特許第6959617号(P6959617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧 ▶ 学校法人 名古屋電気学園の特許一覧

特許6959617TOT化合物およびそれを利用した非水電解液二次電池
<>
  • 特許6959617-TOT化合物およびそれを利用した非水電解液二次電池 図000032
  • 特許6959617-TOT化合物およびそれを利用した非水電解液二次電池 図000033
  • 特許6959617-TOT化合物およびそれを利用した非水電解液二次電池 図000034
  • 特許6959617-TOT化合物およびそれを利用した非水電解液二次電池 図000035
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6959617
(24)【登録日】2021年10月12日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】TOT化合物およびそれを利用した非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
   C07C 49/727 20060101AFI20211021BHJP
   C07C 45/72 20060101ALI20211021BHJP
   C08G 61/10 20060101ALI20211021BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20211021BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20211021BHJP
   H01M 4/137 20100101ALI20211021BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20211021BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20211021BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20211021BHJP
【FI】
   C07C49/727CSP
   C07C45/72
   C08G61/10
   H01M4/60
   H01M4/62 Z
   H01M4/137
   H01M10/0566
   H01M10/052
   !C07B61/00 300
【請求項の数】8
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2018-532968(P2018-532968)
(86)(22)【出願日】2017年8月2日
(86)【国際出願番号】JP2017028087
(87)【国際公開番号】WO2018030237
(87)【国際公開日】20180215
【審査請求日】2020年6月25日
(31)【優先権主張番号】特願2016-156770(P2016-156770)
(32)【優先日】2016年8月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】武元 一樹
(72)【発明者】
【氏名】森田 靖
(72)【発明者】
【氏名】村田 剛志
【審査官】 小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−081704(JP,A)
【文献】 朝倉典昭 ほか,日本化学会第91春季年会講演予稿集IV,2011年,pp. 1561, 4 E5-15,化合物例2
【文献】 宮井裕実 ほか,第24回基礎有機化学討論会要旨集,2013年,pp. 259,化合物例1
【文献】 村田剛志 ほか,第107回有機合成シンポジウム講演要旨集,2015年05月30日,pp. 89-92,特に第80頁19行−第90頁第2行
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 49/727
C07C 49/617
C08G 61/12
H01M 4/60
H01M 4/62
H01M 10/0566
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のトリオキソトリアンギュレン(TOT)骨格を、π共役系を共有するようにダイマー状、トリマー状、オリゴマー状またはポリマー状に連結したTOT化合物であって、下記式(1)で示される構造を有し、該式(1)で示されるTOT骨格どうしが互いに直接結合した構造を有する、TOT化合物。
【化1】
【請求項2】
前記TOT骨格の一部または全部が、下記式(8)で示されるラジカル構造に置換され
ている、請求項1に記載のTOT化合物。
【化2】
【請求項3】
前記TOT骨格の一部または全部が、下記式(7)で示されるアニオン構造に置換されている、請求項1に記載のTOT化合物。
【化3】

(式中、M+はプロトン、金属イオン、または有機カチオンである。)
【請求項4】
下記式(2)で示されるTOT化合物または下記式(3)で示されるTOT化合物を前駆体として、π共役を共有するように互いに連結させる、請求項1に記載のTOT化合物の製造方法。
【化4】
(式中、M+はプロトン、金属イオン、または有機カチオンであり、Yは水素、ハロゲン、アルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシ基またはシリル基であり、3つのYは互いに同一でも異なっていてもよい。なお3つのYのうち少なくとも1つはハロゲンである。)
【請求項5】
ハロゲン置換TOT化合物を遷移金属触媒によるカップリング反応によって連結させる、請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項のいずれかに記載のTOT化合物を電極活物質として使用した非水電解液二次電池。
【請求項7】
前記電極活物質に、導電助剤としてカーボンナノチューブが添加されている請求項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項8】
前記電極活物質は、非水電解液の正極に使用されている、請求項または請求項に記載の非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトリオキソトリアンギュレン(TOT;Trioxotriangulene)化合物およびそれを利用した非水電解液二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動作電圧が高く軽量なリチウムイオン二次電池は、携帯電話やノートパソコンなどのモバイル機器の電源として広く普及している。しかし、その正極活物質としてよく用いられるコバルト酸リチウムに含まれるコバルトはレアメタルであることから今後の安定供給が懸念される。また、金属酸化物であることから安全性にも不安が残る。
【0003】
このよう問題を解決するため、安価かつ安全な電極活物質として有機化合物を利用する試みが近年盛んである。
【0004】
例えば特許文献1にはジスルフィド結合を有する有機化合物を正極に用いた二次電池が開示されている。しかし電極活物質が電解液へ溶解してしまうため、二次電池のサイクル特性が悪いという問題があった。
【0005】
また特許文献2、特許文献3および非特許文献1には1分子あたり複数の電子授受が可能なレドックス化合物を正極活物質に用いる二次電池が開示されており、大きな充放電容量を示すものの、やはりサイクル特性が悪いという問題があった。
【0006】
このような問題を解決するため、ポリマー主鎖に充放電作用する化合物を結合させたペンダント型ラジカルポリマー電池が特許文献4に開示されている。しかしこの方法ではサイクル特性は改善するものの、充放電に関与しない部分が多く含まれるため充放電容量が低下してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4833048号明細書
【特許文献2】国際公開第2013/042706号パンフレット
【特許文献3】特開2007−227186号公報
【特許文献4】特開2012−74209号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Y. Morita, et al. "Organic Tailored Batteries Materials Using Stable Open-shell Molecules with Degenerate Frontier Orbitals" Nature Materials 10, pp.947-951 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願は、有機化合物を活物質として用いる二次電池において、大きな充放電容量と良好なサイクル特性を両立させることであり、そのような二次電池の活物質に適したTOT化合物、およびそれを用いた二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、多段階の酸化還元能を有する単体(モノマー)のTOT化合物を互いに結合させることにより、結合されたTOT化合物とし、これを電極活物質として二次電池へ適用することにより、単位重量あたりの充放電容量が大きく低下することなく、サイクル特性が向上することを見出した。
【0011】
すなわち本願発明は、複数のトリオキソトリアンギュレン(TOT)骨格を、π共役系を共有するようにダイマー状、トリマー状、オリゴマー状またはポリマー状に連結したTOT化合物であって、下記式(1)で示される構造を有する。
【0012】

【化1】
【0013】
ここに、「連結した」とは、複数のTOT骨格が互いに結合している状態をあらわす。例えば、2つのTOT骨格が連結したダイマー、3つのTOT骨格が連結したトリマー、数十のTOT骨格が連結したオリゴマー、数百以上のTOT骨格が連結したポリマーは、すべて本願発明の中に含まれる。
【0014】
また、前記連結したTOT化合物の構造は、TOT骨格どうしが互いに直接結合した構造であっても、TOT骨格どうしが、π共役連結基Xを介して互いに連結した構造であってもよい。本願明細書では、TOT骨格どうしが互いに直接結合した構造を「直結型」と呼ぶことにする。
【0015】
また、本願発明は、前記TOT化合物を電極活物質として使用した非水電解液二次電池に係るものである。
【0016】
本発明における上述の、またはさらに他の利点、特徴および効果は、添付図面を参照して次に述べる実施形態の説明により明らかにされる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、充放電容量が大きく安全性に優れ、高速充放電特性およびサイクル特性も良好な非水電解液二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例に係る直結型TOTオリゴマーを正極活物質に用いて作製した非水電解液二次電池Aのサイクル毎の放電容量の変化を示すグラフである。
図2】本発明の比較例に係るTOTモノマーを正極活物質に用いて作製した非水電解液二次電池のサイクル毎の放電容量の変化を示すグラフである。
図3】本発明の実施例に係るTOTオリゴマーのリチウム塩を正極活物質に用いて作製した非水電解液二次電池Bの初期放電曲線を示すグラフである。
図4】本発明の実施例に係るTOTオリゴマーのリチウム塩を正極活物質に用いて作製した非水電解液二次電池Bのサイクル毎の放電容量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、本発明はここに開示される各実施の形態に限定されるものでない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更および類似の構造が含まれる。
【0020】
本発明の実施形態に係るトリオキソトリアンギュレン(TOT; Trioxotriangulene)化合物は、複数のトリオキソトリアンギュレン(TOT)骨格を結合した構造を有するTOT化合物である。
【0021】
TOTは25π電子系を有する安定な有機ラジカルであり、電子スピンが分子骨格全体に広く非局在化していることが特徴である。一般的に有機ラジカルは不安定であるが、TOTは電子スピンの非局在化により酸素や水の存在下でも長期間安定である。
【0022】
TOT化合物のうち、連結させる際の前駆体となる単体のTOT化合物は、下記式(2)または式(3)の構造で示される。式中、Mはプロトン、金属イオン、またはアンモニウムイオンなどの有機カチオンであり、Yは水素、ハロゲン、アルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシ基またはシリル基であり、3つのYは互いに同一でも異なっていてもよい。なお3つのYのうち少なくとも1つはTOT化合物同士を連結させる際の反応部位となる基であり、好ましくは脱離を伴って結合形成可能な基である。このような基としては反応が容易である点でハロゲンが最も好ましい。
【0023】


【化2】
【0024】
本発明の実施形態に係るTOT化合物は、単体のTOT化合物を、π共役系を共有するようにダイマー状、トリマー状、オリゴマー状またはポリマー状に連結した化合物である。
【0025】
連結の態様は、原子を介さずに直結したものでもよく、またはπ共役連結基Xを介して連結したものであってもよい。
【0026】
上記式(2)で示される単体のTOT化合物を、π共役系を共有するように連結する方法としては特に限定されないが、例えば以下の(A)から(E)の方法を採用することができる。
【0027】
(A)ボロン酸誘導体を用いる鈴木・宮浦カップリング反応
ハロゲン置換TOTをボロン酸誘導体とし、パラジウム触媒存在下でハロゲン置換TOTとカップリングさせる反応。下記[化3]に一例を示す。ピバロイル基で保護したハロゲン置換TOTをパラジウム触媒存在下にジボロン酸エステルと反応させてTOTのボロン酸エステルを合成し、続いてハロゲン置換TOTとの反応によりTOT同士を直接連結させる。下記式では反応最後にピバロイル保護基を外してヒドロキシ体へと変換している。ヒドロキシ体をアンモニウム塩や金属塩と反応させるとTOTアニオン体が得られ、酸化剤との反応や電解酸化によって酸化するとTOTラジカル体が得られる。
【0028】

【化3】
【0029】
同様の反応をハロゲン置換TOTアニオン体を用いて行うことも可能である。下記[化3a]に一例を示す。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd2(dba)3)を触媒として2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニル(XPhos)を配位子として加え、ビス(ピナコラト)ジボロンによるホウ素化を経由してカップリングさせる反応である。対カチオンはアルカリ金属の水酸化物を作用させることによりリチウムなどのアルカリ金属イオンに変換することが可能である。
【0030】

【化3a】
【0031】
また例えばハロゲン置換TOTと1,4−フェニレンジボロン酸とをカップリング反応させれば、連結基としてベンゼン環をはさんだTOTオリゴマーやポリマーを得ることができる。
【0032】
(B)右田・小杉・スティルカップリング反応
パラジウム触媒存在下に有機スズ置換TOTとハロゲン置換TOTとを反応させる方法。下記[化4]にその一例を示す。ハロゲン置換TOTにメチル化スズ誘導体をパラジウム触媒存在下に作用させてトリメチルスズ置換TOTを合成し、これとハロゲン置換TOTとをカップリングさせて直接連結させる。
【0033】

【化4】
【0034】
(C)根岸カップリング反応
下記[化5]に一例を示すように、ハロゲン置換TOTから亜鉛置換TOTを合成し、これとハロゲン置換TOTとをニッケル触媒存在下にカップリングさせて直接連結させる。
【0035】

【化5】
【0036】
(D)熊田・玉尾・コリューカップリング反応
下記[化6]に一例を示すように、TOTのグリニャール試薬を調製し、ニッケル触媒あるいはパラジウム触媒存在下にハロゲン置換TOTとカップリングさせて直接連結させる。
【0037】

【化6】
【0038】
(E)ウルマン反応
銅粉あるいはニッケル錯体を用いてヨウ素置換TOTを高温で反応させることによりカップリングさせる反応。一例を下記[化7]に示す。
【0039】

【化7】
【0040】
下記式(4)に、複数のTOT骨格を直結した化合物のうち、任意の2つのTOT骨格が直結されている状態を示す。式(4)において、個々のTOTはラジカル状態あるいはアニオン状態をとっている。
【0041】

【化8】
【0042】
下記式(5)に、複数のTOT骨格をπ共役連結基Xによって連結した化合物のうち、任意の2つのTOT骨格がπ共役連結基Xによって連結されている状態を示す。式中Xは連結基であり、互いに同一でも異なっていてもよい。式(5)において、個々のTOTはラジカル状態あるいはアニオン状態をとっている。
【0043】

【化9】
【0044】
なお上記式(4)と式(5)を組み合わせた構造、すなわち一部はTOT同士が直接結合し、一部は連結基Xを介して結合している構造も用いることが可能である。
【0045】
このようにTOT骨格を複数連結することによって、単一のTOT骨格に存在している電子スピンがさらに広がり、連結された複数のTOT骨格にわたって広く分布することが期待される。このようにπ共役系を共有するようにTOT骨格を連結させることにより、TOT間の電子移動がスムーズになるため、二次電池の電極活物質として用いた場合に高速充放電が可能になるなど特性向上につながる。またTOT同士を連結することにより電解液への溶出が抑制されるため、サイクル特性の向上も期待できる。
【0046】
π共役系を共有するように互いに連結させるための連結基Xとしては特に限定されないが、例えば下記式(6)に示すような構造群があげられる。各化合物で、線分の開いている端が、TOT骨格に結合される部分である。式中、Rは水素、ハロゲン、アルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシ基またはシリル基であり、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0047】

【化10】
【0048】
連結基Xを構成する原子数が多すぎると充放電に関与しない部分が増えることから充放電容量が小さくなる。連結基Xを構成する原子数を少なくするほど、TOT化合物全体に占めるTOT骨格の割合は大きくなる。TOT化合物部分の割合を大きくするほど、二次電池の活物質とした場合の充放電容量を大きくすることができる。したがって充放電容量の点で連結基Xを構成する原子数が少ないほど好ましく、連結基Xを用いずにTOT骨格を連結することがより好ましい。
【0049】

本発明のTOT化合物は複数のTOT骨格が互いに連結されて成るが、該TOT骨格の一部または全部を下記式(7)に示すアニオン体としてもよい。式中、Mはプロトン、金属イオン、またはアンモニウムイオンなどの有機カチオンである。
【0050】

【化11】
【0051】
前記アニオン体は酸化剤との反応による化学酸化や電解酸化など種々の方法により、下記式(8)に示されるラジカル体へ容易に変換することが可能である。
【0052】

【化12】
【0053】
本発明の実施形態に係る二次電池は、前記連結されたTOT化合物、あるいは連結されたTOT骨格の一部または全部をアニオン体もしくはラジカル体としたTOT化合物を、電極活物質とするものである。本発明のTOT化合物を電極活物質として二次電池を作製する方法としては特に限定されないが、一例を以下に示す。
【0054】
本発明のTOT化合物10重量部、アセチレンブラック80重量部を乳鉢に入れて粉砕混合した後、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)の5%N−メチルピロリドン(NMP)溶液200重量部と1500重量部のNMPとを加え、遊星式撹拌装置で撹拌する。得られるペーストを圧延アルミの上にバーコーター(厚さ300μm設定)を用いて塗布する。120℃で1時間減圧してNMPを除去し、ロールプレス機を用いてプレスする。このシートから所定の大きさに電極を切り抜き、負極側筐体、スペーサー、金属リチウム箔、セパレーター、前記TOT化合物含有電極、スペーサー、バネ、正極側筐体の順に組合せ、電解液を充填した後封止する。電解液としては特に限定されないが、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、炭酸ジメチル(DMC)
、炭酸ジエチル(DEC)、またはこれらの混合液に、LiPFなどの電解質を溶解させたものを用いることができる。
【0055】
あるいは本発明のTOT化合物とカーボンナノチューブ(CNT)とをエタノール、メタノール、水などの溶媒に分散させた混合液をメンブレンフィルターなどを用いて濾過することにより、TOT化合物が分散されたCNTバッキーペーパーとし、これを上記二次電池の正極として用いることもできる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
<直結型TOTオリゴマーの合成例>
以下の方法により互いに直接結合したTOTオリゴマーのアニオン体またはラジカル体を合成した。
【0058】
(1)トリブロモTOTヒドロキシ体の合成
シュレンク管に5-ブロモ-2-ヨードトルエン(10mL)、ヘキサンを加え、n-ブチルリチウムのヘキサン溶液(44mL)を滴下した。これに炭酸ジエチルを作用させた後、クエンチし、得られた残渣をヘキサンで洗浄することで白色固体(9.0g)を得た。得られた固体を塩化メチレンに溶解し、水素化ホウ素ナトリウムとトリフルオロ酢酸で還元し淡黄色固体(8.4g)を得た。この淡黄色固体にtert-ブチルアルコール、過マンガン酸カリウム、蒸留水を加えて酸化し白色固体(8.8g)を得た。この白色固体に濃硫酸を作用させ環化させることでトリブロモTOTヒドロキシ体(7.0g)を紺色固体として得た([化13]の式(A))。
【0059】
(2)保護基の導入
ヒドロキシ基が反応に関与することを防ぐために、ヒドロキシ基をピバロイル保護基で置き換えることを試みた。
【0060】
具体的には、シュレンク管にトリブロモTOTヒドロキシ体(2.33g)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(20mL)、ピバル酸無水物((t-CCO)O;16.3g)および濃硫酸(0.2mL)を入れ、アルゴン雰囲気、80℃で4時間半加熱撹拌した後、一晩室温で撹拌した。反応液を純水(200mL)で希釈して、析出した結晶を濾過し、メタノールおよび酢酸エチルで洗浄した。これを減圧乾燥してピバロイル保護基(t-CCOO−)を有するTOT2.2gを得た(収率84%)。これをクロロホルム(500mL)によるソックスレー抽出にて精製し、ピバロイル保護基を有するトリブロモTOTを1.0g得た(収率45%)([化13]の式(B))。
【0061】

【化13】
【0062】
(3)オリゴマー化
次にアルゴン雰囲気でシュレンク管に前記ピバロイル保護基を有するトリブロモTOT(66mg)、溶媒としてのテトラヒドロフラン(THF)(5mL)を仕込み、−78℃に冷却した。ここにリチウムジイソプロピルアミド(LDA)のヘプタン溶液(1.5M)(0.2mL)を加え−78℃で1時間撹拌した。このようにしてBrをLiで置換したTOT([化14]の式(C))を中間体として発生させた。
【0063】

【化14】
【0064】
さらに塩化亜鉛のTHF溶液(0.5M)(0.6mL)を加え、室温で1時間撹拌した。THFを減圧除去してジオキサン(5mL)を加えた。このようにしてLiをZnClで置換したTOT([化15]の式(D))を中間体として発生させた。
【0065】

【化15】
【0066】
次にパラジウム触媒の作用によりZnClとBrとを反応させ、この反応によりZnClを有するTOT([化15] の式(D) )からZnClを取り除くとともに、ピバロイル保護基を有するトリブロモTOT([化15]の式(B))からBrを取り除き、TOTどうしを直接結合させることを試みた。
【0067】
より具体的には、前記ZnClを有するTOT([化15]の式(D))にピバロイル保護基を有するTOT([化15]の式(B))(66mg)および触媒として作用するテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(Pd(PPh)(362mg)を仕込み、凍結脱気/アルゴン置換を3回行った後、加熱還流撹拌を8時間半行った。冷却後、メタノール(5mL)を添加して濾過、減圧乾燥して粗生成物136mgを得た。この粗生成物は、[化16]の式(E)に示すように、トリオキソトリアンギュレン骨格どうしが互いに直接結合した構造を有する。
【0068】

【化16】
【0069】
(4)ヒドロキシ化
次に、この粗生成物のピバロイル保護基をヒドロキシ基で置き換えることを試みた。 具体的には、この粗生成物(125mg)をシュレンク管に入れ、メタノール(5mL)および水酸化テトラブチルアンモニウム(BuNOH)のメタノール溶液(1M)(2mL)を仕込み、30分間加熱還流した後一晩室温で撹拌した。反応溶液に6N塩酸(1mL)を加えた後濾過して、純水、メタノール、さらに酢酸エチルで洗浄して、減圧乾燥することによりTOTオリゴマーのヒドロキシ体を34mg得た(収率56%)([化17]の式(F))。
【0070】

【化17】
【0071】
(5)アニオン化
次にアニオン体を得るため、上記TOTオリゴマーのヒドロキシ体([化18]の(F))(33mg)、THF(5mL)およびBuNOHのメタノール溶液(1M)(0.5mL)をシュレンク管に入れ、1時間加熱還流した後一晩室温で撹拌した。反応液を減圧濃縮して純水(1mL)を加えて晶析した。得られた固体を濾過、純水洗浄し、TOTオリゴマーのテトラブチルアンモニウム塩(30mg)を得た(収率52%)([化18]の式(G))。
【0072】

【化18】
【0073】
(6)ラジカル化
続いてナスフラスコに2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p−ベンゾキノン(DDQ)(22mg)の塩化メチレン(5mL)溶液を入れ、上記TOTオリゴマーのテトラブチルアンモニウム塩([化19]の(G))(27mg)の塩化メチレン(20mL)溶液を室温で10分間かけて滴下した後、室温で1時間半撹拌した。析出した結晶をメンブレンフィルターで濾過し、塩化メチレンで洗浄後減圧乾燥して、ラジカル化されたTOTオリゴマーを9mg得た(59%)([化19]の式(H))。
【0074】

【化19】
【0075】
(7)トリブロモTOTアニオンのアンモニウム塩の合成
トリブロモTOTヒドロキシ体(2g)([化13]の(A))に1M水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAOH)のメタノール溶液(50mL)を加えて80℃で2時間撹拌した。溶媒を留去して得られた固体をメタノールと水で洗浄し、トリブロモTOTアニオンのテトラブチルアンモニウム塩(2.3g)を緑色固体として得た。
【0076】
(8)TOTオリゴマーのリチウム塩の合成
前記トリブロモTOTアニオンのテトラブチルアンモニウム塩(2.0 g) に、Xphos (119 mg)、Pd2(dba)3(57 mg)、ビス(ピナコラト)ジボロン(949 mg)、K3PO4(8.9 g)およびDMF(36 mL)を加え、95℃で3時間撹拌した。室温まで放冷し、反応溶液にDMF (18 mL)、Xphos (22 mg), Pd2(dba)3(11 mg) を追加し、さらに3時間、95 ℃で撹拌した後、室温まで放冷した。ポリマー末端の脱臭素化を行うため、反応溶液に1 M NaHCO3 aq (36 mL) を加えて100 ℃で12時間撹拌した。室温まで放冷し、遠心分離 (4000 rpm, 10分) を行い、デカンテーションすることで沈殿物を得た。水で洗液が pH 7 になるまで洗浄した。
【0077】
次に、残存パラジウムの除去を以下の手法で実施した。得られた沈殿物に DMF/6 M HCl水溶液 = 1/1 混合液を加え 90 ℃で1時間撹拌した。その後、沈殿物を洗液が pH 7 になるまで水で洗浄し、得られた沈殿物に DMF (15 mL)、TMEDA (1滴), および 0.1 M HCl (溶液が pH 2になる量) を加え50 ℃で1時間撹拌した。さらに沈殿物をDMFおよび蒸留水で洗浄した。
【0078】
得られた沈殿にMeOH (100 mL)およびLiOH・H2O (5.7 g) を加えて50 ℃で2時間撹拌して Li塩に導いた後、蒸留水で洗浄することにより過剰のLiOHを除去した。沈殿物を100 ℃で5時間真空乾燥し、濃緑色固体として 1.02 gを得た。
得られた固体を乳鉢・乳棒を用いて細かく砕き、ジクロロメタン で洗浄したのち、100 ℃で5時間真空乾燥し濃緑色固体として 865 mg (収率107%) のTOTオリゴマーのリチウム塩を得た([化19a])。収率が100%を若干超えているのは、TOTオリゴマーが水分を吸着しているためと考えられる。
【0079】

【化19a】
【0080】
<二次電池の製作>
(1)二次電池Aの製作
合成したTOTオリゴマーを活物質とし、カーボンナノチューブ(CNT)を導電助剤とする電極合剤を以下の処方により作製し、これを集電体に貼り付けて電極シートを得た。
【0081】
単層タイプのCNTの0.1wt%エタノール分散液(22g)に、前記<直結型TOTオリゴマーの合成例>の(6)ラジカル化で得たTOTオリゴマー(5.5mg)([化19]の式(H))を入れて超音波照射しながら1時間撹拌した。この混合分散液を孔径0.2μmのメンブレンフィルターに少量供給し、供給された分散液を減圧濾過して、薄い残渣をフィルター上に残した。これを50回繰り返して、(一度の濾過で得られた一層の厚さ)×50の厚さを持った電極合剤の層を作製した。この層を50℃/5時間乾燥させた。こうしてTOTを20wt%含むCNTバッキーペーパー電極シートを作製した。シートの膜厚は55μmであった。
【0082】
このシートを正極として用い、以下のように二次電池Aを作製した。
【0083】
前記電極シートをCR2032型のコインセルに入る大きさに切り出し、80℃/12時間にわたって減圧乾燥させた。負極側外装、ステンレス金属板(負極集電体)、リチウムイオンを予めドープしたグラファイト負極、ポリプロピレン製多孔質膜セパレーター、前記電極シート(正極)、ステンレス金属板(正極集電体)、バネ、正極側外装の順に重ね、内部に電解液を入れてかしめて作製した。電解液はLiPFを1.0Mの濃度でエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)(体積比3:7)に溶解させて調製した。
【0084】
この電池を東洋システムズ(株)製充放電試験機TOSCAT−3100にセットし、電圧範囲1.8−3.8V、TOT重量あたりの電流量26.8μA/mg(レート0.1C)で充放電を繰り返した。サイクル毎の放電容量(TOT重量あたり)を図1に示す。このようにして作製した非水電解液二次電池Aは200mAh/gを超える高い放電容量を示した。
【0085】
(2)二次電池Bの製作
前記TOTオリゴマーのリチウム塩([化19a])を用いて上の二次電池Aと同様にCNTバッキーペーパー電極シートを作製し、これを用いて二次電池Bを製作し、充放電試験を行った。なお正極シート中のTOTの含有量は60wt%とし、充放電範囲3.8 − 1.4 V、TOT重量あたりの電流量390μA/mg(レート1C)にて充放電を行った。
【0086】
初期放電曲線を図3に示す。サイクル特性を図4に示す。初期200mAh/gを超える高い放電容量を示し、1000サイクル後も十分な容量を維持していることがかる。
【0087】
<比較例>
前記<直結型TOTオリゴマーの合成例>において、TOTオリゴマーの代わりに互いに連結させていないTOT([化20]の式(I))を用いて前記と同様に電極シートを作製し、二次電池として充放電評価を行った。サイクル毎の放電容量を図2に示す。図1と比較して容量が小さくなっていることがわかる。
【0088】

【化20】
【0089】
以下に、前記直結型TOTオリゴマーの合成例以外の、TOTオリゴマーまたはTOTポリマーの合成例を示す。
【0090】
<右田・小杉・スティルカップリングによるTOT二量体の合成>
下記[化21]に示すようにTOT二量体を合成した。シュレンク管にピバロイル基で保護したモノブロモTOT(100mg)、ヨウ化銅(40mg)、ジオキサン(2mL)を入れてアルゴン置換し、ヘキサメチル2スズ(48μL)と[1,1−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(0)(Pd(dppf)Cl)(15mg)を添加して95℃で19時間撹拌した。10%フッ化カリウム水溶液を添加して反応を停止後、濾過、ジクロロメタンで洗浄して茶色固体(24mg)を得た。この固体をジクロロメタンとメタノールの混合溶媒を用いてシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、ピバロイル基で保護されたTOT二量体を濃赤色固体(20mg)として得た(収率14%)。
【0091】

【化21】
【0092】
<直結型TOTポリマーのテトラブチルアンモニウム塩の合成>
下記[化22]に示すように、ピバロイル保護基を有するトリブロモTOTを直結させてTOTポリマーのテトラブチルアンモニウム塩を合成した。ピバロイル保護基を有するトリブロモTOT(945mg)、ヨウ化銅(840mg)、ジオキサン(2mL)をシュレンク管に入れてアルゴン置換した。ここにヘキサメチル2スズ(0.1mL)とPd(dppf)Cl(315mg)を添加し、95℃で2日間撹拌した。10%フッ化カリウム水溶液を加えて反応を停止し、濾過してピバロイル保護基を有するTOTポリマー(1.7g)を濃赤色固体として得た。続いてこれをテトラヒドロフラン(THF)(25mL)に溶解させ、1M水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAOH)のメタノール溶液(5mL)を加えて80℃で2時間撹拌した。溶媒を留去して得られた固体をメタノールと水で洗浄し、TOTポリマーのテトラブチルアンモニウム塩(463mg)を緑色固体として得た。
【0093】

【化22】
【0094】
<直結型TOTポリマーのリチウム塩の合成>
上記直結型TOTポリマーのテトラブチルアンモニウム塩(400mg)をジメチルスルホキシド(DMSO)(4mL)に溶解させ、2M塩酸(3.2mL)を添加した後濾過し、DMSOおよび2M塩酸で洗浄して直結型TOTポリマーのヒドロキシ体(143mg)を濃緑色固体として得た(収率31%)。これをメタノール(2mL)に懸濁させて水酸化リチウム一水和物(113mg)を加えて室温で2時間撹拌した。溶媒を留去し、得られた固体をメタノールと水で洗浄して直結型TOTポリマーのリチウム塩(101mg)を緑色固体として得た(収率69%)。
【0095】

【化23】
【0096】
<ベンゼン環でTOT同士を連結させたポリマーの合成>
下記[化24]に示すように、連結基としてベンゼン環を用いてTOTポリマーのナトリウム塩を合成した。
【0097】

【化24】
【0098】
トリブロモTOTヒドロキシ体(5.9g)、1,4−フェニレンジボロン酸(390mg)、DMF(100mL)、1M炭酸水素ナトリウム(NaHCO)水溶液(100mL)をシュレンク管に入れてアルゴン置換した。ここにPd(PPh(183mg)を加えて100℃で3日間撹拌して濾過し、DMF、THF、ジクロロメタンで洗浄してベンゼン環で架橋したTOTポリマーのナトリウム塩(1.2g)を緑色固体として得た(収率100%)。
図1
図2
図3
図4