(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記Vベルト幅方向において隣接する、前記外周側心線層の心線と、前記内周側心線層の心線とは、Vベルト厚み方向から見て、一部が重なっていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のVベルト。
【背景技術】
【0002】
動力を伝達する伝動ベルトとして、歯付ベルトの同期伝動ベルトや、Vリブドベルト、Vベルト、平ベルトなどの摩擦伝動が広く知られている。Vベルトには摩擦伝動側面にゴム層が露出したローエッジ(Raw-Edge)タイプと、Vベルトの外面が外被布で覆われたラップド(Wrapped)タイプがある。これらは要求品質の違いから必要に応じて使い分けられている。また、用途に応じて多様な長さ(Vベルト長さで短尺タイプは20〜120inch、長尺で121〜400inch)のVベルトが採択されている。
【0003】
Vベルトは、コンプレッサー、発電機、ポンプなどの一般産業用機械、コンバイン、田植え機、草刈り機などの農業機械に広く使われている。例えばラップドVベルトの場合は、ベルト本体のベルト内周側の圧縮ゴム層と外周側の伸張ゴム層との間に心線が埋設され、ベルト本体の周囲をベルト周方向の全長に亘って外被布が被覆した構成をしている。また、ラップドVベルトは、摩擦伝動面を外被布で被覆していることで、ベルト走行時の適度な滑りによって、機構に無理な負担をかけず、摩擦音も小さいという特徴がある。摩擦伝動面(V字状側面)がV角度で形成されるVベルトは、
図1に示すように、駆動プーリと従動プーリとの間に張力をかけて巻きかけられ、V字状側面がプーリのV溝にぴったりと接触した状態で、そのくさび作用を利用して動力の伝達を行う。Vベルトは、ベルト本体中(圧縮ゴム層と伸張ゴム層との間)にベルト周長方向に沿って心線が埋没されており、この心線が駆動プーリから動力を従動プーリへ伝達する役割を担っている。
【0004】
上記のように駆動プーリと従動プーリとの間に巻きかけた状態でVベルトを走行させた場合、以下のような課題が生じる。
【0005】
(1)例えば、コンバインのように、多くの機能が備えられ、機能毎にVベルトが取り付けられる用途では、負荷の大きい機能を担うVベルトが、高い伝動能力を得るために高張力で用いられる。その結果、
図2に示すように、VベルトはプーリのV溝内へ落ち込んでゆき大きな変形(座屈変形)が生じ、Vベルトの内部にせん断応力が発生する。特に、力学特性に差がある界面にせん断応力が集中しやすく、界面剥離が生じやすい。
【0006】
(2)田植え機、管理機、草刈り機(モーア)のような、テンションプーリ(Ten)によってVベルトのクラッチ操作を行う用途では、常時回転中の駆動プーリからクラッチONにてVベルトに張力を与えて動力を伝達する(
図3参照)。このような、ベルト逆曲げによるクラッチ操作では、Vベルトがテンションプーリから逆曲げ時に強い衝撃を受けて大きなダメージを受ける場合がある。
【0007】
(3)コンバインをはじめとする農業機械では、プーリ間のズレ(ミスアライメント)が生じ易く、ミスアライメントの大小(許容範囲)により耐久性に差が出る(
図4参照)。
【0008】
(4)大型コンプレッサーに代表される産業機械で用いる長尺タイプのVベルトでは、走行時の振れが大きいと、プーリから外れたり、転覆(Vベルトがプーリ内でひっくり返る)したりして、伝動の機能が停止してしまう(
図5参照)。
【0009】
上記の課題を解消するために、Vベルトの単位幅あたりの強度を向上させることや、Vベルト幅方向への剛性(耐側圧性)を高めることが対策として有効である。その対策例としては、特許文献1や特許文献2に記載されたベルトに示すように、芯体を心線1列の単層から、心線2列の二層にする方法が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記の特許文献で開示されているベルトは、Vベルトに関するものではなく、更に、Vベルトにおける摩擦伝動での耐衝撃性、ミスアライメント対策として有効な芯体の配列態様についてまでは検討されていない。
【0012】
そこで、本発明は、高い伝動能力が求められるVベルトにおいて、高張力に伴うVベルトのV形状の変形を抑制し、テンションプーリから受ける強い衝撃の緩和し、さらには、プーリ間のズレ(ミスアライメント)の許容範囲を広げても耐久性に差異が生じないようにでき、且つ、走行時のベルト振れに伴うVベルトの離脱や転覆を防止できる芯体の配列を鋭意検討したものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明の1つは、プーリ間に巻き掛けられて使用されるVベルトであって、
Vベルトの外周側に配置される伸張層と、
Vベルトの内周側に配置される圧縮層と、
前記伸張層と前記圧縮層との間の前記伸長層側に設けられ、Vベルト周長方向に沿って埋設される心線が、Vベルト幅方向に所定の間隔をあけて配列された外周側心線層と、
前記外周側心線層と前記圧縮層との間に設けられ、Vベルト周長方向に沿って埋設される心線が、Vベルト幅方向に所定の間隔をあけて配列された内周側心線層と、を備え、
前記外周側心線層の心線の中心と前記内周側心線層の心線の中心とが、Vベルト厚み方向から見て、互いに重ならないようにずれて配列されている、ことを特徴としている。
【0014】
上記構成によれば、心線が埋設された層が二層あり、外周側心線層の心線の中心と内周側心線層の心線の中心とが、Vベルト厚み方向から見て、互いに重ならないようにずれて配列されていることから、Vベルト厚み方向から見ると、外周側心線層の心線と心線との間に内周側心線層の心線が配列されており、内周側心線層の心線と心線との間に外周側心線層の心線が配列されているように見える。即ち、Vベルトの幅方向に心線同士を密着(接触)させることなく多数の心線を緊密に配列させることができる。
これにより、Vベルトの引張強力を高めることができ、また、Vベルトに強い衝撃を受けたとしても衝撃力を多数の心線に分散することができる。このため、Vベルトの耐衝撃性を向上させることができる。例えば、農業機械で広く使われている逆曲げクラッチで、テンションプーリから強い衝撃を連続に受けたとしても耐えることができる。
また、Vベルトをプーリ間に巻き掛け、ミスアライメント(プーリ間のズレ)の状態で走行させた場合、Vベルトの端に位置する心線に負わされる応力を複数の心線で担うことが可能になりミスアライメント角度(プーリ間のズレ)の許容範囲を広げることができる。このため、ミスアライメントのメンテナンス作業を容易にすることができる。また、破損現象のポップアウト(Vベルトの端に位置する心線が側面から突き抜けて飛び出してくる現象)を発生しにくくすることができる。
また、外周側心線層と内周側心線層とを備えていることから心線を備えた層が厚くなるので、プーリ間でのVベルトの走行時の振れを小さくして、走行安定性を高めることができる。Vベルトの走行時の振れを小さくするとVベルトがプーリから外れたり、転覆したり(Vベルトがプーリ溝内でひっくり返る)するリスクを小さくすることができる。また、Vベルトをプーリに多本数掛けした場合、隣り合うVベルトが振れで干渉して転覆を誘発するリスクを小さくすることができる。
また、一般に高い伝動能力を得るために、Vベルトの張力を高めるとVベルトはプーリに設けられた溝内に落ち込んでゆき、大幅な変形を生じ、Vベルトは早期寿命に至る。しかし、上記構成では、Vベルト幅方向に係る耐側圧性に優れているため、変形し難く、長期寿命を望める。
【0015】
また、本発明の1つは、上記Vベルトにおいて、前記外周側心線層と前記内周側心線層との間に、接着成分を含む接着層を備えたことを特徴としている。
【0016】
上記構成によれば、外周側心線層と内周側心線層との接着性を高めるとともに、接着層を備えることにより、各層の心線の配列をVベルト厚み方向に乱れることなく、直線的に整列し易くすることができる。
【0017】
また、本発明の1つは、上記Vベルトにおいて、前記外周側心線層の心線の線径が、前記内周側心線層の心線の線径よりも小さいことを特徴としている。
【0018】
心線を含む層が二層になることでベルト強力が向上する一方で、曲げ剛性が大きくなり過ぎ、ベルトの屈曲性が低下する場合がある(耐屈曲疲労性が劣る)。そこで、外周側心線層の心線の線径を小さくすることで、ベルト強力を確保しつつ、曲げ剛性を低減し、ベルトの屈曲性を向上させることができる(耐屈曲疲労性を向上させる)。
【0019】
また、本発明の1つは、上記Vベルトにおいて、前記外周側心線層の心線及び前記内周側心線層の心線の平均線径が、0.5〜3mmの範囲であることを特徴としている。
【0020】
心線の平均線径が0.5mm未満である場合には、Vベルトの引張強力を十分に高めることができない場合があり、心線の平均線径が3mmより大きい場合には、Vベルトの剛性が高くなりすぎ、Vベルトをプーリ間に巻き掛けた際の走行安定性を十分に確保することができない場合がある。しかし、心線の平均線径を上記範囲内にすることにより、Vベルトの引張強力を十分に高めることができ、走行安定性を十分に確保することができる。
【0021】
また、本発明の1つは、所定の長さの帯状に加工された圧縮層用ゴムシートを、円形状の成形用マントルの外周部に巻く、第1巻き掛け工程と、
前記成形用マントルの外周部に巻かれた前記圧縮層用ゴムシートの外周に、心線を、前記圧縮層用ゴムシートの幅方向に所定の間隔をあけて、前記圧縮層用ゴムシートの周方向に沿ってスパイラル状に巻き付けて、内周側心線層を形成する心線を配列させる、内周側心線配列工程と、
前記内周側心線配列工程後、又は、前記内周側心線配列工程と同時に、前記内周側心線層を形成する心線の外周側に、心線を、当該心線の中心が、前記内周側心線層を形成する心線の中心に対して、前記圧縮層用ゴムシートの厚み方向から見て、互いに重ならないようにずらしながらスパイラル状に巻き付けて、外周側心線層を形成する心線を配列させる、外周側心線配列工程と、
前記外周側心線層を形成する心線の外周側に、所定の長さの帯状に加工された伸張層用ゴムシートを巻き、未加硫ベルト成形体を作成する第2巻き掛け工程と、
前記未加硫ベルト成形体を、V形状に加工し、加硫成形して、各心線を前記圧縮層用ゴムシート及び前記伸張層用ゴムシートに埋設し、前記内周側心線層及び前記外周側心線層を成形する加硫成形工程と、を含むことを特徴とする、Vベルトの製造方法である。
【0022】
上記製造方法によれば、Vベルトの引張強力を高めることができ、また、Vベルトに強い衝撃を受けたとしても衝撃力を多数の心線に分散することができる。このため、Vベルトの耐衝撃性を向上させることができる。例えば、農業機械で広く使われている逆曲げクラッチで、テンションプーリから強い衝撃を連続に受けたとしても耐えることができる。
また、Vベルトをプーリ間に巻き掛け、ミスアライメント(プーリ間のズレ)の状態で走行させた場合、Vベルトの端に位置する心線に負わされる応力を複数の心線で担うことが可能になりミスアライメント角度(プーリ間のズレ)の許容範囲を広げることができる。このため、ミスアライメントのメンテナンス作業を容易にすることができる。また、破損現象のポップアウト(Vベルトの端に位置する心線が側面から突き抜けて飛び出してくる現象)を発生しにくくすることができる。
また、外周側心線層と内周側心線層とを備えていることから心線を備えた層が厚くなるので、プーリ間でのVベルトの走行時の振れを小さくして、走行安定性を高めることができる。Vベルトの走行時の振れを小さくするとVベルトがプーリから外れたり、転覆したり(Vベルトがプーリ溝内でひっくり返る)するリスクを小さくすることができる。また、Vベルトをプーリに多本数掛けした場合、隣り合うVベルトが振れで干渉して転覆を誘発するリスクを小さくすることができる。
また、一般に高い伝動能力を得るために、Vベルトの張力を高めるとVベルトはプーリに設けられた溝内に落ち込んでゆき、大幅な変形を生じ、Vベルトは早期寿命に至る。しかし、上記構成では、Vベルト幅方向に係る耐側圧性に優れているため、変形し難く、長期寿命を望める。
【発明の効果】
【0023】
Vベルトにおいて、高張力に伴うVベルトのV形状の変形を抑制し、テンションプーリから受ける強い衝撃の緩和し、さらには、プーリ間のズレ(ミスアライメント)の許容範囲を広げても耐久性に差異が生じないようにでき、且つ、走行時のベルト振れに伴うVベルトの離脱や転覆を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施形態)
以下、図面を参照しつつ、本願発明に係るVベルト及びその製造方法について説明する。
【0026】
本実施形態では、外面が外被布で覆われたラップドVベルト1を例に説明する。
ラップドVベルト1は、エンジン補機駆動システムなどの動力伝動機構(システム)において、例えば、駆動プーリ2と従動プーリ3との間に巻き掛けられて使用される(
図6参照)。
【0027】
(ラップドVベルト1の構成)
ラップドVベルト1は、
図7に示すように、ラップドVベルト1の外周側に配置される伸張層11と、内周側に配置される圧縮層12と、伸張層11と圧縮層12との間の伸張層11側に設けられ、Vベルト周長方向に沿って埋設される心線131が、Vベルト幅方向に所定の間隔をあけて配列された外周側心線層13と、外周側心線層13と圧縮層12との間に設けられ、Vベルト周長方向に沿って埋設される心線141が、Vベルト幅方向に所定の間隔をあけて配列された内周側心線層14と、外周側心線層13と内周側心線層14との間に設けられた接着層15とを要素とするベルト本体10、及び、ベルト本体10の周囲をベルト周方向の全長に渡って被覆するカバー帆布16、から構成されている。
【0028】
また、ラップドVベルト1のVベルト幅方向の断面は、V字状断面であり、カバー帆布16で被覆されたV字状断面の左右の両側面が、駆動プーリ2及び従動プーリ3のV溝の内壁面と接触する摩擦伝動面となる(
図1参照)。尚、ラップドVベルト1は、JISK6323(2008)に準拠して、厚さが5〜20mm、長さ(Vベルト周長方向の全長)が20〜400インチ(508〜10、160mm)となるように形成される。なお、接着層15は、外周側心線層13と内周側心線層14との接着性を向上させるために設けられることから、必須の構成ではない。
【0029】
(伸張層11)
伸張層11を形成するゴム組成物のゴム成分としては、加硫又は架橋可能なゴム、例えば、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴムなど)、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが例示できる。これらのゴム成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。好ましいゴム成分は、エチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−プロピレン共重合体(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)などのエチレン−α−オレフィン系ゴム)、クロロプレンゴムである。特に好ましいゴム成分は、クロロプレンゴムに対し耐久性に優れ、ハロゲンを含まないエチレン−α−オレフィンエラストマーである。EPDMのジエンモノマーの例としては、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエンなどを挙げることができる。
【0030】
また、伸張層11を形成するゴム組成物には、さらに必要に応じて、ゴムに通常配合される、硫黄、有機過酸化物等の架橋剤、N,N´−m−フェニレンジマレイミド、キノンジオキシム類等の共架橋剤、加硫促進剤、炭酸カルシウム、タルク等の充填剤、可塑剤、安定剤、加工助剤、着色剤、短繊維等を配合してもよい。短繊維としては、綿、ポリエステル(PET、PENなど)、ナイロン(6ナイロン、66ナイロン、46ナイロンなど)、アラミド(p−アラミド、m−アラミド)、ビニロン、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などを用いることができる。これらの短繊維は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0031】
(圧縮層12)
圧縮層12は、伸張層11を形成するゴム組成物と同じもので形成されている。
【0032】
(外周側心線層13)
外周側心線層13は、心線131が、ゴム組成物(伸張層11を形成するゴム組成物と同じ)に、Vベルト周長方向に沿い、且つ、Vベルト幅方向に所定の間隔P1をあけて一列に配列された状態で埋設されている。
【0033】
心線131を構成する繊維としては、高モジュラスの点から、エチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート等のC2−4アルキレンアリレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維、ポリエチレンテレフタレート系繊維、エチレンナフタレート系繊維等)、アラミド繊維等の合成繊維、炭素繊維等の無機繊維が使用され、ポリエステル繊維やアラミド繊維が好ましい。これらの繊維はマルチフィラメント糸であってもよい。マルチフィラメント糸の繊度は2000〜10000デニールとするとよく、好ましくは4000〜8000デニールとするとよい。
【0034】
心線131としては、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(諸撚り、片撚り、ランク撚り等)を使用することが多く、心線131の平均線径(撚りコードの繊維径)は、0.5〜3mmとするとよく、好ましくは0.6〜2mm、さらに好ましくは0.7〜1.5mmとするとよい。
【0035】
心線131(後述する心線141)の平均線径が0.5mm未満である場合には、ラップドVベルト1の引張強力を十分に高めることができない場合があり、心線131の平均線径が3mmより大きい場合には、ラップドVベルト1の剛性が高くなりすぎ、ラップドVベルト1を駆動プーリ2と従動プーリ3との間に巻き掛けた際の走行安定性を十分に確保することができない場合がある。しかし、心線131の平均線径を上記のように0.5〜3mmの範囲内にすることにより、ラップドVベルト1の引張強力を十分に高めることができ、走行安定性を十分に確保することができる。
【0036】
心線131はVベルト周長方向に延びるように、Vベルト幅方向に一定の間隔P1を開けて埋設される。本実施形態では、1本で連なる心線131をベルト周長方向にスパイラル状に巻き付けて埋設しているが、複数本の心線131をベルト周長方向に並列的に巻き付けて埋設してもよい。
【0037】
(内周側心線層14)
内周側心線層14も、外周側心線層13同様に、心線141が、ゴム組成物(圧縮層12を形成するゴム組成物と同じ)に、Vベルト周長方向に沿い、且つ、Vベルト幅方向に所定の間隔P2をあけて一列に配列された状態で埋設されている。なお、心線141の構成する繊維・線径等は、心線131と同様であってもよいし、異なる構成にしてもよい。
【0038】
(心線131と心線141との関係性)
ここで、ラップドVベルト1は、心線131を有する外周側心線層13、及び、心線141を有する内周側心線層14を有し、心線を有する層がVベルト厚み方向に2層設けられた構成をしている。更に、
図7のVベルト幅方向の断面図に示すように、外周側心線層13の心線131の中心C1と内周側心線層14の心線141の中心C2とが、Vベルト厚み方向から見て、互いに重ならないようにずれて配列されている。本実施形態では、外周側心線層13の心線131の中心C1は、Vベルト厚み方向から見て、内周側心線層14の隣接する心線141の中心C2と中心C2との間の中央に位置するように配列されている(中心C1は、中心C2に対して間隔P2の1/2ずれて配列されている)。同様に、内周側心線層14の心線141の中心C2は、Vベルト厚み方向から見て、外周側心線層13の隣接する心線131の中心C1と中心C1との間の中央に位置するように配列されている(中心C2は、中心C1に対して間隔P1の1/2ずれて配列されている)。なお、本実施形態では、心線131及び心線141の平均線径は同じであるが、異なる平均線径にしてもよい。心線131及び心線141の平均線径が異なる場合、間隔P1・間隔P2(心線のピッチ)は変わらない。
【0039】
ラップドVベルト1において、心線131と心線141とが上記関係性を有することから、Vベルト厚み方向から見ると、外周側心線層13の心線131と心線131との間に内周側心線層14の心線141が配列されており、内周側心線層14の心線141と心線141との間に外周側心線層13の心線131が配列されているように見える。即ち、ラップドVベルト1のVベルト幅方向に心線同士を密着(接触)させることなく多数の心線を緊密に配列させることができる。
【0040】
また、外周側心線層13の心線131の線径は、内周側心線層14の心線141の線径よりも小さい構成にしてもよい。一般に、心線を含む層が二層(外周側心線層13及び内周側心線層14)になることでベルト強力が向上する一方で、曲げ剛性が大きくなり過ぎ、ラップドVベルト1の屈曲性が低下する場合がある(耐屈曲疲労性が劣る)。そこで、外周側心線層13の心線131の線径を小さくすることで、ベルト強力を確保しつつ、曲げ剛性を低減し、ラップドVベルト1の屈曲性を向上させることができる(耐屈曲疲労性を向上させる)。
【0041】
(接着層15)
接着層15は、ゴム組成物としてエチレンとα−オレフィンと非共役ジエンとの共重合体であるEPDMまたはその他の種類ゴムからなる相手ゴムを混ぜ合わせたブレンドゴムを用いている(接着成分を含む)。エチレンとα−オレフィンと非共役ジエンとの共重合体であるEPDMにブレンドする相手ゴムとしては、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、天然ゴム(NR)の少なくとも一種のゴムを挙げることができる。
【0042】
外周側心線層13と内周側心線層14との間に接着成分を含む接着層15を設けることにより、外周側心線層13と内周側心線層14との接着性を高めるとともに、外周側心線層13の心線131、及び、内周側心線層14の心線141の配列をVベルト厚み方向に乱れることなく、直線的に整列し易くすることができる。なお、上述したように、接着層15は、必須のものではなく、省いた構成でもよい。
【0043】
(カバー帆布16)
カバー帆布16は、綿、ポリエステル繊維、ナイロン等からなり、平織、綾織、朱子織等に製織した布で、経糸と緯糸との交差角を90°〜120°程度に広角度化した織布でもよい。
【0044】
(ラップドVベルト1の製造方法)
ラップドVベルト1の製造方法について説明する。
まず、圧縮層12となる圧縮層用ゴムシート(未加硫)、及び、伸張層11となる伸張層用ゴムシート(未加硫)を形成する。具体的には、原料ゴムに圧延加工が施され、圧延加工によって帯状に形成された原料ゴムを帯の長手方向に沿って所定長さ毎に裁断することで圧縮層用ゴムシート及び伸張層用ゴムシートを作成する。
【0045】
次に、所定の長さの帯状に加工された圧縮層用ゴムシートを、円形状の成形用マントルの外周部に巻くことにより、圧縮層用ゴムシートを円形状に保持させる(第1巻き掛け工程)。この第1巻き掛け工程は、加工対象としての可撓性を有する圧縮層用ゴムシートを内周側から支持することで円形状に保持するための工程である。
【0046】
次に、成形用マントルの回転に伴い、ボビンから繰り出された心線141を、成形用マントルの外周部に巻かれた圧縮層用ゴムシートの外周に、圧縮層用ゴムシートの幅方向に所定の間隔をあけて、圧縮層用ゴムシートの周方向に沿ってスパイラル状に巻き付ける(内周側心線配列工程)。これにより内周側心線層14を形成する心線141を配列させる。
【0047】
次に、内周側心線層14を形成する心線141の外周側に、接着成分を含むEPDMを塗布し、接着層15となる層を形成する(接着層形成工程)。なお、接着層形成工程は必須の工程ではなく、省いてもよい。
【0048】
次に、接着層15となる層の外周側に、成形用マントルの回転に伴い、ボビンから繰り出された心線131を、当該心線131の中心C1が、内周側心線層14を形成する心線141の中心C2に対して、圧縮層用ゴムシートの厚み方向から見て、互いに重ならないようにずらしながらスパイラル状に巻き付ける(外周側心線配列工程)。これにより、外周側心線層13を形成する心線131を配列させる。
【0049】
次に、外周側心線層13を形成する心線131の外周側に、所定の長さの帯状に加工された伸張層用ゴムシートを巻く(第2巻き掛け工程)。これにより、未加硫ベルト成形体を作成する。
【0050】
次に、未加硫ベルト成形体を、所定幅に切断すると共に、未加硫ベルト幅方向の断面がV字状断面になるように加工した後、カバー帆布16になる布を巻き付けて加硫成形する(加硫成形工程)。これにより、心線141を圧縮層用ゴムシートに埋設し、心線131を伸張層用ゴムシートに埋設し、内周側心線層14及び外周側心線層13を成形する。
【0051】
上記工程を経て、外周側から内周側に向かって、伸張層11と、外周側心線層13と、接着層15と、内周側心線層14とを備えたベルト本体10(無端状)、及び、ベルト本体10の周囲を被覆するカバー帆布16を有するラップドVベルト1が製造される。
【0052】
なお、上記説明では、外周側心線配列工程は、内周側心線配列工程後に行っているが、内周側心線配列工程と同時に行ってもよい。例えば、
図8に示すように、外周に外径が異なる2つの段部21・22を備えたスピニングタッチプーリ20を使用して行う。
【0053】
具体的には、段部21に心線131が巻かれ、段部22に心線141が巻かれたスピニングタッチプーリ20から、成形用マントルの回転に伴い、スピニングタッチプーリ20の段部22から繰り出された心線141を、成形用マントルの外周部に巻かれた圧縮層用ゴムシートの外周に、圧縮層用ゴムシートの幅方向に所定の間隔をあけて、圧縮層用ゴムシートの周方向に沿ってスパイラル状に巻き付ける。これと同時に、心線141の外周側に、スピニングタッチプーリ20の段部21から繰り出された心線131を、当該心線131の中心C1が、内周側心線層14を形成する心線141の中心C2に対して、圧縮層用ゴムシートの厚み方向から見て、互いに重ならないようにずらしながらスパイラル状に巻き付ける。
【実施例】
【0054】
(比較試験)
次に、
図9に示す、『本発明に係るラップドVベルト1(実施例1:心線がポリエステル繊維)』、『心線を含む層が単層のラップドVベルト(比較例1)』、『心線を含む層が二層であるが、外周側心線層の心線の中心と内周側心線層の心線の中心とがベルト厚み方向で一致するラップドVベルト(比較例2)』、
図12に示す、『Vベルト厚み方向から見て、外周側心線層の心線と心線との間に内周側心線層の心線が配列され、且つ、外周側心線層の心線の線径(1.194mm)が、内周側心線層の心線の線径(1.31mm)よりも小さいラップドVベルト(実施例2)』、
図13に示す、『Vベルト厚み方向から見て、外周側心線層の心線と心線との間に内周側心線層の心線が配列され、心線がアラミド繊維のラップドVベルト1(実施例3)』、『Vベルト厚み方向から見て、外周側心線層の心線と心線との間に内周側心線層の心線が配列され、且つ、外周側心線層の心線の線径(0.55mm)が、内周側心線層の心線の線径(2.86mm)よりも小さいラップドVベルト(実施例4)』、に対して、耐衝撃性の測定試験(耐衝撃性走行試験)、及び、ミスアライメント角度の許容範囲の測定試験を行った。
【0055】
具体的には、表1〜表4の材料構成に基づき、実施例1〜実施例4に係るラップドVベルト1、及び、比較例1〜比較例2に係るラップドVベルトを作成した。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
上記材料構成の詳細を以下に示す。
カバー帆布:綿の織布(平織り、繊度は20番手の経糸と20番手の緯糸とで構成、経糸及び緯糸の糸密度75本/50mm、目付け280g/m2)
クロロプレンゴム:DENKA(株)製「PM−40」
酸化マグネシウム:協和化学工業(株)製「キョーワマグ30」
ステアリン酸:日油(株)製「ステアリン酸つばき」
老化防止剤:精工化学(株)製「ノンフレックスOD−3」
カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト3」
可塑剤:ADEKA(株)製「RS−700」
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーTT」
酸化亜鉛:正同化学工業(株)製「酸化亜鉛3種」
【0061】
[耐衝撃性走行試験]
耐衝撃性走行試験では、
図10及び表5の試験条件に示すように、駆動プーリ(Dr,直径91mm)と従動プーリ(Dn,直径171mm)との間に、テンションプーリ(Ten,直径60mm)を配置した試験機において、駆動プーリと従動プーリとの間に、実施例1〜実施例4、比較例1、比較例2の各ラップドVベルト(ベルト長さ40インチ)を掛架し、駆動プーリの回転数1800rpm(負荷5.3ps)で各ラップドVベルトを走行させ、試験条件(クラッチON時のテンションプーリのラップドVベルトに対する荷重12kg、設定リバース角度140°、クラッチON12sec−クラッチOFF30secの間隔(1サイクル)、環境温度60℃)の下で、テンションプーリによって各ラップドVベルトに衝撃を与えた。そして、上記試験条件で衝撃を与えた各ラップドVベルトの状態を観察した。耐衝撃性走行試験結果を表6に示す。
【0062】
【表5】
【0063】
【表6】
【0064】
表6の耐衝撃性走行試験結果によれば、実施例3ではサイクル数10000回(116.7時間で打ち切り)でもV芯クラックは発生しなかった。
【0065】
実施例4ではサイクル数4000回(46.7時間)で「V芯クラック(微小」が確認された。サイクル数6000回(58.3時間)で「V芯クラック(小)」が発生した。8000回(93.3時間)で「V芯クラック(中)」が発生した。更に、10000回(116.7時間)で「V芯クラック(大)」が発生したため、走行評価を打ち切った。
【0066】
実施例1ではサイクル数8000回(93.3時間)で「V芯クラック(小)」が発生した。実施例1ではサイクル数10000回(116.7時間)走行評価を打ち切ったが、外観は「V芯クラック(小)」で変わらなかった。
【0067】
実施例2ではサイクル数6000回(58.3時間)で「V芯クラック(微小)」が確認された。サイクル数8000回(93.3時間)で「V芯クラック(小)」が発生した。10000回(116.7時間)で走行評価を打ち切ったが、外観は「V芯クラック(中)」であった。
【0068】
一方、比較例2では、サイクル数6000回(58.3時間)で「V芯クラック(小)」が発生し、サイクル数8000回(93.3時間)で「V芯クラック(大)」へと進み、サイクル数10000回(116.7時間)でポップアウトが発生して寿命と判断し、評価を打ち切った。
【0069】
また、比較例1では、サイクル数3000回(35.0時間)で「V芯クラック(小)」が発生し、サイクル数4000回(46.7時間)で「V芯クラック(大)」へと進み、サイクル数6000回(58.3時間)でポップアウトが発生して寿命と判断し、評価を打ち切った。
【0070】
以上の結果から、比較例1のように、心線を含む層が単層である場合、連続的にクラッチをon-offすることでラップドVベルトの張力を高めていくとラップドVベルトはプーリのV溝内に落ち込んでゆき、大幅な変形を生じて早期寿命に至る。一方で、比較例2、実施例1〜実施例4のように、心線を含む層を2層にすることで、比較例1(心線を含む層が1層)に比べて、耐側圧性に優れ変形し難く早期寿命には至らないことが明らかになった。
【0071】
また、実施例1〜実施例4のように、外周側心線層の心線の中心と内周側心線層の心線の中心とが、ラップドVベルト厚み方向から見て、互いに重ならないように配列した場合、比較例2のように、心線を含む層が二層であるが、外周側心線層の心線の中心と内周側心線層の心線の中心とがベルト厚み方向で一致する場合に比べて、耐側圧性に優れ変形し難く早期寿命には至らない(長期寿命)ことが明らかになった。このような差異が生じたのは、比較例2では、外周側心線層の心線と内周側心線層の心線とが重なってしまうため、実施例1〜実施例4に比べて、ラップドVベルトの屈曲性が劣り、屈曲発熱による圧縮層の硬化により早期クラックが発生し易くなるためだと考えられる。
【0072】
また、実施例2は、実施例1に比べて早期に破損現象(微小のV芯クラック)が発生したが、比較例2に比べて寿命時間が長い結果であった。連続的にクラッチをon-offすることでラップドVベルトの張力を高めていくとラップドVベルトはプーリのV溝内に落ち込んでゆき、大幅な変形を生じて早期寿命に至るが、実施例2は実施例1に比べて、外周側心線層の心線の線径が細いことから、耐側圧性が劣り、変形し易く早期に破損現象が発生したものと考えられる。一方、実施例2は、比較例2に比べて、屈曲性に優れ、屈曲発熱による圧縮層の硬化も低減されることから寿命時間が長くなった。
【0073】
また、心線にアラミド繊維を使用した実施例3は、心線にポリエステル繊維を使用した実施例1に比べて、心線の線径を小さくしたにもかかわらず破損現象(V芯クラック)の発生がなかった。連続的にクラッチをon-offすることでラップドVベルトの張力を高めていくとラップドVベルトはプーリのV溝内に落ち込んでゆき、大幅な変形を生じて早期寿命に至るが、実施例3は心線にアラミド繊維を使用したことから、心線にポリエステル繊維を使用した実施例1に比べて、ラップドVベルトの伸びが小さくなり、プーリのV溝内への落ち込みも少なくなり、変形が生じにくくなったものと考えられる。また、実施例3は実施例1に比べて、心線の線径が小さい(細い)ため、屈曲性に優れ、屈曲発熱による圧縮層の硬化も低減されることからクラックの発生を抑えて寿命時間が長くなったものと考えられる。
【0074】
更に、外周側心線層の心線の線径(0.55mm)及び内周側心線層の心線の線径(2.86mm)を、上記実施形態で記載した0.5〜3mmの範囲の下限近くと上限近くで組み合わせた実施例4は、V芯クラック発生までの耐久時間が実施例2及び比較例2に近似しているが、実施例2及び比較例2に比べて、内周側心線層の心線の線径が太いため耐屈曲疲労性が劣りV芯クラック発生までの時間が若干早くなった。但し、比較例1に比べてクラック耐久性は優れていた。
【0075】
[ミスアライメント角度の許容範囲の測定試験]
ミスアライメント角度の許容範囲の測定試験では、
図11に示すように、駆動プーリ(Dr,直径75mm)と従動プーリ(Dn,直径100mm)で構成される2軸走行試験機に、実施例1〜実施例4、比較例1、比較例2の各ラップドVベルトを掛架し、駆動プーリと従動プーリと間のズレα(ミスアライメント)を変えて、各ラップドVベルトを走行(駆動プーリの回転数3600rpm)させた際の走行寿命を測定した。ミスアライメント角度の許容範囲の測定試験結果を表7に示す。
【0076】
【表7】
【0077】
表7のミスアライメント角度の許容範囲の測定試験結果によれば、実施例1では、θ(ズレの角度)が(2/3)°を超えると耐久性が低下した。実施例2では、実施例1と同様にθ(ズレの角度)が(2/3)°を超えると耐久性が低下した。比較例2では、θ(ズレの角度)が(1.5/3)°を超えると耐久性が低下した。比較例1では、θ(ズレの角度)が(1/3)°を超えると耐久性が低下した。実施例4では、実施例1・実施例2と同様にθ(ズレの角度)が(2/3)°を超えると耐久性が低下した。実施例3では、θ(ズレの角度)が(2/3)°を超えても耐久性が低下することはなかった。
【0078】
以上の結果から、プーリ間でのミスアライメント角度の許容範囲(ズレの角度)について、実施例1〜実施例4は、比較例1の2倍以上であるが、比較例2は比較例1の1.5倍に留まる。従って、実施例1〜実施例4のように、外周側心線層の心線の中心と内周側心線層の心線の中心とが、ラップドVベルト厚み方向から見て、互いに重ならないように配列した場合、比較例2のように、心線を含む層が二層であるが、外周側心線層の心線の中心と内周側心線層の心線の中心とがベルト厚み方向で一致する場合に比べて、ミスアライメント角度の許容範囲(ズレの角度)を広げることができることが明らかになった。
【0079】
(ベルト強力の比較試験)
次に、比較例1、実施例1、及び、実施例2に係るラップドVベルトに対して、JIS K 6323による引張試験を行い、各ラップドVベルトのベルト強力を測定した。なお、実施例2に係るラップドVベルトは、
図12に示すように、外周側心線層13の心線131の線径が、内周側心線層14の心線141の線径よりも小さい構成である。ベルト強力の試験結果を表8に示す。
【0080】
【表8】
【0081】
表8のベルト強力の試験結果によれば、比較例1に比べて、実施例1及び実施例2のベルト強力は高いことが分かる。これによれば、心線を含む層を2層にすることによりベルトの引張強力は高くなり、耐衝撃性を向上させることができる。
【0082】
また、実施例2は、実施例1と比べるとベルト強力は劣るが、比較例1と比べればベルト強力は高いことが分かる。これにより、外周側心線層の心線の線径を内周側心線層の心線の線径よりも小さくすることで、ベルト強力を確保しつつ、曲げ剛性を低減し、ラップドVベルトの屈曲性を向上させることができることが分かった(耐屈曲疲労性を向上させる)。
【0083】
(効果)
上記構成のラップドVベルト1によれば、ラップドVベルト1の引張強力を高めることができ、また、ラップドVベルト1に強い衝撃を受けたとしても衝撃力を多数の心線131・141に分散することができる。このため、ラップドVベルト1の耐衝撃性を向上させることができる。例えば、農業機械で広く使われている逆曲げクラッチで、テンションプーリから強い衝撃を連続に受けたとしても耐えることができる。
【0084】
また、ラップドVベルト1をプーリ間に巻き掛け、ミスアライメント(プーリ間のズレ)の状態で走行させた場合、ラップドVベルト1の端に位置する心線に負わされる応力を複数の心線131・141で担うことが可能になりミスアライメント角度(プーリ間のズレ)の許容範囲を広げることができる。このため、ミスアライメントのメンテナンス作業を容易にすることができる。また、破損現象のポップアウト(ラップドVベルト1の端に位置する心線131・141が側面から突き抜けて飛び出してくる現象)を発生しにくくすることができる。
【0085】
また、外周側心線層13と内周側心線層14とを備えていることから心線131・141を備えた層が厚くなるので、プーリ間でのラップドVベルト1の走行時の振れを小さくして、走行安定性を高めることができる。ラップドVベルト1の走行時の振れを小さくするとラップドVベルト1がプーリから外れたり、転覆したり(ラップドVベルト1がプーリ溝内でひっくり返る)するリスクを小さくすることができる。また、ラップドVベルト1をプーリに多本数掛けした場合、隣り合うラップドVベルト1が振れで干渉して転覆を誘発するリスクを小さくすることができる。
【0086】
また、一般に高い伝動能力を得るために、ラップドVベルト1の張力を高めるとラップドVベルト1はプーリに設けられたV溝内に落ち込んでゆき、大幅な変形を生じ、ラップドVベルト1は早期寿命に至る。しかし、上記構成では、Vベルト幅方向に係る耐側圧性に優れているため、変形し難く、長期寿命を望める。