特許第6959326号(P6959326)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6959326
(24)【登録日】2021年10月11日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】嚢切開装置の性能向上
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/007 20060101AFI20211021BHJP
【FI】
   A61F9/007 130H
【請求項の数】15
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-505154(P2019-505154)
(86)(22)【出願日】2017年7月19日
(65)【公表番号】特表2019-523083(P2019-523083A)
(43)【公表日】2019年8月22日
(86)【国際出願番号】IB2017054378
(87)【国際公開番号】WO2018025110
(87)【国際公開日】20180208
【審査請求日】2020年6月22日
(31)【優先権主張番号】62/369,871
(32)【優先日】2016年8月2日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】319008904
【氏名又は名称】アルコン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】ジアド ガンノウム
(72)【発明者】
【氏名】コアンヤオ チア
(72)【発明者】
【氏名】シーン クリストファー マッデン
【審査官】 松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−528675(JP,A)
【文献】 米国特許第05171314(US,A)
【文献】 特開2015−051266(JP,A)
【文献】 特開平07−213531(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0135222(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
A61B 17/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状挿入スリーブであって、前記管状挿入スリーブの遠位端部において面取りされており、かつ前記管状挿入スリーブの前記遠位端部に互いに対向して配置された2つの切り欠きを更に含み、各切り欠きの上部分は、各切り欠きの底部分よりも更に遠位側に延びる、管状挿入スリーブと、
前記管状挿入スリーブ内に摺動可能に配置された絶縁部分であって、遠位端部において、加熱要素の第1の端部と第2の端部とを分離する電気絶縁材料を含む絶縁部分と、
前記絶縁部分の前記遠位端部に結合されている、前記加熱要素を含む略平面のループであって、前記加熱要素の前記第1の端部および前記第2の端部は、前記略平面のループから上向きの角度で延びる移行ネック部を画定し、前記略平面のループは、前記管状挿入スリーブから展開されるときおよび格納されるときに前記2つの切り欠き内に配置される、略平面のループと
を含む嚢切開装置。
【請求項2】
前記切り欠きの近位端部は、前記管状挿入スリーブの前記遠位端部において上下非対称にずらされる、請求項1に記載の嚢切開装置。
【請求項3】
前記切り欠きの近位端部は、上下非対称に0.20〜0.60mmだけずらされる、請求項1に記載の嚢切開装置。
【請求項4】
前記加熱要素は、ニッケルチタン合金で形成された抵抗加熱要素である、請求項1に記載の嚢切開装置。
【請求項5】
各切り欠きの前記底部分の遠位端部は、各切り欠きの前記上部分の遠位端部から0.30〜1.00mmだけ凹んでいる、請求項1に記載の嚢切開装置。
【請求項6】
各切り欠きの前記底部分の遠位端部は、各切り欠きの近位端部から0.25〜0.75mmにある、請求項1に記載の嚢切開装置。
【請求項7】
前記ループは、眼の水晶体前嚢または水晶体後嚢に当てて配置するための底面と、前記底面に対向する上面とを有し、前記加熱要素は、前記ループの少なくとも前記上面に配置されるが、前記ループの前記底面に存在しない断熱層を更に含む、請求項1に記載の嚢切開装置。
【請求項8】
前記断熱層は、蒸着によって前記加熱要素上に堆積される、請求項7に記載の嚢切開装置。
【請求項9】
前記断熱層は、レーザ切除によって前記ループの前記底面から除去される、請求項8に記載の嚢切開装置。
【請求項10】
前記ループは、眼内での展開前に楕円形状を有し、前記ループは、前記眼内での展開後に丸形状を有する、請求項1に記載の嚢切開装置。
【請求項11】
管状挿入スリーブであって、前記管状挿入スリーブの遠位端部において面取りされており、かつ前記管状挿入スリーブの前記遠位端部に互いに対向して配置された2つの切り欠きを更に含み、前記切り欠きの近位端部は、前記管状挿入スリーブの前記遠位端部において上下非対称にずらされ、各切り欠きの上部分は、各切り欠きの底部分よりも更に遠位側に延びる、管状挿入スリーブと、
前記管状挿入スリーブ内に摺動可能に配置された絶縁部分であって、遠位端部において、加熱要素の第1の端部と第2の端部とを分離する電気絶縁材料を含む絶縁部分と、
前記絶縁部分の前記遠位端部に結合されている、前記加熱要素を含む略平面のループであって、前記加熱要素の前記第1の端部および前記第2の端部は、前記略平面のループから上向きの角度で延びる移行ネック部を画定し、前記略平面のループは、前記管状挿入スリーブから展開されるときおよび格納されるときに前記2つの切り欠き内に配置される、略平面のループと
を含む嚢切開装置。
【請求項12】
前記切り欠きの前記近位端部は、上下非対称に0.20〜0.60mmだけずらされる、請求項11に記載の嚢切開装置。
【請求項13】
前記加熱要素は、ニッケルチタン合金で形成された抵抗加熱要素である、請求項11に記載の嚢切開装置。
【請求項14】
各切り欠きの前記底部分の遠位端部は、各切り欠きの前記上部分の遠位端部から0.30〜1.00mmだけ凹んでいる、請求項11に記載の嚢切開装置。
【請求項15】
各切り欠きの前記底部分の遠位端部は、各切り欠きの近位端部から0.25〜0.75mmにある、請求項11に記載の嚢切開装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、嚢切開装置の設計の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の論述では、特定の物品および方法を背景および導入のために説明する。本明細書に含まれるいかなるものも従来技術の「承認」と解釈されるべきではない。本出願人は、適用可能な法による規定の下、本明細書において参照される物品および方法が従来技術を構成しないことを適宜明らかにする権利を明確に留保する。
【0003】
白内障の治療について許容されている処置は、水晶体の外科的除去(例えば、水晶体超音波乳化吸引による)および人工眼内レンズによる水晶体機能の置換である。白内障水晶体を取り除く前に前嚢が開口または切開され得る。水晶体超音波乳化吸引中、水晶体核が乳化される一方、前嚢切開の切開縁に張力がかかる。更に、嚢が多くの小さい嚢裂傷で開口された場合、残る小片は、後嚢へと広がり得る放射状の嚢裂傷の原因となり得る。放射状の裂傷は、更に白内障を取り除くこと、および手術の後半で水晶体嚢内に眼内レンズを安全に配置することについて水晶体を不安定にし得るため、合併症を引き起こし得る。加えて、後嚢が裂孔されると、硝子体液が眼の前房に入り込むことがある。これが発生した場合、特別な器具を用いた追加処置によって硝子体液を取り除くことが必要になり得る。硝子体液の喪失は、眼内でのその後の網膜剥離および/または感染症の原因となり得る。更に、いくつかの眼科処置も後嚢切開術を必要とし得るが、前嚢切開術のために設計された現在の装置は、後嚢切開術を施すための最適な形状を有さない場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、嚢裂傷のリスクを最小限に抑え、かつ眼の内部での嚢切開装置のループの動きを最小限に抑えて予測可能にするために、嚢切開術の性能を改善する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この概要は、詳細な説明において以下で更に説明される概念の選択を簡略化された形式で紹介するために提供される。この概要は、特許請求される主題の重要なまたは本質的な特徴を特定することを意図したものではなく、特許請求される主題の範囲を限定するために使用されることを意図したものでもない。特許請求される主題の他の特徴、詳細、有用性および利点は、添付の図面に図示されかつ添付の特許請求の範囲で定義された態様を含む、以下に記載の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0006】
本開示の一実施形態は、挿入スリーブの遠位端部に面取り部と2つの切り欠きとを含む独特な挿入スリーブ構成を有する嚢切開装置を提供する。概して、一実施形態は、管状挿入スリーブであって、管状挿入スリーブの遠位端部において面取りされており、かつ管状絶縁スリーブの遠位端部に互いに対向して配置された2つの切り欠きを更に含み、各切り欠きの上部分は、各切り欠きの底部分よりも更に遠位側に(ループが眼に挿入される端部に向かって)延びる、管状挿入スリーブと、管状挿入スリーブ内に摺動可能に配置された絶縁部分であって、遠位端部において、加熱要素の第1の端部と第2の端部とを分離する電気絶縁材料を含む絶縁部分と、絶縁部分の遠位端部に結合されている、加熱要素を含む略平面のループであって、加熱要素の第1の端部および第2の端部は、略平面のループから上向きの角度で延びる移行ネック部を画定し、略平面のループは、管状挿入スリーブから展開されるときおよび格納されるときに2つの切り欠き内に配置される、略平面のループとを含む嚢切開装置を提供する。
【0007】
この実施形態のいくつかの態様において、切り欠きの近位端部は、管状絶縁スリーブの遠位端部において上下非対称にずらされ、例えば、切り欠きの近位端部は、上下非対称に0.20〜0.60mm、0.25〜0.50mm、または0.30〜0.40mmだけずらされ得る。他のずれも考慮される。
【0008】
実施形態のいくつかの態様では、加熱要素は、抵抗加熱要素であり、いくつかの態様では、抵抗加熱要素は、ニッケルチタン合金で形成される。
【0009】
実施形態のいくつかの態様において、各切り欠きの底部分の遠位端部は、各切り欠きの上部分の遠位端部から0.30〜1.00mm、0.40〜0.80mm、または0.50〜0.70mmだけ凹んでいる。他の凹み寸法も考慮される。また、この実施形態のいくつかの態様において、各切り欠きの底部分の遠位端部は、各切り欠きの近位端部から0.25〜0.75mm、0.30〜0.60mm、または0.40〜0.50mmにある。各切り欠きの底部分の遠位端部に対する他の寸法も考慮される。
【0010】
また、いくつかの態様において、ループは、眼の水晶体前嚢または水晶体後嚢に当てて配置するための底面と、底面に対向する上面とを有し、加熱要素は、ループの少なくとも上面に配置されるが、ループの底面に存在しない断熱層を更に含む。
【0011】
別の実施形態は、絶縁層が蒸着または他のコーティング方法によって加熱要素上に堆積され、および絶縁層がレーザ切除によってループの底面から除去される、方法を提供する。
【0012】
更に別の実施形態は、眼内での展開前に楕円形状を有するループであって、眼内での展開後に丸形状を有するループを提供する。
【0013】
更に別の実施形態は、管状挿入スリーブであって、管状挿入スリーブの遠位端部において面取りされており、かつ管状絶縁スリーブの遠位端部に互いに対向して配置された2つの切り欠きを更に含み、切り欠きの近位端部は、管状絶縁スリーブの遠位端部において上下非対称にずらされ、各切り欠きの上部分は、各切り欠きの底部分よりも更に遠位側に延びる、管状挿入スリーブを含む嚢切開装置を提供する。種々の実施形態のこれらおよび他の態様および使用について詳細な説明で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A-B】実施形態による嚢切開装置の2つの位置を図示する。
図2A-B】実施形態による、ループが部分的に格納された挿入スリーブの「鮫口」切り欠き構成を図示する。
図3A】実施形態による嚢切開装置の遠位部分の上面図である。
図3B】ループが挿入スリーブ内に部分的に格納される実施形態による嚢切開装置の遠位部分の上面図である。
図3C】実施形態による、「鮫口」切り欠き構成を図示する図3Bの挿入スリーブの側面図である。
図3D】ループが挿入スリーブ内に部分的に格納される実施形態による嚢切開装置の遠位部分の上面図である。
図3E】実施形態による、「鮫口」切り欠き構成を図示する図3Dの挿入スリーブの側面図である。
図4A-B】種々の実施形態による、挿入スリーブの側面図における「鮫口」切り欠き構成を図示し、図4Aは、挿入スリーブに対称に配置された「鮫口」切り欠きを示し、図4Bは、挿入スリーブに非対称に配置された「鮫口」切り欠きを示す。
図5】実施形態による、嚢の前部表面に位置決めされた嚢切開装置の側面図を図示する。
図6A-B】種々の実施形態による嚢切開装置に使用されるワイヤの代替構成を図示する。
図6C図6A〜Bに示すワイヤの代替構成を形成する方法の実施形態を示す。
図7A】種々の実施形態による嚢切開装置を図示する。
図7B】従来技術による嚢切開装置のループを示す。
図7C】実施形態による嚢切開装置のループを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の嚢切開装置を説明する前に、本開示は、説明される特定の実施形態に限定されるものではなく、当然ながら様々であり得ることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、単に特定の態様を説明するためのものにすぎず、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本開示の範囲を限定することを意図したものではないことを理解されたい。
【0016】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈上別段の明確な指示がない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。別段の定めがない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、本分野の当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0017】
値の範囲が提供される場合、その範囲の上限値と下限値との間の各介在値、およびその規定の範囲内の他の任意の規定値または介在値が本開示に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限値および下限値は、独立してそのより小さい範囲に含まれ得、具体的に除外される任意の限界値が規定の範囲内にある限り、やはり本開示に包含される。規定の範囲が上限値と下限値との両方を含む場合、これらの含まれる限界値のいずれかを除外した範囲も本開示に含まれる。
【0018】
以下の説明では、本開示のより詳細な理解を提供するために、多くの具体的な詳細が記載されている。しかしながら、本開示がこれらの具体的な詳細の1つまたは複数なしに実践され得ることは、本明細書を読むことで当業者に明らかになるであろう。他の場合、当業者に周知の特徴および手順は、本発明を不明瞭にすることを避けるために説明されていない。
【0019】
Mikhail Boukhnyにより2004年11月9日に出願された、「CAPSULARHEXIS DEVICE」という名称の米国特許出願公開第20060100617号明細書である米国特許出願公開第10/984,383号明細書は、あたかも本明細書に十分かつ完全に記載されているかのようにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0020】
Glenn SussmanおよびGuangyao Jiaにより2008年10月13日に出願された、「CAPSULARHEXIS DEVICE WITH FLEXIBLE HEATING ELEMENT」という名称の米国特許出願公開第2010/0094278号明細書である米国特許出願公開第12/249,982号明細書は、あたかも本明細書に十分かつ完全に記載されているかのようにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0021】
Guangyao JiaおよびGlenn Sussmanにより2009年6月に出願された、「CAPSULARHEXIS DEVICE WITH FLEXIBLE HEATING ELEMENT HAVING AN ANGLED TRANSITIONAL NECK」という名称の米国特許出願公開第20100312252号明細書である米国特許出願公開第13/477,175号明細書は、あたかも本明細書に十分かつ完全に記載されているかのようにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0022】
Guangyao JiaおよびGlenn Sussmanにより2010年4月5日に出願された、「CAPSULOTOMY REPAIR DEVICE AND METHOD FOR CAPSULOTOMY REPAIR」という名称の米国特許第8,814,854号明細書は、あたかも本明細書に十分かつ完全に記載されているかのようにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0023】
図1A〜Bは、嚢切開装置10の実施形態の平面図を示す。当業者であれば、図1A〜Bが、いくつかの他の添付図のように、原寸に比例したものではなく、種々の特徴をより明確に図示するためにいくつかの特徴が誇張されている場合があることを認識するであろう。また、当業者であれば、図示の構造が例示的なものにすぎず、限定的なものではないことも認識するであろう。いくつかの実施形態において、嚢切開装置10は、ループ23内における嚢36の一部分の剥離のために貫通切断部を生成するか、または弱化した境界線を画定するために、眼32の水晶体前嚢509および/または水晶体後嚢513(例えば、図5を参照されたい)に局所的な加熱を生じさせるために通電され得る抵抗加熱要素14を含む略円形の可撓性ループ23を含み得る。嚢切開装置10は、嚢切開術を施すために小切開部505を通して眼32の前房34内に位置決めされ得る。この処置は、例えば、白内障水晶体の水晶体超音波乳化吸引および人工眼内レンズ(IOL)の挿入を容易にし得る。
【0024】
図1Aに見られるように、種々の実施形態において、ループ23の加熱要素14は、挿入スリーブ19の中心線よりも下にループ23の平面をずらすようにずらし曲げ部を有する、例えば第1のワイヤ端部と第2のワイヤ端部とによって形成された移行ネック部21を含み得る。移行ネック部21を形成するワイヤ端部は、中心線から離れる方向に湾曲する。中心線から離れる方向への湾曲は、略平面のループ23が前嚢面および/または後嚢面に対してより平行に配置されることを可能にする。図5に見られるように、移行ネック部21におけるワイヤ端部は、後嚢面35に均一に接触するようにループ23を位置決めするために、略平面のループ23を嚢36の深さ33だけ変位させることができる。いくつかの実施形態において、ループ23の直径は、ループ23が前嚢切開術で使用されるかまたは後嚢切開術で使用されるかに応じて調節され得、後嚢切開術は、およそ4〜6mmの範囲の直径を有するループを使用し得る前嚢切開術よりも、例えばおよそ2〜4ミリメートル(mm)の範囲の小さい直径のループを使用し得る。他の直径も考慮される。更に、ループ23の移行ネック部21のずらし曲げ部の形状は、ループ23が後嚢切開術で使用されるかまたは前嚢切開術で使用されるかに基づいて調節され得る。いくつかの実施形態において、移行ネック部21は、およそ1〜2mmの長さ(絶縁部分17からループ23までの距離)を有し得るが、他の長さも考慮される。
【0025】
いくつかの実施形態によれば、ループ23の抵抗加熱要素14は、超弾性ワイヤから作製された少なくとも部分的に裸の抵抗加熱要素を含み得る。ワイヤ材料の超弾性と比較的高い電気抵抗とを組み合わせることにより、圧潰可能なリング状の略平面のループ23は、局所的な加熱による嚢切開術を施すように作られる。ループ23は、圧潰可能であるため、ループ23は、角膜511における小切開部505(例えば、約2mm)を通して眼32に容易に挿入される。切開部の他の大きさおよび位置も考慮される。
【0026】
いくつかの実施形態において、ループ23は、超弾性特性および形状記憶特性を示す、ニチノールなどのニッケルチタン合金から形成され得る。ループ23は、超弾性(この用語は、本明細書では技術的にやや正確な用語「擬弾性」の同意語として意図されている)を有するため、ループ23は、荷重が加わったときに相当量の変形に耐え、次いで荷重が除去されたときにループ23の元の形状に戻ることができる。(「形状記憶」とは、材料の変態温度よりも低い温度で変形される物体が変態温度よりも高い温度に温められたときに物体の前の形状に戻る、いくつかの材料により示される特性を指し、当業者であれば、超弾性が「形状記憶」に関連するが、「形状記憶」と異なることを認識するであろう。ニチノールは、両方の特性を示し、超弾性は、変態温度よりも高い温度において示される)。更に、ニチノールは、抵抗性を有し、したがって電流により加熱することができ、抵抗加熱要素14を形成するのに役立つ。当然ながら、当業者であれば、いくつかの実施形態において、抵抗性でありかつ超弾性である他の材料がニチノールの代わりに使用され得ることを認識するであろう。
【0027】
ループ23は、その超弾性特性のため、眼32の前房34への挿入のために圧潰され、前房34内での展開時にループ23の予め定められた形状を取り戻す。挿入スリーブ19内において格納位置にある圧潰されたループ23が図1Bに示されている。ループ23は、挿入スリーブ19内への格納時に圧潰可能であり、かつ挿入スリーブ19からの押し出しまたは展開時にループ23の元の形状に拡張可能である。
【0028】
抵抗加熱要素14の端部は、抵抗加熱要素14のワイヤが可撓性電気絶縁部分17により電気的に分離された状態に保たれるリード部を形成する。いくつかの実施形態において、絶縁部分17は、リード部の一部分を取り囲み得る。しかしながら、当業者であれば、ループ23に電流が流され得るように、ループ23から離れる方向に挿入スリーブ19内に延びる2つのリードが電気的に分離された状態に保たれ得るという条件で、いくつかの実施形態では、絶縁部分17が1つのリードのみを取り囲み得るか、またはいずれか一方もしくは両方のリードを部分的にのみ取り囲み得ることを認識するであろう。絶縁部分17は、ポリイミドまたはTeflon(商標)など、生体適合性および高温耐熱性を有する材料を含み得る。いくつかの実施形態において、絶縁部分17は、可撓性であり得る。
【0029】
いくつかの実施形態において、挿入スリーブ19は、絶縁部分17に摺動可能に係合する扁平管または円筒管を含む。本実施形態において、挿入スリーブ19は、絶縁部分17との滑り嵌めを形成する。挿入スリーブ19は、ループ23を収納するために使用され、ループ23は、嚢切開処置中に眼32内で展開され、かつループ23は、嚢切開処置後に挿入スリーブ19内に再び格納される。熱可塑性材料から作製され得る挿入スリーブ19は、ループ23の加熱要素14が加熱用電源に選択的に接続され得るように電気コネクタおよび/または接続線を収容する。いくつかの実施形態において、挿入スリーブ19、絶縁材料17、およびループ23は、電流を供給できるハンドピースまたは他の機器の使用中に選択的に接続できる使い捨てユニットを形成する。
【0030】
図2A〜Bは、挿入スリーブ19の遠位端部、すなわち眼に挿入される挿入スリーブ19の端部の構成を図示する。図2Aは、ループ23が部分的に格納された挿入スリーブ19の「鮫口」切り欠き構成を示す。切り欠き13の「鮫口」構成は、挿入スリーブ19の底部分13bの遠位端部が挿入スリーブ19の上部分13aの遠位端部と比較して凹んでおり、かつ切り欠き13の遠位表面が面取りされていることを示す。底部分13bの遠位端部が上部分13aの遠位端部から凹んでいる距離(図2Bに見られる距離13x)は、0.30〜1.00mmもしくは0.40〜0.80mm、または多くの実施形態では0.50〜0.70mmであり得る。他の距離13xも考慮される。切り欠き13は、挿入スリーブ19の底部分13bの遠位端部が挿入スリーブ19の上部分13aの遠位端部と比較して凹んでおり、切り欠き13の遠位表面が面取りされており、かつそのループ23を挿入スリーブ19から展開させかつ挿入スリーブ19内に格納できる限り、任意の構成を有することができる。図2Bは、切り欠き13の底部分13bの遠位端部から切り欠き13の近位端部までの測定された距離13yを示し、距離13yは、0.25〜0.75mmもしくは0.30〜0.60mm、または多くの実施形態では0.40〜0.50mmである。他の距離13yも考慮される。切り欠き13の「鮫口」構成(挿入スリーブ19の底部分13bの遠位端部が挿入スリーブ19の上部分13aの遠位端部と比較して凹んでいることと、切り欠き13の遠位表面が面取りされていることとの両方を包含する)は、挿入スリーブ19からの展開中および挿入スリーブ19からの格納中にループ23の最小限に抑えられた予測可能な動きを可能にする。図2Aに見られるように、ループ23の移行ネック部分21が挿入スリーブ19から展開されるかまたは挿入スリーブ19内に格納されるとき、ループ23が上向きに曲がり得、すなわちループ23の遠位部分が持ち上げられ得る。しかしながら、挿入スリーブ19の「鮫口」構成のため、ループ23の高さは、挿入スリーブの従来技術のバージョンと比較して低減され、これにより角膜との嚢切開装置の不慮の接触が防止される。
【0031】
図3A〜Eは、実施形態による挿入スリーブ19の種々の特徴を示す。図3Aは、抵抗加熱要素14と移行ネック部21の屈曲部15とを含む略平面のループ23と挿入スリーブ19とを示す、嚢切開装置の遠位部分の上面図である(挿入スリーブ19のこの上面図では、切り欠き13は確認できない)。図3Bは、ループ23が挿入スリーブ19内に部分的に格納された(この図では、挿入スリーブ19が透明なものとして示されている)嚢切開装置の遠位部分の上面図である。格納中にループ23が圧潰されるとき、ループ23は、ループ23の部分が互いに交差する23aように折り畳まれる。図3Cは、挿入スリーブ19が透明である図3Bの挿入スリーブ19の側面図を示す。図3Cは、挿入スリーブ19の「鮫口」切り欠き13構成を図示する。いくつかの実施形態において、「鮫口」切り欠き13構成は、切り欠き13の上部分13aの遠位端部と比較して凹んでいる切り欠き13の底部分13bの遠位端部を含む。いくつかの実施形態において、「鮫口」切り欠き13構成は、面取りされている切り欠き13の遠位表面を更に含む。更に、いくつかの実施形態において、「鮫口」切り欠き13構成は、ループ23の高さを含む。図3Dは、図3Bのように、ループが挿入スリーブ内に部分的に格納された嚢切開装置の遠位部分の上面図であるが、図3Dでは、格納中に挿入スリーブ19内へ圧潰されたループ23の部分は、図3Bに見られるような互いに交差するループ23の部分を示していない。すなわち、図3Dに挿入スリーブ19内に格納された状態で示されているループ23の部分は、互いに交差していない23b。図3Eは、「鮫口」切り欠き構成を図示する図3Dの挿入スリーブの側面図であるが、ループ23の部分が互いに交差しない23bという不具合の結果として、挿入スリーブ19内へのループ23の格納中にループ23が下がることがあり、これは、水晶体嚢とのループ23の不慮の接触の原因となり得る。
【0032】
ループ23が格納中に圧潰されたときにループ23の部分が(図3Bの23aなどで)互いに交差することを確実にする(したがって、ループ23が下がらないことを確実にする)ために、挿入スリーブ19の両側面の切り欠き13は、互いに上下方向のずれを有するように構成される。この特徴は、図4A〜Bに図示されている。図4A〜Bは、挿入スリーブの「鮫口」切り欠き構成を図示し、図4Aは、挿入スリーブ内に対称に配置されている、挿入スリーブ19の両側面の2つの「鮫口」切り欠き13cおよび13dを示し、結果として、挿入スリーブ19の側面から見たとき、切り欠き13cおよび13dが整合されている。切り欠き13cおよび13dのこの対称の構成は、挿入スリーブ19内に格納されたループ23の部分が互いに交差しない不具合の原因となり、更にはループ23の格納中にループ23が下がる原因となり得る(図3Eに見られる)。しかしながら、図4Bは、挿入スリーブ19内に配置される、互いに上下方向のずれを有する「鮫口」切り欠き13cおよび13dを示す(切り欠き13cが挿入スリーブ19の側面に見られ、切り欠き13dが目立った状態で見られる)。すなわち、「鮫口」切り欠き13cおよび13dは、挿入スリーブ19内に互いに対して上下非対称に位置決めされ、この位置決めにより、互いに交差するループ23の格納された部分(図3Cに見られる)が格納中にループ23の持ち上がりを生じさせる。したがって、いくつかの実施形態において、切り欠きの近位端部の上下方向のずれは、0.20〜0.60mmもしくは0.25〜0.50mm、または多くの実施形態では0.30〜0.40mmであり得る。他の上下方向のずれも考慮される。したがって、挿入スリーブ19の「鮫口」切り欠き構成の実施形態は、1)挿入スリーブ19の底部分13bの遠位端部が挿入スリーブ19の上部分13aの遠位端部と比較して凹んでいること(図1A図2A〜B、図3Cおよび図3Eに見られる)、2)切り欠き13の遠位表面が面取りされている(図1A図2A〜B、図3Cおよび図3Eに見られる)こと、ならびに3)切り欠き13cおよび13dの近位端部が挿入スリーブ19の遠位端部において互いに上下非対称にずらされること(図4Bに見られる)を包含する。
【0033】
図5は、眼の前嚢に位置決めされた嚢切開装置の実施形態の側面図を図示する。図5は、「鮫口」切り欠き13を有する挿入スリーブ19と、可撓性絶縁部分17と、移行ネック部21を有するループ23とを含む嚢切開装置の遠位端部を示す。また、図5には、眼32の前房34、眼32の水晶体後嚢513、眼32の水晶体前嚢509、角膜511、および(絶縁部分17が挿通される)挿入部505が見られる。
【0034】
嚢切開装置は、通常、白内障手術で使用される粘弾性材料の存在下で機能し得る。粘弾性材料は、熱エネルギーがループ表面の上部分(例えば、水晶体嚢に接触しないループの表面)を通して前房内へ急速に放散されることを防ぐための断熱材として機能する。装置の切断性能への粘弾性材料のばらつきの影響を排除するために、抵抗加熱要素14の上部分は、異なる眼科用粘弾性物質(OVD)または更には眼房水中でのループの温度を一定に保つのに十分に厚い断熱層(例えば、パリレン((ポリ)p−キシレン)ポリマーまたはTeflon(商標))でコーティングすることができる。断熱層のための他のコーティング材料も考慮される。図6Aに移ると、いくつかの実施形態では、ループ23付近の組織への潜在的な影響を低減するために、断熱層は、嚢切開処置中に嚢36に当てて配置され得る底面が剥き出しのままであり得るように、ループ23の少なくとも上面に配置され得る。いくつかの実施形態において、嚢切開装置は、局所的な焼灼により水晶体嚢を切断する。そのため、装置の切断性能は、ループ23の抵抗加熱要素14と水晶体嚢との間の伝熱状態に少なくとも部分的に依存することがある。そのような一実施形態の断面図が図6Aに示されており、この図は、部分的に断熱層55で取り囲まれた加熱要素14の断面を示す。いくつかの実施形態において、抵抗加熱要素14は、図6Bに示すように、正方形断面または矩形断面を有し得、この場合、断熱材55が抵抗加熱要素14の3つの側面に配置され得る。いずれの場合も、断熱材55は、ループ23の全周囲または実質的に全周囲の加熱要素14上に配置され得る。
【0035】
図6Cは、ループ23上に断熱層を堆積させる方法を示す。まず、加熱要素14は、例えば、蒸着により、例えばパリレン55aで全体がコーティングされ得る。次いで、コーティングステップ後、例えば、加熱要素14の切断表面を露出する加熱要素14の底側面からパリレン(55c)を取り除くが、加熱要素14の上表面をパリレン(55b)でコーティングされたままにするレーザ切除が続き得る。
【0036】
図7Aは、挿入スリーブ19、電気絶縁部分17、および移行ネック部21と、長さ703と、幅705とを有する略平面のループ23を有する嚢切開装置を図示する。図7Bは、ループ23が略丸形の構成を有する、すなわち長さ703および幅705が実質的に等しい、従来技術による嚢切開装置の略平面のループを示す。ループ23は、ニチノールまたは他の超弾性材料で作製されるが、ループ23は、依然として変形を受けやすく、ループ23が挿入スリーブ19内へ圧潰されたときに生じる歪みは、ループ23の元の円形状への完全な復帰のための限度を超えることがある。そのような変形により、ループ23の真円度、したがって嚢切開術の真円度が損なわれることがある。すなわち、円形ループは、格納位置でのループの変形によってループの長さ703がループの幅705を上回って概ね楕円形になり得る(例えば、図7Bの右側における結果として得られた変形したループを参照されたい)。ループの変形と嚢切開術の真円度への変形の影響とを低減するために、ループ23は、円形状ではなく、長さ703が幅705よりも小さい楕円形状に予め調整することができる。ループが挿入スリーブ内へ圧潰されたとき、永久変形は、幅705を短くする一方で長さ703を伸ばす傾向がある。その結果、ループを眼内の挿入スリーブから延出させると、予め調整された長さ703が増加し(すなわち更に長くなり)、かつ予め調整された幅705が所望の寸法まで減少する(短くなる)。したがって、楕円形ループ23は、眼内での展開前にループが挿入スリーブ内へ圧潰されたときに生じる変形を利用することにより、使用前に所望の円形状に再調整される。図7Cは、ループ23が楕円形構成を有する、すなわち眼内での展開前に長さ703が幅705よりも小さく、ループ23が展開時に円形状を有する(例えば、図7Cの右側の変形したループを参照されたい)、実施形態による嚢切開装置のループを示す。例えば、ニチノール製ループについて、例示的な実施形態では、寸法は、前嚢切開術での使用において長さ703が4.8mmであり、かつ幅705が5.0mmであり、および後嚢切開術での使用において長さ703が1.8mmであり、かつ幅705が1.9mmであり得る。長さおよび幅の他の寸法も考慮される。
【0037】
当業者により、提示された実施形態に対する種々の修正形態がなされ得る。例えば、実施形態のいくつかが嚢切開装置に関連して上で説明されているが、改良形態を他の熱切断用外科装置に対して適用することもできる。他の実施形態は、本明細書の検討および本明細書に開示した実施形態の実践から当業者に明らかであろう。本明細書および例は、単に例示的なものと見なされ、本開示の正確な範囲および趣旨は、以下の特許請求の範囲およびその均等物により示されることが意図されている。その上、原理、態様および実施形態、ならびにその具体例を列挙する本明細書における全ての記述は、その構造的均等物と機能的均等物との両方を包含するように意図されている。追加的に、このような均等物は、現在知られている均等物と将来開発される均等物との両方、すなわち構造にかかわらず同じ機能を果たす任意の開発された要素を含むことが意図されている。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図7A-7C】