(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記めっき層が、Al:50〜60質量%、Si:1〜3質量%及び任意添加成分:5質量%以下を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の塗装鋼板。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の塗装鋼板は、めっき層中にデンドライト相及びインターデンドライト相を有する溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき層上に、直接又は中間層を介して、塗膜が形成された塗装鋼板である。
そして、前記めっき層は、Al:20〜95質量%、Si:1〜3質量%、Zn:5〜80質量%及び任意添加成分:5質量%以下を含有し、残部が不可避的不純物からなる組成を有し、
前記塗膜は、ISO14577の押し込み試験に準拠した、室温20℃、押し込み深さ2.5μmで圧子を押し込み、押し込み時の荷重を10秒間保持して取り除いた後の、押し込みクリープC
ITが15〜90%であり、且つ、室温20℃、押し込み深さ4.0μmのマルテンス硬さHMが40〜300N/mm
2であり、
JIS G 3321(2019年)に記載のめっきの密着性試験に準拠した曲げ試験を行った際の、曲げ試験による伸び率Elが式(1)から得られ、試験片にクラックの発生が認められない最大の伸び率El(限界伸び率)が、式(2)の関係を満たすことを特徴とする。
El(%)=t/(2r−t)×100(%) ・・・(1)
t:鋼板の板厚(mm)、r:曲げ加工した試験片の外R
El
1/El
0≧1.05 ・・・(2)
El
0:塗膜形成前の溶融Al-Zn系めっき鋼板の限界伸び率(%)、El
1:塗膜形成後の塗装鋼板の限界伸び率(%)
【0021】
ここで、
図1は、従来の55%Al-Zn系めっき鋼板を曲げした際の加工部のめっき層の断面を、SEMによって2000倍の倍率で観察した写真である。
図1からもわかるように、従来のAl-Zn系めっき鋼板では、亀裂はインターデンドライト相内で発生しており、インターデンドライト相内を伝搬して広がる結果、加工後の耐食性が悪化するという問題があった。
図2は、溶融Al-Zn系めっき鋼板の加工部のめっき層の断面を模式的に示したものである。前記めっき層の曲げ加工が施された部分は、局所的にみると、鋼板とめっき層との界面に平行な方向に対して引っ張り応力σ
pがかかっており、アルミリッチなデンドライト相にはZnが過飽和に固溶しているためにインターデンドライト相よりも硬度が高く、曲げ加工時に発生した応力(実線の矢印)がインターデンドライト相部分に集中することから、めっき層の亀裂はインターデンドライト相内に生じると考えられる。
【0022】
そのため、本発明では、特定の機械的特性(ISO14577の押し込み試験に準拠した、室温20℃、押し込み深さ2.5μmで圧子を押し込み、押し込み時の荷重を10秒間保持して取り除いた後の、押し込みクリープC
ITが15〜90%であり、且つ、室温20℃、押し込み深さ4.0μmのマルテンス硬さHMが40〜300N/mm
2)を有する塗膜を、前記めっき層上に設けることによって、インターデンドライト相への応力集中を緩和させることができ、塗膜の表面硬度を維持しつつも、塗装鋼板の加工性を高めることが可能となる結果、耐傷つき性を良好に維持しつつ、加工後の耐食性を高めることができる。
【0023】
ここで、
図3は、本発明の塗装鋼板を曲げ加工した際の加工部のめっき層の断面を、SEMによって300倍の倍率で観察した写真であるが、めっき層上に形成された塗膜の応力緩和効果によって、インターデンドライト相内の亀裂の発生が抑えられていることがわかる。また、めっき層上に形成された塗膜については、曲げ加工時に生じた応力によって、居所的に伸びが発生し、膜厚が小さくなっていることがわかる。
図4は、本発明の塗装鋼板を曲げ加工した際の、加工部の塗膜及びめっき層の断面を模式的に示したものであるが、前記めっき層の曲げ加工が施され、鋼板とめっき層との界面に平行な方向に対して引っ張り応力σ
pがかかった際、めっき層上に形成された塗膜へ応力(破線の矢印)が生じ、これがめっき層の応力緩和効果となる。その結果、従来の溶融Al-Zn系めっき鋼板に比べて、めっき層に発生する応力(実線の矢印)が小さくなり、加工性、ひいては加工後の耐食性の向上が可能となる。
【0024】
そして、本発明の塗装鋼板では、JIS G 3321(2019年)に記載のめっきの密着性試験に準拠した曲げ試験を行った際の、試験片にクラックの発生が認められない最大の伸び率El(限界伸び率)が式(2):
El
1/El
0≧1.05 ・・・(2)
(El
0:塗膜形成前の溶融Al-Zn系めっき鋼板の限界伸び率(%)、El
1:塗膜形成後の塗装鋼板の限界伸び率(%))
を満たす。この関係を満たすことによって、前記めっき層中のインターデンドライトに集中する応力を緩和でき、優れた加工後耐食性を実現することができる。
同様の観点から、前記塗膜形成前後の最大伸び率の関係(El
1/El
0)については、1.10以上であること(El
1/El
0≧1.10)が好ましく、1.15以上であること(El
1/El
0≧1.15)であることがより好ましく、1.20以上であること(El
1/El
0≧1.20)がさらに好ましく、1.25以上であること(El
1/El
0≧1.25)が特に好ましい。
【0025】
また、前記めっき層中に任意添加元素が含有する場合、耐食性の向上や、製造安定性を向上が期待できる一方で、任意添加元素由来の合金相を形成して加工性が劣化する場合がある。そのため、前記限界伸び率は、加工後耐食性をより向上させる観点から、El
0が5%未満と低い場合には、上述したEl
1/El
0が1.50以上であること(El
1/El
0≧1.50)が好ましく、2.00以上であること(El
1/El
0≧2.00)がより好ましく、2.50以上であること(El
1/El
0≧2.50)がさらに好ましい。
【0026】
なお、前記塗装鋼板の伸び率Elについては、JIS G 3321(2019年)に記載のめっきの密着性試験(JIS G 3321(2019年)13.3.3の「めっきの密着性試験」)に準拠した曲げ試験を行った結果、得られた伸び率を用いている。
上述のJIS G 3321(2019年)では、内側に挟む鋼板は表示厚さの板の枚数と規定されており、この場合、決まった伸び率しか得られないが、これに代わり任意の厚さの板を用いることもでき、本発明では、以下の式(1)で示される伸び率を採用することで、塗膜形成前の溶融Al-Zn系めっき鋼板の限界伸び率El
0(%)、及び、塗膜形成後の塗装鋼板の限界伸び率El
1(%)を測定することができる。
El(%)=t/(2r−t)×100(%) ・・・(1)
(t:鋼板の板厚(mm)、r:曲げ加工した試験片の外R)
なお、前記試験片の外Rを測定する方法については、特に限定はされず、例えば、Rゲージによる測定、レーザー顕微鏡による測定、3Dマイクロスコープによる測定等が挙げられる。
【0027】
なお、本発明の塗装鋼板における前記伸び率Elの測定条件は、上記式(1)から算出すればよく、180°曲げ加工時の内側間隔として、2枚や3枚の鋼板を挟んだ試験(2T曲げ、3T曲げ)とすることもできるし、何も挟まずに曲げ180°曲げ加工を施すこともできる。また、内側に挟む鋼板は表示厚さの板の枚数と規定されているが、それでは決まった伸び率しか得られないため任意の厚さの板を用いることもできる。
【0028】
また、前記曲げ試験を行った際の、試験片にクラックの発生がしたか否かの確認手段については、確実にクラックの確認ができる方法であれば特に限定されない。例えば、確実に試験片のクラックを確認できる点からは、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、200〜500倍の倍率で観察を行うことができる。また、SEM以外にも、確実にクラックの確認ができれば、光学顕微鏡やルーペ等を用いることも可能である。
【0029】
以下、本発明の塗装鋼板を構成する各部材について説明する。
上述したように、本発明の塗装鋼板は、溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき層上に、直接又は中間層を介して、塗膜が形成されたものである。
【0030】
(めっき層)
前記めっき層は、Al:20〜95質量%、Si:1〜3質量%及び任意添加成分:5質量%以下を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有する。前記溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき層が、上述した組成を有することによって、めっき層中にデンドライト相及び該デンドライト相を網目状に取り囲んだインターデンドライト相を形成でき、耐食性の向上を図ることができる。
【0031】
また、同様の観点から、前記めっき層は、JIS G 3321(2019年)5.1に規定された「めっき浴成分」の組成、具体的には、Al:50〜60質量%、Si:1〜3質量%及び任意添加成分:5質量%以下を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有することが好ましい。
【0032】
ここで、前記めっき層中のAl含有量は、耐食性と操業面のバランスから、20〜95質量%とし、好ましくは50〜60質量%である。前記めっき層のAl含有量が少なくとも20質量%あれば、Alのデンドライト凝固が十分に起こる。これにより、前記主層は主としてZnを過飽和に含有し、Alがデンドライト凝固した部分(α-Alのデンドライト相)と残りのデンドライト間隙の部分(インターデンドライト相)からなり且つ該デンドライト相がめっき層の膜厚方向に積層した耐食性に優れる構造を実現できる。
また、このα-Al相のデンドライト部分が、多く積層するほど、腐食進行経路が複雑になり、腐食が容易に下地鋼板に到達しにくくなるので、耐食性が向上する。一方、前記めっき層中のAl含有量が95質量%を超えると、Feに対して犠牲防食作用をもつZnの含有量が少なくなり、耐食性が劣化する。このため、前記めっき層中のAl含有量は95質量%以下とする。
【0033】
また、前記めっき層中のSiは、下地鋼板との界面に生成する界面合金層の成長を抑制する目的で、耐食性や加工性の向上を目的にめっき浴中に添加され、必然的に前記主層に含有される。本発明の塗装鋼板で用いる溶融Al-Zn系めっき鋼板の場合、めっき浴中にSiを含有させて溶融めっき処理を行うと、下地鋼板がめっき浴中に浸漬されると同時に、鋼板表面のFeと浴中のAlやSiが合金化反応し、Fe-Al系及び/又はFe-Al-Si系の化合物からなる合金を生成する。このFe-Al-Si系界面合金層の生成によって、界面合金層の成長を抑制することができる。そして、前記めっき層中のSi含有量が1質量%以上の場合には、前記界面合金層の成長を十分に抑制できる。一方、めっき層のSi含有量が、3質量%を超えた場合、めっき層において、加工性を低下させ、カソードサイトとなるSi相が析出し易くなる。このため、めっき層中のSi含有量は3質量%以下とする。
【0034】
前記めっき層は、該めっき層の主成分としてZnを含有する。前記めっき層にZnを含有することで、犠牲防食作用を得ることができ、耐食性の向上を図ることが可能となる。一方、前記Znの含有量が80質量%以下の場合には、Alの含有量を確保でき、上述したデンドライト相とインターデンドライト相による耐食性を実現できる点で好ましい。
【0035】
さらに、前記めっき層は、上述したAl、Si及びZnに加えて、任意添加成分を5質量%以下含有することができる。
ここで、前記任意添加成分としては、めっき層に要求される性能に応じて適宜選択することが可能である。例えば、CaやMg等のアルカリ土類金属や、Mn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb及びB等の添加成分が挙げられる。
これらの任意添加成分については、耐食性をより向上できる等の効果が得られるものの、めっき層の加工性が低下し、塗装鋼板の限界伸び率を悪化させるおそれがあるため、任意添加の含有量は5質量%以下であることが好ましい。
【0036】
前記めっき層は、前記任意添加成分として、Mg及び/又はCaを含有することができる。前記めっき層が腐食した際、腐食生成物中にMg及び/又はCaが含まれることとなり、腐食生成物の安定性が向上し、腐食の進行が遅延する結果、耐食性が向上するという効果が得られる。前記Ca及び/又はMgの合計含有量は、5質量%以下であれば特に限定はされないが、0.01〜5質量%であることが好ましい。含有量を0.01質量%以上とすることで、十分な腐食遅延効果が得られ、一方、含有量を5質量%以下とすることで、効果が飽和することなく、製造コストの上昇を抑え、めっき浴の組成管理を容易に行えるためである。
また、前記めっき層は、前記Mgを少なくとも含有することが好ましい。前記めっき層がMgを含有することで、上述したSiとともにMg
2Siを生成できるようになり、腐食遅延効果を得ることができるからである。ここで、前記めっき層中のMgの含有量は、0.01〜5質量%であることが好ましく、2〜4.9質量%であることがより好ましい。
【0037】
さらに、前記任意添加成分としてのCaやMgのアルカリ土類金属と同様に、腐食生成物の安定性を向上させ、腐食の進行を遅延させる効果を奏することから、前記めっき層は、前記任意添加成分として、さらにMn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb及びBのうちから選択される一種又は二種以上を、合計で5質量%以下、好ましくは0.01〜5質量%含有することもできる。
【0038】
なお、前記めっき層は、めっき処理中にめっき浴と下地鋼板の反応でめっき中に取り込まれる下地鋼板成分や、めっき浴中の不可避的不純物が含まれる。前記めっき中に取り込まれる下地鋼板成分としては、Feが最大で2%程度含まれることがある。めっき浴中の不可避的不純物の種類としては、例えば、Fe、Cu、Zr等が挙げられる。前記めっき層中のFeについては下地鋼板から取り込まれるものと、めっき浴中にあるものとを区別して定量することはできない。不可避的不純物の総含有量は特に限定はしないが、めっきの耐食性と均一な溶解性を維持するという観点から、Feを除いた不可避的不純物量は合計で1質量%以下であることが好ましい。
【0039】
なお、前記界面合金層については、前記めっき層のうち、下地鋼板との界面に存在する層であり、上述したように、鋼板表面のFeと浴中のAlやSiが合金化反応して必然的に生成するFe-Al系及び/又はFe-Al-Si系の化合物である。この界面合金層は、硬くて脆いため、厚く成長すると加工時のクラック発生の起点となることから、できるだけ薄くすることが好ましい。
【0040】
なお、下地鋼板上に前記めっき層を形成する手段としては、特に限定はされず、通常の連続式溶融めっき設備を用いることができる。例えば、下地鋼板は還元性雰囲気に保持された焼鈍炉内で所定温度に加熱され、焼鈍と同時に鋼板表面に付着する圧延油等の除去、酸化膜の還元除去が行われた後、下端がめっき浴に浸漬されたスナウト内を通って所定濃度のAl及びZnを含有した溶融亜鉛めっき浴中に浸漬される。その後、めっき浴に浸漬された鋼板は、シンクロールを経由してめっき浴の上方に引き上げられた後、めっき浴上に配置されたガスワイピングノズルから鋼板の表面に向けて加圧した気体を噴射することによりめっき付着量が調整され、次いで冷却装置により冷却されることで、めっき層が形成される。
【0041】
また、前記めっき層が、任意添加成分を含有しない場合、例えば200℃×24時間程度の熱処理を施すことによって、塗膜形成前の溶融Al-Zn系めっき鋼板の限界伸び率を20%程度、あるいはそれ以上にまで向上させることができる。これは、アルミリッチなデンドライト相中に過飽和固溶したZnが上記の熱処理によって排出されることでめっき層が軟質化するためと考えられる。
一方で、任意添加成分を含んだ組成を有するめっき層の場合には、このような熱処理による加工性の向上効果は小さく、例えば、前記任意添加成分としてMgを2〜4.9%添加した場合には、熱処理後の限界伸び率は5%未満に留まる。この理由は、未だ明らかでは無いが、Al中の溶解度が高いことから熱処理後もアルミリッチなデンドライト相中に固溶元素として留まることなどが影響していると推定される。
【0042】
さらに、前記めっき層の組織中には、デンドライト相及びインターデンドライト相を有するが、デンドライト相のビッカース硬さが10〜110Hv
0.01であることが好ましい。前記デンドライト相のビッカース硬さを10〜110Hv
0.01と小さくすることで、塗装鋼板の加工性を高め、加工後耐食性をより高めることができる。前記デンドライト相のビッカース硬さが110Hv
0.01を超えると、加工性を十分に得られないおそれがあり、一方、前記デンドライト相のビッカース硬さが10Hv
0.01未満の場合には、めっき層表面の耐傷つき性を低下させるおそれがあるためである。同様の観点から、前記デンドライト相のビッカース硬さは、20〜100Hv
0.01であることが好ましく、30〜90Hv
0.01であることがより好ましい。このような場合、前記めっき層単体での加工時の限界伸び率をおよそ20%以上に高めることができ、前記塗膜形成後の限界伸び率をおよそ25%以上に高めることができる。
なお、前記ビッカース硬さについては、10gの試験力(Hv
0.01)で試験を実施している。
【0043】
(化成処理膜)
本発明の塗装鋼板は、前記溶融めっき鋼板のめっき層と前記塗膜との間に形成される中間層として、化成処理皮膜を形成することができる。前記めっき層と前記塗膜との間に化成処理膜を形成することで、塗装鋼板の耐食性をより高めることができる。
【0044】
前記化成処理皮膜の種類や形成条件については、特に限定はされず、要求される性能に応じて適宜選択することができる。
例えば、クロメート処理液又はクロムフリー化成処理液を塗布し、水洗することなく、鋼板温度として80〜300℃となる乾燥処理を行うクロメート処理又はクロメートフリー化成処理により形成することが可能である。なお、前記化成処理皮膜は、労働作業環境等に配慮する場合には、クロメートフリー処理によって形成すること(つまり、化成処理皮膜中にクロムを含有しないこと)が好ましい。
【0045】
(下塗り塗膜)
本発明の塗装鋼板は、前記溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき層と前記塗膜との間に形成される中間層として、下塗り塗膜(プライマー層)を形成することができる。前記めっき層と前記塗膜との間に下塗り塗膜を形成することで、後述する塗膜(上塗り塗膜)の溶融めっき鋼板との接着性をより高めることができ、耐食性や防錆性についてさらに向上させることもできる。なお、塗装鋼板において、前記溶融Al-Zn系めっき鋼板上に前記化成皮膜が形成される場合には、前記下塗り塗膜は前記化成皮膜上に形成される。
【0046】
前記下塗り塗膜の膜厚については、特に限定はされず、要求される性能に応じて適宜調整することが可能である。
例えば、防錆性と加工性との両立を図る観点から、前記下塗り塗膜の膜厚を、2〜15μmとすることができる。膜厚が2μm以上の場合には十分な防錆性が得られ、一方、15μm以下の場合には十分な加工性を確保できる。
【0047】
ここで、前記下塗り塗膜は、塗装鋼板の防錆性を向上させる観点から、防錆剤を含有することができる。前記防錆剤については、クロム酸塩を含むクロメートタイプ又はクロム酸塩を用いないクロメートフリータイプのどちらを用いることもできる。ただし、労働作業環境等に配慮する場合は、クロメートフリータイプ(つまり、下塗り塗膜中にクロムを含有しないこと)が好ましく、以下は、クロメートフリータイプの下塗り塗膜について説明する。
【0048】
前記下塗り塗膜のマトリックス成分を構成する樹脂としては、特に限定はされないが、作業性、耐食性、防錆性等の観点から、ポリエステル系樹脂及び/又はエポキシ系樹脂を用いることが好ましい。
【0049】
また、前記ポリエステル系樹脂については、ウレタン結合を有するポリエステル樹脂を主成分とすることが好ましい。
ここで、前記ウレタン結合を有するポリエステル樹脂としては、ポリエステルポリオールと、イソシアネート基を2個以上もつ、ジイソシアネートまたはポリイソシアネートとの反応によって得られる樹脂など、公知のものが使用できる。
また、ポリエステルポリオールと、イソシアネート基を2個以上もつ、ジイソシアネート又はポリイソシアネートとを水酸基過剰な状態で反応させた樹脂(ウレタン変性ポリエステル樹脂)を、ブロック化ポリイソシアネートで硬化させた樹脂も使用できる。
【0050】
前記ポリエステルポリオールは、多価アルコール成分と多塩基酸成分との脱水縮合反応を利用した、公知の方法により得ることができる。
前記多価アルコールは、グリコール及び3価以上の多価アルコールが挙げられる。グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、メチルプロパンジオール、シクロヘキサンジメタノール、3,3−ジエチル−1,5−ペンタンジオールなどが挙げられる。また、3価以上の多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどが挙げられる。これらの多価アルコールは、単独で使用することもでき、二種以上組み合わせて使用することもできる。
前記多塩基酸は、通常、多価カルボン酸が使用されるが、必要に応じて1価の脂肪酸などを併用することができる。多価カルボン酸としては、例えば、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、4−メチルヘキサヒドロフタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸、トリメリット酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、アゼライン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ピロメリット酸、ダイマー酸等及びこれらの酸無水物や、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸、テトラヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸等が挙げられる。これらの多塩基酸は、単独で使用することもでき、二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0051】
前記ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、そして、キシリレンジイソシアネート(XDI)、メタキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などの芳香族ジイソシアネート、さらに、イソホロンジイソシアネート、水素化XDI、水素化TDI、水素化MDIなどの環状脂肪族ジイソシアネート、及び、これらのアダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体等が挙げられる。これらのポリイソシアネート化合物は、単独で使用することもでき、二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0052】
前記ウレタン結合を有するポリエステル樹脂は、可撓性と強度を兼ね備えており、加工を受けた際、前記下塗り塗膜にクラックが発生するのを抑えることができる等の効果が得られる。また、ウレタン樹脂を含有する化成処理皮膜との親和性が高く、特に加工部の耐食性向上に寄与する。
ここで、前記ウレタン結合を有するポリエステル樹脂の水酸基価は、耐溶剤性、加工性等の点から、好ましくは5〜120mgKOH/gであり、より好ましくは、7〜100mgKOH/gであり、さらに好ましくは10〜80mgKOH/gである。
【0053】
また、前記ウレタン結合を有するポリエステル樹脂の数平均分子量は、耐溶剤性、加工性等の点から、好ましくは500〜15,000であり、より好ましくは、700〜12,000であり、さらに好ましくは800〜10,000である。
【0054】
なお、前記ポリエステル樹脂は、下塗り塗膜中に、40〜88質量%含まれることが好ましい。40質量%未満では、下塗り塗膜としてのバインダー機能が低下し、88質量%を超えると、下記に示す無機物による機能、例えばインヒビター作用が低下することがあるためである。なお、前記下塗り塗膜に含有する無機物は、インヒビターとして機能するバナジウム化合物、リン酸化合物、マグネシウム酸化物等が含まれてもよい。
【0055】
前記インヒビターとして作用するバナジウム化合物の種類については、例えば、五酸化バナジウム、メタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、オキシ三塩化バナジウム、三酸化バナジウム、二酸化バナジウム、バナジン酸マグネシウム、バナジルアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート等が挙げられる。これらの中でも、前記バナジウム化合物として、4価のバナジウム化合物又は還元若しくは酸化することによって得られる4価のバナジウム化合物を用いることが好ましい。前記下塗り塗膜中に添加するバナジウム化合物は、化成処理皮膜に添加するバナジウム化合物と同種であっても異種であってもよい。前記バナジン酸化合物は、外部から侵入してくる水分に徐々に溶出するバナジン酸イオンと亜鉛系めっき鋼板表面のイオンが反応し、密着性の良い不働態皮膜を形成し、金属露出部を保護し防錆作用が現れると考えられている。
【0056】
また、前記下塗り塗膜中のバナジウム化合物の含有量は、4〜20質量%であることが好ましい。4質量%未満ではインヒビター効果が低下して耐食性の低下を招くおそれがあり、20質量%を超えると下塗り塗膜の耐湿性の低下を招くおそれがあるからである。
【0057】
前記インヒビターとして作用するリン酸化合物の種類については、例えば、リン酸、リン酸のアンモニウム塩、リン酸のアルカリ金属塩、リン酸のアルカリ土類金属塩等を使用できる。これらの中でも、リン酸カルシウム等の、リン酸のアルカリ金属塩を用いることが好適である。
【0058】
また、前記下塗り塗膜中のリン酸化合物の含有量は、4〜20質量%であることが好ましい。4質量%未満ではインヒビター効果が低下して耐食性の低下を招くおそれがあり、20質量%を超えると下塗り塗膜の耐湿性の低下を招くおそれがあるからである。
【0059】
前記インヒビターとして作用する酸化マグネシウムは、初期の腐食によって生じた生成物を難溶性のマグネシウム塩として、安定化する効果がある。前記下塗り塗膜中の酸化マグネシウムの添加量は、4〜20質量%であることが好ましい。4質量%未満では上記効果が低下して耐食性の低下を招くおそれがあり、20質量%を超えると下塗り塗膜の可撓性が低下することにより特に加工部の耐食性が低下するおそれがあるからである。
【0060】
なお、前記下塗り塗膜を形成する際に用いられる架橋剤は、前記ウレタン結合を有するポリエステル樹脂と反応して架橋塗膜を形成するものであり、ブロック化ポリイソシアネート化合物であることが好ましい。前記ブロック化ポリイソシアネートとしては、例えば、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を、例えば、ブタノール等のアルコール類、メチルエチルケトオキシムなどのオキシム類、ε−カプロラクタム類などのラクタム類、アセト酢酸ジエステルなどのジケトン類、イミダゾール、2−エチルイミダゾールなどのイミダゾール類、又はm−クレゾールなどのフェノール類等によりブロックしたものが挙げられる。
【0061】
(塗膜)
本発明の塗装鋼板は、上述した溶融Al-Zn系めっき鋼板及び中間層に加えて、塗膜(以下、「上塗り塗膜」ということもある。)をさらに備える。
前記塗膜は、上述しためっき層と並んで本発明にとって重要な役割を果たす構成の一つであり、塗膜構成の適正化を図ることにより、良好な加工後耐食性と耐傷つき性を有する塗装鋼板を得ることができる。特に、元来塗装鋼板の耐食性はめっき層(めっき種)と塗装(塗膜)の両者の複合効果で得られるものであるため、加工後の耐食性にあっては、めっき層の加工性に関わる塗膜の効果指数ともいえる前記限界伸び率を適切な値にすることが非常に有効である。すでに述べたようにめっき層(めっき種)に合わせたEl
1/El
0設計(式(2):El
1/El
0≧1.05)もできる。
【0062】
そして前記塗膜は、ISO14577に準拠した押し込み試験を、室温20℃、押し込み深さ2.5μmの条件で実施し、押し込み深さ2.5μm時の荷重を10秒間保持し、荷重を取り除いた後に測定した押し込みクリープC
ITが15〜90%であり、且つ、室温20℃、押し込み深さ4.0μmのマルテンス硬さHMが40〜300N/mm
2であることを要する。前記塗膜の押し込みクリープC
IT及びマルテンス硬さHMを、上記範囲に規定することで、塗膜の表面硬度を維持しつつ、前記めっき層中のインターデンドライト相への応力集中を緩和させることができるため、塗装鋼板の加工後耐食性及び耐傷つき性を高いレベルで両立できる。
【0063】
ここで、前記塗膜の押し込みクリープC
ITが15%未満の場合には、前記塗膜が硬質化し、わずかな加工で塗膜中に亀裂を生じることとなり、前記めっき層中のインターデンドライト相への応力集中を十分に緩和できないため、所望の加工後耐食性を得ることができない。一方、前記塗膜の押し込みクリープC
ITが90%を超えると、前記塗膜の強度が小さくなるため、塗装鋼板の耐傷つき性が悪化する。
同様の観点から、前記塗膜の押し込みクリープC
ITは、20〜70%であることが好ましく、20〜60%であることがより好ましい。
【0064】
前記塗膜の押し込みクリープC
ITは、ISO14577に準拠した押し込み試験を実施することで得られ、公知の測定装置によって測定できる。
例えば、
図5に示すように、所定の試験力Fによって圧子を塗膜に押し付け、押し込み深さhを測定することで、押し込みクリープC
ITを測定できる。
【0065】
ここで、前記塗膜の押し込みクリープC
ITの適切な測定方法について例示説明する。前記めっき層中のインターデントライト相への集中応力の緩和は、前記塗膜の押し込みクリープC
ITの大きさが寄与するため、前記塗膜の平均的な押し込みクリープC
IT(%)を測定することが好ましい。
また、前記塗膜には必要に応じて種々の無機骨材を含有させることもできるが、前記無機骨材は集中応力を緩和する効果がなく、押し込みクリープC
ITも低い値を示す。そのため、前記塗膜中に無機骨材を含有する場合、無機骨材を避けて押し込みクリープC
ITを測定することが好ましい。無機骨材の分散状態等により無機骨材を避けて測定することが難しい場合、前記塗膜表層からランダムに最低10点、好ましくは30点における押し込みクリープ率を測定し、押し込みクリープ率が高い値を示した3点の平均値(%)を押し込みクリープC
ITとして用いることが好ましい。さらに、前記塗膜内部の無機骨材の影響による測定誤差を小さくするため、押し込み深さは塗膜表層側から2.5μmの深さとすることが好ましい。
なお、押し込みクリープ率の特性上、温度、押し込み時の保持荷重、保持時間の条件により測定値が変動することから、本発明では、室温20℃、押し込み深さ2.5μmの条件で押し込み試験を実施し、押し込み深さ2.5μm時の荷重を10秒間保持し、荷重を取り除いた後の、押し込みクリープ率を採用している。
【0066】
前記塗膜の押し込みクリープC
ITは、上述したように、インターデンドライト相への応力集中を緩和するべく弾力性を持っているため、軟質で塗膜表面に傷がつきやすい傾向にある。そのため、本発明では、表面硬度を高めるため、前記塗膜のマルテンス硬さHMが40〜300N/mm
2であることを要する。
【0067】
前記塗膜のマルテンス硬さHMが40N/mm
2未満の場合には、傷がつきやすくなり、十分な耐傷つき性が得られず、前記塗膜のマルテンス硬さが300N/mm
2を超える場合には、塗膜の硬質化が進みすぎるため、塗膜形成後の塗装鋼板の限界伸び率を十分に得ることができない。
同様の観点から、前記塗膜のマルテンス硬さHMは、50〜250N/mm
2であることが好ましく、60〜220N/mm
2であることがより好ましい。
【0068】
ここで、前記塗膜のマルテンス硬さHMは、前記塗膜の押し込みクリープC
ITと同様に、ISO14577に準拠した押し込み試験を実施することで得ることができ、公知の測定装置によって測定できる。ただし、本発明では、前記マルテンス硬さHMを、押し込み深さ3.0μm以上の条件で測定する。その理由としては、前記塗膜の表面近傍だけでなく、一定の深さ以上の硬度が、前記塗膜の耐疵付き性能に寄与するからである。
例えば、本発明では、前記マルテンス硬さHMを、押し込み深さ4.0μmでの測定値とすることができる。
【0069】
なお、前記塗膜の押し込みクリープC
IT及びマルテンス硬さHMを、上述の範囲とする方法としては、特に限定はされない。
前記塗膜の材料や、膜厚、製造条件等の調整を行うことで、前記塗膜の押し込みクリープC
IT及びマルテンス硬さHMを、上述の範囲とすることができる。例えば、前記塗膜の押し込みクリープC
ITを大きくするためには、塗膜を構成する樹脂の分子量を大きくすること、樹脂のガラス転移点を下げること、水酸基価を下げること、塗膜を形成する塗料中に配合する硬化剤の含有量を減らすこと、ウレタン系の硬化剤を用いること等が有効である。一方、前記塗膜のマルテンス硬さHMを大きくするためには、塗膜を構成する樹脂の分子量を小さくすること、樹脂のガラス転移点を上げること、水酸基価を上げること、塗膜を形成する塗料中に配合する硬化剤の含有量を増やすこと、メラミン系の硬化剤を用いること等が有効である。
なお、前記限界伸び率が、式(2)(El
1/El
0≧1.05)を満足するように塗膜設計する方法は、特に限定されない。例えば、上述のクリープC
ITを制御する方法を使用することができ、化成処理膜や下塗り塗膜により多少の影響を受けるとしても当業者であれば通常の試行錯誤で所望のEl
1/El
0を得ることに困難はない。
【0070】
なお、前記上塗り塗膜の膜厚については、特に限定はされず、要求される性能に応じて適宜調整することが可能である。
例えば、生産性を悪化させることなく、より優れた耐傷つき性及び加工後の耐食性を得る観点から、前記上塗り塗膜の膜厚は、5〜30μmとすることが好ましく、10〜20μmとすることがより好ましく、14〜18μmとすることがさらに好ましい。前記上塗り塗膜の膜厚が5μm以上の場合には、より優れた耐傷つき性及び加工後の耐食性を実現でき、一方、30μm以下の場合には製造の煩雑さや製造コストの上昇を招くこともない。
【0071】
以下、前記塗膜の構成について、一例を記載する。
前記塗膜(上塗り塗膜)の主樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いることが好ましい。加工性を向上する観点からは、ポリエステル系樹脂又はポリフッ化ビニリデン系樹脂を含むことが好ましく、さらにコストを考慮すると、ポリエステル系樹脂を含むことがより好ましい。
【0072】
前記ポリエステル系樹脂は、ポリエステル樹脂、シリコン変性ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂を含み、主剤樹脂の硬化剤としては、ポリイソシアネート化合物又は/及びアミノ樹脂などを用いることが可能である。
【0073】
前記ポリエステル樹脂は、1分子中に少なくとも2個の水酸基を有且つ数平均分子量が1,000〜20,000の化合物である。また、数平均分子量は2,000〜20,000であることが好ましい。前記ポリエステル樹脂の数平均分子量が2,000未満では、加工性が低下する場合があり、一方、数平均分子量が20,000を超えると耐候性が低下し、高粘度になるため過剰の希釈溶剤が必要となり、塗料中の樹脂の比率が低下するため、適切な塗膜が得られなくなり、他の配合成分との相溶性も低下する場合がある。
なお、ポリエステル樹脂の分子中の水酸基は、分子中の末端または側鎖のいずれにあってもよい。数平均分子量は、GPCにより測定したポリスチレン換算分子量とする。
【0074】
前記ポリエステル樹脂は、多塩基と多価アルコールを常法で加熱反応させて得られる共重合体である。
多塩基酸成分としては例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水トリメリット酸、マレイン酸、アジピン酸、フマル酸等を用いることができる。
また、多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどを用いることができる。
【0075】
また、市販されているポリエステル樹脂としては、アルマテックス(商品名、三井化学(株)製)、デスモフェン(商品名、住化コベストロウレタン(株)製)、バイロン(商品名、東洋紡績(株)製)等があげられる。
【0076】
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、上塗り塗膜成分として用いられる場合、ポリフッ化ビニリデン樹脂とアクリル樹脂とを混合して使用する。
【0077】
前記ポリフッ化ビニリデン樹脂としては、重量平均分子量が300,000〜700,000で且つ融点150〜180℃のものを用いることが好ましい。例えば、アルケマ社製の「カイナー500(重量平均分子量:350,000、融点:160〜165℃)」等が例示できる。
【0078】
前記ポリフッ化ビニリデン樹脂と混合するアクリル樹脂としては、数平均分子量が1,000〜2,000のものが好ましい。また、前記アクリル樹脂は、以下のようなモノマー(i)〜(iv)の少なくとも一種(但、少なくとも一種のアクリルモノマーを含む)を通常の方法により重合(または共重合)させることにより得ることができる。
【0079】
(i)(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル等のヒドロキシル基を有するエチレン性モノマー。
(ii)(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボキシル基を有するエチレン性モノマー。
(iii)(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、アクリン酸ブチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の、上述のモノマー(1)及び(2)と共重合可能なエチレン性モノマー。
(iv)スチレン、αーメチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン等のスチレン誘導体。
これらのモノマーのうち、水酸基やカルボキシル基などの官能基を有するモノマーを使用することにより、他の反応可能な成分との架橋反応が可能である。
【0080】
前記アクリル樹脂は、自己架橋性である必要はないが、自己架橋性とする場合には、分子中に2個以上のラジカル重合性不飽和結合を有するいわゆる架橋性モノマーを含有させる。ラジカル重合可能なモノマーとしては、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリエスリトールテトラメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、グリセロールジアクリレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルフタレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等の重合性不飽和化合物が挙げられる。架橋性モノマーは、アクリル樹脂の20質量%まで添加することができる。
【0081】
また、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂と前記アクリル樹脂との重量比(樹脂固形分の重量比)は、[ポリフッ化ビニリデン樹脂]:[アクリル樹脂]=90:10〜50:50とすることが好ましい。前記アクリル樹脂に対する前記ポリフッ化ビニリデン樹脂の重量比が、90:10を超えるとチクソトロピー性が高まり、ロールコーターでの塗装が困難になるため仕上がりが不均一な塗膜となり塗装外観が劣る。一方、前記アクリル樹脂に対する前記ポリフッ化ビニリデン樹脂の重量比が、50:50を下回ると塗膜密着性の経時劣化が著しく、また耐候性も大きく低下するおそれがある。
【0082】
さらに、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂、前記アクリル樹脂を混合する場合、これらの合計が、前記塗膜の40質量%以上となるように配合することが好ましい。合計が40質量%未満では目的とする塗膜性能が十分に得られない。
【0083】
また、前記主樹脂であるポリエステル樹脂又はアクリル樹脂は、硬化剤と組み合わせて使用される。ここで、用いられる硬化剤としては、ポリイソシアネート化合物やアミノ樹脂を用いることができる。
【0084】
前記ポリイソシアネート化合物としては、一般的製法で得られるイソシアネート化合物を用いることができるが、特に1液型塗料としての使用が可能である、フェノール、クレゾール、芳香族第二アミン、第三級アルコール、ラクタム、オキシム等のブロック剤でブロック化されたポリイソシアネート化合物であることが好ましい。このブロック化ポリイソシアネート化合物を用いることにより1液での保存が可能となり、塗料としての使用が容易となる。
【0085】
また、より好ましいポリイソシアネート化合物としては、HDI及びその誘導体、TDI及びその誘導体、MDI及びその誘導体、XDI及びその誘導体、IPDI及びその誘導体、TMDI及びその誘導体、水添TDI及びその誘導体、水添MDI及びその誘導体、水添XDI及びその誘導体が挙げられる。
【0086】
さらに、スミジュール(商品名、住化コベストロウレタン(株)製)、デスモジュール(商品名、住化コベストロウレタン(株)製)、コロネート(商品名、東ソー(株)製)等の市販のイソシアネート化合物を使用することもできる。
【0087】
前記硬化剤としてポリイソシアネート化合物を用いる場合、前記ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基とベース樹脂中の水酸基との配合比[NCO/OH]は、モル比で0.8〜1.2であることが好ましく、0.90〜1.10の範囲であることが望ましい。
[NCO/OH]のモル比が0.8未満では塗膜の硬化が不十分であり、所望の塗膜硬度及び強度が得られないおそれがある。一方、[NCO/OH]のモル比が1.2を超えると、過剰のイソシアネート基同士の或いはイソシアネート基とウレタン配合との副反応が生じて、塗膜の加工性が低下するおそれがある。
【0088】
前記硬化剤としてのアミノ樹脂については、尿素、ベンゾグアナミン、メラミン等と、ホルムアルデヒドとの反応で得られる樹脂、及び、これらをメタノール、ブタノール等のアルコールによりアルキルエーテル化したものを使用できる。
具体的には、メチル化尿素樹脂、n−ブチル化ベンゾグアナミン樹脂、メチル化メラミン樹脂、n−ブチル化メラミン樹脂、iso−ブチル化メラミン樹脂等が挙げられる。
【0089】
さらに、サイメル(商品名、オルネクス社製)、ユーバン(商品名、三井化学(株)製)、メラン(商品名、日立化成工業(株)製)等の、市販のアミノ樹脂も使用できる。
【0090】
前記硬化剤としてアミノ樹脂を用いる場合、アミノ樹脂とベース樹脂との配合比(固形分の重量比)は、ベース樹脂/アミノ樹脂で(95/5)〜(65/35)であることが好ましく、(90/10)〜(75/25)であることがより好ましい。
【0091】
また、前記硬化剤の配合量は、前記樹脂固形分中での割合で、9〜50質量%とすることが好ましい。9質量%未満では、塗膜硬度が十分でなく、50質量%を超えると加工性が不十分となるおそれがある。
【0092】
なお、前記上塗り塗膜には、目的、用途に応じて、酸化チタン、弁柄、マイカ、カーボンブラック、その他の各種着色顔料、アルミニウム粉やマイカ等のメタリック顔料、炭酸塩や硫酸塩等の顔料、シリカ微粒子、ナイロン樹脂ビーズ、アクリル樹脂ビーズ、ガラス繊維、ガラスビーズ等の各種微粒子、p−トルエンスルホン酸、ジブチル錫ジラウレート等の硬化触媒、ワックス等、その他の添加剤を適量配合することもできる。
【0093】
前記上塗り塗膜を形成するための塗料組成物の塗装方法は、特に限定されない。例えば、塗膜の材料となる塗料組成物を、ロールコーター塗装、カーテンフロー塗装などの方法で塗布することができる。前記塗料組成物を塗装後、熱風加熱、赤外線加熱、誘導加熱等の加熱手段により焼き付け、上塗り塗膜を形成することができる。焼付処理の温度は、通常、最高到達板温を180〜270℃程度とし、この温度範囲で約30秒〜3分行う。
【実施例】
【0094】
<塗装鋼板のサンプル1〜21>
以下に示す、(1)溶融Al-Zn系めっき鋼板、(2)化成処理皮膜、(3)下塗り塗膜、(4)上塗り塗膜の条件に従って、塗装鋼板の各サンプルを製造した。
【0095】
(1)溶融Al-Zn系めっき鋼板
以下の溶融Al-Zn系めっき鋼板を用いた。各サンプルが用いためっき種については、表2に示す。
めっき種1:板厚0.35mm、めっき付着量が片面あたり80g/m
2、Zn-55%Al-1.6%Siの組成を有するめっき層を備えた溶融Al-Zn系めっき鋼板
めっき種2:板厚0.35mm、めっき付着量が片面あたり80g/m
2、Zn-55%Al-1.6%Siの組成を有するめっき層を備え、めっき層形成後に200℃雰囲気下で、4時間熱処理をした溶融Al-Zn系めっき鋼板
めっき種3:板厚0.35mm、めっき付着量が片面あたり80g/m
2、Zn-55%Al-4.5%Mg-2.5%Siの組成を有するめっき層を備えた溶融Al-Zn系めっき鋼板
【0096】
(2)化成処理皮膜
化成処理皮膜の樹脂成分として、エステル結合を有するアニオンウレタン樹脂である第一工業製薬(株)製「スーパーフレックス210」と、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂である吉村油化学(株)製「ユカレジンRE−1050」とを混合した。化成処理皮膜が含有する防錆成分として、アセチルアセトンでキレート化した有機バナジウム化合物、炭酸ジルコニウムアンモニウム、フッ化アンモニウムを用いた。これらの原料を混合して化成処理液を得た。化成処理のpHは8〜10とした。
得られた化成処理液を、溶融Al-Zn系めっき鋼板上にバーコータで塗布し、鋼板の到達温度90℃、焼き付け時間10秒で乾燥させ、付着量0.2g/m
2になるように、化成処理皮膜を形成した。
【0097】
(3)下塗り塗膜
(3−1)クロメートフリー下塗り塗膜
下塗り塗膜の主成分は、ウレタン結合を有するポリエステル樹脂として、ウレタン変性ポリエステル樹脂をブロック化イソシアネートで硬化させたものを用いた。防錆成分として、バナジン酸マグネシウム、リン酸カルシウムを用いた。これらの原料を混合後ボールミルで約1時間攪拌して下塗り塗膜用塗料を得た。
得られた下塗り塗膜用塗料は、化成処理皮膜上にバーコータで塗布し、鋼板到達温度230℃、焼き付け時間35秒で焼き付け、焼き付け後の膜厚が4μmになるように塗膜を形成した。
(3−2)クロメート下塗り塗膜
下塗り塗膜の主成分は、ウレタン結合を有するエポキシ樹脂であり、防錆成分として、クロム酸ストロンチウム、リン酸を含有する、日本ペイント・インダストリアルコーティングス製の「ファインタフC JT−25」を下塗り塗膜用塗料として用いた。
上記下塗り塗膜用塗料は、化成処理皮膜上にバーコータで塗布し、鋼板到達温度230℃、焼き付け時間35秒で焼き付け、焼き付け後の膜厚が4μmになるように塗膜を形成した。
【0098】
(4)上塗り塗膜
以下の条件で、上塗り塗膜を形成した。各サンプルが用いた上塗り塗膜の条件については、表2に示す。
(4−1)表1のA〜Hに示す条件で、ポリエステル樹脂(三井化学(株):アルマテックス)と、硬化剤としてのメチル化メラミン(オルネクス社製:サイメル303)と、を配合し、硬化触媒として、p−トルエンスルホン酸を配合したものを、上塗り塗膜用塗料とした。
得られた上塗り塗膜用塗料は、前記下塗り塗膜上にバーコータで塗布し、鋼板到達温度260℃、焼き付け時間40秒で焼き付け、焼き付け後の膜厚が15μmとなるように塗膜を形成した。
(4−2)表1のI〜Lに示す条件で、ポリフッ化ビニリデン樹脂(アルケマ社製:カイナー500)と、アクリル樹脂(ダウ・ケミカル日本(株):パラロイドB-60)と、を配合したものを、上塗り塗膜用塗料とした。
得られた上塗り塗膜用塗料は、前記下塗り塗膜上にバーコータで塗布し、鋼板到達温度260℃、焼き付け時間50秒で焼き付け、焼き付け後の膜厚が20μmとなるように塗膜を形成した。
【0099】
<評価>
上記のように得られた塗装鋼板の各サンプルについて、以下の評価を行った。
【0100】
(1)塗膜のクリープ C
IT
塗膜のクリープ C
ITの測定は、島津製作所製:島津ダイナミック超微小硬度計DUH-211を用いて測定した。室温20℃雰囲気下でビッカース圧子を、各サンプルの塗装鋼板の上塗り塗膜表面から、深さ2.5μmまで押し込み、2.5μmまで押し込んだ時の荷重を10秒間保持した後、荷重を取り除いた。そして、ISO14577に規定されたクリープの計算方法に従って、押し込みクリープ C
IT(%)を算出した。算出結果を表2に示す。
【0101】
(2)塗膜のマルテンス硬さHM
塗膜のマルテンス硬さHMの測定は、島津製作所製の島津ダイナミック超微小硬度計DUH−211を用い、室温20℃雰囲気下で、ビッカース圧子を各サンプルの塗装鋼板の上塗り塗膜表面から深さ4.0μmまで押し込むことで測定した。測定結果を表2に示す。
【0102】
(3)塗膜形成前後の限界伸び率(El
1、El
0)
塗膜形成後の限界伸び率El
1の測定は、各サンプルの塗装鋼板を、50mm幅で180度曲げを行い、両端10mmを除く30mm幅内の曲げ加工部の断面を5箇所を、走査型電子顕微鏡で倍率200〜500倍で観察し、めっき層にクラックの発生が認められない最大の伸び率をEl
1値とした。得られた値を表2に示す。
また、塗膜形成前の限界伸び率El
0の測定は、各サンプルの塗装鋼板から、塗膜剥離剤(三彩化工製:ネオリバー)で上塗り、下塗り塗膜を剥離除去した後、50mm幅で180度曲げを行い、両端10mmを除く30mm幅内の曲げ加工部の断面を5箇所を、走査型電子顕微鏡で倍率200〜500倍で観察し、めっき層にクラックの発生が認められない最大の伸び率をEl
0値とした。得られた値を表2に示す。
なお、めっき層に発生したクラックは、めっき層の塗膜界面側から鋼板界面側まで連続で亀裂が入っている状態をクラックとしている。
また、曲げ加工後の試験体の外Rは、3Dマイクロスコープ(キーエンス製:VR−3000)を用いて測定した。
【0103】
(4)めっき層中のデンドライト相のビッカース硬さ
各サンプルの塗装鋼板を、常温乾燥樹脂で埋め込み、研磨し、断面からめっき層のデントライト相を選択し、微小硬度計(島津製作所製、島津微小硬度計HMV-G21)を用いて、選択したデンドライト相のビッカース硬さを測定した。測定方法はJIS Z 2244に準拠した方法で行い、押し込み荷重は98.07mNで実施した。測定結果を表2に示す。
【0104】
(5)鉛筆硬度評価
各サンプルの塗装鋼板の表面について、JIS G3322に規定された内容に準拠し、鉛筆硬度の測定を行った。
測定後の鉛筆硬度がH以上を合格(〇)、F以下を不合格(×)とし、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0105】
(6)加工部の耐食性評価
各サンプルの塗装鋼板について、めっき種ごとに異なる曲げ加工を施した後、JIS G 0594(2019年)に規定された表面処理鋼板の腐食促進試験方法のD法(塩分付着サイクル試験)を用いて評価を行った。
日本海沿岸の海岸から500m程度離れた場所の軒下部位に相当する塩分付着量1000mg/m
2の条件で、加工部に白錆が見られるものを×、加工部に白錆は見られないが膨れがみられるものを△、加工部に異常が見られないものを〇と判定した。4週間後に加工部に異常が見られないものを合格とした。
(めっき種ごとの曲げ加工条件)
めっき種1:あらかじめ調べた限界伸び率El
0=11%であったため、めっき種1を用いた塗装鋼板の耐食性評価は、伸び率12.5%となるような曲げ加工を、各サンプルに施した。
めっき種2:あらかじめ調べた限界伸び率El
0=20%であったため、めっき種2を用いた塗装鋼板の耐食性評価は、伸び率25%となるような曲げ加工を、各サンプルに施した。
めっき種3:あらかじめ調べた限界伸び率El
0=3%であったため、めっき種3を用いた塗装鋼板の耐食性評価は、伸び率5%となるような曲げ加工を、各サンプルに施した。
上記加工条件でめっき種ごとの加工後耐食性に及ぼす発明効果を評価したが、さらにめっき種間の比較(組み合わせ効果に該当)を見るため、一部のサンプル(No.1〜8、13〜15、17〜19)については、同一加工条件(12.5%)で評価を行った。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
表2の結果から、本発明例の各サンプルは、比較例の各サンプルに比べて、鉛筆硬度及び加工後の耐食性のいずれについてもバランスよく優れていることがわかる。