(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6959054
(24)【登録日】2021年10月11日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】開孔金属箔
(51)【国際特許分類】
H01M 4/74 20060101AFI20211021BHJP
H01M 4/64 20060101ALI20211021BHJP
H01G 11/70 20130101ALN20211021BHJP
【FI】
H01M4/74 C
H01M4/64 A
!H01G11/70
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-138768(P2017-138768)
(22)【出願日】2017年7月18日
(65)【公開番号】特開2019-21495(P2019-21495A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2020年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000239426
【氏名又は名称】福田金属箔粉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國重 修平
(72)【発明者】
【氏名】河原 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】高木 明
【審査官】
増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−317723(JP,A)
【文献】
特開2013−058354(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/158245(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/052122(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/74
H01M 4/64
H01G 11/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の開孔が設けられた金属箔(当該開孔の周囲のバリの高さが0.1mm以上のものを除く)であって、当該金属箔においては、孔径0.36mm以上1.2mm以下の貫通孔が開孔率10%以上で形成されている少なくとも1つの第一開孔領域と、前記第一開孔領域の開孔率よりも低い開孔率で前記貫通孔が形成されている少なくとも1つの第二開孔領域と、貫通孔が設けられていない少なくとも1つの無開孔領域が、金属箔の幅方向に配列され、しかも、前記第一開孔領域、第二開孔領域及び無開孔領域がいずれも当該金属箔の長手方向と平行に延びており、前記第二開孔領域が前記第一開孔領域に隣接して配置されており、前記無開孔領域が前記第二開孔領域に隣接して配置されていること、
及び
前記金属箔の厚みが3μm〜50μmであり、当該金属箔の材質がアルミニウム箔又は銅箔であること
を特徴とする蓄電デバイス用開孔金属箔。
【請求項2】
前記第二開孔領域が、前記第一開孔領域に比べて30〜70%の開孔率で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス用開孔金属箔。
【請求項3】
前記第二開孔領域の幅が2mm以上50mm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用開孔金属箔。
【請求項4】
前記金属箔の幅方向の少なくとも一方の端部に前記無開孔領域が設けられており、当該無開孔領域の幅が2mm以上50mm以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用開孔金属箔。
【請求項5】
前記金属箔の厚みが3μm〜50μmであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用開孔金属箔。
【請求項6】
前記金属箔の表面粗さ(Ra)が0.5μm以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用開孔金属箔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の開孔が設けられた開孔金属箔、特に、簡便、かつ、実用的なプレドープ技術に基づき製造することが可能な、高エネルギー密度、高出力特性を有する蓄電デバイス用電極及びその電極を具備する蓄電デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、蓄電デバイスの高出力、高エネルギー密度化が求められており、これに伴い、リチウムイオンキャパシタ(LIC)等の蓄電デバイスの開発が行なわれている。
その高出力、高エネルギー密度化の解決方法としてリチウム(Li)イオンを負極に担持するプレドープ技術が注目を集めている。
そのなかでも貫通孔を持つ金属箔を電極用集電体、集電芯体として用いることで簡便、かつ、実用的なプレドープ技術に基づいた蓄電デバイスを製造することができる。
この際、単位面積当たりの開孔面積の割合である開孔率は、プレドープの速度を速めるあるいはプレドープの均一性を高めるためには大きく設定することが好ましいが、集電体上への電極層形成の容易さ、電極強度の観点からは大きくしすぎるのは好ましくない。
【0003】
LICや次世代リチウムイオン電池(LIB)の正負極集電金属箔は、一般に、複数の開孔を設けた金属箔に活物質を塗布することによって作製され、例えば下記の特許文献1及び2には、
図2のような、金属箔の幅方向の中央部分に、多数の孔を穿設した部分(開孔領域)が存在し、金属箔の長手方向の端縁部には、孔が設けられていない部分(無開孔領域)が存在している開孔金属箔が開示されている。
【0004】
ところで、
図2のような、貫通孔を有する金属箔の場合、箔の端部に無開孔領域が存在することで長手方向に力がかかったときに箔の破断が防止され、機械内を通箔することができるが、長手方向に力がかかったときに開孔領域と無開孔領域の境目(境界線の位置)でねじれによる凹凸が発生するときがある。
これは、開孔領域では引っ張り強度が下がり、無開孔領域での引っ張り強度との差が生じて、ねじれが発生するためであり、開孔領域での開孔率が大きいほどその差は大きくなる。そして、そのねじれによる凹凸が、次の工程である活物質の塗工工程において塗工機械内での通箔の走行性に悪影響を与え、塗工性を損なうことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−168441号公報
【特許文献2】特開2013−065517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、蓄電デバイス用開孔金属箔において、引張環境下での端部無開孔領域−開孔領域(高開孔率領域)間での引っ張り強度の偏在を減らし、凹凸の高低差を抑えることができる開孔金属箔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成するために検討を行った結果、金属開孔箔において、端部の無開孔領域と中央領域である高開孔率領域の間に、少なくとも1つ以上の低開孔率領域(中央領域にある開孔領域よりも開孔率が低い領域)を設定することにより、引張環境下での端部無開孔領域−高開孔率領域間での引っ張り強度の偏在を減らし、凹凸の高低差を抑えることができることを見出して、本発明を完成した。
【0008】
上記課題を解決可能な本発明の開孔金属箔は、孔径0.36mm以上1.2mm以下の貫通孔が開孔率10%以上で形成されている少なくとも1つの第一開孔領域(高開孔率領域)と、前記第一開孔領域の開孔率よりも低い開孔率で前記貫通孔が形成されている少なくとも1つの第二開孔領域(低開孔率領域)と、貫通孔が設けられていない少なくとも1つの無開孔領域が、金属箔の幅方向に配列され、しかも、前記第一開孔領域、第二開孔領域及び無開孔領域がいずれも当該金属箔の長手方向と平行に延びており、前記第二開孔領域が前記第一開孔領域に隣接して配置されており、前記無開孔領域が前記第二開孔領域に隣接して配置されていることを特徴とする。
尚、本願明細書において「開孔率」とは、金属箔の長手方向に沿って延びる単位面積に占める、当該単位面積内に存在する複数の貫通孔の開孔面積の総和の割合、即ち、単位面積あたりの開孔面積の割合(開孔面積率)を意味するが、開孔面積は貫通孔の孔径と単位面積中の孔の数で決まるので、本発明における低開孔率とは孔径を小さくする、孔の数を減らすどちらで達成されてもよいし、複合でもかまわない。
【0009】
又、本発明は、上記の特徴を有した開孔金属箔において、前記第二開孔領域が、前記第一開孔領域に比べて30〜70%の開孔率で形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
又、本発明は、上記の特徴を有した開孔金属箔において、前記第二開孔領域の幅が2mm以上50mm以下であることを特徴とするものである。
【0011】
又、本発明は、上記の特徴を有した開孔金属箔において、前記金属箔の幅方向の少なくとも一方の端部に前記無開孔領域が設けられており、当該無開孔領域の幅が2mm以上50mm以下であることを特徴とするものでもある。
【0012】
又、本発明は、上記の特徴を有した開孔金属箔において、前記金属箔の厚みが3μm〜50μmであることを特徴とするものである。
【0013】
又、本発明は、上記の特徴を有した開孔金属箔において、前記金属箔の表面粗さ(Ra,JIS B 0601:2001に準拠)が0.5μm以下であることを特徴とするものでもある。
【発明の効果】
【0014】
開孔領域での引っ張り強度の低下は開孔率と相関があるため、高開孔率領域と無開孔領域との境界において引っ張り強度の差による力の偏在が発生し、それがねじれによる凹凸になるが、本発明の開孔金属箔においては、高開孔率領域と無開孔領域との間に低開孔率領域が配置されており、これにより、無開孔領域と低開孔率領域、低開孔率領域と高開孔率領域と開孔率の異なる領域同士の境界が増え、また境界における開孔率の差が小さくなるため偏在する力は小さくなり、凹凸の高低差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る開孔金属箔を示す簡易模式図(平面図)である。
【
図2】従来の開孔金属箔(端部に無開孔領域を持つ開孔金属箔)を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る開孔金属箔は、金属箔を加工により開孔部を設けた金属箔であり、以下、
図1を参照して、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は図面に例示したものに限定されるものではない。
図1は、第一開孔領域(高開孔率領域)1と無開孔領域3の間に第二開孔領域(低開孔率領域)2がある状態を模式的に表した平面図である。この際、開孔部の孔径、孔の配列は実際と異なり説明しやすいように大きく、単純化している。尚、第一開孔領域及び第二開孔領域に設けられる開孔は円形状のものが一般的であるが、これに限定されるものではない。
本発明の開孔金属箔の幅方向には、孔径0.36mm以上1.2mm以下の貫通孔が開孔率10%以上で形成されている少なくとも1つの第一開孔領域(高開孔率領域)1と、第一開孔領域2の開孔率よりも低い開孔率で貫通孔が形成されている少なくとも1つの第二開孔領域(低開孔率領域)2と、貫通孔が設けられていない少なくとも1つの無開孔領域3が配列されており、これら第一開孔領域1、第二開孔領域2及び無開孔領域3はいずれも当該金属箔の長手方向と平行な方向に延びている。
【0017】
そして、本発明の開孔金属箔においては、
図1に示されるようにして、第二開孔領域2が第一開孔領域1に隣接して位置しており、無開孔領域3は、第一開孔領域1とは隣接せずに、第二開孔領域2と隣接するようにして配置されている。本発明では、開孔金属箔の両端縁部に無開孔領域3が配置されていることが好ましいが、両端縁部が第二開孔領域2であっても良い。
【0018】
本発明では、第一開孔領域1に設けられる開孔は、開孔率が10%以上であれば良いが、30%以上60%以下が好ましく、40%以上50%以下が特に好ましい。本発明において、貫通孔が形成された領域と無開孔領域との境界における凹凸の高低差を小さくするには、第二開孔領域2における開孔率を、第一開孔領域1の開孔率の30〜70%とすることが好ましい。
尚、第一開孔領域1と第二開孔領域2に開孔を設ける際の加工方法については特に限定されるものではなく、一般的なパンチングプレス、ロールパンチングプレス、エッチング、レーザー加工等がいずれも使用できる。
【0019】
本発明における第二開孔領域2及び無開孔領域3の幅(金属箔幅方向の長さ)は2mm〜50mmであることが好ましく、金属箔の幅方向の少なくとも一方の端部に形成されていることが好ましい。
本発明では、開孔金属箔の端部に第二開孔領域2が配置された構造であっても良いが、第二開孔領域2は、第一開孔領域1と無開孔領域3の間に配置されることが好ましい。
【0020】
本発明の開孔金属箔の厚みは特に限定されるものではないが、LICやLIBの正負極集電金属箔として使用される開孔金属箔の厚みとしては3μm〜50μmが好ましく、当該金属箔の平均表面粗さ(Ra,JIS B 0601:2001に準拠)は特に限定されないが、0.5μm以下であることが好ましい。
又、本発明の開孔金属箔の材質はアルミニウム箔や銅箔やニッケル箔が一般的であるが、これに限定されるものではない。
【0021】
図1に示されるような、上記の第一開孔領域1、第二開孔領域2及び無開孔領域3が金属箔の幅方向に配列された本発明の開孔金属箔の場合、第一開孔領域1に隣接して第二開孔領域2が配置され、かつ、この第二開孔領域2に隣接して無開孔領域3が配置されることによって、隣接する領域の境界において引っ張り強度の差による力の偏在が発生しにくく、ねじれによる凹凸が生じにくく、偏在する力は小さくなり、凹凸の高低差を小さくすることができる。
次に、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
開孔金属箔の製造
金属箔として、厚さ15μm、表面粗さ(Ra)0.2μmである銅箔を準備し、この銅箔にパンチング加工を行い、以下の表1に示す各開孔径、各開孔率、開孔領域を有する開孔金属箔をそれぞれ作製した。そして、当該開孔金属箔をそれぞれ310×1000mmの大きさに切断した。尚、上記開孔金属箔の幅方向の両端部にそれぞれ、幅5mmの無開孔領域が配置され、当該金属箔の幅方向中央に第一開孔領域が配置されるようにし、実施例1〜3における第二開孔領域の幅はいずれも5mmとした。
上記で作製した厚さ15μmの各開孔金属箔について、当該金属箔の片側を固定し、もう一方に3kgfの荷重をかけて張力を加え、その領域境界位置で発生した凹凸の高低差をセンサー(オムロン社製、スマートセンサ リニア近接タイプZX-Eシリーズφ8mm)を用いて測定した。その結果が、以下の表1に示されている。
【0023】
【表1】
【0024】
上記表1の結果より、低開孔率領域である第二開孔領域が存在しない比較例1〜3の金属箔の凹凸の高低差に比べて、第二開孔領域が存在する実施例1〜3の金属箔の凹凸の高低差は小さくなっており、第二開孔領域が設けることによって、領域間で発生する凹凸の高低差が低減され、活物質の塗工工程において塗工機械内での通箔の走行性が良く、塗工の均一性が高まることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の開孔金属箔では、第一開孔領域と無開孔領域が隣接して配置されていないために、金属箔の幅方向に配置された開孔状態の異なる領域同士の境界位置に波打ち等が発生せず、金属箔の凹凸高低差を緩和できるので、特にLICやLIBの正負極集電金属箔の製造に有用である。
【符号の説明】
【0026】
1 第一開孔領域(高開孔率領域)
2 第二開孔領域(低開孔率領域)
3 無開孔領域