特許第6958079号(P6958079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6958079
(24)【登録日】2021年10月11日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】物標判定装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/60 20060101AFI20211021BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20211021BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20211021BHJP
【FI】
   G01S13/60 202
   G01S13/931
   G08G1/16 C
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-149054(P2017-149054)
(22)【出願日】2017年8月1日
(65)【公開番号】特開2019-27973(P2019-27973A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年7月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】北浦 宏祐
(72)【発明者】
【氏名】大門 真
【審査官】 渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−270348(JP,A)
【文献】 特開2013−054522(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0293216(US,A1)
【文献】 特開2010−107447(JP,A)
【文献】 特開2005−172590(JP,A)
【文献】 特開2012−089114(JP,A)
【文献】 特開平09−222477(JP,A)
【文献】 特開2001−338398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 − 7/51
13/00 − 13/95
17/00 − 17/95
G08G 1/00 − 99/00
B60R 21/00 − 21/13
21/34 − 21/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される物標判定装置(30)であって、
あらかじめ決められた検出範囲内にレーダ波を照射することにより、前記レーダ波を反射した1つ以上の反射点を反射点群として検出し、検出された当該反射点群のそれぞれについて、前記車両に対する前記反射点の位置を含んだ反射点データを取得するように構成された反射点取得部(S110)と、
前記反射点取得部により取得された前記反射点データに基づき、前記反射点群に含まれる前記反射点をクラスタリングすることにより、1つ以上のクラスタを有するクラスタ群を生成するように構成されたクラスタリング部(S120)と、
前記クラスタリングにより生成された前記クラスタ群に含まれる前記クラスタのそれぞれについて、前記クラスタの空間的な大きさであるクラスタサイズを算出するように構成されたサイズ算出部(S330)と、
前記サイズ算出部により算出された前記クラスタサイズがガードレールの支柱に相当する空間的な大きさである支柱サイズ範囲内にあること、及び前記車両の走行する道路の形状に基づいて設定されるガードレール範囲内に前記クラスタが存在することを、少なくとも抽出条件として含むように設定し、当該抽出条件を満たす前記クラスタを柱候補として抽出するように構成された柱候補抽出部(S240)と、
あらかじめ少なくとも1つのガードレール条件を設定し、前記柱候補が前記ガードレール条件を満たす場合に、前記柱候補として抽出された前記クラスタを、前記ガードレールを表す物標を構成する前記クラスタであると判定するように構成されたガードレール判定部(S130)と、
を備え
前記ガードレール判定部は、
前記ガードレール範囲内に存在する複数の前記柱候補が存在する位置の分布から算出された近似曲線(G)の形状と、円弧又はクロソイド曲線の形状との差があらかじめ決められた範囲内であること、及び、前記ガードレール範囲内に存在する複数の前記柱候補が存在する位置の分布から算出された近似曲線の形状と、前記車両が走行すると推定される軌道である推定軌道の形状との差があらかじめ決められた範囲内であること、のうち少なくとも一方を前記ガードレール条件とする、
物標判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の物標判定装置であって
前記ガードレール範囲は、前記推定軌道に基づいて設定された範囲である、物標判定装置。
【請求項3】
請求項又は請求項に記載の物標判定装置であって、
前記ガードレール範囲は、前記推定軌道から前記車両が走行している車線の中央から道路端までの距離を含むように前記車両の車幅方向に広げた範囲が設定される、物標判定装置。
【請求項4】
請求項又は請求項に記載の物標判定装置であって、
前記ガードレール範囲は、前記車両の走行している道路の中央から道路端までの距離だけ離れた位置を中心として、あらかじめ決められた範囲だけ広げた範囲が設定される、物標判定装置。
【請求項5】
請求項から請求項までのいずれか1項に記載の物標判定装置であって、
前記推定軌道は、
前記車両に搭載された前記車両の挙動及び前記車両の挙動に影響を与える運転操作に関する情報の少なくとも一方を含む運転情報を取得する運転情報センサ(20)により検出された旋回角速度及びステアリングホイールの操舵角の少なくとも一方及び車速に基づいて推定される、物標判定装置。
【請求項6】
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の物標判定装置であって、
前記反射点取得部は、取得サイクルごとに前記反射点データを取得するように構成され、
前記反射点データを保存するように構成された保存部(S140)を更に備え、
前記クラスタリング部は、
今回の取得サイクルで取得された前記クラスタ群の前記反射点データ及び前記保存部に保存された前回以前のあらかじめ設定された回数の取得サイクルで取得された前記クラスタ群の前記反射点データに基づいて前記クラスタリングを行うように構成された、物標判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物標判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物標の検出に用いられるレーダ装置は、自車周辺の所定角度範囲に渡り、一定期間ごとにレーザー波やミリ波などのレーダ波を送信波として照射し、送信波に対する反射波を受信することによって車両が走行する道路上に存在する自車の走行の障害となる静止障害物を検出する。
【0003】
この種のシステムにおいて、検出された物標がガードレールであるか道路上に存在する静止障害物であるかを区別して認識する必要がある。例えば、自車が走行している道路の道路形状がカーブしている場合、カーブしている形状に沿って自車の前方に存在するガードレールを静止障害物として検出すると、道路上に静止障害物が存在するとして誤った検出結果に応じた動作が行われる。
【0004】
これに対して、例えば、特許文献1には、ガードレールを構成する横板を検出することによりガードレールを認識するという技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−222477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、レーダ装置により照射されるレーダ波のビーム方向と平行に存在する場合など、ガードレールの横板と車両の位置関係によっては、車両の存在する方向への反射が極めて少ない場合がある。このような場合車両が反射波を受信できず、その結果車両がガードレールを認識できない可能性がある。
【0007】
本開示は、ガードレールの検出精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、車両に搭載される物標判定装置であって、反射点取得部(S110)と、クラスタリング部(S120)と、サイズ算出部(S330)と、柱候補抽出部(S240)と、ガードレール判定部(S130)と、を備える。反射点取得部は、あらかじめ決められた検出範囲内にレーダ波を照射することにより、レーダ波を反射した1つ以上の反射点を反射点群として検出し、検出された当該反射点群のそれぞれについて、車両に対する反射点の位置を含んだ反射点データを取得する。クラスタリング部は、反射点取得部により取得された反射点データに基づき、反射点群に含まれる反射点をクラスタリングすることにより、1つ以上のクラスタを有するクラスタ群を生成する。サイズ算出部は、クラスタリングにより生成されたクラスタ群に含まれるクラスタのそれぞれについて、クラスタの空間的な大きさであるクラスタサイズを算出する。柱候補抽出部は、あらかじめ少なくとも1つの抽出条件を設定し、サイズ算出部により算出されたクラスタサイズがガードレールの支柱に相当する空間的な大きさである支柱サイズ範囲内にあることを、抽出条件として含むように設定し、当該抽出条件を満たすクラスタを柱候補として抽出する。ガードレール判定部は、あらかじめ少なくとも1つのガードレール条件を設定し、柱候補がガードレール条件を満たす場合に、柱候補として抽出されたクラスタを、ガードレールを表す物標を構成するクラスタであると判定する。
【0009】
このような構成によれば、ガードレールの検出精度を向上させることができる。
すなわち、ガードレールの支柱の形状は円柱状であるため、ガードレールの横板で反射したレーダ波の反射方向と異なり、円柱状の支柱の側面で反射したレーダ波の反射方向は一方向ではないため、車両に到達しやすい。車両に到達したレーダ波からガードレールの位置を推定するため、ガードレールの検出精度を向上させることができる。
【0010】
なお、この欄及び特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】物標判定システムの構成を示すブロック図である。
図2】物標判定処理を表したフローチャートである。
図3】ガードレール判定処理を表したフローチャートである。
図4】柱候補抽出処理を表したフローチャートである。
図5】自車が走行する道路を表した鳥瞰図である。
図6】反射点群を表した図である。
図7】クラスタ群を表した図である。
図8】推定軌道及びガードレール範囲を表した図である。
図9】柱候補を表した図である。
図10】柱候補の分布を表した近似曲線及び推定軌道を表した図である。
図11】変形例におけるガードレール範囲を表した図である。
図12】変形例におけるガードレール範囲を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
[1.構成]
図1に示すように、車両に搭載された物標判定システム1は、レーダセンサ10、運転情報センサ20、物標判定装置30及び処理装置40を備える。
【0013】
レーダセンサ10は、あらかじめ決められた検出範囲内にレーダ波を照射し、その反射波を受信することで、レーダ波を反射した点である反射点を検出する周知のセンサである。なお、レーダセンサ10は、例えばビーム方向が自車の正面方向と一致するように自車に設置される。ここでいうビーム方向とは、レーダセンサ10がレーダ波を照射する範囲である検出範囲の中央方向をいう。また、反射点データには、自車の正面方向に対する方位及び自車に対する距離が少なくとも含まれているものとする。自車に対する方位とは、ビーム方向を基準として求められた反射点が存在する水平方向の角度をいう。つまり、反射点データには、自車に対する反射点の位置を示す位置データが含まれる。
【0014】
また、反射点データは、例えば高速フーリエ変換処理などの周知の信号処理を受信した反射波に対して行うことにより生成される。またここでいうレーダ波は、ミリ波帯の電磁波を使用するいわゆるミリ波レーダであってもよいし、レーダ波としてレーザー光を用いるレーザレーダ、レーダ波として音波を用いるソナーであってもよい。いずれにしても、レーダ波を送受信するアンテナ部は、水平面に対する反射波の到来方向を検出できるように構成されている。なおアンテナ部は、例えば送信素子及び受信素子により構成されるアレイアンテナであってもよい。
【0015】
運転情報センサ20は、自車の挙動や自車の挙動に影響を与える運転操作等に関する情報である運転情報を検出するためのセンサである。運転情報センサ20の検出対象は、例えば、アクセルペダルやブレーキペダルの操作量、ステアリングホイールの操舵角、車両速度、車両加速度、旋回角速度であるヨーレート、タイヤの回転数等がある。すなわち、運転情報センサ20には、車速センサ、ヨーレートセンサや操舵角センサなど各種センサが含まれる。
【0016】
処理装置40は、物標判定装置30により出力される結果に応じて、自車が衝突するおそれのある静止障害物が存在する旨の報知を行う等のあらかじめ決められた処理を行う装置である。
【0017】
物標判定装置30は、CPU31と、RAM、ROM、フラッシュメモリ等の半導体メモリ(以下、メモリ32)と、を有する周知のマイクロコンピュータを中心に構成される。物標判定装置30の各種機能は、CPU31が非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。この例では、メモリ32が、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムが実行されることで、プログラムに対応する方法が実行される。なお、物標判定装置30を構成するマイクロコンピュータの数は1つでも複数でもよい。
【0018】
物標判定装置30は、CPU31がプログラムを実行することで実現されるが、この手法はソフトウェアに限るものではなく、その一部又は全部の要素について、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現してもよい。例えば、上記機能がハードウェアである電子回路によって実現される場合、その電子回路は多数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路、あるいはこれらの組合せによって実現してもよい。
【0019】
[2.処理]
<物標判定処理>
次に、物標判定装置30が実行する物標判定処理について、図2のフローチャートを用いて説明する。なお、物標判定処理は、例えば自車のイグニッションがオンである間、周期的に行われる。
【0020】
S110で、物標判定装置30は、取得サイクルごとに反射点群に含まれる反射点の反射点データを取得する処理である反射点取得処理を行う。ここでいう反射点群とは、レーダセンサ10から取得される反射点をいう。また、取得サイクルとは、反射点を取得するあらかじめ設定された任意の周期をいう。
【0021】
S120で、物標判定装置30は、反射点データが表す反射点の位置に基づいて反射点群を分割することにより、1つ以上の反射点を有するクラスタを生成する処理であるクラスタリング処理を行う。ここで、クラスタリング処理に用いられる反射点データは、今回の物標判定処理においてS110で取得された反射点データ(以下、現データ)が用いられる。ただし、クラスタリング処理において用いられる反射点データは、現データに加えて、前回以前のあらかじめ設定された回数の物標判定処理において後述するS140で保存された反射点データ(以下、過去データ)を用いてもよい。なお、過去データを用いる場合、過去データが表す反射点の位置は、過去データが取得された時点から現データから取得されるまでの自車の動きに基づいて補正されたデータでもよい。また、前回以前のあらかじめ設定された回数とは、例えば、5回としてもよい。
【0022】
ここで、過去データの補正は、過去データが取得された時点から現データが取得された時点まで自車の移動量だけ、過去データが表す反射点の位置を移動させることにより行われる。自車の移動量は、例えば運転情報センサ20で取得された運転情報に基づいての自車の移動量を算出されてもよい。
【0023】
クラスタリングの具体的な手法としては、例えば最短距離法、群平均法、ウォード法又は最長距離法を用いる。ここで、最短距離法を用いる場合、例えば、ある反射点からの距離が最も近く、かつ2m以内の範囲にある他の反射点を同一のクラスタとしてクラスタリングを行われてもよい。なお、反射点群に対してクラスタリング処理をした結果得られる1つ以上のクラスタを、以下ではクラスタ群という。
【0024】
S130で、物標判定装置30は、ガードレール判定処理を行う。ここでいうガードレール処理は、S120で生成されたクラスタがガードレール条件を満たすか否かを判定することにより、クラスタ群に含まれるクラスタがガードレール物標を表すものであるか、非ガードレール物標を表すものであるかを判定する処理をいう。ここでいうガードレール物標とはガードレールを表す物標をいい、非ガードレール物標とは、ガードレール物標以外の物標をいう。ガードレール判定処理の詳細については後述する。
【0025】
S140で、物標判定装置30は、S110で取得された反射点データを取得サイクルごとにメモリ32に保存する処理であるデータ保存処理を行う。
なお、S110での処理が反射点取得部に相当し、S120での処理がクラスタリング部に相当し、S130での処理がガードレール判定部に相当し、S140での処理が保存部に相当する。
<ガードレール判定処理>
物標判定装置30はS130において、実行するガードレール判定処理の詳細について図3を用いて説明する。
【0026】
S210で、物標判定装置30は、S120で生成されたクラスタ群を取得する。
S220で、物標判定装置30は、S210で取得したクラスタ群を構成するクラスタの数が個数条件を満たすか否かを判定する。ここで個数条件とは、後述するS250においてガードレールを表す近似曲線を導出するために必要な数のクラスタがクラスタ群に存在するかを規定した条件である。ここで、ガードレールを構成するために必要な数は例えば2つ以上とする。
【0027】
物標判定装置30は、クラスタ群が個数条件を満たさないと判定した場合、処理をS230に処理を移行する。
S230で、物標判定装置30は、クラスタ群に含まれるクラスタが非ガードレール物標を表すものであると判定し、判定結果を出力する。すなわち、クラスタ群に含まれるクラスタにはガードレール物標が含まれず、すべてのクラスタが非ガードレール物標を表すものであるとの判定結果を処理装置40に出力し、ガードレール判定処理を終了する。
【0028】
一方、物標判定装置30は、クラスタ群が個数条件を満たすと判定した場合、処理をS240に処理を移行する。
S240で、物標判定装置30は、クラスタ群に含まれるクラスタのうち、ガードレールの支柱であると推定されるクラスタを柱候補として抽出する処理である柱候補抽出処理を行う。柱候補抽出処理の詳細については後述する。
【0029】
S250で、物標判定装置30は、S240で抽出された柱候補の分布を表す近似曲線を導出する。ここで、近似曲線の導出は、柱候補の分布に対して円弧形状又はクロソイド曲線形状をフィッティングさせることにより行ってもよい。また、フィッティングは、例えば最小二乗法やレーベンバーグマーカート法など周知のフィッティング方法により行われてもよい。この際、例えばフィッティングに用いた円弧形状やクロソイド曲線形状と各柱候補の位置との誤差を算出し、算出した誤差がもっとも小さくなるものを近似曲線として導出してもよい。
【0030】
S260で、物標判定装置30は、S250で導出された近似曲線がカーブ条件に適合するものか否か判定する。ここでいうカーブ条件とは、自車が走行し得る道路形状と合致するか否かを判定するための条件をいう。ここで自車が走行し得る道路形状とは、一般的な公道の形状である。すなわち、自車が走行しうる道路形状とは、円弧形状又はクロソイド曲線であって、その曲率が法律等で定められた範囲の大きさである形状である。また、カーブ条件は例えばS250でフィッティングを行った際に、算出した誤差があらかじめ決められた範囲内であることとしてもよい。
【0031】
S260で、物標判定装置30により、S250で導出された近似曲線がカーブ条件に適合しないと判定された場合、S230に処理を移行する。
一方、S260で、物標判定装置30により、S250で導出された近似曲線がカーブ条件に適合すると判定された場合、S270に処理を移行する。
【0032】
S270で、物標判定装置30は、S210で得られたクラスタ群に含まれるクラスタのうち、S240で柱候補として抽出されたクラスタがガードレール物標を表すものとして、それ以外のクラスタが非ガードレール物標を表すものとして反射点データを処理装置40に出力し、ガードレール判定処理を終了する。
【0033】
なお、S240での処理が柱候補抽出部に相当する。
<柱候補抽出処理>
物標判定装置30はS240において、実行する柱候補抽出処理の詳細について図4を用いて説明する。
【0034】
S310で、物標判定装置30は、自車の推定軌道を推定する軌道推定処理を行う。推定軌道とは、走行すると推定される軌道を表した仮想の曲線である。推定軌道は、例えば、運転情報センサ20から取得した車速、ヨーレート及びステアリングホイールの操舵角度などの運転情報に基づいて推定される。
【0035】
S320で、物標判定装置30は、ガードレール範囲の設定を行う。
ここで、ガードレール範囲は、例えばS310で推定された推定軌道から車幅方向に、車線の中央から端までに相当する距離だけ広げた範囲をいう。
【0036】
S330で、物標判定装置30は、クラスタ群に含まれるクラスタのそれぞれについて、そのクラスタの空間的な大きさであるクラスタサイズを算出する処理であるサイズ算出処理を行う。ここでクラスタサイズは、例えばクラスタそれぞれにおいて、当該クラスタにおける反射点の分布の中心を表す重心位置から当該クラスタに含まれる反射点のうち最も遠い反射点までの距離としてもよい。
【0037】
S340で、物標判定装置30は、クラスタ群に含まれるクラスタのうち1つのクラスタを選択クラスタとして選択する。なお、ここで選択される選択クラスタは、後述するS350〜S380の処理を行っていない未選択クラスタの中から選択される。
【0038】
S350で、物標判定装置30は、選択クラスタのクラスタサイズが、サイズ条件を満たすか否かを判定する。ここでいうサイズ条件とは、クラスタサイズがあらかじめ設定された支柱サイズ範囲内であることをいう。支柱サイズ範囲とは、支柱サイズに基づいて設定される範囲である。支柱サイズは、ガードレールの支柱の空間的な大きさを表し、具体的には、一般的なガードレールの支柱の外径に相当する大きさをいう。
【0039】
S350で、サイズ条件を満たさないと判定された選択クラスタは、S360で非柱候補に設定され、物標判定装置30はS390に処理を移行する。
一方、S350で、サイズ条件を満たすと判定された選択クラスタは、S370で、範囲条件を満たすか否かを判定される。ここで、範囲条件とは、選択クラスタの位置がS320で設定されたガードレール範囲内に含まれることである。
【0040】
S370で、範囲条件を満たさないと判定された選択クラスタは、S360で非柱候補に設定され、物標判定装置30はS390に処理を移行する。
S370で、範囲条件を満たすと判定された選択クラスタは、S380で柱候補に設定され、物標判定装置30はS390に処理を移行する。
【0041】
S390で、物標判定装置30は、クラスタ群に、未選択クラスタが存在するか否かを判定する。
クラスタ群に未選択クラスタが存在する場合、S340に戻り、以降の処理を行う。
【0042】
クラスタ群に未選択クラスタが存在しない場合、柱候補抽出処理を終了する。
すなわち、柱候補抽出処理により、クラスタ群に含まれる複数のクラスタのうち、サイズ条件及び範囲条件を満たすクラスタを柱候補として抽出する。
【0043】
なお、S310での処理が軌道推定部に相当し、S330での処理がサイズ算出部に相当する。
つまり、クラスタ群に含まれるクラスタの個数が個数条件を満たし、それぞれのクラスタが、サイズ条件及び範囲条件を満たし、かつ、クラスタの位置の分布がカーブ条件を満たす場合に、ガードレール物標として出力する。
【0044】
<各処理の結果の例>
各処理の結果の例として、ガードレールの支柱Pと他車Qとその他の物標Tが存在する場合における各処理の結果を示す。
【0045】
ここで、例として図5に示すようなカーブ路において、自車の前方左側にガードレールの支柱Pおよびその他の物標Tがそれぞれ複数存在し、自車の前方右側に車道中央線Lを挟んで対向車である他車Qが存在する場合を考える。
【0046】
図5に示した状況に対して、S110の反射点取得処理が行われることにより図6に示すような反射点群が得られる。図6に示す反射点群には、ガードレールの支柱P、他車Q及びその他の物標Tそれぞれの位置に対応して検出された複数の反射点が含まれる。なお、図6に示す反射点群に、更にS140で保存された過去データを含めて使用してもよい。
【0047】
図6に示すような反射点群に対して、S120でクラスタリング処理が行われることにより、図7に示すようなクラスタを含むクラスタ群が得られる。ここでクラスタ群には、ガードレールの支柱Pを表した支柱クラスタCpと、他車Qを表した他車クラスタCqと、その他の物標Tを表した他物標クラスタCtとが含まれる。なお、各クラスタの位置及び大きさは、各物標の位置及び大きさにそれぞれ対応する。
【0048】
S310で軌道推定処理が行われると、図8に示すように自車が走行すると推定される軌道を表した推定軌道Eが自車の進行方向に設定される。さらにS320でガードレール範囲の設定が行われると、図8に示すようにガードレール範囲Z1が推定軌道から車幅方向に車線の中央から端までに相当する距離だけ広げた範囲が設定される。
【0049】
ここで、図8のクラスタ群に含まれるクラスタごとに、柱候補抽出処理のS340からS390までの処理が行われると、図9に示すように、支柱クラスタCpに対応した柱候補Spが抽出される。すなわち、例えば他車クラスタCqは、そのクラスタサイズがS350でサイズ条件を満たさないことにより、柱候補として抽出されない。また、他物標クラスタCtは、そのクラスタの位置がS370で範囲条件を満たさないことにより、柱候補として抽出されない。
【0050】
さらに、図10に示すように、抽出された柱候補Spの分布を表した近似曲線GがS250で導出される。
導出された近似曲線Gの形状がS260でカーブ条件に適合すると判定された場合、柱候補Spを表したクラスタがガードレール物標として、その他の柱候補として抽出されなかったクラスタが非ガードレール物標として、S270で出力される。
【0051】
一方、S260で近似曲線の形状がカーブ条件に適合しないと判定された場合、検出されたクラスタは、全て非ガードレール物標を表すものであるとしてS230で処理装置40に出力される。
【0052】
[3.効果]
以上詳述した第1実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)上記実施形態によれば、ガードレールの支柱を検出し、検出された支柱を元にガードレールであるか否かを判定しているため、ガードレールを検出する検出精度を向上させることができる。すなわち、ガードレールの支柱の形状は円柱状であるため、ガードレールの横板で反射したレーダ波の反射方向と異なり、円柱状の支柱の側面で反射したレーダ波の反射方向は一方向ではないため、車両に到達しやすい。車両に到達したレーダ波からガードレールの位置を推定するため、ガードレールの検出精度を向上させることができる。
【0053】
その結果、静止障害物の検出精度についても向上させることができる。すなわち、レーダ装置により検出された物標のうち、ガードレール物標の検出精度が向上することに伴い、車両が走行する道路上に存在する非ガードレール物標を静止障害物としてより正確に抽出することができる。
【0054】
[4.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0055】
(1)上記実施形態では、ガードレール範囲は推定軌道から車幅方向に車線の中央から端までに相当する距離だけ広げた範囲であるが、ガードレール範囲は推定軌道を中心に広げたものに限定されるものではない。例えば、ガードレール範囲は、図11に示すように自車の走行する車道の中央に存在する車道中央線Lを中心とした範囲Z2が設定されてもよい。このような場合、自車の走行する道路の車道中央線Lの位置は、例えば、推定軌道が中央線で区切られた車線の中央を通っているものと仮定して、推定軌道から車幅方向に車線の幅の半分だけ平行移動した位置に存在するものとして設定されてもよい。
【0056】
また、中央線を中心としたものに限定されず、中央線から自車の走行する道路側のみに自車の走行する道路の中央から道路端までの距離だけ広げるものであってもよい。
(2)また、ガードレール範囲は、例えば、図12に示すように推定軌道Eから車幅方向に車線の横幅の距離だけ離れた位置に対して、車幅方向にあらかじめ決められた距離だけ広げた範囲Z3が設定されてもよい。
【0057】
(3)上記実施形態におけるガードレール判定処理では、フィッティングに円弧形状又はクロソイド曲線の形状を用いるが、推定軌道の形状を用いてもよい。
(4)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0058】
(5)上述した物標判定装置30の他、当該物標判定装置30を構成要素とするシステム、当該物標判定装置30としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、物標判定方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0059】
1…物標判定システム、10…レーダセンサ、20…運転情報センサ、30…物標判定装置、31…CPU、32…メモリ、40…処理装置、Cp…支柱クラスタ、Cq…他車クラスタ、Ct…他物標クラスタ、E…推定軌道、G…近似曲線、L…車道中央線、P…支柱、Q…他車、Sp…柱候補、T…その他の物標、Z1,Z2,Z3…ガードレール範囲。
図1
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図12