特許第6959328号(P6959328)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッドの特許一覧

特許6959328フミン酸接合金属箔フィルム集電体ならびに同集電体を含有するバッテリーおよびスーパーキャパシタ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6959328
(24)【登録日】2021年10月11日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】フミン酸接合金属箔フィルム集電体ならびに同集電体を含有するバッテリーおよびスーパーキャパシタ
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20211021BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20211021BHJP
   H01G 11/68 20130101ALI20211021BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20211021BHJP
【FI】
   H01M4/66 A
   H01M10/052
   H01G11/68
   H01G11/84
【請求項の数】53
【全頁数】50
(21)【出願番号】特願2019-510304(P2019-510304)
(86)(22)【出願日】2017年2月21日
(65)【公表番号】特表2019-530949(P2019-530949A)
(43)【公表日】2019年10月24日
(86)【国際出願番号】US2017018708
(87)【国際公開番号】WO2018038764
(87)【国際公開日】20180301
【審査請求日】2019年11月27日
(31)【優先権主張番号】15/243,589
(32)【優先日】2016年8月22日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】15/243,606
(32)【優先日】2016年8月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【審査官】 上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−517274(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103641117(CN,A)
【文献】 特開2005−347608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/66
H01M 10/052
H01G 11/68
H01G 11/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリーまたはスーパーキャパシタにおいて使用するためのフミン酸接合金属箔集電体であって、当該フミン酸接合金属箔集電体が、
(a)1μm〜30μmの厚さおよび2つの対向した略平行な一次表面を有する薄金属箔と、
(b)フミン酸(HA)またはHAとグラフェンシートとの混合物の少なくとも1つの薄フィルムまたはそれから得られる高導電性黒鉛フィルムであって、HAまたはHA/グラフェン混合物の前記薄フィルムまたは前記黒鉛フィルムが、前記金属箔の前記2つの対向した一次表面の少なくとも1つに化学接合される、フミン酸(HA)またはHAとグラフェンシートとの混合物の少なくとも1つの薄フィルムまたはそれから得られる高導電性黒鉛フィルムとを含
HAまたはHA/グラフェン混合物の前記薄フィルムまたは前記黒鉛フィルムが5nm〜10μmの厚さ、0.01重量%〜10重量%の酸素含有量、1.3〜2.2g/cmの物理的密度、互いに略平行に且つ前記一次表面に平行に配向されている六方晶炭素面、六方晶炭素面間の0.335〜0.50nmの面間間隔、前記薄金属箔なしに単独で測定される時に250W/mKより大きい熱伝導率、および800S/cmより大きい電気導電率を有することを特徴とするフミン酸接合金属箔集電体。
【請求項2】
請求項1に記載の集電体において、前記2つの対向した一次表面のそれぞれがフミン酸またはHA/グラフェン混合物の前記薄フィルムまたは前記高導電性黒鉛フィルムと化学接合されることを特徴とする集電体。
【請求項3】
請求項1に記載の集電体において、HAまたはHA/グラフェンの前記薄フィルムまたは前記黒鉛フィルムが、結合剤または接着剤を使用せずに前記金属箔の前記2つの対向した一次表面の少なくとも1つに化学接合されることを特徴とする集電体。
【請求項4】
請求項1に記載の集電体において、HAまたはHA/グラフェンの前記薄フィルムまたは前記黒鉛フィルムが、結合剤または接着剤を使用して前記金属箔の前記2つの対向した一次表面の少なくとも1つに接合されることを特徴とする集電体。
【請求項5】
請求項4に記載の集電体において、前記結合剤または接着剤が、本質的導電性ポリマー、ピッチ、非晶質炭素、または炭化された樹脂から選択される電気導電材料であることを特徴とする集電体。
【請求項6】
請求項1に記載の集電体において、前記薄金属箔が4〜12μmの厚さを有し、フミン酸またはHA/グラフェン混合物の前記薄フィルムが20nm〜2μmの厚さを有することを特徴とする集電体。
【請求項7】
請求項1に記載の集電体において、前記少なくとも1つの一次表面が不動態化金属酸化物の層をその上に含有しないことを特徴とする集電体。
【請求項8】
請求項1に記載の集電体において、前記金属箔がCu、Ti、Ni、ステンレス鋼、Al箔、またはそれらの組合せから選択されることを特徴とする集電体。
【請求項9】
請求項1に記載の集電体において、前記薄フィルムまたは黒鉛フィルムが、1重量%〜5重量%の酸素含有量を有することを特徴とする集電体。
【請求項10】
請求項1に記載の集電体において、前記薄フィルムまたは黒鉛フィルムが、1%未満の酸素含有量、0.345nm未満の面間間隔、および3,000S/cm以上の電気導電率を有することを特徴とする集電体。
【請求項11】
請求項1に記載の集電体において、前記薄フィルムまたは黒鉛フィルムが、0.1%未満の酸素含有量、0.337nm未満の面間間隔、および5,000S/cm以上の電気導電率を有することを特徴とする集電体。
【請求項12】
請求項1に記載の集電体において、前記薄フィルムまたは黒鉛フィルムが、0.05%以下の酸素含有量、0.336nm未満の面間隔、0.7以下のモザイクスプレッド値、および8,000S/cm以上の電気導電率を有することを特徴とする集電体。
【請求項13】
請求項1に記載の集電体において、前記薄フィルムまたは黒鉛フィルムが、0.336nm未満の面間間隔、0.4以下のモザイクスプレッド値、および10,000S/cmより大きい電気導電率を有することを特徴とする集電体。
【請求項14】
請求項1に記載の集電体において、前記黒鉛フィルムが、0.337nm未満の面間隔および1.0未満のモザイクスプレッド値を示すことを特徴とする集電体。
【請求項15】
請求項1に記載の集電体において、前記黒鉛フィルムが、80%以上の黒鉛化度および/または0.4以下のモザイクスプレッド値を示すことを特徴とする集電体。
【請求項16】
請求項1に記載の集電体において、前記薄フィルムが、HAまたはHAとグラフェンシートとの混合物の懸濁液を配向制御応力の影響のもとで前記少なくとも1つの一次表面上に堆積させてHAまたはHAとグラフェンシートとの混合物の層を形成する工程と、次に前記層を80℃〜1,500℃の熱処理温度で熱処理する工程とによって得られることを特徴とする集電体。
【請求項17】
請求項16に記載の集電体において、前記熱処理温度が80℃〜500℃であることを特徴とする集電体。
【請求項18】
請求項16に記載の集電体において、前記熱処理温度が80℃〜200℃であることを特徴とする集電体。
【請求項19】
請求項1に記載の集電体において、前記薄フィルムが、化学接合したフミン酸分子または互いに平行である化学的同化したフミン酸およびグラフェン面を含有することを特徴とする集電体。
【請求項20】
請求項1に記載の集電体において、前記薄フィルムが、5cm以上の長さおよび1cm以上の幅を有する連続長フィルムであることを特徴とする集電体。
【請求項21】
請求項1に記載の集電体において、前記薄フィルムまたは黒鉛フィルムが、単独で測定されるとき、1.6g/cmより大きい物理的密度、および/または30MPaより大きい引張強さを有することを特徴とする集電体。
【請求項22】
請求項1に記載の集電体において、前記薄フィルムまたは黒鉛フィルムが、単独で測定されるとき、1.8g/cmより大きい物理的密度、および/または50MPaより大きい引張強さを有することを特徴とする集電体。
【請求項23】
請求項1に記載の集電体において、前記薄フィルムまたは黒鉛フィルムが、単独で測定されるとき、2.0g/cmより大きい物理的密度、および/または80MPaより大きい引張強さを有することを特徴とする集電体。
【請求項24】
アノード集電体および/またはカソード集電体として請求項1に記載の集電体を含有することを特徴とする再充電可能リチウムバッテリーまたはリチウムイオンバッテリー。
【請求項25】
アノード集電体またはカソード集電体として請求項1に記載の集電体を含有する再充電可能リチウムバッテリーにおいて、リチウム−硫黄セル、リチウム−セレンセル、リチウム硫黄/セレンセル、リチウム−空気セル、リチウム−グラフェンセル、またはリチウム−炭素セルであることを特徴とする再充電可能リチウムバッテリー。
【請求項26】
アノード集電体またはカソード集電体として請求項1に記載の集電体を含有するキャパシタにおいて、対称ウルトラキャパシタ、非対称ウルトラキャパシタセル、ハイブリッドスーパーキャパシタ−バッテリーセル、またはリチウムイオンキャパシタセルであることを特徴とするキャパシタ。
【請求項27】
バッテリーまたはスーパーキャパシタにおいて使用するための高配向フミン酸フィルム接合金属箔集電体を製造するための方法であって当該方法が、
(a)液体媒体中に分散されたフミン酸(HA)または化学的に官能化されたフミン酸(CHA)シートの分散体を調製する工程において、前記HAシートが5重量%より高い酸素含有量を含有するかまたは前記CHAシートが5重量%より高い非炭素元素含有量を含有する工程と、
(b)前記HAまたはCHA分散体を金属箔の少なくとも1つの一次表面上に分配および堆積させてHAまたはCHAの湿潤層を形成する工程において、前記分配および堆積手順が前記分散体を配向誘起応力に供する工程を包含する工程と、
(c)前記液体媒体をHAまたはCHAの前記湿潤層から部分的にまたは完全に除去して六方晶炭素面およびX線回折によって測定時に0.4nm〜1.3nmの面間間隔d002を有する乾燥されたHAまたはCHA層を形成する工程と、
(d)前記高配向フミン酸フィルム接合金属箔集電体を製造するために十分な時間の間前記乾燥されたHAまたはCHA層を80℃より高い第1の熱処理温度において熱処理する工程であって高配向フミン酸フィルムが、互いに略平行であると共に前記少なくとも1つの一次表面に化学接合し且つ平行である相互接続された、同化または熱還元されたHAまたはCHAシートを含有し、前高配向フミン酸フィルムが1.3g/cm以上の物理的密度、少なくとも250W/mKの熱伝導率、および/または500S/cm以上の電気導電率を有する工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法において、黒鉛フィルム接合金属箔集電体を製造するために十分な時間の間前記高配向フミン酸フィルム接合金属箔を前記第1の熱処理温度より高い第2の熱処理温度においてさらに熱処理する工程(e)であって、前記黒鉛フィルムが0.4nm未満の面間間隔d002および5重量%未満の酸素含有量または非炭素元素含有量を有する工程と、前記黒鉛フィルムを圧縮して、1.3g/cm以上の物理的密度、少なくとも500W/mKの熱伝導率、および/または1,000S/cm以上の電気導電率を有する高導電性黒鉛フィルムを製造する工程(f)とをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項27に記載の方法において、前記工程(d)の後に、同化または還元されたHAまたはCHAの前記高配向フミン酸フィルムを圧縮する工程をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項27に記載の方法において、前記HAまたはCHA分散体が、その中に分散されたグラフェンシートまたは分子をさらに含有し、HA対グラフェンまたはCHA対グラフェン重量比が1/100〜100/1であり、前記グラフェンが、純粋グラフェン、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、ホウ素ドープトグラフェン、窒素ドープトグラフェン、化学的に官能化されたグラフェン、またはそれらの組合せから選択されることを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項30に記載の方法において、同化または還元されたHAまたはCHAの前記高配向フミン酸フィルムを0.4nm未満の面間間隔d002および5重量%未満の酸素含有量または非炭素元素含有量を有する黒鉛フィルムを製造するために十分な時間の間前記第1の熱処理温度より高い第2の熱処理温度においてさらに熱処理する工程(e)と、前記黒鉛フィルムを圧縮して、1.6g/cm以上の物理的密度、少なくとも700W/mKの熱伝導率、および/または1,500S/cm以上の電気導電率を有する高導電性黒鉛フィルムを製造する工程(f)とをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項32】
請求項27に記載の方法において、前記HAまたはCHAシートが、前記液体媒体中に液晶相を形成するために十分な量であることを特徴とする方法。
【請求項33】
請求項27に記載の方法において、前記分散体が、液晶相の形成のための臨界体積分率(V)を超える前記液体媒体中に分散されたHAまたはCHAの第1の体積分率を含有し、前記分散体が濃縮されて、前記第1の体積分率よりも大きいHAまたはCHAの第2の体積分率に達し、HAまたはCHAシートの配向を改良することを特徴とする方法。
【請求項34】
請求項33に記載の方法において、前記第1の体積分率が、前記分散体中のHAまたはCHAの0.05重量%〜3.0重量%の重量分率に等しいことを特徴とする方法。
【請求項35】
請求項34に記載の方法において、前記分散体が前記工程(b)の前に濃縮されて、前記液体媒体中に分散されたHAまたはCHA3.0重量%超で15重量%未満を含有することを特徴とする方法。
【請求項36】
請求項27に記載の方法において、前記分散体が、前記液体媒体中に溶解されるかまたは前記HAまたはCHAに付着されるポリマーをさらに含有することを特徴とする方法。
【請求項37】
請求項27に記載の方法において、前記CHAが、ポリマー、SOH、COOH、NH、OH、R’CHOH、CHO、CN、COCl、ハリド、COSH、SH、COOR’、SR’、SiR’、Si(−−OR’−−)R’3−y、Si(−−O−−SiR’−−)OR’、R’’、Li、AlR’、Hg−−X、TlZおよびMg−−X(式中、yが3以下の整数であり、R’が水素、アルキル、アリール、シクロアルキル、またはアラルキル、シクロアリール、またはポリ(アルキルエーテル)であり、R’’がフルオロアルキル、フルオロアリール、フルオロシクロアルキル、フルオロアラルキルまたはシクロアリールであり、Xがハリドであり、Zがカルボキシレートまたはトリフルオロアセテート、またはそれらの組合せである)から選択される化学官能基を含有することを特徴とする方法。
【請求項38】
請求項30に記載の方法において、前記グラフェンシートが、ポリマー、SOH、COOH、NH、OH、R’CHOH、CHO、CN、COCl、ハリド、COSH、SH、COOR’、SR’、SiR’、Si(−−OR’−−)R’3−y、Si(−−O−−SiR’−−)OR’、R’’、Li、AlR’、Hg−−X、TlZおよびMg−−X(式中、yが3以下の整数であり、R’が水素、アルキル、アリール、シクロアルキル、またはアラルキル、シクロアリール、またはポリ(アルキルエーテル)であり、R’’がフルオロアルキル、フルオロアリール、フルオロシクロアルキル、フルオロアラルキルまたはシクロアリールであり、Xがハリドであり、Zがカルボキシレートまたはトリフルオロアセテート、またはそれらの組合せである)から選択される化学官能基を含有する化学的に官能化されたグラフェンを含有することを特徴とする方法。
【請求項39】
請求項28に記載の方法において、前記第2の熱処理温度が、面間間隔d002を0.36nm未満の値に減少させるための、および酸素含有量または非炭素元素含有量を0.1重量%未満に減少させるための十分な時間の間1,500℃より高いことを特徴とする方法。
【請求項40】
請求項27に記載の方法において、前記液体媒体が、水または水とアルコールとの混合物からなることを特徴とする方法。
【請求項41】
請求項27に記載の方法において、前記液体媒体が、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、アルコール、糖アルコール、ポリグリセロール、グリコールエーテル、アミン系溶媒、アミド系溶媒、アルキレンカーボネート、有機酸、または無機酸から選択される非水溶媒を含有することを特徴とする方法。
【請求項42】
ロール・ツー・ロール方法である請求項27に記載の方法において、前記工程(b)が、前記金属箔のシートをローラーから堆積領域に供給する工程と、HAまたはCHA分散体の層を金属箔の前記シートの少なくとも1つの一次表面上に堆積させて、HAまたはCHA分散体の前記湿潤層をその上に形成する工程と、前記HAまたはCHA分散体を乾燥させて、金属箔表面上に堆積された乾燥されたHAまたはCHA層を形成する工程と、前記HAまたはCHA層堆積金属箔シートをコレクターローラー上に集める工程とを包含することを特徴とする方法。
【請求項43】
請求項27に記載の方法において、前記第1の熱処理温度が100℃〜1,500℃の範囲の温度を含み、前記高配向フミン酸フィルムが2.0%未満の酸素含有量、0.35nm未満の面間間隔、1.6g/cm以上の物理的密度、少なくとも800W/mKの熱伝導率、および/または2,500S/cm以上の電気導電率を有することを特徴とする方法。
【請求項44】
請求項27に記載の方法において、前記第1の熱処理温度が1,500℃〜2,100℃の範囲の温度を含み、前記高配向フミン酸フィルムが1.0%未満の酸素含有量、0.345nm未満の面間間隔、少なくとも1,000W/mKの熱伝導率、および/または5,000S/cm以上の電気導電率を有することを特徴とする方法。
【請求項45】
請求項28に記載の方法において、前記第1のおよび/または第2の熱処理温度が2,100℃超の温度を含み、前記高導電性黒鉛フィルムが0.1%以下の酸素含有量、0.340nm未満のグラフェン間間隔、0.7以下のモザイクスプレッド値、少なくとも1,300W/mKの熱伝導率、および/または8,000S/cm以上の電気導電率を有することを特徴とする方法。
【請求項46】
請求項28に記載の方法において、前記第2の熱処理温度が2,500℃以上の温度を含み、前記高導電性黒鉛フィルムが0.336nm未満のグラフェン間間隔、0.4以下のモザイクスプレッド値、1,500W/mKより大きい熱伝導率、および/または10,000S/cmより大きい電気導電率を有することを特徴とする方法。
【請求項47】
請求項28に記載の方法において、前記高導電性黒鉛フィルムが80%以上の黒鉛化度および/または0.4未満のモザイクスプレッド値を示すことを特徴とする方法。
【請求項48】
請求項27に記載の方法において、前記HAまたはCHAシートが最大原長を有し、前記高配向フミン酸フィルムが前記最大原長より大きい長さを有するHAまたはCHAシートを含有することを特徴とする方法。
【請求項49】
請求項28に記載の方法において、前記高導電性黒鉛フィルムが、前記X線回折によって測定時に好ましい結晶配向を有する多結晶グラフェン構造物であることを特徴とする方法。
【請求項50】
請求項28または31に記載の方法において、熱処理の前記工程(e)が、HAまたはCHAシートが他のHAまたはCHAシートと、またはグラフェンシートと化学連結、同化、または化学接合して黒鉛構造物を形成する工程を包含することを特徴とする方法。
【請求項51】
請求項28に記載の方法において、前記高導電性黒鉛フィルムが、5,000S/cmより大きい電気導電率、800W/mKより大きい熱伝導率、1.9g/cmより大きい物理的密度、80MPaより大きい引張強さ、および/または60GPaより大きい弾性率を有することを特徴とする方法。
【請求項52】
請求項28に記載の方法において、前記高導電性黒鉛フィルムが、8,000S/cmより大きい電気導電率、1,200W/mKより大きい熱伝導率、2.0g/cmより大きい物理的密度、100MPaより大きい引張強さ、および/または80GPaより大きい弾性率を有することを特徴とする方法。
【請求項53】
請求項28に記載の方法において、前記高導電性黒鉛フィルムが12,000S/cmより大きい電気導電率、1,500W/mKより大きい熱伝導率、2.1g/cmより大きい物理的密度、120MPaより大きい引張強さ、および/または120GPaより大きい弾性率を有することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、それぞれ2016年8月22日に出願された米国特許出願第15/243589号および同第15/243606号に対する優先権を主張し、その内容を参照によって本願明細書に組み入れる。
【0002】
本発明は、リチウムバッテリーまたはスーパーキャパシタのための集電体を提供する。集電体は、高配向フミン酸の薄フィルムまたはフミン酸由来高導電性黒鉛フィルムが接合された金属箔である。
【背景技術】
【0003】
この特許出願は、リチウムセル(例えばリチウムイオンセル、リチウム−金属セル、またはリチウムイオンキャパシタ)、スーパーキャパシタ、非リチウムバッテリー(例えば亜鉛−空気セル、ニッケル金属水素化物バッテリー、ナトリウムイオンセル、およびマグネシウムイオンセル)、およびその他の電気化学エネルギー蓄積セルのアノード電極(アノード活物質層)またはカソード電極(カソード活物質層)と共に作用する集電体を目的としている。この出願は、アノード活物質層またはカソード活物質層自体の一部ではない。
【0004】
リチウム−金属セルには、従来のリチウム−金属再充電可能セル(例えばアノードとしてリチウム箔およびカソード活物質としてMnO粒子を使用する)、リチウム−空気セル(Li−Air)、リチウム−硫黄セル(Li−S)、および先端リチウム−グラフェンセル(カソード活物質としてグラフェンシートを使用する、Li−グラフェン)、リチウム−炭素ナノチューブセル(カソードとしてCNTを使用する、Li−CNT)、およびリチウム−ナノ炭素セル(カソードとしてナノ炭素繊維または他のナノ炭素材料を使用する、Li−C)が含まれる。アノードおよび/またはカソード活物質層は若干のリチウムを含有することができるか、またはセルの組立前または直後にプレリチウム化され得る。
【0005】
再充電可能リチウムイオン(Liイオン)、リチウム金属、リチウム−硫黄、およびLi金属−空気バッテリーは、電気車(EV)、ハイブリッド電気車(HEV)、および携帯用電子デバイス、例えばラップトップコンピュータおよび携帯電話のための有望な電源であると考えられる。金属元素としてのリチウムは、アノード活物質として任意の他の金属または金属をインターカレートした化合物(4,200mAh/gの比容量を有する、Li4.4Siを除く)と比較して最も高いリチウム貯蔵容量(3,861mAh/g)を有する。したがって、一般的には、Li金属バッテリー(リチウム金属アノードを有する)は、従来のリチウムイオンバッテリー(黒鉛アノードを有する)よりもかなり高いエネルギー密度を有する。
【0006】
伝統的に、再充電可能リチウム金属バッテリーは、リチウム金属アノードと結合される、カソード活物質として例えばTiS、MoS、MnO、CoO、およびVなどの比較的高い比容量を有する非リチウム化化合物を使用して製造された。バッテリーが放電されるとき、リチウムイオンはリチウム金属アノードからカソードに電解質を通して移動され、カソードはリチウム化された。残念なことに、充電および放電が繰り返される時に、リチウム金属は、内部短絡、熱暴走、および爆発を最終的にもたらす樹枝状結晶をアノードに形成した。この問題に関連した一連の事故の結果として、これらのタイプの二次バッテリーの製造は1990年代初頭に中止され、リチウムイオンバッテリーに取って代わられた。今でも、サイクル安定性および安全性の問題は依然として、EV、HEV、およびマイクロ電子デバイス用途のためのLi金属バッテリー(例えばリチウム−硫黄およびリチウム−遷移金属酸化物セル)のさらなる商品化を妨げる主要因となっている。
【0007】
先行のリチウム金属二次バッテリーの安全性についての前述の問題に刺激されて、リチウムイオン二次バッテリーの開発に至っているが、そこで高純度リチウム金属シートまたはフィルムはアノード活物質として炭質材料(例えば天然黒鉛粒子)によって置き代えられた。炭質材料は(例えばグラフェン面間のリチウムイオンまたは原子のインターカレーションによって)リチウムを吸収し、リチウムイオンバッテリー運転の再充電および放電段階それぞれの間にリチウムイオンを脱着する。炭質材料は第一に、リチウムをインターカレートし得る黒鉛を含んでもよく、得られた黒鉛層間化合物はLiとして表されてもよく、そこでxは典型的に1未満である(黒鉛の比容量は<372mAh/gである)。
【0008】
リチウムイオン(Liイオン)バッテリーは電気駆動車のための有望なエネルギー蓄積デバイスであるが、最新技術のLiイオンバッテリーは、コスト、安全性、および性能目標(例えば高い比エネルギー、高いエネルギー密度、良いサイクル安定性、および長いサイクル寿命)をまだ満たしていない。Liイオンセルは典型的に、炭素負極(アノード)に対して高い電位でLiを脱/再インターカレートする正極(カソード)としてリチウム遷移金属酸化物またはホスフェートを使用する。リチウム遷移金属酸化物またはホスフェート系カソード活物質の比容量は典型的に、140〜170mAh/gの範囲である。結果として、黒鉛アノードおよびリチウム遷移金属酸化物またはホスフェート系カソードを特徴とする市販のLiイオンセルの比エネルギー(質量エネルギー密度)は典型的に、120〜220Wh/kg、最も典型的に150〜200Wh/kgの範囲である。エネルギー密度(体積エネルギー密度)の相当する典型的な範囲は400〜550Wh/Lである。エネルギー密度は、高い充電−放電速度条件下でさらにもっと低い。これらの比エネルギー値は、バッテリー式の電気車が広く受け入れられる場合に必要とされる比エネルギー値の二分の一〜三分の一である。
【0009】
典型的なバッテリーセルは、(a)アノード集電体、(b)結合剤樹脂でアノード集電体に接合されたアノード電極(典型的にアノード活物質と、導電性充填剤と、結合剤樹脂構成成分とを含有するアノード活物質層とも称される)、(c)電解質/セパレーター、(d)カソード電極(典型的にカソード活物質と、導電性充填剤と、結合剤樹脂とを含有するカソード活物質層とも称される)、(e)結合剤樹脂でカソード電極に接合されたカソード集電体、(f)外部配線に接続される金属タブ、および(g)タブ以外の全ての他の構成成分の周りに巻き付けるケーシングから構成される。
【0010】
集電体、典型的にアルミニウム箔(カソード側)および銅箔(アノード側)は、リチウムイオンバッテリーの約15〜20重量%およびコストで10〜15%を占める。したがって、より薄めの、より軽い箔が好ましい。しかしながら、最新技術の集電体に関連したいくつかの主要な問題がある:
(a)簡単に折り目がついたり裂けたりするために、より薄めの箔は、いっそう費用がかかり作業するのがいっそう難しくなる傾向がある。(b)集電体は、電極の動作電位窓についてセル構成成分に対して電気化学的に安定していなければならない。実施において、主に電解質による集電体の継続的な腐食は、バッテリーの内部抵抗の漸増に至ることがあり、皮相容量の持続的低下をもたらすことがある。(c)金属集電体の酸化は、リチウムバッテリーの熱暴走に著しく寄与し得る強い発熱反応である。
【0011】
したがって、集電体は、バッテリーのコスト、重量、安全性、および性能のために極めて重要である。金属の代わりに、グラフェンまたはグラフェンでコートされた固体金属またはプラスチックは、以下に記載された参考文献に要約されるように、有望な集電体材料として考えられている:
1.Li Wang,Xiangming He,Jianjun Li,Jian Gao,Mou Fang,Guangyu Tian,Jianlong Wang,Shoushan Fan,“Graphene−coated plastic film as current collector for lithium/sulfur batteries”,J.Power Source,239(2013)623−627。
2.S.J.Richard Prabakar,Yun−Hwa Hwang,Eun Gyoung Bae,Dong Kyu Lee,Myoungho Pyo,“Graphene oxide as a corrosion inhibitor for the aluminum current collector in lithium ion batteries”,Carbon,52(2013)128−136。
3.Yang Li,et al.Chinese Patent Pub.No.CN 104600320 A(2015,05,06)。
4.Zhaoping Liu,et al(Ningbo Institute of Materials and Energy,China),WO 2012/151880 A1(Nov.15,2012)。
5.Gwon,H.;Kim,H−S;Lee,KE;Seo,D−H;Park,YC;Lee,Y−S;Ahn,BT;Kang,K“Flexible energy storage devices based on graphene paper”,Energy and Environmental Science.4(2011)1277−1283。
6.Ramesh C.Bhardwaj and Richard M.Mank,“Graphene current collectors in batteries for portable electronic devices”,US 20130095389 A1,Apr 18,2013。
【0012】
最近では、グラフェン集電体は3つの異なった形態になる:グラフェンでコートされた基材[参考文献1−4]、自立グラフェン紙[参考文献5]、および遷移金属(Ni、Cu)触媒による化学蒸着(CVD)と、その後の、金属エッチングとによって製造される単層グラフェンフィルム[参考文献6]。
【0013】
グラフェンでコートされた基材の作製において、酸化グラフェン(GO)または還元酸化グラフェン(RGO)の小さな分離シートまたはプレートリットを固体基材(例えばプラスチックフィルムまたはAl箔)上に噴霧堆積させる。グラフェン層において、構成要素は、結合剤樹脂、例えばPVDF[参考文献1、3および4]によって典型的に接合される分離されたグラフェンシート/プレートリット(典型的に長さ/幅0.5〜5μmおよび厚さ0.34〜30nm)である。単独グラフェンシート/プレートリットは(その0.5〜5μmの範囲内で)比較的高い電気導電率を有することができるが、得られたグラフェン−結合剤樹脂複合層は、電気導電率が比較的低い(典型的に<100S/cmおよびより典型的に<10S/cm)。さらに、結合剤樹脂を使用する別の目的は、グラフェン−結合剤複合層を基材(例えばCu箔)に接合することであり、これは、Cu箔とグラフェン−結合剤複合層との間に結合剤樹脂(接着剤)層があることを意味する。残念なことに、この結合剤樹脂層は電気絶縁性であり、結果として生じる有害作用は、これまでの研究者によって全く見落とされていると思われる。
【0014】
Prabakarら[参考文献2]は離散酸化グラフェンシートでコートされたアルミニウム箔を形成する際に結合剤樹脂を使用していないと思われるが、この酸化グラフェンでコートされたAl箔はそれ自体の問題を有する。酸化アルミニウム(Al)がアルミニウム箔の表面上にすぐに形成され、アセトンまたはアルコールによる清浄化は酸化アルミニウムまたはアルミナのこの不動態化層を除去することができないことは本技術分野に公知である。この酸化アルミニウム層は、電気および熱絶縁性であるだけでなく、実際には特定のタイプの電解質に耐性がない。例えば、最も一般的に使用されるリチウムイオンバッテリーの電解質は、有機溶媒に溶解させたLiPFである。この電解質中の微量のHOは、酸化アルミニウム層をすぐに分解してAl箔を腐食すると共に電解質を消費し続けるHF(高度に腐食性の酸)の形成を伴う一連の化学反応を引き起こすことができる。容量の減少は典型的に、200〜300充電−放電サイクルの後に極めて明白になる。
【0015】
自立グラフェン紙は典型的に、水中で懸濁されたGOまたはRGOシート/プレートリットの真空補助濾過によって作製される。自立紙において、構成要素は、一緒にゆるく重なり合う分離されたグラフェンシート/プレートリットである。また、単独グラフェンシート/プレートリットは(0.5〜5μmの範囲内で)比較的高い電気導電率を有することができるが、得られたグラフェン紙は、非常に低い電気導電率、例えば8,000S/mまたは80S/cmを有し[参考文献5]、それはCu箔の導電率(8×10S/cm)よりも4桁低い。
【0016】
グラフェンを製造するための最も一般的に使用される方法(すなわち化学酸化/インターカレーション方法)に伴なういくつかの主な問題がある:
(1)方法は、多量のいくつかの望ましくない化学物質、例えば硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウムまたは/および塩素酸ナトリウムを使用することを必要とする。
(2)熱剥離は高温(典型的に800〜1,050℃)を必要とし、したがって、高度にエネルギー集約的なプロセスである。
(3)この方法は、非常に時間のかかる、長たらしい洗浄および精製工程を必要とする。例えば、典型的に2.5kgの水を使用して洗浄して1グラムのGICを回収し、適切に処理される必要がある極めて多量の廃水を生じる。
(4)得られた生成物は、酸素含有量を低減させる追加的な化学還元処理を受けなければならない酸化グラフェン(GO)プレートリットである。典型的に還元後でも、GOプレートリットの電気導電率は、純粋グラフェンの電気導電率よりもずっと低いままである。さらに、還元手順はしばしば、例えばヒドラジンなどの毒性化学物質の利用を必要とする。
(5)さらに、排液後にフレーク上に保持されるインターカレーション溶液の量は、黒鉛フレーク100重量部当たり溶液20〜150重量部(pph)およびより典型的には約50〜120pphの範囲であってもよい。高温剥離する間、フレークによって保持される残留インターカレート種は分解して硫黄および亜硝酸化合物(例えば、NOおよびSO)の様々な種を生じるが、それらは望ましくない。廃液は、好ましくない環境影響を与えないために費用がかかる改善手順を必要とする。
【0017】
グラフェン製造のための触媒CVD法は、500〜800℃の温度の真空室中に炭化水素ガスを導入することを必要とする。これらの厳しい条件下で、炭化水素ガスは、遷移金属基材(NiまたはCu)によって触媒される分解反応によって分解される。次に、強酸を使用してCu/Ni基材を化学エッチングするが、それは環境に優しい手順ではない。プロセス全体は緩慢で、長たらしく、エネルギー集約的であり、得られたグラフェンは典型的に単一層グラフェンまたは数層グラフェンである(下にあるCu/Ni層が触媒としてのその有効性を失うので、最大5層まで)。
【0018】
Bhardwajら[参考文献6]は、複数のCVD−グラフェンフィルムを1μmまたは数μmの厚さに積み重ねることを提案した。しかしながら、これは、一緒に積み重ねられる数百または数千のフィルムを必要とする(各々のフィルムは典型的に厚さ0.34nm〜2nmである)。Bhardwajらは、「グラフェンは製造コストを低減し、および/またはバッテリーセルのエネルギー密度を増加させる場合がある」と主張するが、それらの請求の範囲を支持する実験データは提供されなかった。この請求の範囲とは反対に、CVDグラフェンは、費用がかかることで広く知られた方法であり、CVDグラフェンフィルムの単一層でさえも、同じ面積が与えられたとすると(例えば同じ5cm×5cm)CuまたはAl箔のシートよりもかなり費用がかかるであろう。Bhardwajらによって提案されるような数百または数千の単層または数層グラフェンフィルムの積層体は、Cu箔集電体よりも数百倍または数千倍費用がかかることを意味する。このコストは、法外に高い。さらに、積層体内の数百のCVDグラフェンフィルム間の高い接触抵抗およびCVDグラフェンの比較的低い導電率は、高い全内部抵抗をもたらし、より薄めのフィルム(10μmのCu箔に対して1μmのグラフェン積層体)を使用してセルの全重量および体積を低減する潜在的利益を全く無駄にする。データを全く含まないBhardwajらの特許出願[参考文献6]は概念論文以外の何者でもないと考えられる。
【0019】
上記の考察は、グラフェン強化またはグラフェン系集電体の全ての3つの形態はバッテリーまたはスーパーキャパシタにおいて使用するための性能および要求価格を満たさないことを明らかに示している。集電体として使用するための異なったタイプの材料が非常に必要とされている。
【0020】
本発明は、金属箔表面に化学接合される、フミン酸(HA)だけまたはグラフェンと組合せた高配向フィルムとここで称される新しいクラスの材料を目的としている。ここで使用されるグラフェンには、純粋グラフェン、酸化グラフェン、フッ化グラフェン、窒素化グラフェン、水素化グラフェン、ホウ素ドープトグラフェン、任意の他のタイプのドープトグラフェン、およびその他のタイプの化学的に官能化されたグラフェンが含まれる。全く予想外にそして重要なことに、HAまたはHA/グラフェン混合物のこの高配向フィルムは、高導電性黒鉛フィルムに熱的に変換され得る。
【0021】
フミン酸(HA)は土壌に一般的に見出される有機物であり、塩基(例えばKOH)を使用して土壌から抽出することができる。HAはまた、亜炭石炭の高度に酸化された別形態である、レオナルダイトと呼ばれる或るタイプの石炭から高収率で抽出することができる。レオナルダイトから抽出されたHAは、グラフェンのような分子中心(六方晶炭素構造物のSPコア)のエッジの周りに配置された多数の酸素化基(例えばカルボキシル基)を含有する。この材料は、天然黒鉛の強酸酸化によって製造される酸化グラフェン(GO)と少し似ている。HAは、5重量%〜42重量%の典型的な酸素含有量を有する(他の主な元素は炭素および水素である)。HAは、化学還元または熱還元の後、0.01重量%〜5重量%の酸素含有量を有する。本願における請求の範囲の定義のために、フミン酸(HA)は、0.01重量%〜42重量%の酸素含有量の全範囲を基準とする。還元フミン酸(RHA)は、0.01重量%〜5重量%の酸素含有量を有する特殊なタイプのHAである。
【0022】
フミン酸は、金属箔の表面と密着させられるとき、金属箔に化学接合され得ることを発見することは驚くべきことである。適切に整列されて一緒に充填されるとき、フミン酸分子が互いに化学的に連結して、より長い且つより幅が広いフミン酸シートを得ることができることを発見することはさらに驚くべきことである。また、これらのフミン酸分子は、存在している場合および適切に整列されて充填されるとき、グラフェンシートと化学的に連結または接合することができる。得られたフミン酸接合または黒鉛フィルム接合薄金属箔は電解質相溶性、非反応性、防食性、低接触抵抗、熱伝導性および電気導電性、極薄、および軽量であり、バッテリーまたはキャパシタがより高い出力電圧、より高いエネルギー密度、高レート能力、およびずっと長いサイクル寿命を与えることを可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、バッテリーまたはスーパーキャパシタにおいて使用するための高配向フミン酸接合金属箔集電体を提供する。また、本発明は、金属箔と金属箔の1つまたは2つの一次表面に接合されたフミン酸由来高導電性黒鉛フィルムとから構成される集電体を提供する。また、本発明は、これらの集電体を製造するための方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の集電体は、(a)1μm〜30μm(好ましくは4μm〜12μm)の厚さおよび2つの対向した略平行な一次表面を有する薄金属箔と、(b)金属箔の2つの対向した一次表面の少なくとも1つに化学接合されている高配向フミン酸(HA)またはHAとグラフェンシートとの混合物の少なくとも1つの薄フィルム(またはこの薄フィルムから得られる高導電性黒鉛フィルム)とを含む。HAまたはHA/グラフェン混合物の薄フィルムまたは得られた黒鉛フィルムは、10nm〜10μmの厚さ、0.01重量%〜10重量%の酸素含有量、1.3〜2.2g/cmの物理的密度、互いに略平行に且つ一次表面に平行に配向されている六方晶炭素面、六方晶炭素面間の0.335〜0.50nmの面間間隔、前記薄金属箔なしに単独で測定される時に250W/mKより大きい熱伝導率(より典型的には>500W/mK)、および800S/cmより大きい電気導電率(より典型的には>1,500S/cm)を有する。
【0025】
好ましくは、2つの対向した一次表面のそれぞれが、熱処理によって製造されるフミン酸またはHA/グラフェン混合物のこのような薄フィルムまたはこの薄フィルムから得られる黒鉛フィルムと化学接合される。また好ましくは、HAまたはHAおよびグラフェンの両方の薄フィルムの一方または両方(または得られた黒鉛フィルム)が、結合剤または接着剤を使用せずに金属箔の一方または両方の対向した一次表面に化学接合される。結合剤が使用される場合、この結合剤は、本質的導電性ポリマー、ピッチ、非晶質炭素、または炭化された樹脂(ポリマー炭素)から選択される電気導電材料である。好ましくは、薄金属箔は4〜12μmの厚さを有する。また好ましくは、フミン酸またはHA/グラフェン混合物の薄フィルムまたは黒鉛フィルムは20nm〜2μmの厚さを有する。
【0026】
集電体のために、好ましくは金属箔はCu、Ti、Ni、ステンレス鋼、Al箔、またはそれらの組合せから選択される。好ましくは、一次表面は不動態化金属酸化物の層をその上に含有しない(例えばAl箔表面上にアルミナ、Alを有さない)。
【0027】
好ましくは、HAまたはHA/グラフェン混合物の薄フィルムまたはそれから得られる黒鉛フィルムは1重量%〜5重量%の酸素含有量を有する。さらに好ましくは、薄フィルムまたはそれから得られる黒鉛フィルムは1%未満の酸素含有量、0.345nm未満の面間間隔、および3,000S/cm以上の電気導電率を有する。より好ましくは、薄フィルムまたはそれから得られる黒鉛フィルムは、0.1%未満の酸素含有量、0.337nm未満の面間間隔、および5,000S/cm以上の電気導電率を有する。よりいっそう好ましくは、薄フィルムまたはそれから得られる黒鉛フィルムは、0.05%以下の酸素含有量、0.336nm未満の面間間隔、0.7以下のモザイクスプレッド値、および8,000S/cm以上の電気導電率を有する。さらにより好ましくは、薄フィルムまたはそれから得られる黒鉛フィルムは、0.336nm未満の面間間隔、0.4以下のモザイクスプレッド値、および10,000S/cmより大きい電気導電率を有する。
【0028】
より好ましくは、HAまたはHA/グラフェン混合物の薄フィルムまたはそれから得られる黒鉛フィルムは0.337nm未満の面間間隔および1.0未満のモザイクスプレッド値を示す。最も好ましくは、薄フィルムeまたはそれから得られる黒鉛フィルムは80%以上の黒鉛化度および/または0.4以下のモザイクスプレッド値を示す。
【0029】
特定の実施形態において、HAまたはHA/グラフェン混合物の薄フィルムは、HAまたはHAとグラフェンシートとの混合物の懸濁液を配向制御応力の影響のもとで前記少なくとも1つの一次表面上に堆積させてHAまたはHAとグラフェンシートとの混合物の層を形成する工程と、次に前記層を80℃〜1,500℃の熱処理温度で熱処理する工程とによって得られる。より好ましくは、熱処理温度は80℃〜500℃でありおよびさらにより好ましくは80℃〜200℃である。
【0030】
図3(C)に示されるように、下にある集電体に接合されるHAまたはHA/グラフェンの高配向薄フィルムまたはそれから得られる黒鉛フィルムは典型的に、化学接合したフミン酸分子または化学的同化したフミン酸と、互いに平行であるグラフェン面とを含有する。好ましくは、薄フィルムは、5cm以上の長さおよび1cm以上の幅を有する連続長フィルムであり、この薄フィルムはロール・ツー・ロール方法によって製造される。
【0031】
好ましくは、HAまたはHA/グラフェン混合物の薄フィルムまたはそれから得られる黒鉛フィルムは、(金属箔が存在しない自立層として)単独で測定されるとき、1.6g/cm3より大きい物理的密度、および/または30MPaより大きい引張強さを有する。より好ましくは、薄フィルムまたはそれから得られる黒鉛フィルムは、単独で測定されるとき、1.8g/cm3より大きい物理的密度、および/または50MPaより大きい引張強さを有する。最も好ましくは、薄フィルムまたはそれから得られる黒鉛フィルムは、単独で測定されるとき、2.0g/cm3より大きい物理的密度、および/または80MPaより大きい引張強さを有する。
【0032】
また、本発明は、アノード集電体および/またはカソード集電体として本発明の集電体を含有する再充電可能リチウムバッテリーまたはリチウムイオンバッテリーを提供する。再充電可能リチウムバッテリーは、リチウム−硫黄セル、リチウム−セレンセル、リチウム硫黄/セレンセル、リチウム−空気セル、リチウム−グラフェンセル、またはリチウム−炭素セルであってもよい。
【0033】
また、本発明は、アノード集電体またはカソード集電体として本発明の集電体を含有するキャパシタを提供し、そのキャパシタは、対称ウルトラキャパシタ、非対称ウルトラキャパシタセル、ハイブリッドスーパーキャパシタ−バッテリーセル、またはリチウムイオンキャパシタセルである。
【0034】
また、本発明は、バッテリーまたはスーパーキャパシタにおいて使用するための高配向フミン酸フィルム接合金属箔集電体を製造するための方法を提供する。方法は、
(a)液体媒体中に分散されたフミン酸(HA)または化学的に官能化されたフミン酸(CHA)シートの分散体を調製する工程において、HAシートが5重量%より高い酸素含有量を含有するかまたはCHAシートが5重量%より高い非炭素元素含有量を含有する工程と、
(b)HAまたはCHA分散体を金属箔の少なくとも1つの一次表面上に分配および堆積させてHAまたはCHAの湿潤層を表面上に形成する工程において、分配および堆積手順が分散体を配向誘起応力に供する工程を包含する工程と、
(c)液体媒体をHAまたはCHAの湿潤層から部分的にまたは完全に除去して六方晶炭素面およびX線回折によって測定時に0.4nm〜1.3nmの面間間隔d002を有する乾燥されたHAまたはCHA層を形成する工程と、
(d)高配向フミン酸フィルム接合金属箔集電体を製造するために十分な時間の間、乾燥されたHAまたはCHA層を80℃より高い第1の熱処理温度において熱処理する工程においてフミン酸(fumic acid)フィルムが、互いに略平行であると共に一次表面に化学接合し且つ平行である相互接続された、同化または熱還元されたHAまたはCHAシートを含有し、フミン酸フィルムが、1.3g/cm以上の物理的密度、少なくとも250W/mKの熱伝導率、および/または500S/cm以上の電気導電率を有する工程とを含む。方法は、前記工程(d)の後に、同化または還元されたHAまたはCHAのフミン酸フィルムを圧縮する工程をさらに含んでもよい。
【0035】
方法は、付加的な工程(e)黒鉛フィルム接合金属箔集電体を製造するために十分な時間の間、フミン酸フィルム接合金属箔を第1の熱処理温度より高い第2の熱処理温度においてさらに熱処理する工程において、黒鉛フィルムが0.4nm未満の面間間隔d002および5重量%未満の酸素含有量または非炭素元素含有量を有する工程と、(f)黒鉛フィルムを圧縮して1.3g/cm以上の物理的密度、少なくとも500W/mKの熱伝導率、および/または1,000S/cm以上の電気導電率を有する高導電性黒鉛フィルムを製造する工程とを含んでもよい。高導電性黒鉛フィルムは好ましくは、5nm〜20μm、しかしより好ましくは10nm〜2μmの厚さを有する。
【0036】
HAまたはCHA分散体は、その中に分散されたグラフェンシートまたは分子をさらに含有してもよく、HA対グラフェンまたはCHA対グラフェン比は1/100〜100/1であり、そこでグラフェンが、純粋グラフェン、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、ホウ素ドープトグラフェン、窒素ドープトグラフェン、化学的に官能化されたグラフェン、またはそれらの組合せから選択される。方法は、付加的な工程(e)0.4nm未満の面間間隔d002および5重量%未満の酸素含有量または非炭素元素含有量を有する黒鉛フィルムを製造するために十分な時間の間、同化または還元されたHAまたはCHAのフミン酸フィルムを第1の熱処理温度より高い第2の熱処理温度においてさらに熱処理する工程と、工程(f)黒鉛フィルムを圧縮して1.6g/cm以上の物理的密度、少なくとも700W/mKの熱伝導率、および/または1,500S/cm以上の電気導電率を有する高導電性黒鉛フィルムを製造する工程とを包含してもよい。
【0037】
特定の実施形態において、HAまたはCHAシートは、液体媒体中に液晶相を形成するために十分な量である。好ましくは、分散体は、液晶相の形成のための臨界体積分率(V)を超える液体媒体中に分散されたHAまたはCHAの第1の体積分率を含有し、分散体は濃縮されて、第1の体積分率よりも大きいHAまたはCHAの第2の体積分率に達し、HAまたはCHAシートの配向を改良する。好ましくは、第1の体積分率は、分散体中のHAまたはCHAの0.05重量%〜3.0重量%の重量分率に等しい。分散体は、前記工程(b)の前に濃縮されて、液体媒体中に分散されたHAまたはCHA3.0重量%超で15重量%未満を含有するようにされてもよい。
【0038】
いくつかの実施形態において、分散体は、前記液体媒体中に溶解されるかまたはHAまたはCHAに付着されるポリマーをさらに含有する。
【0039】
CHAは、ポリマー、SOH、COOH、NH、OH、R’CHOH、CHO、CN、COCl、ハリド、COSH、SH、COOR’、SR’、SiR’、Si(−−OR’−−)R’−y、Si(−−O−−SiR’−−)OR’、R’’、Li、AlR’、Hg−−X、TlZおよびMg−−X(式中yは3以下の整数であり、R’は水素、アルキル、アリール、シクロアルキル、またはアラルキル、シクロアリール、またはポリ(アルキルエーテル)であり、R’’はフルオロアルキル、フルオロアリール、フルオロシクロアルキル、フルオロアラルキルまたはシクロアリールであり、Xはハリドであり、Zはカルボキシレートまたはトリフルオロアセテート、またはそれらの組合せである)から選択される化学官能基を含有してもよい。
【0040】
グラフェンシートは、存在している場合、ポリマー、SOH、COOH、NH、OH、R’CHOH、CHO、CN、COCl、ハリド、COSH、SH、COOR’、SR’、SiR’、Si(−−OR’−−)R’−y、Si(−−O−−SiR’−−)OR’、R’’、Li、AlR’、Hg−−X、TlZおよびMg−−X(式中yは3以下の整数であり、R’は水素、アルキル、アリール、シクロアルキル、またはアラルキル、シクロアリール、またはポリ(アルキルエーテル)であり、R’’はフルオロアルキル、フルオロアリール、フルオロシクロアルキル、フルオロアラルキルまたはシクロアリールであり、Xはハリドであり、Zはカルボキシレートまたはトリフルオロアセテート、またはそれらの組合せである)から選択される化学官能基を含有する化学的に官能化されたグラフェンを含有してもよい。
【0041】
好ましくは、液体媒体は、水または水とアルコールとの混合物からなる。あるいは、液体媒体は、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、アルコール、糖アルコール、ポリグリセロール、グリコールエーテル、アミン系溶媒、アミド系溶媒、アルキレンカーボネート、有機酸、または無機酸から選択される非水溶媒を含有する。
【0042】
第2の熱処理温度は、面間間隔d002を0.36nm未満の値に減少させるための、および酸素含有量または非炭素元素含有量を0.1重量%未満に減少させるための十分な時間の間1,500℃より高くてもよい。具体的には、第2の熱処理温度は1,500℃〜3,200℃であってもよい。
【0043】
方法は好ましくはロール・ツー・ロールまたはリール・ツー・リール法であり、そこで工程(b)は、金属箔のシートをローラーから堆積領域に供給する工程と、HAまたはCHA分散体の層を金属箔の少なくとも1つの一次表面上に堆積させてHAまたはCHA分散体の湿潤層をその上に形成する工程と、HAまたはCHA分散体を乾燥させて、金属箔表面上に堆積された乾燥されたHAまたはCHA層を形成する工程と、HAまたはCHA層堆積金属箔をコレクターローラー上に集める工程とを包含する。
【0044】
特定の実施形態において、第1の熱処理温度は100℃〜1,500℃の範囲の温度を含み、高配向フミン酸フィルムは、2.0%未満の酸素含有量、0.35nm未満の面間間隔、1.6g/cm以上の物理的密度、少なくとも800W/mKの熱伝導率、および/または2,500S/cm以上の電気導電率を有する。他の実施形態において、第1の熱処理温度は1,500℃〜2,100℃の範囲の温度を含み、高導電性黒鉛フィルムになる、高配向フミン酸フィルムは、1.0%未満の酸素含有量、0.345nm未満の面間間隔、少なくとも1,000W/mKの熱伝導率、および/または5,000S/cm以上の電気導電率を有する。
【0045】
いくつかの実施形態において、第1のおよび/または第2の熱処理温度は2,100℃超の温度を含み、高導電性黒鉛フィルムは、0.1%以下の酸素含有量、0.340nm未満のグラフェン間間隔、0.7以下のモザイクスプレッド値、少なくとも1,300W/mKの熱伝導率、および/または8,000S/cm以上の電気導電率を有する。第2の熱処理温度が2,500℃以上の温度を含む場合、高導電性黒鉛フィルムは、0.336nm未満のグラフェン間間隔、0.4以下のモザイクスプレッド値、1,500W/mKより大きい熱伝導率、および/または10,000S/cmより大きい電気導電率を有する。黒鉛化度は80%以上、およびモザイクスプレッド値は0.4未満である場合がある。
【0046】
典型的に、HAまたはCHAシートは最大原長を有し、高配向フミン酸フィルムは、最大原長より大きい長さを有するHAまたはCHAシートを含有する。これは、或るフミン酸分子がエッジからエッジまでの方法で他のHA分子と同化して平面分子またはシートの長さまたは幅を増加させることを意味する。熱処理の工程(e)は、HAまたはCHAシートが他のHAまたはCHAシートと、またはグラフェンシートと化学連結、同化、または化学接合して黒鉛構造物を形成する工程を包含する。高導電性黒鉛フィルムは、前記X線回折方法によって測定時に好ましい結晶配向を有する多結晶グラフェン構造物である。
【0047】
方法は典型的に、5,000S/cmより大きい電気導電率、800W/mKより大きい熱伝導率、1.9g/cm3より大きい物理的密度、80MPaより大きい引張強さ、および/または60GPaより大きい弾性率を有する高配向黒鉛フィルムの形成をもたらす。さらに典型的に、高配向黒鉛フィルムは、8,000S/cmより大きい電気導電率、1,200W/mKより大きい熱伝導率、2.0g/cm3より大きい物理的密度、100MPaより大きい引張強さ、および/または80GPaより大きい弾性率を有する。1,500℃より高い最終熱処理温度(第1または第2の熱処理温度)によって、高配向黒鉛フィルムは、12,000S/cmより大きい電気導電率、1,500W/mKより大きい熱伝導率、2.1g/cm3より大きい物理的密度、120MPaより大きい引張強さ、および/または120GPaより大きい弾性率を有する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1A図1(A)は、剥離黒鉛製品(可撓性黒鉛箔および可撓性黒鉛複合物)および熱分解黒鉛(下部分)を製造する様々な先行技術の方法を説明するフローチャートである。
図1B図1(B)は、単離されたグラフェンシートおよびグラフェン紙または膜の形態のグラフェンまたは酸化グラフェンシートの集合体を製造するための方法である。
図1C図1(C)は、単離されたグラフェンシートおよびグラフェン紙または膜の形態のグラフェンまたは酸化グラフェンシートの集合体を製造するための方法である。
図2図2は、可撓性黒鉛箔表面に平行ではない配向を有する多くの黒鉛フレークを示すと共にまた、多くの欠陥、よじれたまたは折れたフレークを示す、可撓性黒鉛箔の横断面のSEM画像である。
図3A図3(A)は、HA液晶由来HOGFのSEM画像であり、そこで複数の六方晶炭素面は、幅または長さ数十センチメートルになり得る連続長グラフェン状シートまたは層にシームレスに同化される(幅10cmのHOGFの幅50μmだけがこのSEM画像に示される)。
図3B図3(B)は、製紙プロセス(例えば真空補助濾過)を使用して離散還元酸化グラフェンシート/プレートリットから作製される従来のグラフェン紙の横断面のSEM画像である。画像は、折れるかまたは割り込まれている(統合されていない)多くの離散グラフェンシートを示し、配向がフィルム/紙表面に平行でなく、多くの欠陥または不完全部を有する。
図3C図3(C)は、一緒に化学的同化されて高秩序化および伝導性黒鉛フィルムを形成する高配向フミン酸分子のフィルムの略図である。
図4A図4(A)は、最終熱処理温度の関数としてプロットされるHA/GO由来HOGF、GO由来HOGF、HA由来HOGF、およびFG箔の熱伝導率の値である。
図4B図4(B)は、全てが最終HTTの関数としてプロットされる、HA/GO由来HOGF、HA由来HOGF、およびポリイミド由来HOPGの熱伝導率の値である。
図4C図4(C)は、最終熱処理温度の関数としてプロットされる、HA/GO由来HOGF、GO由来HOGF、HA由来HOGF、およびFG箔の電気導電率の値である。
図5A図5(A)は、X線回折によって測定されたHA由来HOGFのグラフェン面間間隔である。
図5B図5(B)は、HA由来HOGF中の酸素含有量である。
図5C図5(C)は、グラフェン間間隔と酸素含有量との間の相関関係である。
図5D図5(D)は、最終熱処理温度の関数としてプロットされるHA/GO由来HOGF、GO由来HOGF、HA由来HOGF、およびFG箔の熱伝導率の値である。
図6図6は、HA/GO懸濁液中のGOシートの比率の関数としてプロットされる、HOGF試料の熱伝導率である。
図7A図7(A)は、全てが最終熱処理温度の関数としてプロットされる、HA/GO由来HOGF、GO由来HOGF、HA由来HOGF、可撓性黒鉛箔、および還元酸化グラフェン紙の引張強さの値である。
図7B図7(B)は、最終熱処理温度の関数としてプロットされる、HA/GO由来HOGF、GO由来HOGF、およびHA由来HOGFの引張弾性率である。
図8図8は、3つのHA由来高配向フィルム、すなわち、ガラス表面から剥離されたHAフィルムを熱処理することによって得られた高配向フィルム、熱処理される間にTi表面に堆積されて接合された高配向フィルム、および熱処理される間にCu箔表面に堆積されて接合された高配向フィルムの熱伝導率である。
図9A図9(A)は、充電/放電サイクル数の関数としての3つのLi−Sセルそれぞれの放電容量値である。アノード集電体およびカソード集電体としてHA接合Cu箔およびHA接合Al箔をそれぞれ有する第1のセル;アノード集電体およびカソード集電体としてGO/樹脂でコートされたCu箔およびGOでコートされたAl箔(予備エッチングなし)をそれぞれ有する第2のセル(先行技術のセル);Cu箔アノード集電体およびAl箔カソード集電体を有する第3のセル(先行技術のセル)。
図9B図9(B)は、3つのセルのラゴーンプロットである。アノード集電体およびカソード集電体としてHA接合Cu箔およびHA接合Al箔をそれぞれ有する第1のセル、アノード集電体およびカソード集電体としてGO/樹脂でコートされたCu箔およびGOでコートされたAl箔(予備エッチングなし)をそれぞれ有する第2のセル(先行技術のセル)、Cu箔アノード集電体およびAl箔カソード集電体を有する第3のセル(先行技術のセル)。
図10図10は、3つのマグネシウム金属セルのセル容量値である。アノード集電体およびカソード集電体としてHA接合Cu箔およびHA接合Al箔をそれぞれ有する第1のセル、アノード集電体およびカソード集電体としてGO/樹脂でコートされたCu箔およびGOでコートされたAl箔(予備エッチングなし)をそれぞれ有する第2のセル(先行技術のセル)、Cu箔アノード集電体およびAl箔カソード集電体を有する第3のセル(先行技術のセル)。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明は、バッテリーまたはスーパーキャパシタ内で使用するために(例えば図1(C)において図解的に示されるような)フミン酸接合金属箔薄フィルム集電体を提供する。好ましい実施形態において、集電体は、(a)1μm〜30μmの厚さおよび2つの対向した略平行な一次表面を有する自立した、支持なしの薄金属箔(図1(C)の214)と、(b)(結合剤または接着剤を使用せずに)2つの対向した一次表面の少なくとも1つに化学接合したフミン酸(HA)またはHA/グラフェン混合物の薄フィルム212とを含む。図1(C)は単に、金属箔214の1つの一次表面がHAまたはHA/グラフェン混合物の薄フィルム212を接合されているのを示す。しかしながら、好ましくは、反対側の一次表面はまた、HAまたはHA/グラフェン混合物の薄フィルムを接合されている(図1(C)に示されない)。バッテリー/スーパーキャパシタを外部回路に電気的に接続するための電極端子として、金属タブ218は典型的に金属箔214に溶接またははんだ付けされる。
【0050】
図1(C)に図示されるように、本発明の好ましい実施形態は、HA接合金属箔集電体であり、そこで結合剤樹脂層または不動態化酸化アルミニウム層がHAまたはHA/グラフェン混合物Cu箔またはAl箔との間に存在していない。対照的に、図1(B)に図解的に示されるように、先行技術のグラフェンでコートされた金属箔集電体は典型的におよび必ず、グラフェン層(グラフェン−樹脂複合物)と金属箔(例えばCu箔)との間に結合剤樹脂層を必要とする。先行技術のグラフェンでコートされたAl箔[Prabakarら;参考文献2]の場合、不動態化酸化アルミニウム(アルミナ)層は、グラフェン層とAl金属箔との間に自然に存在している。これは、アルミニウム箔が、製造および室内の空気に暴露時に不動態化酸化アルミニウム層をAl箔の表面上に常に形成するという公知の事実による。アセトンまたはアルコールによる簡単な清浄化は、このアルミナ層を除去することができない。後の段落で説明されるように、結合剤樹脂または酸化アルミニウムの層の存在は、わずか1nmの薄さでも、グラフェン層と金属箔との間の接触抵抗を増加させることに非常に大きな効果を有する。我々によるこの驚くべき発見は全ての先行技術の研究者によって全く見落とされており、したがって、先行技術のグラフェンでコートされた金属箔は、リチウムバッテリーまたはスーパーキャパシタ集電体の性能および要求価格を満たしていない。
【0051】
フミン酸シートをCu、Ni、鋼、またはTi箔の一次表面と直接に接触させる非常に著しい且つ予想外の利点は、外部樹脂結合剤または接着剤を使用せずに(したがって、接触抵抗は劇的に増加しない)、本発明の加工条件下でHA分子はこれらの金属箔に十分に接合され得るという概念である。これらの加工条件には、HA(またはHAとグラフェンの混合物)分子またはシートを金属箔表面上に十分に整列する工程と、次に、2層構造物を80℃〜1,500℃の範囲(より典型的におよび望ましくは80℃〜500℃、および最も典型的におよび望ましくは80℃〜200℃の範囲)の温度で熱処理する工程とが含まれる。任意選択により、好ましくはないが、熱処理温度は1,500〜3,000℃もの高温であり得る(ただし、金属箔がこのような高温に耐え得ることを条件とする)。
【0052】
これらの加工条件には、アルミニウム箔をベースとした集電体の場合、好ましくは、HAでコートされて接合される前に不動態化酸化アルミニウム層を化学エッチングして除去する工程と、その後に、上述の同等の温度条件下で熱処理する工程とが含まれる。あるいは、HA分子は酸性状態で調製されてもよく、それは高い酸素含有量を有し、高い量の−OHおよび−COOH基を示し、5.0未満のpH値(好ましくは<3.0およびさらにより好ましくは<2.0)を有することを特徴とする。Al箔をHA溶液の浴中に浸漬させておいてもよく、そこで酸性環境が不動態化Al層を自然に除去する。Al箔が浴から現れるとき、HA分子またはシートが清浄な、エッチングされたAl箔表面に自然に付着し、開放空気へのAl箔表面の暴露を有効に防ぐ(したがって、不動態化Al層がなく、Al箔表面とHA層との間に付加的な接触抵抗がない)。この方法はこれまで決して開示または提案されていない。
【0053】
本発明のHA層の化学接合力およびHA溶液の化学エッチング力の他に、本発明のHA接合金属箔内の得られたHAまたはHA/グラフェン混合物の薄フィルムは、10nm〜10μmの厚さ、0.1重量%〜10重量%の酸素含有量、0.335〜0.50nmのグラフェン面間間隔、1.3〜2.2g/cmの物理的密度を有し、全てのHAおよびグラフェンシート(存在している場合)が互いに略平行に且つ一次表面に平行に配向され、薄金属箔なしに単独で測定される時に500W/mKより大きい熱伝導率、および/または1,500S/cmより大きい電気導電率を示す。HAまたはHA/グラフェンのこの薄フィルムは、化学的に不活性であり、下にある金属箔の腐食に対して非常に有効な保護層を提供する。
【0054】
ここで、図1(B)に図示されるような3層構造物の全抵抗(接触抵抗を含む)の大きさをさらに詳しく検討する。グラフェン層202(層1)内の電子はこの層内で動き回り、結合剤樹脂または不動態化アルミナ層206(層2)を横断し、次いで金属箔層204(層3)内で端子のタブ208に向かって移動しなければならない。簡潔にするために、グラフェン層の厚さ、結合剤/不動態化層の厚さ、および金属箔層の厚さにわたって移動する電子に対する全抵抗だけを考慮する。グラフェンまたは金属箔の両方の面内の方向の電子の移動は迅速であり、および低い抵抗であり、したがって、この抵抗は、身近な計算では無視される。
【0055】
導体のシート/フィルムの厚さ方向の抵抗は、R=(1/σ)(t/A)によって与えられ、式中、A=導体の横断面(長さ×幅)、t=導体の厚さ、σ=導電率=1/ρ、およびρ=抵抗率、材料定数である。結合剤または不動態化金属酸化物層を含有するグラフェンでコートされた集電体は、グラフェンフィルム、界面結合剤樹脂層(または不動態化アルミナ層)、および金属箔層が直列に電気接続された3層構造物(図1(B))と見なされてもよい。
【0056】
全抵抗は、3層の抵抗値の合計である:R=R+R+R=ρ(t/A)+ρ(t/A)+ρ(t/A)=(1/σ)(t/A)+(1/σ)(t/A)+(1/σ)(t/A)、式中、ρ=抵抗率、σ=導電率、t=厚さ、およびA=層の面積、ならびに、大体、A=A=Aである。走査電子顕微鏡検査は、結合剤樹脂または不動態化アルミナ層が典型的に厚さ5〜100nmであることを示す。最も一般的に使用される結合剤樹脂(PVDF)の抵抗率およびアルミナ(Al)の抵抗率は典型的に、1013〜1015ohm−cmの範囲である。A=A=A=1cmと考えると、グラフェン層の厚さ方向の抵抗率ρ=0.1ohm−cm、結合剤またはアルミナ層の抵抗率ρ=1×1014ohm−cmおよび金属箔層の抵抗率はρ=1.7×10−6ohm−cm(Cu箔)、またはρ=2.7×10−6ohm−cm(Al箔)である。また、CuまたはAl箔の厚さ=6μm、グラフェン層の厚さ=1μm、および結合剤樹脂層の厚さがわずか0.5nmである(実際にはそれは5nm〜100nmである)最適条件を考える。その場合には、3層構造物の全抵抗は5×10ohmであり、全導電率は1.4×10−10S/cmしかない(以下の表1の1番目のデータの行を参照)。結合剤樹脂層が厚さ10nmであると考える場合、3層構造物の全抵抗は1×10ohmであり、全導電率は7.0×10−12S/cmしかない(以下の表1の4番目のデータの行を参照)。高い内部抵抗は低出力電圧および高量の発生した内部熱を意味するので、このような3層複合構造物は、バッテリーまたはスーパーキャパシタのための良い集電体ではない。同様な結果は、Ni、Ti、およびステンレス鋼箔をベースとした集電体について観察された(表1のデータの7〜10行)。
【0057】
対照的に、結合剤樹脂またはアルミナ層がない場合(t=0)、本発明の集電体の場合のように、酸化グラフェン接合Cu箔の全抵抗は、(1μmの結合剤樹脂層を含有する3層構造物の1.0×10+7ohmに対して)1.0×10−5ohmの値を有する。以下の表2を参照のこと。これは、12桁の差を表わす(12倍ではない)!導電率は、相当する3層構造物の7.0×10−11S/cmとは対照的に、当該の2層構造物については7.0×10+1S/cmである。また、差は12桁である。さらに、本発明の酸化グラフェン接合金属箔集電体を特徴とするリチウムバッテリーおよびスーパーキャパシタは、先行技術のグラフェン系集電体と比較した時に容量の減少または腐食問題を伴わずにより高い電圧出力、より高いエネルギー密度、より高い出力密度、より安定な充電−放電(chare−discharge)サイクル応答を常に示し、より長持ちすることを我々は発見した。
【0058】
以下において、金属箔上にコートされる薄フィルム中の2つの主成分であるフミン酸とグラフェンの説明が記載される。
【0059】
バルク天然フレーク黒鉛は、各々の粒子が複数の結晶粒(結晶粒が黒鉛単結晶または微結晶である)から構成され、結晶粒界(非晶質または欠陥領域)は、隣接する黒鉛単結晶の境界を定める3次元黒鉛材料である。各々の結晶粒は、互いに平行に配向される複数のグラフェン面から構成される。黒鉛微結晶内のグラフェン面は、2次元の、六方格子を占める炭素原子から構成される。所与の結晶粒または単結晶において、グラフェン面は、(グラフェン面または基礎面に垂直な)c方向の結晶方位のファンデルワールス力によって積み重ねられて接合される。1つの結晶粒の全てのグラフェン面は互いに平行であるが、典型的に1つの結晶粒のグラフェン面と隣接した結晶粒のグラフェン面は配向が異なっている。換言すれば、黒鉛粒子の様々な結晶粒の配向は典型的に、結晶粒ごとに異なる。
【0060】
黒鉛単結晶(微結晶)それ自体は異方性であり、基礎面(a軸またはb軸結晶方向)の方向に沿って測定された性質はc軸結晶方向(厚さ方向)に沿って測定された性質とは劇的に異なっている。例えば、黒鉛単結晶の熱伝導率は、基礎面(a軸およびb軸結晶方向)において約1,920W/mKまで(理論値)または1,800W/mKまで(実験値)であり得るが、c軸結晶方向に沿う熱伝導率は10W/mK未満(典型的に5W/mK未満)である。さらに、黒鉛粒子の複数の結晶粒または微結晶は典型的に全て、異なった方向に配向される。したがって、異なった配向の複数の結晶粒から構成される天然黒鉛粒子は、これらの2つの極値の間の平均の性質を示す(すなわち典型的に<100W/mK)。
【0061】
面間ファンデルワールス力に打ち勝つことができるならば、黒鉛微結晶の構成グラフェン面(典型的に幅/長さ30nm〜2μm)は剥離されて黒鉛微結晶から抽出または単離され、炭素原子の単独グラフェンシートを得ることができる。六方晶炭素原子の単離された、単独グラフェンシートは一般的に単一層グラフェンと称される。0.3354nmのグラフェン面間間隔で厚さ方向にファンデルワールス力によって接合した複数のグラフェン面の積層体は一般的に複数層グラフェンと称される。複数層グラフェンプレートリットは、300層までのグラフェン面(厚さ<100nm)を有するが、より典型的には30までのグラフェン面(厚さ<10nm)、さらにより典型的に20までのグラフェン面(厚さ<7nm)、および最も典型的に10までのグラフェン面を有する(科学界において一般的に数層グラフェンと称される)。単一層グラフェンおよび複数層グラフェンシートは一括して「ナノグラフェンプレートリット」(NGP)と呼ばれる。グラフェンシート/プレートリットまたはNGPは、0次元フラーレン、1次元CNT、および3次元黒鉛からはっきり区別される新規なクラスの炭素ナノ材料(2次元ナノ炭素)である。
【0062】
我々の研究グループは、早くも2002年に純粋グラフェン材料、単離された酸化グラフェンシート、および関連製造プロセスの開発を始めた:(1)B.Z.Jang and W.C.Huang,“Nano−scaled Graphene Plates”,米国特許第7,071,258号明細書(07/04/2006)、2002年10月21日に提出された出願;(2)B.Z.Jang,et al.“Process for Producing Nano−scaled Graphene Plates”,米国特許出願第10/858,814号明細書(06/03/2004);および(3)B.Z.Jang,A.Zhamu,and J.Guo,“Process for Producing Nano−scaled Platelets and Nanocomposites”,米国特許出願第11/509,424号明細書(08/25/2006)。歴史的には、Brodieは、或る量の塩素酸カリウムを発煙硝酸中の黒鉛のスラリーに添加することによって1859年に酸化黒鉛の合成を最初に示した。1898年には、Staudenmaierは、濃硫酸ならびに発煙硝酸を使用する工程と反応の間に塩素酸塩を複数のアリコートで添加する工程とによってこの手順を改良した。手順のこの小さな変更によって、単一反応器内での高度に酸化された黒鉛の製造を著しくもっと実用的にした。1958年には、Hummersは今日最も一般的に使用される方法を報告した。黒鉛は、濃HSO中のKMnOおよびNaNOによる処理によって酸化される。しかしながら、これらの先行研究は、完全に剥離および分離された酸化グラフェンシートを単離および同定することができなかった。また、これらの研究は純粋な、酸化されていない単一層または複数層グラフェンシートの単離を開示することができなかった。
【0063】
実際の実施において(例えば図1(A)において図示されるように)、NGPは典型的に、天然黒鉛粒子100を強酸および/または酸化剤でインターカレートして黒鉛層間化合物102(GIC)または黒鉛酸化物(GO)を得ることによって得られる。グラフェン面間の格子空間における化学種または官能基の存在は、グラフェン間間隔(d002、X線回折によって測定される)を増加させるのに役立ち、それによってほかの場合ならグラフェン面をc軸方向に沿って保持するファンデルワールス力をかなり低減する。GICまたはGOは非常にしばしば、天然黒鉛粉末を硫酸、硝酸(酸化剤)、および別の酸化剤(例えば過マンガン酸カリウムまたは過塩素酸ナトリウム)の混合物中に浸漬することによって製造される。得られたGIC(102)は実際には或るタイプの黒鉛酸化物(GO)粒子である。次に、このGICまたはGOを繰り返して水中で洗浄およびすすぎ洗いして過剰な酸を除去して、黒鉛酸化物懸濁液または分散体をもたらし、それは、水中に分散された離散したおよび目視で識別できる黒鉛酸化物粒子を含有する。このすすぎ工程の後に続く2つの加工経路がある:
【0064】
経路1は、水を懸濁液から除去して、本質的に、乾燥させたGICまたは乾燥させた黒鉛酸化物粒子の塊である、「膨張性黒鉛」を得る工程を必要とする。膨張性黒鉛を典型的に800〜1,050℃の範囲の温度に約30秒〜2分間の間暴露したとき、GICは30〜300倍急速な体積膨張をして「黒鉛ワーム」(104)を形成するが、それらはそれぞれ、相互接続されたままである剥離した、しかしほとんど分離していない黒鉛フレークの集まりである。
【0065】
経路1において、これらの黒鉛ワーム(剥離黒鉛または「相互接続された/分離されていない黒鉛フレークの網目構造」)を再圧縮して、0.1mm(100μm)〜0.5mm(500μm)の範囲の厚さを典型的に有する可撓性黒鉛シートまたは箔(106)を得ることができる。代わりに、100nmよりも厚い主に黒鉛フレークまたはプレートリット(したがって、定義によってナノ材料ではない)を含有するいわゆる「膨張黒鉛フレーク」(108)を製造する目的のために低強度エアーミルまたは剪断機を使用して黒鉛ワームを単に破断することを選択してもよい。これらの膨張黒鉛フレークは紙状黒鉛マット(110)に製造されてもよい。
【0066】
剥離黒鉛ワーム、膨張黒鉛フレークの他、黒鉛ワームの再圧縮塊(可撓性黒鉛シートまたは可撓性黒鉛箔と一般的に称される)は全て、1次元ナノ炭素材料(CNTまたはCNF)または2次元ナノ炭素材料(グラフェンシートまたはプレートリット、NGP)のどちらとも根本的に異なり明らかに区別できる3次元黒鉛材料である。可撓性黒鉛(FG)箔はヒートスプレッダ材料として使用され得るが、典型的に500W/mK未満(より典型的に<300W/mK)の最大面内熱伝導率および1,500S/cm以下の面内電気導電率を示す。これらの低い導電率の値は、多くの欠陥、皺が寄ったまたは折れた黒鉛フレーク、黒鉛フレーク間の割り込みまたは間隙、および平行でないフレーク(例えば図2のSEM画像)の直接の結果である。多くのフレークは、非常に大きな角度で互いに対して傾斜している(例えば20〜40度の方位差)。
【0067】
経路1Bにおいて、剥離黒鉛を高強度機械的剪断に供して(例えばウルトラソニケーター、高剪断ミキサー、高強度エアジェットミル、または高エネルギーボールミルを使用して)、我々の米国特許出願第10/858,814号明細書に開示されるように、分離された単一層および複数層グラフェンシート(一括してNGPと呼ばれる、112)を形成する。単一層グラフェンはわずか0.34nmであり得るが、他方、複数層グラフェンは100nmまでの厚さを有することができるが、より典型的には20nm未満である。その場合には、グラフェンシートまたはプレートリットはグラフェン紙または膜(114)に製造されてもよい。
【0068】
経路2は、単独酸化グラフェンシートを黒鉛酸化物粒子から分離/単離する目的のために黒鉛酸化物懸濁液を超音波処理することを必要とする。これは、グラフェン面間分離が天然黒鉛の0.3354nmから高度に酸化された黒鉛酸化物の0.6〜1.1nmに増加しており、隣接する面を一緒に保持するファンデルワールス力を著しく弱めるという考えに基づいている。超音波出力は、グラフェン面シートをさらに分離して、分離された、単離された、または離散酸化グラフェン(GO)シートを形成するために十分であり得る。次に、これらの酸化グラフェンシートを化学的にまたは熱還元して、0.001重量%〜10重量%、より典型的に0.01重量%〜5重量%、最も典型的におよび好ましくは2重量%未満の酸素含有量を典型的に有する「還元酸化グラフェン」(RGO)を得ることができる。
【0069】
本出願の請求の範囲を定義する目的のために、NGPには、単一層および複数層純粋グラフェン、酸化グラフェン、または還元酸化グラフェン(RGO)の離散シート/プレートリットが含まれる。純粋グラフェンは本質的に0%の酸素を有する。RGOは典型的に、0.001重量%〜5重量%の酸素含有量を有する。酸化グラフェン(RGOを含める)は0.001重量%〜50重量%の酸素を有することができる。
【0070】
電子デバイスの熱管理用途について(例えばヒートシンク材料として)、(剥離黒鉛ワームを圧縮またはロールプレスすることによって得られた)可撓性黒鉛箔は、以下の主な欠陥を有することを指摘しておいてもよいだろう:(1)先に示したように、可撓性黒鉛(FG)箔は、比較的低い熱伝導率、典型的に<500W/mKおよびより典型的には<300W/mKを示す。剥離黒鉛を樹脂で含浸することによって、得られた複合物は、さらにより低い熱伝導率(典型的に<<200W/mK、より典型的には<100W/mK)を示す。(2)その中に含浸されるかまたはその上にコートされる樹脂を有さない可撓性黒鉛箔は、低い強度、低い剛性、および不十分な構造統合性を有する。可撓性黒鉛箔がばらばらになる傾向が高いことで、ヒートシンクを製造するプロセスにおいてそれらは取扱いが難しくなる。実際のところ、可撓性黒鉛シート(典型的に厚さ50〜200μm)は非常に「可撓性」であるので、それらは、フィンを有するヒートシンク用のフィン構成部品材料を製造するために十分に硬質ではない。(3)FG箔の非常に微妙な、一般に無視されるか見過ごされるが極めて重要な特徴は、それらがフレーク状になり、黒鉛フレークがFGシート表面から容易に落ちてマイクロ電子デバイスの他の部分に放出される傾向が高いことである。これらの高電気導電性フレーク(横方向寸法が典型的に1〜200μmおよび厚さが>100nm)は電子デバイスの内部短絡および故障を引き起こし得る。
【0071】
同様に、固体NGP(純粋グラフェン、GO、およびRGOの離散シート/プレートリットを含める)は、製紙方法を使用して不織集合体のフィルム、膜、または紙シート(114)に充填されるとき、これらのシート/プレートリットが最密充填され且つフィルム/膜/紙が極薄である(例えば<1μm、それは機械的に弱い)というのでなければ典型的に高い熱伝導率を示さない。これは、我々の先行の米国特許出願第11/784,606号明細書(2007年4月9日)に記載されている。しかしながら、極薄フィルムまたは紙シート(<10μm)は大量に製造するのが難しく、これらの薄フィルムをヒートシンク材料として混合しようとする時に取扱いが難しい。一般的には、グラフェン、GO、またはRGOのプレートリットから製造される紙状構造物またはマット(例えば真空補助濾過プロセスによって作製されるそれらの紙シート)は、多くの欠陥、皺が寄ったまたは折れたグラフェンシート、プレートリット間の割り込みまたは間隙、および平行でないプレートリット(例えば図3(B)のSEM画像)を示し、比較的不十分な熱伝導率、低い電気導電率および低い構造強度をもたらす。(樹脂結合剤を有さない)離散NGP、GOまたはRGOプレートリットだけのこれらの紙または集合体はまた、空中に導電性粒子を放出する、フレーク状になる傾向を有する。
【0072】
別の先行技術黒鉛材料は、典型的に100μmより薄い、熱分解黒鉛フィルムである。方法は、10〜36時間の間10〜15Kg/cmの典型的な圧力下で400〜500℃の炭化温度でポリマーフィルム(例えばポリイミド)を炭化させることから開始して、炭化材料を得て、それをその後に、1〜24時間の間100〜300Kg/cmの超高圧下で2,500〜3,200℃での黒鉛化処理を行ない、黒鉛フィルムを形成する。このような超高温でこのような超高圧を維持することは技術的に極めて難しい。これは困難な、緩慢な、長たらしい、エネルギー集約的であり、極端に費用がかかる方法である。さらに、10μmより薄いかまたは100μmより厚い熱分解黒鉛フィルムをポリイミドなどのポリマーから製造することは困難であった。この厚さ関連の問題は、適切な炭化および黒鉛化の必要とされる許容できるポリマー鎖の配向度および機械的強度をさらに維持しながら極薄(<10μm)および厚フィルム(>100μm)に形成する際のそれらの難しさのために、このクラスの材料には付きまとう。
【0073】
第2のタイプの熱分解黒鉛は、真空中で炭化水素ガスを高温分解する工程と、その後に、炭素原子を基材表面に堆積する工程とによって製造される。分解炭化水素のこの気相凝縮は本質的に化学蒸着(CVD)法である。特に、高配向熱分解黒鉛(HOPG)は、CVD堆積熱分解炭素を非常に高温(典型的に3,000〜3,300℃)で一軸圧力に供することによって製造された材料である。これは、組み合わせられ共存する、保護雰囲気中での長時間にわたる機械的圧縮と超高温の熱機械処理、非常に費用がかかる、エネルギー集約的な、時間のかかる、時間を浪費する、および技術的に極めて難しい方法を必要とする。方法は、作製に非常に費用がかかるだけでなく維持に非常に費用がかかり困難である(高真空、高圧、または高圧縮設備を有する)超高温装置を必要とする。このような極端な加工条件でも、得られたHOPGはさらに、多くの欠陥、結晶粒界、および誤配向(隣接するグラフェン面が互いに平行でない)を有し、満足のいかない面内特性をもたらす。典型的に、最良に調製されたHOPGシートまたはブロックは典型的に、多くの不完全に整列された結晶粒または結晶および膨大な量の結晶粒界および欠陥を含有する。
【0074】
同様に、NiまたはCu表面上の炭化水素ガス(例えばC)の触媒CVDによって調製される最も最近報告されたグラフェン薄フィルム(<2nm)は、単一結晶粒結晶ではなく、多くの結晶粒界および欠陥を有する多結晶性構造である。NiまたはCuが触媒である場合、800〜1,000℃で炭化水素ガス分子の分解によって得られた炭素原子はNiまたはCu箔表面上に堆積されて、多結晶性である単一層または数層グラフェンのシートを形成する。結晶粒は典型的に、サイズが100μmよりずっと小さく、より典型的には、サイズが10μmより小さい。これらのグラフェン薄フィルムは、光学透明且つ電気導電性であり、例えば(酸化インジウムスズまたはITOガラスに取って代わる)タッチスクリーンまたは(ケイ素、Siに取って代わる)半導体などの用途が意図される。さらに、NiまたはCu触媒によるCVD法は、それを超えると下にあるNiまたはCu触媒がもはや触媒効果を全く与えることができない5超のグラフェン面(典型的に<2nm)の堆積に適していない。5nmよりも厚いCVDグラフェン層が可能であることを示す実験的証拠はなかった。CVDグラフェンフィルムおよびHOPGの両方とも非常に費用がかかる。
【0075】
上記の考察は、グラフェンおよび黒鉛薄フィルムを製造するためのあらゆる先行技術の方法またはプロセスが主な欠陥を有することを明らかに示す。したがって、集電体に必須の性質(例えば電気導電率、熱伝導率、金属箔との接触抵抗)、強度、および所期のバッテリーまたはスーパーキャパシタの電解質との相溶性に関してグラフェンと同等のまたはよりすぐれた新しいクラスの炭素ナノ材料を有する必要に迫られている。また、これらの材料をより費用効果が高く、より速く、よりスケーラブル、およびより環境に優しい方法において製造することができなければならない。このような新規な炭素ナノ材料のための製造プロセスは、望ましくない化学物質の量の低減(またはこれらの化学物質を全て一緒に除去)、プロセス所要時間の短縮、エネルギー消費量の低下、望ましくない化学種の排水路への(例えば、硫酸)または空気中への(例えば、SOおよびNO)廃液の低減または除去を必要としなければならない。
【0076】
フミン酸(HA)は土壌に一般的に見出される有機物であり、塩基(例えばKOH)を使用して土壌から抽出することができる。HAはまた、亜炭石炭の高度に酸化された別形態である、レオナルダイトと呼ばれる或るタイプの石炭から抽出することができる。レオナルダイトから抽出されたHAは、グラフェンのような分子中心(六方晶炭素構造物のSPコア)のエッジの周りに配置された多数の酸素化基(例えばカルボキシル基)を含有する。この材料は、天然黒鉛の強酸酸化によって製造される酸化グラフェン(GO)と少し似ている。HAは、5重量%〜42重量%の典型的な酸素含有量を有する(他の主な元素は炭素、水素、および窒素である)。キノン、フェノール、カテコールおよび糖部分などの様々な成分を有するフミン酸の分子構造の例は、以下の図式1に示される(情報源:Stevenson F.J.“Humus Chemistry:Genesis,Composition,Reactions,”John Wiley&Sons,New York 1994)。
【0077】
フミン酸のための非水溶媒には、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、アルコール、糖アルコール、ポリグリセロール、グリコールエーテル、アミン系溶媒、アミド系溶媒、アルキレンカーボネート、有機酸、または無機酸が含まれる。
【0078】
また、本発明は、2nm〜30μm(より典型的にはおよび好ましくは5nm〜10μm、さらにより典型的には10nm〜2μm)の厚さおよび1.3g/cm以上(2.2g/cmまで)の物理的密度を有する高配向フミン酸フィルム(外部から添加されるグラフェンシートの有無にかかわらない)およびフミン酸由来黒鉛フィルムを製造するための方法を提供する。このフィルムは金属箔表面に化学接合される。特定の実施形態において、方法は、
(a)HAまたはCHAシートが液体媒体中に分散されたフミン酸(HA)または化学的に官能化されたフミン酸(CHA)の分散体を調製する工程において、HAシートが5重量%より高い酸素含有量を含有するかまたはCHAシートが5重量%より高い非炭素元素含有量を含有する工程。(特定の好ましい実施形態において、HAまたはCHA分散体が、その中に分散されたグラフェンシートまたは分子をさらに含有し、HA対グラフェンまたはCHA対グラフェン比が1/100〜100/1である。これらのグラフェンシートは、純粋グラフェン、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、ホウ素ドープトグラフェン、窒素ドープトグラフェン、化学的に官能化されたグラフェン、またはそれらの組合せから選択されてもよい。)
(b)HAまたはCHA分散体を金属箔の少なくとも1つの一次表面上に分配および堆積させて(例えばCu箔)HAまたはCHAの湿潤層を形成する工程において、分配および堆積手順が分散体を配向誘起応力に供する工程。(典型的には剪断応力を含むこの配向制御応力は、HA/CHAシート(またはシート状分子)およびグラフェンシート(存在している場合)が金属箔基材表面(例えばCu箔)の平面方向に沿って整列されることを可能にする。HA/CHAおよびグラフェンシートの適切な整列は、後続の熱処理中に2つまたは複数のHA/CHAシートの間、またはHA/CHAシートとグラフェンシートとの間の化学連結または同化に必須である。)
(c)液体媒体をHAまたはCHAの湿潤層から部分的にまたは完全に除去して六方晶炭素面およびX線回折によって測定時に0.4nm〜1.3nmの面間間隔d002を有する乾燥されたHAまたはCHA層を形成する工程、および
(d)互いに略平行である相互接続されたまたは同化されたHAまたはCHAシートを含有する高配向フミン酸フィルムを製造するために十分な時間の間80℃より高い第1の熱処理温度において、乾燥されたHAまたはCHA層を熱処理する工程を含む。また、フミン酸フィルムは金属箔表面に化学接合される。また、これらのHA/CHAシートは典型的に、熱還元された。還元されたHAまたはCHAのこの高配向フミン酸フィルムは、金属箔に相対して圧縮させる付加的な工程に供せられてもよい。
【0079】
方法(圧縮させる工程の有無にかかわらない)は、付加的な工程(e)0.4nm未満の面間間隔d002および5重量%未満の酸素含有量または非炭素元素含有量を有する黒鉛フィルムを製造するために十分な時間の間第1の熱処理温度より高い第2の熱処理温度において、同化および還元されたHAまたはCHAのフミン酸フィルムをさらに熱処理する工程、および(f)黒鉛フィルムを(例えばCu箔に相対して)圧縮させて、金属箔に接合された高導電性黒鉛フィルムを製造する工程を含むことができる。
【0080】
実施形態において、工程(e)は、面間間隔d002を0.3354nm〜0.36nmの値に減少させるための、および酸素含有量または非炭素含有量を0.5重量%未満に減少させるための十分な時間の間第1の熱処理温度より高い第2の熱処理温度において(典型的に>300℃)高配向フミン酸フィルムを熱処理する工程を包含する。好ましい実施形態において、第2の(または最終)熱処理温度には、(A)100〜300℃、(B)300〜1,500℃、(C)1,500〜2,500℃、および/または(D)2,500〜3,200℃から選択される少なくとも温度が含まれる。好ましくは、第2の熱処理温度には、少なくとも1時間の間300〜1,500℃の範囲の温度そして次に少なくともさらに1時間の間1,500〜3,200℃の範囲の温度が含まれる。
【0081】
典型的に、第1および第2の熱処理温度が両方とも1,500℃未満である場合、高配向フミン酸(HOHA)フィルムはまだ、フミン酸分子に特徴的である平面分子を含有する。高配向フミン酸(HOHA)フィルムは、HA/CHAまたは組み合わせられたHA/CHA−グラフェン面である、化学接合したおよび同化した六方晶炭素面を含有する。これらの面(少量の酸素含有基を有する六方晶構造炭素原子)は互いに平行である。
【0082】
このHOHAフィルムは、十分な時間の間1,500℃以上の熱処理温度(HTT)に暴露される場合、典型的に一切の有意量のフミン酸分子をもはや含有せず、本質的に全てのHA/CHAシート/分子は、互いに平行であるグラフェン状または酸化グラフェン状六方晶炭素面に変換された。これらの面の横方向寸法(長さまたは幅)は非常に大きく、出発HA/CHAシートの最大寸法(長さ/幅)よりも典型的に数倍またはさらに数桁も大きい。本発明のHOHAは、全ての構成グラフェン状面が本質的に互いに平行である本質的に「巨大六方晶炭素結晶」または「巨大平面グラフェン状層」である。これは、これまで発見されたり、開発されたり、おそらく存在することが示唆されていない独自で新規なクラスの材料である。
【0083】
配向HA/CHA層(>1,500℃のHTTを有さないHOHAフィルム)はそれ自体、大きな凝集力(自己接合、自己重合、および自己架橋能力)を驚くべきことに有する非常に独特且つ新規なクラスの材料である。これらの特性は、先行技術に以前に教示も示唆もされていない。
【0084】
上のパラグラフは、HA接合またはHA/グラフェン混合物接合金属フィルムを2層または3層積層体として熱処理することによって得られるタイプの集電体を説明するために書かれた。HAまたはHA/グラフェン層は金属箔から剥離されず、(金属箔なしに)単独で熱処理された。得られた集電体は結合剤樹脂または接着剤を含有しない。このタイプは本明細書においてタイプ−A集電体と称される。このタイプの集電体は、下にある金属箔の融点に近い最高温度まで熱処理され得る。しかしながら、特定の金属箔(例えばCu、Ti、および鋼)は、HAシートの間またはHAとグラフェンとの間の化学連結を触媒することができると思われ、より大きなHA/グラフェンドメインを形成することができ、欠陥を減らすことができると共に、より高い熱伝導率および電気導電率の他、もっとより高い熱処理温度を用いずに他の場合なら達成できないであろう構造統合性をもたらす。
【0085】
タイプ−B集電体の作製は以下の2つのパラグラフにおいて説明される:
代わりに、(a)から(d)または(e)までの上記の手順は、HAまたはHA/グラフェン混合物の分散体をプラスチックフィルムまたはガラス表面上に堆積させることによって行なうことができ、液体の除去時に、得られた乾燥フィルムはプラスチックフィルムまたはガラスから剥離され、その後にフィルムは任意の所望の温度で熱処理されるようにする。次に、自立フィルムとして、高配向HAフィルム(80〜1,500℃の温度で熱処理後)または得られた黒鉛フィルム(1,500〜3,200℃の温度で熱処理後)は、結合剤樹脂または接着剤を使用して金属箔(例えばCuまたはAl箔)の一次表面の一方または両方に接合される。タイプ−A集電体(そこで高配向HAフィルムまたはそれから得られる高導電性黒鉛フィルムは、HAまたはHA/グラフェンの薄フィルムを金属箔の表面に直接に堆積させる工程と、結合剤を使用せずにこの表面に化学接合する工程とによって調製される)と比較して、このようなタイプ−B集電体(同等の最終熱処理温度において得られる)は、バッテリーまたはスーパーキャパシタ内の実際の液体電解質環境において、より低い面内熱伝導率、より低い面内電気導電率、層間のより高い接触抵抗、およびより低い耐久性(いっそう容易に剥離される)を有する。
【0086】
これらの問題を部分的に緩和するために、典型的な結合剤樹脂(リチウムバッテリーおよびスーパーキャパシタ産業において一般的に使用される、例えばPVDF、SBR等。)よりも導電性である結合剤材料を使用することを我々は選択する。これらには、本質的導電性ポリマー(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等々)、ピッチ(例えば等方性ピッチ、メソフェーズピッチ等々)、非晶質炭素(例えば化学気相浸透による)、または炭化された樹脂(自立黒鉛層が金属箔に接合された後に集電体を熱処理し、樹脂結合剤(resing binder)を炭素結合剤に in situ変換する)が含まれる。
【0087】
以下の説明はタイプ−Aおよびタイプ−B集電体の両方についてである。
【0088】
工程(a)は、(例えば20重量%〜47重量%の間、好ましくは30%〜47%の間の酸素含有量を有する)HA/CHAシートのエッジにおよび/または面上に有意量の−OHおよび/または−COOH基を含有する特定のHAまたはCHA分子のための、水または水とアルコールとの混合物であり得る液体媒体中にHA/CHAシートまたは分子を分散させる工程を必要とする。
【0089】
HA/CHAの体積分率または重量分率が閾値を超えるとき、得られた分散体は、液晶相を含有することが見出される。好ましくは、HA/CHA懸濁液(分散体)は、工程(b)の前に液晶相の形成のために臨界または閾体積分率を超えるHA/CHAシートの初期体積分率を含有する。このような臨界体積分率は典型的に、分散体中にHA/CHAシート0.2重量%〜5.0重量%の範囲のHA/CHA重量分率に等しいことを我々は観察した。しかしながら、このような広範な低いHA/CHA含有量は、キャスティングおよびコーティングなどのスケーラブルな方法を使用して所望の薄フィルムを特に形成しやすいというわけではない。大規模および/または自動化キャスティングまたはコーティングシステムは容易に利用可能であるので、キャスティングまたはコーティングによって薄フィルムを製造できることは非常に有利で望ましく、方法は、一貫して高い品質を有するポリマー薄フィルムの製造のために信頼性が高い。したがって、HA/CHAをベースとした液晶相を含有する分散体からキャストまたはコートするための適性の綿密且つ広範な調査を我々は実施し続けた。分散体を濃縮させてHA/CHAシート0.2重量%〜5.0重量%の範囲から4重量%〜16重量%の範囲にHA/CHA含有量を増加させることによって、薄いグラフェンフィルムの大規模生産に非常に適している分散体が得られることを我々は発見した。最も重要なことにそして全く予想外に、液晶相は単に維持されるのではなく、しばしば強められ、キャスティングまたはコーティング手順の間にHA/CHAシートが好ましい向きに沿って配向されることをいっそう容易にする。特に、HA/CHAシート4重量%〜16重量%を含有する液晶状態のHA/CHAシートは、一般的に使用されるキャスティングまたはコーティング方法によって生じた剪断応力の影響のもとで容易に配向される最も高い傾向を有する。
【0090】
したがって、工程(b)において、HA/CHA懸濁液は、好ましくは、層流を促進する剪断応力の影響のもとで、薄フィルム層に形成される。このような剪断手順の一例は、スロットダイコーティング機を使用してHA/CHA懸濁液の薄フィルムをキャストまたはコートすることである。この手順は、固体基材上にコートされるポリマー溶液の層に似ている。フィルムが造形される時または十分に高い相対運動速度においてローラー/ブレード/ワイパーと支持基材との間に相対運動がある時にローラー、「ドクターブレード」、またはワイパーは剪断応力を生じる。きわめて予想外にそして重要なことに、このような剪断作用によって、平面HA/CHAシートを例えば、剪断方向に沿って十分に整列させることができる。さらに驚くべきことに、HA/CHA懸濁液中の液体成分をその後に除去して少なくとも部分的に乾燥される高整列HA/CHAシートの十分に充填された層を形成する時にこのような分子整列状態または好ましい配向は破損されない。乾燥された層は、面内の方向と平面に垂直方向との間の高い複屈折係数を有する。
【0091】
本発明には、所望の六方晶面配向を有するHA/CHAをベースとした薄フィルムを製造する簡単な両親媒性自己集合法の発見が含まれる。酸素5〜46重量%を含有するHAは、親水性酸素含有官能基と疎水性基礎面とのその組合せのために負の電荷をもつ両親媒性分子であると考えられてもよい。CHAのために、官能基は親水性または疎水性にされ得る。独特の六方晶グラフェン状面配向を有するHA/CHAフィルムのより良い調製は、複雑な手順を必要としない。もっと正確にいえば、それは、HA/CHAの合成を調整する工程と、液晶相の形成および変形挙動を操作して液晶相中のHA/CHAシートの自己集合体を可能にする工程とによって達成される。
【0092】
原子間力顕微鏡(AFM)、ラマン分光学、およびFTIRを使用してHA/CHA懸濁液を特性決定して、その化学状態を確認した。最後に、水溶液中のHAシートのリオトロピック液晶(液晶HA相)の存在は、交差偏光の観察によって実証された。
【0093】
1−Dまたは2−D種が液体媒体内に液晶相を形成することができるかどうか決定するために2つの主な側面:アスペクト比(長さ/幅/直径対厚さ比)および液体媒体中のこの材料の十分な分散性または溶解性が考えられる。HAまたはCHAシートは、単原子または少数原子の厚さ(t)および通常はマイクロメートルスケールの横幅(w)を有する、高い異方性を特徴とする。オンサーガーの理論に従って、高アスペクト比2Dシートは、それらの体積分率が臨界値を超えるとき、分散体中に液晶を形成することができる:
≒4t/w (式1)
グラフェン状面の厚さ0.34nmおよび幅1μmであるとすると、必要とされる臨界体積は、V≒4t/w=4×0.34/1,000=1.36×10−3=0.136%である。しかしながら、純粋グラフェンシートは、それらの強いπ−πスタッキング作用のために、水に可溶性でなく、一般的な有機溶媒(最大体積分率V、N−メチルピロリドン(NMP)中に約0.7×10−5およびオルト−ジクロロベンゼン中に約1.5×10−5)に低分散性である。幸いなことに、HAまたはCHAの分子構造によって、そのエッジに付着した多数の酸素含有官能基のために、水へのおよびアルコール、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)およびNMPなどの極性有機溶媒への良い分散性を示させることができる。天然HA(例えば石炭由来のもの)もまた、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、アルコール、糖アルコール、ポリグリセロール、グリコールエーテル、アミン系溶媒、アミド系溶媒、アルキレンカーボネート、有機酸、無機酸、またはそれらの混合物などのフミン酸のための非水溶媒に非常に可溶性である。
【0094】
理論的予測に従っておそらくHA/CHAの臨界体積分率が0.2%より低いかまたは臨界重量分率が0.3%より低くなることができるが、HA/CHAシートが液晶を形成するための臨界重量分率が0.4重量%より著しく高いことを我々を観察した。最も安定な液晶は、HA/CHAシートの重量分率が0.6%〜5.0%の範囲である時に存在しており、それらは広い温度範囲にわたって高い安定性を可能にする。HA/CHAのサイズがその液晶構造の形成に及ぼす効果を調べるために、pH補助選択的沈殿技術を使用してHA/CHA試料を調製した。3つの異なった測定方式によって動的光散乱(DLS)によって、ならびにAFMによってHA/CHAシートの横サイズを評価した。
【0095】
HA/CHA液晶を調査する間に我々は予想外だが非常に重要な発見をした:水およびその他の溶媒中のHA/CHAシートの液晶相は、機械的撹乱(例えば機械混合、剪断、乱流の流れ等々)によって容易に破損または破壊され得る。液晶構造を機械的に損なわずに液体媒体を注意深く除去する(例えば気化させる)ことによってHA/CHAシートの濃度が5%超(好ましくは5重量%〜16重量%)に徐々に増加される場合これらの液晶の機械的安定度は著しく改良され得る。5〜16%の範囲のHA/CHA重量分率によって、HA/CHAシートは、キャスティングまたはコーティングの間に所望の配向を形成して薄フィルムを形成するのが特に容易であることを我々はさらに観察した。
【0096】
熱力学的に、液晶相への両親媒性HA/CHA自己集合のプロセスは、式(2)に示されるようにエンタルピー変化(ΔH)およびエントロピー変化(ΔS)の相互作用である:ΔGself−assembly=ΔHself−assembly−TΔSself−assembly (2)
エントロピー寄与は支配的な役割を果たすが、エンタルピー変化は多くの場合好ましくないことを液晶相への両親媒性自己集合のための熱力学的駆動力の先行研究は示す。配向エントロピーの損失は増加した並進エントロピーによって補償されるので、高アスペクト比粒子はエントロピーの正味利得のために臨界体積分率を超える液晶相を形成することができることをオンサーガーの理論は予測する。具体的には、より高アスペクト比の粒子は長距離液晶相の形成を促進する。シートを曲げることにより生じる復元力はシートに沿う復元力よりずっと弱いので、HA/CHAアスペクト比の効果の別のあり得る理由は溶媒中のHA/CHAシートの構造的波状化であり得る。溶媒中のHA/CHA波状モルフォロジーの程度はそのアスペクト比が増加される場合、さらに高められ得ることが見出された。この波状構成は、懸濁液中のHA/CHAの分子内相互作用および分子間相互作用の両方に著しく影響を与える。
【0097】
水性分散体の長距離秩序化を達成するために、強い長距離静電反発力を有する良く剥離したHA/CHAシートが必要とされる。コロイド粒子から液晶構造を形成することは典型的に、静電力などの長距離反発力と、ファンデルワールス力およびπ−π相互作用などの短距離引力との繊細なバランスを必要とする。長距離反発力が短距離引力に打ち勝つほど十分に強くない場合、コロイド粒子の凝集または小さな周期性を有するリオトロピック液晶の弱い形成だけが不可避的に起こる。HA/CHA水性分散体において、長距離反発相互作用は、イオン化酸素官能基によって形成される電気二重層によって与えられる。HA/CHAシートはまだ疎水性ドメインの相当な部分を含有するが、長距離静電反発力を調節することによってπ−π引力相互作用およびファンデルワールス力が有効に打ち勝つことができる。
【0098】
HA/CHAの化学組成は、水性分散体または有機溶媒分散体における静電相互作用を調整するのに重要な役割を果たす。表面電荷密度の増加は、静電反発力の強度の、引力に対する増加をもたらす。芳香族ドメインおよび酸素化ドメインの比は、六方晶炭素面の酸化または化学的改質のレベルによって容易に調節され得る。HA/CHAの減衰全反射モード(FTIR−ATR)でのフーリエ変換赤外分光法の結果は、酸化された種(ヒドロキシル、エポキシ、およびカルボキシル基)がHA/CHA表面上に存在することを示す。窒素の熱重量分析(TGA)を使用して、HA/CHA表面上の酸素官能基の密度を精査した。高度に酸化されたHAについて、約28重量%の質量損失が約250℃で見出され、それは酸素含有不安定種の分解に帰される。160℃未満で、約16重量%の質量損失が観察され、それは物理的に吸収された水の脱着に相当する。HAのX線光電子分光法(XPS)の結果は、C/Oの原子比が約1.9であることを示す。これは、HAが比較的高密度の酸素官能基を有することを示唆する。さらに、我々はまた、(例えばレオナルダイト石炭からの)強く酸化されたHAの熱還元または化学還元の時間および温度を単に変化させることによってより低い密度の酸素官能基を含有するHAを調製した。優先的には5%〜40%、より好ましくは5%〜30%、最も好ましくは5%〜20%の範囲の酸素重量分率を有する液晶を見出すことができることを我々は観察した。
【0099】
Debyeスクリーニング長(κ−1)はHAシートを囲む自由イオンの濃度を低減することによって有効に増加され得るので、HAシート間のコロイド相互作用は、イオン強度によって著しく影響され得る。塩濃度が増加するにつれて水中のHA液晶の静電反発力が減少し得る。結果として、より多くの水がHA層間間隙から追い出され、それに伴い、d間隔が低減される。したがって、HA分散体中のイオン性不純物は、HA液晶構造の形成に影響を与える決定的な要因であるので、十分に除去されるのがよい。
【0100】
しかしながら、我々はまた、或る少量のポリマー(10重量%まで、しかし好ましくは5重量%まで、最も好ましくはたった2%まで)の導入によって、HA/CHA分散体がキャスティングまたはコーティング操作に供される時に液晶相を安定化させるのに役立ち得ることを見出した。適切な官能基および濃度によって、得られたフィルムのGO/CFG配向を高めることができる。これはまた、先行の公開文献または特許文献に決して教示または示唆されていなかった。
【0101】
次に、乾燥されたHA/CHA層を熱処理に供してもよい。適切にプログラムされた熱処理手順は、少なくとも2つの熱処理温度(一定時間の間第1の温度、そして次に第2の温度に上げ、さらに別の一定時間の間この第2の温度に維持する)、または初期処理温度(第1の温度)と、第1の温度より高い、最終HTTとを含む少なくとも2つの熱処理温度(HTT)の任意の他の組合せを含むことができる。
【0102】
第1の熱処理温度はHA/CHAの化学連結および熱還元のためであり、>80℃の第1の温度で実施される(1,000℃まで、しかし好ましくは700℃まで、最も好ましくは300℃までであり得る)。これは本明細書においてレジーム1と称される:
レジーム1(300℃まで):この温度範囲(初期化学連結および熱還元レジーム)において、化合、重合(エッジからエッジまでの同化)、および隣接したHA/CHAシート間の架橋が起こり始める。複数のHA/CHAシートは充填されて並んでおよびエッジからエッジまで一緒に化学接合されて、酸化グラフェン状実体の統合された層を形成する。さらに、HA/CHA層は第一に熱誘導還元反応を受け、約5%以下に酸素含有量の低減をもたらす。この処理は、約0.8〜1.2nm(乾燥時)から約0.4nmにグラフェン間間隔の低減、および約100W/mKから500W/mKに面内熱伝導率の増加をもたらす。このような低い温度範囲でも、HA/CHAシート間の或る化学連結が起こる。HA/CHAシートは良く整列されたままであるが、グラフェン面間間隔は比較的大きいままである(0.4nm以上)。多くのO含有官能基は存在し続ける。
【0103】
GO塊が受ける最も高いまたは最終HTTは、3つのはっきり区別できるHTTレジームに分けられてもよい:
レジーム2(300℃〜1,500℃):この主に化学連結のレジームにおいて、付加的な熱還元および広範な化合、重合、および隣接したHA/CHAシート間の架橋が起こる。HA/CHAとグラフェンシート(例えばGOシート)との間の化学連結もまた、存在している場合起こる。酸素含有量は化学連結後に典型的に1%未満に低減され、約0.35nmにグラフェン間間隔の低減をもたらす。黒鉛化を開始するために2,500℃もの温度を典型的に必要とする従来の黒鉛化可能な材料(炭化ポリイミドフィルムなど)と著しい対照をなして、若干の初期黒鉛化がこのような低温において既に始まっていることをこれは意味する。これは、本発明のHOHAフィルムおよびその製造プロセスの別の異なった特徴である。これらの化学連結反応は、面内熱伝導率を850〜1,250W/mKに、および/または面内電気導電率を3,500〜4,500S/cmに増加させるという結果を
もたらす。
レジーム3(1,500〜2,500℃):この秩序化および再黒鉛化レジームにおいて、広範な黒鉛化またはグラフェン面の同化が起こり、著しく改良された構造秩序化度をもたらす。結果として、酸素含有量は典型的に0.01%に低減され、グラフェン間間隔は約0.337nmに低減される(実際のHTTおよび時間に応じて、1%〜約80%の黒鉛化度を達成する)。改良された秩序化度はまた、面内熱伝導率の>1,300〜1,500W/mKへの、および/または面内電気導電率の5,000〜7,000S/cmへの増加によって反映される。
レジーム4(2,500℃より高い):この再結晶化および完成レジームにおいて、結晶粒界およびその他の欠陥の広範な移動および除去が起こり、出発HA/CHAシートの元の結晶粒サイズよりも数桁大きくなり得る、巨大な結晶粒を有するほぼ完全な単結晶または多結晶グラフェン結晶の形成をもたらす。酸素含有量は本質的に取り除かれ、典型的に0.01%〜0.1%である。グラフェン間間隔は約0.3354nmに低減され(80%〜ほぼ100%の黒鉛化度)、それは完全な黒鉛単結晶のグラフェン間間隔に相当する。非常に興味深いことに、グラフェン多結晶は、全てのグラフェン面が最密充填されて接合され、全ての面が1つの方向に沿って整列され、完全な配向を有する。超高圧(300Kg/cm)下で超高温(3,400℃)に同時に熱分解黒鉛を供することによって製造されたHOPGを使用してもこのような完全に配向された構造物は製造されていない。高配向グラフェン構造物は、著しくより低い温度および周囲(またはわずかにより高い圧縮)圧力を使用して最も高い完成度を達成することができる。このように得られた構造物は、1,500〜わずかに>1,700W/mKまでの面内熱伝導率、および15,000〜20,000S/cmの範囲の面内電気導電率を示す。
【0104】
本発明の高配向HA由来構造物は、少なくとも最初のレジーム(この温度範囲において典型的に1〜24時間を必要とする)を含む、より一般的に最初の2つのレジーム(1〜10時間が好ましい)を含む、さらにより一般的に最初の3つのレジーム(レジーム3において好ましくは0.5〜5時間)、そして最も一般的に全ての4つのレジーム(レジーム4は、0.5〜2時間の間、最も高い導電率を達成するために導入されてもよい)を含む温度プログラムを使用してHA/CHA層を熱処理することによって得ることができる。
【0105】
X線回折パターンは、CuKcv放射線を備えたX線回折計を使用して得られた。回折ピークのシフトおよび広幅化は、ケイ素粉末標準を使用して較正された。黒鉛化度、gは、メーリング(Mering)の式d002=0.3354g+0.344(1−g)(式中、d002は、nm単位の黒鉛またはグラフェン結晶の中間層間隔である)を使用して、X線パターンから計算された。この式は、d002が約0.3440nm以下である時にだけ有効である。0.3440nmよりも高いd002を有するHOHAは、スペーサーとして作用してグラフェン間の間隔を増加させる酸素含有官能基(例えば、グラフェン状平面の表面上の−OH、>O、および−COOHなど)の存在を反映する。
【0106】
本発明のHOHA由来黒鉛フィルムおよび従来の黒鉛結晶の秩序化度を特性決定するために使用できる別の構造指数は、(002)または(004)反射のロッキング曲線(X線回折強度)の半値全幅によって表わされる、「モザイクスプレッド」である。この秩序化度は、黒鉛またはグラフェン結晶サイズ(または結晶粒径)、粒界およびその他の欠陥の量、および好ましい結晶粒配向度を特性決定する。黒鉛のほぼ完全な単結晶は、0.2〜0.4のモザイクスプレッド値を有することを特性とする。我々のHOHA由来黒鉛試料の大部分は、0.2〜0.4のこの範囲のモザイクスプレッド値を有する(2,500℃以上の熱処理温度(HTT)を使用して製造する場合)。しかしながら、いくつかの値は、HTTが1,500〜2,500℃の間である場合0.4〜0.7の範囲、HTTが300〜1,500℃の間である場合0.7〜1.0の範囲である。
【0107】
HAまたはグラフェンは様々な化学的経路によって官能化されてもよい。1つの好ましい実施形態において、得られた官能化HAまたは官能化グラフェン(一括してGnと表記される)は一般的に以下の式(e):[Gn]−−R
(式中、mは異なった官能基のタイプの数であり(典型的に1〜5の間)、Rは、SOH、COOH、NH、OH、R’CHOH、CHO、CN、COCl、ハリド、COSH、SH、COOR’、SR’、SiR’、Si(−−OR’−−)R’−y、Si(−−O−−SiR’−−)OR’、R’’、Li、AlR’、Hg−−X、TlZおよびMg−−Xから選択され、そこでyは3以下の整数であり、R’は水素、アルキル、アリール、シクロアルキル、またはアラルキル、シクロアリール、またはポリ(アルキルエーテル)であり、R’’はフルオロアルキル、フルオロアリール、フルオロシクロアルキル、フルオロアラルキルまたはシクロアリールであり、Xはハリドであり、Zはカルボキシレートまたはトリフルオロアセテートである)を有してもよい。
【0108】
エポキシ樹脂などのポリマーと、HAまたはグラフェンシートとを組み合わせてコーティング組成物を製造することができると仮定すれば、次いで官能基−NHは特に重要である。例えば、エポキシ樹脂のための一般的に使用される硬化剤はジエチレントリアミン(DETA)であり、それは2つ以上の−NH基を有することができる。−NH基の1つはグラフェンシートのエッジまたは表面に接合されてもよく、残りの未反応−NH基は、後でエポキシ樹脂と反応するために利用可能である。このような配列は、HA(またはグラフェン)シートと樹脂添加剤との間の良い界面接合)を提供する。
【0109】
他の有用な化学官能基または反応性分子は、アミドアミン、ポリアミド、脂肪族アミン、改質脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミン、無水物、ケチミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレン−テトラミン(TETA)、テトラエチレン−ペンタミン(TEPA)、ポリエチレンポリアミン、ポリアミンエポキシ付加物、フェノール硬化剤、非臭素化硬化剤、非アミン硬化剤、およびそれらの組合せからなる群から選択されてもよい。これらの官能基は多官能性であり、少なくとも2つの末端からの少なくとも2つの化学種と反応する能力がある。最も重要なことには、それらは、それらの末端の1つを利用してグラフェンまたはHAのエッジまたは表面に接合することができ、後続の硬化段階の間に、1つまたは2つの他の末端において樹脂と反応することができる。
【0110】
上述の[Gn]−−Rはさらに官能化されてもよい。得られたCFGには、式:
[Gn]−−A
(式中、Aは、OY、NHY、O=C−−OY、P=C−−NR’Y、O=C−−SY、O=C−−Y、−−CR’1−−OY、N’YまたはC’Yから選択され、Yは、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、酵素、抗体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、抗原、または酵素基質、酵素阻害物質または酵素基質の遷移状態類似体の適切な官能基であるかまたは、R’−−OH、R’−−NR’、R’SH、R’CHO、R’CN、R’X、R’N(R’)、R’SiR’、R’Si(−−OR’−−)R’3−y、R’Si(−−O−−SiR’−−)OR’、R’−−R’’、R’−−N−−CO、(CO−−)H、(−−CO−−)H、(−−CO)−−R’、(CO)−−R’、R’から選択され、wは1より大きく200未満の整数である)の組成物が含まれる。
【0111】
また、HAおよび/またはグラフェンシートを官能化して、
式: [Gn]−−[R’−−A]
(式中、m、R’およびAは上に定義される)を有する組成物を製造してもよい。また、本発明の組成物は、特定の環式化合物が吸着されるCHAを含有する。これらには、式: [Gn]−−[X−−R
(式中、aはゼロであるかまたは10未満の数であり、Xは多核芳香族、多異核芳香族またはメタロ多異核性芳香族部分であり、Rは上に定義される)の物質の組成物が含まれる。好ましい環式化合物は平面である。吸着のためのより好ましい環式化合物はポルフィリンおよびフタロシアニンである。吸着された環式化合物は官能化されてもよい。このような組成物には、式:
[Gn]−−[X−−A
(式中、m、a、XおよびAは上に定義される)の化合物が含まれる。
【0112】
本発明の官能化HAまたはグラフェンは、脱酸素化GO表面のスルホン化、求電子付加、またはメタレーションによって直接に調製することができる。グラフェンまたはHAシートは、官能化剤と接触される前に加工することができる。このような加工は、グラフェンまたはHAシートを溶媒中に分散させる工程を包含してもよい。いくつかの場合、次に接触前にシートを濾過して乾燥させてもよい。1つの特に有用なタイプの官能基はカルボン酸部分であり、それらは、先に考察された酸インターカレーション経路から調製される場合、HAの表面上に自然に存在している。付加的な量のカルボン酸が必要とされる場合、HAシートは塩素酸塩、硝酸、または過硫酸アンモニウム酸化に供されてもよい。
【0113】
カルボン酸官能化グラフェンシートは、他のタイプの官能化グラフェンまたはHAシートを調製するための出発点として役立ち得るので、特に有用である。例えば、アルコールまたはアミドを酸に容易に連結して安定なエステルまたはアミドを生じることができる。アルコールまたはアミンが二官能または多官能分子の一部である場合、O−またはNH−による連結は側基などの他の官能基を残す。これらの反応は、カルボン酸をアルコールまたはアミンでエステル化またはアミノ化するために開発された、本技術分野に公知の方法のいずれかを使用して実施することができる。これらの方法の例は、G.W.Anderson,et al.,J.Amer.Chem.Soc.96,1839(1965)(その内容をその全体において参照によって本願明細書に組み入れる)に見出すことができる。アミノ基を黒鉛フィブリル上に直接に導入するため、フィブリルを硝酸および硫酸で処理して窒化フィブリルを得て、次に、亜ジチオン酸ナトリウムなどの還元剤で窒化形態を化学還元してアミノ官能化フィブリルを得る。
【0114】
以下の目的の1つまたはいくつかのために前述の官能基をHAまたはグラフェンシート表面またはエッジに付着することができることを我々は見出した:(a)所望の液体媒体中のグラフェンまたはHAの改良された分散のため、(b)液体媒体中のグラフェンまたはHAの高められた溶解性によって、液晶相の形成のための臨界体積分率を超える、十分な量のグラフェンまたはHAシートをこの液体中に分散させることができるようにするため、(c)高められたフィルム形成能力によって、グラフェンまたはHAの、他の場合なら離散したシートの薄フィルムをキャストまたはコートすることができるようにするため、(d)流れ特性の改良のためにグラフェンまたはHAシートが配向される能力の改良のため、および(e)グラフェンまたはHAシートが化学連結および同化されてより大きなまたはより幅が広いグラフェン面を形成する能力を高めるため。
【0115】
また、本発明は、アノード集電体および/またはカソード集電体として本発明の酸化グラフェン薄フィルム接合金属箔を含有する再充電可能バッテリーを提供する。これは、例えば、いくつか例を挙げると亜鉛−空気セル、ニッケル金属水素化物セル、ナトリウムイオンセル、ナトリウム金属セル、マグネシウムイオンセル、またはマグネシウム金属セルなどの任意の再充電可能バッテリーであることができる。この発明されたバッテリーは、アノード集電体またはカソード集電体として単位グラフェン層を含有する再充電可能リチウムバッテリーであることができ、そのリチウムバッテリーは、リチウム−硫黄セル、リチウム−セレンセル、リチウム硫黄/セレンセル、リチウムイオンセル、リチウム−空気セル、リチウム−グラフェンセル、またはリチウム−炭素セルであることができる。本発明の別の実施形態は、アノード集電体またはカソード集電体として本発明の集電体を含有するキャパシタであり、そのキャパシタは、対称ウルトラキャパシタ、非対称ウルトラキャパシタセル、ハイブリッドスーパーキャパシタ−バッテリーセル、またはリチウムイオンキャパシタセルである。
【0116】
例として、本発明は、アノード側の集電体、アノードとしてのリチウムフィルムまたは箔、多孔性セパレーター/電解質層、カソード活物質(例えばリチウムを含まないVおよびMnO)を含有するカソード、および集電体から構成される再充電可能リチウム−金属セルを提供する。アノード集電体およびカソード集電体のどちらかまたは両方が本発明のHAをベースとした集電体であり得る(すなわちHAまたはHA/グラフェン混合物の高配向薄フィルムから得られる)。
【0117】
本発明の別の例は、アノード側の集電体、黒鉛またはチタン酸リチウムアノード、液体またはゲル電解質で浸漬された多孔性セパレーター、カソード活物質(例えば高い比表面積を有する活性炭)を含有するカソード、および集電体から構成されるリチウムイオンキャパシタ(またはハイブリッドスーパーキャパシタ)である。また、アノード集電体およびカソード集電体のどちらかまたは両方とも、本発明のHA系集電体であり得る。
【0118】
本発明のさらに別の例は別のリチウムイオンキャパシタまたはハイブリッドスーパーキャパシタであり、それは、アノード側の集電体、黒鉛アノード(およびアノードの一部としてリチウム箔のシート)、液体電解質で浸漬された多孔性セパレーター、カソード活物質(例えば高い比表面積を有する活性炭)を含有するカソード、および集電体から構成される。また、アノード集電体およびカソード集電体のどちらかまたは両方とも、本発明のHA系集電体であり得る。
【0119】
本発明のさらに別の例は、アノード側の集電体、多孔性ナノ構造アノード(例えば、戻ってくるリチウムイオンがセルの再充電の間に上に堆積することができ、表面安定化リチウム粉末粒子が混合されるか、またはナノ構造物に付着されるリチウム箔のシートを有する高表面積を有するグラフェンシートを含む)、液体電解質で浸漬された多孔性セパレーター、グラフェン系カソード活物質(例えば、セルの放電の間にリチウムイオンを捉える高い比表面積を有するグラフェン、酸化グラフェン、またはフッ化グラフェンシート)を含有するカソード、およびカソード集電体から構成されるリチウム−グラフェンセルである。また、アノード集電体およびカソード集電体のどちらかまたは両方とも、本発明のHA系集電体であり得る。
【実施例】
【0120】
実施例1:レオナルダイトからのフミン酸および還元フミン酸
フミン酸は、レオナルダイトを塩基性水溶液(pH10)中に分散させることによって非常に高収率(75%の範囲)でレオナルダイトから抽出され得る。溶液の後続の酸性化によってフミン酸粉末の沈殿が得られる。実験において、3gのレオナルダイトを磁気撹拌下で1M KOH(またはNHOH)溶液を含有する二重脱イオン水300mlによって溶解した。pH値を10に調節した。次に、溶液を濾過して一切の大きな粒子または一切の残留不純物を除去した。
【0121】
HAを単独でまたはHAを酸化グラフェンシート(以下に説明された実施例3において調製されたGO)と共に含有する、得られたフミン酸分散体をCu箔またはTi箔表面上にコートして一連のHA接合Cu箔またはTi箔フィルムを形成し、後続の熱処理を行ないタイプ−A集電体を得た。
【0122】
比較のために、同様なフィルムをガラス表面上にキャストし、次に、後続の熱処理の前に剥離し、タイプ−B集電体を調製した。
【0123】
実施例2:石炭からのフミン酸およびHA接合金属箔集電体の調製
典型的な手順において、300mgの石炭を濃硫酸(60ml)および硝酸(20ml)中に懸濁し、そしてその後に、2時間カップ音波処理した。次に、反応物を撹拌し、100℃または120℃の油槽内で24時間加熱した。溶液を室温に冷却し、100mlの氷を保有するビーカーに流し込み、その後に、pH値が7に達するまでNaOH(3M)を添加する工程が続いた。
【0124】
1つの実験において、次に、中和混合物を0.45mmのポリテトラフルオロエチレン膜を通して濾過し、濾液を5日間1,000Da透析バッグ内で透析した。より大きいフミン酸シートのために、クロスフロー限外濾過を使用して時間を1〜2時間に短縮することができる。精製後に、回転蒸発を使用して溶液を濃縮して、固体フミン酸シートを得た。これらのフミン酸シートだけおよびそれらとグラフェンシートとの混合物を溶媒(エチレングリコールとアルコール、別々に)中に再分散させて、Al箔およびステンレス鋼箔上への後続のキャスティングまたはコーティングのためのいくつかの分散体試料を得た。タイプ−AおよびタイプB集電体の両方を調製した。
【0125】
実施例3:天然黒鉛粉末からの酸化グラフェン(GO)シートの調製
Ashbury Carbonsからの天然黒鉛を出発原料として使用した。2つの酸化段階を必要とする、公知の改良Hummers方法に従ってGOを得た。典型的な手順において、以下の条件において第1の酸化が達成された:1100mgの黒鉛を1000mLの煮沸フラスコ内に置いた。次に、20gのK、20gのP、およびHSO(96%)の濃水溶液400mLをフラスコ内に添加した。混合物を6時間の間還流させながら加熱し、次に室温で20時間の間静置した。酸化された黒鉛を濾過し、pH値>4.0が達せられるまで豊富な蒸留水で洗浄した。湿潤ケーク状材料をこの第1の酸化の終わりに回収した。
【0126】
第2の酸化プロセスのために、前もって集められた湿潤ケークをHSO(96%)の濃水溶液69mLを保有する煮沸フラスコ内に置いた。9gのKMnOをゆっくりと添加する時にフラスコを氷槽内に保持した。過熱を避けるように注意を払った。得られた混合物を2時間の間35℃で撹拌し(試料の色は暗緑色に変わった)、その後に、140mLの水を添加した。15分後に、420mLの水および30重量%Hの水溶液15mLを添加することによって反応が止められた。この段階で試料の色は明るい黄色に変わった。金属イオンを除去するために、混合物を濾過し、1:10HCl水溶液で洗浄した。集められた材料を2700gでゆるやかに遠心分離し、脱イオン水で洗浄した。最終生成物は、乾燥抽出物から推定されるとき1.4重量%のGOを含有する湿潤ケークであった。その後、脱イオン水中で希釈された湿潤ケーク材料をゆるく超音波処理することによってGOプレートリットの液体分散体が得られた。
【0127】
別の基準で、GOとフミン酸との混合物を様々なGO比率(1%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、および99%)で含有する水懸濁液を調製し、スロットダイでコートして様々な組成物の薄フィルムを製造した。
【0128】
実施例4:フミン酸と純粋グラフェンシート(0%酸素)との混合物を含有する配向フィルムの調製
典型的な手順において、約20μm以下のサイズに微粉砕された5グラムの黒鉛フレークを1,000mLの脱イオン水(DuPont製のZonyl(登録商標)FSO、分散助剤0.1重量%を含有する)中に分散させて懸濁液を得た。85Wの超音波エネルギーレベル(BransonS450ウルトラソニケーター)を15分〜2時間にわたってグラフェンシートの剥離、分離、および粉砕のために使用した。得られたグラフェンシートは、決して酸化されず酸素を含有せず比較的欠陥がない純粋グラフェンである。純粋グラフェンは、一切の非炭素元素を本質的に含有しない。
【0129】
超音波処理後の懸濁液は、水中に分散された純粋グラフェンシートおよびその中に溶解された界面活性剤を含有する。次に、フミン酸を懸濁液中に添加し、得られた混合物懸濁液を10分間さらに超音波処理して均一な分散および混合を促進した。次に、熱処理の前に分散体をCuおよびTi箔上にコートし、比較のために、ガラスおよびPETフィルム上にコートした。
【0130】
実施例5:フッ化グラフェンシートとフミン酸との混合物からの高配向黒鉛フィルムの調製
いくつかの方法を使用してGFを製造したが、ただ1つの方法が実施例としてここで説明される。典型的な手順において、高剥離黒鉛(HEG)が、インターカレートされた化合物СF・xClFから調製された。三フッ化塩素の蒸気によってHEGをさらにフッ素化して、フッ素化高剥離黒鉛(FHEG)を生じた。予備冷却されたテフロン反応器に20〜30mLの液体予備冷却ClFを充填し、反応器を閉じて液体窒素温度に冷却した。次に、ClFガスが入るための孔を有し、反応器内に位置した容器内に1g以下のHEGを置いた。7日で、近似式CFを有するグレー−ベージュ色の生成物が形成された。
【0131】
その後、少量のFHEG(約0.5mg)を20〜30mLの有機溶媒(メタノールおよびエタノール、別々に)と混合し、30分間の間超音波処理(280W)に供し、均質な黄色がかった分散体の形成をもたらした。次に、フミン酸を様々なHA対GF比でこれらの分散体に添加した。次に、コンマコーティングを使用して分散体をCu箔によって支持された薄フィルムに製造した。次に、高配向HAフィルムを様々な程度に熱処理して、高導電性黒鉛フィルムを得た。
【0132】
実施例6:窒素化グラフェンシートとフミン酸とを含有するHOHAフィルムの調製
実施例3において合成された酸化グラフェン(GO)を異なった比率の尿素と共に微粉砕し、ペレット化された混合物を30秒間の間マイクロ波反応器(900W)内で加熱した。生成物を脱イオン水で数回洗浄し、真空乾燥させた。この方法において酸化グラフェンは窒素で同時に還元およびドープされた。1:0.5、1:1および1:2のグラフェン/尿素質量比を有する生成物が得られ、これらの試料の窒素含有量は、元素分析によって測定される時にそれぞれ14.7、18.2および17.5重量%であった。これらの窒素化グラフェンシートは水に分散性のままである。20.5%〜45%の酸素含有量を有する様々な量のHAを懸濁液中に添加した。
【0133】
次に、窒素化グラフェン−HA分散体の得られた懸濁液をプラスチックフィルム基材上にコートして湿潤フィルムを形成し、次にそれらを乾燥させてプラスチックフィルムから剥離し、80〜2,900℃の様々な熱処理温度で熱処理に供して、高配向フミン酸(HOHA)フィルム(最終HTT<1,500℃の場合)または高秩序化および伝導性黒鉛フィルム(1,500℃以上の場合)を得た。次に、樹脂結合剤を使用してこれらのフィルムをTiおよびCu表面に接合して、タイプ−B集電体を製造した。さらに、比較目的のために、また、窒素化グラフェン−HA分散体の懸濁液の或る量をTiおよびCu箔表面上にコートして湿潤フィルムを形成し、次にそれらを乾燥させ、それぞれ、1,500℃および1,250℃まで熱処理した。
【0134】
実施例7:フミン酸シートからのネマチック液晶の調製およびそれから製造される高導電性フィルム
中位の音波処理によってHAシートを脱イオン水中に分散させることによってフミン酸水性分散体を調製した。液晶の形成のために重要な工程である、透析によって分散体中の一切の酸性またはイオン性不純物を除去した。
【0135】
十分に長い時間の間(通常2週間を超える)固定化された低濃度分散体(典型的に0.05〜0.6重量%)は肉眼的に、2つの相に相分離した。 低密度上相は光学的に等方性であるが、高密度下相は、2つの交差偏光板の間の顕著な光学複屈折を示した。暗いおよび明るいブラシからなる典型的なネマチックシュリーレンテキスチャーが下相に観察された。これは二相性の挙動であり、そこで等方性相とネマチック相とが共存する。HA分子の大きな多分散度のために二相の組成範囲は著しく広い。イオン強度およびpH値はHA液晶の安定性に著しく影響を与えることを指摘しておいてもよいだろう。カルボキシレートなどの解離された表面官能基からの静電反発力は、HA液晶の安定性に重要な役割を果たす。したがって、イオン強度を増加させるかまたはpH値を低下させることによって反発相互作用を低減することにより、HAシートの凝固を増加させた。
【0136】
HAシートが1.1%の重量分率を占める時に実質的に全てのHAシートが液晶相を形成し、HAの濃度を6%〜16%の範囲に徐々に増加させることによって液晶を存続させることができることを我々は観察した。調製されたフミン酸分散体は、裸眼に不均質な、チョコレート−乳状外観を示した。この乳状外観は酸化グラフェンの凝結または沈殿と間違えられることがあるが、実際には、それはネマチック液晶である。
【0137】
HA懸濁液をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にスラリーコーターで分配およびコートする工程と、液体媒体をコーテッドフィルムから除去する工程とによって、乾燥されたHAの薄フィルムが得られた。乾燥フィルムはPETフィルムから剥離され、熱処理の前に自立フィルムになった。さらにまた、HA懸濁液をCu箔またはTi表面上にコートし、次に乾燥させた。次に、各々のフィルム(PETから剥離された自立フィルムと、TiまたはCu支持フィルムとの両方)を異なった熱処理に供したが、それらには、典型的に、1〜10時間の間80℃〜300℃の第1の温度、および0.5〜5時間の間1,500℃〜2,850℃の第2の温度での化学連結および熱還元処理が含まれる。Cu支持フィルムおよびTi支持フィルムをそれぞれ、単に1,250℃および1,500℃まで熱処理した。これらの熱処理によって、同じく圧縮応力下で、HOHAフィルムを高導電性黒鉛フィルム(HOGF)に変えた。
【0138】
熱処理の異なった段階でいくつかの乾燥されたHA層(HOHAフィルム)、およびHOGFの内部構造(結晶構造および配向)を調査した。熱処理前の乾燥されたHOHAの層、5時間の間150℃で熱処理されたHOHAフィルム、および得られたHOGFのX線回折曲線が得られた。乾燥されたHOHA層の約2θ=12°のピークは、約0.75nmのグラフェン間の間隔(d002)に相当する。150℃での或る熱処理によって、乾燥されたフィルムは、22°を中心とするハンプの形成を示し、化学連結および秩序化プロセスの開始を示す、面間の間隔を減少させるプロセスをそれが開始したことを示す。1時間にわたる2,500℃の熱処理温度によって(金属箔に接合されていない)フィルムのd002間隔は、黒鉛単結晶の0.3354nmに近い、約0.336に減少した。
【0139】
1時間にわたる2,750℃の熱処理温度によって、金属表面に接合されていないフィルムのd002間隔は、黒鉛単結晶のd002間隔に等しい、約0.3354nmに減少する。さらに、高強度を有する第2の回折ピークは、(004)面からのX線回折に相当する2θ=55°に出現する。同じ回折曲線上の(002)強度に対する(004)ピーク強度、またはI(004)/I(002)比は、グラフェン面の結晶完成度および好ましい配向の良い表示である。2,800℃よりも低い温度で熱処理された全ての従来の黒鉛材料について(004)ピークは存在していないかまたは比較的弱いかどちらかであり、I(004)/I(002)比<0.1であることは本技術分野に公知である。3,000〜3,250℃で熱処理された黒鉛材料(例えば、高度配向熱分解黒鉛、HOPG)のI(004)/I(002)比は、0.2〜0.5の範囲である。対照的に、1時間の間2,750℃の最終HTTを使用してHA液晶をベースとしたフィルムから調製されたHOGFは0.77のI(004)/I(002)比および0.21のモザイクスプレッド値を示し、非常に高度の好ましい配向を有するほぼ完全なグラフェン単結晶を示す。
【0140】
「モザイクスプレッド」値は、X線回折強度曲線の(002)反射の半値全幅から得られる。秩序化度のためのこの指標は、黒鉛またはグラフェン結晶サイズ(または結晶粒径)、粒界およびその他の欠陥の量、および好ましい結晶粒配向度を特性決定する。黒鉛のほぼ完全な単結晶は、0.2〜0.4のモザイクスプレッド値を有することを特性とする。我々のHA由来HOGFの大部分は、2,500℃以上の最終熱処理温度を使用して製造する場合、0.2〜0.4のこの範囲のモザイクスプレッド値を有する。
【0141】
調査される数十の全ての可撓性黒鉛箔圧粉体のI(004)/I(002)比は全て<<0.05であり、多くの場合事実上存在していないことを指摘しておいてもよいだろう。真空補助濾過方法によって調製される全てのグラフェン紙/膜試料のI(004)/I(002)比は、2時間の3,000℃での熱処理の後でも<0.1である。本発明のHOHAフィルムは、一切の熱分解黒鉛(PG)、可撓性黒鉛(FG)の他、従来のグラフェン/GO/RGOシート/プレートリット(NGP)の紙/フィルム/膜とは根本的に異なっている新規なおよびはっきり区別できるクラスの材料であるという考えをこれらの観察はさらに裏づけた。
【0142】
広い温度範囲にわたって様々な温度で熱処理することによって得られた両方のHA液晶懸濁液由来HOGF試料のグラフェン間間隔値は、図5(A)にまとめられる。相当する酸素含有量値は図5(B)に示される。グラフェン間間隔と酸素含有量との間の相関関係を示すために、図5(A)および図5(B)のデータは、図5(C)において再びプロットされる。図5(A)〜図5(C)の綿密な精査は、4つのそれぞれの酸素含有量の範囲およびグラフェン間間隔の範囲をもたらす4つのHTT範囲(100〜300℃、300〜1,500℃、1,500〜2,000℃、および>2,000℃)があることを示す。同じ最終熱処理温度範囲の関数として同じくプロットされる、HA液晶由来HOGF試験片および可撓性黒鉛(FG)箔シートの相当する試料の熱伝導率を図5(D)にまとめる。全てのこれらの試料は同等の厚さの値を有する。
【0143】
500℃しかない熱処理温度は平均面間間隔を0.4nm未満にするのに十分であり、天然黒鉛の平均面間間隔または黒鉛単結晶の平均面間間隔にますます近づいていることを指摘しておくべきである。この方法の長所は、このHA液晶懸濁液法によって、平面HAシートを再組織化、再配向、および化学的同化して、全てのグラフェン状面がいま横方向寸法においてより大きく(元のHA分子の六方晶炭素面の長さおよび幅よりも著しく大きい)且つ互いに本質的に平行である統一構造物を形成できたということである。これは、すでに300〜400W/mK(500℃のHTTを使用する)および700℃のHTTを使用して>623W/mk(HAだけから)または>900W/mk(HA+GOの混合物から)の熱伝導率を生じており、それは相当する可撓性黒鉛箔の値(200W/mK)よりも3倍〜4倍超大きい。さらに、HOGF試料の引張強さは90〜125MPaに達することができる(図7(A))。
【0144】
1,000℃しかないHTTを使用して、得られた高配向HAフィルムは、756W/mK(HAだけから)および1,105W/mK(HA−GO混合物から)それぞれの熱伝導率を示す。これは、同じ熱処理温度を使用して可撓性黒鉛箔の観察された268W/mKと全く対照的である。実際のところ、HTTがどんなに高くても(例えば2,800℃もあっても)、可撓性黒鉛箔は600W/mKよりも低い熱伝導率しか示さない。2,800℃のHTTにおいて、本発明のHOGF層は、HAとGOとの混合物から得られた層について1,745W/mKの熱伝導率を与える(図4(A)および図5(D))。図4(A)に示した通り、HA/GO混合物由来黒鉛フィルムの熱伝導率の値は酸化グラフェン由来の相当する黒鉛フィルムの熱伝導率の値よりも一貫して高いことをさらに指摘しておいてもよいだろう。この驚くべき効果は実施例8においてさらに考察される。
【0145】
グラフェン層の格子画像化の走査電子顕微鏡検査(SEM)、透過型電子顕微鏡検査(TEM)写真、ならびに制限視野電子回折(SAD)、明視野(BF)、および暗視野(DF)画像もまた実施して、単位グラフェン材料の構造を特性決定した。フィルムの断面図の測定のために、試料をポリマー母材中に埋めて、ウルトラミクロトームを使用して薄切りにし、Arプラズマでエッチングした。
【0146】
図2図3(A)、および図3(B)の綿密な精査および比較は、HOGF内のグラフェン状層は、互いに平行に実質的に配向されることを示す。しかしこれは可撓性黒鉛箔および酸化グラフェン紙については当てはまらない。高導電性黒鉛フィルム内の2つの特定可能な層の間の傾斜角は一般的に10度未満および主に5度未満である。対照的に、非常に多くの折れた黒鉛フレーク、キンク、および可撓性黒鉛内の誤配向があるので、2つの黒鉛フレークの間の角度の多くは10度より大きく、45度もあるものもある(図2)。全然悪くはないが、NGP紙内のグラフェンプレートリット間の誤配向(図3(B))もまた高く、プレートリット間に多くの間隙がある。HOGF実体は本質的に間隙を含まない。
【0147】
図4(A)は、全て最終HTTの関数としてプロットされる、それぞれ、HA/GO由来フィルム、GO由来フィルム、HA懸濁液由来HOGF、および可撓性黒鉛(FG)箔の熱伝導率の値を示す。これらのデータは、所定の熱処理温度において達成可能な熱伝導率に関して本発明のHA/GO由来HOGF構造物の優位を明らかに実証した。
1)HA/GO液晶懸濁液由来HOGFは、同等の最終熱処理温度で熱伝導率においてGOゲル由来HOGFよりもすぐれていると思われる。GOゲル中のグラフェンシートの強い酸化は、熱還元および再黒鉛化後でもグラフェン表面上に高い欠陥群をもたらしたであろう。しかしながら、HA分子の存在は、欠陥を修復またはGOシート間の間隙を架橋するのに役立つことができると思われる。
2)HAだけから得られる高配向フィルムはGOだけから得られるフィルムよりわずかに低い熱伝導率の値を示すが、HAは、材料として天然に豊富であり、それは、HAを製造するために望ましくない化学物質の使用を必要としない。HAは、天然黒鉛(GOの原材料)と比べて一桁安価であり、GOと比べて2〜4桁安価である。
3)比較のために、我々はまた、ポリイミド(PI)炭化経路から従来の高配向熱分解黒鉛(HOPG)試料を得た。ポリイミドフィルムを不活性雰囲気中で500℃で1時間、1,000℃で3時間、および1,500℃で12時間の間炭化した。次に、炭化されたPIフィルムを2,500〜3,000℃の範囲の温度で、圧縮力下にて1〜5時間の間黒鉛化して従来のHOPG構造物を形成した。
【0148】
図4(B)は、全てが最終熱処理温度の関数としてプロットされる、HA/GO懸濁液由来HOGF、HA懸濁液由来HOGF、およびポリイミド由来HOPGの熱伝導率の値を示す。これらのデータが示すのは、炭化されたポリイミド(PI)経路を使用して製造される従来のHOPGは、同じ長さの熱処理時間の間同じHTTが与えられたとすると、HA/GO由来HOGFと比較して一貫してより低い熱伝導率を示すということである。例えば、PI由来HOPGは、2,000℃で1時間の黒鉛化処理後に820W/mKの熱伝導率を示す。同じ最終黒鉛化温度において、HA/GO由来HOGFは、1,586W/mKの熱伝導率の値を示す。また、PIはHAより数桁費用がかかり、PIの製造は、いくつかの環境上望ましくない有機溶媒の使用を必要とすることを指摘しておいてもよいだろう。
4)これらの観察は、配向黒鉛結晶を製造する従来のPG方法に対してHOGFを製造するHA/GOまたはHA懸濁液方法を使用する明らかな著しい利点を実証した。実際のところ、HOPGについて黒鉛化時間がどんなに長くても、熱伝導率は、HA/GO液晶由来HOGFの熱伝導率よりも常に低い。また、フミン酸分子が互いに化学的に連結して強い且つ高導電性の黒鉛フィルムを形成することができることを発見するのは驚くべきことである。高配向HAフィルム(高配向HA/GOフィルムを含める)、およびその後熱処理された別形態は、化学組成、結晶および欠陥構造、結晶配向、モルフォロジー、製造プロセス、および性質に関して可撓性黒鉛(FG)箔、グラフェン/GO/RGO紙/膜、および熱分解黒鉛(PG)とは根本的に異なっており明らかに区別できるということは明らかである。
5)上記の結論は、HA/GO懸濁液由来およびHA懸濁液由来HOGFの電気導電率の値を示す図4(C)のデータによってさらに裏づけられ、HOGFは、調査される最終HTTの全範囲にわたってFG箔シートの電気導電率の値よりもはるかにすぐれている。
【0149】
実施例8:グラフェンの添加がHAをベースとした高配向黒鉛フィルムおよびそれから得られる黒鉛フィルムの性質に与える効果
様々な量の酸化グラフェン(GO)シートをHA懸濁液に添加して、HAおよびGOシートが液体媒体中に分散される混合物懸濁液を得た。次に、上に記載したのと同じ手順に従い、様々なGO比率のHOGF試料を製造した。これらの試料の熱伝導率データを図6に要約し、それは、HA−GO混合物から製造されたHOGFの熱伝導率の値が単一成分だけから製造されたHOGFフィルムの熱伝導率の値より高いことを示す。
【0150】
さらに驚くべきことに、HAシートとGOシートとの両方が適切な比率で共存する時に観察され得る相乗効果がある。HAは、GOシート(非常に欠陥があることが知られている)がそれらの他の場合なら欠陥を有する構造物から修復するのを助けることができると思われる。また、HA分子は、GOシート/分子よりもサイズがかなり小さく、GO分子間の間隙を塞いでそれらと反応して間隙を架橋することができることもまた考えうる。これらの2つの要因はおそらく、著しく改良された導電率をもたらす。
【0151】
実施例9:様々な酸化グラフェン由来HOHAフィルムの引張強さ
全ての材料について同等の最終熱処理温度を使用して一連のHA/GO分散体由来HOGF、GO分散体由来HOGF、およびHA由来HOGFフィルムを調製した。万能材料試験機を使用して、これらの材料の引張特性を決定する。広範な熱処理温度にわたって調製されたこれらの様々な試料の引張強さおよび弾性率は、それぞれ、図7(A)および図7(B)に示される。比較のために、RGO紙および可撓性黒鉛箔の或る引張強さデータもまた図7(A)にまとめられる。
【0152】
これらのデータは、黒鉛箔由来シートの引張強さが最終熱処理温度によってわずかに増加すること(14〜29MPa)および最終熱処理温度が700〜2,800℃に増加する時にGO紙(GO紙の圧縮/加熱シート)の引張強さが23〜52MPaに増加することを示している。対照的に、HA由来HOGFの引張強さは、熱処理温度の同じ範囲について28〜93Mpaに著しく増加する。最も劇的に、HA/GO懸濁液由来HOGFの引張強さは32〜126Mpaに著しく増加する。この結果は非常に興味を引くものであり、HA/GOおよびHA分散体は、熱処理の間に化学連結および同化することができる高配向/整列された化学活性HA/GOおよびHAシート/分子を含有するが、他方、従来のGO紙中のグラフェンプレートリットおよびFG箔中の黒鉛フレークは本質的にデッドプレートリットであるという考えをさらに反映する。HAまたはHA/GOをベースとした高配向フィルムおよびその後製造された黒鉛フィルムは、それ自体新しいクラスの材料である。
【0153】
基準点として、HA−溶媒溶液をガラス表面上に単に噴霧して溶媒を乾燥させることによって得られるフィルムは、全く強度を有さない(それは非常に脆いので指でフィルムに触れるだけでフィルムを破断することができる)。>100℃の温度で熱処理した後、このフィルムはばらばらになる(無数の断片に破断される)。対照的に、高配向HAフィルム(そこで全てのHA分子またはシートが高配向されて一緒に充填される)は、1時間の間150℃で熱処理したとき、>24MPaの引張強さを有する、良い構造統合性のフィルムになる。
【0154】
実施例10:金属箔がフミン酸分子の熱誘導化学連結に与える新規な効果
図8に示されるのは3つのHA由来高配向フィルムの熱伝導率の値である。第1のフィルムは、ガラス表面から剥離されたHAフィルムを熱処理することによって得られた。第2のフィルムは、Ti表面上にコートされ、フィルムは熱処理の間にTi表面に接合された。第3のフィルムは、Cu箔表面上にコートされ、熱処理の間にCu箔表面に接合された。同じ最終熱処理温度によって、金属箔支持HAフィルムは、熱処理の前にPETフィルム表面から剥離されるフィルムの熱伝導率の値と比較して著しくより高い熱伝導率の値を示す。CuおよびTi箔は、CuまたはTiと密着しているフミン酸分子間の熱誘導化学連結または同化に或る種の触媒効果を与えることができると思われる。これは本当に予想外である。さらにもっと驚くべきことは、導電率の差が非常に大きいという発見である。さらに、Cu箔上に支持されるとき、1,250℃で熱処理後のHAフィルムは1,432W/mKの熱伝導率を示す。CuまたはTiによって触媒される利点なしに同じ時間の間2,500℃で熱処理した後のHA由来フィルムによって同じ値が達成された。
【0155】
実施例11:アノード側およびカソード側のフミン酸接合金属箔集電体を含有するLi−Sセル
3つの(3)Li−Sセルを作製して試験したが、各々、アノードとしてリチウム箔活物質、カソード活物質として硫黄/膨張黒鉛複合物(75/25重量比)、電解質としてDOL中の1MのLiN(CFSO、およびセパレーターとしてCelgard2400を有する。第1のセル(比較のための基準セル)は、アノード集電体として厚さ10μmのCu箔およびカソード集電体として厚さ20μmのAl箔を含有する。第2のセル(比較のための別の基準セル)は、アノード集電体として厚さ10μmのGO−樹脂層およびカソード集電体として14μmのRGOでコートされたAl箔のシートを有する。第3のセルは、アノード集電体として本発明のHA接合Cu箔(全厚さ12μm)およびカソード集電体として厚さ20μmの、HAでコートされたAl箔のシートを有する。
【0156】
電荷蓄積容量をサイクル数の関数として定期的に測定して記録した。本明細書で言及される比放電容量は、カソード複合体の単位質量当たり(カソード活物質、導電性添加剤または支持体、および結合剤の重量を計数するが、集電体を除外する)、放電する間にカソードに入れられる全電荷である。この節に示される比エネルギーおよび比出力値は、全セル重量(アノードおよびカソード、セパレーターおよび電解質、集電体、およびパッキング材料を含める)に基づいている。所望の数の繰り返される充電および再充電サイクルの後の選択された試料の形態的またはミクロ構造変化が、透過型電子顕微鏡検査(TEM)および走査電子顕微鏡検査(SEM)の両方を使用して観察された。
【0157】
図9(A)は、充電/放電サイクル数の関数として3つのセルそれぞれの放電容量値を示す。それぞれのセルは、比較を容易にするために100mAhの初期セル容量を有するように設計された。アノード側およびカソード側の両方の本発明のHA接合集電体を特徴とするLi−Sセルが最も安定なサイクル挙動を示し、50サイクル後に6%の容量損失を受けることは明らかである。GO/樹脂でコートされたCuとGOでコートされたAl集電体とを備えるセルは、50サイクル後に23%の容量の減少を起こす。Cu箔アノード集電体とAl箔カソード集電体とを備えるセルは、50サイクル後に26%の容量の減少を起こす。セルのサイクル経過後の検査は、全ての先行技術の電極内のAl箔はひどい腐食問題の難点があることを示す。対照的に、本発明のフミン酸酸化物接合Al集電体は無傷のままである。
【0158】
図9(B)は、3つのセルのラゴーンプロット(質量出力密度対質量エネルギー密度)を示す。我々のHA接合金属箔集電体は驚くべきことに、アノード側の先行技術のグラフェン/樹脂でコートされた集電体(カソード側にGOでコートされたAl箔を使用)、およびCu/Al集電体と比較して、Li−Sセルに対してより高いエネルギー密度およびより高い出力出力密度の両方を与えることに留意されたい。これは、Cu箔がグラフェンフィルムおよびHAフィルムの電気導電率よりも1桁超高い電気導電率を有することは全く予想外である。
【0159】
実施例12:アノード側およびカソード側のHAによって可能にされる集電体を含有するマグネシウムイオンセル
カソード活物質(ケイ酸マンガンマグネシウム、Mg1.03Mn0.97SiO)の調製のために、試薬銘柄KCl(融点=780℃)は、真空下で150℃で3時間の間乾燥させた後に融剤として使用された。出発原料は、酸化マグネシウム(MgO)、炭酸マンガン(II)(MnCO)および二酸化ケイ素(SiO、15〜20nm)粉末であった。前駆体化合物の理論量は、Mg:Mn:Siについて1.03:0.97:1のモル比で制御された。混合物(融剤/反応体モル比=4)を10分間の間乳鉢内で乳棒によって手作業で微粉砕し、次にコランダムるつぼ内に流し込んだ。次いで、粉末混合物を真空中で5時間の間120℃で乾燥させて、混合物中の含水量を最小にした。その後、混合物を管状炉に直ちに移し、2時間の間350℃の還元雰囲気(Ar+5wt%H2)内で加熱して、カーボネート基を除去した。この後に、6時間の間2℃/分の速度で様々な温度で最終焼成を行ない、次に自然に室温に冷却した。最後に、生成物(ケイ酸マンガンマグネシウム、Mg1.03Mn0.97SiO)を3回脱イオン水で洗浄して一切の残りの塩を溶解し、遠心分離によって分離し、2時間の間100℃の真空下で乾燥させた。
【0160】
電極(アノードまたはカソードのどちらか)は典型的に、85wt%の電極活物質(例えばMg1.03Mn0.97SiO粒子、7wt%のアセチレンブラック(Super−P)、および8wt%のポリフッ化ビニリデン結合剤(N−メチル−2−ピロリドン(pyrrolidinoe)(NMP)中に溶解させたPVDF、5wt%の固形分)を混合してスラリー状混合物を形成することによって作製された。所期の集電体上にスラリーをコートした後、得られた電極を2時間の間真空中で120℃で乾燥させて、加圧する前に溶媒を除去した。異なった集電体を有する3つのセルを調査した:アノード集電体およびカソード集電体としてHA接合Cu箔およびHA接合Al箔をそれぞれ有する第1のセル;アノード集電体およびカソード集電体としてGO/樹脂でコートされたCu箔およびGOでコートされたAl箔(予備エッチングなし)をそれぞれ有する第2のセル(先行技術のセル);Cu箔アノード集電体およびAl箔カソード集電体を有する第3のセル(先行技術のセル)。
【0161】
その後、カソードとして用いるために電極を円板(直径=12mm)に切り分けた。マグネシウム箔の薄いシートをアノード集電体表面に付着させ、そして次に、1枚の多孔性セパレーター(例えば、Celgard2400膜)をマグネシウム箔の上に積み重ねた。カソード集電体上にコートされた1枚のカソード円板をカソードとして使用し、セパレーター層の上に積み重ねて、CR2032コイン型セルを形成した。使用された電解質は、THF中の1MのMg(AlClEtBu)であった。セルの組立は、アルゴン充填グローブボックス内で行われた。CV測定は、1mV/sの走査速度でCHI−6電気化学ワークステーションを使用して実施された。また、セルの電気化学的性能は、Arbinおよび/またはLAND電気化学ワークステーションを使用して、50mA/g〜10A/g(いくつかのセルについては100A/gまで)の電流密度で定電流充電/放電サイクル経過によって評価された。
【0162】
図10は、充電/放電サイクル数の関数として3つのセルそれぞれのセル放電比容量値を示す。アノード側およびカソード側の両方の本発明の集電体を特徴とするMgイオンセルは、最も安定なサイクル挙動を示し、25サイクル後に2.5%の容量損失を受けることは明らかである。GO/樹脂でコートされたCu箔集電体とGOでコートされたAl箔集電体とを備えるセルは、25サイクル後に17%の容量の減少を起こす。Cu箔アノード集電体とAl箔カソード集電体とを備えるセルは、25サイクル後に30%の容量の減少を起こす。セルのサイクル経過後の検査は、GO/樹脂でコートされたCu箔集電体およびGOでコートされたAl箔集電体が膨張しており、カソード層からの若干の離層を示し、そしてAl箔はひどい腐食問題の難点があることを示す。対照的に、本発明のHA接合金属箔集電体は無傷のままである。
【0163】
実施例13:様々な所期のバッテリーまたはスーパーキャパシタのための様々な集電体の化学的および機械的適合性試験
上の実施例11および12において実証されたように、バッテリーまたはスーパーキャパシタの電解質に対して集電体の長時間安定度は主な問題である。様々な集電体の化学安定性を理解するために、いくつかの代表的な電解質中に集電体を暴露する主作業を始めた。長時間(例えば30日間)の後、集電体を電解質溶液から取り出し、光学および走査電子顕微鏡検査(SEM)を使用して観察した。結果の一覧が以下の表3に記載され、それらは、本発明のHA接合金属箔集電体が、バッテリーおよびスーパーキャパシタにおいて一般的に使用される全ての種類の液体電解質と非常に適合していることを一貫して実証する。本発明の材料は、一切の化学的攻撃に耐性がある。これらのHA保護集電体は、Li/Liに対して0−5.5ボルトの電圧範囲にわたって本質的に電気化学的に不活性であり、ほぼどんなバッテリー/キャパシタ電解質とも共に使用するために適している。
【0164】
各々の集電体は、タブに接続され、そして次に、外部回路線に接続されなければならないことを指摘しておいてもよいだろう。集電体は、タブと機械的に適合していなければならず、すぐにまたは容易に固定されるかまたはそれに接合されなければならない。CVDグラフェンフィルムをタブに機械的にただ固定する時は常に容易に破断または破裂することを我々は発見した。接着剤の補助によっても、CVDフィルムは、タブまたはバッテリーセルのパッケージングに接続する手順の間に容易に破裂される。
【0165】
結論において、絶対に新しい、新規な、予想外の、明らかに区別できるクラスの高導電性材料:金属箔表面上に接合されたフミン酸由来薄フィルムを首尾よく開発した。この新しいクラスの材料の化学組成、構造(結晶完成、結晶粒径、欠陥群等々)、結晶配向、モルホロジー、製造法、および性質は、可撓性黒鉛箔、ポリマー由来熱分解黒鉛、CVD由来PG(HOPGなど)の他、自立しているかまたは金属箔上にコートされる触媒CVDグラフェン薄フィルムとは根本的に異なっており且つ明らかに区別される。本発明の材料によって示される熱伝導率、電気導電率、耐引掻性、表面硬度、および引張強さは、先行技術の可撓性黒鉛シート、離散グラフェン/GO/RGOプレートリットの紙、または他の黒鉛フィルムがおそらく達成することができるものよりももっと高い。これらのHA由来薄フィルム構造物は、すぐれた電気導電率、熱伝導率、機械的強度、表面耐引掻性、硬度、および剥がれ落ちる傾向がないことの最も良い組合せを有する。
図1A
図1B-1C】
図2
図3A-3B】
図3C
図4A-4B】
図4C
図5A
図5B-5C】
図5D
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10