する技術が開示されている。ここで、図面を参照しながら、従来の型彫放電加工による金型10の製造方法の一例を説明する。
【0003】
図1及び図2に示すように、金型10は、ピニオンギヤ100を鍛造により製造する際に用いられる。ピニオンギヤ100は、ステアリングシャフトの先端に取り付けられる部材であり、ラックに噛合し、ステアリングホイールから入力される回転運動を直線運動へ変換する。
【0004】
ピニオンギヤ100は、図1に示すように、ギヤ部101と、軸部102と、拡径部103とを備える。ギヤ部101は、ラックに噛合する部位であり、ギヤ部101の外周面には、螺旋状に延びる複数の歯部及び溝部が形成される。軸部102は、ギヤ部101と同軸に形成される円柱状の部位である。拡径部103は、ギヤ部101及び軸部102に連続する部位であり、ギヤ部101側から軸部102側へ向かうにつれて外径が拡径するように形成される。また、拡径部103の外周面には、ギヤ部101との接続部位において、ギヤ部101の歯部及び溝部に連続して形成された不完全な歯及び溝である導入ギヤ部103aが形成される。
【0005】
金型10は、図2に示すように、ランド部11と、ガイド部12と、ランド逃がし部13とを備える。ランド部11は、軸状素材S100を軸方向に通過させることにより、軸状素材S100の外周面に複数の歯部及び溝部をしごき成形する。ランド部11の内周面には、ギヤ部101の歯部及び溝部に対応した形状を有する複数の歯成形溝11a及び溝成形歯11bが形成される。
【0006】
ガイド部12は、ランド部11の軸方向の第一端部E1(図2上側端部)に連続して形成される。ガイド部12は、軸状素材S100の外周面に拡径部103をしごき成形する部位であり、ガイド部12の内周面には、歯成形溝11aに連続する導入成形溝12a及び溝成形歯11bに連続する導入成形歯12bが形成される。これら導入成形溝12a及び導入成形歯12bは、導入ギヤ部103aに対応した形状を有する。さらに、ガイド部12は、挿入された軸状素材S100をランド部11へ導入しやすくするために、金型10の上端面からランド部11の第一端部E1に向かってガイド部12の内径が縮径するように形成される。
【0007】
ランド逃がし部13は、ランド部11の軸方向の第二端部E2(図2下側端部)に連続して形成される。ランド逃がし部13の内周面には、ランド部11の歯成形溝11a及び溝成形歯11bよりも大きな内径を有する複数の逃がし溝13a及び逃がし歯13bが、ランド部11の歯成形溝11a及び溝成形歯11bに連続して形成される。
【0008】
ここで、金型10を用いたピニオンギヤ100の製造方法について説明する。ピニオンギヤ100は、軸状素材S100を中心軸線回りに回転させながら、軸状素材S100をガイド部12側からランド逃がし部13側へ向けて(図2上側から下側へ向けて)挿入する。これにより、軸状素材S100の外周面にギヤ部101及び拡径部103がしごき成形される。ギヤ部101及び拡径部103がしごき成形された軸状素材S100は、挿入時とは逆方向の中心軸線回りに軸状素材S100を回転させながらランド逃がし部13側からガイド部12側へ抜き出すことにより、金型10から取り外される。
【0009】
ピニオンギヤ100の製造過程において、軸状素材S100のうちランド部11を通過した部位の外周面には、ギヤ部101がしごき成形される。なお、金型10に形成されるランド部11の軸方向長さは、ピニオンギヤ100に形成されるギヤ部101の軸方向長さよりも短い。金型10は、ランド部11の軸方向長さを短く設定することにより、ランド部11の寸法精度の向上を図っている。そして、軸状素材S100は、ピニオンギヤ100の鍛造時において、外周面に成形されたギヤ部101をランド逃がし部13に案内されながら送られるので、金型10は、軸状素材S100の回転軸線がぶれることを抑制する。
【0010】
さらに、ランド逃がし部13は、軸状素材S100のランド部11を通過した部位において、軸状素材S100の外周面に成形されたギヤ部101がスプリングバックにより変形することを抑制する。なお、軸状素材S100のランド部11を通過した部位は、軸状素材S100を金型10から取り外す際に、再びランド部11を通過する。従って、ランド部11を通過した部位においてギヤ部101に変形が生じたとしても、金型10は、変形したギヤ部101の再成形を行うので、ギヤ部101を所望の形状に成形できる。
【0011】
次に、図3を参照して、形彫放電加工による金型10の製造に用いる従来の放電加工用電極501について説明する。図3に示すように、従来の放電加工用電極501は、第一電極502と、第二電極503とを備える。
【0012】
第一電極502は、ランド部11の歯成形溝11a及び溝成形歯11bと、ランド逃がし部13の逃がし溝13a及び逃がし歯13bとを加工する際に用いられる。第一電極502の外周面には、ランド部11に形成される歯成形溝11aに対応する複数の凸部502a、及び、溝成形歯11bに対応する複数の凹部502bが形成される。凸部502aは、歯成形溝11aよりも小径であり、凹部502bは、溝成形歯11bよりも小径である。第二電極503は、ガイド部12を加工する部位であり、第二電極503の外周面は、ガイド部12に対応する形状に形成される。
【0013】
次に、図4Aから図4Cを参照しながら、従来の放電加工用電極501を用いた金型10の製造工程について説明する。図4Aに示すように、金型10を製造する際、放電加工用電極501は、図示しない放電加工機に装着される。そして、放電加工機は、第一電極502を中心軸線まわりに回転させながら、金型素材S10に予め形成された下穴に第一電極502を挿入する。
【0014】
図4Bに示すように、下穴に挿入された第一電極502がランド部11の形成位置に到達したところで、放電加工機は、第一電極502の中心軸線回りの回転を停止し、第一電極502を径方向へ往復移動させる。なお、このときの第一電極502の径方向への移動距離をd1とする。これにより、下穴の内周面には、第一電極502が近づけられた部位において放電加工が施され、歯成形溝11a及び溝成形歯11bが形成される。そして、この第一電極502の径方向への往復移動が、角度を変えて下穴の内周面全体に対して行われることにより、ランド部11が形成される。
【0015】
ランド部11が形成された後、放電加工機は、第一電極502を中心軸線回りに回転させながら、回転量に対応する軸方向移動量でもって更に下方へ第一電極502を送る。そして、第一電極502の全体がランド部11の形成位置(ランド部11の第二端部E2)を通過したところで、放電加工機は、第一電極502の中心軸線回りの回転を停止し、再度、第一電極502を径方向へ往復移動させる。なお、ランド逃がし部13を形成する際における第一電極502の径方向への移動距離d2は、ランド部11を形成する際における第一電極502の径方向への移動距離d1よりも大きい。これにより、下穴の内周面には、第一電極502が近づけられた部位において放電加工が施され、歯成形溝11a及び溝成形歯11bよりも内径が大きく設定された逃がし溝13a及び逃がし歯13bが形成される。そして、この第一電極502の径方向への往復移動が、角度を変えて下穴の内周面全体に対して行われることにより、ランド逃がし部13が形成される。
【0016】
次に、放電加工機は、第一電極502を金型10から取り出す。そして、放電加工機に装着されていた第一電極502を第二電極503に取り替えた後、放電加工機は、ガイド部12の形成位置に第二電極503を挿入し、放電加工によりガイド部12を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平11−207529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記した従来の金型10の製造方法において、ランド部11及びランド逃がし部13は、第一電極502を用いて加工される。そして、ランド逃がし部13を形成する際における第一電極502の径方向への移動距離d2は、ランド部11を形成する際における第一電極502の径方向への移動距離d1と異なる。よって、従来の金型10を放電加工により製造する場合において、放電加工用電極501は、ランド部11を形成する第一電極502とガイド部12を形成する第二電極503とを別体に形成する必要がある。
【0019】
そのため、従来の金型10の製造方法では、ランド部11及びランド逃がし部13を形成する際の第一電極502の回転軸線まわりの位相と、ガイド部12を形成する際の第二電極503の回転軸線まわりの位相とにずれが生じやすくなる。即ち、ランド部11及びランド逃がし部13の中心軸線まわりの位相とガイド部12の中心軸線まわりの位相とにずれが生じやすくなり、金型10の精度が低下する。
【0020】
本発明は、金型の精度を向上させることができる放電加工用電極及び金型の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の放電加工用電極は、軸状素材を軸方向に通過させることにより、前記軸状素材の外周面に複数の歯部及び複数の溝部を有するギヤ部を備えたピニオンギヤの製造に用いる金型を、形彫放電加工により形成する際に用いる放電加工用電極である。前記金型は、前記複数の歯部に対応する形状に形成された複数の歯成形溝、及び、前記複数の溝部に対応する形状に形成された複数の溝成形歯を内周面に有し、前記軸状素材の外周面に前記ギヤ部をしごき成形するランド部と、前記ランド部の軸方向の第一端部に連続して形成される部位であって、前記ランド部に前記軸状素材を導入するように前記金型の端面から前記ランド部の前記第一端部に向かって内径が縮径するガイド部と、前記ランド部の前記軸方向の第二端部に連続して形成される部位であって、前記ランド部の前記歯成形溝よりも内径が大きい逃がし溝、及び、前記ランド部の前記溝成形歯よりも内径が大きい逃がし歯を内周面に有するランド逃がし部と、を備える。
【0022】
前記放電加工用電極は、前記ランド部の前記歯成形溝及び前記溝成形歯を加工する部位であり、前記金型に対して前記放電加工用電極を径方向へ相対移動させることで前記歯成形溝及び前記溝成形歯が加工されるように、前記歯成形溝及び前記溝成形歯に対応する形状に形成されると共に、前記歯成形溝よりも小径に形成された螺旋状の凸部、前記溝成形歯よりも小径に形成された螺旋状の凹部を有するくびれ部と、前記ガイド部を加工する部位であり、前記金型に対して前記放電加工用電極を径方向へ相対移動させることで前記ガイド部が加工されるように、前記ガイド部に対応する形状に形成されると共に、前記ガイド部よりも小径に形成される基端部と、前記ランド逃がし部を加工する部位であり、前記金型に対して前記放電加工用電極を径方向へ相対移動させることで前記ランド逃がし部が加工されるように、前記ランド逃がし部に対応する形状に形成される先端部と、を備える。
【0023】
本発明の放電加工用電極によれば、くびれ部とガイド部と先端部とが一体的に形成される。これにより、放電加工用電極を用いた放電加工により製造された金型は、ランド部及びランド逃がし部の中心軸線とガイド部の中心軸線とを確実に同軸とすることができるので、金型の精度を向上させることができる。
【0024】
また、本発明は、上記した放電加工用電極を用いた金型の製造方法である。本発明の金型の製造方法によれば、金型は、ランド部及びランド逃がし部の中心軸線まわりの位相とガイド部の中心軸線まわりの位相とを確実に揃えることができるので、金型の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態における放電加工用電極を用いた放電加工により製造された金型を用いて鍛造されたピニオンギヤの正面図である。
図2】放電加工用電極を用いた放電加工により製造された金型を用いたピニオンギヤの製造工程を示す図であり、軸状素材を金型に通過させる前の状態を示す。
図3】従来の放電加工用電極の正面図である。
図4A】従来の放電加工用電極を用いた放電加工による金型の製造工程を示す図であり、金型素材の下穴に第一電極を通過させる前の状態を示す。
図4B】従来の放電加工用電極を用いた放電加工による金型の製造工程を示す図であり、第一電極を用いたランド部の形成工程を示す。
図4C】従来の放電加工用電極を用いた放電加工による金型の製造工程を示す図であり、第一電極を用いたランド逃がし部の形成工程を示す。
図5A】本発明の一実施形態における放電加工用電極の正面図である。
図5B図5AのX−X断面におけるくびれ部の断面形状と図5AのY−Y断面における先端部の断面形状とを重ね合わせた拡大投影図である。
図6A】放電加工用電極を用いた放電加工による金型の製造工程を示す図であり、金型素材の下穴に放電加工用電極を通過させる前の状態を示す。
図6B】放電加工用電極を用いた放電加工による金型の製造工程を示す図であり、金型素材の下穴に放電加工用電極を挿入する工程を示す。
図6C】放電加工用電極を用いた放電加工による金型の製造工程を示す図であり、放電加工用電極を用いたランド部、ガイド部及びランド逃がし部の形成工程を示す。
図6D図6Cに示す図の上部を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(1.放電加工用電極1の構成)
以下、本発明に係る放電加工用電極及び金型の製造方法を適用した実施形態について、図面を参照しながら説明する。まず、図5A及び図5Bを参照して、本発明の一実施形態である放電加工用電極1について説明する。
【0027】
図5Aに示すように、放電加工用電極1は、図2に示す金型10を形彫放電加工により形成する際に用いる。放電加工用電極1は、くびれ部2と、基端部3と、先端部4とを備える。くびれ部2は、ランド部11の歯成形溝11a及び溝成形歯11bを加工する部位であり、くびれ部2の外径は、ランド部11の内径よりも小さな寸法に設定される。具体的に、くびれ部2の外周面には、歯成形溝11aに対応する形状に形成される螺旋状の凸部2aと、溝成形歯11bに対応する形状に形成される螺旋状の凹部2bとが形成される。そして、凸部2aの外径は、歯成形溝11aの内径よりも小径に形成され、凹部2bの外径は、溝成形歯11bの内径よりも小径に形成される。
【0028】
基端部3は、ガイド部12を加工する部位であり、くびれ部2の軸方向における端部(図5Aにおいてくびれ部2の上側端部)に連続して形成される。基端部3は、ガイド部12に対応する形状に形成され、ガイド部12の内径よりも小径に形成される。また、基端部3の外周面には、くびれ部2との接続部位において、凸部2aに連続する導入凸部3a及び凹部2bに連続する導入凹部3bが形成される。なお、導入凸部3aは、ガイド部12の導入成形溝12aに対応する形状に形成され、導入凹部3bは、導入成形歯12bに対応する形状に形成される。
【0029】
先端部4は、ランド逃がし部13を加工する部位である。先端部4は、くびれ部2の軸方向における端部であって基端部3とは反対側の端部(図5Aにおいてくびれ部2の下側端部)に連続して形成され、先端部4の外径は、ランド逃がし部13の内径及びランド部11の内径よりも小さな寸法に設定される。具体的には、先端部4の外周面には、逃がし溝13aに対応する形状の逃がし凸部4a、及び、逃がし歯13bに対応する形状の逃がし凹部4bが形成される。そして、逃がし凸部4aの外径は、逃がし溝13aの内径及び歯成形溝11aの内径よりも小径に形成され、逃がし凹部4bの外径は、逃がし歯13bの内径及び溝成形歯11bの内径よりも小径に形成される。
【0030】
そして、図5Bに示すように、先端部4の外径は、くびれ部2の外径よりも大きな寸法に設定される。具体的に、逃がし凸部4aの外径(先端部4の最大外径φ1)は、凸部2aの外径(くびれ部2の最大外径φ2)よりも大きな寸法に設定され、逃がし凹部4bの外径は、凹部2bの外径よりも大きな寸法に設定される。なお、逃がし凸部4aの外径と凸部2aの外径との寸法差は、逃がし溝13aの内径と歯成形溝11aの内径との寸法差と同等である。同様に、逃がし凹部4bの外径と凹部2bの外径との寸法差は、逃がし歯13bの内径と溝成形歯11bの内径との寸法差と同等である。
【0031】
(2.金型10の製造方法)
次に、図6Aから図6Dを参照して、放電加工用電極1を用いた金型10の製造方法について説明する。図6Aに示すように、金型10を製造する際、放電加工用電極1は、図示しない放電加工機に装着される。そして、放電加工機は、金型素材S10に予め形成された下穴に対し、放電加工用電極1を中心軸線まわりに回転させながら、回転量に対応する軸方向移動量でもって先端部4から放電加工用電極1を挿入する(挿入工程)。
【0032】
図6Bから図6Dに示すように、放電加工用電極1が基端部3まで下穴に挿入されたところで、放電加工機は、放電加工用電極1の中心軸線回りの回転を停止し、放電加工用電極1を径方向へ移動させる。これにより、下穴の内周面には、放電加工用電極1が近づけられた部位において、放電加工が施され、歯成形溝11a、溝成形歯11b、導入成形溝12a、導入成形歯12b、逃がし溝13a及び逃がし歯13bが形成される。そして、この放電加工用電極1の径方向への往復移動が角度を変えて下穴の内周面全体に対して行われることにより、ランド部11、ガイド部12及びランド逃がし部13が同時に形成される(形成工程)。
【0033】
このように、放電加工用電極1は、くびれ部2、基端部3及び先端部4が一体的に形成されている。そして、先端部4の外径は、くびれ部2の外径よりも大きな寸法に設定されると共に、先端部4の外径とくびれ部2の外径との差は、ランド逃がし部13の内径とランド部11の内径との差と同等である。従って、放電加工用電極1を用いた形彫放電加工において、金型10は、ランド部11、ガイド部12及びランド逃がし部13を同時に形成することができる。よって、放電加工用電極1は、金型10を効率よく製造することができる。
【0034】
また、先端部4は、ランド部11よりも小径に形成されるので、ランド部11を通過することができる。即ち、放電加工用電極1は、ランド部11、ガイド部12及びランド逃がし部13を放電加工により形成した後に、放電加工用電極1を回転させながら、回転量に対応する軸方向移動量でもって軸方向に後退させることにより、金型10のガイド部12側から抜き出すことができる。その結果、放電加工用電極1は、くびれ部2と基端部3と先端部4とを一体的に形成することができ、放電加工用電極1を用いてランド部11、ガイド部12及びランド逃がし部13を同時に形成することができる。
【0035】
(3.その他)
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。
【0036】
(4.効果)
以上説明したように、本発明における放電加工用電極1は、軸状素材S100を軸方向に通過させることにより、軸状素材S100の外周面に複数の歯部及び複数の溝部を有するギヤ部101を備えたピニオンギヤ100の製造に用いる金型10を、形彫放電加工により形成する際に用いる放電加工用電極1である。
【0037】
金型10は、複数の歯部に対応する形状に形成された複数の歯成形溝11a、及び、複数の溝部に対応する形状に形成された複数の溝成形歯11bを内周面に有し、軸状素材S100の外周面にギヤ部101をしごき成形するランド部11と、ランド部11の軸方向の第一端部E1に連続して形成される部位であって、ランド部11に軸状素材S100を導入するように金型10の端面からランド部11の第一端部E1に向かって内径が拡大するガイド部12と、ランド部11の軸方向の第二端部E2に連続して形成される部位であって、ランド部11の溝成形歯11bよりも内径が大きい逃がし歯13b、及び、ランド部11の歯成形溝11aよりも内径が大きい逃がし溝13aを内周面に有するランド逃がし部13と、を備える。
【0038】
放電加工用電極1は、ランド部11の歯成形溝11a及び溝成形歯11bを加工する部位であり、金型10に対して放電加工用電極1を径方向へ相対移動させることで歯成形溝11a及び溝成形歯11bが加工されるように、歯成形溝11a及び溝成形歯11bに対応する形状に形成されると共に、歯成形溝11aよりも小径に形成された螺旋状の凸部2a、溝成形歯11bよりも小径に形成された螺旋状の凹部2bを有するくびれ部2と、ガイド部12を加工する部位であり、金型10に対して放電加工用電極1を径方向へ相対移動させることでガイド部12が加工されるように、ガイド部12に対応する形状に形成されると共に、ガイド部12よりも小径に形成される基端部3と、ランド逃がし部13を加工する部位であり、金型10に対して放電加工用電極1を径方向へ相対移動させることでランド逃がし部13が加工されるように、ランド逃がし部13に対応する形状に形成される先端部4と、を備える。
【0039】
この放電加工用電極1によれば、くびれ部2と基端部3と先端部4とが一体的に形成される。これにより、放電加工用電極1を用いた放電加工により製造された金型10は、ランド部11及びランド逃がし部13の中心軸線まわりの位相とガイド部12の中心軸線まわりの位相とを確実に揃えることができるので、金型10の精度を向上させることができる。
【0040】
上記した放電加工用電極1において、先端部4は、ランド部11よりも小径に形成される。この放電加工用電極1によれば、先端部4は、ランド部11を通過することができる。即ち、放電加工用電極1は、ランド部11、ガイド部12及びランド逃がし部13を放電加工により形成した後に、放電加工用電極1をガイド部12側から抜き出すことができる。その結果、放電加工用電極1は、くびれ部2と基端部3と先端部4とを一体的に形成することができ、放電加工用電極1を用いてランド部11、ガイド部12及びランド逃がし部13を同時に形成することができる。
【0041】
上記した放電加工用電極1において、くびれ部2と先端部4との径方向における寸法差は、ランド部11とランド逃がし部13との径方向における寸法差と同等である。これにより、放電加工用電極1は、ランド部11、ガイド部12及びランド逃がし部13を同時に形成することができる。
【0042】
また、本発明の金型10の製造方法は、上記した放電加工用電極1を用いる。この金型10の製造方法によれば、金型10は、ランド部11及びランド逃がし部13の中心軸線まわりの位相とガイド部12の中心軸線まわりの位相とを確実に揃えるとすることができるので、金型10の精度を向上させることができる。
【0043】
上記した金型10の製造方法は、金型10が製造される金型素材S10に形成された下穴に対し、放電加工用電極1を軸まわりに回転させながら、放電加工用電極1を先端部4から基端部3まで挿入する挿入工程と、下穴に放電加工用電極1を挿入した後、放電加工用電極1を径方向へ往復移動させることにより、下穴の内周面にランド部11、ガイド部12及びランド逃がし部13を同時に形成する形成工程と、を備える。
【0044】
この金型10の製造方法は、形成工程により、ランド部11、ガイド部12及びランド逃がし部13を同時に形成することができるので、金型10を効率よく製造することができる。
【符号の説明】
【0045】
1:放電加工用電極、 2:くびれ部、 2a:凸部、 2b:凹部、 3:基端部、
4:先端部、 10:金型、 11:ランド部、 11a:歯成形溝、 11b:溝成形歯、 12:ガイド部、 13:ランド逃がし部、 13a:逃がし溝、 13b:逃がし歯、 100:ピニオンギヤ、 101:ギヤ部、 E1:第一端部、 E2:第二端部、 S10:金型素材、 S100:軸状素材
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6A
図6B
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図6D