【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0031】
以下では、基板に対し、実施例1〜16に係る表面改質方法と、比較例1〜12に係る表面改質方法を行った。そして、これらの方法で得られた基材に対し、以下の2つの評価試験を行った。
【0032】
<評価試験1:基材の水中接触角の測定>
各実施例・比較例で得られた基材を純水に1時間浸漬し、その後、水中接触角を測定した。接触角は、Kruss社製、DSA25を用いて測定した。
【0033】
<評価試験2:血小板の吸着の観察>
各実施例・比較例で得られた基材に吸着した血小板の数を計測した。まず、血液を遠心分離し、その上澄みをサンプリングすることで血小板溶液を得た。遠心分離は、久保田商事株式会社製 テーブルトップ遠心機 Model 4000を用いて、1600g、10minの条件で行った。そして、得られた血小板溶液100μLを基材上に滴下し、37℃でオーブンに1時間配置した。次に、この基材をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄した後、1%グルタルアルデヒド水溶液に浸漬し、基材表面に吸着した血小板を固定した。その後、基材表面を加速電圧15kV、1000倍でSEM観察を行い、観察視野中の吸着血小板の数をカウントした。そして、観察視野中の血小板吸着数が5個以下であれば、抗血栓性良好、血小板吸着数が6個以上であれば、抗血栓性不良と判定した。
【0034】
以下、実施例1〜16、及び比較例1〜12に係る表面改質方法、及び評価試験の結果を示す。
【0035】
<実施例1>
機能性モノマーとして、東京化成工業株式会社製の2−Methoxyethyl Acrylate(MEA)を溶媒である50vol%エタノール水溶液に溶解させて、10vol%になるように調製した。この溶液をガラス容器に入れ、ゴム栓で蓋をした状態でアルゴンガスを導入して、120分間バブリングを行った。こうして、容器内部の酸素を追い出した。その後、LEDにより、365nmの波長のUV光をガラス容器の溶液に60秒照射を行った。その後、ガラス容器のゴム栓を開け、容器内に空気が導入された状態でポリカーボネート(PC)の基板(10mm×10mm)を溶液に60秒浸漬した。その後、基板を取り出し、50vol%エタノール水溶液に浸漬し、10分間超音波洗浄機にかけた。その作業を3回繰り返した後、基材を取り出し、30℃にて真空乾燥を行った。
【0036】
得られた基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は45.5°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、2個であった。
【0037】
<実施例2>
実施例1において、基材の溶液への浸漬時間を30秒としたほかは、同じである。得られた基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は48.2°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、3個であった。
【0038】
<実施例3>
実施例1において、基材の溶液への浸漬時間を180秒としたほかは、同じである。得られた基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は42.3°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、4個であった。
【0039】
<実施例4>
実施例1において、基材の溶液への浸漬時間を600秒としたほかは、同じである。得られた基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は43.7°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、1個であった。
【0040】
<実施例5>
実施例1において、基板の溶液への浸漬時間を180秒としたほかは、同じである。得られた基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は44.6°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、3個であった。
【0041】
<実施例6>
実施例1において、基板の溶液への浸漬時間を600秒としたほかは、同じである。得られた基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は44.2°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、2個であった。
【0042】
<実施例7>
機能性モノマーとして、東京化成工業株式会社製の2−Methoxyethyl Acrylate(MEA)を溶媒である50vol%エタノール水溶液に溶解させて、10vol%になるように調製した。この溶液とポリカーボネート基板(10mm×10mm)をガラス容器に入れ、ゴム栓で蓋をした状態でアルゴンガスを導入して、120分間バブリングを行い、容器内部の酸素を追い出した。その後、365nmの波長のUV光をガラス容器の溶液中にある基材に60秒照射を行った。続いて、ガラス容器のゴム栓を開け、基板を取り出した後、50vol%エタノール水溶液に浸漬し、10分間超音波洗浄機にかけた。その作業を3回繰り返したのち、基材を取り出し、30℃にて真空乾燥を行った。すなわち、実施例7では、上述した第1工程と第2工程とを同時に行った。
【0043】
得られた基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は49.4°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、3個であった。
【0044】
<実施例8>
実施例7において、UV照射時間を600秒としたほかは、同じである。得られた基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は45.3°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、3個であった。
【0045】
<実施例9>
実施例1において、使用する基板をポリメチルメタクリレート(PMMA)としたほかは、同じである。得られた基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は43.1°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、4個であった。
【0046】
<実施例10>
実施例7において、UV光の照射時間を600秒としたほかは、同じである。得られた基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は42.6°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、2個であった。
【0047】
<実施例11>
実施例7において、基板の溶液への浸漬時間を180秒としたほかは、同じである。
得られた基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は42.8°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、3個であった。
【0048】
<実施例12>
実施例7において、基材の溶液への浸漬時間を600秒としたほかは、同じである。得られた基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は41.5°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、2個であった。
【0049】
<実施例13>
実施例1において、使用する基板をEPDMゴムとした他は、同じである。得られた基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は42.2°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、1個であった。
【0050】
<実施例14>
実施例13において、UV光の照射時間を600秒としたほかは、同じである。得られた基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は42.9°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、2個であった。
【0051】
<実施例15>
実施例13において、基板の溶液への浸漬時間を180秒としたほかは、同じである。得られた基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は43.6°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、2個であった。
【0052】
<実施例16>
実施例13において、基板の溶液への浸漬時間を600秒としたほかは、同じである。得られた基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は42.6°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、1個であった。
【0053】
<比較例1>
ポリカーボネート(PC)基材(10mm×10mm)を特に溶液への浸漬などをせずに、上記評価試験1,2を行った。その結果、評価試験1では、水中接触角が82.2°であった。また、評価試験2では、基材に吸着している血小板数は28個であった。
【0054】
<比較例2>
比較例1において、基材をポリメチルメタクリレート(PMMA)基材としたほかは、同じである。この基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は65.3°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、19個であった。
【0055】
<比較例3>
比較例1において、基材をEPDM加硫ゴムとした他は、同じである。この基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は67.1°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、26個であった。
【0056】
<比較例4>
実施例1において、UV光の照射時間を0秒としたほかは、同じである。すなわち、UV光を照射しなかった。得られた基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接角は81.6°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、30個であった。
【0057】
<比較例5>
比較例4において、基材の溶液への浸漬時間を180秒としたほかは、同じである。この基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は80.7°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、24個であった。
【0058】
<比較例6>
比較例4において、基材の溶液への浸漬時間を600秒としたほかは、同じである。この基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は81.3°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、35個であった。
【0059】
<比較例7>
比較例4において、基材をポリメチルメタクリレート(PMMA)としたほかは、同じである。この基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は66.1°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、22個であった。
【0060】
<比較例8>
比較例7において、基材の溶液への浸漬時間を180秒としたほかは、同じである。この基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は65.8°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、26個であった。
【0061】
<比較例9>
比較例7において、基材の溶液への浸漬時間を600秒としたほかは、同じである。この基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は65.3°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、18個であった。
【0062】
<比較例10>
比較例4において、基材をEPMDゴムとしたほかは、同じである。この基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は66.8°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、24個であった。
【0063】
<比較例11>
比較例10において、基材の溶液への浸漬時間を180秒としたほかは、同じである。この基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は67.6°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、29個であった。
【0064】
<比較例12>
比較例10において、基材の溶液への浸漬時間を600秒としたほかは、同じである。この基材に対し、評価試験1を行ったところ、水中接触角は66.4°であった。また、評価試験2を行ったところ、基材に吸着している血小板数は、25個であった。
【表1】
【0065】
<考察>
上記各実施例で得られる基材では、比較例に比べ、水中接触角が大幅に小さいことが分かった。また、各実施例では、基材に吸着した血小板の数が、比較例に比べ格段に小さいため、生体適合性の機能性ポリマーが適切にコーティングされ、血小板の付着を防止できることが分かった。
【0066】
また、実施例の結果を参酌すると、UV光の照射時間や、溶液への浸漬時間の長短にかかわらず、評価試験の結果はほぼ同じであった。したがって、本発明によれば、UV光の照射時間、あるいは溶液への浸漬時間に関わらず、機能性ポリマーが適切にコーティングされることが分かった。