特許第6959480号(P6959480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6959480
(24)【登録日】2021年10月11日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】塗装設備
(51)【国際特許分類】
   B05B 16/00 20180101AFI20211021BHJP
【FI】
   B05B16/00
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2021-549334(P2021-549334)
(86)(22)【出願日】2021年7月5日
(86)【国際出願番号】JP2021025277
【審査請求日】2021年8月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000149790
【氏名又は名称】株式会社大気社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】岩切 広志
(72)【発明者】
【氏名】三輪 朋孝
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−216862(JP,A)
【文献】 特開平6−79207(JP,A)
【文献】 特開平6−154677(JP,A)
【文献】 特開2018−192432(JP,A)
【文献】 特開2009−189916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00−17/08
B05D 1/00− 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装対象物にスプレー塗装が行われる塗装室と、
該塗装室の天井部分に設けられている給気部を介して前記塗装室内にエアーを供給する給気室と、
前記塗装室におけるエアーと未塗着塗料ミストとを前記塗装室の床排出部を介して吸引する排気室と、を備える塗装設備において、
前記塗装室の幅方向における前記塗装対象物の位置を中心として、2つの前記給気部が左右対称となるように配置されており、
前記2つの給気部のそれぞれの吹き出し部から、エアーが放射状に噴出し、
前記吹き出し部には、エアーの吹き出し方向によって吹き出し速度が異なる、少なくとも2種類の風速領域が設けられていることを特徴とする塗装設備。
【請求項2】
前記吹き出し部が、低風速領域と高風速領域とを備え、前記低風速領域から吹き出すエアーの吹き出し速度は、前記高風速領域から吹き出すエアーの吹き出し速度よりも小さく設定されており、
前記高風速領域では、前記塗装対象物の側の水平方向及び下向き鉛直方向にエアーが吹き出し、
前記低風速領域では、前記塗装対象物の側の斜め下方向、前記塗装室の側壁側の斜め下方向、及び前記塗装室の側壁側の水平方向にエアーが吹き出すことを特徴とする請求項1に記載の塗装設備。
【請求項3】
前記吹き出し部が、低風速領域と高風速領域とを備え、前記低風速領域から吹き出すエアーの吹き出し速度は、前記高風速領域から吹き出すエアーの吹き出し速度よりも小さく設定されており、
前記高風速領域では、前記塗装対象物の側の水平方向にエアーが吹き出し、
前記低風速領域では、前記塗装対象物の側の斜め下方向、下向き鉛直方向、前記塗装室の側壁側の斜め下方向、及び前記塗装室の側壁側の水平方向にエアーが吹き出すことを特徴とする請求項1に記載の塗装設備。
【請求項4】
前記高風速領域から吹き出すエアーの速度は、0.3m/s〜0.7m/sであることを特徴とする請求項2又は3に記載の塗装設備。
【請求項5】
前記低風速領域から吹き出すエアーの速度は、前記高風速領域から吹き出すエアーの速度の30%〜70%の速度であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の塗装設備。
【請求項6】
前記2つの給気部のそれぞれは、前記塗装室の幅方向における前記塗装対象物の右端及び左端よりも外側に配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の塗装設備。
【請求項7】
前記給気部の縦断面形状が略半円形であり、該略半円形の曲線部分が前記吹き出し部を構成していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の塗装設備。
【請求項8】
前記給気部の略半円形の直径は、前記塗装室における平均風速が0.075m/s〜0.25m/sとなるように設定されることを特徴とする請求項7に記載の塗装設備。
【請求項9】
前記塗装室の天井部分における、前記2つの給気部の間の中央部分に垂れ壁部が設けられていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の塗装設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装対象物にスプレー塗装が行われる塗装室と、該塗装室の天井部分に設けられている給気部を介して前記塗装室内にエアーを供給する給気室と、前記塗装室におけるエアーと未塗着塗料ミストとを前記塗装室の床排出部を介して吸引する排気室と、を備える塗装設備に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装設備を稼働する際の省エネルギー化や二酸化炭素排出量を削減する方法の一つとして、例えば、給気室に接続されている給気ファンのファン動力を低減させること、即ち、風量を削減することが考えられる。
【0003】
現在、塗装室の天井に設けられる給気部の形態としては、平坦な形状のものが略天井全面に設けられている形態が主流となっている。この形態によれば、塗装室の天井から床排出部に向かうエアーの一様流を、塗装室全体に形成することができる。
【0004】
また、例えば以下の特許文献1〜5に示されるように、塗装室の天井全面ではなく、天井の局所に給気部を備える塗装設備についても様々な形態が知られている。これらの形態によれば、比較的少ない風量で未塗着塗料ミスト(オーバースプレー)を塗装室から排出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017−087159号公報
【特許文献2】特開2017−087160号公報
【特許文献3】特開2017−124357号公報
【特許文献4】特開2018−187542号公報
【特許文献5】特開2018−192433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
給気部が略天井全面に設けられている塗装設備では、未塗着塗料ミストによる塗装装置や塗装室の壁の汚れを軽減させつつ、塗装対象物間の色かぶりを防止することができる良好な塗装環境を維持するためには、比較的高い気流流下速度(例えば、少なくとも0.25m/s以上)が必要であり、風量を低減し難いという問題を抱えている。
【0007】
また、天井の局部に給気部を備える塗装設備によれば、天井全面に給気部が設けられている塗装設備の場合よりも少ない風量で未塗着塗料ミストを排出することが可能となる。しかし、塗装装置や塗装室の壁面への塗料付着が軽減効果や、塗装対象物間の色かぶりを防止効果が必ずしも十分なものでなく、良好な塗装環境を維持するという点において、改善する余地が残されている。また、給気部の構造については、複雑化するほどイニシャルコストが嵩むため、より簡易な構成であることが望ましいという実情もある。
【0008】
本発明の目的は、より良好な塗装環境を維持することが可能でありながらも、風量削減による省ネルギー化と、イニシャルコストの低減化を図れる塗装設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る塗装設備の特徴は、塗装対象物にスプレー塗装が行われる塗装室と、
該塗装室の天井部分に設けられている給気部を介して前記塗装室内にエアーを供給する給気室と、
前記塗装室におけるエアーと未塗着塗料ミストとを前記塗装室の床排出部を介して吸引する排気室と、を備える塗装設備において、
前記塗装室の幅方向における前記塗装対象物の位置を中心として、2つの前記給気部が左右対称となるように配置されており、
前記2つの給気部のそれぞれの吹き出し部から、エアーが放射状に噴出し、
前記吹き出し部には、エアーの吹き出し方向によって吹き出し速度が異なる、少なくとも2種類の風速領域が設けられている点にある。
【0010】
本構成によれば、エアーの吹き出し方向によって吹き出し速度が異なる、少なくとも2種類の風速領域が吹き出し部に設けられていることによって、塗装対象物の上方及び側方のそれぞれに低速下降流及び高速下降流を形成し易くなる。塗装対象物の上方に形成される低速下降流によって、未塗着塗料ミストの拡散と滞留が生じ難くなり、塗着効率が向上して、塗装対象物間の色かぶりも防止される。また、塗装対象物の側方に形成される高速下降流によって、未塗着塗料ミストを流下させて、塗装装置や塗装室の側壁面への塗料付着を軽減することができる。
【0011】
従って、エアーの吹き出し速度がそれぞれ異なる複数種類の風速領域を組み合わせることにより、良好な塗装環境を維持することが可能であると共に、給気部が略天井全面に設けられている従来の塗装設備と比べて、大幅に風量を低減することができる。これは、ファン動力を低減させるだけでなく、空調負荷や排気処理負荷の低減、設備のコンパクト化、設備コストの低減にもつながる。さらに、給気部の構造が簡易な構成であるため、イニシャルコストが嵩むこともない。
【0012】
本発明に係る塗装設備においては、前記吹き出し部が、低風速領域と高風速領域とを備え、前記低風速領域から吹き出すエアーの吹き出し速度は、前記高風速領域から吹き出すエアーの吹き出し速度よりも小さく設定されており、
前記高風速領域では、前記塗装対象物の側の水平方向及び下向き鉛直方向にエアーが吹き出し、
前記低風速領域では、前記塗装対象物の側の斜め下方向、前記塗装室の側壁側の斜め下方向、及び前記塗装室の側壁側の水平方向にエアーが吹き出すと好適である。
【0013】
本構成によれば、塗装対象物の側の水平方向に吹き出すエアーを高速にすることによって、当該エアーが2つの給気部の間の中央部分で衝突して下降流となり、塗装対象物の上方に存在する未塗着塗料ミストを除去すると共に、塗装対象物の進行方向における塗装対象物の間の風速が高められて色かぶりが防止される。
【0014】
また、下向き鉛直方向に吹き出すエアーを高速にすることによって、塗装対象物の側面を塗装する際に生じる未塗着塗料ミストを除去し易くする。
【0015】
塗装対象物の側の斜め下方向から吹き出すエアーを低速にすることによって、塗装対象物の側の水平方向に対応する高風速領域と、下向き鉛直方向に対応する高風速領域とに挟まれた部分に渦流が発生し難くなり、未塗着塗料ミストが滞留し易い淀み部をなくすことができる。
【0016】
さらに、塗装室の側壁の側の斜め下方向に吹き出すエアーと、塗装室の側壁の側の水平方向に吹き出すエアーとを低速にすることによって、渦流の発生を防止しながら、塗装装置や塗装室の側壁への未塗着塗料ミストの到達を防いで、汚れを軽減することができる。
【0017】
本発明に係る塗装設備においては、前記吹き出し部が、低風速領域と高風速領域とを備え、前記低風速領域から吹き出すエアーの吹き出し速度は、前記高風速領域から吹き出すエアーの吹き出し速度よりも小さく設定されており、
前記高風速領域では、前記塗装対象物の側の水平方向にエアーが吹き出し、
前記低風速領域では、前記塗装対象物の側の斜め下方向、下向き鉛直方向、前記塗装室の側壁側の斜め下方向、及び前記塗装室の側壁側の水平方向にエアーが吹き出すと好適である。
【0018】
本構成によれば、塗装対象物の側の水平方向に吹き出すエアーを高速にすることによって、当該エアーが2つの給気部の間の中央部分で衝突して下降流となり、塗装対象物の上方に存在する未塗着塗料ミストを除去すると共に、塗装対象物の進行方向における塗装対象物の間の風速が高められて色かぶりが防止される。
【0019】
さらに、塗装対象物の側の斜め下方向に吹き出すエアーと、下向き鉛直方向に吹き出すエアーと、塗装室の側壁の側の斜め下方向に吹き出すエアーと、塗装室の側壁の側の水平方向に吹き出すエアーとを低速にすることによって、渦流の発生を防止しながら、塗装装置や塗装室の側壁への未塗着塗料ミストの到達を防いで、汚れを軽減することができる。
【0020】
本発明に係る塗装設備においては、前記高風速領域から吹き出すエアーの速度は、0.3m/s〜0.7m/sであると好適である。
【0021】
本構成によれば、塗装装置や塗装室の側壁面への未塗着塗料ミストの付着を軽減しながら、未塗着塗料ミストを塗装室から速やかに排出し易くなる。
【0022】
本発明に係る塗装設備においては、前記低風速領域から吹き出すエアーの速度は、前記高風速領域から吹き出すエアーの速度の30%〜70%の速度であると好適である。
【0023】
本構成によれば、塗装対象物の上部で気流が渦を巻いて未塗着塗料ミストが滞留するのを防ぎつつ、風量を削減する効果を高めることができる。
【0024】
本発明に係る塗装設備においては、前記2つの給気部のそれぞれは、前記塗装室の幅方向における前記塗装対象物の右端及び左端よりも外側に配置されていると好適である。
【0025】
本構成によれば、水平成分速度を持つ未塗着塗料ミストの流れを、給気部からの下降流で遮断し易くなり、塗装室の側壁を汚れ難くすることができる。
【0026】
本発明に係る塗装設備においては、前記給気部の縦断面形状が略半円形であり、該略半円形の曲線部分が前記吹き出し部を構成していると好適である。
【0027】
本構成によれば、略半円形の曲線部分に沿って、エアーをより均等に放射状に噴出させることができる。
【0028】
本発明に係る塗装設備においては、前記給気部の略半円形の直径は、前記塗装室における平均風速が0.075m/s〜0.25m/sとなるように設定されると好適である。
【0029】
本構成によれば、塗装対象物の上部に形成される低速下降流において未塗着塗料ミストが滞留し難くなると共に、塗装対象物の上部に形成される下降流の流速が高くなり過ぎないようにしつつ、風量削減効果を維持することができる。
【0030】
本発明に係る塗装設備においては、前記塗装室の天井部分における、前記2つの給気部の間の中央部分に垂れ壁部が設けられていると好適である。
【0031】
本構成によれば、特に、塗装対象物の側の水平方向に吹き出すエアーの速度エネルギーの損失を低減させつつ、2つの給気部の間の中央部分を境とする塗装室における左右両側の風速のバラツキを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】塗装設備の正面概略構成図である。
図2】給気部からのエアーの流れを模式的に示した図である。
図3】給気部の縦断面を拡大した概略図である。
図4】別実施形態に係る給気部の縦断面を拡大した概略図である。
図5】塗装室が垂れ壁部を備える場合の給気部からのエアーの流れを模式的に示した図である。
図6】給気部のメンテナンス方法を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明に係る塗装設備の実施形態について、図面を参照しながら説明をする。
尚、本明細書において、「幅方向」とは、例えば図1のごとく、塗装設備の正面における横方向を意味し、また「奥行方向」とは、塗装設備の側面における横方向(塗装対象物の搬送方向)を意味するものとする。
【0034】
(塗装設備)
図1に示すように、塗装設備1は、例えば自動車のボディ等の塗装対象物Wにスプレー塗装が行われる塗装室3と、塗装室3の天井部分30に設けられている2つの給気部4a,4bを介して塗装室3内にエアーを供給する給気室2と、及び塗装室3におけるエアーと未塗着塗料ミストとを塗装室3の格子製床31(床排出部の一例)を介して吸引する排気室5を備える。
【0035】
給気室2は、塗装室3の直上に配置され、そして図示しない給気ファンが接続されている。給気ファンから加圧供給されるエアーが、2つの給気部4a,4bから塗装室3内に吹き出される。尚、本実施形態における給気室2は、天井チャンバ方式を採用しているがこれに限定されるものではなく、他にも例えばダクト方式等を採用しても良い。
【0036】
塗装室3は、内部に塗装対象物Wを搬入搬出するコンベア機構CVと、スプレーガンを有する多関節ロボット型の自動塗装装置6とを備える。コンベア機構CVは、床の幅方向の中央部分において、奥行方向全体にわたって敷設される。
【0037】
本実施形態における自動塗装装置6は、移動式の壁掛け塗装ロボットを備える。壁掛け塗装ロボットは、側壁に敷設されたレールRに沿って移動可能に構成されており、レールRは、塗装室3の奥行方向全体に渡って設けられている。
【0038】
コンベア機構CVによって搬入されて所定位置に停止させた状態の塗装対象物Wに対して、予め設定されたタイムスケジュールに基づく自動塗装装置6の自動作動によって、所定の塗料がスプレー塗装される。
【0039】
塗装室3の床は床排出部としての格子製床31を備えており、通気可能に構成されている。
【0040】
排気室5は、塗装室3の直下に配置され、図示しない排気ファンが接続されている。塗装室3からのエアーと未塗着塗料ミストとを含む排気気体が、格子製床31を介して吸引される。
【0041】
排気室5は、排気気体から未塗着塗料ミストを分離除去する塗料ミスト除去装置(図示せず)を備える。尚、塗料ミスト除去装置としては、貯留洗浄水に塗料ミストを捕捉させる湿式、及び段ボールフィルタ等に塗料ミストを捕捉させる乾式を問わず、公知の塗料ミスト除去装置を採用して良い。
【0042】
排気ファンの駆動によって排気室5に吸引された排気気体は、塗料ミスト除去装置によって未塗着塗料ミストが分離除去されたのち、塗装設備1の外部に排出される。
【0043】
(給気部)
2つの給気部4a,4bは、塗装室3の幅方向における塗装対象物Wの位置(後述するコンベア機構CVの位置に相当)を中心として左右対称となるように配置されており、塗装室3の奥行方向全体にわたって設けられている。
【0044】
本実施形態における2つの給気部4a,4bの縦断面形状はいずれも略半円形であり、略半円形の曲線部分をなす半円筒形部分が塗装室3の側に配置されてエアーの吹き出し部40を構成している。
【0045】
尚、給気部4a,4bの略半円形の直径Φは、塗装室3における平均風速が0.075m/s〜0.25m/sとなるように設定されることが望ましい。例えば、本発明に係る塗装設備1が乗用車を塗装対象物Wとするような場合、給気部4a,4bの略半円形の直径Φは、600mm〜1000mmであることが望ましい。直径Φが小さすぎると、塗装対象物Wの上部に形成される低速下降流において未塗着塗料ミストが滞留し易くなり、逆に直径Φが大きすぎると、塗装対象物Wの上部に形成される下降流の流速が高くなって塗料が流されてしまったり、風量削減効果が小さくなる。
【0046】
2つの給気部4a,4bにおけるエアーの吹き出し部40は、半円筒形の風量調整用パンチング部材41、半円筒形の除塵フィルタ42、半円筒形のフィルタ枠43を備える。風量調整用パンチング部材41は、整流板20と一体に構成されている。整流板20、風量調整用パンチング部材41、及びフィルタ枠43は多孔形状に構成されており、給気室2のエアーが整流板20を通過して除塵フィルタ42によって除塵された後に塗装室3内に供給されるように構成されている。尚、風量調整用パンチング部材41は、その幅方向の片側に設けられているヒンジ部21を介して、天井部分30に固定されている。
【0047】
2つの給気部4a,4bのそれぞれは、塗装室3の幅方向における塗装対象物Wの右端及び左端よりも外側に配置されていることが望ましい。即ち、図1に示すように、右側の給気部4bは、塗装対象物Wの右端を示す一点鎖線にて示される位置と、塗装室3の右側壁32bとの間の天井部分30に設けられることが望ましく、また左側の給気部4aは、塗装対象物Wの左端を示す一点鎖線にて示される位置と、塗装室3の左側壁32aとの間の天井部分30に設けられることが望ましい。
【0048】
2つの給気部4a,4bが塗装対象物Wの側に互いに近づき過ぎると、水平成分速度を持つ未塗着塗料ミストの流れを給気部からの下降流で遮断し難くなるため、塗装室3の側壁が汚れやすくなる。
【0049】
図2及び図3に示すように、2つの給気部4a,4bのそれぞれの吹き出し部40から、エアーが放射状に噴出するように構成されている。
【0050】
本実施形態においては、左側の給気部4aからは、塗装対象物Wの側の水平方向d1、塗装対象物Wの側の斜め下方向d2、下向き鉛直方向d3、塗装室3の左側壁32aの側の斜め下方向d4、塗装室3の左側壁32aの側の水平方向d5を含むように、エアーが放射状に噴出する。また、右側の給気部4bからは、塗装対象物Wの側の水平方向d1、塗装対象物Wの側の斜め下方向d2、下向き鉛直方向d3、塗装室3の右側壁32bの側の斜め下方向d4、塗装室3の右側壁32bの側の水平方向d5を含むように、エアーが放射状に噴出する。
【0051】
吹き出し部40には、エアーの吹き出し方向によって吹き出し速度が異なる、少なくとも2種類の風速領域が設けられている。尚、吹き出し部40における風速領域とは、吹き出し部40を構成する部分だけでなく、その部分の周囲(当該部分から吹き出たエアーが存在する空間)をも含むものであることを意味する。
【0052】
図3に示すように、本実施形態では、吹き出し部40が、低風速領域L及び高風速領域Hという2種類の風速領域を備える。低風速領域Lから吹き出すエアーの吹き出し速度は、高風速領域Hから吹き出すエアーの吹き出し速度よりも小さく設定されている。
【0053】
高風速領域Hでは、塗装対象物Wの側の水平方向d1及び下向き鉛直方向d3にエアーが吹き出し、低風速領域Lでは、塗装対象物Wの側の斜め下方向d2、塗装室3の側壁側の斜め下方向d4、及び塗装室3の側壁側の水平方向d5にエアーが吹き出すように構成されている。
【0054】
具体的には、図1及び図2に示すように、左側の給気部4aにおいて、塗装対象物Wの側の水平方向d1及び下向き鉛直方向d3に吹き出すエアーの速度は、左側の給気部4aから塗装対象物Wの側の斜め下方向d2、塗装室3の左側壁32aの側の斜め下方向d4、及び塗装室3の左側壁32aの側の水平方向d5に吹き出すエアーの速度よりも大きく設定されている。
【0055】
また、右側の給気部4bにおいて、塗装対象物Wの側の水平方向d1及び下向き鉛直方向d3に吹き出すエアーの速度は、右側の給気部4bから塗装対象物Wの側の斜め下方向d2、塗装室3の右側壁32bの側の斜め下方向d4、及び塗装室3の右側壁32bの側の水平方向d5に吹き出すエアーの速度よりも大きく設定されている。
【0056】
左側の給気部4aの吹き出し部40の高風速領域Hは、塗装対象物Wの側の水平方向d1及び下向き鉛直方向d3にエアーが吹き出す部分であり、左側の給気部4aの吹き出し部40の低風速領域Lは、塗装対象物Wの側の斜め下方向d2、塗装室3の左側壁32aの側の斜め下方向d4、及び塗装室3の左側壁32aの側の水平方向d5にエアーが吹き出す部分である。
【0057】
右側の給気部4bの吹き出し部40の高風速領域Hは、塗装対象物Wの側の水平方向d1及び下向き鉛直方向d3にエアーが吹き出す部分であり、右側の給気部4bの吹き出し部40の低風速領域Lは、塗装対象物Wの側の斜め下方向d2、塗装室3の右側壁32bの側の斜め下方向d4、及び塗装室3の右側壁32bの側の水平方向d5にエアーが吹き出す部分である。
【0058】
図3に示すように、左側の給気部4aの吹き出し部40における高風速領域Hと低風速領域Lは、塗装対象物Wの側の水平方向d1、塗装対象物Wの側の斜め下方向d2、下向き鉛直方向d3、塗装室3の左側壁32aの側の斜め下方向d4、塗装室3の左側壁32aの側の水平方向d5のそれぞれに対応して、給気部の縦断面における半円の中心から所定の角度、例えば、θ1=30度、θ2=30度、θ3=60度、θ4=30度、θ5=30度の角度で区分けすることができる。
【0059】
図示しないが、右側の給気部4bの吹き出し部40における高風速領域Hと低風速領域Lは、上述の左側の給気部4aと同様に、塗装対象物Wの側の水平方向d1、塗装対象物Wの側の斜め下方向d2、下向き鉛直方向d3、塗装室3の右側壁32bの側の斜め下方向d4、塗装室3の右側壁32bの側の水平方向d5のそれぞれに対応して、給気部の縦断面における半円の中心から所定の角度、例えば、30度、30度、60度、30度、30度の角度で区分けすることができる。
【0060】
2つの給気部4a,4bの吹き出し部40における高風速領域Hと低風速領域Lのそれぞれの風速設定は、例えば、除塵フィルタ42の濾材の種類や厚みを変更したり、あるいは風量調整用パンチング部材41の開口率を変更することによって行うことができる。具体的には、例えば、高風速領域Hに設けられる除塵フィルタ42の濾材の厚みを、低風速領域Lに設けられる除塵フィルタ42の濾材の厚みよりも薄くしたり、あるいは高風速領域Hを構成する風量調整用パンチング部材41の開口率を、低風速領域Lを構成する風量調整用パンチング部材41の開口率よりも高く設定するなどして、風速差を生じさせることができる。勿論、除塵フィルタ42、風量調整用パンチング部材41等のような構成に限らず、これらとは別の風速調節機構を設けるようにしても良い。
【0061】
高風速領域Hから吹き出すエアーの速度は、0.3m/s〜0.7m/sであることが望ましい。これにより、塗装装置や塗装室3の側壁面への未塗着塗料ミストの付着を軽減しながら、未塗着塗料ミストを塗装室3から速やかに排出し易くなる。
【0062】
また、低風速領域Lから吹き出すエアーの速度は、高風速領域Hから吹き出すエアーの速度の30%〜70%の速度であることが望ましい。低風速領域Lから吹き出すエアーの速度が、高風速領域Hから吹き出すエアーの速度の30%未満の場合、塗装対象物Wの上部で気流が渦を巻いて未塗着塗料ミストが滞留し易くなる。また、低風速領域Lから吹き出すエアーの速度が、高風速領域Hから吹き出すエアーの速度の70%を超えると、風量を削減する効果が薄くなる場合がある。
【0063】
上述のように、エアーの吹き出し方向によって吹き出し速度が異なる、少なくとも2種類の風速領域が吹き出し部40に設けられていることによって、塗装対象物Wの上方及び側方のそれぞれに低速下降流及び高速下降流を形成し易くなる。塗装対象物Wの上方に形成される低速下降流によって、未塗着塗料ミストの拡散と滞留が生じ難くなり、塗着効率が向上して、塗装対象物W間の色かぶりも防止される。また、塗装対象物Wの側方に形成される高速下降流によって、未塗着塗料ミストを流下させて、塗装装置や塗装室3の側壁面への塗料付着を軽減することができる。
【0064】
従って、エアーの吹き出し速度がそれぞれ異なる複数種類の風速領域を組み合わせることにより、良好な塗装環境を維持することが可能であると共に、給気部が略天井全面に設けられている従来の塗装設備と比べて、大幅に風量を低減することができる。これは、ファン動力を低減させるだけでなく、空調負荷や排気処理負荷の低減、設備のコンパクト化、設備コストの低減にもつながる。さらに、給気部の構造が簡易な構成であるため、イニシャルコストが嵩むこともない。
【0065】
特に、吹き出し部40に高風速領域Hと低風速領域Lとが設けられている上述の実施形態の場合、塗装対象物Wの側の水平方向d1に吹き出すエアーを高速にすることによって、当該エアーが2つの給気部4a,4bの間の中央部分で衝突して下降流となり、塗装対象物Wの上方に存在する未塗着塗料ミストを除去すると共に、塗装対象物Wの進行方向における塗装対象物Wの間の風速が高められて色かぶりが防止される。
【0066】
また、下向き鉛直方向d3に吹き出すエアーを高速にすることによって、塗装対象物Wの側面を塗装する際に生じる未塗着塗料ミストを除去し易くする。
【0067】
塗装対象物Wの側の斜め下方向d2から吹き出すエアーを低速にすることによって、塗装対象物Wの側の水平方向d1に対応する高風速領域Hと、下向き鉛直方向d3に対応する高風速領域Hとに挟まれた部分に渦流が発生し難くなり、未塗着塗料ミストが滞留し易い淀み部をなくすことができる。
【0068】
さらに、塗装室3の側壁の側の斜め下方向に吹き出すエアーと、塗装室3の側壁の側の水平方向に吹き出すエアーとを低速にすることによって、渦流の発生を防止しながら、塗装装置や塗装室3の側壁への未塗着塗料ミストの到達を防いで、汚れを軽減することができる。尚、塗装室3の側壁の側の斜め下方向に吹き出すエアーと、塗装室3の側壁の側の水平方向に吹き出すエアーとを高速にすると、渦流が発生し易くなり逆効果となる場合がある。
【0069】
また、上述の実施形態においては、塗装室3の幅方向における中央部分(塗装対象物Wの上方)における下降流は、山なりの風速分布となる。つまり、山の中心の風速(動圧)を大きくして、山の中心の左右両側の風速(動圧)を小さくすることで、山の中心の静圧を小さく、中心の左右両側の静圧を大きくして、気流を中心に集めて、未塗着塗料ミストの拡散防止と速やかな排出が図られる。その結果、塗装室3の幅方向における中央部分(塗装対象物Wの上方)における下降流は、後続の塗装対象物Wへの色かぶりを効果的に防止することができる。
【0070】
上述の実施形態によれば、塗装対象物Wの上方において、例えば0.1m/s〜0.2m/sほどの低速下降流が形成され、塗装対象物Wの両側方に、例えば0.20m/s〜0.25m/sほどの高速下降流が形成され、当該高速下降流の隣接域に、滞留及び逆流が抑えられた低速下降流が形成される。これらの低速下降流と高速下降流とを組み合わせた給気方式により、塗装室全体の風量を、給気部が略天井全面に設けられている従来の塗装設備(0.3m/sの一様下降流を形成)と比べて40%〜50%程度削減することが可能となる。
【0071】
(給気部のメンテナンス方法)
本実施形態における給気部の除塵フィルタ42を交換する場合は、図6に示すように、整流板20を有する風量調整用パンチング部材41を、ヒンジ部21を支点として上方に回転させることによって使用済の除塵フィルタ42を取り外すことができる。新たな除塵フィルタ42をフィルタ枠43に設置して、風量調整用パンチング部材41を下方に回転させることによって、除塵フィルタ42を上からおさえつけるようにして取り付けることができる。尚、図6に示すように、風量調整用パンチング部材41については、奥行方向において複数に分割して設けるようにしても良い。
【0072】
(その他の実施形態)
1.上述の実施形態において、高風速領域Hでは、塗装対象物Wの側の水平方向d1にエアーが吹き出し、低風速領域Lでは、塗装対象物Wの側の斜め下方向d2、下向き鉛直方向d3、塗装室3の側壁側の斜め下方向d4、及び塗装室3の側壁側の水平方向d5にエアーが吹き出すように構成しても良い。即ち、図4に示すように、高風速領域Hを塗装対象物Wの側の水平方向d1(θ1)のみに設定し、他の方向(θ2)を全て低風速領域Lに設定することによっても、上述の実施形態とほぼ同様の効果が発揮され得ると共に、特に、上述の実施形態の場合と同じ給気量としたときに、2つの給気部4a,4bの間の中央部分(上記実施形態においては塗装室3の天井部分30の幅方向中央部分)における未塗着塗料ミストの排出効果が向上して、塗装対象物W間の色かぶりをより確実に防止することができる。
【0073】
2.図5に示すように、塗装室3の天井部分30における、2つの給気部4a,4bの間の中央部分(本実施形態においては塗装室3の天井部分30の幅方向中央部分)に垂れ壁部7を設けるようにしても良い。垂れ壁部7は、給気部4a,4bに対応して設けられており、例えば、塗装室3の奥行方向全体にわたって設けるようにしても良い。垂れ壁部7が設けられていない場合、特に、2つの給気部4a,4bのそれぞれから塗装対象物Wの側の水平方向d1に吹き出すエアーが、2つの給気部4a,4bの間の中央部分で衝突して速度エネルギーを失い易くなる。しかし、垂れ壁部7を設けることによって、塗装対象物Wの側の水平方向d1に吹き出すエアーの速度エネルギーの損失を低減させつつ、2つの給気部4a,4bの間の中央部分を境とする塗装室3における左右両側の風速のバラツキを低減することができる。
【0074】
3.上述の実施形態における給気部は、縦断面形状が半円形である構成を採用しているが、これに限定されるものではなく、他にも例えば、縦断面形状が、半楕円形、あるいは円弧に近い多角形状(吹き出し部を構成する面の数が5面以上)であっても良い。
【0075】
4.上述の実施形態において区分けされた高風速領域では、必ずしも全て同じ風速に設定する必要はなく、また、区分けされた低風速領域についても同様に、必ずしも全て同じ風速に設定する必要はなく、必要に応じて適宜変更して良い。
【0076】
5.上述の実施形態においては、吹き出し部が、高風速領域と、高風速領域よりもエアーの吹き出し速度が小さい低風速領域という、2種類の風速領域を備える構成を採用しているが、この構成に限定されるものではなく、その他の風速領域として、例えば、風速が高風速領域よりも低いが、低風速領域よりも大きい中風速領域を設けるなどしても良い。
【0077】
6.上述の実施形態においては、塗装室の奥行方向全体にわたって給気部が設けられている構成が示されているが、必ずしもこの構成に限定されるものではなく、塗装室の奥行方向全体でなくとも、塗装室における、塗装処理が実施される区域に限定して給気部を設けるようにしても良い。
【0078】
尚、上述のように図面を参照しつつ本発明を説明したが、本発明は当該図面の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の塗装設備は、例えば自動車、鉄道車両、建設機械などにおけるボディ全体又はこれを構成する種々のパーツについての塗装を行う技術分野において特に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 塗装設備
2 給気室
20 整流板
21 ヒンジ部
3 塗装室
30 天井部分
31 格子製床(床排出部の一例)
32a 左側壁
32b 右側壁
4a,4b 給気部
40 吹き出し部
41 風量調整用パンチング部材
42 除塵フィルタ
43 フィルタ枠
5 排気室
6 自動塗装装置
7 垂れ壁部
H 高風速領域
L 低風速領域
d1塗装対象物の側の水平方向
d2 塗装対象物の側の斜め下方向
d3 下向き鉛直方向
d4 塗装室の側壁側の斜め下方向
d5 塗装室の側壁側の水平方向
W 塗装対象物
CV コンベア機構
R レール
φ 直径
【要約】
より良好な塗装環境を維持することが可能でありながらも、風量削減による省ネルギー化と、イニシャルコストの低減化を図れる塗装設備を提供する。
塗装対象物Wにスプレー塗装が行われる塗装室3と、塗装室3の天井部分30に設けられている給気部4a,4bを介して塗装室3内にエアーを供給する給気室2と、塗装室3におけるエアーと未塗着塗料ミストとを塗装室3の床排出部を介して吸引する排気室5と、を備える塗装設備1において、塗装室3の幅方向における塗装対象物Wの位置を中心として、2つの給気部4a,4bが左右対称となるように配置されており、2つの給気部4a,4bのそれぞれの吹き出し部40から、エアーが放射状に噴出し、吹き出し部40には、エアーの吹き出し方向によって吹き出し速度が異なる、少なくとも2種類の風速領域が設けられていることを特徴とする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6