(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記界面活性剤Aが、前記イオン性界面活性剤として、カルボン酸塩、有機スルホン酸塩、有機硫酸塩、有機リン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の水系インク組成物。
前記ポリオレフィンワックスは、光散乱法による質量平均粒子径が50nm以上600nm以下である、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の水系インク組成物。
前記反応液が、凝集剤として、多価金属塩、カチオン性化合物および有機酸からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1ないし請求項12のいずれか一項に記載の水系インク組成物。
前記インク組成物付着工程はインクジェットヘッドを記録媒体との相対的な位置を変化させながら前記インク組成物を吐出して記録媒体へ付着させる走査を複数回行うことで行うものであり、1回の走査で前記インクジェットヘッドが記録媒体と対向する時間が12秒以下である、請求項15または請求項16に記載のインクジェット記録方法。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下に、本発明の好適な実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
【0046】
本実施形態に係る水系インク組成物は、ポリオレフィンワックスと、樹脂分散体と、水と、を含有し、分子量が1万未満の界面活性剤であって、イオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤からなる群から選択され、前記ノニオン性界面活性剤は、ポリアルキレンオキシドのエーテル類、高級脂肪族酸エステル類、高級脂肪族アミド類、からなる群から選択される、1種以上の界面活性剤Aの含有量が、前記樹脂分散体の樹脂と前記ポリオレフィンワックスの合計の含有量を100質量部としたときに、7質量部以下であり、水系インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する反応液を記録媒体へ付着させる工程を備える記録方法に用いられるものであることを特徴とする。
【0047】
また、本実施形態に係るインクジェット記録方法は、本実施形態に係る水系インク組成物と反応液とを用いたインクジェット記録方法であって、前記反応液を記録媒体へ付着させる反応液付着工程と、前記水系インク組成物をインクジェット法により前記記録媒体へ付着させるインク組成物付着工程と、を備えることを特徴とする。
【0048】
さらに本実施形態に係るインクジェット記録装置は、インクジェットヘッドを備え、本実施形態に係るインクジェット記録方法を行うことを特徴とする。
【0049】
以下、本実施形態に係る水系インク組成物、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置について、インクジェット記録装置、水系インク組成物(以下、「水系インク」、「インク」ともいう。)、反応液、記録媒体、インクジェット記録方法の順に説明する。
【0050】
1.各構成
1.1.インクジェット記録装置
本実施形態に係るインクジェット記録装置の一例について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施形態に係るインクジェット記録装置は、以下の態様に限定されるものではない。
【0051】
図1は、インクジェット記録装置を模式的に示す概略断面図である。
図1に示すように、インクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド2と、IRヒーター3と、プラテンヒーター4と、硬化ヒーター5と、冷却ファン6と、プレヒーター7と、通気ファン8と、を備える。インクジェット記録装置1は、図示しない制御部を備え、制御部によりインクジェット記録装置1全体の動作が制御される。
【0052】
インクジェットヘッド2は、記録媒体Mに対して水系インク組成物を吐出させて付着させる手段である。インクジェットヘッド2としては、ライン式インクジェットヘッド、シリアル式インクジェットヘッドのいずれも使用可能である。
【0053】
インクジェットヘッド2は、インク組成物、及び、インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する反応液を吐出するノズル(図示せず)を備える。インクをノズルから吐出させる方式としては、例えば、ノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印加し、ノズルから液滴状のインクを連続的に吐出させ、インクの液滴が偏向電極間を飛翔する間に記録情報信号に対応して吐出させる方式(静電吸引方式);小型ポンプでインクに圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインクの液滴を吐出させる方式;インクに圧電素子で圧力と記録情報信号を同時に加え、インクの液滴を吐出・記録させる方式(ピエゾ方式);インクを記録情報信号にしたがって微小電極で加熱発泡させ、インクの液滴を吐出・記録させる方式(サーマルジェット方式)等が挙げられる。
【0054】
ここで、シリアル式インクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置とは、記録用のインクジェットヘッドを記録媒体に対して相対的に移動させつつ該インク組成物を吐出させる走査(パス)を、複数回行うことによって記録を行うものである。シリアル型のインクジェットヘッドの具体例には、記録媒体の幅方向(記録媒体の搬送方向に交差する方向)に移動するキャリッジにインクジェットヘッドが搭載されており、キャリッジの移動に伴ってインクジェットヘッドが移動することにより記録媒体上に液滴を吐出するものが挙げられる。
【0055】
一方、ライン式インクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置は、記録用のインクジェットヘッドを記録媒体に対して相対的に移動させつつ該インク組成物を吐出させる走査(パス)を1回行うことにより記録を行うものである。ライン型のインクジェットヘッドの具体例には、インクジェットヘッドが記録媒体の幅よりも広く形成され、記録用ヘッドが移動せずに記録媒体上に液滴を吐出するものが挙げられる。
【0056】
なお、本実施形態では、インクジェット記録装置1として、シリアル式インクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置を用い、インクをノズルから吐出させる方式としてピエゾ方式を利用したインクジェットヘッド2を用いることができる。
【0057】
インクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド2からのインク組成物の吐出時(インク組成物付着工程)において、記録媒体Mを加熱するための、IRヒーター3及びプラテンヒーター4を備えている。本実施形態において、インク組成物付着工程において記録媒体Mを加熱する際には、IRヒーター3及びプラテンヒーター4の少なくとも1つを用いればよい。
【0058】
なお、IRヒーター3を用いると、インクジェットヘッド2側から記録媒体Mを加熱す
ることができる。これにより、インクジェットヘッド2も同時に加熱されやすいが、プラテンヒーター4など記録媒体Mの裏面から加熱される場合と比べて、記録媒体Mの厚みの影響を受けずに昇温することができる。また、記録媒体Mを加熱する際にプラテンヒーター4を用いると、インクジェットヘッド2側と反対側から記録媒体Mを加熱することができる。これにより、インクジェットヘッド2が比較的加熱されにくくなる。
【0059】
ただし、後述するインクジェット記録の際の、IRヒーター3及びプラテンヒーター4からの加熱による記録媒体Mの表面温度は、50℃以下であることが好ましく、45℃以下であることがより好ましく、40℃以下であることがさらに好ましく、38℃以下であることがいっそう好ましい。これにより、IRヒーター3及びプラテンヒーター4から受ける輻射熱が少ない又はなくなることから、インクジェットヘッド2内のインク組成物の乾燥及び組成変動を抑制することができ、インクジェットヘッド2の内壁に樹脂微粒子やワックス等が溶着することが抑制される。なお、インクジェット記録の際の記録媒体Mの表面温度の下限値は32℃以上であることが好ましく、34℃以上であることがより好ましく、36℃以上であることがさらに好ましい。インクジェット記録の際の記録媒体Mの表面温度の下限値が32℃以上であることにより、記録媒体M上でインクを迅速に乾燥させることができ、ブリードが抑制される。
【0060】
硬化ヒーター5は、記録媒体Mに記録されたインク組成物を乾燥及び固化させるものである(二次加熱工程)。硬化ヒーター5を用いて画像が記録された記録媒体Mを加熱することにより、インク組成物中に含まれる水分等がより速やかに蒸発飛散して、インク組成物中に含まれる樹脂微粒子によってインク膜が形成される。このようにして、記録媒体M上においてインク膜が強固に定着(接着)して、耐擦性に優れた高画質な画像を短時間で得ることができる。硬化ヒーター5により加熱する際の記録媒体Mの表面温度は、好ましくは40℃以上120℃以下であり、より好ましくは60℃以上110℃以下であり、さらに好ましくは80℃以上100℃以下である。
【0061】
インクジェット記録装置1は、冷却ファン6を有していてもよい。記録媒体Mに記録されたインク組成物を硬化ヒーター5で加熱および乾燥した後、冷却ファン6により記録媒体M上のインク組成物を冷却することにより、記録媒体M上に密着性よくインク膜を形成することができる。
【0062】
また、インクジェット記録装置1は、記録媒体Mに対してインク組成物が吐出される前に、記録媒体Mを予め加熱する(プレ加熱する)プレヒーター7を備えていてもよい。さらに、記録装置1は、記録媒体Mに付着したインク組成物がより効率的に乾燥するように通気ファン8を備えていてもよい。
【0063】
1.2.水系インク組成物
次に、本実施形態に係る水系インク組成物について説明する。本実施形態に係る水系インク組成物は、ポリオレフィンワックスと、樹脂分散体と、水と、を含有し、分子量が1万未満の界面活性剤であって、イオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤からなる群から選択され、前記ノニオン性界面活性剤は、ポリアルキレンオキシドのエーテル類、高級脂肪族酸エステル類、高級脂肪族アミド類、からなる群から選択される、1種以上の界面活性剤Aの含有量が、前記樹脂分散体の樹脂と前記ポリオレフィンワックスの合計の含有量を100質量部としたときに、7質量部以下であり、水系インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する反応液を記録媒体へ付着させる工程を備える記録方法に用いられるものであることを特徴とする。
【0064】
このような水系インク組成物は、後述の反応液と共にインクセットとして用いることにより、記録物の耐水性や耐擦性が向上し、画質に優れた記録物を得ることができる。以下
、本実施形態に係る水系インク組成物に含まれる成分および含まれ得る成分ついて詳細に説明する。
【0065】
1.2.1.ポリオレフィンワックス
本実施形態に係る水系インク組成物は、ポリオレフィンワックスを含有する。本実施形態では、水系インク組成物がポリオレフィンワックスを含有することにより、得られる記録物の耐水性や耐擦が向上する。
【0066】
ポリオレフィンワックスとしては、特に限定されるものではなく、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィンまたはその誘導体から製造されたワックスおよびそのコポリマー、具体的には、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、ポリブチレン系ワックス等が挙げられる。これらの中でも、画像のヒビ割れの発生をより効果的に低減できるという観点から、ポリエチレン系ワックスが好ましい。ポリオレフィンワックスは、1種単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0067】
ポリオレフィンワックスは、後述する界面活性剤Aにより、固体ワックス粒子を水中に分散させた、ポリオレフィンワックスエマルジョンの状態で使用する。
【0068】
ポリオレフィンワックスエマルジョンとして、例えば、ポリエチレンワックスエマルジョンの製造方法を例示すると、エチレンを重合して製造したり、炭化水素化合物より合成したり、あるいは一般成形用のポリエチレンを熱分解により低分子量化して製造したりすることでポリエチレンワックスを作製する。そして、このポリエチレンワックスを酸化してカルボキシル基や水酸基を付加し、さらに界面活性剤を使用して乳化して、安定性に優れた水性ワックスエマルジョンの形態で、ポリエチレンワックスエマルジョンを得る。
【0069】
ポリオレフィンワックスの市販品としては、「ケミパールW4005」(三井化学株式会社製、ポリエチレン系ワックス、粒子径200以上800nm以下、環球法軟化点110℃、針入度法硬度3、固形分40%)等のケミパールシリーズが挙げられる。その他、AQUACER513(ポリエチレン系ワックス、粒子径100以上200nm以下、融点130℃、固形分30%)、AQUACER497、AQUACER513、AQUACER517(以上、BYK Additives & Instruments社製)等のAQUACERシリーズや、ハイテックE−7025P、ハイテックE−2213、ハイテックE−9460、ハイテックE−9015、ハイテックE−4A、ハイテックE−5403P、ハイテックE−8237(以上、東邦化学株式会社製)等のハイテックシリーズ、ノプコートPEM−17(サンノプコ社製、ポリエチレンエマルジョン、粒子径40nm)等が挙げられる。これらは、常法によりポリオレフィンワックスを水中に分散させた水系エマルジョンの形態で市販されており、水系エマルジョンの形態のまま直接インク組成物中に添加することができる。
【0070】
ポリオレフィンワックスの平均粒子径の上限は、好ましくは600nm以下であり、より好ましくは500nm以下であり、さらに好ましくは450nm以下である。ポリオレフィンワックスの平均粒子径の下限は、好ましくは50nm以上であり、より好ましくは80nm以上であり、さらに好ましくは、200nm以上であり、特に好ましくは300nm以上である。である。ポリオレフィンワックスの平均粒子径が前記範囲にあることにより、形成される画像のヒビ割れの発生を低減させるとともに、耐水性や耐擦性もさらに向上し、光沢性も向上することができる。また、インクジェットヘッドの吐出安定性と、形成される画像の耐水性や耐擦性の両性能を満たすことができる。
【0071】
なお、上記ワックスの平均粒子径は、光散乱法(レーザー回折散乱法)を測定原理とする粒度分布測定装置により質量平均として測定することができる。粒度分布測定装置とし
ては、例えば、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(例えば、「マイクロトラックUPA」日機装株式会社製)を用いることができる。
【0072】
本実施形態において、ポリオレフィンワックスの融点は、80℃以上150℃以下であることが好ましく、85℃以上135℃以下であることがより好ましい。ポリオレフィンワックスとして融点が80℃以上150℃以下のものを含むことにより、より耐水性や耐擦性が向上し、画質に優れた記録物が得られる。
【0073】
なお、ポリオレフィンワックスは、ポリオレフィンワックスの成分の分子量や種類を変えることで融点を調整することができる。また、ポリオレフィンワックスとして2種のポリオレフィンワックスの混合物を用いる場合には、2種のワックスエマルジョン液を混合させて混合ワックスエマルジョンにするか、または2種のワックスからなるワックス微粒子のエマルジョンを調製することにより行う。
【0074】
また、ポリオレフィンワックスの含有量は、水系インク組成物の総質量(100質量%)に対して、固形分換算で0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上5.0質量%以下であるのがより好ましく、0.3質量%以上4.0質量%以下であるのがさらに好ましい。ポリオレフィンワックスの含有量が上記範囲にある場合には、上述の効果が十分に発揮される。
【0075】
本実施形態において、水系インク組成物に含まれるポリオレフィンワックスの他に、例えば、パラフィンワックスや、パラフィンワックス以外のワックスをさらに含んでもよい。
【0076】
パラフィンワックスはいわゆる石油系ワックスである。ここで、パラフィンとは、炭素原子の数が20以上のアルカン(一般式がC
nH
2n+2の鎖式飽和炭化水素)を意味し、本実施形態において、パラフィンワックスとは、炭素数20以上30以下の直鎖状のパラフィン系炭化水素(ノルマル・パラフィン)を主成分とし、少量のイソ・パラフィンを含む分子量300〜500程度の炭化水素の混合物をいう。水系インク組成物がパラフィンワックスを含むことにより、記録物にスリップ性が付与され、それにより耐擦性が向上する。また、パラフィンワックスは撥水性を持つため、適量であれば記録物の耐水性を向上させることができる。
【0077】
本実施形態において、パラフィンワックスは微粒子状態(すなわち、エマルジョン状態またはサスペンジョン状態)で含有されていることが好ましい。パラフィンワックスを微粒子状態で含有することにより、水系インク組成物の粘度を、インクジェットヘッドを用いた吐出で適正な範囲となるように調整しやすくなり、またインクの保存安定性・吐出安定性を確保しやすくなる。
【0078】
パラフィンワックスを微粒子状態する場合、その平均粒子径は、水系インク組成物の保存安定性・吐出安定性を確保する点から、好ましくは5nm以上600nm以下であり、より好ましくは50nm以上400nm以下である。
【0079】
パラフィンワックスとしては市販品をそのまま利用することもでき、例えば、AQUACER537、AQUACER539(以上商品名、BYK Additives & Instruments社製)等が挙げられる。
【0080】
一方、パラフィンワックス以外のワックスとしては、パラフィンワックスと同様、形成された記録物の表面にスリップ性を付与し耐擦性を向上させる機能を有する。パラフィンワックス以外のワックスは、水系インク組成物に微粒子状態(すなわち、エマルジョン状
態またはサスペンジョン状態)で含有されていることが好ましい。これにより、インクの粘度をインクジェットヘッドを用いた吐出で適正な範囲となるように調整し、インクの保存安定性・吐出安定性を確保しやすくなる。
【0081】
パラフィンワックス以外のワックスを構成する成分としては、例えば、カルナバワックス、キャンデリワックス、みつろう、ライスワックス、ラノリン等の植物・動物系ワックス;マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、オゾケライト等の鉱物系ワックス;カーボンワックス、ヘキストワックス、ステアリン酸アミド等の合成ワックス類、α−オレフィン・無水マレイン酸共重合体等の天然・合成ワックスエマルジョンや配合ワックス等を単独あるいは複数種を混合して用いることができる。
【0082】
1.2.2.樹脂分散体
本実施形態に係る水系インク組成物は、上記のポリオレフィンワックスとともに、水溶性および/または非水溶性の樹脂分散体を含有する。樹脂分散体は、ワックスとともに樹脂皮膜を形成して記録物を記録媒体上に定着させ、耐水性や耐擦性を向上させる効果を発揮する。よって、樹脂分散体は熱可塑性樹脂微粒子であることが好ましい。この効果により樹脂分散体を含有する水系インク組成物で記録された記録物は、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上で耐水性や耐擦性に優れる。
【0083】
樹脂は水系インク組成物に樹脂分散体(すなわち、エマルジョン状態またはサスペンジョン状態)で含有されている。樹脂を樹脂分散体の状態で含有することにより、水系インク組成物の粘度をインクジェットヘッドを用いた吐出で適正な範囲に調整しやすくなり、またインクの保存安定性・吐出安定性を確保しやすくなる。
【0084】
上記の樹脂分散体の樹脂成分としては、ポリアクリル酸エステルもしくはその共重合体、ポリメタクリル酸エステルもしくはその共重合体、ポリアクリロニトリルもしくはその共重合体、ポリシアノアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリスチレンもしくはそれらの共重合体、石油樹脂、クロマン・インデン樹脂、テルペン樹脂、ポリ酢酸ビニルもしくはその共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルエーテル、ポリ塩化ビニルもしくはその共重合体、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、フッ素ゴム、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリドンもしくはその共重合体、ポリビニルピリジン、ポリビニルイミダゾール、ポリブタジエンもしくはその共重合体、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、天然樹脂等が挙げられる。この中で、特に(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、シアノアクリレート、アクリルアミド、オレフィン、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルアルコール、ビニルエーテル、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、および塩化ビニリデンの単独重合体又は共重合体、フッ素樹脂、および天然樹脂が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、アクリルアミドなどの何れかである(メタ)アクリル系モノマーの重合体や、(メタ)アクリル系モノマーと他のモノマーとの共重合体からなる(メタ)アクリル系樹脂であることが好ましい。他のモノマーとしては、例えばビニル系モノマーのと共重合体であるビニル−(メタ)アクリル系樹脂があげられる。例えば、ビニル系モノマーとしてスチレンを用いたスチレン−(メタ)アクリル系樹脂が好ましい。なお、上記の共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、およびグラフト共重合体のうちいずれの形態であってもよい。樹脂としては他にも、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル刑樹脂が好ましく用いることができる。
【0085】
樹脂分散体は、以下に示す方法で得られ、そのいずれの方法でもよく、必要に応じて複数の方法を組み合わせてもよい。その方法としては、所望の樹脂成分を構成する単量体中
に重合触媒(重合開始剤)と分散剤とを混合して重合(すなわち乳化重合)する方法、親水性部分を持つ樹脂成分を水溶性有機溶剤に溶解させその溶液を水中に混合した後に水溶性有機溶剤を蒸留等で除去することで得る方法、樹脂成分を非水溶性有機溶剤に溶解させその溶液を分散剤と共に水溶液中に混合して得る方法等が挙げられる。上記の方法は、用いる樹脂成分の種類・特性に応じて適宜選択することができる。樹脂成分を分散する際に用いることのできる分散剤としては、特に制限はないが、アニオン性界面活性剤(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ラウリルリン酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートアンモニウム塩等)、ノニオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等)を挙げることができ、これらを単独あるいは二種以上を混合して用いることができる。
【0086】
上記のような樹脂分散体は、公知の材料・方法で得られるものを用いることも可能である。例えば、特公昭62−1426号公報、特開平3−56573号公報、特開平3−79678号公報、特開平3−160068号公報、特開平4−18462号公報等に記載のものを用いてもよい。また、市販品を用いることもでき、例えば、マイクロジェルE−1002、マイクロジェルE−5002(以上商品名、日本ペイント株式会社製)、ボンコート4001、ボンコート5454(以上商品名、大日本インキ化学工業株式会社製)、SAE1014(商品名、日本ゼオン株式会社製)、サイビノールSK−200(商品名、サイデン化学株式会社製)、ジョンクリル7100、ジョンクリル390、ジョンクリル711、ジョンクリル511、ジョンクリル7001、ジョンクリル632、ジョンクリル741、ジョンクリル450、ジョンクリル840、ジョンクリル74J、ジョンクリルHRC−1645J、ジョンクリル734、ジョンクリル852、ジョンクリル7600、ジョンクリル775、ジョンクリル537J、ジョンクリル1535、ジョンクリルPDX−7630A、ジョンクリル352J、ジョンクリル352D、ジョンクリルPDX−7145、ジョンクリル538J、ジョンクリル7640、ジョンクリル7641、ジョンクリル631、ジョンクリル790、ジョンクリル780、ジョンクリル7610(以上商品名、BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0087】
樹脂分散体の樹脂は、インク組成物の保存安定性・吐出安定性を確保する観点から、その平均粒子径は5nm以上400nm以下の範囲が好ましく、より好ましくは50nm以上300nm以上の範囲である。樹脂微粒子の平均粒子径が前記範囲にあることにより、成膜性に優れると共に、凝集しても大きな塊ができにくいのでノズルの目詰まりを低減することができる。平均粒子径は、ワックスの平均粒子径と同様にして測定することができる。
【0088】
樹脂分散体の樹脂の含有量は、インクの総質量(100質量%)に対して、固形分換算で好ましくは0.1質量%以上15質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上13質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以上11質量%以下であり、3質量%10質量%以下であることが特に好ましい。この範囲内であることにより、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上においても、インクを固化・定着させることができる。
【0089】
1.2.3.水
本実施形態に係る水系インク組成物は、水を含有する。水は、水系インク組成物の主となる媒体であり、加熱によって蒸発飛散する成分である。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものであることが好ましい。また、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、顔料分散液およびこれを用いたインク組成物を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を抑制できるので好適である。
【0090】
水の含有量は、水系インク組成物の総質量(100質量%)に対して、50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが特に好ましい。
【0091】
1.2.4.色材
本実施形態に係る水系インク組成物は、色材を含有してもよい。色材としては、染料や顔料等を挙げることができ、光やガス等に対して退色しにくい性質を有していることから顔料を用いることが好ましい。そのため、顔料を用いてインク非吸収性または低吸収性の記録媒体上に形成された記録物は、画質に優れるだけでなく、耐水性、耐ガス性、耐光性等に優れ、保存性が良好となる。
【0092】
本実施形態において使用可能な顔料としては、特に制限されないが、無機顔料や有機顔料が挙げられる。無機顔料としては、酸化チタンおよび酸化鉄に加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。一方、有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キノフラロン顔料等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等を使用することができる。
【0093】
本実施形態で使用可能な顔料の具体例のうち、ブラック顔料としてはカーボンブラックが挙げられ、カーボンブラックとしては、特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、もしくはチャンネルブラック等(C.I.ピグメントブラック7)、また市販品としてNo.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA77、MA100、No.2200B等(以上商品名、三菱化学株式会社製)、カラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250等(以上商品名、エボニックジャパン株式会社製)、コンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700等(以上商品名、コロンビアカーボン社製)、リガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12等(以上商品名、キャボットジャパン株式会社製)が挙げられる。
【0094】
ホワイト顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントホワイト6、18、21、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化マグネシウム、及び酸化ジルコニウムの白色無機顔料が挙げられる。当該白色無機顔料以外に、白色の中空樹脂微粒子及び高分子粒子などの白色有機顔料を使用することもできる。
【0095】
イエローインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180が挙げられる。
【0096】
マゼンタインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、11
4、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、又はC.I.ピグメントヴァイオレット19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
【0097】
シアンインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー4、60が挙げられる。
【0098】
また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外のカラーインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントグリーン7、10、C.I.ピグメントブラウン3、5、25、26、C.I.ピグメントオレンジ1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63が挙げられる。
【0099】
パール顔料としては、特に限定されないが、例えば、二酸化チタン被覆雲母、魚鱗箔、酸塩化ビスマス等の真珠光沢や干渉光沢を有する顔料が挙げられる。
【0100】
メタリック顔料としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、銅などの単体又は合金からなる粒子が挙げられる。
【0101】
インク組成物に含まれ色材の含有量は、水系インク組成物の総質量(100質量%)に対して、1.5質量%以上10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上7質量%以下であることがより好ましい。
【0102】
上記の顔料を水系インク組成物に適用するためには、顔料が水中で安定的に分散保持できるようにする必要がある。その方法としては、水溶性樹脂および/または水分散性樹脂等の樹脂分散剤にて分散させる方法(以下、この方法により分散された顔料を「樹脂分散顔料」という。)、水溶性界面活性剤および/または水分散性界面活性剤の界面活性剤にて分散させる方法(以下、この方法により分散された顔料を「界面活性剤分散顔料」という。)、顔料粒子表面に親水性官能基を化学的・物理的に導入し、上記の樹脂あるいは界面活性剤等の分散剤なしで水中に分散および/または溶解可能とする方法(以下、この方法により分散された顔料を「表面処理顔料」という。)等が挙げられる。本実施形態において、インク組成物は、上記の樹脂分散顔料、界面活性剤分散顔料、表面処理顔料のいずれも用いることができ、必要に応じて複数種混合した形で用いることもできる。
【0103】
樹脂分散顔料に用いられる樹脂分散剤としては、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α―メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α―メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体等およびこれらの塩が挙げられる。これらの中で、特に、疎水性官能基を有するモノマーと親水性官能基を有するモノマーとの共重合体、疎水性官能基と親水性官能基とを併せ持つモノマーからなる重合体が好ましい。共重合体の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でも用いることができる。
【0104】
上記の塩としては、アンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリ−iso−プロパノールアミン、アミノメチルプロパノール、モルホリン等の塩基性化合物との塩が挙げられる。これら塩基性化合物の添加量は、上記樹脂分散剤の中和当量以上であれば特に制限はない。
【0105】
上記樹脂分散剤の分子量は、重量平均分子量として1,000〜100,000の範囲であることが好ましく、3,000〜10,000の範囲であることがより好ましい。分子量が上記範囲であることにより、色材の水中での安定的な分散が得られ、またインク組成物に適用した際の粘度制御等がしやすい。
【0106】
以上述べた樹脂分散剤としては市販品を用いることもできる。詳しくは、ジョンクリル67(重量平均分子量:12,500、酸価:213)、ジョンクリル678(重量平均分子量:8,500、酸価:215)、ジョンクリル586(重量平均分子量:4,600、酸価:108)、ジョンクリル611(重量平均分子量:8,100、酸価:53)、ジョンクリル680(重量平均分子量:4,900、酸価:215)、ジョンクリル682(重量平均分子量:1,700、酸価:238)、ジョンクリル683(重量平均分子量:8,000、酸価:160)、ジョンクリル690(重量平均分子量:16,500、酸価:240)(以上商品名、BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0107】
また、界面活性剤分散顔料に用いられる界面活性剤としては、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アシルメチルタウリン酸塩、ジアルキルスルホ琥珀酸塩、アルキル硫酸エステル塩、硫酸化オレフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、モノグリセライトリン酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤、アルキルピリジウム塩、アルキルアミノ酸塩、アルキルジメチルベタイン等の両性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミド、グリセリンアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0108】
上記樹脂分散剤または上記界面活性剤の顔料に対する添加量は、顔料100質量部に対して好ましくは1質量部〜100質量部であり、より好ましくは5質量部〜50質量部である。この範囲であることにより、顔料の水中への分散安定性が確保できる。
【0109】
また、表面処理顔料としては、親水性官能基として、−OM、−COOM、−CO−、−SO
3M、−SO
2NH
3、−RSO
3M、−PO
3HM、−PO
3M
3、−SO
3NHCOR、−NH
3、−NR
3(但し、式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表し、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいナフチル基を示す。)等が挙げられる。これらの官能基は、顔料粒子表面に直接および/または他の基を介してグラフトされることによって、物理的および/または化学的に導入される。多価の基としては、炭素数が1〜12のアルキレン基、置換基を有していてもよいフェニレン基又は置換基を有していてもよいナフチレン基等を挙げることができる。
【0110】
また、前記の表面処理顔料としては、硫黄を含む処理剤によりその顔料粒子表面に−SO
3Mおよび/または−RSO
3M(Mは対イオンであって、水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、又は有機アンモニウムイオンを示す。)が化学結合するように表面処理されたもの、すなわち、前記顔料が、活性プロトンを持たず、スルホン酸と
の反応性を有せず、顔料が不溶ないしは難溶である溶剤中に、顔料を分散させ、次いでアミド硫酸、又は三酸化硫黄と第三アミンとの錯体によりその粒子表面に−SO
3Mおよび/または−RSO
3Mが化学結合するように表面処理され、水に分散および/または溶解が可能なものとされたものであることが好ましい。
【0111】
前記官能基またはその塩を顔料粒子の表面に直接または多価の基を介してグラフトさせる表面処理手段としては、種々の公知の表面処理手段を適用することができる。例えば、市販の酸化カーボンブラックにオゾンや次亜塩素酸ソーダ溶液を作用し、カーボンブラックをさらに酸化処理してその表面をより親水化処理する手段(例えば、特開平7−258578号公報、特開平8−3498号公報、特開平10−120958号公報、特開平10−195331号公報、特開平10−237349号公報)、カーボンブラックを3−アミノ−N−アルキル置換ピリジウムブロマイドで処理する手段(例えば、特開平10−195360号公報、特開平10−330665号公報)、有機顔料が不溶又は難溶である溶剤中に有機顔料を分散させ、スルホン化剤により顔料粒子表面にスルホン基を導入する手段(例えば、特開平8−283596号公報、特開平10−110110号公報、特開平10−110111号公報)、三酸化硫黄と錯体を形成する塩基性溶剤中に有機顔料を分散させ、三酸化硫黄を添加することにより有機顔料の表面を処理し、スルホン基又はスルホンアミノ基を導入する手段(例えば、特開平10−110114号公報)等が挙げられるが、本発明で用いられる表面処理顔料のための作製手段はこれらの手段に限定されるものではない。
【0112】
1つの顔料粒子にグラフトされる官能基は単一でも複数種であってもよい。グラフトされる官能基の種類及びその程度は、インク中での分散安定性、色濃度、及びインクジェットヘッド前面での乾燥性等を考慮しながら適宜決定されてよい。
【0113】
以上述べた樹脂分散顔料、界面活性剤分散顔料、表面処理顔料を水中に分散させる方法としては、樹脂分散顔料については顔料と水と樹脂分散剤、界面活性剤分散顔料については顔料と水と界面活性剤、表面処理顔料については表面処理顔料と水、また各々に必要に応じて水溶性有機溶剤・中和剤等を加えて、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータミル、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ジェットミル、オングミル等の従来用いられている分散機にて行うことができる。この場合、顔料の粒子径としては、平均粒子径で20nm以上500nm以下になるまで、より好ましくは50nm以上200nm以下になるまで分散することが、顔料の水中での分散安定性を確保する点で好ましい。
【0114】
1.2.5.有機溶剤
本実施形態に係る水系インク組成物は有機溶剤を含有してもよい。インク組成物が有機溶剤を含有することにより、記録媒体上に吐出された水系インク組成物の乾燥性が良好となり、画質に優れると共に、耐水性や耐擦性に優れた記録物を得ることができる。
【0115】
インク組成物に用いる有機溶剤としては、水溶性有機溶剤であることが好ましい。水溶性有機溶剤を使用することにより、よりインク組成物の乾燥性が良好となり、耐水性や耐擦性に優れた記録物を得ることができる。
【0116】
有機溶剤としては、特に限定されないが、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトンまたはケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール等の
グリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールの低級アルキルエーテル類;ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの水酸基を持つアミン類;グリセリンが挙げられる。水系インク組成物の乾燥性を向上させる点では、これらの中でも、プロピレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ブタンジオール等を用いることが好ましい。
【0117】
有機溶剤の含有量は、水系インク組成物の総質量(100質量%)に対して、2.0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以上35質量%以下であることがより好ましく、6.0質量%以上30質量%以下であることが特に好ましい。
【0118】
また、本実施形態において、水系インク組成物に用いる有機溶剤としては、耐水性や耐擦性に優れた記録物が得られる点により、環状アミド化合物を含むことが好ましい。環状アミド化合物としては、より詳細には、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−ブチル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。環状アミド化合物は、熱可塑性樹脂の良好な溶解剤として作用する。
【0119】
有機溶剤の標準沸点は180℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく220℃以上がさらに好ましい。上限は300℃以下が好ましく、270℃以下がより好ましく、250℃以下がさらに好ましい。有機溶剤の標準沸点が上記の範囲である場合、吐出信頼性や耐擦性や耐水性などがいっそう優れる点で好ましい。
【0120】
なお、標準沸点が280℃以上の有機溶剤は、インクの水分を吸収して、インクジェットヘッド付近のインクを増粘させる場合があり、これにより、インクジェットヘッドの吐出安定性を低下させる場合がある。このため、本実施形態において、水系インク組成物は、標準沸点が280℃以上の有機溶剤の含有量が3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。この場合には、記録媒体上でのインク組成物の乾燥性が高くなるので、ブリードの発生が抑制された優れた画像を形成できる。また、得られた記録物のベタツキが低減され、耐水性や耐擦性に優れたものとなる。
【0121】
標準沸点が280℃以上の有機溶剤としては、例えば、グリセリンを挙げることができる。グリセリンは吸湿性が高く、標準沸点が高いため、インクジェットヘッドの目詰まりや、動作不良の原因となる場合がある。また、グリセリンは、防腐性が乏しく、カビや菌類を繁殖させやすいので、インク組成物に含有しないことが好ましい。
【0122】
1.2.6.界面活性剤A
本実施形態に係る水系インク組成物は、界面活性剤Aを含有する。界面活性剤Aは、限るものではないが、例えば、上述のポリオレフィンワックスや樹脂を分散体(エマルジョン)状態とするための乳化剤として用いるものでも良い。界面活性剤Aは分子量が1万未満のイオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のうち所定のものである。界面活性剤は他にも、インクに含むポリオレフィンと樹脂分散体以外の他の成分を分散させるために用いても良いし、分散以外の用途、例えば、インクの表面張力の調整やインクの保存安定性のためなどに用いるものであっても良い。
【0123】
界面活性剤の分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定装置を用い、ポリスチレンを標準ポリマーとして測定を行うことで、質量平均分子量として得ることができる。また、化学構造式が特定可能なものは計算で求めることができる。
【0124】
界面活性剤Aの分子量の上限は、好ましくは7000以下であり、より好ましくは5000以下であり、さらに好ましくは3000以下であり、いっそう好ましくは1000以下である。界面活性剤Aの分子量の下限は、好ましくは100以上であり、より好ましくは200以上であり、さらに好ましくは300以上である。界面活性剤Aの分子量が1万未満であることにより、界面活性剤Aはポリオレフィンワックスや樹脂成分と親和性が高いため、記録後に形成される塗膜内部に入り込むことができ、記録後の記録物のインク層中において、樹脂分散体の樹脂やワックスの凝集粒子間が疎となることを防止する。このため、反応液との反応性と、インクの吐出信頼性との両方を兼ね備えることができ、より耐水性や耐擦性が向上し、画質に優れた記録物が得られるようになるものと推測される。
【0125】
界面活性剤Aとして、分子量が1万未満のイオン性界面活性剤としては、分子量が1万未満であれば特に限定されず、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤や両性界面活性剤を使用することができる。
【0126】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、第1級、第2級および第3級アミン塩型化合物、アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、脂肪族アミン塩、ベンザルコニウム塩、第4級アンモニウム塩、第4級アルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、オニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。カチオン性界面活性剤の具体例としては、ラウリルアミン、ヤシアミン、ロジンアミン等の塩酸塩、酢酸塩等、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、ジメチルエチルラウリルアンモニウムエチル硫酸塩、ジメチルエチルオクチルアンモニウムエチル硫酸塩、トリメチルラウリルアンモニウム塩酸塩、セチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイド、ジヒドロキシエチルラウリルアミン、デシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0127】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、高級脂肪酸塩、石けん、α−スルホ脂肪酸メチルエステル塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、モノアルキルリン酸エステル塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸塩、ポリオキシアルキレングリコールアルキルエーテルリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0128】
両性界面活性剤としては、アミノ酸系としてアルキルアミノ脂肪酸塩、ベタイン系としてアルキルカルボキシルベタイン、アミンオキシド系としてアルキルアミンオキシドなどが挙げられる。
【0129】
上記のイオン性界面活性剤の中でも、界面活性剤Aとしては、カルボン酸塩、有機スルホン酸塩、有機硫酸塩、有機リン酸塩を使用することが好ましい。有機硫酸塩は、有機硫酸エステル塩であってもよい。イオン性界面活性剤のなかでも、アニオン性界面活性剤が好ましい。
【0130】
カルボン酸塩、有機スルホン酸塩、有機硫酸塩、有機リン酸塩などの塩としては、正イオンとの塩であればよいが、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などの金属塩やアンモニウム塩などが好ましい。金属塩としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属の塩が好ましい。
【0131】
カルボン酸塩、有機スルホン酸塩、有機硫酸塩、有機リン酸塩としては、例えば、脂肪族基及び又は芳香族基を有するものであるカルボン酸や有機スルホン酸や有機硫酸や有機リン酸、の塩があげられ好ましい。脂肪族としては、高級脂肪酸が好ましい。脂肪族や高級脂肪族とは、後述のものをいう。
【0132】
分子量が1万未満のノニオン性界面活性剤としては、ポリアルキレンオキシドのエーテル類、高級脂肪族酸エステル類、高級脂肪族アミド類が挙げられる。
【0133】
ここで、高級とは炭素数9以上であり、好ましくは炭素数が9以上30以下であり、より好ましくは12以上20以下である。また、脂肪族は非芳香族の意味であり、鎖式脂肪族、環式脂肪族を含む。鎖式脂肪族の場合、炭素炭素二重結合を含んでいてもよいが、三重結合は含まないものとする。
【0134】
ポリアルキレンオキシドのエーテル類は、ポリアルキレンオキシド骨格の末端のエーテル酸素に対して脂肪族基やアリール基などがエーテル結合したものである。ポリアルキレンオキシドは、アルキレンオキシドがエーテル結合により繰り返し構成されたものである。ポリアルキレンオキシドとしては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、それらの併用などがあげられ、併用の場合、それらの並び順は限られずランダムでもよい。アルキレンオキシドの繰り返し数nとしては限るものではないが、例えば5〜50が好ましく、10〜40がより好ましい。ポリアルキレンオキシド骨格は、例えば、次の一般式で表されるものである。
H−(O−R)n−O−
(ここでRはアルキレン基を示す。nは2以上の整数を表す。)
脂肪族基としては高級脂肪族基が好ましい。高級や脂肪族は上述の定義による。アリール基としては、フェニル基や、ナフチル基などの多環アリール基などがあげられる。脂肪族基やアリール基は例えば水酸基やエステル基などの官能基で置換されていてもよい。アルキル基は分枝構造を有していても良く、特に、ポリアルキレンオキシドの骨格の末端のエーテル酸素に直接結合している炭素原子を始点とする分枝構造を有していてもよい。また、ポリアルキレンオキシドのエーテル類は、分子中にポリアルキレンオキシド骨格を複数個有する化合物でも良く、分子中のポリアルキレンオキシド骨格の数は1〜3が好ましい。
【0135】
ポリアルキレンオキシドのエーテル類としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルグルコシド、ポリオキシアルキレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、ポリオキシアルキレングリコールアルキルフェニルエーテル、などがあげられる。
【0136】
高級脂肪族酸エステル類は、高級脂肪族の酸のエステルである。高級脂肪族は、上述の定義によるものであり、例えば水酸基やその他の官能基で置換されていてもよく、分枝構造を有していても良い。高級脂肪族酸エステル類のエステル部の構造は、環状や鎖状の有機基であればよく、炭素数は限るものではないが1〜30が好ましく、2〜20がより好ましく3〜10がさらに好ましい。高級脂肪族酸エステル類は、ポリアルキレンオキシド骨格を有する複合型であってもよい。
【0137】
高級脂肪族酸エステル類としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアセチレングリコール、などがあげられる。
【0138】
高級脂肪族アミド類は、高級脂肪族のアミドである。高級脂肪族とは上述の定義のものであり、例えば、水酸基やその他の官能基で置換されていてもよく、分枝構造を有していても良い。高級脂肪族アミン又はアミド類はポリアルキレンオキシド骨格を有する複合型であってもよい。
【0139】
高級脂肪族アミド類としては、例えば、脂肪族アルキルアミド、脂肪酸アルカノールアミド、アルキロールアマイド、などが挙げられる。
【0140】
界面活性剤Aは、好ましくはHLB値が7以上18以下の界面活性剤であることが好ましい。
【0141】
HLB値が7以上18以下の分子量が1万未満のノニオン性界面活性剤の市販品としては、例えば、アデカトール TN−40、TN−80、TN−100、LA−675B、LA−775、LA−875、LA−975、LA−1275、OA−7(以上商品名、株式会社ADEKA製)、CL−40、CL−50、CL−70、CL−85、CL−95、CL−100、CL−120、CL−140、CL−160、CL−200、CL−400(以上商品名、三洋化成工業株式会社製)、ノイゲン XL−40、−41、−50、−60、−6190、−70、−80、−100、−140、−160、−160S、−400、−400D、−1000、ノイゲン TDS−30、−50、−70、−80、−100、−120、−200D、−500F、ノイゲン EA−137、−157、−167、−177、−197D、DKS NL−30、−40、−50、−60、−70、−80、−90、−100、−110、−180、−250、ノイゲン ET−89、−109、−129、−149、−159、−189、ノイゲン ES−99D、−129D、−149D、−169D、ソルゲン TW−20、−60、−80V、−80DK、エステル F−160、−140、−110、−90、−70(以上商品名、第一工業製薬株式会社製)、ラテムル PD−450、PD−420、PD−430、PD−430S、レオドール TW−L106、TW−L120、TW−P120、TW−S106V、TW−S120V、TW−S320V、TW−O106V、TW−O120V、TW−O320V、レオドール 430V、440V、460V、レオドールスーパー SP−L10、TW−L120、エマノーン 1112、3199V、4110V、3299RV、3299V、エマルゲン 109P、1020、123P、130K、147、150、210P、220、306P、320P、350、404、408、409PV、420、430、1108、1118S−70、1135S−70、1150S−60、4085、A−60、A−90、A−500、B−66(以上商品名、花王株式会社製)、ソルボンT−20、ソルボンS−10E、ペグノール 24−0(以上商品名、東邦化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0142】
界面活性剤Aの含有量の上限は、樹脂分散体の樹脂とポリオレフィンワックスの合計の含有量を100質量部としたときに、7質量部以下であり、6質量部以下が好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、4質量部以下であることがさらに好ましく、3質量部以下であることがよりさらに好ましい。また、下限は0質量部以上であるが、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、1.5質量部以上であることがさらに好ましく、2質量部以上であることが特に好ましい。界面活性剤Aの含有量が前記範囲にあることにより、より記録物の耐水性や耐擦性が向上し、画質に優れた記録物が得られる。
【0143】
なお、界面活性剤Aを上記範囲とするためには、界面活性剤Aの含有量が所定の範囲内に調整された樹脂分散体やポリオレフィンワックスエマルジョンを用いることが好ましいが、界面活性剤Aをインク調製の際に添加する量を調整することで所定の範囲となるようにしてもよい。
【0144】
また、界面活性剤Aの合計の質量部を1とした場合に、イオン性界面活性剤の質量部(含有比)が0.1以上0.7以下であることが好ましく、0.2以上0.5以下であることがより好ましい。ノニオン性界面活性剤の質量部はその残りであり、0.3以上0.9以下であることが好ましく、0.5以上0.8以下であることがより好ましい。界面活性剤Aとして、イオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤の質量部が上記の範囲にあることにより、反応液との反応性と、インクの保存安定性との両方を兼ね備えることができ、より耐水性や耐擦性が向上し、画質に優れた記録物が得られる。
【0145】
界面活性剤Aのうち、イオン性の界面活性剤が少ないほうが、反応液を用いる場合のインクの反応性が優れる点で好ましいことが分かった。これは、イオン性の界面活性剤Aは、反応液の凝集成分と反応し、分散不安定化するため、イオン性の界面活性剤が少ない方が、少ない凝集剤量で分散不安定化するためと推測される。反面、インクの吐出信頼性の点では、イオン性の界面活性剤を含む方が好ましいことが分かった。一方、ノニオン性界面活性剤は、インクの反応性を直接的に向上させる効果があるわけではないが、イオン性の界面活性剤が存在する場合にこれがインクの反応性を低下させることを阻止する働きがあることが推測される。イオン性界面活性剤は凝集剤と反応してしまい、インクの樹脂や顔料が凝集剤と反応することを低下させる場合があるが、ノニオン界面活性剤は、イオン性界面活性剤が凝集剤と反応することを阻害する働きがあると推測される。
【0146】
界面活性剤Aのインク組成物の総質量に対する含有量は、1質量%以下が好ましく、0.6質量%以下がより好ましく、0.4質量%以下がさらに好ましい。該含有量の下限は0質量%以上であるが、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上がさらに好ましい。上記範囲であると、耐擦性や耐水性や画質などが特に優れ好ましい。
【0147】
1.2.7.界面活性剤A以外の界面活性剤
本実施形態に係る水系インク組成物は、上記の界面活性剤Aの他に、界面活性剤を含有していてもよい。この界面活性剤は、特に限定されないが、例えば、界面活性剤A以外のノニオン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤が挙げられ、これらの少なくとも1種を含有することが好ましい。これらの界面活性剤は、記録物に形成されたインク塗膜の上面に偏析することが知られており、インクの樹脂やワックスの内部に入り込まないと推測する。このため、得られた記録物の耐水性や耐擦性の低下に影響しない界面活性剤である。
【0148】
上記以外のノニオン系界面活性剤は、HLBが7未満であるか、HLBが18超のノニオン系界面活性剤であり、消泡剤等が含まれる。
【0149】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール及び2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4−ジメチル−5−デシン−4−オール及び2,4−ジメチル−5−デシン−4−オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される1種以上が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、オルフィン104シリーズやオルフィンE1010等のEシリーズ(商品名、エアープロダクツ社製)、サーフィノール465やサーフィノール61やサーフィノールDF110D(商品名、日信化学工業株式会社製)などが挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0150】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルス
ルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。フッ素系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、サーフロンS144、S145(以上商品名、AGCセイミケミカル株式会社製);FC−170C、FC−430、フロラード−FC4430(以上商品名、住友スリーエム株式会社製);FSO、FSO−100、FSN、FSN−100、FS−300(以上商品名、Dupont社製);FT−250、251(以上商品名、株式会社ネオス製)が挙げられる。フッ素系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0151】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。シリコーン系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、具体的には、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−347、BYK−348、BYK−349(以上商品名、BYK Additives & Instruments社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(以上商品名、信越化学株式会社製)等が挙げられる。
【0152】
これらの中でも、アセチレングリコール系界面活性剤は、ノズルの目詰まり回復性をさらに向上させることができる。一方、フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤は、記録媒体上でインクの濃淡ムラや滲みを生じないように均一に広げる作用を有している点で好ましい。したがって、本実施形態において、水系インク組成物は、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤の少なくとも一方と、アセチレングリコール系界面活性剤と、を含有することがより好ましい。
【0153】
界面活性剤A以外の界面活性剤の含有量は、水系インク組成物の総質量(100質量%)に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が特に好ましい。一方、含有量の上限は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が特に好ましく1.5質量%以下が好ましい。該界面活性剤の含有量が前記範囲にあると、記録媒体上でインクの濃淡ムラや滲みを生じないように均一に広げる作用を有している点で好ましい。
【0154】
1.2.8.その他の含有成分
本実施形態に係るインクセットを構成する水系インク組成物は、さらに、pH調整剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート化剤、有機溶剤以外の保湿剤等を含有してもよい。これらの材料を添加すると、水系インク組成物の有する特性をさらに向上させることができる。
【0155】
pH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0156】
防腐剤・防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。市販品では、プロキセルXL2、プロキセルGXL(以上商品名、アビシア社製)や、デニ
サイドCSA、NS−500W(以上商品名、ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
【0157】
防錆剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0158】
キレート化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸およびそれらの塩類(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム塩等)等が挙げられる。
【0159】
有機溶剤以外の保湿剤としては、トリメチロールプロパンや糖などがあげられる。
【0160】
1.2.9.水系インク組成物の調製方法
本実施形態に係る水系インク組成物は、前述した成分を任意の順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法としては、遠心濾過、フィルター濾過等を必要に応じて行なうことができる。
【0161】
1.2.10.水系インク組成物の物性
本実施形態に係る水系インク組成物は、画像品質とインクジェット記録用のインクとしての信頼性とのバランスの観点から、20℃における表面張力が20mN/m以上40mN/mであることが好ましく、20mN/m以上35mN/m以下であることがより好ましい。なお、表面張力の測定は、例えば、自動表面張力計CBVP−Z(商品名、協和界面科学株式会社製)を用いて、20℃の環境下で白金プレートをインクで濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
【0162】
なお、水系インク組成物と、後述の反応液の表面張力の差の絶対値が15mN/m以下であることが好ましく、10mN/m以下であることがより好ましく、7mN/m以下であることがさらに好ましく、5mN/m以下であることがいっそう好ましい。水系インク組成物と反応液の表面張力の差の絶対値が15mN/m以下であることにより、記録時の濡れ性が確保されるため、画質に優れる記録を行うことができる。
【0163】
また、同様の観点から、本実施形態で用いられる水系インク組成物の20℃における粘度は、3mPa・s以上10mPa・s以下であることが好ましく、3mPa・s以上8mPa・s以下であることがより好ましい。なお、粘度の測定は、例えば、粘弾性試験機MCR−300(商品名、Pysica社製)を用いて、20℃の環境下での粘度を測定することができる。
【0164】
1.3.反応液
次に、本実施形態に係る水系インク組成物と共に用いられる反応液について説明する。本実施形態で用いられる反応液は、水系インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有するものである。以下、本実施形態で用いられる反応液に含まれる成分及び含まれ得る成分ついて詳細に説明する。
【0165】
なお、本実施形態において、反応液とは、色材の含有量が0.2質量%以下であり、記録媒体に着色するために用いる上述の水系インク組成物ではなく、水系インク組成物を付着する前に記録媒体へ付着させて用いる補助液である。
【0166】
1.3.1.凝集剤
本実施形態において、反応液は、インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する。反応液が凝集剤を含むことにより、後述するインク組成物付着工程において、凝集剤と水
系インク組成物に含まれる樹脂とが速やかに反応する。そうすると、水系インク組成物中の色材や樹脂の分散状態が破壊され、色材や樹脂が凝集する。そして、この凝集物が色材の記録媒体への浸透を阻害するため、記録画像の画質の向上の点で優れたものとなると考えられる。
【0167】
凝集剤としては、例えば、多価金属塩、カチオンポリマーかカチオン性界面活性剤であるカチオン性化合物、有機酸が挙げられる。これらの凝集剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。これらの凝集剤の中でも、水系インク組成物に含まれる樹脂との反応性に優れるという点から、多価金属塩及びカチオン性化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の凝集剤を用いることが好ましい。
【0168】
多価金属塩としては、二価以上の多価金属イオンとこれら多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成され、水に可溶な化合物である。多価金属イオンの具体例としては、Ca
2+、Cu
2+、Ni
2+、Mg
2+、Zn
2+、Ba
2+などの二価金属イオン;Al
3+、Fe
3+、Cr
3+などの三価金属イオンが挙げられる。陰イオンとしては、Cl
−、I
−、Br
−、SO
42−、ClO
3−、NO
3−、及びHCOO
−、CH
3COO
−などが挙げられる。これらの多価金属塩の中でも、反応液の安定性や凝集剤としての反応性の観点から、カルシウム塩及びマグネシウム塩が好ましい。
【0169】
有機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等が好適に挙げられる。有機酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0170】
カチオンポリマーとしては、例えば、カチオン性のウレタン樹脂、カチオン性のオレフィン樹脂、カチオン性のアリルアミン樹脂等が挙げられる。
【0171】
カチオン性のウレタン樹脂としては、公知のものを適宜選択して用いることができる。カチオン性のウレタン樹脂としては、市販品を用いることができ、例えば、ハイドラン CP−7010、CP−7020、CP−7030、CP−7040、CP−7050、CP−7060、CP−7610(以上商品名、大日本インキ化学工業株式会社製)、スーパーフレックス 600、610、620、630、640、650(以上商品名、第一工業製薬株式会社製)、ウレタンエマルジョン WBR−2120C、WBR−2122C(以上商品名、大成ファインケミカル株式会社製)等を用いることができる。
【0172】
カチオン性のオレフィン樹脂は、エチレン、プロピレン等のオレフィンを構造骨格に有するものであり、公知のものを適宜選択して用いることができる。また、カチオン性のオレフィン樹脂は、水や有機溶剤等を含む溶媒に分散させたエマルジョン状態であってもよい。カチオン性のオレフィン樹脂としては、市販品を用いることができ、例えば、アローベースCB−1200、CD−1200(以上商品名、ユニチカ株式会社製)等が挙げられる。
【0173】
カチオン性のアリルアミン樹脂としては、公知のものを適宜選択して用いることができ、例えば、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアリルアミンアミド硫酸塩、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩コポリマー、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩コポリマー、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩コポリマー、アリルアミン塩酸塩・ジメチルアリルアミン塩酸塩コポリマー、アリルアミン・ジメチルアリルアミンコポリマ
ー、ポリジアリルアミン塩酸塩、ポリメチルジアリルアミン塩酸塩、ポリメチルジアリルアミンアミド硫酸塩、ポリメチルジアリルアミン酢酸塩、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルアミン酢酸塩・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト・二酸化硫黄コポリマー、メチルジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミドコポリマー等を挙げることができる。このようなカチオン性のアリルアミン樹脂としては、市販品を用いることができ、例えば、PAA−HCL−01、PAA−HCL−03、PAA−HCL−05、PAA−HCL−3L、PAA−HCL−10L、PAA−H−HCL、PAA−SA、PAA−01、PAA−03、PAA−05、PAA−08、PAA−15、PAA−15C、PAA−25、PAA−H−10C、PAA−D11−HCL、PAA−D41−HCL、PAA−D19−HCL、PAS−21CL、PAS−M−1L、PAS−M−1、PAS−22SA、PAS−M−1A、PAS−H−1L、PAS−H−5L、PAS−H−10L、PAS−92、PAS−92A、PAS−J−81L、PAS−J−81(以上商品名、ニットーボーメディカル会社製)、ハイモ Neo−600、ハイモロック
Q−101、Q−311、Q−501、ハイマックス SC−505、SC−505(以上商品名、ハイモ株式会社製)等を用いることができる。
【0174】
その他、カチオン性界面活性剤も使用可能である。カチオン性界面活性剤としては、例えば、第1級、第2級及び第3級アミン塩型化合物、アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、脂肪族アミン塩、ベンザルコニウム塩、第4級アンモニウム塩、第4級アルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、オニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。カチオン性界面活性剤の具体例としては、ラウリルアミン、ヤシアミン、ロジンアミン等の塩酸塩、酢酸塩等、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、ジメチルエチルラウリルアンモニウムエチル硫酸塩、ジメチルエチルオクチルアンモニウムエチル硫酸塩、トリメチルラウリルアンモニウム塩酸塩、セチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイド、ジヒドロキシエチルラウリルアミン、デシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0175】
反応液の凝集剤の濃度は、反応液1kg中において、0.03mol/kg以上であってもよい。また、反応液1kg中において、0.1mol/kg以上1.5mol/kg以下であってもよく、0.2mol/kg以上0.9mol/kg以下であってもよい。また、凝集剤の含有量は、例えば、反応液の総質量(100質量%)に対し、0.1質量%以上25質量%以下であってもよく、0.2質量%以上20質量以下であってもよく、0.3質量%以上10質量以下であってもよい。
【0176】
1.3.2.水
本実施形態において、反応液は、水を主溶媒とする水系であることが好ましい。この水は、反応液を記録媒体に付着させた後、乾燥により蒸発飛散する成分である。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものであることが好ましい。また、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、反応液を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止できるので好適である。反応液に含まれる水の含有量は、反応液の総質量(100質量%)に対して、例えば、40質量%以上とすることができ、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは55質量%以上であり、さらに好ましくは65質量%以上である。
【0177】
1.3.3.有機溶剤
本実施形態において、反応液は、有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤を含有することにより、記録媒体に対する反応液の濡れ性を向上させたりすることができる。有機溶剤としては、上述の水系インク組成物で例示する有機溶剤と同様のものを使用できる。有機溶剤の含有量は、特に限定されるものではないが、反応液の総質量(100質量%)に対して、例えば、1質量%以上40質量%以下とすることができ、好ましくは5質量%以上30質量%以下である。
【0178】
有機溶剤の標準沸点はインクに含む有機溶剤の標準沸点の範囲と同様のものに、インクに含む有機溶剤の沸点とは独立して、することができる。なお、反応液は、有機溶剤として、上述の水系インク組成物と同様に、標準沸点が280℃超の水溶性有機溶剤の含有量が3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが更に好ましい。この場合、反応液の乾燥性が良いため、反応液の乾燥が迅速に行われるほか、得られた記録物のベタツキ低減や耐擦性に優れる。
【0179】
1.3.4.界面活性剤
本実施形態において、反応液は、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤を添加することにより、反応液の表面張力を低下させ、記録媒体との濡れ性を向上させることができる。界面活性剤の中でも、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーンン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤を好ましく用いることができる。これらの界面活性剤の具体例については、後述の水系インク組成物で例示する界面活性剤と同様のものを使用できる。界面活性剤の含有量は、特に限定されるものではないが、反応液の総質量(100質量%)に対して、0.1質量%以上1.5質量%以下とすることができる。
【0180】
1.3.5.その他の成分
本実施形態において、反応液は、必要に応じて、pH調整剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート化剤等を含有してもよい。
【0181】
1.3.6.反応液の調製方法
本実施形態において、反応液は、上記の各成分を適当な方法で分散・混合することよって製造することができる。上記の各成分を十分に攪拌した後、目詰まりの原因となる粗大粒子及び異物を除去するためにろ過を行って、目的の反応液を得ることができる。
【0182】
1.3.7.反応液の物性
本実施形態において、反応液は、インクジェットヘッドで吐出させる場合には、20℃における表面張力が20mN/m以上40mN/mであることが好ましく、20mN/m以上35mN/m以下であることがより好ましい。なお、表面張力の測定は、例えば、自動表面張力計CBVP−Z(商品名、協和界面科学株式会社製)を用いて、20℃の環境下で白金プレートを反応液で濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
【0183】
また、同様の観点から、本実施形態において、反応液の20℃における粘度は、3mPa・s以上10mPa・s以下であることが好ましく、3mPa・s以上8mPa・s以下であることがより好ましい。なお、粘度の測定は、例えば、粘弾性試験機MCR−300(商品名、Pysica社製)を用いて、20℃の環境下での粘度を測定することができる。
【0184】
1.4.記録媒体
上述の水系インク組成物は、インク乾燥性を有し、反応液と併用することで、インク吸
収性の記録媒体だけでなく、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体に対する記録において、耐水性や耐擦性が向上し、画質に優れた記録物が得られる。
【0185】
インク吸収性の記録媒体としては、インク吸収性が高い、綿、絹、ポリエステル、ポリウレタン、ナイロン等の布地や、普通紙、インクジェット専用紙、中程度の吸収性の上質紙、コピー用紙等が挙げられる。
【0186】
インク非吸収性の記録媒体として、例えば、インクジェット記録用に表面処理をしていない(すなわち、インク吸収層を形成していない)プラスチックフィルム、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているものやプラスチックフィルムが接着されているもの等が挙げられる。ここでいうプラスチックとしては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。インク低吸収性の記録媒体として、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙が挙げられる。なお、本明細書中において、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体を、単に「プラスチックメディア」ともいう。
【0187】
ここで、本明細書において「インク非吸収性または低吸収性の記録媒体」とは、「ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec
1/2までの水吸収量が10mL/m
2以下である記録媒体」を示す。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙−液体吸収性試験方法−ブリストー法」に述べられている。
【0188】
インク非吸収性の記録媒体としては、例えば、インク吸収層を有していないプラスチックフィルム、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているものやプラスチックフィルムが接着されているもの等が挙げられる。ここでいうプラスチックとしては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0189】
インク低吸収性の記録媒体としては、表面にインクを受容するための塗工層が設けられた記録媒体が挙げられ、例えば、基材が紙であるものとしては、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙が挙げられ、基材がプラスチックフィルムである場合には、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等の表面に、親水性ポリマーが塗工されたもの、シリカ、チタン等の粒子がバインダーとともに塗工されたものが挙げられる。これらの記録媒体は、透明な記録媒体であってもよい。
【0190】
また、エンボスメディア等の、表面に凹凸を有するインク非吸収性または低吸収性の記録媒体に対しても、好適に用いることができる。
【0191】
なお、インクジェット記録装置1がシリアル式の記録装置である場合、記録媒体のシリアル式ヘッドの走査方向に沿う長さ3.2m以下であることが好ましい。この場合には、1回の主走査中に記録媒体がインクジェットヘッドと対向している時間、つまり、1走査中に使われないノズルが記録媒体から熱を受ける時間が12秒以下となり、ノズル内のインク組成物の乾燥および組成変動を抑制でき、ノズルの内壁に樹脂が溶着することを低減することができる。その結果、連続印字時のインクの着弾ずれを抑制でき、ノズルの目詰まり回復性も良好となる。なお、記録媒体幅の好ましい幅の下限値は30cm以上である。
【0192】
2.記録方法
本実施形態に係る記録方法は、本実施形態に係る水系インク組成物と反応液とを用いた記録方法であって、前記反応液を記録媒体へ付着させる反応液付着工程と、前記水系インク組成物を前記記録媒体へ付着させるインク組成物付着工程と、を備えることを特徴とする。上述の実施形態の水系インク組成物はこのような記録方法に用いるものである。
【0193】
本実施形態に係る水系インク組成物の記録媒体への付着は、インクジェットヘッドから吐出させて記録媒体へ付着させるインクジェット印刷の他に、オフセット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、活版印刷、スクリーン印刷によるものなどがあげられる。記録方法として、水系インク組成物の記録媒体への付着をインクジェット印刷で行うインクジェット記録方法があげられる。
【0194】
以下、本実施形態の一例に係るインクジェット記録方法について、図面を参照しながら説明する。
【0195】
2.1.反応液付着工程
反応液付着工程は、インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する反応液を記録媒体へ付着させる工程である。インク組成物の付着より前にインク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する反応液を記録媒体へ付着させることにより、耐水性や耐擦性を備え、画質に優れた画像を記録することができる。
【0196】
反応液付着工程の前に
図1に示すプレヒーター7により、または反応液付着工程の際に、
図1に示すIRヒーター3またはプラテンヒーター4により記録媒体Mが加熱されていることが好ましい。加熱された記録媒体M上に反応液を付着させることにより、記録媒体M上に吐出された反応液が記録媒体M上で塗れ広がりやすくなり、均一塗布することができる。このため、後述のインク組成物付着工程で付着されたインクと反応液が十分に反応し、優れた画質が得られるようになる。また、反応液は記録媒体M上で均一に塗布されるため、塗布量を減らすことができる。このため、得られた記録物の耐水性や耐擦性低下を防止することができる。
【0197】
ここで、反応液を付着させる際の記録媒体Mの表面温度は後述のインク組成物付着工程の際のこのましい範囲と同様のものに、インク組成物付着工程とは独立して、することができる。反応液を付着させる際の記録媒体Mの温度が前記範囲にある場合には、反応液を記録媒体Mに均一に塗布することができ、画質を向上させることができる。また、インクジェットヘッド2への熱による影響を抑えることができる。
【0198】
なお、反応液の付着は、インクジェットヘッド2による吐出により行ってもよく、それ以外の方法、例えば、反応液をロールコーター等で塗布する方法や、反応液を噴射する方法等が挙げられる。
【0199】
2.2.インク組成物付着工程
インク組成物付着工程は、反応液付着工程を行った記録媒体へ、上述の水系インク組成物をインクジェットヘッド2から吐出させて付着させる工程であり、この工程により、インク組成物の液滴と、反応液とが記録媒体M上で反応する。これにより、記録媒体Mの表面にインク組成物からなる画像が形成される。また、反応液が凝集剤を含有することにより、凝集剤が記録媒体M上でインクの成分と反応し、より耐水性や耐擦性に優れた記録物が得られる。
【0200】
ここで、本実施形態において、「画像」とは、ドット群から形成される記録パターンを示し、テキスト印字、ベタ画像も含める。なお、「ベタ画像」とは、記録解像度で規定さ
れる最小記録単位領域である画素の全ての画素に対してドットを記録し、通常、記録媒体の記録領域がインクで覆われ記録媒体の地が見えていないような画像であるべき画像パターンを意味する。
【0201】
本実施形態において、インク組成物付着工程加熱工程は、反応液付着工程と同時に行われてもよい。
【0202】
記録媒体Mへの単位面積当たりの水系インク組成物の最大付着量は、好ましくは5mg/inch
2以上であり、より好ましくは7mg/inch
2以上であり、特に好ましくは9mg/inch
2以上である。記録媒体の単位面積当たりの水系インク組成物の付着量の上限は、特に限定されないが、例えば、20mg/inch
2以下好ましく、15mg/inch
2以下が好ましい。
【0203】
インク組成物付着工程は、加熱された記録媒体Mへ行うことが好ましい。これにより、記録媒体M上でインクを迅速に乾燥させることができ、ブリードが抑制される。また、耐擦性と光沢性に優れた画像を形成できると供に、吐出安定性に優れたインクジェット記録方法を提供することができる。
【0204】
なお、インクを付着させる際の記録媒体Mの表面温度(一次加熱温度)は、50℃以下であることが好ましく、45℃以下であることがより好ましく、40℃以下であることがさらに好ましく、38℃以下であることがいっそう好ましい。インクを付着させる際の記録媒体の表面温度が前記範囲にあることにより、インクジェットヘッド2への熱による影響を抑制し、ノズルの目詰まりを防止することができる。また、インクジェット記録の際の記録媒体Mの表面温度の下限値は32℃以上であることが好ましく、34℃以上であることがより好ましく、36℃以上であることがさらに好ましい。インクジェット記録の際の記録媒体Mの表面温度の下限値が32℃以上であることにより、記録媒体M上でインクを迅速に乾燥させることができ、ブリードが抑制され、耐水性や耐擦性に優れた記録物が得られる。
【0205】
なお、インクジェット記録装置1がシリアル式の記録装置である場合、1回の主走査中に記録媒体がインクジェットヘッド2と対向している時間が12秒以下であることが好ましい。この時間の上限は、10秒以下であることがより好ましく、6秒以下であることが特に好ましい。この時間の下限は、1秒以上であることが好ましく、2秒以上であることがより好ましく、3秒以上であることが特に好ましい。1回の主走査中に記録媒体Mがインクジェットヘッド2と対向している時間は、後述のクリーニング工程を行うことなく、1走査中に使われないノズルが記録媒体Mから熱を受ける時間に等しい。つまり、この時間が前記範囲にあると、1回の主走査中に使用されないノズルが記録媒体Mから熱を受ける時間が十分に短いので、ノズル内のインク組成物の乾燥および組成変動を抑制でき、クリーニング工程を行うことなく、ノズルの内壁に樹脂が溶着することを低減することができる。その結果、連続印字時のインクの着弾ずれを抑制でき、ノズルの目詰まり回復性もさらに良好となる。
【0206】
2.3.二次加熱工程
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、上記インク組成物付着工程の後、
図1に示す硬化ヒーター5により水系インク組成物が付着した記録媒体Mを加熱する二次加熱工程を有していてもよい。これにより、記録媒体M上の水系インク組成物に含まれる樹脂やポリオレフィンワックスが溶融してインク膜が形成される。このようにして、記録媒体M上においてインク膜が強固に定着(接着)して、耐水性や耐擦性に優れた高画質な画像を短時間で得ることができる。
【0207】
硬化ヒーター5により記録媒体Mの表面を加熱する温度(二次加熱温度)は、好ましくは40℃以上120℃以下であり、より好ましくは60℃以上100℃以下であり、さらに好ましくは80℃以上90℃以下である。加熱温度が上記範囲内であることにより、得られた記録物の耐擦性がより向上し、さらに記録媒体M上に密着性よくインク膜を形成することができる。
【0208】
なお、二次加熱工程の後に、
図1に示す冷却ファン6により、記録媒体M上のインク組成物を冷却する工程を有していてもよい。
【0209】
2.4.クリーニング工程
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、インクを吐出して記録するための圧力発生手段以外の手段により、つまり、インクジェットヘッド2が備える記録のためにインクを吐出するための機構ではない他の機構により、インク組成物や反応液を排出させるクリーニング工程を備えていてもよい。
【0210】
インクを吐出して記録するための圧力発生手段は、インクジェットヘッド2が備える記録のためにインクを吐出するための機構であり、圧力室に備えられてインクに圧力を付与するピエゾ素子やヒーター素子が挙げられる。これ以外の手段によるクリーニング工程としては、インクジェットヘッド2に外部から圧力を付与してノズルから水系インク組成物を排出させる工程や、インクジェットヘッドのノズルからインクを吸引してインクをノズルから排出する吸引クリーニング工程などがあげられる。この工程を備えることで、インクジェットヘッド2の内壁に樹脂が溶着する懸念がある場合にも、これを抑制し、目詰まり性を改善する点で一層優れたものとすることができる。
【0211】
また、本実施形態に係るインクジェット記録方法では、インクジェット記録装置1を上述のクリーニング工程を行うことなく、つまり、クリーニングレスで1時間以上記録を行うように制御することが好ましい。このように制御することで、クリーニング工程に伴い記録を中断するなどにより記録速度を低減させることがない。また、本実施形態では、クリーニングレスの場合であっても、上述したインク組成物を用いることにより、インクジェットヘッド2の目詰まりを抑制でき、耐擦性に優れた良好な画像を記録することができる。
【0212】
なお、上述の他の機構としては、吸引(負圧)の付与や、ヘッドの上流から正圧を付与すること、など圧力を付与する機構が挙げられる。これらは、インクジェットヘッド自身の機能によるインク排出(フラッシング)ではない。つまり、記録に際して、インクジェットヘッドからインクを吐出させる機能を用いての排出ではない。
【0213】
また、記録の時間は連続でなくてもよく、インクジェットヘッドに外部から圧力を付与してノズルから水系インク組成物を排出させることをしなければ、休止はしてもよい。ここで、記録の時間とは、走査や走査の合間の時間も含めた記録の時間である。
【0214】
記録の時間は1時間以上が好ましく、1.5時間以上がより好ましく、2時間以上がさらに好ましく、3時間以上が特に好ましい。記録の時間の上限は限るものではないが、好ましくは10時間以下、より好ましくは5時間以下、さらに好ましくは4時間以下である。
【0215】
また、本実施形態に係るインクジェット記録方法は、1回の記録に際して、記録中に上記のクリーニング工程を行わないとすることが、上記の点で好ましい。また、記録を行う前または記録を行った後の少なくとも何れかに、上述のクリーニング工程を行うとしても、上記の点で好ましい。
【0216】
以上示したように、本実施形態に係る水系インク組成物、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置では、水系インク組成物に含まれる界面活性剤Aの含有量が、樹脂エマルジョンの樹脂とワックスの固形分の合計に対し7質量部以下と少なく制御することで、界面活性剤Aが記録物のインク層中に吸水し難くなり、記録物の耐水性や耐擦性が向上し、画質に優れた記録物が得られる水系インク組成物、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することができる。また、上述の本実施形態に係る水系インク組成物と反応液とを備えたインクセットとしても、記録物の耐水性や耐擦性が向上し、画質に優れた記録物が得られる本実施形態として提供することができる。
【0217】
3.実施例
以下、本発明の実施形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0218】
3.1.インク組成物の調製
3.1.1.樹脂エマルジョン(EM)の調製
表1に記載の樹脂エマルジョン1〜4を調製した。
【0220】
・樹脂エマルジョン1
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管および滴下ロートを備えたフラスコ内を十分に窒素ガスで置換した後、界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム、イオン性の界面活性剤A)0.75質量部と、過硫酸カリウム0.04質量部と、メタクリル酸0.2質量部と、純水150質量部とを仕込み、25℃にて攪拌し混合した。これに、アクリル酸ブチル20.8質量部と、メタクリル酸ブチル39質量部と、メタクリル酸メチル90質量部との混合物を滴下してプレエマルジョン1を調製した。これとは別に、機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管および滴下ロートを備えたフラスコ内を十分に窒素ガスで置換した後、界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム)を得られた樹脂100質量部に対し1.2質量部になる量と、過硫酸カリウム0.01質量部と、純水200質量部とを70℃にて攪拌し混合した。その後、上記で調製した前記プレエマルジョン1を3時間かけてフラスコ内に滴下した。70℃でさらに3時間加熱熟成した後冷却し、N,N−ジメチル−2−アミノエタノール0.75質量部を加えた後、#150メッシュ(日本織物製)にて濾過し、500質量部の樹脂エマルジョン1(固形分30質量%、Tg48℃、酸価1mgKOH/g)を得た。
【0221】
・樹脂エマルジョン2
反応容器に滴下装置、温度計、水冷式還流コンデンサー、攪拌機を備え、イオン交換水100部を入れ、攪拌しながら窒素雰囲気70℃で、重合開始剤の過硫酸アンモニウムを0.2部添加しておき、スチレン20部、メチルアクリレート17部、メチルメタクリレート30部およびアクリル酸5部を入れたモノマー溶液を、反応容器に滴下して反応させてシェルポリマーを重合し作製した。その後、過硫酸カリウム0.2部、スチレン50部およびn−ブチルアクリレート22部混合液を滴下して70℃で攪拌しながら重合反応さ
せた後、水酸化ナトリウムで中和しpH8〜8.5に調整して0.3μmのフィルターでろ過することにより樹脂エマルジョン2を得た。
【0222】
・樹脂エマルジョン3
樹脂エマルジョン1において、反応性界面活性剤の量が樹脂100質量部に対して10質量部となるように用いた以外は、上記樹脂エマルジョン1と同様に調製した。
【0223】
・樹脂エマルジョン4
樹脂エマルジョン1において、界面活性剤としてジアルキルサクシネートスルホン酸ナトリウム塩(日本乳化剤株式会社製、商品名:ニューコール 290−M、イオン性の界面活性剤A)を、樹脂100質量部に対して2質量部となるように用いた以外は、上記樹脂エマルジョン1と同様に調製した。
【0224】
なお、上述の各樹脂エマルジョンの調整において、基本は表1とするが、後述の表4に記載する各インク組成物において、樹脂エマルジョンの樹脂の質量部に対するイオン性の界面活性剤Aの質量部が表4の値となるように、必要に応じ、各インク組成物ごとに、用いる樹脂エマルジョンの調製時に、イオン性の界面活性剤Aの添加量を調整した。
【0225】
3.1.2.ワックスエマルジョン(EM)
表2に記載のワックスエマルジョン1〜8を得た。
【0227】
・ワックスエマルジョン1
融点103℃のポリエチレンワックス15質量部と、融点88℃のパラフィンワックス7.5質量部と、酸価が20mgKOH/gで、融点110℃の酸化ポリエチレンワックス7.5質量部とを混合して85〜95℃で加熱溶解し、次いでこれにイソプロパノールアミン3.0質量部を添加し、攪拌しながら、更に85〜95℃の熱水67質量部を徐々に加え、転相乳化を行った。転相乳化終了後、得られた粗乳化物を保温しながらホモミキサー(特殊機化工株式会社 T.K.ホモミクサー)で2,500〜3,500rpmで高速攪拌し、続いてホモジナイザー(APV GAULIN,INC.15MR−STA)で380〜420kg/cm2の高圧下で処理を行った。その後、攪拌を行いながら38℃まで冷却して、平均粒子径が400nm、融点102℃の、界面活性剤を含有しないワックスエマルジョン1を得た。
【0228】
・ワックスエマルジョン2
攪拌機、温度計、温度コントローラーを備えた内容量1.5Lの乳化設備に融点103℃、酸価16mgKOH/gの酸化ポリエチレンワックス300g、イオン交換水650gと界面活性剤(日本乳化剤株式会社製、商品名:ニューコール2310、表2に記載のもの)9g、48%水酸化カリウム水溶液10g、を加え窒素で置換の後、密封し150℃で1時間高速攪拌した後130℃に冷却し高圧ホモジナイザーを400気圧下で通過させ40℃に冷却し、平均粒子径が60nm、融点103℃、ポリエチレン系ワックス100質量部に対し上記界面活性剤を3質量部含有するポリエチレン系ワックスエマルジョンを調製し、ワックスエマルジョン2とした。
【0229】
・ワックスエマルジョン3
ワックスエマルジョン3として、AQUACER513(商品名、BYK Additives & Instruments社製、粒子径150nm、融点135℃、ポリエチレン系ワックス100質量部に対して表2に記載の界面活性剤を8質量部含有する、ポリエチレンワックスエマルジョン)を使用した。
【0230】
・ワックスエマルジョン4
ワックスエマルジョン4として、AQUACER517(商品名、BYK Additives & Instruments社製、粒子径150nm、融点120℃、ポリエチレン系ワックス100質量部に対して表2に記載の界面活性剤を19質量部含有する、ポリエチレンワックスエマルジョン)を使用した。
【0231】
・ワックスエマルジョン5
ワックスエマルジョン5として、AQUACER539(商品名、BYK Additives & Instruments社製、粒子径220nm、融点90℃、パラフィン100質量部に対して表2に記載の界面活性剤を20質量部含有する、パラフィンワックスエマルジョン)を使用した。
【0232】
・ワックスエマルジョン6
ワックスエマルジョン6として、ケミパールW4005(商品名、三井化学株式会社製、粒子径600nm、融点110℃、界面活性剤を含有しない、ポリエチレンワックスエマルジョン)を使用した。
【0233】
・ワックスエマルジョン7
ワックスエマルジョン2において、ワックスとして、融点135℃、酸価20mgKOH/gの酸化ポリエチレンワックスを用い、界面活性剤として、ダイヤノールCDE(第一工業製薬社製、脂肪族酸アミド)を用いた他は、同様にポリエチレン系ワックスエマル
ジョンを調製した。平均粒子径150nm、融点135℃、ポリエチレン系ワックス100質量部に対して界面活性剤Aを8質量%含有する、ポリエチレンワックスエマルジョンを調製し、ワックスエマルジョン8とした。
【0234】
・ワックスエマルジョン8
ワックスエマルジョン2において、ワックスとして、融点135℃、酸価20mgKOH/gの酸化ポリエチレンワックスを用い、界面活性剤として、東邦化学工業株式会社製、商品名:ソルボン T−20)24gを用いた他は、同様にポリエチレン系ワックスエマルジョンを調製した。平均粒子径150nm、融点135℃、ポリエチレン系ワックス100質量部に対して界面活性剤を8質量%含有する、ポリエチレンワックスエマルジョンを調製し、ワックスエマルジョン8とした。
【0235】
なお、上述の各ワックスエマルジョンの調整において、基本は表2とするが、後述の表4に記載する各インク組成物において、ワックスエマルジョンの樹脂の質量部に対するノニオン性の界面活性剤Aの質量部が表4の値となるように、必要に応じ、各インク組成物ごとに、用いるワックスエマルジョンの調整時にノニオン性の界面活性剤Aの添加量を調整した。またはインク組成物の調製時に界面活性剤Aの添加量を調整した。
【0236】
3.1.3.反応液の調製
表3に記載の組成にしたがって、各成分を混合・攪拌した後、10μmのメンブレンフィルターでろ過することにより、反応液1〜7を調製した。なお、表3中の数値は全て質量%を示し、純水は反応液の全質量が100質量%となるように添加した。各反応液について、後述のインクと同様に表面張力を測定した。
【0238】
なお、表3において商品名で記載した物質の詳細は、以下の通りである。
・カチオマスター(登録商標)PD(商品名、四日市合成株式会社製、アミン・エピクロロヒドリン縮合型のポリマー水溶液、カチオン樹脂)
・ダイノール607(商品名、エアープロダクツジャパン社製、アセチレンジオール系界面活性剤)
・BYK348(商品名、BYK Additives & Instruments社製、シリコーン系界面活性剤)
・E1010(商品名「オルフィン E1010」、日信科学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤)
【0239】
3.1.4.インク組成物の調製
表4の配合割合になるように各成分を混合攪拌して、各インクを得た。なお、表4中の数値は全て質量%を示し、純水はインクの全質量が100質量%となるように添加した。
また、顔料分散体、樹脂エマルジョン、ワックスエマルジョンについては、それぞれ顔料、樹脂エマルジョンの樹脂、ワックスの固形分換算した値を示す。各インク組成物に用いた界面活性剤Aは、いずれも質量平均分子量が1万未満であった。
【0241】
なお、表4において商品名で記載した物質の詳細は、以下の通りである。
<顔料分散体>
・キャボット社製、カルボニル基含有自己分散顔料、商品名「Cab−O−Jet300」
<界面活性剤>
・サーフィノール 465(商品名、日信科学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤)
・BYK348(商品名、BYK Additives & Instruments社製、シリコーン系界面活性剤)
・E1010(商品名「オルフィン E1010」、日信科学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤)
・メガファックF114(商品名、DIC株式会社製、パーフルオロブタンスルホン酸塩、アニオン系界面活性剤)
【0242】
3.1.5.インクの評価
得られた各インク組成物について、インクの表面張力を測定すると共に、インク保存安定性試験を行った。
【0243】
<表面張力の測定>
表面張力の測定は、自動表面張力計CBVP−Z(商品名、協和界面科学株式会社製)を用いて、20℃の環境下で白金プレートをインクで濡らしたときの表面張力を確認することにより行った。
【0244】
<インク保存安定性試験>
ガラス瓶にインク組成物を8分目まで入れ、70℃の恒温環境に3日間保持し、保管前後の粘度および粒径変化を観察し、以下の基準で評価した。なお、粘度変化は、室温におけるインク粘度を粘度計(Physica社製 製品名「MCR−300」)を用いて測定し、下記式により粘度の変化を算出して評価した。
[(保管後の粘度−初期粘度)/(初期粘度)]×100(%)
粒径変化は、保管前後のインクに含まれる粒子の粒子径分布における体積平均径(MV)をそれぞれ測定し、下記式により粘度の変化を算出して評価した。
[(保管後のMV−初期MV)/(初期MV)]×100(%)
粒子径分布における体積平均径の測定には、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(日機装株式会社製、形式「ナノトラックUPA−EX150」)を使用した。
(評価基準)
A:粘度変化≦20%、粒径変化≦30%
B:粘度変化≦20%、30%<粒径変化≦50%
C:粘度変化>20%、粒径変化>50%
【0245】
3.2.評価試験
3.2.1.記録試験
インクジェットプリンター(商品名「SC−S50650」、セイコーエプソン株式会社製)改造機を用いた。ヘッドに反応液、インクを充填した。プリンターに記録媒体を搬入し、反応液を1440×1440dpiの解像度、1.0mg/inch
2の付着量でインクジェット塗布した。次に、反応液付着面に、インクを1440×1440dpiの解像度、10.0mg/inch
2の付着量でインクジェット塗布した。インクジェット塗布の際にはプラテンヒーターを作動させて、記録媒体の表面温度が表5〜7に記載の温度となるように調整した。25℃の例はプラテンヒーターをオフにした。記録後、プリンターから記録媒体を排出し、80℃×5分で乾燥させた。なお、記録媒体として、ポリ塩
化ビニルシート(ORAFOL株式会社製、品番ORAJET 3164XG−010(1600nm) 光沢塩ビグレー糊)を用いた。インクジェットヘッドを搭載するキャリッジの走査速度を調整して、走査においてインクジェットヘッドが記録媒体と対向する時間が表中の印字時間となるよう例ごとに調整した。
【0249】
3.2.2.耐擦性の評価
上記記録試験の印字条件にて、20×80mmのベタパターンを作成し、学振型摩擦堅牢度試験機AB−301(商品名、テスター産業社製)を用いて耐擦性の評価を行った。具体的には、画像の記録された記録媒体の表面を、白綿布(JIS L 0803準拠)を取り付けた摩擦子で、荷重300gをかけて30往復擦った。そして、記録媒体の表面における画像(塗膜)のはがれ具合を目視で観察し、以下の基準で耐擦性を評価した。なお、下記基準において、A、Bを使用可能とした。
(評価基準)
A:印字面の剥がれなし
B:印字面の剥がれ面積が5%未満
C:印字面の剥がれ面積が10%未満
D:印字面の剥がれ面積が10%以上
【0250】
3.2.3.耐水性の評価
上記3.2.1.記録試験と同様に印字物を準備し、学振型摩擦堅牢度試験機AB−301(商品名、テスター産業社製)を用いて耐擦性の評価を行った。具体的には、画像の記録された記録媒体の表面を、重量と同等の水を含ませた白綿布(JIS L 0803準拠)で、100g加重にて10往復擦った。そして、記録媒体の表面における画像(塗膜)の剥がれ及び滲み具合を目視で観察し、以下の基準で耐水性を評価した。なお、下記基準において、A、Bを使用可能とした。
(評価基準)
A:印字面のにじみ、剥がれなし
B:印字面のにじみはないが剥がれ面積が5%未満
C:印字面のにじみありまたは剥がれ面積が5%以上
【0251】
3.2.4.画質評価
上記3.2.1.記録試験と同様の条件で10×10mmのベタパターンを作成し、目視にて印刷ムラの有無を確認し、下記評価基準で評価した。
(評価基準)
A:ベタパターン内にインクの濃さが不均一になっている様子(ムラ)が観察されない
B:ベタパターン内に細かなムラが認められる
C:ベタパターン内に大きなムラが認められる
D:べたパターン内で白抜け部分が認められる
【0252】
3.2.5.吐出信頼性の評価
3.2.4.画質評価の記録条件で、2時間連続で記録を行った。記録中は、吸引クリーニングは行わなかった。記録後、360個のノズル中、何個のノズルが不吐出かを確認し、以下の基準で評価した。評価後、吸引クリーニングをおこなったところ不吐出ノズルの吐出が回復した。
(評価基準)
A:不吐出ノズルなし
B:不吐出ノズルの数が1〜10個
C:不吐出ノズルの数が11個以上
【0253】
3.2.6.発色評価
3.2.4.画質評価を行った印字物について光学濃度を測定し、以下の基準で評価した。測定は光学濃度計(グレタグマクベス社製)を用いた。
(評価基準)
A:OD>1.6
B:1.4<OD≦1.6
C:OD≦1.4
【0254】
3.2.7.光沢の評価
3.2.4.で得られた記録物の記録部の60°光沢を、光沢度計(コニカミノルタ社製、GM−268Plus)を用いて測定し、下記評価基準で評価した。
(評価基準)
A:60°光沢が60以上
B:60°光沢が45以上60未満
C:60°光沢が45未満
【0255】
3.3.評価結果
評価試験の結果を表4〜7に示す。
【0256】
表4に示すインク保存安定性試験の結果において、ポリオレフィンワックスと樹脂分散体とを含み界面活性剤Aが樹脂分散体の樹脂とポリオレフィンワックスの100質量部に対し7質量部以下である何れのインク組成物も好ましく調製することができた。そのうち、特に界面活性剤Aを含むインク組成物は、インク保存安定が特に優れていた。また、上記のインク組成物の中でも、イオン性の界面活性剤Aが、界面活性剤Aの1質量部に対し0.2〜0.5質量部であるインク2、3、7、9〜13、20、21は、そうでないインク組成物と比べてインク保存安定性が特に優れていた。
【0257】
表5〜7に示す記録試験において、実施例はいずれも、耐擦性の評価がC以上であり、耐水性の評価がB以上であり、画質評価がC以上であり、耐擦性と耐水性と画質が何れも優れていた。これに対し、比較例はいずれも、耐擦性と耐水性と画質の何れかが劣っていた。
【0258】
詳細には、実施例2、4から、ワックス粒子の平均粒径が大きい方が耐擦性が向上する傾向が見られ、ワックス粒子の平均粒径が小さい方が吐出信頼性や光沢が向上する傾向が見られた。
【0259】
実施例2、3から、ワックスの融点が低い方が、十分にインク塗膜が形成されるためか、耐水性、光沢が特に優れる傾向があった。
【0260】
実施例7、6、9、10から、インクが有機溶剤として2−ピロリドンを含む場合、記録媒体へのインクによる溶解及び浸透により、耐擦性がより向上すると推測する。
【0261】
実施例6などから、インクと反応液の表面張力の差の絶対値が小さい方が、画質評価が特に優れると推測する。
【0262】
実施例7から、さらに他の界面活性剤を含む方が、吐出信頼性と光沢が特に優れる傾向があることがわかった。
【0263】
実施例11、12、13から、界面活性剤Aの含有量が少ないほうが、耐擦性が特に優れ、界面活性剤Aの含有量が多い方が、画質が特に優れる傾向があることがわかった。
【0264】
実施例14、15から、インクに含有される樹脂及びワックス量の含有量が多い方が、耐擦性が特に優れ、該含有量が少ないほど、吐出信頼性が特に優れる傾向があることが分かった。
【0265】
実施例1と実施例17〜20から、反応液が他の凝集剤を含む場合も、優れた耐擦性と耐水性と画質が得られた。また、凝集剤として多価金属塩を含む場合、耐水性がやや低下したが、画質が特に優れていた。
【0266】
実施例2、23〜27の比較から、インク付着時の記録媒体温度が高い方が、耐擦性、耐水性、画質評価が特に優れ、温度が低いほうが吐出信頼性が特に優れた。
【0267】
実施例27から、走査時間が短いほうが、吐出信頼性が特に優れた。
【0268】
比較例4は、インクの界面活性剤Aの含有量が樹脂エマルジョンの樹脂とワックスの合計100質量部に対して7質量部を超えており、耐水性が劣った。
【0269】
比較例2〜5は、インクがポリオレフィンワックスと樹脂分散体の何れかを含まず、耐擦性が劣った。
【0270】
比較例6、7は、反応液を用いず、画質が劣っていた。比較例7は、比較例1と比べて、インク4を用いているにもかかわらず、耐擦性や耐水性は劣らなかった。このことから、反応液を用いて優れた画質を得る場合でも、優れた耐擦性や耐水性が得られる点で、本発明が特に有用であることがわかった。
【0271】
以上により、本発明の範囲に含まれる実施例では、耐水性や耐擦性を備え、画質に優れた記録物が得られた。
【0272】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。