(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも作用極と対極とが電解液に接触する状態で設けられており、当該作用極が一定の設定電位に制御された状態において当該作用極と当該対極との間に流れる電流を検出することにより被検ガス中の検知対象ガスの濃度を検出する定電位電解式ガスセンサにおいて、
電源投入後所定時間の間、当該定電位電解式ガスセンサをガス検出動作時の通電条件で起動させたときに検出される順方向の電流に基づくセンサ出力初期変動特性を過不足なくちょうど相殺する逆特性の出力特性を示す逆方向の電流が前記作用極と前記対極との間に流れる状態が得られる通電条件で、当該定電位電解式ガスセンサを駆動する動作制御回路を備えていることを特徴とする定電位電解式ガスセンサ。
前記動作制御回路は、前記作用極の電位を設定電位に制御するポテンショスタットと、前記対極を動作電源に短絡するショート回路とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の定電位電解式ガスセンサ。
前記ポテンショスタットは、前記動作電源が正電源端子に接続されると共に前記対極が出力端子に接続された第1のオペアンプと、前記作用極が反転入力端子に接続されると共に出力端子が当該反転入力端子に電気的に接続されて出力が負帰還される第2のオペアンプとを備えており、
前記ショート回路におけるスイッチング素子が、一端が前記第1のオペアンプの正電源端子に電気的に接続されると共に、他端が当該第1のオペアンプの出力端子に電気的に接続されていることを特徴とする請求項3に記載の定電位電解式ガスセンサ。
前記動作制御回路は、センサ起動時において前記作用極の電位を一時的にガス検出動作時の設定電位より高い過剰電位に制御する制御手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の定電位電解式ガスセンサ。
検知対象ガスが酸素ガスであって、被検ガスがピンホールを介して前記作用極に供給されることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の定電位電解式ガスセンサ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の定電位電解式ガスセンサは、少なくとも作用極および対極が電解液に接触するよう設けられており、当該定電位電解式ガスセンサを特定の通電条件で駆動させる動作制御回路を備えていることを特徴とする。
【0018】
本発明の定電位電解式ガスセンサは、作用極および対極を備えた2極式のものであっても、作用極、対極および参照極を備えた3極式のものであってもよい。また、互いに種類が異なる複数の検知対象ガスを同時に検知するための2以上の作用極を備えた構成とされていてもよい。このような構成のものにおいては、対極の数は1つであっても、2以上であってもよい。
さらにまた、本発明の定電位電解式ガスセンサにおいては、各電極が電解液中に浸漬された状態で配設された構成とされていても、各電極が電解液を保持する電解液保持手段が各電極間に介在された積層された状態で配設された構成とされていてもよい。
【0019】
本発明の定電位電解式ガスセンサにおける検知対象ガスは、設定電位に保持された作用極上において電気分解可能なガスであれば、特に限定されない。
検知対象ガスとしては、例えば、酸素ガス、二酸化窒素ガス、三フッ化窒素ガス、塩素ガス、フッ素ガス、ヨウ素ガス、三フッ化塩素ガス、オゾンガス、過酸化水素ガス、フッ化水素ガス、塩化水素ガス(塩酸ガス)、酢酸ガス、硝酸ガス、一酸化炭素ガス、水素ガス、二酸化硫黄ガス、シランガス、ジシランガス、ホスフィンガス、ゲルマンガスなどを例示することができる。
【0020】
以下、定電位電解式酸素センサを例に挙げて、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
[第一の実施形態]
図1は、本発明に係る定電位電解式酸素センサの一例における構成を概略的に示す断面図であり、
図2は、
図1に示す定電位電解式酸素センサの一部を拡大して示す部分断面図である。
図3は、
図1に示す定電位電解式酸素センサの分解斜視図である。
この定電位電解式酸素センサ10aは、内部に電解液が収容される電解液室Sを形成するケーシング11aを備えている。
ケーシング11aは、一端が閉塞された円筒状のケーシング本体12と、ケーシング本体12の開口部に嵌合されて装着された円板状の蓋部材15とにより構成されている。
【0022】
蓋部材15には、厚み方向に延びる貫通孔17よりなるガス導入部16aが形成されている。
蓋部材15における貫通孔17の外面側の開口部には、軸方向外方に向かうに従って大径となる円柱状空間部を形成する例えば2段の階段状の凹所が形成されている。
蓋部材15における第1凹所18aには、円板状のガス供給制限手段20が収容されて配置されている。また、第2凹所18bには、緩衝膜25が収容されて配置されている。
【0023】
ガス供給制限手段20は、その内面における外周縁部が1段目の段部の平坦面によって支持された状態で、第1凹所18aに対して嵌合されて設けられている。
ガス供給制限手段20には、貫通孔17に連続するピンホール21が形成されており、これにより、被検ガスがその供給量が制限されてケーシング11a内に導入される。
【0024】
ピンホール21は、軸方向において均一な大きさの内径を有する。ピンホール21の内径の大きさは、1.0〜200μmであることが好ましく、例えば50μmである。また、ピンホール21の長さは、例えば0.1mm以上である。
【0025】
蓋部材15の第2凹所18bの底面より軸方向内方に延びる貫通孔17の空間部は、ピンホール21を介して導入される被検ガスの拡散空間として機能する。
拡散空間部19の体積は、例えば約0.1〜10mm
3 であることが好ましい。このような構成とされていることにより、導入された被検ガスを十分に拡散させることができると共に電源オフ後にセンサ内部に残留する酸素ガスの量を低減させことができる。
【0026】
この例の緩衝膜25は、被検ガスが外周面から流入されるガス拡散層26aと、ガス不透過性かつ撥水性を有する保護層26bとを備えており、全体が円板状に構成されている。
【0027】
ガス拡散層26aは、蓋部材15の第1凹所18aの底面およびガス供給制限手段20の外面に両面粘着テープ27aによって接着されて固定されている。
ガス拡散層26aは、例えばPTFEフィルムなどのフッ素樹脂フィルムにより構成することができる。
ガス拡散層26aは、空気透過率が0.05〜0.5L/dayであるものが好ましく、厚み、外径寸法、空隙率およびその他の具体的構成は、空気透過率が前記数値範囲内となるよう設定することができる。
【0028】
両面粘着テープ27aには、ピンホール21の内部空間と連通する貫通孔27cが形成されている。
貫通孔27cの内径の大きさは、例えば0.05〜5mmであることが好ましい。また、両面粘着テープ27aの厚みは、例えば0.5〜5mmであることが好ましい。
このような構成とされていることにより、ガス応答性を大幅に低下させることなく、外部環境に対する十分な耐久性を得ることができ、安定した指示値を確実に得ることができる。
【0029】
保護層26bは、ガス拡散層26aの外面に両面粘着テープ27bによって接着されて固定されている。
保護層26bは、例えばPETなどの樹脂フィルムにアルミニウム箔を積層した複合フィルムにより構成することができる。
【0030】
ケーシング本体12の底壁には、軸方向内方に突出して延びる円筒状の電極ホルダー保持部13がケーシング本体12と同軸状に形成されている。電極ホルダー保持部13の内部空間は外部雰囲気に開放されている。
また、ケーシング本体12の底壁には、作用極端子36、対極端子56および参照極端子66が円周方向に互いに離間して並んだ位置に配設されている。
【0031】
ケーシング11aの内部には、例えば作用極31、対極51および参照極61の3つの電極が積層状態で配置されて構成された電極構造体30が、電極ホルダー保持部13によって保持されて設けられている。
【0032】
電極構造体30は、同一平面上に対極51および参照極61が形成された電極複合体40と作用極31とが電解液保持部材45を介して積層された状態で、電極ホルダー70によって保持されて構成されている。
【0033】
電極複合体40は、疎水性を有するガス透過性フィルム41の一面上に2つの電極触媒層が互いに離間して並ぶよう形成されて構成されており、ケーシング11aの内部圧力調整用の圧気膜としても機能する。
ガス透過性フィルム41は、円板状の基体部42aと、この基体部42aの外周縁より径方向外方に延びる複数の片状部42bとを備えている。この例においては、4つの片状部42bが、円周方向に等間隔毎に並んだ位置において十字をなす状態に形成されている。
2つの電極触媒層は、各々平面形状が半円形状であって、一方の電極触媒層53aによって対極51が構成され、他方の電極触媒層63aによって参照極61が構成されている。
【0034】
ガス透過性フィルム41としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂よりなる多孔質膜を用いることができる。
多孔質膜は、ガーレー数が3〜3000秒であるものが好ましい。多孔質膜の厚みおよび空隙率は、ガーレー数が上記数値範囲内の大きさとなるよう設定することができ、例えば、空隙率は10〜70%とされ、厚みは0.01〜1mmとされることが好ましい。
【0035】
一方の電極触媒層53aおよび他方の電極触媒層63aは、電解液に対して不溶性の触媒金属の微粒子、当該触媒金属の酸化物の微粒子、当該触媒金属の合金の微粒子、またはこれらの微粒子の混合物などを、バインダと共に焼成する工程を経ることによって形成される。
電解液に対して不溶性の触媒金属としては、例えば白金(Pt)、金(Au)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)などを用いることができる。
【0036】
電解液保持部材45としては、例えば、ガラス繊維濾紙、あるいはガラス繊維、PP繊維、PP/PE複合繊維もしくはセラミックス繊維からなる不織布などを用いることができる。
電解液保持部材45は、電極複合体40における対極51および参照極61が形成された電極形成領域の面積より大きい面積を有することが好ましいが、対極51および参照極61に接触する大きさであればよい。電解液保持部材45が、電極形成領域の面積より大きい面積を有することにより、電解液の各電極に対する十分に高い濡れ性を確保することができる。
電解液保持部材45の厚みは、十分な量の電解液を含浸させることができるものでありながら、電解液保持部材45の体積が可及的に小さくなる大きさとされる。このような構成とされることにより、高湿度環境下においても信頼性の高いガス検知を行うことができる。具体的には、電解液保持部材45の厚みは、例えば0.5mm程度である。
【0037】
作用極31は、電解液保持部材45より面積の小さい円板状であって、疎水性を有するガス透過性フィルム32の一面上に電極触媒層33が形成されて構成されている。
【0038】
作用極31を構成するガス透過性フィルム32は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂よりなる多孔質膜を用いることができる。
多孔質膜は、ガーレー数が3〜3000秒であるものが好ましい。多孔質膜の厚みおよび空隙率は、ガーレー数が上記数値範囲内の大きさとなるよう設定することができ、例えば、空隙率は10〜70%とされ、厚みは0.01〜1mmとされることが好ましい。このような構成とされることにより、後述する放電特性をセンサ出力初期変動特性の逆特性となるよう設定することが容易となる。
【0039】
作用極31を構成する電極触媒層33は、電解液に対して不溶性の触媒金属の微粒子、当該触媒金属の酸化物の微粒子、当該触媒金属の合金の微粒子、またはこれらの微粒子の混合物などを、バインダと共に焼成する工程を経ることによって形成される。
電解液に対して不溶性の触媒金属としては、例えば白金(Pt)、金(Au)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)などを用いることができる。
【0040】
電極ホルダー70は、円板状の基部71aと当該基部71aの一面側に連続する円錐台状のテーパ部71bとを有する。この電極ホルダー70は、厚み方向に延びる中央貫通孔72を有する。
電極ホルダー70の中央貫通孔72の一面側開口部には、円柱状空間を形成する凹所73が形成されており、当該凹所73を中心として各々径方向外方に延びる複数の溝部74が、円周方向に例えば等間隔毎に並んだ位置に形成されている。この例においては、4つの溝部74が十字をなす状態で形成されている。
電極構造体30においては、後述するように、電極ホルダー70の一面側に電解液保持部材45が配置され、各電極は電解液保持部材45の中央部に位置された構成とされる。而して、電極ホルダー70がテーパ部71bを有することにより、電解液が減少した場合であっても、テーパ部71bの傾斜面と電解液保持部材45の下面との間に形成される微小空間による毛細管現象によって、電解液を電解液保持部材45の中央部に集めることができる。これにより、各電極が電解液に接触する状態を安定して維持することができ、信頼性の高いガス検出を確実に行うことができる。
【0041】
この定電位電解式酸素センサ10aにおいては、電極ホルダー70は、ケーシング本体12の電極ホルダー保持部13が中央貫通孔72内に挿入嵌合されて配置されている。
電極複合体40は、対極51および参照極61が形成された面が外方を向く姿勢で、基体部42aが電極ホルダー70の凹所73内に収容され、基体部42aが電極ホルダー70の中央貫通孔72を塞ぐように配置される。このような構成とされることにより、ケーシング11aの液密状態が確保された状態において、電解液室Sの内部空間が電極ホルダー保持部13の内部空間を介して外部大気に解放された状態とされる。また、電極複合体40における4つの片状部42bの各々は、電極ホルダー70における対応する溝部74における貫通孔75を介して、電極ホルダー70の下面側に位置される電解液室Sに向かって延びる姿勢で収容される。このよう構成とされていることにより、定電位電解式酸素センサ10aの姿勢に拘わらず、センサ内部に対する外気の通気によって、センサ内圧力を一定に保持することができる。
電解液保持部材45は、電極複合体40の一面上に配置される。
作用極31は、電極触媒層33が電解液保持部材45の一面に接する状態で、蓋部材15における貫通孔17の内面側の開口を液密に塞ぐように配置されている。これにより、作用極31、対極51および参照極61が、電解液保持部材45に含浸された電解液を介して導通状態とされる。
【0042】
作用極31、対極51および参照極61には、それぞれ作用極用リード部材35、対極用リード部材55および参照極用リード部材65の一端が電気的に接続されている。作用極用リード部材35、対極用リード部材55および参照極用リード部材65は、ケーシング11a内において互いに電気的に絶縁された状態で配設されており、それぞれ作用極端子36、対極端子56および参照極端子66に電気的に接続されている。
【0043】
作用極用リード部材35、対極用リード部材55および参照極用リード部材65は、いずれも、電解液に対して不溶性の金属により形成されている。
具体的には例えば、作用極用リード部材35、対極用リード部材55および参照極用リード部材65は、金(Au)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)およびタンタル(Ta)から選ばれる金属により形成されることが好ましい。
【0044】
この定電位電解式酸素センサ10aにおいては、硬化されて封止用樹脂材料層78を形成する封止用樹脂接着剤が電極ホルダー70の下方側空間部に充填されており、これにより液密封止構造が形成されている。
封止用樹脂接着剤としては、例えばエポキシ樹脂接着剤を用いることができる。
なお、
図3においては、封止用樹脂材料層78が便宜上省略されている。
【0045】
この定電位電解式酸素センサ10aにおいては、作用極端子36、対極端子56および参照極端子66の各々は、動作制御回路80に電気的に接続されている。
動作制御回路80は、作用極31を参照極61に対して一定の設定電位に制御するポテンショスタット81を備えている。動作制御回路80の一構成例を
図4に示す。
この例におけるポテンショスタット81は、2つのオペアンプにより構成されている。 第1のオペアンプ82の出力端子には、対極51が電気的に接続されており、反転入力端子(−)に、参照極61が電気的に接続されている。
第2のオペアンプ85における反転入力端子(−)には、作用極31が抵抗素子87aを介して電気的に接続されている。第2のオペアンプ85の出力端子は、抵抗素子87bを介して反転入力端子(−)に接続されており、出力が負帰還されるよう構成されている。
図4における符号83および86は、それぞれ、第1のオペアンプ82および第2のオペアンプ85の非反転入力端子(+)に接続された基準電圧電源である。また、93は、第1のオペアンプ82の正電源端子(V+)に接続された動作電源である。
【0046】
而して、上記の定電位電解式酸素センサ10aにおける動作制御回路80は、定電位電解式酸素センサ10aをガス検出動作時の通電条件で起動させたときに検出される順方向の電流に基づくセンサ出力初期変動特性の逆特性を示す逆方向の電流が作用極31と対極51との間に流れる状態が得られる通電条件で、定電位電解式酸素センサ10aを駆動する機能を有する。
【0047】
この例における動作制御回路80は、対極51を動作電源93に短絡するショート回路91を備えた構成とされている。
ショート回路91は、一端が第1のオペアンプ82の正電源端子(V+)に電気的に接続されると共に他端が第1のオペアンプ82の出力端子に電気的に接続されたスイッチング素子92を備えている。
【0048】
この定電位電解式酸素センサ10aにおいては、センサ起動時に、スイッチング素子92がオン状態とされて動作電源93の電源電圧が対極51に印加され、スイッチング素子92がオン状態とされてから所定時間が経過した後に、スイッチング素子92がオフ状態とされて対極51に対する電源電圧の印加が停止される。
【0049】
スイッチング素子92がオン状態とされて対極51が動作電源93に短絡された状態とされると、定電位電解式酸素センサ10aをガス検出動作時の通電条件で起動させた場合に比して、作用極31と電解液との界面および対極51と電解液との界面のそれぞれにおいて電荷が過剰に蓄積される。
一方、スイッチング素子92がオン状態とされてから所定時間の時間が経過した後、スイッチング素子92がオフ状態とされると、蓄積された電荷が放出される。これにより、定電位電解式酸素センサ10aをガス検出動作時の通電条件で起動させたときに作用極31に向かって流れる順方向の電流とは逆方向の電流(逆電流)、すなわち対極51に向かって電流が流れる状態が得られる。
【0050】
対極51に対する電源電圧の印加条件は、蓄積された電荷の放電特性(逆電流に基づくセンサ出力特性)が当該定電位電解式酸素センサ10aの起動時におけるセンサ出力初期変動特性の逆特性となるよう、設定されることが好ましい。センサ出力初期変動特性は、定電位電解式酸素センサ10aをガス検出動作時の通電条件で起動させたときに、作用極31と対極51の両電極間に流れる順方向の電流に基づいて取得されるセンサ出力の経時的変化を示すものである。換言すれば、センサ出力初期変動特性は、センサ内部に残留する酸素の消費および電極界面における二重層形成に要する電流の過渡特性を示すものである。
【0051】
対極51に対する印加電圧、すなわち動作電源93の電源電圧は、例えば−5.0〜+5.0Vの範囲内の大きさとされ、対極51に対する電源電圧の印加時間は、例えば5〜10秒間とされることが好ましい。これにより、蓄積された電荷の放電特性をセンサ出力初期変動特性の逆特性となるよう設定することが容易となる。
【0052】
センサ出力初期変動特性は、定電位電解式酸素センサ10aを実際に起動することにより取得されたものであることが好ましい。この理由は、定電位電解式酸素センサ10aを酸素濃度が低い環境雰囲気下で起動させる場合や、無通電時間の短い状態の定電位電解式酸素センサ10aを起動させる場合には、電源投入後、センサ出力が安定する状態が得られるまでに要する時間が短くなり、対極51に対する電源電圧の印加条件を調整する必要があるためである。
なお、定電位電解式酸素センサ10aを起動させる環境条件や無通電時間の長さによっては、センサ出力初期変動特性は、シミュレーションにより取得されたものであってもよい。例えば、定電位電解式酸素センサ10aを大気雰囲気下(酸素濃度20.9vol%の環境下)で起動させる場合には、シミュレーションにより取得されたセンサ出力初期変動特性を用いることができる。
【0053】
以下、センサ出力初期変動特性をシミュレーションによって取得する場合の一例を示す。
センサ起動時においては、センサ内部に残留する酸素ガスの濃度は時間経過とともに減少するので、作用極31および対極51の両電極間に流れる電流も時間経過とともに減少する。このため、センサ起動時に流れる電流の過渡特性においては、下記の1次反応式が成立するとみなすことができる。下記1次反応式において、qは、作用極31の面積をA[cm
2 ]、作用極31を構成する多孔質膜の体積をV[cm
3 ]、当該多孔質膜中の拡散係数をD[cm
2 /sec]、多孔質膜の厚さをδ[cm]としたとき、q=A/V×D/δで与えられる値である。また、tは通電開始からの経過時間[sec]である。
【0054】
1次反応式: logi
(t)=logi
(0)−qt
【0055】
従って、センサ起動時に流れる電流の過渡特性(センサ出力初期変動特性)は、例えば
図5に示すようなグラフで示される。このセンサ出力初期変動特性は、例えば大気雰囲気下において定電位電解式酸素センサ10aを実際に起動させたときに取得されるものとほぼ一致するものである。
【0056】
以下、上記の定電位電解式酸素センサ10aの動作について説明する。
この定電位電解式酸素センサ10aにおいては、作用極31が参照極61に対して所定の大きさの設定電位に維持された状態において、被検ガスがピンホール21を介して導入される。そして、被検ガス中の検知対象ガスが作用極31において電気分解(還元または酸化)されることによって作用極31および対極51の両電極間に流れる電解電流が検出されることにより、被検ガス中の検知対象ガスの濃度が測定される。
【0057】
而して、上述したように、定電位電解式ガスセンサは、通常、電源投入後、直ちにガス濃度測定を行うことができないため、上記の定電位電解式酸素センサ10aにおいては、センサ起動時において、定電位電解式酸素センサ10aのセンサ出力を早期に安定させるための出力安定化処理が行われる。以下、出力安定化処理について具体的に説明する。
【0058】
この定電位電解式酸素センサ10aにおいては、
図6に示すように、電源が投入されると(S1)、対極51に対する電圧印加処理(ショート処理)が、当該定電位電解式酸素センサ10aに固有のセンサ出力初期変動特性の逆特性を示す逆方向の電流が作用極31および対極51の両電極間に流れる状態が得られるよう設定された条件で、行われる。
具体的に説明すると、定電位電解式酸素センサ10aの起動直後においては、動作制御回路80におけるスイッチング素子92がオン状態とされて対極51が動作電源93に短絡される。これにより、適正な大きさに制御された動作電源93の電源電圧が対極51に印加される(S2)。対極51に対して電源電圧が印加された状態にあっては、作用極31と電解液との界面、並びに、対極51と電解液との界面の各々において電荷が、通常のセンサ起動時よりも過剰に蓄積される。対極51に対する電圧印加が開始されてから所定時間が経過した後、動作制御回路80におけるスイッチング素子92がオフ状態とされて対極51に対する電源電圧の印加が停止される(S3)。これにより、蓄積された電荷が適正に制御された放電特性で放出されることとなる。
【0059】
次いで、この定電位電解式酸素センサ10aにおいては、対極51に対する電源電圧の印加が停止されてから所定時間が経過した時点において取得される電流値(以下、「判定時出力値」ともいう。)に基づいて、出力安定化処理を継続して行うか否かの判定処理が行われる(S4)。
この判定処理においては、作用極31および対極51の両電極間に流れる電流が所定の大きさの逆電流であることが検出されたときに、センサ出力安定化処理が終了される(S5)。一方、作用極31および対極51の両電極間に流れる電流が所定の大きさの逆電流ではないことが検出された場合には、ショート処理が繰り返し行われる(S2,S3)。
【0060】
而して、上記の定電位電解式酸素センサ10aにおいては、ショート回路91におけるスイッチング素子92をオン状態として動作電源93の電源電圧を対極51に印加し、スイッチング素子92をオン状態としてから所定時間が経過した後に、当該スイッチング素子92をオフ状態として対極51に対する電圧印加を停止する出力安定化処理が行われる。これにより、定電位電解式酸素センサ10a自体をいわば「キャパシタ」として機能させることができる。すなわち、対極51に対して動作電源93の電源電圧が印加されている状態においては、作用極31と電解液との界面並びに対極51と電解液との界面の各々に電荷が過剰に蓄積される。一方、対極51に対する電源電圧の印加が停止されることにより蓄積された電荷が放出され、これにより、センサ出力初期変動特性の逆特性を示す逆方向の電流が作用極31および対極51の両電極間に流れる状態が得られる。このため、定電位電解式酸素センサ10aのセンサ出力初期変動特性が、逆電流に基づく出力特性(放電特性)によって相殺されることになる。
従って、上記の定電位電解式酸素センサ10aによれば、センサ起動時においてセンサ出力を安定させる暖機処理に要する時間を大幅に短縮することができ、酸素ガスの濃度測定を高い信頼性で行うことのできる状態を早期に得ることができる。
【0061】
また、上記の定電位電解式酸素センサ10aによれば、ショート処理が、所期の条件を満足する状態が得られるまで繰り返し実行されることにより、定電位電解式酸素センサ10aを起動させる環境条件(環境雰囲気の酸素濃度)や、無通電時間の長短などの定電位電解式酸素センサ10aの状態に拘わらず、所期のセンサ出力安定化処理を確実にかつ容易に行うことができる。
【0062】
[第二の実施形態]
図7は、本発明に係る定電位電解式酸素センサの他の例における構成を概略的に示す図である。なお、
図7においては、
図1と同一の構成部材については、便宜上、同一の符号が付してある。
この定電位電解式酸素センサ10bは、作用極31、対極51および参照極61の3つの電極が電解液L中に浸漬された状態で配設された構成とされている。
【0063】
この定電位電解式酸素センサ10bは、両端が閉塞された筒状のケーシング11bを備えている。ケーシング11bの一端壁には、内面における中央部に凹所による拡散空間部19が形成されていると共に、被検ガスを導入するガス導入部16bが当該拡散空間部19に連続するよう形成されている。また、ケーシング11bの他端壁には、ガス排出部28が形成されている。
【0064】
ガス導入部16bは、例えば、軸方向において均一な大きさの内径を有するピンホール21よりなり、これにより、被検ガスがその供給量が制限されてケーシング11b内に導入される。ピンホール21の内径の大きさは、1.0〜200μmであることが好ましく、例えば50μmである。また、ピンホール21の長さは、例えば0.1mm以上である。
拡散空間部19の体積は、例えば約0.1〜10mm
3 であることが好ましい。このような構成とされていることにより、導入された被検ガスを十分に拡散させることができると共に電源オフ後にセンサ内部に残留する酸素ガスの量を低減させることができる。
ガス排出部28は、例えば軸方向に延びる貫通孔28aにより構成されている。
【0065】
ケーシング11bの一端壁の内面には、ピンホール21を内面側から塞ぐように一端側ガス透過性疎水隔膜32aが張設されている。また、ケーシング11bの他端壁の内面には、ガス排出部28を構成する貫通孔28aを内面側から塞ぐように他端側ガス透過性疎水隔膜52が張設されており、これにより、ケーシング11bの内部に電解液室が形成されている。
【0066】
一端側ガス透過性疎水隔膜32aおよび他端側ガス透過性疎水隔膜52としては、
図1に示す定電位電解式酸素センサ10aにおける作用極31を構成するガス透過性フィルム32または電極複合体40を構成するガス透過性フィルム41として例示したものを用いることができる。
【0067】
ケーシング11bにおける電解液室には、電解液Lが充填されていると共に、作用極31、対極51および参照極61が電解液L中に浸漬された状態で設けられている。
【0068】
作用極31は、一端側ガス透過性疎水隔膜32aの接液側の面に設けられた電極触媒層33によって構成されている。
【0069】
対極51は、他端側ガス透過性疎水隔膜52の接液側の面に設けられた電極触媒層53によって構成されている。
【0070】
参照極61は、ガス透過性ベースフィルム62の一面上に、電極触媒層63が形成されて構成されている。この例においては、参照極61は、作用極31および対極51の各々と離間した位置において、電極触媒層63が作用極31と対向する状態で設けられている。
また、参照極61は、ガス透過性ベースフィルム62の両面に電極触媒層が形成された構成のものであってもよく、また、触媒金属単体により構成されたものであってもよい。
参照極61を構成するガス透過性ベースフィルム62としては、
図1に示す定電位電解式酸素センサ10aの電極複合体40を構成するガス透過性フィルム41として例示したものを用いることができる。
【0071】
作用極31、対極51および参照極61には、それぞれ作用極用リード部材35、対極用リード部材55および参照極用リード部材65の一端部が電気的に接続されている。作用極用リード部材35、対極用リード部材55および参照極用リード部材65の各々は、他端部が電解液室の液密状態を維持するようにしてケーシング11bの外部に導出されて動作制御回路80に電気的に接続されている。
【0072】
このような構成の定電位電解式酸素センサ10bによっても、
図1に示す定電位電解式酸素センサ10aと同様の効果が得られる。すなわち、上記の定電位電解式酸素センサ10bによれば、センサ起動時においてセンサ出力を安定させる暖機処理に要する時間を大幅に短縮することができ、酸素ガスの濃度測定を高い信頼性で行うことのできる状態を早期に得ることができる。また、定電位電解式酸素センサ10bを起動させる環境条件(環境雰囲気の酸素濃度)や、無通電時間の長短などの定電位電解式酸素センサ10bの状態の差に拘わらず、所期のセンサ出力安定化処理を確実にかつ容易に行うことができる。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、本発明の定電位電解式ガスセンサにおいては、動作制御回路が、ショート回路を備えた構成とされる必要はなく、センサ起動時に作用極の電位を一時的にガス検出動作時の設定電位より高い過剰電位となるよう、ポテンショスタットを制御する制御手段を備えた構成とされていてもよい。このような出力安定化処理が行われる場合であっても、センサ出力初期変動特性の逆特性を示す逆方向の電流が作用極と対極との間に流れる状態が得られる。
さらにまた、
図4に示すポテンショスタット81において、第2のオペアンプ85に接続された基準電圧電源86の電源電圧を下げることによっても、センサ出力初期変動特性の逆特性を示す逆方向の電流が前記作用極と前記対極との両電極間に流れる状態が得られる。
さらにまた、本発明の定電位電解式ガスセンサにおいては、センサ起動時の環境雰囲気中に検知対象ガスが存在している必要はなく、検知対象ガスが存在しない環境雰囲気下で起動されてもよい。
さらにまた、
図1に示す定電位電解式酸素センサにおいては、対極および参照極が同一平面上に形成された構成とされている必要はなく、作用極、対極および参照極が各電極間に電解液保持部材が介在された状態で積層された構成とされていてもよい。このことは、酸素ガス以外の他の検知対象ガスを検知する定電位電解式ガスセンサにおいても同様である。
さらにまた、
図6に示す定電位電解式酸素センサにおいては、参照極が、他端側ガス透過性疎水隔膜の接液側の内面において対極と離間して並んだ位置に設けられた構成とされていてもよい。このことは、酸素ガス以外の他の検知対象ガスを検知する定電位電解式ガスセンサにおいても同様である。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0075】
[実施例1]
図1乃至
図3に示す構成に従って、本発明に係る定電位電解式酸素センサを作製し、大気雰囲気下(酸素濃度20.9vol%)において、当該定電位電解式酸素センサを以下に示す通電条件で起動させた。濃度指示値の経時的変化を
図8において曲線(α)で示す。
【0076】
<通電条件>
作用極(31)の参照極(61)に対する設定電位:−0.6V
センサ起動時において対極(51)に印加される動作電源(93)の電源電圧:3.0V
センサ起動時における対極(51)に対する電源電圧の印加時間:1.0sec
【0077】
結果として、定電位電解式酸素センサを起動させてから約20秒間が経過した時点で、濃度指示値が安定した状態を得ることができることが確認された。
【0078】
[比較例1]
実施例1において、センサ起動時に対極に対する電源電圧の印加を行わなかったことの他は実施例1と同様にして、定電位電解式酸素センサを起動させた。濃度指示値の経時的変化を
図8において曲線(β)で示す。
この結果より、定電位電解式酸素センサを起動させてから濃度指示値が安定するまでに約300秒間の時間を要することが確認された。
【0079】
以上の結果より、本発明に係る出力安定化処理がセンサ起動時に行われることにより、センサ出力を安定させる暖機処理に要する時間を大幅に短縮することができ、酸素ガスの濃度測定を高い信頼性で行うことのできる状態を早期に得ることができることが確認された。
また、定電位電解式酸素センサを起動させる環境雰囲気を低濃度酸素雰囲気としたことの他は実施例1と同様にして、定電位電解式酸素センサを起動させてから濃度指示値が安定するまでの時間を調べたところ、酸素ガスの濃度測定を高い信頼性で行うことのできる状態を通常のセンサ起動時に比して早期に得ることができることが確認された。
さらにまた、定電位電解式酸素センサの無通電時間の長さを適宜変更したことの他は実施例1と同様にして、定電位電解式酸素センサを起動させてから濃度指示値が安定するまでの時間を調べたところ、酸素ガスの濃度測定を高い信頼性で行うことのできる状態を通常のセンサ起動時に比して早期に得ることができることが確認された。