特許第6959601号(P6959601)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6959601
(24)【登録日】2021年10月12日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】蛍光体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20211021BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20211021BHJP
   H01L 33/50 20100101ALN20211021BHJP
【FI】
   C09K11/08 B
   C09K11/64
   !H01L33/50
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-211138(P2016-211138)
(22)【出願日】2016年10月27日
(65)【公開番号】特開2018-70736(P2018-70736A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年8月22日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(72)【発明者】
【氏名】広崎 尚登
(72)【発明者】
【氏名】酒井 謙嘉
(72)【発明者】
【氏名】江本 秀幸
【審査官】 林 建二
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/003076(WO,A1)
【文献】 特開2013−127054(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/175385(WO,A1)
【文献】 Takashi Takeda et al.,Narrow-Band Green-Emitting Phosphor Ba2LiSi7AlN12:Eu2+ with High Thermal Stability Discovered by a Single Particle Diagnosis Approach,CHEMISTRY OF MATERIALS,27,2015年,pages5892-5898
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00−11/89
H01L 33/00
H01L 33/48−33/64
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiBaAlSi12で示される結晶構造を有するLiBaAlSi12系結晶にEuが賦活剤として固溶された無機化合物を含有する蛍光体の製造方法であり、
原料混合物におけるLi/Siのモル比aを2/7≦a≦3/7とし且つAl/Siのモル比bを1/5≦b≦1/4となるように混合した原料混合物を、1700℃を超え1900℃以下で焼成して、90重量%以上のLiBaAlSi12系結晶を得る、蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記原料混合物を作製する混合工程と、
窒素を含有する不活性雰囲気中において前記混合工程で得られた原料混合物を焼成する焼成工程と、
前記焼成工程で得られた生成物を解砕する解砕工程と、を有し、
前記混合工程における前記原料混合物
窒化物として窒化リチウム(LiN)、窒化バリウム(Ba)、窒化アルミニウム(AlN)及び窒化ケイ素(Si)とし、酸化物として酸化ユーロピウム(Eu)として、
モル比でEu:Li:Ba:Al:Si=0.04:2.50:1.96:1.50:7.00、又は、Eu:Li:Ba:Al:Si=0.08:2.50:1.92:1.50:7.00となるように作製する、請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記焼成工程では、1気圧以上の雰囲気圧力下において1700℃を超え1900℃以下の温度で前記原料混合物を焼成する、請求項1又は2に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記焼成工程において、前記温度での焼成時間を、1時間〜16時間とする、請求項3に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項5】
前記解砕工程で得た反応混合物の粉末から副生成物を除去する酸処理工程を実施する、請求項2に記載の蛍光体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青色発光ダイオードや紫外線発光ダイオードを用いた発光装置に利用可能でLiBaAlSi12系結晶を含有した蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、蛍光表示管(VFD(Vacuum−Fluorescent Display))、フィールドエミッションディスプレイ(FED(Field Emission Display)またはSED(Surface−Conduction Electron−Emitter Display))、プラズマディスプレイパネル(PDP(Plasma Display Panel))、陰極線管(CRT(Cathode−Ray Tube))、液晶ディスプレイバックライト(Liquid−Crystal Display Backlight)、白色発光ダイオード(LED(Light−Emitting Diode))などに用いられている。
【0003】
何れの用途においても、蛍光体を発光させるには蛍光体を励起するためのエネルギーを蛍光体に供給する必要がある。蛍光体は、真空紫外線、紫外線、電子線、青色光などの高いエネルギーを有する励起源により励起されて、青色光、緑色光、黄色光、橙色光、赤色光等の可視光線を発する。そのため、励起光を効率よく可視光に変換できることが望ましい。
【0004】
特許文献1には、470nm以下のLEDと組み合わせた場合でも発光強度が高く、化学的および熱的に安定な蛍光体としてLiBaAlSi12系蛍光体が開示されている。
LiBaAlSi12系蛍光体はLiBaAlSi12結晶及びLiBaAlSi12で示される結晶と同一の結晶構造を有するLiBa(AlSi)(O,N)12結晶、Li(Ba,Sr)(AlSi)(O,N)12結晶やLi(Ba,La)(AlSi)(O,N)12結晶に付活イオンを含有させることにより青色から赤色の蛍光を発することが示されている。特に付活イオンとしてEu元素を選択した場合では、360nmから450nmの光を照射すると、500nm以上550nm以下の範囲の波長にピークを持つ緑色の蛍光を示すことが確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第14/003076号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された蛍光体では、焼成時に様々な種類の副生成物も生成されていた。副生成物の生成は、目的とするLiBaAlSi12系蛍光体の収率が低下するというだけでなく、副生成物がLiBaAlSi12系蛍光体の発光を吸収あるいは波長変換し、LiBaAlSi12系蛍光体からの発光の取り出し効率を大きく低下させていることが明らかとなった。
【0007】
本発明は、LiBaAlSi12系結晶を含有した蛍光体であって、副生成物が少なくて蛍光体から効率よく発光を取り出すことができる蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の蛍光体を製造する製造方法はLiBaAlSi12系結晶にEuが賦活剤として固溶された無機化合物を含有する蛍光体の製造方法であり、原料混合物におけるLi/Siのモル比aを2/7≦a≦3/7とし且つAl/Siのモル比bを1/5≦b≦1/4となるように混合した原料混合物を、1700℃を超え1900℃以下で焼成して、90重量%以上のLiBaAlSi12系結晶を得る
【0014】
上記製造方法において、原料混合物を作製する混合工程と、窒素を含有する不活性雰囲気中において混合工程で得られた原料混合物を焼成する焼成工程と、焼成工程で得られた生成物を解砕する解砕工程と、を有し、混合工程における原料混合物を、窒化物として窒化リチウム(LiN)、窒化バリウム(Ba)、窒化アルミニウム(AlN)及び窒化ケイ素(Si)とし、酸化物として酸化ユーロピウム(Eu)として、モル比でEu:Li:Ba:Al:Si=0.04:2.50:1.96:1.50:7.00、又は、Eu:Li:Ba:Al:Si=0.08:2.50:1.92:1.50:7.00となるように作製する蛍光体の製造方法であってもよい。
【0015】
焼成工程では、1気圧以上の雰囲気圧力下において1700℃を超え1900℃以下の温度で前記原料混合物を焼成してもよい。
【0016】
焼成工程において、前記温度での焼成時間を、1時間〜16時間としてもよい。
【0017】
解砕工程で得た反応混合物の粉末から副生成物を除去する酸処理工程を実施してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、蛍光体に含有される無機化合物がLi/Siのモル比及びAl/Siのモル比を特定した混合物の焼成体からなる蛍光体が得られ、副生成物が少なく、波長300nm以上460nm以下の光によって励起され、波長500nm以上550nm以下に発光ピーク波長を有する強度が高い発光を効率よく取り出すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例1〜3及び比較例1〜3の蛍光体のX線回折結果を示す図である。
図2】実施例1〜3及び比較例1〜3の蛍光体の励起波長に対する500nm以上550nm以下に観測される発光相対ピーク強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を詳しく説明する。
まず本発明の蛍光体は、LiBaAlSi12系結晶にEuが賦活剤として固溶された無機化合物(以下、「LiBaAlSi12系蛍光体」と称することがある)を含有したものである。蛍光体は、係る無機化合物のみからなるものであっても、この無機化合物を一部に含有したものであってもよい。
【0024】
LiBaAlSi12結晶は、Li、Ba、Al、Si及びNを含む原料を焼成して得られた結晶であり、上述の特許文献1等において蛍光体の合成が確認された結晶である。LiBaAlSi12系結晶は、LiBaAlSi12で示される結晶構造を有する結晶であり、LiBaAlSi12で示される結晶、LiBaAlSi12で示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶、これらの結晶の固溶体結晶、これらの結晶の混合物などである。
【0025】
本発明のLiBaAlSi12系蛍光体においては、LiBaAlSi12で示される結晶と同一の結晶構造を有する結晶としては、LiBa(AlSi)(O,N)12結晶、Li(Ba,Sr)(AlSi)(O,N)12結晶やLi(Ba,La)(AlSi)(O,N)12結晶に、Euを含有させた結晶が挙げられる。さらに、LiBaAlSi12系蛍光体の結晶構造は、LiBaAlSi12で示される結晶とは、格子定数は変化するが骨格原子間の化学結合が大きく異なるところがなく、同一の結晶構造を有している。
【0026】
LiBaAlSi12系蛍光体は、斜方晶であり、空間群Pnnm(International Tables for Crystallographyの58番目の空間群)の対称性を有する。X線回折や中性子線回折等の結果を用いて求められる格子定数a、b、cが、a=14.115±0.010Å、b=4.905±0.010Å、c=8.085±0.010Åの範囲内を示すのが好適である。この範囲であれば優れた発光特性を示す蛍光体が得られる。
【0027】
このようなLiBaAlSi12系結晶を主生成相として含有した蛍光体は、波長300nm以上460nm以下の光によって効率よく励起され、波長500nm以上550nm以下に発光ピーク波長を有する蛍光体となる。
【0028】
LiBaAlSi12系蛍光体は、主生成相として90重量%以上含有される場合は発光のピーク強度が高く好ましい。
ここで、主生成相以外の副生成相つまり、副生成物としては、後述する表3等に示す、BaSi蛍光体、BaSi10蛍光体、SrSi蛍光体、AlN、LiAlSi蛍光体等が挙げられる。
【0029】
本発明の蛍光体の無機化合物は、構成元素のモル比を特定した原料混合物の焼成体により構成されている。具体的には、無機化合物は、Li/Siのモル比aが1/7<a≦3/7であると共に、Al/Siのモル比bが1/7<b≦2/7である原料混合物の焼成体からなるものである。
【0030】
Li、Ba、Al、Si、N及びEuを含む原料混合物を焼成してLiBaAlSi12系結晶にEuが賦活剤として固溶された焼結体を生成すると、様々な蛍光体の副生成物が生成する。特に、BaSi蛍光体及びSrSi蛍光体は生成し易い副生成物であり、これらがLiBaAlSi12系結晶にEuが賦活剤として固溶された蛍光体による緑色の発光を吸収し、赤色の光に変換する。
そのため、BaSi蛍光体やSrSi蛍光体のような副生成物の含有割合が増加する程、量子効率や発光スペクトルのピーク強度が大きく低下する。
【0031】
そこで本発明では、Li、Ba、Al、Si及びNを含む原料混合物の特定元素のモル比、具体的にはLi/Siのモル比aとAl/Siのモル比bとを所定範囲とすることで、BaSi蛍光体やSrSi蛍光体のような副生成物の生成を効果的に抑制する。
即ち原料混合物におけるLi/Siのモル比aが1/7<a≦3/7であることと、Al/Siのモル比bが1/7<b≦2/7であることの全てを満たすとき、BaSi蛍光体やSrSi蛍光体のよう副生成物の量を減少でき、LiBaAlSi12系蛍光体の発光スペクトルのピーク強度を高くすることが可能である。
【0032】
原料混合物中のモル比a,bが、2/7≦a≦3/7であることと、1/5≦b≦1/4であることとの全てを満たすとき、副生成物の量を更に減少することができ、発光スペクトルのピーク強度を高くすることができ、より好ましい。
特に、原料混合物中のモル比が1/3≦a≦3/7、1/5<b≦1/4を全て満たすとき、発光スペクトルのピーク強度が大幅に向上するため特に好ましい。
【0033】
焼成を行った後の生成物中、即ちLiBaAlSi12系結晶中のAlの含有量は3.7重量%以上7.5重量%以下の範囲とするのがよい。LiBaAlSi12系結晶中のAlの含有量が3.7重量%未満であったり、7.5重量%を超えたりすると、様々な副生成物が生成し易くなるためである。
【0034】
特に、Li量は蛍光特性へ大きく影響するため、蛍光特性向上という点においてLi量制御は最も重要な因子の一つである。優れた発光特性を得るためには、Liの含有量は0.95重量%以上1.2重量%の範囲とするのがよい。この範囲内から外れると、量子効率や発光スペクトルのピーク強度をはじめとする蛍光特性の低下と様々な副生成物の生成を招き易くなるので好ましくない。
【0035】
特にLiの含有量が0.95重量%以上1.1重量%以下、Alの含有量が5.5重量%以上6.6重量%以下の範囲であれば、副生成物の含有量をより低減することができ、従来よりも優れた蛍光特性を有するLiBaAlSi12系蛍光体が得られる。
【0036】
次に、本発明のLiBaAlSi12系結晶が主生成相として有する無機化合物を含有する蛍光体の製造方法について説明する。
本発明のLiBaAlSi12系蛍光体は、Li、Ba、Al、Si及びNの元素が含有され、Li/Siのモル比aが1/7<a≦3/7となると共に、Al/Siのモル比bが1/7<b≦2/7となるように混合された原料混合物にEuを混合し、焼成し、LiBaAlSi12系結晶を主生成相として生成させることで製造する。
【0037】
例えば、原料混合物を作製する混合工程と、混合工程後の混合物を、窒素を含有する不活性雰囲気中において焼成する焼成工程と、焼成工程後の生成物を解砕し紛体の粒子径を調整する解砕工程とを行う。
これにより、LiBaAlSi12系蛍光体を主成分として含有した反応混合物の粉末を得ることができる。そのまま使用することも可能であるが、副生成物等を除去する酸処理工程を実施してもよい。
【0038】
混合工程では、原料混合物として上述のLiBaAlSi12系蛍光体を構成する各元素の炭酸塩、酸化物、窒化物、炭化物、水素化物、ハロゲン化物、珪化物、金属の一種又は複数種を用いる。
また上述の特許文献1と同様に、LiBaAlSi12蛍光体のBaの一部はSrやLaでの置換が可能であるので、SrやLaの炭酸塩、酸化物、窒化物、炭化物、水素化物、ハロゲン化物、珪化物、金属等も原料混合物として用いてもよい。
【0039】
焼成工程では、Liの含有量は焼成の前後で大きく変化する。たとえLiBaAlSi12の合成に好適な焼成温度であっても、LiBaAlSi12系蛍光体が合成された後に、その焼成温度を保持し続けると、LiBaAlSi12系蛍光体からLiの欠損、揮発が進行し、最終的にはLiBaAlSi12系蛍光体の分解に繋がる。そのため組成に合わせて焼成条件を調整するのがよい。焼成工程は1気圧以上の雰囲気圧力下において1700℃以上1900℃以下の温度で実施するのがよい。焼成温度が1700℃よりも低いと、LiBaAlSi12系蛍光体が十分に生成しないので好ましくなく、また1900℃を超えるとLiの揮発が進み副生成物が生成しやすくなるので好ましくない。焼成時間は、1時間〜16時間とすることができる。
【0040】
焼成によって得られた生成物が本発明の蛍光体か否かを判断するには、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MASSとも呼ぶ)と、酸素窒素分析による組成分析と、粉末X線回折測定による生成相の分析とを組み合わせて結晶構造解析を行えばよい。
【0041】
焼成後の生成物に対してICP−MASSによる組成分析を実施することで、Liが不足しているかどうかを簡易的に判断することが可能である。後述するように、一部の副生成物を酸で溶解させ除去してからICP−MASSによる組成分析を行うのが望ましい。
【0042】
上述のような本発明のLiBaAlSi12系蛍光体は、少なくとも一つの発光素子と組み合わせて発光装置を構成することができる。
この発光装置としては、本発明のLiBaAlSi12系蛍光体からなる第1蛍光体と共に、第1蛍光体よりも長波長の発光ピークを有する第2蛍光体を一種以上用い、発光素子と組み合わせて発光装置を構成することも可能である。
【0043】
発光素子としては、波長300nm以上460nm以下の発光を有する無機発光素子又は有機発光素子を用いることも可能であり、LED素子を用いてもよい。
このような発光装置は、例えば液晶TV用バックライト、プロジェクタの光源装置、照明装置又は信号装置などとして使用可能である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明に関して実施例及び比較例を用いて詳細に説明する。本実施例では、設計組成及び焼成条件を調整することで、生成されるLiBaAlSi12系蛍光体を特定の狭い組成範囲内に制御し、副生成物を低減することができ、高い発光効率と発光ピーク強度を有する蛍光体を得ている。
なお、本発明は様々な他の形態への適用が可能であり、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
(混合工程)
窒化リチウム(LiN)、窒化バリウム(Ba)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si)と酸化ユーロピウム(Eu)を原料混合物として用い、表1に示すように、設計組成がモル比でEu:Li:Ba:Al:Si=0.04:2.50:1.96:1.50:7.00となるように秤量して混合粉末を作製した。設計組成では、モル比a(Li/Si)は0.36であり、モル比b(Al/Si)は0.21である。表1は、実施例及び比較例の設計組成、焼成条件を示す。
混合粉末を窒素雰囲気のグローブボックス中で瑪瑙製乳棒と乳鉢とを用いて5分間混合を行なった。得られた混合粉末をるつぼに投入した。
【0046】
【表1】
実施例及び比較例の設計組成(モル比)と焼成条件
【0047】
実施例及び比較例の原料混合物の配合比を表2に示す。
【0048】
【表2】
実施例及び比較例の原料の配合比
【0049】
(焼成工程)
混合粉末が入ったるつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットして焼成工程を行った。焼成温度及び時間を表1に示す。
焼成工程では、拡散ポンプにより焼成雰囲気を圧力として1×10−1Pa以下の真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して炉内の圧力を0.72MPaとし、毎時500℃で1750℃(以下「焼成温度」という)まで昇温し、1時間保持した(以下「保持時間」という)。
【0050】
(解砕工程)
焼成後、冷却させて電気炉からるつぼを取り出し、高温で焼成した生成物に対して軽度の解砕を行った後、目開き45μmの篩を通し、目的とする蛍光体を含む生成粉末(以下「焼成粉」という)を得た。
【0051】
(生成相同定)
得られた焼成粉にCuのKα線を用いた粉末X線回折測定を実施し、LiBaAlSi12で示される結晶と同一の結晶構造を有する蛍光体が主生成物として得られていることを確認した。
尚、LiBaAlSi12で示される結晶と同一の結晶構造を有する蛍光体が得られているか否かの判定基準は特許文献1に従った。
【0052】
すなわち特許文献1にて算出された結晶構造データを用いて計算したLiBaAlSi12系結晶のピークパターンの中で、特に回折強度の強い10本程度の主要ピーク位置と、作製した無機化合物に対して粉末X線回折測定を実施した際の回折のピーク位置とが一致するか否かを判断基準とした。
LiBaAlSi12系結晶以外のピークパターンが確認された場合は、同様の手法で副生成物の同定を行った後、各生成物の重量割合をリートベルト解析により算出した。
【0053】
(酸処理工程)
副生成物の除去を目的として、得られた焼成粉を硝酸中に浸した。これにより副生成物としてBaSi10やLiAlSiが含まれていた場合には溶出させる。
その後、上澄みと微粉を除去するデカンテーションを溶液が中性になるまで繰り返し、最終的に得られた沈殿物をろ過、乾燥し、更に目開き45μmの篩を通過させ、目的とする蛍光体を含む生成粉末(以下「酸処理粉」という)を得た。
【0054】
(組成分析)
得られた焼成粉又は酸処理粉に対してICP−MASSと酸素窒素分析を行い組成の定量を実施した。
【0055】
(実施例2)
焼成工程において焼成温度を1850℃、保持時間を8時間とすること以外は実施例1と同じ方法を用いて蛍光体を作製した。
【0056】
(実施例3)
設計組成を原子比でEu:Li:Ba:Al:Si=0.08:2.50:1.92:1.50:7.00とすること、焼成温度を1850℃、保持時間を8時間とすること以外は実施例1と同じ方法を用いて蛍光体を作製した。設計組成では、モル比a(Li/Si)は0.36であり、モル比b(Al/Si)は0.21である。
【0057】
(比較例1)
設計組成が原子比でEu:Li:Ba:Al:Si=0.05:1.00:1.95:1.00:7.00とし、焼成条件を焼成温度1700℃、保持時間2時間とすること以外は実施例1と同じ方法を用いて蛍光体を作製した。設計組成では、モル比a(Li/Si)は0.14であり、モル比b(Al/Si)は0.14である。
【0058】
(比較例2)
設計組成を原子比でEu:Li:Ba:Al:Si=0.05:2.00:1.95:1.00:7.00とし、焼成条件を焼成温度1700℃、保持時間2時間とすること以外は実施例1と同じ方法を用いて蛍光体を作製した。設計組成では、モル比a(Li/Si)は0.29であり、モル比b(Al/Si)は0.14である。
【0059】
(比較例3)
設計組成を原子比でEu:Li:Ba:Al:Si=0.05:2.00:1.95:1.00:7.00とし、焼成条件を焼成温度1750℃、保持時間2時間とすること以外は実施例1と同じ方法を用いて蛍光体を作製した。設計組成では、モル比a(Li/Si)及びモル比b(Al/Si)は、比較例2と同じである。
【0060】
また、上述の実施例及び比較例に対しX線回折分析を行った。
図1は、実施例1〜3及び比較例1〜3の蛍光体のX線回折結果を示す図である。図1の縦軸はX線回折強度(任意目盛)を示し、横軸は2θ、即ち、X線の原子面への入射角θの2倍に相当する角度を示している。図1には、LiBaAlSi12と共に、副生成物であるBaSi10、BaSi、LiAlSiのX線回折結果も示している。図1のX線回折結果を基に算出した化合物の生成相の割合(重量%)を表3に示す。
【0061】
【表3】
実施例及び比較例の生成相の割合
【0062】
表3より、実施例1〜3については何れもLiBaAlSi12系蛍光体を90重量%以上含んでいることが分かる。また比較例に比べ、BaSiの生成量が少ない。更に実施例2、3には副生成物が含まれておらずLiBaAlSi12系蛍光体の単相であった。
【0063】
実施例1、2、3において、組成分析を行った結果とLiBaAlSi12系蛍光体の格子定数を解析した結果を表4に示す。
【0064】
【表4】
組成分析とLiBaAlSi12系蛍光体の格子定数
【0065】
表4に示す実施例1〜3の蛍光体の格子定数は、上述した格子定数の範囲内であることが分かる。
【0066】
実施例1〜3の蛍光体の焼成後のモル比a(Li/Si)及びモル比b(Al/Si)と副生成相の関係を表5に示す。表5には、設計組成の焼成前のモル比a及びモル比bも併せて示している。
【0067】
【表5】
焼成後のモル比a(Li/Si)及びモル比b(Al/Si)と副生成相の関係
【0068】
表5に示すように、実施例1の焼成後のモル比a(Li/Si)は0.148、モル比b(Al/Si)は0.221であり、BaSi10、LiAlSiが、副生成相である。実施例2の焼成後のモル比a(Li/Si)は0.161、モル比b(Al/Si)は0.228であり、蛍光体に副生成相は生じずに、つまり単相である。実施例3の焼成後のモル比a(Li/Si)は0.145、モル比b(Al/Si)は0.216であり、実施例2と同様に蛍光体に副生成相は生じずに、単相であった。
【0069】
次に、実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた蛍光体粉末の発光スペクトル及び励起スペクトルを、蛍光分光光度計を用いて測定した。
図2は、実施例1〜3及び比較例1〜3の蛍光体の励起波長に対する500nm以上550nm以下に観測される発光相対ピーク強度を示す図である。図2の横軸は励起波長(nm)であり、縦軸は、発光相対ピーク強度(任意目盛)である。
図2に示すように実施例1〜3のピーク発光波長は、それぞれ509nm、508nm514nmである。比較例1〜3のピーク発光波長は、それぞれ510nm、500nm500nmである。これから、実施例1〜3の蛍光体は、波長300nm以上460nm以下の光によって励起され、波長500nm以上550nm以下に発光ピーク波長を有することがわかる。
尚、発光の相対ピーク強度は市販のYAG蛍光体(組成:YAl12:Ce)である(化成オプトニクス社製)の455nm励起時の発光スペクトルの最高強度の値を100として算出している。
【0070】
実施例1、2、3の蛍光体と比較例1、2、3の蛍光体を405nmの波長の光で励起したときの量子収率と、同じく405nm波長の光で励起した時に500nm以上550nm以下に観測される発光相対ピーク強度の比較結果を表6に示す。
【0071】
【表6】
405nm励起時の量子効率と発光ピーク強度
【0072】
表6より、実施例1〜3の蛍光体の発光の比較例3に対する相対ピーク強度は、1.7倍〜2.6倍に増加していることが分かる。特に、表3に示すように、実施例2、3は主生成相が100%であるので、副生成相が約88%の比較例3に比較すると2.4〜2.6倍の相対ピーク強度が得られることが分かった。
【0073】
表6より、実施例1〜3の蛍光体の発光の比較例3に対する内部量子効率は、1.24倍〜1.55倍に増加していることが分かる。同様に、実施例1〜3の蛍光体の発光の比較例3に対する外部量子効率は、1.25倍〜1.75倍に増加していることが分かる。
表6より従来の蛍光体に比べ、本発明の蛍光体の内部量子効率及び外部量子効率が大幅に改善していることが確認できる。
【0074】
以上、本発明の適用によりLiBaAlSi12系蛍光体の発光特性より高い量子効率と蛍光測定においてより高い発光ピーク強度を有する蛍光体を作製することが可能である。尚、この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることが当業者に理解されるところである。
図1
図2