(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「中空粒子」とは、外殻の内部に空洞を有する粒子をいう。本発明の無機酸化物中空粒子は、
図1〜3に示されるように、外殻に覆われた空洞が更に1以上の隔壁によって区切られた複数の独立した空間を有しており、独立した空間はそれぞれ隔壁によって隔てられた互いに連通しない気泡(以下、「独立気泡」ともいう。)によって形成されている。本明細書において「外殻」とは、粒子の最も表面側に位置する壁であって、粒子内部の1つの独立気泡のみ接する壁をいう。「隔壁」とは、粒子内部の隣接する2つの独立気泡を互いに区画する壁をいう。また、本発明の無機酸化物中空粒子は、外殻に開口がなく、無気孔であるため、独立気泡は完全に閉じられている。本発明の無機酸化物中空粒子は、このような独立気泡を有し、かつ無気孔であることにより、低誘電正接化だけでなく、優れた断熱性、遮熱性を発現し、また独立気泡の複数の隔壁によって粒子強度がより一層高められている。更に、本発明の無機酸化物中空粒子は、低誘電正接化の観点から、凝集していない一次粒子であることが好ましい。なお、外殻が無気孔であることは、走査型電子顕微鏡(SEM)像や、水に浮かぶことにより確認できる。したがって、本発明の無機酸化物中空粒子は、粒子表面から内部へ延びる複数の細孔を有する多孔質粒子とは異なる。また、走査型電子顕微鏡(SEM)像により、多孔質粒子や二次粒子と明確に区別することが可能である。
本明細書において、以下において説明する無機酸化物の各含有量は、蛍光X線分析法にて酸化物換算で測定し化学成分を算出した値である。分析対象である元素の酸化物の合計値が100%となるよう、下記式により補正することで、各々の化学成分を算出する。
化学組成(補正後)(%)=化学組成(補正前)×100/(100−不純物(%))
不純物(%)は100から上述した酸化物の化学組成の合計値を差し引いたものである。
【0011】
本発明の中空粒子は、外殻及び隔壁がホウ素酸化物、ナトリウム酸化物、カルシウム酸化物及びアルミニウム酸化物を含む無機酸化物により形成されている。このような無機酸化物によって外殻及び隔壁を構成することにより、従来よりも誘電正接を低くすることができる。
【0012】
ホウ素酸化物としては、低誘電正接化の観点から、B
2O
3が好ましい。
ナトリウム酸化物としては、低誘電正接化の観点から、Na
2Oが好ましい。
カルシウム酸化物としては、低誘電正接化の観点から、CaOが好ましい。
アルミニウム酸化物としては、低誘電正接化の観点から、Al
2O
3が好ましい。
【0013】
ホウ素酸化物の含有量は10質量%以上40質量%以下であるが、低誘電正接化の観点から、11質量%以上が好ましく、そして37質量%以下が好ましく、33質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましく、27質量%以下がより更に好ましい。
ナトリウム酸化物の含有量は5質量%以下であるが、低誘電正接化の観点から、4質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。なお、ナトリウム酸化物の含有量の下限値は特に限定されず、0質量%であっても構わないが、ガラス成分の軟化点を適正に制御する観点から、0.1質量%以上が好ましい。
カルシウム酸化物の含有量は1質量%以上50質量%以下であるが、低誘電正接化の観点から、1.5質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、2.5質量%以上が更に好ましく、そして40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
アルミニウム酸化物の含有量は14質量%以上20質量%未満であるが、低誘電正接化の観点から、14質量%以上であって、18質量%以下が好ましく、17.5質量%以下がより好ましい。
【0014】
また、本発明の無機酸化物中空粒子は、外殻及び隔壁を構成する無機酸化物としてケイ素酸化物を含んでいてもよい。
ケイ素酸化物としては、低誘電正接化の観点から、SiO
2が好ましい。
ケイ素酸化物の含有量は、低誘電正接化の観点から、45質量%以上が好ましく、50質量%以上が更に好ましく、そして70質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましく、60質量%以下が更に好ましい。
【0015】
本発明の無機酸化物中空粒子は、外殻及び隔壁を構成する無機酸化物として上記以外の無機酸化物を更に含んでいてもよい。例えば、カルシウム酸化物以外の2族元素酸化物、ナトリウム酸化物以外のアルカリ金属酸化物、4族元素酸化物を挙げることができる。
カルシウム酸化物以外の2族元素酸化物としては、例えば、MgO、SrO、BaO、RaOを挙げることができる。また、ナトリウム酸化物以外のアルカリ金属酸化物としては、例えば、Li
2O、K
2O、Rb
2O、Cs
2Oを挙げることができる。4族元素酸化物としては、例えば、TiO
2、ZrO
2、HfO
2を挙げることができる。
なお、これら無機酸化物の含有量は、本発明の効果を阻害しない範囲内で適宜選択することができる。例えば、マグネシウム酸化物は0質量%であっても構わないが、低誘電正接化の観点から、0.2質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.4質量%以上が更に好ましく、そして10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、6質量%以下が更に好ましい。
【0016】
本発明の無機酸化物中空粒子の空洞率は、低比誘電率及び低誘電正接化の観点から、20%以上が好ましく、25%以上がより好ましく、30%以上が更に好ましく、40%以上がより更に好ましく、45%以上がより更に好ましく、50%以上がより更に好ましく、55%以上が殊更に好ましい。なお、かかる空洞率の上限値は、十分な強度を確保する観点から、95%以下が好ましく、90%以下が更に好ましい。ここで、本明細書において「空洞率」は、乾式自動密度計を使用して粒子の嵩密度と真密度とを測定し、その値から下記式により算出される値である。なお、個々の粒子について計測することが難しいため、粒子群としての空洞割合である。ここで、本明細書において「嵩密度」は、JIS R 1620に準拠して気体置換法により測定するものとする。また、「真密度」は、空洞部分を取り除くために、箱型電気炉にて融点以上で6時間加熱した後、冷却して乾式自動密度計で測定するものとする。なお、密度測定装置として、例えば、乾式自動密度計であるアキュピック(島津製作所製)を使用し、また乾式自動密度計として、例えば、アキュピック(島津製作所)を使用することができる。
【0017】
空洞率=(真密度−嵩密度)×100/真密度
【0018】
本発明の無機酸化物中空粒子は、微小な粒子であるため、小型化や薄型化が必要とされる電子機器部品への適用が容易である。より具体的には、本発明の無機酸化物中空粒子の平均粒子径は、通常10μm以下であり、好ましくは8.5μm以下であり、より好ましくは7.0μm以下であり、更に好ましくは6.5μm以下である。なお、かかる平均粒子径の下限値は、空洞を十分確保する観点から、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上が更に好ましい。ここで、本明細書において「平均粒子径」とは、JIS R 1629に準拠して試料の粒度分布を体積基準で作成したときに積算分布曲線の50%に相当する粒子径(D
50)を意味する。なお、粒子径分布測定には、例えば、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置を使用することができる。
【0019】
本発明の無機酸化物中空粒子の嵩密度は、低誘電正接化の観点から、0.1g/cm
3以上が好ましく、0.25g/cm
3以上がより好ましく、0.5g/cm
3以上が更に好ましく、そして3.0g/cm
3以下が好ましく、2.3g/cm
3以下がより好ましく、2.0g/cm
3以下が更に好ましく、1.3g/cm
3以下が殊更に好ましい。
【0020】
本発明の無機酸化物中空粒子の比表面積は、低誘電正接化の観点から、0.1m
2/g以上が好ましく、1.0m
2/g以上がより好ましく、2.0m
2/g以上が更に好ましく、そして50m
2/g以下が好ましく、25m
2/g以下がより好ましく、10m
2/g以下が更に好ましい。なお、本明細書において「比表面積」は、BET法により測定するものとする。なお、比表面積測定装置として、例えば、流動式比表面積自動測定装置(FlowSorbIII2305、島津製作所社製)を使用することができる。
【0021】
また、本発明の無機酸化物中空粒子は、外殻の厚さと隔壁の厚さがほぼ等しいことを特徴とする。ここで、本明細書において「外殻の厚さ」とは、粒子の最も表面側に位置する壁であって、粒子内部の1つの独立気泡のみ接する壁の厚さをいう。また、「隔壁の厚さ」とは、粒子内部の隣接する2つの独立気泡を互いに区画する壁の厚さをいう。本発明の無機酸化物中空粒子は、強度向上、低誘電正接化の観点から、外殻の厚さと隔壁の厚さは50nm以上1μm以下が好ましく、55〜750nmがより好ましく、60〜500nmが更に好ましい。また、隔壁と外殻の厚さの比(隔壁/外殻)は、0.5以上が好ましく、0.75以上がより好ましく、0.8以上が更に好ましく、そして2.0以下が好ましく、1.9以下がより好ましく、1.5以下が更に好ましい。ここで、本明細書において「隔壁と外殻の厚さの比(隔壁/外殻)」は、無作為に採取した粒子30個について、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、次の方法により隔壁と外殻の厚さを測定するものとする。即ち、1粒子ずつSEM像を撮影し、SEM像から隔壁を無作為に3点抽出し、3点それぞれの中央部の厚みを計測し、その平均値を算出して、その粒子の隔壁の厚さとする。外殻についても同様にSEM像から無作為に3点抽出し、3点それぞれの中央部の厚みを計測し、その平均値を算出して、その粒子の外殻の厚さとする。そして、1粒子ごとの比を求め、粒子30個の平均値を算出するものとする。なお、走査型電子顕微鏡として、例えば、JSM−7001F(日本電子社製)を使用することができる。このような隔壁と外殻の厚さの比とすることで、作製時に焼成熱が付与されやすいため、誘電正接悪化の原因となる特性基が十分に不活性化され、電子材料部品にフィラーとして添加した場合、より一層の低誘電正接化を期待できる。
【0022】
本発明の無機酸化物中空粒子の形状は、真球状、扁楕円体や長楕円体等の略球状のいずれであってもよい。平均円形度は、低誘電正接化の観点から、0.85以上が好ましく、0.90以上が更に好ましい。ここで、「円形度」は、走査型電子顕微鏡写真から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定し、周囲長(PM)に対する真円の面積を(B)とすると、その粒子の円形度はA/Bとして表される。そこで、試料粒子の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円の周囲長及び面積は、それぞれPM=2πr、B=πr
2であるから、B=π×(PM/2π)
2となり、この粒子の円形度は、円形度=A/B=A×4π/(PM)
2として算出される。100個の粒子について円形度を測定し、その平均値でもって平均円形度とする。
【0023】
本発明の無機酸化物中空粒子は、低誘電率化の観点から、1GHzにおける誘電正接が0.00060以下であることが好ましく、0.00055以下がより好ましく、0.00050以下が更に好ましい。ここで、本明細書において「誘電正接」は、温度25℃、湿度60%の環境下、1GHzにおいて測定するものとする。なお、誘電正接は、例えば、摂動方式空洞共振器(KEYCOM社製)を用いて測定することができる。
【0024】
本発明の無機酸化物中空粒子は、断熱材料、遮熱材料、触媒担体、建築材料、電子材料等に適用することができるが、誘電正接が低く、高強度の微小粒子であることから、電子材料、とりわけ配線回路基板、半導体封止材等に有用である。
【0025】
また、本発明の無機酸化物中空粒子は、微小な粒子であるため、媒体への分散性にも優れる。
媒体としては特に限定されないが、本発明の効果を享受しやすい点で、例えば、樹脂、塗料、ゴム、溶剤を挙げることができる。
媒体として樹脂を用いた場合には、電子材料、例えば、配線回路基板や半導体封止材等を形成するための樹脂組成物とすることができる。なお、樹脂としては、配線回路や半導体封止材の分野において一般的に使用されているものであれば、特に限定されない。
【0026】
樹脂組成物中の無機酸化物中空粒子の含有量は、その用途により適宜選択可能であるが、通常1〜97質量%であり、好ましくは5〜60質量%であり、更に好ましくは15〜40質量%である。
【0027】
また、樹脂組成物は、有機溶媒に溶解又は分散したワニスの形態であってもよく、該ワニスを基材に含浸させてプリプレグとすることもできる。
ワニス中の固形分(不揮発分)濃度は、その用途に応じて適宜選択可能であるが、通常5〜80質量%であり、好ましくは10〜70質量%である。
ワニスを含浸させる基材としては特に限定されず、例えば、無機繊維、有機繊維、炭素繊維等が挙げられる。なお、含浸は、浸漬(ディッピング)や塗布等によって行うことができる。
【0028】
更に、例えば、金属箔付基板上に、上記したワニスを塗布した後、加熱・硬化を行って金属箔付基板上に樹脂層を形成した後、金属箔をエッチングにより除去して導体パターンを形成することにより配線回路基板を製造することもできる。なお、ワニスを基材上に塗布する際には、スプレー法、ロールコート法、回転塗布法(スピンコート法)、スリットダイ塗布法(スリット塗布法)、バー塗布法等の適宜の塗布法を採用することができる。
【0029】
媒体と無機酸化物中空粒子との混合方法は特に限定されないが、例えば、各成分をミキサー等によって十分に均一に撹拌及び混合した後、ミキシングロール、押出機、ニーダー、ロール、エクストルーダー等を用いて混練すればよい。なお、混合条件は、混合方法により適宜設定することができる。
【0030】
本発明の無機酸化物中空粒子の製造方法は、上記構成を有する無機酸化物中空粒子を得ることができれば特に限定されないが、例えば、原料化合物を含む被噴霧液体を、噴霧熱分解装置内に装着された噴霧装置から噴霧し、噴霧された液滴(ミスト)を熱分解する方法を挙げることができる。
【0031】
原料化合物としては、酸化物を構成する元素としてホウ素、ナトリウム、カルシウム及びアルミニウムから選択される1又は2以上の元素を含有する化合物を挙げることができる。かかる化合物としては、水に溶解する化合物であれば特に限定されないが、例えば、無機塩、有機塩、アルコキシドを挙げられ、1又は2以上を含有することができる。無機塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物を挙げられる。有機塩としては、例えば、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩を挙げることができる。
ナトリウム含有化合物としては、例えば、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム等のナトリウム塩が挙げられる。
ホウ素含有化合物としては、例えば、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等のメタホウ酸塩、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム等の四ホウ酸塩、五ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸カリウム等の五ホウ酸塩等のホウ酸塩、ホウ酸を挙げることができる。
カルシウム含有化合物としては、例えば、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、蟻酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム等のカルシウム塩が挙げられる。
アルミニウム含有化合物としては、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、燐酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム等の無機塩、アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシドを挙げることができる。また、アルミノケイ酸塩や、アルミニウム酸化物を溶媒に分散した溶液、アルミニウム酸化物のゾル溶液も原料化合物溶液として用いることができる。アルミノケイ酸塩としては、例えば、アルミノケイ酸ナトリウム、アルミノケイ酸カリウム、アルミノケイ酸カルシウムを挙げられる。
【0032】
本発明においては、原料化合物として、ホウ素、ナトリウム、カルシウム及びアルミニウム以外の元素を含有する化合物が更に含まれていてもよい。
このような化合物としては水に溶解する金属化合物であれば特に限定されないが、例えば、リチウム塩、カリウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、ストロンチウム塩、亜鉛塩、ジルコニウム塩、バリウム塩、セシウム塩、イットリウム塩、アルミノケイ酸塩、アルミニウムアルコキシド及びケイ酸アルコキシドから選ばれる1又は2以上を挙げることができる。これら金属の塩としては、例えば、無機塩、有機塩、アルコキシドが挙げられる。なお、無機塩及び有機塩の具体例は上記において説明したとおりである。
【0033】
リチウム塩としては、例えば、塩化リチウム、硝酸リチウム、亜硝酸リチウムを挙げることができる。
カリウム塩としては、例えば、塩化カリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム等が挙げられる。
チタン塩としては、例えば、硝酸チタン、硫酸チタン、塩化チタンを挙げることができる。
マグネシウム塩としては、例えば、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、燐酸マグネシウム、水酸化マグネシウムを挙げることができる。
ストロンチウム塩としては、例えば、酢酸ストロンチウム、プロピオン酸ストロンチウムを挙げることができる。
亜鉛塩としては、例えば、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛が挙げられる。
ジルコニウム塩としては、例えば、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウムを挙げることができる。
バリウム塩としては、例えば、硝酸バリウム、塩化バリウム、水酸化バリウムが挙げられる。
セシウム塩としては、例えば、硝酸セシウム、硫酸セシウム、塩化セシウムを挙げることができる。
イットリウム塩としては、例えば、硝酸イットリウム、硫酸イットリウム、塩化イットリウムが挙げられる。
ケイ酸アルコキシドとしては、例えば、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、オルトケイ酸テトラプロピル(TPOS)、テトラブトキシシランを挙げることができる。また、ケイ素酸化物を溶媒に分散した溶液、ケイ素酸化物のゾル溶液も原料化合物溶液として用いることができる。
中でも、本発明の効果を享受しやすい点で、マグネシウム塩及びケイ酸アルコキシドから選ばれる1以上を含むことが好ましい。
【0034】
これら原料化合物から得られる酸化物としては、例えば、酸化ホウ素、酸化ナトリウム、酸化カルシウム、アルミナ、酸化マグネシウム、シリカが挙げられ、これら酸化物を組み合せた複合酸化物も挙げることができる。
【0035】
被噴霧液体は、原料化合物を、水又はエタノール等の有機溶媒と混合して調製できる。なお、原料化合物の配合割合は、上記した組成の無機酸化物中空粒子となるように、原料化合物の種類に応じて適宜調整すればよい。
【0036】
被噴霧液体中の原料化合物濃度は、各元素の総量として、0.01mol/L〜2.0mol/Lが好ましく、0.1mol/L〜1.0mol/Lがより好ましい。
【0037】
噴霧熱分解装置は、熱分解炉の形状が堅型円筒状であることが好ましく、熱分解炉の大きさは、製造スケールにより適宜選択することができる。
【0038】
噴霧装置としては、例えば、2流体ノズル、3流体ノズル、4流体ノズル等の流体ノズルを挙げることができる。ここで、流体ノズルの方式には、気体と原料溶液とをノズル内部で混合する内部混合方式と、ノズル外部で気体と原料溶液を混合する外部混合方式があるが、いずれも採用できる。ノズルに供給する気体としては、例えば、空気や、窒素、アルゴン等の不活性ガス等を使用することができる。中でも、経済性の観点から、空気が好ましい。なお、噴霧装置は、1基又は2基以上設置することができる。
【0039】
被噴霧液体の流量は、通常1〜100L/hであり、好ましくは3〜80L/hであり、更に好ましくは5〜60L/hである。
【0040】
噴霧装置から噴霧された液滴は、熱分解炉内の加熱装置により加熱されて無機化合物を含む膜が形成され、それを起点に無機酸化物中空粒子が形成される。
液滴の噴出速度は、通常1〜50m/sであり、好ましくは5〜35m/sであり、更に好ましくは10〜20m/sである。
【0041】
加熱装置は、例えば、燃焼バーナー、熱風ヒータ、電気ヒータ等を挙げることができる。加熱装置は、1基又は2基以上設置することが可能である。なお、燃焼バーナー、熱風ヒータ及び電気ヒータは、一般的に販売されているものあれば、いずれも使用することができる。
加熱装置の温度は、400〜1800℃が好ましく、600〜1500℃がより好ましく、700〜1400℃が更に好ましく、800〜1200℃がより更に好ましい。このような温度であれば、熱分解が十分となり、また粒子が熱分解炉外に排出されたときに粒子同士が凝集し難くなる。
【0042】
熱分解反応によって生じた無機酸化物中空粒子は、熱分解炉の下流側から回収される。無機酸化物中空粒子の回収は、高性能サイクロン粉体回収機やバグフィルターを用いた粉体回収装置を用いることができる。
【0043】
また、本発明においては、回収した無機酸化物中空粒子をエタノールと撹拌混合し、該粒子をエタノールに一旦浸漬させた後、液面に浮遊した粒子のみを採取してもよい。これにより、粒子内部の空洞が独立気泡を有する無機酸化物中空粒子を高純度で得ることができる。なお、エタノールの使用量は、無機酸化物中空粒子に対して、通常5〜20質量倍であり、好ましくは10〜15質量倍である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0045】
1.化学組成の分析
無機酸化物中空粒子をプレス機で成型してブリケットを作製し、そのブリケットを蛍光X線分析装置(ZSX primus II、リガク社製)にて酸化物換算で測定し、分析対象である元素の酸化物(SiO
2、Al
2O
3、CaO、MgO、B
2O
3、Na
2O)の合計値が100%となるよう、下記式により補正することで、各々の化学成分を算出した。
化学組成(補正後)(%)=化学組成(補正前)×100/(100−不純物(%))
不純物(%)は100から上述した酸化物の化学組成の合計値を差し引いたものである。
【0046】
2.空洞率の分析
乾式自動密度計としてアキュピック(島津製作所製)を使用し、粒子の嵩密度と真密度を測定し、下記式により算出した。なお、「嵩密度」は、JIS R 1620に準拠して気体置換法により測定した。また、真密度は、空洞部分を取り除くために、箱型電気炉にて融点以上で6時間加熱した後、冷却して乾式自動密度計で測定した。
【0047】
空洞率=(真密度−嵩真密度)×100/真密度
【0048】
3.平均粒子径の分析
粒子径分布測定装置(MT3000II、マイクロトラックベル社製)を用い、JIS R 1629に準拠して体積基準の粒度分布を作成し、積算分布曲線の50%に相当する粒子径(D
50)を求めた。
【0049】
4.BET比表面積の分析
流動式比表面積自動測定装置(FlowSorbIII2305、島津製作所社製)を用い、得られた粒子のBET比表面積を測定した。測定には、窒素を30%含有する窒素・ヘリウム混合ガスを使用した。
【0050】
5.隔壁/外殻の厚さの比、並びに隔壁及び凝集の有無の分析
走査型電子顕微鏡(SEM)にて粒子を観察し、隔壁及び凝集の有無を確認した後、次の方法により隔壁と外殻の厚さを測定した。試料0.05gをエポキシ樹脂9gと混合し乾燥して固めた硬化物を切断し、断面(10mm×5mm)を研磨した。研磨した断面部分を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、隔壁と外殻の厚さを測定した。無作為に採取した粒子30個について、1粒子ずつSEM像を撮影し、SEM像から隔壁を無作為に3点抽出し、3点それぞれの中央部の厚みを計測し、その平均値を算出して、その粒子の隔壁の厚さとした。外殻についても同様にSEM像から無作為に3点抽出し、3点それぞれの中央部の厚みを計測し、その平均値を算出して、その粒子の外殻の厚さとした。そして、1粒子ごとの比を求め、粒子30個の平均値を算出した。なお、走査型電子顕微鏡として、JSM−7001F(日本電子社製)を使用した。
【0051】
6.誘電正接の測定
誘電正接は摂動方式空洞共振器(KEYCOM社製)を用い、温度25℃、湿度60%の環境下、1GHzにおいて測定した。
【0052】
実施例1
反応容器内に原料無機化合物含有水溶液を投入し、原料無機化合物含有水溶液を3時間攪拌した。なお、原料無機化合物含有水溶液は、硝酸カルシウム(大崎工業製)を0.07mol/L、硝酸アルミニウム(博光化学工業製)を0.013mol/L、オルトケイ酸テトラエチル(多摩化学工業製)を0.34mol/L、ホウ酸(米山化学工業)を0.27mol/Lとなるように水道水に溶解して調製した。続いて、この原料無機化合物含有水溶液を2流体ノズルに送液し、ノズルから噴霧熱分解炉内に原料無機化合物含有水溶液を噴霧し、1100℃で焼成して無機酸化物中空粒子を回収した。回収した無機酸化物中空粒子20gをエタノール300gと撹拌混合し、該粒子をエタノールに一旦浸漬させた後、液面に浮遊した粒子のみを採取した。そして、採取した無機酸化物中空粒子について分析を行った。その結果を表1に示す。採取した無機酸化物中空粒子とその断面のSEM像を
図1及び
図2に、断面を観察した際のスケッチを
図3に示す。
【0053】
実施例2〜6及び比較例1
表1に示す化学組成となるように、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸アルミニウム、オルトケイ酸テトラエチル及びホウ酸、必要により硝酸ナトリウムを水道水で溶解したこと以外は、実施例1と同様の操作により無機酸化物中空粒子を採取した。採取した無機酸化物中空粒子について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0054】
比較例2
表1に示す化学組成となるように、実施例2〜6及び比較例1同様の操作により製造し、採取した無機酸化物中空粒子3.0gを、容積30ccのアルミナ製るつぼに投入し、電気炉(S7−2035D−OP、モトヤマ社製)を用いて800℃で10min加熱することで、焼結体を得た。そして、この焼結体について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
比較例1は、粒子内部に空洞を有する中空粒子であるものの、ナトリウム酸化物の含有量が5質量%を超えるため、空洞が隔壁によって区切られていなかった。しかも誘電正接が0.0125と高いものであった。
比較例2は、粒子内部に空洞を有する中空粒子であるものの、1次粒子同士が点同士での接着凝集した2次粒子であるため、誘電正接が0.0061と高いものであった。
一方、実施例1〜6は、ホウ素酸化物、ナトリウム酸化物、カルシウム酸化物及びアルミニウム酸化物を特定量含む無機酸化物によって構成されるため、空洞が独立気泡を有する中空粒子の1次粒子となり、しかも誘電正接がいずれも0.0060以下という低いものであった。
【解決手段】外殻で覆われた空洞が1以上の隔壁によって区切られた複数の独立した空間を備え、10量%以上40質量%以下のホウ素酸化物と、5質量%以下のナトリウム酸化物と、1質量%以上50質量%以下のカルシウム酸化物と、14質量%以上20質量%未満のアルミニウム酸化物とを含む無機酸化物により構成されている、無機酸化物中空粒子。