【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
<直結型TOTオリゴマーの合成例>
以下の方法により互いに直接結合したTOTオリゴマーのアニオン体またはラジカル体を合成した。
【0058】
(1)トリブロモTOTヒドロキシ体の合成
シュレンク管に5-ブロモ-2-ヨードトルエン(10mL)、ヘキサンを加え、n-ブチルリチウムのヘキサン溶液(44mL)を滴下した。これに炭酸ジエチルを作用させた後、クエンチし、得られた残渣をヘキサンで洗浄することで白色固体(9.0g)を得た。得られた固体を塩化メチレンに溶解し、水素化ホウ素ナトリウムとトリフルオロ酢酸で還元し淡黄色固体(8.4g)を得た。この淡黄色固体にtert-ブチルアルコール、過マンガン酸カリウム、蒸留水を加えて酸化し白色固体(8.8g)を得た。この白色固体に濃硫酸を作用させ環化させることでトリブロモTOTヒドロキシ体(7.0g)を紺色固体として得た([化13]の式(A))。
【0059】
(2)保護基の導入
ヒドロキシ基が反応に関与することを防ぐために、ヒドロキシ基をピバロイル保護基で置き換えることを試みた。
【0060】
具体的には、シュレンク管にトリブロモTOTヒドロキシ体(2.33g)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(20mL)、ピバル酸無水物((t-C
4H
9CO)
2O;16.3g)および濃硫酸(0.2mL)を入れ、アルゴン雰囲気、80℃で4時間半加熱撹拌した後、一晩室温で撹拌した。反応液を純水(200mL)で希釈して、析出した結晶を濾過し、メタノールおよび酢酸エチルで洗浄した。これを減圧乾燥してピバロイル保護基(t-C
4H
9COO−)を有するTOT2.2gを得た(収率84%)。これをクロロホルム(500mL)によるソックスレー抽出にて精製し、ピバロイル保護基を有するトリブロモTOTを1.0g得た(収率45%)([化13]の式(B))。
【0061】
【化13】
【0062】
(3)オリゴマー化
次にアルゴン雰囲気でシュレンク管に前記ピバロイル保護基を有するトリブロモTOT(66mg)、溶媒としてのテトラヒドロフラン(THF)(5mL)を仕込み、−78℃に冷却した。ここにリチウムジイソプロピルアミド(LDA)のヘプタン溶液(1.5M)(0.2mL)を加え−78℃で1時間撹拌した。このようにしてBrをLiで置換したTOT([化14]の式(C))を中間体として発生させた。
【0063】
【化14】
【0064】
さらに塩化亜鉛のTHF溶液(0.5M)(0.6mL)を加え、室温で1時間撹拌した。THFを減圧除去してジオキサン(5mL)を加えた。このようにしてLiをZnClで置換したTOT([化15]の式(D))を中間体として発生させた。
【0065】
【化15】
【0066】
次にパラジウム触媒の作用によりZnClとBrとを反応させ、この反応によりZnClを有するTOT([化15] の式(D) )からZnClを取り除くとともに、ピバロイル保護基を有するトリブロモTOT([化15]の式(B))からBrを取り除き、TOTどうしを直接結合させることを試みた。
【0067】
より具体的には、前記ZnClを有するTOT([化15]の式(D))にピバロイル保護基を有するTOT([化15]の式(B))(66mg)および触媒として作用するテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(Pd(PPh
3)
4)(362mg)を仕込み、凍結脱気/アルゴン置換を3回行った後、加熱還流撹拌を8時間半行った。冷却後、メタノール(5mL)を添加して濾過、減圧乾燥して粗生成物136mgを得た。この粗生成物は、[化16]の式(E)に示すように、トリオキソトリアンギュレン骨格どうしが互いに直接結合した構造を有する。
【0068】
【化16】
【0069】
(4)ヒドロキシ化
次に、この粗生成物のピバロイル保護基をヒドロキシ基で置き換えることを試みた。 具体的には、この粗生成物(125mg)をシュレンク管に入れ、メタノール(5mL)および水酸化テトラブチルアンモニウム(Bu
4NOH)のメタノール溶液(1M)(2mL)を仕込み、30分間加熱還流した後一晩室温で撹拌した。反応溶液に6N塩酸(1mL)を加えた後濾過して、純水、メタノール、さらに酢酸エチルで洗浄して、減圧乾燥することによりTOTオリゴマーのヒドロキシ体を34mg得た(収率56%)([化17]の式(F))。
【0070】
【化17】
【0071】
(5)アニオン化
次にアニオン体を得るため、上記TOTオリゴマーのヒドロキシ体([化18]の(F))(33mg)、THF(5mL)およびBu
4NOHのメタノール溶液(1M)(0.5mL)をシュレンク管に入れ、1時間加熱還流した後一晩室温で撹拌した。反応液を減圧濃縮して純水(1mL)を加えて晶析した。得られた固体を濾過、純水洗浄し、TOTオリゴマーのテトラブチルアンモニウム塩(30mg)を得た(収率52%)([化18]の式(G))。
【0072】
【化18】
【0073】
(6)ラジカル化
続いてナスフラスコに2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p−ベンゾキノン(DDQ)(22mg)の塩化メチレン(5mL)溶液を入れ、上記TOTオリゴマーのテトラブチルアンモニウム塩([化19]の(G))(27mg)の塩化メチレン(20mL)溶液を室温で10分間かけて滴下した後、室温で1時間半撹拌した。析出した結晶をメンブレンフィルターで濾過し、塩化メチレンで洗浄後減圧乾燥して、ラジカル化されたTOTオリゴマーを9mg得た(59%)([化19]の式(H))。
【0074】
【化19】
【0075】
(7)トリブロモTOTアニオンのアンモニウム塩の合成
トリブロモTOTヒドロキシ体(2g)([化13]の(A))に1M水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAOH)のメタノール溶液(50mL)を加えて80℃で2時間撹拌した。溶媒を留去して得られた固体をメタノールと水で洗浄し、トリブロモTOTアニオンのテトラブチルアンモニウム塩(2.3g)を緑色固体として得た。
【0076】
(8)TOTオリゴマーのリチウム塩の合成
前記トリブロモTOTアニオンのテトラブチルアンモニウム塩(2.0 g) に、Xphos (119 mg)、Pd
2(dba)
3(57 mg)、ビス(ピナコラト)ジボロン(949 mg)、K
3PO
4(8.9 g)およびDMF(36 mL)を加え、95℃で3時間撹拌した。室温まで放冷し、反応溶液にDMF (18 mL)、Xphos (22 mg), Pd
2(dba)
3(11 mg) を追加し、さらに3時間、95 ℃で撹拌した後、室温まで放冷した。ポリマー末端の脱臭素化を行うため、反応溶液に1 M NaHCO
3 aq (36 mL) を加えて100 ℃で12時間撹拌した。室温まで放冷し、遠心分離 (4000 rpm, 10分) を行い、デカンテーションすることで沈殿物を得た。水で洗液が pH 7 になるまで洗浄した。
【0077】
次に、残存パラジウムの除去を以下の手法で実施した。得られた沈殿物に DMF/6 M HCl水溶液 = 1/1 混合液を加え 90 ℃で1時間撹拌した。その後、沈殿物を洗液が pH 7 になるまで水で洗浄し、得られた沈殿物に DMF (15 mL)、TMEDA (1滴), および 0.1 M HCl (溶液が pH 2になる量) を加え50 ℃で1時間撹拌した。さらに沈殿物をDMFおよび蒸留水で洗浄した。
【0078】
得られた沈殿にMeOH (100 mL)およびLiOH・H
2O (5.7 g) を加えて50 ℃で2時間撹拌して Li塩に導いた後、蒸留水で洗浄することにより過剰のLiOHを除去した。沈殿物を100 ℃で5時間真空乾燥し、濃緑色固体として 1.02 gを得た。
得られた固体を乳鉢・乳棒を用いて細かく砕き、ジクロロメタン で洗浄したのち、100 ℃で5時間真空乾燥し濃緑色固体として 865 mg (収率107%) のTOTオリゴマーのリチウム塩を得た([化19a])。収率が100%を若干超えているのは、TOTオリゴマーが水分を吸着しているためと考えられる。
【0079】
【化19a】
【0080】
<二次電池の製作>
(1)二次電池Aの製作
合成したTOTオリゴマーを活物質とし、カーボンナノチューブ(CNT)を導電助剤とする電極合剤を以下の処方により作製し、これを集電体に貼り付けて電極シートを得た。
【0081】
単層タイプのCNTの0.1wt%エタノール分散液(22g)に、前記<直結型TOTオリゴマーの合成例>の(6)ラジカル化で得たTOTオリゴマー(5.5mg)([化19]の式(H))を入れて超音波照射しながら1時間撹拌した。この混合分散液を孔径0.2μmのメンブレンフィルターに少量供給し、供給された分散液を減圧濾過して、薄い残渣をフィルター上に残した。これを50回繰り返して、(一度の濾過で得られた一層の厚さ)×50の厚さを持った電極合剤の層を作製した。この層を50℃/5時間乾燥させた。こうしてTOTを20wt%含むCNTバッキーペーパー電極シートを作製した。シートの膜厚は55μmであった。
【0082】
このシートを正極として用い、以下のように二次電池Aを作製した。
【0083】
前記電極シートをCR2032型のコインセルに入る大きさに切り出し、80℃/12時間にわたって減圧乾燥させた。負極側外装、ステンレス金属板(負極集電体)、リチウムイオンを予めドープしたグラファイト負極、ポリプロピレン製多孔質膜セパレーター、前記電極シート(正極)、ステンレス金属板(正極集電体)、バネ、正極側外装の順に重ね、内部に電解液を入れてかしめて作製した。電解液はLiPF
6を1.0Mの濃度でエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)(体積比3:7)に溶解させて調製した。
【0084】
この電池を東洋システムズ(株)製充放電試験機TOSCAT−3100にセットし、電圧範囲1.8−3.8V、TOT重量あたりの電流量26.8μA/mg(レート0.1C)で充放電を繰り返した。サイクル毎の放電容量(TOT重量あたり)を
図1に示す。このようにして作製した非水電解液二次電池Aは200mAh/gを超える高い放電容量を示した。
【0085】
(2)二次電池Bの製作
前記TOTオリゴマーのリチウム塩([化19a])を用いて上の二次電池Aと同様にCNTバッキーペーパー電極シートを作製し、これを用いて二次電池Bを製作し、充放電試験を行った。なお正極シート中のTOTの含有量は60wt%とし、充放電範囲3.8 − 1.4 V、TOT重量あたりの電流量390μA/mg(レート1C)にて充放電を行った。
【0086】
初期放電曲線を
図3に示す。サイクル特性を
図4に示す。初期200mAh/gを超える高い放電容量を示し、1000サイクル後も十分な容量を維持していることがかる。
【0087】
<比較例>
前記<直結型TOTオリゴマーの合成例>において、TOTオリゴマーの代わりに互いに連結させていないTOT([化20]の式(I))を用いて前記と同様に電極シートを作製し、二次電池として充放電評価を行った。サイクル毎の放電容量を
図2に示す。
図1と比較して容量が小さくなっていることがわかる。
【0088】
【化20】
【0089】
以下に、前記直結型TOTオリゴマーの合成例以外の、TOTオリゴマーまたはTOTポリマーの合成例を示す。
【0090】
<右田・小杉・スティルカップリングによるTOT二量体の合成>
下記[化21]に示すようにTOT二量体を合成した。シュレンク管にピバロイル基で保護したモノブロモTOT(100mg)、ヨウ化銅(40mg)、ジオキサン(2mL)を入れてアルゴン置換し、ヘキサメチル2スズ(48μL)と[1,1−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(0)(Pd(dppf)Cl
2)(15mg)を添加して95℃で19時間撹拌した。10%フッ化カリウム水溶液を添加して反応を停止後、濾過、ジクロロメタンで洗浄して茶色固体(24mg)を得た。この固体をジクロロメタンとメタノールの混合溶媒を用いてシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、ピバロイル基で保護されたTOT二量体を濃赤色固体(20mg)として得た(収率14%)。
【0091】
【化21】
【0092】
<直結型TOTポリマーのテトラブチルアンモニウム塩の合成>
下記[化22]に示すように、ピバロイル保護基を有するトリブロモTOTを直結させてTOTポリマーのテトラブチルアンモニウム塩を合成した。ピバロイル保護基を有するトリブロモTOT(945mg)、ヨウ化銅(840mg)、ジオキサン(2mL)をシュレンク管に入れてアルゴン置換した。ここにヘキサメチル2スズ(0.1mL)とPd(dppf)Cl
2(315mg)を添加し、95℃で2日間撹拌した。10%フッ化カリウム水溶液を加えて反応を停止し、濾過してピバロイル保護基を有するTOTポリマー(1.7g)を濃赤色固体として得た。続いてこれをテトラヒドロフラン(THF)(25mL)に溶解させ、1M水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAOH)のメタノール溶液(5mL)を加えて80℃で2時間撹拌した。溶媒を留去して得られた固体をメタノールと水で洗浄し、TOTポリマーのテトラブチルアンモニウム塩(463mg)を緑色固体として得た。
【0093】
【化22】
【0094】
<直結型TOTポリマーのリチウム塩の合成>
上記直結型TOTポリマーのテトラブチルアンモニウム塩(400mg)をジメチルスルホキシド(DMSO)(4mL)に溶解させ、2M塩酸(3.2mL)を添加した後濾過し、DMSOおよび2M塩酸で洗浄して直結型TOTポリマーのヒドロキシ体(143mg)を濃緑色固体として得た(収率31%)。これをメタノール(2mL)に懸濁させて水酸化リチウム一水和物(113mg)を加えて室温で2時間撹拌した。溶媒を留去し、得られた固体をメタノールと水で洗浄して直結型TOTポリマーのリチウム塩(101mg)を緑色固体として得た(収率69%)。
【0095】
【化23】
【0096】
<ベンゼン環でTOT同士を連結させたポリマーの合成>
下記[化24]に示すように、連結基としてベンゼン環を用いてTOTポリマーのナトリウム塩を合成した。
【0097】
【化24】
【0098】
トリブロモTOTヒドロキシ体(5.9g)、1,4−フェニレンジボロン酸(390mg)、DMF(100mL)、1M炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)水溶液(100mL)をシュレンク管に入れてアルゴン置換した。ここにPd(PPh
3)
4(183mg)を加えて100℃で3日間撹拌して濾過し、DMF、THF、ジクロロメタンで洗浄してベンゼン環で架橋したTOTポリマーのナトリウム塩(1.2g)を緑色固体として得た(収率100%)。