【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る塗装設備の特徴は、塗装対象物にスプレー塗装が行われる塗装室と、
該塗装室の天井部分に設けられている給気部を介して前記塗装室内にエアーを供給する給気室と、
前記塗装室におけるエアーと未塗着塗料ミストとを前記塗装室の床排出部を介して吸引する排気室と、を備える塗装設備において、
前記塗装室の幅方向における前記塗装対象物の位置を中心として、2つの前記給気部が左右対称となるように配置されており、
前記2つの給気部のそれぞれの吹き出し部から、エアーが放射状に噴出し、
前記吹き出し部には、エアーの吹き出し方向によって吹き出し速度が異なる、少なくとも2種類の風速領域が設けられている点にある。
【0010】
本構成によれば、エアーの吹き出し方向によって吹き出し速度が異なる、少なくとも2種類の風速領域が吹き出し部に設けられていることによって、塗装対象物の上方及び側方のそれぞれに低速下降流及び高速下降流を形成し易くなる。塗装対象物の上方に形成される低速下降流によって、未塗着塗料ミストの拡散と滞留が生じ難くなり、塗着効率が向上して、塗装対象物間の色かぶりも防止される。また、塗装対象物の側方に形成される高速下降流によって、未塗着塗料ミストを流下させて、塗装装置や塗装室の側壁面への塗料付着を軽減することができる。
【0011】
従って、エアーの吹き出し速度がそれぞれ異なる複数種類の風速領域を組み合わせることにより、良好な塗装環境を維持することが可能であると共に、給気部が略天井全面に設けられている従来の塗装設備と比べて、大幅に風量を低減することができる。これは、ファン動力を低減させるだけでなく、空調負荷や排気処理負荷の低減、設備のコンパクト化、設備コストの低減にもつながる。さらに、給気部の構造が簡易な構成であるため、イニシャルコストが嵩むこともない。
【0012】
本発明に係る塗装設備においては、前記吹き出し部が、低風速領域と高風速領域とを備え、前記低風速領域から吹き出すエアーの吹き出し速度は、前記高風速領域から吹き出すエアーの吹き出し速度よりも小さく設定されており、
前記高風速領域では、前記塗装対象物の側の水平方向及び下向き鉛直方向にエアーが吹き出し、
前記低風速領域では、前記塗装対象物の側の斜め下方向、前記塗装室の側壁側の斜め下方向、及び前記塗装室の側壁側の水平方向にエアーが吹き出すと好適である。
【0013】
本構成によれば、塗装対象物の側の水平方向に吹き出すエアーを高速にすることによって、当該エアーが2つの給気部の間の中央部分で衝突して下降流となり、塗装対象物の上方に存在する未塗着塗料ミストを除去すると共に、塗装対象物の進行方向における塗装対象物の間の風速が高められて色かぶりが防止される。
【0014】
また、下向き鉛直方向に吹き出すエアーを高速にすることによって、塗装対象物の側面を塗装する際に生じる未塗着塗料ミストを除去し易くする。
【0015】
塗装対象物の側の斜め下方向から吹き出すエアーを低速にすることによって、塗装対象物の側の水平方向に対応する高風速領域と、下向き鉛直方向に対応する高風速領域とに挟まれた部分に渦流が発生し難くなり、未塗着塗料ミストが滞留し易い淀み部をなくすことができる。
【0016】
さらに、塗装室の側壁の側の斜め下方向に吹き出すエアーと、塗装室の側壁の側の水平方向に吹き出すエアーとを低速にすることによって、渦流の発生を防止しながら、塗装装置や塗装室の側壁への未塗着塗料ミストの到達を防いで、汚れを軽減することができる。
【0017】
本発明に係る塗装設備においては、前記吹き出し部が、低風速領域と高風速領域とを備え、前記低風速領域から吹き出すエアーの吹き出し速度は、前記高風速領域から吹き出すエアーの吹き出し速度よりも小さく設定されており、
前記高風速領域では、前記塗装対象物の側の水平方向にエアーが吹き出し、
前記低風速領域では、前記塗装対象物の側の斜め下方向、下向き鉛直方向、前記塗装室の側壁側の斜め下方向、及び前記塗装室の側壁側の水平方向にエアーが吹き出すと好適である。
【0018】
本構成によれば、塗装対象物の側の水平方向に吹き出すエアーを高速にすることによって、当該エアーが2つの給気部の間の中央部分で衝突して下降流となり、塗装対象物の上方に存在する未塗着塗料ミストを除去すると共に、塗装対象物の進行方向における塗装対象物の間の風速が高められて色かぶりが防止される。
【0019】
さらに、塗装対象物の側の斜め下方向に吹き出すエアーと、下向き鉛直方向に吹き出すエアーと、塗装室の側壁の側の斜め下方向に吹き出すエアーと、塗装室の側壁の側の水平方向に吹き出すエアーとを低速にすることによって、渦流の発生を防止しながら、塗装装置や塗装室の側壁への未塗着塗料ミストの到達を防いで、汚れを軽減することができる。
【0020】
本発明に係る塗装設備においては、前記高風速領域から吹き出すエアーの速度は、0.3m/s〜0.7m/sであると好適である。
【0021】
本構成によれば、塗装装置や塗装室の側壁面への未塗着塗料ミストの付着を軽減しながら、未塗着塗料ミストを塗装室から速やかに排出し易くなる。
【0022】
本発明に係る塗装設備においては、前記低風速領域から吹き出すエアーの速度は、前記高風速領域から吹き出すエアーの速度の30%〜70%の速度であると好適である。
【0023】
本構成によれば、塗装対象物の上部で気流が渦を巻いて未塗着塗料ミストが滞留するのを防ぎつつ、風量を削減する効果を高めることができる。
【0024】
本発明に係る塗装設備においては、前記2つの給気部のそれぞれは、前記塗装室の幅方向における前記塗装対象物の右端及び左端よりも外側に配置されていると好適である。
【0025】
本構成によれば、水平成分速度を持つ未塗着塗料ミストの流れを、給気部からの下降流で遮断し易くなり、塗装室の側壁を汚れ難くすることができる。
【0026】
本発明に係る塗装設備においては、前記給気部の縦断面形状が略半円形であり、該略半円形の曲線部分が前記吹き出し部を構成していると好適である。
【0027】
本構成によれば、略半円形の曲線部分に沿って、エアーをより均等に放射状に噴出させることができる。
【0028】
本発明に係る塗装設備においては、前記給気部の略半円形の直径は、前記塗装室における平均風速が0.075m/s〜0.25m/sとなるように設定されると好適である。
【0029】
本構成によれば、塗装対象物の上部に形成される低速下降流において未塗着塗料ミストが滞留し難くなると共に、塗装対象物の上部に形成される下降流の流速が高くなり過ぎないようにしつつ、風量削減効果を維持することができる。
【0030】
本発明に係る塗装設備においては、前記塗装室の天井部分における、前記2つの給気部の間の中央部分に垂れ壁部が設けられていると好適である。
【0031】
本構成によれば、特に、塗装対象物の側の水平方向に吹き出すエアーの速度エネルギーの損失を低減させつつ、2つの給気部の間の中央部分を境とする塗装室における左右両側の風速のバラツキを低減することができる。