特許第6960120号(P6960120)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6960120
(24)【登録日】2021年10月13日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】肝疾患治療剤及び肝疾患を治療する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/35 20150101AFI20211025BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   A61K35/35
   A61P1/16
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-557840(P2017-557840)
(86)(22)【出願日】2016年12月2日
(86)【国際出願番号】JP2016085917
(87)【国際公開番号】WO2017110425
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2019年11月22日
(31)【優先権主張番号】特願2015-250361(P2015-250361)
(32)【優先日】2015年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立がん研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】倉田 隼人
(72)【発明者】
【氏名】落谷 孝広
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−056913(JP,A)
【文献】 特表2012−502934(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101890050(CN,A)
【文献】 LI, T. et al.,Exosomes Dirived from Human Umbilical Cord Mesencymal Stem Cells Alleviate Liver Fibrosis,Stem Cells Dev,2013年,Vol.22, No.6,p.845-54,ISSN 1547-3287
【文献】 TAN, C.Y. et al.,EXPLORING MESENCHYMAL STEM CELL DERIVED EXOSOME AS A HEPATOPROTECTIVE AGENT IN DRUG-INDUCED LIVER IN,Drug Metab Rev,2012年,Vol.44, Suppl.1,p.98,ISSN 0360-2532
【文献】 TAN, C.Y. et al.,Mesenchymal stem cell-derived exosomes promote hepatic regeneration in drug-induced liver injury mod,Stem Cell Res Ther,2014年,Vol.5, No.3,76,ISSN 1757-6512
【文献】 KO, S.F., et al.,Adipose-Derived Mesenchymal Stem Cell Exosomes Suppress Hepatocellular Carcinoma Growth in a Rat Mod,Stem Cells Int,2015年08月,853506,ISSN 1687-9678
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A61K 38/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL−10、HGF、アポリポプロテインA−2(Apolipoprotein A−2)、色素上皮由来因子(Pigment epithelium−derived factor(PEDF)、SERPINF1)、及びハプトグロビン(Haptoglobin)からなる群から選択される少なくとも1種の因子を含有する、単離された脂肪組織由来間質細胞由来の微小粒子を含有し、脂肪組織由来間質細胞は含まない、自己免疫性肝疾患治療剤。
【請求項2】
上記微小粒子の平均粒子径が1,000nm以下である、請求項1記載の自己免疫性肝疾患治療剤。
【請求項3】
上記微小粒子が、エクソソーム(exosome)である、請求項1又は2記載の自己免疫性疾患治療剤。
【請求項4】
上記自己免疫性肝疾患が、自己免疫性肝炎(AIH)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)又は原発性胆汁性肝硬変(PSC)である、請求項1から3のいずれか1項に記載の自己免疫性肝疾患治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝疾患治療剤及び肝疾患を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
急性肝炎は、急性のびまん性疾患で、黄疸、食欲不振、嘔気嘔吐、全身倦怠感、発熱等の症状を呈する。予後は一般に良好だが、約1〜2%の患者は劇症化し、一度劇症化すると高率で死亡する。上記肝炎の病因としては、主として肝炎ウイルスが知られている。この肝炎ウイルスを病因とする肝炎は、ウイルス自体が肝細胞を破壊するのではなく、ウイルスに感染した肝細胞が免疫学的機序により破壊されることにより起きると言われている(非特許文献1参照)。
【0003】
一方、ウイルス以外を病因とする肝炎として、自己免疫性肝炎が知られている。この自己免疫性肝炎は、急性と慢性の両方の臨床症状があるが、何らかの機序により自己の肝細胞に対する免疫学的寛容が破綻し、自己免疫反応によって生じる疾患である。発症誘因として、先行する感染症や薬剤の関与も示唆されている。日本の自己免疫性肝炎患者数は約2万人程度で慢性肝炎の約1.8%を占めるとされる。自己免疫性肝炎による死亡例の中の約30%は、診断から半年以内の死亡例であり、診断時の急性肝不全に対する処置が、予後の改善に重要とされる(非特許文献2参照)。炎症の慢性化により肝再生と結合組織の新生が繰り返された結果、コラーゲンを主体とする細胞外マトリックスの増加(肝線維化)がみられ、肝硬変に進展する。肝硬変の代償期から、更に高度な線維化を伴う非代償期へ進行した場合、既存の薬剤・治療法では十分に対処することができない。そのため従来とは作用機序の異なる新規治療薬の開発が望まれている。
【0004】
間葉系幹細胞は、Friedenstein(1982)によって初めて骨髄から単離された多分化能を有する前駆細胞である(非特許文献3参照)。間葉系幹細胞は、骨髄、臍帯、脂肪等の様々な組織に存在することが明らかにされており、間葉系幹細胞移植は、様々な難治性疾患に対する新しい治療方法として、期待されている(特許文献1〜2参照)。最近では、脂肪組織、胎盤、臍帯、卵膜などの胎児付属物の間質細胞に同等の機能を有する細胞が存在することが知られている。従って、間葉系幹細胞を間質細胞(Mesenchymal Stromal Cell)と称することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−157263号公報
【特許文献2】特表2012−508733号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】肝臓専門医テキスト、pp.186−190、株式会社南江堂、2013年3月30日発行
【非特許文献2】肝臓専門医テキスト、pp.205−208、株式会社南江堂、2013年3月30日発行
【非特許文献3】Pittenger F.M.et al., Science 284,pp.143−147(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述のような状況の中、肝疾患の新規治療剤及び新規治療方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは、肝硬変の成因となる肝炎、特に自己免疫性肝炎に着目して、間質細胞の効果について検証した。また、細胞間情報伝達において重要な役割を担う細胞外小胞等の微小粒子に着目して、その作用メカニズムの解明に取り組んだ。その結果、間質細胞由来の微小粒子を含有する組成物が、肝疾患の治療に有効であることを見出した。すなわち本発明の要旨は、以下の通りである。
【0009】
(1)間質細胞由来の微小粒子を含有する、肝疾患治療剤。
(2)上記微小粒子の平均粒子径が1,000nm以下である、(1)記載の肝疾患治療剤。
(3)上記微小粒子を含有又は分泌する能力を有する間質細胞を含む(1)又は(2)記載の肝疾患治療剤。
(4)上記微小粒子が、エクソソーム(exosome)である、(1)から(3)のいずれか記載の肝疾患治療剤。
(5)上記微小粒子が、IL−10、HGF、アポリポプロテインA−2(Apolipoprotein A−2)、色素上皮由来因子(Pigment epithelium−derived factor(PEDF)、SERPINF1)、及びハプトグロビン(Haptoglobin)からなる群から選択される少なくとも1種の因子を含有する、(1)から(4)のいずれか記載の肝疾患治療剤。
(6)上記間質細胞が、脂肪組織由来である、(1)から(5)のいずれか記載の肝疾患治療剤。
(7)上記肝疾患が、自己免疫性肝疾患である、(1)から(6)のいずれか記載の肝疾患治療剤。
(8)上記自己免疫性肝疾患が、自己免疫性肝炎(AIH)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)又は原発性胆汁性肝硬変(PSC)である、(7)記載の肝疾患治療剤。
(9)間質細胞由来の微小粒子を患者に投与することにより肝疾患を治療する方法。
(10)上記微小粒子の平均粒子径が1,000nm以下である、(9)記載の方法。
(11)上記微小粒子を含有又は分泌する能力を有する間質細胞を患者に投与する、(9)又は(10)記載の方法。
(12)上記微小粒子が、エクソソーム(exosome)である、(9)から(11)のいずれか記載の方法。
(13)上記微小粒子が、IL−10、HGF、アポリポプロテインA−2(Apolipoprotein A−2)、色素上皮由来因子(Pigment epithelium−derived factor(PEDF)、SERPINF1)、及びハプトグロビン(Haptoglobin)からなる群から選択される少なくとも1種の因子を含有する、(9)から(12)のいずれか記載の方法。
(14)上記間質細胞が、脂肪組織由来である、(9)から(13)のいずれか記載の方法。
(15)上記肝疾患が、自己免疫性肝疾患である、(9)から(14)のいずれか記載の方法。
(16)上記自己免疫性肝疾患が、自己免疫性肝炎(AIH)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)又は原発性胆汁性肝硬変(PSC)である、(9)から(15)のいずれか記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、肝疾患の新規治療剤、肝疾患の新規治療方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、nSMase2をノックダウンした脂肪由来間質細胞(KD−hASC)では、対照細胞(Mock−hASC)と比較して、微小粒子の生成が抑制され、微小粒子の分泌量が有意に減少することを示す図である。
図2図2は、nSMase2をノックダウンした脂肪由来間質細胞(KD−hASC)と対照細胞(Mock−hASC)の培養上清中の微小粒子中のサイトカイン量(IL−10)をELISA法により測定した結果を示す図である。
図3図3は、nSMase2をノックダウンした脂肪由来間質細胞(KD−hASC)と対照細胞(Mock−hASC)の培養上清中の微小粒子中のサイトカイン量(HGF)をELISA法により測定した結果を示す図である。
図4図4は自己免疫性肝疾患のモデルマウスの血中AST値を測定して、自己免疫性肝疾患に対する脂肪由来間質細胞の治療効果を示した図である。nSMase2をノックダウンした脂肪由来間質細胞(KD−hASC)では、対照細胞(Mock−hASC)と比較して、その治療効果が低減することを示している。
図5図5は自己免疫性肝疾患のモデルマウスの血中ALT値を測定して、自己免疫性肝疾患に対する脂肪由来間質細胞の治療効果を示した図である。nSMase2をノックダウンした脂肪由来間質細胞(KD−hASC)では、対照細胞(Mock−hASC)と比較して、その治療効果が低減することを示している。
図6図6は自己免疫性肝疾患のモデルマウスの肝組織に対する脂肪由来間質細胞の治療効果を示した図である。nSMase2をノックダウンした脂肪由来間質細胞(KD−hASC)では、対照細胞(Mock−hASC)と比較して、リンパ球浸潤に対する治療効果が低減することを示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の肝疾患治療剤について詳細に説明する。
【0013】
本発明の肝疾患治療剤は、間質細胞由来の微小粒子を含有する。本発明の肝疾患治療剤は、上記微小粒子を含有又は分泌する能力を有する間質細胞を含むことが好ましい。本発明の肝疾患治療剤において、微小粒子はどのような形態で含有されていてもよく、上記微小粒子を含有又は分泌する能力を有する間質細胞の形態で含有することも含む。すなわち、本発明の肝疾患治療剤は、微小粒子を単独で含んでいてもよく、微小粒子とともに上記微小粒子を含有又は分泌する能力を有する間質細胞を含んでいてもよく、上記微小粒子を含有又は分泌する能力を有する間質細胞を単独で含有してもよい。さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含んでいてもよい。以下に本発明の疾患治療剤について詳細に説明する。
【0014】
〈間質細胞〉
本発明における間質細胞とは、間葉系に属する細胞(骨細胞、心筋細胞、軟骨細胞、腱細胞、脂肪細胞等)への分化能を有し、この分化能を維持したまま増殖できる細胞を意味する。例えば骨髄、脂肪、血液、骨膜、真皮、臍帯、臍帯血、胎盤、羊膜、絨毛膜、脱落膜、筋肉、滑膜、滑液、歯髄、神経、月経血、末梢血等由来の間質細胞が挙げられ、好ましくは脂肪由来、更に好ましくは成人脂肪由来の間質細胞である。ここで、「由来の」とは、当該組織に含有される間質細胞であることを意味し、例えば脂肪由来間質細胞とは、脂肪組織に存在する、間葉系に属する細胞への分化能を有する細胞を意味する。
【0015】
本発明における間質細胞は、処置される対象(被検体)と同種由来であってもよいし、異種由来であっても良い。本発明における間質細胞の種として、ヒト、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ、ラビット、マウス、ラットが挙げられ、好ましくは処置される対象(被検体)と同種由来細胞である。本発明における間質細胞は、処置される対象(被検体)に由来、すなわち自家細胞であってもよいし、同種の別の対象に由来、すなわち他家細胞であっても良い。好ましくは他家細胞である。
【0016】
本発明における間質細胞は、上記微小粒子を含有又は分泌する能力を有することに加えて、例えば、成長特徴(例えば、継代から老化までの集団倍加能力、倍加時間)、核型分析(例えば、正常な核型、母体系統又は新生児系統)、フローサイトメトリー(例えば、FACS分析)による表面マーカー発現、免疫組織化学及び/又は免疫細胞化学(例えば、エピトープ検出)、遺伝子発現プロファイリング(例えば、遺伝子チップアレイ;逆転写PCR、リアルタイムPCR、従来型PCR等のポリメラーゼ連鎖反応)、miRNA発現プロファイリング、タンパク質アレイ、サイトカイン等のタンパク質分泌(例えば、血漿凝固解析、ELISA、サイトカインアレイ)、代謝産物(メタボローム解析)、本分野で知られている他の方法等によって、特徴付けられてもよい。
【0017】
本発明における間質細胞の取得方法、培養方法は特に限定されないが、例えば以下のような方法を用いることができる。すなわち、(a)間質細胞を含む組織を、酵素等で処理する工程、(b)上記酵素処理により得られた細胞懸濁液を適切な培養培地に懸濁して付着培養を行う工程、(c)浮遊細胞を除去する工程、(d)間質細胞を培養する工程等を含む方法により、間質細胞を取得、培養することができる。各工程について以下に、詳細に説明する。
【0018】
工程(a)において、脂肪組織等の間質細胞を含む組織は、生理食塩水(例えばリン酸緩衝食塩水(PBS))等を用いて、攪拌して沈降させること等により洗浄されていることが好ましい。この操作により、上記組織に含まれる夾雑物(デブリとも言い、例えば損傷組織、血液、赤血球等)を組織から除去する。したがって、洗浄及び沈降は一般に、上清からデブリが総体的に除去されるまで繰り返される。残存する細胞は、さまざまなサイズの塊として存在するので、細胞そのものの損傷を最小限に抑えながら解離させるため、洗浄後の細胞塊を、細胞間結合を弱めるか、又は細胞間結合を破壊する酵素(例えばコラゲナーゼ、ディスパーゼ、トリプシン等)で処理することが好ましい。使用する酵素の量及び処理期間は、使用される条件に依存して変わるが、当技術分野の技術常識の範囲で行うことができる。このような酵素処理に代えて、又は併用して、細胞塊を、機械的な攪拌、超音波エネルギー、熱エネルギー等の他の処理法で分解することができるが、細胞の損傷を最小限に抑えるため、酵素処理のみで行うことが好ましい。酵素を用いた場合、細胞に対する有害な作用を最小限に抑えるために、酵素による処理後は、培地等を用いて酵素を失活させることが望ましい。
【0019】
工程(a)により得られる細胞懸濁物は、凝集状の細胞のスラリー又は懸濁物、ならびに各種夾雑細胞、例えば赤血球、平滑筋細胞、内皮細胞、及び線維芽細胞を含む。従って、続いて凝集状態の細胞とこれらの夾雑細胞を分離、除去してもよいが、後述する工程(c)での浮遊細胞等の除去により、除去可能であることから、当該分離、除去は割愛しても良い。夾雑細胞を分離、除去する場合、細胞を上清と沈殿に強制的に分ける遠心分離によって達成し得る。得られた夾雑細胞を含む沈殿は、生理学的に適合する溶媒に懸濁させる。懸濁状の細胞には、赤血球を含む恐れがあるが、後述する個体表面への接着による選択により、赤血球は除外されるため、溶解する工程は必ずしも必要ではない。赤血球を選択的に溶解する方法として、例えば、塩化アンモニウムによる溶解による高張培地又は低張培地中でのインキュベーション等、当技術分野で周知の方法を使用することができる。溶解後、例えば濾過、遠心沈降、又は密度分画によって溶解物を所望の細胞から分離してもよい。
【0020】
工程(b)において、懸濁状の細胞において、間質細胞の純度を高めるために、1回もしくは連続して複数回洗浄し、遠心分離し、培地に再懸濁してもよい。この他にも、細胞を、細胞表面マーカープロファイルを基に、又は細胞のサイズ及び顆粒性を基に分離しても良い。
【0021】
再懸濁において用いる培地は、間質細胞を培養できる培地であれば特に限定されないが、例えば、動物細胞用の基礎培地に、血清及び/又は血清代替物等を添加して作製することができる。また、間質細胞の培養に適した培地として市販されているものを用いてもよい。なお、本発明においては間質細胞やその培養上清を動物(ヒトを含む)の疾患の治療のために用いるため、できるだけ生物由来原料を含まない培地(例えば、無血清培地)であることが好ましい。特に異種由来成分を含まない(ゼノフリー)培地が好ましい。
【0022】
上記基礎培地の組成は、培養するべき細胞の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、イーグル培地のような最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、最小必須培地α(MEM−α)、間葉系細胞基礎培地(MSCBM)、Ham’s F−12及びF−10培地、DMEM/F12培地、Williams培地E、RPMI−1640培地、MCDB培地、199培地、Fisher培地、Iscove改変ダルベッコ培地(IMDM)、McCoy改変培地等が挙げられる。
【0023】
血清は、例えば、ヒト血清、ウシ胎児血清(FBS)、ウシ血清、仔ウシ血清、ヤギ血清、ウマ血清、ブタ血清、ヒツジ血清、ウサギ血清、ラット血清等があるがこれらに限定されない。血清を用いる場合、基礎培地に対して、0.5%〜15%、好ましくは、5%〜10%を添加しても良い。
【0024】
基礎培地に加える上記血清代替物としては、例えば、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、亜セレン酸ナトリウム、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール、3’−チオールグリセロール等が挙げられる。
【0025】
上記基礎培地には、必要に応じて、さらにアミノ酸、無機塩類、ビタミン類、増殖因子、抗生物質、微量金属類、幹細胞分化誘導剤、抗酸化剤、炭素源、塩、糖、糖前駆体、植物由来加水分解物、サーファクタント、アンモニア、脂質、ホルモン、緩衝剤、指示薬、ヌクレオシド、ヌクレオチド、酪酸、有機物、DMSO、動物由来生成物、遺伝子誘導剤、細胞内pHの調節剤、ベタイン、浸透圧保護剤、鉱物等の物質を添加しても良いが、これらの物質に限定されない。これらの物質の使用濃度は特に限定されず、通常の哺乳動物細胞用培地に用いられる濃度で用いることができる。
【0026】
上記アミノ酸としては、例えば、グリシン、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−システイン、L−シスチン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリン等が挙げられる。
【0027】
上記無機塩類としては、例えば、塩化カルシウム、硫酸銅、硝酸鉄(III)、硫酸鉄、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等が挙げられる。
【0028】
上記ビタミン類としては、例えば、コリン、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB4、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB7、ビタミンB12、ビタミンB13、ビタミンB15、ビタミンB17、ビタミンBh、ビタミンBt、ビタミンBx、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンF、ビタミンK、ビタミンM、ビタミンP等が挙げられる。
【0029】
その他、基礎培地に添加できる具体的な物質としては、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、内皮細胞増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮成長因子(EGF)、インスリン様成長因子(IGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、肝細胞増殖因子(HGF)等の増殖因子;ペニシリン、ストレプトマイシン、ネオマイシン硫酸塩、アンホテリシンB、ブラストサイジン、クロラムフェニコール、アモキシシリン、バシトラシン、ブレオマイシン、セファロスポリン、クロルテトラサイクリン、ゼオシン及びピューロマイシン等の抗生物質;グルコース、ガラクトース、フルクトース、スクロース等の炭素源;マグネシウム、鉄、亜鉛、カルシウム、カリウム、ナトリウム、銅、セレン、コバルト、スズ、モリブデン、ニッケル、ケイ素等の微量金属;β−グリセロリン酸、デキサメタゾン、ロシグリタゾン、イソブチルメチルキサンチン、5−アザシチジン等の幹細胞分化誘導剤;2−メルカプトエタノール、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、N−アセチルシステイン等の抗酸化剤;アデノシン5’−一リン酸、コルチコステロン、エタノールアミン、インスリン、還元型グルタチオン、リポ酸、メラトニン、ヒポキサンチン、フェノールレッド、プロゲステロン、プトレシン、ピルビン酸、チミジン、トリヨードチロニン、トランスフェリン、ラクトフェリン等が挙げられる。
【0030】
本発明における間質細胞に好適な無血清培地としては、市販の無血清培地が挙げられる。例えば、PromoCell社、Lonza社、Biological Industries社、Veritas社、R&D Systems社及びCorning社等から間質細胞用として予め調製された培地として提供されているもの等が挙げられる。
【0031】
続いて、間質細胞を分化させずに培養容器等の固体表面上で、上述の適切な培地を使用して、適切な細胞密度及び培養条件で培養する。固体表面を有する培養容器の形状は特に限定されないが、シャーレやフラスコ等が好適に用いられる。本発明における間質細胞の培養条件は、それぞれの間質細胞に適した方法であれば特に限定されず、従来と同様の方法が用いられる。通常、30℃〜37℃の温度、2%〜7%CO環境下、5%〜21%O環境下で行われる。また、間質細胞の継代の時期及び方法もそれぞれの細胞に適していれば特に限定されず、細胞の様子を見ながら、従来と同様に行うことができる。
【0032】
工程(c)において、培養容器の固体表面に非付着状態の浮遊細胞及び細胞の破片等を除去し、生理食塩水(例えばリン酸緩衝食塩水(PBS))等を用いて付着細胞を洗浄する。本発明では、最終的に培養容器の固体表面に付着した状態で留まる細胞を間質細胞の細胞集団として選択することができる。
【0033】
工程(d)において、間質細胞の培養を行う。培養方法は、それぞれの細胞に適した方法であれば特に限定されず、従来と同様の方法が用いられる。通常、30℃〜37℃の温度、2%〜7%CO環境下、5%〜21%O環境下で行われる。また、間質細胞の継代の時期及び方法もそれぞれの間質細胞に適していれば特に限定されず、間質細胞の形態を観察しながら、従来と同様に行うことができる。培養に用いる培地としては、工程(b)と同様のものを用いることができる。なお、細胞の全培養期間に渡って無血清培地等を用いて行われてもよい。
【0034】
〈間質細胞由来の微小粒子〉
本発明における間質細胞由来の微小粒子は、間質細胞から得られる微小粒子であり、間質細胞により産生される。本発明における間質細胞由来の微小粒子は、間質細胞中に含まれるものでもよく、間質細胞培養上清中に含まれるものでもよく、間質細胞中もしくは間質細胞培養上清から単離された微小粒子でもよい。すなわち、本発明における間質細胞由来の微小粒子は、いかなる形態であってもよく、微小粒子自体であることは勿論、微小粒子を含有又は分泌する能力を有する間質細胞の形態であってもよい。微小粒子の単離方法としては、超遠心法、精密濾過法、抗体による捕捉、マイクロ流体システムの利用等が挙げられる。単離された微小粒子は、間質細胞等の細胞を含んでいてもよく、また、間質細胞培養培地を含んでいてもよい。
【0035】
本発明における間質細胞由来の微小粒子は、間質細胞を上述の培地を用いて培養して得られる培養上清から回収することができる。培養上清を回収する場合には、例えば、間質細胞を培養容器中でサブコンフルエント又はコンフルエントの状態にし、新しい培地へと交換してから、更に1〜5日間培養を行って、その培養上清を回収することができる。この培養上清を、本発明の肝疾患治療剤として用いることもできるが、微小粒子を超遠心分離法、密度勾配遠心法、各種微小粒子分離キット等により分離して、それを本発明の肝疾患治療剤の材料として用いることもできる。
本発明の肝疾患治療剤は、上記微小粒子に加えて、上記微小粒子を包含する、又は分泌する能力を有する間質細胞自体を含んでいてもよい。なお、肝疾患治療剤が上記微小粒子を包含する、又は分泌する能力を有する間質細胞を含む場合には、上記間質細胞を含むことで、同時に上記微小粒子を含むという要件を満たすこととなるとも解釈できる。
【0036】
本発明における間質細胞由来の微小粒子は、典型的には間質細胞から放出される、電子顕微鏡で確認することができるサイズの小胞である。微小粒子のサイズとしては、平均粒子径が約1nm以上1,000nm以下であり、10nm以上500nm以下であることが好ましく、30nm以上200nm以下であることが更に好ましい。ここで、平均粒子径とは、動的光散乱法又は電子顕微鏡での測定による各粒子の直径の平均値である。上記微小粒子は、生体分子を囲む脂質二重層を有することができる。また、上記微小粒子としては、例えば、膜粒子、膜小胞、微小胞、ナノ小胞、微小小胞体(microvesicles、平均粒子径30〜1,000nm)、エクソソーム様小胞、エクソソーム(exosome、平均粒子径30〜200nm)、エクトソーム様小胞、エクトソーム(ectosome)又はエキソベシクル等が挙げられ、好ましくはエクソソームである。異なる種類の間質細胞由来の微小粒子は、細胞内起源、スクロース中での微小粒子の密度、形状、沈降速度、脂質組成、タンパク質マーカー及び分泌の様式(即ち、シグナル(誘導性)後又は自発的(構成的))に基づいても区別される。微小粒子は、例えば、密度勾配遠心法では、1.0〜1.5g/mL、好ましくは1.1〜1.3g/mLに分画される。さらに、微小粒子はその構成脂質としてフォスファチジルセリン、コレステロール、スフィンゴミエリン及びセラミドのいずれかを含有する。
【0037】
本発明における間質細胞由来の微小粒子は、タンパク質、脂肪酸、miRNA等の核酸を含む。
【0038】
上記タンパク質、脂肪酸としては、例えば、IL−10、HGF(Hepatocyte Growth Factor)、アポリポプロテインA−2(Apolipoprotein A−2)、色素上皮由来因子(Pigment epithelium−derived factor(PEDF)、SERPINF1)、ハプトグロビン(Haptoglobin)、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、イソペンタデカン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、マルガリン酸、Isoheptadecanoic acid、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、ノナデシル酸、イソノナデシル酸、アラキジン酸、11Z−eicosenoic acid、Dihomo−γ−linolenic acid、アラキドン酸、エルカ酸、13Z, 16Z−Docosadienoic acid、13Z, 16Z,19Z−Docosadienoic acid、アドレン酸、Clupanodonic acid等、好ましくはIL−10、HGF、アポリポプロテインA−2(Apolipoprotein A−2)、色素上皮由来因子(Pigment epithelium−derived factor(PEDF)、SERPINF1)、ハプトグロビン(Haptoglobin)、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、イソペンタデカン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、マルガリン酸、Isoheptadecanoic acid、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、アラキジン酸、11Z−eicosenoic acid、アラキドン酸、エルカ酸、13Z, 16Z−Docosadienoic acid、更に好ましくはIL−10、HGF、アポリポプロテインA−2(Apolipoprotein A−2)、色素上皮由来因子(Pigment epithelium−derived factor(PEDF)、SERPINF1)、ハプトグロビン(Haptoglobin)、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、Isoheptadecanoic acid、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、ノナデシル酸、エルカ酸、13Z, 16Z−Docosadienoic acid、特に好ましくはIL−10、HGF、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、13Z, 16Z−Docosadienoic acidが挙げられ、これらを含む微小粒子であることが好ましい。
【0039】
〈その他の成分〉
本発明の肝疾患治療剤は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、薬学的に許容される担体や添加物を含有させてもよい。このような担体や添加物としては、例えば、等張化剤、増粘剤、糖類、糖アルコール類、防腐剤(保存剤)、殺菌剤又は抗菌剤、pH調節剤、安定化剤、キレート剤、油性基剤、ゲル基剤、界面活性剤、懸濁化剤、結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、発泡剤、流動化剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、溶解補助剤、抗酸化剤、甘味剤、酸味剤、着色剤、呈味剤、香料又は清涼化剤等が挙げられるが、これらに限定されない。代表的な成分として例えば次の担体、添加物等が挙げられる。
【0040】
担体:例えば、水、含水エタノール等の水性担体。
等張化剤(無機塩):例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等。
多価アルコール:例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等。
増粘剤:例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等。
糖類:例えば、シクロデキストリン、ブドウ糖等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、トロメタモール、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、塩酸ポリヘキサニド(ポリヘキサメチレンビグアニド)等)、グローキル(ローディア社製商品名)等。
pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、硫酸マグネシウム、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。
安定化剤:例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等。
油性基剤:例えば、オリーブ油、トウモロコシ油、大豆油、ゴマ油、綿実油等の植物油;中鎖脂肪酸トリグリセリド等。
水性基剤:例えば、マクロゴール400等。
ゲル基剤:例えば、カルボキシビニルポリマー、ガム質等。
界面活性剤:例えば、ポリソルベート80、硬化ヒマシ油、グリセリン脂肪酸エステル、セスキオレイン酸ソルビタン等。
懸濁化剤:例えば、サラシミツロウや各種界面活性剤、アラビアゴム、アラビアゴム末、キサンタンガム、大豆レシチン等。
結合剤:例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等。
賦形剤:例えば、ショ糖、乳糖、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等。
滑沢剤:例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、タルク等。
崩壊剤:例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム等。
発泡剤:例えば、炭酸水素ナトリウム等。
流動化剤:例えば、メタケイ酸アルミン酸ナトリウム、軽質無水ケイ酸等。
【0041】
本発明の肝疾患治療剤は、間質細胞由来の微粒子及び/又は間質細胞、並びに上述した成分を、後述する生理食塩水等にて懸濁、混合して得られる。
【0042】
本発明の肝疾患治療剤は、目的に応じて種々の形態、例えば、固形剤、半固形剤、液剤等の様々な剤形で提供することができる。例えば、固形剤(錠剤、粉末、散剤、顆粒剤、カプセル剤等)、半固形剤[軟膏剤(硬軟膏剤、軟軟膏剤等)、クリーム剤等]、液剤[ローション剤、エキス剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、注射剤(輸液剤、埋め込み注射剤、持続性注射、用時調製型の注射剤を含む)、透析用剤、エアゾール剤、軟カプセル剤、ドリンク剤等]、貼付剤、パップ剤等の形態で利用できる。また、本発明の肝疾患治療剤は、油性又は水性のビヒクル中の溶液又は乳液等の形態でも利用できる。さらに、本発明の肝疾患治療剤は噴霧により、患部に適用することもでき、本発明の肝疾患治療剤は噴霧した後に患部でゲル化もしくはシート化される形態でも利用できる。本発明の肝疾患治療剤は上記間葉系幹細胞をシート状または立体構造体とした後に、患部に適用することもできる。
【0043】
本発明の肝疾患治療剤は、生理食塩液、日局生理食塩液、5%ブドウ糖液、ブドウ糖注射液等、または、DMEM等の細胞培養培地を用いて、懸濁もしくは希釈して用いることができ、好ましくは生理食塩液、5%ブドウ糖液である。
【0044】
本発明の肝疾患治療剤が液剤である場合、肝疾患治療剤のpHは、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではないが、一例として、2.5〜9.0、好ましくは3.0〜8.5、更に好ましくは3.5〜8.0となる範囲が挙げられる。
【0045】
本発明の肝疾患治療剤が液剤である場合、肝疾患治療剤の浸透圧については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。本発明の組成物の浸透圧比の一例として、好ましくは0.7〜5.0、更に好ましくは0.8〜3.0、特に好ましくは0.9〜1.4となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)の浸透圧に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0046】
本発明の肝疾患治療剤の対象への投与経路は、経口投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、髄腔内投与、腹腔内投与、舌下投与、経直腸投与、経腟投与、眼内投与、経鼻投与、吸入、経皮投与、インプラント、肝表面への噴霧及びシート等の貼付による直接投与等が挙げられるが、本発明の肝疾患治療剤の有効性の観点から、好ましくは、インプラント、肝表面への噴霧及びシート等の貼付による直接投与、肝動脈内投与及び静脈内投与であり、対象者の負担の軽減の観点から、更に好ましくは、静脈内投与である。
【0047】
本発明の肝疾患治療剤において、微小粒子を分泌する間質細胞を含む場合、その用量(投与量)は、患者の状態(体重、年齢、症状、体調等)、及び本発明の肝疾患治療剤の剤形等によって異なりうるが、十分な肝疾患治療剤の治療効果を奏する観点からは、その量は多い方が好ましい傾向にあり、一方、副作用の発現を抑制する観点からはその量は少ない方が好ましい傾向にある。通常、成人に投与する場合には、細胞数として、1x10〜1x1012個/回、好ましくは1x10〜1x1011個/回、更に好ましくは1x10〜1x1010個/回、特に好ましくは5x10〜1x10個/回である。なお、本用量を1回量として、複数回投与してもよく、本用量を複数回に分けて投与しても良い。
【0048】
本発明の肝疾患治療剤が、微小粒子を分泌する間質細胞を含む場合、その用量(投与量)は、患者の状態(体重、年齢、症状、体調等)、及び本発明の肝疾患治療剤の剤形等によって異なりうるが、通常、成人に投与する場合には、細胞数として、1x10〜5x1010個/kg、好ましくは1x10〜5x10個/kg、更に好ましくは1x10〜5x10個/kg、特に好ましくは1x10〜5x10個/kgである。なお、本用量を1回量として、複数回投与してもよく、本用量を複数回に分けて投与しても良い。
【0049】
本発明の肝疾患治療剤が、単離された微小粒子又は微小粒子を含む間質細胞培養上清を含む場合、その用量(投与量)は、患者の状態(体重、年齢、症状、体調等)、及び本発明の肝疾患治療剤の剤形等によって異なりうるが、通常、成人に投与する場合には、微小粒子として、1x10〜5x1013個/kg、好ましくは1x10〜5x1012個/kg、更に好ましくは1x10〜5x1011個/kg、特に好ましくは1x10〜5x1010個/kgである。なお、本用量を1回量として、複数回投与してもよく、本用量を複数回に分けて投与しても良い。
【0050】
本発明の肝疾患治療剤は、1又は2以上の他の薬剤と共に投与してもよい。他の薬剤としては、肝臓の治療薬として用いることができる任意の剤を薬剤が挙げられ、たとえば、B型肝炎治療薬(ラミブジン、アデホビル、エンテカビル、テノホビル等)、インターフェロン製剤(インターフェロンα、インターフェロンα−2b、インターフェロンβ、ペグインターフェロンα−2a、ペグインターフェロンα−2b等)、C型肝炎治療薬(リバビリン、テラピレビル、シメプレビル、バニプレビル、ダクラタスビル、アスナプレビル、ソホスブビル等)、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン、メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム等)、抗凝固剤(乾燥濃縮人アンチトロンビンIII、ガベキサートメシル酸塩、トロンボモデュリンα等)、解毒剤(エデト酸カルシウム二ナトリウム水和物、グルタチオン、ジメチカプロール、チオ硫酸ナトリウム水和物、スガマデスクナトリウム等)、人血清アルブミン、肝臓抽出エキス、ウルソデオキシコール酸、グリチルリチン酸、アザチオプリン、ベザフィーブラート、アミノ酸(グリシン、L−システイン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−バリン、L−トレオニン、L−セリン、L−アラニン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−トリプトファン、L−リシン、L−ヒスチジン、L−アルギニン及びこれらの塩等)、ビタミン(トコフェロール、フラビンアデニンジヌクレオチド、リン酸チアミンジスルフィド、ピリドキシン、シアノコバラミン及びこれらの塩等)、抗生物質(スルバクタムナトリウム、セフォペラゾンナトリウム、メロペネム水和物、塩酸バンコマイシン等)等が挙げられる。
【0051】
本発明の肝疾患治療剤は、自己免疫性肝炎(AIH)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、原発性胆汁性肝硬変(PSC)等の自己免疫性肝疾患に対して、用いることができる。
【0052】
本発明は、間質細胞由来の微小粒子を患者に投与することにより肝疾患を治療する方法も含む。本発明の方法によると、肝疾患、特に自己免疫性肝疾患を効果的に治療することができる。具体的には、本発明の治療方法は、上述した本発明の肝疾患治療剤を患者に投与する方法である。本発明の肝疾患治療剤については、前項の記載内容をそのまま適用できる。
【0053】
本発明の方法において、上記微小粒子の平均粒子径は1,000nm以下であることが好ましい。また、本発明の方法は、上記微小粒子を含有又は分泌する能力を有する間質細胞を患者に投与する方法であることが好ましい。さらに、上記微小粒子は、エクソソーム(exosome)であり、IL−10、HGF、アポリポプロテインA−2(Apolipoprotein A−2)、色素上皮由来因子(Pigment epithelium−derived factor(PEDF)、SERPINF1)、及びハプトグロビン(Haptoglobin)からなる群から選択される少なくとも1種の因子を含有することが好ましい。上記間質細胞は、脂肪組織由来であることが好ましく、自己免疫性肝疾患の中でも、自己免疫性肝炎(AIH)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)又は原発性胆汁性肝硬変(PSC)に対して、本発明の治療方法は顕著な効果を奏する。
【実施例】
【0054】
以下に本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0055】
[脂肪由来間質細胞の調製及び培養]
脂肪由来間質細胞を、健常人ドナーから脂肪吸引法で採取した皮下脂肪組織を用いて調製した。具体的には、皮下脂肪組織を、リン酸緩衝食塩水溶液で洗浄し、II型コラゲナーゼ(溶媒は生理食塩水溶液(5mg/mL))を加え、37℃で30分間処理した。上記コラゲナーゼを、DMEM−10%FBSを添加して不活性化した後、細胞懸濁物を遠心分離して細胞の沈殿を得た。さらに、上記細胞沈殿を、1%アンピシリン−ストレプトマイシンを含むDMEM−10%FBSに再懸濁し、2x10〜3x10細胞/cmとなるように懸濁し、プレーティングした。細胞を37℃で24時間、5%CO雰囲気中で培養し、脂肪由来間質細胞を得た。
【0056】
[nSMase2のノックダウンによる微小粒子の生成抑制]
脂肪由来間質細胞のneutral sphingomyelinase2(nSMase2)をshRNA vectorのトランスフェクションによりノックダウンしたKD−hASCを作製した。対照細胞としては、脂肪由来間質細胞にcontrol vectorのトランスフェクションを行ったmock−hASCを用いた。KD−hASC及びmock−hASCからの微小粒子の分泌量を常法により測定し、比較を行った(図1)。また、KD−hASC及びmock−hASCの培養上清をそれぞれ回収した。回収した培養上清をフィルター(0.22μm、メルクミリポア)でろ過した後、遠心(35,000rpm、70分、4℃、BECKMAN Optima XE−90)により微小粒子を回収し、それぞれの微小粒子中のサイトカイン量(IL−10及びHGF;Hepatocyte Growth Factor)をELISA法により測定した(図2図3)。
【0057】
図1に示す通り、nSMase2をノックダウンした細胞(KD−hASC)では微小粒子の生成が抑制され、対照細胞(mock−hASC)と比較して、微小粒子の分泌量が有意に減少することが明らかとなった。また、図2及び3に示す通り、nSMase2をノックダウンした細胞(KD−hASC)では、微小粒子の生成抑制により培養上清中の微小粒子由来サイトカイン(IL−10及びHGF)が対照細胞(mock−hASC)と比較して、減少することも明らかとなった。なお、mock―hASC及びKD―hASC由来微小粒子の平均粒子径は、それぞれ155±3及び155±6nmであった(平均±標準誤差、n=3)。
【0058】
[微小粒子(エクソソーム)の分析]
間質細胞の培養上清(無血清培地)100mLにTotal Exosome Isolation(Thermo Fisher Scientific Inc.、品番:4478359)を50mL加え、充分に転倒混和した。冷蔵庫(2〜8℃)で一晩保存した後、遠心分離(10,000×g、1時間、2〜8℃)し、その上清を除去した。その時発生した沈渣を500μLのPBSで懸濁し、この懸濁液を微小粒子(エクソソーム)含有懸濁液とした。微小粒子(エクソソーム)含有懸濁液150μLに20%トリクロロ酢酸(trichloroacetic acid(TCA)、和光純薬工業(株)製)を150μL加え、タンパク質を凝集させ沈殿させた。得られた沈殿全量にトリス塩酸緩衝液(Tris Hydrochloride Acid Buffer(Tris−HCl)、pH8.5)20μLを加えて、沈殿を溶解した。さらに、0.01%のトリプシン(trypsin、アプロサイエンス社製)を含むトリスバッファー(Tris−HCl、pH8.0)を加え、37℃で20時間反応させた。その後、得られたサンプル溶液をLC−MS/MS(LC:Michrom BioResources社製、MS:ThermoFisherScientific社製)で分析を行ったところ、アポリポプロテインA−2(Apolipoprotein A−2)、色素上皮由来因子(Pigment epithelium−derived factor(PEDF)、SERPINF1)及びハプトグロビン(Haptoglobin)が検出された。
【0059】
[自己免疫性肝炎モデルマウスを用いた治療効果の確認]
マウス(BALB/cA、日本クレア)にコンカナバリンA(sigma−aldrich)を20mg/kg、単回投与する事で、自己免疫性肝炎を誘発した。この自己免疫性肝炎を誘発したマウスに、上記と同様に調製を行った脂肪由来間質細胞(Mock−hASC:1x10細胞/回)、又は微小粒子生成抑制処理した脂肪由来間質細胞(KD−hASC;1x10細胞/回)を単回静脈内投与し、肝障害の評価を行った。なお、比較対象として、細胞を投与しない動物(Control)と健常動物(Normal)を設けた。肝障害のマーカーの測定結果を図4(AST)及び図5(ALT)に示す。なお、AST及びALTはそれぞれ、生化学自動分析装置により測定した。また、それぞれのマウスの肝組織のH/E染色の結果を図6に示す。
【0060】
健常マウス(Normal)と比較して、肝障害のマーカーである、AST及びALTはコンカナバリンAを投与することにより上昇したが(Control)、Mock−hASCを投与することにより、その上昇は顕著に抑制された。これに対して、微小粒子生成抑制処理した間質細胞を投与したマウスでは(KD−hASC)、AST及びALTの上昇を抑制する効果は低かった。また、図6に示す通り、コンカナバリンAで自己免疫性肝炎を誘発したマウスの肝組織ではリンパ球浸潤が見られるのに対して、CONT−hASCを投与したマウスにおいてはリンパ球浸潤が抑制されていた。これに対して、微小粒子生成抑制処理した間葉系幹細胞を投与したマウスでは(KD−hASC)、リンパ球浸潤を抑制する効果は弱かった。以上より、微小粒子の生成を抑制することで、脂肪由来間質細胞による自己免疫性肝炎に対する治療効果が顕著に低減することがわかった。
【0061】
以上の結果から、脂肪由来間質細胞は、自己免疫性肝炎に対する顕著な治療効果を有し、その治療効果は微小粒子の生成を抑制することにより低減することから、微小粒子が脂肪由来間質細胞による治療効果の中心的役割を示していることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明により、新規な肝疾患治療剤及び肝疾患の新規治療方法が提供される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6