【課題を解決するための手段】
【0015】
[技術的解決方法]
前記のような目的を達成するために、本発明は、配列番号1で示されるヒト由来MRS(methionyl-tRNA synthetase)タンパク質の861番目乃至900番目のアミノ酸で示される断片に特異的に結合することを特徴とする抗体又はその断片を提供する。
【0016】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、前記本発明に係る抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクター及び前記組換え発現ベクターで形質転換された細胞を提供する。
【0017】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、
(a)前記抗体を生産する細胞をマウスの腹腔内に注射する段階;
(b)腹腔が膨れ上がったマウスから腹水液を採取する段階;及び
(c)前記腹水液からMRSに特異的に結合するモノクローナル抗体を分離する段階を含む、ヒトのMRS(methionyl-tRNA synthetase)に結合するモノクローナル抗体の生産方法を提供する。
【0018】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、前記抗体又はその断片を試料と接触させる段階及び前記抗体又はその断片を検出する段階を含む、ヒト由来MRS(methionyl-tRNA synthetase)タンパク質の特異的検出方法を提供する。
【0019】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、前記抗体又はその断片を有効成分として含むがん診断用組成物を提供する。
【0020】
また、本発明は、前記抗体又はその断片からなるがん診断用組成物を提供する。
【0021】
また、本発明は、本質的に、前記抗体又はその断片からなるがん診断用組成物を提供する。
【0022】
本発明のさらに他の目的を達成するために、がん診断用製剤を製造するための抗体又はその断片の使用を提供する。
【0023】
本発明のさらに他の目的を達成するために、前記抗体又はその断片の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とするがん診断方法を提供する。
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明は、配列番号1で示されるヒト由来MRS(methionyl-tRNA synthetase)タンパク質の861番目乃至900番目のアミノ酸で示される断片に特異的に結合することを特徴とする抗体又はその断片を提供する。
【0026】
本発明で“MRS(methionyl-tRNA synthetase)”とは、ARSの一種で、転写(translation)を開始し、メチオニン(Met)をtRNAに転移させるのに最も重要な酵素である。MRSは、核内でリボソームRNA(ribosomal RNA)の合成を増加させて、mTORC1、GCN2、CDK4、及びVEGFRのような多様なシグナル伝達物質と相互作用をする。紫外線でDNA損傷を与えると、MRSは、アミノアシル-tRNA合成酵素相互作用多機能タンパク質3(aminoacyl-tRNA synthetases-interacting multifunctional protein 3、AIMP3)から分離されて、AIMP3は損傷されたDNAに結合して転写を調節する。
【0027】
本発明で“抗体(antibody)”とは、ジスルフィド結合によって、互いに接続された少なくとも二つの重鎖(H)及び二つの軽鎖(L)を含む糖タンパク質を指す。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(以下、HCVR又はVHと略記)及び重鎖不変領域からなる。重鎖不変領域は、3つのドメイン、CH1、CH2及びCH3からなる。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(以下、LCVR又はVLと略記)及び軽鎖不変領域からなる。軽鎖不変領域は、一つのドメインCLからなる。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が散在した超可変性領域(相補性決定領域(CDR)と称される)であり、さらに細分することができる。VH及びVLのそれぞれは、下記の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端に配列された、3つのCDR及び4つのFRからなる。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の不変領域は、免疫系の多様な細胞(例えば、エフェクター細胞)及び伝統的な相補系の最初の成分(C1q)を含み、宿主組織又は因子に対する免疫グロブリンの結合を媒介することができる。
【0028】
本発明の1E8抗体及び8A12抗体は、ヒト由来MRSタンパク質の861番目乃至900番目のアミノ酸を含む断片に特異的に結合する。好ましくは、ヒト由来MRSタンパク質に結合する本発明の1E8抗体及び8A12抗体が結合する部位であり、配列番号39で示されるアミノ酸を含む連続する領域であれば、その具体的配列が特に制限されず、通常、配列番号39のアミノ酸配列を含めて40乃至900個、さらに好ましくは40乃至80個、具体的には、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、又は80個のアミノ酸の配列からなる断片でもある。最も好ましくは、ヒトのMRSタンパク質に由来したものである、配列番号39で示されるアミノ酸配列でもある。
【0029】
本発明の一実施例では、MRSタンパク質の598-900aa(配列番号46)、660-860aa(配列番号47)、660-900aa(配列番号48)、730-900aa(配列番号49)位置の断片を作製して各断片をクローニングした後、ウエスタンブロットを行った結果、配列番号46、48、49番の断片は抗体を認識したが、配列番号47の断片は認識しないことを確認した。これにより、本発明の1E8抗体及び8A12抗体は、ヒト由来MRSタンパク質の861番目乃至900番目のアミノ酸断片(配列番号39)に特異的に結合することが確認できた(
図6b参照)。
【0030】
本発明で提供する“ヒト由来MRSタンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片”は、
配列番号3又は配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1(CDR1);配列番号5又は配列番号17で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2(CDR2);配列番号7又は配列番号19で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む軽鎖可変領域(VL)及び
配列番号9又は配列番号21で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1(CDR1);配列番号11又は配列番号23で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2(CDR2);配列番号13又は配列番号25で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3(CDR3)を含む軽鎖可変領域(VH);を含むことを特徴とする。
【0031】
本発明に係るヒト由来MRSタンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片は、好ましくは下記のような重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のCDR構成を含む抗体であって、下記(i)及び(ii)は、それぞれ実施例1E8及び8A12抗体のCDRの組み合わせを示す:
(i)配列番号3で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1と、配列番号5で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2と、配列番号7で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3とを含む軽鎖可変領域、及び、配列番号9で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1と、配列番号11で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2と、配列番号13で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3とを含む重鎖可変領域;並びに
(ii)配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位1と、配列番号17で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位2と、配列番号19で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定部位3とを含む軽鎖可変領域、及び、配列番号21で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位1と、配列番号23で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位2と、配列番号25で示されるアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定部位3とを含む重鎖可変領域;
からなる群から選択される重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含むことを特徴とする抗体又はその断片。
【0032】
最も好ましくは、本発明に係る前記抗体又はその断片は、前記軽鎖可変領域が、配列番号27(1E8 VL)又は配列番号31(8A12 VL)で示されるアミノ酸配列を含み、前記重鎖可変領域が、配列番号29(1E8 VH)又は配列番号
33(8A12 VH)で示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする。
【0033】
本発明に係る前記抗体は、前記CDRの組み合わせや、VH及びVLの組み合わせを有するものであれば、その種類は制限されない。具体的には、前記抗体は、IgG、IgA、IgM、IgE、及びIgDからなる群から選択されるものでもあって、好ましくはIgG抗体でもある。
【0034】
本発明の抗体は、ヒト由来MRSタンパク質に特異的に結合する前記CDRの組み合わせや、VH及びVLの組み合わせを有するものであれば、モノクローナル(monoclonal)抗体でもあって、ポリクローナル(polyclonal)抗体でもあり得るが、抗体の重鎖と軽鎖のアミノ酸配列が実質的に同一な抗体の集団であるモノクローナル抗体であることが望ましい。
【0035】
本発明の抗体は、ヒトを含む哺乳動物、鳥類等を含む任意の動物に由来したものでもある。好ましくは、前記抗体は、ヒト、マウス、ロバ、羊、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、馬又は鶏の抗体でもある。より好ましくは、ヒトに由来したものか、ヒトに由来した抗体の部分と他の種の動物に由来した抗体の部分とを含むキメラ(chimeric)抗体でもある。すなわち、本発明は、キメラ抗体、ヒト化された抗体、ヒト抗体を全て含み、好ましくはヒト抗体でもある。
【0036】
ヒト抗体は、ヒトの免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体として、ヒトの免疫グロブリンライブラリから分離された抗体又は一つ以上のヒトの免疫グロブリンに対して形質移植され、内在的免疫グロブリンを発現していない動物から分離された抗体が含まれる(米国特許第5939598号を参照)。
【0037】
また、本発明で抗体の断片は、全体抗体の抗原特異的結合力を維持している抗体の断片を意味し、好ましくは、前記断片は、母抗体のMRSタンパク質結合親和性の少なくとも20%、50%、70%、80%、90%、95%又は100%又はそれ以上を保有する。具体的には、Fab、F(ab)2、Fab'、F(ab')2、Fv、ディアボディ(diabody)、scFv等の形態でもある。
【0038】
Fab(fragment antigen-binding)は、抗体の抗原結合断片であって、重鎖と軽鎖それぞれの一つの可変ドメインと不変ドメインで構成されている。F(ab')2は、抗体をペプシンで加水分解させて生成される断片であって、二つのFabが重鎖ヒンジ(hinge)で、二硫化結合(disulfide bond)で連結された形態をしている。F(ab')は、F(ab')2断片の二硫化結合を還元して分離させたFabに、重鎖のヒンジが付加された形態の単量体抗体断片である。Fv(variable fragment)は、重鎖と軽鎖それぞれの可変領域だけで構成された抗体断片である。scFv(single chain variable fragment)は、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)が、柔軟なペプチドリンカーで連結されている組換え抗体断片である。ディアボディ(diabody)は、scFvのVHとVLが極めて短いリンカーで連結されて互いに結合できず、同じ形態の他のscFvのVLとVHとそれぞれ結合して二量体を形成している形態の断片を意味し、本発明の目的上、抗体の断片は、ヒト由来MRSタンパク質に対する結合特異性を維持しているものであれば、構造や形態の制限はない。
【0039】
また、前述した本発明の抗体又はその断片は、酵素、蛍光物質、放射性物質及びタンパク質等と接合されたものでもあるが、これに限定されない。また、抗体に前記物質を接合する方法は当業界によく知られている。
【0040】
本発明は、前記抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチドを提供する。
【0041】
本明細書でポリヌクレオチドは、オリゴヌクレオチド又は核酸と記載されることもあり、DNA分子(例えば、cDNA又は核ゲノムDNA(genomic DNA))、RNA分子(例えば、mRNA)、ヌクレオチド類似体を使用して生成された前記DNA又はRNAの類似体(例えば、ペプチド核酸及び非自然的に発生するヌクレオチド類似体)及びこれらのハイブリッドが含まれる。前記ポリヌクレオチドは、単一鎖(single-stranded)又は二重鎖(double stranded)になることがある。
【0042】
前記ポリヌクレオチドは、前記MRSタンパク質に結合する抗体のCDR構成、又はVHとVLの構成を有する重鎖及び軽鎖からなる抗体を符号化する塩基配列を意味する。本発明のポリヌクレオチドは、本発明の抗体又はその断片を符号化するものであれば、その配列が特に制限されないものであって、先に説明した本発明に係る抗体で前述したCDR配列を符号化するポリヌクレオチドは、その配列が特に制限されないが、好ましくは、配列番号4(軽鎖CDR1)、配列番号6(軽鎖CDR2)、配列番号8(軽鎖CDR3)、配列番号10(重鎖CDR1)、配列番号12(重鎖CDR2)、配列番号14(重鎖CDR3)、配列番号16(軽鎖CDR1)、配列番号18(軽鎖CDR2)、配列番号20(軽鎖CDR3)、配列番号22(重鎖CDR1)、配列番号24(重鎖CDR2)又は配列番号26(重鎖CDR3)で示される塩基配列を含むものでもある。
【0043】
また、本発明に係る抗体から前述したVHとVLを符号化するポリヌクレオチドは、その配列が特に制限されないが、好ましくは配列番号28(VL)、配列番号30(VH)、配列番号32(VL)又は配列番号34(VH)で示される塩基配列を含むものでもある。
【0044】
本発明の抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチドは、当業界によく知られている方法によって得ることができる。例えば、前記抗体の重鎖及び軽鎖の一部又は全部を符号化するDNA配列又はそのアミノ酸配列に基づいて、当分野でよく知られているオリゴヌクレオチド合成法、例えば、重合酵素連鎖反応(PCR)法等を使用して合成することができる。
【0045】
本発明は、前記抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターを提供する。
【0046】
本発明で“組換え(recombinant)”とは、“遺伝子操作(genetic manipulation)”と互換して使用することができ、遺伝子に変形を加えて切断、連結する等、分子クローニング(molecular cloning)実験法を利用して、自然の状態では存在しない形態の遺伝子を製造することを意味する。
【0047】
本発明で“発現(expression)”とは、細胞からタンパク質又は核酸が生成されることを意味する。
【0048】
本発明で“組換え発現ベクター”とは、適切な宿主細胞(host cell)から目的とするタンパク質又は核酸(RNA)を発現することができるベクターとして、ポリヌクレオチド(遺伝子)挿入物が発現できるように、作動可能に連結された必須的な調節要素を含む遺伝子作製物を意味する。“作動可能に連結された(operably linked)”とは、一般的な機能を遂行するように、核酸発現調節配列と、目的とするタンパク質又はRNAを符号化する核酸配列とが機能的に連結(functional linkage)されているもので、発現調節配列によって遺伝子が発現できるように連結されたことを意味する。前記“発現調節配列(expression control sequence)”とは、特定の宿主細胞で、作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現を調節するDNA配列を意味する。そのような調節配列は、転写を実施するためのプロモーター、転写を調節するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位を符号化する配列、転写及び解読の終結を調節する配列、開始コドン、終結コドン、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサー等を含む。
【0049】
本発明の組換え発現ベクターは、クローニングの分野で通常的に使用されるベクターであればその種類は特に制限されず、その例としては、哺乳類発現ベクター(mammalian expression vector)、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクター及びウイルスベクター等を含むが、これらに制限されない。前記のプラスミドには、大腸菌由来のプラスミド(pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、及びpET-22b(+))、バチルスサブチリス由来のプラスミド(pUB110及びpTP5)及び酵母由来のプラスミド(YEp13、YEp24、及びYCp50)等があり、前記のウイルスは、レトロウイルス、アデノウイルス、又はワクシニアウイルスのような動物ウイルス、バキュロウイルスのような昆虫ウイルス等を使用することができる。
【0050】
従って、本発明に係る組換え発現ベクターは、ヒト由来MRSタンパク質に特異的に結合することができる前述したCDR、又はVHとVLの構成を有する重鎖及び軽鎖からなる抗体、又はその断片を符号化するポリヌクレオチドが適切な宿主細胞から発現できるように作動可能に連結された遺伝子作製物を意味する。
【0051】
本発明に係る抗体の重鎖と軽鎖を符号化するポリヌクレオチドは、それぞれ別々の組換え発現ベクターに含まれていることもあり、一つの組換え発現ベクターに含まれている場合もある。
【0052】
本発明は、前記組換え発現ベクターで形質転換された細胞を提供する。
【0053】
本発明の細胞は、本発明の組換え発現ベクターに含まれた抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチドの発現に使用することができる細胞であれば、その種類は特に制限されない。本発明に係る組換え発現ベクターで形質転換された細胞(宿主細胞)は、原核生物(例えば、大腸菌)、真核生物(例えば、酵母又は他の菌類)、植物細胞(例えば、タバコ又はトマトの植物細胞)、動物細胞(例えば、ヒトの細胞、サルの細胞、ハムスター(hamster)の細胞、ラットの細胞(rat cell)、マウスの細胞(mouse cell))、昆虫の細胞、又はこれらから由来したハイブリドーマでもある。好ましくはヒトを含む哺乳類から由来した細胞でもある。
【0054】
前記用語“形質転換(transformation)”とは、外来性ポリヌクレオチドが導入されたことによる宿主細胞の遺伝子型の変形を意味し、その形質転換に使用された方法と関係なく、外来性ポリヌクレオチドが宿主細胞内に導入されたことを意味する。宿主細胞内に導入された外来性ポリヌクレオチドは、宿主細胞のゲノム内に統合されて維持されるか、又は統合されずに維持されることもあって、本発明は両者の全てを含む。
【0055】
本発明に係るヒト由来MRSタンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片を発現することができる組換え発現ベクターは、当業界に公知された方法、例えば、これに限定はされないが、一過性形質感染(transient transfection)、微細注射、形質導入(transduction)、細胞融合、カルシウムホスフェート沈殿法、リポソーム媒介された形質感染(liposome-mediated transfection)、DEAEデキストラン媒介された形質感染(DEAE dextran-mediated transfection)、ポリブレン媒介された形質感染(polybrene-mediated transfection)、電気穿孔法(electroporation)、遺伝子銃(gene gun)及び細胞内に核酸を流入させるための公知の方法により、抗体又はその断片を生産するための細胞内部に導入して形質転換することができる。
【0056】
本発明は、(a)前記組換え発現ベクターで形質転換された細胞を、マウスの腹腔内に注射する段階;(b)腹腔が膨れ上がったマウスから腹水液を採取する段階;及び(c)前記腹水液からMRSに特異的に結合するポリクローナル抗体を分離する段階を含む、ヒトのMRSに結合するポリクローナル抗体の生産方法を提供する。
【0057】
本発明の形質転換された細胞は、本発明の抗体又はその断片を発現するハイブリドーマ細胞でもある。
【0058】
本発明の一実施例では、骨髄腫細胞(myeloma cell)と、MRSに対して免疫化されたマウスのB細胞にPEGを処理して融合し、HT培地で37℃、5%CO
2の条件で、培養器で3時間培養した(実施例1-3参照)。
【0059】
本発明は、前記抗体又はその断片を試料と接触させる段階、及び前記の抗体又はその断片を検出する段階を含む、ヒト由来MRS(methionyl-tRNA synthetase)タンパク質の特異的検出方法を提供する。
【0060】
本発明の抗体又はその断片は、ヒト由来MRSタンパク質と特異的に結合するので、例えば、特定の細胞、組織、又は血清中のMRSタンパク質を検出して定量するための診断分析に有用である。
【0061】
本発明の前記検出方法は、本発明に係る抗体又はその断片を試料と接触させる前に、本発明に係る抗体又はその断片を利用して、MRSの有無と濃度を測定するための試料を準備する段階((1)段階)を含むことができる。
【0062】
通常の技術者は、抗体を利用してタンパク質を検出する公知の方法を適宜選択し、選択された方法に適合するように試料を準備することができる。前記抗体を利用してタンパク質を検出する方法とは、これに制限されているものではないが、例えばウエスタンブロット、免疫ブロット、ドットブロット、免疫組織化学染色(immunohistochemistry)、免疫細胞化学染色(immunocytochemistry)、酵素免疫分析(ELISA)、放射能免疫検定法(radioimmunoassay)、競争的結合分析、免疫沈殿等がある。例えばウエスタンブロットを実施するためには、試料又は細胞の溶解物に電気泳動に適したバッファを添加して沸騰させる等の方法で準備することができ、免疫組織化学染色及び免疫細胞化学染色のためには、細胞や組織の切片を固定してブロッキング(blocking)する等の前処理を行うことができる。
【0063】
次に、本発明に係る抗体又はその断片を、前述した段階で準備した試料と接触させる段階((2)段階)を遂行する。
【0064】
本発明に係る抗体は、先に述べたCDR、又はVHとVLの構成を有し、ヒト由来MRSタンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片であって、その具体的な種類と配列の構成については前述した通りである。
【0065】
前記抗体又はその断片は、“検出”のために、一般的に検出可能な部分(moiety)で標識することができる。例えば、文献[Current Protocols in Immunology, Volumes 1 and 2, 1991, Coligen, et al., Ed. Wiley-Interscience, New York, NY, Pubs]に記載された技術を利用して、放射性同位元素又は蛍光標識で標識することができる。あるいは、多様な酵素基質標識が利用可能であり、前記酵素標識の例は、ショウジョウバエルシフェラーゼ(米国特許第4737456号)等のルシフェラーゼ、ルシフェリン(luciferin)、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、マレートデヒドロゲナーゼ、ウレアーゼ(urase)、ホースラディシュパーオキシダーゼ(HRPO)等のパーオキシダーゼ、アルカリンホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカライドオキシダーゼ(例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ)、ヘテロサイクリックオキシダーゼ(例えば、ウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼ)、ラクトパーオキシダーゼ、マイクロパーオキシダーゼ等を含む。抗体に酵素を接合させる技術は、例えば、文献[O'Sullivanet al., 1981, Methods for the Preparation of Enzyme-Antibody Conjugates for use in Enzyme Immunoassay, in Methods in Enzym.(J. Langone&H. Van Vunakis, eds.), Academic press, NY, 73:147-166]に記載されている。標識は、多様な公知の技術を利用して、抗体に、直接又は間接的に接合することができる。例えば、抗体は、ビオチン(biotin)に接合することができ、前記に記載された3種の広範囲なカテゴリに属する任意の標識が、アビジンに、又はその反対に接合することができる。ビオチンは、アビジン(avidin)に選択的に結合し、従って、この標識は、このような間接的な方法で抗体に接合することができる。あるいは、抗体の標識の間接的接合を達成するために、抗体は、小さいハプテン(hapten)(例えば、ジゴキシン[digoxin])と接合することができ、前記に記載された相異する類型の標識の一つが抗ハプテン抗体に接合することができる(例えば、抗ジゴキシン抗体)。従って、抗体に対する標識の間接的接合が達成できる。
【0066】
本発明で“接触(contacting)”とは、その一般的な意味で使用されるものであり、2つ以上の物質を混合、結合、又は、互いに当接することを意味する。前記接触は試験管内(in vitro)又は他のコンテナ(container)で実行することができ、また、インシチュ(in situ)、生体内、個体内、組織内、細胞内で行うことができる。
【0067】
次には、前記(2)段階遂行後の試料から本発明に係る抗体又はその断片を検出する段階((3)段階)を遂行する。
【0068】
前記“検出”とは、試料内で形成された本発明に係る抗体又はその断片と抗原の複合体を対象とするものであり、MRSタンパク質の存在の有無の検出又は前記タンパク質の水準を測定(定性的又は定量的測定をすべて含む)することを意味する。従って、前記(2)段階を行った後、後述する検出段階((3)段階)の前に、MRSヒト由来タンパク質と複合体を形成していない余分な抗体又はその断片を除去する段階が追加的に含まれる。
【0069】
前述した(2)段階で使用された抗体又はその断片が、蛍光、放射性同位元素、酵素等で直接標識される等の検出可能な部分を含む場合には、その部分を検出する当業界に公知された方法で検出を行うことができる。一例として放射能は、例えば、シンチレーション計数(scintillation counting)によって測定することができ、蛍光は蛍光計を用いて定量することができる。
【0070】
また、前述した(2)段階で使用された抗体又はその断片が独自で、前述した検出部分を含まない場合には、当業界で知られている通り、蛍光、放射能、酵素等で標識された二次抗体を利用して間接的に感知することができる。前記二次抗体は、本発明による抗体又はその断片に結合する。
【0071】
また、本発明は、前記抗体又はその断片を有効成分として含むがん診断用組成物を提供する。
【0072】
また、本発明は、前記抗体又はその断片からなるがん診断用組成物を提供する。
【0073】
また、本発明は、本質的に、前記抗体又はその断片からなるがん診断用組成物を提供する。
【0074】
本発明で前記がんは、当業界に悪性腫瘍として知られたものであれば、その種類は特に制限されないが、好ましくは肺癌、膵臓癌、又は胆道癌でもある。
【0075】
本発明に係るがんの診断は、生物学的試料の中でMRSタンパク質を検出することにより行うことができる。
【0076】
本発明において、用語“診断”とは、病理状態の存在又は特徴を確認することを意味する。本発明で前記診断は、がん等の発症の有無、発症の可能性(危険性)を確認することである。
【0077】
本発明において、前記“がん”は、胆道癌、乳癌、大腸癌、肺癌、小細胞肺癌、胃癌、肝臓癌、血液癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭部又は頸部癌、皮膚又は眼球内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門癌、結腸癌、卵管癌腫、子宮内膜癌腫、子宮頸癌、膣癌、陰門癌腫、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌腺、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、慢性又は急性白血病、リンパ球リンパ腫、膀胱癌、腎臓又は輸尿管癌、腎細胞癌腫、腎骨盤癌腫、CNS腫瘍、CNS原発リンパ腫、脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫又は脳下垂体腺腫でもあって、より好ましくは肺癌、膵臓癌、又は胆道癌でもある。
【0078】
本発明において、用語“検出”とは、前述した通りであり、前記生物学的試料は、血液及び生物学的起源のその他の液状試料、生検標本、組織培養のような固形組織試料又はそれに由来した細胞が含まれる。より具体的には、例えば、これに限定はされないが、組織、抽出物、細胞溶解物、全血、血漿、血清、唾液、眼球液、脳脊髄液、汗、尿、乳液、腹水液、滑液、腹膜液等でもある。前記試料は、動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくは、ヒトから得ることができる。前記試料は、検出に使用する前に前処理することができる。例えば、ろ過、蒸留、抽出、濃縮、妨害成分の不活性化、試薬の添加等を含むことができる。また、前記試料から核酸及びタンパク質を分離して検出に利用することができる。
【0079】
本発明に係る抗体又はその断片は、診断キットとして提供することができ、前記キットは、当業界に抗体又は特定の結合ドメインを有するペプチドを構成品として提供する分析キットとして知られたものであれば、その種類は特に制限されないが、例えば、ウエスタンブロット、ELISA、放射性免疫分析法、放射免疫拡散法、オクタロニー免疫拡散法、ロケット免疫電気泳動、組織免疫染色、免疫沈降分析法、補体固定分析法、FACS又はタンパク質チップ用キット等を含む。
【0080】
本発明の抗体又はその断片は、前記キット、すなわち診断、分析を行うための診断キットから、使用説明書と共に、予め指定された量で試薬が包装された組み合わせで使用することができる。抗体が酵素で標識された場合に、キットは、基質及び発色団又は蛍光団を提供する基質前駆体として酵素により要求される補因子(cofactor)を含むことができる。また、安定化剤、緩衝液(例えば、遮蔽緩衝液、溶解緩衝液)等のような他の添加剤が含まれることもある。様々な試薬の相対的な量は、分析の敏感度を十分に最適化させる試薬の溶液内濃度を提供するために幅広く変化することができる。試薬は、溶解時に適切な濃度を有する試薬溶液を提供する賦形剤を含む、一般的に凍結乾燥された乾燥粉末として提供することができる。
【0081】
本発明の一実施例で、大腸菌を利用してMRS-AIMP3タンパク質を製造し、MRS-AIMP3タンパク質をマウスの腹腔内に注射して免疫化した後、血液及びB細胞を抽出した。その次に前記で得られたB細胞と骨髄腫細胞にPEGを処理して融合し、ハイブリドーマ細胞を製造して、ELISA及びウエスタンブロットでスクリーニングして、MRSだけを認識するハイブリドーマ細胞を選択した。次に、最終的に“1E8”及び“8A12”クローンを確保した(実施例1参照)。
【0082】
本発明のさらに他の実施例で、前記ハイブリドーマ細胞をマウスの腹腔内に投与した。その後、マウスの腹腔に腹水がいっぱいになったとき、注射を利用して腹水を抽出し、遠心分離した後、上澄み液のみを分離した。その次にprotein Aをカラムに詰めて洗浄した後、腹水液をリン酸塩緩衝液で希釈した後、protein Aカラムにローディングして各分画を溶出した(実施例2参照)。
【0083】
本発明のさらに他の一実施例で、ハイブリドーマ細胞から得られた1E8抗体及び8A12抗体を1:5000に希釈して、si-MRSを処理したH460細胞の細胞溶出液を利用してウエスタンブロットを行った結果、1E8抗体及び8A12抗体がMRSに結合することを確認することができ、二種類のsi-MRS処理を通じて、その抗体がMRSを特異的に認識することを確認した(実施例3-1及び
図1参照)。
【0084】
本発明のさらに他の一実施例で、96ウェルプレートにHis-MRS、MRS full、DX2 tag free、34S-DX2、34S-AIMP2、His-CRS、His-AIMP1、His-GRS、His-WRS、His-KRSをコーティングした後、1E8抗体(
図2A)及び8A12抗体(
図2B)を利用してELISAを行った結果、1E8抗体及び8A12抗体がMRSにのみ結合して反応し、他のARSタンパク質及びAIMPタンパク質には反応しないことを確認することができた(実施例3-2、
図2a及び
図2b参照)。
【0085】
本発明のさらに他の一実施例で、1E8抗体及び8A12抗体とMRS+AIMP3タンパク質を利用して、SPR(Surface plasmon resonance、表面プラズモン共鳴)の実験を行った結果、1E8抗体(
図3a及び
図3b)及び8A12抗体(
図4a及び
図4b)が、MRS+AIMP3タンパク質には結合するが、同じAIMP3タンパク質には結合しないので、MRS抗体の親和性が高いことが確認できた(実施例3-3、
図3a、
図3b、
図4a及び
図4b参照)。
【0086】
本発明のさらに他の実施例で、カバーガラスにPanc-1細胞を培養した後、1E8抗体及び8A12抗体を1:200に希釈して処理した後、2次抗体を1:200に希釈して処理して反応させた後、DAPIで染色し、蛍光顕微鏡で観察した結果、本発明で得られた1E8抗体及び8A12抗体がPanc-1細胞の表面に結合することが確認できた(実施例4及び
図5参照)。
【0087】
本発明のさらに他の実施例において、MRSタンパク質からそれぞれ長さと位置が異なる6つの断片を製作して、ベクターにクローニングした後、H640細胞に形質感染させて培養した。その後、細胞からタンパク質を収得して、1E8抗体及び8A12抗体を利用してウエスタンブロットを行った結果、1E8抗体及び8A12抗体が全て5番(598-900aa)、6番断片(298-900aa)に結合することを確認した(
図6a参照)。その後、MRSタンパク質の598-900aa部分を4つの断片に製作して、前記のような方法でウエスタンブロットを行った結果、1E8抗体及び8A12抗体が5番(598-900aa)、8番(660-900aa)、9番(730-900aa)断片に結合することを確認した(実施例5、
図6a及び
図6b参照)。
【0088】
本発明は、がん診断用製剤を製造するための前述した本発明の抗体又はその断片の使用を提供する。
【0089】
本発明は、前述した本発明の抗体又はその断片の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とするがんの診断方法を提供する。
【0090】
本発明の前記“有効量”とは、個体に投与したとき、がんの改善、治療、予防、検出又は診断の効果を示す量を意味し、前記“個体”とは、動物、好ましくは哺乳動物、特にヒトを含む動物でもあって、動物から由来した細胞、組織、器官等でもある。前記個体は前記の効果が必要な患者(patient)でもある。
【0091】
本発明の前記“診断”とは、がん又はがん関連疾患の状態、疾患の存在又は特徴を確認することを包括的に指称し、がん又はがん関連疾患の発症の有無、発症の可能性(危険性)を確認することを含むが、これに限定されるものではない。
【0092】
本発明の用語“〜を含む(comprising)”とは、“含有する”又は“特徴とする”と同じく使用され、組成物又は方法において、言及されていない追加的な成分、要素又は方法の段階を排除しない。用語“〜からなる(consisting of)”とは、別に記載されていない追加的な要素、段階又は成分等を除外することを意味する。用語“本質的に〜からなる(essentially consisting of)”とは、組成物又は方法の範囲において、記載された成分要素又は段階と共にその基本的な特性に実質的に影響を及ぼさない成分要素又は段階を含むことを意味する。