特許第6959684号(P6959684)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6959684MRSに特異的に結合するモノクローナル抗体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6959684
(24)【登録日】2021年10月12日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】MRSに特異的に結合するモノクローナル抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20211025BHJP
   C07K 16/40 20060101ALI20211025BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20211025BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20211025BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20211025BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20211025BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20211025BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20211025BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20211025BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   C12N15/13
   C07K16/40ZNA
   C07K16/18
   C12N15/63 Z
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12P21/08
   G01N33/574 A
【請求項の数】14
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2020-513475(P2020-513475)
(86)(22)【出願日】2018年5月11日
(65)【公表番号】特表2020-520250(P2020-520250A)
(43)【公表日】2020年7月9日
(86)【国際出願番号】KR2018005442
(87)【国際公開番号】WO2018208121
(87)【国際公開日】20181115
【審査請求日】2020年1月9日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0058896
(32)【優先日】2017年5月11日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519402007
【氏名又は名称】オンコターク ダイアグノスティクス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、スンフン
(72)【発明者】
【氏名】クォン、ナム フン
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−532957(JP,A)
【文献】 特表2013−534413(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0292921(US,A1)
【文献】 Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2011年,Vol.108, No.49,pp.19635-19640
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−15/90
C07K 1/00−19/00
C12P 1/00−41/00
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で示される、ヒト由来MRS(methionyl-tRNA synthetase)タンパク質の861番目乃至900番目のアミノ酸で示される断片に特異的に結合することを特徴とする、抗体又はその断片。
【請求項2】
前記抗体又はその断片は、配列番号3で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1と、配列番号5で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2と、配列番号7で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3とを含む軽鎖可変領域、及び、配列番号9で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1と、配列番号11で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2と、配列番号13で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3とを含む重鎖可変領域;並びに、
配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1と、配列番号17で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2と、配列番号19で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3とを含む軽鎖可変領域、及び、配列番号21で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1と、配列番号23で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2と、配列番号25で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3とを含む重鎖可変領域
からなる群から選択される重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含むことを特徴とする、請求項記載の抗体又はその断片。
【請求項3】
前記抗体又はその断片は、配列番号27で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号29で示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを含むか、又は、配列番号31で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号33で示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを含むことを特徴とする、請求項2記載の抗体又はその断片。
【請求項4】
前記抗体は、IgG、IgA、IgM、IgE、及びIgDからなる群から選択され、前記断片は、ディアボディ、Fab、Fab'、F(ab)2、F(ab')2、Fv及びscFvからなる群から選択されることを特徴とする、請求項2記載の抗体又はその断片。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれかに記載の抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項記載のポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクター。
【請求項7】
請求項記載の組換え発現ベクターで形質転換された細胞。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれかに記載の抗体又はその断片を発現する細胞。
【請求項9】
(a)請求項又は記載の細胞をマウスの腹腔内に注射する段階;
(b)腹腔が膨らんだマウスから腹水液を採取する段階;及び
(c)前記腹水液からMRSに特異的に結合するモノクローナル抗体を分離する段階を含む、ヒトのMRS(methionyl-tRNA synthetase)に結合するモノクローナル抗体の生産方法。
【請求項10】
請求項1記載の抗体又はその断片を、試料と接触させる段階、及び、前記抗体又はその断片を検出する段階を含む、ヒト由来MRS(methionyl-tRNA synthetase)タンパク質の特異的検出方法。
【請求項11】
請求項1記載の抗体又はその断片を有効成分として含むがん診断用組成物。
【請求項12】
前記がんは、胆道癌、乳癌、大腸癌、肺癌、小細胞肺癌、胃癌、肝臓癌、血液癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭部又は頸部癌、皮膚又は眼球内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門癌、結腸癌、乳癌、卵管癌、子宮内膜癌腫、子宮頸部癌、膣癌、陰門癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌腺癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、慢性又は急性白血病、リンパ球リンパ腫、膀胱癌、腎臓又は輸尿管癌、腎臓細胞癌腫、腎臓骨盤癌腫、CNS腫瘍、CNS原発リンパ腫、脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫及び脳下垂体腺腫からなる群から選択されることを特徴とする、請求項11記載のがん診断用組成物。
【請求項13】
がん診断用製剤を製造するための請求項1記載の抗体又はその断片の使用。
【請求項14】
請求項1記載の抗体又はその断片の有効量を、これを必要とする個体(ヒトを除く)に投与することを特徴とする、がんの診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2017年5月11日に出願された韓国特許出願第10-2017-0058896号に基づく優先権を主張し、前記明細書全体は参照により本出願に援用する。
【0002】
本発明は、MRSに特異的に結合するモノクローナル抗体に関するもので、より詳細には、配列番号1で示されるヒト由来のMRS(methionyl-tRNA synthetase)タンパク質の861番目乃至900番目のアミノ酸で示される断片に特異的に結合することを特徴とする抗体又はその断片、これを生産する方法及びこれを含むがん診断用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0003】
アミノアシル−tRNA合成酵素(Aminoacyl-tRNA synthetase(ARS))は、特定のアミノ酸を、その該当するtRNAに貼り付ける役割をする酵素であり、高等生物の場合、アミノ酸の種類に応じた20個の酵素の他に、AIMP1(p43)、AIMP2(p38)、AIMP3(p18)等の多元合成酵素複合体(multisynthetase complex)形成に関与する3種類を含めて23種の酵素で構成されており、多元合成酵素複合体に参与する酵素の他に、幾つかは遊離形態(free form)でも存在する。しかし、最近に至って、基本的な機能の他に、特定の環境で多様な他の活性機能を有していることが報告され、MRSがその中の一つである。MRSは、翻訳のためのイニシエーター(initiator)及びエロンゲーター(elongator)tRNAMetにメチオニンを結合する必須酵素である。Met-tRNAMetは、タンパク質重合反応の開始及びポリペプチドの延長に必ず必要なため、翻訳だけでなく、潜在的に他の生物学的過程を調節する決定的な位置にある。例えば、MRSは、酸化ストレスに反応して、tRNAに対する特異性を調節して、合成中のポリペプチド鎖により多くのメチオニンが挿入されるようにして、増加したメチオニンが活性酸素種を除去することができるようにする(Lee et al., 2014; Wiltrout et al., 2012)。MRSはまた、多様な疾患で関与することが最近明らかになっている。UVを照射すると、MRSの酵素活性は、S662の位置がGCN2依存的にリン酸化されながら抑制され、翻訳の開始反応が阻害される(Kang et al., 2012; Kwon et al., 2011)。MRSがリン酸化されると、MRSに結合している腫瘍インヒビターのAIMP3と分離され、分離されたAIMP3は、DNAを復旧するために核内に移動する。このような脈絡において、MRSは、UV照射によるDNA損傷反応と翻訳抑制を調整するリンカーの役割をするものと見なせる(Kwon et al., 2011)。
【0004】
一方、MRSを始めとするARSに対するバイオマーカーとしての重要性にもかかわらず、ARSは、タンパク質構造上類似点が多く、動物から免疫反応により得られる抗体は、他のARSにも結合する交差反応を示し、最初から高感度の抗体が生成されない場合が多い。本発明の抗体は、優れた感度とARS間の交差反応がない点で、研究用だけでなく、診断用及び産業上の利用可能性が高い抗体と予想される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
[発明の詳細な説明]
[技術課題]
ここに本発明者らは、MRSに特異的に結合する抗体を研究する中で、ハイブリドーマ細胞を利用した抗体生産方法で製作された抗体が、他のARS間の交差反応がなく、MRSに特異的に結合することを明らかにして本発明を完成した。
【0006】
従って、本発明の目的は、配列番号1で示されるヒト由来MRSタンパク質の861番目乃至900番目のアミノ酸で示される断片に特異的に結合することを特徴とする抗体又はその断片を提供することである。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、前記本発明に係る抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクター及び前記組換え発現ベクターで形質転換された細胞を提供することである。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、
(a)前記抗体を生産する細胞をマウスの腹腔内に注射する段階;
(b)腹腔が膨れ上がったマウスから腹水液を採取する段階;及び
(c)前記腹水液からMRSに特異的に結合するモノクローナル抗体を分離する段階を含む、ヒトのMRS(methionyl-tRNA synthetase)に結合するモノクローナル抗体の生産方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、前記抗体又はその断片を試料と接触させる段階及び前記抗体又はその断片を検出する段階を含む、ヒト由来MRS(methionyl-tRNA synthetase)タンパク質の特異的検出方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、前記抗体又はその断片を有効成分として含むがん診断用組成物を提供することである。
【0011】
また、本発明のさらに他の目的は、前記抗体又はその断片からなるがん診断用組成物を提供することである。
【0012】
また、本発明のさらに他の目的は、本質的に、前記抗体又はその断片からなるがん診断用組成物を提供することである。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、がん診断用製剤を製造するための、前記抗体又はその断片の使用を提供することである。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、前記抗体又はその断片の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とするがん診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
[技術的解決方法]
前記のような目的を達成するために、本発明は、配列番号1で示されるヒト由来MRS(methionyl-tRNA synthetase)タンパク質の861番目乃至900番目のアミノ酸で示される断片に特異的に結合することを特徴とする抗体又はその断片を提供する。
【0016】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、前記本発明に係る抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクター及び前記組換え発現ベクターで形質転換された細胞を提供する。
【0017】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、
(a)前記抗体を生産する細胞をマウスの腹腔内に注射する段階;
(b)腹腔が膨れ上がったマウスから腹水液を採取する段階;及び
(c)前記腹水液からMRSに特異的に結合するモノクローナル抗体を分離する段階を含む、ヒトのMRS(methionyl-tRNA synthetase)に結合するモノクローナル抗体の生産方法を提供する。
【0018】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、前記抗体又はその断片を試料と接触させる段階及び前記抗体又はその断片を検出する段階を含む、ヒト由来MRS(methionyl-tRNA synthetase)タンパク質の特異的検出方法を提供する。
【0019】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、前記抗体又はその断片を有効成分として含むがん診断用組成物を提供する。
【0020】
また、本発明は、前記抗体又はその断片からなるがん診断用組成物を提供する。
【0021】
また、本発明は、本質的に、前記抗体又はその断片からなるがん診断用組成物を提供する。
【0022】
本発明のさらに他の目的を達成するために、がん診断用製剤を製造するための抗体又はその断片の使用を提供する。
【0023】
本発明のさらに他の目的を達成するために、前記抗体又はその断片の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とするがん診断方法を提供する。
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明は、配列番号1で示されるヒト由来MRS(methionyl-tRNA synthetase)タンパク質の861番目乃至900番目のアミノ酸で示される断片に特異的に結合することを特徴とする抗体又はその断片を提供する。
【0026】
本発明で“MRS(methionyl-tRNA synthetase)”とは、ARSの一種で、転写(translation)を開始し、メチオニン(Met)をtRNAに転移させるのに最も重要な酵素である。MRSは、核内でリボソームRNA(ribosomal RNA)の合成を増加させて、mTORC1、GCN2、CDK4、及びVEGFRのような多様なシグナル伝達物質と相互作用をする。紫外線でDNA損傷を与えると、MRSは、アミノアシル-tRNA合成酵素相互作用多機能タンパク質3(aminoacyl-tRNA synthetases-interacting multifunctional protein 3、AIMP3)から分離されて、AIMP3は損傷されたDNAに結合して転写を調節する。
【0027】
本発明で“抗体(antibody)”とは、ジスルフィド結合によって、互いに接続された少なくとも二つの重鎖(H)及び二つの軽鎖(L)を含む糖タンパク質を指す。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(以下、HCVR又はVHと略記)及び重鎖不変領域からなる。重鎖不変領域は、3つのドメイン、CH1、CH2及びCH3からなる。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(以下、LCVR又はVLと略記)及び軽鎖不変領域からなる。軽鎖不変領域は、一つのドメインCLからなる。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が散在した超可変性領域(相補性決定領域(CDR)と称される)であり、さらに細分することができる。VH及びVLのそれぞれは、下記の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端に配列された、3つのCDR及び4つのFRからなる。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の不変領域は、免疫系の多様な細胞(例えば、エフェクター細胞)及び伝統的な相補系の最初の成分(C1q)を含み、宿主組織又は因子に対する免疫グロブリンの結合を媒介することができる。
【0028】
本発明の1E8抗体及び8A12抗体は、ヒト由来MRSタンパク質の861番目乃至900番目のアミノ酸を含む断片に特異的に結合する。好ましくは、ヒト由来MRSタンパク質に結合する本発明の1E8抗体及び8A12抗体が結合する部位であり、配列番号39で示されるアミノ酸を含む連続する領域であれば、その具体的配列が特に制限されず、通常、配列番号39のアミノ酸配列を含めて40乃至900個、さらに好ましくは40乃至80個、具体的には、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、又は80個のアミノ酸の配列からなる断片でもある。最も好ましくは、ヒトのMRSタンパク質に由来したものである、配列番号39で示されるアミノ酸配列でもある。
【0029】
本発明の一実施例では、MRSタンパク質の598-900aa(配列番号46)、660-860aa(配列番号47)、660-900aa(配列番号48)、730-900aa(配列番号49)位置の断片を作製して各断片をクローニングした後、ウエスタンブロットを行った結果、配列番号46、48、49番の断片は抗体を認識したが、配列番号47の断片は認識しないことを確認した。これにより、本発明の1E8抗体及び8A12抗体は、ヒト由来MRSタンパク質の861番目乃至900番目のアミノ酸断片(配列番号39)に特異的に結合することが確認できた(図6b参照)。
【0030】
本発明で提供する“ヒト由来MRSタンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片”は、
配列番号3又は配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1);配列番号5又は配列番号17で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2);配列番号7又は配列番号19で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む軽鎖可変領域(VL)及び
配列番号9又は配列番号21で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1);配列番号11又は配列番号23で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2);配列番号13又は配列番号25で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む軽鎖可変領域(VH);を含むことを特徴とする。
【0031】
本発明に係るヒト由来MRSタンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片は、好ましくは下記のような重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のCDR構成を含む抗体であって、下記(i)及び(ii)は、それぞれ実施例1E8及び8A12抗体のCDRの組み合わせを示す:
(i)配列番号3で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1と、配列番号5で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2と、配列番号7で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3とを含む軽鎖可変領域、及び、配列番号9で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1と、配列番号11で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2と、配列番号13で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3とを含む重鎖可変領域;並びに
(ii)配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1と、配列番号17で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2と、配列番号19で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3とを含む軽鎖可変領域、及び、配列番号21で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1と、配列番号23で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2と、配列番号25で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3とを含む重鎖可変領域;
からなる群から選択される重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含むことを特徴とする抗体又はその断片。
【0032】
最も好ましくは、本発明に係る前記抗体又はその断片は、前記軽鎖可変領域が、配列番号27(1E8 VL)又は配列番号31(8A12 VL)で示されるアミノ酸配列を含み、前記重鎖可変領域が、配列番号29(1E8 VH)又は配列番号33(8A12 VH)で示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする。
【0033】
本発明に係る前記抗体は、前記CDRの組み合わせや、VH及びVLの組み合わせを有するものであれば、その種類は制限されない。具体的には、前記抗体は、IgG、IgA、IgM、IgE、及びIgDからなる群から選択されるものでもあって、好ましくはIgG抗体でもある。
【0034】
本発明の抗体は、ヒト由来MRSタンパク質に特異的に結合する前記CDRの組み合わせや、VH及びVLの組み合わせを有するものであれば、モノクローナル(monoclonal)抗体でもあって、ポリクローナル(polyclonal)抗体でもあり得るが、抗体の重鎖と軽鎖のアミノ酸配列が実質的に同一な抗体の集団であるモノクローナル抗体であることが望ましい。
【0035】
本発明の抗体は、ヒトを含む哺乳動物、鳥類等を含む任意の動物に由来したものでもある。好ましくは、前記抗体は、ヒト、マウス、ロバ、羊、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、馬又は鶏の抗体でもある。より好ましくは、ヒトに由来したものか、ヒトに由来した抗体の部分と他の種の動物に由来した抗体の部分とを含むキメラ(chimeric)抗体でもある。すなわち、本発明は、キメラ抗体、ヒト化された抗体、ヒト抗体を全て含み、好ましくはヒト抗体でもある。
【0036】
ヒト抗体は、ヒトの免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体として、ヒトの免疫グロブリンライブラリから分離された抗体又は一つ以上のヒトの免疫グロブリンに対して形質移植され、内在的免疫グロブリンを発現していない動物から分離された抗体が含まれる(米国特許第5939598号を参照)。
【0037】
また、本発明で抗体の断片は、全体抗体の抗原特異的結合力を維持している抗体の断片を意味し、好ましくは、前記断片は、母抗体のMRSタンパク質結合親和性の少なくとも20%、50%、70%、80%、90%、95%又は100%又はそれ以上を保有する。具体的には、Fab、F(ab)2、Fab'、F(ab')2、Fv、ディアボディ(diabody)、scFv等の形態でもある。
【0038】
Fab(fragment antigen-binding)は、抗体の抗原結合断片であって、重鎖と軽鎖それぞれの一つの可変ドメインと不変ドメインで構成されている。F(ab')2は、抗体をペプシンで加水分解させて生成される断片であって、二つのFabが重鎖ヒンジ(hinge)で、二硫化結合(disulfide bond)で連結された形態をしている。F(ab')は、F(ab')2断片の二硫化結合を還元して分離させたFabに、重鎖のヒンジが付加された形態の単量体抗体断片である。Fv(variable fragment)は、重鎖と軽鎖それぞれの可変領域だけで構成された抗体断片である。scFv(single chain variable fragment)は、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)が、柔軟なペプチドリンカーで連結されている組換え抗体断片である。ディアボディ(diabody)は、scFvのVHとVLが極めて短いリンカーで連結されて互いに結合できず、同じ形態の他のscFvのVLとVHとそれぞれ結合して二量体を形成している形態の断片を意味し、本発明の目的上、抗体の断片は、ヒト由来MRSタンパク質に対する結合特異性を維持しているものであれば、構造や形態の制限はない。
【0039】
また、前述した本発明の抗体又はその断片は、酵素、蛍光物質、放射性物質及びタンパク質等と接合されたものでもあるが、これに限定されない。また、抗体に前記物質を接合する方法は当業界によく知られている。
【0040】
本発明は、前記抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチドを提供する。
【0041】
本明細書でポリヌクレオチドは、オリゴヌクレオチド又は核酸と記載されることもあり、DNA分子(例えば、cDNA又は核ゲノムDNA(genomic DNA))、RNA分子(例えば、mRNA)、ヌクレオチド類似体を使用して生成された前記DNA又はRNAの類似体(例えば、ペプチド核酸及び非自然的に発生するヌクレオチド類似体)及びこれらのハイブリッドが含まれる。前記ポリヌクレオチドは、単一鎖(single-stranded)又は二重鎖(double stranded)になることがある。
【0042】
前記ポリヌクレオチドは、前記MRSタンパク質に結合する抗体のCDR構成、又はVHとVLの構成を有する重鎖及び軽鎖からなる抗体を符号化する塩基配列を意味する。本発明のポリヌクレオチドは、本発明の抗体又はその断片を符号化するものであれば、その配列が特に制限されないものであって、先に説明した本発明に係る抗体で前述したCDR配列を符号化するポリヌクレオチドは、その配列が特に制限されないが、好ましくは、配列番号4(軽鎖CDR1)、配列番号6(軽鎖CDR2)、配列番号8(軽鎖CDR3)、配列番号10(重鎖CDR1)、配列番号12(重鎖CDR2)、配列番号14(重鎖CDR3)、配列番号16(軽鎖CDR1)、配列番号18(軽鎖CDR2)、配列番号20(軽鎖CDR3)、配列番号22(重鎖CDR1)、配列番号24(重鎖CDR2)又は配列番号26(重鎖CDR3)で示される塩基配列を含むものでもある。
【0043】
また、本発明に係る抗体から前述したVHとVLを符号化するポリヌクレオチドは、その配列が特に制限されないが、好ましくは配列番号28(VL)、配列番号30(VH)、配列番号32(VL)又は配列番号34(VH)で示される塩基配列を含むものでもある。
【0044】
本発明の抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチドは、当業界によく知られている方法によって得ることができる。例えば、前記抗体の重鎖及び軽鎖の一部又は全部を符号化するDNA配列又はそのアミノ酸配列に基づいて、当分野でよく知られているオリゴヌクレオチド合成法、例えば、重合酵素連鎖反応(PCR)法等を使用して合成することができる。
【0045】
本発明は、前記抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターを提供する。
【0046】
本発明で“組換え(recombinant)”とは、“遺伝子操作(genetic manipulation)”と互換して使用することができ、遺伝子に変形を加えて切断、連結する等、分子クローニング(molecular cloning)実験法を利用して、自然の状態では存在しない形態の遺伝子を製造することを意味する。
【0047】
本発明で“発現(expression)”とは、細胞からタンパク質又は核酸が生成されることを意味する。
【0048】
本発明で“組換え発現ベクター”とは、適切な宿主細胞(host cell)から目的とするタンパク質又は核酸(RNA)を発現することができるベクターとして、ポリヌクレオチド(遺伝子)挿入物が発現できるように、作動可能に連結された必須的な調節要素を含む遺伝子作製物を意味する。“作動可能に連結された(operably linked)”とは、一般的な機能を遂行するように、核酸発現調節配列と、目的とするタンパク質又はRNAを符号化する核酸配列とが機能的に連結(functional linkage)されているもので、発現調節配列によって遺伝子が発現できるように連結されたことを意味する。前記“発現調節配列(expression control sequence)”とは、特定の宿主細胞で、作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現を調節するDNA配列を意味する。そのような調節配列は、転写を実施するためのプロモーター、転写を調節するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位を符号化する配列、転写及び解読の終結を調節する配列、開始コドン、終結コドン、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサー等を含む。
【0049】
本発明の組換え発現ベクターは、クローニングの分野で通常的に使用されるベクターであればその種類は特に制限されず、その例としては、哺乳類発現ベクター(mammalian expression vector)、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクター及びウイルスベクター等を含むが、これらに制限されない。前記のプラスミドには、大腸菌由来のプラスミド(pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、及びpET-22b(+))、バチルスサブチリス由来のプラスミド(pUB110及びpTP5)及び酵母由来のプラスミド(YEp13、YEp24、及びYCp50)等があり、前記のウイルスは、レトロウイルス、アデノウイルス、又はワクシニアウイルスのような動物ウイルス、バキュロウイルスのような昆虫ウイルス等を使用することができる。
【0050】
従って、本発明に係る組換え発現ベクターは、ヒト由来MRSタンパク質に特異的に結合することができる前述したCDR、又はVHとVLの構成を有する重鎖及び軽鎖からなる抗体、又はその断片を符号化するポリヌクレオチドが適切な宿主細胞から発現できるように作動可能に連結された遺伝子作製物を意味する。
【0051】
本発明に係る抗体の重鎖と軽鎖を符号化するポリヌクレオチドは、それぞれ別々の組換え発現ベクターに含まれていることもあり、一つの組換え発現ベクターに含まれている場合もある。
【0052】
本発明は、前記組換え発現ベクターで形質転換された細胞を提供する。
【0053】
本発明の細胞は、本発明の組換え発現ベクターに含まれた抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチドの発現に使用することができる細胞であれば、その種類は特に制限されない。本発明に係る組換え発現ベクターで形質転換された細胞(宿主細胞)は、原核生物(例えば、大腸菌)、真核生物(例えば、酵母又は他の菌類)、植物細胞(例えば、タバコ又はトマトの植物細胞)、動物細胞(例えば、ヒトの細胞、サルの細胞、ハムスター(hamster)の細胞、ラットの細胞(rat cell)、マウスの細胞(mouse cell))、昆虫の細胞、又はこれらから由来したハイブリドーマでもある。好ましくはヒトを含む哺乳類から由来した細胞でもある。
【0054】
前記用語“形質転換(transformation)”とは、外来性ポリヌクレオチドが導入されたことによる宿主細胞の遺伝子型の変形を意味し、その形質転換に使用された方法と関係なく、外来性ポリヌクレオチドが宿主細胞内に導入されたことを意味する。宿主細胞内に導入された外来性ポリヌクレオチドは、宿主細胞のゲノム内に統合されて維持されるか、又は統合されずに維持されることもあって、本発明は両者の全てを含む。
【0055】
本発明に係るヒト由来MRSタンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片を発現することができる組換え発現ベクターは、当業界に公知された方法、例えば、これに限定はされないが、一過性形質感染(transient transfection)、微細注射、形質導入(transduction)、細胞融合、カルシウムホスフェート沈殿法、リポソーム媒介された形質感染(liposome-mediated transfection)、DEAEデキストラン媒介された形質感染(DEAE dextran-mediated transfection)、ポリブレン媒介された形質感染(polybrene-mediated transfection)、電気穿孔法(electroporation)、遺伝子銃(gene gun)及び細胞内に核酸を流入させるための公知の方法により、抗体又はその断片を生産するための細胞内部に導入して形質転換することができる。
【0056】
本発明は、(a)前記組換え発現ベクターで形質転換された細胞を、マウスの腹腔内に注射する段階;(b)腹腔が膨れ上がったマウスから腹水液を採取する段階;及び(c)前記腹水液からMRSに特異的に結合するポリクローナル抗体を分離する段階を含む、ヒトのMRSに結合するポリクローナル抗体の生産方法を提供する。
【0057】
本発明の形質転換された細胞は、本発明の抗体又はその断片を発現するハイブリドーマ細胞でもある。
【0058】
本発明の一実施例では、骨髄腫細胞(myeloma cell)と、MRSに対して免疫化されたマウスのB細胞にPEGを処理して融合し、HT培地で37℃、5%CO2の条件で、培養器で3時間培養した(実施例1-3参照)。
【0059】
本発明は、前記抗体又はその断片を試料と接触させる段階、及び前記の抗体又はその断片を検出する段階を含む、ヒト由来MRS(methionyl-tRNA synthetase)タンパク質の特異的検出方法を提供する。
【0060】
本発明の抗体又はその断片は、ヒト由来MRSタンパク質と特異的に結合するので、例えば、特定の細胞、組織、又は血清中のMRSタンパク質を検出して定量するための診断分析に有用である。
【0061】
本発明の前記検出方法は、本発明に係る抗体又はその断片を試料と接触させる前に、本発明に係る抗体又はその断片を利用して、MRSの有無と濃度を測定するための試料を準備する段階((1)段階)を含むことができる。
【0062】
通常の技術者は、抗体を利用してタンパク質を検出する公知の方法を適宜選択し、選択された方法に適合するように試料を準備することができる。前記抗体を利用してタンパク質を検出する方法とは、これに制限されているものではないが、例えばウエスタンブロット、免疫ブロット、ドットブロット、免疫組織化学染色(immunohistochemistry)、免疫細胞化学染色(immunocytochemistry)、酵素免疫分析(ELISA)、放射能免疫検定法(radioimmunoassay)、競争的結合分析、免疫沈殿等がある。例えばウエスタンブロットを実施するためには、試料又は細胞の溶解物に電気泳動に適したバッファを添加して沸騰させる等の方法で準備することができ、免疫組織化学染色及び免疫細胞化学染色のためには、細胞や組織の切片を固定してブロッキング(blocking)する等の前処理を行うことができる。
【0063】
次に、本発明に係る抗体又はその断片を、前述した段階で準備した試料と接触させる段階((2)段階)を遂行する。
【0064】
本発明に係る抗体は、先に述べたCDR、又はVHとVLの構成を有し、ヒト由来MRSタンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片であって、その具体的な種類と配列の構成については前述した通りである。
【0065】
前記抗体又はその断片は、“検出”のために、一般的に検出可能な部分(moiety)で標識することができる。例えば、文献[Current Protocols in Immunology, Volumes 1 and 2, 1991, Coligen, et al., Ed. Wiley-Interscience, New York, NY, Pubs]に記載された技術を利用して、放射性同位元素又は蛍光標識で標識することができる。あるいは、多様な酵素基質標識が利用可能であり、前記酵素標識の例は、ショウジョウバエルシフェラーゼ(米国特許第4737456号)等のルシフェラーゼ、ルシフェリン(luciferin)、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、マレートデヒドロゲナーゼ、ウレアーゼ(urase)、ホースラディシュパーオキシダーゼ(HRPO)等のパーオキシダーゼ、アルカリンホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカライドオキシダーゼ(例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ)、ヘテロサイクリックオキシダーゼ(例えば、ウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼ)、ラクトパーオキシダーゼ、マイクロパーオキシダーゼ等を含む。抗体に酵素を接合させる技術は、例えば、文献[O'Sullivanet al., 1981, Methods for the Preparation of Enzyme-Antibody Conjugates for use in Enzyme Immunoassay, in Methods in Enzym.(J. Langone&H. Van Vunakis, eds.), Academic press, NY, 73:147-166]に記載されている。標識は、多様な公知の技術を利用して、抗体に、直接又は間接的に接合することができる。例えば、抗体は、ビオチン(biotin)に接合することができ、前記に記載された3種の広範囲なカテゴリに属する任意の標識が、アビジンに、又はその反対に接合することができる。ビオチンは、アビジン(avidin)に選択的に結合し、従って、この標識は、このような間接的な方法で抗体に接合することができる。あるいは、抗体の標識の間接的接合を達成するために、抗体は、小さいハプテン(hapten)(例えば、ジゴキシン[digoxin])と接合することができ、前記に記載された相異する類型の標識の一つが抗ハプテン抗体に接合することができる(例えば、抗ジゴキシン抗体)。従って、抗体に対する標識の間接的接合が達成できる。
【0066】
本発明で“接触(contacting)”とは、その一般的な意味で使用されるものであり、2つ以上の物質を混合、結合、又は、互いに当接することを意味する。前記接触は試験管内(in vitro)又は他のコンテナ(container)で実行することができ、また、インシチュ(in situ)、生体内、個体内、組織内、細胞内で行うことができる。
【0067】
次には、前記(2)段階遂行後の試料から本発明に係る抗体又はその断片を検出する段階((3)段階)を遂行する。
【0068】
前記“検出”とは、試料内で形成された本発明に係る抗体又はその断片と抗原の複合体を対象とするものであり、MRSタンパク質の存在の有無の検出又は前記タンパク質の水準を測定(定性的又は定量的測定をすべて含む)することを意味する。従って、前記(2)段階を行った後、後述する検出段階((3)段階)の前に、MRSヒト由来タンパク質と複合体を形成していない余分な抗体又はその断片を除去する段階が追加的に含まれる。
【0069】
前述した(2)段階で使用された抗体又はその断片が、蛍光、放射性同位元素、酵素等で直接標識される等の検出可能な部分を含む場合には、その部分を検出する当業界に公知された方法で検出を行うことができる。一例として放射能は、例えば、シンチレーション計数(scintillation counting)によって測定することができ、蛍光は蛍光計を用いて定量することができる。
【0070】
また、前述した(2)段階で使用された抗体又はその断片が独自で、前述した検出部分を含まない場合には、当業界で知られている通り、蛍光、放射能、酵素等で標識された二次抗体を利用して間接的に感知することができる。前記二次抗体は、本発明による抗体又はその断片に結合する。
【0071】
また、本発明は、前記抗体又はその断片を有効成分として含むがん診断用組成物を提供する。
【0072】
また、本発明は、前記抗体又はその断片からなるがん診断用組成物を提供する。
【0073】
また、本発明は、本質的に、前記抗体又はその断片からなるがん診断用組成物を提供する。
【0074】
本発明で前記がんは、当業界に悪性腫瘍として知られたものであれば、その種類は特に制限されないが、好ましくは肺癌、膵臓癌、又は胆道癌でもある。
【0075】
本発明に係るがんの診断は、生物学的試料の中でMRSタンパク質を検出することにより行うことができる。
【0076】
本発明において、用語“診断”とは、病理状態の存在又は特徴を確認することを意味する。本発明で前記診断は、がん等の発症の有無、発症の可能性(危険性)を確認することである。
【0077】
本発明において、前記“がん”は、胆道癌、乳癌、大腸癌、肺癌、小細胞肺癌、胃癌、肝臓癌、血液癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭部又は頸部癌、皮膚又は眼球内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門癌、結腸癌、卵管癌腫、子宮内膜癌腫、子宮頸癌、膣癌、陰門癌腫、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌腺、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、慢性又は急性白血病、リンパ球リンパ腫、膀胱癌、腎臓又は輸尿管癌、腎細胞癌腫、腎骨盤癌腫、CNS腫瘍、CNS原発リンパ腫、脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫又は脳下垂体腺腫でもあって、より好ましくは肺癌、膵臓癌、又は胆道癌でもある。
【0078】
本発明において、用語“検出”とは、前述した通りであり、前記生物学的試料は、血液及び生物学的起源のその他の液状試料、生検標本、組織培養のような固形組織試料又はそれに由来した細胞が含まれる。より具体的には、例えば、これに限定はされないが、組織、抽出物、細胞溶解物、全血、血漿、血清、唾液、眼球液、脳脊髄液、汗、尿、乳液、腹水液、滑液、腹膜液等でもある。前記試料は、動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくは、ヒトから得ることができる。前記試料は、検出に使用する前に前処理することができる。例えば、ろ過、蒸留、抽出、濃縮、妨害成分の不活性化、試薬の添加等を含むことができる。また、前記試料から核酸及びタンパク質を分離して検出に利用することができる。
【0079】
本発明に係る抗体又はその断片は、診断キットとして提供することができ、前記キットは、当業界に抗体又は特定の結合ドメインを有するペプチドを構成品として提供する分析キットとして知られたものであれば、その種類は特に制限されないが、例えば、ウエスタンブロット、ELISA、放射性免疫分析法、放射免疫拡散法、オクタロニー免疫拡散法、ロケット免疫電気泳動、組織免疫染色、免疫沈降分析法、補体固定分析法、FACS又はタンパク質チップ用キット等を含む。
【0080】
本発明の抗体又はその断片は、前記キット、すなわち診断、分析を行うための診断キットから、使用説明書と共に、予め指定された量で試薬が包装された組み合わせで使用することができる。抗体が酵素で標識された場合に、キットは、基質及び発色団又は蛍光団を提供する基質前駆体として酵素により要求される補因子(cofactor)を含むことができる。また、安定化剤、緩衝液(例えば、遮蔽緩衝液、溶解緩衝液)等のような他の添加剤が含まれることもある。様々な試薬の相対的な量は、分析の敏感度を十分に最適化させる試薬の溶液内濃度を提供するために幅広く変化することができる。試薬は、溶解時に適切な濃度を有する試薬溶液を提供する賦形剤を含む、一般的に凍結乾燥された乾燥粉末として提供することができる。
【0081】
本発明の一実施例で、大腸菌を利用してMRS-AIMP3タンパク質を製造し、MRS-AIMP3タンパク質をマウスの腹腔内に注射して免疫化した後、血液及びB細胞を抽出した。その次に前記で得られたB細胞と骨髄腫細胞にPEGを処理して融合し、ハイブリドーマ細胞を製造して、ELISA及びウエスタンブロットでスクリーニングして、MRSだけを認識するハイブリドーマ細胞を選択した。次に、最終的に“1E8”及び“8A12”クローンを確保した(実施例1参照)。
【0082】
本発明のさらに他の実施例で、前記ハイブリドーマ細胞をマウスの腹腔内に投与した。その後、マウスの腹腔に腹水がいっぱいになったとき、注射を利用して腹水を抽出し、遠心分離した後、上澄み液のみを分離した。その次にprotein Aをカラムに詰めて洗浄した後、腹水液をリン酸塩緩衝液で希釈した後、protein Aカラムにローディングして各分画を溶出した(実施例2参照)。
【0083】
本発明のさらに他の一実施例で、ハイブリドーマ細胞から得られた1E8抗体及び8A12抗体を1:5000に希釈して、si-MRSを処理したH460細胞の細胞溶出液を利用してウエスタンブロットを行った結果、1E8抗体及び8A12抗体がMRSに結合することを確認することができ、二種類のsi-MRS処理を通じて、その抗体がMRSを特異的に認識することを確認した(実施例3-1及び図1参照)。
【0084】
本発明のさらに他の一実施例で、96ウェルプレートにHis-MRS、MRS full、DX2 tag free、34S-DX2、34S-AIMP2、His-CRS、His-AIMP1、His-GRS、His-WRS、His-KRSをコーティングした後、1E8抗体(図2A)及び8A12抗体(図2B)を利用してELISAを行った結果、1E8抗体及び8A12抗体がMRSにのみ結合して反応し、他のARSタンパク質及びAIMPタンパク質には反応しないことを確認することができた(実施例3-2、図2a及び図2b参照)。
【0085】
本発明のさらに他の一実施例で、1E8抗体及び8A12抗体とMRS+AIMP3タンパク質を利用して、SPR(Surface plasmon resonance、表面プラズモン共鳴)の実験を行った結果、1E8抗体(図3a及び図3b)及び8A12抗体(図4a及び図4b)が、MRS+AIMP3タンパク質には結合するが、同じAIMP3タンパク質には結合しないので、MRS抗体の親和性が高いことが確認できた(実施例3-3、図3a図3b図4a及び図4b参照)。
【0086】
本発明のさらに他の実施例で、カバーガラスにPanc-1細胞を培養した後、1E8抗体及び8A12抗体を1:200に希釈して処理した後、2次抗体を1:200に希釈して処理して反応させた後、DAPIで染色し、蛍光顕微鏡で観察した結果、本発明で得られた1E8抗体及び8A12抗体がPanc-1細胞の表面に結合することが確認できた(実施例4及び図5参照)。
【0087】
本発明のさらに他の実施例において、MRSタンパク質からそれぞれ長さと位置が異なる6つの断片を製作して、ベクターにクローニングした後、H640細胞に形質感染させて培養した。その後、細胞からタンパク質を収得して、1E8抗体及び8A12抗体を利用してウエスタンブロットを行った結果、1E8抗体及び8A12抗体が全て5番(598-900aa)、6番断片(298-900aa)に結合することを確認した(図6a参照)。その後、MRSタンパク質の598-900aa部分を4つの断片に製作して、前記のような方法でウエスタンブロットを行った結果、1E8抗体及び8A12抗体が5番(598-900aa)、8番(660-900aa)、9番(730-900aa)断片に結合することを確認した(実施例5、図6a及び図6b参照)。
【0088】
本発明は、がん診断用製剤を製造するための前述した本発明の抗体又はその断片の使用を提供する。
【0089】
本発明は、前述した本発明の抗体又はその断片の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とするがんの診断方法を提供する。
【0090】
本発明の前記“有効量”とは、個体に投与したとき、がんの改善、治療、予防、検出又は診断の効果を示す量を意味し、前記“個体”とは、動物、好ましくは哺乳動物、特にヒトを含む動物でもあって、動物から由来した細胞、組織、器官等でもある。前記個体は前記の効果が必要な患者(patient)でもある。
【0091】
本発明の前記“診断”とは、がん又はがん関連疾患の状態、疾患の存在又は特徴を確認することを包括的に指称し、がん又はがん関連疾患の発症の有無、発症の可能性(危険性)を確認することを含むが、これに限定されるものではない。
【0092】
本発明の用語“〜を含む(comprising)”とは、“含有する”又は“特徴とする”と同じく使用され、組成物又は方法において、言及されていない追加的な成分、要素又は方法の段階を排除しない。用語“〜からなる(consisting of)”とは、別に記載されていない追加的な要素、段階又は成分等を除外することを意味する。用語“本質的に〜からなる(essentially consisting of)”とは、組成物又は方法の範囲において、記載された成分要素又は段階と共にその基本的な特性に実質的に影響を及ぼさない成分要素又は段階を含むことを意味する。
【発明の効果】
【0093】
従って、本発明の抗体又はその断片は、ヒト由来MRSに特異的に結合し、同じARSファミリーを含む他のタンパク質と交差反応性がなく、MRS検出が可能なため、MRSと関連したがんの診断に有用に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
図1図1は、si-MRSを処理したH460細胞の細胞溶出液を使用して、MRS抗体(1E8、8A12)のMRS結合の有無を確認するためにウエスタンブロットを実施した結果を示したものである。
図2a図2aは、MRS抗体(1E8、8A12)のARS(aminoacyl-tRNA synthetase)タンパク質に対する交差活性を確認するためにELISAを実施した結果をグラフで表したものである。
図2b図2bは、MRS抗体(1E8、8A12)のARS(aminoacyl-tRNA synthetase)タンパク質に対する交差活性を確認するためにELISAを実施した結果をグラフで表したものである。
図3a図3aは、MRS抗体(1E8)のMRS+AIMP3タンパク質に対する抗体の親和力を確認するためにSPR(Surface plasmon resonance)実験を実施した結果を示したものである。
図3b図3bは、MRS抗体(1E8)のMRS+AIMP3タンパク質に対する抗体の親和力を確認するためにSPR(Surface plasmon resonance)実験を実施した結果を示したものである。
図4a図4aは、MRS抗体(8A12)のMRS+AIMP3タンパク質に対する抗体の親和力を確認するためにSPR実験を実施した結果を示したものである。
図4b図4bは、MRS抗体(8A12)のMRS+AIMP3タンパク質に対する抗体の親和力を確認するためにSPR実験を実施した結果を示したものである。
図5図5は、MRS抗体を利用して、Panc-1細胞に結合することを確認するための免疫蛍光染色実験を実施した結果を画像で示したものである。
図6a図6aはMRS及び他の配列を有する6つのMRS断片でH460細胞をトランスフェクションした後、タンパク質を抽出してウエスタンブロット実験を実施した結果を示したものである。
図6b図6bはMRS及び他の配列を有する4つのMRS断片でH460細胞をトランスフェクションした後、タンパク質を抽出してウエスタンブロット実験を実施した結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0095】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0096】
ただし、下記の実施例は、本発明を例示するのみであり、本発明の内容が下記の実施例に限定されるものではない。
【0097】
<実験方法>
細胞培養
293T、H460、Panc-1細胞を、それぞれDMEM培地で培養して継代(passage)5乃至9の細胞を使用した。各細胞は、10%FBS(Fetal bovine serum、Hyclone、GE life sciences)、1%ペニシリン(Hyclone、GE life sciences)を含むRPMI-1640(Hyclone、GE life sciences)及びDMEM(Hyclone、GE life sciences)培地で培養した。各細胞は、5%CO2、37℃の条件で培養した。
【0098】
動物モデル
体重25乃至30gの10週齢BALB/cマウスを、Orient Bio Co.(Sungnam、KyungKiDo、Republic of Korea)から購入し、動物舎の一定した条件(温度:20±2℃、湿度:40〜60%、コントラスト:12時間明暗周期(light/dark cycle))下で十分に適応させた後、本研究に利用した。動物実験は、ソウル大学の大学動物管理及び使用委員会のガイドラインを守った。
【0099】
<実施例>
MRSに対するモノクローナル抗体を生産する細胞選別
<1−1>MRS-AIMP3タンパク質の製造
大腸菌(E.coli)上でMRS-AIMP3(Aminoacyl tRNA synthetase complex-interacting multifunctional protein 3)共精製(co-purified)タンパク質の発現及び精製のために、下記の通り実験を実施した。
【0100】
BL21DE3株(strain)を利用して、MRS(methionyl-tRNA synthetase 配列番号1)とAIMP3(NM_004280.4、配列番号49)を形質転換してLB培地で培養した後、単一コロニーをアンピシリン(ampicilin)を含む5ml LB液体培地でOD600値が0.6乃至0.8になるように培養した。1mMのIPTGを入れた後、37℃で3時間培養し、10分間遠心分離して細胞だけを獲得した。細胞液でSDS-PAGEを実施してクマシー溶液(coomassie stain)を利用して発現を確認した。
【0101】
IPTGで過発現を誘導した細胞液を集めて、遠心分離を実施して細胞を獲得した。1ml DPBSで細胞を溶解した後、超音波破砕機を用いて細胞を溶解し、その後、溶解された細胞で遠心分離を行い、MRS-AIMP3共精製(co-purified)タンパク質を分離した。
【0102】
<1−2>マウスを利用した免疫化実験
ハイブリドーマ細胞の製造に必要な免疫化されたマウスを得るために、前記実施例1-1で得られたMRS-AIMP3共精製(co-purified)タンパク質を8〜10週齢のマウス4匹の腹腔内に1次注射した。1次免疫化後マウスの免疫性を高めるために、2週間後に同じ容量のMRS-AIMP3共精製(co-purified)タンパク質をマウスの腹腔内に2次注射した。その1週間後、細胞融合実験を実施する3日前に、MRS-AIMP3共精製(co-purified)蛋白質を、マウスの尻尾静脈にブースター(booster)注射した。
【0103】
前記免疫化されたマウスをエーテルで麻酔した後、ヘパリン処理された注射器で心臓から採血して、血液を4℃で一夜静置させて、遠心分離して血清を分離した。分離された血清を適切に分注して-80℃で保管した。
【0104】
<1−3>ハイブリドーマ細胞(hybridoma cell)の製造
まず、細胞融合のために骨髄腫細胞(myeloma cell)を準備した。骨髄腫細胞を培養して細胞密度を2.5〜5×104/mlにした。細胞融合24時間前に、骨髄腫細胞を1/3に希釈して準備した。前記実施例1-2で免疫化されたマウスをエーテルで麻酔し、脾臓を採取してB細胞を分離した後、SF-DMEM2(DMEM+2XAA)で洗浄して細胞を溶出させた。細胞懸濁液を回収してチューブに入れて、静置させ、重い塊を沈めて、上澄み液を新しいチューブに移した後、1500rpmで5分間遠心分離した。遠心分離された脾臓細胞の上澄み液を除去し、タッピングした(tapping)後、SF-DMEM2を満たした。B細胞と骨髄腫細胞をそれぞれ遠心分離して洗浄した後、洗浄工程を1回さらに繰り返した。洗浄した骨髄腫細胞の上澄み液を除去してタッピングした後、SF-DMEM2を満たした。また、洗浄したB細胞の上澄み液を除去してタッピングした後、LB(lysis buffer) 1mlに赤血球(RBC、red blood cell)を入れて処理した後、SF-DMEM2を満たした。その後に、B細胞と骨髄腫細胞をそれぞれ遠心分離し、遠心分離されたB細胞と骨髄腫細胞の上澄み液を除去した後、タッピングしてSF-DMEM2 10mlを満たした。B細胞と骨髄腫細胞をそれぞれe-チューブで100倍に希釈して、計数して濃度を決定した[B細胞の濃度(1×108、8×107、5×107)、骨髄腫細胞の濃度(1×107、8×106、5×106)]。B細胞と骨髄腫細胞は、10:1の比率で決定した。決定された濃度のB細胞と骨髄腫細胞とをチューブに一緒に入れて遠心分離した。遠心分離された細胞の上澄み液を除去した後、アルコール綿の上に伏せておいて30秒〜1分間半乾燥させてタッピングした。これにPEG(2ml)を1分間徐々に入れながらピペッティングして反応させ、SF-DMEM2を入れながらチューブを揺さぶった後、遠心分離した。遠心分離後、上澄み液を除去してタッピングしていない状態で、HT培地[HT50×(HT(sigma)1 vial+SF-DMEM1 10ml)1ml、FBS 10ml、SF-DMEM1(DMEM+1×AA)30ml]を、滴下し、少しずつ速度を上げながら50mlになるようにした。この懸濁液を再び37℃、5% CO2培養器で3時間培養した。
【0105】
<1−4>モノクローナル抗体を生産するハイブリドーマ細胞の選別及びクローニング
前記実施例1-3で製造した融合細胞群の中からMRSをよく認識する一方、AIMP3を認識しない細胞を選別して、抗体の生成の有無を確認するために次のように実験を実施した。
【0106】
まず、細胞融合後8〜9日目に培地を交換し、96ウェルから24ウェルまで良く育つまでcDMEM2で培養した。培地を交換した後、5〜7日目に色が変わったウェルの上澄み液を採り、cDMEM2で満たした後、ELISA試験を行った。ELISA試験後、ウェルを選択して、24ウェルに移して培養した。24ウェルで培養した後、再度ELISA試験を行った。具体的には、24ウェルの融合細胞濃度を確認して、96ウェルプレートに0.5cell/wellになるように、15mlの培養液に融合細胞を希釈した。融合細胞希釈液を各ウェル当り150μlずつ分注した。顕微鏡で検鏡して、1つの細胞が含まれているウェルをチェックした。細胞がある程度育ったウェルの上澄み液を採り、ELISA及びウエスタンブロットで確認して、1次スクリーニングを行った。1次スクリーニングを基に選択された融合細胞を、24ウェルに移して培養して、遠心分離した後、上澄み液を採り、ELISA及びウエスタンブロットで確認して、2次スクリーニングを行った。24ウェルで育てた融合細胞の吸光度(O.D値)をELISAで確認して、吸光度が1.0を超える融合細胞のみを選択して、25T/C培養フラスコに移して培養して遠心分離した後、上澄み液を採り、ELISA及びウエスタンブロットで確認して3次スクリーニングを行った。3次スクリーニングを基に選択された融合細胞を、再び75T/C培養フラスコに移して培養して、ELISAで吸光度を確認して、MRSをよく認識する一方、AIMP3を認識しない細胞を選択して、最終的に“1E8”及び“8A12”クローンを確保した。
【0107】
<実施例2>
MRSに対するモノクローナル抗体の生産及び精製
<2−1>ハイブリドーマ細胞の培養及びMRSに対するモノクローナル抗体の生産
前記実施例1で選択した最終的な融合細胞(ハイブリドーマ細胞、“1E8”及び“8A12”)から、それぞれ次の2つの方法を通じて得ることができる。
【0108】
1)7〜8週齢の雌マウスの腹腔にプリスタン(pristane)500μlを注射した。75T/C培養フラスコで培養した融合細胞を回収して遠心分離した後、上澄み液を除去してリン酸緩衝液に入れてピペッティングした。プリスタン投与7〜10日後、前記実施例1-4で選択した融合細胞を、それぞれ8×105〜4×107でマウスの腹腔内に注射した。1〜2週間後にマウスの腹腔に腹水(ascites)がいっぱいになったとき、18G注射針を利用して腹水液を抜いた。腹水を4℃で一晩放置後、翌日遠心分離して黄色の脂肪層を含む塊物質を除去して、上澄み液だけを分離した。分離した上澄み液は、分注して-20℃に保管した。
【0109】
前記腹水液からの抗体精製のために、貯蔵液に保存されているProtein Aを適量カラムに詰めて20%エタノールを流した後、5総容積(Bed Volume)の結合緩衝液(20mM sodium phosphate、pH 7.0)で洗浄した。腹水液をリン酸塩緩衝液で適量希釈した後、Protein Aカラムにローディングした。3総容積(Bed Volume)の結合緩衝液(20mM sodium phosphate、pH 7.0)で結合した後、3総容積(Bed Volume)の溶出緩衝液(0.1M glycine buffer、pH3.0-2.5)で0.5mlずつ分画を溶出した。各分画を35μlの中和緩衝液(1M Tris-HCl、pH9.0)で中和させた。70%エタノールで、冷蔵温度で一夜静置した後、再び貯蔵液(20%エタノール)で、次回の使用時まで冷蔵保管した。SDS-PAGEを通じて分画の純度を確認して、Ammersharm GEカラムで脱塩(desalting)した。
【0110】
2)前記ハイブリドーマ細胞をCellstack-5(Corning、NY)を使用して、最大860mLの培養液で培養した。無血清培地(Thermo)に5mM GlutaMAX(Gibco)と1XCholesterol lipid concentrateを添加し、初期細胞濃度を1.4〜2.0×105cell/mLで接種した。分注4〜5日後、2000rpmで10分間遠心分離して細胞を除去して、上澄み液を回収した。上澄み液のpHを確認した後、製造された20X結合溶液(1M Potassium phosphate diabasic)(pH9.0)を使用してpH7.6に合わせた。その後0.22μmフィルターを使用して濾過して、中和された抗体の培養液を得た。
【0111】
<2−2>MRSに対するモノクローナル抗体の精製
前記実施例2-1又は2-2で得られた抗体培養液を、以下のような方法で精製した。Protein Aを適量カラムに詰めて、10カラム嵩の蒸留水を流した後、同量の1X結合溶液(50mM Potassium phosphate dibasic)(pH9.0)を流した。その後、前記収得した抗体培養液を流して抗体をProtein Aに結合させた後、1X結合溶液(50mM Potassium phosphate dibasic)(pH9.0)で洗浄(washing)した。その後、2カラム嵩の溶出溶液(0.2M Citric acid)(pH3.0)を流して溶出液を収得して、1M Trisで中和した後、280nmの吸光度で抗体の濃度を測定して確認した。GE PD-10カラムを生理食塩水25mlで平衡化した後、遠心分離(1000g、2分)した。その次に、前記protein Aカラムで得られた抗体溶出液2.5mlをカラムに入れて遠心分離(1000g、2分)して、抗体の溶液を生理食塩水に交換した。次に、280nmの吸光度において抗体濃度を測定した後、分注して-80℃に保管した。
【0112】
<2−3>MRSに対するモノクローナル抗体の配列情報の分析及びクローニング
前記実施例で得られた1E8抗体及び8A12抗体の配列解析は、YBIO Inc.及びアブクローン(AbClon Inc.、Korea)で実施した。前記実施例1で得られたハイブリドーマ細胞からRNAを抽出してcDNAを合成した。次に、VL、CL、VH、CH特異的プライマーを用いてPCRを実施した。予想される大きさのPCR産物(product)をアガロースゲル(agarose gel)で精製してシーケンシング(sequencing)を通じて配列を確認した。Kabatナンバリング(numbering)を通じてCDR部位を確認し、確認された配列でFabを合成して、ELISA法を利用して前記抗体がMRSに高い結合力を有することを確認した。
【0113】
また、各抗体の配列は、前記ハイブリドーマ細胞をマウス腹腔内に注入した後、複数の精製を通じて得られた抗体のタンパク質配列が質量分析(mass spectrometry)法で分析した結果と一致することを確認した。
【0114】
前記収得した1E8 Fab配列及び8A12 Fab配列を、マウスIgG重鎖(mouse IgG heavy chain)(pFUSE-mIgG2a-Fc、InvivoGen)及びマウス軽鎖(mouse light)配列ベクター(pFUSE2-CLIg-mK、InvivoGen)にクローニングした。その後、前記ベクターを利用してFreeStyle 293F細胞にPEI(Polysciences、23966-2)を利用して共形質転換させて、各抗体の軽鎖及び重鎖が同時に発現するようにした。形質転換された293F細胞を37℃、8%CO2の条件で7日間培養した。その後、細胞を収得して遠心分離した後、上澄み液を収得し、上澄み液のpHを確認した後、製造された20X結合溶液(1M potassium phosphate dibasic、pH9.0)を利用して上澄み液のpHを7.6に調製した。その後、0.22μmフィルターで上澄み液を濾過して、中和された抗体の培養液を収得した。抗体培養液から前記実施例2-2に記載された方法で抗体を収得した。このように収得した1E8 IgGの全体抗体は、配列番号35のアミノ酸配列からなる軽鎖及び配列番号36のアミノ酸配列からなる重鎖でなり、8A12 IgGの全体抗体は、配列番号37のアミノ酸配列からなる軽鎖及び配列番号38のアミノ酸配列からなる重鎖でなることを確認した。
【0115】
<実施例3>
MRSに対する抗体の結合特異性
<3−1>MRS抗体を利用したウエスタンブロット実験
前記実施例で獲得した1E8及び8A12抗体のMRS結合能力を確認するために、次のように実験を実施した。
【0116】
前記の実験方法に記載された方法に基づいて、培養したH460細胞にsi-MRSを72時間処理した。その次にH460細胞を収得した後、溶解させて、H460細胞溶解物でウエスタンブロットを実施した。1次抗体として1E8抗体と8A12抗体を1:5000(0.2μg/ml)に希釈して使用し、また、市販のMRS抗体(Abcam, Ab50793)を使用し、対照群にはチューブリン(Tubulin)を使用した。
【0117】
その結果、図1に示した通り、1E8抗体と8A12抗体は全て、si-MRSを処理した群において、処理していない群に比べて弱くMRSを検出することが分かった。これを通じて、1E8抗体及び8A12抗体は、MRSに特異的に結合することが確認できた。また、同じ濃度で市場に流通しているMRS抗体に比べて、1E8抗体及び8A12抗体はより敏感度が高いことが確認できた。
【0118】
<3−2>MRS抗体を利用したELISA実験
前記実施例で獲得した1E8及び8A12抗体の、他のARS(aminoacyl-tRNA synthetase)タンパク質に対する交差活性(cross activity)を確認するために、下記の通り実験を実施した。
【0119】
96ウェルプレート(Corning 3690 flat bottom、96-well half-area plates)に、他のARSタンパク質(His-MRS、MRS full、DX2 tag free、34S-DX2、34S-AIMP2、His-CRS、His-AIMP1、His-GRS、His-WRS、His-KRS)をそれぞれ1μg/mlの濃度でコーティングした。1E8及び8A12抗体を、500ng/mlの濃度でARSタンパク質がコーティングされた96ウェルプレートに入れた後、1時間反応させた。その後HRP-conjugated anti-mouse IgG二次抗体を添加して1時間反応させ、ELISAを実施して450nmで吸光度を測定した。基質にはTMB(3,3’,5,5’-Tetramethylbenzidine)を使用した。
【0120】
その結果、図2a及び図2bに示した通り、1E8及び8A12抗体が、MRSにのみ結合して反応し、他のARSタンパク質とAIMPタンパク質には反応しないことが分かった。これを通じて、1E8及び8A12抗体は、他のARSタンパク質とAIMPタンパク質に対して交差活性がなく、MRSだけを検出することが確認できた。
【0121】
<3−3>表面プラズモン共鳴を利用して抗体の親和性を確認
前記実施例2で精製した抗体の親和性を確認するために、次のような方法で実験を実施した。
【0122】
1E8及び8A12抗体と、実施例1で得られたMRS+AIMP3タンパク質を利用して、SPR(Surfase plasmon resonance、表面プラズモン共鳴)の実験を実施した。
【0123】
MRS+AIMP3及びAIMP3タンパク質をCM5 chipにコーティングして、1E8もしくは8A12抗体を多様な濃度で流しながら、タンパク質との結合反応の程度を測定した。分析試料やバッファは30μl/minの流速で8分間注入して20分間洗浄した。
【0124】
その結果、図3a図3b図4a及び図4bに示した通り、1E8及び8A12抗体が、MRS+AIMP3タンパク質には結合するが、同じAIMP3タンパク質には結合しないことが確認できた。また、1E8抗体は、MRSに対して5.42nMのKD値を有し(図3a及び図3b)、8A12抗体はMRSに対して1.56nMのKD値を有することが確認できた(図4a及び図4b)。
【0125】
<実施例4>
抗MRS抗体反応の測定
前記実施例2で得られた1E8抗体及び8A12抗体の免疫活性を確認するために、下記の通り実験を実施した。
【0126】
培養されたPanc-1細胞に20mM EDTAを処理して細胞を脱離した後、遠心分離を実施した。その後、6ウェルプレートにカバーガラスを入れて、1mlの培養培地を入れて、1.0×106 cells/mlの細胞を入れて37℃で培養した。その後培地を除去し、メタノール(methanol)で細胞を固定して0.2%PBST(PBS+tween20)を処理した後、2%ヤギ血清(Abchem)で1時間ブロッキング(blocking)した。その後、1E8抗体及び8A12抗体を1:200に希釈して処理し、4℃で一晩反応させた。2次抗体としてmouse IgG alexa 488(Abchem)を1:200に希釈して処理し、室温で1時間反応させた。0.2%PBSTで洗浄した後、DAPI(molecular probes)で染色して蛍光顕微鏡(Nikon)で観察した。
【0127】
その結果、図5に示した通り、前記実施例2で得られた1E8抗体と8A12抗体が、Panc-1細胞の表面に結合することが確認できた。
【0128】
<実施例5>
抗MRS抗体の結合部位確認
前記実施例2で得られた1E8抗体及び8A12抗体のドメインを確認するために、下記の通り実験を実施した。
【0129】
MRSタンパク質からGST、触媒ドメイン(catalytic domain)、tRNA結合ドメイン(tRNA binging domain)部位を基準に、それぞれの長さと位置が異なる6つの断片を製作して、pcDNA3 vector(EV)にMRSタンパク質及びそれぞれのMRS断片をクローニングした。各MRS断片(MRS fragment)の位置は下記表1に示した。このとき、Mycタンパク質がMRS N-末端に結合されていて、Mycタンパク質を対照群として使用した。
【0130】
その後、H460細胞に、クローニングしたベクターDNA 2μgを、メーカーの指示に従ってTurbofect(Thermo)を使用してトランスフェクション(transfection)させた。24時間後、細胞を収得してウエスタンブロットを実施した。1次抗体として1E8抗体及び8A12抗体を1:5000(0.2μg/mL)に希釈して使用した。
【0131】
その結果、図6aに示した通り、1E8抗体と8A12抗体は全て、MRS断片5番と6番を認識していることが分かった。
【0132】
これにより、598-900aaに抗体が結合することを確認できた。
【0133】
前記の結果をもとに、MRSタンパク質の598-900aa部分からそれぞれの長さと位置が異なる4つの断片を製作し、pcDNA3 vector(EV)にそれぞれのMRS断片(MRS fragment)をクローニングした。その後、前記のような方法でウエスタンブロットを実施した。
【0134】
その結果図6bに示した通り、1E8抗体と8A12抗体が全て5、8、9番断片を認識したが、7番断片は認識していないことが分かった。
【0135】
これにより、MRSタンパク質の861-900aa位置に抗体が結合することを確認できた。
【0136】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0137】
以上察した通り、本発明の抗体又はその断片は、ヒト由来MRSに特異的に結合し、同じARS familyを含む他のタンパク質と交差反応性がなく、MRS検出が可能なため、MRSと関連したがんの診断に有用に利用することができる。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b
図5
図6a
図6b
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]