(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電子源にバイアスを印加することは、正バイアスを印加し、負バイアスを印加し、あるいは正バイアスと負バイアスとの組合せを印加することのいずれか1つ又は複数を含む、
請求項13に記載の電子源動作方法。
【発明の概要】
【0010】
本開示の一面は、CFEを低い真空環境で安定に動作させ、大きい電界放出電流を有する電子源動作方法を提供しており、当該動作方法は、以下の電子源を適用しており、前記電子源は、針先に固定される放出点を少なくとも1つ含み、前記放出点は、針先表面の金属原子とガス分子とが電界で形成される反応生成物であり、相応的には、前記電子源動作方法は、前記電子源の動作パラメーターを制御することによって電子を放出することを含む。当該放出点が針先表面に固定される金属原子とガス分子とが形成する反応生成物であり、針先の表面に根を下ろし、針先表面に遊離するガス分子又は遊離粒子等ではないため、遊離状の物質が集中して新しい放出点を形成することに起因して過電流焼損を引き起こすことはなく、安定性を効果的に向上している。また、当該放出点が針先表面の金属原子とガス分子とが形成する反応生成物を含み、金属原子又は他の金属化合物(例えば、金属ホウ化物等)そのものに対して、動作環境で(ガス分子が存在する)よりよい安定性を有し、動作環境における例えば水素ガス等とより作用又は反応しにくくなり、電子源の安定性をさらに向上している。なお、本開示に提供される電子源の放出点は、1個又は2個以上の金属原子とガス分子とが形成する反応生成物であり、低仕事関数を有する原子レベルの電子源を形成することができる。また、当該反応生成物により、表面仕事関数を顕著に低減させ、表面放出点が鋭く形成することによって、放出能力を顕著に向上している。なお、放出点の数量を増加することによって、電界放出電流の電流値を向上することができる。このように、上記電子源の動作パラメーターを制御することによって、CFEが低真空環境で安定に動作することを実現することができ、且つ、大きい電界放出電流を有している。
【0011】
選択的には、前記電子源の動作パラメーターは、動作バイアスと、動作温度又は前記電子源が位置する環境の動作圧力のいずれか1つまたは複数とを含む。本開示の電子源が、動作過程において、異なる動作バイアス、動作温度又は環境の動作圧力に対して、異なる動作方式を有しており、動作バイアス、動作温度又は環境の動作圧力を制御することによって、ユーザの放出状態への需要を実現することができる。
【0012】
選択的には、前記方法は、前記電子源が電子を放出する前又は後に、前記電子源に対して熱処理を行うこと、及び/又は前記電子源が電子を放出する際に熱処理を行うことを含める。熱処理によって、電子源表面の清潔を保持し、放出効率を向上することができる。
【0013】
選択的には、前記動作温度が電子源基板、前記針先表面の金属原子と前記放出点の消失温度の最小値よりも低く、あるいは、前記放出点が前記電子源基板の高電界強度構造にある場合、前記動作温度が電子源基板、前記針先表面の金属原子、前記放出点と前記高電界強度構造の消失温度の最小値よりも低い。これにより、放出点及び/又は放出点が位置する金属原子層を効果的に保護し、動作温度が高すぎて電子源を損害することを避けることができる。
【0014】
選択的には、前記電子源が電子を放出する際に印加する動作バイアスは、連続バイアス又はパルスバイアスのいずれか1つ又は複数を含む。具体的には、ユーザ需要に応じて電子源に連続バイアス又はパルスバイアスを印加してユーザの使用需要を満足することができる。
【0015】
選択的には、前記動作温度≦1000Kであり、前記動作圧力≦10
−3Paであり、あるいは、前記動作温度≦150Kであり、前記動作圧力≦1E
−6Paであり、あるいは、500K≦前記動作温度≦800Kであり、前記動作圧力≦1E
−6Paである。ただし、本開示に提供される電子源は、低い真空度で長時間に動作することを実現でき、電子源が低温または高い動作温度範囲にある場合、放出領域への遊離物(イオン衝撃の生成又は表面解離の生成)の移動を遅延することができ、コールドにより、針先付近領域の真空度の改善に寄与し、使用寿命の延長に寄与している。電子源が高い動作温度範囲にある場合、表面における解離物の形成を効果的に避け、遊離物が集中して焼損する状況を改善し、電子源の使用寿命の延長に寄与している。放出点の形成及び動作温度が低いため、動作する際に電子源の構成が変化しておらず、印加される電圧値が変化しておらず、電圧値が安定であり、電子銃の設計をコンパクトにすることができる。
【0016】
選択的には、前記電子源が電子を放出する前又は後に、前記電子源に対して熱処理を行うことは、連続加熱処理又はパルス加熱処理のいずれか1つ又は複数を含む。熱処理によって針先表面に吸着されるガス分子等を脱離させ、針先表面清潔度の向上に寄与し、放出能力を向上し、遊離物が集中して放出点を形成しさら焼損する状況を改善し、使用寿命を延長することができる。
【0017】
選択的には、前記電子源が電子を放出する際に熱処理を行うことは、連続加熱処理又はパルス加熱処理のいずれか1つ又は複数を含む。
【0018】
選択的には、前記連続加熱処理は以下の操作を含む。まず、前記電子源を継続に加熱し、ただし、加熱の温度が電子源基板、前記針先表面の金属原子と前記放出点の消失温度の最小値よりも低く、あるいは、前記放出点が前記電子源基板の高電界強度構造にある場合、加熱の温度が前記電子源基板、前記針先表面の金属原子、前記放出点と前記高電界強度構造の消失温度の最小値よりも低く、そして、第1の設定時間まで前記電子源の温度を維持する。第1の設定時間は、連続加熱設定時間である。これにより、放出点、放出点が位置する金属原子層、高電界強度構造を効果的に保護し、温度が高すぎて電子源を損害することを避ける。
【0019】
選択的には、連続加熱処理過程において、前記電子源の温度≦800Kであり、前記第1の設定時間≦20minである。
【0020】
選択的には、前記パルス加熱処理は、パルス方式によって前記電子源を加熱することを含み、ただし、パルス時間≦パルス時間閾値であり、パルス間の間隔時間≧間隔時間閾値であり、そして、加熱の温度が電子源基板、前記針先表面の金属原子と前記放出点の消失温度の最小値よりも低く、あるいは、前記放出点が前記電子源基板の高電界強度構造にある場合、加熱の温度が前記電子源基板、前記針先表面の金属原子、前記放出点と前記高電界強度構造の消失温度の最小値よりも低い。これにより、放出点、放出点が位置する金属原子層、高電界強度構造を効果的に保護し、動作温度が高すぎて電子源を損害することを避ける。
【0021】
選択的には、500K≦前記電子源の温度≦1000Kであり、前記パルス時間閾値≦10sであり、前記間隔時間閾値≧3sであり、あるいは、800K≦前記電子源の温度≦1000Kであり、2s≦前記パルス時間閾値≦3sであり、前記間隔時間閾値≧3sである。
【0022】
選択的には、前記方法は、連続加熱処理又はパルス加熱処理の過程において、電子源にバイアスを印加することをさらに含む。これにより、針先、例えば高電界強度構造等が変形することを避けることができる。
【0023】
選択的には、前記電子源にバイアスを印加することは、正バイアスを印加し、負バイアスを印加し、あるいは正バイアスと負バイアスとの組合せを印加することのいずれか1つ又は複数を含む。
【0024】
選択的には、正バイアスを印加する場合、前記正バイアスの値が前記放出点の電界蒸発に対応する電圧値よりも小さく、あるいは、負バイアスを印加する場合、前記負バイアスの絶対値が前記電子源の第1の放出電流の閾値に対応する電圧値よりも小さい。すなわち、針先の顕著なフィールド放出による電子の励起及びガス放出を避け、イオン化したガスの衝撃を少なくとも部分的に避けることができる。
【0025】
選択的には、一実施形態において、0.5KV≦前記正バイアスの値≦2KVであり、あるいは、−1KV≦前記負バイアスの値≦−0.5KVである。
【0026】
選択的には、前記方法は、前記電子源に対して放出点修復を行う操作をさらに含む。ただし、前記電子源に対して放出点修復を行うことは以下の操作を含む。まず、前記電子源の針先表面における少なくとも1つの放出点を除去し、そして、前記針先表面に新たな放出点を形成し、前記新たな放出点が針先表面の金属原子とガス分子とが電界で形成される反応生成物である。
【0027】
選択的には、前記電子源の針先表面における少なくとも1つの放出点を除去することは以下の操作を含む。まず、加熱又は電界蒸発によって前記電子源表面における少なくとも1つの放出点を除去し、ただし、加熱によって前記電子源表面における少なくとも1つの放出点を除去する場合、加熱の温度が電子源基板と前記針先表面の金属原子の消失温度の最小値よりも低く、あるいは、前記放出点が前記電子源基板の高電界強度構造にある場合、加熱の温度が前記電子源基板、前記針先表面の金属原子と前記高電界強度構造の消失温度の最小値よりも低い。なお、加熱過程において、電子源にバイアスを印加することができ、前記電子源にバイアスを印加することは、正バイアスを印加し、負バイアスを印加し、あるいは正バイアスと負バイアスとの組合せを印加することのいずれか1つ又は複数を含む。また、電界蒸発によって前記電子源表面における少なくとも1つの放出点を除去する場合、前記電界蒸発に印加される正バイアスの値が電子源基板と前記針先表面の金属原子の消失に対応する正バイアスの最小値よりも低く、あるいは、前記放出点が前記電子源基板の高電界強度構造に位置する場合、前記電界蒸発に印加される正バイアスの値が電子源基板、前記針先表面の金属原子と前記高電界強度構造の消失に対応する正バイアスの最小値よりも低い。これにより、放出点を除去する際に放出点の下方の金属原子、高電界強度構造、針先等を損害することを避け、放出点を除去した後に、針先表面の金属原子とガス分子とが反応生成物を形成し、放出点としている。
【0028】
選択的には、前記放出点が水素タングステン化合物である。
【0029】
選択的には、前記基板材料が導電材料であり、あるいは、前記高電界強度構造材料が導電材料であり、あるいは、前記基板及び/又は高電界強度構造表面が金属原子であり、あるいは、前記高電界強度構造材料と基板材料とが同じ又は異なり、あるいは、前記基板及び/又は高電界強度構造表面の金属原子材料と高電界強度構造材料とが同じ又は異なり、異なる場合、前記基板及び/又は高電界強度構造表面の金属原子が蒸着又は電気めっき等の方式によって形成され、あるいは、前記基板及び/又は高電界強度構造表面の金属原子材料と基板材料とが同じ又は異なり、異なる場合、前記基板及び/又は高電界強度構造表面の金属原子が蒸着又は電気めっき等の方式によって形成される。
【0030】
選択的には、前記基板材料が導電材料であり、且つ融点が1000Kよりも高く、あるいは、前記高電界強度構造材料が導電材料であり、且つ融点が1000Kよりも高く、あるいは、前記基板及び/又は高電界強度構造表面の金属原子の材料が融点が1000Kよりも高い金属材料であり、及び前記金属原子とガス分子との反応生成物が、真空条件で融点が1000Kよりも高い金属原子とガス分子との反応生成物を含む。
【0031】
本開示に提供される電子源動作方法により、CFEを低い真空環境で安定に動作させ、且つ、大きい電界放出電流を有しており、ただし、当該CFEは、針先に固定される放出点を少なくとも1つ含み、前記放出点は、針先表面の金属原子とガス分子とが電界で形成される反応生成物である。
【0032】
本開示及びその長所をより完全に理解するために、図面を参照して説明する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照しながら本公開の実施形態を説明する。しかしながら、これらの説明は例示的なものに過ぎず、本公開の範囲を限定するものではないことを理解されたい。以下の詳細な説明では、説明の便宜上、本公開の実施形態を全般的に理解されるように多数の具体的な詳細を説明している。しかしながら、1つまたは2つ以上の実施形態がこれらの具体的な詳細がなくても実施可能であることは明らかである。さらに、本公開の概念を不必要にあいまいにすることを避けるために、以下の説明では、周知の構造および技術の説明は省略する。
【0035】
本明細書で使用される用語は、本公開を制限することを意図するものではなく、特定の実施形態を説明するためのものに過ぎない。ここで用いる用語「有する」、「含む」等は、全ての特徴、ステップ、操作及び/又は部品の存在を説明するが、1つまたは2つ以上のその他の特徴、ステップ、操作又は構造を添加することが排除されない。
【0036】
本明細書で使用される全ての用語(技術的および科学的用語を含む)は、他に定義されない限り、当業者によって一般的に理解される意味を有する。本明細書で使用される用語は、本明細書の文脈と矛盾しない意味を有すると解釈されるべきであり、理想的なまたはあまりにも厳格な方法で解釈されるべきではないことに留意されたい。
【0037】
「A、B、およびC等のうちの少なくとも1つ」と同様の表現が使用される場合、一般的には、当業者によって一般に理解される表現の意味に従って解釈されるべきである(例えば、「A、BおよびCのうちの少なくとも1つを有するシステム」は、単独でAを有し、単独でBを有し、単独でCを有し、AおよびBを有し、AおよびCを有し、BおよびCを有し、および/またはA、B、Cを有するシステムなどを含むが、これらに限定されない。)。「A、BまたはCなどのうちの少なくとも1つ」と同様の表現が使用される場合、一般的に、当業者によって一般に理解される表現の意味に従って解釈されるべきである(例えば、「A、BまたはCのうちの少なくとも1つを有するシステム」は、単独でAを有し、単独でBを有し、単独でCを有し、AおよびBを有し、AおよびCを有し、BおよびCを有し、および/またはA、B、Cを有するシステムなどを含むが、これらに限定されない。)。
【0038】
図面には、ブロック図及び/又はフローチャートが示されている。ブロック図及び/又はフローチャートにおけるブロック又はその組合がコンピュータプログラムによって実現される、と理解すべきである。これらのコンピュータプログラムが汎用コンピュータ、専用コンピュータ又は他のプログラマブルデータ処理装置のプロセッサに提供され、これらのプログラムが当該プロセッサによって実行される際に、これらのブロック図及び/又はフローチャートに説明される機能/操作を実現する装置を作成することができる。
【0039】
本開示の技術案をよりよく理解するように、以下、まず、従来技術における電界放出行為を説明する。
【0040】
従来の電子源、例えば、タングステン(310)単結晶針先の電子源は、使用過程において3つの段階を経過し、まずは、清潔な電子源であり、ガスの吸着に伴い、安定期(Stability)となるが、ガスの更なる吸着に伴い、電流ノイズが徐々に現れ、不安定期(Instability)となり、電子源の安定性が悪くなり、動作時間の増加に従って、表面に汚染物が徐々に現れ、放出電流が急激に変動し、最後に焼損を招いてしまう。
【0041】
上記の焼損について、発明者がさらに研究したところ、それがイオン衝撃に緊密に関連することがわかった。これは、電子は放出された後に周囲空間のガス分子を電離し、さらに針先へ衝撃するからである。もう1つの可能性は、針先の表面が衝撃されて複数個の突起を形成し、複数の突起がそれぞれ放出点となり、最後に過電流を招き、焼損してしまうことにある。さらにもう1つのメカニズムがあり、つまり、針先の表面に吸着されたガス分子又はそれと他の物質との結合物質が、電界作用により絶え間なく移動し、最後に表面の1つの欠陥点(例えばイオン衝撃により発生した点)に1つのナノオーダーの突起を放出点として集め、放出点の迅速な成長により過電流を招き、最後に針先の焼損を招くことである。
【0042】
さらに、前述した問題は、大きい放出電流下でより厳しくなる。一般的に、長時間で安定的に動作可能な総放出電流が〜10マイクロアンペアであり、かつ、利用率が非常に低い。前述した欠点に鑑み、高輝度電子源分野において支配的なのはショットキー電界放出型電子源(Schottky thermal‐field emission source)である。
【0043】
本質的に言えば、CFEに対して、いかなる材料でもガス吸着及びイオン衝撃による影響を避けることができない。しかし、大電流下(>10マイクロアンペア)で動作すれば、電子激励脱気(特に電子が引出電極を衝撃する時に発生する)は真空度をさらに劣化させることで、針先の放出安定性が非常に悪くなり、変動の幅が極めて大きく、ますます長期間安定的に動作できなくなる。したがって、如何に安定的で大きい電界放出電流を提供するかということは、ずっと冷陰極電界放出型電子源の発展過程において最も主要なチャレンジである。
【0044】
上述したガス吸着及びイオン衝撃による影響を避けるために、現在の電界放出型電子源(一般的には金属針先のものを指す)は、超高真空中でしか動作(<10
−8Pa)できず、CFEの適用範囲が厳しく制限され、発明者は、これに対してさらに鋭意に研究したところ、真空中に残存したガス成分がH2、CO、CO
2を含み、主成分がH
2であり、H2の吸着により、清潔表面の放出能が徐々に悪くなる特徴を見出した。該真空範囲において、H2による影響は針先の電界放出性能を根本的に決定していると言える。したがって、どのようにしてH2による影響に対応するかということは、高安定性の針先を実現する鍵となった。従来技術には、ガス吸着の問題を緩和する技術的態様も幾つか存在し、例えばキャビティの真空度を1×10
−9Paオーダーまでさらに向上させることである。
【0045】
また、針先の表面の幾つかの遊離粒子状物質(atomic clusters)を放出点として直接利用する技術的態様も幾つか存在し、これも解決方式の1種の試みである。これらの遊離粒子状物質は、悪い真空度下で長時間放置して形成された汚染物であってもよく、電界作用によりこれらの遊離粒子状物質が針先のどこかに移動することができる。このような放出点は放出角が非常に小さく(〜5°)、引出電圧が極めて低く、輝度が従来のW(310)の10倍以上に達することができる。大きい放出電流(一般的には、〜10nAを安定的に提供することができる)を形成できないにもかかわらず、極めて良い安定性(<1×10
−7Pa)を示している。1つの可能性は、極めて小さいビーム角及び放出面積がイオン衝撃による影響を効果的に低下させることができると推定される。しかしながら、前述したように、このような遊離粒子状物質が固定されておらず、発明者は、電流が大きい場合(>1μA)、このような電子源が焼損しやすく、かつ、動作過程において、さらにこのような物質が絶え間なく現れ、その放出状態を徐々に変え、長時間維持することが非常に困難であることを見出した。もう1つの問題は、大気に暴露した場合、このような物質はサイズがガス分子に近いため、極めてガスに干渉されやすいことである。
【0046】
上記の種々の分析、推理及び実験に基づき、発明者は、電子源が長時間に安定に動作するように、本開示の電子源動作方法を提供しており、大きい電界放出電流を提供することができ、悪い真空環境で動作することができる。
【0047】
本開示の実施形態は、電子源動作方法を提供しており、以下の電子源に適用することができる。この電子源は、針先表面の金属原子とガス分子とが電界によって形成される反応生成物である、針先に固定される放出点を少なくとも一つ含む。当該方法は、前記電子源の動作パラメーターを制御することによって電子を放出することを含む。ただし、当該電子源は、以下の長所を有している。まず、放出点は、ガス分子と表面金属原子とが電界で反応して生成されるものであり、針先の表面に根を下ろし、表面を移動しない。そして、放出点自身は、強い環境適応能力を有しており、悪い真空(<10
−5Pa)で動作することができる。さらに、典型的な電界放出行為を有しており、引出電圧が極めて低く、普通な針先と比べて、引出電圧が30%低減し、最大放出電流が10mAレベルである。しかし、当該電子源を用いる過程において、以下の不備がある。ガス吸着の影響を受けやすく、ガス分子が電子源表面に吸着することに伴って、例えば放出点がガス分子によって覆われ、その放出能力が低減してしまう。また、イオン衝撃要因の影響を受けやすく、例えば、電子が放出した後に、空間ガス分子をイオン化し、イオン化することによって生成するイオンが針先表面を衝撃する。一つは、針先表面に突起が形成され(当該突起が新たな放出点として電流を放出する)、針先表面が衝撃されて複数の突起を形成し、複数の突起がそれぞれ放出点となり、最後に過電流を招き、電子源を焼損させるということである。もう1つは、針先の表面に吸着されたガス分子又はそれと他の物質との結合物質が、電界作用により絶え間なく移動し、最後に表面の1つの欠陥点(例えばイオン衝撃により発生した点)に1つのナノオーダーの突起を放出点として集め、放出点の迅速な成長により過電流を招き、最後に針先の焼損を招くことである。また、表面解離の影響によって、例えば、針先が長時間に動作し又は放置する場合、その表面に解離を生じ、即ち、移動可能な原子レベルの造粒物を生じ、これらの物質がある位置に集中してしまい、これらの移動可能な原子レベルの造粒物は輝度が高いが、大きい放出電流(例えば1μA)を受けることができず、針先の急激な焼損を招来し易く、急激な焼損はイオン衝撃と似ている。本開示に提供される方法は、上記した電子源の動作を制御することができ、上記課題を解決する技術案を更に提供している。
【0048】
図1は、本開示実施形態による電子源の構成概略図を模式的に示している。
【0049】
図1に示すように、針先は、針先表面に固定される放出点を一つ又は複数含み、当該放出点は、針先表面に位置する金属原子及びガス分子によって形成される反応生成物であるのがよい。
【0050】
一実施形態において、電界印加によって針先表面の金属原子とガス分子とが反応生成物を形成し、具体的には複数の実現方式を採用することができる。例えば、直接に針先に電圧を印加し、針先表面に高い電界強度を形成し、針先表面の金属原子と周囲のガス分子とが反応して反応生成物を形成してもよく、針先付近の電界強度発生構成(例えば、電極等)に電圧を印加して電界を形成し、さらに針先表面に高い電界強度を形成し、針先表面の金属原子と周囲のガス分子とが反応して反応生成物を形成してもよい。要するに、針先表面に形成されるフィールド及び当該フィールドの形成方式が限定されておらず、針先表面に、針先表面金属原子と周囲のガス分子とを反応させて反応生成物を形成するフィールド(例えば、電界)を形成すればよい。
【0051】
針先に電圧を印加して電界を形成する実施形態において、模式的な例示において、前記電界は、前記針先に正バイアス、負バイアス、又は正バイアスと負バイアスとの組合せを印加することによって発生するものであり、ただし、正バイアスを印加する場合、電界の電界強度は1〜50V/nmであり、負バイアスを印加する場合、電界の電界強度は1〜30V/nmである。
【0052】
前記放出点は、針先の所定位置、例えば、針軸線と針先の表面とが交差する一定の範囲内で形成されてもよく、特定の構造、例えば、電界強度優位性を有して金属原子とガス分子との反応生成物を優先的に形成する突起等の構造に形成されてもよく、さらに、反応活性を有する特定の領域、例えば、ガス分子とより反応しやすい特定の金属原子領域に形成されてもよく、もちろん、上記2種の場合を組み合わせて使用してもよく、ここでは限定されない。一具体実施形態において、針先構造は、基板と、前記基板上の、前記基板の他の箇所よりも電界強度が高い1つ又は2つ以上の高電界強度構造と、を含み、少なくとも1つの前記高電界強度構造の外面に金属原子を含み、該高電界強度構造の表面の金属原子は、電界強度優位性により同一環境においてガス分子とより反応生成物を形成しやすくなり、優先的に高電界強度構造で放出点を生成する。又一具体実施形態において、針先は、基板と、前記基板上の、前記基板の他の箇所よりも反応活性が高い1つ又は2つ以上の活性領域と、を含み、少なくとも1つの前記活性領域の外面に金属原子を含み、該活性領域の表面の金属原子は活性優位性により同一環境においてガス分子とより反応生成物を形成しやすくなり、優先的に活性領域で放出点を生成する。選択的には、前記高電界強度構造は突起を含む。
【0053】
ただし、前記金属原子は、針先本体の表面の金属原子であってもよく、すなわち、金属原子の種類と針先本体の種類とが同じであり、さらに蒸着、電気めっき等の方法によって針先の表面に形成された異なる種類の金属原子であってもよい。好ましくは、該金属原子の材料は、融点1000K超の金属材料であり、安定性がより良く、かつ、前述した熱処理等の方法により針先を洗浄することが容易となる。例えば、該融点1000K超の金属材料は、タングステン、イリジウム、タンタル、モリブデン、ニオブ、ハフニウム、クロム、バナジウム、ジルコニウム、チタン、レニウム、パラジウム、白金、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、金又は金属六ホウ化物等のうちのいずれか1種又は2種以上を含んでもよく、例えば、そのうちの1種の金属原子を単独で針先の表面の金属原子としたり、そのうちの2種以上の金属原子で形成された積層、例えばチタン層/白金層/タングステン層で形成された積層等としたり、あるいは、そのうちの2種以上の金属原子を混合して形成された非単体の金属層としたりしてもよく、ここでは限定されない。
【0054】
前記ガス分子は、ガス導入装置により導入され、例えば、ガス流量弁等により導入された特定のガス分子やある部品表面から脱着して発生するガス分子であってもよいし、チャンバを真空引く時に残存したガス分子等であってもよく、もちろん、上記2種の方式の組み合わせであってもよく、ここでは限定されない。ただし、前記ガス分子は、水素含有ガス分子と、窒素含有ガス分子、炭素含有ガス分子又は酸素含有ガス分子のうちのいずれか1種又は2種以上のガス分子とを含む。上記のガス分子は、導入されたガス分子であってもよいので、ガス導入量を動的に調整することができ、一般的には、導入時に、真空度<10
−4Paとする。真空チャンバにおける残存ガスを直接に利用する場合、真空チャンバにおける主な残存ガスが水素ガスである。好ましくは、前記水素含有ガス分子が水素ガスを含む。
【0055】
なお、放出点の消失温度、例えば、分解の温度は、放出点を除去しやすくするように針先本体の消失温度より低くしてもよく、放出点の消失温度は動作温度及び吸着されたガス分子を脱着させる温度よりも高くしてもよく、このようにして電子源が安定状態に回復するように簡単な熱処理により脱着(例えば熱処理)を行うことが容易となる。
【0056】
前記電子源の動作方法は、前記電子源の動作パラメーターを制御することによって電子を放出することを含む。例えば、電子源の動作電圧、印加電圧の時間、加熱電流、加熱電流の時間、動作温度及び環境真空度等を制御することによって、前記電子源を、例えば、放出電子動作モード(放出電流が制御可能)、熱処理モード及び修復モード等のユーザが所望するモードで動作させる。具体的には以下の通りである。前記電子源動作方法によって、本開示に提供される電子源は、低い真空環境で安定に動作することができ、大きい電界放出電流を有している。ただし、当該電子源は、針先に固定される放出点を少なくとも一つ含み、前記放出点は、針先表面の金属原子とガス分子とが電界で形成される反応生成物である。
【0057】
具体的には、前記動作温度は、電子源基板、前記針先表面の金属原子及び前記放出点の消失温度の最小値よりも低く、あるいは、前記放出点が前記電子源基板の高電界強度構造にある場合、前記動作温度は、電子源基板、前記針先表面の金属原子、前記放出点及び前記高電界強度構造の消失温度の最小値よりも低い。
【0058】
前記電子源が電子を放出する際に印加した動作バイアスは、連続バイアス又はパルスバイアスのいずれか一つ又は複数を含む。バイアスを印加する方式が制限されなく、これにより、電子源に対するユーザの各要求を満足することができる。
【0059】
図2は、本開示実施形態による電子源動作方法に適するデバイスの構成概略図を模式的に示している。
【0060】
図2に示すように、当該デバイスは、高圧電源V
EX、直流電源V
Heat、引出電極、真空チャンバ、コールドヘッド、絶縁体、ヘアピン、電子源、ガス導入装置(未図示)及び加熱装置(未図示)を含める。
【0061】
ただし、電子源(例えば、針先表面にタングステン原子と水素分子との反応生成物が放出点とする)がヘアピンに溶接されており、真空チャンバ(Vacuum Chamber)に置かれ、バックグラウンド真空が10
−3Paよりもよい(好ましくは、10
−6Paよりもよい)。
【0062】
電子源は、直流電源(V
Heat、〜5A@5V)に接続されている。そのため、針に対して熱処理を行なえる。熱処理は、連続加熱モード及びパルス加熱モード等を含む。上記加熱方式によって、針先の最高温度は3000度以上となり、即ち、調節可能な温度範囲は室温から3000度までである。なお、針を加熱する方式は、熱放射等の方式であってもよく、加熱方式について、ここでは限定されない。
【0063】
電子源の先部に引出電極があり、当該引出電極はグランドに接続されており、引出電極自身は、導電蛍光体スクリーンであってもよく、全体金属構成であってもよい。電子源は高圧電源V
EX(±30kV)に接続されており、電子源に電界を印加することができる。V
EXが負値である場合、フィールド放出とされてもよく、V
EXが正値である場合、電界蒸発などの表面処理に適用されることができる。なお、針に電界を印加する方式は、電子源が接地されてもよく、引出電極が高圧電源に接続されてもよく、電界を印加する方式について、ここでは限定されない。
【0064】
熱処理する際に、電界を印加してもよく、熱処理と電界とが同期に印加されてもよく、非同期に印加されてもよい。
【0065】
電子源は、絶縁体試料台(Insulator)に置かれて、コールドヘッド(Cold head)に接続されている。絶縁体試料台に、温度範囲を10〜500Kに調整する加熱装置を有している。
【0066】
以下、電子源に動作電圧を印加した後に、電子源の動作状態と動作パラメーターとの間の関係を、
図3A〜
図3Eを組み合わせて説明する。ただし、前記電子源の動作パラメーターは、動作バイアスと、動作温度又は前記電子源が位置する環境の動作圧力のいずれか又は複数とを含む。
【0067】
図3Aは、本開示実施形態による高真空度環境における低温又は室温での電子源の電流放出能力概略図を模式的に示している。
【0068】
図3Aに示すように、電子源は、一定時間安定に動作した後に焼損されてしまう。ただし、低温又は室温が20〜500Kであり、高真空が約10
−8Paであってもよい。本開示に提供される電子源は、典型的な電界放出行為を表現しており、すなわち、その放出電流は、引出電圧の向上に伴って顕著に大きくなる。
図3Aは、真空度が10
−8Paレベルである場合の典型的な測量結果を示しており、印加電圧が一定な負高圧(〜−2kV)である。初期段階では、放出電流が安定であるが、一定時間後、放出電流が不安定となり、さらに一定時間後、パターンが突然に変化し又は焼損してしまう。このような行為は、温度が20〜500Kである場合に見られるが、低温(<150K)では、当該過程の発生時間が顕著に長くなる。
【0069】
図3Bは、本開示実施形態による高真空度環境における低温又は室温での電子源焼損過程の概略図を模式的に示している。
【0070】
上記焼損は、針先表面における表面遊離物による可能性があり、
図3Bは、対応する概略図を示している。当該表面遊離物は、表面解離、及びフィールド放出過程におけるイオン衝撃という二つのメカニズムによって発生する可能性がある。
図3Bに示すように、このような遊離物質が固定されておらず、外部電界の作用によって、高電界強度のところに移動し、最後にいくつかの領域に集積してしまう。集積して形成される物質は、非常に低い引出電圧においても電子を放出することができる。大量な試験によって発現されるように、安定に放出する場合、このような集積物は、非常に小さい電流を放出しているが、放出電流が大きい(たとえば、1uAよりも大きい)場合、ばらつきが大きくて、電子源が焼損しやすくなる。
【0071】
図3Cは、本開示実施形態による真空度環境における低温又は室温での電子源の電流放出能力概略図を模式的に示している。
【0072】
図3Cに示すように、電子源の放出電流は、動作時間の向上に伴って顕著に低減しており、一定時間後、放出電流が不安定となり、さらに一定時間後、焼損してしまう。ただし、低温または室温が20〜500Kであり、中真空が約10
−7〜10
−5Paであってもよい。
図3Cは、針先の中真空(10
−7〜10
−5Pa)における典型的な測定結果を示しており、印加電圧が一定負高圧(〜−2kV)である。時間が長くなるに伴い、電流が顕著に低減しており、一定時間後、放出電流が不安定となり、さらに一定時間後、焼損してしまう。このような行為は、室温および低温において見られるが、低温(<150K)では当該過程の発生時間が顕著に長くなる。そして、低温では、電流の低減傾斜SL(the slope of degradation)が顕著に緩和しており、水平になる傾向がある。焼損は、イオン衝撃及び表面解離物の影響によるものである。電流の低減は、基本的にガス吸着の作用によるものである。
【0073】
図3Dは、本開示実施形態による真空度環境における高温での電子源の電流放出能力概略図を模式的に示している。
【0074】
図3Dに示すように、高い動作温度(例えば500〜800K)では、電子源は、全く異なる電界放出行為を表現している。具体的には、動作時間の増加に伴い、電子源の放出電流が顕著に低減しているが、焼損していない。ただし、高温が500〜800Kであり、真空が約10
−5Paであってもよい。
図3Dは、一定真空範囲(<10
−5Pa)における高温での典型的な測定結果を示しており、印加電圧が一定負高圧(〜−2kV)である。時間の増加に伴って、電流が低減しているが、室温(〜300K)における測定される針に対して、その低減傾斜SL(the slope of degradation)が顕著に緩和している。傾斜と真空度とが密接に関連しているため、電流の低減はガス吸着の作用によるものである。面白くは、焼損行為がなくなっている。真空度がさらに低減すれば、高温においても、針先がまた焼損してしまい、その結果、
図3A及び
図3Cに類似している。焼損はまたイオン衝撃および表面解離物の影響によるものである。
【0075】
つまり、放出能力の低減及び針先焼損は、上記した電子源の使用方法を制限している。
【0076】
電子源が普及及び応用されるように、上記電子源が真空度がさらに低い環境で安定な動作状態を実現するために、上記試験結果を分析している。
【0077】
図3Eは、本開示実施形態による針先表面に吸着されるガス分子の概略図を模式的に示している。
【0078】
図3Eに示すように、左図における放出点表面が清潔表面であり、動作過程において、針先表面に吸着されるガス分子は、電界作用によって放出点に徐々に移動しており(放出点が高電界強度構造表面に形成される場合、放出点における電界強度が最高である)、放出点に吸着されたガス分子は、電子源の放出能の低下ひいては消失を引き起こしている。分析した結果、一定動作電圧において、電子源の動作状態は、主に真空度及び動作温度に関連している。
【0079】
ただし、真空度に関する影響は、真空度が電子源の放出能力に直接に密接に関連しているということである。真空度がよいほど、その安定性が良くなり、そして、継続動作時間が長いほど、放出能力が低減又は劣化(degrade)しにくい。
【0080】
動作温度に関する影響は、適宜な動作温度において、放出電流が低減する低減傾斜SLが顕著に小さくなり、即ち連続動作の時間が長くなるということである。以下の二点に表現している。一つは、低温動作(たとえば、150Kよりも小さく、相対室温が約300Kである)の場合、動作時間が顕著に長くなることができる。二つは、高い温度動作(500Kよりも大きく、相対室温が約300Kである)の場合、動作時間が顕著に長くなることができる。
【0081】
以上のように、一実施形態において、前記電子源は、前記動作温度≦1000Kであり、前記動作圧力≦10
−3Paであるという環境で動作することができる。
【0082】
前記電子源の使用寿命をさらに延長するために、好ましくは、前記電子源は、前記動作温度≦150Kであり前記動作圧力≦1E
−6Paであり、あるいは、500K≦前記動作温度≦800Kであり前記動作圧力≦1E
−6Paであるという環境で動作することができる。
【0083】
また、上記分析によって分かるように、ガス吸着が致命的なものではないが、放出過程に普遍に存在しており、放出能力を低減させてしまう。上記ガス吸着の問題を改善するために、分析した結果、吸着されるガス分子を電子源表面から分離させることによって、電子源の放出能力を復帰することができる。具体的には、一定時間動作後(例えば0.1〜10時間)、加熱して吸着を脱離することができる。ただし、温度が高いほど、処理が十分になる。しかし、本開示で提供される放出点が針先表面の金属原子とガス分子との反応生成物であるため、長時間に高温処理を行う場合、放出点が消失してしまい、例えば、当該反応生成物が分解する可能性がある。また、放出点がナノメートルオーダまたはサブナノメートルオーダの突起に形成されるため、これらの突起が高温で徐々に変形し、放出能力が低減してしまい、即ち、より高い動作電圧が必要である。そのため、本開示は、上記電子源に好適する熱処理の関連方法を提供している。
【0084】
一実施形態において、前記方法は以下の操作を含む。まず、前記電子源が電子を放出する前又は後に、前記電子源に対して熱処理を行い、且つ/又は、前記電子源が電子を放出する際に熱処理を行う。
【0085】
ただし、前記電子源が電子を放出する前又は後に、前記電子源に対して熱処理を行うことは、連続加熱処理又はパルス加熱処理のいずれか一つはまたは複数の方式を含むことができる。即ち、電子源が放出しない状態において、それに対して連続加熱処理またはパルス加熱処理を行うことができる。
【0086】
前記電子源が電子を放出する際に熱処理を行うことは、連続加熱処理又はパルス加熱処理のいずれか一つ又は複数を含むことができる。即ち、電子源が放出する状態において、同様にそれに対して連続加熱処理又はパルス加熱処理を行うことができる。
【0087】
一具体的な実施形態において、前記連続加熱処理は以下の操作を含める。まず、前記電子源を継続加熱し(例えば、電子源に電力を接続して加熱しても良く、たとえば熱放射などの方式によって加熱しても良く、加熱方式についてここでは限定されない)、ただし、加熱の温度は、電子源基板、前記針先表面の金属原子および前記放出点の消失温度の最小値よりも低い。あるいは、前記放出点が前記電子源基板の高電界強度構造にある場合、加熱の温度は、前記電子源基板、前記針先表面の金属原子、前記放出点及び前記高電界強度構造の消失温度の最小値よりも低く、かつ、第1の設定時間t
cまで前記電子源の温度を維持する。好ましくは、タングステン原子とガス分子との反応生成物を放出点とする場合、前記電子源の加熱温度は800K以下であり、前記第1の設定時間は20min以下であってもよい。
【0088】
ただし、加熱温度に対する限定は、放出点、針先表面の金属原子、高電界強度構造または針先本体の損害を効果的に避けることができる。前記第1の設定時間は、実際な使用効果によって設定されることができ、また、当該第1の設定時間は、針先表面の金属原子の材料種類、高電界強度構造の材料種類等に関連してもよく、たとえば、熱処理際に放出点が消失しない限り、針先表面の金属原子の材料種類、高電界強度構造の材料種類等の融点が高いほど、相応的には、針先表面の金属原子及び高電界強度構造が熱処理の影響を受け難くなる。
【0089】
なお、熱処理を行う過程において、例えば連続加熱熱処理を行う過程において、針先にバイアスを印加し、針先構成(たとえば高電界強度構造)が変形して放出能力が変化することを避けることができる。
【0090】
ただし、前記針先にバイアスを印加することは、正バイアスを印加し、負バイアスを印加し、または正バイアス及び負バイアスの組合せを印加することのいずれか一つ又は複数を含むことができる。
【0091】
具体的には、正バイアスを印加する場合、前記正バイアスの値は、前記放出点の電界蒸発に対応する電圧値よりも小さく、あるいは、負バイアスを印加する場合、前記負バイアスの値は、前記電子源の第1の放出電流閾値に対応する電圧値(例えば、該電圧で電子源は放出電流が発生しなく、または大き過ぎる放出電流が発生しない)よりも小さい。
【0092】
図4Aは、本開示実施形態による連続加熱処理モードの概略図を模式的に示している。
【0093】
図4Aに示すように、連続加熱処理モードでは、加熱温度は800Kよりも小さいことができる。800Kよりも小さい温度区間において、ヘアピン(hairpin)に電流を流れ(その電流値が約数アンペアAであってもよい)、針を加熱する。当該デバイスについて、
図2に示すデバイスを参照することができる。当該処理過程は、一般的に数分(例えば0.1〜20min)を継続し、針先の具体的な状況に応じて延長してもよい。
【0094】
また、上記連続加熱操作では、針先突起を損害する可能性もある。特に、長時間処理の累積効果により、針先突起が変形してしまい、放出能力が顕著に低減してしまう。試験過程において、試験結果を比較することによって、熱処理の際に針先に一定程度のバイアス(電圧)を印加すれば針先の変形を効果的に避けることができることを発見した。この場合、以下の2つのモードを有している。一つは、正バイアスモード(例えば、その典型値が0.5〜2kVであってもよい)を印加し、電界放出電流がないため、電子励起の脱離ガスによる針先の引き続き吸着を避けることができ、しかし、正バイアスを印加する際の最大電圧の絶対値が針先表面放出点の電界蒸発電圧より小さいべきである。二つは、負バイアスを印加し、針先の電界放出が顕著ではないように、電圧範囲を制御すべきであり、そうしなければ、放出された電子がガスを励起し、吸着を引き続け、具体的には、印加された負バイアスの一般的な典型値が−0.5〜−1kVである。
【0095】
別の具体的な実施形態において、前記パルス加熱処理は、以下の操作を含める。まず、パルス方式によって前記電子源を加熱し、ただし、パルス時間t
1がパルス時間閾値以下であり、パルス間の間隔時間t
2が間隔時間の閾値以上であり、具体的には、加熱の温度が電子源基板、前記針先表面の金属原子及び前記放出点の消失温度の最小値よりも低く、あるいは、前記放出点が前記電子源基板の高電界強度構造にある場合、加熱の温度が前記電子源基板、前記針先表面の金属原子、前記放出点及び前記高電界強度構造の消失温度の最小値よりも低い。
【0096】
例えば、500K≦前記電子源の温度≦1000Kであり、前記パルス時間閾値≦10sであり、前記間隔時間の閾値≧3sであり、あるいは、800K≦前記電子源の温度≦1000Kであり、2s≦前記パルス時間閾値≦3sであり、前記間隔時間の閾値≧3sである。
【0097】
また、連続加熱モードにおいて電子源にバイアスを印加できるように、パルス加熱処理においても同様に電子源にバイアスを印加することができる。
【0098】
具体的には、前記電子源にバイアスを印加することは、正バイアスを印加し、負バイアスを印加し、あるいは正バイアスと負バイアスとの組合せを印加することのいずれか一つ又は複数を含む。正バイアスを印加する場合、前記正バイアスの値が前記放出点の電界蒸発に対応する電圧値よりも小さく、あるいは、負バイアスを印加する場合、前記負バイアスの絶対値が前記電子源の第1の放出電流閾値に対応する電圧値よりも小さい。例えば、0.5KV≦前記正バイアスの値≦2KVであり、あるいは、−1KV≦前記負バイアスの値≦−0.5KVである。
【0099】
図4Bは、本開示実施形態によるパルス加熱処理モードの概略図を模式的に示している。
【0100】
図4Bに示すように、パルス加熱処理モードでは、バイアスを印加してもよく印加しなくてもよい。ただし、例えば500〜1000K(当該加熱温度が連続加熱温度と異なってもよく、パルスモードが連続加熱より若干高い温度を提供することができる)というパルス加熱処理モードを採用することができる。
【0101】
図4Bには、各パルス間は、瞬間停止加熱時間である。例えば、ヘアピン(hairpin)に電流を流れることによって、電子源に対する加熱を実現することができる。デバイスについては、
図2を参照することができる。当該温度区間において、各加熱パルスが、例えば2〜3秒という10sより小さい時間を継続することができ、複数のパルスによって処理することができる。前後パルス間の相互干渉を避けるために、隣接するパルス間の間隔時間を増加することができ、一般的には、3秒よりも長い。パルス加熱処理期間において、バイアス(バイアスが正であってもよく、負であってもよい)を印加することができる。また、バイアスの印加周期は、パルス加熱処理のパルス周期と同じであってもよく、一部又は全体のパルス処理期間においてバイアスを印加してもよい。ここでは限定されない。
【0102】
上記パルス加熱処理操作において、針先突起を損害する可能性がある。特に、長時間処理の累積効果によって、針先突起が変形してしまい、放出能力が顕著に低減してしまう。熱処理する際に針先に一定程度のバイアス(電圧)を印加することによって、針先の変形を効果的に避けることができる。具体的には、以下の2つのモードを採用することができる。1つは、正バイアス(典型値が0.5〜2kVである)を印加することができ、この場合、最大電圧絶対値が針先表面放出点(例えばH‐W反応生成物)の電界蒸発電圧よりも小さいべきである。2つは、負バイアスを印加することができ、同様に、針先の電界放出が顕著ではないように、電圧範囲を制御すべきであり、そうしなければ、放出された電子がガスを励起し、イオン衝撃を引き続け、負バイアスを印加する際に、一般的には、典型値が−0.5kV〜−1kVである。
【0103】
一般的には、イオン衝撃は、厳重な問題であり、放出過程において普遍に存在している。小さい放出電流及び良好な真空状態であってもこの問題が存在しており、その影響が小さくなるが、根本的に回避することができない。適時に処理しなければ、その寿命が24時間を超えにくい。試験によって分かるように、このような遊離物質が生じる初期において、高い温度の処理(例えば、700 Kより高い温度)によって当該遊離物を針先表面から脱離させることができ、ただし、温度が高いほど、処理が十分になる。しかし、長時間の高温処理により、放出点が消失してしまう。また、放出点がナノメートルオーダの突起に形成され、これらの突起が高温においても変形し、放出能力が低減するため、より高い動作電圧が必要となっている。しかし、上記した熱処理方法によって、針先表面に吸着されるガス分子及び上記遊離物質を効果的に除去し、電子源の放出能力が使用時間の増加に伴って低減する状況を改善することができる。
【0104】
図4Cは、本開示実施形態による電子源を熱処理して放出能力を復帰する概略図を模式的に示している。
図4Cに示すように、上記熱処理によって電子源の放出能力を効果的に復帰することができる。なお、連続熱処理及び/又はパルス加熱処理モードにおいて(バイアスを印加してもよく印加しなくてもよい)、一部の放出点を除去することがある。この場合、放出点が除去された領域に放出点を再び形成し、初期の放出状態を復帰することができる。
【0105】
例えば、電子源に正バイアス又は負バイアスを印加し、針先表面に電界を形成することによって、除去された放出点の位置にある金属原子とガス分子とが反応生成物を形成し、新たな放出点としている。具体的には、負バイアスを印加して放出点を形成する場合、まず、前記針先に負バイアスを印加し、電流値がμAレベルである放出電流を生じ、所定値の放出電流を生じるまで、所定の時間を維持する又は前記負バイアスを調整し、そして、前記電子源の放出電流がミリアンペアレベルよりも小さく、針先の形状が変化又は焼損することを避けるように、負バイアスを調節する。正バイアスを印加して放出点を形成する場合、前記針先に正バイアスを印加し、所定の時間を維持し、前記正バイアスの値が前記突起を形成する電界蒸発バイアスの値よりも小さい。
【0106】
正バイアスを印加することについて、形成される電界強度の範囲は1〜50 V/nmであり、負バイアスを印加することについて、形成される電界強度の範囲は1〜30V/nmである。
【0107】
図4Dは、本開示実施形態による針先運行モードのフローチャートを模式的に示している。
【0108】
図4Dに示すように、
図4Cにおける動作モードを採用することができる。電子源が一定電圧で動作し、一定の放出周期(emission period)S201を経て、放出能力が低減すると(即ち、電圧が同じである場合、電界放出電流が小さくなる)、電子源の針先に対して復帰的な処理(Recovering treatment)(復帰処理周期S2に対応)を行うことができ、ガス吸着及びイオン衝撃を削除する効果を奏している。上記復帰的な処理は前記連続加熱処理モード(バイアスを印加してもよく印加しなくてもい)及び/又はパルス加熱処理モード(バイアスを印加してもよく印加しなくてもい)を含み、処理後、放出能力が復帰し、引き続き動作することができる。つまり、上記放出周期及び復帰処理周期を繰り返して、電子源を長時期に安定に動作させることができる。
【0109】
電子源の放出過程(S201)において、放出の安定性をさらに向上し、動作時間を延長させるために、電子源を以下の温度範囲に動作させることができる。一つは、低温における動作(例えば、150Kよりも低い温度)であり、二つは、高い温度における動作(例えば、500Kよりも高い温度)である。また、放出周期(Emission period)S201において、連続加熱モード及び/又はパルス加熱処理モードを行い、ガス吸着及びイオン衝撃を同期に削除することができる。
【0110】
復帰的な処理Recovering treatment(S202)において、以下の処理方法を含める。一つは、連続加熱処理モードであり、温度が800 Kよりも低い。二つは、パルス加熱処理モードであり、温度が500〜1000K(pulse mode)である。また、熱処理を行う際に、針にバイアスを同期に印加し、変形を防止することができる。
【0111】
図4Dに示す針先運行モードによって、上記した電子源に対して1000時間以上連続運行するので、電子源の使用寿命を大きく向上できるとともに、良好な放出状態を保持でき、例えば、引出電圧が最初より200ボルト未満向上している。
【0112】
図5は、本開示実施形態による針先が長期運行後に放出能力が劣化する概略図を模式的に示している。
【0113】
本実施形態において、
図5に示すように、電子源が長時間に運行する(例えば、1000番目の使用周期、約1000時間)場合、電子源の放出能力が部分的に劣化し、即ち、一定引出電圧において、一番目の周期の放出能力に比べて、電子源の最大放出能力が低減すると共に、復帰不可能になる。ただし、電子源がまだ熱処理によって大程度に修復することができる。具体的には、連続加熱処理モード(バイアスを印加してもよく印加しなくてもよい)、パルス加熱処理モード(バイアスを印加してもよく印加しなくてもよい)によって修復することができる。具体的には、修復する際に、間隔連続加熱又はパルス加熱によって温度を向上し、あるいは、動作する際に、連続加熱又はパルス加熱によって温度を向上し、また、動作過程において動作温度を向上することができる。電子源の修復条件が制限されておらず、ユーザが自分で定義することができることを強調すべきである。
【0114】
具体的には、前記方法は、前記電子源に対して放出点修復を行うという操作を含める。
【0115】
ただし、前記電子源に対して放出点修復を行うことは、以下の操作を含める。まず、前記電子源の針先表面の少なくとも1つの放出点を除去し、そして、前記針先表面に新たな放出点を形成し、前記新たな放出点が針先表面の金属原子とガス分子とが電界で形成される反応生成物である。新たな放出点の形成方法については、上記実施形態における新たな放出点を形成する方法を参照することができ、ここでは贅言しない。修復する際に間隔加熱によって温度を向上してもよく、あるいは、動作する際に加熱によって温度を向上してもよく、また、動作過程において動作温度を向上してもよい。
【0116】
一具体実施形態において、前記電子源の針先表面の少なくとも1つの放出点を除去することは、以下の操作を含める。例えば、加熱又は電界蒸発によって前記電子源表面の少なくとも1つの放出点を除去し、ただし、加熱によって前記電子源表面の少なくとも1つの放出点を除去する場合、加熱の温度が電子源基板と前記針先表面の金属原子の消失温度の最小値よりも低く、あるいは、前記放出点が前記電子源基板の高電界強度構造にある場合、前記加熱の温度が電子源基板、前記針先表面の金属原子及び前記高電界強度構造の消失温度の最小値よりも低い。
【0117】
なお、加熱過程において、電子源にバイアスを印加してもよい。前記電子源にバイアスを印加することは、正バイアスを印加し、負バイアスを印加し、あるいは、正バイアスと負バイアスとの組合せを印加することのいずれか1つ又は複数を含む。
【0118】
電界蒸発によって前記電子源表面の少なくとも1つの放出点を除去する場合、前記電界蒸発に印加される正バイアスの値は、電子源基板と前記針先表面の金属原子の消失に対応する正バイアスの最小値よりも低く、あるいは、前記放出点が前記電子源基板の高電界強度構造にある場合、前記電界蒸発に印加される正バイアスの値は、電子源基板、前記針先表面の金属原子及び前記高電界強度構造の消失に対応する正バイアスの最小値よりも低い。
【0119】
例えば、まず、毎回の熱処理パルスの温度及び/又は回数(例えば、数百回)を向上することによって表面における放出能力が劣化する放出点を除去すべきであり、正バイアスを印加することによって表面における放出能力が劣化する放出点(正バイアス値が突起を完全に蒸発しない)を除去してもよい。そして、再生の方式によって、針先表面に放出点を再び形成することができる。ただし、加熱の温度が1000Kを超えてはいけないことに注意すべきであり、そうでなければ、針先表面における突起を破壊しやすく、新たな電子源を採用せざるを得なくなる。使用時間を延長するために、高真空(10
−7Paより小さい)で運行することが最も好ましい方法であることに注意すべきである。それより悪い真空度で運行すれば、運行時間を保証するように、動作電流を低減する必要がある。
【0120】
針先焼損に対する解決方法は以下の通りである。
【0121】
上記電子源に対する大量の測定試験(前記のようなもの)によって、イオン衝撃及び表面解離がいずれも針先を焼損させ、これは致命的なものである。具体的には、以下の方法によって焼損を避ける。
【0122】
まず、高い真空度を提供する。例えば、高い真空度がP<10
−6Paであり、特に、針先付近(Local pressure)の真空度をこのレベルより小さくする。この場合、イオン衝撃の効果が顕著ではないが、放出電流IEを制御する必要がある。イオン衝撃によって針先表面に生じる遊離物の数量が、I×Pに比例している。
【0123】
そして、高い動作温度を提供する。例えば、動作温度が500K〜800Kである。これにより、焼損を効果的に避けることができる。当該温度区間が表面解離物の形成を避けることができる。より高い温度であれば、例えば、1000Kより高ければ、長時間の場合、上記電子源の放出点を消失させ、例えば、タングステン原子とガス分子との反応生成物を分解させる。
【0124】
あるいは、低い動作温度を提供する。例えば、動作温度が150Kよりも低い。この場合、温度を低減することによって、放出領域への遊離物(イオン衝撃の生成又は表面解離の生成)の移動を効果的に遅延できるとともに、冷凍により、針先領域の真空度を改善し、焼損の遅延に寄与することができる。
【0125】
あるいは、上記したガス吸着を改善するための熱処理(連続加熱処理又はパルス加熱処理等を含む)などの方法は、ガス吸着を改善する同時に、イオン衝撃、表面解離による焼損を効果的に改善することもできる。そして、高い真空度を提供することによって、ガス吸着の確率を大きく低減し、ガス吸着を改善することもでき、高い動作温度又は低い動作温度を提供することによってもガス吸着を改善することができる。
【0126】
なお、好ましくは、前記放出点が水素タングステン化合物である。水素タングステン化合物を放出点とする場合、引出電圧が低く、イオン衝撃した遊離物の生成率が低く、エネルギーが低く、放出領域への移動速度が遅く、焼損を遅延することができる。
【0127】
本開示の各実施形態及び/又は請求の範囲に記載される特徴が組合及び/又は結合を複数行い、このような組合又は結合が本開示に明確に記載されなくてもよいことに、当業者は理解すべきである。特に、本開示主旨及び示唆を脱離しない限り、本開示の各実施形態及び/又は請求の範囲に記載される特徴は、組合及び/又は結合を複数行うことができる。これらの全ての組合及び/又は結合は、本開示の範囲に含まれる。
【0128】
本開示の特定な例示的な実施形態を参照し、本開示を示して説明したが、当業者は、請求の範囲およびその均等物により限定される本開示の主旨及び範囲を脱離しない限り、本開示を形式的に又は細部的に変更できることを理解すべきである。したがって、本開示の範囲は、上記実施形態に制限されておらず、請求の範囲によって確定されるとともに、その均等物によっても限定されている。