【実施例】
【0044】
以下、本発明に関して実施例及び比較例を用いて詳細に説明する。本実施例では、設計組成及び焼成条件を調整することで、生成されるLiBa
2Al
1Si
7N
12系蛍光体を特定の狭い組成範囲内に制御し、副生成物を低減することができ、高い発光効率と発光ピーク強度を有する蛍光体を得ている。
なお、本発明は様々な他の形態への適用が可能であり、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
(混合工程)
窒化リチウム(Li
3N)、窒化バリウム(Ba
3N
2)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si
3N
4)と酸化ユーロピウム(Eu
2O
3)を原料混合物として用い、表1に示すように、設計組成がモル比でEu:Li:Ba:Al:Si=0.04:2.50:1.96:1.50:7.00となるように秤量して混合粉末を作製した。設計組成では、モル比a(Li/Si)は0.36であり、モル比b(Al/Si)は0.21である。表1は、実施例及び比較例の設計組成、焼成条件を示す。
混合粉末を窒素雰囲気のグローブボックス中で瑪瑙製乳棒と乳鉢とを用いて5分間混合を行なった。得られた混合粉末をるつぼに投入した。
【0046】
【表1】
実施例及び比較例の設計組成(モル比)と焼成条件
【0047】
実施例及び比較例の原料混合物の配合比を表2に示す。
【0048】
【表2】
実施例及び比較例の原料の配合比
【0049】
(焼成工程)
混合粉末が入ったるつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットして焼成工程を行った。焼成温度及び時間を表1に示す。
焼成工程では、拡散ポンプにより焼成雰囲気を圧力として1×10
−1Pa以下の真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して炉内の圧力を0.72MPaとし、毎時500℃で1750℃(以下「焼成温度」という)まで昇温し、1時間保持した(以下「保持時間」という)。
【0050】
(解砕工程)
焼成後、冷却させて電気炉からるつぼを取り出し、高温で焼成した生成物に対して軽度の解砕を行った後、目開き45μmの篩を通し、目的とする蛍光体を含む生成粉末(以下「焼成粉」という)を得た。
【0051】
(生成相同定)
得られた焼成粉にCuのKα線を用いた粉末X線回折測定を実施し、LiBa
2Al
1Si
7N
12で示される結晶と同一の結晶構造を有する蛍光体が主生成物として得られていることを確認した。
尚、LiBa
2Al
1Si
7N
12で示される結晶と同一の結晶構造を有する蛍光体が得られているか否かの判定基準は特許文献1に従った。
【0052】
すなわち特許文献1にて算出された結晶構造データを用いて計算したLiBa
2Al
1Si
7N
12系結晶のピークパターンの中で、特に回折強度の強い10本程度の主要ピーク位置と、作製した無機化合物に対して粉末X線回折測定を実施した際の回折のピーク位置とが一致するか否かを判断基準とした。
LiBa
2Al
1Si
7N
12系結晶以外のピークパターンが確認された場合は、同様の手法で副生成物の同定を行った後、各生成物の重量割合をリートベルト解析により算出した。
【0053】
(酸処理工程)
副生成物の除去を目的として、得られた焼成粉を硝酸中に浸した。これにより副生成物としてBaSi
7N
10やLiAlSi
2N
4が含まれていた場合には溶出させる。
その後、上澄みと微粉を除去するデカンテーションを溶液が中性になるまで繰り返し、最終的に得られた沈殿物をろ過、乾燥し、更に目開き45μmの篩を通過させ、目的とする蛍光体を含む生成粉末(以下「酸処理粉」という)を得た。
【0054】
(組成分析)
得られた焼成粉又は酸処理粉に対してICP−MASSと酸素窒素分析を行い組成の定量を実施した。
【0055】
(実施例2)
焼成工程において焼成温度を1850℃、保持時間を8時間とすること以外は実施例1と同じ方法を用いて蛍光体を作製した。
【0056】
(実施例3)
設計組成を原子比でEu:Li:Ba:Al:Si=0.08:2.50:1.92:1.50:7.00とすること、焼成温度を1850℃、保持時間を8時間とすること以外は実施例1と同じ方法を用いて蛍光体を作製した。設計組成では、モル比a(Li/Si)は0.36であり、モル比b(Al/Si)は0.21である。
【0057】
(比較例1)
設計組成が原子比でEu:Li:Ba:Al:Si=0.05:1.00:1.95:1.00:7.00とし、焼成条件を焼成温度1700℃、保持時間2時間とすること以外は実施例1と同じ方法を用いて蛍光体を作製した。設計組成では、モル比a(Li/Si)は0.14であり、モル比b(Al/Si)は0.14である。
【0058】
(比較例2)
設計組成を原子比でEu:Li:Ba:Al:Si=0.05:2.00:1.95:1.00:7.00とし、焼成条件を焼成温度1700℃、保持時間2時間とすること以外は実施例1と同じ方法を用いて蛍光体を作製した。設計組成では、モル比a(Li/Si)は0.29であり、モル比b(Al/Si)は0.14である。
【0059】
(比較例3)
設計組成を原子比でEu:Li:Ba:Al:Si=0.05:2.00:1.95:1.00:7.00とし、焼成条件を焼成温度1750℃、保持時間2時間とすること以外は実施例1と同じ方法を用いて蛍光体を作製した。設計組成では、モル比a(Li/Si)及びモル比b(Al/Si)は、比較例2と同じである。
【0060】
また、上述の実施例及び比較例に対しX線回折分析を行った。
図1は、実施例1〜3及び比較例1〜3の蛍光体のX線回折結果を示す図である。
図1の縦軸はX線回折強度(任意目盛)を示し、横軸は2θ、即ち、X線の原子面への入射角θの2倍に相当する角度を示している。
図1には、LiBa
2AlSi
7N
12と共に、副生成物であるBaSi
7N
10、Ba
2Si
5N
8、LiAlSi
2N
4のX線回折結果も示している。
図1のX線回折結果を基に算出した化合物の生成相の割合(重量%)を表3に示す。
【0061】
【表3】
実施例及び比較例の生成相の割合
【0062】
表3より、実施例1〜3については何れもLiBa
2Al
1Si
7N
12系蛍光体を90重量%以上含んでいることが分かる。また比較例に比べ、Ba
2Si
5N
8の生成量が少ない。更に実施例2、3には副生成物が含まれておらずLiBa
2Al
1Si
7N
12系蛍光体の単相であった。
【0063】
実施例1、2、3において、組成分析を行った結果とLiBa
2Al
1Si
7N
12系蛍光体の格子定数を解析した結果を表4に示す。
【0064】
【表4】
組成分析とLiBa
2Al
1Si
7N
12系蛍光体の格子定数
【0065】
表4に示す実施例1〜3の蛍光体の格子定数は、上述した格子定数の範囲内であることが分かる。
【0066】
実施例1〜3の蛍光体の焼成後のモル比a(Li/Si)及びモル比b(Al/Si)と副生成相の関係を表5に示す。表5には、設計組成の焼成前のモル比a及びモル比bも併せて示している。
【0067】
【表5】
焼成後のモル比a(Li/Si)及びモル比b(Al/Si)と副生成相の関係
【0068】
表5に示すように、実施例1の焼成後のモル比a(Li/Si)は0.148、モル比b(Al/Si)は0.221であり、BaSi
7N
10、LiAlSi
2N
4が、副生成相である。実施例2の焼成後のモル比a(Li/Si)は0.161、モル比b(Al/Si)は0.228であり、蛍光体に副生成相は生じずに、つまり単相である。実施例3の焼成後のモル比a(Li/Si)は0.145、モル比b(Al/Si)は0.216であり、実施例2と同様に蛍光体に副生成相は生じずに、単相であった。
【0069】
次に、実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた蛍光体粉末の発光スペクトル及び励起スペクトルを、蛍光分光光度計を用いて測定した。
図2は、実施例1〜3及び比較例1〜3の蛍光体の励起波長に対する500nm以上550nm以下に観測される発光相対ピーク強度を示す図である。
図2の横軸は励起波長(nm)であり、縦軸は、発光相対ピーク強度(任意目盛)である。
図2に示すように実施例1〜3のピーク発光波長は、それぞれ509nm、508nm514nmである。比較例1〜3のピーク発光波長は、それぞれ510nm、500nm500nmである。これから、実施例1〜3の蛍光体は、波長300nm以上460nm以下の光によって励起され、波長500nm以上550nm以下に発光ピーク波長を有することがわかる。
尚、発光の相対ピーク強度は市販のYAG蛍光体(組成:Y
3Al
5O
12:Ce)である(化成オプトニクス社製)の455nm励起時の発光スペクトルの最高強度の値を100として算出している。
【0070】
実施例1、2、3の蛍光体と比較例1、2、3の蛍光体を405nmの波長の光で励起したときの量子収率と、同じく405nm波長の光で励起した時に500nm以上550nm以下に観測される発光相対ピーク強度の比較結果を表6に示す。
【0071】
【表6】
405nm励起時の量子効率と発光ピーク強度
【0072】
表6より、実施例1〜3の蛍光体の発光の比較例3に対する相対ピーク強度は、1.7倍〜2.6倍に増加していることが分かる。特に、表3に示すように、実施例2、3は主生成相が100%であるので、副生成相が約88%の比較例3に比較すると2.4〜2.6倍の相対ピーク強度が得られることが分かった。
【0073】
表6より、実施例1〜3の蛍光体の発光の比較例3に対する内部量子効率は、1.24倍〜1.55倍に増加していることが分かる。同様に、実施例1〜3の蛍光体の発光の比較例3に対する外部量子効率は、1.25倍〜1.75倍に増加していることが分かる。
表6より従来の蛍光体に比べ、本発明の蛍光体の内部量子効率及び外部量子効率が大幅に改善していることが確認できる。
【0074】
以上、本発明の適用によりLiBa
2Al
1Si
7N
12系蛍光体の発光特性より高い量子効率と蛍光測定においてより高い発光ピーク強度を有する蛍光体を作製することが可能である。尚、この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることが当業者に理解されるところである。