(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記成分(A)のルイス塩基が、アミン、アミジン、ヒドロキシドおよびアルコキシドから選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合粒子。
前記成分(B)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定されたポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が、1,000〜3,000,000である、請求項1に記載の複合粒子。
複合粒子が前記成分(B)を含有し、25℃下、複合粒子に含まれる前記成分(B)が、重合性組成物に含まれる重合性化合物100質量部に対して1質量部以上の割合で溶解する、請求項11または12に記載のキット。
有機高分子(B)を溶媒に溶解させて有機高分子(B)の溶液を調製し、前記溶液と有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)とを混合して、有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)と前記溶媒に溶解した有機高分子(B)を含む組成物を調製する工程と、
前記組成物を乾燥させる工程とを含む、複合粒子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、本明細書では、アクリルおよびメタクリルを総称して「(メタ)アクリル」とも記載し、アクリレートおよびメタクリレートを総称して「(メタ)アクリレート」とも記載する。
【0033】
[複合粒子]
本発明の第1の複合粒子は、有機高分子(B)(以下単に「高分子(B)」ともいう)の粒子と、前記粒子中に含有された有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)とを含む。
【0034】
また、本発明の第2の複合粒子は、無機化合物(B')の粒子と、前記粒子に吸着された有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)とを含む。
【0035】
なお、前記錯体(A)を「成分(A)」と記載することもあり、その他の例も同様である。また、高分子(B)および無機化合物(B')を総称して「化合物(BB)」ともいう。また、本発明の第1、第2の複合粒子を総称して「本発明の複合粒子」ともいう。
【0036】
本発明において、「前記粒子中に含有された有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)」とは、成分(A)の全部が前記粒子内部に担持されていてもよく、一部が前記粒子表面に付着していてもよい。
【0037】
<有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)>
有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)は、有機ボラン(A1)とルイス塩基(A2)との錯体である。成分(A)では、有機ボラン(A1)の高い反応活性がルイス塩基(A2)で安定化されている。さらに、本発明の複合粒子では、成分(A)は、高分子(B)の粒子中に含有されており、または無機化合物(B')の粒子に吸着されている。
【0038】
高分子(B)の場合には、例えば高分子(B)が後述する重合性化合物に溶解することにより、成分(A)が徐放される。その後、後述する脱錯化剤(i)等が成分(A)に作用し、ルイス塩基(A2)による有機ボラン(A1)の安定化が解け、例えば有機ボラン(A1)が遊離し、重合開始剤としての機能を発揮することができる。
【0039】
無機化合物(B')の場合には、無機化合物(B’)の粒子に吸着された成分(A)が後述する重合性化合物に接触した際に、成分(A)が無機化合物(B’)の表層部から徐々に系中に拡散される。その後に脱錯化剤(i)等の作用によって有機ボラン(A1)が遊離する作用機序は先述の通りである。
【0040】
以下、有機ボラン(A1)およびルイス塩基(A2)について詳述するが、有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)は、有機ボラン(A1)とルイス塩基(A2)とが共有結合等によって結合しており、1分子内で錯体を形成している錯体であってもよい。
【0041】
有機ボラン(A1)とルイス塩基(A2)とが結合している有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)としては、例えば、(N(R
1)
m(H)
2-m−R
2O)
nBR
3-nで表わされる化合物が挙げられる。前記式中、R
1は炭素数1〜20のアルキル基であり、R
2は炭素数1〜20のアルキレン基であり、Rは炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数3〜20の飽和もしくは不飽和脂環式基、または炭素数1〜20のアルコキシ基であり、2つのRが相互に結合して環を形成していてもよく、mは1または2であり、nは1または2である。前記化合物として、具体的には、H
3C−NH−(CH
2)
2−O−B(CH
2CH
3)
2、H
3C−NH−(CH
2)
2−O−B(C
6H
11)
2等が挙げられる。
【0042】
〈有機ボラン(A1)〉
有機ボラン(A1)としては、例えば、ホウ素原子が空のp軌道または求電子的特性を有する有機ボランが挙げられる。
【0043】
有機ボラン(A1)としては、例えば、BR
3で表される化合物および前記BR
3で表される化合物の部分酸化物が挙げられる。前記式中、Bはホウ素原子であり、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数3〜20の飽和もしくは不飽和脂環式基、または炭素数1〜20のアルコキシ基であり、2つ以上のRが相互に結合して脂肪族環等の環を形成していてもよいが、活性の点から前記環を形成していない方が好ましい。Rは、好ましくはアリール基以外の前記基であり、より好ましくは前記アルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数1〜5のアルキル基である。全てのRは、同一の基であることが好ましい。
【0044】
前記BR
3で表される化合物の部分酸化物としては、例えば、前記BR
3で表される化合物1モルに対して、好ましくは0.3〜0.9モル、より好ましくは0.4〜0.6モルの酸素を付加させた部分酸化物を挙げることができる。前記BR
3で表される化合物の部分酸化物は、3つのRがそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基であるトリアルキルホウ素を部分酸化した、部分酸化トリアルキルホウ素であることが好ましい。
【0045】
BR
3で表される化合物としては、例えば、トリメチルボラン、トリエチルボラン、トリ−n−プロピルボラン、トリイソプロピルボラン等のトリプロピルボラン、トリ−n−ブチルボラン、トリイソブチルボラン、トリ−sec−ブチルボラン等のトリブチルボランなどのトリアルキルボラン;エチルジシクロヘキシルボラン、(1,3−シクロペンタジエニル)ジメチルボラン等のアルキルおよび脂環含有ボラン;フェニルジエチルボラン等のアリールジアルキルボランが挙げられる。
【0046】
有機ボラン(A1)において、1つ以上の炭素原子がホウ素原子に直接結合していることが好ましい。ただし、芳香環のようなπ電子系原子団とホウ素原子の空のp軌道とが共役可能な状態にて結合していると、トリフェニルボランのように安定化して活性が低下することがある。
【0047】
有機ボラン(A1)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
〈ルイス塩基(A2)〉
ルイス塩基(A2)としては、例えば、アミン、アミジン、ヒドロキシド、アルコキシドが挙げられ、アミンが好ましい。アミンとしては、例えば、第1級〜第3級のモノアミン、ポリアミン(ただし、これらのモノアミンおよびポリアミンにおいて、複素環式アミンおよびアミジン構造を有するアミンは除く)、複素環式アミン(ただし、アミジン構造を有するアミンを除く)が挙げられ、その他、特表2003−517009号公報に記載されている、共役イミン、水素結合受容基を有する第1級アミンが挙げられる。これらの中でも、モノアミンおよびポリアミンが好ましい。
【0049】
《第1級〜第3級のモノアミン》
モノアミンにおける水素原子の置換基としては、有機基が挙げられ、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、ポリオキシアルキル基が挙げられる。前記アリール基が有する1以上の水素原子は、アルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルデヒド基およびハロゲン原子から選ばれる少なくとも1種により置換されていてもよい。
【0050】
具体例としては、エチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ベンジルアミン、メトキシエチルアミン、メトキシプロピルアミン、メトキシブチルアミン、エトキシプロピルアミン、プロポキシプロピルアミン、エタノールアミン、ポリオキシアルキレンモノアミン等の第1級モノアミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン、N−フェニルグリシン、N−トリルグリシン等の第2級モノアミン;トリエチルアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−tert−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−p−クロルアニリン、N,N−ジメチルアニシジン、N,N−ジメチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステル、N,N−ジエチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステル、N,N−ジメチルアミノベンズアルデヒド、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジエタノール−p−トルイジン等の第3級アミンが挙げられる。これらの中でも、第1級モノアミンが好ましい。
【0051】
《ポリアミン》
ポリアミンとしては、例えば、ジアミン、トリアミン、テトラアミン等が挙げられる。
【0052】
ジアミンとしては、例えば、1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,12−ジアミノドデカン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、3−メチル−1,5−ジアミノペンタン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノブチルアミン等の脂肪族ジアミン;イソホロンジアミン等の脂環族ジアミンが挙げられる。ジアミンは、2つのアミノ基の間に、少なくとも2個の炭素原子を有することが好ましく、少なくとも3個の炭素原子を有することがより好ましい。
【0053】
トリアミンとしては、例えば、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン等の脂肪族トリアミンが挙げられる。テトラアミンとしては、例えば、トリエチレンテトラアミン等の脂肪族テトラアミンが挙げられる。トリアミンおよびテトラアミンは、アミノ基の間に、少なくとも2個の炭素原子を有することが好ましい。
【0054】
また、ポリアミンとしては、分子量が1000以下のポリオキシアルキレンポリアミンも挙げられる。ポリオキシアルキレンポリアミンとしては、例えば、ポリエチレンオキシドジアミン、ポリプロピレンオキシドジアミン、ポリプロピレンオキシドトリアミン、ジエチレングリコールジプロピルアミン、トリエチレングリコールジプロピルアミン、ポリテトラメチレンオキシドジアミン、ポリ(エチレンオキシド−iso−プロピレンオキシド)ジアミン、ポリ(エチレンオキシド−iso−プロピレンオキシド)トリアミン、トリメチロールプロパントリス(ポリ(プロピレングリコール),アミン末端)エーテルが挙げられる。
【0055】
《複素環式アミン》
複素環式アミンは、複素環中に少なくとも1個の窒素原子を有する脂肪族複素環式化合物または芳香族複素環式化合物であり、前記複素環中に1個以上の酸素原子、硫黄原子または二重結合をさらに有してもよい。複素環式アミンは、多環の少なくとも1つがその環中に窒素原子を有する化合物であってもよい。
【0056】
複素環式アミンは、式(1)で表される化合物が好ましい。
【0057】
【化1】
式(1)中、R
1は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数3〜10のシクロアルキル基であり、好ましくは水素原子またはメチル基である。Zは、それぞれ独立に酸素原子、硫黄原子または−N(R
2)−であり、好ましくは−N(R
2)−である。R
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数7〜10のアラルキル基であり、好ましくは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、より好ましくは水素原子またはメチル基である。xはそれぞれ独立に1〜9の整数であり、ただし全てのxの合計は2〜10であることを条件とする。xは好ましくは1〜4の整数であり、ただし全てのxの合計は好ましくは3〜5である。yはそれぞれ独立に0または1である。なお、式中の−NH−における水素原子はアミノ基またはアミノアルキル基に置き換えられてもよく、環構造を形成する一部のアルキレン基がアルケニレン基に置き換えられていてもよい。
【0058】
複素環式アミンとしては、例えば、アジリジン、ピロリジン、3−ピロリン、ピペリジン、モルホリン、N−(3−アミノプロピル)モルホリン、ピペラジン、1−アミノ−4−メチルピペラジン、ホモピペラジン、チアゾリジン等の上記式(1)で表される化合物のほか、1,3,3−トリメチル−6−アザビシクロ[3.2.1]オクタン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、4−(N,N−ジメチルアミノ)−ピリジンが挙げられる。
【0059】
《アミジン》
アミジンは、式(2)で表される化合物が好ましい。
【0060】
【化2】
式(2)中、R
1〜R
3は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数3〜10のシクロアルキル基であり、好ましくは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数5〜6のシクロアルキル基である。R
1は、−N(R
3)
2であってもよい。2つ以上のR
1〜R
3が相互に結合して、単環および二環等の環構造を形成してもよく、当該環は1個以上の窒素原子、酸素原子、硫黄原子または二重結合を有してもよい。具体的には、R
2と一方のR
3とが結合した単環構造や、R
1と一方のR
3とが結合し、R
2と他方のR
3とが結合した二環構造が挙げられる。
【0061】
アミジン構造を有するアミンとしては、例えば、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、2−メチル−2−イミダゾリン、2−メチルイミダゾール、テトラヒドロピリミジン、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンが挙げられる。
【0062】
《ヒドロキシド、アルコキシド》
ルイス塩基(A2)としては、(R−O
-)
mM
n+で表される、ヒドロキシドおよび/またはアルコキシドを用いることもできる。前記式中、Rはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基である。mは整数である。M
n+は対イオンであり、例えば、ナトリウム、カリウム、テトラアルキルアンモニウムまたはそれらの組み合わせであり、nは整数である。
【0063】
《有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)の調製》
有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)は、公知の方法により調製することできる。通常、ルイス塩基(A2)を、反応系をゆっくり攪拌しながら、窒素等の不活性ガス雰囲気下で、有機ボラン(A1)と反応させる。有機ボラン(A1)を反応系に滴下し、発熱が観察される場合には冷却することが好ましい。反応温度は、高い蒸気圧を有する化合物の場合には、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下にする。調製された錯体は冷暗所で密閉系の容器内で保管することが好ましい。
【0064】
錯体中の有機ボラン(A1)およびルイス塩基(A2)のモル比(A2/A1)は、好ましくは0.5〜3.0であり、より好ましくは1.0〜2.0である。このような態様であると、錯体の安定性、および有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)を接着材または充填材として使用する場合の接着性の点で好ましい。
【0065】
前記錯体の製造で用いられる溶媒は、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル;ヘキサン、ヘプタン等の低分子量アルカンが挙げられる。反応終了後、溶媒は、例えばロータリーエバポレーターを用いて除去する。
【0066】
<化合物(BB)>
高分子(B)の粒子中に成分(A)が含有されていることにより、あるいは無機化合物(B')の粒子に成分(A)が吸着されていることにより、本発明の複合粒子を大気下で保存しても、成分(A)の分解は進行し難くなる。このため、本発明の複合粒子に含まれる成分(A)は、長期保存後においても重合開始剤としての性能を発現することができる。
【0067】
《高分子(B)》
以下、高分子(B)を用いる態様について説明する。
【0068】
高分子(B)のポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000〜3,000,000、より好ましくは2,000〜2,000,000、特に好ましくは3,000〜1,000,000である。前記分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)等により測定する。
【0069】
高分子(B)としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、メタクリルブタジエンスチレン(MBS)などのブタジエン系重合体、ポリエチレングリコール、ポリプロプレングリコール、1級アミンを有するポリアリルアミン、1級アミンを有するポリアクリルアミン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド(ナイロン
TM)、シリコーン樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、フェノール樹脂、およびフッ素樹脂などの合成ポリマー;ならびにセルロース、酢酸セルロース、キトサン、およびポリリジンなどの天然ポリマーが挙げられる。これらの中でもポリ(メタ)アクリル酸エステル、1級アミンを有するポリアリルアミン、1級アミンを有するポリアクリルアミンが特に好適に使用される。
【0070】
ポリ(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、後述する重合性化合物に含まれる(メタ)アクリレート化合物の単独重合体および/または共重合体が挙げられる。(メタ)アクリレート化合物は、分子内に酸性基を有しない(メタ)アクリレート化合物であることが好ましいが、複合粒子の保存安定性に影響を与えない範囲であれば分子内に少なくとも1つの酸性基を有する(メタ)アクリレート化合物を用いてもよい。
【0071】
(メタ)アクリレート化合物の単独重合体および/または共重合体としては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリプロピル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレートとエチル(メタ)アクリレートとの共重合体が挙げられ、ポリメチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0072】
高分子(B)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
高分子(B)は、室温で固体であることが好ましい。
【0074】
高分子(B)の量は、高分子(B)中に成分(A)を含有させる観点から、成分(A)100質量部に対して、好ましくは50〜5,000質量部、より好ましくは100〜3,000質量部、特に好ましくは150〜2,000質量部である。
【0075】
《無機化合物(B’)》
以下、無機化合物(B')を用いる態様について説明する。
【0076】
無機化合物(B')としては、その固体表面が塩基性を示すものが、成分(B’)の粒子に吸着させる成分(A)の安定性の観点から好ましい。例えば、Mg
xAl
y(OH)
z CO
3・nH
2Oで表わされる化合物(前記式中、x、y、zは正数で、関係式:0.18≦y/(x+y)≦0.32、2.0≦z/(x+y)≦2.5を満たし、nは0〜5の数である)が挙げられ、具体例としては、Mg
4.5Al
2(OH)
13CO
3・3.5H
2OやMg
6Al
2(OH)
16CO
3・4H
2Oが挙げられる。前記式中のxは、通常は1〜10、好ましくは4〜6であり、yは、通常は1〜4、好ましくは1〜2であり、zは、通常は10〜20、好ましくは12〜18である。これらのx、yおよびzは前述した関係式を満たす。nは、通常は0〜5、好ましくは2〜4である。
【0077】
無機化合物(B')としては、マグネシウム・アルミニウム系固溶体も挙げられ、MgO−Al
2O
3で表される固溶体構造を有する化合物、特に(Mg
1-xAl
x)O
1+0.5x(前記式中、xは0<x<0.4を満たす数である)が挙げられる。具体例としては、例えば、Mg
0.7Al
0.3O
1.15やMg
0.75Al
0.25O
1.125が挙げられ、Mg
0.7Al
0.3O
1.15が好ましい。
【0078】
無機化合物(B’)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、無機化合物(B’)は、有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)の安定性を損なわなければ、前記高分子(B)と組み合わせても何ら差支えない。
【0079】
なお、無機化合物(B’)は、ケイ酸などの固体酸と成り得るものを含有しないことが、成分(A)の脱錯化の観点から好ましい。
【0080】
無機化合物(B')の吸液量は、JIS K 5101に準じて測定した場合において、好ましくは50mL/100g以上、より好ましくは150mL/100g以上、さらに好ましくは200mL/100g以上である。このような態様であれば、重合を開始させることができる有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)の絶対量が不足することが無く好ましい。無機化合物(B')の吸液量の上限値は特に限定されないが、例えば、2000mL/100g、1500mL/100gまたは1200mL/100gである。
【0081】
成分(A)を無機化合物(B')の表層部や内層部に担持させる観点から、無機化合物(B')の含有量を100質量部としたときに成分(A)の含有量は、好ましくは1〜1000質量部、より好ましくは10〜800質量部、さらに好ましくは30〜600質量部である。
【0082】
無機化合物(B')の粒径は特に制限はないが、平均粒径が通常は100μm以下、好ましくは70μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。平均粒径は、粒度分布測定装置(レーザー回折/散乱法)で測定される粒径分布を体積累積分布で表したときの50%粒径(d50、メジアン径)である。平均粒径の下限は特に限定されないが、通常は0.01μm、好ましくは0.1μmである。このような態様であると、接着材として使用する際に操作性が良く、また補綴物との適合が良く浮き上がりを防止できる。
【0083】
<複合粒子の製造>
高分子(B)を用いた本発明の複合粒子の製造方法は、高分子(B)を溶媒に溶解させて高分子(B)の溶液を調製し、前記溶液と有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)とを混合して、有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)と前記溶媒に溶解した高分子(B)を含む組成物を調製する工程と、前記組成物を乾燥させる工程とを含む。なお、本発明の複合粒子は、高分子(B)を溶融させ、溶融した高分子(B)と有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)とを混合する工程を経て製造してもよい。
【0084】
また、無機化合物(B')を用いた本発明の複合粒子の製造方法は、溶媒に、有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)を溶解または分散させ、無機化合物(B')を分散させた組成物を調製する工程と、前記組成物を乾燥させる工程とを含む。
【0085】
高分子(B)は通常固体であり粒子状であるため、単に有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)と高分子(B)とを混合すると、有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)は高分子(B)の粒子の表面に付着し、高分子(B)の粒子中に含有させることは困難である。しかしながら、例えば、高分子(B)を溶媒に溶解した溶液と有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)とを混合することにより、前記溶液中に有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)を分散させることができ、その後、乾燥させて溶媒を除去することにより、有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)を高分子(B)の粒子中に含有させることができる。無機化合物(B')の場合も、前記溶媒に分散、乾燥させることで、有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)を無機化合物(B’)の粒子に吸着させることができる。
【0086】
前記溶媒は、高分子(B)を溶解可能である。また、前記溶媒は、無機化合物(B’)を分散可能である。ここで、「溶解」とは、前記溶媒と高分子(B)とを混合した際に、白濁または沈殿を生じないことをいう。これには溶解度パラメーターを考慮して溶媒を適宜選択することが好ましい。
【0087】
前記溶媒は、大気圧下での沸点が、好ましくは1〜300℃、より好ましくは5〜200℃、特に好ましくは10〜150℃である。沸点が、前記範囲内にある溶媒を用いることにより、複合粒子の製造過程において、有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)と、化合物(BB)と、溶媒とを含む組成物を乾燥させる際に、容易に溶媒を除去することができる。
【0088】
前記溶媒は特に制限はないが、有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)との反応性を有しない観点から、無極性溶媒または非プロトン性極性溶媒が好ましい。
【0089】
前記溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼンおよびトルエンなどの炭化水素;クロロベンゼン、フルオロベンゼン、ジクロロエタンおよび所謂フロン
TMなどのハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサンおよびテトラヒドロフランなどのエーテル;アセトン、メチルエチルケトンおよびジエチルケトンなどのケトン;酢酸メチル、酢酸エチルおよび酢酸イソプロピルなどのエステルが挙げられる。これらの中では炭化水素、ケトン、エーテルおよびエステルが好ましく、とりわけヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチルが特に好ましい。溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
高分子(B)の使用量は、有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)100質量部に対して、好ましくは50〜5,000質量部、より好ましくは100〜3,000質量部、特に好ましくは150〜2,000質量部である。
【0091】
有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)を無機化合物(B')の表層部や内層部に吸着、担持させる観点から、無機化合物(B')の使用量を100質量部としたときに有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)の使用量は、好ましくは1〜1000質量部、より好ましくは10〜800質量部、さらに好ましくは30〜600質量部である。
【0092】
前記溶媒の配合量は、高分子(B)を溶解し、かつ、組成物の乾燥後に高分子(B)の粒子中に有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)が含有された複合粒子を得る観点から、高分子(B)100質量部に対して、好ましくは50〜10,000質量部、より好ましくは100〜4,000質量部、特に好ましくは200〜3,000質量部である。
【0093】
前記溶媒の配合量は、無機化合物(B’)を均一に分散させ、かつ、組成物の乾燥後に無機化合物(B’)の粒子に有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)が吸着された複合粒子を得る観点から、無機化合物(B')100質量部に対して、好ましくは50〜5,000質量部、より好ましくは100〜3,000質量部、特に好ましくは200〜2,000質量部である。
【0094】
前記組成物には、有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)、化合物(BB)および前記溶媒に加えて、必要に応じて錯化剤を配合してもよい。錯化剤を配合することにより、複合粒子の保存安定性をさらに向上させることができる。錯化剤としては、例えば、前述のルイス塩基(A2)が挙げられる。錯化剤の配合量は、有機ボラン-ルイス塩基錯体(A)100質量部に対して、好ましくは0.01〜500質量部、より好ましくは0.1〜100質量部である。
【0095】
前記組成物は、有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)、化合物(BB)、前記溶媒および必要に応じて錯化剤を、好ましくは均一になるまで撹拌し、混合することによって得られる。混合方法としては、例えば、ビーカー等に前記溶媒と高分子(B)とを加え撹拌モーターにて撹拌した後、有機ボラン―ルイス塩基錯体(A)および必要に応じて錯化剤を混合する等の方法が挙げられる。また、混合方法としては、例えば、ビーカー等に前記溶媒と有機ボラン―ルイス塩基錯体(A)とを加え撹拌モーターにて撹拌した後、無機化合物(B’)および必要に応じて錯化剤を混合する等の方法が挙げられる。なお、無機化合物(B')の前記溶媒への分散性を高めるために超音波を併用しても何ら差支えない。
【0096】
その後、前記組成物を乾燥させて溶媒を除去する。このとき、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下で、好ましくは300時間以下、より好ましくは200時間以下乾燥させる。必要に応じて加熱してもよく、また、凍結乾燥させてもよい。温度は、例えば、−200℃まで下げることができる。
【0097】
その後、溶媒を除去した組成物を粉砕して粒子状に成形することが好ましい。粉砕は、例えば、凍結粉砕機で行うことができる。
【0098】
また、有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)と前記溶媒に溶解した高分子(B)を含む組成物をスプレードライにて乾燥させることもできる。このとき、前記組成物の粘度を調製することにより粉砕する工程を経なくてもよい。
【0099】
複合粒子の平均粒径は、一実施態様において、好ましくは0.001〜200μm、より好ましくは0.005〜100μm、さらに好ましくは0.01〜80μmである。高分子(B)を用いる場合、このような平均粒径が好ましい。
【0100】
複合粒子の平均粒径は、一実施態様において、好ましくは0.01〜100μm、より好ましくは0.01〜70μm、さらに好ましくは0.1〜50μmである。無機化合物(B')を用いる場合、このような平均粒径が好ましい。
【0101】
平均粒径は、粒度分布測定装置(レーザー回折/散乱法)で測定される粒径分布を体積累積分布で表したときの50%粒径(d50、メジアン径)である。
【0102】
本発明の複合粒子は、粉体等の固体の形状をしている。このため、液状、ペースト状と異なり、有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)が化合物(BB)の粒子に含有又は吸着されている状態を維持しやすく、保存安定性に優れる。
【0103】
[キット]
本発明のキットは、上述した複合粒子またはそれを含む組成物(以下「重合開始剤組成物(1)」または「組成物(1)」ともいう)と、重合性化合物を含む重合性組成物(以下「組成物(2)」ともいう)とを有する。上記キットでは、例えば、それぞれ組成物(1)と、組成物(2)とが別々の容器内に保存される。
【0104】
なお、本発明の複合粒子は、2種以上を用いてもよい。例えば、本発明の第1の複合粒子と、本発明の第2の複合粒子とを併用してもよい。
【0105】
<重合開始剤組成物(1)>
重合開始剤組成物(1)は、複合粒子またはそれを含む組成物である。組成物(1)は、重合性組成物(2)と混合した際に重合速度や重合度を向上させる観点から、前述した高分子(B)をさらに含んでもよい。組成物(1)は、必要に応じて、後述する充填材(iii)、その他成分(iv)等をさらに含んでもよい。長期保存安定性の観点から、組成物(1)に配合する成分は、化合物(BB)を溶解しない成分であることが好ましい。
【0106】
化合物(BB)として高分子(B)を用いる場合、複合粒子に含まれる高分子(B)は、組成物(2)に含まれる重合性化合物100質量部に対して、25℃下、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上溶解する高分子(B)であることが好ましい。ここで、「溶解する」とは、高分子(B)と重合性化合物とを混合した際に、白濁または沈殿を生じないことをいう。重合性化合物に前記範囲内の量で溶解する高分子(B)を用いることにより、組成物(1)と、重合性化合物を含む組成物(2)とを混合した際に、高分子(B)が重合性化合物に溶解する。これにより、高分子(B)から有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)が徐放される。
【0107】
組成物(1)100質量%中の複合粒子の含有量は、好ましくは1〜100質量%、より好ましくは3〜80質量%、特に好ましくは5〜60質量%である。
【0108】
<重合性組成物(2)>
組成物(2)は、脱錯化剤(以下「脱錯化剤(i)」ともいう)を含有することが好ましく、分子内に酸性基を有しない重合性化合物(以下「重合性化合物(ii)」ともいう)を含有することが好ましい。組成物(2)は、必要に応じて、さらに充填材(iii)、その他成分(iv)等を含んでもよい。
【0109】
〈脱錯化剤(i)〉
脱錯化剤(i)は、重合開始剤である有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)から有機ボラン(A1)を遊離させるようにルイス塩基(A2)に対して反応性を有する。
【0110】
有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)から有機ボラン(A1)を遊離させることにより、有機ボラン(A1)が重合開始剤として働き、重合性化合物の重合を速やかに開始することができ、硬化物を得ることができる。
【0111】
脱錯化剤(i)の一例であるアミン反応性化合物は、アミンと反応し、それにより有機ボランをアミンとの化学的結合から分離することにより、有機ボラン−アミン錯体において有機ボランを遊離させる。アミン以外のルイス塩基(A2)でも同様である。
【0112】
好ましいアミン反応性化合物は、一般に周囲条件下で容易に用いられかつ硬化され得る組成物をもたらすように、室温程度、例えば20〜22℃程度において、アミンとの反応生成物を容易に形成し得るような物質である。
【0113】
脱錯化剤(i)としては、例えば、酸、アルデヒド、イソシアネート、酸塩化物、スルホニルクロライド、これらの2種以上の混合物が挙げられ、好ましくは酸である。ブレンステッド酸およびルイス酸の両方共が用いられ得る。Pociusの米国特許第5,718,977号は、第9欄第1〜15行(本明細書において前記欄の開示化合物を援用する)において、好ましい酸化合物を記載する。
【0114】
本発明のキットにおいて、脱錯化剤(i)の量は、組成物(1)中の有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)と組成物(2)中の分子中に酸性基を有しない重合性化合物(ii)との合計100質量部に対して、通常は0.01〜500質量部、好ましくは0.1〜200質量部、より好ましくは1〜100質量部である。このような態様であると、有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)を解離させ、それにより有機ボランが重合性化合物の重合を良好に開始できる点で好ましい。
【0115】
脱錯化剤(i)としては、分子内に少なくとも1つの酸性基を有する重合性化合物であることが好ましい。
【0116】
《分子内に少なくとも1つの酸性基を有する重合性化合物》
分子内に少なくとも1つの酸性基を有する重合性化合物は、分子内に、ラジカル重合ができる少なくとも1種のエチレン性不飽和基と、少なくとも1つの酸性基とを有する化合物のことである。酸性基としては、例えば、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基等のカルボン酸基、リン酸基、チオリン酸基、ピロ燐酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基が挙げられる。前記重合性化合物は、酸性基を1種有してもよく、2種以上有していてもよい。
【0117】
前記重合性化合物は、分子内に少なくとも1つの酸性基を有する(メタ)アクリレート化合物、それ以外の分子内に少なくとも1つの酸性基を有する重合性化合物が挙げられるが、複合粒子中の高分子(B)の溶解性の観点から、また無機化合物(B’)を用いる場合においても、(メタ)アクリレート化合物であることが好ましい。
【0118】
前記(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、(メタ)アクリレートモノマー、(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。
【0119】
前記(メタ)アクリレートモノマーとしては、カルボキシル基およびそれに相当する官能基(カルボン酸無水物基等)を有する(メタ)アクリレートモノマー、リン酸基またはチオリン酸基を有する(メタ)アクリレートモノマー、ピロ燐酸基を有する(メタ)アクリレートモノマー、スルホン酸基を有する(メタ)アクリレートモノマー、ホスホン酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。
【0120】
カルボキシル基およびそれに相当する官能基(カルボン酸無水物基等)を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸、およびこれらの酸無水物が挙げられる。
【0121】
具体的には、(メタ)アクリル酸;11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸(メタクリレートの場合、MAC−10)等の1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基と1つ以上のカルボキシル基とを有する脂肪族カルボン酸およびその無水物;4−(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸(メタクリレートの場合:4−MET、無水物のメタクリレートの場合:4−META)、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸、1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルピロメリット酸、4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシ]ブチルトリメリット酸等の、1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する鎖状炭化水素基を持ち、1つ以上のカルボキシル基を有する単環系芳香族カルボン酸およびその無水物;6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸等の、1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する鎖状炭化水素基を持ち、1つ以上のカルボキシル基を有する多環系芳香族カルボン酸およびその無水物;4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシ]ブチルトリメリット酸等の、1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基と1つ以上の水酸基等の親水性官能基とを有する鎖状炭化水素基を持ち、1つ以上のカルボキシル基を有する単環系芳香族カルボン酸およびその無水物;2,3−ビス(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレート等の、1つ以上のカルボキシル基を有するベンゾイルオキシを1つ以上有するアルコールの(メタ)アクリレート;2,3または4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸等の、(メタ)アクリロイルオキシを1つ以上有する安息香酸;O−(メタ)アクリロイルオキシ−N−(メタ)アクリロイルチロシン、O−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン等の、N−(メタ)アクリロイル基および/またはO−(メタ)アクリロイルオキシ基を有するアミノ酸;N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−O−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸(メタクリレートの場合:5−MASA)、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸等の、Nおよび/またはO−モノまたはジ(メタ)アクリロイルアミノ安息香酸、N−フェニルグリシンまたはN−トリルグリシンとグリシジル(メタ)アクリレートとの付加物、4−[(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸、3または4−[N−メチル−N−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸等の、水酸基等の親水性基と(メタ)アクリロイルオキシ基を有する鎖状炭化水素基がアミノ基および/またはカルボキシル基に結合したアミノフタル酸が挙げられる。これらの中でも、11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸(MAC−10)、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸(4−MET)、4−METの無水物(4−META)、およびN−メタクリロイル−5−アミノサリチル酸(5−MASA)から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0122】
リン酸基またはチオリン酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェート、2および/または3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシドホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルアシドホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルアシドホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルアシドホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルアシドホスフェート等の、1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するアルキルアシドホスフェート;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−p−メトキシフェニルアシドホスフェート等の、1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するアルキル基と0個以上のその他の置換基とを有する芳香族系アシドホスフェートが挙げられる。これらの化合物におけるリン酸基は、チオリン酸基に置き換えることができる。これらの中でも、2−メタクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート(Phenyl P)、および10−メタクリロイルオキシデシルアシドホスフェート(MDP)から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0123】
ピロ燐酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、ピロ燐酸ジ{2−(メタ)アクリロイルオキシエチル}、ピロ燐酸ジ{4−(メタ)アクリロイルオキシブチル}、ピロ燐酸ジ{6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル}、ピロ燐酸ジ{8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル}、ピロ燐酸ジ{10−(メタ)アクリロイルオキシデシル}等のピロ燐酸ジ{(メタ)アクリロイルオキシアルキル}化合物が挙げられる。
【0124】
スルホン酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2または1−スルホ−1または2−プロピル(メタ)アクリレート、1または3−スルホ−2−ブチル(メタ)アクリレート、3−ブロモ−2−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシ−1−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート等の、1つ以上のスルホン酸基と0個以上のその他置換基(例:アルキル、ハロゲン、アルコキシ)とを有するアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0125】
ホスホン酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、3−(メタ)アクリロキシプロピル−3−ホスホノプロピオネート、3−(メタ)アクリロキシプロピルホスホノアセテート、4−(メタ)アクリロキシブチル−3−ホスホノプロピオネート、4−(メタ)アクリ ロキシブチルホスホノアセテート、5−(メタ)アクリロキシペンチル−3−ホスホノプ ロピオネート、5−(メタ)アクリロキシペンチルホスホノアセテート、6−(メタ)アクリロキシヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロキシヘキシルホスホノアセテート、10−(メタ)アクリロキシデシル−3−ホスホノプロピオネート、10−(メタ)アクリロキシデシルホスホノアセテート、2−(メタ)アクリロキシエチル−フェニルホスホネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホン酸、N−(メタ)アクリロイル−ω−アミノプロピルホスホン酸が挙げられる。
【0126】
前記(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、前記(メタ)アクリレートモノマーの2〜1000量体、好ましくは10〜500量体が挙げられる。
【0127】
分子内に少なくとも1つの酸性基を有する重合性化合物としては、前記(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。
【0128】
(メタ)アクリレート化合物以外の前記重合性化合物としては、例えば、フマル酸、マレイン酸等の、ビニル基にカルボキシル基が直接結合した単量体;p−ビニル安息香酸等の、ビニル基とカルボキシル基との間に芳香環等の基が挿入されている単量体;1,1−ジメチル−2−スルホエチル(メタ)アクリルアミド等の、1つ以上のスルホン酸基と0個以上のその他置換基(例:アルキル、ハロゲン、アルコキシ)とを有するアルキル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0129】
前記重合性化合物は、有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)から有機ボラン(A1)を遊離させてラジカル重合を開始させる役割を果たすことはもちろん、硬組織への重合性化合物の浸透および重合性を高める役割がある。4−MET、4−META、Phenyl PおよびMDPから選ばれる少なくとも1種がさらに好ましく、4−MET、4−METAおよびMDPから選ばれる少なくとも1種が特に好ましい。
【0130】
前記重合性化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0131】
脱錯化剤(i)としての前記重合性化合物の量は、組成物(1)中の有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)と組成物(2)中の分子内に酸性基を有しない重合性化合物(ii)との合計100質量部に対して、通常は0.01〜500質量部、好ましくは0.1〜200質量部、より好ましくは1〜100質量部である。このような態様であると、有機ボランが重合性化合物の重合を良好に開始できる点で好ましい。
【0132】
〈分子内に酸性基を有しない重合性化合物(ii)〉
分子内に酸性基を有しない重合性化合物(ii)は、分子内に、ラジカル重合ができる少なくとも1種のエチレン性不飽和基を有し、酸性基を有しない化合物のことである。酸性基としては、例えば、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基等のカルボン酸基、リン酸基、チオリン酸基、ピロ燐酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基が挙げられる。
【0133】
前記重合性化合物(ii)は、分子内に酸性基を有しない(メタ)アクリレート化合物、それ以外の酸性基を有しない重合性化合物が挙げられるが、複合粒子中の高分子(B)の溶解性の観点から、また無機化合物(B’)を用いる場合においても、(メタ)アクリレート化合物であることが好ましい。
【0134】
前記(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、(メタ)アクリレートモノマー、(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。
【0135】
前記(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレートおよびテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の、1価のアルコール(特に炭素数1〜12のアルカノール)の(メタ)アクリル酸エステル;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ペンタプロピレングリコール、グリセリンおよびトリメチロールプロパン等の多価アルコールのモノ(メタ)アクリル酸エステルおよびジ(メタ)アクリル酸エステル;エトキシ化ジフェノールプロパンおよびプロポキシ化ジフェノールプロパンのジ(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0136】
(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、前記(メタ)アクリレートモノマーの2〜1,000量体、好ましくは10〜500量体が挙げられる。
【0137】
分子内に酸性基を有しない重合性化合物としては、前記(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。
【0138】
(メタ)アクリレート化合物以外の前記重合性化合物としては、例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−((メタ)アクリロイル)モルホリン、N−((メタ)アクリロイル)ピペリジン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等のアルキル(メタ)アクリルアミド系化合物が挙げられる。
【0139】
前記重合性化合物(ii)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0140】
〈充填材(iii)〉
重合性組成物(2)は、所望により充填材(iii)を含有してもよい。充填材(iii)を用いることにより、重合性組成物(2)の粘度を調整したり、所望の重合速度または硬化時間になるように調整したりすることができる。
【0141】
充填材(iii)としては、例えば、無機フィラー、有機フィラー、または有機成分と無機成分とを複合した有機質複合フィラーが挙げられる。
【0142】
無機フィラーとしては、例えば、無定形シリカ、アルミナ、石英、アルミナ石英、シリカ−アルミナ化合物、シリカ−ジルコニア化合物、シリカ−チタニア化合物、酸化チタン、ガラス(バリウムガラスを含む)、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、雲母、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイトが挙げられる。無機フィラーは、あらかじめシランカップリング剤やチタネートカップリング剤などで表面処理されていてもよい。
【0143】
有機フィラーとしては、重合性化合物に実質的に溶解しないポリマーであり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレンプロピレンターポリマー、ポリイソプレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、シリコーンポリマーおよびアクリル酸エステル共重合体等のポリマーからなるフィラーが挙げられる。
【0144】
有機質複合フィラーとしては、例えば、上記無機フィラー表面を重合性化合物で重合して被覆した後に粉砕して得られるフィラーが挙げられる。具体的には、微粉末シリカをトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPT)を主成分とする重合性化合物で重合被覆し、得られた重合体を粉砕したフィラー(TMPT・f)が挙げられる。
【0145】
充填材(iii)の平均粒径(体積基準)は、好ましくは0.01〜100μmであり、使用に当たっては異なる粒径の充填材を混合して用いることがより好ましい。平均粒径は、粒度分布測定装置(レーザー回折/散乱法)により測定する。
【0146】
充填材(iii)を用いる場合の重合性組成物(2)における前記充填材(iii)の含有量は、用途によって異なるが、重合性組成物(2)100質量%中、例えば0.1〜20質量%である。
【0147】
〈その他成分(iv)〉
重合性組成物(2)は、上述した成分に加えて、その他成分(iv)を含有することができる。その他成分(iv)としては、例えば、重合禁止剤が挙げられる。
【0148】
重合禁止剤としては、例えば、キノン系化合物、芳香環に2つ以上の置換基を有するフェノール系化合物、カテコール系化合物、オキシジフェニルアミン系化合物、ニトロソ系化合物、ニトロン系化合物、ニトリル系化合物、ヒドラジル系化合物、フェノチアジン系化合物が挙げられる。
【0149】
キノン系化合物としては、ヒドロキノンモノメチルエーテル、p−ベンゾキノン、2,6−ジクロロ−p−ベンゾキノン、2,5−ジクロロ−p−ベンゾキノン、2−t−ブチルヒドロキノン、ブチルヒドロキシアニソールが好ましい。
【0150】
芳香環に2つ以上の置換基を有するフェノール系化合物としては、3,5−t−ジブチル−6−ヒドロキシトルエンが好ましい。
【0151】
カテコール系化合物としては、カテコール、4−t−ブチルカテコールが好ましい。
【0152】
オキシジフェニルアミン系化合物としては、2−オキシジフェニルアミン、その水酸基位置の相違する異性体(3−オキシ体、4−オキシ体)、前記アミンにおいてメチル基等の炭化水素基および塩素原子等のハロゲン原子などの置換基を1つ以上有するものが好ましい。
【0153】
ニトロソ系化合物としては、メチル−α−ニトロソイソプロピルケトン等のカルボニルのα炭素にニトロソ基が結合した化合物類、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩等のN−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミン類が好ましい。
【0154】
ニトロン系化合物としては、フェニル−t−ブチルニトロンが好ましい。
【0155】
ニトリル系化合物としては、フルフリリデンマロノニトリル等のニトリル基が共役系を形成している化合物類が好ましい。
【0156】
ヒドラジル系化合物としては、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジルが好ましい。
【0157】
フェノチアジン系化合物としては、フェノチアジンまたはその芳香環部分にメチル基等の炭化水素基および塩素原子等のハロゲン原子などの置換基を1つ以上有するものが好ましい。
【0158】
重合禁止剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0159】
重合禁止剤の含有量は、貯蔵中に重合性化合物の分解を防止または低減し、かつ、重合性化合物の重合速度を実質的に低減しない観点から、例えば重合性化合物100質量部に対して、通常は0.001〜1質量部であり、好ましくは0.005〜0.5質量部である。
【0160】
その他成分(iv)としては、前記重合禁止剤の他に、例えば、過酸化物(典型的には、全組成物の質量を基準として2質量%以下の量)、光重合開始剤(典型的には、全組成物の質量を基準として5質量%以下の量)が挙げられる。
【0161】
重合性組成物(2)には、所望により溶媒を添加することができる。溶媒としては、例えば、水;エタノール、プロパノール等のアルコール、アセトン等のケトンなどの有機溶媒が挙げられる。なお、前記水としては、蒸留水、イオン交換水、日本薬局方精製水などを使用することができるが、水の代わりに生理的食塩水などを使用することもでき、特に日本薬局方精製水が好ましい。溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0162】
<重合性組成物(2)に含まれる重合性化合物>
重合性組成物(2)は、重合性化合物を含む。重合性化合物としては、脱酸化剤(i)に含まれる分子内に少なくとも1つの酸性基を有する重合性化合物と、分子内に酸性基を有しない重合性化合物(ii)とが挙げられる。
【0163】
重合性組成物(2)は、脱酸化剤(i)と分子内に酸性基を有しない重合性化合物(ii)とを含むことが好ましく、脱酸化剤(i)は、分子内に少なくとも1つの酸性基を有する重合性化合物であることが好ましい観点から、重合性組成物(2)は、分子内に少なくとも1つの酸性基を有する重合性化合物と分子内に酸性基を有しない重合性化合物(ii)とを含むことが好ましい。
【0164】
上述のように、重合性化合物は、複合粒子の高分子(B)を溶解することが好ましい。高分子(B)の溶解性の観点から、また無機化合物(B’)を用いる場合においても、分子内に少なくとも1つの酸性基を有する重合性化合物は、(メタ)アクリレート化合物であることが好ましく、(メタ)アクリレートモノマーであることがより好ましい。同様に、分子内に酸性基を有しない重合性化合物(ii)は、(メタ)アクリレート化合物であることが好ましく、(メタ)アクリレートモノマーであることがより好ましい。
【0165】
組成物(2)100質量%中の重合性化合物の含有量は、好ましくは80〜100質量%、より好ましくは90〜100質量%である。
【0166】
重合性化合物100質量%中、分子内に少なくとも1つの酸性基を有する重合性化合物の含有量は、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは1〜30質量%である。
【0167】
重合性化合物100質量%中、分子内に酸性基を有しない重合性化合物(ii)の含有量は、好ましくは50〜99.9質量%、より好ましくは70〜99質量%である。
【0168】
<キットの調製等>
本発明のキットは、上述した組成物(1)と組成物(2)とを有し、使用時に組成物(1)と組成物(2)とを混合する。これにより、組成物(1)に含まれる複合粒子中の高分子(B)が、組成物(2)に含まれる重合性化合物に溶解し、有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)が徐放される。あるいは、組成物(1)に含まれる複合粒子中の無機化合物(B’)の表層部から前記錯体(A)が徐々に系中に拡散される。そして有機ボラン−ルイス塩基錯体(A)に、例えば、脱錯化剤(i)が作用することにより、有機ボラン(A1)が遊離する。有機ボラン(A1)は、重合開始剤として働き、重合性化合物の重合反応が進行する。
【0169】
本発明のキットにおいて、組成物(1)と組成物(2)とは、組成物(1)100質量部に対して、組成物(2)が、好ましくは1〜500質量部、より好ましくは10〜300質量部となる量で混合する。
【0170】
[キットから得られる材料、およびその用途]
キットの組成物(1)と組成物(2)とを混合することにより、本発明の材料が得られる。前記材料は、接着材および充填材として好適に用いることができ、また医療および/または歯科用途に好適に用いることができ、前記用途の接着材および充填材として特に好適に用いることができる。
【0171】
本発明の材料は、例えば、上記用途における接着材や充填材として好適であり、特に、生体における硬組織と硬組織との接着材、被着体と硬組織との接着材、被着体または硬組織内部の充填材として好適である。生体における硬組織としては、例えば、歯質、骨が挙げられる。被着体としては、例えば、歯科用金属、歯科用合金、歯科用陶材、歯科用レジンが挙げられる。
【0172】
本発明の材料は、硬組織への前処理があっても初期の接着性には特に影響はないが、接着耐久性の観点からは、前記材料は前処理と組み合わせて用いられることが好ましい。前処理としては、例えば、酸を含有する歯面処理剤によるエッチング、酸化剤を含有する歯面処理剤による表面改質が挙げられる。
【0173】
前処理について詳細には、本発明の材料を歯質と直接接触させて使用する場合には、状況に応じて歯質表面を前処理した後に、本発明の材料を適用すると接着耐久性が向上するため好ましい。
【0174】
前処理には、ルイス酸等の酸を含有する前処理剤を用いることができ、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、クエン酸、しゅう酸等のエチレン性不飽和二重結合を有しない酸や、マレイン酸、4−META、MDP等の酸性基を有する重合性成分などを含有し、必要に応じてさらに有機溶媒を含有するpH5以下の水溶液;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート化合物を含有する水溶液が挙げられ、その他の前処理剤としては、例えば、過酸化水素水や次亜塩素酸ナトリウム水溶液が挙げられる。上記pH5以下の水溶液との組合せ、または過酸化水素や次亜塩素酸ナトリウム水溶液との組合せが、重合開始の観点から好ましい。
【実施例】
【0175】
本発明を実施例によりさらに詳述するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0176】
<有機ボラン−ルイス塩基錯体の合成>
[合成例1]
フラスコ中を窒素置換し、0.1モルの1,3−ジアミノプロパンを添加した。0.1モルのトリエチルボランをテトラヒドロフラン100mLに溶解させた溶液を前記フラスコ中に添加した。フラスコ中の溶液を冷却し約40℃に保ちながら、トリエチルボランの前記溶液を全量添加後、1時間程度撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターにてテトラヒドロフランを除去し、トリエチルボラン−1,3−ジアミノプロパン錯体を得た。
【0177】
[合成例2]
1,3−ジアミノプロパンの代わりに3−メトキシ−1−プロピルアミンを使用し、トリエチルボランの代わりにトリ−n−ブチルボランを使用したこと以外は合成例1と同様にして、トリ−n−ブチルボラン−3−メトキシ−1−プロピルアミン錯体を得た。
【0178】
[合成例3]
1,3−ジアミノプロパンの代わりにジエチレントリアミンを使用したこと以外は合成例1と同様にして、トリエチルボラン−ジエチレントリアミン錯体を得た。
【0179】
物性の測定方法は、以下のとおりである。
【0180】
〔GPC〕
高分子(B)について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により、下記条件で重量平均分子量(Mw)を求めた。
・測定装置:LC−10AD(株式会社島津製作所製)
・GPCカラム:LF−804(昭和電工株式会社製)カラムサイズ300×8.0mmI.D.
・流速:0.5mL/min.
・カラム温度:40℃
・サンプル濃度:0.05%(w/v)(テトラヒドロフランで希釈)
・移動相溶媒:テトラヒドロフラン
・標準ポリメチルメタクリレート換算
〔平均粒径〕
無機化合物(B')および複合粒子の平均粒径は、粒度分布測定装置(レーザー回折/散乱法)により測定される粒径分布を体積累積分布で表したときの50%粒径(d50、メジアン径)である。
【0181】
〔吸液量〕
無機化合物(B')の吸液量は、JIS K 5101に準じて測定した。
【0182】
<I.複合粒子の製造>
[実施例1]
ポリメチルメタクリレート(GPC法により測定したMw:400,000)5gをアセトン30gに溶解した。更に、トリ−n−ブチルボラン−3−メトキシ−1−プロピルアミン錯体を3g加えて均一になるまで撹拌した。その後、30cm×25cm×5cmのバットに流し入れ、室温にて一晩乾燥させ、厚み0.5cmのフィルム状ポリマーを得た。前記フィルム状ポリマーを凍結粉砕機(伊藤製作所製/TKS−4)にて50Hzで5分間粉砕した。得られた粉末を複合粒子1とした。複合粒子1の平均粒径は30μmであった。
【0183】
[実施例2]
ポリメチルメタクリレート(GPC法により測定したMw:10,000)5gをアセトン30gに溶解した。更に、トリエチルボラン−ジエチレントリアミン錯体を3g加えて均一になるまで撹拌した。その後、実施例1と同様に、乾燥させ、得られたフィルム状ポリマーを粉砕し、複合粒子2を得た。複合粒子2の平均粒径は25μmであった。
【0184】
[実施例3]
メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体(GPC法により測定したMw:50,000)5gをアセトン30gに溶解した。更に、トリ−n−ブチルボラン−3−メトキシ−1−プロピルアミン錯体を3g加えて均一になるまで撹拌した。その後、実施例1と同様に、乾燥させ、得られたフィルム状ポリマーを粉砕し、複合粒子3を得た。複合粒子3の平均粒径は28μmであった。
【0185】
[実施例4]
1Lナスフラスコに200mLのヘキサンを入れ、トリエチルボラン−1,3−ジアミノプロパン錯体を10g加えて均一になるまで撹拌した。次に、吸液量が290mL/100gで、平均粒径12μmのMg
0.7Al
0.3O
1.15を10g添加して攪拌した。その後、40℃に加温した状態でロータリーエバポレーターにて溶媒を留去するために5時間減圧下にて行い、複合粒子4を得た。
【0186】
[実施例5]
1Lナスフラスコに200mLのヘキサンを入れ、トリ−n−ブチルボラン−3−メトキシ−1−プロピルアミン錯体を10g加えて均一になるまで撹拌した。次に、吸液量が290mL/100gで、平均粒径12μmのMg
0.7Al
0.3O
1.15を10g添加して攪拌した。その後、40℃に加温した状態でロータリーエバポレーターにて溶媒を留去するために5時間減圧下にて行い、複合粒子5を得た。
【0187】
<II.歯科用材料の調製>
[調製例1]
前記複合粒子1を50gと、ポリメチルメタクリレート(GPC法により測定したMw:400,000)を50gとを混合し重合開始剤組成物(1)−1を調製した。
【0188】
メチルメタクリレート80gと、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸20gとを混合し、重合性組成物(2)−1を調製した。
【0189】
上記(1)−1と(2)−1とを、使用直前にそれぞれ0.2gずつ採取し混合して、歯科用材料とした。
【0190】
[調製例2]
前記複合粒子2を50gと、ポリメチルメタクリレート(GPC法により測定したMw:400,000)を50gとを混合し、重合開始剤組成物(1)−2を調製した。
【0191】
メチルメタクリレート90gと、10−メタアクリロイルオキシデシルアシドホスフェート10gとを混合し、重合性組成物(2)−2を調製した。
【0192】
上記(1)−2と(2)−2とを、使用直前にそれぞれ0.2gずつ採取し混合して、歯科用材料とした。
【0193】
[調製例3]
実施例3で得られた複合粒子3を50gと、ポリメチルメタクリレート(GPC法により測定したMw:400,000)を50gとを混合し、重合開始剤組成物(1)−3を調製した。
【0194】
上記(1)−3と調製例1で調製した(2)−1とを、使用直前にそれぞれ0.2gずつ採取し混合して、歯科用材料とした。
【0195】
[調製例4]
実施例4で得られた複合粒子4を20gと、ポリメチルメタクリレート(GPC法により測定したMw:400,000)を80gとを混合し、重合開始剤組成物(1)−4を調製した。
【0196】
メチルメタクリレート95gと、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物5gとを混合し、重合性組成物(2)−3を調製した。
【0197】
上記(1)−4を0.09gと上記(2)−3を0.15gとを、使用直前にそれぞれ採取し混合して、歯科用材料とした。
【0198】
[調製例5]
実施例5で得られた複合粒子5を20gと、ポリメチルメタクリレート(GPC法により測定したMw:400,000)を80gとを混合し、重合開始剤組成物(1)−5を調製した。上記(1)−5を0.09gと上記(2)−3を0.15gとを、使用直前にそれぞれ採取し混合して、歯科用材料とした。
【0199】
[比較調製例1]
トリ−n−ブチルボラン−3−メトキシ−1−プロピルアミン錯体を重合開始剤(1)−6とした。
【0200】
上記(1)−6を0.094gと、ポリメチルメタクリレート(GPC法により測定したMw:400,000)を0.106gと、調製例1で調製した(2)−1を0.2gとを、使用直前に混合し、歯科用材料とした。
【0201】
[比較調製例2]
トリエチルボラン−ジエチレントリアミン錯体を重合開始剤(1)−7とした。
【0202】
上記(1)−7を0.094gと、ポリメチルメタクリレート(GPC法により測定したMw:400,000)を0.106gと、調製例1で調製した(2)−1を0.2gとを、使用直前に混合し、歯科用材料とした。
【0203】
《評価》
〔長期安定性評価〕
調製例および比較調製例で調製した重合開始剤組成物または重合開始剤(1)−1〜(1)−7をサンプル瓶に投入し、蓋をせずに室温にて3ヶ月または12ヶ月保管した。調製直後、室温保管3ヶ月、室温保管12ヶ月の上記(1)−1〜(1)−7を用いて歯科用材料を調製し、それぞれの接着強さを以下の方法で測定した。
【0204】
牛歯を#180の耐水研磨紙で切削し象牙質を露出させた。露出した象牙質表面にΦ4.8mmの穴の開いた両面テープを貼り接着面積を規定した(以下「規定面」ともいう)。規定面に表面処理材グリーン(サンメディカル株式会社製)を塗布し、30秒後に水洗しエアーブローをした。その後、規定面に歯科用材料を塗布し、アクリルロッドを植立させ、室温で30分静置し歯科用材料を硬化させた。アクリルロッドを植立した牛歯を37℃の水中に一晩浸漬させ、引っ張り試験機にてクロスヘッドスピード2mm/minで引っ張り試験を行い、牛歯象牙質に対する接着強さを測定した。
【0205】
【表1】
長期安定性評価の結果、実施例1〜5で製造した複合粒子を用いた調製例1〜5の歯科用材料は、室温保管12ヶ月でも接着強さの低下がほとんどみられない。一方、比較調製例1〜2の歯科用材料は、室温保管3ヶ月では重合開始剤の失活が進み接着強さが低下した。室温保管12か月では重合開始剤が分解し揮発したことにより重合開始剤が消失し、歯科用材料を調製出来なかったため接着強さは測定不能となった。