特許第6959211号(P6959211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6959211
(24)【登録日】2021年10月11日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】酸化膜厚測定装置および該方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/06 20060101AFI20211021BHJP
   C23C 2/06 20060101ALN20211021BHJP
【FI】
   G01B11/06 101G
   !C23C2/06
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-211333(P2018-211333)
(22)【出願日】2018年11月9日
(65)【公開番号】特開2020-76697(P2020-76697A)
(43)【公開日】2020年5月21日
【審査請求日】2020年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】乾 昌広
(72)【発明者】
【氏名】高枩 弘行
(72)【発明者】
【氏名】中西 良太
【審査官】 續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−174764(JP,A)
【文献】 特開昭64−57107(JP,A)
【文献】 特開2012−164801(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0057437(US,A1)
【文献】 国際公開第2014/061408(WO,A1)
【文献】 特表2016−504566(JP,A)
【文献】 特開2011−202968(JP,A)
【文献】 特開2005−139557(JP,A)
【文献】 特開平9−127012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/06
C23C 2/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の鋼板表面に生成される酸化物の膜厚を測定する酸化膜厚測定装置であって、
前記鋼板表面の放射光輝度と前記酸化物の膜厚との対応関係を表す複数の膜厚変換情報を記憶する膜厚変換情報記憶部と、
前記鋼板表面の放射光輝度を、互いに異なる複数の測定波長で測定する複数の放射光輝度測定部と、
前記膜厚変換情報記憶部に記憶された複数の膜厚変換情報を用いることによって、前記複数の放射光輝度測定部それぞれで測定された鋼板表面の各放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求める膜厚処理部とを備え、
前記複数の膜厚変換情報それぞれは、
前記複数の測定波長それぞれに1対1で対応付けられ、
所定の膜厚測定範囲を区分けした複数のサブ膜厚測定範囲それぞれに1対1で対応付けられて予め用意され、
当該膜厚変換情報に対応するサブ膜厚測定範囲内では当該膜厚変換情報における膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合が当該膜厚変換情報に対応付けられた所定の設定範囲内であり、
前記膜厚処理部は、前記複数の放射光輝度測定部それぞれで測定された鋼板表面の各放射光輝度それぞれについて、当該放射光輝度測定部に対応する測定波長にさらに対応する膜厚変換情報を用いることによって、当該放射光輝度測定部で測定された鋼板表面の放射光輝度に対応する前記酸化物の膜厚と前記酸化物の膜厚での膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合とを求め、前記求めた割合が当該膜厚変換情報に対応付けられた所定の設定範囲内である場合に、前記求めた酸化物の膜厚を実際の膜厚の候補値として抽出する、
酸化膜厚測定装置。
【請求項2】
鋼板の鋼板表面に生成される酸化物の膜厚を測定する酸化膜厚測定方法であって、
前記鋼板表面の放射光輝度を、互いに異なる複数の測定波長で測定する複数の放射光輝度測定工程と、
前記鋼板表面の放射光輝度と前記酸化物の膜厚との対応関係を表す複数の膜厚変換情報を用いることによって、前記複数の放射光輝度測定工程それぞれで測定された鋼板表面の各放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求める膜厚処理工程とを備え、
前記複数の膜厚変換情報それぞれは、
前記複数の測定波長それぞれに1対1で対応付けられ、
所定の膜厚測定範囲を区分けした複数のサブ膜厚測定範囲それぞれに1対1で対応付けられて予め用意され、
当該膜厚変換情報に対応するサブ膜厚測定範囲内では当該膜厚変換情報における膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合が当該膜厚変換情報に対応付けられた所定の設定範囲内であり、
前記膜厚処理工程は、前記複数の放射光輝度測定工程それぞれで測定された鋼板表面の各放射光輝度それぞれについて、当該放射光輝度測定工程に対応する測定波長にさらに対応する膜厚変換情報を用いることによって、当該放射光輝度測定工程で測定された鋼板表面の放射光輝度に対応する前記酸化物の膜厚と前記酸化物の膜厚での膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合とを求め、前記求めた割合が当該膜厚変換情報に対応付けられた所定の設定範囲内である場合に、前記求めた酸化物の膜厚を実際の膜厚の候補値として抽出する、
酸化膜厚測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板表面に生成される酸化物の膜厚を測定する酸化膜厚測定装置および酸化膜厚測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛めっき鋼板は、優れた耐食性、加工性および表面美観等の諸特性を有し、このため、例えば、自動車用鋼板として好適に使用されている。この溶融亜鉛めっきでは、焼鈍工程で鋼板表面に生成される酸化物が、溶融亜鉛めっき工程で形成されるめっき層のめっき特性に悪影響を与えることが知られている。このため、前記酸化物の膜厚を測定し、還元工程で前記酸化物を好適に還元する必要があり、前記酸化物の膜厚の測定が重要である。
【0003】
このような前記酸化物の膜厚を測定する技術として、鋼板表面における放射率(放射光輝度)と酸化物の膜厚との関係を予め求め、前記関係から、測定によって得られた放射率(放射光輝度)に対応する酸化物の膜厚を求める技術がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−293504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、鋼板表面における放射率(放射光輝度)と酸化物の膜厚との関係は、一般に、酸化物の膜厚の増加に従って、鋼板表面の放射率(放射光輝度)が単調に増加した後に、ピークとなり、その後、減少したり、あるいは、増減を繰り返したりするプロファイルを持つ。このため、この関係を用いることによって、測定によって得られた放射率(放射光輝度)に対応する酸化物の膜厚を求めると、酸化物の膜厚が1つに決定できない場合が生じ得る。このため、前記関係を用いることによって酸化物の膜厚を求める場合には、前記ピークに対応する膜厚までしか測定できないという制約がある。さらに、この制約の下、鋼板表面における放射率(放射光輝度)と酸化物の膜厚とが1対1に対応する範囲で酸化物の膜厚を求めるとしても、膜厚の変化に対する放射率(放射光輝度)の変化の割合(傾き)が小さい場合、測定によって得られた放射率(放射光輝度)の僅かなズレで酸化物の膜厚が大きく変化してしまい、酸化物の膜厚を精度良く求めることが難しい。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、酸化物の膜厚を、より広い範囲でより精度良く測定できる酸化膜厚測定装置および酸化膜厚測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる酸化膜厚測定装置は、鋼板の鋼板表面に生成される酸化物の膜厚を測定する装置であって、前記鋼板表面の放射光輝度と前記酸化物の膜厚との対応関係を表す複数の膜厚変換情報を記憶する膜厚変換情報記憶部と、前記鋼板表面の放射光輝度を、互いに異なる複数の測定波長で測定する複数の放射光輝度測定部と、前記膜厚変換情報記憶部に記憶された複数の膜厚変換情報を用いることによって、前記複数の放射光輝度測定部それぞれで測定された鋼板表面の各放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求める膜厚処理部とを備え、前記複数の膜厚変換情報それぞれは、前記複数の測定波長それぞれに1対1で対応付けられ、所定の膜厚測定範囲を区分けした複数のサブ膜厚測定範囲それぞれに1対1で対応付けられて予め用意され、当該膜厚変換情報に対応するサブ膜厚測定範囲内では当該膜厚変換情報における膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合が当該膜厚変換情報に対応付けられた所定の設定範囲内であり、前記膜厚処理部は、前記複数の放射光輝度測定部それぞれで測定された鋼板表面の各放射光輝度それぞれについて、当該放射光輝度測定部に対応する測定波長にさらに対応する膜厚変換情報を用いることによって、当該放射光輝度測定部で測定された鋼板表面の放射光輝度に対応する前記酸化物の膜厚と前記酸化物の膜厚での膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合とを求め、前記求めた割合が当該膜厚変換情報に対応付けられた所定の設定範囲内である場合に、前記求めた酸化物の膜厚を実際の膜厚の候補値として抽出する。
【0008】
このような酸化膜厚測定装置は、複数のサブ膜厚測定範囲それぞれについて、このサブ膜厚測定範囲内では膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合(傾き)が設定範囲内となる膜厚変換情報を記憶する。このため、上記酸化膜厚測定装置は、膜厚測定範囲を広くしても適宜な個数のサブ膜厚測定範囲に区分けすることで、膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合が設定範囲内となる膜厚変換情報を用意できる。そして、上記酸化膜厚測定装置は、鋼板表面の放射光輝度を互いに異なる複数の測定波長で測定し、これら複数の測定波長それぞれで測定された鋼板表面の各放射光輝度それぞれについて、当該測定波長に対応する膜厚変換情報を用いることによって、当該測定波長で測定された鋼板表面の放射光輝度に対応する前記酸化物の膜厚と前記酸化物の膜厚での膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合とを求め、前記求めた割合が当該膜厚変換情報に対応付けられた所定の設定範囲内である場合に、前記求めた酸化物の膜厚を実際の膜厚の候補値として抽出する。このため、上記酸化膜厚測定装置は、複数の測定波長それぞれで測定された鋼板表面の各放射光輝度それぞれから求められる酸化物の膜厚のうち、膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合が設定範囲内にある膜厚変換情報を用いて求められた酸化物の膜厚を選択できるので、より精度良く測定できる。したがって、上記酸化膜厚測定装置は、酸化物の膜厚を、より広い範囲でより精度良く測定できる。
【0009】
好ましくは、上述の酸化膜厚測定装置において、前記複数の放射光輝度測定部は、2個の第1および第2放射光輝度測定部を備え、前記第1放射光輝度測定部は、第1測定波長が5μm付近である第1放射温度計を備えて構成され、前記第2放射光輝度測定部は、第2測定波長14μm付近である第2放射温度計を備えて構成される。
【0010】
酸化膜厚測定装置は、比較的高価な分光放射輝度計ではなく、例えばハーフミラー等のビームスプリッタを組み込んでいない、放射温度計を複数備えて放射光輝度測定部を構成するので、低コスト化を図ることができる。第1放射光輝度測定部が、膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合が比較的薄い膜厚範囲で設定範囲内となる、5μm付近の第1測定波長で測定する第1放射温度計を備えて構成され、第2放射光輝度測定部が、膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合が比較的厚い膜厚範囲で設定範囲内となる、14μm付近の第2測定波長で測定する第2放射温度計を備えて構成されるので、上記酸化膜厚測定装置は、酸化物の膜厚を、より広い範囲でより精度良く測定できる。
【0011】
本発明の他の一態様にかかる酸化膜厚測定方法は、鋼板の鋼板表面に生成される酸化物の膜厚を測定する方法であって、前記鋼板表面の放射光輝度を、互いに異なる複数の測定波長で測定する複数の放射光輝度測定工程と、前記鋼板表面の放射光輝度と前記酸化物の膜厚との対応関係を表す複数の膜厚変換情報を用いることによって、前記複数の放射光輝度測定工程それぞれで測定された鋼板表面の各放射光輝度に基づいて前記酸化物の膜厚を求める膜厚処理工程とを備え、前記複数の膜厚変換情報それぞれは、前記複数の測定波長それぞれに1対1で対応付けられ、所定の膜厚測定範囲を区分けした複数のサブ膜厚測定範囲それぞれに1対1で対応付けられて予め用意され、当該膜厚変換情報に対応するサブ膜厚測定範囲内では当該膜厚変換情報における膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合が当該膜厚変換情報に対応付けられた所定の設定範囲内であり、前記膜厚処理工程は、前記複数の放射光輝度測定工程それぞれで測定された鋼板表面の各放射光輝度それぞれについて、当該放射光輝度測定工程に対応する測定波長にさらに対応する膜厚変換情報を用いることによって、当該放射光輝度測定工程で測定された鋼板表面の放射光輝度に対応する前記酸化物の膜厚と前記酸化物の膜厚での膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合とを求め、前記求めた割合が当該膜厚変換情報に対応付けられた所定の設定範囲内である場合に、前記求めた酸化物の膜厚を実際の膜厚の候補値として抽出する。
【0012】
このような酸化膜厚測定方法は、複数のサブ膜厚測定範囲それぞれについて、このサブ膜厚測定範囲内では膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合(傾き)が設定範囲内となる膜厚変換情報を記憶する。このため、上記酸化膜厚測定方法は、膜厚測定範囲を広くしても適宜な個数のサブ膜厚測定範囲に区分けすることで、膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合が設定範囲内となる膜厚変換情報を用意できる。そして、上記酸化膜厚測定方法は、鋼板表面の放射光輝度を互いに異なる複数の測定波長で測定し、これら複数の測定波長それぞれで測定された鋼板表面の各放射光輝度それぞれについて、当該測定波長に対応する膜厚変換情報を用いることによって、当該測定波長で測定された鋼板表面の放射光輝度に対応する前記酸化物の膜厚と前記酸化物の膜厚での膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合とを求め、前記求めた割合が当該膜厚変換情報に対応付けられた所定の設定範囲内である場合に、前記求めた酸化物の膜厚を実際の膜厚の候補値として抽出する。このため、上記酸化膜厚測定方法は、複数の測定波長それぞれで測定された鋼板表面の各放射光輝度それぞれから求められる酸化物の膜厚のうち、膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合が設定範囲内にある膜厚変換情報を用いて求められた酸化物の膜厚を選択できるので、より精度良く測定できる。したがって、上記酸化膜厚測定方法は、酸化物の膜厚を、より広い範囲でより精度良く測定できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる酸化膜厚測定装置および酸化膜厚測定方法は、酸化物の膜厚を、より広い範囲でより精度良く測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態における酸化膜厚測定装置の構成を示すブロック図である。
図2】前記酸化膜厚測定装置における第1および第2放射光輝度測定部を鋼板の搬送路に取り付ける配置態様を説明するための断面図である。
図3】前記酸化膜厚測定装置に記憶される複数の膜厚変換情報を説明するための図である。
図4】測定波長別の、酸化物の膜厚と放射率(放射光輝度)との関係を示す図である。
図5】単層膜の反射率を計算するための計算モデルを説明するための図である。
図6】前記酸化膜厚測定装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の1または複数の実施形態が説明される。しかしながら、発明の範囲は、開示された実施形態に限定されない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0016】
図1は、実施形態における酸化膜厚測定装置の構成を示すブロック図である。図2は、前記酸化膜厚測定装置における第1および第2放射光輝度測定部を鋼板の搬送路に取り付ける配置態様を説明するための断面図である。図3は、前記酸化膜厚測定装置に記憶される複数の膜厚変換情報を説明するための図である。図3において、◆は、第1測定波長5μmの場合を示し、■は、第2測定波長14μmの場合を示す。図4は、測定波長別の、酸化物の膜厚と放射率(放射光輝度)との関係を示す図である。図4Aは、測定波長が相対的に長波長である場合を示し、図4Bは、測定波長が相対的に短波長である場合を示す。図4Aにおいて、◆は、測定波長20μmの場合を示し、▲は、測定波長14μmの場合を示す。図4Bにおいて、◆は、測定波長5μmの場合を示し、▲は、測定波長3μmの場合を示す。図3図4Aおよび図4Bにおいて、各横軸は、酸化物の膜厚(酸化膜厚)であり、その縦軸は、放射率(放射光輝度)である。図5は、単層膜の反射率を計算するための計算モデルを説明するための図である。
【0017】
実施形態における酸化膜厚測定装置Dは、例えば、図1および図2に示すように、複数の放射光輝度測定部1(1−1、1−2)と、制御処理部2と、記憶部3と、入力部4と、出力部5と、インターフェース部(IF部)6とを備え、鋼板WKを搬送する搬送路を形成する搬送路形成部材HSに配置される。
【0018】
搬送路形成部材HSは、例えば図2に示すように、断面矩形形状の比較的長尺な中空な角柱状部材であり、その内部が耐火物等の断熱材で覆われ、鋼板WKを搬送する搬送路を形成している。搬送路形成部材HSは、その一方端で、例えば、鋼板WKの表面に所定の膜厚で酸化膜を形成するために、搬送されて走行中の鋼板WKを直火バーナーで加熱する直火加熱炉の下流側に連結され、その他方端で、鋼板WKの表面に形成された酸化膜を還元する還元装置の上流側に連結されて配置される。この直火加熱炉の加熱により、搬送路形成部材HS内を搬送される鋼板WKは、自発光している。搬送路形成部材HSには、複数の放射光輝度測定部1で鋼板WKの放射光輝度を測定するために、測定窓形成部材(覗管部材)HSaが連結されている。この測定窓形成部材HSaは、搬送路形成部材HSの一方側壁から、鋼板WKにおける鋼板表面の法線方向に沿って延びる筒状の第1放射線シールド部材HSa1と、前記第1放射線シールド部材HSa1より大径な短高筒状の第2放射線シールド部材HSa2とを備える。第1放射線シールド部材HSa1の一方端は、搬送路形成部材HSの外部に臨み、複数の放射光輝度測定部1が鋼板WKの放射光輝度を測定できるように取り付けられている。第1放射線シールド部材HSa1の他方端は、搬送路形成部材HSの内部に臨み、第2放射線シールド部材HSa2の一方端で気密に第2放射線シールド部材HSa2と同軸で連結されている。第2放射線シールド部材HSa2の他方端は、鋼板WKの鋼板表面に臨む。測定窓形成部材HSaには、第2放射線シールド部材HSa2の他方端から、複数の放射光輝度測定部1が取り付けられている第1放射線シールド部材HSa1の一方端までの間に、所定の測定波長を少なくとも透過する例えばダイヤモンド等の窓部材(不図示)が嵌め込まれている。
【0019】
複数の放射光輝度測定部1は、それぞれ、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、鋼板WKにおける鋼板表面の放射光輝度を測定する装置である。これら複数の放射光輝度測定部1は、その測定波長λが互いに異なるように設定されている。本実施形態では、複数の放射光輝度測定部1は、2個の第1および第2放射光輝度測定部1−1、1−2を備えて構成されている。第1放射光輝度測定部1−1は、第1測定波長λ1で鋼板表面の放射光輝度を測定し、第2放射光輝度測定部1−2は、前記第1測定波長λ1と異なる第2測定波長λ2で前記鋼板表面の放射光輝度を測定する。
【0020】
第1および第2放射光輝度測定部1−1、1−2は、それぞれ、例えば、測定波長λを規定するための、所定の波長帯を透過するバンドパス光学フィルタと、前記バンドパス光学フィルタ介して鋼板WKの表面の放射光強度を受光する受光素子と、前記受光素子の出力レベルと放射光輝度との対応関係を予め記憶する記憶部と、前記バンドパス光学フィルタ介して鋼板WKの表面の放射光強度を受光して得られた前記受光素子の出力レベルから、前記対応関係を用いることで放射光輝度を求める情報処理部とを備える。第1放射光輝度測定部1−1におけるバンドパス光学フィルタ(第1バンドパス光学フィルタ)の波長帯(第1波長帯)は、第1測定波長λ1を含むように設定され、第2放射光輝度測定部1−2におけるバンドパス光学フィルタ(第2バンドパス光学フィルタ)の波長帯(第2波長帯)は、第2測定波長λ2を含むように設定される。なお、これら前記記憶部および前記情報処理部は、記憶部3および制御処理部2と兼用されて良い。あるいは、第1および第2放射光輝度測定部1−1、1−2それぞれに放射温度計が利用されても良い。市販の放射温度計は、通常、測定波長が限定され、バンドパス光学フィルタが組み込まれている。また、放射光輝度は、温度(設定放射率を1としたときの表示温度)と測定波長とから、いわゆるプランクの法則より算出できる。このため、例えば、第1および第2放射光輝度測定部1−1、1−2は、それぞれ、鋼板WKの表面の温度を測定する放射温度計と、前記放射温度計で測定された温度と前記放射温度計の測定波長から放射光輝度を求める情報処理部とを備える。第1放射光輝度測定部1−1に用いられる放射温度計(第1放射温度計)おける測定波長は、第1測定波長λ1に設定され、第2放射光輝度測定部2−2に用いられる放射温度計(第2放射温度計)おける測定波長は、第2測定波長λ2に設定される。なお、これら前記情報処理部は、制御処理部2と兼用されて良い。このように放射温度計を用いることにより、分光輝度計を用いる場合に較べて低コスト化を図ることができる。前記放射温度計には、例えばサーモパイル(thermopile)やボロメータ(bolometer)や焦電センサ等を備えた放射温度計が利用できる。
【0021】
これら第1および第2測定波長λ1、λ2について説明する。
【0022】
直火加熱炉の加熱工程による酸化の進行に伴い、放射率εは、酸化物の膜厚(酸化膜厚)dの増加に従って、単調に増加した後に、ピークとなり、その後、減少したり、あるいは、増減を繰り返したりするプロファイルを持つ。この放射率εの振動の原因は、酸化膜表面での放射と、酸化膜と金属表面界面での放射が干渉を起こすためであると考えられている(平本一男他、「酸化プロセス中の金属の分光放射率挙動」、鉄と鋼 Vol.85 (1999) No.12、P863−869参照)。これにより、例えば、図5に示すように、鋼板WKの鋼板表面に単層の酸化膜WK2が形成される場合、反射率Rは、次式1で表され、放射率εは、次式3で表される。
式1;R=(ρ01+ρ12−2iδ)/(1+ρ01ρ12−2iδ
式2;δ=(2Ndcosθ)/λ
式3;ε=1−R
ここで、θは、入射角であり、λは、波長であり、dは、酸化膜厚であり、Nは、酸化膜WK2の複素屈折率であり、ρ01は、鋼板WKを取り巻く雰囲気(空気等)と酸化膜WK2との界面での反射率であり、ρ12は、酸化膜WK2と酸化膜WK2下における酸化していない鋼板本体WK1との界面での反射率であり、iは、虚数単位(i=−1)であり、eは、ネイピア数(e≒2.71828)である。なお、放射光輝度は、放射率と温度に依存し、ここでは、鋼板WKの温度は、所定の温度で一定と仮定している。したがって、図3図4に記載された放射率変化は、放射光輝度変化に読み替えることができる。
【0023】
前記波長λを測定波長λとして上述の式1ないし式3を用いることによって、測定波長λを変えながら、酸化物の膜厚dに対する放射率εの関係を求めると(シミュレートすると)、図4Aおよび図4Bに示すように、いずれの測定波長λでも、放射率εは、上述したように、大略、酸化物の膜厚dの増加に従って、単調に増加した後に、ピークとなり、その後、減少したり、あるいは、増減を繰り返したりするプロファイルを持つ。そして、酸化物の膜厚dの増加に従って放射率εが単調に増加する膜厚dの範囲における上限膜厚Thは、測定波長λが長いほど、より厚くなる。例えば、図4Aに示す測定波長λが14μmや20μm等の14μm付近である場合の上限膜厚Th2は、図4Bに示す測定波長λが3μmや5μm等の5μm付近である場合の上限膜厚Th1より厚い。このため、単に、より広い範囲で酸化物の膜厚dを測定するためには、測定波長λが長いほど良い。しかしながら、図4Aから分かるように、測定波長λが長いと、膜厚dが薄い場合、膜厚dの変化に対する放射率εの変化の割合(傾き)が小さく、測定によって得られた放射率εの僅かなズレで膜厚dが大きく変化してしまい、膜厚dを精度良く求めることが難しい。一方、このような膜厚dが薄い場合では、測定波長λを短くすると、図4Bから分かるように、膜厚dの変化に対する放射率εの変化の割合(傾き)が大きく、膜厚dを精度良く求めることが可能となる。このように測定精度の観点から、酸化物の膜厚dに応じて好適な測定波長λが存在する。そこで、所定の膜厚測定範囲が、複数のサブ膜厚測定範囲に区分けされ、これら複数のサブ膜厚測定範囲それぞれについて、当該サブ膜厚測定範囲において、酸化物の膜厚の増加に従って放射率(放射光輝度)が単調に増加しつつ(放射率(放射光輝度)と膜厚とが1対1で対応しつつ)、測定精度の観点から、膜厚の変化に対する放射率(放射光輝度)の変化の割合(膜厚に対する放射率(放射光輝度)の傾き)が所定の設定範囲内になる、放射率(放射光輝度)と膜厚との関係を与える波長が、測定波長として選択されればよい。前記設定範囲は、膜厚の十分な検量精度を確保するために、例えば1以上で設定される。膜厚の変化に対する放射率(放射光輝度)の変化の割合(傾き)が大きいほど、膜厚の分解能が向上するが、膜厚測定範囲(サブ膜厚測定範囲)が狭くなってしまう観点から、前記設定範囲は、好ましくは、膜厚の分解能と膜厚測定範囲(サブ膜厚測定範囲)とがバランスする1である。このような知見に基づき、本実施形態では、第1測定波長λ1は、相対的に薄い膜厚dの測定を精度良く測定できるように、3μmや5μm等の5μm付近の波長、例えば、5μmに設定され、第2測定波長λ2は、相対的に厚い膜厚dの測定を精度良く測定できるように、第1測定波長λ1より長い波長の、14μmや20μm等の14μm付近の波長、例えば、14μmに設定される。このように第1および第2測定波長λ1、λ2が設定されると、0ないしTh2の膜厚測定範囲で膜厚dの測定が可能となり、この膜厚測定範囲が0ないしTh1の第1サブ膜厚測定範囲とTh1ないしTh2の第2サブ膜厚測定範囲とに区分けされ、第1および第2サブ膜厚測定範囲それぞれで精度良く測定が可能となる。
【0024】
入力部4は、制御処理部2に接続され、例えば、酸化膜厚の測定開始を指示するコマンド等の各種コマンド、および、例えば、鋼板WKの名称や後述の膜厚変換情報等の前記酸化膜厚の測定を行う上で必要な各種データを酸化膜厚測定装置Dに入力する装置であり、例えば、所定の機能を割り付けられた複数の入力スイッチ、キーボードおよびマウス等である。出力部5は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、入力部4から入力されたコマンドやデータ、および、当該酸化膜厚測定装置Dによって測定された測定結果等を出力する装置であり、例えばCRTディスプレイ、LCD(液晶表示装置)および有機ELディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
【0025】
IF部6は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、外部機器との間でデータの入出力を行う回路であり、例えば、シリアル通信方式であるRS−232Cのインターフェース回路、Bluetooth(登録商標)規格を用いたインターフェース回路、IrDA(Infrared Data Asscoiation)規格等の赤外線通信を行うインターフェース回路、および、USB(Universal Serial Bus)規格を用いたインターフェース回路等である。また、IF部6は、外部機器との間で通信を行う回路であり、例えば、データ通信カードや、IEEE802.11規格等に従った通信インターフェース回路等であっても良い。
【0026】
記憶部3は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、各種の所定のプログラムおよび各種の所定のデータを記憶する回路である。前記各種の所定のプログラムには、例えば、酸化膜厚測定装置Dの各部1(1−1、1−2)、3〜6を制御する制御プログラムや、後述の膜厚変換情報記憶部31に記憶された複数の膜厚変換情報を用いることによって、複数の放射光輝度測定部1(本実施形態では第1および第2放射光輝度測定部1−1、1−2)で測定された鋼板表面の各放射光輝度に基づいて、前記鋼板表面に生成された酸化物の膜厚dを求める膜厚処理プログラム等の制御処理プログラムが含まれる。前記各種の所定のデータには、鋼板WKの名称や膜厚変換情報等の、これら各プログラムを実行する上で必要なデータが含まれる。このような記憶部3は、例えば不揮発性の記憶素子であるROM(Read Only Memory)や書き換え可能な不揮発性の記憶素子であるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等を備える。記憶部3は、前記所定のプログラムの実行中に生じるデータ等を記憶するいわゆる制御処理部2のワーキングメモリとなるRAM(Random Access Memory)等を含む。そして、記憶部3は、複数の膜厚変換情報を記憶する膜厚変換情報記憶部31を機能的に備える。
【0027】
膜厚変換情報記憶部31は、複数の膜厚変換情報を記憶するものである。前記複数の膜厚変換情報は、それぞれ、前記鋼板表面の放射光輝度と前記酸化物の膜厚dとの対応関係を表す情報である。前記複数の膜厚変換情報それぞれは、前記複数の放射光輝度測定部1それぞれにおける複数の測定波長λそれぞれに1対1で対応付けられる。前記複数の膜厚変換情報それぞれは、所定の膜厚測定範囲を区分けした複数のサブ膜厚測定範囲それぞれに1対1で対応付けられて予め用意される。例えば、前記複数の膜厚変換情報それぞれは、複数のサンプルから予め求められる。あるいは、例えば、前記複数の膜厚変換情報それぞれは、上述の式1ないし式3を用いることによってシミュレーションによって予め求められる。そして、前記複数の膜厚変換情報それぞれは、当該膜厚変換情報に対応するサブ膜厚測定範囲内では当該膜厚変換情報における膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合が当該膜厚変換情報に対応付けられた所定の設定範囲内である。一例として、本実施形態では、膜厚変換情報記憶部31には、図3に示すように、第1測定波長5μmに対応付けられる第1膜厚変換情報α−1と、第2測定波長14μmに対応付けられる第2膜厚変換情報α−2とが記憶される。第1膜厚変換情報α−1は、0ないしTh2の膜厚測定範囲を区分けした0ないしTh1の第1サブ膜厚測定範囲に対応付けられ、第2膜厚変換情報α−2は、0ないしTh2の膜厚測定範囲を区分けしたTh1ないしTh2の第2サブ膜厚測定範囲に対応付けられる。第1膜厚変換情報α−1は、図3に示すように、第1サブ膜厚測定範囲だけでなく、他の膜厚dに対応する放射率(放射光輝度)の情報も持つが、第1サブ膜厚測定範囲内では、その膜厚の変化に対する放射率(放射光輝度)の変化の割合(膜厚に対する放射率(放射光輝度)の傾き)がβ11ないしβ12の範囲内である。第2膜厚変換情報α−2は、図3に示すように、第2サブ膜厚測定範囲だけでなく、他の膜厚dに対応する放射率(放射光輝度)の情報も持つが、第2サブ膜厚測定範囲内では、その膜厚の変化に対する放射率(放射光輝度)の変化の割合(膜厚に対する放射率(放射光輝度)の傾き)がβ21ないしβ22の範囲内である。これら複数の膜厚変換情報(上述の例では第1および第2膜厚変換情報α−1、α−2)は、それぞれ、例えばルックアップテーブル形式で、あるいは例えば関数式で、膜厚変換情報記憶部31に予め記憶される。
【0028】
制御処理部2は、酸化膜厚測定装置Dの各部1(1−1、1−2)、3〜6を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、膜厚変換情報記憶部31に記憶された複数の膜厚変換情報を用いることによって、複数の放射光輝度測定部1で測定された鋼板表面の各放射光輝度に基づいて酸化物の膜厚dを求めるための回路である。本実施形態では、制御処理部2は、第1および第2放射光輝度測定部1−1、1−2それぞれで第1および第2放射光輝度を測定し、膜厚変換情報記憶部31に記憶された第1および第2膜厚変換情報に基づいて酸化物の膜厚dを求める。制御処理部2は、例えば、CPU(Central Processing Unit)およびその周辺回路を備えて構成される。制御処理部2は、制御処理プログラムが実行されることによって、制御部21および膜厚処理部22を機能的に備える。
【0029】
制御部21は、当該酸化膜厚測定装置Dの各部1(1−1、1−2)、3〜6を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、酸化膜厚測定装置Dの全体制御を司るものである。
【0030】
膜厚処理部22は、膜厚変換情報記憶部31に記憶された複数の膜厚変換情報を用いることによって、複数の放射光輝度測定部1それぞれで測定された鋼板表面の各放射光輝度に基づいて酸化物の膜厚dを求めるものである。より具体的には、膜厚処理部22は、複数の放射光輝度測定部1それぞれで測定された鋼板表面の各放射光輝度それぞれについて、当該放射光輝度測定部1に対応する測定波長λにさらに対応する膜厚変換情報を用いることによって、当該放射光輝度測定部1で測定された鋼板表面の放射光輝度に対応する酸化物の膜厚dとこの酸化物の膜厚dでの膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合とを求め、前記求めた割合が当該膜厚変換情報に対応付けられた所定の設定範囲内である場合に、この求めた酸化物の膜厚dを実際の膜厚の候補値dとして抽出する。本実施形態では、膜厚処理部22は、第1放射光輝度測定部1−1で測定された鋼板表面の放射光輝度について、第1放射光輝度測定部1−1に対応する第1測定波長λ1(=5μm)にさらに対応する第1膜厚変換情報α−1を用いることによって、第1放射光輝度測定部1−1で測定された鋼板表面の放射光輝度に対応する酸化物の膜厚d1とこの酸化物の膜厚d1での膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合RT1とを求め、この求めた割合RT1が当該膜厚変換情報に対応付けられたβ11ないしβ12の設定範囲内である場合(β11≦RT1≦β12)に、この求めた酸化物の膜厚d1を実際の膜厚の候補値dとして抽出とし、第2放射光輝度測定部1−2で測定された鋼板表面の放射光輝度について、第2放射光輝度測定部1−2に対応する第2測定波長λ2(=14μm)にさらに対応する第2膜厚変換情報α−2を用いることによって、第2放射光輝度測定部1−2で測定された鋼板表面の放射光輝度に対応する酸化物の膜厚d2とこの酸化物の膜厚d2での膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合RT2とを求め、この求めた割合RT2が当該膜厚変換情報に対応付けられたβ21ないしβ22の設定範囲内である場合(β21≦RT2≦β22)に、この求めた酸化物の膜厚d2を実際の膜厚の候補値dとして抽出する。膜厚dでの膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合RTは、例えば、前記求めた膜厚dでの膜厚変換情報αの微分値として求められる。あるいは、例えば、前記測定された放射光輝度に対して予め設定された所定値△だけ異なる放射光輝度に対応する膜厚dsを膜厚変換情報から求め、前記測定された放射光輝度およびこれに対応する膜厚dと、前記測定された放射光輝度に対して所定値△だけ異なる放射光輝度およびこれに対応する膜厚dsとから、膜厚dでの膜厚の変化(=ds−d)に対する放射光輝度の変化(=△)の割合RT(RT=△/(ds−d))が求められる。
【0031】
このような制御処理部2、記憶部3、入力部4、出力部5およびIF部6は、例えばデスクトップ型やノード型等のパーソナルコンピュータPC等によって構成可能である。
【0032】
次に、第1実施形態の動作について説明する。図6は、前記酸化膜厚測定装置の動作を示すフローチャートである。
【0033】
このような構成の酸化膜厚測定装置Dは、その電源が投入されると、必要な各部の初期化を実行し、その稼働を始める。その制御処理プログラムの実行によって、制御処理部2には、制御部21および膜厚処理部22が機能的に構成される。
【0034】
例えば測定開始の指示を入力部4で受け付けると、図6において、制御処理部2の制御部21は、第1および第2放射光輝度測定部1−1、1−2それぞれに鋼板WKにおける鋼板表面の各放射光輝度を測定させ、第1放射光輝度測定部1−1は、第1測定波長λ1での鋼板表面の放射光輝度を測定すると、その測定結果の第1放射光輝度を制御処理部2へ出力し、第2放射光輝度測定部1−2は、第2測定波長λ2での鋼板表面の放射光輝度を測定すると、その測定結果の第2放射光輝度を制御処理部2へ出力する(S11)。なお、鋼板WKは、黒体と異なり、放射率(放射光輝度)が波長λに依存するため、第1および第2放射光輝度は、必ずしも一致しない。
【0035】
続いて、第1および第2放射光輝度を測定すると、制御処理部2の膜厚処理部22は、第1放射光輝度測定部1−1に対応する第1測定波長λ1(=5μm)にさらに対応する第1膜厚変換情報α−1を用いることによって、第1放射光輝度測定部1−1で測定された鋼板表面の第1放射光輝度に対応する酸化物の膜厚d1とこの酸化物の膜厚d1での膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合RT1とを求め、そして、第2放射光輝度測定部1−2に対応する第2測定波長λ2(=5μm)にさらに対応する第2膜厚変換情報α−2を用いることによって、第2放射光輝度測定部1−2で測定された鋼板表面の第2放射光輝度に対応する酸化物の膜厚d2とこの酸化物の膜厚d2での膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合RT2とを求める(S12)。
【0036】
続いて、酸化物の膜厚dとその膜厚dでの前記割合RTとを求めると、膜厚処理部22は、第1放射光輝度測定部1−1について求めた前記割合RT1が、第1放射光輝度測定部1−1の第1測定波長λ1に対応する第1膜厚変換情報α−1にさらに対応付けられているβ11ないしβ12の設定範囲内であるか否かを判定し、前記割合RT1が前記β11ないしβ12の設定範囲内である場合には、前記割合RT1と共に求めた酸化物の膜厚d1を実際の膜厚の候補値dとして抽出する。なお、前記割合RT1が前記β11ないしβ12の設定範囲内ではない場合には、前記割合RT1と共に求めた酸化物の膜厚d1は、放棄(消去)される。そして、膜厚処理部22は、第2放射光輝度測定部1−2について求めた前記割合RT2が、第2放射光輝度測定部1−2の第2測定波長λ2に対応する第2膜厚変換情報α−2にさらに対応付けられているβ21ないしβ22の設定範囲内であるか否かを判定し、前記割合RT2が前記β21ないしβ22の設定範囲内である場合には、前記割合RT2と共に求めた酸化物の膜厚d2を実際の膜厚の候補値dとして抽出する。なお、前記割合RT2が前記β21ないしβ22の設定範囲内ではない場合には、前記割合RT2と共に求めた酸化物の膜厚d2は、放棄(消去)される。
【0037】
続いて、測定結果(酸化物の膜厚)dを求めると、制御処理部2の制御部21は、この求めた酸化物の膜厚dを出力部5で出力し、処理を終了する。なお、必要に応じて、制御処理部2の制御部21は、この求めた酸化物の膜厚dをIF部6に出力してもよい。
【0038】
以上、説明したように、本実施形態における酸化膜厚測定装置Dおよびこれに実装された酸化膜厚測定方法は、複数のサブ膜厚測定範囲それぞれについて、このサブ膜厚測定範囲内では膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合(傾き)が設定範囲内となる膜厚変換情報を記憶する。このため、上記酸化膜厚測定装置Dおよび酸化膜厚測定方法は、膜厚測定範囲を広くしても適宜な個数のサブ膜厚測定範囲に区分けすることで、膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合が設定範囲内となる膜厚変換情報を用意できる。そして、上記酸化膜厚測定装置Dおよび酸化膜厚測定方法は、鋼板表面の放射光輝度を互いに異なる複数の測定波長λn(本実施形態ではn=1、2)で測定し、これら複数の測定波長λnそれぞれで測定された鋼板表面の各放射光輝度それぞれについて、当該測定波長λnに対応する膜厚変換情報α−nを用いることによって、当該測定波長λnで測定された鋼板表面の放射光輝度に対応する前記酸化物の膜厚dnと前記酸化物の膜厚dnでの膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合RTnとを求め、前記求めた割合RTnが当該膜厚変換情報α−mに対応付けられたβn1ないしβn2の所定の設定範囲内である場合に、前記求めた酸化物の膜厚dnを実際の膜厚の候補値dとして抽出する。このため、上記酸化膜厚測定装置Dおよび酸化膜厚測定方法は、複数の測定波長λnそれぞれで測定された鋼板表面の各放射光輝度それぞれから求められる酸化物の膜厚dnのうち、膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合RTnがβn1ないしβn2の設定範囲内にある膜厚変換情報を用いて求められた酸化物の膜厚dnを選択できるので、より精度良く測定できる。したがって、上記酸化膜厚測定装置Dおよび酸化膜厚測定方法は、酸化物の膜厚を、より広い範囲でより精度良く測定できる。
【0039】
上記酸化膜厚測定装置Dおよび酸化膜厚測定方法は、比較的高価な分光放射輝度計ではなく、比較的安価な放射温度計を備えて第1および第2放射光輝度測定部1−1、1−2を構成する場合には、低コスト化を図ることができる。第1放射光輝度測定部1−1が、膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合が比較的薄い膜厚範囲でβ11ないしβ12の設定範囲内となる、5μm付近の第1測定波長λ1で測定する第1放射温度計を備えて構成され、第2放射光輝度測定部1−2が、膜厚の変化に対する放射光輝度の変化の割合が比較的厚い膜厚範囲でβ21ないしβ22の設定範囲内となる、14μm付近の第2測定波長λ2で測定する第2放射温度計を備えて構成されるので、酸化膜厚測定装置Dおよび酸化膜厚測定方法は、酸化物の膜厚を、より広い範囲でより精度良く測定できる。
【0040】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0041】
D 酸化膜厚測定装置
1−1 第1放射光輝度測定部
1−2 第2放射光輝度測定部
2 制御処理部
3 記憶部
22 膜厚処理部
31 膜厚変換情報記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6