特許第6959385号(P6959385)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6959385-容器詰飲料の製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6959385
(24)【登録日】2021年10月11日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】容器詰飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/06 20060101AFI20211021BHJP
   C12G 3/04 20190101ALI20211021BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20211021BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20211021BHJP
   A23L 2/56 20060101ALI20211021BHJP
【FI】
   C12G3/06
   C12G3/04
   A23L2/00 B
   A23L2/02 B
   A23L2/56
【請求項の数】21
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2020-56691(P2020-56691)
(22)【出願日】2020年3月26日
(65)【公開番号】特開2021-153468(P2021-153468A)
(43)【公開日】2021年10月7日
【審査請求日】2021年3月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】宇野 慎一
【審査官】 田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−104947(JP,A)
【文献】 特開2002−301441(JP,A)
【文献】 特開平03−176398(JP,A)
【文献】 特開2005−313928(JP,A)
【文献】 特開平01−027457(JP,A)
【文献】 特表2019−501042(JP,A)
【文献】 特開2018−020316(JP,A)
【文献】 特開2013−154277(JP,A)
【文献】 特開2017−118085(JP,A)
【文献】 醸協,1963年,第58巻, 第6号,p.18-23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 1/00−3/08
C12H 6/00−6/04
A23L 2/00−2/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可食性の水溶液と疎水性香気成分を含有する疎水性液滴とが分離している容器詰飲料を製造する方法であって、
容器本体内に存在する空気を排気及び/又は不活性ガスで置換するガッシング工程と、
前記ガッシング工程後に、前記容器本体内に可食性の水溶液を充填する水溶液充填工程と、
前記水溶液充填工程後、前記容器本体内の前記水溶液の液面に、疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物を滴下する疎水性液滴吐出工程と、
前記疎水性液滴吐出工程後、前記容器本体を密封する密封工程と、
を有し、
前記疎水性液滴吐出工程において、前記疎水性液状組成物が、前記容器本体内の前記水溶液の液面の上方にある液体定量吐出システムの吐出孔から吐出され、
前記液体定量吐出システムが、先端部に吐出孔を有するノズルと、前記ノズルの先端部を被覆するバルブシートと、前記ノズルの内部を上昇又は下降するロッドと、前記吐出孔に向かって前記疎水性液状組成物を加圧流入する流路と、を有しており、
前記バルブシートには、前記吐出孔を塞がないように貫通孔が形成されており、
前記ロッドが前記ノズル内で最下点まで下降すると、前記吐出孔が塞がれ、
前記ロッドが前記ノズル内を上昇すると、前記吐出孔から前記流路から流入した疎水性液状組成物が吐出される、
容器詰飲料の製造方法。
【請求項2】
前記水溶液充填工程において、前記容器本体に充填される前記可食性の水溶液の量が、前記容器本体の体積の80%以上である、請求項1に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項3】
前記疎水性液滴吐出工程において、前記容器本体の開口部の面積が、前記容器本体に充填されている前記可食性の水溶液の液面の面積よりも小さい、請求項1又は2に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項4】
前記疎水性液滴吐出工程において、前記吐出孔から吐出された前記疎水性液状組成物が、前記容器本体内の前記水溶液の液面に対して垂直な、概略円柱状の流れを成して、前記水溶液の液面に到達する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項5】
前記吐出孔は、前記ノズル1個当たり1個である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項6】
前記吐出孔の大きさは、前記バルブシートに形成されている貫通孔の大きさ以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項7】
前記バルブシートに形成されている貫通孔の面積に対する、前記吐出孔の面積の比は、0.50〜1.00である、請求項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項8】
前記流路において、前記疎水性液状組成物にかかる背圧が50〜400kPaである、請求項のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項9】
前記吐出孔から前記容器本体に充填された前記水溶液の液面までの距離が60mm以下である、請求項のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項10】
前記疎水性液滴吐出工程において、前記容器本体が、前記吐出孔に対して移動している、請求項のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項11】
前記疎水性液滴吐出工程において、前記疎水性液状組成物は、前記容器本体1個当たり、複数回吐出される、請求項10のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項12】
前記疎水性液滴吐出工程において、前記疎水性液状組成物は、前記容器本体に対して複数のノズルから吐出される、請求項11のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項13】
前記疎水性液滴吐出工程において、前記疎水性液状組成物の1回当たりの吐出時間は30ms以下である、請求項12のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項14】
前記疎水性液滴吐出工程において、前記疎水性液状組成物の1回当たりの吐出量は10〜200mgである、請求項13のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項15】
前記疎水性香気成分が、果実の香気成分である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項16】
前記疎水性液滴が、植物から抽出された疎水性物質を含有する、請求項1〜15のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項17】
前記植物が柑橘類である、請求項16に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項18】
前記疎水性液滴が、テルペン類を含有する、請求項1〜17のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項19】
前記テルペン類が、D−リモネンを含有する、請求項18に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項20】
前記水溶液が、アルコールを含有する、請求項1〜19のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【請求項21】
前記水溶液が、炭酸ガスを含有する、請求項1〜20のいずれか一項に記載の容器詰飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清涼飲料水やアルコール飲料等を缶、瓶、ペットボトル等の容器に封入した容器詰飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品から感じる香りは、鼻から直接嗅ぐ香り(オルソネーザルアロマ)と、口に入れて飲み込むときに喉から鼻に抜ける香り(レトロネーザルアロマ)の2種類に大別される。食品の「おいしさ」には、特にレトロネーザルアロマが寄与していると考えられている。一方、オルソネーザルアロマは、食品を食べる前に「おいしさ」を想起させる。つまり、オルソネーザルアロマとレトロネーザルアロマは、いずれも食品にとって重要である。
【0003】
特に、果汁(果実の搾汁、ジュース)や果実、果皮、果実風味のフレーバー等を添加して果実風味をつけた清涼飲料水やアルコール飲料では、果実の香りは嗜好性を左右する要素である。しかし、果実に由来する大部分の果実の香気成分は、揮発性が高く、飲料に添加しても時間経過と共に失われやすい。このため、果実風味の飲料においては、喫飲時により強い果実の香りが感じられるよう、様々な改良が試みられている。
【0004】
例えば、アルコール飲料に柑橘風味を添加するために用いられる呈味改善剤として、柑橘類の果実、ホールペースト、香料、果汁、濃縮果汁、搾汁残渣、果皮及び/又はこれらの乾燥物のエタノール抽出物から精製した香気成分を含む呈味改善剤が知られている(例えば、特許文献1参照。)。その他、特許文献2には、果汁を含有するアルコール飲料に、酢酸ボルニルを特定の濃度範囲となるように添加することによって、果汁に含まれる果皮成分に起因する果皮感を増強する方法が開示されている。
【0005】
一方で、香気成分や呈味成分の中には、空気、特に酸素によって酸化されて劣化するものがある。このため、容器詰飲料の製造においては、多くの場合、飲料の品質劣化を抑制するために、飲料の本体溶液を充填する前に、容器内の酸素を除くためのガッシング工程が行われる(例えば、特許文献3参照。)。ガッシングには、容器本体内に存在する空気を不活性ガスで置換したり、容器本体内に存在する空気を排気することが行われる。また、容器本体内に飲料液を充填する際に、容器本体内のガスを排気することも行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−41935号公報
【特許文献2】特開2017−131134号公報
【特許文献3】特開2005−313928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、容器の開封時や喫飲時に感じる疎水性香気成分による香りが増強された容器詰飲料を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、疎水性香気成分を、飲料の本体となる液体に溶解又は分散させるのではなく、当該液体と分離した状態で存在させることにより、容器の開封時や喫飲時に感じる香りが増強されることを見出した。さらに、容器本体に飲料の本体となる液体を充填する工程とは別個に、疎水性液状組成物を充填する工程を行うことにより、飲料本体を充填する前にガッシングを行う場合でも、当該液体と分離した状態で存在する飲料をより安定して製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明に係る容器詰飲料の製造方法は、下記[1]〜[21]である。
[1] 可食性の水溶液と疎水性香気成分を含有する疎水性液滴とが分離している容器詰飲料を製造する方法であって、
容器本体内に存在する空気を排気及び/又は不活性ガスで置換するガッシング工程と、
前記ガッシング工程後に、前記容器本体内に可食性の水溶液を充填する水溶液充填工程と、
前記水溶液充填工程後、前記容器本体内の前記水溶液の液面に、疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物を滴下する疎水性液滴吐出工程と、
前記疎水性液滴吐出工程後、前記容器本体を密封する密封工程と、
を有し、
前記疎水性液滴吐出工程において、前記疎水性液状組成物が、前記容器本体内の前記水溶液の液面の上方にある液体定量吐出システムの吐出孔から吐出され、
前記液体定量吐出システムが、先端部に吐出孔を有するノズルと、前記ノズルの先端部を被覆するバルブシートと、前記ノズルの内部を上昇又は下降するロッドと、前記吐出孔に向かって前記疎水性液状組成物を加圧流入する流路と、を有しており、
前記バルブシートには、前記吐出孔を塞がないように貫通孔が形成されており、
前記ロッドが前記ノズル内で最下点まで下降すると、前記吐出孔が塞がれ、
前記ロッドが前記ノズル内を上昇すると、前記吐出孔から前記流路から流入した疎水性液状組成物が吐出される、
容器詰飲料の製造方法。
[2] 前記水溶液充填工程において、前記容器本体に充填される前記可食性の水溶液の量が、前記容器本体の体積の80%以上である、前記[1]の容器詰飲料の製造方法。
[3] 前記疎水性液滴吐出工程において、前記容器本体の開口部の面積が、前記容器本体に充填されている前記可食性の水溶液の液面の面積よりも小さい、前記[1]又は[2]の容器詰飲料の製造方法。
] 前記疎水性液滴吐出工程において、前記吐出孔から吐出された前記疎水性液状組成物が、前記容器本体内の前記水溶液の液面に対して垂直な、概略円柱状の流れを成して、前記水溶液の液面に到達する、前記[1]〜[3]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
] 前記吐出孔は、前記ノズル1個当たり1個である、前記[1]〜[4]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
] 前記吐出孔の大きさは、前記バルブシートに形成されている貫通孔の大きさ以下である、前記[1]〜[5]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
] 前記バルブシートに形成されている貫通孔の面積に対する、前記吐出孔の面積の比は、0.50〜1.00である、前記[]の容器詰飲料の製造方法。
] 前記流路において、前記疎水性液状組成物にかかる背圧が50〜400kPaである、前記[]〜[]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
] 前記吐出孔から前記容器本体に充填された前記水溶液の液面までの距離が60mm以下である、前記[]〜[]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
10] 前記疎水性液滴吐出工程において、前記容器本体が、前記吐出孔に対して移動している、前記[]〜[]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
11] 前記疎水性液滴吐出工程において、前記疎水性液状組成物は、前記容器本体1個当たり、複数回吐出される、前記[]〜[10]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
12] 前記疎水性液滴吐出工程において、前記疎水性液状組成物は、前記容器本体に対して複数のノズルから吐出される、前記[]〜[11]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
13] 前記疎水性液滴吐出工程において、前記疎水性液状組成物の1回当たりの吐出時間は30ms以下である、前記[]〜[12]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
14] 前記疎水性液滴吐出工程において、前記疎水性液状組成物の1回当たりの吐出量は10〜200mgである、前記[]〜[13]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
15] 前記疎水性香気成分が、果実の香気成分である、前記[1]〜[14]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
16] 前記疎水性液滴が、植物から抽出された疎水性物質を含有する、前記[1]〜[15]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
17] 前記植物が柑橘類である、前記[16]の容器詰飲料の製造方法。
18] 前記疎水性液滴が、テルペン類を含有する、前記[1]〜[17]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
19] 前記テルペン類が、D−リモネンを含有する、前記[18]の容器詰飲料の製造方法。
20] 前記水溶液が、アルコールを含有する、前記[1]〜[19]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
21] 前記水溶液が、炭酸ガスを含有する、前記[1]〜[20]のいずれかの容器詰飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る容器詰飲料の製造方法により、容器の開封時や喫飲時に感じられる香りが強く、嗜好性に優れた容器詰飲料が製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明において用いられる液体定量吐出システムの一態様の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<可食性の水溶液と疎水性液滴とが分離している容器詰飲料>
一般に、清涼飲料水やアルコール飲料等の飲料に含まれる香気成分は、飲料中に溶解又は分散されている。飲料中で香気成分が偏在すると、均質に製品を製造することが困難となる。このため、例えば、香りの強化や補香、風味矯正等を目的として飲料に使用される香料は、香気成分が水に溶解又は分散しやすいように処理されているものが多い。また、飲料に油脂等の疎水性物質が含まれる場合、疎水性物質が分離することは品質上好ましくないこととされ、乳化剤等を用いて乳化させたり、果実パルプに吸着させたりすることが一般的である。また、飲料の製造工程において疎水性物質が分離していると、均質に容器詰めすることが困難となる。
【0013】
これに対して、本発明に係る容器詰飲料の製造方法により製造される容器詰飲料(以下、「本発明に係る容器詰飲料」ということがある。)は、飲料の本体たる可食性の水溶液(以下、「ベース液体」ということがある。)と、疎水性香気成分を含有している疎水性液滴とを含有しており、当該水溶液と当該疎水性液滴とが分離している。ベース液体とは分離した状態で存在している疎水性香気成分は、ベース液体に溶解や分散されている疎水性香気成分よりも香りとして感じられやすい。例えば、当該疎水性液滴がベース液体の液面に存在している場合には、当該疎水性液滴から揮発した疎水性香気成分により、飲料のオルソネーザルアロマ、特に容器の開封時のオルソネーザルアロマが増強される。また、当該疎水性液滴がベース液体の内部に存在している場合、喫飲時のレトロネーザルアロマの持続時間を長くすることができる。これは、当該疎水性液滴に含まれていた疎水性香気成分の一部が、飲用後も口腔内に保持されているためと推察される。すなわち、疎水性香気成分を含有している疎水性液滴をベース液体とは分離した状態で含有している本発明に係る容器詰飲料は、容器の開封時や喫飲時に感じられる香りが強く、嗜好性に優れている。
【0014】
本発明に係る容器詰飲料中の疎水性液滴は、1個であってもよく、複数個であってもよい。疎水性液滴は、飲料を顕微鏡で観察することで確認できる。また、疎水性液滴の密度がベース液体よりも小さい場合には、疎水性液滴は、飲料の液面に浮いているため、目視で確認できる場合もある。また、本発明に係る容器詰飲料としては、疎水性液滴が飲料中の限定された領域に存在していることが好ましい。疎水性液滴が集積していることにより、容器の開栓時や喫飲時にこれらが内包する疎水性香気成分がより強く感じられ、より優れた香り増強効果が得られる。
【0015】
<疎水性香気成分>
本発明において用いられる疎水性香気成分は、ヒトに「におい」を感じさせる物質のうち、疎水性のものであれば、特に限定されるものではない。なお、疎水性の物質とは、25℃の水に滴下した場合に、少なくとも一部は相溶せずに界面を形成する物質である。すなわち、疎水性の物質は、水に完全に不溶であることまでは必要とせず、一部が水に溶解する物質も含まれる。本発明においては、一般的に飲食品に含まれる疎水性香気成分の中から、目的の香味特質を考慮して適宜選択して用いることができる。
【0016】
本発明において用いられる疎水性香気成分としては、より香りとしてヒトが感じ取りやすいことから、常温常圧で揮発しやすい揮発性物質が好ましい。常温常圧で揮発しやすい疎水性香気成分としては、例えば、沸点が260℃以下の疎水性香気成分が挙げられる。
【0017】
本発明において用いられる疎水性香気成分としては、目的とする飲料の風味に応じて適宜選択することができるが、飲料に広く使用されていることから、特定の植物の特徴的な香りを構成する成分(特徴香成分)であることが好ましく、果実やハーブ(香草)の特徴香成分であることがより好ましい。なお、「特定の植物の特徴香成分」は、当該植物の特徴的な香りとヒトが認識し得る香りを構成する成分であれば、当該植物に含有されている香気成分に限定されるものではなく、当該植物に含有されていない香気成分も含まれる。
【0018】
本発明において用いられる疎水性香気成分としては、レモン、ライム、ユズ、シークヮーサー、スダチ、カボス、グレープフルーツ、オレンジ、伊予柑、温州みかん、夏みかん、八朔、日向夏等の柑橘類;イチゴ、モモ、メロン、ブドウ、リンゴ、洋ナシ、ナシ、サクランボ等のソフトフルーツ;バナナ、パイナップル、マンゴー、パッションフルーツ等のトロピカルフルーツ;ペパーミント、セージ、タイム、レモングラス、シナモン、ローズマリー、カモミール、ラベンダー、ローズヒップ、ペッパー、バニラ等のハーブ;などの特徴香成分が好ましい。
【0019】
柑橘類のうち、レモンの特徴香成分は、シトラール、ネロール、ゲラニオール、酢酸ネリル、酢酸ゲラニル等が挙げられ、シトラールはレモン由来の精油に含まれる含酸素化合物の半分以上を占める。グレープフルーツの特徴香成分としては、オクタナール、デカナール、ヌートカトン等が挙げられ、ユズの特徴香成分としては、リナロール、チモール、ユズノン(登録商標)、N−メチルアントラニル酸メチル等が挙げられる。オレンジの特徴香成分としては、オクタナール、デカナール、リナロール、酢酸ゲラニル、シネンサール等が挙げられる。
【0020】
柑橘類以外の果実やハーブとしては、例えば、モモの特徴香成分としては、γ−ウンデカラクトン等が挙げられる。ブドウの特徴香成分としては、メチルアンスラニレート等が挙げられる。ミントの特徴香成分としては、メントール等が挙げられる。バニラの特徴香成分としては、バニリン等が挙げられる。
【0021】
なお、各飲料の各種の香気成分の濃度は、例えば、GC−MS(ガスクロマトグラフ質量分析)により定量することができる。
【0022】
<疎水性液状組成物>
本発明に係る容器詰飲料に形成されている疎水性液滴は、疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物からなる。当該疎水性液状組成物に含まれている疎水性香気成分は、1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。また、化学合成品であってもよく、動植物等の天然物から抽出・精製されたものであってもよい。
【0023】
本発明において、疎水性液滴を形成する疎水性液状組成物は、疎水性香気成分のみからなる組成物であってもよく、疎水性香気成分以外の疎水性物質を含有していてもよい。当該疎水性物質としては、例えば、油脂や、天然物からの有機溶媒抽出物に疎水性香気成分と共に抽出された疎水性物質等が挙げられる。より十分な香り増強効果が得られることから、当該液状組成物全体に対する疎水性香気成分の含有量は、15質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上がよりさらに好ましい。
【0024】
当該疎水性液状組成物は、沸点が比較的高くて不揮発性の成分を含んでいてもよい。含有されている疎水性香気成分が速やかに揮発して香りとして認識されやすくなり、より十分な香り増強効果が得られることから、当該疎水性液状組成物は、構成成分のうち80質量%以上が、沸点が260℃以下の成分であることが好ましい。
【0025】
例えば、植物に含有されている疎水性香気成分は、植物から抽出された精油に多く含まれている。このため、疎水性液滴を構成する疎水性液状組成物には、精油やその加工物を含有させてもよい。精油の加工物としては、精油の濃縮物や、精油から一部成分を除去したものが挙げられる。精油は、植物の花、蕾、果実(果皮、果肉)、枝葉、根茎、木皮、樹幹、樹脂等から、水蒸気蒸留法、熱水蒸留法(直接蒸留法)等の常法によって植物から留出することができる。精油の加工処理は、蒸留法、晶析法、化学処理法等の常法により行うことができる。
【0026】
精油は、一般に水より軽く、テルペン類を主成分とする疎水性の液状組成物である。テルペン類は、テルペン炭化水素とテルペノイドとからなる。テルペノイドは、テルペン炭化水素から誘導されるアルコール、アルデヒド、ケトン、エステル等の含酸素誘導体である。
【0027】
例えば、柑橘類の果実から抽出された精油を含む疎水性液状組成物で疎水性液滴を構成することにより、柑橘類の香りが良好な容器詰飲料を製造できる。柑橘類の特徴香成分は、果実の中でも特に果皮に多く含まれているため、特に果皮から抽出された精油を用いることが好ましい。
【0028】
柑橘類から得られる精油成分の90%以上は、テルペン炭化水素であり、その主な成分はD−リモネンであるが、香りに対する貢献度は低い。柑橘類の香りを特徴づける成分として重要なのは、精油中に数%存在するアルデヒド類、アルコール類、エステル類などの含酸素化合物(テルペノイド)である。そこで、飲食品に添加される香料としては、D−リモネンなどのテルペン炭化水素を除去し、シトラールなどの含酸素化合物(テルペノイド)の含有比を増大させたテルペンレスオイルやフォールディッドオイルなどが広く使用されている。本発明に係る容器詰飲料においても、疎水性液滴を構成する疎水性液状組成物に、テルペンレスオイルやフォールディッドオイル等を含有させることができる。
【0029】
柑橘類の精油からテルペン炭化水素を除去し、テルペノイドの含有比を増大させると、香りは強くなるものの、香りの自然さは減弱されるおそれがある。より自然な柑橘類の香りの強い容器詰飲料を製造できるため、疎水性液滴を構成する疎水性液状組成物中のテルペン類全体に対するテルペノイドの含有比は、10〜40質量%であることが好ましく、15〜40質量%であることがより好ましく、20〜40質量%であることがさらに好ましく、20〜30質量%であることがよりさらに好ましい。疎水性液状組成物中のテルペン類全体に対するテルペン炭化水素の含有比は、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましい。また、疎水性液状組成物中のテルペン類全体に対するD−リモネンの含有量は、40〜60質量%とすることが好ましく、50〜60質量%とすることがより好ましい。また、疎水性液状組成物中のテルペン炭化水素に対するD−リモネンの含有量は、50〜80質量%とすることが好ましく、60〜75質量%とすることがより好ましい。
【0030】
疎水性液状組成物は、本発明の効果を損なわない限度において、疎水性香気成分以外のその他の成分を含有していてもよい。当該他の成分としては、油溶性溶剤、疎水性香気成分の劣化を抑制する物質等が挙げられる。例えば、疎水性液状組成物は、疎水性香気成分を液状油等の液状の疎水性溶媒に溶解させた油溶性香料を含有させることもできる。また、精油又はその加工物と油溶性香料を両方とも疎水性液状組成物に含有させてもよい。
【0031】
<ベース液体>
本発明に係る容器詰飲料のベース液体は、飲料の本体となる可食性の水溶液である。当該ベース液体としては、水を含む各種の飲料をそのまま使用することができる。当該ベース液体としては、ノンアルコール飲料であってもよく、アルコール飲料であってもよい。また、炭酸ガスを含有していない非発泡性飲料であってもよく、炭酸ガスを含有する発泡性飲料であってもよい。また、発酵工程を経て製造される飲料であってもよく、発酵工程を経ずに製造される飲料であってもよい。
【0032】
本発明に係る容器詰飲料のベース液体は、全体として流動性のある状態であれば、果実パルプ、ゼリー等の固体を含んでいてもよい。また、成分として水を含有していればよく、水、酒類、果汁そのものであってもよい。
【0033】
ベース液体は、例えば、原料水に、その他の成分を混合し、必要に応じて炭酸ガスを圧入することにより製造できる。当該その他の成分としては、例えば、酒類、炭酸水、果実、野菜類、ハーブ、糖類、香味料、その他の食品素材、食品添加物などが挙げられ、これらを適宜選択して使用する。ベース液体全体として水を含有していればよく、原料水を原料とせず、炭酸水、酒類、果汁等の水を含有する液体を用い、当該液体にその他の成分を混合してもよい。
【0034】
ベース液体に含有させる酒類としては、原料用アルコール;ウォッカ、ウイスキー、ブランデー、焼酎、ラム酒、スピリッツ、及びジン等の蒸留酒;ワイン、シードル、ビール、日本酒等の醸造酒;リキュール、ベルモットなどの混成酒等が挙げられる。ベース液体に含有させる酒類は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。なお、本発明に係る容器詰飲料が酒類と食品素材を混合した液体をベース液体とする場合には、当該飲料は、日本国の酒税法(平成三十年四月一日施行)上、リキュール(エキス分が二度以上)又はスピリッツ(エキス分が二度未満)に分類される。
【0035】
ベース液体のアルコール度数(エタノールの体積濃度)は特に制限されず、目的とする製品品質に応じて適宜決定される。例えば、ベース液体のアルコール度数を、好ましくは1容量%以上、より好ましくは2容量%以上、さらに好ましくは3容量%以上になるように、ベース液体の酒類含有量を調整することができる。
【0036】
ベース液体に含有させる果実、野菜類、ハーブは、特に限定されるものではなく、飲料に一般的に使用される果実等を適宜選択して使用することができる。例えば、果実やハーブとしては、疎水性香気成分に由来する果実やハーブとして挙げられたものを用いることができる。また、野菜類としては、トマト、ニンジン、ホウレン草、キャベツ、メキャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、セロリ、レタス、パセリ、クレソン、ケール、大豆、ビート、赤ピーマン、カボチャ、小松菜等を用いることができる。ベース液体に含有させる果実、野菜類、ハーブは、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0037】
ベース液体には、果実等の細断物をそのままベース液体に含有させてもよく、果汁や野菜汁のような搾汁を原料として添加してもよい。なお、果汁は、日本国においては果実飲料の日本農林規格、国際的には果汁及びネクターに関するコーデックス規格(CODEX STAN 247‐2005)に定義されている。ベース液体の調製に使用する原料としては、濃縮果汁や還元果汁等を使用してもよく、不溶性固形分の一部が除去されて清澄化された果汁を用いてもよい。
【0038】
ベース液体には、果実エキス、野菜エキスを原料として添加してもよい。特に、疎水性液滴に含まれる疎水性香気成分が、果実やハーブの特徴香成分である場合には、ベース液体には、当該疎水性香気成分と同種の果実等の果汁やエキスを含有することが好ましい。
【0039】
果実エキス、野菜エキスは、果実や野菜の細断物から水やアルコールを用いて果実や野菜に含まれる成分を抽出したものである。これらのエキスは、例えば、熱水抽出による方法や、液化ガスを用いて果実成分を溶出させた後、液化ガスを気化させ、果実成分を分離、回収する方法などによって製造される。
【0040】
糖類は、単糖類・二糖類の総称であり、砂糖(ショ糖、スクロース)、ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、異性化糖などがある。これらの糖類をベース液体に含有させることで、飲料に甘味やボディ感等を付与することができる。ベース液体に含有させる糖類は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0041】
さらに、ベース液体には、香味料やその他の食品素材を含有させることができる。その他の食品素材としては、例えば、食物繊維、酵母エキス、タンパク質若しくはその分解物等が挙げられる。中でも、水溶性食物繊維は、飲料にボディ感やその他の機能性を付与するために広く使用されている。水溶性食物繊維とは、水に溶解し、かつヒトの消化酵素により消化されない又は消化され難い炭水化物を意味する。水溶性食物繊維としては、例えば、大豆食物繊維、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、ガラクトマンナン、イヌリン、グアーガム分解物、ペクチン、アラビアゴム等が挙げられる。これらの水溶性食物繊維は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0042】
ベース液体に含有させてもよい食品添加物は、国の法令に基づいて使用可能な物品を用いることができ、その範囲において特に制限されない。例えば、食品の品質を保つための保存料や酸化防止剤等、食品の嗜好性の向上を目的とした着色料、香料、甘味料、酸味料、乳化剤等、食品の製造または加工のために必要なpH調整剤、消泡剤、起泡剤等や、栄養成分の補充、強化に使われる栄養強化剤を、必要に応じて含有させることができる。
【0043】
以下では、一部の食品添加物について簡単に説明する。
【0044】
着色料は、食品の色調を改善する食品添加物であり、化学合成系着色料と天然系着色料に大別され、日本国の食品衛生法では、指定添加物、既存添加物、一般飲食物添加物に分類される。着色料としては、食品を褐色に着色するカラメル色素が多く使用されている。なお、カラメル色素の副次効果として、飲料にロースト感やコク等を付与することができる。
【0045】
香料は、食品に香気を与える、又は増強するために用いられる。食品用香料には、天然物から抽出した天然香料と化学的に合成された合成香料がある。天然香料は、日本国の食品衛生法では、「動植物より得られる物又はその混合物で、食品の着香の目的で使用される添加物」と定義され、使用できる動植物名が例示として「天然香料基原物質リスト」に記載されている。また、合成香料のほとんどは食品に存在するものと同一成分を化学合成した化合物であり、「食品衛生法施行規則別表第1」のなかで指定されている。
【0046】
食品用香料は、単品で使用されることは少なく、通常、多数の香料化合物を組み合わせた調合製品が用いられる。香料製品の形態としては、水溶性香料、油溶性香料、乳化香料、粉末香料などがある。水溶性香料は、香料ベースを水溶性溶剤である含水アルコール、プロピレングリコールなどで抽出・溶解したものである。油溶性香料は、香料ベースを植物油などで溶解したものである。乳化香料は、乳化剤や安定剤を使用し、香料ベースを水に乳化させ微粒子状態にしたものである。飲料ににごりを与えることもありクラウディーとも呼ばれる。粉末香料は、香料ベースをデキストリンや天然ガム質、糖、でんぷんなどの賦形剤とともに乳化させた後、噴霧乾燥させて粉末化したり乳糖などに香料ベースを付着させたりしたものである。飲料には、通常、水溶性香料と乳化香料が用いられる。
【0047】
特に、疎水性液滴に含まれる疎水性香気成分が、果実やハーブの特徴香成分である場合には、ベース液体には、当該疎水性香気成分と同種の果実等の香料を含有することが好ましい。
【0048】
甘味料は、食品に甘味をつける目的で使用されるものであるが、前述した糖類や一部の低甘味度物質(水あめ、エリスリトール、マルチトール、ラクチトールなど)は、食品に区分され、食品添加物には区分されない。食品添加物に区分される低甘味度物質としては、L‐アラビノース、D‐キシロース、トレハロース、D‐ソルビトール、キシリトール、マンニトールなどがあり、高甘味度物質としてはアスパルテーム、ネオテーム、アセスルファムカリウム、サッカリン類、スクラロース、グリチルリチン酸二ナトリウム、ステビア抽出物、カンゾウ抽出物、タウマチンなどがある。なお、日本国の食品衛生法では、甘味料は、指定添加物、既存添加物、一般飲食物添加物に分類される。
【0049】
飲料には、従来から飲料に用いられる糖類(砂糖、ブドウ糖、果糖)と甘味特性の近いアスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロースなどがよく用いられる。本発明におけるベース液体においても、これらの飲料に汎用されている甘味料の1種以上を使用することが好ましい。
【0050】
酸味料は、食品に酸味を与えたり、酸味を増強したりするために用いられる。酸味料には、クエン酸や乳酸のような有機酸及びそれらの塩類と、リン酸、二酸化炭素のような無機酸がある。有機酸とその塩を併用すると、緩衝作用によって特定のpHを保持しやすくすることができる。
【0051】
なお、日本国において酸味料として一括名表示ができる物質は、指定添加物では、アジピン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL−酒石酸、L−酒石酸、DL−酒石酸ナトリウム、L−酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL−リンゴ酸、DL−リンゴ酸ナトリウム、リン酸、既存添加物では、イタコン酸、フィチン酸、α−ケトグルタル酸が挙げられる。
【0052】
飲料に用いる酸味料は、飲料の風味(フレーバー)に応じて選択される。例えば、柑橘類風味の飲料では柑橘類に多く含まれるクエン酸及びクエン酸塩、ブドウ風味の飲料ではブドウに多く含まれる酒石酸及び酒石酸塩、リンゴ風味の飲料ではリンゴに多く含まれるリンゴ酸及びリンゴ酸塩が選択される場合が多い。
【0053】
また、飲料のpHは、微生物制御、香気成分の劣化抑制などの目的に応じて調整されてもよい。一般に、飲料のpHが低いほど微生物が発育し難くなる。一方で、pHが低すぎると、酸味が強くなりすぎる。また、香気成分の中には、pHが低くなると劣化しやすいものもある。飲料として適した酸味の強さや香気成分の劣化抑制の点から、ベース液体のpHは、好ましくは2.0以上、より好ましくは2.5以上、さらに好ましくは3.0以上である。また、微生物の生育抑制、殺菌条件の強度等を考慮し、ベース液体のpHは、アルコールを含有していない場合は、好ましくは5.0以下、より好ましくは4.0以下、さらに好ましくは4.0未満であり、アルコールを含有している場合は、好ましくは6.5以下、より好ましくは5.0以下である。
【0054】
乳化剤は、食品に乳化、分散、浸透、洗浄、起泡、消泡、離型などの目的で使用されるが、飲料では液中に油を分散(乳化)させる目的で使用される場合が多い。例えば、疎水性成分を水中に均一に分散させたり、原材料由来の油脂成分の分離を抑制したりするために用いられる。
【0055】
上述した食品素材や食品添加物は一例であり、本発明に係る容器詰飲料に含有させるものはこれらに限定されるものではない。使用する食品素材や食品添加物の種類や含有量は、目的に応じて適宜選択、調整すればよい。
【0056】
本発明において用いられるベース液体は、常法により製造できる。例えば、ベース液体は、全ての原料を均一に混合して調製する。原料に疎水性の成分が含まれている場合には、適切な乳化剤等を使用して乳化処理して均一にする。また、ベース液体に果実パルプ等の不溶性固形分が含まれている場合も、均一になるように充分に攪拌処理する。乳化処理や攪拌処理は、飲料の製造で汎用されているホモジナイザーや攪拌装置を使用して行うことができる。例えば、ベース液体が疎水性香気成分を含有する場合には、当該疎水性香気成分がベース液体中に均一に分散するように、乳化剤を併用して混合することが好ましく、適切な乳化処理を行うことがより好ましい。
【0057】
ベース液体が、疎水性の成分や不溶性固形分を含有していない場合には、これらを含有する場合よりも、ベース液体の均一性がより容易に安定して保持できる。ベース液体が均一であるほうが、疎水性液滴がベース液体からより安定して分離でき、好ましい。
【0058】
さらに、ベース液体に炭酸ガスを圧入して、炭酸飲料としてもよい。このときのガスボリュームは、目的に応じて適宜決定すればよいが、容器の耐圧や製造条件によって制限されることになる。例えば、製造工程において加熱殺菌を行う場合は、加熱中の容器内の圧力を、容器の耐圧以下にする必要があるため、加熱殺菌を行わない場合に比べて、ガスボリュームは制限される。
【0059】
なお、炭酸ガスが静菌作用を有することから、容器内の炭酸ガス圧力が20℃で98kPa以上であり、飲料に果汁や果実、乳等の植物又は動物の組織成分を含まない場合、加熱殺菌が不要であり、ガスボリュームを高くすることができる。
【0060】
調製されたベース液体に、不溶物が生じた場合には、当該ベース液体に対して濾過等の不溶物を除去する処理を行うことが好ましい。不溶物除去処理は、特に限定されるものではなく、濾過法、遠心分離法等の当該技術分野で通常用いられている方法で行うことができる。本発明においては、不溶物は濾過除去することが好ましく、珪藻土濾過により除去することがより好ましい。
【0061】
ベース液体は、水又は炭酸ガス以外の原料を全て高濃度に含有する濃縮シロップを調製し、次いで、この濃縮シロップと水とを混合して希釈することによって調製することもできる。ベース液体が発泡性の可食性水溶液の場合、濃縮シロップを炭酸水で希釈してもよく、炭酸水を水で希釈した後、炭酸ガスを圧入することによっても調製できる。
【0062】
<容器詰飲料の製造方法>
ベース液体と疎水性液滴とが分離している容器詰飲料を大量生産する場合、品質の均質性を担保するために、一の容器内に一定量の疎水性液状組成物を精度よく充填する必要がある。ベース液体となる可食性の水溶液と疎水性液状組成物とを、それぞれ別個に準備し、容器本体に充填した後、封入することにより、ベース液体と疎水性液状組成物の両方を一定量ずつ容器に充填することが容易にできる。例えば、同一種の果実から得られた果汁をベース液体に、果実から得られた疎水性香気成分を疎水性液状組成物に用いる場合においても、果汁と疎水性香気成分を同じ果実から調製する必要はなく、別の果実から果汁と疎水性物質をそれぞれ準備することによって、工業的な大量生産に有利となる。
【0063】
具体的には、本発明に係る容器詰飲料の製造方法は、容器本体内に存在する空気を排気及び/又は不活性ガスで置換するガッシング工程と、前記ガッシング工程後に、前記容器本体内にベース液体となる可食性の水溶液を充填する水溶液充填工程と、前記水溶液充填工程後、前記容器本体内のベース液体の液面に、疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物を滴下する疎水性液滴吐出工程と、前記疎水性液滴吐出工程後、前記容器本体を密封する密封工程と、を有する。ガッシング工程と、水溶液充填工程と、密封工程とは、一般的な容器詰飲料の製造と同様にして行うことができる。
【0064】
疎水性液状組成物を容器本体に充填した後にガッシングやガスの排気を伴う可食性の水溶液の充填を行った場合、疎水性液状組成物が容器外に飛散したり、排気ラインに吸引されてしまい、容器詰飲料における疎水性液状組成物の含有量にばらつきが生じる。また、疎水性液状組成物によっては、排気ラインに付着しシーリング材等に影響を与える懸念もある。そこで、本発明においては、ガッシング工程後に容器本体内にベース液体を充填し、その後、ベース液体の液面に疎水性液状組成物を滴下する。これにより、ガッシングにより引き起こされる疎水性液状組成物の含有量のばらつきや排気ラインへの影響を防止できる。
【0065】
本発明において、ベース液体と疎水性液状組成物とを充填して密閉する容器は、特に制限はなく、ツーピース飲料缶、スリーピース飲料缶、ボトル缶、可撓性容器、ガラス瓶などを用いることができる。可撓性容器としては、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の可撓性樹脂をボトル形状等に成形してなる容器が挙げられる。可撓性容器は、単層樹脂からなるものであってもよく、多層樹脂からなるものであってもよい。
【0066】
本発明において製造される容器詰飲料が発泡性飲料の場合、耐圧性の高い容器を使用する。現在、流通しているアルミニウム(合金)製ツーピース飲料缶やアルミニウム(合金)製ボトル缶のメーカー保証耐圧は、高いもので686kPa程度であり、実際の耐圧を考慮すると加熱殺菌を要する場合はおおよそ3.2ガスボリューム以下、加熱殺菌が不要な場合はおおよそ3.8ガスボリューム以下となる。
【0067】
疎水性香気成分を始めとする疎水性物質の中には、樹脂を溶解又は劣化させるものがある。このため、可撓性容器や容器の一部に樹脂を使用している容器を用いる場合には、飲料中の疎水性液滴中に含まれている疎水性の物質によって溶解や劣化等の影響を受けない樹脂を用いることが好ましい。例えば、ツーピース飲料缶やスリーピース飲料缶などに用いられるシーリングコンパウンドは樹脂を主成分としており、ボトル缶のキャップのライナーにも樹脂が含まれる。
【0068】
例えば、柑橘類から得られる精油成分の多くはD−リモネンであり、飲料に自然な柑橘類の香りを付与するためには、疎水性物質にD−リモネンをある程度含有させる必要がある。一方で、D−リモネンは、スチレン・ブタジエンゴム等を主成分とするシーリングコンパウンドやキャップライナーを溶解させる恐れがある。したがって、D−リモネンを含有する疎水性液滴を含む飲料を封入する容器としては、D−リモネン耐性の高い樹脂が使用されている容器、例えば、フッ素ゴム、ニトリルゴム(NBR)、鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)等が使用された容器が好ましい。このような容器としては、フッ素ゴム、ニトリルゴム(NBR)等を主成分とするシーリングコンパウンドを使用したツーピース飲料缶又はスリーピース飲料缶や、キャップライナーとしてL−LDPEを用いたボトル缶が挙げられる。
【0069】
本発明に係る容器詰飲料の製造方法は、水溶液充填工程の後、疎水性液滴吐出工程を有することを特徴とする。容器本体内のベース液体の液面へ滴下された疎水性液状組成物が、跳ね返り、容器外へ流出してしまうことが起こり難いため、本発明において用いられる容器としては、容器本体の開口部の面積が、当該容器本体に充填されているベース液体の液面の面積よりも小さいことが好ましく、ベース液体の液面の面積の70%以下とすることがより好ましく、50%以下とすることがさらに好ましく、30%以下とすることがよりさらに好ましい。容器本体の密封される前の開口部の面積が相対的に小さい容器としては、ボトル缶、可撓性容器、ガラス瓶等のボトル形状の容器が挙げられる。
【0070】
疎水性液滴吐出工程において、容器本体内のベース液体の液面への疎水性液状組成物の滴下は、例えば、疎水性液状組成物を、容器本体内のベース液体の液面の上方にある液体定量吐出システムの吐出孔から吐出することによって行うことができる。液体定量吐出システムとしては、飲食品の製造分野で使用されている、比較的微量の液体を定量的に精度よく吐出可能な市販の液体定量吐出システムを適宜改変して用いることができる。
【0071】
広く使用されている液体定量吐出システムのうち、例えば、ノズル部分が図1に示した模式図のような構造の液体定量吐出システム1を、本発明において用いることができる。液体定量吐出システム1は、先端部に吐出孔2aを有するノズル2と、ノズル2の先端部を被覆するバルブシート3と、ノズル2の内部を上昇又は下降するロッド4と、吐出孔2aに向かって前記疎水性液状組成物を加圧流入する流路5と、を備える。バルブシート3には、吐出孔2aを塞がないように貫通孔(以下、「バルブ孔」ということがある)3aが形成されている。
【0072】
疎水性液状組成物は、常時加圧された状態で、流路5内を通って吐出孔2aまで供給されている。図1に示すように、ロッド4がノズル2内で最下点まで下降した状態では、ロッド4によって吐出孔2aが塞がれており、流路5内を通って吐出孔2aまで運ばれた疎水性液状組成物は、吐出孔2aから吐出されない。ロッド4が上昇すると、吐出孔2aが開通し、流路5内を通って吐出孔2aまで運ばれた疎水性液状組成物は、吐出孔2aからバルブシート3のバルブ孔3aを通ってノズル外部に吐出される。
【0073】
ロッド4が最下点に位置していない状態の時間、すなわち、ロッド4が上昇又は下降しているか、最高点で静止している状態の時間の和が、ノズル2の先端から疎水性液状組成物が吐出される時間である。ロッド4が最下点に位置していない状態の時間が長いほど、疎水性液状組成物の吐出時間が長くなり、疎水性液状組成物の吐出量が多くなる。つまり、ロッドの上昇又は下降のタイミングを制御することにより、疎水性液状組成物の吐出時間を制御でき、ひいては吐出量を制御することができる。
【0074】
水溶液充填工程において、容器本体に充填されるベース液体の量が比較的多い場合、例えば、当該容器本体の体積の80%以上である場合には、液体定量吐出システムから吐出され、ベース液体の液面で跳ね返った疎水性液状組成物の液滴が、容器外へ飛び出してしまいやすい。この場合には、ベース液体の液面に到達した疎水性液状組成物の液滴の跳ね返りを抑制できるよう、液体定量吐出システムにおける条件を適宜調整されることが好ましい。
【0075】
例えば、水溶液充填工程において、ノズル2の吐出孔2aから容器本体内のベース液の液面に下した線が、当該ベース液の液面と80〜110°、好ましくは85〜95°となる位置から、疎水性液状組成物を吐出させることが好ましい。このような位置に設置したノズル2の吐出孔2aから吐出された疎水性液状組成物は、容器本体内のベース液の液面に対して垂直な、概略円柱状の流れを成して、当該ベース液の液面に到達する。疎水性液状組成物がベース液の液面に対して略垂直に滴下することにより、容器外への跳ね返りを抑制できる。
【0076】
ノズル2の吐出孔2aから吐出される疎水性液状組成物の液滴の速度が速いほど、ベース液の液面に到達した液滴の容器外への跳ね返りを抑制できる。このため、流路5において、疎水性液状組成物にかかる背圧(送液圧)は、50〜400kPaが好ましく、100〜400kPaがより好ましく、200〜400kPaがさらに好ましく、250〜350kPaがよりさらに好ましい。
【0077】
ノズル2の吐出孔2aから吐出される疎水性液状組成物の粘度が高いほど、ベース液の液面に到達した液滴の容器外への跳ね返りを抑制できる。このため、吐出孔2aに供給される疎水性液状組成物の粘度は、20℃において12.0〜14.0Pa・s程度が好ましい。
【0078】
ノズル2の吐出孔2aから、容器本体に充填されたベース液面の液面までの距離が短いほど、滴下時に液滴にかかる空気抵抗が小さくなり、ベース液の液面に到達した液滴の容器外への跳ね返りを抑制できる。このため、吐出孔2aから容器本体に充填されたベース液面の液面までの距離は、60mm以下が好ましく、50mm以下がより好ましく、40mm以下がさらに好ましく、20〜35mmがよりさらに好ましい。
【0079】
ノズル2の吐出孔2aの大きさとバルブシート3に形成されているバルブ孔3aの大きさも、ベース液の液面に到達した液滴の跳ね返りに影響する。容器外への跳ね返りを効率よく抑制できるため、吐出孔2aの大きさは、バルブシート3のバルブ孔3aの大きさ以下であることが好ましく、バルブ孔3aの面積に対する吐出孔2aの面積の比([吐出孔2aの面積]/[バルブ孔3aの面積])は、0.50〜1.00が好ましく、0.60〜0.95がより好ましく、0.70〜0.95がさらに好ましく、0.70〜0.90がよりさらに好ましく、0.75〜0.85が特に好ましい。
【0080】
その他、吐出孔2aから吐出された疎水性液状組成物の液滴が、容器本体内のベース液の液面ではなく、容器本体の内壁面に向かって吐出させてもよい。容器本体の内壁面にぶつかった液滴は、内壁面を伝わってベース液の液面に到達する。
【0081】
1個のノズル2が有する吐出孔2aは、1個であってもよく、2個以上であってもよい。また、1個の容器本体内のベース液面に対して、1個の吐出孔2aからのみ疎水性液状組成物の液滴を充填してもよく、2個以上の吐出孔2aから疎水性液状組成物の液滴を充填してもよい。
【0082】
通常の飲料の充填工程においては、ベルトコンベア上を移動する容器本体に対して、同様に移動するノズルから飲料液が充填される。疎水性液状組成物を吐出する液体定量吐出システム1についても同様に、容器本体の動きに応じてノズル2を移動させてもよい。疎水性液状組成物の滴下量を比較的微量であるため、より定量的に充填可能であることから、容器本体の移動に対してノズル2の位置を固定して設置することもできる。
【0083】
ノズルから所定量の疎水性液状組成物を吐出して充填する際に、1個の容器本体内のベース液面に対して、所望の疎水性液状組成物を、全量を一度に吐出してもよく、複数回に分けて吐出してもよい。1回の吐出時間は、特に限定されるものではなく、例えば、30ms以下とすることができ、5〜25msが好ましく、5〜20msがより好ましく、5〜15msがさらに好ましい。また、疎水性液状組成物の吐出量は、1回当たり、10〜200mgとすることができ、20〜150mgが好ましく、20〜100mgがより好ましく、40〜80mgがさらに好ましい。
【0084】
ベース液体に添加する疎水性液状組成物の量は、疎水性香気成分の量が求める香味の強度やバランスに適した量となるように、適宜決定することができる。例えば、飲料の全量(ベース液体と疎水性液状組成物の総量)に対する疎水性液状組成物の含有量を、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは0.2g/L以上にすることによって、充分な香増強効果が期待できる。一方で、疎水性液状組成物の量が多すぎると、油っぽくなり、飲料としてあまり好ましくはない。飲料の全量に対する疎水性液状組成物の含有量を、好ましくは1.0g/L以下、より好ましくは0.8g/L以下にすることができる。
【0085】
また、疎水性香気成分の劣化を抑制するために、疎水性液滴吐出工程後、密封工程の前に、容器詰飲料の空寸部に存在する酸素を減少させることが好ましく、容器詰飲料の空寸部には窒素、二酸化炭素等の不活性ガスを充填することが好ましい。
【0086】
また、日本国においては、食品衛生法により、飲料に植物又は動物の組織成分を含有する場合、殺菌又は除菌を要することが定められている。容器詰飲料においては、通常、飲料を容器に密封した後、加熱殺菌が行われる。本発明においても、容器詰飲料の製造工程において、必要に応じて加熱殺菌処理を行う。加熱殺菌処理は、容器に充填前に行ってもよく、容器充填後に行ってもよい。殺菌方法としては、UHT(超高温)殺菌処理、パストライザー殺菌処理、レトルト殺菌処理等の常法により行うことができる。
【実施例】
【0087】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
[実施例1]
容器本体に充填されたベース液の液面に、液体定量吐出システムを用い、ノズルの吐出孔から疎水性液状組成物を吐出させて滴下させた場合の、液跳ねに対する吐出孔からベース液面までの距離の影響を調べた。液体定量吐出システムとしては、図1に示す構造を備えるノズルを有する液体定量吐出システム(「AeroJet」、武蔵エンジニアリング社製)を用いた。
【0089】
まず、原料用アルコール(エタノール濃度:95.3容量%)を6.1質量%、ショ糖を2.1質量%、無水クエン酸を0.3質量%、クエン酸ナトリウムを0.2質量%、レモンエキス(エタノール濃度:38.0容量%)を0.2g/L、及び水を混合して、ベース液体を調製した。調製されたベース液体を、446mL容のボトル缶に、400mL充填した。
【0090】
次いで、このボトル缶に、ノズル先端(バルブ孔)からの距離が表1中の「滴下距離」となるように、レモンオイルを吐出した。液体定量吐出システムの吐出条件は、背圧(送液圧)が330kPa、開時間(ロッドがバルブ孔を塞いでおらず、レモンオイルが、1個のボトル缶に吐出されている時間)を12ミリ秒とした。また、吐出孔の面積(A)は0.36mm、バルブ孔の面積(B)は0.44mmであり、A/Bは0.82であった。
【0091】
なお、使用したレモンオイルは、レモンの果皮から抽出された疎水性組成物(シングルオイル)と、このシングルオイルのテルペン炭化水素の一部を除去してテルペノイドの含有比を増大させた疎水性組成物(フォールディッドオイル)とを混合した疎水性液状組成物であった。レモンオイルIに含まれるテルペン類のうち、テルペン炭化水素の含有量は84.0質量%であり、さらに、テルペン炭化水素のうち、D−リモネンの含有量は68.2質量%であった。
【0092】
各試験区のレモンオイルの吐出状態と、液跳ねの回数を調べた結果を表1に示す。レモンオイルの吐出状態は、吐出孔から吐出されたレモンオイルが、ベース液の液面に対して垂直な、概略円柱状の流れを成してベース液の液面到達している状態を「〇」、ベース液の液面に対してレモンオイルの流れが傾いていたり、乱れている状態を「×」とした。
【0093】
【表1】
【0094】
表1の結果から、吐出孔からベース液の液面までの滴下距離を小さくするほど、液跳ねを抑制できることがわかった。
【0095】
[実施例2]
滴下距離を39mmとし、吐出孔の面積(A)、バルブ孔の面積(B)、背圧、開時間、滴下量を表2に記載の値とした以外は、実施例1と同様にして、容器本体に充填されたベース液の液面に、液体定量吐出システムからレモンオイルを吐出させて滴下させた場合の、液跳ねを調べた。結果を表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
表2の結果から、吐出孔の面積(A)とバルブ孔の面積(B)の比(A/B)が0.43であった試験区1と、A/Bが1.08であった試験区10が、液跳ねの回数が他の試験区よりもやや多かった。また、開時間が長く、吐出状態が良好ではなかった試験区4も、液跳ねが多かった。A/Bが0.52〜0.82であり、吐出状態が良好であったそのほかの試験区では、液跳ねがなかった。
【符号の説明】
【0098】
1…液体定量吐出システム、2…ノズル、2a…吐出孔、3…バルブシート、3a…バルブ孔、4…ロッド、5…流路。
図1