(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて、本発明に係る電気掃除機用ホースの実施形態について説明する。
図1は電気掃除機の全体の構成を示し、
図2は第1実施形態の電気掃除機用ホースの一部断面図、
図3は
図2に示すホースのホース壁の一部の拡大断面図、
図4は複合線材の断面図、
図5はホース壁を形成するための可撓性条帯の一例を示した断面図である。
【0013】
図1において、電気掃除機用ホースAは、掃除機本体10に設けられた吸気口に接続パイプ11を介してホースAの一端が接続され、ホースAの他端は手元操作部12に接続され、手元操作部12に連続して延長管13、続いて床用ノズル14が接続されて電気掃除機が構成されている。
【0014】
電気掃除機用ホースAは、
図2に示すように構成され、柔軟性を有するホース壁1が円筒状に合成樹脂によって形成され、ホース壁1の内周面には、ホースを保形補強し、負圧によるホースのつぶれを防止する複合線材6が螺旋状に添着されている。ホース壁1は軟質合成樹脂製であり、無負荷状態で、
図3に示すような断面形状を有する。
図3は図の下側をホース内側として示している。電気掃除機用ホースAでは、複合線材6、6によって実質的にホース壁1の円筒状形状が維持されている。
【0015】
ホース壁1とらせん状の複合線材6の一体化は、典型的には接着もしくは溶着により行われるが、これに限定されない。また、複合線材6はホース壁の内周面に一体化されていてもよいし、外周面に設けられていてもよいし、ホース壁に埋入されていてもよい。本実施形態では、ホース壁が外周に向かい突条となるように形成された部分の内周面に、複合線材6が接着されている。また、らせん状の複合線材6が設けられる本数、すなわち、らせんの条数は特に限定されないが、通常1条から4条である。本実施形態においては、2条のらせん状に、複合線材6,6が設けられている。
【0016】
ホース壁1を構成する合成樹脂材料は、円筒状で可撓性を有するホース壁が構成できれば、特に限定されず、好ましくは、JIS−K7215に準拠して測定した硬度で50〜80HDA程度の硬度を有する熱可塑性樹脂が使用できる。軟質塩化ビニル樹脂(PVC樹脂)や、熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU樹脂)、エチレン酢酸ビニル樹脂(EVA樹脂)などが特に好ましい。本実施形態においては、ホース壁1は軟質塩化ビニル樹脂により構成されている。
【0017】
らせん状の複合線材6について説明する。
図4に断面を示すように、複合線材6,6は、硬鋼線61と、導線62とが、合成樹脂製の被覆材63に埋入されて構成されている。1本の複合線材6に対し、硬鋼線61は1本設けられる。1本の複合線材6に対し、導線62は1本もしくは複数本設けられる。ここで、硬鋼線61は、ホース壁1を円筒状に維持する補強体として機能する。すなわち、複合線材6が有する補強効果は、実質的に硬鋼線61によりもたらされる。また、導線62は、導電性を有し、ホースの一端から他端にわたって電気のやり取りを可能とする。また、硬鋼線61も導電性を有する。このホースAでは複合線材6が2条設けられているので、導線62,62と硬鋼線61,61を利用して、合計4本の電線が利用可能になる。
【0018】
硬鋼線61は、いわゆるスチール線やピアノ線である。硬鋼線61の断面形状は円形であることが好ましい。本実施形態のように、硬鋼線61が裸線の状態で、合成樹脂製の被覆材63に埋入されていてもよい。また、硬鋼線61はメッキされていてもよい。また、後述する他の実施形態の例のように、硬鋼線61が被覆材63とは異なる樹脂で覆われた状態で、被覆材63に埋入されていてもよい。
【0019】
導線62としては、導電性のある線材が広く使用できる。例えば、導線62は、銅線やアルミニウム線、銀線などの金属線であってもよく、金属テープであってもよい。あるいは導線62は、導電性の樹脂により形成された線材やテープであってもよい。また、導線62の形態は、モノフィラメントの導線であってもよく、複数の金属線等を集合させたマルチフィラメントの導線であってもよい。導線62が、複数の金属線がよりあわされたより線、もしくは、複数の金属線が編まれた編み線であることが好ましい。本実施形態においては、導線62は複数の金属線(銅線)がよりあわされたより線である。
【0020】
複合線材6の被覆材63を構成する合成樹脂は、ホース壁1と複合線材6との一体化が可能な合成樹脂であれば、特に限定されない。被覆材63を構成する合成樹脂は、ホース壁1を構成する合成樹脂と接着可能もしくは溶着可能な合成樹脂であることが好ましい。本実施形態においては、被覆材63は、硬質塩化ビニル樹脂により構成されている。
【0021】
図4に示したように、複合線材6,6の被覆材63の外周面は円形の断面を有している。すなわち、複合線材6,6は、外周面が円筒状である線材である。複合線材の断面における被覆材の外周面の円形は、真円に近いことが好ましいが、厳密な真円である必要はなく、例えば、測定方向を変えて測定した直径の最大値と最小値の差が、直径の最大値の5%以下であることが好ましく、3%以下であることが特に好ましい。
【0022】
複合線材6において、硬鋼線61の径D1は導線62の径D2よりも大きく、即ち、硬鋼線61が導線62に比べ、太くされる。両者の径の比D1/D2は、1.5以上であることが好ましく、2以上であることが特に好ましい。なお、硬鋼線61や導線62が円形断面でない場合には、これら線の断面積をそれぞれ求め、同じ断面積を有する円形断面(等価断面積の円)を想定し、その円の径をもって、それぞれ、硬鋼線61や導線62の径として扱えばよい。
【0023】
図4に示したように、複合線材6の断面において、硬鋼線61の中心CSが、導線62の中心CCよりも、被覆材63の外周の円の中心COに近くなるように配置されている。すなわち、硬鋼線61の中心CSと被覆材63の外周の円の中心COとの間の距離をS1、導線62の中心CCと被覆材63の外周の円の中心COとの間の距離をS2として、S1<S2とされている。両者の比、S1/S2は、0.5以下であることが好ましく、0.3以下であることが特に好ましい。なお、硬鋼線61や導線62が円形断面でない場合には、それぞれの線の断面の重心を、これらの中心として扱えばよい。
【0024】
第1実施形態の電気掃除機用ホースAは、例えば、いわゆるスパイラル成形方法等の公知のホース製造方法により、以下のようにして製造することができる。
まず、硬鋼線61と、導線62とを、複合線材の被覆材63となる合成樹脂とともに共押出して、複合線材6を製造する。
次いで、公知のコイリング装置に対し複合線材6を供給し、複合線材6の硬鋼線61を塑性変形させて、複合線材6を所定の径とピッチのらせん状にする。
【0025】
所定断面を有する押出ダイを備える押出成形機を用いて、ホース壁1になるべき合成樹脂を、所定の温度で押出して、
図5に示すような断面を有する可撓性条帯T1を押出成形する。次いで、得られたらせん状の複合線材6、6と、可撓性条帯T1を、公知のホース成形軸に対して供給する。
【0026】
可撓性条帯T1が膨出形成された突条部分が、ホース壁1と複合線材6の接合部となる。また、可撓性条帯T1の側縁部S1,S2が重なり合うように接合されて、この部分の内側でもホース壁1と複合線材6が接着される。
【0027】
ホース成形軸に捲回された複合線材6、6を覆うように、可撓性条帯T1を螺旋状に捲回し、互いに隣接する可撓性条帯T1の側縁部S1、S2を複合線材6のホース外周側で重ね合わせて接着一体化して円筒状のホース壁1とするとともに、ホース壁1と複合線材6を接合する。2条の複合線材6,6と可撓性条帯T1を連続的にホース成形軸に供給しながら、以上の工程を連続して行うことにより、不定長の電気掃除機用ホースAを得ることができる。可撓性条帯T1の側縁部の接着一体化や複合線材6への接合は、熱融着により行うこともでき、その場合は、押出成形された可撓性条帯T1がまだ熱い間に捲回し一体化することが好ましい。また、熱可塑性接着剤(ホットメルト)や溶剤系の接着剤を使用して接合しても良い。
【0028】
上記形態の電気掃除機用ホースの作用効果を説明する。上記実施形態の電気掃除機用ホースによれば、複合線材6をコイル巻きする際の巻き径の精度が高められ、複合線材6の被覆に割れが生ずることが抑制され、電気掃除機用ホースの品質が向上する。
【0029】
発明者らの検討によれば、従来技術、例えば、特許文献1の技術においては、即ち、硬鋼線と導線が埋入された複合線材とホース壁を有する従来の電気掃除機用ホースにおいては、複合線材を採用すると、複合線材の巻き径の精度が悪くなり、隣接する他の補強線材との巻き径の差が生じてホースの外観品質が悪化しがちになることが判明した。また、複合線材を有する従来の電気掃除機用ホースにおいては、補強線材の被覆に割れが生じやすくなることが判明した。
【0030】
発明者らは、さらに検討を重ね、複合線材を採用する際に生ずるこれらの課題が、複合線材をらせん状に形成するコイリング工程に起因するものであることを突きとめた。コイリング工程は、線材に強制的な変位と変形を与える部分に、線材を通過させることにより、硬鋼線に塑性変形を生じさせて、線材に一定の曲率のらせん形状を与えるよう設計された工程である。線材に強制的な変位と変形を与える部分は、例えば、
図8に示されるような、線材を挟むように配置された3つのローラー部材などにより構成される、
【0031】
このコイリング工程においては、
図8に示すように、3つのローラー部材に挟まれる部分で線材に変形が与えられる。
図8では、両側部に大径のガイドが設けられたローラーを、模式的に2重の同心円で示している。この時、ローラーR1とローラーR2の中心軸を結ぶ軸線に対する、ローラーR3の相対位置、即ち、
図8におけるローラーR3の上下方向の位置が、ローラーR1とローラーR2の間で線材に与えられる曲げ変形の大きさを規定している。線材はローラーR1,R2,R3に挟まれて塑性変形するので、この位置関係は、線材の直径に対応して定められ、調整される必要がある。
【0032】
従来技術においては、硬鋼線と導線が埋入された複合線材は、断面が、楕円形や、卵型、メガネ型等になっていた。このような断面形状の複合線材をコイリング工程に供給すると、複合線材の軸線周りの回転姿勢によって、コイリング工程においてローラーR1,R2とローラーR3が線材を挟み込む方向で測った複合線材の径が変化することになる。
すると、従来技術では、コイリング工程に供給される複合線材の軸線周りの回転姿勢によって、コイリング装置で与えられる螺旋形状の径が変化してしまうのである。
【0033】
そして、発明者らは、複合線材6の被覆材63の外周面が円形の断面を有していれば、たとえ、コイリング工程に供給される複合線材6の軸線周りの回転姿勢が変化しても、コイリング工程で挟み込まれる方向の径は変化しなくなるので、コイリング装置で与えられる螺旋形状の径が変化しにくくできることを着想し、本発明に至った。
【0034】
さらに、上記実施形態の電気掃除機用ホースAによれば、硬鋼線61の径は前記導線62の径よりも太く、複合線材6の断面において、硬鋼線61の中心CSが、導線62の中心CCよりも、被覆材63の外周の円の中心COに近くなるように配置されているので、硬鋼線を取り囲む被覆材63の周方向にわたる厚み変化を少なくすることができ、コイリング工程において、ローラーR1,R2,R3等により、硬鋼線61に対してより正確な塑性変形が与えられることになる。
以上の作用により、上記実施形態の電気掃除機用ホースAによれば、複合線材6のコイルの巻き径の精度が高められる。
【0035】
また、従来技術においては、コイリング工程に供給される複合線材の軸線周りの回転姿勢によって、コイリング工程においてローラーR1,R2とローラーR3が線材を挟み込む方向で測った複合線材の径が変化することになる。この場合、径が大きくなると、線材がローラーの間でより強く挟まれることになって、線材の被覆に割れや亀裂が生じやすくなることが判明した。
【0036】
上記実施形態の電気掃除機用ホースAによれば、複合線材6の被覆材63の外周面は円形の断面を有しており、硬鋼線61の径は導線62の径よりも太く、複合線材6の断面において、硬鋼線61の中心CSが、導線62の中心CCよりも、被覆材63の外周の円の中心COに近くなるように配置されているので、コイリング工程に供給される複合線材6の軸線周りの回転姿勢が変化しても、コイリング工程においてローラーR1,R2とローラーR3が線材を挟み込む力が変化しにくくなり、複合線材6の被覆63は割れにくくなる。また、塑性変形させるために大きな力を加える必要のある硬鋼線61を覆う被覆材63に、極端に厚みの薄い部分ができにくくなることも、被覆材63がコイリング工程で割れにくくなることに貢献する。
【0037】
コイリング工程における複合線材6のコイルの巻き径の精度を高め、被覆材63の割れを予防する観点からは、複合線材6の断面における被覆材63の外周面の円形は、測定方向を変えて測定した直径の最大値と最小値の差が、直径の最大値の5%以下であることが好ましく、3%以下であることが特に好ましい。
【0038】
また、同様の観点から、硬鋼線61の径D1と導線62の径D2の比D1/D2は、1.5以上であることが好ましく、2以上であることが特に好ましい。また、同様の観点から、硬鋼線61の中心CSと被覆材63の外周の円の中心COとの間の距離をS1、導線62の中心CCと被覆材63の外周の円の中心COとの間の距離をS2として、両者の比S1/S2は、0.5以下であることが好ましく、0.3以下であることが特に好ましい。
【0039】
また、さらに、上記実施形態の電気掃除機用ホースAのように、複合線材6に含まれる導線62が、複数の金属線がよりあわされたより線、もしくは、複数の金属線が編まれた編み線である場合には、導線の断線が予防される。例えば、導線62が硬鋼線61よりもホース外周側に配置されると、太く固い硬鋼線よりも外周に配置される細い導線に伸び変形が生じやすくなり、断線しやすくなるが、導線62が、より線や編み線であれば、このような伸び変形に追従しやすく、断線が予防される。
【0040】
発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をして実施することができる。以下に発明の他の実施形態について説明するが、以下の説明においては、上記実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様である部分についてはその詳細な説明を省略する。また、これら実施形態は、その一部を互いに組み合わせて、あるいは、その一部を置き換えて実施できる。
【0041】
上記実施形態の電気掃除機用ホースAでは、ホース壁1と2条の複合線材6,6からなるホース構造を示したが、ホースに備えられるらせん状の補強体は、必ずしもそのすべてが上記実施形態のような複合線材である必要はない。例えば、ホース壁に3条のらせん状補強体を備えさせたホースにおいて、らせん状補強体のうち1本を上記のような複合線材により構成し、らせん状補強体のうち2本を樹脂被覆された金属線により構成するようにするなど、複合線材と従来の補強線材(樹脂被覆金属線)とを併用するようにしてもよい。
【0042】
また、上記実施形態の電気掃除機用ホースAでは、複合線材6,6において、硬鋼線61と導線62とが、ホース軸方向に沿って並ぶように配置された形態を示したが、これは必須ではない。硬鋼線61よりもホース内周側に導線62が配置されるように複合線材を設けても良く、逆に、硬鋼線61よりもホース外周側に導線62が配置されるように複合線材を設けても良い。また、ホースの長手方向にわたって、硬鋼線61と導線62の位置関係が変化するよう、複合線材6がその中心軸回りの姿勢が変化するように設けられていてもよい。
【0043】
図6には、第2実施形態の電気掃除機用ホースのホース壁部分の拡大断面図を示す。また、第2実施形態における複合線材の断面図を
図7に示す。このような実施形態のホースであっても、同様に、コイリング工程における複合線材の巻き径の精度を高め、被覆材63の割れを予防することができる。
【0044】
本実施形態では、ホース壁は内層1aと外層1bを有する積層構造である。らせん状の複合線材6’、 6’は、内層1aと外層1bの間に挟み込まれて一体化されている。ホース壁と複合線材を一体化する具体的構造や、両者を一体化してホースにするための具体的工程は、特に限定されない。
【0045】
本実施形態における複合線材6’では、被覆材63の合成樹脂とは接着しない合成樹脂により、硬鋼線61が覆われた状態で、硬鋼線61が被覆材に埋入されている。例えば、ポリプロピレン樹脂により硬鋼線61をあらかじめ被覆して被覆層64を作っておき、この樹脂被覆硬鋼線を、導線62’、62’とともに塩化ビニル樹脂の被覆材63に埋入させるようにして、このような複合線材6’として用いることができる。
【0046】
複合線材6’のように、被覆材63の合成樹脂とは接着しない合成樹脂により、硬鋼線61が覆われた状態で、硬鋼線61が被覆材に埋入されている場合には、被覆材63から硬鋼線61を取り出しやすくなる。また、被覆材63から硬鋼線61を取り出す際に被覆層64で硬鋼線61を覆った状態で取り出せば、取り出された導線62’と硬鋼線61の短絡を予防することができる。
【0047】
また、導線の表面に、シリコーンオイルが塗布された状態で、導線が被覆材に埋入されていることが好ましい。このようにされていると、被覆材に埋入された導線が、被覆材を構成する合成樹脂にくっついて取り外しにくくなってしまうことが予防され、被覆材63から硬鋼線61を取り出しやすくなる。
【0048】
また、複合線材6’のように、複合線材の被覆材63の中に、複数本の導線62’、62’を埋入させるようにしてもよい。本実施形態においては、平編みされた編み線の導線62’、62’が、硬鋼線61を挟む位置に設けられている。また、本実施形態のように、硬鋼線61が被覆層64に被覆された状態で被覆材63に埋入される場合には、導線62’が被覆層64の外周面に密着するように配置して、被覆材63に埋入させることが好ましい。このようにすると、硬鋼線と導線の絶縁性を維持しながら被覆材63の厚みを薄くすることができるので、コイリング工程によるらせんの巻き径をより正確なものとしやすくなる。
【0049】
また、上記実施形態の説明では、電気掃除機として家庭用電気掃除機の一例を示したが、電気掃除機の種類は特に限定されない。上記実施形態の電気掃除機用ホースは、例えば、アップライト型の電気掃除機や、セントラル配管方式の電気掃除機などにも使用することができる。