特許第6959002号(P6959002)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6959002衛生、医薬、及び化粧製品製剤の産業発展のために適用可能な、タンパク質の保存及び安定化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6959002
(24)【登録日】2021年10月11日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】衛生、医薬、及び化粧製品製剤の産業発展のために適用可能な、タンパク質の保存及び安定化方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/18 20060101AFI20211021BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20211021BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20211021BHJP
   A61K 47/10 20060101ALN20211021BHJP
   A61K 47/14 20060101ALN20211021BHJP
   A61K 47/18 20060101ALN20211021BHJP
   A61K 47/22 20060101ALN20211021BHJP
   A61K 47/34 20170101ALN20211021BHJP
【FI】
   A61K38/18
   A61K8/64
   A61K47/44
   !A61K47/10
   !A61K47/14
   !A61K47/18
   !A61K47/22
   !A61K47/34
【請求項の数】1
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2016-544774(P2016-544774)
(86)(22)【出願日】2014年9月23日
(65)【公表番号】特表2017-501206(P2017-501206A)
(43)【公表日】2017年1月12日
(86)【国際出願番号】ES2014000151
(87)【国際公開番号】WO2015011308
(87)【国際公開日】20150129
【審査請求日】2017年9月8日
【審判番号】不服2020-640(P2020-640/J1)
【審判請求日】2020年1月17日
(31)【優先権主張番号】P201331394
(32)【優先日】2013年9月25日
(33)【優先権主張国】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】515262188
【氏名又は名称】サニ−レッド,エス.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】マヤヨ ファロ,テオドロ
【合議体】
【審判長】 井上 典之
【審判官】 齋藤 恵
【審判官】 大久保 元浩
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K38/00,47/00,9/00
CAplus(STN)
MEDLINE(STN)
BIOSIS(STN)
EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛生、医薬、及び化粧製品製剤の産業発展のために適用可能な、タンパク質の保存及び安定化方法であり、前記タンパク質は細胞成長因子であり
親水性の残基を有し、タンパク質との相互作用を保証し、さらにタンパク質の天然状態の形質を維持する油性成分により構成された無水媒体へのタンパク質の組込みが行われる、通常の圧力及び温度条件下での分散工程を含む方法であって、
前記油性成分は、グレープシードオイル、ブチルヒドロキシトルエン、及びカプリル/カプリントリグリセリド;ジオレイン酸PEG−18ヒマシ油;プロピレングリコール;テトラ(ジ−t−ブチルヒドロキシヒドロケイヒ酸)ペンタエリスリチル;トコフェロール及びトリイソプロパノールアミンを含む、タンパク質の保存及び安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本明細書のタイトルで示したように、衛生、医薬、及び化粧製品製剤の産業発展のために適用可能な、タンパク質の保存及び安定化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、タンパク質の安定化は化学、医薬及び化粧分野において大きな関心を呼んでいる。タンパク質は、例えば、糖尿病、がん、血友病、心筋梗塞のような病気の数々の治療の活性物質として利用されている。(非特許文献3)。なお、成長因子(例えば、EGF)としてのタンパク質の構造の利用は、近年、化粧産業において大きな関心を呼んでいる。よって、タンパク質が適切に安定化されないと、タンパク質はその天然構造を失い、それにより生物学的活動を失うことがある(非特許文献3)。
【0003】
タンパク質は物理的、化学的及び酵素的な劣化現象を起こしやすいため、その安定化は特に難しいという問題がある。化学的劣化は脱アミノ化、酸化、還元、加水分解及びジスルフィド架橋による結合の相互作用のような化学相互作用のプロセスと関係がある。物理的劣化は、表面吸着、凝集、解離、変性及び光分解のプロセスを含む。さらに、(タンパク質構造の形質転換の熱力学及び動力学に関係のある)温度、(正又は負の電荷のタンパク質残基との相互作用に関係のある)pH、(塩及び荷電基と相互作用するためのその濃度に関係のある)イオン力、及び(構造熱力学的な安定に関係のある)張力活性材のように、分散媒の特性に関係するタンパク質の凝集に影響を与える因子がある(非特許文献2)。
【0004】
タンパク質をより長時間その天然形質のままとすることが可能な技術的プロセスが存在する。このプロセスは、(−10度未満での)凍結や、(タンパク質の水溶液中に存在する水分を排除するための)フリーズドライといった物理的プロセスによって行われる。しかし、このような方法によって得られた生成物でさえ劣化する;あるいは、共溶媒を追加することにより化学的プロセスを行ってもよい(非特許文献1)。
【0005】
EGFは単離され成長因子としての特徴を有する最初のポリペプチドであった。EGFは、ケラチノサイト及び線維芽細胞の増殖(ひいてはコラーゲンの生成)を助長することが可能な、その天然構造と関係する生物活性を示し、血管形成(新規血管の形成)を誘発し、該当部位の後の血管新生を実現させる。これらの特性により、かなりの厚みの新規の皮膚の発現を有利にし、その弾性及び強度を取り戻し、細胞の酸化という好ましくない影響を削減し、それにより皺を排除する(非特許文献5)。上述の成長因子は、最近では局所製剤に利用されるようになり、組織再生、熱傷の治癒の促進、ケロイド、ざ瘡及び線状皮膚萎縮症の治療に関して非常に優れた結果が得られている。さらに、外科治療の結果をも向上させ、ポストピーリング適用とともに皮膚移植の硬結を有利にする。但し、上述のタンパク質は医薬及び化粧産業においてますます利用されているにも関わらず、高コストであり、さらに安定化が難しいことから、大規模な利用には至っていない(非特許文献4)。
【0006】
線維芽細胞の成長因子(bFGF、線維芽細胞増殖因子)は、有糸分裂活動率及びDNAの合成を高め、体の基礎である繊維組織を形成する軟骨芽細胞、コラーゲン芽細胞、骨芽細胞等の様々な前駆細胞の増殖を助長するよう作用する。bFGFは、傷の治癒、造血、血管形成、又は胚の成長に貢献する。このため、多岐にわたる役割を果たす:肺の成熟、及び内胚葉細胞に基づく肝細胞の分化において、a)治癒中に、損傷した組織の再上皮化に貢献する;b)血管形成の誘導活動を担う;c)血球タイプの分化プロセスに介入する;d)骨格及び心臓の筋肉の分化に関与する。
【0007】
本発明は、衛生、医薬及び化粧製品製剤の産業発展のために適用可能な、タンパク質の保存及び安定化の新規方法の発展を目的とし、この方法は、従来の方法とは異なり、油相にて行われるとともに、より単純で経済的な方法を実現している。なお、少なくとも本申請者は、ここに提案するような技術的特徴を有する同様のタンパク質の保存及び安定化方法又は発明を開示した文書や発明の存在を知らない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chang LL, Pikal MJ. Mechanisms of Protein Stabilization in the Solid State.J.Pharm.Sci.98; 2009: 2886−2908.
【非特許文献2】Chi EY, Krishnan S, Randolph TW, Carpenter JF. Physical stability of proteins in aqueous solution: mechanism and driving forces in nonnative protein aggregation. Pharm Res.2003; 20:1325−36.
【非特許文献3】Krishnamurthy R, Manning MC. The stability factor: importance in formulation development. Curr Pharm Biotechnol.2002; 3: 361−71.
【非特許文献4】Schouest JM, Lun TK, Moy RL. Improved texture and appearance of barley produced, synthetic, human−like epidermal growth factor (EGF) serum. J. Drugs Dermatol.2012;11(5): 613−620.
【非特許文献5】Tang Z, Zhang Z, Zheng, et al. Cell aging of human diploid fibroblasts is associated with changes in responsiveness to epidermal growth factor and changes in HER−2 expression. Mechanisms of Ageing and Development 1994; 73 (1): 57−67
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、通常の圧力及び温度条件下における、油相でのタンパク質の保存、安定化及び貯蔵手段として、分散システム形成を含む方法の提供を目的とする。特に、本発明が提案する方法は、上皮成長因子(Epidermal Growth Factor(EGF))及び線維芽細胞増殖因子(Fibroblast Growth Factor(bFGF))(これらに限らない)を含む細胞成長因子のようなタンパク質を、上述した油相を構成する、グレープシードオイル、本明細書で詳しく後述する様々な複合物から成る複合基材、及びブチルヒドロキシトルエン(BHT)のような成分から成る媒体中に組込むことに基づく。具体的に、ここに提案する方法によると、油相成分のいくつかの化学基が、タンパク質の天然分子構造の維持をより長時間にわたって強化するタンパク質残基との一定の物理化学的な相互作用を促進するとともに、単純で経済的、かつ一般的に適用可能な方法を実現している。さらに、この方法は、タンパク質の保存に従来使われてきた複雑な保存技術及び/又は水系媒体に代替する可能性を有する。
【0010】
本発明は、化学産業分野に適用され、特に医薬及び化粧製品、特に成長因子を保存する必要のある製品の製造に特化した産業分野に適用される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
分散媒を油相とするタンパク質の分散媒が開発されている。EFG、bFGF、その他の細胞成長因子及び/又はタンパク質は、実際には、その分散媒の多くが水系媒体で、乳剤のような分散システムの利用、又はフリーズドライのようにタンパク質の天然構造の長期維持は保証しない高価で非常に特化した方法により短期間の安定化を実現させているため、上述したように、安定化が難しい高分子である。
【0012】
本発明によると、EFG、その他の細胞成長因子及び/又はタンパク質は、特化した産業プロセスで用いられるよう、中間体としての油系媒体にて成長し、現存する方法に対してタンパク質の安定化を促進させ、この方法によりタンパク質が変性しないため、より効率的な働きが実現している。
【0013】
より具体的に、本発明の方法によると、製剤中、成長因子は、タンパク質残基と相互作用する添加物として作用する他の成分によって構成される無水媒体に囲まれた状態となる。他の成分とは以下の通りである:天然状態での形質を維持しつつ、タンパク質残基との静電的相互作用を削減する媒体を生成する、グレープシードオイル; カプリル/カプリントリグリセリド;ジオレイン酸PEG−18ヒマシ油;プロピレングリコール;テトラ(ジ−t−ブチルヒドロキシヒドロケイヒ酸)ペンタエリスリチル;トコフェロール、タンパク質領域との分子間力による相互作用を有利にし、構造を熱力学的により安定化させるトリイソプロパノールアミンから成る基;及びブチルヒドロキシトルエン(BHT)、これは抗酸化材として作用し、タンパク質の酸化による化学的劣化現象を大きく回避させる。
【0014】
なお、タンパク質の油相成分への介在プロセスは適切な品質にて行われる。このプロセスは、生成物の無菌状態を確保するための微生物制御のような環境品質制御を保証する、層流条件下の清潔な室内において行われることが好ましい。
【0015】
要するに、簡潔には、本発明は、親水性の残基を有し、タンパク質との相互作用を保証し、さらにタンパク質の天然状態での形質を維持する油性物質の適用により、環境及び微生物品質を維持した無水(つまり、水分のない状態)の分散工程を含む、タンパク質の保存、貯蔵及び安定化の方法の発展を提案するとともに、装置の利用、複雑な手段、及び資格を有する人材を必要とする他の方法に対して、経済的で再生可能、かつ単純な方法を実現している。
【0016】
実施形態とともに本発明の本質について十分に説明した。当業者がその範囲及び利点を理解し、その本質を逸脱することなく、一例としてのタイトルに記述されたものとは詳細が異なるその他の形態での実施を可能とするためのより広範囲な説明は必要としないと認識する。さらに、本発明の基本原理に代替、変更又は修正がない限り、その他の形態についても同様に保護対象とする。