(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6959655
(24)【登録日】2021年10月12日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】製麹システム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/16 20060101AFI20211021BHJP
A23L 27/50 20160101ALN20211021BHJP
【FI】
C12M1/16 101
C12M1/16 103
!A23L27/50 101D
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-1920(P2019-1920)
(22)【出願日】2019年1月9日
(65)【公開番号】特開2020-110065(P2020-110065A)
(43)【公開日】2020年7月27日
【審査請求日】2020年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006770
【氏名又は名称】ヤマサ醤油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】豊島 快幸
(72)【発明者】
【氏名】松浦 靖典
【審査官】
中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】
実開平06−005499(JP,U)
【文献】
特開平03−297381(JP,A)
【文献】
特開2009−219415(JP,A)
【文献】
特開2015−062383(JP,A)
【文献】
特開平07−107963(JP,A)
【文献】
特開2000−004872(JP,A)
【文献】
特公昭39−014491(JP,B1)
【文献】
藤原善也「製麹装置の進歩」、日本醸造協会誌、1993、88巻、4号、p.281-286
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養エリアと、環境制御装置と、麹収容容器と、搬入レーンと、麹収容容器移動装置と、制御プログラムを備え、
前記培養エリアは、複数の前記麹収容容器を予め定められた位置に保管して前記麹を培養するエリアであり、
前記環境制御装置は、前記培養エリア内の温度及び湿度を制御可能に構成され、
前記麹収容容器は、大豆及び麹菌の混合物を含む麹の原料を1〜10cmの高さで載置した麹収容容器であり、
前記搬入レーンは、前記麹収容容器を前記培養エリアに向けて移動可能に構成され、
前記麹収容容器移動装置は、前記搬入レーン上の前記麹収容容器を前記予め定められた位置に移動させ、前記麹収容容器を前記培養エリアに搬入可能に構成され、
前記制御プログラムは、前記麹菌の種類又は前記原料に応じて、前記培養エリア内の温度及び湿度を変動させるように、前記環境制御装置を制御し、
前記制御プログラムは、前記培養エリア内に前記原料が保管されている場合において、前記原料と異なる種類の原料を前記培養エリアに搬入する時期を前記麹菌の種類に応じて決定し、これにより、1つの培養エリアにおいて、異なる種類の麹菌を含む原料が同時に保管される
製麹システム。
【請求項2】
前記培養エリアは、外気を流入可能な外気流入口を備え、
前記前記制御プログラムは、前記培養エリア内の温度、湿度もしくは酸素濃度、又は前記培養エリア内に保管された前記麹の温度が予め定められた温度に応じて、前記培養エリア内に流入する外気の流入量を調整することにより前記培養エリア内の酸素濃度を変動させるように前記外気流入口を制御する、
請求項1に記載の製麹システム。
【請求項3】
前記制御プログラムは、前記麹菌の種類に応じて、前記培養エリア内の温度及び湿度の変動割合を切り替えるように前記環境制御装置を制御する、
請求項1又は請求項2に記載の製麹システム。
【請求項4】
前記制御プログラムは、前記原料の保管を開始してから72時間以内に、前記培養エリア内の温度が25〜35℃から15〜24℃となり、前記培養エリア内の湿度が70〜100%から30〜70%となるように、前記環境制御装置を制御する、
請求項1〜請求項3の何れか1つに記載の製麹システム。
【請求項5】
前記培養エリア内に略平行な風を送風可能な送風機を備え、
前記制御プログラムは、前記培養エリア内の前記原料の温度が略均一となるように、前記送風機を制御する、
請求項1〜請求項4の何れか1つに記載の製麹システム。
【請求項6】
前記培養エリア内に保管棚を設け、
複数の前記原料は、前記保管棚に保管され、
前記保管棚は、前記送風機による送風が通過可能に構成される、
請求項5に記載の製麹システム。
【請求項7】
前記原料を吐出する吐出装置を備え、
前記吐出装置は、
前記搬入レーン上を移動する前記麹収容容器に向けて前記原料を吐出するように構成され、
前記麹収容容器に載置された前記原料の高さが1〜10cmとなる速度で前記原料を吐出する、
請求項1〜請求項5の何れか1つに記載の製麹システム。
【請求項8】
複数の前記麹収容容器は、前記培養エリア内で上下方向に複数保管される、
請求項1〜請求項7の何れか1つに記載の製麹システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製麹システムに関する。
【背景技術】
【0002】
醤油の製造に利用される麹の製造を効率化することを目的とした技術が提案されている。
【0003】
特許文献1には、麹室内に扇風機及び冷却加熱器を設け、麹室内の温度を調整可能な製麹室装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭30−9144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、麹製造のさらなる効率化を実現可能な製麹システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、培養エリアと、環境制御装置と、麹収容容器と、搬入レーンと、麹収容容器移動装置と、制御プログラムを備え、前記培養エリアは、複数の前記麹収容容器を予め定められた位置に保管して前記麹を培養するエリアであり、前記環境制御装置は、前記培養エリア内の温度及び湿度を制御可能に構成され、前記麹収容容器は、大豆及び麹菌の混合物を含む麹の原料を1〜10cmの高さで載置した麹収容容器であり、前記搬入レーンは、前記麹収容容器を前記培養エリアに向けて移動可能に構成され、前記麹収容容器移動装置は、前記搬入レーン上の前記麹収容容器を前記予め定められた位置に移動させ、前記麹収容容器を前記培養エリアに搬入可能に構成され、前記制御プログラムは、前記麹菌の種類又は前記原料に応じて、前記培養エリア内の温度及び湿度を変動させるように、前記環境制御装置を制御する、製麹システムが提供される。
【0007】
本発明によれば、大豆及び麹菌の混合物を含む麹の原料を1〜10cmの高さで載置した麹収容容器を培養エリアに保管するにあたり、制御プログラムにより、麹菌の種類又は原料に応じて、培養エリア内の温度及び湿度を変動させる。これにより、麹菌の種類又は原料に応じて最適な温度及び湿度で原料を保管できるとともに、原料の厚さが1〜10cmであるので、原料の温度を略均一に保つことができ、良好な麹を効率的に製造する事が可能になった。
【0008】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記培養エリアは、外気を流入可能な外気流入口を備え、前記前記制御プログラムは、前記培養エリアの温度、湿度もしくは酸素濃度、又は前記培養エリア内に保管された前記麹の温度が予め定められた温度に応じて、前記培養エリア内に流入する外気の流入量を調整することにより前記培養エリア内の酸素濃度を変動させるように前記外気流入口を制御する。
好ましくは、前記制御プログラムは、前記麹菌の種類又は原料に応じて、前記培養エリア内の温度及び湿度の変動割合を切り替えるように前記環境制御装置を制御する。
好ましくは、前記制御プログラムは、前記原料の保管を開始してから72時間以内に、前記培養エリア内の温度が25〜35℃から15〜24℃となり、前記培養エリア内の湿度が70〜100%から30〜70%となるように、前記環境制御装置を制御する。
好ましくは、前記制御プログラムは、前記培養エリア内に前記原料が保管されている場合において、前記原料と異なる種類の原料を前記培養エリアに搬入する時期を前記麹菌の種類に応じて決定する。
好ましくは、前記培養エリア内に略平行な風を送風可能な送風機を備え、前記制御プログラムは、前記培養エリア内の前記原料の温度が略均一となるように、前記送風機を制御する。
好ましくは、前記培養エリア内に保管棚を設け、複数の前記原料は、前記保管棚に保管され、前記保管棚は、前記送風機による送風が通過可能に構成される。
好ましくは、前記原料を吐出する吐出装置を備え、前記吐出装置は、前記搬入レーン上を移動する前記麹収容容器に向けて前記原料を吐出するように構成され、前記麹収容容器に載置された前記原料の高さが1〜10cmとなる速度で前記原料を吐出する。
好ましくは、複数の前記麹収容容器は、前記培養エリア内で上下方向に複数保管される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る製麹システム100の概略図である。ここで、
図1において、培養エリア1を正面図として図示し、搬入レーン4及び搬出レーン5は平面図として図示している。
【
図2】麹収容容器3の底部31に設けられる空気導入孔32を表す模式図である。
【
図3】麹菌の種類毎に定められた、培養エリア1内における温度及び湿度の制御を規定するテーブルの一例である。
【
図4】培養エリア1に保管されている原料と異なる種類の原料を培養エリアに搬入する時期を、麹菌の種類に応じて決定する様子を表す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0011】
1.第1実施形態
以下、
図1〜
図3を用いて、本発明の第1実施形態に係る製麹システム100について説明する。製麹システム100は、醤油、味噌等の醸造食品の製造に利用される麹の製造を効率的に実現し得るものである。具体的には、かかる麹は、少なくとも大豆及び麹菌の混合物を含む麹の原料中の麹菌を増殖させることにより製造される。
【0012】
図1に示すように、製麹システム100は、培養エリア1、環境制御装置2、麹収容容器3、搬入レーン4、麹収容容器移動装置6及び制御プログラム7を備える。さらに、本実施形態では、搬出レーン5、保管棚1s、送風機9及び情報処理装置8を備える。
【0013】
培養エリア1は、複数の麹収容容器3を予め定められた位置に保管して麹を培養するエリアである。本実施形態では、培養エリア1は周囲が覆われた空間であり、外気を流入可能な外気流入口1aを備える。培養エリア1内への外気の流入量は、外気流入口1aを開閉させることにより調整することができる。本実施形態では、培養エリア1内への外気の流入量を調整することにより、培養エリア1内の酸素濃度を調整することができる。また、培養エリア1内には保管棚1sが設けられる。そして、複数の原料は、保管棚1sに保管される。本実施形態では、麹収容容器3を縦に10段収容可能な保管棚1sを3つ設けている。したがって、複数の麹収容容器3は、培養エリア1内で上下方向に複数保管される。なお、保管棚1sの段数、大きさ、数及び位置等は特に限定されず、適宜決定すればよい。
【0014】
環境制御装置2は、培養エリア1内の温度及び湿度を制御可能に構成される。具体的には、環境制御装置2は、温度調整装置及び湿度調整装置により構成される。さらに、本実施形態では、培養エリア1内に略平行な風を送風可能な送風機9を備える。送風機9の数は特に限定されず、
図1に示されるように1つでもよく、培養エリア1の対向する箇所に2つ設けてもよく、3つ以上設けてもよい。ここで、保管棚1sは、送風機9による送風が通過可能に構成される。例えば、保管棚1sの側面に開口部を設けたり、ラック形状とすることができる。これにより、培養エリア1の中央に位置する保管棚1sにも送風機9からの風が到達することになる。
【0015】
麹収容容器3は、大豆及び麹菌の混合物を含む麹の原料を1〜10cmの高さで載置した麹収容容器である。好ましくは、原料の高さが1.5〜8cm、さらに好ましくは、1.7〜6cm、さらに好ましくは、1.9〜4cmである。麹菌の生育しやすさの観点では、原料の高さは低いことが望ましいが、製造効率上は好ましくない。一方、製造効率の観点から、原料の高さはなるべく高いことが好ましいが、原料の高さが10cmを上回ると、麹収容容器3に載置された原料の中心部に熱がたまり、麹の製造に好ましい温度を超えてしまう可能性があるので、本実施形態では麹の原料を1〜10cmの高さで麹収容容器3に載置している。
【0016】
図2に示されるように、麹収容容器3は、原料を載置可能な底部31を備える。底部31には、複数の空気導入孔32が設けられる。空気導入孔32は、底部31の中央部33における密度が最大となるように設けることができる。また、空気導入孔32の大きさが、底部31の中央部33において最大となるように構成することができる。これは、麹の原料は熱伝導率が低く、麹収容容器3の中央部33付近に載置された原料に熱が溜まりやすいため、中央部33に風を通しやすくし、中央部33付近の原料の温度を下げることにより、中央部33とその他の領域に載置された原料の温度を略均一にするためである。
【0017】
麹収容容器移動装置6は、搬入レーン4上の麹収容容器3を、培養エリア1内の予め定められた位置に移動させ、麹収容容器3を培養エリア1に搬入可能に構成される。本実施形態では、麹収容容器移動装置6は、搬入レーン4及び搬出レーン5が並んでいる方向に移動可能に構成され、培養エリア1内を進行可能に構成され、かつ、保管棚1sの上下方向に移動可能に構成される。具体的には、搬入レーン4上の麹収容容器3を1つずつ取り出し、培養エリア1に設けられた保管棚1sの予め定められた位置に麹収容容器3を搬入する。ここで、麹収容容器移動装置6の構成は特に限定されず、例えばクレーンや移動型昇降装置により実現される。
【0018】
制御プログラム7は、麹菌の種類又は原料に応じて、培養エリア1内の温度及び湿度を変動させるように、環境制御装置2を制御する。本実施形態では、制御プログラム7は、コンピュータ等の情報処理装置8に格納される。また、情報処理装置8は、不図示の送受信部を備え、送受信部を介して、培養エリア1に保管される予定の原料の種類を制御プログラム7に入力し、制御プログラム7からの制御信号を環境制御装置2に出力する。
【0019】
図3に示されるように、制御プログラム7は、麹菌の種類に応じて、培養エリア1内の温度及び湿度の変動割合を切り替えるように環境制御装置2を制御する。本実施形態では、制御プログラム7は、培養エリア1に原料の保管を開始してから72時間以内に、培養エリア1内の温度が25〜35℃から15〜24℃となり、培養エリア1内の湿度が70〜100%から30〜70%となるように、環境制御装置2を制御する。かかる温度は、好ましくは、27〜33℃から17〜22℃、さらに好ましくは、29〜31℃から19〜20℃となるように制御される。また、かかる湿度は、好ましくは、75〜99.9%から35〜65%、さらに好ましくは、80〜99%から40〜60%となるように制御される。例えば、麹菌Xを含む原料を培養エリア1に保管する場合、培養エリア1に麹収容容器3を搬入する前に、培養エリア1内の温度が25℃、湿度が90%となり、麹収容容器3が培養エリア1に搬入されてから72時間経過後に培養エリア1内の温度が15℃、湿度が50%となるように、環境制御装置2を制御する。かかる温度及び湿度の変動割合は、麹菌の種類に応じて適宜決定され、例えば線形低下でもよく、不連続な非線形低下であってもよい。
【0020】
また、本実施形態では、制御プログラム7は、培養エリア1内の原料の温度が略均一となるように、送風機9を制御する。
図3の例では、麹菌Xを含む原料を培養エリア1に保管する場合、培養エリア1に麹収容容器3を搬入する前に、送風機9の送風強度を「中」に設定し、麹収容容器3が培養エリア1に搬入されてから48時間経過後に、送風機9の送風強度を「小」に設定する。環境制御装置2に加え、送風機9により風を送ることにより、麹収容容器3に載置された原料の温度を略均一にすることが容易になる。
【0021】
同様に、麹菌Yを含む培養エリア1に保管する場合は、培養エリア1に麹収容容器3を搬入する前に、培養エリア1内の温度が30℃、湿度が99%となり、麹収容容器3が培養エリア1に搬入されてから48時間経過後に培養エリア1内の温度が20℃、湿度が60%となるように、環境制御装置2を制御する。また、麹菌Zを含む培養エリア1に保管する場合は、培養エリア1に麹収容容器3を搬入する前に、培養エリア1内の温度が35℃、湿度が100%となり、麹収容容器3が培養エリア1に搬入されてから48時間経過後に培養エリア1内の温度が20℃、湿度が70%となるように、環境制御装置2を制御する。
【0022】
なお、上記温度及び湿度は一例であり、麹菌の種類及び麹収容容器3に載置される原料の高さに応じて適宜決定すればよい。また、麹収容容器3が培養エリア1に搬入されてから72時間経過後でなくとも、予め定められた時間経過後に培養エリア1内の温度及び湿度を所定値まで変動させるように制御してもよい。
【0023】
ここで、
図3の例では、麹菌の種類に応じて制御プログラム7が環境制御装置2を制御する態様について説明したが、麹の原料に応じて、培養エリア1内の温度及び湿度の変動割合を切り替えるように環境制御装置2を制御することができる。この場合、原料の配合毎に
図3と同様のテーブルを準備すればよい。
【0024】
さらに、本実施形態では、制御プログラム7は、培養エリア1内の温度、湿度もしくは酸素濃度、又は培養エリア1内に保管された麹の温度に応じて、培養エリア1内に流入する外気の流入量を調整することにより、培養エリア1内の酸素濃度を変動させるよう外気流入口1aを制御する。これは、麹菌の生育に酸素が必要であり、例えば麹菌の生育が旺盛過ぎて麹の温度が上昇しすぎた場合には、外気の流入量を減少(又は外気の流入を停止)させることにより、麹の過剰な生育を抑制するためである。ここで、麹の温度は任意の温度センサーにより計測され、かかる温度が制御プログラム7に送信され、制御プログラム7が外気流入口1aを制御する。また、培養エリア1内の温度又は湿度が高い場合や、培養エリア1内の酸素濃度が高い場合にも、上記と同様の調整を実行してもよい。なお、予め定められた温度は、麹菌の種類又は原料により適宜決定することができる。外気流入口1aは、必要に応じて送風機9と連結していても良い。
【0025】
そして、培養エリア1内で麹菌が十分に増殖し、醤油又は味噌等の醸造食品の製造に利用できる麹となった後、麹収容容器移動装置6により保管棚1sから麹収容容器3が取り出され、搬出レーン5に搬出される。その後、例えば醤油を製造する場合には、麹収容容器3に載置された麹を取り出し、食塩を水で溶かしたものを加え、仕込み蔵のタンクに貯蔵する。そして、発酵・熟成、圧搾、火入れ及び検査を経て、醤油が完成する。
【0026】
以上説明したように、第1実施形態に係る製麹システム100では、吐出装置10により、原料の高さが1〜10cmとなるように麹収容容器3に原料が吐出される。そして、搬入レーン4により麹収容容器3が培養エリア1に向けて移動し、麹収容容器移動装置6により麹収容容器3が培養エリア1の保管棚1sの予め定められた位置に搬入される。保管棚1sに複数の麹収容容器3が搬入された後、制御プログラム7により、麹菌の種類又は麹の原料に応じて培養エリア1内の温度及び湿度を制御する。このとき、環境制御装置2により、培養エリア1全体の温度及び湿度を制御するとともに、送風機9によりさらに精度よく温度及び湿度を制御することが可能になる。さらに、麹の生育が過剰な場合には、制御プログラム7により、培養エリア1内の酸素濃度を調整することで、麹の過剰な生育を抑制することができる。これにより、原料内の温度を均一にするために原料を撹拌する作業(手入れ)が不要になるという有利な効果を奏する。また、かかる制御プログラム7は、麹菌の種類又は麹の原料により、培養エリア1内の温度及び湿度を制御するため、種々の製品に応じて最適な麹を製造することが容易になる。
【0027】
さらに、第1実施形態では、原料の高さを1〜10cmとすることにより、麹収容容器3の高さを低くすることができるので、麹収容容器3を培養エリア1内で上下方向に複数保管することが容易になる。これにより、大量の原料を培養エリア1内に保管することができる。
【0028】
さらに、麹収容容器3に識別番号を付し、最終製品と紐付けすることにより、麹の製造ロットのトレースが容易になる。ここで、麹収容容器3への識別番号の付与は、識別番号を表す情報を含む任意の2次元コード等を麹収容容器3に付すことにより実現される。
また、麹収容容器3毎に麹菌の種類や原料の配合を変えることにより、1度の培養でも多品種の麹を製造することが可能になる。
【0029】
2.第2実施形態
次に、
図4を用いて、本発明の第2実施形態に係る製麹システム100について説明する。第2実施形態における製麹システム100の構造は、第1実施形態に係る製麹システム100と同様であるので、その説明を省略する。
【0030】
第2実施形態では、制御プログラム7は、培養エリア1内に原料が保管されている場合において、培養エリア1内の原料と異なる種類の原料(異なる種類の麹菌を含む原料)を培養エリア1に搬入する時期を麹菌の種類に応じて決定する。
【0031】
例えば、
図4に示されるように、麹菌X,Yを含む原料に対し、培養エリア1内の温度を線形低下させる場合において、麹菌Y(図中においてYと表記)を培養エリア1に搬入したとする。なお、保管棚1sはさらに麹収容容器3を保管するスペースを残している。このとき、制御プログラム7により、培養エリア1内の温度は30℃に設定される。この後、製造計画の変更等により、麹菌Xを含む原料(図中においてXと表記)を培養エリア1に培養エリア1に保管して麹を製造することになった場合には、製造責任者は、情報処理装置8に麹菌Xを含む原料を培養エリア1に搬入する指示を入力する。
【0032】
ここで、
図3に示されるように、麹菌Xを含む原料は、培養エリア1の温度が25℃の状態から培養エリア1に搬入されることになっている。これを実現するため、制御部7は、全ての麹菌Yを含む原料が培養エリア1に搬入されてからの時間を受信し、
図3のテーブルに基づき、現在の温度を特定する。本実施形態では、全ての麹菌
Yを含む原料が培養エリア1に搬入されてから24時間経過後の温度が25℃となるので、この時期に麹菌Xを含む原料を培養エリア1に搬入する。
【0033】
これにより、1つの培養エリア1において、異なる種類の麹菌を含む原料を同時に保管することが可能になる。
【0034】
なお、
図3に示されるように、麹菌Zを含む原料は、培養エリア1の温度が35℃の状態から培養エリア1に搬入されることになっている。このため、培養エリア1内の温度が30℃から低下するように制御される麹菌Yを含む原料を培養エリア1に保管している状態で、麹菌Zを含む原料を培養エリア1に搬入しようとした場合、制御プログラム7により警告が発せられるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1:培養エリア
1s:保管棚
1a:外気流入口
2:環境制御装置
3:麹収容容器
31:底部
32:空気導入孔
33:中央部
4:搬入レーン
5:搬出レーン
6:麹収容容器移動装置
7:制御プログラム
8:情報処理装置
9:送風機
10:吐出装置
100:製麹システム