(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
近年、空間フィルタリングに基づくエリア再生制御が提案されている。この制御では、再生音を届けたい再生エリアだけでなく、再生音を届けたくない非再生エリアについても再生音を制御することができるため、従来の指向性制御と比較して高いエリア再生性能を実現することができる。
【0011】
上記のように、従来の空間フィルタリングに基づくエリア再生技術では、まず、再生条件として、スピーカアレイに平行な任意の制御ラインを設定し、当該制御ラインに、再生音を強め合う再生ラインと音波が弱め合う非再生ラインとを設定する。次に、設定した再生条件でエリア再生を実現するための制御フィルタを導出する。最終的には、再生音の信号に当該導出した制御フィルタを畳み込んだ信号を各スピーカに出力させることで、設定した再生条件でエリア再生を実現する。なお、制御フィルタと再生条件とは、空間的なフーリエ変換によって関係付けられる。このため、再生条件から一意に制御フィルタを導出することができる。
【0012】
このように、空間フィルタリングに基づくエリア再生制御では、再生条件として、制御ライン上に自由に非再生ラインを設定できるため、非再生エリアにおける再生音の制御が可能となる。また、複数の異なる再生音を制御ライン上で個別に再生する場合は、再生音毎に、再生音の再生場所を再生ラインとする再生条件を設定し、各再生条件でエリア再生を実現する制御フィルタを導出する。そして、各再生音の信号に、当該各再生音に対応する制御フィルタをそれぞれ畳み込んだ後、これらを足し合わせて各スピーカに出力させる。これにより、複数の異なる再生音を制御ライン上で個別に再生することができる。
【0013】
上述のようなエリア再生技術を実際に使用する場合、スピーカアレイから放射された再生音を再生ライン上のみに出力することが求められる。しかしながら、スピーカアレイ近傍のエリア再生性能を改善するため、制御ラインをスピーカアレイに近づけると、制御ライン近傍のエリア再生性能は改善されるが、制御ラインより後方のエリア再生性能が劣化するという課題が生じるおそれがある。
【0014】
以上の課題を解決するために、本開示の一態様に係るエリア再生方法は、複数のスピーカを並べて配置したスピーカアレイから所定のエリアに再生音を出力するエリア再生方法であって、前記スピーカアレイから放射された音波が強め合う再生ラインと前記音波が弱め合う非再生ラインとを含む制御ライン上で実現する前記再生音の各周波数の音圧分布を周波数領域から空間周波数領域に変換し、前記スピーカアレイと前記制御ラインとの位置関係に基づいて、前記空間周波数領域の音圧分布のうち、前記再生音の調整に使用する空間周波数を決定し、決定した前記空間周波数を用いて前記複数のスピーカのそれぞれに出力させる前記再生音の音圧を調整する。
【0015】
この構成によれば、スピーカアレイから放射された音波が強め合う再生ラインと音波が弱め合う非再生ラインとを含む制御ライン上で実現する再生音の各周波数の音圧分布が周波数領域から空間周波数領域に変換される。スピーカアレイと制御ラインとの位置関係に基づいて、空間周波数領域の音圧分布のうち、再生音の調整に使用する空間周波数が決定される。決定された空間周波数を用いて複数のスピーカのそれぞれに出力させる再生音の音圧が調整される。
【0016】
したがって、スピーカアレイと制御ラインとの位置関係に基づいて、空間周波数領域の音圧分布のうち、再生音の調整に使用する空間周波数が決定され、決定された空間周波数を用いて複数のスピーカのそれぞれに出力させる再生音の音圧が調整されるので、空間周波数が制限されることによって非再生エリアの音圧が低下し、スピーカアレイの近傍に設けられた制御ラインより後方のエリア再生性能の劣化を改善することができる。
【0017】
また、上記のエリア再生方法において、前記空間周波数の決定は、前記空間周波数が表す平面波と前記スピーカアレイに沿ったアレイライン
に垂直な線とがなす第1角度と、前記アレイライン上の1つの点と前記制御ライン上の1つの点とを結ぶ直線と前記アレイラインとで表される第2角度とに基づいて、前記再生音の調整に使用する空間周波数を決定してもよい。
【0018】
この構成によれば、空間周波数の決定において、空間周波数が表す平面波とスピーカアレイに沿ったアレイライン
に垂直な線とがなす第1角度と、アレイライン上の1つの点と制御ライン上の1つの点とを結ぶ直線とアレイラインとで表される第2角度とに基づいて、再生音の調整に使用する空間周波数が決定される。
【0019】
したがって、空間周波数が表す平面波とスピーカアレイに沿ったアレイライン
に垂直な線とがなす第1角度と、アレイライン上の1つの点と制御ライン上の1つの点とを結ぶ直線とアレイラインとで表される第2角度とに基づいて、再生音の調整に使用する空間周波数を容易に決定することができる。
【0020】
また、上記のエリア再生方法において、前記空間周波
数は、下記の式(1)で表され、
kx=2πn/(NΔx)・・・(1)
上記の式(1)において、
kxは、前記空間周波数であり、Nは、前記複数のスピーカの個数であり、nは、整数であり、−N/2≦n≦N/2−1を満たし、Δxは、前記複数のスピーカのうちの互いに隣接するスピーカの間隔であり、前記第1角
度は、下記の式(2)で表され、
θ=180/πasin(kx/(ω/c))・・・(2)
上記の式(2)において、
θは、前記第1角度であり、ωは、角周波数であり、cは、音速であってもよい。
【0021】
この構成によれば、空間周波数kxは、上記の式(1)で表され、第1角度θは、上記の式(2)で表されるので、当該第1角度θを用いて、再生音の調整に使用する空間周波数を容易に決定することができる。
【0022】
また、上記のエリア再生方法において、前記第2角度は、前記アレイラインの中心と前記再生ラインの一方の端部とを結んだ直線と、前記アレイラインとがなす第3角度を含み、前記空間周波数の決定は、前記第1角
度が前記第3角度よりも小さい場合は、前記第1角
度に対応する前記空間周波
数を、前記再生音の調整に使用する空間周波数に決定し、前記再生音の音圧の調整は、決定した前記空間周波
数の音圧Pkx(θ)の値をゼロとしてもよい。
【0023】
この構成によれば、空間周波数の決定において、第1角度θが、アレイラインの中心と再生ラインの一方の端部とを結んだ直線と、アレイラインとがなす第3角度よりも小さい場合は、第1角度θに対応する空間周波数kxが、再生音の調整に使用する空間周波数に決定される。そして、再生音の音圧の調整において、決定された空間周波数kxの音圧Pkx(θ)の値がゼロとされる。
【0024】
したがって、第1角度θが、アレイラインの中心と再生ラインの一方の端部とを結んだ直線と、アレイラインとがなす第3角度よりも小さい場合は、第1角度θに対応する空間周波数kxの音圧Pkx(θ)の値がゼロになるので、空間周波数領域の音圧分布ではサイドローブがなくなり、制御ラインより後方のエリア再生性能の劣化を改善することができるとともに、聴感上の再生音の聞こえやすさを向上させることができる。
【0025】
また、上記のエリア再生方法において、前記第2角度は、前記アレイラインの中心と前記制御ラインの一方の端部とを結んだ直線と、前記アレイラインとがなす第4角度を含み、前記空間周波数の決定は、前記第1角
度が前記第4角度よりも小さい場合は、前記第1角
度に対応する前記空間周波
数を、前記再生音の調整に使用する空間周波数に決定し、前記再生音の音圧の調整は、決定した前記空間周波
数の音圧Pkx(θ)の値をゼロとしてもよい。
【0026】
この構成によれば、空間周波数の決定において、第1角度θが、アレイラインの中心と制御ラインの一方の端部とを結んだ直線と、アレイラインとがなす第4角度よりも小さい場合は、第1角度θに対応する空間周波数kxが、再生音の調整に使用する空間周波数に決定される。そして、再生音の音圧の調整において、決定された空間周波数kxの音圧Pkx(θ)の値がゼロとされる。
【0027】
したがって、第1角度θが、アレイラインの中心と制御ラインの一方の端部とを結んだ直線と、アレイラインとがなす第4角度よりも小さい場合は、第1角度θに対応する空間周波数kxの音圧Pkx(θ)の値がゼロになるので、空間周波数領域の音圧分布ではサイドローブがなくなり、制御ラインより後方のエリア再生性能の劣化を改善することができるとともに、聴感上の再生音の聞こえやすさを向上させることができる。
【0028】
また、上記のエリア再生方法において、前記第2角度は、前記アレイラインの一方の端部と前記再生ラインの他方の端部とを結んだ直線と、前記アレイラインとがなす第5角度を含み、前記空間周波数の決定は、前記第1角
度が前記第5角度よりも小さい場合は、前記第1角
度に対応する前記空間周波
数を、前記再生音の調整に使用する空間周波数に決定し、前記再生音の音圧の調整は、決定した前記空間周波
数の音圧Pkx(θ)の値をゼロとしてもよい。
【0029】
この構成によれば、空間周波数の決定において、第1角度θが、アレイラインの一方の端部と再生ラインの他方の端部とを結んだ直線と、アレイラインとがなす第5角度よりも小さい場合は、第1角度θに対応する空間周波数kxが、再生音の調整に使用する空間周波数に決定される。そして、再生音の音圧の調整において、決定された空間周波数kxの音圧Pkx(θ)の値がゼロとされる。
【0030】
したがって、第1角度θが、アレイラインの一方の端部と再生ラインの他方の端部とを結んだ直線と、アレイラインとがなす第5角度よりも小さい場合は、第1角度θに対応する空間周波数kxの音圧Pkx(θ)の値がゼロになるので、空間周波数領域の音圧分布ではサイドローブがなくなり、制御ラインより後方のエリア再生性能の劣化を改善することができるとともに、聴感上の再生音の聞こえやすさを向上させることができる。
【0031】
また、上記のエリア再生方法において、前記第2角度は、前記アレイラインの一方の端部と前記制御ラインの他方の端部とを結んだ直線と、前記アレイラインとがなす第6角度を含み、前記空間周波数の決定は、前記第1角
度が前記第6角度よりも小さい場合は、前記第1角
度に対応する前記空間周波
数を、前記再生音の調整に使用する空間周波数に決定し、前記再生音の音圧の調整は、決定した前記空間周波
数の音圧Pkx(θ)の値をゼロとしてもよい。
【0032】
この構成によれば、空間周波数の決定において、第1角度θが、アレイラインの一方の端部と制御ラインの他方の端部とを結んだ直線と、アレイラインとがなす第6角度よりも小さい場合は、第1角度θに対応する空間周波数kxが、再生音の調整に使用する空間周波数に決定される。そして、再生音の音圧の調整において、決定された空間周波数kxの音圧Pkx(θ)の値がゼロとされる。
【0033】
したがって、第1角度θが、アレイラインの一方の端部と制御ラインの他方の端部とを結んだ直線と、アレイラインとがなす第6角度よりも小さい場合は、第1角度θに対応する空間周波数kxの音圧Pkx(θ)の値がゼロになるので、空間周波数領域の音圧分布ではサイドローブがなくなり、制御ラインより後方のエリア再生性能の劣化を改善することができるとともに、聴感上の再生音の聞こえやすさを向上させることができる。
【0034】
また、上記のエリア再生方法において、前記再生音の音圧の調整は、所定の窓関数を前記空間周波数領域の音圧分布に乗算してもよい。
【0035】
この構成によれば、再生音の音圧の調整において、所定の窓関数が空間周波数領域の音圧分布に乗算されるので、空間周波数領域の音圧分布ではサイドローブがなくなり、制御ラインより後方のエリア再生性能の劣化を改善することができるとともに、聴感上の再生音の聞こえやすさを向上させることができる。
【0036】
また、上記のエリア再生方法において、前記窓関数は、矩形窓であってもよい。この構成によれば、窓関数として矩形窓を用いることができる。
【0037】
また、上記のエリア再生方法において、前記制御ラインは、複数の再生ラインを含み、前記複数の再生ラインのそれぞれに互いに異なる再生音を出力してもよい。
【0038】
この構成によれば、制御ラインは、複数の再生ラインを含む。複数の再生ラインのそれぞれに互いに異なる再生音が出力される。
【0039】
したがって、複数の再生ラインのそれぞれに互いに異なる再生音が出力されるので、複数の再生ラインのうちの一の再生ラインにおいて、複数の再生音のうちの一の再生音のみを、他の再生ラインへ出力される他の再生音に干渉されることなく、聞くことができる。
【0040】
また、上記のエリア再生方法において、前記空間周波数領域の非物理領域はゼロであってもよい。
【0041】
この構成によれば、空間周波数領域の非物理領域はゼロであるので、空間周波数領域の非物理領域を考慮せずに、再生音の音圧を調整することができる。
【0042】
本開示の他の態様に係るエリア再生プログラムは、複数のスピーカを並べて配置したスピーカアレイから所定のエリアに再生音を出力させるエリア再生プログラムであって、前記スピーカアレイから放射された音波が強め合う再生ラインと前記音波が弱め合う非再生ラインとを含む制御ライン上で実現する前記再生音の各周波数の音圧分布を周波数領域から空間周波数領域に変換する処理と、前記スピーカアレイと前記制御ラインとの位置関係に基づいて、前記空間周波数領域の音圧分布のうち、前記再生音の調整に使用する空間周波数を決定する処理と、決定した前記空間周波数を用いて前記複数のスピーカのそれぞれに出力させる前記再生音の音圧を調整する処理とをコンピュータに実行させる。
【0043】
この構成によれば、スピーカアレイから放射された音波が強め合う再生ラインと音波が弱め合う非再生ラインとを含む制御ライン上で実現する再生音の各周波数の音圧分布が周波数領域から空間周波数領域に変換される。スピーカアレイと制御ラインとの位置関係に基づいて、空間周波数領域の音圧分布のうち、再生音の調整に使用する空間周波数が決定される。決定された空間周波数を用いて複数のスピーカのそれぞれに出力させる再生音の音圧が調整される。
【0044】
したがって、スピーカアレイと制御ラインとの位置関係に基づいて、空間周波数領域の音圧分布のうち、再生音の調整に使用する空間周波数が決定され、決定された空間周波数を用いて複数のスピーカのそれぞれに出力させる再生音の音圧が調整されるので、空間周波数が制限されることによって非再生エリアの音圧が低下し、スピーカアレイの近傍に設けられた制御ラインより後方のエリア再生性能の劣化を改善することができる。
【0045】
本開示の他の態様に係るエリア再生システムは、複数のスピーカを並べて配置したスピーカアレイを含む再生部と、前記スピーカアレイから放射された音波が強め合う再生ラインと前記音波が弱め合う非再生ラインとを含む制御ラインに基づいて、前記複数のスピーカに出力させる再生音の音圧を調整し、前記再生部から出力させる処理部とを備え、前記処理部は、前記制御ライン上で実現する前記再生音の各周波数の音圧分布を周波数領域から空間周波数領域に変換し、前記スピーカアレイと前記制御ラインとの位置関係に基づいて、前記空間周波数領域の音圧分布のうち、前記再生音の調整に使用する空間周波数を決定し、前記決定した空間周波数を用いて前記複数のスピーカのそれぞれに出力させる再生音の音圧を調整する。
【0046】
この構成によれば、スピーカアレイから放射された音波が強め合う再生ラインと音波が弱め合う非再生ラインとを含む制御ライン上で実現する再生音の各周波数の音圧分布が周波数領域から空間周波数領域に変換される。スピーカアレイと制御ラインとの位置関係に基づいて、空間周波数領域の音圧分布のうち、再生音の調整に使用する空間周波数が決定される。決定された空間周波数を用いて複数のスピーカのそれぞれに出力させる再生音の音圧が調整される。
【0047】
したがって、スピーカアレイと制御ラインとの位置関係に基づいて、空間周波数領域の音圧分布のうち、再生音の調整に使用する空間周波数が決定され、決定された空間周波数を用いて複数のスピーカのそれぞれに出力させる再生音の音圧が調整されるので、空間周波数が制限されることによって非再生エリアの音圧が低下し、スピーカアレイの近傍に設けられた制御ラインより後方のエリア再生性能の劣化を改善することができる。
【0048】
(実施の形態)
以下添付図面を参照しながら、本開示の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本開示を具体化した一例であって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【0049】
まず、本開示の実施の形態におけるエリア再生システムの全体構成について説明する。
【0050】
図1は、本開示の実施の形態におけるエリア再生システムの構成を示す図である。
図1に示すエリア再生システム1は、入力部10、データ部20、処理部30及び再生部40を備える。
【0051】
入力部10は、後述するスピーカ403に再生させる再生音の音源データ201、後述する再生条件、及び再生音量等の各種指定操作を行うためのタッチパネル101を備えた端末装置である。なお、入力部10は、タッチパネル101に限らず、物理的なスイッチ、キーボード、マウス及び表示装置を備えた端末装置であってもよい。
【0052】
また、入力部10は、エリア再生システム1のユーザが使用するスマートフォン、タブレット型コンピュータ又はパーソナルコンピュータ等の端末装置であってもよいし、エリア再生システム1によるエリア再生の対象とする室内に設けられた、複数のユーザで共用するパーソナルコンピュータ等の端末装置であってもよい。
【0053】
データ部20は、半導体メモリ又はHDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置である。データ部20は、音源データ201を記憶している。音源データ201は、例えば、インターネット等のネットワークを経由してデータ部20に格納される。なお、データ部20は、後述する処理部30と同一の装置内に設けられてもよいし、処理部30とは異なる装置に設けられてもよい。
【0054】
処理部30は、マイクロプロセッサ、DSP(Digital Signal Processor)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びHDD等を備えた情報処理装置である。処理部30は、フィルタ生成部301、畳み込み部302及びオーディオIF(インタフェース)303を備える。
【0055】
フィルタ生成部301は、ユーザが入力部10を用いて指定した再生条件でエリア再生を実現するための制御フィルタを生成する。
【0056】
畳み込み部302は、ユーザが入力部10を用いて指定した音源データ201をアナログ信号に変換した再生音信号(以下、音源データ201に対応する再生音信号)に、フィルタ生成部301が生成した制御フィルタを畳み込んだ駆動信号を生成する。
【0057】
オーディオIF303は、畳み込み部302によって生成された駆動信号を再生部40へ出力する。
【0058】
再生部40は、オーディオIF303から入力された駆動信号をアナログ信号に変換するDAコンバータ401、DAコンバータ401により変換されたアナログ信号(以下、再生音信号)を増幅するアンプ402、及びアンプ402により増幅された再生音信号が示す再生音を出力するスピーカ403を備えた音声出力装置である。
【0059】
なお、再生部40は、複数のスピーカ403を備える。複数のスピーカ403が所定の間隔で直線状に並べて配置されることにより、スピーカアレイが構成される。後述するように、各スピーカ403の配置間隔、及びスピーカアレイの全長等によって、エリア再生の性能は変化する。なお、スピーカ403の種類又は規模は、限定されない。本実施の形態において、複数のスピーカ403は直線状に配置されるが、本開示は特にこれに限定されず、複数のスピーカ403は円弧状に配置されてもよい。
【0060】
次に、フィルタ生成部301について詳述する。
図2は、本開示の実施の形態におけるフィルタ生成部の内部の構成を示す図である。
図2に示すように、フィルタ生成部301は、空間周波数領域変換部311、空間周波数処理部312、駆動信号変換部313及び制御フィルタ変換部314を備える。
【0061】
空間周波数領域変換部311は、スピーカアレイから放射された音波が強め合う再生ラインと音波が弱め合う非再生ラインとを含む制御ライン上で実現する再生音の各周波数の音圧分布を周波数領域から空間周波数領域に変換する。
【0062】
なお、空間周波数領域の非物理領域はゼロである。非物理領域とは、2次元周波数平面において、|f2|>ρ|f1|の領域である。ただし、ρ=D/cTであり、Tはサンプリング間隔であり、Dはスピーカ間隔であり、cは音速であり、f1は規格化時間周波数であり、f2は規格化空間周波数である。
【0063】
空間周波数処理部312は、スピーカアレイと制御ラインとの位置関係に基づいて、空間周波数領域の音圧分布のうち、再生音の調整に使用する空間周波数を決定する。空間周波数処理部312は、決定した空間周波数を用いて複数のスピーカ403のそれぞれに出力させる再生音の音圧を調整する。
【0064】
駆動信号変換部313は、空間周波数領域の音圧分布を駆動信号に変換する。
【0065】
制御フィルタ変換部314は、空間周波数領域の駆動信号(制御フィルタ)を周波数領域の駆動信号(制御フィルタ)に変換し、変換した周波数領域の駆動信号(制御フィルタ)を出力する。
【0066】
次に、フィルタ生成部301による制御フィルタの生成方法について説明する。以下では、スピーカアレイを構成する複数のスピーカ403は、x軸上に並べて配置されているものとする。x軸及びx軸に直交するy軸により表される平面において、スピーカアレイの位置A(x
0,0)におけるスピーカ403から出力された角周波数ωの再生音のうち、制御点B(x,y
ref)に到達する角周波数ωの再生音の音圧P(x,y
ref,ω)は、以下の式(3)によって与えられる。
【0068】
音圧P(x,y
ref,ω)は、周波数領域における値である。式(3)において、D(x
0,0,ω)は、各スピーカの駆動信号を示し、G(x−x
0,y
ref,ω)は、各スピーカ403から制御点B(x,y
ref)までの伝達関数を示す。なお、伝達関数G(x−x
0,y
ref,ω)は、3次元自由空間におけるグリーン関数である。また、再生音の周波数をfとすると、再生音の角周波数ωは、2πfで表される(ω=2πf)。
【0069】
空間周波数領域変換部311は、上記の式(3)をフーリエ変換することにより、制御ライン上で実現する再生音の各周波数の音圧分布を周波数領域から空間周波数領域に変換する。式(3)をx軸方向にフーリエ変換すると畳み込み定理より、以下の式(4)が得られる。
【0071】
ここで、式(4)の「P」、「D」及び「G」に付された「〜」は、空間周波数領域における値であることを示す。kxは、x軸方向の空間周波数である。
【0072】
空間周波数処理部312は、空間周波数が表す平面波とスピーカアレイに沿ったアレイライン
に垂直な線とがなす角度(第1角度)と、アレイライン上の1つの点と制御ライン上の1つの点とを結ぶ直線とアレイラインとで表される角度(第2角度)とに基づいて、再生音の調整に使用する空間周波数を決定する。
【0073】
図3は、本実施の形態において再生音の調整に使用する空間周波数を決定する処理について説明するための模式図である。エリア再生を実現するためには、
図3に示すように、スピーカアレイSAと実質的に平行であって、スピーカアレイSAに沿ったアレイラインALから距離y
ref離間した位置に設定された制御ラインCL上に、スピーカアレイSAから放射された音波が強め合う再生ラインBLと音波が弱め合う非再生ラインDLとを定めればよい。
【0074】
空間周波数kxは、下記の式(5)で表される。
【0075】
kx=2πn/(NΔx)・・・(5)
ただし、Nは、複数のスピーカ403の個数である。nは、整数であり、−N/2≦n≦N/2−1を満たす。Δxは、複数のスピーカ403のうちの互いに隣接するスピーカ403の間隔である。
【0076】
空間周波数kxが表す平面波とアレイラインAL
に垂直な線とがなす角度θは、下記の式(6)で表される。
【0077】
θ=180/πasin(kx/(ω/c))・・・(6)
ただし、ωは、角周波数であり、cは、音速である。
【0078】
空間周波数処理部312は、角度θが、アレイラインALの中心と再生ラインBLの一方の端部とを結んだ直線と、アレイラインALとがなす角度α1(第3角度)よりも小さい場合は、角度θに対応する空間周波数kxを、再生音の調整に使用する空間周波数に決定する。そして、空間周波数処理部312は、決定した空間周波数kxの音圧Pkx(θ)の値をゼロとする。
【0079】
なお、本実施の形態では、制御ラインCLは直線状であるが、本開示は特にこれに限定されず、制御ラインCLは円弧状であってもよい。
【0080】
図4は、本実施の形態において、周波数領域における制御ライン上の音圧分布の一例を示す図であり、
図5は、本実施の形態において、空間周波数領域における制御ライン上の音圧分布の一例を示す図である。
図4及び
図5において、破線は、従来技術によるエリア再生方法を示し、実線は、本実施の形態によるエリア再生方法を示す。
【0081】
図4に示すように、従来技術では、周波数領域において、制御ラインCL上の非再生ラインDLの音圧を抑制している。
図4に示す音圧分布を周波数領域から空間周波数領域に変換した場合、
図5に示すように、従来技術では、空間周波数領域において、制御ラインCL上の非再生ラインDLの音圧が残っている。一方、本実施の形態では、空間周波数領域において、制御ラインCL上の非再生ラインDLの音圧がゼロとなっている。
【0082】
続いて、駆動信号変換部313は、上記の式(4)を用いて、空間周波数領域の音圧分布を空間周波数領域の駆動信号に変換する。空間周波数領域の駆動信号は、下記の式(7)で表される。
【0084】
スピーカ403に出力させる再生音信号をS(ω)、制御フィルタをF(x
0,0,ω)とすると、点Aにおけるスピーカの駆動信号D(x
0,0,ω)は、以下の式(8)によって表される。
【0086】
制御フィルタF(x
0,0,ω)は、再生音に依存しないため、以降、S(ω)=1とする。したがって、式(8)をx軸方向にフーリエ変換した結果と式(4)とから、以下の式(9)が得られる。
【0088】
エリア再生を実現する制御フィルタF(x,0,ω)は、空間周波数領域における制御フィルタを逆フーリエ変換することで、式(10)のように解析的に導出することができる。
【0090】
ここで、右辺のF
−1[ ]は逆フーリエ変換を示し、[ ]内に記載の式は空間周波数領域における制御フィルタを示している。
【0091】
ただし、式(10)は、スピーカアレイSAが備えるスピーカ403がx軸上に無限に並べて配置されているものとして得られる式である。実際には、スピーカアレイSAが備えるスピーカ403の数は有限であるので、制御フィルタF(x,0,ω)は離散化して導出する必要がある。
【0092】
具体的には、
図3に示すように、スピーカアレイSAが備えるスピーカ403の個数をNとし、各スピーカ403の配置間隔をΔxとし、スピーカアレイSA(アレイラインAL)のx軸方向の長さをLとする。この場合、離散化した制御フィルタF(x,0,ω)は、式(10)の右辺の[ ]内の式によって表される空間周波数領域における制御フィルタを離散逆フーリエ変換することによって、以下の式(11)のように解析的に導出することができる。
【0094】
制御フィルタ変換部314は、各スピーカ403の配置間隔Δxと、スピーカアレイSAが備えるスピーカ403の個数Nと、スピーカアレイSAから制御ラインCLまでのy軸方向の距離y
refとを式(11)に代入することによって、制御フィルタF(x,0,ω)を生成する。このように、制御フィルタ変換部314は、空間周波数領域の駆動信号を逆フーリエ変換することで、周波数領域の制御フィルタに変換する。制御フィルタ変換部314は、周波数領域の制御フィルタを畳み込み部302へ出力する。
【0095】
図6は、従来技術のエリア再生方法で再生したx−y軸平面における音圧分布を示す図であり、
図7は、本実施の形態のエリア再生方法で再生したx−y軸平面における音圧分布を示す図である。なお、
図6及び
図7において、幅35mmのスピーカ403をx軸上に64個(N=64)並べて配置することでスピーカアレイSAが構成されているとする。また、各スピーカ403の配置間隔Δxは、35mmであるとする。また、スピーカアレイSAに沿ったアレイラインALのx軸方向の中心に直交するラインをy軸とし、スピーカアレイSAと制御ラインCLまでの距離y
refは1mであるとする。また、制御ラインCLにおける再生ラインBLの幅lbは2mであり、再生ラインBLのx軸方向の中心は、y軸上(x=0)であるとする。
【0096】
図6の従来技術では、スピーカアレイSAから放射された再生音は、制御ラインCL上の再生ラインBLのみで聴取され、適切なエリア再生が行われているが、制御ラインCLより後方のエリア再生性能が劣化している。一方、
図7の本実施の形態では、スピーカアレイSAから放射された再生音は、制御ラインCL上だけでなく、制御ラインCLの後方でも非再生エリアの音圧が低下しており、制御ラインCLより後方のエリア再生性能の劣化を改善することができる。また、空間周波数領域の音圧分布では、サイドローブがなくなっているので、聴感上の再生音の聞こえやすさを向上させることができる。
【0097】
続いて、本実施の形態における、スピーカ403に出力させる再生音の調整動作について説明する。
【0098】
図8は、本実施の形態における再生音の調整動作の一例を示すフローチャートである。
【0099】
まず、ステップS1において、処理部30のフィルタ生成部301は、入力部10から再生条件を取得する。ユーザがタッチパネル101を用いて再生条件を指定すると、入力部10は、当該指定された再生条件を処理部30へ送信する。フィルタ生成部301は、入力部10によって送信された再生条件を受信する。
【0100】
ユーザによって指定される再生条件は、制御フィルタF(x,0,ω)の生成に必要な条件を含む。再生条件は、例えば、各スピーカ403の配置間隔Δx、スピーカアレイSAが備えるスピーカ403の個数N、スピーカアレイSAから制御ラインCLまでのy軸方向の距離y
ref、再生ラインBLの幅lb及び再生ラインBL上での再生音の音量を含む。再生条件は、制御ラインCLの幅を含んでもよい。なお、再生条件には、上記の条件の一部又は全ての条件が含まれていなくてもよい。
【0101】
次に、ステップS2において、処理部30のフィルタ生成部301は、データ部20から音源データを取得する。ユーザがタッチパネル101を用いて再生音の音源データ201の名称(以下、音源名)を指定すると、入力部10は当該指定された音源名をデータ部20へ送信する。データ部20は、入力部10から音源名を受信すると、当該音源名に対応する音源データ201を処理部30へ送信する。フィルタ生成部301は、データ部20によって送信された音源データを受信する。
【0102】
次に、ステップS3において、フィルタ生成部301の空間周波数領域変換部311は、上記の式(3)をフーリエ変換することにより、制御ラインCL上で実現する再生音の各周波数の音圧分布を周波数領域から空間周波数領域に変換する。
【0103】
次に、ステップS4において、空間周波数処理部312は、スピーカアレイSAと制御ラインCLとの位置関係に基づいて、空間周波数領域の音圧分布のうち、再生音の調整に使用する空間周波数を決定する。本実施の形態では、空間周波数処理部312は、角度θが、アレイラインALの中心と再生ラインの一方の端部とを結んだ直線と、アレイラインALとがなす角度α1よりも小さい場合は、角度θに対応する空間周波数kxを、再生音の調整に使用する空間周波数に決定する。
【0104】
次に、ステップS5において、空間周波数処理部312は、決定した空間周波数を用いて複数のスピーカ403のそれぞれに出力させる再生音の音圧を調整する。空間周波数処理部312は、決定した空間周波数kxの音圧Pkx(θ)の値をゼロとする。
【0105】
次に、ステップS6において、駆動信号変換部313は、空間周波数領域の音圧分布を空間周波数領域の駆動信号に変換する。
【0106】
次に、ステップS7において、制御フィルタ変換部314は、空間周波数領域の駆動信号を離散逆フーリエ変換することによって、空間周波数領域の駆動信号を周波数領域の制御フィルタに変換する。制御フィルタ変換部314は、各スピーカ403の配置間隔Δxと、スピーカアレイSAが備えるスピーカ403の個数Nと、スピーカアレイSAから制御ラインCLまでのy軸方向の距離y
refとを上記の式(11)に代入することによって、制御フィルタF(x,0,ω)を生成する。
【0107】
なお、ステップS1で取得された再生条件に再生ラインBL上での再生音の音量が含まれている場合、制御フィルタ変換部314は、生成した制御フィルタF(x,0,ω)に対し、所定の最大音量に対する再生条件が示す再生音の音量の比率r(=再生音の音量/最大音量)を乗算した結果r・F(x,0,ω)を、制御フィルタF(x,0,ω)として生成してもよい。
【0108】
また、上述のように、ステップS1で取得された上記の再生条件の一部又は全ての条件が含まれていない場合がある。例えば、各スピーカ403の配置間隔Δx及びスピーカアレイSAが備えるスピーカ403の個数Nが再生条件に含まれていない場合、制御フィルタ変換部314は、予め記憶されている、各スピーカ403の配置間隔Δx及びスピーカアレイSAが備えるスピーカ403の個数NをROM等から取得してもよい。
【0109】
また、スピーカアレイSAから制御ラインCLまでのy軸方向の距離y
refが再生条件に含まれていない場合、制御フィルタ変換部314は、エリア再生システム1に含まれる又は外部に備えられた不図示の所定のセンサから、人物の位置に関する情報を取得してもよい。そして、制御フィルタ変換部314は、当該取得した人物の位置に関する情報に基づいて、制御ラインCLを設定するための距離y
refの条件を設定してもよい。
【0110】
具体的には、上記所定のセンサは、例えばカメラ又は熱画像を取得するセンサ等を含む。上記所定のセンサは、再生部40と同一の装置内に組み込まれてもよいし、エリア再生システム1の外部に備えられてもよい。上記所定のセンサは、出力信号を処理部30へ送信できればよい。
【0111】
例えば、上記所定のセンサとして、スピーカアレイSAと同じx軸上にy軸方向を撮像する不図示のカメラが設けられているとする。この場合、制御フィルタ変換部314は、当該カメラが出力した撮像画像を取得し、公知の画像認識技術等を用いて、当該撮像画像内に人物が含まれているか否かを認識する。そして、制御フィルタ変換部314は、当該撮像画像内に人物が含まれていることを認識した場合、当該認識した人物を示す画像の大きさと撮像画像の大きさとの比率等に基づき、x軸から当該人物の位置までのy軸方向の距離を算出する。
【0112】
また、上記所定のセンサとして、x軸から当該人物の位置までのy軸方向の距離を測定し、当該測定した距離を示す信号を処理部30へ出力可能なセンサ(例えば、深度センサ)が設けられているとする。この場合、制御フィルタ変換部314は、当該センサの出力信号が示す、x軸から当該人物の位置までのy軸方向の距離を取得する。
【0113】
そして、制御フィルタ変換部314は、x軸から上記人物の位置までのy軸方向の距離を、スピーカアレイSAから制御ラインCLまでのy軸方向の距離y
refとして設定する。
【0114】
また、再生ラインBLの幅lbが再生条件に含まれていなかった場合、制御フィルタ変換部314は、予め記憶されている、例えば人物の横幅程度に予め定められた固定値(例えば、1m)をROM等から取得してもよい。
【0115】
このように、制御フィルタ変換部314は、ユーザに制御ラインCLの設定に必要な再生条件の指定の手間をかけさせることなく、所定のセンサから取得した人物の位置に関する情報に基づいて再生条件を自動的に設定することができる。これにより、制御フィルタ変換部314は、制御ラインCLを自動的に設定することができる。
【0116】
次に、ステップS8において、畳み込み部302は、取得した音源データ201に対応する再生音信号S(2πf)に、フィルタ生成部301によって生成された制御フィルタF(x,0,2πf)を畳み込んだ駆動信号D(x,0,2πf)(D(x,0,2πf)=S(2πf)F(x,0,2πf))を生成する。畳み込み部302は、生成した駆動信号D(x,0,2πf)を再生部40へ送信する。
【0117】
次に、ステップS9において、再生部40は、受信した駆動信号D(x,0,2πf)で各スピーカ403を駆動することにより、各スピーカ403に再生音を出力させる。
【0118】
続いて、本実施の形態の第1の変形例について説明する。上記の実施の形態では、空間周波数処理部312は、空間周波数が表す平面波とアレイラインAL
に垂直な線とがなす角度θが、アレイラインALの中心と再生ラインの一方の端部とを結んだ直線と、アレイラインALとがなす角度α1よりも小さい場合は、角度θに対応する空間周波数kxを、再生音の調整に使用する空間周波数に決定している。これに対し、本実施の形態の第1の変形例では、空間周波数処理部312は、角度θが、アレイラインALの中心と制御ラインの一方の端部とを結んだ直線と、アレイラインALとがなす角度(第4角度)よりも小さい場合は、角度θに対応する空間周波数kxを、再生音の調整に使用する空間周波数に決定する。
【0119】
図9は、本実施の形態の第1の変形例において再生音の調整に使用する空間周波数を決定する処理について説明するための模式図である。
【0120】
本実施の形態の第1の変形例において、空間周波数kxは、上記の式(5)で表され、空間周波数kxが表す平面波とアレイラインAL
に垂直な線とがなす角度θは、上記の式(6)で表される。
【0121】
空間周波数処理部312は、角度θが、アレイラインALの中心と制御ラインCLの一方の端部とを結んだ直線と、アレイラインALとがなす角度α2よりも小さい場合は、角度θに対応する空間周波数kxを、再生音の調整に使用する空間周波数に決定する。そして、空間周波数処理部312は、決定した空間周波数kxの音圧Pkx(θ)の値をゼロとする。
【0122】
図10は、本実施の形態の第1の変形例において、周波数領域における制御ライン上の音圧分布の一例を示す図であり、
図11は、本実施の形態の第1の変形例において、空間周波数領域における制御ライン上の音圧分布の一例を示す図である。
図10及び
図11において、破線は、従来技術によるエリア再生方法を示し、実線は、本実施の形態によるエリア再生方法を示す。
【0123】
図10に示すように、従来技術では、周波数領域において、制御ラインCL上の非再生ラインDLの音圧を抑制している。
図10に示す音圧分布を周波数領域から空間周波数領域に変換した場合、
図11に示すように、従来技術では、空間周波数領域において、制御ラインCL上の非再生ラインDLの全ての音圧が残っている。一方、本実施の形態の第1の変形例では、空間周波数領域において、制御ラインCL上の非再生ラインDLの一部の音圧がゼロとなっている。
【0124】
図12は、本実施の形態の第1の変形例のエリア再生方法で再生したx−y軸平面における音圧分布を示す図である。なお、
図12において、幅35mmのスピーカ403をx軸上に64個(N=64)並べて配置することでスピーカアレイSAが構成されているとする。また、各スピーカ403の配置間隔Δxは、35mmであるとする。また、スピーカアレイSAのx軸方向の中心に直交するラインをy軸とし、スピーカアレイSAと制御ラインCLまでの距離y
refは1mであるとする。また、制御ラインCLにおける再生ラインBLの幅lbは2mであり、再生ラインBLのx軸方向の中心は、y軸上(x=0)であるとする。
【0125】
図6の従来技術では、スピーカアレイSAから放射された再生音は、制御ラインCL上の再生ラインBLのみで聴取され、適切なエリア再生が行われているが、制御ラインCLより後方のエリア再生性能が劣化している。一方、
図12の本実施の形態の第1の変形例では、スピーカアレイSAから放射された再生音は、制御ラインCL上だけでなく、制御ラインCLの後方でも非再生エリアの音圧が低下しており、制御ラインCLより後方のエリア再生性能の劣化を改善することができる。また、空間周波数領域の音圧分布では、サイドローブがなくなっているので、聴感上の再生音の聞こえやすさを向上させることができる。
【0126】
続いて、本実施の形態の第2の変形例について説明する。本実施の形態の第2の変形例では、空間周波数処理部312は、角度θが、アレイラインALの一方の端部と再生ラインの他方の端部とを結んだ直線と、アレイラインALとがなす角度(第5角度)よりも小さい場合は、角度θに対応する空間周波数kxを、再生音の調整に使用する空間周波数に決定する。
【0127】
図13は、本実施の形態の第2の変形例において再生音の調整に使用する空間周波数を決定する処理について説明するための模式図である。
【0128】
本実施の形態の第2の変形例において、空間周波数kxは、上記の式(5)で表され、空間周波数kxが表す平面波とアレイラインAL
に垂直な線とがなす角度θは、上記の式(6)で表される。
【0129】
空間周波数処理部312は、角度θが、アレイラインALの一方の端部と再生ラインBLの他方の端部とを結んだ直線と、アレイラインALとがなす角度α3よりも小さい場合は、角度θに対応する空間周波数kxを、再生音の調整に使用する空間周波数に決定する。そして、空間周波数処理部312は、決定した空間周波数kxの音圧Pkx(θ)の値をゼロとする。
【0130】
図14は、本実施の形態の第2の変形例において、周波数領域における制御ライン上の音圧分布の一例を示す図であり、
図15は、本実施の形態の第2の変形例において、空間周波数領域における制御ライン上の音圧分布の一例を示す図である。
図14及び
図15において、破線は、従来技術によるエリア再生方法を示し、実線は、本実施の形態によるエリア再生方法を示す。
【0131】
図14に示すように、従来技術では、周波数領域において、制御ラインCL上の非再生ラインDLの音圧を抑制している。
図14に示す音圧分布を周波数領域から空間周波数領域に変換した場合、
図15に示すように、従来技術では、空間周波数領域において、制御ラインCL上の非再生ラインDLの全ての音圧が残っている。一方、本実施の形態の第2の変形例では、空間周波数領域において、制御ラインCL上の非再生ラインDLの一部の音圧がゼロとなっている。
【0132】
図16は、本実施の形態の第2の変形例のエリア再生方法で再生したx−y軸平面における音圧分布を示す図である。なお、
図16において、幅35mmのスピーカ403をx軸上に64個(N=64)並べて配置することでスピーカアレイSAが構成されているとする。また、各スピーカ403の配置間隔Δxは、35mmであるとする。また、スピーカアレイSAのx軸方向の中心に直交するラインをy軸とし、スピーカアレイSAと制御ラインCLまでの距離y
refは1mであるとする。また、制御ラインCLにおける再生ラインBLの幅lbは2mであり、再生ラインBLのx軸方向の中心は、y軸上(x=0)であるとする。
【0133】
図6の従来技術では、スピーカアレイSAから放射された再生音は、制御ラインCL上の再生ラインBLのみで聴取され、適切なエリア再生が行われているが、制御ラインCLより後方のエリア再生性能が劣化している。一方、
図16の本実施の形態の第2の変形例では、スピーカアレイSAから放射された再生音は、制御ラインCL上だけでなく、制御ラインCLの後方でも非再生エリアの音圧が低下しており、制御ラインCLより後方のエリア再生性能の劣化を改善することができる。また、空間周波数領域の音圧分布では、サイドローブがなくなっているので、聴感上の再生音の聞こえやすさを向上させることができる。
【0134】
続いて、本実施の形態の第3の変形例について説明する。本実施の形態の第3の変形例では、空間周波数処理部312は、角度θが、アレイラインALの一方の端部と制御ラインの他方の端部とを結んだ直線と、アレイラインALとがなす角度(第6角度)よりも小さい場合は、角度θに対応する空間周波数kxを、再生音の調整に使用する空間周波数に決定する。
【0135】
図17は、本実施の形態の第3の変形例において再生音の調整に使用する空間周波数を決定する処理について説明するための模式図である。
【0136】
本実施の形態の第3の変形例において、空間周波数kxは、上記の式(5)で表され、空間周波数kxが表す平面波とアレイラインAL
に垂直な線とがなす角度θは、上記の式(6)で表される。
【0137】
空間周波数処理部312は、角度θが、アレイラインALの一方の端部と制御ラインCLの他方の端部とを結んだ直線と、アレイラインALとがなす角度α4よりも小さい場合は、角度θに対応する空間周波数kxを、再生音の調整に使用する空間周波数に決定する。そして、空間周波数処理部312は、決定した空間周波数kxの音圧Pkx(θ)の値をゼロとする。
【0138】
図18は、本実施の形態の第3の変形例において、周波数領域における制御ライン上の音圧分布の一例を示す図であり、
図19は、本実施の形態の第3の変形例において、空間周波数領域における制御ライン上の音圧分布の一例を示す図である。
図18及び
図19において、破線は、従来技術によるエリア再生方法を示し、実線は、本実施の形態によるエリア再生方法を示す。
【0139】
図18に示すように、従来技術では、周波数領域において、制御ラインCL上の非再生ラインDLの音圧を抑制している。
図18に示す音圧分布を周波数領域から空間周波数領域に変換した場合、
図19に示すように、従来技術では、空間周波数領域において、制御ラインCL上の非再生ラインDLの全ての音圧が残っている。一方、本実施の形態の第3の変形例では、空間周波数領域において、制御ラインCL上の非再生ラインDLの一部の音圧がゼロとなっている。
【0140】
図20は、本実施の形態の第3の変形例のエリア再生方法で再生したx−y軸平面における音圧分布を示す図である。なお、
図20において、幅35mmのスピーカ403をx軸上に64個(N=64)並べて配置することでスピーカアレイSAが構成されているとする。また、各スピーカ403の配置間隔Δxは、35mmであるとする。また、スピーカアレイSAのx軸方向の中心に直交するラインをy軸とし、スピーカアレイSAと制御ラインCLまでの距離y
refは1mであるとする。また、制御ラインCLにおける再生ラインBLの幅lbは2mであり、再生ラインBLのx軸方向の中心は、y軸上(x=0)であるとする。
【0141】
図6の従来技術では、スピーカアレイSAから放射された再生音は、制御ラインCL上の再生ラインBLのみで聴取され、適切なエリア再生が行われているが、制御ラインCLより後方のエリア再生性能が劣化している。一方、
図20の本実施の形態の第3の変形例では、スピーカアレイSAから放射された再生音は、制御ラインCL上だけでなく、制御ラインCLの後方でも非再生エリアの音圧が低下しており、制御ラインCLより後方のエリア再生性能の劣化を改善することができる。また、空間周波数領域の音圧分布では、サイドローブがなくなっているので、聴感上の再生音の聞こえやすさを向上させることができる。
【0142】
続いて、本実施の形態の第4の変形例について説明する。本実施の形態の第4の変形例では、空間周波数処理部312は、空間周波数の所定の閾値の幅を有する所定の窓関数を空間周波数領域の音圧分布に乗算する。ここで、窓関数は、例えば、矩形窓又はハニング窓であってもよい。
【0143】
図21は、本実施の形態の第4の変形例において再生音の調整に使用する窓関数の一例を示す図である。
図21に示す窓関数は、ハニング窓である。
【0144】
本実施の形態の第4の変形例において、空間周波数kxは、上記の式(5)で表される。
【0145】
空間周波数処理部312は、空間周波数の所定の閾値の幅のハニング窓を空間周波数領域の音圧分布に乗算する。
【0146】
図22は、本実施の形態の第4の変形例において、周波数領域における制御ライン上の音圧分布の一例を示す図であり、
図23は、本実施の形態の第4の変形例において、空間周波数領域における制御ライン上の音圧分布の一例を示す図である。
図22及び
図23において、破線は、従来技術によるエリア再生方法を示し、実線は、本実施の形態によるエリア再生方法を示す。
【0147】
図22に示すように、従来技術では、周波数領域において、制御ラインCL上の非再生ラインDLの音圧を抑制している。
図22に示す音圧分布を周波数領域から空間周波数領域に変換した場合、
図23に示すように、従来技術では、空間周波数領域において、制御ラインCL上の非再生ラインDLの全ての音圧が残っている。一方、本実施の形態の第4の変形例では、空間周波数領域において、制御ラインCL上の非再生ラインDLの音圧がゼロとなっている。
【0148】
図24は、従来技術のエリア再生方法で再生したx−y軸平面における音圧分布を示す図であり、
図25は、本実施の形態の第4の変形例のエリア再生方法で再生したx−y軸平面における音圧分布を示す図である。なお、
図24及び
図25において、幅35mmのスピーカ403をx軸上に64個(N=64)並べて配置することでスピーカアレイSAが構成されているとする。また、各スピーカ403の配置間隔Δxは、35mmであるとする。また、スピーカアレイSAのx軸方向の中心に直交するラインをy軸とし、スピーカアレイSAと制御ラインCLまでの距離y
refは1mであるとする。また、制御ラインCLにおける再生ラインBLの幅lbは2mであり、再生ラインBLのx軸方向の中心は、y軸上(x=0)であるとする。また、空間周波数処理部312は、
図21に示すハニング窓を空間周波数領域の音圧分布に乗算している。
【0149】
図24の従来技術では、スピーカアレイSAから放射された再生音は、制御ラインCL上の再生ラインBLのみで聴取され、適切なエリア再生が行われているが、制御ラインCLより後方のエリア再生性能が劣化している。一方、
図25の本実施の形態の第4の変形例では、スピーカアレイSAから放射された再生音は、制御ラインCL上だけでなく、制御ラインCLの後方でも非再生エリアの音圧が低下しており、制御ラインCLより後方のエリア再生性能の劣化を改善することができる。また、空間周波数領域の音圧分布では、サイドローブがなくなっているので、聴感上の再生音の聞こえやすさを向上させることができる。
【0150】
なお、本実施の形態では、制御ラインCLは、1つの再生ラインBLを含んでいるが、本開示は特にこれに限定されず、制御ラインCLは、複数の再生ラインBLを含んでもよい。すなわち、スピーカアレイSAが存在する空間内に複数の人物が存在する場合、エリア再生システムは、複数の人物のそれぞれに対して異なる再生音を出力することが可能である。
【0151】
図26は、本実施の形態の第5の変形例において複数の再生ラインを含む制御ラインについて説明するための模式図である。
図26に示す制御ラインCLは、第1の再生ラインBL1と、第2の再生ラインBL2とを含む。
【0152】
タッチパネル101は、ユーザによる再生条件の入力を受け付ける。このとき、再生条件は、例えば、各スピーカ403の配置間隔Δx、スピーカアレイSAが備えるスピーカ403の個数N、スピーカアレイSAから制御ラインCLまでのy軸方向の距離y
ref、第1の再生ラインBL1の幅lb1、第1の再生ラインBL1上での再生音の音量、第2の再生ラインBL2の幅lb2及び第2の再生ラインBL2上での再生音の音量を含む。処理部30は、データ部20から、第1の再生ラインBL1上で再生する第1の音源データと、第2の再生ラインBL2上で再生する第2の音源データとを取得する。
【0153】
M個の音源s
i(ω)をM箇所の別々の再生ラインで再生するためには、各再生ライン位置での制御フィルタF
iと、対応する音源s
iとの組み合わせs
i(ω)F
i(x
0,ω)の重ね合わせにより、駆動信号D(x
0,ω)が算出される。つまり、フィルタ生成部301は、音源s
iと、各スピーカ403の制御フィルタF
iによって各スピーカ403を駆動するための駆動信号D
iを生成し、各スピーカを駆動する。再生部40は、複数の再生ラインのそれぞれに互いに異なる再生音を出力する。
【0154】
以上、本開示の実施の形態について説明したが、各処理が実施される主体又は装置は、上記の実施の形態に記載したものに限定されない。各処理は、エリア再生システム1が備える特定の装置(以下、ローカルの装置)内に組み込まれたプロセッサ等によって処理されてもよい。また、ローカルの装置と異なる場所に備えられたクラウドサーバなどによって処理されてもよい。また、ローカルの装置とクラウドサーバとの間で情報の連携を行うことで、本開示にて説明した各処理を分担して実施するようにしてもよい。以下、本開示の実施態様を説明する。
【0155】
(1)上記の各装置は、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAM、ハードディスクユニット、ディスプレイユニット、キーボード及びマウスなどから構成されるコンピュータシステムである。RAM又はハードディスクユニットには、コンピュータプログラムが記憶されている。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、各装置は、その機能を達成する。ここでコンピュータプログラムは、所定の機能を達成するために、コンピュータに対する指令を示す命令コードが複数個組み合わされて構成されたものである。
【0156】
(2)上記の各装置を構成する構成要素の一部又は全部は、1個のシステムLSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)から構成されていてもよい。システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIである。具体的には、システムLSIは、マイクロプロセッサ、ROM及びRAMなどを含んで構成されるコンピュータシステムである。RAMには、コンピュータプログラムが記憶されている。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。
【0157】
(3)上記の各装置を構成する構成要素の一部又は全部は、各装置に脱着可能なICカード又は単体のモジュールで構成されていてもよい。ICカード又はモジュールは、マイクロプロセッサ、ROM及びRAMなどから構成されるコンピュータシステムである。ICカード又はモジュールは、上記の超多機能LSIを含むとしてもよい。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、ICカード又はモジュールは、その機能を達成する。
【0158】
(4)本開示は、上記に示したエリア再生システム1における処理方法であるとしてもよい。また、当該処理方法をコンピュータにより実現するコンピュータプログラムであるとしてもよいし、コンピュータプログラムからなるデジタル信号であるとしてもよい。
【0159】
(5)また、本開示は、コンピュータプログラム又はコンピュータプログラムからなるデジタル信号をコンピュータで読み取り可能な記録媒体、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO、DVD、DVD−ROM、DVD−RAM、BD(Blu−ray(登録商標) Disc)又は半導体メモリなどに記録したものとしてもよい。また、これらの記録媒体に記録されているデジタル信号であるとしてもよい。
【0160】
また、本開示は、コンピュータプログラム又はコンピュータプログラムからなるデジタル信号を、電気通信回線、無線又は有線通信回線、インターネットを代表とするネットワーク又はデータ放送等を経由して伝送するものとしてもよい。
【0161】
また、本開示は、マイクロプロセッサとメモリとを備えたコンピュータシステムであって、メモリは、上記コンピュータプログラムを記憶しており、マイクロプロセッサは、コンピュータプログラムにしたがって動作するとしてもよい。
【0162】
また、プログラム又はデジタル信号を記録媒体に記録して移送することにより、又はプログラム又はデジタル信号を、ネットワーク等を経由して移送することにより、独立した他のコンピュータシステムにより実施するとしてもよい。
【0163】
(6)上記実施の形態及びその変形例をそれぞれ組み合わせてもよい。