【文献】
Science,Vol. 216, No. 4551,1982年,pp. 1233-1235
【文献】
Blood,1993年,Vol. 81, No. 11,pp. 2885-2890
【文献】
Biomaterials,2012年,Vol. 33,pp. 3195-3204
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
血小板産生能が増大した巨核球又は巨核球前駆細胞を含む培養物の製造方法であって、巨核球特異的に発現する遺伝子を発現しない細胞が致死する条件下で、巨核球又は巨核球への分化能を有する細胞であって、多能性幹細胞に由来する細胞を含む細胞群を培養する工程を含み、
(i)前記細胞群が、ピューロマイシン耐性遺伝子で形質転換されており、該ピューロマイシン耐性遺伝子が、前記巨核球特異的に発現する遺伝子であって、CD41a、CD42a、CD42b、CD9、CD61、CD62P、GATA1、NF-E2、β−チューブリン及びPlatelet Factor 4から成る群から選択される細胞表面マーカーをコードする遺伝子のプロモーターの制御下に配置されており、前記培養工程でピューロマイシンが添加されるか、あるいは
(ii)前記細胞群が、不所望の細胞を死滅させる致死遺伝子で形質転換されており、前記不所望の細胞が、巨核球特異的に発現する遺伝子であって、CD41a、CD42a、CD42b、CD9、CD61、CD62P、GATA1、NF-E2、β−チューブリン及びPlatelet Factor 4から成る群から選択される細胞表面マーカーをコードする遺伝子を発現しない細胞であり、
前記致死遺伝子が、前記巨核球特異的に発現する遺伝子を発現しない細胞で特異的に発現する遺伝子のプロモーターの制御下に配置されており、
前記培養工程の後の巨核球又は巨核球前駆細胞の細胞あたりの血小板産生能が、前記培養工程を欠く方法により製造される巨核球又は巨核球前駆細胞の細胞あたりの血小板産生能と比較して高い、方法。
前記巨核球への分化能を有する細胞が造血幹細胞、造血前駆細胞、CD34陽性細胞及び巨核球前駆細胞から成る群から選択される少なくとも1種以上である、請求項1又は2に記載の方法。
血小板産生能が増大した巨核球又は巨核球前駆細胞の拡大培養方法であって、巨核球特異的に発現する遺伝子を発現しない細胞が致死する条件下で、巨核球又は巨核球への分化能を有する細胞であって、多能性幹細胞に由来する細胞を含む細胞群を培養する工程を含み、
(i)前記細胞群が、ピューロマイシン耐性遺伝子で形質転換されており、該ピューロマイシン耐性遺伝子が、前記巨核球特異的に発現する遺伝子であって、CD41a、CD42a、CD42b、CD9、CD61、CD62P、GATA1、NF-E2、β−チューブリン及びPlatelet Factor 4から成る群から選択される細胞表面マーカーをコードする遺伝子のプロモーターの制御下に配置されており、前記培養工程でピューロマイシンが添加されるか、あるいは
(ii)前記細胞群が、不所望の細胞を死滅させる致死遺伝子で形質転換されており、前記不所望の細胞が、巨核球特異的に発現する遺伝子であって、CD41a、CD42a、CD42b、CD9、CD61、CD62P、GATA1、NF-E2、β−チューブリン及びPlatelet Factor 4から成る群から選択される細胞表面マーカーをコードする遺伝子を発現しない細胞であり、
前記致死遺伝子が、前記巨核球特異的に発現する遺伝子を発現しない細胞で特異的に発現する遺伝子のプロモーターの制御下に配置されており、
前記培養工程の後の巨核球又は巨核球前駆細胞の細胞あたりの血小板産生能が、前記培養工程を欠く方法により製造される巨核球又は巨核球前駆細胞の細胞あたりの血小板産生能と比較して高い、方法。
巨核球又は巨核球前駆細胞の血小板産生能を増大する方法であって、巨核球特異的に発現する遺伝子を発現しない細胞が致死する条件下で、巨核球又は巨核球への分化能を有する細胞であって、多能性幹細胞に由来する細胞を含む細胞群を培養する工程を含み、
(i)前記細胞群が、ピューロマイシン耐性遺伝子で形質転換されており、該ピューロマイシン耐性遺伝子が、前記巨核球特異的に発現する遺伝子であって、CD41a、CD42a、CD42b、CD9、CD61、CD62P、GATA1、NF-E2、β−チューブリン及びPlatelet Factor 4から成る群から選択される細胞表面マーカーをコードする遺伝子のプロモーターの制御下に配置されており、前記培養工程でピューロマイシンが添加されるか、あるいは
(ii)前記細胞群が、不所望の細胞を死滅させる致死遺伝子で形質転換されており、前記不所望の細胞が、巨核球特異的に発現する遺伝子であって、CD41a、CD42a、CD42b、CD9、CD61、CD62P、GATA1、NF-E2、β−チューブリン及びPlatelet Factor 4から成る群から選択される細胞表面マーカーをコードする遺伝子を発現しない細胞であり、
前記致死遺伝子が、前記巨核球特異的に発現する遺伝子を発現しない細胞で特異的に発現する遺伝子のプロモーターの制御下に配置されており、
前記培養工程の後の巨核球又は巨核球前駆細胞の細胞あたりの血小板産生能が、前記培養工程を欠く方法により製造される巨核球又は巨核球前駆細胞の細胞あたりの血小板産生能と比較して高い、方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トロンボポエチン(TPO)等のサイトカインは、造血前駆細胞を巨核球細胞へ特異的に分化誘導することができる(Takayama N. et al., Blood(上掲))。しかしながら、従来の分化誘導方法で産生された巨核球細胞は分化形質(CD41a陽性、CD42a陽性、又はCD42b陽性)を長期間維持することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、巨核球特異的な細胞表面マーカーを発現しない細胞のみが致死する条件下で巨核球細胞への分化誘導を行ったところ、驚くべきことに、得られた巨核球細胞は分化形質を長期間安定して維持することができ、また、細胞当たりの血小板産生能が極めて高いことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本願は以下の発明を包含する。
[1]巨核球又は巨核球前駆細胞の培養物の製造方法であって、巨核球特異的に発現する遺伝子を発現しない細胞が致死する条件下で、巨核球又は巨核球への分化能を有する細胞を含む細胞群を培養する工程を含む、方法。
[2]前記細胞群が、細胞毒性を示す薬剤に対する耐性遺伝子で形質転換されており、該薬剤耐性遺伝子が、前記巨核球特異的に発現する遺伝子のプロモーターの制御下に配置されており、前記培養工程で前記薬剤が添加される、[1]に記載の方法。
[3]前記細胞群が、前記巨核球特異的に発現する遺伝子を発現しない細胞を致死させる遺伝子で形質転換されており、該遺伝子が、前記巨核球特異的に発現する遺伝子を発現しない細胞で特異的に発現する遺伝子のプロモーターの制御下に配置されている、[1]に記載の方法。
[4]前記巨核球特異的に発現する遺伝子が、巨核球特異的に発現する細胞表面マーカーをコードする遺伝子である、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記巨核球特異的に発現する細胞表面マーカーがCD41a、CD42a及び/又はCD42bである、[4]に記載の方法。
[6]前記巨核球への分化能を有する細胞が造血幹細胞、造血前駆細胞、CD34陽性細胞及び巨核球前駆細胞から成る群から選択される少なくとも1種以上である、[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記培養工程が血清及び/又はフィーダー細胞の不在下で実施される、[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]製造される培養物中の巨核球が分化形質を維持しており、且つその血小板産生能が増大している、[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9]前記細胞群が前記プロモーターと前記薬剤耐性遺伝子又は致死遺伝子とを作用可能に連結したベクターで形質転換されている、[2]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10]前記薬剤耐性遺伝子がピューロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子、及びヒスチジノール耐性遺伝子から成る群から選択される少なくとも1種以上である、[2]、[4]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[11]前記致死遺伝子がHSV-TK遺伝子、シトクロムC遺伝子及びMule/ARF-BP-1遺伝子から成る群から選択される少なくとも1種以上である、[3]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[12]前記培養工程がTPOおよびSCFを含有する培養液中で実施される、[1]〜[11]のいずれかに記載の方法。
[13]前記細胞群が、造血前駆細胞へc-MYC、BMI1及びBCL-xLを導入して製造される細胞を含む、請求項1に記載の方法。
[14]血小板の製造方法であって、[1]〜[10]のいずれかに記載の方法で製造された巨核球を用いることを特徴とする、方法。
[15]巨核球又は巨核球前駆細胞の拡大培養方法であって、巨核球特異的に発現する遺伝子を発現しない細胞が致死する条件下で、巨核球又は巨核球への分化能を有する細胞を含む細胞群を培養する工程を含む、方法。
[16]前記細胞群が、細胞毒性を示す薬剤に対する耐性遺伝子で形質転換されており、該薬剤耐性遺伝子が、前記巨核球特異的に発現する遺伝子のプロモーターの制御下に配置されており、前記培養工程で前記薬剤が添加される、[15]に記載の方法。
[17]前記巨核球特異的に発現する遺伝子が、巨核球特異的に発現する細胞表面マーカーをコードする遺伝子である、[15]又は[16]に記載の方法。
[18]前記巨核球特異的に発現する細胞表面マーカーがCD41a、CD42a及び/又はCD42bである、[17]に記載の方法。
[19]前記巨核球への分化能を有する細胞が造血幹細胞、造血前駆細胞、CD34陽性細胞及び巨核球前駆細胞から成る群から選択される少なくとも1種以上である、[15]〜[18]のいずれかに記載の方法。
[20]前記培養工程が血清及び/又はフィーダー細胞の不在下で実施される、[15]〜[19]のいずれかに記載の方法。
[21]拡大培養後の巨核球が分化形質を維持しており、且つその血小板産生能が増大している、[15]〜[20]のいずれかに記載の方法。
[22]前記細胞群が前記プロモーターと前記薬剤耐性遺伝子とを作用可能に連結したベクターで形質転換されている、[15]〜[21]のいずれかに記載の方法。
[23]前記薬剤耐性遺伝子がピューロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子、及びヒスチジノール耐性遺伝子から成る群から選択される少なくとも1種以上である、[15]〜[22]のいずれかに記載の方法。
[24]前記培養工程がTPOおよびSCFを含有する培養液中で実施される、[15]〜[23]のいずれかに記載の方法。
[25]前記細胞群が、造血前駆細胞へc-MYC、BMI1及びBCL-xLを導入して製造される細胞を含む、[15]〜[24]のいずれかに記載の方法。
[26]巨核球特異的に発現する遺伝子を発現しない細胞が致死する条件下で、巨核球又は巨核球への分化能を有する細胞を含む細胞群を培養することによって製造される培養物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、長期間分化形質の維持が可能な巨核球細胞が製造される。製造過程で他の細胞系へ分化する細胞が排除されることによる、細胞集団あたりの血小板生産量の増大のみならず、本発明により得られる巨核球は、細胞あたりの血小板産生能が増大する点で極めて驚くべきものである。これらの観点から、本願発明の製造方法は従来技術と比較して極めて有利なものと言える。
【0009】
また、本発明の製造方法は自己増殖能を有する巨核球細胞株の樹立効率を向上させることもできる。更に、本発明の製造方法は、血清及びフィーダー細胞なしで巨核球細胞株を大量に増殖させることもできるため、得られた血小板を臨床的に用いる場合に免疫原性の問題が生じにくいという利点もある。フィーダー細胞を用いないで細胞培養または血小板生産をすることができれば、フラスコなどでの浮遊培養が可能になり、その結果、製造コストを抑制できるとともに、血小板の大量生産が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(巨核球細胞の製造方法)
本発明に係る巨核球の製造方法は、巨核球特異的に発現する遺伝子を発現しない細胞が致死する条件下で、巨核球又は巨核球への分化能を有する細胞を含む細胞群を培養する工程を含む。巨核球細胞に特異的に発現する遺伝子として、例えば、CD41a、CD42a、CD42b、CD9、CD61、CD62Pなどの細胞表面マーカーや、巨核球細胞特異的に発現する遺伝子であるGATA1、NF-E2、β−チューブリン(beta-tubulin)、Platelet Factor 4などが例示される。巨核球細胞特異的に発現する遺伝子を発現しない細胞の致死条件は、巨核球以外の細胞又は巨核球に分化しない細胞に対してのみ致死作用を示し、巨核球に分化する細胞、巨核球前駆細胞、巨核球細胞、又は成熟した巨核球細胞等に致死作用を示さないというような条件であれば特に限定されない。例えば、巨核球細胞、巨核球前駆細胞等にのみ薬剤耐性を付与した後、対応する薬剤で不所望の細胞を死滅させる系や、不所望の細胞においてのみ致死性の遺伝子が発現するような系が想定される。
【0012】
すなわち、本発明の第一の態様においては、巨核球細胞特異的に活性化されるプロモーターにより薬剤耐性遺伝子が駆動されるような培養系において、対応する薬剤の存在下、巨核球細胞に分化する能力を有する細胞又は巨核球細胞を含む細胞群を培養することにより巨核球特異的に発現する遺伝子を発現しない細胞のみを死滅させることができる。かかる培養系は、例えば、薬剤耐性遺伝子を巨核球細胞特異的な発現をする遺伝子のプロモーターの制御下に置くことで構築することができる。その結果、巨核球特異的な細胞表面マーカーを発現する細胞のみに薬剤耐性を付与することができる。好ましい態様において、薬剤耐性の付与は、プロモーターと、その下流に配置された薬剤耐性遺伝子とが作用可能に連結しているベクターを培養前の細胞に導入することで行われる。
【0013】
巨核球細胞特異的に活性化されるプロモーターとして、Integrin αIIBβ3(CD41a)遺伝子のプロモーター領域が挙げられる(Wilcox D.A., et al., Blood (2000), Fang J., et al., Blood (2005))。その他、巨核球細胞特異的に発現する細胞表面マーカーであるCD42a遺伝子、CD42b遺伝子等のプロモーター、または巨核球細胞特異的に発現する遺伝子であるGATA1、NF-E2、β−チューブリン、Platelet Factor 4等をコードする遺伝子のプロモーターを本発明において使用してもよい。
【0014】
薬剤耐性遺伝子の例として、ピューロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子及びヒスチジノール耐性遺伝子などが挙げられる。各遺伝子に対応する薬剤は、培養前の細胞が上記遺伝子で形質転換された後に培地中に添加される。
【0015】
本発明の第二の態様においては、巨核球特異的に発現する遺伝子を発現しない細胞に特異的なプロモーターにより致死遺伝子が駆動されるような培養系において、巨核球細胞に分化する能力を有する細胞又は巨核球細胞を培養することにより、当該プロモーターが機能する細胞のみを死滅させ、結果的に巨核球細胞を濃縮することができる。このようなプロモーターとして、巨核球特異的な細胞表面マーカーを発現しない細胞に特異的な細胞表面マーカー(例えば赤血球の場合、CD235、など)のプロモーター等が挙げられる。このようなプロモーターの制御下に致死遺伝子、例えばHSV-TK遺伝子、シトクロムC遺伝子、Mule/ARF-BP-1遺伝子を配置して駆動させることにより巨核球細胞に分化しない細胞を排除することができる。
【0016】
薬剤耐性遺伝子や致死遺伝子の発現は、遺伝子発現誘導システム、例えば、Tet-on(登録商標)又はTet-off(登録商標)システム等で調節することができる。
【0017】
上記態様において、巨核球又は巨核球への分化能を有する細胞を含む細胞群は目的の遺伝子により形質転換される。本発明の培養工程において目的遺伝子を細胞内で強制発現させる場合、当業者に公知の方法により実施することができる。例えば、レンチウイルスやレトロウイルスなどによる遺伝子導入システムを利用して、目的の遺伝子を細胞内に導入して発現させてもよい。ウイルス遺伝子導入ベクターにより遺伝子発現を行う場合、ベクターは適当なプロモーターの下流に作用可能に連結された目的遺伝子を含み得る。ここで、「作用可能」に連結するとは、該プロモーターによって目的遺伝子がシスに支配され、目的遺伝子の所望の発現が実現されるようにプロモーターと目的遺伝子を連結することを意味する。本発明の実施においては、例えば、CMVプロモーター、EF1プロモーターなどを使用して恒常的に目的遺伝子を発現してもよく、あるいは、テトラサイクリンなどの薬剤応答エレメントなどのトランス因子によって活性制御されるエレメントの支配下に、適当なプロモーター(誘導型のプロモーター)を配置し、例えば、薬剤添加などの制御により目的遺伝子を誘導的に発現させることもできる。所望とする目的遺伝子の発現制御を実現することを意図する当業者であれば、数多く存在している遺伝子発現システムの中から適当なシステムを容易に選択することができる。市販のキットなどを使用してもよい。また、発現制御の目的遺伝子である薬剤耐性遺伝子又は致死遺伝子と、後述する癌遺伝子等とをそれぞれ別々のベクターに挿入してもよいし、同一のベクターに挿入してもよい。
【0018】
また、巨核球細胞内における遺伝子の発現の抑制は、例えば、前述の誘導的な発現システムによる発現の誘導を、薬剤等の除去により解除することで達成してもよい。あるいは、導入した癌遺伝子などをCre/loxシステムなどを使用して除去し、これらの遺伝子の発現を抑制的に制御してもよい。遺伝子の発現を抑制的に調節するために、市販のキット等を適宜使用することもできる。
【0019】
本明細書で使用する場合、「巨核球への分化能を有する細胞」とは、造血幹細胞に由来する細胞であって、分化誘導条件によっては巨核球へ分化することができる細胞を意味し、例として造血幹細胞、造血前駆細胞、CD34陽性細胞、巨核球細胞・赤芽球前駆細胞(MEP)、巨核球前駆細胞などが挙げられる。巨核球への分化能を有する細胞は公知の方法で得ることができ、例えば骨髄、臍帯血、末梢血等から単離するほか、ES細胞、iPS細胞等の多能性幹細胞から分化誘導することもできる。巨核球への分化能を有する細胞として造血前駆細胞を使用する場合、本発明の培養工程前に予めc-MYC、BMI1及びBCL-xLを細胞に導入してもよい。
【0020】
巨核球細胞に特異的な細胞表面マーカーを発現しない細胞は、最終的に巨核球に分化しない、CD41陰性/CD42陰性細胞、例えば、赤血球又はその前駆細胞を含むが、必ずしも造血幹細胞由来の細胞に限定されない。例えば、薬剤耐性遺伝子を用いる態様においては、巨核球への分化能を有する細胞のみに薬剤耐性が賦与されるため、当該細胞以外のあらゆる細胞を排除することができる。
【0021】
本発明により製造される培養物中の巨核球は、巨核球細胞のみならず、成熟前の血小板産生能が不十分な巨核球前駆細胞や、多核化が進んだ巨核球細胞などを含む細胞集団として存在し得る。培養物に含まれる全細胞のうち、巨核球又は巨核球前駆細胞、特に巨核球が占める割合は50%以上、例えば60%、70%、80%、90%以上であることが好ましい。得られた巨核球は、巨核球細胞に特異的な細胞表面マーカーを発現しない細胞を排除しない従来の方法により得られる巨核球と比較して、細胞あたりの血小板産生能が有意に高い。血小板産生能の増大レベルは培養条件により変動するものの、産生能は従来の方法との比較で数倍、例えば5倍以上増大し得る。血小板産生能の増大は、播種細胞当たりのCD41陽性細胞、好ましくはCD41a陽性で且つCD42b陽性の細胞が産生する血小板量を比較することで算出される。また、得られた血小板が機能性を有するか否かは、公知の方法、例えば、活性化した血小板膜上のヒトIntegrin αIIBβ3にのみ結合する抗体であるPAC−1を用いて活性化血小板量を測定することで確認することができる。
【0022】
本発明により得られる巨核球は、従来の方法で誘導された巨核球に比較して、分化形質を長期間安定して維持することができる。分化形質の維持は、例えば、巨核球マーカーを発現する細胞の割合で評価することができる。本発明により得られる巨核球は、従来の方法で誘導された巨核球に比較して、一定期間経過後に、巨核球マーカー(CD41a、CD42a、CD42b等)陽性細胞の割合が高い。また、例えば、従来の方法で誘導された巨核球に比べて、本発明により製造される巨核球は、より安定した分化形質を90日以上維持することもできる。本発明は、自己増殖能を有する巨核球細胞株の樹立効率を向上させることもできる。
【0023】
本発明で使用する培養工程は、フィーダー細胞の存在下又は不在下で実施することができる。フィーダー細胞としては、巨核球または巨核球前駆細胞を誘導することができる細胞であれば特に限定されないが、例えば、C3H10T1/2(Katagiri T, et al., Biochem Biophys Res Commun. 172, 295-299 (1990))が挙げられる。一般に、巨核球前駆細胞は、フィーダー細胞を使用すると血小板産生能が向上するが、本発明により製造される巨核球は、フィーダー細胞の使用の有無に関係なく細胞当たり同程度の血小板を産生することができる点で有利である。
【0024】
本発明において用いる培地は、特に限定されないが、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカインなどの1つ以上の物質も含有し得る。サイトカインとは、血球系分化を促進するタンパク質であり、例えば、VEGF、TPO、SCFなどが例示される。本発明において好ましい培地は、血清、インスリン、トランスフェリン、セリン、チオールグリセロール、アスコルビン酸、TPOを含むIMDM培地である。より好ましくは、さらにSCFを含む。また、Tet-on(登録商標)又はTet-off(登録商標)システムのような薬剤応答性のプロモーターを含む発現ベクターを用いた場合、強制発現する工程においては、対応する薬剤、例えば、テトラサイクリンまたはドキシサイクリンを培地に含有させることが望ましい。
【0025】
培養条件は、特に限定されないが、例えば、TPO(10〜200ng/mL、好ましくは50〜100ng/mL程度)の存在下で、TPO(10〜200ng/mL、好ましくは50〜100ng/mL程度)及びSCF(10〜200ng/mL、好ましくは50ng/mL程度)の存在下で、又は、TPO(10〜200ng/mL、好ましくは50〜100ng/mL程度)及びSCF(10〜200ng/mL、好ましくは50ng/mL程度)及びHeparin(10〜100U/mL、好ましくは25U/ml程度)の存在下で、細胞を培養してもよい。培養温度については、35.0℃以上の温度で培養することにより、巨核球または巨核球前駆細胞の分化が促進されることが確認されている。培養温度は細胞にダメージを与えない程度の温度、例えば、35.0℃〜42.0℃が好ましく、36.0℃〜40.0℃がより好ましく、37.0℃〜39.0℃がより更に好ましい。
【0026】
培養期間については、当業者であれば、巨核球または巨核球前駆細胞の数などをモニターしながら適宜決定することが可能である。例えば、培養物中に占める巨核球細胞の割合は、フローサイトメトリーを用いて巨核球特異的に発現する細胞表面マーカーを解析することにより決定することができ、例えば、培養物に含まれる全細胞のうち、巨核球又は巨核球前駆細胞、特に巨核球が占める割合が50%以上、例えば60%、70%、80%、90%以上となるように培養してもよい。所望の巨核球前駆細胞が得られる限り、日数は特に限定されないが、例えば、3日間以上が好ましく、6日以上がより好ましく、9日以上がより更に好ましい。しかしながら、培養期間が長いことは問題とされないので、12日以上、18日以上、24日以上、30日以上、42日以上、48日以上、54日以上、60日以上でもよい。また、培養期間中は、適宜、継代を行うことが望ましい。
【0027】
薬剤耐性遺伝子で細胞を形質転換する場合、使用することができる薬剤は、ピューロマイシン、ネオマイシン、カナマイシン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、テトラサイクリン、ハイグロマイシン、アンピシリン、ゼオシン、ブラストサイジンS、又はヒスチジノールなどが挙げられる。
【0028】
本発明の効果を損なわない限り、巨核球の製造に関して当業者に公知の技術を本発明の製造方法に適用することができる。例えば、本発明の巨核球の製造方法の一態様は、さらに、(a)p53遺伝子産物の発現又は機能を阻害する物質、(b)アクトミオシン複合体機能阻害剤、(c)ROCK阻害剤および(d)HDAC阻害剤をさらに培地に含んでもよい。これらの方法は、例えば、WO2012/157586に記載された方法にしたがって実施し得る。
【0029】
更に、WO2011/034073に記載されているような、c-MYC遺子等の癌遺伝子やポリコーム遺伝子等の外来性遺伝子を強制発現させて巨核球細胞の生産量を増大することもできる。このような態様において、本願発明の製造方法は、巨核球または巨核球前駆細胞に対して、強制発現を停止して培養する工程をさらに含んでもよい。強制発現を停止する方法として、例えば、薬剤応答性ベクターを用いて強制発現をしている場合には、対応する薬剤と当該細胞と接触させないことによって達成させてもよい。この他にも、上記のLoxPを含むベクターを用いた場合は、Creリコンビナーゼを当該細胞に導入することによって達成させてもよい。さらに、一過性発現ベクター、およびRNAまたはタンパク質導入を用いた場合は、当該ベクター等との接触を止めることによって達成させてもよい。本工程において用いられる培地は、上記と同一の培地を用いて行うことができる。
【0030】
強制発現を停止して培養する際の条件は、特に限定されないが、例えば、35.0℃〜42.0℃が好ましく、36.0℃〜40.0℃がより好ましく、37.0℃〜39.0℃がより更に好ましい。
【0031】
また、強制発現を停止した後の培養期間については、細胞数、特に巨核球細胞数などをモニターしながら、適宜決定することが可能であるが、強制発現を停止してから少なくとも2日以上であることが好ましく、例えば、2日間〜14日間である。培養期間は3日間〜12日間がより好ましく、4日間〜10日間がより更に好ましい。培養期間中は、適宜、培地交換または継代を行うことが望ましい。
【0032】
本発明によって得られる巨核球は、十分に成熟させることで機能的な血小板を効率よく産生することができる。本明細書において、巨核球の成熟とは、巨核球が十分に多核化し、機能的な血小板を産生できることをいう。巨核球の成熟は、例えば、GATA1、p45 NF-E2、beta1-tubulinなどの巨核球成熟関連遺伝子群の発現の上昇、proplateletの形成、細胞内の多核化によっても確認することができる。当該血小板は、既に、in vivo及びin vitroにおいて、高い血栓形成能を有していることが確認されている。
【0033】
また、巨核球および/または巨核球前駆細胞は、凍結保存後、融解しても機能的な血小板を産生することができる。なお、本発明において作成された巨核球細胞株は、凍結保存した状態で流通させることができる。
【0034】
(血小板の製造方法)
本発明に係る血小板の製造方法は、上記製造方法で製造された培養物を用いることを特徴とする。より具体的な態様において、本発明に係る血小板の製造方法は、上述の方法で得られた巨核球、巨核球前駆細胞、及び/又は巨核球細胞株を培養し、培養物から血小板を回収する工程を含む。
【0035】
培養条件は、限定はしないが、例えば、TPO(10〜200ng/mL、好ましくは50〜100ng/mL程度)の存在下で、あるいは、TPO(10〜200ng/mL、好ましくは50〜100ng/mL程度)、SCF(10〜200ng/mL、好ましくは50ng/mL程度)及びHeparin(10〜100U/mL、好ましくは25U/ml程度)の存在下で、培養してもよい。
【0036】
培養期間は、少なくとも3日以上であることが望ましいが、製造される血小板の機能が維持されている限り特に限定されない。例えば、培養期間は3日間〜14日間である。培養期間は4日間〜12日間が好ましく、5日間〜10日間がより好ましい。
【0037】
培養温度は、特に限定されず、例えば35.0℃〜42.0℃である。培養温度は36.0℃〜40℃が好ましく、37.0℃〜39.0℃がより好ましい。
【0038】
本発明に係る製造方法では、巨核球の培養工程を、血清フリー及び/又はフィーダー細胞フリーの条件で行ってもよい。好ましくは、TPOを含有する培地で本発明の方法にしたがって製造された巨核球を培養することで行う方法である。なお、フィーダー細胞を用いない場合、一態様として、conditioned mediumを使用してもよい。conditioned mediumは、特に限定されず、当業者が公知の方法等に従って作製することができるが、例えば、フィーダー細胞を適宜培養し、培養物からフィーダー細胞をフィルターで除去することによって得ることができる。
【0039】
本発明に係る血小板の製造方法の一態様では、培地にROCK阻害剤及び/又はアクトミオシン複合体機能阻害剤を加える。ROCK阻害剤及びアクトミオシン複合体機能阻害剤としては、上述した多核化巨核球の製造方法で使用したものと同じものを使用することができる。ROCK阻害剤としては、例えばY27632、ファスジル塩酸塩、H1152 Dihydrochlorideなどが挙げられる。アクトミオシン複合体機能阻害剤としては、例えば、ミオシンATPase活性阻害剤又はミオシン軽鎖キナーゼ阻害剤である。ブレビスタチン、ML-7、ML-9が挙げられる。ROCK阻害剤又はアクトミオシン複合体機能阻害剤を単独で加えてもよく、ROCK阻害剤とアクトミオシン複合体機能阻害剤を組み合わせて加えてもよい。
【0040】
ROCK阻害剤及び/又はアクトミオシン複合体機能阻害剤は、例えば、0.1μM〜30.0μMで加えてもよい。阻害剤の濃度は0.5μM〜25.0μMが好ましく、1.0μM〜20.0μMがより好ましく、5.0μM〜15.0μMがより更に好ましい。
【0041】
ROCK阻害剤及び/又はアクトミオシン複合体機能阻害剤を加えての培養期間は、例えば1日〜15日とすることができる。培養期間は3日〜13日が好ましく、5日〜11日がより好ましく、6日、7日、8日、9日、10日がより更に好ましい。ROCK阻害剤及び/又はアクトミオシン複合体機能阻害剤を加えることにより、CD42b陽性血小板の割合をさらに増加させることが可能である。
【0042】
血小板は、当業者に公知の方法で培地から単離することができる。本発明によって得られる血小板は、外来遺伝子を発現することのない安全性の高い血小板である。本発明で得られる巨核球は、特に限定しないが、例えば外来性のアポトーシス抑制遺伝子および癌遺伝子が発現していてもよい。この場合、血小板生産工程では、当該外来性の遺伝子の発現が抑制された状態になる。
【0043】
本発明で得られた血小板は、製剤として患者に投与することができる。投与に当たっては、本発明の方法で得られる血小板は、例えば、ヒト血漿、輸液剤、クエン酸含有生理食塩液、ブドウ糖加アセテートリンゲル液を主剤とした液、PAS(platelet additive solution)(Gulliksson, H. et al., Transfusion, 32:435-440, (1992))等にて保存、製剤化してもよい。保存期間は、製剤化直後から14日間程度である。好ましくは10日間。より好ましくは、8日間である。保存条件として、室温(20-24℃)で振盪撹拌して保存することが望ましい。
【0044】
以下に実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
1.iPS細胞からの造血前駆細胞の調製
ヒトiPS細胞(692D2、1108A2:Okita K, et al, Stem Cells 31, 458-66, 2012に記載のエピソーマルベクターを用いて樹立されたヒト末梢血単核球由来iPS細胞、TKDN SeV2:センダイウイルスを用いて樹立されたヒト胎児皮膚繊維芽細胞由来iPS細胞)から、Takayama N., et al. J Exp Med. 2817-2830 (2010)に記載の方法に従って、血球細胞への分化培養を実施した。即ち、ヒトES/iPS細胞コロニーを20ng/mL VEGF (R&D SYSTEMS)存在下でC3H10T1/2フィーダー細胞と14日間共培養して造血前駆細胞(Hematopoietic Progenitor Cells(HPC)) を作製した。培養条件は20% O
2、5% CO
2で実施した(特に記載がない限り、以下同条件)。
【0046】
2.造血前駆細胞へのc-MYC及びBMI1ウイルス感染
予めC3H10T1/2フィーダー細胞を播種した6 well plate上に、上記の方法で得られたHPCを5x10
4cells/wellずつ播種し、レンチウイルス法にてc-MYCおよびBMI1を強制発現させた。このとき、細胞株1種類につき6 wellずつ使用した。即ち、それぞれMOI 20になるように培地中にウイルス粒子を添加し、スピンインフェクション(32℃ 900rpm, 60分間遠心)で感染させた。本操作は、12時間おきに2回実施した。このとき、基本培地(15% Fetal Bovine Serum (GIBCO)、1% Penicillin-Streptomycin-Glutamine (GIBCO)、1% Insulin, Transferrin, Selenium Solution (ITS-G) (GIBCO)、0.45mM 1-Thioglycerol (Sigma-Aldrich)、50μg/mL L-Ascorbic Acid (Sigma-Aldrich)を含有するIMDM (Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium) (Sigma-Aldrich))へ50ng/mL Human thrombopoietin (TPO) (R&D SYSTEMS)、50ng/ml Human Stem Cell Factor (SCF) (R&D SYSTEMS)および2μg/mL Doxycycline (Dox)を含有した培地(以下、分化培地)に、更に、Protamineを最終濃度10ug/mL加えたものを使用した。なお、レンチウイルスベクターは、Tetracycline制御性のinducible vectorであり、LV-TRE-mOKS-Ubc-tTA-I2G(Kobayashi, T., et al. Cell 142, 787-799 (2010))のmOKSカセットをc-MYC、BMI1、BCL-xLに組み替えることで作製された(それぞれ、LV-TRE- c-Myc-Ubc-tTA-I2G、LV-TRE-BMI1-Ubc-tTA-I2G、およびLV-TRE-BCL-xL-Ubc-tTA-I2G)。感染に用いたウイルス粒子は、293T細胞へ上記レンチウイルスベクターを発現させて作製された。
【0047】
3.巨核球自己増殖株の作製および維持培養
上記の方法でcMYC及びBMI1ウイルス感染を実施した日を感染0日目として、以下の通り、cMYC及びBMI1遺伝子導入型巨核球細胞を培養することで、692D2及び1108A2由来の巨核球自己増殖株をそれぞれ作製した。
【0048】
・感染2日目〜感染11日目
ピペッティングにて上記の方法で得られたウイルス感染済み血球細胞を回収し、1200rpm, 5分間遠心操作を行って上清を除去した後、新しい分化培地で懸濁して新しいC3H10T1/2フィーダー細胞上に播種した(6well plate)。感染9日目に同様の操作をすることによって継代を実施した。細胞数を計測後1×10
5cells/ 2mL / wellでC3H10T1/2フィーダー細胞上に播種した(6well plate)。
【0049】
・感染12日目〜感染13日目
感染2日目と同様の操作を実施した。細胞数を計測後3×10
5cells/ 10mL / 100 mm dishでC3H10T1/2フィーダー細胞上に播種した(100mm dish)。
【0050】
・感染14日目
ウイルス感染済み血球細胞を回収し、細胞1.0×10
5個あたり、抗ヒトCD41a-APC抗体(BioLegend)、抗ヒトCD42b-PE抗体(eBioscience)、抗ヒトCD235ab-pacific blue(BioLegend)抗体をそれぞれ2μL, 1μL, 1μLずつを用いて抗体反応した。反応後に、FACS Verse(BD)を用いて解析した。感染14日目において、CD41a陽性率が50%以上であった場合、巨核球自己増殖株の作成とした。
【0051】
4.巨核球自己増殖株へのBCL-xLウイルス感染
前記培養14日目のウイルス感染済み血球細胞に、レンチウイルス法にてBCL-XLを遺伝子導入した。MOI 10になるように培地中にウイルス粒子を添加し、スピンインフェクション(32℃ 900rpm, 60分間遠心)で感染させた。
【0052】
5.巨核球不死化株の作成及び維持培養
・感染14目〜感染18日目
前述の方法で得られたウイルス感染済み血球細胞を回収し、1200rpm, 5分間遠心操作を行った。遠心後、沈殿した細胞を新しい分化培地で懸濁した後、新しいC3H10T1/2フィーダー細胞上に2×10
5cells/ 2mL / wellで播種した(6well plate)。
【0053】
・感染18日目:継代
細胞数を計測後、3×10
5cells/ 10mL / 100 mm dishで播種した。
【0054】
・感染24日目:継代
細胞数を計測後、1×10
5cells/ 10mL / 100 mm dishで播種した。以後、4-7日毎に継代を行い、維持培養を行った。
【0055】
感染24日目に血球細胞を回収し、細胞1.0×10
5個あたり、抗ヒトCD41a-APC抗体(BioLegend)、抗ヒトCD42b-PE抗体(eBioscience)、抗ヒトCD235ab-Pacific Blue(Anti-CD235ab-PB; BioLegend)抗体をそれぞれ2μL, 1μL, 1μLずつを用いて免疫染色した後にFACS Verse(BD)を用いて解析して、感染24日目においても、CD41a陽性率が50%以上である株を巨核球不死化株とした。
【0056】
前記BCL-xLレンチウイルス感染済みの細胞を維持培養した結果、iPS細胞(692D2、1108A2)由来の細胞は、感染後24日以上増殖することができた。これらの細胞を、巨核球不死化株とした(比較例1、及び2)。同様の手法により、TKDN SeV2についても巨核球自己不死化株を作成した。(比較例3)。
【0057】
上記の比較例1−3のいずれの巨核球不死化株は、少なくとも40日間は継代できることが確認された。一方、培養経過にともない、接着細胞に形質転換する細胞が多くなることが確認された。
【0058】
6.巨核球特異的遺伝子発現プロモーターによる薬剤耐性遺伝子発現ベクターの調製
その後、LV-TetONベクター(Clonetech)、KhES3細胞(京都大学樹立)からクローニングしたCD41aプロモーター配列(配列番号1)、及び、pENTR-DMD-Donor04_EF1a-Puroからサブクローニングしたピューロマイシン耐性遺伝子配列を、制限酵素EcoRI, XhoIで切断済みのCS-CDF-UG-PREに組み換えた。この際、In-Fusion Advance PCR cloning kit (Clonetech)を使用して組み換えた。その結果、CD41aプロモーター−ピューロマイシン耐性遺伝子を有するレンチウイルスベクター(
図1)を調製することができた。
【0059】
7.CD41aプロモーター−ピューロマイシン耐性遺伝子を有するレンチウイルスによる遺伝子導入
前記CD41aプロモーター−ピューロマイシンレンチウイルス耐性遺伝子を有するレンチウイルスベクターを、HEK293T細胞に遺伝子導入した。その後、遺伝子導入済みHEK293T細胞の培養上清から、CD41aプロモーター−ピューロマイシン耐性遺伝子を有するレンチウイルスを濃縮調製した。続いて、2x10
6 cells/10ml/dishで、10cm-dishのC3H10T1/2細胞(フィーダー細胞)上に播種された前記巨核球不死化細胞株に対して、MOI10でCD41aプロモーター−ピューロマイシン耐性遺伝子を有するレンチウイルスを感染させた。感染後の巨核球不死化細胞株は、基本培地(15% Fetal Bovine Serum (GIBCO)、1% Penicillin-Streptomycin-Glutamine (GIBCO)、1% Insulin, Transferrin, Selenium Solution (ITS-G) (GIBCO)、0.45mM 1-Thioglycerol (Sigma-Aldrich)、50μg/mL L-Ascorbic Acid (Sigma-Aldrich)を含有するIMDM (Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium) (Sigma-Aldrich))へ50ng/mL Human thrombopoietin (TPO) (R&D SYSTEMS)、50ng/ml Human Stem Cell Factor (SCF) (R&D SYSTEMS)および2μg/mL Doxycycline (Dox)を含有した培地(分化培地)に、2μg/mLのピューロマイシンを含有させた培地(ピューロマイシン含有分化培地)を使って、37℃、5%CO
2条件下で静置培養した。
【0060】
CD41aプロモーター−ピューロマイシン耐性遺伝子を有するレンチウイルスによる遺伝子導入が行われた細胞株を実施例1(692D2由来)、実施例2(1108A2由来)、実施例3(TKDN SeV2由来)とした。
【0061】
8.巨核球マーカーの解析(フィーダー細胞あり)
細胞をCD41a抗体(Anti-CD41-APC; BioLegend)、CD42b抗体(Anti-CD42b; eBioscience)CD235ab抗体(Anti-CD235ab-PB; BioLegend)を用いて染色し、フローサイトメーターBD FACSVerseで解析した。その結果、CD41aプロモーター−ピューロマイシン耐性遺伝子を有するレンチウイルスを導入した細胞群(実施例1)は導入していない細胞群(比較例1)と比較してCD41a陽性率が高くなった(
図2)。その後の培養経過時においても、実施例1の細胞群を培養して得られた培養物は、比較例1に比べて高いCD41a陽性率を示した(
図3)。実施例1のCD41a陽性細胞はその数も増加し続けた(
図4)
【0062】
9.巨核球マーカーの解析(フィーダー細胞なし)
培養時にフィーダー細胞を使用しなかった点を除き、実施例1と同様の条件で、CD41aプロモーター−ピューロマイシン耐性遺伝子を有するレンチウイルスによる遺伝子導入が行われた1108A2由来細胞株を調製した(実施例2)。遺伝子導入されていない1108A2由来由来の細胞株を比較例2とした。フィーダー細胞を使わずに培養した場合でも、実施例2の細胞群を培養して得られた培養物は、比較例2のものに比べて高いCD41a陽性率を示すことができた(
図5)。
【0063】
10.フィーダー細胞あり/なしの場合の比較
692D2由来の実施例1について、細胞株の培地に含まれるピューロマイシンの濃度をそれぞれ培養14日目に5μg/mLに、培養28日目に10μg/mLに増大させたときでも、フィーダー細胞アリ/ナシのいずれの条件においても、高いCD41a陽性率が見られた(
図6A)。また、それぞれの経時的な細胞数の変化を測定した。細胞数は、培養細胞を0.1%(v/v)トリパンブルー溶液で希釈し、血球計算盤(和研ビーテック)を使って測定した。その結果、フィーダー細胞の有無に関係なく、同程度の速度で細胞が経時的に増殖することが明らかとなった(
図6B)。
【0064】
11.細胞増殖測定(振盪培養)
培養方法をフラスコ培養、及びバッグ培養とした点を除き、実施例1と同様の条件で、CD41aプロモーター−ピューロマイシン耐性遺伝子を有するレンチウイルスによる遺伝子導入が行われた692D2由来細胞株を調製した(フラスコ培養:実施例4;バッグ培養:実施例5)。その結果、実施例4及び実施例5の細胞群を培養して得られた培養物においては、CD41a陽性細胞率が顕著に向上した(
図7(実施例4)、
図8(実施例5))。
【0065】
12.血小板数の測定(静置培養、フィーダー細胞あり)
培養上清中に含まれる血小板をCD41a抗体(Anti-CD41-APC; BioLegend)、CD42a抗体(Anti-CD42a; eBioscience)及びCD42b抗体(Anti-CD42b; eBioscience)を用いて染色し、フローサイトメーターBD FACSVerseで解析した。その結果、CD41aプロモーター−ピューロマイシン耐性遺伝子を導入した細胞群(実施例1)は導入していない細胞群(比較例1)と比較してCD41a陽性CD42b陽性血小板生産率(播種細胞当たりの血小板生産数)が2倍以上高かった(表1、
図9)。
【表1】
【0066】
13.血小板数の測定(静置培養、フィーダー細胞なし)
フィーダー細胞を使わずに血小板を生産させた場合でも、CD41a陽性CD42b陽性血小板生産率(播種細胞当たりの血小板生産数)の亢進が確認された。CD41aプロモーター−ピューロマイシン耐性遺伝子を導入した細胞群(実施例2)は導入していない細胞群(比較例2)と比較して血小板生産率が約5倍高かった(表2、
図10)。
【表2】