特許第6959669号(P6959669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6959669炭酸カルシウム、食品添加用炭酸カルシウム製剤及び食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6959669
(24)【登録日】2021年10月12日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】炭酸カルシウム、食品添加用炭酸カルシウム製剤及び食品
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/18 20060101AFI20211021BHJP
   A23C 9/152 20060101ALI20211021BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20211021BHJP
   A23L 29/10 20160101ALI20211021BHJP
   A23L 2/38 20210101ALN20211021BHJP
   A23L 17/00 20160101ALN20211021BHJP
   A23L 29/294 20160101ALN20211021BHJP
【FI】
   C01F11/18 J
   A23C9/152
   A23L29/00
   A23L29/10
   !A23L2/38 P
   !A23L17/00 101D
   !A23L29/294
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-18563(P2020-18563)
(22)【出願日】2020年2月6日
(62)【分割の表示】特願2017-145424(P2017-145424)の分割
【原出願日】2017年7月27日
(65)【公開番号】特開2020-75861(P2020-75861A)
(43)【公開日】2020年5月21日
【審査請求日】2020年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】598039965
【氏名又は名称】白石工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中居 伸介
(72)【発明者】
【氏名】隈 善貴
(72)【発明者】
【氏名】田中 ゆかり
(72)【発明者】
【氏名】千葉 亮
【審査官】 佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第03069713(EP,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02465903(EP,A1)
【文献】 特開2002−235015(JP,A)
【文献】 特開2007−186408(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/042103(WO,A1)
【文献】 特開2015−168912(JP,A)
【文献】 特開2015−173646(JP,A)
【文献】 特開2004−345932(JP,A)
【文献】 JOHNSON, M. L. et al.,Food & Function,英国,2017年02月28日,Vol.8,pp.1627-1640
【文献】 YUE, L. et al.,Microporous and Mesoporous Materials,NL,2007年12月23日,Vol.113,pp.538-541
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/18
A23C 9/152
A23L 2/00 − 2/84
A23L 17/00 − 17/60
A23L 29/00 − 29/10
A23L 29/294
A23L 31/00 − 33/29
CAplus/REGISTRY/FSTA/WPIX(STN)
DWPI(Derwent Innovation)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が20〜45m/gの範囲内であり、水銀圧入法による空隙径分布曲線(0.01〜10μm)における空隙径0.1μm以下の空隙容積が全体の空隙容積の30%以上であり、合成炭酸カルシウム粉末(但し、炭酸カルシウムと二酸化炭素および1つ以上の酸との水性媒体中の反応生成物である官能化された炭酸カルシウム含有材料と崩壊剤とから構成される混合物をローラー圧縮し、粉砕し、ふるい分けして得られる顆粒を除く。)である、炭酸カルシウム。
【請求項2】
請求項1に記載の炭酸カルシウムと、乳化剤とを含む食品添加用炭酸カルシウム製剤。
【請求項3】
前記炭酸カルシウム100質量部に対し、前記乳化剤が1〜60質量部含まれている、請求項2に記載の食品添加用炭酸カルシウム製剤。
【請求項4】
前記乳化剤が、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、水溶性大豆多糖類、アラビアガム、アラビノガラクタン、レシチン及び加工デンプンから選ばれる少なくとも1種である、請求項2または3に記載の食品添加用炭酸カルシウム製剤。
【請求項5】
前記炭酸カルシウムと前記乳化剤を含む水懸濁液を乾燥して得られる、請求項2〜4のいずれか一項に記載の食品添加用炭酸カルシウム製剤。
【請求項6】
請求項1に記載の炭酸カルシウムを含む、食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸カルシウム、食品添加用炭酸カルシウム製剤及び食品に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料等の食品にカルシウム強化等の目的で炭酸カルシウムを添加することが知られている(特許文献1)。また、蒲鉾、ちくわ、さつま揚げなどの水産練り製品に、カルシウム強化や品質改良等の目的で炭酸カルシウムを添加することが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−528630号公報
【特許文献2】特開平6−220238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
飲料等の食品などに添加する炭酸カルシウムとしては、沈降しにくく、分散性に優れたものが求められている。また、水産練り製品に添加する炭酸カルシウムとしては、良好な弾力性を付与することができる炭酸カルシウムが求められている。
【0005】
本発明の目的は、飲料等の食品に添加した場合に、沈降しにくく、分散性に優れ、水産練り製品に添加した場合に、良好な弾力性を付与することができる炭酸カルシウム、食品添加用炭酸カルシウム製剤及び食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の炭酸カルシウムは、BET比表面積が20〜45m/gの範囲内であり、水銀圧入法による空隙径分布曲線(0.01〜10μm)における空隙径0.1μm以下の空隙容積が全体の空隙容積の30%以上であることを特徴としている。
【0007】
本発明の食品添加用炭酸カルシウム製剤は、上記本発明の炭酸カルシウムと、乳化剤とを含むことを特徴としている。
【0008】
本発明の食品添加用炭酸カルシウム製剤においては、炭酸カルシウム100質量部に対し、乳化剤が1〜60質量部含まれていることが好ましい。
【0009】
本発明の食品添加用炭酸カルシウム製剤においては、乳化剤が、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、水溶性大豆多糖類、アラビアガム、アラビノガラクタン、レシチン及び加工デンプンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0010】
本発明の食品添加用炭酸カルシウム製剤は、炭酸カルシウムと乳化剤を含む水懸濁液を乾燥して得られるものであってもよい。
【0011】
本発明の食品は、上記本発明の炭酸カルシウムを含むことを特徴としている。食品として、乳飲料及び水産練り製品が挙げられる。
【0012】
本発明の炭酸カルシウムは、上記のように、飲料や水産練り製品等の食品に添加する食品用炭酸カルシウムとして用いることができるものであるが、これに限定されず、例えば、粉末製品や、医薬品及び医薬部外品などにも添加して用いることができる。このような場合においても、本発明の炭酸カルシウムは、良好な分散性を発揮する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、飲料等の食品に添加した場合に、沈降しにくく、分散性に優れ、水産練り製品に添加した場合に、良好な弾力性を付与することができる。また、本発明の炭酸カルシウムは、これらの用途以外においても、良好な分散性を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
(炭酸カルシウム)
本発明における炭酸カルシウムのBET比表面積は、20〜45m/gの範囲内であり、25〜40m/gの範囲内であることが好ましく、30〜40m/gの範囲内であることが好ましい。BET比表面積が小さすぎると、飲料中などで十分な分散性を発揮できない場合があり、沈殿する場合がある。また、水産練り製品に添加した場合は、十分な弾力が得られない場合がある。BET比表面積が大きすぎると、粒子の凝集が起こりやすく、製剤スラリーを調製する場合に固形分が低くなり、生産性が低下する場合がある。また、飲料中や水産練り製品中などで分散が悪くなる場合がある。
【0016】
本発明における炭酸カルシウムは、水銀圧入法による空隙径分布曲線(0.01〜10μm)における空隙径0.1μm以下の空隙容積が全体の空隙容積の30%以上である。これにより、飲料等の食品などに添加した場合に、分散性に優れる。従って、飲料等においては、沈降しにくくなる。また、水産練り製品に添加した場合には、良好な弾力性を付与することができる。空隙径0.1μm以下の空隙容積は、全体の空隙容積の30%〜50%であることが好ましく、35%〜45%であることがより好ましい。
【0017】
炭酸カルシウムの具体例としては、合成炭酸カルシウム、天然炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム)などが挙げられる。炭酸カルシウムは、合成炭酸カルシウムであることが好ましい。
【0018】
合成炭酸カルシウムとしては、例えば沈降性(膠質)炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウムなどが挙げられる。合成炭酸カルシウムは、例えば水酸化カルシウムを炭酸ガスと反応させることによって製造することができる。水酸化カルシウムは、例えば酸化カルシウムを水と反応させることによって製造することができる。酸化カルシウムは、例えば石灰石原石をコークスなどで混焼することによって製造することができる。この場合、焼成時に炭酸ガスが発生するので、この炭酸ガスを水酸化カルシウムと反応させることによって炭酸カルシウムを製造することができる。
【0019】
上記BET比表面積及び上記空隙容積を有する炭酸カルシウムを製造する方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。なお、以下の製造方法において、炭酸化率は、式:炭酸化率(%)=100×W/(W+W1)(但し、Wは反応液中の炭酸カルシウムの質量、W1は反応液中の水酸化カルシウムの質量である。)により表わされるものである。
【0020】
この製造方法では、水酸化カルシウム水懸濁液を、第一炭酸化工程で炭酸化した後、第二炭酸化工程で炭酸化して炭酸カルシウムを製造する。
【0021】
第一炭酸化工程として、例えば、温度14〜18℃の水酸化カルシウム水懸濁液に炭酸ガス濃度25容量%以上、好ましくは25〜40容量%の炭酸ガス含有気体を水酸化カルシウム1kg当たり13〜16リットル/分で吹き込み、炭酸化率98%程度まで炭酸化反応を行う。
【0022】
第二炭酸化工程として、第一炭酸化工程終了後の水懸濁液に、例えば、第一炭酸化工程開始時点における水酸化カルシウム100質量部に対して、8〜15質量部の水酸化カルシウム水懸濁液を添加し、炭酸ガス濃度25容量%以上、好ましくは25〜40容量%の炭酸ガス含有気体を水酸化カルシウム1kg当たり35〜45リットル/分で吹き込み、pH7.0以下となるまで炭酸化反応を行う。第二炭酸化工程は1回以上繰り返すが、通常は1〜3回程度繰り返せばよい。複数回繰り返す場合、最後の炭酸化工程で、水懸濁液のpHが7.0以下となるまで炭酸化反応を行えばよい。第二炭酸化工程で添加する水酸化カルシウム水懸濁液の温度条件は特に制限されない。例えば、第一炭酸化工程終了直後の水懸濁液が反応熱によって通常30〜50℃程度となっている場合は、その温度のままであってもよい。
【0023】
これらの方法により得られた炭酸カルシウムは、常法に従って回収し、乾燥すればよい。例えば、全反応終了後の水懸濁液をプレス脱水し、そのままペースト状として用いることもでき、またこれを乾燥・解砕して粉末状として用いることもできる。なお、乾燥・解砕等によって炭酸カルシウムの構造が実質上破壊されることはない。
【0024】
上記の製造方法において、炭酸カルシウムのBET比表面積を調整するには、第一炭酸化工程における水酸化カルシウム水懸濁液の温度及び/または炭酸ガス含有気体の吹き込む速度を変化させることで可能である。BET比表面積を大きくする場合には、水酸化カルシウム水懸濁液の温度を低くする、あるいは炭酸ガス含有気体の吹込み速度を高くする。BET比表面積を小さくする場合には、水酸化カルシウム水懸濁液の温度を高くする、あるいは炭酸ガス含有気体の吹込み速度を低くする。
【0025】
上記の製造方法において、炭酸カルシウムの空隙容積を調整するには、第二炭酸化工程で添加する水酸化カルシウムの添加量及び/または添加回数を変化させることで可能である。空隙容積を大きくするには、第二炭酸化工程で添加する水酸化カルシウムの添加量を多くする、あるいは添加回数を多くする。空隙容積を小さくするには、第二炭酸化工程で添加する水酸化カルシウムの添加量を少なくする、あるいは添加回数を少なくする。
【0026】
(食品添加物用炭酸カルシウム製剤の製造方法)
本発明の食品添加物用炭酸カルシウム製剤は、種々の方法により製造される。
【0027】
例えば、本発明の食品添加物用炭酸カルシウム製剤は、炭酸カルシウム粉末、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、水溶性大豆多糖類、アラビアガム、アラビノガラクタン、レシチン及び加工デンプン、及び必要に応じてその他の添加物を水に添加し、得られた水懸濁液を湿式摩砕することにより製造することができる。
【0028】
また、本発明の食品添加物用炭酸カルシウム製剤は、炭酸カルシウムの水懸濁液に、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、水溶性大豆多糖類、アラビアガム、アラビノガラクタン、レシチン及び加工デンプン、及び必要に応じてその他の添加物を添加混合し、得られた水懸濁液を湿式摩砕することにより製造してもよい。
【0029】
また、本発明の食品添加物用炭酸カルシウム製剤は、炭酸カルシウムの水懸濁液を湿式摩砕し、これにショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、水溶性大豆多糖類、アラビアガム、アラビノガラクタン、レシチン及び加工デンプン、及び必要に応じてその他の添加物を添加混合することにより製造してもよい。
【0030】
炭酸カルシウムの水懸濁液を調製する方法としては、公知の方法を広く採用することができる。例えば、炭酸カルシウムを水に添加し、攪拌する。次に炭酸カルシウムの水懸濁液を湿式摩砕処理することが好ましい。湿式摩砕処理は、従来公知の湿式摩砕装置や湿式破砕装置を用いて行うことができる。このような湿式摩砕装置や湿式破砕装置としては、例えばコロイドミル、ビーズミル、サンドミル、ボールミル、湿式ジェットミルなどを挙げることができる。
【0031】
ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、水溶性大豆多糖類、アラビアガム、アラビノガラクタン、レシチン及び加工デンプン、及びその他の添加物は、湿式摩砕処理の前または後に、炭酸カルシウムの水懸濁液に添加、混合することができる。それらの添加順序は限定されるものではない。
【0032】
ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、水溶性大豆多糖類、アラビアガム、アラビノガラクタン、レシチン及び加工デンプン、及びその他の添加物は、同時に添加されてもよいし、順次添加されてもよい。
【0033】
またショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、水溶性大豆多糖類、アラビアガム、アラビノガラクタン、レシチン及び加工デンプン、及びその他の添加物は、いずれかを湿式摩砕処理の前に添加し、残りを湿式摩砕処理の後に添加してもよい。
【0034】
本発明の食品添加物用炭酸カルシウム製剤は、上記のようにして製造した炭酸カルシウムと乳化剤を含む水懸濁液を、乾燥及び粉末化したものであってもよい。乾燥及び粉末化は、乾燥を行った後に粉末化してもよいし、乾燥及び粉末化を同時に行ってもよい。
【0035】
乾燥及び粉末化に当たっては、公知の乾燥装置及び粉末化装置を広く使用することができる。本発明では、特に水懸濁液中のショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、水溶性大豆多糖類、アラビアガム、アラビノガラクタン、レシチン及び加工デンプン、及びその他の添加物などが、乾燥時の熱により変質して再懸濁効果がなくなったり、焦げ等による異臭発生が起こらないようにすることが好ましい。このため、乾燥温度は、120℃を超えないように管理することが好ましい。
【0036】
このような管理のできる乾燥・粉末化装置としては、気流乾燥機が知られており、本発明では乾燥・粉末化装置として気流乾燥機を使用するのが好ましい。このような気流乾燥機としては、例えばスプレードライヤー、フラッシュジェットドライヤー、ミクロンドライヤー、スラリードライヤーなどを挙げることができる。また、ドライマイスタとして市販されている強力分散型気流乾燥機を使用することもできる。
【0037】
乾燥・粉末化に当たっては、得られる食品添加物用炭酸カルシウム乾燥組成物の残留水分量が、好ましくは0.2〜5質量%、さらに好ましくは0.2〜3質量%の範囲内になるよう、乾燥・粉末化装置の乾燥条件を調整する。残留水分量を上記範囲に調整しておくと、本発明の食品添加物用炭酸カルシウム乾燥組成物を再び水懸濁液とした場合、再懸濁化が容易になり、また乾燥前の炭酸カルシウム水懸濁液と殆ど変わらない分散性、懸濁安定性を有する再水懸濁液とすることができる。
【0038】
(水産練り製品の製造方法)
本発明の炭酸カルシウムを用いた水産練り製品の製造方法では、炭酸カルシウムをすり身に添加し、pHを7.0〜8.0に調整した後、炭酸カルシウムを添加したすり身を成型し、加熱することが好ましい。pHの値が低すぎると、カルシウムイオンの作用を十分に得ることができない場合がある。pHの値が高すぎると、すり身の強度が低下する場合がある。
【0039】
水産練り製品には、原料となる魚肉すり身の他、澱粉、食塩、糖類、調味料、油脂、着色料など公知のものを添加することができる。水産練り製品としては、例えば、蒲鉾、さつま揚げ、ちくわ、はんぺん、魚肉ソーセージ等が挙げられる。但し、本発明の水産練り製品は、これらに限定されるものではない。
【0040】
本発明の水産練り製品の製造方法では、水産練り製品の形状に合わせて、炭酸カルシウムを添加したすり身を成型し、その後加熱する。加熱温度は、特に限定されるものではなく、原料及び最終製品である水産練り製品に応じて、適宜決定される。
【0041】
本発明の炭酸カルシウムは、微細な炭酸カルシウム粒子、それによって形成される空隙、炭酸カルシウムに含まれるカルシウムイオンの作用により、すり身に十分な弾力を付与することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例によって、より具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0043】
<BET比表面積の影響についての検討>
(炭酸カルシウムの合成)
(実施例1)
濃度7.5質量%、温度16℃に調整した水酸化カルシウム水懸濁液1000kgを反応容器に入れ、これに濃度35容量%の炭酸ガスを水酸化カルシウム1kg当たり流速14リットル/分で吹き込み、炭酸化率98%まで炭酸化した。次いで、濃度7.5質量%に調整した水酸化カルシウム水懸濁液100kgを添加し、濃度30容量%の炭酸ガスを水酸化カルシウム1kg当たり流速42リットル/分で吹き込み、pH7.0以下まで炭酸化した。得られた炭酸カルシウムをプレス脱水機により母液を分離した後、乾燥・粉砕して、本発明の炭酸カルシウム約111kgを得た。得られた炭酸カルシウムのBET比表面積は33m/gであり、全体の空隙容積に対する空隙径0.1μm以下の空隙容積の割合は37%であった。
【0044】
BET比表面積は、窒素ガスを使用するBET法により求めた。
【0045】
空隙径0.1μm以下の空隙容積の割合は、水銀圧入法によるポロシメーターを用い、空隙径分布曲線(0.01〜10μm)における全体の空隙容積に対する空隙径0.1μm以下の空隙容積の割合を算出することにより求めた。
【0046】
(実施例2)
初期の水酸化カルシウムの温度を18℃とし、水酸化カルシウムを添加する工程を2回繰り返すこと以外は、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを製造した。得られた炭酸カルシウムのBET比表面積は25m/gであり、全体の空隙容積に対する空隙径0.1μm以下の空隙容積の割合は35%であった。
【0047】
(実施例3)
初期の水酸化カルシウムの温度を14℃とする以外は、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを製造した。得られた炭酸カルシウムのBET比表面積は38m/gであり、全体の空隙容積に対する空隙径0.1μm以下の空隙容積の割合は40%であった。
【0048】
(比較例1)
初期の水酸化カルシウムの温度を20℃とする以外は、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを製造した。得られた炭酸カルシウムのBET比表面積は16m/gであり、全体の空隙容積に対する空隙径0.1μm以下の空隙容積の割合は35%であった。
【0049】
(比較例2)
初期の水酸化カルシウムの温度を10℃とする以外は、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを製造した。得られた炭酸カルシウムのBET比表面積は47m/gであり、全体の空隙容積に対する空隙径0.1μm以下の空隙容積の割合は32%であった。
【0050】
(食品添加物用炭酸カルシウム製剤の調製及び乳飲料としての評価)
実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた炭酸カルシウムを用いて、濃度30質量%の炭酸カルシウム水懸濁液を調製した。この炭酸カルシウム水懸濁液に、炭酸カルシウム100質量部に対して、アラビアガムを5質量部となるように、添加混合し、得られた水懸濁液を湿式摩砕することにより食品添加物用炭酸カルシウム製剤を調製した。
【0051】
得られた食品添加物用炭酸カルシウム製剤に、水、脱脂粉乳、クリームを混合し、高圧ホモジナイザーにて乳化し、続いて殺菌を行い乳飲料を調製した。配合割合は、炭酸カルシウム水懸濁液0.3質量%、水87.6質量%、脱脂粉乳9.5質量%、クリーム2.6質量%とした。
【0052】
得られた乳飲料について、以下のようにして、分散性を測定した。
【0053】
(分散性) 調製した乳飲料を牛乳瓶2本(180g)に取り、冷蔵庫中で静置し、保管した。静置7日後、牛乳瓶を開封し、牛乳瓶を静かに傾けて液体分を捨てた。牛乳瓶を逆さにし、牛乳瓶の底の写真を直後及び5分後に撮影し、その状態を目視による以下の基準で評価した。評価結果を表1に示す。
【0054】
1:分散性が良い(瓶底にほとんど残らない)
2:分散性がやや良い(瓶底に沈殿物がわずかに円状に残る)
3:分散性が普通(瓶底に沈殿物が円状に残る)
4:分散性がやや悪い(瓶底全面に沈殿物が残る)
5:分散性が悪い(瓶底全面に沈殿物が残り、瓶側面にも垂れる)
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、本発明に従う実施例1〜3の食品添加物用炭酸カルシウム製剤は、乳飲料に用いた場合に、分散性が良好であり、従って、本発明の食品添加物用炭酸カルシウム製剤は、乳飲料に添加した場合に、沈降しにくく、分散性に優れることがわかる。
【0057】
<空隙容積の影響についての検討>
(炭酸カルシウムの合成)
(実施例4)
水酸化カルシウム水懸濁液の添加量を80kgに変更すること以外は、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを製造した。得られた炭酸カルシウムのBET比表面積は30m/gであり、全体の空隙容積に対する空隙径0.1μm以下の空隙容積の割合は32%であった。
【0058】
(比較例3)
実施例1と同様に、濃度7.5質量%、温度16℃に調整した水酸化カルシウム水懸濁液1000kgを反応容器に入れ、これに濃度35容量%の炭酸ガスを水酸化カルシウム1kg当たり流速14リットル/分で吹き込み、そのままpHが7.0以下になるまで炭酸化して、炭酸カルシウムを製造した。得られた炭酸カルシウムのBET比表面積は30m/gであり、全体の空隙容積に対する空隙径0.1μm以下の空隙容積の割合は25%であった。
【0059】
(食品添加物用炭酸カルシウム製剤の調製及び乳飲料としての評価)
比較例4の炭酸カルシウムとして、市販の炭酸カルシウム(商品名「ポアカル」、太陽化学工業(株)社製、BET比表面積;25m/g、全体の空隙容積に対する空隙径0.1μm以下の空隙容積の割合;18%)を用いた。
【0060】
実施例1及び4並びに比較例3及び4の炭酸カルシウムを用いて、濃度30質量%の炭酸カルシウム水懸濁液を調製した。この炭酸カルシウム水懸濁液に、炭酸カルシウム100質量部に対して、ポリグリセリン脂肪酸エステルを3質量部、ショ糖脂肪酸エステルを10重量部となるように、添加混合し、得られた水懸濁液を湿式摩砕することにより食品添加物用炭酸カルシウム製剤を調製した。これらを乳飲料に用いて上記と同様にして評価した。評価結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2に示すように、本発明に従う実施例1及び4の食品添加物用炭酸カルシウム製剤は、乳飲料に用いた場合に、分散性が良好であり、従って本発明の食品添加物用炭酸カルシウム製剤は、乳飲料に添加した場合に、沈降しにくく、分散性に優れることがわかる。
【0063】
(水産練り製品としての評価)
実施例1〜4及び比較例1〜4の炭酸カルシウムを、すり身に配合して水産練り製品を製造した。
【0064】
具体的には、すり身100質量部に対し、水40質量部、炭酸カルシウム1質量部、食塩3質量部、及び澱粉5質量部を添加した。配合方法は、冷凍のすり身をフードプロセッサーで荒摺りした後、食塩を添加し、塩摺りを行った。すり身が十分に溶けたら、炭酸カルシウム、澱粉、水を添加し、本摺りを行った。摺り終わり後に折径48mmの塩化ビニリデンケーシングに充填、30℃の温水中で60分の坐りを行った後、90℃で30分のボイル加熱を行った。急冷後、一晩10℃で冷蔵庫に保存した後、25mmの輪切りにした。
【0065】
得られた水産練り製品について、以下のようにゼリー強度を測定して評価した。
【0066】
(ゼリー強度)
直径5mmφのブランジャの押し込みで、破断荷重(g)、凹値(cm)を測定した。破断荷重と凹値を積算した値をゼリー強度(g・cm)とし、炭酸カルシウムを配合していない場合(ブランク)のゼリー強度を100として、ブランクからのゼリー強度の増加率を、以下の通り算出した。
【0067】
ゼリー強度増加率(%)= 炭酸カルシウムを配合した場合のゼリー強度 × 100/ブランクのゼリー強度
【0068】
評価結果を表3及び表4に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
表3及び表4に示すように、本発明に従う実施例1〜4の食品添加物用炭酸カルシウム製剤は、水産練り製品に用いて、高いゼリー強度を示している。従って、本発明の食品添加物用炭酸カルシウム製剤は、水産練り製品に添加した場合に、良好な弾力性を付与することができる。