【文献】
R.Rioboo,OUTCOMES FROM A DROP IMPACT ON SOLID SURFACES,Atomization and Sprays,vol.11,2001年,P155-165
【文献】
Jie Zhang,On the spreading of impacting drops under the influence of a vertical magnetic field,JOURNAL OF FLUID MECHANICS,vol.809,2016年,R3-1〜R3-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述のような従来の粘度計測器は、構造が複雑であり操作が簡易とはいい難く、計測器自体も高価である。また、このような計測器は、液体の粘度を計測するためにある程度の時間を必要とすることから、特に血液や塗料、接着剤のような凝固性を有する液体の粘度を計測する場合には、計測中に液体が凝固して粘性が変化してしまうことにより、正常な粘度計測ができないという問題がある。そして、凝固した液体のせいで、計測後の計測器の洗浄にコストがかかり、場合によっては計測器の故障につながることもある。さらに、このような計測器は、必要とする液体サンプル量が数10ccから100cc程度と比較的多いため、十分なサンプル量を用意することが困難な液体の粘度計測には適さないという問題もある。
【0004】
本発明は上述のような事情に基づいてなされたものであり、従来の粘度計測器と比べて計測時間が短く、必要とするサンプル量が少なくても、簡易かつ正確にその粘度を計測することができる液体の粘度計測システム及び液体の粘度計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、第一に本発明は、液体を質量Mの液滴として所定高さに位置する滴下部から自由落下するように滴下させる滴下手段と、前記滴下部に対向して設けられ、前記滴下部から滴下された前記液滴を衝突させるための平板状衝突部と、前記滴下部から滴下時の前記液滴の状態を測定する第1測定手段と、前記平板状衝突部へ衝突直前の前記液滴の状態を測定する第2測定手段と、前記平板状衝突部に衝突後の前記液滴の状態を測定する第3測定手段と、前記第1測定手段の測定結果、前記第2測定手段の測定結果及び前記第3測定手段の測定結果に基づき前記液体の粘度を算出する粘度算出手段とを備える液体の粘度計測システムを提供する(発明1)。
【0006】
かかる発明(発明1)によれば、液体を液滴として自由落下させて平板状衝突部へ衝突させるまでのわずかな時間で、第1測定手段、第2測定手段及び第3測定手段の測定結果から、液体の粘度を計測することができる。その結果、たとえ計測対象である液体が血液や塗料、接着剤のような凝固性を有するものであっても、その凝固性の影響を受けることなく正確な粘度計測が可能となる。また、一滴という極めて少ないサンプル量で液体の粘度を計測することができるので、十分なサンプル量を用意することが困難な液体の粘度計測にも利用でき、汎用性が高い。
【0007】
上記発明(発明1)においては、前記第1測定手段が、前記滴下部に懸垂し、自由落下する直前の前記液滴の輪郭形状Sを測定するものであることが好ましい(発明2)。
【0008】
上記発明(発明1,2)においては、前記第2測定手段が、前記平板状衝突部へ衝突直前の測定点における前記液滴の水平方向の最大径D
0及び前記測定点を前記液滴が通過するのに要する通過時間ΔTを測定するものであることが好ましい(発明3)。
【0009】
上記発明(発明1−3)においては、前記第3測定手段が、前記平板状衝突部に衝突し、略円形状に変形した前記液滴の最大広がり径D
maxを測定するものであることが好ましい(発明4)。
【0010】
なお、
図4は、平板状衝突部へ衝突させた液滴の状態変化を示す模式図であって、(a)は衝突直前の状態、(b)は衝突後、慣性力によって略円形状に変形しつつある状態、(c)は略円形状への変形が最大に達した状態、(d)は(c)の後、表面張力等によって戻る方向に収縮し、平衡に達した状態を示している。本発明において液滴の最大広がり径D
maxとは、
図4(c)に示す状態における略円形状に変形した液滴の最大径を意味する。
【0011】
上記発明(発明1)においては、前記第1測定手段が、前記滴下部に懸垂し、自由落下する直前の前記液滴の輪郭形状Sを測定するものであり、前記第2測定手段が、前記平板状衝突部へ衝突直前の測定点における前記液滴の水平方向の最大径D
0及び前記測定点を前記液滴が通過するのに要する通過時間ΔTを測定するものであり、前記粘度算出手段が、前記第1測定手段により測定された輪郭形状S及び前記質量Mに基づき前記液滴の体積V、密度ρ及び表面張力σを算出する第1算出手段と、前記第2測定手段により測定された最大径D
0及び通過時間ΔT並びに前記第1算出手段により算出された体積Vに基づき前記液滴の衝突速度Uを算出する第2算出手段とを備えることが好ましい(発明5)。
【0012】
従来、液体の主要物性である粘度、密度及び表面張力の計測には、それぞれに専用の計測器が用いられる。かかる発明(発明5)によれば、一度の計測で、液体の粘度だけでなく密度及び表面張力を同時に計測することができるので、効率的である。
【0013】
上記発明(発明5)においては、前記第3測定手段が、前記平板状衝突部に衝突し、略円形状に変形した前記液滴の最大広がり径D
maxを測定するものであり、前記粘度算出手段が、前記第2測定手段により測定された最大径D
0、前記第3測定手段により測定された最大広がり径D
max、前記第1算出手段により算出された密度ρ及び前記第2算出手段により算出された衝突速度Uから、下記式(1)を用いて前記液体の粘度μを算出する第3算出手段をさらに備えることが好ましい(発明6)。
【数1】
(式(1)中、Weはウェーバ数、Aは固体平面の濡れ性等によって変化する補正係数である。)
【0014】
かかる発明(発明6)によれば、上記式(1)を用いて計測対象である液体の粘度を求めることができる。
【0015】
第二に本発明は、液体を質量Mの液滴として所定高さに位置する滴下部から自由落下するように滴下させる滴下工程と、前記滴下部に対向して設けられた平板状衝突部に、前記滴下部から滴下された前記液滴を衝突させる衝突工程と、前記滴下部から滴下時の前記液滴の状態を測定する第1測定工程と、前記平板状衝突部へ衝突直前の前記液滴の状態を測定する第2測定工程と、前記平板状衝突部に衝突後の前記液滴の状態を測定する第3測定工程と、前記第1測定工程で得られた測定結果、前記第2測定工程で得られた測定結果及び前記第3測定工程で得られた測定結果に基づき前記液体の粘度を算出する粘度算出工程とを備える液体の粘度計測方法を提供する(発明7)。
【0016】
上記発明(発明7)においては、前記第1測定工程が、前記滴下部に懸垂し、自由落下する直前の前記液滴の輪郭形状Sを測定するものであることが好ましい(発明8)。
【0017】
上記発明(発明7,8)においては、前記第2測定工程が、前記平板状衝突部へ衝突直前の測定点における前記液滴の水平方向の最大径D
0及び前記測定点を前記液滴が通過するのに要する通過時間ΔTを測定するものであることが好ましい(発明9)。
【0018】
上記発明(発明7−9)においては、前記第3測定工程が、前記平板状衝突部に衝突し、略円形状に変形した前記液滴の最大広がり径D
maxを測定するものであることが好ましい(発明10)。
【0019】
上記発明(発明7)においては、前記第1測定工程が、前記滴下部に懸垂し、自由落下する直前の前記液滴の輪郭形状Sを測定するものであり、前記第2測定工程が、前記平板状衝突部へ衝突直前の測定点における前記液滴の水平方向の最大径D
0及び前記測定点を前記液滴が通過するのに要する通過時間ΔTを測定するものであり、前記粘度算出工程が、前記第1測定工程で測定された輪郭形状S及び前記質量Mに基づき前記液滴の体積V、密度ρ及び表面張力σを算出する第1算出工程と、前記第2測定工程で測定された最大径D
0及び通過時間ΔT並びに前記第1算出工程で算出された体積Vに基づき前記液滴の衝突速度Uを算出する第2算出工程とを備えることが好ましい(発明11)。
【0020】
上記発明(発明11)においては、前記第3測定工程が、前記平板状衝突部に衝突し、略円形状に変形した前記液滴の最大広がり径D
maxを測定するものであり、前記粘度算出工程が、前記第2測定工程で測定された最大径D
0、前記第3測定工程で測定された最大広がり径D
max、前記第1算出工程で算出された密度ρ及び前記第2算出工程で算出された衝突速度Uから、下記式(1)を用いて前記液体の粘度μを算出する第3算出工程をさらに備えることが好ましい(発明12)。
【数2】
(式(1)中、Weはウェーバ数、Aは固体平面の濡れ性等によって変化する補正係数である。)
【発明の効果】
【0021】
本発明の液体の粘度計測システム及び液体の粘度計測方法によれば、従来の粘度計測器と比べて計測時間が短く、必要とするサンプル量が少なくても、簡易かつ正確にその粘度を計測することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の液体の粘度計測システム及び液体の粘度計測方法の実施の形態について、適宜図面を参照して説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであって、何ら本発明を限定するものではない。
【0024】
〔粘度計測システム〕
図1は、本発明の一実施形態に係る液体の粘度計測システムの構成を示す模式図である。
図1に示す液体の粘度計測システム10は、滴下部11を有する滴下機構1、平板状衝突部2、第1測定装置31、第2測定装置32、第3測定装置33、粘度算出装置(不図示)を主に備える。なお、以下においては、説明を容易にするために、滴下部11に懸垂し、自由落下する直前の液滴DをD
1、衝突直前の液滴DをD
2、平板状衝突部2に衝突し、略円形状への変形が最大に達した状態の液滴DをD
3ということがある。
【0025】
[滴下機構]
滴下機構1は、計測対象である液体を質量Mの液滴Dとして滴下するものであって、所定高さに位置する滴下部11を有する。液滴Dは、滴下部11から、自由落下するように滴下される。滴下機構1の構成としては、滴下部11から、計測対象である液体を液滴Dとして自由落下するように滴下することができるものであれば特に制限されず、本実施形態においては、液体を充填するためのシリンジとシリンジポンプとシリンジポンプにつないだ注射針(ニードル)とを有する滴下機構1において、ニードルを滴下部11として用いている。
【0026】
[平板状衝突部]
平板状衝突部2は、滴下部11から滴下された液滴Dを衝突させるためのものであり、滴下部11に対向して設けられる。平板状衝突部2の材質としては、滴下部11から滴下された液滴Dを平面衝突させることができるものであれば特に制限されず、例えば、アルミ製の平板が使用できる。なお、平板状衝突部2の材質の種類によって、計測対象である液体の液滴Dが固体平面上に形成された際の接触角θが決定し、この接触角θに基づいて評価される濡れ性によって、後述する式(1)における補正係数Aが変化する。
【0027】
本実施形態において、平板状衝突部2は、滴下部11から垂直方向に離間して配置されている。滴下部11と平板状衝突部2との離間距離は、概ね10cmから40cmの範囲であることが好ましい。
【0028】
滴下部11と平板状衝突部2との離間距離が大きくなると、それだけ運動エネルギが増加するが、運動エネルギが大きすぎる場合には、液滴Dが平板状衝突部2に衝突する衝撃で、いわゆるスプラッシュを生じ、衝突液滴の周縁部が微細な液滴へと分裂してしまい、液滴Dの最大広がり径D
maxの測定に支障をきたすおそれがある。一方で、滴下部11と平板状衝突部2との離間距離が小さくなると、それだけ運動エネルギが減少するが、運動エネルギが小さすぎる場合には、平板状衝突部2に衝突した液滴Dは、上述の濡れ性のみによって広がり平衡状態となるため、液滴Dの最大広がり径D
maxの測定に支障をきたすおそれがある。したがって、測定対象である液体に応じて、滴下部11と平板状衝突部2との離間距離が適切に設定される。
【0029】
[第1測定装置]
第1測定装置31は、滴下部11に懸垂し、自由落下する直前の液滴D
1の輪郭形状Sを測定するものである。第1測定装置31の構成としては、液滴D
1の輪郭形状Sを測定できれば特に制限されず、本実施形態においては、長距離顕微鏡とこれに接続したハイスピードカメラを有する第1測定装置31において、ハイスピードカメラで撮影した画像に基づき、液滴D
1の輪郭形状Sを求めている。上記長距離顕微鏡及びハイスピードカメラとしては、公知又は市販のものが使用できる。また、本実施形態において、第1測定装置31は、
図1に示すように、液滴D
1を照射するためのメタルハライドランプ等の白色光源とこの白色光源から射出された光を十分に拡散させるためのディフューザーとをさらに備えている。
【0030】
ここで、
図2は、第1測定装置31により測定された画像であって、(a)は、第1測定装置31のハイスピードカメラにより撮影された画像、(b)は(a)の画像を二値化した画像、(c)は(b)の画像から輪郭形状Sを抽出した画像である。このように、本実施形態においては、第1測定装置31のハイスピードカメラにより撮影された液滴D
1の画像を二値化した後、この二値化した画像の輪郭を抽出することにより、液滴D
1の輪郭形状Sを求めている。
【0031】
[第2測定装置]
第2測定装置32は、平板状衝突部2への衝突直前の測定点Aにおける液滴D
2の水平方向の最大径D
0及び測定点Aを液滴D
2が通過するのに要する通過時間ΔTを測定するものである。第2測定装置32の構成としては、測定点Aにおける液滴D
2の水平方向の最大径D
0及び測定点Aを液滴D
2が通過する通過時間ΔTを測定できれば特に制限されない。本実施形態においては、第2測定装置32の構成として、測定点Aを間に挟んで一方の位置に配置されたレーザ光源と、他方の位置に配置されたレーザ受光器とで構成される透過型レーザセンサを用いている。
【0032】
ここで、
図3は、第2測定装置32の透過型レーザセンサの挙動の変化を示す波形図であって、縦軸は透過型レーザセンサによって検知された液滴D
2の水平方向の長さ、横軸は時間である。本実施形態において、第2測定装置32は、上記波形図から最大径D
0及び通過時間ΔTを求めている。より具体的には、測定点Aを通過した液滴D
2の水平方向の長さの値のうちの最大値に基づき最大径D
0を求め、測定点Aを液滴D
2が通過するのに要した時間から通過時間ΔTを求めている。上記透過型レーザセンサとしては、公知又は市販のものが使用できる。
【0033】
[第3測定装置]
第3測定装置33は、平板状衝突部2に衝突し、略円形状への変形が最大に達した状態の液滴D
3の最大広がり径D
maxを測定するものである。なお、平板状衝突部2に衝突した液滴Dは、
図4に示すように、慣性力により略円形状に広がり、最大広がり径D
maxに達した後、表面張力等により戻る方向に収縮して平衡状態となる。
【0034】
第3測定装置33の構成としては、
図4(c)に示す、略円形状への変形が最大に達した状態の液滴D
3の最大広がり径D
maxを測定することができれば特に制限されず、本実施形態においては、第1測定装置31と同様に、長距離顕微鏡とこれに接続したハイスピードカメラを有する第3測定装置33において、ハイスピードカメラで撮影した画像に基づき、最大広がり径D
maxを求めている。上記ハイスピードカメラとしては、公知又は市販のものが使用できる。また、本実施形態において、第3測定装置33は、
図1に示すように、液滴D
3を照射するためのメタルハライドランプ等の白色光源とこの白色光源から射出された光を十分に拡散させるためのディフューザーをさらに備えている。
【0035】
[粘度算出装置]
粘度算出装置(不図示)は、第1測定装置31の測定結果、第2測定装置32の測定結果及び第3測定装置33の測定結果に基づき、測定対象である液体の粘度を算出するものである。本実施形態において、粘度算出装置は、第1算出手段、第2算出手段、第3算出手段を備える。なお、粘度算出装置の具体的な構成については、実行手順とともに後述する。
【0036】
(第1算出手段)
第1算出手段は、第1測定装置31により測定された輪郭形状S及び液滴Dの質量Mに基づき液滴Dの体積V、密度ρ及び表面張力σを算出するものである。第1算出手段による液滴Dの体積V、密度ρ及び表面張力σの算出方法について、
図2を参照しつつ以下詳説する。
【0037】
滴下部11に懸垂し、自由落下する直前の液滴D
1の体積Vは、第1測定装置31により測定された、
図2(c)に示す輪郭形状Sにおいて、これと同じ幅で、全高さにおいて1pixの高さをもつ円柱を仮定し、この円柱の体積を求め、これらを足し合わせることにより求めることができる。
【0038】
液滴D
1の密度ρは、上記手法により求められた液滴D
1の体積Vと予め測定された液滴Dの質量Mから求めることができる。
【0039】
液滴D
1の表面張力σは、
図2(b)に示す画像において、液滴D
1の外径に真円を合せることで最大径d
eを、液滴D
1の最下端から最大径分だけ高い位置における径d
sを、それぞれ測定し、このd
e及びd
sの値と上記手法により求められた液滴D
1の密度ρに基づき、Fordhamによる静水圧とラプラス圧の釣り合いから表面張力を求める下記式(2)(Fordham,On the Calculation of Surface Tension from Measurements of Pendant Drops,Proc. R. Soc. Lond. A 194(1948),pp.1−16)を用いて求めることができる。
【数3】
(式(2)中、Jはd
s/d
eから求められる補正係数であり、gは重力加速度である。)
【0040】
(第2算出手段)
第2算出手段は、第2測定装置32により測定された最大径D
0及び通過時間ΔT並びに第1算出手段により算出された体積Vに基づき液滴Dの衝突速度Uを算出するものである。第2算出手段による液滴Dの衝突速度Uの算出方法について、
図4を参照しつつ以下詳説する。
【0041】
液滴D
2の衝突速度Uは、第2測定装置32により測定された最大径D
0と第1算出手段により算出された体積Vから、
図4(a)に示す衝突直前のやや扁球となった液滴D
2の高さ(垂直方向の最大径)hを計算し、この高さhと第2測定装置32により測定された通過時間ΔTとから求めることができる。
【0042】
(第3算出手段)
第3算出手段は、第2測定装置32により測定された最大径D
0、第3測定装置33により測定された最大広がり径D
max、第1算出手段により算出された密度ρ及び第2算出手段により算出された衝突速度Uから、下記式(1)を用いて、計測対象である液体の粘度μを算出するものである。
【数4】
上記式(1)中、Weはウェーバ数、Aは固体平面の濡れ性等によって変化する補正係数であり、ウェーバ数Weは、We=ρU
2D
0/σである。
【0043】
なお、上記式(1)中の補正係数Aは、Zhang et al.による平板上の液滴の接触角θと補正係数Aとの相関を示す下記式(3)(Zhang et al.,On the spreading of impacting drops under the influence of a vertical magnetic field,J.Fluid Mech.,vol.809,R3(2016),pp.1−13)を用いて求めることができる。
【数5】
具体的手法としては、第3測定装置33のハイスピードカメラで撮影した、
図4(d)に示す、衝突後に表面張力等によって戻る方向に収縮し、平衡に達した状態の液滴Dの画像から、液滴の接触角θを求め、この接触角θから、上記式(3)を用いて、補正係数Aを求めることができる。
【0044】
また、上記式(1)は、Laan et al.による衝突液滴最大径に関する下記相関式(4)(Laan, et al.,Maximum Diameter of Impacting Liquid Droplets,Phys. Rev. Applied 2,044018(2014),pp.1−7)を液体の粘度μについて解くことにより求めることができる。
【数6】
上記(4)式中、レイノルズ数Reとウェーバ数Weはそれぞれ、Re=ρUD
0/μ,We=ρU
2D
0/σである。
【0045】
〔液体の粘度計測方法〕
次に、上述したような本実施形態の液体の粘度計測システム10を用いた液体の粘度計測方法について、
図1−3を参照しつつ説明する。
【0046】
まず、計測対象である液体を質量Mの液滴Dとして所定高さに位置する滴下部11から自由落下するように滴下させるために、液滴Dを滴下部11としてのニードルの先端に懸垂させる。
【0047】
次に、第1測定装置31によって、滴下部11に懸垂し、自由落下する直前の液滴D
1の輪郭形状Sを測定する(第1測定工程)。
【0048】
第1測定工程後、液滴Dを、滴下部11から滴下し、自由落下させる(滴下工程)。第2測定装置32によって、平板状衝突部2への衝突直前の測定点Aにおける液滴D
2の水平方向の最大径D
0及び測定点Aを液滴D
2が通過するのに要する通過時間ΔTを測定する(第2測定工程)。
【0049】
第2測定工程直後、液滴Dは、滴下部11から垂直方向に離間して配置された平板状衝突部2に衝突する(衝突工程)。
【0050】
衝突工程後、第3測定装置33によって、平板状衝突部2に衝突し、略円形状への変形が最大に達した状態の液滴D
3の最大広がり径D
maxを測定する(第3測定工程)。
【0051】
上記工程がすべて終了した後又は上記工程と並行して、粘度算出装置によって以下の通り、粘度算出工程が行われる。
【0052】
まず、第1算出手段によって、第1測定工程で測定された輪郭形状S及び液滴Dの質量Mに基づき液滴Dの体積V、密度ρ及び表面張力σが算出される(第1算出工程)。次に、第2算出手段によって、第2測定工程で測定された最大径D
0及び通過時間ΔT並びに第1算出工程で算出された体積Vに基づき液滴Dの衝突速度Uが算出される(第2算出工程)。
【0053】
最終的に、第3算出手段によって、第2測定工程で測定された最大径D
0、第3測定工程で測定された最大広がり径D
max、第1算出工程で算出された密度ρ及び第2算出工程で算出された衝突速度Uから、下記式(1)を用いて、計測対象である液体の粘度μが算出される(第3算出工程)。
【数7】
上記式(1)中、Weはウェーバ数、Aは固体平面の濡れ性等によって変化する補正係数であり、ウェーバ数Weは、We=ρU
2D
0/σである。
【0054】
本発明においては、上述の粘度算出工程を、例えばプログラムとして用いてコンピュータ(例えば汎用のパーソナルコンピュータ等)に実行させることができる。このプログラムは、上記粘度算出工程を用いていれば特に限定されず、公知の手段を用いて作成されてもよい。
【0055】
以下、上記プログラムをコンピュータに実行させる態様につき、
図5及び
図6に基づき説明するが、本発明はこれら図面に記載の内容に限定されるものではない。
【0056】
図5は、本発明の一実施形態係る液体の粘度計測システム10が備える粘度算出装置の構成を示すブロック図である。演算部100はCPUを備え、入力部101、記憶部102、プログラムメモリ103及び表示部104と接続されている。入力部101は、例えば、キーボードやタッチパネル等からなり、文字や数値等を入力可能に構成されている。また、入力部101は、3つの測定装置(第1測定装置31、第2測定装置32、第3測定装置33)と直接または間接的に接続されていて、各測定装置から発信された測定データを入力部101が受信するように構成されていてもよい。記憶部102は、プログラムを使用するに際して、所定の情報を記憶する。プログラムメモリ103には、上記式(1)、(2)及び(3)等の数式データを含む動作プログラムが格納されている。演算部100では、入力部101で入力された測定データを、プログラムメモリ103に格納されている数式等にあてはめ、液体の粘度を算出する。
【0057】
図6は、上記のプログラムの実行手順を示すフローチャートである。まず3つの測定装置(第1測定装置31、第2測定装置32、第3測定装置33)の測定データを入力する(201)。入力された測定データが不適合である場合には、エラーとなり、入力をし直す。次に、入力された測定データを上述の粘度算出工程の上記式(1)等にあてはめて液体の粘度を算出する(202)。具体的には、入力された測定データに基づき、まず第1算出工程が行われ、次に、第1算出工程で得られた算出データを加えて、第2算出工程が行われる。さらに、第1算出工程で得られた算出データ及び第2算出工程で得られた算出データを加えて、上記式(1)を用いて第3算出工程が行われる。このとき、算出結果が、例えば負の値等の場合にはエラーとなり、再度、入力からやり直す。算出結果が正常である場合には、算出結果を表示する(203)。
【0058】
なお、上述の実施形態では、
図5に記載の機能ブロックが、CPUのプログラムにより主としてソフトウェア的に実現される例について述べたが、電子部品により主としてハードウェア的に実現されるものであってもよい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
図1に示す粘度計測システム10を用いて、液体の粘度を計測した。計測対象として、グリセリン水溶液を使用し、グリセリン水溶液濃度:6通り、ニードル径:3通り、液滴の落下高さ:2通りの組み合わせで得られる36通りの条件について、その粘度を計測した。なお、各パラメータについては、統計的不確かさを小さくするために、1つの液体サンプルに対して計測を10回ずつ行った。
【0061】
本実施例では、シリンジポンプにつないだ注射針(ニードル)から一定量の液体サンプルを液滴として滴下し、アルミ平板へ衝突角90度で衝突させた。その際、ニードルに懸垂し、自由落下する直前の液滴(D
1)の状態と、アルミ平板へ衝突し、径方向に変形した液滴(D
3)の状態を、それぞれ、長距離顕微鏡(Navitar社製,12×ズーム)を接続したハイスピードカメラ(Vision Research社製,Phantom V9.1)で撮影した。ハイスピードカメラの撮影速度は、4000fpsとした。また、アルミ平板への液滴の衝突直前の位置に設けた透過レーザセンサ(Keyence社製,IB・10)とデータロガーを用いて、衝突直前の液滴(D
2)の水平方向の最大径D
0と、透過レーザセンサを液滴D
2が通過するのに要する通過時間ΔTを測定した。データロガーのサンプリング速度は、12500Hzとした。
【0062】
次に、上述の粘度算出装置を用いて、液体の粘度μを求めるための各物理量を算出した。ここで、液体の液滴の体積と表面張力は、ニードルに懸垂し、自由落下する直前の液滴(D
1)の撮影画像をMATLAB Image Processing Toolbox(登録商標)で処理することにより算出した。
【0063】
上記衝突実験から算出した液体サンプルの粘度(実験値)と従来のオストワルド粘度計で計測した液体サンプルの粘度(実測値)との比較を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示す結果より、本発明による液体の粘度計測システム及び方法によれば、従来の粘度計測器と比べて計測時間が短く、必要とするサンプル量が少なくても、簡易かつ正確にその粘度を計測することができることが分かる。
【0066】
以上、本発明について図面を参照にして説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変更実施が可能である。例えば、上記実施形態においては、平板状衝突部2に衝突し、略円形状に変形した液滴D
3の最大広がり径D
maxを測定するための第3測定装置として、長距離顕微鏡とこれに接続したハイスピードカメラを用いているが、これに限られず、例えば、プリズム上面での全反射を利用した可視化法を適用した手段を用いてもよい。この手法では、プリズム上面が空気の場合、臨界角以上で入射されたレーザ光は全反射するため、カメラセンサ上では明るい像が得られる。一方で、液滴Dがプリズムに接触すると、液体の屈折率は気体の屈折率よりも高いことから、光が液滴を透過するため、カメラセンサ上の反射光は暗くなる。これにより、液滴Dが固体(プリズム)と接触している箇所としていない箇所を明確に判別することが可能となる。また、滴下部11に対する振動や揚力、風等の外力の影響による液滴Dの測定誤差の発生を防止する観点から、粘度測定システム10全体がグローブボックス内に設置されるものであってもよい。
【0067】
以上説明したように、本発明の液体の粘度計測システム及び液体の粘度計測方法によれば、液体を液滴として自由落下させて平板状衝突部へ衝突させるまでのわずかな時間で、第1測定装置、第2測定装置及び第3測定装置の測定結果から、液体の粘度を計測することができる。その結果、たとえ計測対象である液体が血液や塗料、接着剤のような凝固性を有するものであっても、その凝固性の影響を受けることなく正確な粘度計測が可能となる。また、一滴という極めて少ないサンプル量で液体の粘度を計測することができるので、十分なサンプル量を用意することが困難な液体の粘度計測にも利用でき、汎用性が高い。