(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
室温(room temperature)で金属ハロゲン化物を溶解することができる、液状アルケン(alkene)又は液状アルキン(alkyne)から選択される機能性溶媒と、
前記機能性溶媒に溶解されて、室温で液状にて存在する金属ハロゲン化物と
からなることを特徴とする、薄膜蒸着用の前駆体溶液。
【背景技術】
【0002】
原子層堆積(ALD)又は化学気相蒸着(CVD)工程のための前駆体としては、有機金属化合物や金属ハロゲン化物が汎用されている。
【0003】
有機金属化合物を前駆体として使用する際に、例えば、チタニウム金属薄膜を蒸着する場合、テトラジメチルアミノチタン(tetradimethylamino titanium)、テトラエチルメチルアミノチタン(tetraethylmethyl amino titanium)、テトラジエチルアミノチタン(tetradiethylamino titanium)等を適用することができる。このような有機金属化合物を前駆体として使用する場合、薄膜蒸着時の段差被覆(step coverage)に優れ、ハロゲンイオン等の不純物が発生しないため、工程上、腐食の恐れが少なく、ほぼ液状の前駆体であるため、工程上、使用し易い、という利点がある。しかし、原料の価格が高いため、経済的でなく、熱安定性が低いため、150〜250℃の温度範囲で使用すべきであり、蒸着時に、薄膜内における有機不純物の残留に起因する、薄膜特性の劣化という問題点がある。
【0004】
一方、金属ハロゲン化物を前駆体として使用する例としては、チタニウム金属薄膜を蒸着するための、四塩化チタン(TiCl
4)、四ヨウ化チタン(TiI
4)等が挙げられる。このような金属ハロゲン化物は、低価格で経済的であり、TiCl
4等のハロゲン化物は、揮発性が高くて蒸着に有利であり、有機不純物の生成がないため、現在、様々な蒸着工程において汎用されている。しかし、蒸着工程中に、ハロゲンイオンから腐食性ガスが発生し、薄膜内におけるハロゲンイオンに起因した汚染によって、製作したフィルムの電気抵抗が増加して、下部膜に損傷を与える問題点がある。また、金属ハロゲン化物の中には固体のものもあり、蒸着工程にすぐに適用できない場合もある。
【0005】
金属ハロゲン化物を前駆体として使用する際のこのような問題点を解決するために、韓国登録特許第10−0587686号公報、第10−0714269号公報等に開示されているように、前駆体と反応ガスをパージして、ハロゲンイオンが、可能な限り薄膜に損傷を与えないように、工程条件を最適化するのが一般的である。しかし、近年、蒸着によって製造されるフィルムの厚さ、寸法、構造が複雑になり、工程条件を最適化するだけでは、このような問題点を解決することができない。
【0006】
そこで、韓国公開特許第10−2001−0098415号公報に開示されているように、金属ハロゲン化物に対して、不活性液体、添加剤を付加しており、このような添加剤の中に、アルケン、複素環、アリール、アルキン等を含めることにより、ハロゲン化物リガンドの安定性の改善が試みられている。しかし、このような添加剤の具体的な作用や、どの添加剤がより効果的であるか等に関しては、研究が進められていない。
【0007】
一方、米国特許第8,993,055号明細書には、金属ハロゲン化物を第1金属原料の化学物質とし、2次供給源の化学物質に替え、次いで連続パルスと反応空間で基板を接触させて、ここにアセチレン等の第3原料の化学物質を付加する蒸着方法が開示されている。前記第3原料の化学物質は、蒸着向上剤して作用し、蒸着された薄膜内の塩素含有量を40倍減少させることが開示されている。このような理由については明らかとなっていないが、蒸着チャンバへのアセチレンガスの供給が、金属ハロゲン化物に起因するハロゲンイオンの発生を抑制する効果があると推測できる。
【0008】
米国公開特許第2016/0118262号公報にも、第3の反応物質としてアセチレンを付加することにより、蒸着工程での安定性を向上させることが開示されている。
【0009】
米国特許第9,409,784号明細書には、アルカン、アルケン、アルキン等を有機前駆体として付加することにより、TiCNB層における蒸着時の反応性を向上させることが開示されている。
【0010】
このような従来技術から、少なくとも、蒸着工程において金属ハロゲン化物から発生するハロゲンイオンは、アセチレンガスの三重結合との反応により、フィルムに接触する前に除去される可能性があると推測できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、金属ハロゲン化物を蒸着用前駆体として使用する際に発生するハロゲンイオンが効率的に除去されるように、機能性溶媒が混合された金属ハロゲン化物の前駆体溶液を提供することをその目的とする。
【0013】
また、本発明は、前記前駆体溶液を蒸着工程の前駆体として使用し、蒸着工程中に発生したハロゲンガスを非腐食性の揮発性液体に変換することにより、ハロゲンイオンに起因する工程上の問題点を解決することができる前駆体溶液を提供することをその目的とする。
【0014】
また、本発明は、蒸着工程において、薄膜の表面に存在するハロゲンイオンの機能をなくすことにより、薄膜の物性を向上させることができる前駆体溶液を提供することをその目的とする。
【0015】
さらに、本発明は、液状とすることにより、工程時の保管と利便性が増大し、工程の効率を向上させ、かつ薄膜における膜厚の均一性を向上させることができる前駆体溶液を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するための本発明に係る薄膜蒸着用の前駆体溶液は、
室温(room temperature)で金属ハロゲン化物を溶解することができる、液状アルケン(alkene)又は液状アルキン(alkyne)から選択される機能性溶媒と、
前記機能性溶媒に溶解されて、室温で液状にて存在する金属ハロゲン化物と
からなることを特徴とする。
【0017】
ここで、前記金属ハロゲン化物は、金属フッ化物又は金属塩化物であり得る。
【0018】
また、前記アルケンは、直鎖状アルケン、環状アルケン、及び分枝状アルケンのいずれか1つ又はそれ以上であり、前記アルキンは、直鎖状アルキン及び分枝状アルキンのいずれか1つ又はそれ以上であり得る。
【0019】
また、前記金属ハロゲン化物と前記機能性溶媒とは、1:0.01〜1:20のモル比で混合され得る。
【0020】
本発明に係る薄膜形成方法は、前記薄膜蒸着用の前駆体溶液を利用したものであり、
前記金属ハロゲン化物と前記機能性溶媒とを混合してチャンバ内に供給する、薄膜蒸着用の前駆体溶液の供給段階
を含むことができる。
【0021】
また、前記金属ハロゲン化物と前記機能性溶媒とをそれぞれチャンバ内に同時に供給する、薄膜蒸着用の前駆体溶液の供給段階
を含むことができる。
【0022】
また、前記金属ハロゲン化物をチャンバ内に供給した状態で前記機能性溶媒を前記チャンバ内に供給する、薄膜蒸着用の前駆体溶液の供給段階
を含むことができる。
【0023】
さらに、前記薄膜蒸着用の前駆体溶液の供給段階の後に、前記チャンバをパージするパージ段階と、
前記パージされたチャンバ内に、さらに機能性溶媒を供給する段階と
を含むこともできる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る薄膜蒸着用の前駆体溶液は、機能性溶媒が混合されているので、金属ハロゲン化物を蒸着用前駆体として使用する際に発生するハロゲンガス(HCl、HF、HI等)が効率的に除去され、ハロゲンイオンに起因した工程上における腐食問題、かつ薄膜内含有ハロゲンイオンに起因した問題点を解決し得るという効果を達成できる。
【0025】
また、液状の前駆体溶液として形成されているので、工程時の保管及び利便性が向上し、工程効率を向上させることができる。
【0026】
また、機能性溶媒のブロッキング効果により、薄膜における膜厚の均一性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明をより詳細に説明する。本願明細書及び特許請求の範囲で使用された用語や単語は、日常的かつ辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者らが自分自身の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適宜定義できることに基づいて、本発明は、その技術的思想に適した意味と概念に解釈されるべきである。
【0029】
本発明に係る薄膜蒸着用の前駆体溶液は、室温(room temperature)で金属ハロゲン化物を溶解することができる、液状アルケン(alkene)又は液状アルキン(alkyne)から選択される機能性溶媒と、該機能性溶媒に溶解されて、室温で液状にて存在する金属ハロゲン化物とからなることを特徴とする。
【0030】
通常、薄膜を形成する際に、金属の前駆体として金属ハロゲン化物を使用するのが一般的であり、この場合、蒸着工程において、チャンバ内で発生するハロゲンイオンを除去するために、工程条件に対する厳密な調整が必要である。
【0031】
このような蒸着工程としては、化学気相蒸着法(CVD)、原子層蒸着法(ALD)等が挙げられ、
図1には、従来の蒸着工程に従ったTiN薄膜の製造を例示している。即ち、従来の蒸着工程は、表面に反応基(OH基)が形成された基材上に、四塩化チタン(TiCl
4)ガスを導入する(a)段階、前記反応基とチタン化合物とが結合されて、塩化水素ガスが発生する(b)段階、前記(b)段階の後、パージをして、ほとんどの塩化水素を除去し、次に、反応物質であるNH
3を導入して、チタン化合物に結合された塩素をアミンに置換する(c)段階、及び、前記(c)段階の後、パージをして、未反応ガスを除去する(d)段階を経て、TiN薄膜を製造する。この際、(b)段階や(c)段階で発生する塩化水素ガスを効果的に除去するために、パージ条件を最適化しなければならず、これによって、製造された薄膜の電気的特性を確保することができる。また、(c)段階で発生したHClがNH
3と反応することも考えられるが、この場合、塩化水素ガスが塩の形で析出するので、その排出が容易ではなく、塩素イオンの除去反応としては、適用することができない。
【0032】
本発明では、このような工程条件に対する最適化からアプローチしていた従来の蒸着工程技術とは異なり、前駆体上で発生するハロゲンイオンを捕集かつ除去できる技術に注目して、前駆体溶液を最適化している。即ち、前駆体物質である金属ハロゲン化物と、室温では反応しない機能性溶媒とを混合し、これをチャンバ内に気体状で導入することにより、工程中に発生するハロゲンイオンを除去する。
【0033】
TiN薄膜の製造工程は、例えば、
図2に示す通りである。
【0034】
即ち、表面に反応基(OH基)が形成された基材上に、四塩化チタン(TiCl
4)ガスと、機能性溶媒であるn−ヘキセンガスとを導入する(a)段階、前記反応基とチタン化合物とが結合して、塩化水素ガスが発生する(b)段階、前記(b)段階で発生した塩化水素分子とn−ヘキセンとが反応して、塩化ヘキサンが生成される(c)段階、前記(c)段階後に生成された気体を、パージを介して除去し、反応物質であるNH
3を導入して、チタン化合物に結合された塩素をアミンに置換する(d)段階、前記(d)段階の後、パージをして、未反応ガスを除去する(e)段階を経て、TiN薄膜を製造する。この際、(b)段階で発生した塩化水素が機能性溶媒によってすぐに除去されるので、ハロゲンイオンに起因した、薄膜に損傷を与えるという問題点が大幅に改善される。
【0035】
したがって、本発明に係る薄膜蒸着用の前駆体溶液に適用される金属ハロゲン化物は、室温では液状でありながら、チャンバ内に導入する際に気化できる物質でなければならず、かつ、機能性溶媒は、室温では前記金属ハロゲン化物を溶解できる液状物質でありながら、チャンバ内に導入する際に気化して、チャンバ内で発生するハロゲンイオンと容易に反応して安定化させる物質でなければならない。室温で液状でなければならない理由は、使用前において、貯槽での保存が容易でなければならないからである。
【0036】
金属ハロゲン化物としては、通常、薄膜を形成する際に使用される物質であれば、どのようなものでも使用できるが、室温で液状である物質が好ましい。したがって、前記金属として、Ti、Al、Si、Zn、W、Hf、Zn、Ni等、任意の金属であっても使用できるが、室温で固相であるWCl
5、TiI
4や、室温で気状であるWF
6等の物質は、適用が難しい。しかし、前記機能性溶媒に溶解されて、室温で液状にて存在できるようにすれば、使用可能である。
【0037】
概ね、室温で液状である金属ハロゲン化物としては、金属フッ化物又は金属塩化物があり、例えば、四塩化チタン(TiCl
4)、四塩化ケイ素(SiCl
4)、六塩化ジシラン(Si
2Cl
6)、四塩化スズ(SnCl
4)、四塩化ゲルマニウム(GeCl
4)等が挙げられる。
【0038】
また、本発明で使用される機能性溶媒は、室温で液状でなければならず、金属ハロゲン化物とは反応性がなく、室温で前記金属ハロゲン化物を溶解できるものでなければならない。このような性質がなければ、金属ハロゲン化物と混合することができない。なお、チャンバ内で個別に供給される場合にも、機能性溶媒は、金属ハロゲン化物の気体と反応せずに、発生したハロゲンイオンと選択的に反応することができる。
【0039】
このような機能性溶媒としては、液状アルケン(alkene)又は液状アルキン(alkyne)が挙げられ、このような二重結合や三重結合が形成された炭化水素は、反応性の高いハロゲンイオンとすぐに反応してハロゲン化炭化水素となり、ハロゲンイオンを安定化することができる。
【0040】
具体的には、前記アルケンとしては、直鎖状アルケン、環状アルケン、及び分枝状アルケンのいずれか1つ又はそれ以上を挙げることができ、前記アルキンとしては、直鎖状アルキン及び分枝状アルキンのいずれか1つ又はそれ以上を挙げることができる。
【0041】
また、前記アルケン又はアルキンの具体的な成分は、実験的に、金属ハロゲン化物の溶解性、室温安定性、気化特性等を確認しながら確定すべきである。
【0042】
このために、四塩化チタンと1−ヘキセンとの混合物を製造し、これについての室温安定性、熱安定性、塩素イオン除去効率を実験した。
【0043】
まず、四塩化チタンと1−ヘキセンとを1:0.5のモル比で混合した際に、室温での、1日目かつ14日目のNMRスペクトルに変化が生じないことから、四塩化チタンが、溶解された状態で安定に存在することが確認できた(
図3)。
【0044】
また、四塩化チタンと1−ヘキセンとを1:0.5のモル比で混合し、室温から120℃、160℃に昇温させ、24時間以上放置した混合物について、NMRスペクトルを測定した結果、120℃では分解しなかったこと、かつ、160℃では少量分解したことが確認できた。したがって、120℃を超えると、徐々に分解が進行することが確認できた(
図4)。しかし、実際の蒸着工程では、高温にさらされるのは非常に短時間なので、熱分解による影響はないと理解される。
【0045】
また、四塩化チタンと1−ヘキセンとを1:2のモル比で混合した混合物を、大気に露出させた。この実験を通じて、四塩化チタンが加水分解されて発生した塩化水素を、1−ヘキセンが反応して安定化させることができるかを確認した。その結果、
図5の(b)に示すように、ハロゲン化アルキルに対応するピークが大幅に増加しており、これは、1−ヘキセンが、四塩化チタンから発生した塩化水素と反応して安定化させたことを表している。
【0046】
また、多種多様な機能性溶媒候補群に対して、前駆体溶液としての特性を確認するために、表1及び表2に示すように、様々な炭化水素溶媒をもって実験を行った。実験は、四塩化チタンと炭化水素溶媒とを1:2のモル比で混合し、ALD用又はCVD用のチャンバに導入した後、パージガスにおける塩素の総量と、蒸着した薄膜の塩素含有量とを測定して、塩素除去の性能を評価した。
【0049】
表1及び表2の結果から、直鎖状アルケン、環状アルケン、分枝状アルケン、直鎖状ジエン、環状ジエン、分枝状ジエン等のアルケンや、直鎖状アルキン、分枝状アルキン等のアルキンについては、室温で四塩化チタンが溶解されて混合され、チャンバ内に投入したときに、塩素除去の効果を示すことが明らかとなった。
【0050】
しかし、アルカンやハロゲン化物は、塩素除去の効果を示さないことが明らかとなった。これは、ハロゲンイオンとの反応性がない物質を溶媒として使用したときは、本発明で求められるハロゲンイオンの除去という効果が得られなかったことを表している。
【0051】
また、トリエンの場合、反応性が高過ぎたり、保管安定性が低くなるため、使用できないことが分かり、かつ、ニトリル化合物の場合、四塩化チタンとすぐに反応して塩を形成するため、安定な溶液として存在し得ないことが分かった。また、ジエンの中でも、1,3−ペンタジエン(1,3−Pentadiene)、1,3−シクロヘキサジエン(1,3−Cyclohexadiene)、1,3−シクロオクタジエン(1,3−Cyclooctadiene)、1,3−シクロヘプタジエン(1,3−Cycloheptadiene)、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン(2,4−Dimethyl−1,3−pentadiene)等は、反応が激しく起こるので、安定な溶液として存在することができなかった。
【0052】
本発明において、アルケンやアルキンの機能性溶媒を導入する場合の利点は、ハロゲンイオンの除去だけに限らない。つまり、基材表面に形成された金属薄膜とπ−結合を形成できるので、基材表面に蒸着された金属の表面に付着して、ブロッキングサイトとしての役割を果たすことができる。これにより、基材上にアイランドが生成される確率よりも、新しい結晶核が形成される確率が高くなるので、基材表面全体にわたって均等に蒸着がなされることになる。即ち、
図3に示すように、基材表面と結合したチタン原子の上に、四塩化チタンが再度結合しないようにブロッキングするので、アイランドの生成が困難となり、基材表面の新たな反応サイトと四塩化チタンとが結合して、結晶核を形成し易い環境が整えられる。このような機能性溶媒は、基材表面に形成される薄膜の厚さの均一性を向上させる役割を果たすので、微細工程及び高い段差被覆性を有する素子構造に効果的に適用できる。
【0053】
また、前記金属ハロゲン化物と前記機能性溶媒とは、1:0.01〜1:20のモル比、好ましくは1:1〜1:4のモル比で混合することが望ましい。前記範囲外であり、かつ機能性溶媒が非常に少ない場合、蒸着工程における塩素除去の性能が低下することが分かった。また、機能性溶媒が非常に多い場合、パージ条件を最適化することが困難であり、薄膜に対して、有機物汚染を引き起こすことが分かった。
【0054】
本発明に係る薄膜形成方法は、前記薄膜蒸着用の前駆体溶液を用いるものであり、前記薄膜蒸着用の前駆体溶液を構成する金属ハロゲン化物と機能性溶媒との混合方法に応じて、次のように遂行することができる。
【0055】
一実施態様では、前記金属ハロゲン化物と前記機能性溶媒とを混合してチャンバ内に供給する、薄膜蒸着用の前駆体溶液の供給段階を介して、薄膜形成を行うことができる。
【0056】
また、他の実施態様では、前記金属ハロゲン化物と前記機能性溶媒とをそれぞれチャンバ内に同時に供給する、薄膜蒸着用の前駆体溶液の供給段階を介して、薄膜形成を行うことができる。
【0057】
また、他の実施態様では、前記金属ハロゲン化物をチャンバ内に供給した状態で前記機能性溶媒を前記チャンバ内に供給する、薄膜蒸着用の前駆体溶液の供給段階を介して、薄膜形成を行うことができる。
【0058】
さらに、前記薄膜蒸着用の前駆体溶液の供給段階を遂行した後に、機能性溶媒をもう一度投入するために、前記チャンバをパージするパージ段階をと、前記パージされたチャンバ内に、さらに機能性溶媒を供給する段階とを介して、薄膜形成を行うこともできる。
【0059】
このような様々な混合方法は、蒸着工程の種類に応じて選択することができる。
【0060】
図7は、金属ハロゲン化物と機能性溶媒とを混合して蒸着工程を行う蒸着システムの概念図であり、このような蒸着システムでは、前記金属ハロゲン化物と前記機能性溶媒とを混合して、薄膜蒸着用の前駆体溶液を調製することができる。
【0061】
即ち、金属ハロゲン化物と機能性溶媒とからなる混合物を貯留槽に保管しておき、蒸着工程の際に、パージガスとともにチャンバ内に導入して蒸着させ、酸素等を導入して酸化膜を形成したり、窒化物等を導入して窒化膜を形成することができる。
【0062】
図8は、金属ハロゲン化物と機能性溶媒とを個別にチャンバ内に供給して蒸着工程を行う蒸着システムの概念図であり、このような蒸着システムでは、前記金属ハロゲン化物と前記機能性溶媒とを個別に貯留槽に保管しておき、次に、これらを同時にチャンバ内に供給し、チャンバ内で混合されるようにすることができる。
【0063】
また、
図8において、金属ハロゲン化物と機能性溶媒とを個別に貯留槽に保管しておき、前記金属ハロゲン化物を先にチャンバ内に供給した後、パージをしたうえで、前記機能性溶媒を前記チャンバ内に供給し、チャンバ内で混合されるようにすることもできる。
【0064】
したがって、
図7及び
図8では、チャンバ内に供給された金属ハロゲン化物と機能性溶媒とが、全て気化されると同時に混合されることになるので、蒸着過程で発生するハロゲン化物を効果的に除去することができ、かつ、蒸着される薄膜のアイランド生成が少なく、膜厚の均一性を向上させることができる。
【0065】
本発明に係る前駆体溶液を薄膜形成工程に適用する際の効果を確認するために、通常の四塩化チタンを前駆体として使用する場合(比較例)、機能性溶媒である1−ヘキセンに溶解された四塩化チタンを前駆体として使用する場合(実施例1)、及び、機能性溶媒であるシクロペンテンに溶解された四塩化チタンを前駆体として使用する場合(実施例2)において、それぞれのTiN薄膜特性に関する評価を行った。評価での目標とするTiN薄膜の厚さは、150Åとした。
【0066】
比較例1及び実施例1、2の各前駆体に対して、蒸着温度を400℃から440℃まで変化させながら、表3に示す条件に従ってALD工程にて薄膜を形成した(表3において、FSは、機能性溶媒を示す)。窒化膜を形成するために、前駆体とともに窒化反応物としてアンモニアを使用し、キャリアガスとしてアルゴンを使用した。
【0068】
比較例及び実施例1、2において、蒸着回収に伴う成長率(growth per cycle:GPC)を測定した結果を
図9に示す。
図9に示す結果から、本発明の機能性溶媒を適用した実施例1、2は、比較例よりも大幅に低いGPCを示すことが確認できた。同量の前駆体を導入したときにGPCが低いという結果は、薄膜の幅方向の成長速度が遅いこと、即ち、前駆体が部分的に溜まって形成されるアイランド現象が少ないことを表している。
【0069】
したがって、前記分析結果から、実施例1、2においては、TiN膜でのアイランドの形成が少ないことが明らかとなった。
【0070】
また、温度変化に応じたGPCを見ても、440℃まで蒸着温度を上昇させた場合、全体的にGPCが高くなっていたが、実施例1、2は、比較例に比べて、それぞれ6%、9%低いGPCを示しており、高温の蒸着条件であっても、機能性溶媒が有効に作用することが明らかとなった。
【0071】
また、比較例及び実施例1、2において、TiN薄膜の均一性を測定した結果を
図10に示す。
【0072】
図10に示す結果から、本発明に係る機能性溶媒を適用した実施例1、2においては、比較例よりも、膜の均一性が向上されることが確認できた。これは、実施例1、2において、低GPCによって、アイランドの形成が少なく、基材に均一に前駆体が蒸着されていることを示唆する結果と一致するものであって、本発明に係る機能性溶媒を導入する際に得られる効果が明らかとなった。
【0073】
製造された薄膜を電子顕微鏡で観察した結果を
図11に示す。
図11から、実施例1にて得られたTiN薄膜の表面の均一性が、比較例に比べて優れていることが確認できる。これは、膜形成工程において、アイランドの成長よりも、新たな核形成が容易であるという、本発明に係る機能性溶媒の適用による効果であると判断される。
【0074】
また、機能性溶媒の使用によるハロゲンイオンの除去効果を確認するために、比較例及び実施例1、2における塩素含有量を測定した。塩素含有量は、飛行時間型二次イオン質量分析計(ToF−SIMS)を用いて分析した。その結果を
図12に示す。
【0075】
図12に示す結果から、実施例1、2において、塩素含有量が、比較例に比べて顕著に減少することが分かった。これは、機能性溶媒の二重結合又は三重結合とハロゲンイオンとが反応し、パージによって除去される効果を立証する結果である。
【0076】
したがって、本発明に係る前駆体溶液を薄膜蒸着工程に適用する場合、ハロゲン化物の使用に起因する工程上の問題点を解決することができ、高品質の薄膜を形成することができる。
【0077】
本発明は、上述したように、好ましい実施形態を挙げて説明したが、前記実施形態に限定されず、本発明の思想から外れない範囲内で、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者によって、多様な変形及び変更が可能である。このような変形及び変更の例は、本発明に係る特許請求の範囲に属するものとすべきである。