(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記注入部は、前記帯体の前記第2面側に配置されている底面部と、前記底面部から前記帯体が設けられていない側に向かって立ち上がる縦壁部と、前記縦壁部に連なる上面部と、を備え、
前記収容空間は、前記帯体又は前記底面部と、前記縦壁部および前記上面部と、に囲まれており、
前記2つの対向する孔部は、前記縦壁部に設けられている、請求項2に記載の止血器具。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態およびその変形例を説明する。なお、以下の記載は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0013】
以下、
図1〜
図11を参照して、実施形態に係る止血器具10を説明する。
図1〜
図6は、止血器具10の各部の説明に供する図である。
図7〜
図11は、止血器具10の使用例の説明に供する図である。
【0014】
実施形態に係る止血器具10は、
図7および
図9に示すように、治療・検査等を行うカテーテル等を血管内に挿入する目的で、手首W(「肢体」に相当)の橈骨動脈Rに形成された穿刺部位P(「止血すべき部位」に相当)に留置していたイントロデューサーシースを抜去した後、その穿刺部位Pを止血するために使用するものである。
【0015】
止血器具10は、
図1〜
図3に示すように、手首Wに巻き付けるための帯体20と、帯体20を手首Wに巻き付けた状態で固定する面ファスナー30(「固定手段」に相当)と、空気(「気体」に相当)を注入することにより拡張し、穿刺部位Pを圧迫する拡張部40と、拡張部40と帯体20との間に設けられた補助圧迫部50と、拡張部40を穿刺部位Pに位置合わせするためのマーカー60と、空気を拡張部40および補助圧迫部50に注入可能な注入部70と、拡張部40と注入部70とを連通する流通経路80と、拡張部40内の空気を外部に排出する排出部90と、を有している。
【0016】
なお、本明細書中では、帯体20を手首Wに巻き付けた状態のとき、帯体20において拡張部40が配置され、手首Wの体表面に向かい合う側の面(装着面)を「内面」(「第1面」に相当)と称し、その反対側の面を「外面」(「第2面」に相当)と称する。
【0017】
帯体20は、可撓性を備える帯状の部材によって構成しているベルト21と、ベルト21よりも硬度の高い支持板22と、を備えている。
【0018】
ベルト21は、
図7および
図8に示すように、手首Wの外周を略一周するように巻き付けられる。
図2に示すように、ベルト21の中央部には、支持板22を保持する支持板保持部21aが形成されている。支持板保持部21aは、外面側(または内面側)に別個の帯状の部材が融着(熱融着、高周波融着、超音波融着等)または接着(接着剤や溶媒による接着)等の方法によって接合されることにより、二重になっており、これらの隙間に挿入された支持板22を保持する。
【0019】
ベルト21の
図1中の左端付近の部分の外面側には、一般にマジックテープ(登録商標)などと呼ばれる面ファスナー30の雄側(または雌側)31が配置されており、ベルト21の
図1中の右端付近の部分の内面側には、面ファスナー30の雌側(または雄側)32が配置されている。
図8に示すようにベルト21を手首Wに巻き付け、雄側31および雌側32が接合することにより、帯体20が手首Wに装着される。なお、帯体20を手首Wに巻き付けた状態で固定する手段は、面ファスナー30に限らず、例えば、スナップ、ボタン、クリップ、またはベルト21の端部を通す枠部材であってもよい。
【0020】
ベルト21の構成材料は、可撓性を備える材料であれば特に限定されない。そのような材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)のようなポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、シリコーン、ポリウレタン、ポリアミドエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー等の各種熱可塑性エラストマー、あるいはこれらを任意に組み合わせたもの(ブレンド樹脂、ポリマーアロイ、積層体等)が挙げられる。
【0021】
また、ベルト21において少なくとも拡張部40と重なっている部分は、実質的に透明であることが好ましいが、透明に限定されず、半透明または有色透明であってもよい。これにより、穿刺部位Pを外面側から視認することができ、後述するマーカー60を穿刺部位Pに容易に位置合わせすることができる。
【0022】
支持板22は、
図2に示すように、ベルト21の二重に形成された支持板保持部21aの間に挿入されることによりベルト21に保持されている。支持板22は、その少なくとも一部が内面側(装着面側)に向かって湾曲した板形状をなしている。支持板22は、ベルト21よりも硬質な材料で構成されており、ほぼ一定の形状を保つようになっている。
【0023】
支持板22は、ベルト21の長手方向に長い形状をなしている。この支持板22の長手方向における中央部22aは、ほとんど湾曲せずに平板状になっており、この中央部22aの両側には、それぞれ、内周側に向かって、かつ、ベルト21の長手方向(手首Wの周方向)に沿って湾曲した第1湾曲部22b(
図2の左側)および第2湾曲部22c(
図2の右側)が形成されている。
【0024】
支持板22の構成材料は、例えば、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル(特に硬質ポリ塩化ビニル)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエンのようなポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、アイオノマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、芳香族または脂肪族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂等が挙げられる。
【0025】
支持板22は、ベルト21と同様に、拡張部40と重なる部分が実質的に透明であることが好ましいが、透明に限定されず、半透明または有色透明であってもよい。これにより、穿刺部位Pを外面側から確実に視認することができ、後述するマーカー60を穿刺部位Pに容易に位置合わせすることができる。なお、支持板22は、中央部22aのような湾曲していない部分を有さないもの、すなわち、その全長にわたり湾曲しているものであってもよい。
【0026】
拡張部40は、空気を注入することにより拡張し、穿刺部位Pに圧迫力を付与する機能を備えている。本実施形態では、拡張部40は、
図1および
図2に示すように、略矩形状の2枚のシートを重ね合わせ、周縁を接着または融着した袋状の部材によって構成している。これにより、2枚のシートの間に拡張空間40aが形成されている。なお、拡張部40の構成は、空気を注入することにより拡張可能であれば特に限定されない。例えば、拡張部40は、1枚のシートを折り曲げ、縁部を接着または融着した袋状の部材によって構成してもよいし、縁部を備えない風船状の部材によって構成してもよい。また、拡張部40の外形形状は、特に限定されない。例えば、拡張部40は、拡張していない状態において、平面視した際に、円形、楕円形、多角形等の外形形状を備えていてもよい。
【0027】
拡張部40は、
図2に示すように、支持板22の第1湾曲部22bおよび中央部22aの間の近辺と重なるように配置されている。このため、
図9に示すように、拡張部40を拡張させた際、ベルト21および支持板22により、拡張部40の手首Wの体表面から離れる方向への拡張が抑制され、拡張部40の圧迫力が手首W側に集中する。このため、穿刺部位Pを好適に圧迫することができる。
【0028】
また拡張部40は、可撓性を備える保持部40bを介して、帯体20のベルト21に取り付けられている。なお、本実施形態では、保持部40bは、拡張部40においてマジックテープ(登録商標)の雄側31が配置されている側の縁部によって構成しているが、保持部40bは、拡張部40とは別の部材によって構成していてもよい。また、拡張部40において保持部40bを設ける位置および帯体20において保持部40bを取付ける位置は、拡張部40を帯体20に連結可能である限り、特に限定されない。
【0029】
拡張部40の構成材料は、可撓性を備える材料であれば特に限定されず、例えば、前述した帯体20の構成材料と同様のものを用いることができる。また、拡張部40は、帯体20と同質または同種の材料の熱可塑性材料で構成されるのが好ましい。これにより、融着による帯体20との接合を容易に行うことができ、止血器具10を容易に製造することができる。
【0030】
拡張部40は、実質的に透明であることが好ましいが、透明に限定されず、半透明または有色透明であってもよい。これにより、穿刺部位Pを外面側から視認することができ、後述するマーカー60を穿刺部位Pに容易に位置合わせすることができる。
【0031】
補助圧迫部50は、
図9に矢印で示すように、拡張部40を押圧して、拡張部40が穿刺部位Pに付与する圧迫力の方向を調整する機能を備えている。
【0032】
補助圧迫部50は、拡張部40と同様に、袋状の部材によって構成している。なお、補助圧迫部50は、例えば、スポンジ状の物質、弾性材料、綿のような繊維の集合体、またはこれらの組合せなどによって構成してもよい。
【0033】
補助圧迫部50は、その内部空間が拡張部40の拡張空間40aと連通するように、拡張部40に取り付けられている。このため、拡張部40に空気を注入すると補助圧迫部50も拡張される。
【0034】
マーカー60は、
図3に示すように、拡張部40において帯体20に面する側の略中央に設けられている。拡張部40にこのようなマーカー60を設けることによって、拡張部40を穿刺部位Pに対して容易に位置合わせすることができるため、拡張部40の位置ズレが抑制される。なお、マーカー60は拡張部40において手首Wに面する側に設けてもよい。この際、マーカー60は、穿刺部位Pと直接接触しないように、拡張部40内の内表面に設けられることが好ましい。
【0035】
マーカー60の形状は、特に限定されず、例えば、円、三角形、四角形等が挙げられ、本実施形態では、四角形をなしている。
【0036】
マーカー60の大きさは、特に限定されないが、例えば、マーカー60の形状が四角形をなしている場合、その一辺の長さが1〜4mmの範囲であることが好ましい。一辺の長さが5mm以上であると、穿刺部位Pの大きさに対してマーカー60の大きさが大きくなるため、拡張部40の中心部を穿刺部位Pに位置合わせし難くなる。
【0037】
マーカー60の材質は、特に限定されず、例えば、インキ等の油性着色料、色素を混練した樹脂等が挙げられる。
【0038】
マーカー60の色は、拡張部40を穿刺部位Pに位置合わせすることができる色であれば特に限定されないが、緑色系が好ましい。緑色系にすることにより、マーカー60を血液や皮膚上で容易に視認することができるため、拡張部40を穿刺部位Pに位置合わせすることがより容易となる。
【0039】
また、マーカー60は半透明または有色透明であることが好ましい。これにより、穿刺部位Pをマーカー60の外面側から視認することができる。
【0040】
拡張部40にマーカー60を設ける方法は特に限定されないが、例えば、マーカー60を拡張部40に印刷する方法、マーカー60を拡張部40に融着する方法、マーカー60の片面に接着剤を塗布して拡張部40に貼り付ける方法等が挙げられる。
【0041】
注入部70は、拡張部40に空気を注入する機能を備えている。注入部70は、
図2および
図4に示すように、空気を収容可能な収容空間70aを備える袋状の部材によって構成されている。なお、注入部70は、帯体20上に配置されているが、
図4では帯体20を省略して図示している。
【0042】
本実施形態では、注入部70は、帯体20の外面側に配置されている底面部71と、底面部71から帯体20が設けられていない側に向かって立ち上がる縦壁部72と、縦壁部72に連なるとともに底面部71と対向する上面部73と、を備えている。底面部71、縦壁部72および上面部73に囲まれた空間が、収容空間70aに相当する。なお、本実施形態では、注入部70は、円柱状の外形形状を備えるように形成されているが、注入部70の外形形状は特に限定されない。注入部70の外形形状は、例えば、四角柱等の多角柱であってもよいし、また、底面部、縦壁部および上面部の区別がない球であってもよい。
【0043】
注入部70の収容空間70aの容積は、拡張部40の拡張空間40aの容積の1/4程度であることが好ましい。これにより、注入部70を適度な大きさに形成し、注入部70が止血器具10の周辺で行われる手技等を妨げるのを防止するとともに、後述する拡張部40に空気を注入する注入動作を行う回数を低減することができる。
【0044】
注入部70は、帯体20の外面側に配置されている。このため、注入部70が帯体20から手首W側へ突出するように設けられている場合と比較すると、注入部70が装着者の手首Wと接触しにくく、装着者が感じる不快感を低減することができる。また特に、本実施形態では、注入部70は、
図2に示すように、帯体20において拡張部40と重ならず、かつ、支持板22と重なる位置に配置されている。このため、注入部70を帯体20上に設けても、拡張部40の穿刺部位Pへの位置合わせを妨げず、かつ、硬度の高い支持板22上において拡張部40に空気を注入する注入動作を行うことができるため、注入動作が容易となる。なお、注入部70を配置する位置は、帯体20上に配置されている限り特に限定されない。
【0045】
注入部70には、帯体20の注入部70が配置されている領域への垂線X1と交差する方向a1に注入部70の縦壁部72を貫通し、かつ、収容空間70aと連通する2つの孔部70b、70cが形成されている。これらの2つの孔部70b、70cから収容空間70a内へ空気を取り込むことができる。これにより、
図8に示すように、拡張部40を拡張させる際に、指で孔部70b、70cを塞ぎつつ注入部70を押し潰す押圧力は、垂線X1と交差する方向a1に作用する。このため、押圧力は、穿刺部位Pに比較的伝わりにくい。したがって、拡張部40に空気を注入する注入動作によって穿刺部位Pを必要以上に圧迫してしまう事態を好適に防止することができる。
【0046】
また、指で孔部70b、70cを塞ぎつつ注入部70を押し潰す押圧力は、穿刺部位Pに比較的伝わりにくいため、拡張部40を拡張する際、装着者は、拡張部40が穿刺部位Pに付与する圧迫力のみを比較的正確に把握することができる。このため、装着者が感じる圧迫力を基に、拡張部40に穿刺部位Pの止血に最適な量の空気を注入することができる。
【0047】
2つの孔部70b、70cは、互いに対向する位置に設けられている。このため、例えば、
図8に示すように、医師や看護師等は、親指および人差し指によって孔部70b、70cをそれぞれ塞いだ状態において、親指および人差し指を互いに接近させて注入部70を押し潰すことよって、収容空間70a内の空気を拡張部40に注入することができる。また、注入部70は、互いに対向する位置に2つの孔部70b、70cを有するため、一方の孔部が周辺の物品等と接触して塞がれても、他方の孔部が塞がれる可能性が低い。そのため、注入部70は、意図せず注入部70が押しつぶされても、拡張部40に空気が注入される可能性は低い。なお、孔部の数は1以上であれば、特に限定されない。また、孔部の形状も図示の場合に限定されない。また、孔部を設ける位置は、孔部が帯体20への垂線X1と交差する方向に注入部70を貫通するように形成される限り、特に限定されない。
【0048】
注入部70は、収縮可能であって、かつ、収縮後の元の形状に復元可能なように、例えば、シリコーンゴム、ラテックスゴム等のエラストマー素材やポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性プラスチック素材、またこれら両方の性質を併せ持つ各種熱可塑性エラストマー素材によって構成していることが好ましい。
【0049】
流通経路80は、
図2および
図5に示すように、拡張部40の拡張空間40aと注入部70の収容空間70aとを連通するチューブ81(「管状部材」に相当)と、拡張部40からの注入部70への空気の流出を防止する逆流防止機構82と、を備えている。
【0050】
チューブ81は、その基端部が注入部70の底面部71に取り付けられており、その先端部が拡張部40の拡張空間40aに入り込むようにして拡張部40に取り付けられている。なお、注入部70においてチューブ81を取付ける位置は、注入部70の収容空間70aと拡張部40の拡張空間40aとを連通可能である限り特に限定されない。例えば、チューブ81の基端部は、注入部70の縦壁部72または上面部73に取り付けられていてもよい。
【0051】
また、
図2に示すように、帯体20には貫通穴が設けられており、チューブ81は、当該貫通穴を挿通するようにして配置されている。なお、例えば、帯体20に貫通穴を設けず、チューブ81が帯体20を回り込むようにして配置してもよい。
【0052】
逆流防止機構82は、拡張部40内に配置されている。逆流防止機構82は、
図5に示すように、チューブ81の先端部に接続される芯材83と、芯材83を覆う被覆部材84と、を備えている。
【0053】
芯材83は、略円柱状の外形形状を備えている。芯材83には、チューブ81との接触面および被覆部材84が設けられている面において開口した内腔83aが形成されている。以下、芯材83においてチューブ81との接触面における開口部83bを「基端開口部83b」と称し、芯材83において被覆部材84が設けられている面における開口部83cを「先端開口部83c」と称する。
【0054】
芯材83の構成材料は、被覆部材84よりも硬度の高い材料であることが好ましい。そのような材料としては、例えば、公知の金属材料、プラスチック材料等が挙げられる。
【0055】
被覆部材84は、円筒状の外形形状を備えている。芯材83は、被覆部材84を挿通している。
【0056】
被覆部材84の構成材料は、弾性部材であることが好ましく、そのような材料としては、例えば、ブチルゴム、多硫化ゴム、エピクロロヒドリンゴム、高ニトリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等のエラストマー素材及び各種熱可塑性エラストマー素材等が挙げられる。
【0057】
図6において、点線の矢印は空気の流れを示し、実践の矢印は空気が被覆部材に付与する圧力の方向を示している。
図6(A)に示すように、拡張部40が十分に拡張していない状態において注入部70からチューブ81に空気が注入されると、空気は、芯材83の内腔83aを通り抜け、被覆部材84に芯材83から離れる方向の圧力を付与する。これにより、先端開口部83cと拡張空間40aが連通し、空気が拡張部40内に注入される。
【0058】
図6(B)に示すように、拡張部40が十分に拡張している状態においては、拡張部40内の空気が、被覆部材84に芯材83と接触する方向の圧力を付与する。これにより、先端開口部83cが被覆部材84によって塞がれるため、拡張部40内の空気は、芯材83側、ひいては注入部70側に逆流しない。また、拡張部40が十分に拡張している状態においては、拡張部40内の空気が先端開口部83cを塞ぐように被覆部材84に圧力を付与しており、当該圧力は、空気の注入圧力よりも高い。このため、拡張部40が十分に拡張し、拡張部40の内圧が所定値になると、注入部70から拡張部40に空気を注入することができなくなる。これにより、拡張部40が十分に拡張している状態においては、必要以上に拡張部40に空気が注入され、拡張部40が過拡張して、穿刺部位Pを必要以上に圧迫するのを好適に防止することができる。
【0059】
排出部90は、拡張部40内の空気を外部に排出する機能を備えている。排出部90は、
図3に示すように、帯体20上に配置される排出ポート91と、排出ポート91の内部空間と拡張部40の拡張空間40aとを連通するチューブ92と、拡張部40内の空気が外部へ排出されるのを防止可能な弁93と、排出ポート91の内部空間と外部との連通および連通解除を切り替え可能な切替部材94と、切替部材94の脱落を防止する連結部材95と、を備えている。
【0060】
排出ポート91は、
図1および
図3に示すように、円柱状の外形形状を備えている。ただし、排出ポート91の外形形状は、特に限定されず、例えば、球、四角柱等の多角柱であってもよい。
【0061】
排出ポート91は、帯体20の外面側に配置されている。このため、排出ポート91が帯体20から手首W側へ突出するように設けられている場合と比較すると、排出ポート91が装着者の手首Wと接触しにくく、装着者が感じる不快感を低減することができる。特に、本実施形態では、排出ポート91は、帯体20の外面側において、拡張部40と重ならず、かつ、支持板22と重なる位置に設けられている。このため、排出ポート91を帯体20上に設けても、拡張部40の穿刺部位Pへの位置合わせを妨げず、かつ、硬度の高い支持板22上において後述する切替部材94の着脱を行えるため、切替部材94の着脱動作が容易となる。ただし、帯体20において排出ポート91を設ける位置は、特に限定されない。
【0062】
排出ポート91には、排出ポート91を厚み方向に貫通する貫通穴91aが設けられている。貫通穴91aは、
図3に示すように、帯体20の排出部90が配置されている領域への垂線X2と交差する方向a2に排出ポート91を貫通していることが好ましい。これにより、
図11に示すように、切替部材94を貫通穴91aに推し込む押込力は、垂線X2と交差する方向a2に作用し、当該押込力は、穿刺部位Pに伝わりにくい。このため、穿刺部位Pを必要以上に圧迫してしまう事態を防止することができる。
【0063】
排出ポート91は、押し潰されて意図せず収縮し、排出ポート91内の空気が拡張部40に逆流してしまう事態を防止するため、一定の形状を保つことのできる硬度の比較的高い材料によって形成されていることが好ましい。このような材料としては、例えば、支持板22と同様の材料を用いることができる。
【0064】
弁93は、排出ポート91の内表面側において、貫通穴91aを塞ぐように配置されている。弁93は、周縁部の一部分のみが排出ポート91の内表面側に取り付けられている。このため、
図11に示すように、貫通穴91aに切替部材94を挿通することができる。
【0065】
弁93は、可撓性を備える材料によって構成されていることが好ましく、例えば、帯体20と同様の材料を用いることができる。
【0066】
切替部材94は、貫通穴91aに抜き差し可能に構成されている。本実施形態では、切替部材94は、直径の異なる2つの円柱を、同軸上に並べて連ねた形状を備えている。切替部材94において、直径の小さい円柱部分が、排出ポート91の貫通穴91aに挿通される。切替部材94を貫通穴91aに挿通した状態においては、切替部材94において直径の大きい円柱部分は、排出ポート91から外方に向かって突出した状態となっている。この突出した部分を引っ張ることにより、切替部材94を貫通穴91aから抜くことができる。なお、切替部材94の形状は、貫通穴91aに対して抜き差し可能である限り、特に限定されない。
【0067】
また、切替部材94には、軸方向に切替部材94を貫通する排出ルーメン94aが形成されている。
【0068】
図10に示すように、排出ポート91の貫通穴91aに切替部材94が挿通されていない状態では、貫通穴91aは、弁93によって塞がれている。このため、拡張部40内の空気が外部へ排出されない。
【0069】
図11に示すように、排出ポート91の貫通穴91aに切替部材94が挿通されている状態では、排出ポート91の内部空間と外部とが切替部材94の排出ルーメン94aによって連通され、拡張部40内の空気が外部に排出される。
【0070】
連結部材95は、可撓性を備える材料によって構成されていることが好ましく、例えば、帯体20と同様の材料を用いることができる。
【0071】
次に、本実施形態に係る止血器具10の使用例について説明する。
【0072】
止血器具10を手首Wに装着する前は、
図2に示すように、拡張部40は、拡張していない状態となっている。
図7および
図8に示すように、右手の手首Wの橈骨動脈Rに穿刺を行う場合、穿刺部位Pは、親指側へ片寄った位置にある。通常、穿刺部位Pにはイントロデューサーシースが留置されている。このイントロデューサーシースが留置されたままの状態の手首Wに帯体20を巻き付け、拡張部40に設けられたマーカー60が穿刺部位P上に重なるように拡張部40および帯体20を位置合わせして、面ファスナー30の雄側31および雌側32を接触させて接合し、帯体20を手首Wに装着する。
【0073】
止血器具10を手首Wに装着した後、
図8に示すように、注入部70の孔部70b、70cを指で塞ぎつつ、注入部70を押し潰し、注入部70内の空気を拡張部40内に注入し、拡張部40および補助圧迫部50を拡張させる。拡張部40と一体の注入部70により拡張部40の拡張が行えるため、医師や看護師は、拡張部40を拡張するための別体の専用の器具(シリンジ等)を持ち運ぶ必要がない。
【0074】
拡張部40を拡張させた後、穿刺部位Pからイントロデューサーシースを抜去する。
【0075】
イントロデューサーシースを抜去後、止血の進行具合や経過時間に応じて、注入部70および排出部90によって、拡張部40および補助圧迫部50への空気量を調整して、拡張部40が穿刺部位Pに付与する圧迫力を調整してもよい。例えば、拡張した拡張部40が、長時間にわたって穿刺部位Pおよびその周辺の血管や神経を圧迫し続けると、しびれや痛みを引き起こしたり、血管が閉塞したりすることがある。血管閉塞等を防ぐため、拡張部40の拡張後、排出部90により拡張部40内の空気を経時的に抜き、拡張部40の内圧を徐々に減圧する減圧操作を行うことで、穿刺部位Pに作用する圧迫力を経時的に低減させてもよい。このように、減圧操作は排出部90によって行うことができるため、医師や看護師が、減圧操作を行うための専用の器具(シリンジ等)を持ち運ぶ手間をなくすことができる。
【0076】
所定の時間が経過して、穿刺部位Pの止血が完了したら、止血器具10を取り外す。止血器具10は、面ファスナー30の雄側31および雌側32を剥がすことによって手首Wから取り外される。なお、排出部90によって拡張部40内の空気を抜いてから、止血器具10を取り外してもよい。
【0077】
以上のように、本実施形態に係る止血器具10は、手首Wに巻き付けるための帯体20と、帯体20を手首Wに巻き付けた状態で固定する固定手段30と、空気を注入することにより拡張し、穿刺部位Pを圧迫する拡張部40と、空気を収容可能な収容空間70aを備え、収容空間70aに収容された空気を拡張部40に注入可能な注入部70と、拡張部40と注入部70とを連通する流通経路80と、を有している。流通経路80は、拡張部40からの注入部70への空気の流出を防止する逆流防止機構82を備えている。注入部70は、帯体20上に配置されており、帯体20の注入部70が配置されている領域への垂線X1と交差する方向a1に注入部70を貫通し、かつ、収容空間70aと連通している孔部70b、70cを備えている。
【0078】
このように構成した止血器具10によれば、拡張部40への空気の注入は、拡張部40に連通する注入部70によって行われる。このため、医師や看護師は、別体の専用の器具を用いなくても、拡張部40を拡張することが可能となる。また、注入部70は帯体20上に配置されており、手首Wと接触しにくいため、装着者が感じる不快感を低減することができる。また、孔部70b、70cは、帯体20の注入部70が配置されている領域への垂線X1と交差する方向a1に注入部70を貫通している。そのため、孔部70b、70cを指等で塞いだ状態で注入部70を押す際の押圧力の方向は、帯体20への垂線X1と交差する方向a1であるため、穿刺部位Pに押圧力が伝わりにくい。加えて、孔部70b、70cは、周辺の物品等と接触して塞がれる可能性が低いため、意図せず孔部70b、70cが塞がれた状態で注入部70が押しつぶされ、拡張部40に空気が注入される可能性は低い。このため、穿刺部位Pを必要以上に圧迫する事態を好適に防止することができる。
【0079】
また、帯体20は、拡張部40側の内表面と、内表面に対向する外表面と、を備え、注入部70は、外表面に配置されている。このため、注入部70によって拡張部40に空気を注入する注入動作を容易に行うことができる。
【0080】
また、帯体20は、支持板22を備え、注入部70は、帯体20の支持板22が位置する領域に配置されている。注入部70によって拡張部40に空気を注入する注入動作を容易に行うことができる。
【0081】
また、流通経路80は、拡張部40と注入部70とを連通するチューブ81を備え、チューブ81の一方の端部は、拡張部40内に位置しており、逆流防止機構82は、拡張部40内に配置されている。このため、拡張部40内により好適に空気を行き渡らせることができる。また、チューブ81への空気の逆流を防止することができる。
【0082】
注入部70は、帯体20の第2面側に配置されている底面部71と、底面部71から帯体20が設けられていない側に向かって立ち上がる縦壁部72と、縦壁部72に連なる上面部73と、を備え、収容空間70aは、底面部71、縦壁部72および上面部73に囲まれており、孔部70b、70cは、縦壁部72に設けられている。このため、孔部70b、70cが周辺の物品等と接触して塞がれる可能性がより一層低い。加えて、孔部70b、70cを指等で塞いだ状態で注入部70を押す際の押圧力の方向は、帯体20への垂線X1と交差する方向a1であるため、穿刺部位Pに押圧力がより一層伝わりにくい。このため、穿刺部位Pを過度に圧迫する事態を一層好適に防止することができる。
【0083】
(変形例1)
図12〜
図14は、前述した実施形態の変形例1に係る止血器具100の説明に供する図である。以下、
図12〜
図14を参照して、変形例1に係る止血器具100について説明する。なお、前述した実施形態と同様の構成については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0084】
変形例1に係る止血器具100は、拡張部140が、拡張部140内の空気を外部に排出する排出部としての機能も備える点において、前述した実施形態と相違する。
【0085】
拡張部140は、
図12〜
図14に示すように、略矩形状の第1シート141および第2シート142を重ね合わせて袋状にすることによって構成している。
【0086】
第1シート141は、
図13(A)に示すように、熱可塑性材料によって構成された周縁部分141aと、熱硬化性エラストマーによって構成された中央部分141bと、を備えている。
【0087】
本実施形態では、第1シート141は、所定形状の型の所定の位置に熱可塑性材料および熱硬化性エラストマーをそれぞれ流し込み、一体成形することによって形成している。ただし、第1シート141は、熱可塑性材料によって構成された枠状の部材(「周縁部分141a」に相当)の中央に、熱硬化性エラストマーによって構成された矩形状の部材(「中央部分141b」に相当)を配置して、接着剤によって接着することによって形成されていてもよい。
【0088】
第2シート142は、熱可塑性材料によって構成している。
【0089】
図14に示すように、第1シート141の周縁部分141aと第2シート142の周縁部分とが重なる部分は、融着されている。
【0090】
第1シート141の周縁部分141aの内の一辺140bは、帯体20のベルト21の手首Wに面する側に、融着されている。
【0091】
拡張部140に用いられる熱可塑性材料は、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン等の熱可塑性樹脂又はオレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエチレン系熱可塑性エラストマー等の各種熱可塑性エラストマーを用いることができる。
【0092】
拡張部140に用いられる熱硬化性エラストマーは、拡張部140に用いられる熱可塑性材料よりも気体透過性の高いものが用いられ、そのような材料としては、例えば、シリコーン、天然ゴム等を用いることができる。このため、拡張部140は、拡張部140を拡張後、拡張部140の熱硬化性エラストマーからなる領域を介して、血管閉塞を防止可能な程度に、拡張部140内の気体が拡張部140の外へ経時的に抜ける(
図14において点線の矢印で示している)。
【0093】
以上、変形例1に係る止血器具100によれば、拡張部140の熱硬化性エラストマーからなる領域を介して、血管閉塞を防止可能な程度に、拡張部140内の気体が拡張部140の外へ経時的に抜ける。このため、医師や看護師が減圧操作を行わなくても、血管閉塞等を防止可能な程度に、穿刺部位Pに作用する圧迫力を経時的に低減することが可能となる。このため、医師や看護師の処置負担や人件費を削減することができる。
【0094】
また、拡張部140の帯体20側の熱硬化性エラストマーからなる中央部が最も伸びやすく、拡張部140を拡張させた際に、穿刺部位Pに対応する位置にある拡張部140の中央部が最も膨らむため、穿刺部位Pを好適に圧迫することができる。なお、拡張部140の手首W側の中央部に熱硬化性エラストマーを設けてもよい。
【0095】
また、拡張部140において熱硬化性エラストマーからなる領域は、帯体20に面する側に設けられており、当該熱硬化性エラストマーからなる領域と、帯体20との間には、補助圧迫部50が設けられている。このため、拡張部140と帯体20との間に空間Sが形成されることにより、拡張部140の熱硬化性エラストマーからなる領域において、帯体20と接触せずに露出している部分の面積を増加させることができる。このため、この露出した部分から気体をより一層良好に抜くことができる。
【0096】
(変形例2)
図15は、前述した実施形態の変形例2に係る止血器具200の説明に供する図である。以下、
図15を参照して、変形例2に係る止血器具200について説明する。なお、前述した実施形態と同様の構成については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0097】
変形例2に係る止血器具200は、注入部270の収容空間270aが、帯体20と、縦壁部272および上面部273と、に囲まれている点において、前述した実施形態と相違する。
【0098】
注入部270は、帯体20の外表側に配置されている底面部271と、底面部271から帯体20が設けられていない側に向かって立ち上がる縦壁部272と、縦壁部272に連なる上面部273と、を備えている。なお、注入部270の構成材料には、前述した実施形態と同様のものを用いることができる。
【0099】
底面部271は、縦壁部272の外方側(収容空間270aが設けられているのと反対側)において、帯体20に、取り付けられている。このため、帯体20と、縦壁部272および上面部273によって囲まれた空間が、収容空間270aに相当する。
【0100】
縦壁部272は、収容空間270aの幅が帯体20から上面部273に向かう方向に沿って小さくなるように、帯体20の外表面に対して傾斜している。なお、縦壁部272は、底面部271に対して、垂直に立ち上がっていてもよい。
【0101】
縦壁部272には、縦壁部272を厚み方向に、すなわち、帯体20の注入部270が配置されている領域への垂線X1と交差する方向a1に貫通する2つの孔部270b、270cが設けられている。孔部270b、270cは、互いに対向する位置に設けられている。孔部270b、270cは、収容空間270aに連通している。
【0102】
以上、変形例2に係る止血器具200によれば、注入部270は、帯体20の外表面側に配置されている底面部271と、底面部271から帯体20が設けられていない側に向かって立ち上がる縦壁部272と、縦壁部272に連なる上面部273と、を備え、収容空間270aは、帯体20と、縦壁部272および上面部273と、に囲まれており、孔部270b、270cは、縦壁部272に設けられている。このため、孔部270b、270cが周辺の物品等と接触して塞がれる可能性がより一層低い。加えて、孔部270b、270cを指等で塞いだ状態で注入部270を押す際の押圧力の方向は、帯体20への垂線X1と交差する方向a1であるため、穿刺部位Pに押圧力がより一層伝わりにくい。このため、穿刺部位Pを過度に圧迫する事態を一層好適に防止することができる。
【0103】
以上、実施形態および変形例を通じて本発明に係る止血器具を説明したが、本発明は説明した各構成のみに限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0104】
例えば、止血器具を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0105】
また、本発明は、手首に装着して使用する止血器具に限らず、脚等に装着して使用する止血器具にも適用することができる。
【0106】
また、前述した実施形態では、止血器具は補助圧迫部を備えている場合を説明したが、補助圧迫部を、備えていなくてもよい。
【0107】
また、前述した実施形態では、拡張部は帯体に連結されていたが、拡張部は、帯体に直接連結されていなくてもよい。例えば、帯体を貫通するように流通経路を設け、当該流通経路の内面側の端部に拡張部を接続し、当該流通経路の外面側の端部に注入部を接続することによって、拡張部が帯体から脱落しないように構成してもよい。
【0108】
また、前述した実施形態では、逆流防止機構が拡張部内に設けられている場合を説明している場合を説明したが、逆流防止機構の配置位置は、拡張部の内部から注入部の間のいずれかの位置であれば、特に限定されない。また、配置位置に応じて、逆流防止機構の構成を適宜変更することができる。
【0109】
また、前述した実施形態では、止血器具は排出部を備えている場合を説明したが、排出部を備えていなくてもよい。また、止血器具が排出部を備える場合、排出部の構成、配置位置、形状は、拡張部内の気体を外部に排出可能であれば、前述した実施形態の場合に限定されない。例えば、前述した実施形態の変形例1では、熱硬化性エラストマーからなる領域は、拡張部の中央部に設けられていたが、熱硬化性エラストマーを設ける領域は、特に限定されず、拡張部全体が熱硬化性エラストマーによって構成されていてもよい。また、例えば、止血器具は、前述した実施形態に係る排出ポート等によって構成された排出部と、熱硬化性エラストマーからなる領域を備える拡張部と、の両方を備えていてもよい。
【0110】
本出願は、2016年3月23日に出願された日本国特許出願第2016−058218号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。