(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記周波数特性補正部は、互いに異なる補正特性を有する少なくとも1つのイコライザ(EQ1〜EQn)及び/又は少なくとも1つのフィルタ(F1〜Fm)を含んでおり、
前記補正特性制御部は、前記制御情報出力部から出力された前記制御情報に基づいて、前記被測定信号の周波数特性を補正するために用いるイコライザ又はフィルタを前記少なくとも1つのイコライザ及び/又は前記少なくとも1つのフィルタの中から選択することを特徴とする請求項1に記載の波形観測装置。
【背景技術】
【0002】
次世代5Gモバイル通信やクラウド通信サービスの普及により、データ通信トラフィックの更なる増大が予想されている。これに伴い、そのインフラとなるデータセンタなどでは、サーバやネットワーク機器の光インタフェース化が進んでおり、光トランシーバなどの光モジュールの需要が急増している。また、PAM4信号などの多値変調信号を用いて伝送容量を拡張することが検討されている。PAM4信号は、0(00),1(01),2(10),3(11)の4値のPAM4シンボルからなり、例えば2つの信号源から出力されたNRZ信号をそれぞれMSB(Most Significant Bit)とLSB(Least Significant Bit)として足し合わせることで生成される。
【0003】
光トランシーバなどの光モジュールから出力されるNRZ信号やPAM4信号などの被測定信号の品質を評価する際には、サンプリングオシロスコープによるアイパターン解析が行われる。サンプリングオシロスコープは、被測定信号に同期したトリガ信号に基づいたタイミングで被測定信号のデータを取得する。このトリガ信号は、外部の信号源から被測定信号と独立に発生させる場合もあるが、クロック再生回路を用いて被測定信号から再生することも可能である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
クロック再生回路の基本構成は、位相同期(Phase Locked Loop:PLL)回路からなっている。
図8に示すように、クロック再生回路70は、入力電圧に応じた周波数の出力信号を出力する電圧制御発振器(Voltage Controlled Oscillator:VCO)71と、VCO71の出力信号を周波数変換する分周器72と、分周器72の出力と被測定信号との位相差に応じた信号を出力する位相比較器(Phase Detector:PD)73と、PD73の出力を所定のループ帯域幅で通過させてVCO71に入力するループフィルタ74と、を有する。
【0005】
PD73に入力される被測定信号の周波数特性が理想的な特性から外れている(例えば、高周波成分が理想的な特性と比較して減衰している)と、被測定信号の波形の立ち上がりがPD73で検出されにくくなり、再生クロック信号のジッタ特性が悪化する。ひいては、サンプリングオシロスコープでのアイパターン解析結果において、アイ開口が狭まるなどの問題が生じる。このため、従来は、クロック再生回路に内蔵又は外付けのイコライザを設けて、固定又は可変のイコライザ特性で被測定信号の高周波成分を補正してアイ開口を大きくしていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、適切なイコライザ特性は被測定信号に依存するため、特許文献1に開示されたような従来のサンプリングオシロスコープにおいて、クロック再生回路に入力される被測定信号の周波数特性を固定のイコライザ特性で補正する場合には、補償不足又は補償過多が起こり得るという問題があった。一方、クロック再生回路に入力される被測定信号の周波数特性を可変のイコライザ特性で補正する場合には、ユーザが手動でイコライザ特性を調整しなければならないという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、被測定信号の波形に応じて、クロック再生回路に入力される被測定信号の周波数特性を自動的に補正して、トリガ信号のジッタ特性の悪化を抑制することができるクロック再生回路を備えた波形観測装置及びクロック再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る波形観測装置は、被試験対象から出力される被測定信号を2分岐する信号分岐部と、前記信号分岐部により分岐された一方の被測定信号の波形を、入力されるトリガ信号に基づいたタイミングで観測するサンプリングオシロスコープと、前記信号分岐部により分岐された他方の被測定信号から再生クロック信号を生成し、生成した前記再生クロック信号を前記トリガ信号として前記サンプリングオシロスコープに出力するクロック再生回路と、を備え、前記クロック再生回路は、入力される信号の電圧に応じた周波数の前記再生クロック信号を出力する電圧制御発振器と、前記信号分岐部により分岐された他方の被測定信号の周波数特性を補正する周波数特性補正部と、前記電圧制御発振器から出力された前記再生クロック信号と、前記周波数特性補正部により補正された被測定信号との位相差に応じた出力信号を出力する位相比較器と、前記位相比較器の出力信号を所要のループ帯域幅で通過させて前記電圧制御発振器に入力するループフィルタと、前記被測定信号に対する前記周波数特性補正部の補正特性を制御する補正特性制御部と、を含み、前記サンプリングオシロスコープは、前記信号分岐部により分岐された一方の被測定信号の振幅特性を測定する振幅特性測定部と、前記振幅特性測定部により測定された振幅特性に基づいて、前記被測定信号のアイ開口を広げるための周波数特性を算出する周波数特性算出部と、前記周波数特性算出部により算出された周波数特性に応じた制御情報を前記補正特性制御部に出力する制御情報出力部と、を含み、前記補正特性制御部は、前記制御情報出力部から出力された前記制御情報に基づいて前記周波数特性補正部の補正特性を制御する構成である。
【0010】
この構成により、本発明に係る波形観測装置は、被測定信号の周波数特性の情報を含む制御情報をサンプリングオシロスコープがクロック再生回路に出力し、クロック再生回路がその制御情報に基づいて被測定信号から再生クロック信号を生成するようになっている。この構成により、本発明に係る波形観測装置は、被測定信号の波形に応じて、クロック再生回路に入力される被測定信号の周波数特性を自動的に補正して、トリガ信号のジッタ特性の悪化を抑制することができる。また、本発明に係る波形観測装置は、被測定信号に対する補正特性に関する煩雑な設定作業や、それに伴う設定ミスを解消して、クロック再生回路を構成する周波数特性補正部の補正特性を適切に制御することができる。
【0011】
また、本発明に係る波形観測装置においては、前記周波数特性補正部は、互いに異なる補正特性を有する少なくとも1つのイコライザ及び/又は少なくとも1つのフィルタを含んでおり、前記補正特性制御部は、前記制御情報出力部から出力された前記制御情報に基づいて、前記被測定信号の周波数特性を補正するために用いるイコライザ又はフィルタを前記少なくとも1つのイコライザ及び/又は前記少なくとも1つのフィルタの中から選択する構成であってもよい。
【0012】
この構成により、本発明に係る波形観測装置は、補正テーブルに基づいて、互いに異なる補正特性を有する少なくとも1つのイコライザ及び/又は少なくとも1つのフィルタの中から、被測定信号の周波数特性を補正するために用いるイコライザ又はフィルタを選択するようになっている。この構成により、本発明に係る波形観測装置は、今後策定される規格に対しても、補正テーブルにおける各種の数値を更新することで対応できるなどの拡張性を有している。
【0013】
また、本発明に係る波形観測装置においては、前記少なくとも1つのイコライザ及び/又は前記少なくとも1つのフィルタのうちのいずれかは、可変抵抗及び可変コンデンサを含み、前記補正特性制御部は、前記周波数特性補正部の補正特性のピーク周波数と、前記ピーク周波数における振幅補正量と、前記振幅補正量を実現するための前記可変抵抗の抵抗値及び前記可変コンデンサの容量値との対応関係を示す補正テーブルを有しており、前記制御情報出力部から出力された前記制御情報に基づいて前記補正テーブルを参照して、前記可変抵抗の抵抗値と前記可変コンデンサの容量値を制御する構成であってもよい。
【0014】
この構成により、本発明に係る波形観測装置は、補正テーブルに基づいて、周波数特性補正部を構成する可変抵抗及び可変コンデンサの抵抗値及び容量値を自動的に切り替えることができる。この構成により、本発明に係る波形観測装置は、クロック再生回路に入力される様々なボーレートの被測定信号の周波数特性を適切に補正することができる。
【0015】
また、本発明に係るクロック再生方法は、被試験対象から出力される被測定信号を2分岐する信号分岐ステップと、前記信号分岐ステップにより分岐された一方の被測定信号の波形を、入力されるトリガ信号に基づいたタイミングで観測する波形観測ステップと、前記信号分岐ステップにより分岐された他方の被測定信号から再生クロック信号を生成し、生成した前記再生クロック信号を前記トリガ信号として前記波形観測ステップに出力するクロック再生ステップと、を含むクロック再生方法であって、前記信号分岐ステップにより分岐された一方の被測定信号の振幅特性を測定する振幅特性測定ステップと、前記振幅特性測定ステップにより測定された振幅特性に基づいて、前記被測定信号のアイ開口を広げるための周波数特性を算出する周波数特性算出ステップと、前記周波数特性算出ステップにより算出された周波数特性に応じた制御情報を出力する制御情報出力ステップと、前記制御情報出力ステップから出力された前記制御情報に基づいて、周波数特性補正部の補正特性を制御する補正特性制御ステップと、前記周波数特性補正部によって、前記信号分岐ステップにより分岐された他方の被測定信号の周波数特性を補正する周波数特性補正ステップと、電圧制御発振器の出力信号と、前記周波数特性補正ステップにより補正された被測定信号との位相差に応じた出力信号を出力する位相比較ステップと、前記位相比較ステップの出力信号を所要のループ帯域幅で通過させて前記電圧制御発振器に入力するループフィルタステップと、前記電圧制御発振器によって、前記ループフィルタステップにより入力される信号の電圧に応じた周波数の前記再生クロック信号を出力する電圧制御発振ステップと、を含む構成である。
【0016】
この構成により、本発明に係るクロック再生方法は、被測定信号の周波数特性の情報を含む制御情報に基づいて被測定信号から再生クロック信号を生成するようになっている。この構成により、本発明に係るクロック再生方法は、被測定信号の波形に応じて被測定信号の周波数特性を自動的に補正して、トリガ信号のジッタ特性の悪化を抑制することができる。また、本発明に係るクロック再生方法は、被測定信号に対する補正特性に関する煩雑な設定作業や、それに伴う設定ミスを解消して、被測定信号に対する補正特性を適切に制御することができる。
【0017】
本発明は、被測定信号の波形に応じて、クロック再生回路に入力される被測定信号の周波数特性を自動的に補正して、トリガ信号のジッタ特性の悪化を抑制することができるクロック再生回路を備えた波形観測装置及びクロック再生方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るクロック再生回路を備えた波形観測装置及びクロック再生方法の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0020】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る波形観測装置100は、被試験対象(Device Under Test:DUT)200から出力される被測定信号の波形を観測するものであって、信号分岐部10と、サンプリングオシロスコープ20と、クロック再生回路30と、表示部40と、操作部50と、制御部60と、を備える。
【0021】
DUT200が対応する伝送規格の例としては、Ethernet(登録商標)、eCPRI/RoE、CPRI、SDH/SONET、OTN、InfiniBand、Fibre Channelなどが挙げられる。DUT200としては、被測定信号としての電気信号又は光信号を出力するが、クロック信号は出力しないものを想定している。被測定信号は、DUT200自身が発生させる場合や、パルスパターン発生器(Pulse Pattern Generator:PPG)などの外部信号源からDUT200に入力された電気信号/光信号がDUT200により光信号/電気信号に変換されて出力される場合などがある。被測定信号の種類としては、例えば、NRZ方式の場合にはPRBSパターンなどが挙げられる。また、PAM4方式の場合には、PRBSパターンやSSPRQパターンなどが挙げられる。
【0022】
また、光信号を出力するDUT200としては、例えば、光トランシーバが挙げられる。電気信号を出力するDUT200としては、例えば、PPG、光モジュールの中で使われているDSP(Digital Signal Processor)などが挙げられる。光トランシーバは、電気信号と光信号を相互に変換するためのモジュールであり、例えば、電界吸収型変調器集積レーザ(Electro-absorption Modulator integrated Laser diode:EML)を備えたTOSA(Transmitter Optical Sub-Assembly)や、フォトダイオード(Photodiode)を備えたROSA(Receiver Optical Sub-Assembly)などの光送受信デバイスが搭載されている。
【0023】
信号分岐部10は、DUT200から出力される被測定信号を2分岐するものであり、例えば、入力された被測定信号が電気信号である場合に被測定信号を2分岐するディバイダと、入力された被測定信号が光信号である場合に被測定信号を2分岐する光カプラと、を含む。なお、信号分岐部10は、クロック再生回路30に設けられていてもよい。
【0024】
サンプリングオシロスコープ20は、例えばシーケンシャル・サンプリングを行うものであり、信号分岐部10により分岐された一方の被測定信号の波形を、入力されるトリガ信号に基づいたタイミングで観測するものである。サンプリングオシロスコープ20は、O/Eコンバータ21と、識別情報取得部22と、信号処理部23と、周波数特性算出部24と、制御情報出力部25と、波形表示制御部26と、を含む。O/Eコンバータ21は、信号分岐部10により分岐された被測定信号が光信号である場合に、被測定信号を電気信号に変換した後に信号処理部23に出力するようになっている。
【0025】
識別情報取得部22は、ユーザによる操作部50を介した手動設定若しくは自動検知により、信号分岐部10により分岐された被測定信号の種類を識別するための識別情報を取得するようになっている。例えば、識別情報取得部22は、被測定信号の波形観測を行い、その観測結果に基づいて識別情報を自動検知により取得することができる。この識別情報は、例えば、伝送方式、パターン長、及びボーレート(Baud rate)の情報を含む。ここで、伝送方式とは、例えばNRZ方式やPAM4方式を指す。
【0026】
信号処理部23は、被試験信号の主に高周波成分の減衰を補償する信号処理を行うようになっており、
図2に示すように、サンプリング部23aと、振幅特性測定部23bと、逆特性算出部23cと、逆フーリエ変換部23dと、インパルス応答切出部23eと、周波数特性補償部23fと、を含む。
【0027】
サンプリング部23aは、信号分岐部10により分岐された被測定信号を、クロック再生回路30から入力されるトリガ信号に基づいたタイミングでサンプリングしてディジタル信号に変換するようになっている。ここで、サンプリング部23aは、識別情報取得部22により取得された識別情報に基づいて、入力された被測定信号の時系列を把握してディジタル信号を生成している。
【0028】
振幅特性測定部23bは、サンプリング部23aによりディジタル信号に変換された被測定信号の振幅特性を測定するようになっている。あるいは、振幅特性測定部23bは、識別情報で識別される様々な種類の信号をあらかじめ測定することによって得られた実測値を記憶するテーブルを有し、実際の被測定信号の識別情報に対応する振幅特性のデータを当該テーブルから読み出すものであってもよい。
【0029】
逆特性算出部23cは、振幅特性測定部23bにより測定された被測定信号の振幅特性を入力データとし、この入力データの振幅特性の逆特性から伝達関数の逆特性を算出するようになっている。
【0030】
逆フーリエ変換部23dは、逆特性算出部23cにより入力データの振幅特性の逆特性から算出された伝達関数の逆特性を逆フーリエ変換してインパルス応答を算出するようになっている。
【0031】
インパルス応答切出部23eは、逆フーリエ変換部23dにより算出されたインパルス応答のピークを基準として所望のタップ数分のポイントを切り出すようになっている。上記インパルス応答を切り出した値は、被試験信号の周波数特性を補償するための有限インパルス応答(Finite impulse response:FIR)フィルタのタップ係数となる。
【0032】
周波数特性補償部23fは、
図3に示すFIRフィルタ27を含み、インパルス応答切出部23eより得られたタップ係数をFIRフィルタ27に設定することにより、サンプリング部23aから出力されたディジタル信号の周波数特性を補償するようになっている。
【0033】
図3に示すように、周波数特性補償部23fが備えるFIRフィルタ27は、N個の遅延器27aと、N+1個の乗算器27bと、N個の加算器27cとを備えている。
図3において、FIRフィルタ27への入力信号である被測定信号x(n)に対するFIRフィルタ27の出力信号、すなわち、周波数特性補償部23fの出力信号y(n)は、下記の式(1)で表される。なお、nは時刻、h
0,h
1,...,h
Nはタップ係数、N+1はタップ数を表している。
【0035】
図1に示す周波数特性算出部24は、振幅特性測定部23bにより測定された振幅特性に基づいて、被測定信号のアイ開口を広げるための周波数特性を算出するものである。例えば、周波数特性算出部24は、インパルス応答切出部23eにより求められたタップ係数を用いて、従来より周知の方法で被測定信号のアイ開口を広げるための周波数特性を算出するようになっている。
【0036】
制御情報出力部25は、周波数特性算出部24により算出された周波数特性に応じた制御情報を、後述する補正特性制御部37に出力するようになっている。制御情報出力部25は、例えば、周波数特性算出部24により算出された周波数特性のピーク周波数の値と、そのピーク周波数における振幅補正量の値とを制御情報としてクロック再生回路30に出力する。あるいは、制御情報出力部25が出力する制御情報は、周波数特性算出部24により算出された周波数特性のデータそのものであってもよい。あるいは、制御情報出力部25が出力する制御情報は、後述するクロック再生回路30の周波数特性補正部36が有する少なくとも1つのイコライザEQ1〜EQn及び/又は少なくとも1つのフィルタF1〜Fmのうち、どのイコライザ又はフィルタを選択するかを示す情報であってもよい。
【0037】
波形表示制御部26は、信号処理部23により信号処理された被測定信号の信号波形を、ユーザが所望する表示形態(例えば、アイパターン表示)で表示部40に表示制御するようになっている。
【0038】
クロック再生回路30は、信号分岐部10により分岐された他方の被測定信号から再生クロック信号を生成し、生成した再生クロック信号をトリガ信号としてサンプリングオシロスコープ20に出力するものであり、O/Eコンバータ31と、VCO32と、PD33と、ループフィルタ34と、分周器35と、周波数特性補正部36と、補正特性制御部37と、を含む。本実施形態においては、クロック再生回路30は、例えば25.5Gbaud〜28.2GbaudのNRZ信号又はPAM4信号のクロック再生に対応している。
【0039】
O/Eコンバータ31は、信号分岐部10により分岐された被測定信号が光信号である場合に、被測定信号を電気信号に変換した後にPD33に出力するようになっている。VCO32は、ループフィルタ34から入力される信号の電圧に応じた周波数の出力信号を出力するものであり、具体的にはループフィルタ34の出力信号の電圧にほぼ比例した周波数の信号を再生クロック信号として出力するようになっている。PD33は、例えば排他的論理和(XOR)回路で構成されており、VCO32から出力された再生クロック信号と、後述する周波数特性補正部36に補正された被測定信号との位相差に比例した幅の誤差信号パルスを出力信号として出力するようになっている。
【0040】
ループフィルタ34は、例えばラグ・リードフィルタからなり、PD33の出力信号を所要のループ帯域幅で通過させてVCO32に入力するようになっている。PD33の出力信号は、ループフィルタ34により積分(平滑化)され、VCO32の制御電圧となる。
【0041】
分周器35は、VCO32から出力された再生クロック信号を所定の周波数変換比(分周比N)で周波数変換して、PD33に出力するようになっている。ここで、Nは1以上の実数である。
【0042】
周波数特性補正部36は、信号分岐部10により分岐された他方の被測定信号の周波数特性を補正するようになっている。周波数特性補正部36の補正特性の一例を
図4に示す。
図4において、「ピーク周波数」とは、周波数特性補正部36の補正特性において、振幅が最大になる周波数を指している。また、「振幅補正量」とは、周波数特性補正部36の補正特性の最大振幅、すなわち、ピーク周波数における振幅を指している。
【0043】
図5に示すように、周波数特性補正部36は、例えば、少なくとも1つのイコライザEQ1〜EQn及び/又は少なくとも1つのフィルタF1〜Fmと、少なくとも1つのイコライザEQ1〜EQn及び/又は少なくとも1つのフィルタF1〜Fmの中から被測定信号の周波数特性を補正するために用いる1つのイコライザ又はフィルタを選択するためのスイッチ36aと、を含んでいる。また、少なくとも1つのイコライザEQ1〜EQn及び/又は少なくとも1つのフィルタF1〜Fmのうちのいずれかは、少なくとも1つの可変抵抗及び少なくとも1つの可変コンデンサを含む、可変イコライザ、周波数可変フィルタ、又はCTLE(Continuous Time Linear Equalizer)からなっていてもよい。可変抵抗としては、例えば、外部からのアナログDC制御電圧で抵抗値が変化する可変アッテネータを用いることができる。また、可変コンデンサとしては、例えば、外部からのアナログDC制御電圧で容量が変化する可変キャパシタや可変容量ダイオードを用いることができる。なお、以降の説明では、イコライザEQnを可変イコライザとし、フィルタFmを周波数可変フィルタとする。
【0044】
補正特性制御部37は、制御情報出力部25から出力された制御情報に基づいて、被測定信号に対する周波数特性補正部36の補正特性を制御するものである。ここで、制御情報出力部25から出力される制御情報とは、既に述べたように、周波数特性算出部24により算出された周波数特性のピーク周波数と振幅補正量、あるいは、周波数特性算出部24により算出された周波数特性のデータである。
【0045】
補正特性制御部37は、
図6にその一例を示すように、周波数特性補正部36が有する各イコライザEQ1〜EQnと各フィルタF1〜Fmの補正特性のピーク周波数と、ピーク周波数における振幅補正量とを示す補正テーブル37aを有している。なお、補正テーブル37aは、制御情報出力部25が有していてもよい。補正テーブル37aには、効果的に被測定信号のアイ開口を広げるために、各種の規格で規定されたボーレートの約1/2に相当するピーク周波数に対しての振幅補正量の値が示されている。また、可変イコライザであるイコライザEQnについては、補正特性のピーク周波数と、ピーク周波数における振幅補正量と、その振幅補正量を実現するための可変抵抗の抵抗値及び可変コンデンサの容量値との対応関係が補正テーブル37aに示されている。同様に、周波数可変フィルタであるフィルタFmについては、補正特性のピーク周波数と、ピーク周波数における振幅補正量と、その振幅補正量を実現するための可変抵抗の抵抗値及び可変コンデンサの容量値との対応関係が補正テーブル37aに示されている。
【0046】
例えば、補正特性制御部37は、補正テーブル37aを参照して、制御情報出力部25から出力された制御情報が示す周波数特性に比較的近い補正特性を有するイコライザ又はフィルタを、少なくとも1つのイコライザEQ1〜EQn及び/又は少なくとも1つのフィルタF1〜Fmの中から選択するようにスイッチ36aを制御する。一方、制御情報出力部25から出力された制御情報が示す周波数特性に比較的近い補正特性を有するイコライザ又はフィルタが、固定のイコライザEQ1〜EQn−1や、固定のフィルタF1〜Fm−1の中にない場合には、補正特性制御部37は、可変イコライザであるイコライザEQn、又は、周波数可変フィルタであるフィルタFmを選択するようにスイッチ36aを制御する。この場合は、補正特性制御部37は、補正テーブル37aを参照して、イコライザEQn又はフィルタFmにおける可変抵抗の抵抗値R1,R2,・・・と可変コンデンサC1,C2,・・・の容量値を制御する。
【0047】
表示部40は、例えばLCDやCRTなどの表示機器で構成され、波形表示制御部26から出力された被測定信号の信号波形などの各種表示内容を表示するようになっている。さらに、表示部40は、制御部60から出力される制御信号に応じて、測定条件などを設定するためのボタン、ソフトキー、プルダウンメニュー、テキストボックスなどの操作対象の表示を行うようになっている。
【0048】
操作部50は、ユーザによる操作入力を受け付けるためのものであり、例えば表示部40に設けられたタッチパネルで構成される。あるいは、操作部50は、キーボード又はマウスのような入力デバイスを含んで構成されてもよい。また、操作部50は、リモートコマンドなどによる遠隔制御を行う外部制御装置で構成されてもよい。操作部50への操作入力は、制御部60により検知されるようになっている。例えば、操作部50により、被測定信号の種類を識別するための識別情報や、ループ帯域幅の所要の帯域幅や、スイッチ36aにより選択されるイコライザ又はフィルタをユーザが任意に指定することなどが可能である。
【0049】
制御部60は、例えばCPU、ROM、RAM、HDDなどを含むマイクロコンピュータ又はパーソナルコンピュータ等で構成され、波形観測装置100を構成する上記各部の動作を制御する。また、制御部60は、ROM等に記憶された所定のプログラムをRAMに移して実行することにより、識別情報取得部22、信号処理部23、周波数特性算出部24、制御情報出力部25、波形表示制御部26、及び補正特性制御部37の少なくとも一部をソフトウェア的に構成することが可能である。なお、識別情報取得部22、信号処理部23、周波数特性算出部24、制御情報出力部25、波形表示制御部26、及び補正特性制御部37の少なくとも一部は、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのディジタル回路で構成することも可能である。あるいは、識別情報取得部22、信号処理部23、周波数特性算出部24、制御情報出力部25、波形表示制御部26、及び補正特性制御部37の少なくとも一部は、ディジタル回路によるハードウェア処理と所定のプログラムによるソフトウェア処理とを適宜組み合わせて構成することも可能である。
【0050】
以下、本実施形態の波形観測装置100を用いるクロック再生方法について、
図7のフローチャートを参照しながらその処理の一例を説明する。
【0051】
まず、信号分岐部10は、DUT200から出力される被測定信号を2分岐する(信号分岐ステップS1)。
【0052】
次に、制御部60は、クロック再生回路30にて初期の再生クロック信号をロックさせるための既知の初期定数をループフィルタ34に設定する(ステップS2)。これにより、クロック再生回路30は、初期定数による自走周波数にて再生クロック信号を生成する。
【0053】
次に、振幅特性測定部23bは、ステップS1により分岐された一方の被測定信号の振幅特性を測定する(振幅特性測定ステップS3)。
【0054】
次に、周波数特性算出部24は、ステップS3により測定された振幅特性に基づいて、被測定信号のアイ開口を広げるための周波数特性を算出する(周波数特性算出ステップS4)。
【0055】
次に、制御情報出力部25は、ステップS4により算出された周波数特性に応じた制御情報を、クロック再生回路30の補正特性制御部37に出力する(制御情報出力ステップS5)。
【0056】
次に、補正特性制御部37は、ステップS5から出力された制御情報に基づいて、周波数特性補正部36の補正特性を制御する(補正特性制御ステップS6)。
【0057】
次に、周波数特性補正部36は、ステップS1により分岐された他方の被測定信号の周波数特性を補正する(周波数特性補正ステップS7)。
【0058】
次に、PD33は、VCO32の出力信号と、ステップS7により補正された被測定信号との位相差に応じた出力信号を出力する(位相比較ステップS8)。
【0059】
次に、ループフィルタ34は、ステップS8の出力信号を所要のループ帯域幅で通過させてVCO32に入力する(ループフィルタステップS9)。
【0060】
次に、VCO32は、ステップS9により入力される信号の電圧に応じた周波数の再生クロック信号をトリガ信号として出力する(電圧制御発振ステップS10)。
【0061】
次に、サンプリングオシロスコープ20は、ステップS1により分岐された一方の被測定信号の波形を、ステップS10により入力されるトリガ信号に基づいたタイミングで観測する(波形観測ステップS11)。
【0062】
なお、上記のステップS6〜S10は、ステップS1により分岐された他方の被測定信号から再生クロック信号を生成し、生成した再生クロック信号をトリガ信号として波形観測ステップS10に出力するクロック再生ステップを構成する。
【0063】
以上説明したように、本実施形態に係る波形観測装置100は、被測定信号の周波数特性の情報を含む制御情報をサンプリングオシロスコープ20がクロック再生回路30に出力し、クロック再生回路30がその制御情報に基づいて被測定信号から再生クロック信号を生成するようになっている。この構成により、波形観測装置100は、被測定信号の波形に応じて、クロック再生回路30に入力される被測定信号の周波数特性を自動的に補正して、トリガ信号のジッタ特性の悪化を抑制することができる。また、波形観測装置100は、被測定信号に対する補正特性に関する煩雑な設定作業や、それに伴う設定ミスを解消して、クロック再生回路30を構成する周波数特性補正部36の補正特性を適切に制御することができる。
【0064】
また、本実施形態に係る波形観測装置100は、補正テーブル37aに基づいて、互いに異なる補正特性を有する少なくとも1つのイコライザEQ1〜EQn及び/又は少なくとも1つのフィルタF1〜Fmの中から、被測定信号の周波数特性を補正するために用いるイコライザ又はフィルタを選択するようになっている。この構成により、波形観測装置100は、今後策定される規格に対しても、補正テーブル37aにおける各種の数値を更新することで対応できるなどの拡張性を有している。
【0065】
また、本実施形態に係る波形観測装置100は、補正テーブル37aに基づいて、周波数特性補正部36を構成する可変抵抗及び可変コンデンサの抵抗値及び容量値を自動的に切り替えることができる。この構成により、波形観測装置100は、クロック再生回路30に入力される様々なボーレートの被測定信号の周波数特性を適切に補正することができる。