(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6959993
(24)【登録日】2021年10月12日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】プレス成形品の剛性向上方法、プレス成形金型、プレス成形品およびプレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/00 20060101AFI20211025BHJP
B21D 22/26 20060101ALI20211025BHJP
B21D 24/00 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
B21D22/00
B21D22/26 D
B21D24/00 H
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-562027(P2019-562027)
(86)(22)【出願日】2019年2月25日
(86)【国際出願番号】JP2019006935
(87)【国際公開番号】WO2019187864
(87)【国際公開日】20191003
【審査請求日】2019年11月8日
【審判番号】不服2020-12551(P2020-12551/J1)
【審判請求日】2020年9月8日
(31)【優先権主張番号】特願2018-62817(P2018-62817)
(32)【優先日】2018年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仮屋▲崎▼ 祐太
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 雄司
【合議体】
【審判長】
河端 賢
【審判官】
田々井 正吾
【審判官】
見目 省二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−125951(JP,A)
【文献】
特開2006−240586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/00 - 22/30
B21D 24/00 - 24/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス成形品の離型時のスプリングバックを抑制するために、板状材料からプレス成形されるプレス成形品の剛性を剛性付加形状によって向上させるに際し、
前記プレス成形品の前記剛性付加形状の配置前の当初形状におけるスプリングバックの状態を示す変位等高線に対する交差方向に延在するように前記剛性付加形状を配置し、
前記変位等高線は、前記当初形状のスプリングバック解析によって得られ、前記剛性付加形状は、その変位等高線に対する交差方向に延在するように複数本配置し、
前記複数本の剛性付加形状は、互いに交差方向に延在する二本の剛性付加形状の一方の中間部に他方の端部が隣接することで、隣接する剛性付加形状同士が部分的にオーバーラップして前記変位等高線に対する交差方向に隙間を開けずに延在していることを特徴とするプレス成形品の剛性向上方法。
【請求項2】
プレス成形品の離型時のスプリングバックを抑制するために、剛性付加形状を配置したプレス成形品を板状材料からプレス成形するプレス成形金型において、
前記プレス成形品の前記剛性付加形状の配置前の当初形状におけるスプリングバックの状態を示す変位等高線に対する交差方向に延在するように前記剛性付加形状を成形する金型部材を具え、
前記変位等高線は、前記当初形状のスプリングバック解析によって得られ、前記剛性付加形状は、その変位等高線に対する交差方向に延在するように複数本配置され、
前記複数本の剛性付加形状は、互いに交差方向に延在する二本の剛性付加形状の一方の中間部に他方の端部が隣接することで、隣接する剛性付加形状同士が部分的にオーバーラップして前記変位等高線に対する交差方向に隙間を開けずに延在していることを特徴とするプレス成形金型。
【請求項3】
離型時のスプリングバックを抑制するために、板状材料からプレス成形されるとともに、剛性付加形状が配置されたプレス成形品において、
前記剛性付加形状が、前記プレス成形品の前記剛性付加形状の配置前の当初形状におけるスプリングバックの状態を示す変位等高線に対する交差方向に延在するように配置され、
前記変位等高線は、前記当初形状のスプリングバック解析によって得られ、前記剛性付加形状は、その変位等高線に対する交差方向に延在するように複数本配置され、
前記複数本の剛性付加形状は、互いに交差方向に延在する二本の剛性付加形状の一方の中間部に他方の端部が隣接することで、隣接する剛性付加形状同士が部分的にオーバーラップして前記変位等高線に対する交差方向に隙間を開けずに延在していることを特徴とするプレス成形品。
【請求項4】
離型時のスプリングバックを抑制するために、剛性付加形状を配置したプレス成形品を板状材料からプレス成形によって製造するに際し、
前記剛性付加形状を、前記プレス成形品の前記剛性付加形状の配置前の当初形状におけるスプリングバックの状態を示す変位等高線に対する交差方向に延在するように配置し、
前記変位等高線は、前記当初形状のスプリングバック解析によって取得し、前記剛性付加形状は、その変位等高線に対する交差方向に延在するように複数本配置し、
前記複数本の剛性付加形状は、互いに交差方向に延在する二本の剛性付加形状の一方の中間部に他方の端部を隣接させることで、隣接する剛性付加形状同士を部分的にオーバーラップさせて前記変位等高線に対する交差方向に隙間を開けずに延在させることを特徴とするプレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状材料からプレス成形されるプレス成形品の、プレス成形金型からの離型時のスプリングバックを抑制するための、プレス成形品の剛性向上方法、プレス成形金型、プレス成形品およびプレス成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費の向上を目的とした自動車車体の軽量化のため、高強度鋼板の適用拡大が進んでいる。高強度鋼板を適用することによって、板厚を大きくすることなく自動車車体の強度、剛性や衝突時の吸収エネルギーを高めることができる。
【0003】
しかしながら、一般に自動車の車体部品の加工に多用されているプレス成形においては、スプリングバックと呼ばれる形状凍結不良が問題となる。スプリングバックは、板状材料としての鋼板からプレス成形したプレス成形品をプレス成形金型から離型する際に生じ、鋼板の材料強度が高くなるのに伴って大きくなる。スプリングバックによる形状不良は、外観品質を損なうだけでなく車体組立て時の溶接不良の原因ともなるため、高強度鋼板の適用拡大には、スプリングバック対策が必要不可欠である。
【0004】
スプリングバックの原因は、残留応力の不均一によって生じる曲げモーメントがプレス成形品の離型時に解放されることによる弾性回復である。このため従来からスプリングバック対策として、残留応力の不均一を緩和させる方法やプレス成形品の剛性を向上させることでスプリングバックを低減させる方法が提案されている。
【0005】
例えば特許文献1では、伸びフランジ部にエンボスを配置し、縮みフランジ部に余肉ビードを形成した中間成形品を成形し、その後の最終成形品の成形において、伸びフランジ部はエンボスを潰すことで圧縮応力を与え、縮みフランジ部は余肉ビードによって引張応力を与えることで、プレス成形品の残留応力分布を平準化する技術が提案されている。
【0006】
特許文献2では、高強度鋼板を用いたフランジ付きのチャンネル状部材のプレス成形において、フランジ部にビードを設けることで、プレス成形中に縦壁部に加わる張力を増加させて寸法精度を向上させるプレス成形方法が提案されている。
【0007】
特許文献3では、角形絞り容器の底部にその長辺のフィレット部に沿ってビードを設けることで、反りの発生を防止する技術が提案されている。
【0008】
特許文献4では、車両用クラッチ等を構成するダンパープレート素材の周方向に互いに隣接する穴抜き加工部の間に位置する非穴抜き加工部に半径方向のビードを設けることで、曲げモーメントによる反りを抑制する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5380890号公報
【特許文献2】特開平11−290951号公報
【特許文献3】特開2008−105088号公報
【特許文献4】特開2017−154160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1では、伸びフランジ部にエンボス、縮みフランジ部に余肉ビードを形成して、残留応力を平準化させることでスプリングバックを低減させる方法が提案されているが、本発明が主に対象としている低剛性形状のプレス成形品は、低応力でもスプリングバックが生じるため、特定部分の応力を低減させても不十分な場合がある。また、特定部分の応力を低減させた結果生じる新たな応力状態で、別の形態のスプリングバックが生じる場合もある。それゆえ、低剛性形状のプレス成形品においては、応力コントロールによって効率的にスプリングバック対策を行うのは困難である。
【0011】
特許文献2では、高強度鋼板を用いたフランジ付きのチャンネル状部材のプレス成形において、フランジ部にビードを設けることで、プレス成形中に縦壁部に加わる張力を増加させて寸法精度を向上させるプレス成形方法が提案され、また、特許文献3では、角形絞り容器の底部の長辺にフィレット部に沿ってビードを設けることで反りの発生を防止する技術が提案されているが、これらの技術は、ビードをどの部位に設定すべきか技術的あるいは経験的に予め分かっている場合は有効であるが、本発明が主に対象としている低剛性形状のプレス成形品は元々の剛性が低く、低い応力でもスプリングバックが生じるため、スプリングバックの起点位置や方向が容易に変わり得る。そのため、スプリングバックの抑制に最適なビードの位置や方向、設置するビードの数等は必ずしも一定ではない。
【0012】
特許文献4では、ダンパープレート素材の周方向に互いに隣接する穴抜き加工部の間に位置する非穴抜き加工部にビードを設けることで、曲げモーメントによる反りを抑制する技術が提案され、そこでは、互いに隣接する一対の穴抜き加工部位を結ぶ直線に対して交差する方向、特に直交する方向に沿ってビードを設けることが望ましいと提案しているが、プレス成形品は必ずしも対称形状ではないため、部品の形状により一意にビード設置位置が決まるとは限らない。
【0013】
即ち、従来技術の解決すべき課題を列記すると以下のようになる。
(1) 剛性が低い部品に対して、スプリングバック抑制に有効なプレス成形品形状とすること。
(2) 低剛性形状のプレス成形品のスプリングバックを低減させるために有効な剛性付加形状の最適な配置を決定すること。
【0014】
本発明は、上述の如き従来技術の課題に鑑みてなされたもので、低剛性形状のプレス成形品の剛性向上によるスプリングバック抑制対策において有効であり、プレス成形後のスプリングバック量が小さく、形状凍結性に優れたプレス成形品をプレス成形できる剛性向上方法並びに、その方法を用いたプレス成形金型、プレス成形品およびプレス成形品の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のプレス成形品の剛性向上方法は、
プレス成形品の離型時のスプリングバックを抑制するために、板状材料からプレス成形されるプレス成形品の剛性を剛性付加形状によって向上させるに際し、
前記プレス成形品の前記剛性付加形状の配置前の当初形状におけるスプリングバックの状態を示す変位等高線に対する交差方向に延在するように前記剛性付加形状を配置し、
前記変位等高線は、前記当初形状のスプリングバック解析によって得られ、前記剛性付加形状は、その変位等高線に対する交差方向に延在するように複数本配置し、
前記複数本の剛性付加形状は、互いに交差方向に延在する二本の剛性付加形状の一方の中間部に他方の端部が隣接することで、隣接する剛性付加形状同士が部分的にオーバーラップ
して前記変位等高線に対する交差方向に隙間を
開けずに延在していることを特徴としている。
【0016】
また、上記剛性向上方法を用いた本発明のプレス成形金型は、
プレス成形品の離型時のスプリングバックを抑制するために、剛性付加形状を配置したプレス成形品を板状材料からプレス成形するプレス成形金型において、
前記プレス成形品の前記剛性付加形状の配置前の当初形状におけるスプリングバックの状態を示す変位等高線に対する交差方向に延在するように前記剛性付加形状を成形する金型部材を具え、
前記変位等高線は、前記当初形状のスプリングバック解析によって得られ、前記剛性付加形状は、その変位等高線に対する交差方向に延在するように複数本配置され、
前記複数本の剛性付加形状は、互いに交差方向に延在する二本の剛性付加形状の一方の中間部に他方の端部が隣接することで、隣接する剛性付加形状同士が部分的にオーバーラップ
して前記変位等高線に対する交差方向に隙間を
開けずに延在していることを特徴としている。
【0017】
そして、上記剛性向上方法を用いた本発明のプレス成形品は、
離型時のスプリングバックを抑制するために、板状材料からプレス成形されるとともに、剛性付加形状が配置されたプレス成形品であって、
前記剛性付加形状が、前記プレス成形品の当初形状におけるスプリングバックの状態を示す変位等高線に対する交差方向に延在するように配置され、
前記変位等高線は、前記当初形状のスプリングバック解析によって得られ、前記剛性付加形状は、その変位等高線に対する交差方向に延在するように複数本配置され、
前記複数本の剛性付加形状は、互いに交差方向に延在する二本の剛性付加形状の一方の中間部に他方の端部が隣接することで、隣接する剛性付加形状同士が部分的にオーバーラップ
して前記変位等高線に対する交差方向に隙間を
開けずに延在していることを特徴としている。
【0018】
さらに、本発明のプレス成形品の製造方法は、
離型時のスプリングバックを抑制するために、剛性付加形状を配置したプレス成形品を板状材料からプレス成形によって製造するに際し、
前記剛性付加形状を、前記プレス成形品の前記剛性付加形状の配置前の当初形状におけるスプリングバックの状態を示す変位等高線に対する交差方向に延在するように配置し、
前記変位等高線は、前記当初形状のスプリングバック解析によって取得し、前記剛性付加形状は、その変位等高線に対する交差方向に延在するように複数本配置し、
前記複数本の剛性付加形状は、互いに交差方向に延在する二本の剛性付加形状の一方の中間部に他方の端部を隣接させることで、隣接する剛性付加形状同士を部分的にオーバーラップ
させて前記変位等高線に対する交差方向に隙間を
開けずに延在させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明のプレス成形品の剛性向上方法によれば、プレス成形品の離型時のスプリングバックを抑制するために、板状材料からプレス成形されるプレス成形品の剛性を剛性付加形状によって向上させるに際し、そのプレス成形品の剛性付加形状の配置前の当初形状におけるスプリングバックの状態を示す変位等高線に対する交差方向に延在するように剛性付加形状を配置するので、離型時にプレス成形品がその変位等高線に対する交差方向に沿って曲がることで生じるプレス成形品の端部の落ち込みまたは跳ね上がりやプレス成形品のねじれを剛性付加形状で有効に抑制し得て、低剛性形状のプレス成形品のスプリングバックを有効に抑制することができる。
【0020】
また本発明のプレス成形金型によれば、そのプレス成形金型が具える金型部材が、プレス成形品の剛性付加形状の配置前の当初形状におけるスプリングバックの状態を示す変位等高線に対する交差方向に延在するように、プレス成形品に剛性付加形状を形成するので、離型時にプレス成形品がその変位等高線に対する交差方向に沿って曲がることで生じるプレス成形品の端部の落ち込みまたは跳ね上がりやプレス成形品のねじれを剛性付加形状で有効に抑制し得て、低剛性形状のプレス成形品のスプリングバックを有効に抑制することができる。
【0021】
そして本発明のプレス成形品およびプレス成形品の製造方法によれば、離型時のスプリングバックを抑制するために、プレス成形品が板状材料からプレス成形されるとともに、そこに剛性付加形状が配置されており、その剛性付加形状が、プレス成形品の剛性付加形状の配置前の当初形状におけるスプリングバックの状態を示す変位等高線に対する交差方向に延在するように配置されているので、離型時にプレス成形品がその変位等高線に対する交差方向に沿って曲がることで生じるプレス成形品の端部の落ち込みまたは跳ね上がりやプレス成形品のねじれを剛性付加形状で有効に抑制し得て、低剛性形状のプレス成形品のスプリングバックを有効に抑制することができる。
【0022】
ここで、本発明のプレス成形品の剛性向上方法、プレス成形金型、プレス成形品およびプレス成形品の製造方法においては、前記変位等高線が前記当初形状のスプリングバック解析によって得られ、前記剛性付加形状がその変位等高線に対する交差方向に延在するように配置され
る。このようにすれば、変位等高線に対する交差方向が明らかでない当初形状の内部の位置に剛性付加形状を適切に配置することができる。
【0023】
上記の場合に、前記剛性付加形状は、前記変位等高線に対する交差方向に延在するように複数本配置し、前記複数本の剛性付加形状は、
互いに交差方向に延在する二本の剛性付加形状の一方の中間部に他方の端部を隣接させることで、隣接する剛性付加形状同士が部分的にオーバーラップ
して前記変位等高線に対する交差方向に隙間を
開けずに延在するようにする。このように
することにより、変位等高線に対する交差方向に延在する複数本の剛性付加形状の間にそれらの延在方向の隙間ができないので、その隙間の部分でプレス成形品がその変位等高線に対する交差方向に沿って曲がることを防止し得て、プレス成形品のスプリングバックを有効に抑制することができる。
【0024】
なお、本発明の
参考例のプレス成形品の剛性向上方法、プレス成形金型、プレス成形品およびプレス成形品の製造方法においては、前記剛性付加形状が前記当初形状の周縁に沿って延在するように配置された閉じた輪郭形状のものであってもよい。このようにすれば、一般に変位等高線は当初形状の周縁に対する交差方向に延在することから、あえてスプリングバック解析によって変位等高線を得なくても、剛性付加形状を変位等高線に対する交差方向に延在するように配置することができるので、プレス成形品のスプリングバックを容易に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態のプレス成形品の剛性向上方法により剛性を向上させる、本発明の一実施形態のプレス成形品の当初形状を示す斜視図である。
【
図2】上記当初形状のプレス成形品のスプリングバック解析による高さ方向変位分布を変位等高線(コンター)で示す平面図である。
【
図3】上記当初形状のプレス成形品に上記実施形態の剛性向上方法で配置した3本の剛性付加形状を
図2の変位等高線と共に示す説明図である。
【
図4】上記3本の剛性付加形状が配置された本発明の実施形態のプレス成形品のスプリングバック解析による高さ方向変位分布を変位等高線(コンター)で示す平面図である。
【
図5】上記当初形状のプレス成形品に本発明の
参考例の剛性向上方法で配置した剛性付加形状を
図2の変位等高線と共に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態につき、図面に基づき詳細に説明する。ここに、
図1は、本発明の一実施形態のプレス成形品の剛性向上方法により剛性を向上させる、本発明の一実施形態のプレス成形品の当初形状を示す斜視図、
図2は、上記当初形状のプレス成形品のスプリングバック解析による高さ方向変位分布を変位等高線(コンター)で示す平面図、
図3は、上記当初形状のプレス成形品に上記実施形態の剛性向上方法で配置した3本の剛性付加形状を
図2の変位等高線と共に示す説明図であり、図中、符号1はプレス成形品を示す。
【0027】
上記実施形態のプレス成形品の剛性向上方法は、自動車の車体部品の一種であるフロントピラーロアインナー材とされるプレス成形品1の剛性を向上させるためのものであり、このプレス成形品1は、一般的に曲がり易くかつねじれ易い薄い台状形状すなわち低剛性の形状を有している。なお、自動車車体部品とされるプレス成形品は、そのような低剛性の形状を有している場合が多い。
図1に示すこのプレス成形品1の当初形状について、コンピュータで既知のソフトウェアを用いてプレス成形解析およびスプリングバック解析を実施したところ、
図2に示すように、変位等高線の間隔が長手方向(X軸方向)に比較的の詰まるとともに変位等高線が幅方向(Y軸方向)に非対称に分布しており、スプリングバックによって落ち込みとねじれが生じることが判る。
【0028】
そこで、この実施形態のプレス成形品の剛性向上方法ではプレス成形品1に、
図3に示すように、各々剛性付加形状として、3本の棒状ビード2,3,4を設けており、これら3本の棒状ビード2,3,4は、プレス成形品1の当初形状に剛性を付加する。なお、3本の棒状ビード2,3,4の各々の横断面形状は、成形し易いように例えば滑らかなサイン波状としてもよく、あるいは剛性をより高めるように矩形波状としてもよく、棒状ビード2,3,4間で異ならせてもよい。
【0029】
この実施形態のプレス成形品の剛性向上方法では、上記3本の棒状ビード2,3,4を、
全体としてプレス成形品1の当初形状の延在方向に沿って折れ曲がって、各々が
その当初形状における変位等高線に対する交差方向に延在するように配置するとともに、隣接する棒状ビード2,3同士および隣接する棒状ビード3,4同士がオーバーラップして変位等高線の交差方向に延在するように配置して、上記実施形態のプレス成形品を構成している。
【0030】
上記のように棒状ビード2,3,4を配置したこの実施形態のプレス成形品1の形状について、当初形状と同様にコンピュータで既知のソフトウェアを用いてプレス成形解析およびスプリングバック解析を実施したところ、
図4に示すように、変位等高線の間隔が長手方向(X軸方向)に比較的空くとともに変位等高線が幅方向(Y軸方向)に対称に分布しており、スプリングバックによる落ち込みとねじれが減少もしくは解消していることが判る。
【0031】
この実施形態のプレス成形品1を形成する板状材料は、例えば980MPa級高張力鋼板、板厚t:0.9mm、降伏点YP:620MPa、引張り強さTS:1030MPa、伸びEl:15%とすることができ、本発明の一実施形態のプレス成形品の製造方法は、本発明の一実施形態のプレス成形金型を用いてこの高張力鋼板をプレス成形して、上記実施形態のプレス成形品1を形成する。
【0032】
このため上記実施形態のプレス成形金型は、金型部材として、通常のパンチとダイとブランクホルダーとを具えており、ダイは、プレス成形品1の
図1では上下端部に位置する外向きフランジから上の薄い台状形状およびその台状形状の平坦面から上方に突出した
図3の棒状ビード2,3,4に対応する形状の凹部を持ち、ブランクホルダーは、そのダイの凹部の外側の平面との間で鋼板を挟持し、パンチは、それらダイとブランクホルダーとで挟持した鋼板をダイの凹部に押し込んで薄い台状形状に成形するとともに、パンチ先端の凸部をダイの凹部に押し込んでその台状形状の平坦面に棒状ビード2,3,4を押し出し成形する。
【0033】
ここで、上記実施形態のプレス成形金型におけるダイの凹部およびパンチ先端の凸部は、棒状ビード2,3,4の各々がプレス成形品1の当初形状における変位等高線に対する交差方向に延在するように、かつ、隣接する棒状ビード2,3同士および隣接する棒状ビード3,4同士がオーバーラップして変位等高線の交差方向に延在するように形成されている。
【0034】
上記実施形態のプレス成形品の製造方法により、上記実施形態のプレス成形金型を用いて成形されるプレス成形品1は、そこに配置された棒状ビード2,3,4が、プレス成形品1の当初形状におけるスプリングバックの状態を示す変位等高線に対する交差方向に延在しているので、上記実施形態のプレス成形品となり、この実施形態のプレス成形品およびその製造方法によれば、離型時にプレス成形品1がその変位等高線に対する交差方向に沿って曲がることで生じるプレス成形品1の端部の落ち込みまたは跳ね上がりやプレス成形品1のねじれをそれらの棒状ビード2,3,4で有効に抑制し得て、プレス成形品1のスプリングバックを有効に抑制することができる。
【0035】
しかもこの実施形態のプレス成形品およびその製造方法によれば、隣接する棒状ビード2,3同士および隣接する棒状ビード3,4同士がオーバーラップして変位等高線の交差方向に延在していることから、変位等高線に対する交差方向に延在する3本の棒状ビード2,3,4の間にそれらの延在方向の隙間ができないので、その隙間の部分でプレス成形品1がその変位等高線に対する交差方向に沿って曲がることを防止し得て、プレス成形品1のスプリングバックを有効に抑制することができる。
【0036】
図5は、上記当初形状のプレス成形品に本発明の
参考例の剛性向上方法で配置した剛性付加形状を
図2の変位等高線と共に示す説明図である。この
参考例のプレス成形品の剛性向上方法では、
図1に示すプレス成形品1の当初形状に、剛性付加形状として、棒状ビードを枠状に繋げた枠状ビード5を配置しており、この枠状ビード5は、
図1に示すプレス成形品1の当初形状における台状形状の周縁付近にその周縁に沿って延在するように上方に突出させて配置した、閉じた輪郭形状のものである。
【0037】
一般に変位等高線は当初形状の周縁付近ではその周縁に対する交差方向に延在することから、この
参考例のプレス成形品の剛性向上方法並びに、その剛性向上方法で剛性を向上させた本発明の
参考例のプレス成形品およびそのプレス成形品をプレス成形する本発明の
参考例のプレス成形品の製造方法によれば、あえてスプリングバック解析によって変位等高線を得なくても、枠状ビード5を変位等高線に対する交差方向に延在するように配置することができるので、プレス成形品1のスプリングバックを容易に抑制することができる。
【0038】
そして、この
参考例の剛性向上方法で剛性を向上させたこの
参考例のプレス成形品をプレス成形するプレス成形金型も、先の実施形態のプレス成形金型と同様にして構成することができ、先の実施形態のプレス成形金型と同様の効果を奏することができる。
【0039】
以上、実施形態について説明したが、本発明のプレス成形品の剛性向上方法、プレス成形金型、プレス成形品およびプレス成形品の製造方法は、上記実施形態に限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更し得るものであり、例えば、プレス成形品の形状や剛性付加形状は、上方に突出するビード形状に代えてあるいは加えて、下方に凹陥するビード形状としてもよく、
図5に示す枠状ビード5では、棒状ビード形状に代えてその枠内が一段高くまたは低くなったステップ形状としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
かくして本発明のプレス成形品の剛性向上方法、プレス成形金型、プレス成形品およびプレス成形品の製造方法によれば、低剛性形状のプレス成形品のスプリングバックを効果的に抑制することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 プレス成形品
2,3,4 棒状ビード(剛性付加形状)
5 枠状ビード(剛性付加形状)