(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照してこの発明の実施形態について説明する。なお、説明に用いる各図はこれら発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の実施形態中で述べる含有率、温度、冷却速度等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0011】
1. はんだ材料の構成
この発明のはんだ材料は、25〜45質量%のSnと、30〜40質量%のSbと、3〜8質量%のCuと、
15〜25質量%のAgと、1〜9質量%のInと、合計で0.01〜5質量%のBa及びAuの双方又は一方と、
からなることを特徴とする。以下、具体的に説明する。
【0012】
このはんだ材料においてSnは、はんだ材料が融け始まる温度である固相線温度を支配する役目を持つことから、その含有量は、25〜45質量%(25質量%以上、45質量%以下)の範囲から、使用目的に応じ決定する。これに限られないが、Snは、例えば36〜40質量%の範囲とするのが良い。
【0013】
またSbは、このはんだ材料の共晶点を制御する役目を持つ。具体的には、例えばAg、Cuを含むこのはんだ材料では、共晶点が高くなり易いが、Sbを加えると共晶点を低くすることができる。しかし、Sbの含有量を多くしすぎると、溶融したはんだの中にSbが再結晶化して散在し、はんだ材料の品質が低下する。従って、Sbの含有量は、これらを考慮して、30〜40質量%(30質量%以上、40質量%以下)の範囲から、決定する。これに限られないが、Sbは、例えば34〜38質量%の範囲とするのが良い。
【0014】
またCuは、このはんだ材料の固化物をなじませる役目を持つ。ここでなじませるとは、はんだ材料中の各金属同士の結合を強固にすることをいう。Cuの量が多すぎると、はんだ材料の溶融温度が大幅に上昇し、及び、はんだ付後の固化物の硬度が高くなるので、好ましくない。従って、Cuの含有量は、これらを考慮して、3〜8質量%(3質量%以上、8質量%以下)の範囲から、決定する。これに限られないが、Cuは、例えば4〜7質量%の範囲とするのが良い。
【0015】
また、Agは、はんだ材料の接合の安定性を保つ役目を持つ。ここで接合の安定性が良いとは、当該はんだ材料を用いてはんだ付けを行った後の固化物が、高い機械的強度を持つことをいう。さらに具体的には、水晶振動子等の電子部品おいて容器と蓋部材とを当該はんだ材料を用いて気密封止したときに、容器と蓋部材との接合強度が強いことをいう。ただし、Agの含有量が多すぎると固化物内部でAgの結晶化が起こり易くなり、そのため、はんだの濡れ性が悪くなる。しかも、Agの含有量が多くなるほど、コスト高になる。また、Agの含有量が多すぎると、はんだ材料が融け始まる温度である固相線温度がSnの融点の温度の影響を受け易くなる性質がある。換言すれば、Agの量を少なくすると当該はんだ材料の固相線温度の低下を制御することができる。従って、Agの含有量は、これらを考慮して、上記のSn,Sb、Cuと、下記のIn及び各種添加物との全体に対する残部量とするのが良い。これに限られないが、Agの含有量は、例えば25質量%以下が良く、好ましくは、15〜25質量%(15質量%以上、25質量%以下)の範囲から、決定するのが良い。
【0016】
またInは、はんだ材料が完全に融ける温度である液相線温度を支配する役目を持つ。具体的には、Inの含有量を多くするにつれて液相線温度が上がる傾向を示す。しかし、Inの含有量を多くするにつれ液相線温度が不安定になる傾向を示す。一方、Inの含有量が少なすぎると、はんだ材料の濡れ性が低下し、そのため例えば気密封止の際の容器と蓋部材との接合性を悪化させ、封止良品率を低下させる。また、当該はんだ材料は、溶融させた後の冷却速度が遅くなるに従い固化物中に低溶融相が生じ易くなる。低融点相が生じた場合は、固化物に再度熱が加わった場合に固化物の状態が変動するおそれがあるから、例えば気密封止の信頼性を損ねる場合がある。Inの含有量を適正化することにより、この低溶融相を発生しずらくできるという効果が得られる。すなわち、Inの含有量を適正化することにより、はんだ材料を冷却・固化させる作業時の冷却条件の自由度を拡大させることができる。従って、これらの事項及び後述の実験結果を考慮すると、Inの含有量は、1〜9質量%、好ましくは、1.3〜5質量%、より好ましくは1.5〜4質量%が良い。
【0017】
また、Ba及びAuの一方又は双方は、この発明のはんだ材料を例えば厚みすべり振動する電子部品、例えばATカット水晶片又はSCカットに代表される2回回転水晶片を用いた水晶振動子の気密封止材料として用いた際に、封止前後での周波数変化量を小さくできるものである。Ba及び又はAuの量が少なすぎると、封止前後の周波数変化量を低減できる効果が得られず、多すぎると、詳細は後述するが、示差走査熱量測定カーブにおける主溶融ピークの鋭さが低下して(
図3、表3、表4)はんだの溶融条件管理等を難しくする。なお、
図3において、MPで示すものが主溶融ピーク、SPで示すものがサブ溶融ピークである。ただし、本発明の範囲であっても、主ピークのみが顕著でサブピークが認められない場合もある。
【0018】
従って、Ba及び又はAuの含有量は、上記の事項を考慮して決めるのが良い。発明者の実験によれば、Ba及び又はAuの含有量は、0.01〜5質量%が良く、好ましくは0.1〜5質量%が良く、より好ましくは0.5〜5質量%が良い。なお、Ba及びAuは、双方を用いても良いし、いずれか一方を用いても良い。この場合の添加量とは、Ba及びAu双方を用いる場合は、それらの合計量であり、一方を用いる場合は該当する一方の量をいう。なお、Baを用いる場合は、Auを用いる場合に比べて材料費を安価にできるという効果がある。また、Baを用いる場合は、Auを用いる場合に比べて、少ない量で本発明の効果が得られる。また、Auを用いる場合でもそれは主成分でないためAuの使用量は少なくて済むので、材料費の高額化は比較的抑制できる。
【0019】
また、この発明のはんだ材料では、Sn、Sb、Cu、Ag、In、並びに、Ba及び又はAuに加えてさらに他の材料を含ませることが出来る。
先ず好適な形態として、Si(シリコン)及びTi(チタン)を含ませることが出来る。Si及びTiを含ませることで、示差走査熱量曲線の傾きが急峻になる。その理由は、Si及びTiを加えることで半田を構成する結晶が細かくなるため、はんだを構成する粒子が細かくなり、固体から液体への変化が明瞭になるためと考えられる。Si及びTiの含有量は、これが少なすぎては上記の粒子の微細化が得られず、多すぎてはSi及びTi自体が結晶として残り易くなる。従って、Si及びTiの量はこれらを考慮し決定する。発明者の実験によれば、Si及びTiの含有量は各々0.1質量%以下が良く、好ましくは0.05質量%以下が良い。なお、Tiは硬いためドロスになり易い性質を持つので、その量が多くなるとはんだ材料の粘性が高くなるおそれがある。従って、Tiの含有量については上記のように0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下で良いが、より好ましくは0.03質量%以下が良い。
上記の様にSi及びTiを含むこの発明のはんだ材料では、固体から液体への変化が明瞭になるため、はんだ材料の溶融が不十分となるおそれや、十分に固化せずにはんだ材料で固定したはずの部分が剥離するおそれが、より一層少なくなる。
【0020】
また、添加元素の他の形態として、この発明のはんだ材料は、はんだの流動性を向上させたりはんだ材料の機械的強度を向上させるために、例えば、Ni、Fe、Mo、Cr、Mn、Ge、Gaから選ばれる1又は複数の元素を、1質量%を超えない範囲で(複数元素の場合は各々が1質量%を超えない範囲で)、含んでも良い。
【0021】
2. はんだ材料の製造例
次に、この発明のはんだ材料の製造方法の一例について説明する。まず、Sn、Sb、Cu、Ag、In、Ba及び又はAu各々等を、切断等して各金属材料の微小片を得る。
次に、上記のように製造した各金属材料の微小片を、この発明でいう所定の含有量、具体的には後述の表1に示した組成及び比較例の組成となるように秤量し、それらを混合する。
【0022】
次に、この混合物を例えば加熱したるつぼ内で溶融して溶融金属を形成し、次に、例えば公知の遠心噴霧アトマイス法により造粒する。遠心噴霧アトマイス法は、高速で回転する回転盤上に、上記るつぼの溶融金属を連続供給し、回転盤の遠心力により溶融金属を周囲に噴霧する。この噴霧された溶融金属を所定の雰囲気中で冷却して固化することにより、微粒子化されたはんだ材料が得られる。なお、この微粒子の径が大きすぎると、生成するはんだペーストの基板への印刷性が悪くなり、小さすぎると、はんだペーストが加熱された際にはんだペーストの被塗布物へのぬれ性が悪くなる。そのため、例えば粒子画像計測やゼータ電位測定などの公知に粒度分布測定法を用い、球相当径で平均粒子径5μm〜50μmの範囲の粒径となるよう、上記加工物の出来映えを管理し、各微粒子を製造するのが良い。
【0023】
このように微粒子化されたはんだ材料とフラックスとを混合することで、この発明のはんだ材料であってペースト状のはんだ材料が得られる。はんだペーストを構成する場合に用いるフラックスとしては、例えば、ロジン等の粘着付与材樹脂、チキソ剤、活性剤、溶剤等を含んだものが使用できる。また、フラックスの活性度の違いにかかわらず、各種フラックスを用いることができる。
また、この発明のはんだ材料は、箔状に加工された後、打ち抜かれたプリフォームの形態のものでも良い。
【0024】
3. 封止前後の周波数変化
次に、この発明のはんだ材料の効果を確認するため、電子部品の一例として、以下に説明する水晶振動子であって、表1に示した実施例及び比較例のはんだ材料によって封止した水晶振動子を試作した。ただし、これらの水晶振動子を試作する際に、封止前後での周波数変化量を測定した。
3−1.水晶振動子の構造
先ず、水晶振動子の構造について説明する。
図1及び
図2は、この発明のはんだ材料を気密封止材料として用いて気密封止する対象として好ましい水晶振動子の説明図であり、いずれも分解斜視図で示した図である。ただし、後述する封止前後の周波数変化を調査した水晶振動子は、
図2に示した構造のものである。
【0025】
図1に示した水晶振動子1は、例えばセラミック製の平面形状が長方形状の基体11と、この基体11に接続された蓋部材12と、水晶振動片3とを備える。蓋部材12は凹部を持ち周囲が縁部13となっているキャップ状のものである。基体11の縁領域には、はんだ付け用のメタライズがされている。蓋部材12は好適な金属材料で構成してある。基体11と蓋部材12とで水晶振動片3を収納する容器10を構成している。そして、基体11および蓋部材12を、本発明のはんだ材料2で接合することで、気密封止を実現できる。水晶振動片3は、表裏に励振用電極30を有し、水晶振動片3の一端で基体11に導電性接着剤4により固定されている。基体11の、導電性接着剤4の位置には、図示しないビヤ配線が設けてある。そして、このビヤ配線は基体11の裏面に設けてある図示しない実装端子に接続してある。
【0026】
図2に示した水晶振動子の
図1に示した水晶振動子との主な違いは、基体21が水晶振動片3を収容する凹部を持つ構造のものである点と、蓋部材22が平板状のものである点である。基体21の土手部の領域には、はんだ付け用のメタライズがされている。蓋部材22は好適な金属材料で構成してある。これら基体21と蓋部材22とで容器20を構成している。この第2の例でも、基体21と蓋部材22とをこの発明に係るはんだ材料2で接合することで、気密封止を実現できる。なお、
図2において、5で示すものは、水晶振動片3を固定するパッドである。基体21の、パッド5の位置には、図示しないビヤ配線が設けてある。そして、このビヤ配線は基体21の裏面に設けてある図示しない実装端子に接続してある。
【0027】
これら水晶振動子の基体と蓋部材との接合は次のように行える。水晶振動片3を実装した基体11又は21の縁部付近に、本発明のはんだ材料のペーストを例えばスクリーン印刷法により塗布する。次に、この基体11又21に蓋部材12又は22を置く。次に、この試料を加熱可能な封止装置にセットし、蓋部材と基体とを例えば加圧しながら所定の熱を加えて両者を封止する。封止雰囲気は減圧雰囲気又は窒素雰囲気等の所定のガス雰囲気とする。このようにして、この発明にはんだ材料で気密封止された電子部品としての水晶振動子を得ることができる。なお、蓋部材にはんだ材料を予め塗布し溶融させた状態で使用しても良い。また、はんだ材料はプリフォームされた状態のものを使用しても良い。
【0028】
3−2.封止前後の周波数変化量の実験結果
次に、
図2に示した構造の水晶振動子であって、以下の表1に示した実施例及び比較例のはんだ材料のうち、比較例1、実施例1、実施例3のはんだ材料を用いて気密封止した比較例1の水晶振動子、実施例1の水晶振動子及び実施例3の水晶振動子をそれぞれ試作した。試作数は、各水準ごとに20個とした。また、試作した各水晶振動子について、気密封止する前の振動周波数F1と、気密封止後の振動周波数F2とをそれぞれ測定した。そして、各水晶振動子ごとに封止前後の周波数変化量ΔFとして、ΔF=F2−F1を算出した。これら周波数変化量の結果を下記の表2に示す。
【表1】
【表2】
【0029】
表2に示した結果について考察する。比較例、実施例いずれの水晶振動子も、封止後の振動周波数は封止前の振動周波数に対して低い側に変化する。ただし、各々20個の水晶振動子の周波数変化量の平均値は、比較例の水晶振動子がー115.1ppmであるのに対し、実施例1の水晶振動子がー49.5ppm、実施例2の水晶振動子がー77.9ppmであり、実施例の水晶振動子の方が、比較例の水晶振動子に比べて周波数変化量は小さいことが分かる。この結果から、Ba又はAuを含有させたこの発明に係るはんだ材料は、そうでないものに比べて、水晶振動子の封止前後の周波数変化量を低減できることが分かる。
また、実施例1と実施例3とを比較した場合、実施例1ではBaの添加量が0.5質量%であり、実施例3ではAuの添加量が1質量%であり、実施例1の方がBa又はAuの添加量が少ないが、それでも実施例1の水晶振動子の方が実施例3の水晶振動子に比べて周波数変化量が小さいことが分かる。このことから、AuよりBaの方が少ない含有量で周波数変化量を小さくできると推定できる。また、標準偏差について検討しても、実施例1の方が実施例3に比べ、小さいことから、この点でも、Baは添加物として好ましいと推定できる。
【0030】
4. はんだ材料の他の事項
次に、この発明のはんだ材料の上記の事項以外の他の事項についての検討結果を説明する。
4−1.DSC測定による結果
先ず、この発明のはんだ材料が有する物性の一例として、示差走査熱量測定(DSC)の結果の一例について、比較例のものと併せて説明する。
図3は、実施例1のはんだ材料の示差走査熱量測定の結果を示した図、
図4は、比較例1のはんだ材料の示差走査熱量測定の結果を示した図である。いずれの図も、横軸に温度、縦軸に熱流をとって示したものである。なお、いずれの示差走査熱量測定においても、試料を10℃/分の昇温速度で昇温させた条件で、当該測定を実施した。
実施例1のはんだ材料の場合は、固相線温度は303℃、液相線温度は351℃であり、一方、比較例1のはんだ材料の場合は、固相線温度は318℃、液相線温度は363℃であった。また、実施例1、比較例1以外の他の実施例および比較例のはんだ材料についても、実施例1と同様にして示差走査熱量測定をした。その結果をまとめて上記の表1に示した。
はんだ付けを行う場合、液相線温度以上に加熱することが必要であるが、はんだ付される部材の耐熱等を考慮すれば、液相線温度は低い方が好ましい。この点を考慮した場合、表1から分かるように、実施例のはんだ材料の液相線温度は高くても363℃であるため、水晶振動子の気密封止材料の用途を考慮しても、このはんだ材料は実用できるといえる。
【0031】
また、これら示差走査熱量測定結果から、Au及び又はBaの添加量について考察した結果を説明する。すなわち、AuやBaの添加量を変えた場合の、示差走査熱量測定カーブにおける溶融ピークの鋭さについて考察した結果を説明する。ここで、溶融ピークの鋭さとは、ここでは
図3に示したような、主溶融ピークMPにおける温度幅Wと定義した。具体的には、主溶融ピークMP部分のカーブにおいて勾配が最大になる点でのこのカーブの接線と、示差走査熱量測定カーブのベースラインとの交点相当の温度から液相線温度までの温度幅Wである。
この温度幅Wはある程度狭い方が良い。なぜなら、これが狭い方がはんだ材料の溶融温度を管理し易い等の利点が得られるからである。温度幅Wが広いと、極端にいえば、はんだはダラダラと溶けてしまい好ましくないからである。
実施例及び比較例のはんだ材料中のいくつかの水準についての温度幅Wを以下の表3及び表4に示した。
【表3】
【表4】
【0032】
表3は、Auの含有量(質量%)と上記の温度幅Wとの関係をまとめた表である。この表3から、Auを含有させる場合、温度幅Wは、Au含有量が1質量%付近で最小幅になることが分かる。また、Auの含有量がゼロの場合、温度幅Wは広く、また、Au含有量が3質量%、5質量%と増えるに従い温度幅Wは広くなることが分かる。
表3は、Baの含有量(質量%)と上記の温度幅Wとの関係をまとめた表である。この表3から、Baを含有させる場合、温度幅Wは、Ba含有量が0.5質量%付近で最小幅になることが分かる。また、Baの含有量がゼロの場合、温度幅Wは広く、また、Ba含有量が0.5質量%を超えて1質量%と増えると温度幅Wは広くなることが分かる。
表3及び表4から、Au又はBaの含有量が多すぎると、温度幅Wが広くなってしまい好ましくないことが分かる。この温度幅Wの観点からしても、Au又はBaの含有量は5質量%以下が良いことが分かる。
【0033】
なお、示差走査熱量測定に用いたDSC装置はThermo Plus EVOII/DSC8230(リガク製)である。また、測定はJISZ3198−1に規格化された方法で行った。また、液相率、固相率は、DSC測定結果における全体のピ−ク面積を100%として、280℃未満のピーク面積比を液相率、280℃以上のピーク面積比を固相率とした。液相率、固相率の算出で280℃という温度を設定した理由は、現在汎用されている金/錫合金の融点が280℃であることから、金/錫合金の耐熱性と同等以上の耐熱性がこの発明のはんだ材料で保障できるか否かを判断し易くするためである。
【0034】
4−2.In(インジウム)の含有量
上述においては、Ba及び又はAuを含有させることで封止前後の周波数変化量を小さくできる点を、説明した。しかしながら、この発明のはんだ材料の場合、その用法次第では、Inの含有量についても検討した方が好ましいことが、発明者の実験により判明した。すなわち、この発明のはんだ材料を例えば水晶振動子の気密封止材料として用いる場合であって、しかも、はんだ付け後の冷却を低速度で行った場合、冷却の際にはんだ付けした固化物に無視できない低融点相が生じてはんだ付の信頼性が落ちる場合が生じることが、判明した。また、それを回避するためには、Inの含有量を少なめに適正化することが良いことが判明した。従って、Ba及び又はAuを含有させる際、Inの量も検討することが良い場合がある。
【0035】
以下、この点について具体的に説明する。はんだ材料の冷却条件は、リフロー炉やはんだ封止装置等の製造装置により設定できる。しかし、低融点相を生じにくくするために冷却速度をなるべく早くしたいといえど、装置への負荷を考慮すれば限度があるから、早くても5℃/秒、好ましくは3.5℃/が良い。従って、はんだ材料においても、この程度の冷却速度において低融点相が生じないものが良い。
このようなとき、この発明のはんだ材料の組成において、特にInの含有率を適正化すると、はんだ材料を溶融した後の冷却速度を5℃/秒さらには3.5℃/秒まで遅くしても、固化物に無視できない低融点相は実質的に生じないことが判明した。以下、この点について、実験結果と併せて説明する。
【0036】
先ず、
図2に示した水晶振動子であって、はんだ材料として、Snを37質量%、Sbを37質量%、Agを19.5質量%、Cuを5質量%含み、かつ、Inの含有量(質量%)を、0.5、1、1.3、1.5、2、4、6、7、8に当たるはんだ材料を用いて封止した各水晶振動子を製造した。サンプル数は各々20個である。
次に、封止直後の封止良品率、及び、封止後に良品と判定された試料を所定のリフロー炉に複数回通した後の良品率を、それぞれ調査した。なお、封止直後の封止良否判定は、水晶振動子の基体21と蓋部材22(
図2)との接合具合の顕微鏡観察と、公知のHeリークテストとで行った。また、リフロー炉を通した後の都度の良否判定は、公知のHeリークテスト及びバブルリークテストにより行った。また、リフロ−は、210℃以上の温度を80秒±20秒維持し、かつ、ピーク温度として255℃の温度を30秒維持する温度プロファイルを持つリフロー炉を用いて行った。
【0037】
図5は、Inの含有量を変えた上記の各水準の水晶振動子の封止直後の評価結果を示した図である。横軸にInの含有量(質量%)をとり、縦軸に封止直後の良品率をとってある。
図5から分かるように、Inの含有率が0.5質量%では良否率は0%、同1質量%では同70%、同1.3質量%では同90%、同1.5質量%以上から8%において良品率は100%である。
また、表5に、封止後の良品をリフロー炉に複数回通した都度の良品率を示した。表5から分かるように、Inの含有率が1.5質量%以上で4質量%以下では、リフロー回数を増やしても良品率は100%を維持している。また、Inの含有率が1.3質量%以上で6質量%以下であっても、良品率はある程度確保できており製造条件の適正化等により製品に適用できるともいえる。これに対し、In含有量が7質量%を越える試料では、リフロ回数1回目後でも不良が発生し、リフロー回数が増えるに従い不良が発生し、In含有量が6%ではリフロー5回後で不良が発生することが分かる。
【0038】
これら
図5、表5の結果を考察すると、Inの含有量が1.3質量%以上で6質量%以下であると、固化物に無視できない低融点相が生じる不具合を低減できることが分かる。好ましくは、Inの含有量は1.3質量%以上で5質量%以下が良く、より好ましくは、Inの含有量は1.5質量%以上で4質量%以下が良いことが分かる。
従って、Ba及び又はAuを含油させたこの発明のはんだ材料を例えば水晶振動子の気密封止材料として用いる場合ではんだ封止後の低脚速度を比較的遅くする場合は、Inの含有量を質量%でいって、1.3質量%以上で5質量%以下が良く、より好ましくは、Inの含有量は1.5質量%以上で4質量%以下とするのが良い。
【表5】