【文献】
ChemicalBook,2H,3H-デカフルオロペンタン,製品カタログ,2017年,全文,https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB3283226.htm,[online], [令和2年6月19日検索], インターネット
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フッ素含有溶剤が、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタンである請求項1〜4の何れかに記載のガスクロマトグラフィー質量分析用溶媒。
請求項6又は7に記載のフッ素含有物の定量方法により定量された蒸発残渣を、前記ガスクロマトグラフィー質量分析用溶媒中に溶解して得られた分析検体を用い、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)にて、質量数0〜500の範囲において、全イオンクロマトグラム(TIC)を得た後、各ピークにおけるマススペクトルの質量電荷数(m/z)より定性分析することからなるフッ素含有物の定性分析方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記状況に鑑み、ナノサイズのパーティクル(異物微粒子)の原因となる微量な原因物質(フッ素含有物)の成形品における有無判断を可能とするため、フッ素含有溶剤からなる、フッ素含有物のガスクロマトグラフィー質量分析用溶媒、フッ素含有物の定量方法、及び該ガスクロマトグラフィー質量分析用溶媒を用いたガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)方法による定性分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、フッ素含有溶剤からなる、フッ素含有物のガスクロマトグラフィー質量分析用溶媒であって、前記フッ素含有溶剤が、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボンから選択される少なくとも1種であり、前記フッ素含有物が、
前記フッ素含有溶剤に溶解可能であり、且つフッ素樹脂成形品に付着したフッ素含有物であることを特徴とするガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)用溶媒、フッ素含有物の定量方法、及び該分析用溶媒を用いたガスクロマトグラフィー質量分析(GS/MS)方法による定性分析方法を提供する。
【0010】
前記フッ素含有溶剤が、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、含フッ素エーテルから選択される少なくとも1種である前記質量分析用溶媒は本発明の好ましい態様である。
【0011】
前記フッ素含有溶剤が、0〜120℃以下の沸点を有するフッ素含有溶剤である前記質量分析用溶媒は本発明の好ましい態様である。
また、前記フッ素含有溶剤が、20〜70℃の沸点を有するフッ素含有溶剤である前記質量分析用溶媒は本発明の好ましい態様である。
【0012】
前記フッ素含有溶剤が、デカフルオロペンタンである前記質量分析用溶媒は本発明の好ましい態様である。
また、前記フッ素含有溶剤が、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタンである前記質量分析用溶媒は本発明の好ましい態様である。
【0013】
前記フッ素含有物が、フッ素樹脂成形品表面に付着したフッ素含有物であることが本発明の一つの態様である。
【0014】
前記
ガスクロマトグラフィー質量分析用溶媒
中に、フッ素樹脂成形品表面に付着したフッ素含有物を溶解・抽出した抽出液を蒸発・乾固させ、該抽出液の蒸発残渣を得た後、該蒸発残渣を定量することからなるフッ素含有物の定量方法は本発明の好ましい態様である。
【0015】
前記フッ素樹脂成形品が、前記フッ素
含有溶剤、アンモニア水、PGMEAから選択される前処理溶剤を用い、20〜120℃の温度範囲で1〜48時間静置する前処理がされている前記定量方法は本発明の好ましい態様である。
【0016】
前記定量方法により得られた蒸発残渣を、前記質量分析用溶媒中に溶解して定量された分析検体を用い、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)方法にて、質量数0〜500の範囲において、全イオンクロマトグラム(TIC)を得た後、各ピークにおけるマススペクトルの質量電荷数(m/z)より定性分析することからなるフッ素含有物の定性分析方法は本発明の好ましい態様である。
【0017】
前記定量方法により定量されたフッ素含有物の蒸発残渣が、20×10
−6mg/mm
2以下であるフッ素樹脂成形品は、本発明の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、微量のフッ素含有物を定性定量分析するために用いられる、フッ素含有溶剤からなる、フッ素含有物のガスクロマトグラフィー質量分析用溶媒、フッ素含有物の定量方法、及び該ガスクロマトグラフィー質量分析用溶媒を用いたガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)方法による定性分析方法が提供される。本発明より、ナノサイズのパーティクル(異物微粒子)の原因となる微量の原因物質(フッ素含有物)の定性定量分析が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、フッ素樹脂成形品表面に付着した微量の原因物質(フッ素含有物)を定性定量分析するために用いられるフッ素含有溶剤からなるガスクロマトグラフィー質量分析用溶媒、フッ素含有物の定量方法、及び該ガスクロマトグラフィー質量分析用溶媒を用いたガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)方法による定性分析方法を提供するものである。
【0021】
(GC/MS分析用溶媒)
本発明のフッ素含有溶剤からなるガスクロマトグラフィー質量分析用溶媒は、ナノサイズのパーティクルの原因となるフッ素樹脂成形品表面の原因物質(フッ素含有物)を溶解させるための溶媒であって、フッ素含有溶剤からなるものである。フッ素含有溶剤としては、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、フッ素含有エーテルから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0022】
ハイドロフルロカーボンは、飽和又は不飽和であって、炭素数3〜9、好ましくは4〜8の、炭素、フッ素及び水素原子のみを含む化合物であって、炭素原子に結合する全原子の少なくとも50%以上がフッ素原子である化合物である。例えば、トリデカフルオロオクタン、ペンタデカフルオロヘプタン、デカフルオロペンタン、ペンタフルオロブタン、ペンタフルオロプロパン、へプタフルオロシクロペンタン等の飽和炭化水素、或いは下記一般式(I)
Rf−CH
2CH=CHCH
2−Rf ・・・(I)
(式中、Rfはペルフルオロアルキル基である)
で表されるハイドロフルオロオレフィン(HFO)等の不飽和炭化水素を挙げることが出来る。
【0023】
飽和炭化水素としては、C
5H
2F
10で表されるデカフルオロペンタンを用いることが好ましい。デカフルオロペンタンには複数の構造異性体が存在するがそれらの混合物であってもよい。より好ましくは1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、または1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタンと他のデカフルオロペンタン異性体との混合物であっても良い。不飽和炭化水素としては、好ましくは、2.3.3.3−テトラフルオロ−1−プロペン(HFO−1234yf)、またはZ−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン(Z−HFO−1336m/zzm)が挙げられる。
【0024】
パーフルオロカーボンとしては、飽和又は不飽和であって、炭素数1〜9の、炭素及びフッ素原子のみを含む化合物であって、テトラフルオロメタン、ヘキサフルオロエタン、オクタフルオロプロパン、デカフルオロブタン、ドデカフルオロペンタン、テトラデカフルオロヘキサン、或いは、オクタフルオロシクロブタン、パーフルオロメチルシクロヘキサン等の完全フッ素化されたシクロアルカン、更に下記一般式(II)
CF
2=CFRf・・・・ (II)
(式中、Rf は、パーフルオロアルキル基を示す)
で表されるパーフルオロオレフィン等の不飽和炭化水素、例えば、パーフルオロへプテン等が挙げられる。パーフルオロヘプテンには異性体として、パーフルオロ−2−へプテン、パーフルオロ−3−へプテンが存在するがこれらを単独又は混合して用いても良い。
【0025】
フッ素含有エーテルとはフッ素を含むエーテルであり、ハイドロフルオロエーテル(HFE)、パーフルオロエーテル(PFE)が挙げられる。
ハイドロフルオロエーテル(HFE)としては、飽和または不飽和であって、エーテル結合を有する化合物が挙げられ、例えば、ヘキサフルオロイソプロパノール、トリフルオロエタノール、テトラフルオロエタノール、ペンタフルオロプロパノール、1,1,1−トリフルオロエチル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルエーテル、ノナフルオロブチルメチルエーテル、アルコキシパーフルオロアルケン等が挙げられる。好ましくは、炭素数3から8のハイドロフルオロエーテルである。
【0026】
アルコキシパーフルオロアルケンとしては、炭素数が5〜10のメトキシパーフルオロアルケンもしくはエトキシパーフルオロアルケンが挙げられ、好ましくは、メトキシパーフルオロペンテン、メトキシパーフルオロへキセン、メトキシパーフルオロヘプテン、およびメトキシパーフルオロオクテン、エトキシパーフルオロペンテン、エトキシパーフルオロへキセン、エトキシパーフルオロヘプテン、エトキシパーフルオロオクテン、及びそれらの混合物などを挙げることができる。なお、アルコキシパーフルオロアルケンには複数の構造異性体があるが、構造には特に制限はなく、それらの混合物であってもよく、本発明の目的に合うものを適宜選択することができる。
【0027】
より好ましくは、メトキシパーフルオロヘプテン、その異性体、或いはそれらの混合物が挙げられる。メトキシパーフルオロヘプテンの構造としては、以下のものが挙げられるが、何れの構造のものでもよい。
(1)CF
3(CF
2)
2CF=CFCF(OCH
3)CF
3
(2)CF
3CF
2CF=CF(CF
2)
2(OCH
3)CF
3
(3)CF
3CF
2CF=CFCF(OCH
3)CF
2CF
3
(4)CF
3CF=CFCF(OCH
3)(CF
2)
2CF
3
(5)CF
3CF=CFCF
2CF(OCH
3)CF
2CF
3
(6)CF
3CF
2CF=C(OCH
3)(CF
2)
2CF
3
(7)CF
3CF
2C(OCH
3)=CFCF
2CF
2CF
3
【0028】
好適に使用されるHFEとしては、例えば、三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製オプテオン
TMSF10、住友スリーエム(株)社製Novec(登録商標)7200、Novec(登録商標)7500、Novec(登録商標)7600が挙げられる。
【0029】
パーフルオロエーテルとしては、パーフルオロ(プロピル)メチルエーテル、パーフルオロ(ブチル)メチルエーテル、パーフルオロ(ヘキシル)メチルエーテル、パーフルオロ(ブチル)エチルエーテルなどのパーフルオロ(アルキル)アルキルエーテル等が挙げられる。
【0030】
本発明の分析用溶媒は、溶解させるフッ素含有物の種類により適宜選択することができるが、フッ素含有物との沸点差が大きいことが好ましく、沸点差が10℃以上あることがより好ましい。すなわち、本発明の分析用溶媒の対象となるフッ素含有物は、後述するように約150℃から分解が開始するため、分析用溶媒の沸点が150℃に近い場合にはフッ素含有物の分解が始まり、フッ素含有物の蒸発残渣が減少し、定量・定性分析が困難になるおそれがある。具体的には、本発明の分析用溶媒は、室温(20〜30℃)でガス状または液状であって、フッ素含有物の分子構造を破壊しない沸点を有することが好ましく、0〜120℃、好ましくは0〜70℃、より好ましくは20〜70℃の沸点を有することが望ましい。加えて、取扱い性の面からは室温(20〜30℃)より20℃以上高いことが望ましい。
【0031】
また、本発明の分析用溶媒は、蒸発残渣として分析用溶媒に含まれる不純物成分が残らないことが好ましい。ガスクロマトグラフィー質量分析用溶媒の蒸発残渣が残らないということは、蒸発残渣として不純物の無いフッ素含有物を得ることが出来、GC/MS分析においてフッ素含有物との分離が容易になるため好ましい。フッ素含有物の溶解が可能であっても、蒸発残渣として溶媒の成分が残る場合、例えば、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)等の場合には、PGMEAに含まれる不純物成分が蒸発残渣として残るため、GC/MS分析においてフッ素含有物との分離が困難になり好ましくない。
【0032】
本発明の分析用溶媒は、上記蒸発残渣の純粋性の面からも、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、1,1,1、2,3,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、1,1,1,2,3,3,4,4,5,5−デカフルオロペンタン、1,1,2,3,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、1,1,2,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5−デカフルオロペンタン、1,2,2,3,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、1,1,1,3,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、1,1,1,2,2,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン等のデカフルオロペンタンを用いることが好ましく、より好ましくは1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタンを用いることが望ましい。
【0033】
(分析対象となるフッ素含有物)
本発明の分析用溶媒に溶解されるフッ素含有物としては、
図8に示した概念図のように、フッ素樹脂を成形して得られる成形品(
図8ではPFAチューブ)の表面(内表面または外表面)に付着した微量な付着物等が挙げられる。フッ素樹脂成形品表面は、半導体製造工程においてウエハ表面に付着し微細な半導体デバイスの回路パターンの欠損発生原因となるナノサイズのパーティクル(異物微粒子)になる原因物質(フッ素含有物)が付着し易い。この原因物質(フッ素含有物)は、成形中に、フッ素樹脂の不安定末端基や、溶融状態にあるフッ素樹脂自身が熱分解してフッ素を含むガス状のフッ素樹脂分解物が発生した後、温度が低下することにより固化し、フッ素樹脂成形品表面に微量に付着したものである。フッ素を含有しているため、フッ素樹脂成形品表面から容易に剥離することが困難なものである。
【0034】
この様な微量のフッ素含有物は、極性的には無極性〜中極性の化合物であって、分子量が低く、約150℃で分解が開始し、約300℃以下で気化する化合物である。この様な微量のフッ素含有物は、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)に一般的に用いられる溶媒、例えばアセトン、ヘキサン、メタノール等に溶解し難い化合物である。加えて、その量が微量であるため、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)においても検出されず、定性定量分析を行うことが困難な化合物であった。
そのため、本発明のフッ素含有物の定量方法及び定性分析方法を用いることによってのみ、定量定性分析することが可能となる。また、該フッ素含有物は、該蒸発乾固の工程を経ることにより、フッ素含有物中の不純物が除去されると共に微量のフッ素含有物が凝縮され定量が可能となる。加えて、該蒸発乾固したフッ素含有物が本発明のガスクロマトグラフィー質量分析用溶媒に溶解されることにより、得られる分析検体中のフッ素含有物の濃度をGC/MS分析可能な濃度にまで濃縮することが可能となる。
【0035】
これにより、ナノサイズのパーティクル(異物微粒子)の原因となる微量の原因物質(フッ素含有物)の、成形品表面における有無判断が可能となり、その結果、半導体デバイスの回路パターンの欠損発生原因となるナノサイズのパーティクル(異物微粒子)のウエハ上への残留量を予測できる。
【0036】
GC/MS分析においては、通常、抽出物の同定には抽出液を直接GC/MS分析することがほとんどである。しかしながら、本発明において抽出液を直接GC/MS分析にかけても、分析用溶媒である1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタンのクロマトグラムのみ示され、抽出物に由来するピークが検出されない(
図5〜
図7参照、これらの結果からはマススペクトルは得ることができない)。一般的には、このような結果からは、抽出液中には問題となる成分が含まれていないと結論付けることが多いが、本発明者は抽出液中に抽出物成分(フッ素含有物)が含まれている可能性を追求するために、様々な条件にて抽出液の濃縮を試みた。分析対象がフッ素含有物以外の場合には、溶媒を蒸発させその濃度を30〜100倍程度まで濃縮させて用いることも有るが、本発明の微量のフッ素含有物の場合には、30〜100倍程度の濃縮ではクロマトグラムには何も検出されず、マススペクトルを得ることも出来ないことに加え、定量も困難である。これらの濃縮条件検討の結果、濃縮の究極的な状態である乾固まで濃縮することで、微量ではあるが、目視と秤量が可能な量の固形物を得るに至った。驚くべきことにこの蒸発乾固による固形物は、本発明の分析用溶媒である1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタンにより溶解可能なことを見出した。
【0037】
本発明の分析対象となる、フッ素含有物は、成形中にフッ素樹脂の不安定末端基や、溶融状態にあるフッ素樹脂自身が熱分解して、フッ素を含むガス状のフッ素樹脂分解物が発生した後、温度が低下することにより固化し、フッ素樹脂成形品表面に付着したと考えられる。このフッ素含有物は、後述する本発明の定性分析方法により、69(CF
3)、100(C
2F
4)、119(C
2F
5)、131(C
3F
5),169(C
3F
7),181(C
4F
7)、219(C
4F
9),269(C
5F
11)、319(C
6F
13)等の質量電荷数(m/z)に顕著なピーク(フラグメント)を示すものである(
図1及び
図2参照)。これらのピークは、溶融押出成形(チューブ成形)する際の溶融押出成形機のサイジングダイの外表面に付着した付着物の質量電荷数(m/z)(
図3及び
図4参照)と共通のものが含まれるため、溶融押出成形機のサイジングダイの外表面の一部に付着した付着物(
図8参照)と、フッ素樹脂成形品内表面に付着したフッ素含有物の量には相関がみられ、このサイジングダイの外表面の付着物の量を低減させることも、半導体デバイスの回路パターンの欠損発生原因となるナノサイズのパーティクル(異物微粒子)になる原因物質(フッ素含有物)の抑制を可能とする。
【0038】
(定量方法)
本発明のフッ素含有物の定量方法は、本発明のガスクロマトグラフィー質量分析用溶媒中に、フッ素含有物を溶解・抽出した抽出液を蒸発・乾固させ、該抽出液の蒸発残渣を得た後、該蒸発残渣を定量することからなる。定量には電子天秤を用いることが好ましく、蒸発・乾固にはエバポレーターを用いることが好ましい。
【0039】
(定性分析方法)
本発明の定性分析方法は、上記定量方法により得られた蒸発残渣を、本発明のガスクロマトグラフィー質量分析用溶媒に溶解して得られた分析検体を用い、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)にて、質量数0〜500の範囲において、全イオンクロマトグラム(TIC)を得た後、各ピークにおけるスペクトルの質量電荷数(m/z)から定性分析するものである。
尚、本発明の定性分析に用いる前記蒸発残渣は、分析対象となる含フッ素含有物が付着したフッ素樹脂成形品の清浄度を向上させるため、予め前処理として洗浄工程を経た後に、上記定量方法により得られたものであることが好ましい。
前処理に用いる前処理溶剤は、フッ素含有物を溶解・抽出し得るものであることが好ましく、前述した含フッ素溶剤からなる分析用溶媒の他、アンモニア水、PGMEAなどを使用することができる。
また前処理の処理条件(温度及び時間)としては、用いる前処理溶剤の種類によって一概に規定できないが、20〜120℃の範囲で1〜48時間静置することが望ましい。
【0040】
前記分析検体は、分析用溶媒のピークと、フッ素含有物のピークとを分離することが容易であるため、より精密な定性定量分析が可能となるため好ましい。
また、フッ素含有物を溶解・抽出した抽出液或いは分析検体を得る際の温度は、150℃以下(フッ素含有物の分解開始温度以下)、好ましくは室温(20〜30℃)であることが取り扱いの面から望ましい。この温度範囲に沸点を有する分析用溶媒を用いる場合には、分析用溶媒が短時間で蒸発除去され、且つフッ素含有物の性状が保たれるため望ましい。
【0041】
尚、本発明のGC/MS分析に用いる分析検体は、分析検体に基準物質を溶解して用いることも出来る。ガスクロマトグラフィー質量分析用溶媒としてデカフルオロペンタンを用いる場合には、基準物質としてイソプロパノール(IPA)を挙げることが出来る。この場合、この基準物質を上記質量分析用溶媒に溶解して得られた基準液のマススペクトルと、該基準物質を添加した分析検体のマススペクトルから、その質量成分を定性定量分析することも可能である。
【0042】
(フッ素樹脂成形品)
本発明のフッ素樹脂成形品は、本発明の定量方法により定量されたフッ素含有物の蒸発残渣が可及的にゼロに近いことが望ましく、20×10
−6mg/mm
2以下、好ましくは、10x10
−6mg/mm
2以下、より好ましくは、1×10
−6mg/mm
2以下であることが望ましい。蒸発残渣がこの範囲にあるフッ素樹脂成形品は、ナノサイズのパーティクルの発生の原因となる原因物質(フッ素含有物)が抑制されているため、結果として、該ナノサイズのパーティクル(異物微粒子)の発生も抑制されたフッ素樹脂成形品となる。尚、該ナノサイズのパーティクル(異物微粒子)の粒径とその数については、例えばパーティクルカウンター(液中パーティクルカウンター)、ウエハ上表面欠陥検査装置などによって測定することができる。
【0043】
本発明のフッ素樹脂成形品に用いられるフッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン(TFE)の単独重合体(PTFE)、及び/またはTFEと共重合可能な少なくとも一種のフッ素化モノマー(コモノマー)との共重合体であって、ASTM D−1238に準じ372℃におけるメルトフローレート(MFR)が約1〜100g/10分の共重合体であることが好ましい。メルトフローレート(MFR)は成形法に応じて選択することが出来、例えば、溶融押出成形、射出成形などの溶融成形では、1〜100g/10分、好ましくは1〜50g/10分、より好ましくは1〜20g/10分であることが望ましい。
【0044】
この様な共重合体は、40〜99モル%のTFE単位と、1〜60モル%の少なくとも1種のコモノマーとを含む共重合体であって、コモノマーとしては、例えば、炭素数3以上のパーフルオロアルケン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)(アルキル基は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐アルキル基)、ビニリデンフルオライド、及びビニルフルオライド等を挙げることができる。
【0045】
好ましい共重合体としては、TFE/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体(FEP)、TFE/パーフルオロ(アルルキルビニルエーテル)(PAVE)共重合体(PFA)、TFE/HFP/PAVE共重合体、或いはこれら共重合体の混合物が挙げられ、より好ましくは、TFE/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)共重合体、TFE/パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)共重合体、TFE/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)共重合体、TFE/パーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)共重合体から選択される少なくとも1種の共重合体が挙げられる。これら共重合体中のPAVE単位は好ましくは1〜30mol%、より好ましくは1〜20mol%であることが望ましい。また、FEP共重合体中のヘキサフルオロプロピレン単位は1〜10mol%であることが好ましい。
更に、熱分解分解物の発生を抑制するため、−CF
2CH
2OH、−CONH
2および−COF等の不安定な末端基が、熱的に安定な−CF
3末端基に変換された(フッ素化された)共重合体を用いることも出来る。
このような共重合体の形態としては、粉状物、粉状物の造粒品、粒状物、フレーク、キューブ、ビーズなどあらゆる形態を用いることができる。
【0046】
本発明のフッ素樹脂成形品としては、ペレット、ボトル、フィルム、チューブ、シート、パイプ、配管用の継手(フィッティング)、ガスケット、Oリング、ポンプ、バルブ、フィルターハウジング、レギュレーター、搬送用部材(ウエハキャリア)、フィルター(膜)等が挙げられる。
本発明のフッ素樹脂成形品の成形方法としては特に制限はなく、用いるフッ素樹脂により従来公知の成形方法を採用することができる。成形方法としては、圧縮成形、ペースト押出成形、溶融圧縮成形、溶融押出成形、射出成形、トランスファー成形、ブロー成形、回転成形、ライニング成形、フィルム成形、延伸成形などを挙げることができる。
【0047】
本発明の定性定量分析方法は、フッ素含有溶剤からなるGC/MS分析用溶媒を用いることにより、フッ素含有物が溶解・抽出され易くなると共に、微量のフッ素含有物のより精密な定性定量分析を可能とするものである。本発明はまた、本発明の定性定量分析方法を用い、ナノサイズのパーティクルの発生が抑制されたフッ素樹脂成形品を得ることを可能とする。
加えて、高価な熱分解装置(パイロライザー)を組み込んだPy−GC/MSを使用せずとも、一般的なGC/MS分析装置にて、これまで定性定量分析が困難であった微量のフッ素含有物の精密な定性定量分析が可能となる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例に用いた材料および測定方法は以下のとおりである。
【0049】
(材料)
1.フッ素樹脂
(1)PFA(1)
テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体
(融点310℃、pH=7におけるゼータ電位−50mV)
(2)PFA(2)
テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体
(融点263℃、pH=7におけるゼータ電位−80mV)
【0050】
2.フッ素樹脂成形品(PFAチューブ)
PFA(1)または(2)を用い、φ30mmの溶融押出成形機(株式会社プラ技研社製 押出機成形装置)を用い、表1または表2に示す成形温度にて外径6.35mm、内径4.35mm、長さ50mの無延伸チューブを得た。
【0051】
3.GC/MS分析用溶媒
(1)1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン
(バートレル(登録商標)XF、三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製、沸点55℃)
(下記表中(1)で表記)
(2)メトキシパーフルオロヘプテン
(オプテオン
TMSF10、三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製、沸点
110℃)
(下記表中(2)で表記)
(3)テトラデカフルオロヘプテン
(三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製、沸点75〜85℃)
(下記表中(3)で表記)
【0052】
(実施例1)
PFA(1)からなるフッ素樹脂成形品(チューブ、外径6.35mm×内径4.35mm)50mに、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(バートレル(登録商標)XF)を、両端を100mmずつ折ってプラスチックバンドを用いて封入し、60℃のオーブン内で24時間静置した後、窒素ガスを用いて抜き出し抽出液とした。該抽出液の500mlを、エバポレーターを用いて蒸発・乾固させ、その蒸発残分をフッ素樹脂成形品(チューブ)の内表面に付着したフッ素含有物とし、電子天秤を用いてその量を秤量した。結果を表1に示す。
秤量したフッ素含有物を、本願のガスクロマトグラフィー質量分析用溶媒である1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(バートレル(登録商標)XF)500μlに溶解し分析検体を得た。得られた分析検体を用い、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)にて、質量数0〜500の範囲において、全イオンクロマトグラム(TIC)を得た後、各ピークにおけるマススペクトルの質量電荷数(m/z)を確認した。結果を
図1に示す。
【0053】
(実施例2〜4)
PFA(1)からなるフッ素樹脂成形品(チューブ、外径6.35mmx内径4.35mm)50mに、表
1に示す前処理溶剤を、両端を100mmずつ折ってプラスチックバンドを用いて封入し、60℃のオーブン内で24時間静置した後、窒素ガスを用い、室温(25℃)にて該チューブを乾燥した(前処理)。
この乾燥したチューブに、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(バートレル(登録商標)XF)を同様にして封入し、60℃のオーブン内で24時間静置した後、窒素ガスを用いて抜き出しガラス瓶にて保管し抽出液とした。該抽出液の500mlを、エバポレーターを用いて蒸発・乾固させ、その蒸発残分をフッ素樹脂成形品(チューブ)の表面に付着したフッ素含有物とし、電子天秤を用いその量を秤量した。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例5)
PFA(2)からなるフッ素樹脂成形品を用いた以外は、実施例1と同様にしてフッ素含有物の量を電子天秤を用いて秤量した後、各ピークにおけるスペクトルの質量電荷数(m/z)を確認した。結果を表2及び
図2に示す。
【0055】
(実施例6〜8)
フッ素樹脂としてPFA(2)を用いた以外は、実施例2〜4と同様にしてフッ素含有物の量を電子天秤を用いて秤量した。結果を表2に示す。
【0056】
(実施例9)
フッ素含有物として、実施例1のチューブ成形に用いたφ30mmの溶融押出成形機のサイジングダイの外表面に付着した付着物3mgを用い、該付着物を、本願のガスクロマトグラフィー質量分析用溶媒である1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(バートレル(登録商標)XF)500μlに溶解して分析検体を得た以外は、実施例1と同様にして、各ピークにおけるスペクトルの質量電荷数(m/z)を確認した。結果を
図3に示す。
【0057】
(実施例10)
フッ素含有物として、実施例5のチューブ成形に用いたφ30mmの溶融押出成形機のサイジングダイの外表面に付着した付着物3mgを用い、該付着物を、本願のガスクロマトグラフィー質量分析用溶媒である1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(バートレル(登録商標)XF)500μlに溶解して分析検体を得た以外は、実施例1と同様にして、各ピークにおけるスペクトルの質量電荷数(m/z)を確認した。結果を
図4に示す。
【0058】
(参考例1及び2)
実施例2または実施例5の抽出液を用い、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)にて、質量数0〜500の範囲において、全イオンクロマトグラム(TIC)を得た。結果を
図5及び
図6に示す。ピーク(フラグメント)が確認されず、GC/MSにて検出されていないことが分かる。
【0059】
(参考例3)
本発明のガスクロマトグラフィー質量分析用溶媒である1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(バートレル(登録商標)XF)の全イオンクロマトグラム(TIC)の結果を
図7に示す。
図5及び
図6と、
図7を比較することにより実施例2または実施例5の抽出液にはピーク(フラグメント)が確認されず全イオンクロマトグラム(TIC)にて検出されていないことが分かる。
【0060】
(参考例4〜8)
実施例1で使用した溶融押出成形機のサイジングダイの外表面に付着した付着物を各々3mgずつ、表3に示すGC/MS分析用溶媒3gに各々浸漬し、室温(20℃)にて5分間超音波処理し、12時間静置した。静置後の様子を目視にて確認し、固形物または沈降物が確認出来る場合には×、固形物または沈降物が確認出来ない場合には○とした。結果を表3に示す。
【0061】
図1〜8から明らかな様に、本発明の抽出用溶媒、定量方法及び定性分析方法により、微量なフッ素含有物の定量が可能になると共に、GC/MSによる定性分析も可能になるという極めて顕著な効果が得られた。
また、
図1〜4において、フッ素含有物のフラグメントイオンとして、69(CF
3)、100(C
2F
4)、119(C
2F
5)、131(C
3F
5),169(C
3F
7),181(C
4F
7)、219(C
4F
9),269(C
5F
11)、319(C
6F
13)等のピークが確認出来ることが分かる。よって、
図1及び
図2においてこの共通のピークが減少もしくは消失すれば、半導体デバイスの回路パターンの欠損発生原因となるフッ素含有物に由来するナノサイズのパーティクル(異物微粒子)を低減させることが出来る。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】