特許第6959181号(P6959181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6959181
(24)【登録日】2021年10月11日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】吸音構造体およびダクトの吸音構造
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20211021BHJP
   G10K 11/168 20060101ALI20211021BHJP
   E04B 1/86 20060101ALN20211021BHJP
【FI】
   G10K11/16 120
   G10K11/16 100
   G10K11/168
   !E04B1/86 D
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-96795(P2018-96795)
(22)【出願日】2018年5月21日
(65)【公開番号】特開2019-203910(P2019-203910A)
(43)【公開日】2019年11月28日
【審査請求日】2021年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108498
【氏名又は名称】タイガースポリマー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】白川 亮
【審査官】 殿川 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−533592(JP,A)
【文献】 特表平07−506158(JP,A)
【文献】 特開平08−109688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/01−13/04
13/08
E04B 1/62−1/99
G10K 11/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層構造を有する板状の吸音構造体であって、
第1の吸音材層と、
第1の吸音材層よりも音源側に配置される第2の吸音材層と、
第1吸音材層と第2吸音材層の間に配置される調整層とを有し、
調整層は、第1吸音材層および第2吸音材層の構成材料に比べ透気度が低く制限された低透気性材料により構成されており、
調整層は、前記低透気性材料により形成された複数の帯が、所定の幅の隙間を隔てて並べられて構成されており、
前記帯の幅が、第1吸音材層の厚みの2倍以上であり、
前記帯により第1吸音材層と第2吸音材層が隔てられると共に、前記隙間の部分では、第1吸音材層と第2吸音材層が直接対向しており、かつ、
調整層における帯の幅が、隙間の幅よりも大きくされ、
第2吸音材層の構成材料の透気度が、第1吸音材層の構成材料の透気度よりも小さくされている
吸音構造体。
【請求項2】
調整層における帯の幅が20mm以上200mm以下とされた請求項1に記載の吸音構造体。
【請求項3】
前記複数の帯に、帯の幅が異なるものが含まれている
請求項1に記載の吸音構造体。
【請求項4】
空気が通流するダクトの吸音構造であって、
請求項1ないし請求項3のいずれかの吸音構造体が、第1吸音材層の側がダクト壁面側となり、第2吸音材層の側がダクトの内部空間に面する側となるように、ダクトの内周面に取り付けられている、
ダクトの吸音構造。
【請求項5】
ダクト内を通流する空気の流れ方向に対し、前記調整層の隙間が延在する方向が交差するようにされた、
請求項4に記載のダクトの吸音構造。
【請求項6】
ダクト内に配置される吸音構造体の外形が、前記調整層の隙間が延在する方向で測った吸音構造体の長さが、調整層の帯の幅以下とされた、
請求項4に記載のダクトの吸音構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造を有する板状の吸音構造体に関する。また、本発明は、かかる吸音構造体を用いたダクトの吸音構造に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布材料やグラスウール等の繊維集合体を用いた吸音材料や、発泡ウレタンなどの発泡樹脂材料を用いた吸音材料が、吸音材や吸音構造の構成部材として広く利用されている。こうした吸音材料は、適度な通気性(透気度)を有しており、騒音に面するように配置することで、騒音の振動エネルギーを減衰させ、騒音を低減する。こうした吸音材料は、単独で、もしくは積層構造とされて、使用される。
【0003】
特許文献1には、積層構造を有する吸音構造体が開示されている。特許文献1の吸音構造体では、通気性を有する多孔質体の音源と対向する面に皮膜が積層されており、皮膜に貫通穴が形成され、貫通穴の開口が所定の大きさを有し、所定の開口割合となるようにすることで、広い周波数域において良好な吸音特性を有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−082671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、吸音材料は、吸音の原理上、吸音しようとする騒音の空気の振動速度が大きい部位に吸音材料を存在させないと、効率的な吸音ができないものであった。そのため、壁面に密着させて吸音材料を配置する場合には、吸音材を分厚いものとしないと低周波数領域の吸音が不十分になりやすい。すなわち、吸音材料を薄型化しようとすると、低周波領域の吸音特性が低下しやすい。
【0006】
低周波領域の吸音特性を改善するためには、吸音材料と壁面の間にいわゆる背後空気層を設ける技術があるが、この技術は、吸音材料/構造のために必要な空間を節約するという観点からは、効果が限定的である。また、特許文献1の技術も、吸音材料の低周波領域の吸音特性を改善する技術ではあるが、さらなる低周波領域の吸音特性の改善が望まれている。
【0007】
本発明の目的は、吸音構造が必要とする空間を節約して省スペース化の要請に応えつつ、低周波数領域の吸音特性が向上した吸音構造体や吸音構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、鋭意検討の結果、2つの吸音材層の間に、透気度が低く制限された調整層を設け、調整層の形態を複数の帯が互いに隙間を空けて並べられた形態とすると、上記課題を解決できることを知見し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、積層構造を有する板状の吸音構造体であって、第1の吸音材層と、第1の吸音材層よりも音源側に配置される第2の吸音材層と、第1吸音材層と第2吸音材層の間に配置される調整層とを有し、調整層は、第1吸音材層および第2吸音材層の構成材料に比べ透気度が低く制限された低透気性材料により構成されており、調整層は、前記低透気性材料により形成された複数の帯が、所定の幅の隙間を隔てて並べられて構成されており、前記帯の幅が、第1吸音材層の厚みの2倍以上であり、前記帯により第1吸音材層と第2吸音材層が隔てられると共に、前記隙間の部分では、第1吸音材層と第2吸音材層が直接対向しており、かつ、調整層における帯の幅が、隙間の幅よりも大きくされ、第2吸音材層の構成材料の透気度が、第1吸音材層の構成材料の透気度よりも小さくされている吸音構造体である(第1発明)。
【0010】
また、さらに、第1発明において、好ましくは、調整層における帯の幅が20mm以上200mm以下とされる(第2発明)。また、さらに、第1発明において、好ましくは、複数の帯に、帯の幅が異なるものが含まれている(第3発明)。
【0011】
また、本発明は、第1発明ないし第3発明のいずれかの吸音構造体が、第1吸音材層の側がダクト壁面側となり、第2吸音材層の側がダクトの内部空間に面する側となるように、ダクトの内周面に取り付けられている、ダクトの吸音構造である(第4発明)。第4発明において、好ましくは、ダクト内を通流する空気の流れ方向に対し、調整層の隙間が延在する方向が交差するようにされる(第5発明)。また、第4発明において、好ましくは、ダクト内に配置される吸音構造体の外形が、調整層の隙間が延在する方向で測った吸音構造体の長さが、調整層の帯の幅以下とされる(第6発明)。
【発明の効果】
【0012】
本発明の吸音構造体(第1発明)によれば、吸音構造体の厚みを抑えつつ、低周波領域の吸音特性を向上させることができるまた、第2発明のようにすれば、1000Hz付近の周波数の吸音特性がより向上する。また、第3発明のようにすれば、低周波領域の吸音特性が高い周波数帯を複数設けることができる。
【0013】
また、本発明のダクトの吸音構造(第4発明)によれば、吸音構造が必要とする空間を節約しつつ、ダクト内部を伝播する騒音の低周波領域における吸音特性を向上させることができる。また、第5発明のダクトの吸音構造によれば、低周波領域の特定の周波数帯で吸音特性を高めやすくなる。また、第6発明のダクトの吸音構造によれば、低周波領域の吸音特性がより高めやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態の吸音構造体の構成を示す断面図である。
図2】第1実施形態の吸音構造体の構造を示す分解斜視図である。
図3】第1実施形態の吸音構造体の作用を説明する模式図である。
図4】第1実施形態の吸音構造体がダクトに設けられたダクト吸音構造を示す正面図及び断面図である。
図5】第1実施形態の吸音構造体がダクトに設けられる際の、吸音構造体の形態例を示す斜視図である。
図6】吸音構造体が設けられた実施例及び比較例の吸音効果が計算されたダクトシステムの形状を示す斜視図である。
図7】吸音構造体が設けられた実施例及び比較例における吸音効果の計算結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下図面を参照しながら、自動車に適用される吸音構造への適用を例として、発明の実施形態について説明する。発明は以下に示す個別の実施形態に限定されるものではなく、その形態を変更して実施することもできる。
【0016】
図1には、第1実施形態の吸音構造体1の構成を断面図で示す。また、図2には、第1実施形態の吸音構造体1の構成を層ごとに分離した状態の分解斜視図で示す。以下の説明においては、便宜上、図1図2におけるX方向を幅方向、Y方向を長さ方向、Z方向を厚み方向と呼んで説明する。
【0017】
吸音構造体1は、積層構造を有する板状の吸音構造体である。吸音構造体1は、第1の吸音材層11と、第1の吸音材層よりも音源側に配置される第2の吸音材層12と、第1吸音材層と第2吸音材層の間に配置される調整層13とを有している。吸音構造体1は他の層、例えば、第2吸音材層12を覆うように設けられる保護層などを有していてもよい。本実施形態の吸音構造体1は、第1吸音材層11と、調整層13と、第2吸音材層12とがこの順に積層されて構成されている。なお、図1は断面図であるが、図を見やすくするために、第1吸音材層11と第2吸音材層12の部分には、断面を示す斜線やハッチングをしていない。図3図4においても同様である。
【0018】
第1吸音材層11および第2吸音材層12は、適度な透気度を有する多孔質の構成材料により形成された層である。多孔質構成材料は、繊維集合体であってもよいし、連続気泡構造を有する発泡樹脂であってもよく、特に限定されない。繊維集合体としては、ロックウールやグラスウールや、合成繊維や合成樹脂繊維からなる綿状素材、不織布、織布などが例示される。発泡樹脂としては、発泡ウレタン樹脂などが例示される。第1吸音材層11および第2吸音材層12は、それぞれ、単一の層や材料からなる吸音材層であってもよいし、材料や特性が異なる複数の多孔質構成材料の層が積層された積層構造の吸音材層であってもよい。また、第1吸音材層11および第2吸音材層12の構造や、厚み、目付等の種々の特性は同じであってもよいが異なっていてもよい。本実施形態においては、第1吸音材層11および第2吸音材層12を、連続気泡構造を有する発泡ウレタンにより構成している。
【0019】
第1吸音材層11の厚みt1と、第2吸音材層12の厚みt2は同じでもよいが、異なっていてもよい。第2吸音材層12の厚みt2を大きくすると高周波領域の吸音特性が良くなり、第1吸音材層11の厚みt1を大きくすると低周波領域の吸音特性が良くなる傾向がある。第1吸音材層11の好ましい厚さは、3mm以上50mm以下、より好ましい厚さは、5mm以上30mm以下である。第2吸音材層12の好ましい厚さは、1mm以上40mm以下、より好ましい厚さは、2mm以上25mm以下である。
また、第2吸音材層12の構成材料の透気度が、第1吸音材層11の構成材料の透気度よりも小さくされることが好ましい。
【0020】
第1吸音材層11および第2吸音材層12の間には、両層の間の空気の通流状態を調整する調整層13が設けられている。調整層13を構成する材料は、第1吸音材層11および第2吸音材層12の構成材料に比べ透気度が低く制限された低透気性材料である。調整層13の構成材料の透気度は、第1吸音材層11および第2吸音材層12の構成材料の透気度に比べ、1/10以下とされることが好ましく、1/100以下とされることが特に好ましい。また、調整層13の構成材料の透気度は、JIS L1096に規定されるようにフラジール型試験機で差圧125Paの通気量から計算して、10立方センチメートル/平方センチメートル/秒以下であることが好ましく、3立方センチメートル/平方センチメートル/秒以下であることが特に好ましい。また、調整層13の構成材料は、実質的に空気を通さない非通気性の材料であってもよい。本願における「低透気性材料」には、非通気性材料が含まれるものとして説明する。
【0021】
調整層13を構成する低透気性材料としては、例えば、非通気性のフィルムや、非通気性の皮膜や、透気度が制限された多孔質材料などが例示できる。非通気性のフィルムとしては、ポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルム、PET樹脂フィルム等の樹脂フィルムや、コーティングされた紙、金属箔などが例示できる。非通気性の皮膜としては、発泡樹脂を成形した際のスキン層や、連続した膜状に塗布されたホットメルト接着剤などが例示できる。透気度が制限された多孔質材料としては、濾紙や、透湿防水性の樹脂膜、等が例示される他、バインダ等により目止め処理をした不織布や発泡樹脂等であってもよい。本実施形態においては、調整層13は、PET樹脂フィルムにより構成されている。
【0022】
調整層13は、上述した低透気性材料により形成された複数の帯131,131が、所定の幅aの隙間132,132を隔てて並べられて構成されている。すなわち、調整層13は、層の延在方向に沿って一体に連続してはおらず、低透気性材料が存在する部分(帯131の部分)と、低透気性材料が存在しない部分(隙間132の部分)とが、交互に、縞状に配置された構造を有する。
調整層13における帯131の幅Wが、隙間132の幅aよりも大きくされることが好ましく、W≧2*aであることがより好ましく、W≧4*aであることが特に好ましい。調整層の帯131の厚みt3は特に限定されないが、吸音材層の厚みt1、t2より薄いことが好ましい。
【0023】
調整層13の帯131により第1吸音材層11と第2吸音材層12が隔てられる。この部分では、吸音材の厚み方向への空気の流れが制限される。一方、調整層13の隙間132の部分では、第1吸音材層11と第2吸音材層12が直接対向している。対向する部分で第1吸音材層11と第2吸音材層12が直接接触していてもよい。この部分では、吸音材の厚み方向への空気の流れが制限されず、空気は第1吸音材層11と第2吸音材層12の間を自由に行き来できる。騒音が入射した際の空気の動きを図3中の矢印で示している。
【0024】
低透気性材料製の帯131の幅Wは、第1吸音材層11の厚みt1の2倍以上、即ちW≧2*t1とされる。W≧3*t1とされることが好ましく、W≧4*t1とされることが特に好ましい。また、調整層13に含まれる複数の帯131,131は、すべて同じ幅であってもよいが、帯の幅が異なるものが含まれていてもよい。
調整層13において、より好ましい帯131の幅Wは20mm以上200mm以下であるが、消音効果を高めたい周波数に応じて、帯の幅Wを増減してもよい。
【0025】
第1実施形態の吸音構造体1の製造方法について説明する。吸音構造体1はそれぞれの層を構成する材料を積層一体化することにより製造できる。例えば、連続気泡構造を有する発泡ウレタンにより、第1吸音材層11や第2吸音材層12となるべき層を準備し、PET樹脂フィルムにより調整層13となるべき複数の帯を準備する。第1吸音材層の上に、帯131,131が所定の幅の隙間を隔てて並べられて、さらに、第2吸音材層が積層され、これらが一体化されて、吸音構造体1が完成する。
【0026】
各層の間の一体化には、公知の手段が使え、例えば、粘着剤をスプレーして、層を貼りあわすことができる。一体化には、ホットメルト接着剤等の接着剤を用いてもよい。また、調整層の透気性の低さが維持できるのであれば、ニードルパンチ工程により各層を一体化してもよい。
【0027】
調整層13の形成と各層の貼りあわせを同時に行ってもよい。例えば、準備された第1吸音材層の上に、ホットメルト接着剤を所定の幅Wと隙間aを有する縞状に塗布し、その上に第2吸音材層を置いて貼りあわせると、調整層となるべき帯を事前に準備しなくても、ホットメルト接着剤の部分が調整層の帯131に対応する部分となって、吸音構造体1が完成する。
【0028】
あるいは、準備された第1吸音材層の上に、所定の幅Wと隙間aを有する縞状に目止材(バインダ等)を塗布し、塗布した部分が調整層の帯131に対応する部分となるようにしてもよい。
【0029】
必須ではないが、第1吸音材層や第2吸音材層の構成材料が、ロール状に巻かれて供給されるものである場合には、調整層の構成材料を、ロール状に巻かれて供給されるものや、上述したホットメルト接着剤や目止材によるもののような、連続的に形成可能なものとすることにより、吸音構造体1を効率的に連続的に製造することができ、好ましい。
【0030】
第1実施形態の吸音構造体1の使用方法について説明する。吸音構造体1は、一般的な吸音材と同様に、騒音源に面するように配置することで吸音用途に用いられる。取付の具体的構造は特に限定されず、貼りつけや、係止等の公知の手段により取り付ければよい。
例えば、建物の壁面に、吸音構造体1を取り付けて吸音処理がなされる。また、自動車のエンジンカバーの面や、車室内に吸音構造体1を取り付けてもよい。この時、吸音構造体1の第2吸音材層12の側が、騒音源や外部空間に面するように、吸音構造体1を取り付ける。
【0031】
また、第1実施形態の吸音構造体1は、空気が通流するダクトに適用することもできる。ダクトの用途は、例えば、自動車等の内燃機関の吸気系であったり、燃料電池に供給する空気の吸気系であったり、電気自動車やハイブリッド自動車に搭載される組電池を冷却するための冷却風を送る送風系であったり、エアコンディショナーの送風系であったりするが、特に限定されない。これら吸気系や送風系にはフィルタを配置するためのケースや、電池等の冷却対象を囲うハウジングが設けられることもあるが、こうしたケースやハウジングに吸音構造体1を取り付けてもよい。すなわち、ここにいう「ダクト」には、管状に形成された管状部材だけでなく、吸気系や送風系の流路を実質的に区画しているような部材、例えば、上記ケースやハウジングが含まれる。
【0032】
吸音構造体1が、空気が通流するダクトに適用される場合には、第1吸音材層11の側がダクト壁面側となり、第2吸音材層12の側がダクトの内部空間(流路)に面する側となるように、ダクトの内周面に取り付けられる。図4には、ハイブリッド自動車の組電池を冷却するための冷却風を送風するための冷却ダクト5に、上記第1実施形態の吸音構造体1が取りつけられた例を示している。
【0033】
図4に示した実施形態において、偏平な管状に形成された冷却ダクト5には、吸気口51と排気口52が設けられており、吸気口51や排気口52が、他の管路部材やエアフィルタ、送風ファン、電池ケース等に接続されて、冷却風が電池に送られる。吸音構造体1は、図5に示したような形状にカットされて、第2吸音材層12の側がダクトの内部空間(流路F)に面するように、冷却ダクト5の内周面に一体化されている。このような構成で、吸音構造体1によって、流路内を伝播する騒音を吸音することができる。また、第1吸音材層11とダクトの壁面とは、必ずしも密着している必要はなく、第1吸音材層11とダクトの壁面の間に、いわゆる背後空気層が設けられていてもよい。
【0034】
また、吸音構造体1が、空気が通流するダクトに適用される場合には、図4図5にも示したように、ダクト内を通流する空気の流れ方向(図4の左右方向)に対し、前記調整層の隙間132が延在する方向(図4のX−X断面図の奥行き方向、図5の寸法Lの方向)が交差するようにされることが好ましい。特に、本実施形態のように、交差する角度が略直角であることが好ましい。
【0035】
また、吸音構造体1が、空気が通流するダクトに適用される場合には、図5にも示すように、ダクト内に配置される吸音構造体1の調整層13の隙間132が延在する方向(図5のLの方向)で測った吸音構造体の長さLが、調整層13の帯131の幅W以下とされることが好ましい。
【0036】
上記実施形態の吸音構造体1や吸音構造の作用及び効果について説明する。
上記実施形態の吸音構造体1によれば、吸音構造体の厚みを抑えつつ、低周波領域の吸音特性を向上させることができる。
【0037】
従来の吸音材では、吸音材の厚みが薄いと、低周波領域の吸音作用が低くなりやすかった。これは、従来の吸音材では、騒音が吸音材の中を進行する距離が実質的に吸音材の厚みに等しい距離となっていたため、吸音材の厚みが消音したい騒音の波長の1/6以下になると、吸音材の多孔質構造により騒音の振動エネルギーが減衰しにくくなる傾向が顕著となるためである。
【0038】
第1実施形態の吸音構造体1に、垂直入射吸音率を測定する際のように、吸音構造体の面に直交するように音波が入射した際の、吸音材内部の空気の振動の様子を図3に示している。図3では、図の上下方向に空気が振動するように音波が入射する。図3には、隙間132の延在方向に直交する面の断面図を示しているが、図の奥行き方向にわたって、同様の空気の動きが生ずる。
【0039】
図3のように、吸音構造体1の下側にダクト壁9があるように設けられると、第1実施形態の吸音構造体1では、帯131により第1吸音材層11と第2吸音材層12が隔てられると共に、隙間132の部分では、第1吸音材層11と第2吸音材層12が直接対向しているよう、調整層13が構成されているので、振動する空気の一部は、隙間132を通って第1吸音材層11に達しつつ、第1吸音材層内では、図の左右方向に空気が振動する。そのため、隙間132に対応する部分では、騒音が吸音材の中を進行する経路が第1吸音材層11と平行な方向に曲がって、長くなる。特に、帯131の幅Wが、第1吸音材層11の厚みt1の2倍以上とされているので、隙間132を通過する騒音が吸音材の中を進行する距離が、確実に、吸音構造体1の厚みよりも長くなる。
【0040】
この作用により、吸音構造体1では、その一部の吸音材の肉厚が厚くなったのと同様に働くことになり、吸音構造体の厚みを抑えつつ、低周波領域の吸音特性を向上させることができる。
低周波領域の吸音特性をより効果的に向上させる観点からは、第1吸音材層11の厚みt1に対する帯131の幅Wの比W/t1を大きくすることが好ましく、W/t1を3以上、特に4以上とすることが好ましい。
【0041】
また、低周波領域の吸音特性をより効果的に向上させる観点から、調整層13における帯131の幅Wが、隙間132の幅aよりも大きくされていることが好ましい。隙間の幅aが大きいと、隙間の部分を通過した騒音が方向を変えて第1吸音材層を横方向に伝播する割合が低下し、隙間132を通過する騒音が吸音材の中を進行する実質的な距離があまり長くならないからである。隙間132の幅aに対する帯131の幅Wの比W/aは、2以上であることがより好ましく、4以上であることが特に好ましい。
【0042】
また、低周波領域の吸音特性をより効果的に向上させる観点から、第2吸音材層の構成材料の透気度が、第1吸音材層の構成材料の透気度よりも小さくされることが好ましい。隙間132の部分を通過する騒音が伝播する経路において、第2吸音材層は、空気流路Fに面する入口の部分に相当しており、第2吸音材層の構成材料の透気度を小さくすることにより、隙間132の部分を通過する騒音をより効果的に減衰でき、低周波領域の吸音特性が良くなる。
【0043】
また、図3にも示したように、調整層13において互いに隣り合う隙間132,132の部分を透過した騒音は、帯131の幅方向の中央部(図3で破線で示す)で互いにぶつかり合って反射することになる。そのため、第1実施形態の吸音構造体1は、調整層13の隙間132の部分を開口とし、管路長がW/2であるような1/4波長共鳴管のような振る舞いも見せることになる。そのため、調整層13における帯131の幅Wを20mm以上200mm以下としておくと、1000Hz付近の周波数の吸音特性をより向上させることができる。この周波数帯は、従来の吸音材料では、吸音材の厚みを100mm以上にしないと向上できなかったが、第1実施形態の吸音構造体1によれば、厚みが薄くても、例えば、後述する実施例のように、厚みが15mmであっても、1000Hz付近の周波数における吸音特性を改善できる。
【0044】
幅Wを大きくすると、1/4波長共鳴管の管路が長くなったことに相当し、より低周波領域で、吸音特性が改善することになる。なお、幅Wの大きさと、改善が大きい周波数の関係は、W/2が波長の1/4に対応するような関係にはあるが、設けられる吸音材層の特性によりこの対応関係からずれることもあり、例えば、改善が大きい周波数での波長の1/4よりもW/2が短めになることもある。
【0045】
また、吸音構造体1の調整層13に含まれる複数の帯131,131の中に、帯の幅Wが異なるものが含まれていると、帯の幅の違いにより、先の段落で述べてきた1/4波長共鳴管のような振る舞いが、異なる周波数で生ずることになり、低周波領域の吸音特性が高い周波数帯を複数設定することができる。これにより、低周波領域において、幅広い周波数で吸音特性を向上させることができる。
【0046】
また、必須ではないが、低周波領域の吸音特性をより効果的に向上させる観点から、調整層13における隙間132の幅aが、第1吸音材層11の厚みt1の2倍以下とされることが好ましい。このようにされていると、上述した1/4波長共鳴管のような振る舞いがより低い周波数で生ずることになるからである。
【0047】
また、上記実施形態の吸音構造体1を、第1吸音材層11の側がダクト壁面側となり、第2吸音材層12の側がダクトの内部空間(流路F)に面する側となるように、ダクト5の内周面に取り付ければ、吸音構造が必要とする空間を節約しつつ、ダクト内部を伝播する騒音の低周波領域における吸音特性を向上させることができる。
【0048】
また、上記実施形態の吸音構造体1をダクトに設ける場合において、ダクト5内を通流する空気の流れ方向(図4の左右方向)に対し、調整層13の隙間132が延在する方向(図5のL方向)が交差するようにされていると、上述した1/4波長共鳴管のような振る舞いがより確実に発揮されることになり、低周波領域の特定の周波数帯で吸音特性を高めやすくなる。
【0049】
また、上記実施形態の吸音構造体1をダクトに設ける場合において、ダクト5内に配置される吸音構造体1の調整層13の隙間132が延在する方向(図5のL方向)で測った吸音構造体の長さLが、調整層の帯131の幅W以下とされていれば、騒音の入射/伝播方向と隙間の延在方向との関係に左右されずに、上述した1/4波長共鳴管のような振る舞いがより確実に発揮されることになり、低周波領域の吸音特性が高めやすくなる。このような吸音構造体をダクト内部に設ける場合には、吸音構造体1において、隙間や帯が延在する方向と直交する側面S1,S2の部分が、実質的に封止されていることが好ましい。側面S1,S2の封止は、ダクト壁面やリブ等に側面が当接することによりなされてもよいし、側面S1,S2に樹脂被膜を形成すること等によりなされてもよい。
【0050】
発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をして実施することができる。以下に発明の他の実施形態について説明するが、以下の説明においては、上記実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様である部分についてはその詳細な説明を省略する。また、これら実施形態は、その一部を互いに組み合わせて、あるいは、その一部を置き換えて実施できる。
【0051】
図4に示した例では、吸音構造体1がダクト5に取り付けられて使用される例を示したが、吸音構造体1を各種ダクト構造の構成部材(図4のダクトに接続されるエアクリーナケースや、電池のハウジング等)に取り付けて使用してもよい。吸音構造体1が取付けられる際の具体的形状は特に限定されず、取付けられる部位の形状に合わせて切断加工や打ち抜き加工し、必要に応じ、適宜曲げ加工するなどして、取り付ければよい。取り付け方法は特に限定されない。
【0052】
また、吸音構造体1の適用対象は、ダクトに限定されず、建物の壁面や、天井、あるいは、自動車のエンジンカバーや、自動車の車室内の壁面などに設けられてもよい。これらの場合には、吸音構造体1は、第2吸音材層の側が、騒音源や外部空間・室内空間に面するように配置すればよい。
【実施例】
【0053】
上記実施形態の吸音構造体1をダクトに設けた際の吸音効果を、音響シミュレーションにより計算した。ダクトシステムとしては、図6に示したような、直方体状の拡張チャンバ8の両端に円筒状の管路6,7が設けられたダクトシステムにより計算を行った。音源側のダクト7は直径80mm、長さ200mmである。開放端側のダクト6は直径80mm、長さ300mmである。拡張チャンバ8は、幅WCが105mm、高さHCが115mm、長さLCが225mmの直方体状である。拡張チャンバ8の上面と下面に、それぞれ、吸音構造体1,1(比較例においては従来技術の吸音材料)を配置したものとして計算が行われた。
【0054】
(実施例)
図1に示したような、第1実施形態の吸音構造体1を、図6のダクトシステムの吸音構造体1、1の位置に配置したものが、実施例である。第1吸音材層11の厚みt1は10mmであり、第2吸音材層12の厚みt2は5mmである。調整層13は、非通気性の帯(幅W=25mm)が、帯同士の隙間a=25mmとなるように配置された層とした。調整層の帯や隙間の延在方向が、タクト内を通流する気流の流れ方向と略直交するように、吸音構造体1が設定された。また、第2吸音材層がダクトの流路に面するよう、吸音構造体1が設定された。
【0055】
(比較例1)
上記実施例における第1実施形態の吸音構造体1、1に替えて、従来の単層の吸音材を配置したものが、比較例1である。即ち、比較例1には調整層がない。比較例1の吸音材の厚みは、15mmであり、吸音構造体や吸音材の総厚みは、実施例と比較例1で同じである。また、計算に使用した吸音材料そのものの透気度等の特性も、実施例と比較例1で同じとした。
【0056】
(比較例2)
上記実施例における第1実施形態の吸音構造体1、1を取り去った、吸音材なしのものが、比較例2である。
【0057】
計算は、それぞれの吸音構造体の吸音特性が反映されるよう、ダクトシステムの内部空間を有限要素法(FEM法)によりモデル化して音響解析した。吸音材料そのものの透気度や吸音特性に基づいて、吸音構造体(比較例1においては吸音材)の厚みや内部構造が反映された、吸音構造体1としての吸音特性が計算され、その吸音特性を用いてダクトシステムの音響解析が実行された。低周波数領域の吸音特性が改善された発泡ウレタン吸音材料の透気度や吸音特性が、吸音材料そのものの特性として用いられ、実施例でも比較例1で同じ吸音材料のデータが用いられた。
【0058】
吸音構造体や吸音材の特性が反映されたダクトシステムの音響特性の計算は、音源側ダクト7の端部P1に音響加振を与え、開放端側ダクト6の末端部(P2)の側が大気に解放されたものとして行われた。音響計算の結果として、音源側の評価点P1における音源側音圧Piと、開放端側の評価点P2における開放端側の音圧Poをそれぞれ計算し、両者の比Pi/Poを計算して音響減衰量を求めた。音響減衰量が大きいことは、吸音性が高いことを示している。
【0059】
図7に、各実施例、比較例での音響減衰量の計算結果を示す。横軸は騒音の周波数(Hz)であり、縦軸が音響減衰量(dB)である。
実線で示した実施例と、破線で示した比較例1を比べると、実施例では、1300Hz以下の周波数領域で、音響減衰量が増加している。特に、比較例1において、650Hz、850Hz,1030Hz付近に現れていた減衰量の落ち込み(谷)の部分で、実施例では減衰量が落ち込まなくなっており、これら周波数帯での管の共鳴現象が良好に抑制されている。即ち、調整層を設けた実施例は、吸音構造が必要とする空間は比較例1と同じでありながら、調整層を持たない比較例1に比べ、低周波側の吸音特性が良くなっている。
【0060】
また、実施例と比較例1を比べると、1300Hzを超える高周波側では比較例1の方が音響減衰量が大きくなっている。なお、実施例は、吸音材がない比較例2(図7のグラフでは点線で示す)に対し、ほぼすべての周波数領域で音響減衰量が高められている。特に、実施例は、広い周波数帯にわたって、音響減衰量が大きく谷状に落ち込む部分が生じず、管の共鳴現象が良好に抑制されている。
【産業上の利用可能性】
【0061】
吸音構造体は、建物等に利用される吸音材として、あるいはダクトシステムの吸音材として使用でき、産業上の利用価値が高い。
【符号の説明】
【0062】
1 吸音構造体
11 第1吸音材層
12 第2吸音材層
13 調整層
131 帯
132 隙間
5 ダクト部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7