特許第6960140号(P6960140)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6960140
(24)【登録日】2021年10月13日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】腫瘍組織再現法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/09 20100101AFI20211025BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20211025BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20211025BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20211025BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   C12N5/09
   A01K67/027
   C12N5/077
   C12N5/078
   C12Q1/02
【請求項の数】37
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-50769(P2017-50769)
(22)【出願日】2017年3月16日
(65)【公開番号】特開2018-110575(P2018-110575A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2020年1月14日
(31)【優先権主張番号】特願2016-53074(P2016-53074)
(32)【優先日】2016年3月16日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-1445(P2017-1445)
(32)【優先日】2017年1月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(72)【発明者】
【氏名】谷口 英樹
(72)【発明者】
【氏名】上野 康晴
(72)【発明者】
【氏名】武部 貴則
(72)【発明者】
【氏名】関根 圭輔
(72)【発明者】
【氏名】奥田 諒
【審査官】 上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/012158(WO,A1)
【文献】 PLoS ONE,2015年,Vol.10, No.12, e0144139,p.1-22
【文献】 Cell,2015年,Vol.160,p.324-338
【文献】 Frontiers in Physiology,2013年,Vol.4, No.56,p.1-7
【文献】 Nature Protocols,2016年,Vol.11, No.2,p.347-358,Published online 21 January 2016
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00−5/10
A01K 67/027
C12Q 1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌微小環境を有する、再構成された癌オルガノイドであって、間葉系細胞が収縮可能なゲル状支持体上で、コラーゲンを用いずに、癌細胞:血管内皮細胞:間葉系細胞=10:1〜100:5〜100の数比にて、癌細胞を間葉系細胞及び血管内皮細胞と共培養して、形成させた前記癌オルガノイド。
【請求項2】
癌微小環境が癌間質を含む請求項1記載の癌オルガノイド。
【請求項3】
上皮細胞の特性を有する癌細胞を含む請求項1又は2記載の癌オルガノイド。
【請求項4】
さらに、腺管構造を再現する請求項1〜3のいずれかに記載の癌オルガノイド。
【請求項5】
癌の治療抵抗性、浸潤・転移及び再発からなる群より選択される少なくとも1つを再現する、請求項1〜4のいずれかに記載の癌オルガノイド。
【請求項6】
癌の治療抵抗性が、薬剤感受性、放射線感受性、免疫療法感受性及び栄養療法感受性からなる群より選択される少なくとも1つである請求項5記載の癌オルガノイド。
【請求項7】
癌の予後予測を可能とする、請求項1〜6のいずれかに記載の癌オルガノイド。
【請求項8】
タンパク質分解酵素及びRhoキナーゼ阻害剤の存在下で、癌組織を消化してから、癌細胞の凝集体を得ること、前記凝集体を継代した後、癌細胞を分離すること、間葉系細胞が収縮可能なゲル状支持体上で、コラーゲンを用いずに、癌細胞:血管内皮細胞:間葉系細胞=10:1〜100:5〜100の数比にて、前記癌細胞を間葉系細胞及び血管内皮細胞と共培養して、癌オルガノイドを形成させることを含む、請求項1記載の癌オルガノイドを作製する方法。
【請求項9】
癌微小環境が癌間質を含む請求項8記載の方法。
【請求項10】
癌オルガノイドが、上皮細胞の特性を有する癌細胞を含む請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
癌オルガノイドが、さらに、腺管構造を再現する請求項8〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
癌オルガノイドが、癌の治療抵抗性、浸潤・転移及び再発からなる群より選択される少なくとも1つを再現する請求項8〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
癌の治療抵抗性が、薬剤感受性、放射線感受性、免疫療法感受性及び栄養療法感受性からなる群より選択される少なくとも1つである請求項12記載の方法。
【請求項14】
癌オルガノイドが、癌の予後予測を可能とする請求項8〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
癌微小環境を有する、ゼノグラフトを作製する方法であって、請求項1記載の癌オルガノイドを非ヒト動物に移植することを含む前記方法。
【請求項16】
ゼノグラフトの癌微小環境が癌間質を含む請求項15記載の方法。
【請求項17】
再構成された癌オルガノイドが、上皮細胞の特性を有する癌細胞を含む請求項15又は16記載の方法。
【請求項18】
再構成された癌オルガノイドがさらに腺管構造を再現する請求項15〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
ゼノグラフトがさらに腺管構造を再現する請求項15〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
ゼノグラフトが、癌の治療抵抗性、浸潤・転移及び再発からなる群より選択される少なくとも1つを再現する請求項15〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
癌の治療抵抗性が、薬剤感受性、放射線感受性、免疫療法感受性及び栄養療法感受性からなる群より選択される少なくとも1つである請求項20記載の方法。
【請求項22】
ゼノグラフトが、癌の予後予測を可能とする請求項15〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
癌微小環境を有する、ゼノグラフトであって、請求項1記載の癌オルガノイドを非ヒト動物に移植することにより得られる前記ゼノグラフト。
【請求項24】
ゼノグラフトの癌微小環境が癌間質を含む請求項23記載のゼノグラフト。
【請求項25】
上皮細胞の特性を有する癌細胞を含む請求項23又は24記載のゼノグラフト。
【請求項26】
さらに腺管構造を再現する請求項23〜25のいずれかに記載のゼノグラフト。
【請求項27】
癌の治療抵抗性、浸潤・転移及び再発からなる群より選択される少なくとも1つを再現する、請求項23〜26のいずれかに記載のゼノグラフト。
【請求項28】
癌の治療抵抗性が、薬剤感受性、放射線感受性、免疫療法感受性及び栄養療法感受性からなる群より選択される少なくとも1つである請求項27記載のゼノグラフト。
【請求項29】
癌の予後予測を可能とする、請求項23〜28のいずれかに記載のゼノグラフト。
【請求項30】
薬剤トランスポーターの発現を再現する、請求項23〜29のいずれかに記載のゼノグラフト。
【請求項31】
腫瘍血管を有する、請求項23〜30のいずれかに記載のゼノグラフト。
【請求項32】
腫瘍血管に特徴的な薬剤漏れ出しを再現する、請求項23〜31のいずれかに記載のゼノグラフト。
【請求項33】
請求項1〜7のいずれかに記載の癌オルガノイド及び/又は請求項23〜32のいずれかに記載のゼノグラフトを用いて、癌の治療抵抗性評価を補助する方法であって、
癌オルガノイドを用いて、癌の治療抵抗性評価を補助する場合は、癌オルガノイドに癌の治療と同等の処置を施し、適当な時間経過後に、生存している癌細胞数をカウントし、IC50値を算出することを含み、
ゼノグラフトを用いて、癌の治療抵抗性評価を補助する場合は、癌オルガノイドを非ヒト動物に移植し、形成されるゼノグラフトの体積が適当な大きさになった時点で、癌の治療を開始し、適当な頻度で投与した後、ゼノグラフトを摘出し、その体積を測定することを含む前記方法。
【請求項34】
請求項1〜7のいずれかに記載の癌オルガノイド及び/又は請求項23〜32のいずれかに記載のゼノグラフトを用いて、癌の浸潤・転移評価を補助する方法であって、
癌オルガノイドを用いて、癌の浸潤・転移評価を補助する場合は、癌オルガノイドからの細胞遊走を観察することを含み、
ゼノグラフトを用いて、癌の浸潤・転移評価を補助する場合は、癌オルガノイドを非ヒト動物に移植し、形成されるゼノグラフトの体積が適当な大きさになった後の適当な時間経過後に、遠隔転移が想定される組織内での癌細胞コロニーあるいは癌細胞を観察することを含む前記方法。
【請求項35】
請求項1〜7のいずれかに記載の癌オルガノイド及び/又は請求項23〜32のいずれかに記載のゼノグラフトを用いて、癌の再発評価を補助する方法であって、
癌オルガノイドを用いて、癌の再発の評価を補助する場合は、癌オルガノイドに癌の治療と同等の処置を施し、癌細胞の消滅あるいは減少が観察された後に前記癌の治療と同等の処置を施すことを中止し、適当な時間経過後に、生存している癌細胞数あるいは癌オルガノイドのサイズを測定することを含み、
ゼノグラフトを用いて、癌の再発評価を補助する場合は、癌オルガノイドを非ヒト動物に移植し、形成されるゼノグラフトの体積が適当な大きさになった時点で、癌の治療を開始し、適当な頻度で投与して、ゼノグラフトの消滅あるいは減少が観察された後、癌の治療を中止し、適当な時間経過後に、ゼノグラフトの体積あるいは構成細胞数を測定することを含む前記方法。
【請求項36】
請求項1〜7のいずれかに記載の癌オルガノイド及び/又は請求項23〜32のいずれかに記載のゼノグラフトを用いて、癌の予後予測を補助する方法であって、患者の癌細胞由来の癌オルガノイド及び/又はゼノグラフトが治療感受性である場合は、患者は術後に再発しないと予測し、患者の癌細胞由来の癌オルガノイド及び/又はゼノグラフトが治療抵抗性である場合は、患者は術後に再発すると予測することを含む前記方法。
【請求項37】
請求項23〜32のいずれかに記載のゼノグラフトを担持する非ヒト動物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトがん組織の微小環境を再現する再構成法およびその利用法に関する。
【背景技術】
【0002】
膵がんをはじめとする難治がんに対し、新規治療法の開発が急務となっている。がんの治療抵抗性には、がん細胞とがん細胞周囲に存在する様々な細胞(腫瘍関連繊維芽細胞や血管内皮細胞などの間葉系細胞、マクロファージ等の炎症細胞など)の相互作用により構築される腫瘍微少環境が重要な役割を担っていることが明らかにされている。例えば、代表的な難治がんである膵癌は豊富な間質を有するが、膵癌の腫瘍間質は抗癌剤の浸透を妨げること(非特許文献1:Cancer Cell. 20:21(3):418-429, 2012.)、腫瘍間質より産生されるサイトカイン(IL-6)は膵癌細胞のアポトーシス耐性に寄与すること(非特許文献2:EMBO Mol Med. 1;7(6):735-53, 2015.)が報告されている。また、未熟な腫瘍血管網が薬剤到達不良の原因となること(非特許文献3:Cancer Cell. 10;26(5):605-22, 2014.)、血管内皮細胞より産生されるJagged1は癌細胞の抗がん剤耐性に寄与すること(非特許文献4:Cancer Cell. 17;25(3):350-65, 2014.)が報告されている。これらのことから、腫瘍微少環境の理解およびその再現法は、がんの治療標的の同定や創薬開発において極めて重要となる。
これまでに、ヒトがん組織を人為的に再構成するための手法として、1)免疫不全動物へのヒト癌組織片の移植法(ヒトがん組織を保持する担がん動物作製法)、2)樹立がん細胞株を用いたがん組織の再構成法、3)がん患者に由来する初代培養がん細胞を用いたがん組織の再構成法が開発されている。しかしながら、1)については、免疫不全動物内で癌組織を植え次ぐ必要があるため、コスト高の問題が存在すること。また、腫瘍の植え次ぎ重ねるとマウスの間質細胞が浸潤し特性が変化する可能性があることが指摘されている。また、2)についてはがん細胞が長期に渡る培養の間に、癌細胞の遺伝学的およびエピジェネティックな変化が生じる問題があること、および、がん細胞以外の腫瘍微小環境の構成要素を再現できないことが報告されている。(非特許文献5:Nature Reviews Clinical Oncology, 9, 338-350, 2012.、非特許文献6:Oncology, 33, 1837-1843, 201)。他方、3)については、1)の問題および2)の前者の問題は回避されるものの、既存の培養方法ではがん間質の再現に至らない問題がある(非特許文献7:Science, 324, 1457-1461, 2009.)。これらの課題により、既存のがん細胞の評価法は腫瘍癌微小環境を再現できず、ヒト癌組織を再現することが出来ていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Cancer Cell. 20:21(3):418-429, 2012.
【非特許文献2】EMBO Mol Med. 1;7(6):735-53, 2015.
【非特許文献3】Cancer Cell. 10;26(5):605-22, 2014.
【非特許文献4】Cancer Cell. 17;25(3):350-65, 2014.
【非特許文献5】Nature Reviews Clinical Oncology, 9, 338-350, 2012.
【非特許文献6】Oncology, 33, 1837-1843, 201
【非特許文献7】Science, 324, 1457-1461, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、癌組織の微小環境を再現できる技術を開発し、ヒトがん組織の再構成法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ヒト膵癌細胞株 (PANC-1, CFPAC-1, SW1990)、ヒト血管内皮細胞(HUVEC)及びヒト間葉系細胞(hMSC)を共培養することで、ヒト膵癌オルガノイドを再構成した。この膵癌オルガノイドより、豊富な間質や腺管構造を有した膵癌ゼノグラフトが形成された。また、本発明者らは、ヒト膵癌臨床検体よりプライマリヒト膵癌細胞を分離・培養し、ストロマ細胞(血管内皮細胞、間葉系幹細胞)と共培養することで、ヒトプライマリ膵癌オルガノイド内で腺管様構造や豊富な間質を再構成した。このヒトプライマリ膵癌オルガノイドより、腫瘍微細構造を伴う(豊富な間質や腺管構造を有する)ヒト膵癌組織(膵癌ゼノグラフト)が形成された。間質に富む再構成膵癌組織は、高い抗癌剤耐性を示した。本発明は、これらの知見に基づいて、完成されたものである。
【0006】
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)癌微小環境を再現する、再構成された癌オルガノイド。
(2)癌微小環境が癌間質を含む(1)記載の癌オルガノイド。
(3)上皮細胞の特性を有する癌細胞を含む(1)又は(2)記載の癌オルガノイド。
(4)さらに、腺管構造を再現する(1)〜(3)のいずれかに記載の癌オルガノイド。
(5)癌の治療抵抗性、浸潤・転移及び再発からなる群より選択される少なくとも1つを再現する、再構成された癌オルガノイド。
(6)癌の治療抵抗性が、薬剤感受性、放射線感受性、免疫療法感受性及び栄養療法感受性からなる群より選択される少なくとも1つである(5)記載の癌オルガノイド。
(7)癌の予後予測を可能とする、再構成された癌オルガノイド。
(8)タンパク質分解酵素及びRhoキナーゼ阻害剤の存在下で、癌組織を消化してから、癌細胞の凝集体を得ること、前記凝集体を継代した後、癌細胞を分離すること、前記癌細胞を間葉系細胞及び血管内皮細胞と共培養して、癌オルガノイドを形成させることを含む、癌オルガノイドを作製する方法。
(9)癌オルガノイドが、癌微小環境を再現するものである(8)記載の方法。
(10)癌微小環境が癌間質を含む(9)記載の方法。
(11)癌オルガノイドが、上皮細胞の特性を有する癌細胞を含む(8)〜(10)のいずれかに記載の方法。
(12)癌オルガノイドが、さらに、腺管構造を再現する(8)〜(11)のいずれかに記載の方法。
(13)癌オルガノイドが、癌の治療抵抗性、浸潤・転移及び再発からなる群より選択される少なくとも1つを再現する(8)〜(12)のいずれかに記載の方法。
(14)癌の治療抵抗性が、薬剤感受性、放射線感受性、免疫療法感受性及び栄養療法感受性からなる群より選択される少なくとも1つである(13)記載の方法。
(15)癌オルガノイドが、癌の予後予測を可能とする(8)〜(12)のいずれかに記載の方法。
(16)癌微小環境を再現する、ゼノグラフトを作製する方法であって、癌微小環境を再現する、再構成された癌オルガノイドを非ヒト動物に移植することを含む前記方法。
(17)ゼノグラフトの癌微小環境が癌間質を含む(16)記載の方法。
(18)再構成された癌オルガノイドが、上皮細胞の特性を有する癌細胞を含む(16)又は(17)記載の方法。
(19)再構成された癌オルガノイドがさらに腺管構造を再現する(16)〜(18)のいずれかに記載の方法。
(20)ゼノグラフトがさらに腺管構造を再現する(16)〜(19)のいずれかに記載の方法。
(21)ゼノグラフトが、癌の治療抵抗性、浸潤・転移及び再発からなる群より選択される少なくとも1つを再現する(16)〜(20)のいずれかに記載の方法。
(22)癌の治療抵抗性が、薬剤感受性、放射線感受性、免疫療法感受性及び栄養療法感受性からなる群より選択される少なくとも1つである(21)記載の方法。
(23)ゼノグラフトが、癌の予後予測を可能とする(16)〜(20)のいずれかに記載の方法。
(24)癌微小環境を再現する、ゼノグラフトであって、癌微小環境を再現する、再構成された癌オルガノイドを非ヒト動物に移植することにより得られる前記ゼノグラフト。
(25)ゼノグラフトの癌微小環境が癌間質を含む(24)記載のゼノグラフト。
(26)上皮細胞の特性を有する癌細胞を含む(24)又は(25)記載のゼノグラフト。
(27)さらに腺管構造を再現する(24)〜(26)のいずれかに記載のゼノグラフト。
(28)癌の治療抵抗性、浸潤・転移及び再発からなる群より選択される少なくとも1つを再現する、再構成された癌オルガノイド由来ゼノグラフト。
(29)癌の治療抵抗性が、薬剤感受性、放射線感受性、免疫療法感受性及び栄養療法感受性からなる群より選択される少なくとも1つである(28)記載のゼノグラフト。
(30)癌の予後予測を可能とする、再構成された癌オルガノイド由来ゼノグラフト。
(31)薬剤トランスポーターの発現を再現する、再構成された癌オルガノイド由来ゼノグラフト。
(32)腫瘍血管を有する、再構成された癌オルガノイド由来ゼノグラフト。
(33)腫瘍血管に特徴的な薬剤漏れ出しを再現する、再構成された癌オルガノイド由来ゼノグラフト。
(34)(1)〜(7)のいずれかに記載の癌オルガノイド及び/又は(24)〜(33)のいずれかに記載のゼノグラフトを用いて、癌の治療抵抗性を評価する方法。
(35)(1)〜(7)のいずれかに記載の癌オルガノイド及び/又は(24)〜(33)のいずれかに記載のゼノグラフトを用いて、癌の浸潤・転移を評価する方法。
(36)(1)〜(7)のいずれかに記載の癌オルガノイド及び/又は(24)〜(33)のいずれかに記載のゼノグラフトを用いて、癌の再発を評価する方法。
(37)(1)〜(7)のいずれかに記載の癌オルガノイド及び/又は(24)〜(33)のいずれかに記載のゼノグラフトを用いて、癌の予後予測をする方法。
(38)(24)〜(33)のいずれかに記載のゼノグラフトを担持する非ヒト動物。
本発明により、ヒトがんの治療抵抗性機構の解明、新規創薬スクリーニング系の構築が可能となる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の癌オルガノイド及びゼノグラフトは、癌間質による癌微小環境を再現することができる。また、生体内の構造に近い、癌組織(例えば腺管構造)を再現することも出来る。間質を有したゼノグラフトは癌細胞の薬剤感受性が低下する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】膵癌治療薬ゲムシタビン(GEM)に対する既存膵癌細胞株のin vitro(上段)およびin vivo(下段)薬剤感受性を示す。96well plateの1ウエルあたり8000細胞を播種し、72時間後の残存細胞数を測定しグラフにまとめた。また、各膵癌細胞をNOD/Scidマウス背部皮下に移植し、移植後、腫瘍体積が100mm3に達した時点から、ゲムシタビンを100mg/kgで腹腔内に投与し、ゲムシタビン投与後の腫瘍サイズの推移を検討した。in vitroでの抗がん剤感受性とin vivoでの抗がん剤感受性の乖離を確認した。
図2】各膵癌細胞をNOD/Scidマウス背部皮下に移植し、作製された腫瘍のHE染色像(上段)を示す。また、膵癌患者の病理組織像を示す。ヒト膵癌細胞株のみの移植により形成されるゼノグラフトは間質が乏しい。また、膵管癌の特徴である腺管構造が認められない。
図3】ヒトiPS肝芽の形成過程(左)および、ヒト膵癌細胞株(例えばCFPAC-1):HUVEC:hMSCから形成されるヒト膵癌細胞由来オルガノイドの形成過程を示す。
図4】ヒト膵癌細胞株(例えばCFPAC-1あるいはPANC-1あるいはSW1990):HUVEC:hMSCからの膵癌オルガノイドの形成過程の詳細を示す。CFPAC-1・HUVEC・hMSCいずれからも、癌オルガノイドが形成された(左図)。GFP標識したHUVEC、Kusabira Orange(KO) 標識したhMSCと無標識癌細胞から癌オルガノイドを作製し、培養過程での変化を解析した(右図)。培養、1日目より凝集が観察され、HUVECやhMSCが培養7日目においても検出された。
図5】各ヒト癌細胞株より形成された癌オルガノイドの形態。培養期間は1日間である。HUVEC、hMSCを含む群では明瞭な細胞凝集が観察される。
図6】各ヒト癌細胞株より形成された癌オルガノイドの移植後に形成されたゼノグラフトの組織像。左列は代表的な膵癌である膵管癌 (PDAC:Pancreatic ductal adenocarcinoma) 患者の病理標本を示す。膵管癌では腺管構造(EpCAM陽性細胞で構成される)の周囲に高度な繊維化を有する間質が存在する。繊維化された領域内ではαSMA陽性細胞(間葉系細胞)の存在が観察される。膵癌オルガノイドを移植した群では、豊富な間質(αSMA陽性細胞)とともに腺管様構造(EpCAM陽性細胞で構成される)が観察される。他方、既存膵癌細胞のみで作製した凝集体を移植した群(写真中列)では、膵管構造は確認されず、構造に乏しい組織を呈する。
図7】ヒト膵癌細胞株由来のオルガノイドを免疫不全マウス(NOD/Scidマウス)に移植し、形成されたゼノグラフトの組織像(左図の右端列、右から2番目の列)、膵癌細胞のみの単独移植群(左図の左から2番目の列)、ヒト膵癌原発巣の組織像(左図の左端列)を示す。なお、左図の右端列はHUVECとhMSCの存在頻度が高い癌オルガノイドの移植群、右から2番目の列はHUVECとhMSCの存在頻度が低い癌オルガノイドの移植群を示す。上段より、HE像、CK7とα-SMA免疫染色像、シリウス赤染色像、アザン染色像、アルシアンブルー染色像を示す。αSMA陽性率、シリウス赤陽性領域、アザン染色陽性領域を定量化したデータをそれぞれ右に示す。HE染色像およびCK7免疫染色像より、ヒト膵癌オルガノイド移植後に形成されたゼノグラフトは、膵癌細胞のみの単独移植群に比べてヒト膵癌原発巣に類似した腺管構造および間質を呈することが確認される。ヒト膵癌オルガノイドの中のストロマ細胞の存在頻度と移植後に形成される組織像の関係を検討したところ、ストロマ細胞を多く含む膵癌オルガノイド(high Stroma)を移植した群において、αSMA陽性細胞を高頻度に含むゼノグラフトが形成された。
図8】各条件で作製したヒト膵癌細胞株由来の膵癌オルガノイドを免疫不全マウス(NOD/Scidマウス)に移植し、形成されたゼノグラフトについてのヒアルロン酸染色像およびシリウス赤染色像を示す。なお、シリウス赤染色群は、シリウスレッド染色一偏光顕微鏡解析法(偏光解析法)により、線維性コラーゲン(主としてコラーゲンIとIII)の検出に用いた。シリウスレッド染色一偏光顕微鏡解析法(偏光解析法)は、コラーゲンの線維径、パッキング、配列の程度により異なった複屈折性を示すことを利用した可視化法であり、コラーゲンの構造変化を検出する上で有用である。また、細胞外マトリクスであるテネイシンCの発現を評価した。輝度の高い領域を定量化した結果を下段のグラフに示す。原発巣および豊富な間質を伴う癌オルガノイド移植後に形成されたゼノグラフト内で、ヒアルロン酸染色およびシリウス赤およびテネイシンの強い染色が観察される。膵癌細胞の分散移植(サスペンジョン)、膵癌細胞のみで作製した膵癌凝集体から形成されたゼノグラフト内部にはコラーゲン繊維形成がわずかにしか認められないが、hMSCを多く含む(High Stroma)膵癌オルガノイド由来のゼノグラフトでは、コラーゲン陽性領域が拡大し、原発巣に近づいている。
図9】既存ヒト膵癌細胞(CFPAC-1)あるいは、既存ヒト膵癌細胞オルガノイドのin vivo薬剤感受性評価結果を示す。ヒト膵癌細胞あるいは、ヒト膵癌細胞オルガノイドを免疫不全マウス (NOD/Scid) に移植後、腫瘍サイズが100 mm3を超えた時点より、膵癌の代表的な治療薬であるゲムシタビンを3日間毎に投与し、腫瘍サイズの変化をグラフ化した。一定の抗がん剤投与条件(例えば10mg/kg)で腫瘍サイズが抑制されることが明らかとなった。この条件を用いて、ヒト膵癌細胞株・HUVEC・hMSCより再構成されたヒト膵癌細胞株オルガノイド由来ゼノグラフトの薬剤感受性評価結果を示す。また、ゲムシタビン投与濃度10mg/kgにおける、投与開始時と投与終了時点での腫瘍体積の違いを右のグラフで示す。hMSCを含む群(low hMSC群、high hMSC群)、では、抗がん剤投与時の腫瘍体積の減少が抑制されている。特に、豊富な間質を持つ膵癌オルガノイド(high hMSC群)の移植群では、腫瘍体積の増加が認められた。
図10】上段:癌患者から分離した初代培養細胞(プライマリ癌細胞)を用いた癌オルガノイドに向けた、プライマリ癌細胞の分離・培養法の比較。従来のプライマリ膵癌細胞の樹立法を左に示す。従来法では、膵癌細胞を二次元的に培養しており、継代の間に細胞の特性が変化してしまう問題があった。一方、膵癌細胞をマトリクス内に包埋し、一定の培養条件下で培養すると、上皮細胞の接着・増殖が生じ、凝集体(シストとも呼ばれる)形成が観察される。この方法は、膵癌細胞(上皮細胞)の特性を保持して、プライマリ膵癌細胞を培養することが可能とされている。しかしながら、報告されている情報を基に、ヒト膵癌検体の拡大培養を試みると、複数回の継代が困難という問題がある。下段:最適化された方法で作製・継代を行ったプライマリ膵癌細胞シスト。20回以上の継代が可能である。なお、プライマリ膵癌細胞の拡大培養においては、以下の最適化を行うことにより、多数回の継代が可能となった。I. 膵癌組織からの細胞調製条件: 膵癌組織を分散バッファー(Liberase TM (Roche) / ROCK阻害剤(10μM)/ DNaseを含む10%FBS入りのDMEM培地)中で37℃20分消化後、Growth Factor reduced Matrigel内に包埋した。II. マトリゲル内の膵癌シストの継代方法: 膵癌シストを含むマトリゲルをROCK阻害剤(10μM)を含むTrypLE(Thermo Fisher Scientific製)で7分間処理し、分散を行う。その後、培地交換の後、新しいマトリゲル内に包埋する。
図11】ヒトプライマリ膵癌細胞、HUVEC(GFP遺伝子導入)、hMSC(Kusabira Orange導入)をin vitroで三次元共培養し、得られたプライマリ膵癌オルガノイドの組織像を示す(図11)。左図は、培養1日目の形態を示す。右図は培養10日目の形態を示す。培養20日以上の培養が可能であった。各オルガノイドの再構成条件(細胞混合比率)の違いにより、培養15日目以降でのHUVEC細胞のネットワーク形成状態が異なることが確認できる。なお、膵癌シストより分離した膵癌細胞・HUVEC・hMSCからの膵癌シスト作製条件は以下の通りである。膵癌シストを含む膵癌オルガノイドをTrypLE(Thermo Fisher Scientific社)で7分間処理し、分散を行う。その後、HUVEC/hMSCを添加し、プライマリ膵癌オルガノイドを作製した。プライマリ膵癌オルガノイドの培地は、プライマリ膵癌細胞の基本培地とEGM培地 (Lonza) の1:1混合液を使用した。豊富な間質を有したプライマリ膵癌オルガノイドの内部でCK7陽性の上皮細胞で構成される腺管構造・血管様構造などの原発巣に近似した組織が観察される。プライマリ膵癌オルガノイド内では、明瞭なHUVECのネットワーク構造が確認される。また、HUVECの周囲にhMSCがHUVECを取り囲む様に存在することが確認される。
図12】プライマリヒト膵癌オルガノイド由来ゼノグラフトにおける間質のイメージング結果。癌オルガノイドではヒアルロン酸およびフィブロネクチンおよびテネイシン等の細胞外基質が豊富に検出される。一方で膵癌細胞のみのサスペンションではこれらの細胞外基質の発現は低い。下段に染色像の定量化結果を示す。プライマリ膵癌由来ゼノグラフト内では、ヒト膵癌原発巣に近似したこれらの細胞外基質の発現が観察される。
図13】プライマリヒト膵癌オルガノイドの内部におけるHUVECのイメージング結果。間質に乏しい癌オルガノイド(Low stroma)に比べ、間質に富むオルガノイド(High stroma)の内部に明瞭なHUVECのネットワーク形成が観察された。なお、間質に富むオルガノイドでは培養20日目においてもHUVECのネットワークが維持されている。hMSCはHUVECによるネットワーク形成効率や維持において重要な役割を持つことが推察される。
図14】ルシフェラーゼ遺伝子を導入し、ルシフェラーゼを恒常的に発現する膵癌細胞(LUC-膵癌細胞)、ストロマ細胞より創出する膵癌オルガノイドを対象とした薬剤評価方法。ルシフェラーゼ活性を元に癌オルガノイド内の癌細胞数を特異的に評価することにより、癌オルガノイドの薬剤感受性を評価することが可能である。
図15】ルシフェラーゼ遺伝子を導入し、ルシフェラーゼを恒常的に発現する膵癌細胞(LUC-膵癌細胞)を対象としたルシフェラーゼ測定系の検証結果。左図は平面培養下での各細胞数の癌オルガノイドの蛍光強度を示す。右図は各細胞数の膵癌細胞を三次元培養し、創出された癌凝集体の蛍光強度を示す。いずれも、発光強度は癌細胞数に比例している。グラフの縦軸に発光強度(CPS)、横軸に細胞播種数を示す。
図16】ルシフェラーゼ遺伝子を導入した膵癌細胞(LUC-膵癌細胞)、HUVEC、hMSCからの膵癌オルガノイドの形成過程におけるルシフェラーゼ活性の定量結果。左図に各膵癌オルガノイドにおける膵癌細胞のGFP蛍光像を示す。右に、膵癌オルガノイドの発光強度を示す。ルシフェラーゼを恒常的に発現する膵癌細胞、HUVEC、hMSCより作製したヒト膵癌オルガノイドにおけるLUC活性の評価。各オルガノイド作製時の膵癌細胞数は一定である。HUVEC、hMSCの混合比率に関わらず、一定の発光が検出された。
図17】ルシフェラーゼ遺伝子導入ヒト膵癌細胞株、HUVEC、hMSCを用いて三次元的に作製した膵癌オルガノイド、および、平面培養を行った膵癌細胞(平面単独群)のin vitro薬剤感受性評価。グラフの縦軸は、膵癌細胞のルシフェラーゼ活性量、横軸は培地中の抗がん剤(ゲムシタビン、nab-paclitaxel、5-FU)濃度を示す。平面単独群はゲムシタビン、nab-paclitaxel、5-FUに高い感受性を示す。一方、膵癌オルガノイド培養群では、ゲムシタビン、nab-paclitaxel、5-FUに対する薬剤感受性が低下している。膵癌オルガノイド群の中でも、hMSCとHUVECを高頻度に含む群(High stroma群)では、抗がん剤に対する感受性が低下している。
図18】抗がん剤存在下で培養した膵癌オルガノイドのサイズの測定結果を示す。抗がん剤存在下で培養した膵癌オルガノイドの顕微鏡像(上段)および個々のオルガノイドの最大投影面積の測定結果を下段に示す。癌細胞のみから構成される癌凝集体は抗癌剤の濃度依存的に凝集体のサイズ減少が認められる。一方、癌オルガノイドにおいては抗がん剤の濃度によるサイズ変化は少ない。
図19】抗がん剤存在下で培養した癌オルガノイド内に残存した細胞の特性解析結果を示す。抗がん剤(ゲムシタビン)投与後もGFPを発現する癌細胞および、αSMAを発現する間葉系細胞の残存が観察される。また、残存する癌細胞では癌幹細胞マーカーの一つとされるSox9の陽性率の増加が確認された。
図20】膵癌患者の多くで再発・遠隔転移が生じ、予後不良を示す。癌オルガノイドより再構成されたゼノグラフトが膵癌の再発を再現しうるかを検討した。上段は方法を示す。下段左は、ゲムシタビン投与期間および投与中止期間での腫瘍サイズの変化を示す。右図は各時期でのゼノグラフトのマクロ写真を示す。癌オルガノイド移植後に形成されたゼノグラフトは高濃度のゲムシタビン治療後、腫瘍サイズの減少を示すが、ゲムシタビン投与を中止することにより腫瘍サイズの増大が生じる。対して、癌サスペンジョン由来のゼノグラフトでは、治療後、腫瘍サイズの変動は少ない。
図21】既存膵癌細胞株(CFPAC-1)とストロマ細胞を用いて再構成した膵癌オルガノイド移植後に形成されたゼノグラフトに抗がん剤を30日間投与し、残存癌組織の組織像を示す。ゲムシタビン投与量は10mg/kgを設定している。GEM投与群(例えば30mg/kg)では腫瘍サイズの減少を認めるが、組織内の癌細胞(CK7陽性細胞)の存在頻度は増していることが確認される。また、抗癌剤投与後の残存膵癌組織内ではKi67陽性細胞が高頻度に存在している。豊富な間質を持つ膵癌オルガノイドより再構成されたゼノグラフトは抗癌剤に高い抵抗性を示す。
図22】既存膵癌細胞株(CAPAN-2)とストロマ細胞を用いて再構成した膵癌オルガノイド移植後に形成されたゼノグラフトに抗がん剤(例えば50mg/kg)を30日間投与し、残存癌組織の免疫染色結果を示す。癌オルガノイド移植後に形成されたゼノグラフトは、癌サスペンジョン移植群に比べてKi67陽性細胞の存在頻度が高く、Caspase-3陽性細胞の存在頻度が低い。また、癌幹細胞マーカーの一つであるSox9陽性細胞の存在頻度が高い。膵癌オルガノイド移植後に形成されるゼノグラフトは、Sox9陽性膵癌幹細胞の評価系として有益である。
図23】既存膵癌細胞株(CFPAC-1)とストロマ細胞を用いて再構成した膵癌オルガノイド移植後に形成されたゼノグラフトに抗がん剤(例えば10mg/kg)を30日間投与し、残存癌組織における薬剤排出トランスポーターの発現を示す。抗がん剤耐性に関与するとされるABCトランスポーター(例えばABCG2)の発現解析結果を示す。膵癌オルガノイド移植群では抗がん剤投与後にABCG2を発現し、癌幹細胞様形質を示す膵癌細胞が高頻度に残存している。一方、癌凝集体移植群ではABCG2陽性細胞の存在頻度は低い。
図24】癌オルガノイド移植後に形成されるゼノグラフト内の血管網のイメージング写真を示す。マウス頭部に作製したクラニアルウインドウ内に癌オルガノイドを移植した後の組織像を示す。移植のコントロールとして、正常細胞・KO-HUVEC・hMSCから構成されるオルガノイドの移植群を設定した。クラニアルウインドウ内の血管網を可視化するため、マウス尾静脈より高分子量蛍光デキストラン(M.W. 2,000kDa)を注射し、15分以内に画像取得を行った。右図上段は蛍光遺伝子を発現する癌細胞および、高分子量蛍光デキストランでラベルした血管像を示す。膵癌オルガノイド移植後に形成されたゼノグラフト内では不均一で過度な分岐を示す腫瘍血管構造が確認される。さらに、膵癌オルガノイド移植後のゼノグラフトは低分子デキストランの血管外漏出が検出される。
図25】癌オルガノイド移植後をクラニアルウインドウ内に移植後に形成されたゼノグラフト内での血管漏洩性を評価した。エバンスブルー染色結果を示す。豊富な間質を有した癌オルガノイド移植後に形成されたゼノグラフトでは血管漏洩が亢進している。
図26】プライマリ膵癌オルガノイド移植後に形成されたゼノグラフトの組織像を示す。プライマリ癌オルガノイド移植後、腺管構造とともに豊富な間質を有する膵癌組織が再構成される。プライマリ膵癌オルガノイド移植後に形成されたゼノグラフトは、ヒト膵管癌に特徴的な組織像を呈するとともに、線管構造の周囲でαSMA陽性を示す間葉系細胞が豊富に存在している。下段は、定量結果を示す。
図27】異なる膵癌患者より作製したプライマリ癌細胞株(2株)より、それぞれ、プライマリ癌オルガノイドを再構成し、in vitroで薬剤感受性を評価した。癌細胞にはあらかじめルシフェラーゼ遺伝子を導入している。プライマリ癌オルガノイドは、プライマリ癌細胞のみの凝集体(癌シスト群)に比べて、高い薬剤耐性を示す。
図28】プライマリ癌細胞株よりプライマリ癌オルガノイドを作製し、免疫不全マウス生体内でゼノグラフトを再構成した。このゼノグラフトを対象にゲムシタビン投与後行い、腫瘍サイズの変動を観察した。腫瘍サイズの変化をグラフで示す。プライマリ癌オルガノイド移植群は、プライマリ癌細胞のみの移植群(癌シスト移植群)に比べて、高い治療抵抗性を示す。
図29】ルシフェラーゼ遺伝子とEGFPを発現するヒト肺癌細胞株(A549細胞)、HUVEC、hMSCを用いて三次元的に作製した肺癌オルガノイド、および、膵癌細胞のみから成る三次元凝集体のin vitro薬剤感受性を評価した。左図は肺癌オルガノイドの蛍光位相差顕微鏡像を示す。右図のグラフの縦軸は肺癌細胞のルシフェラーゼ活性量、横軸は培地中の抗がん剤(ゲムシタビン)濃度を示す。肺癌細胞凝集体はゲムシタビンに高い感受性を示す。一方、膵癌オルガノイド培養群では、ゲムシタビンに対する薬剤感受性が低下している。膵癌オルガノイド群の中でも、hMSCとHUVECを高頻度に含む群(High stroma群)では、さらに抗がん剤に対する感受性が低下している。肺癌においても、豊富な間質を有した癌オルガノイドは薬剤耐性を示す。
図30】プライマリ膵癌オルガノイド、あるいは、プライマリ膵癌サスペンジョンを免疫不全マウスに移植し、腫瘍形成を認めた後、放射線(炭素線)照射を実施した。照射後の腫瘍体積の変化を示す。癌オルガノイドより形成されたゼノグラフトは、炭素線照射に抵抗性を示すことが確認される。
図31】プライマリヒト膵癌オルガノイドの薬剤感受性と患者予後の相関。膵癌オルガノイドの薬剤感受性は術後再発と関連する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。
【0010】
本発明は、癌微小環境を再現する、再構成された癌オルガノイドを提供する。
【0011】
本発明において、「癌オルガノイド」とは、癌細胞とその他の細胞から構成される細胞凝集体である。複数の細胞間での細胞間相互作用を再現することが可能である。本発明の癌オルガノイドは、癌微小環境を再現するものであり、例えば、間質が豊富である。
【0012】
癌オルガノイドの間質の豊富さを定量する手法はいくつかある。
a: 間葉系細胞のマーカー(α-SMA)を指標とした免疫染色による定量(図7参照)。原発巣(61%程度)に対して、後述の実施例で作製した膵癌オルガノイド(10:7:20)は59%程度であった。本発明の癌オルガノイドは、この定量方法により、 1 〜 1000 %であるとよく、好ましくは、 10 〜 500 %であり、より好ましくは、 10 〜 300 %である(免疫染色による陽性率)。
b: 間質内の細胞外マトリックス(膵癌の場合は、ヒアルロン酸・コラーゲンなど)の定量(コラーゲンについては、シリウス赤染色による定性解析、シリウス赤染色後の偏光顕微鏡像解析による定量解析が可能である(図8参照)。後述の実施例では、原発巣(74%程度)に対して、膵癌オルガノイド(10:7:20)は44%程度であった。本発明の癌オルガノイドは、この定量方法により、1 〜 1000%であるとよく、好ましくは、10 〜500%であり、より好ましくは、10 〜 300%である。
c: 間質内にヒアルロン酸やコラーゲンが蓄積すると、組織の硬度が増加する。組織の硬さを指標として判断することも可能である。
【0013】
多くの場合、癌組織は、癌細胞の他に間質と呼ばれる部分がある。間質には、線維芽細胞などの間葉系細胞の他、血管、リンパ管、神経などを構成する細胞(血液細胞、血管細胞、免疫細胞など)、炎症をつかさどる細胞(炎症細胞)などの多種類の細胞、これらの細胞の間に存在するコラーゲンなどからなる結合組織が存在して、特徴的な構造を形成している。これを癌微小環境と呼ぶ。
【0014】
本発明の癌オルガノイドは、癌間質を含む癌微小環境を再現するとよい。本発明の癌オルガノイドは、癌微小環境の他、さらに、腺管構造を再現するとよい。腺管構造は、上皮性の特性を有する癌細胞によって形成されうる。
また、本発明は、癌の治療抵抗性、浸潤・転移及び再発からなる群より選択される少なくとも1つを再現する、再構成された癌オルガノイドを提供する。癌の治療抵抗性としては、薬剤感受性、放射線感受性、免疫療法感受性、栄養療法感受性などを例示することができる。「癌の再発」とは、切除後に再び癌が現れること、抗がん剤治療、放射線治療、免疫療法、栄養療法、それらの組合せの治療で消滅した癌が再び現れること、あるいは縮小した癌が再び大きくなることをいい、治療した部位の近くで起こるだけでなく、別の場所に転移として見つかることも含む概念である。
さらに、本発明は、癌の予後予測を可能とする、再構成された癌オルガノイドを提供する。
癌の種類は、特に限定されるわけではなく、肝臓癌、腎臓癌、悪性脳腫瘍、膵臓癌、胃癌、肺癌などいかなるものであってもよい。後述の実施例では、膵癌オルガノイドを作製した。
【0015】
本発明の癌オルガノイドは、癌細胞を間葉系細胞及び血管内皮細胞と共培養することにより作製することができる。培養は、三次元(3D)培養であるとよい。本発明の癌オルガノイドの再構成に適した3D培養技術は、Nature, 25;499(7459):481-4, 2013、Nat Protoc. 9(2):396-409, 2014、Cell Stem Cell, 7;16(5):556-65, 2015などで報告されている。
【0016】
癌細胞は、既存の癌細胞株であってもよいし、ヒト癌原発巣より分離した癌組織を用いて樹立したプライマリ癌細胞株であってもよい。癌の種類は、特に限定されるわけではなく、肝臓癌、腎臓癌、悪性脳腫瘍、膵臓癌、胃癌、肺癌などいかなるものであってもよい。癌は、主としてヒト由来のものを用いるが、ヒト以外の動物(例えば、実験動物、愛玩動物、使役動物、競走馬、闘犬などに利用される動物、具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ニワトリ、サメ、エイ、ギンザメ、サケ、エビ、カニなど)由来の癌細胞を用いてもよい。
【0017】
本発明において「血管内皮細胞」とは、血管内皮を構成する細胞、又はそのような細胞に分化することのできる細胞をいう。ある細胞が血管内皮細胞であるかどうかは、マーカータンパク質、例えば、TIE2、VEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3、CD41が発現しているかどうかを調べることにより確認できる(前記マーカータンパク質のいずれか一つあるいは複数が発現していれば血管内皮細胞であると判断できる。)。本発明において用いる血管内皮細胞は、分化したものであっても、未分化なものであってもよい。血管内皮細胞が、分化した細胞であるかどうかは、CD31、CD144により、確認することができる。当業者間で使用されている用語のうち、endothelial cells、umbilical vein endothelial cells、endothelial progenitor cells、endothelial precursor cells、vasculogenic progenitors、hemangioblast(HJ. joo, et al. Blood. 25;118(8):2094-104.(2011))などは本発明における血管内皮細胞に含まれる。好ましい血管内皮細胞は、臍帯静脈由来の血管内皮細胞である。血管内皮細胞は、血管から採取したり、あるいは、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)などの多能性幹細胞から公知の方法に従って作製することができる。血管内皮細胞は、主としてヒト由来のものを用いるが、ヒト以外の動物(例えば、実験動物、愛玩動物、使役動物、競走馬、闘犬などに利用される動物、具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ニワトリ、サメ、エイ、ギンザメ、サケ、エビ、カニなど)由来の血管内皮細胞を用いてもよい。
【0018】
本発明において「間葉系細胞」とは、主として中胚葉に由来する結合織に存在し、組織で機能する細胞の支持構造を形成する結合織細胞であるが、間葉系細胞への分化運命が決定しているが、まだ間葉系細胞へ分化していない細胞も含む概念である。本発明において用いる間葉系細胞は、分化したものであっても、未分化なものであってもよい。ある細胞が未分化間葉系細胞であるかどうかは、マーカータンパク質、例えば、Stro-1、CD29、CD44、CD73、CD90、CD105、CD133、CD271、Nestinが発現しているかどうかを調べることにより確認できる(前記マーカータンパク質のいずれか一つあるいは複数が発現していれば未分化間葉系細胞であると判断できる。)。また、前項のマーカーのいずれも発現していない間葉系細胞は分化間葉系細胞と判断できる。当業者間で使用されている用語のうち、mesenchymal stem cells、mesenchymal progenitor cells、mesenchymal cells(R. Peters, et al. PLoS One. 30;5(12):e15689.(2010))などは本発明における間葉系細胞に含まれる。好ましい間葉系細胞は、骨髄由来の間葉系細胞(特に、間葉系幹細胞)である。間葉系細胞は、骨髄、脂肪組織、胎盤組織、臍帯組織、歯髄等の組織から採取したり、あるいは、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)などの多能性幹細胞から公知の方法に従って作製することができる。間葉系細胞は、主としてヒト由来のものを用いるが、ヒト以外の動物(例えば、実験動物、愛玩動物、使役動物、競走馬、闘犬などに利用される動物、具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ニワトリ、サメ、エイ、ギンザメ、サケ、エビ、カニなど)由来の未分化間葉系細胞を用いてもよい。
【0019】
共培養における三種類の細胞の培養比は癌オルガノイドが形成できる範囲内であれば特に限定されないが、好適な細胞の数比は、癌細胞:血管内皮細胞:間葉系細胞=10:1〜100:1〜100であり、より好適には、癌細胞:血管内皮細胞:間葉系細胞=10:1〜100:5〜100である。癌細胞20万個程度、血管内皮細胞14万個程度、間葉系細胞20万個程度を共培養して、大きさが50 〜50000マイクロメートル程度の癌オルガノイドを形成させることができる。
【0020】
培養の際に使用する培地は、癌オルガノイドが形成されるものであればどのようなものでもよいが、血管内皮細胞培養用の培地、癌細胞培養用の培地、前記2つの培地を混合したものなどを使用することが好ましい。血管内皮細胞培養用の培地はどのようなものを使用してもよいが、hEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)、VEGF(血管内皮細胞成長因子)、ヒドロコルチゾン、bFGF、アスコルビン酸、IGF1、FBS、Antibiotics(例えば、ゲンタマイシン、アンフォテリシンBなど)、Heparin、L-Glutamine、Phenolred、BBEの少なくとも1種を含むものを使用するのが好ましい。血管内皮細胞培養用の培地としては、EGM-2 BulletKit(Lonza社製)、EGM BulletKit(Lonza社製)、VascuLife EnGS Comp Kit(LCT社製)、Human Endothelial-SFM Medium(Thermo Fisher Scientific社製)、ヒト微小血管内皮細胞増殖培地(TOYOBO社製)などを用いることができる。癌細胞培養用の培地はどのようなものを使用してもよく、例えば、DMEM培地が挙げられる。膵癌オルガノイドの作製には、EGM:DMEM=1:1の培地が適していることが確認されている(後述の実施例参照)。
【0021】
細胞の培養にあたっては、足場材料を用いる必要はないが、三種類の細胞の混合物を間葉系細胞が収縮可能なゲル状支持体上で培養するとよい。
【0022】
間葉系細胞の収縮は、(顕微鏡、ないし肉眼で)形態学的に立体組織形成を認めることや、薬さじなどによる回収に伴い組織の形状が保たれる強度を有することを示すなど(Takebe et al. Nature 499 (7459), 481-484、2013))のようにして確認することができる。
【0023】
支持体は、適正な硬さ(例えば、ヤング率200kPa以下(マトリゲルをコートした形状が平坦なゲルの場合など)であるが、支持体の適正な硬さはコーティングと形状によって変化しうる。)を有するゲル状基材であるとよく、そのような基材としては、ハイドロゲル(例えば、アクリルアミドゲル、ゼラチン、マトリゲルなど)などを例示することができるが、それらに限定されることはない。なお、目的とする集合体の形・サイズ・量に応じて、支持体の硬さは均一である必然性はなく、硬さに空間的・時間的な勾配を設定することやパターン化することが可能である。支持体の硬さが均一である場合には、支持体の硬さは、好ましくは、100kPa以下、より好ましくは1〜50kPaである。ゲル状支持体は、平面であってもよいし、あるいは、ゲル状支持体の培養する側の断面がU又はV字の形状であるとよい。ゲル状支持体の培養する側の断面がU又はV字の形状であることにより、支持体の培養面に細胞が集まるようになり、より少ない数の細胞及び/又は組織で細胞集合体が形成されるので有利である。また、支持体に、化学的・物理的な修飾を施してもよい。修飾物質としては、マトリゲル、ラミニン、エンタクチン、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチンなどを例示することができる。
【0024】
ゲル状培養支持体の硬さに空間的な勾配を設定した一例は、中心部の硬さが周辺部の硬さより固いゲル状培養支持体である。中心部の硬さは、200kPa以下が適正であり、周辺部の硬さは、中心部より柔らかければよいが、支持体の中心部と周辺部の適正な硬さはコーティングと形状によって変化しうる。ゲル状培養支持体の硬さに空間的な勾配を設定した別の一例は、周辺部の硬さが中心部の硬さより固いゲル状培養支持体である。
【0025】
パターン化したゲル状培養支持体の一例は、中心部の硬さが周辺部の硬さより固いというパターンを1個以上有するゲル状培養支持体である。中心部の硬さは、200kPa以下が適正であり、周辺部の硬さは、中心部より柔らかければよいが、支持体の中心部と周辺部の適正な硬さはコーティングと形状によって変化しうる。パターン化したゲル状培養支持体の別の一例は、周辺部の硬さが中心部の硬さより固いというパターンを1個以上有するゲル状培養支持体である。周辺部の硬さは、200kPa以下が適正であり、中心部の硬さは、周辺部より柔らかければよいが、支持体の中心部と周辺部の適正な硬さはコーティングと形状によって変化しうる。
【0026】
培養時の温度は特に限定されないが、30〜40℃とするのが好ましく、37℃とするのが更に好ましい。
【0027】
培養期間は特に限定されないが、1〜60日とするのが好ましく、1〜7日とするのが更に好ましい。
【0028】
本発明者らは、ヒト癌原発巣より分離した癌組織を用いてプライマリ癌細胞株を樹立し、このプライマリ癌細胞株を用いて、癌オルガノイドを作製することにも成功した。よって、本発明は、プライマリ癌細胞株から癌オルガノイドを作製する方法も提供する。この方法は、タンパク質分解酵素及びRhoキナーゼ(ROCK)阻害剤の存在下で、癌組織を消化してから、癌細胞の凝集体を得ること、前記凝集体を継代した後、癌細胞を分離すること、前記癌細胞を間葉系細胞及び血管内皮細胞と共培養して、癌オルガノイドを形成させることを含む。本発明の方法においては、タンパク質分解酵素及びRhoキナーゼ阻害剤とともに、デオキシリボヌクレアーゼの存在下で、癌組織を消化してもよい。癌オルガノイドは、癌微小環境を再現するものであるとよい。癌微小環境は癌間質を含むとよい。癌オルガノイドは、さらに、腺管構造を再現するとよい。腺管構造は、上皮性の特性を有する癌細胞によって形成されうる。癌オルガノイドは、癌の治療抵抗性、浸潤・転移及び再発からなる群より選択される少なくとも1つを再現するものであるとよい。癌の治療抵抗性としては、薬剤感受性、放射線感受性、免疫療法感受性、栄養療法感受性などを例示することができる。癌の種類は、特に限定されるわけではなく、肝臓癌、腎臓癌、悪性脳腫瘍、膵臓癌、胃癌、肺癌などいかなるものであってもよい。後述の実施例では、膵癌オルガノイド及び肺癌オルガノイドを作製した。間葉系細胞の比率が高い細胞混合比の膵癌オルガノイドは強く凝集することが観察された(後述の実施例参照)。
【0029】
癌組織を消化するには、タンパク質分解酵素及びRhoキナーゼ阻害剤を添加した(さらに、デオキシリボヌクレアーゼを添加してもよい)培地(例えば、DMEM培地)中で癌組織を37℃で適当な時間(後述の実施例では、20分)インキュベートするとよい。培地中のRhoキナーゼ阻害剤の濃度は、10μM程度であるとよい。Rhoキナーゼ阻害剤としては、Y-27632(R&D)を例示することができる(後述の実施例では、Y-27632(R&D)を使用した)。培地には、FBSを添加するとよい。
【0030】
癌細胞の凝集体(癌シスト)は、ゲル(例えば、マトリゲル)内に包埋した状態で継代するとよい。継代時の癌シストの分散には、Rhoキナーゼ阻害剤を添加した分散液(例えば、TrypLE(Thermo Fisher Scientific社))を用いるとよい。その後、培地交換をして、新しいゲル内に包埋するとよい。
【0031】
継代後の癌シストを分散液(例えば、TrypLE(Thermo Fisher Scientific社))で処理し、その後、血管内皮細胞及び間葉系細胞と共培養するとよい。癌細胞と血管内皮細胞及び間葉系細胞との共培養は前述した通りである。
【0032】
癌微小環境を再現する、再構成された癌オルガノイドを非ヒト動物に移植することにより、癌微小環境を再現する、ゼノグラフトを作製することができる。よって、本発明は、癌微小環境を再現する、再構成された癌オルガノイドを非ヒト動物に移植することにより、癌微小環境を再現する、ゼノグラフトを作製する方法も提供する。また、本発明は、癌微小環境を再現する、ゼノグラフトであって、癌微小環境を再現する、再構成された癌オルガノイドを非ヒト動物に移植することにより得られる前記ゼノグラフトも提供する。癌微小環境は癌間質を含むとよい。再構成された癌オルガノイドがさらに腺管構造を再現するとよい。また、ゼノグラフト自身がさらに腺管構造を再現してもよい。腺管構造は、上皮性の特性を有する癌細胞によって形成されうる。ゼノグラフトは、癌の治療抵抗性、浸潤・転移及び再発からなる群より選択される少なくとも1つを再現するとよい。癌オルガノイドは、プライマリ癌細胞より再構成されたものであっても、既存癌細胞株より再構成されたものであってもよい。本発明は、癌の治療抵抗性、浸潤・転移及び再発からなる群より選択される少なくとも1つを再現する、癌オルガノイド由来ゼノグラフトも提供する。また、本発明は、薬剤トランスポーターの発現を再現する、癌オルガノイド由来ゼノグラフトも提供する。さらに、本発明は、腫瘍血管を有する、癌オルガノイド由来ゼノグラフトを提供する。本発明は、腫瘍血管に特徴的な薬剤漏れ出しを再現する、癌オルガノイド由来ゼノグラフトも提供する。これらの癌オルガノイド由来ゼノグラフトは、癌細胞を間葉系細胞及び血管内皮細胞と共培養することで形成された癌オルガノイドを非ヒト動物に移植することにより作製することができる。癌の種類は、特に限定されるわけではなく、肝臓癌、腎臓癌、悪性脳腫瘍、膵臓癌、胃癌、肺癌などいかなるものであってもよい。後述の実施例では、膵癌オルガノイドからゼノグラフトを作製した。間葉系細胞の比率が高い細胞混合比の膵癌オルガノイドから作製されたゼノグラフトは、間質が豊富であり、薬剤感受性が低下する傾向が認められた(後述の実施例参照)。移植の対象となる非ヒト動物としては、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ニワトリなどを例示することができるが、これらに限定されるわけではない。
【0033】
本発明の癌オルガノイド及びゼノグラフトは、癌の治療抵抗性、浸潤・転移及び再発からなる群より選択される少なくとも1つの評価に用いることができる。よって、本発明は、癌オルガノイド及び/又はゼノグラフトを用いて、癌の治療抵抗性を評価する方法も提供する。また、本発明は、癌オルガノイド及び/又はゼノグラフトを用いて、浸潤・転移を評価する方法も提供する。さらに、本発明は、癌オルガノイド及び/又はゼノグラフトを用いて、再発を評価する方法も提供する。
【0034】
癌オルガノイドを用いて、癌の治療抵抗性を評価する場合は、癌オルガノイドに癌の治療と同等の処置を施し(例えば、薬剤の添加、放射線の照射、免疫療法剤の添加、栄養素の添加など)、適当な時間経過後に、生存している癌細胞数をカウントし、IC50値を算出するとよい。
【0035】
ゼノグラフトを用いて、癌の治療抵抗性を評価する場合は、癌オルガノイドを非ヒト動物に移植し、形成されるゼノグラフトの体積が適当な大きさになった時点で、癌の治療を開始し、適当な頻度で投与した後、ゼノグラフトを摘出し、その体積を測定するとよい。
【0036】
癌の治療薬としては、既存の癌治療薬(放射線も含む)、癌治療薬の候補化合物などが挙げられる。
癌オルガノイドを用いて、癌の浸潤・転移を評価する場合は、例えば、トランスウェルなどを用いた遊走および浸潤アッセイを用いて癌オルガノイドからの細胞遊走を観察するとよい。ゼノグラフトを用いて、癌の浸潤・転移を評価する場合は、癌オルガノイドを非ヒト動物に移植し、形成されるゼノグラフトの体積が適当な大きさになった後の適当な時間経過後に、遠隔転移が想定される組織内での癌細胞コロニーあるいは癌細胞を観察したりするとよい。
癌オルガノイドを用いて、癌の再発を評価する場合は、癌オルガノイドに癌の治療と同等の処置を施し(例えば、薬剤の添加、放射線の照射、免疫療法剤の添加、栄養素の添加など)、癌細胞の消滅あるいは減少が観察された後に前記癌の治療と同等の処置を施すことを中止し、適当な時間経過後に、生存している癌細胞数あるいは癌オルガノイドのサイズをカウントするとよい。
ゼノグラフトを用いて、癌の再発を評価する場合は、癌オルガノイドを非ヒト動物に移植し、形成されるゼノグラフトの体積が適当な大きさになった時点で、癌の治療を開始し、適当な頻度で投与して、ゼノグラフトの消滅あるいは減少が観察された後、癌の治療を中止し、適当な時間経過後に、ゼノグラフトの体積あるいは構成細胞数を測定するとよい。
本発明の癌の浸潤・転移を評価する方法及び癌の再発を評価する方法は、癌の治療薬のスクリーニングに利用することもできる。このスクリーニングにより、癌の浸潤・転移を治療及び/又は予防する薬や癌の再発予防に効果的な薬を見つけることができる。
プライマリ癌オルガノイドの薬剤感受性は患者の術後再発と関連することが示されている(後述の実施例)。このことから、癌オルガノイド及び癌オルガノイドから作製したゼノグラフトの治療抵抗性は患者予後と相関すると考えられる。よって、本発明は、癌オルガノイド及び/又はゼノグラフトを用いて、癌の予後予測をする方法も提供する。患者の癌細胞由来の癌オルガノイド及び/又はゼノグラフトが治療感受性である場合は、患者は術後に再発しないと予測され、患者の癌細胞由来の癌オルガノイド及び/又はゼノグラフトが治療抵抗性である場合は、患者は術後に再発すると予測される。
本発明は、ゼノグラフトを担持する非ヒト動物も提供する。ゼノグラフトについては前述した。非ヒト動物としては、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ニワトリなどを例示することができるが、これらに限定されるわけではない。本発明の非ヒト動物は、癌の治療抵抗性、浸潤・転移又は再発の評価、癌の予後予測などに用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
1. 材料と方法
1-1.ヒト細胞
既存ヒト膵癌細胞株は、CFPAC-1(ATCC:CRL-1918)、PANC-1(RIKEN BRCより分与:RCB2095)およびSW1990(ATCC:CRL-2172)を用いた。CFPAC-1は26歳、男性の肝転移巣から樹立された細胞株、PANC-1は年齢、性別不明の患者の原発巣から樹立された細胞株、SW1990は56歳、男性の脾臓転移巣から樹立された細胞株である。本研究では、これらの細胞株を導入後、継代数10以下で実験に用いた。
【0038】
また、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC), ヒト間葉系幹細胞(hMSC)および、これらの細胞に蛍光レポーター遺伝子(EGFP, Kusabira Orange)ないしは、
遺伝子(Luciferase)を導入した細胞を用いた。

1-2. 既存ヒト膵癌細胞株のin vitroにおける薬剤感受性の評価
既存ヒト膵癌細胞株を96wellプレートに5×103 cells/wellで播種し、24時間後にGemcitabine(ゲムシタビン)(10-12〜10-3M)を添加した。ゲムシタビン添加72時間目に核染色を行い、INCell Analyzer 2000を用いて細胞数を測定し、IC50値を算出した。また、オルガノイド内での癌細胞を特異的に検出し、癌細胞数を算出するために、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した癌細胞を樹立し、解析に用いた。ルシフェラーゼ遺伝子を導入した癌細胞より癌オルガノイドを形成し、発光基質(例えば、Promega社Luciferase Assay System)の存在下で発光を測定し、癌細胞の存在数を評価した。

1-3. 既存ヒト膵癌細胞株のin vivoにおける薬剤感受性の評価
既存ヒト膵癌細胞株1×106 cellsを、4〜10週齢の雌の免疫不全マウス(NOD/Scidマウス)に皮下移植し、ゼノグラフトを作製した。ゼノグラフトの形成数および体積を継時的に測定した。体積は、(短径×短径×長径/2)mm3で算出した。形成されたゼノグラフトの体積が、100mm3を超えた時点からゲムシタビンの腹腔内投与を開始した。ゲムシタビンの投与濃度は100mg/kgあるいは、0mg/kg、5mg/kg、10mg/kgとし、3日に1回、3週間投与した。その後、ゼノグラフトを摘出した。

1-4. 提供されたヒト膵癌臨床検体
ヒト膵癌の臨床検体 (CRT施行検体及びCRT非施行検体) は、本学倫理審査委員会の承認得て実施した。なお、臨床検体の採取は主治医による術前のインフォームドコンセントで患者の同意を得られたものについて実施した。

1-5.ヒト膵癌細胞株オルガノイドの作製
10%FBSを含むDMEMとEGMの1:1混合液をマトリゲルに混合し、48 wellプレートの各ウエルに添加し、37℃で30分間インキュベートした。そこにヒト膵癌細胞株、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)およびヒト間葉系幹細胞(hMSC)を混合した細胞懸濁液を添加し、37℃で5分間インキュベートした。細胞の混合は、既存ヒト膵癌細胞株の細胞数を2×105 cellsとして、cancer・HUVEC・hMSCの比率(C:H:M比)を10:0:0、10:7:1、10:7:20、10:7:0、10:0:20とした。その後、EGMとDMEMの1:1混合液を各ウエルに添加し、37℃でインキュベートした。
他方、均質なサイズの膵癌細胞オルガノイドを大量に作製するため、三次元培養容器(例えば、クラレ社ELPLASIAプレート)を用いて、ヒト膵癌細胞、HUVEC、hMSCを共培養し、ヒト膵癌細胞株オルガノイドを再構成した。96wellの各ウェルに膵癌細胞を各1x104細胞、およびHUVEC・hMSCを任意の数播種し、癌オルガノイドを再構成した。癌細胞・HUVEC・hMSCの混合比は、10:0:0、10:7:1、10:7:20、10:7:0、10:0:20とした。

1-6.ヒト膵癌細胞オルガノイドのタイムラプス解析
タイムラプス撮影機能を持つ実体顕微鏡を用い、培養プレートを37度で加温しながら膵癌オルガノイドの形成過程を培養開始から72時間観察した。また、膵癌オルガノイドの形成過程を細胞レベルで観察するため、共焦点顕微鏡を用いたイメージングを行った。GFP遺伝子を導入したHUVEC、Kusabira Orange遺伝子を導入したhMSCと各癌細胞を用いて癌オルガノイドを再構成し、緑色蛍光・赤色蛍光像の取得を行った。

1-7. 腫瘍形成能の評価
作製した既存ヒト膵癌細胞株オルガノイドを、培養24時間目に、4〜10週齢の雌のNOD/Scidマウスに皮下移植し、ゼノグラフトを作製した。ゼノグラフトの形成数および体積を継時的に測定した。体積は、(短径×短径×長径/2)mm3で算出した。

1-8.ヒト膵癌オルガノイドに由来するゼノグラフトの薬剤感受性評価
ヒト膵癌細胞オルガノイドを皮下に移植しゼノグラフトを作製後、ゼノグラフトの体積が、100mm3を超えた時点からゲムシタビンの腹腔内投与を開始した。ゲムシタビンの投与濃度は0mg/kg、5mg/kg、10mg/kgとし、投与頻度・期間は3日に1回・3週間とした。適時、ゼノグラフトの体積を測定した。また、適時、組織を摘出し、組織学的評価を行った。

1-9. パラフィン切片作製
ノグラフトを摘出し、Phosphate buffered saline(PBS)で洗浄後、4%Paraformaldehyde(PFA)を用いて4℃、オーバーナイトで固定した。固定した組織をPBSで10分、3回洗浄し、自動包埋装置でエタノールおよびキシレンの置換処理を行った。その後、組織をパラフィンに包埋し、パラフィンブロックを作製した。作製したパラフィンブロックをミクロトームで4〜6μmの厚さに薄切し、スライドグラス(MATSUNAMI)上にのせ、パラフィン伸展器で伸展・乾燥させた。

1-10. HE(Haematoxylin-Eosin)染色
パラフィン薄切切片を72℃、20分間インキュベートした後、キシレンで5分、3回脱パラフィンを行った。次に、下降エタノール系列(100〜50%)で親水させた。MilliQに置換した後、Haematoxylin(Wako)で10分間、核染色を行った。十分に染色できていることを確認してから、流水で10分間、洗浄した。その後、Eosin(武藤化学)で1分間、細胞質を染色し、十分に染色できていることを確認してから純水で洗浄した。次に、上昇エタノール系列(50〜100%)で脱水し、キシレンで5分、3回透徹処理を行った。最後に、スライドグラス(MATSUNAMI)で封入した。

1-11. 免疫組織化学染色
パラフィン切片の脱パラフィン後、クエン酸Bufferに浸し、121℃、20分、賦活化を行った。PBS/0.05% Tween20(PBST)で5分、3回洗浄後、ブロッキング用バッファー(Dako)を添加し、室温で1時間ブロッキング反応を行った。次に、一次抗体溶液を添加し、4℃、オーバーナイトで反応させた。一次抗体(抗EpCAM抗体, 抗α-SMA抗体, 抗Cytokeratin 7 (CK7) 抗体, 抗CD31抗体、抗ラミニン抗体)反応後、PBSTで5分、3回洗浄し、緩衝液で希釈した二次抗体溶液を添加し、遮光下で室温1時間反応させた。二次抗体反応後、PBSTで5分、3回洗浄し、DAPI染色液を含む封入剤(Wako)を用いてスライドグラスを封入した。

1-12.免疫染色を施したスライドのイメージング
正立型蛍光顕微鏡(Zeiss)を用いて免疫染色を行ったスライドグラスの観察を行った。

1-13.シリウス赤染色
シリウス赤染色試薬(武藤化学)を用いて組織を染色した。染色方法は、染色試薬のマニュアルに従った。染色後、正立顕微鏡を用いて画像取得を行った。さらに、シリウス赤染色後の組織を偏光顕微鏡(Olympus)を用いて解析し、画像取得を行った。

1-14. プライマリ膵癌細胞の分離・培養
膵癌組織を分散バッファー(Liberase TM (Roche) / ROCK阻害剤(10μM)/ 10%FBS入りのDMEM培地)中で37度20分消化後、Growth Factor reduced Matrigel内に包埋した。その後、37度で培養した。膵癌シストの継代は次の方法で行った。膵癌シストを含むマトリゲルをROCK阻害剤(10μM)を含むTrypLE(Thermo Fisher Scientific社)で7分間処理し、分散した。その後、培地交換を行い、新しいマトリゲル内に包埋した。

1-15.プライマリ膵癌細胞からの膵癌オルガノイドの再構成
継代時と同じ手法で膵癌シストを分散後、マトリゲルを用いてHUVEC・hMSCとの三次元共培養を行った。三次元共培養方法は、膵癌細胞株からの膵癌オルガノイドの方法に準じる。なお、プライマリ膵癌オルガノイドの培養は既報(Cell, 2015)で用いた基本培地とEGMを1:1で混合後、マトリゲルに包埋し、37度でインキュベートして行った。

培養液の組成:
AdDMEM/F12培地
+ Growth Factor reduced Matrigel
+ HEPES (Thermo Fisher Scientific社) (終濃度1x)
+ Glutamax (Thermo Fisher Scientific社) (終濃度1x)
+ penicillin/streptomycin (Thermo Fisher Scientific社) (終濃度1x)
+ Primocin (終濃度1 mg/ml)
+ N-acetyl-L-cysteine (終濃度1 mM)
+ Wnt3訓化培地(50% v/v)
+ RSPO1訓化培地(10% v/v)
+ Noggin訓化培地(10% v/v)
+ EGF (終濃度50 ng/ml)
+ Gastrin (終濃度10 nM)
+ FGF10 (終濃度100ng/mL)
+ B27 (終濃度1x)
+ Nicotinamide (終濃度10mM)
+ A83-01 (終濃度0.5u nM)

1-16. ヒト肺癌細胞株オルガノイドの作製
既存ヒト肺癌細胞株(A549)はATCCより導入した。本研究では、これらの細胞株を導入後、継代数10以下で実験に用いた。予め、既存ヒト肺癌細胞株にルシフェラーゼ遺伝子を導入しておき、三次元培養容器(例えば、クラレ社ELPLASIAプレート)上にヒト肺癌細胞株、HUVEC、hMSCを播種し、ヒト肺癌細胞株オルガノイドを再構成した。96wellの各ウェルにヒト肺癌細胞株を各3x103細胞、およびHUVEC・hMSCを任意の数播種し、癌オルガノイドを再構成した。癌細胞・HUVEC・hMSCの混合比は、10:0:0、10:7:1(Low hMSC)、10:7:20(High hMSC)とした。

1-17. 放射線感受性評価法
プライマリヒト膵癌オルガノイドを免疫不全マウスの皮下に移植し、ゼノグラフトが形成された後、ゼノグラフト部位に炭素線(15Gy)を照射した。照射後のゼノグラフトのサイズの変化を計測し、腫瘍サイズの変化を評価した。

1-18. プライマリヒト膵癌オルガノイドの薬剤感受性と患者予後の相関
膵癌患者の手術時摘出標本より膵癌細胞を分離し、シスト培養法により拡大培養を行い、プライマリヒト膵癌細胞を得た。シスト培養法を用いて拡大培養を行った膵癌細胞は、拡大培養後においても細胞極性を保持されることを確認している。得られたプライマリヒト膵癌細胞をストロマ細胞(血管内皮細胞(HUVECなど)、間葉系細胞(hMSCなど))と三次元的に共培養し、プライマリ膵癌オルガノイドを再構成し、薬剤感受性を評価した。プライマリ膵癌オルガノイド作製時の各細胞の混合比率は10:7:20である。検体数は2である。

2. 結果
2-1. 既存ヒト膵癌細胞株のin vitroとin vivoにおける薬剤感受性の乖離
既存ヒト膵癌細胞株CFPAC-1、PANC-1、SW1990のin vitroにおける薬剤感受性の評価を行った。培養24時間の細胞に10-12〜10-3MのGEMを添加し、添加後72時間の生存細胞数からIC50を算出した結果、CFPAC-1、PANC-1、SW1990のIC50はそれぞれ0.03μM、0.7μM、0.2μMであった(図1 上段)。一方、NOD/Scidマウスの皮下に癌細胞を移植し、形成されたゼノグラフトに対して100mg/kgでGEMを投与してin vivoにおける薬剤感受性の評価を行った結果、CFPAC-1およびPANC-1はGEMの投与に伴い、腫瘍の退縮が認められた。一方、SW1990は、腫瘍の退縮は一切認められず、腫瘍体積は増大した(図1 下段)。したがって、PANC-1はin vitroにおける薬剤感受性は比較的低いが、in vivoにおける薬剤感受性は高いこと、SW1990はin vitroにおける薬剤感受性は比較的高いが、in vivoにおける薬剤感受性は低いことが明らかになった。以上の結果より、PANC-1やSW1990はin vitro及びin vivoにおける薬剤感受性に乖離があることが示された。
また、ゼノグラフトの組織解析より、既存ヒト膵癌細胞株より再構成されたゼノグラフトとヒト膵癌原発巣の組織像に乖離があることが確認された。既存ヒト膵癌細胞株より再構成されたゼノグラフトは、膵癌の原発巣でみられる豊富な間質や線管構造が認められない(図2)。

2-2. 既存ヒト膵癌細胞株を用いた膵癌オルガノイドの創出
既存ヒト膵癌細胞株CFPAC-1、PANC-1、SW1990をHUVECおよびhMSCと共培養したところ、細胞が自律的な凝集が観察された(図3)。共培養1日目には、いずれの細胞株を用いても、既存ヒト膵癌細胞、HUVEC、hMSCから成る既存ヒト膵癌細胞株オルガノイドが形成された(図4)。HUVEC、hMSCに導入されている蛍光レポーターの発現を指標に、形成されたオルガノイドの構成状態を観察したところ、共培養1日目までは、3種類の細胞が均質に混ざり合っていることが確認された。しかし、共培養3日目以降はHUVECの存在頻度が著しく減少したため、以降、本研究では共培養1日目のオルガノイドを対象に実験を行った。また、各々の既存ヒト膵癌細胞株を用いて、オルガノイド形成におけるHUVEC、hMSCの混合条件を検討した。その結果、hMSCの混合比が高いオルガノイドは強く凝集が、hMSCを含まない、もしくは混合比が低いオルガノイドは凝集が弱く、物理的にもろく、崩れやすいことが確認された(図5)。

2-3. 既存ヒト膵癌細胞株オルガノイド由来ゼノグラフトの組織学的解析
既存ヒト膵癌細胞株オルガノイドをNOD/Scidマウスに移植後、再構成されたヒト膵癌組織の解析を行った。その結果、オルガノイド移植群では豊富な間質とともに腺管構造が確認された。一方で、既存ヒト膵癌細胞株の単独移植群では、腺管構造は観察されなかった(図6)。次に、様々な細胞混合比でオルガノイドを作製し、各オルガノイドから再構成されたゼノグラフトの組織像を比較した。再構成された組織における間質および血管の再構成状態を評価するために、間葉系細胞のマーカーであるα-SMAの発現を検討した。免疫組織化学染色によりα-SMA陽性細胞の割合を評価し、原発巣と比較した。図中グラフは、膵癌のみのサスペンジョン、hMSCの混合数の少ない膵癌オルガノイド(Low hMSC)、hMSCの混合数の高い膵癌オルガノイド(High hMSC)移植後に形成されたゼノグラフトにおけるα-SMA陽性細胞、シリウスレッド陽性領域、アザン染色陽性領域を示す(図7)また、ヒアルロン酸陽性領域、コラーゲン繊維領域、テネイシンCの陽性領域を示す(図8)。コラーゲン繊維領域の評価は偏光顕微鏡により行った。赤色は主にI型コラーゲン繊維を示し、緑色は主にIII型コラーゲン繊維を示す。下段に定量結果を示す。なお、エラーバーは標準偏差を示す。hMSCの存在頻度が高い膵癌オルガノイドより再構成されたゼノグラフトはヒト膵癌原発巣に近似した特徴を示した。

2-4. 癌オルガノイドを対象とした癌細胞特異的な細胞検出法の構築(図16
癌細胞の薬剤感受性を精度高く評価するため、癌オルガノイド内の癌細胞数のみを定量評価するための手法を検討した(図14)。ルシフェラーゼ遺伝子を導入した癌細胞(CFPAC-1、PANC-1、CAPAN-2。主としてCFPAC-1)を樹立し、癌オルガノイドを再構成した。その後、発光基質を添加し、発光プレートリーダーを用いて各Wellの発光強度を測定した。マルチウエルプレートに様々な細胞数でルシフェラーゼ遺伝子導入癌細胞を播種し、ルシフェラーゼアッセイを行ったところ、発光強度は細胞数に比例することが確認された(図15)。また、癌オルガノイドにおけるルシフェラーゼ活性はストロマ細胞の数に影響されないことが確認された(図16)。

2-5. ゲムシタビン投与後のオルガノイドのサイズ変化(図18
抗がん剤投与後の応答を癌オルガノイドのサイズを指標に評価した図18。抗がん剤投与後72時間目の癌オルガノイドの画像を取得し、癌オルガノイドの面積を画像解析により算出した(GEヘルスケア社製ソフト使用)。オルガノイドの画像情報により薬剤感受性を簡便に評価できることが確認された。

2-6 Stroma-rich cancer organoids exhibit anti-cancer drug resistance in vitro (豊富な間質を有する癌オルガノイドは抗がん剤に耐性を示す、図17)
ルシフェラーゼ遺伝子が導入された膵癌細胞およびストロマ細胞より膵癌オルガノイドを再構成し、膵癌治療薬(抗がん剤)に対する感受性を評価した(図17)。灰色破線は二次元培養した癌細胞の薬剤感受性を示す。黒実線は三次元培養した癌細胞(癌細胞凝集体)の薬剤感受性を示す。赤実線(ストロマ細胞を高頻度に含む癌オルガノイド)および青実線(ストロマ細胞の存在頻度が低い癌オルガノイド)は三次元培養した癌オルガノイドの薬剤感受性を示す。ストロマ細胞を高頻度に含む癌オルガノイドは、いずれの薬剤についても高い薬剤耐性を示すことが確認される。

2-7 既存ヒト肺癌細胞株オルガノイドの創出(図29
ルシフェラーゼ遺伝子とEGFPを発現するヒト肺癌細胞株(A549細胞)、HUVEC、hMSCを用いて三次元的に作製した肺癌オルガノイド、および、膵癌細胞のみから成る三次元凝集体のin vitro薬剤感受性を評価した。左図は肺癌オルガノイドの蛍光位相差顕微鏡像を示す。右図のグラフの縦軸は肺癌細胞のルシフェラーゼ活性量、横軸は培地中の抗がん剤(ゲムシタビン)濃度を示す。肺癌細胞凝集体はゲムシタビンに高い感受性を示す。一方、膵癌オルガノイド培養群では、ゲムシタビンに対する薬剤感受性が低下している。膵癌オルガノイド群の中でも、hMSCとHUVECを高頻度に含む群(High stroma群)では、さらに抗がん剤に対する感受性が低下している。

2-8. 膵癌オルガノイドは膵癌幹細胞の評価に有用である(図19
抗がん剤添加後に残存する癌細胞の特性および、癌オルガノイド内でのストロマ細胞の評価を行った。EGFP遺伝子を導入した癌細胞(主としてCFPAC-1)を樹立し、癌オルガノイドを再構成した(癌細胞:HUVEC:hMSCの比率は、例えば10:7:10〜10:7:20)。その後、1uMゲムシタビンを含む培地で72時間培養を行った。抗がん剤を添加することにより、癌オルガノイドの内部GFP陽性Sox9陽性を示す癌幹細胞が残存することが確認される(上段右図)。

2-9. 既存ヒト膵癌細胞株オルガノイド由来ゼノグラフトの薬剤感受性
各オルガノイドの移植後に再構成されるゼノグラフトのin vivo薬剤感受性を膵癌の代表的な治療薬であるジェムザール(Gemcitabin;GEM)を用いて評価した。既存ヒト膵癌細胞株、HUVEC、hMSCの三次元共培養により作製した既存ヒト膵癌細胞株オルガノイドをNOD/Scidマウスの皮下に移植後、腫瘍体積が100mm3を超えた時点からでGEMの投与(例えば10mg/kg)を開始した。なお、対照群として、生理食塩水のみを投与したGEM非投与群(0mg/kg)を設定した。GEMの投与は、ヒト膵癌に対する治療レジメンを参考に、3日に1回、30日間とした。GEM投与30日目でゼノグラフトを回収し、組織解析を実施した。すべての移植群において、GEM非投与群のゼノグラフトは日を追うごとに体積が増大していくのに対して、GEM投与群(例えば10mg/kg)のゼノグラフトの体積増大が抑制された(図9)。GEM投与群(例えば10mg/kg)の腫瘍体積を比較すると、hMSCの混合数の高い膵癌オルガノイド(High hMSC)のオルガノイドから形成されたゼノグラフトの退縮は認められず、体積は増大したが、他の群のオルガノイドから形成されたゼノグラフトは退縮が認められた(図9)。以上の結果より、hMSCを多く含む細胞混合比のオルガノイドから形成される間質が豊富なゼノグラフトは、薬剤感受性が低下した。

2-10 膵癌オルガノイドはin vivoで抗がん剤に耐性を示す(図21)
既存ヒト膵癌細胞株を免疫不全マウスに2105細胞移植しゼノグラフトが100mm3に達した後、ゲムシタビンを3日に1回投与した。GEM投与開始から1ヶ月目に回収したゼノグラフトの免疫染色像を示す。GEM投与後のゼノグラフト内はヒト膵管癌類似した構造を示す。図はサイトケラチン7(CK-7, 白色)/Ki-67(赤色)の発現を示す。上段はゲムシタビン投与前、下段はゲムシタビン投与後の組織像を示す。膵癌オルガノイドに由来するゼノグラフトは抗癌剤投与後にKi67陽性細胞の存在頻度が高く、抗癌剤に強い耐性を示す(図21)。

2-11 膵癌オルガノイド由来ゼノグラフトは癌幹細胞の残存評価を可能とする(図22)
抗癌剤投与後の残存膵癌組織において癌幹細胞マーカー(CD133, CD44, Sox9)の発現を検討したところ、膵癌オルガノイド由来ゼノグラフトではこれらの分子を発現する膵癌細胞が残存していることが明らかとなった(図22)。一方、膵癌サスペンジョン移植後に形成されるゼノグラフトでは、抗癌剤投与後にこれらのマーカー陽性細胞は殆ど存在していない(図22)。膵癌オルガノイド由来ゼノグラフトは癌幹細胞の評価に有益であることが確認された。

2-12 癌オルガノイド由来ゼノグラフト内で多剤耐性トランスポーターの発現が亢進する(図23)
膵癌細胞株を免疫不全マウスに移植後、ゼノグラフトが100mm3に達した時点よりゲムシタビン投与を開始した。ゲムシタビン投与30日目で回収した組織の解析結果を示す。多剤耐性トランスポーター(ABCG2)の染色像を赤色、サイトケラチン7(CK7)の染色像を白色、α-SMAの染色結果を緑色、DAPI染色像を青色で示す。癌オルガノイド移植群では、ゲムシタビン投与後、ABCG2を発現する膵癌細胞が残存することが確認される。

2-13 間質に富むゼノグラフトはGEM投与中止後に体積増加を生じる(図20)
癌オルガノイド(CFPAC-1由来)移植後に30日間ゲムシタビン投与(30mg/kg)を行った後、ゲムシタビン投与を中止した。その後の腫瘍サイズの変動を確認した。ゲムシタビン治療を施したサスペンジョン移植群は、投与中止後も腫瘍サイズに一定である。対して、ゲムシタビン治療を施した膵癌オルガノイド移植群は、投与中止後に腫瘍サイズが著明に増加する。すなわち、膵癌オルガノイドは抗がん剤投与中止後の腫瘍再発を再現することが出来ることが確認された。

2-14 クラニアルウインドウ内での血管を有するヒト膵癌ゼノグラフトの再構成(図24)
免疫不全マウスの頭部に作製したクラニアルウインドウ内に膵癌オルガノイド(EGFPが導入された膵癌細胞(CFPAC-1由来)数:2x105細胞)を移植し、移植28日後のクラニアルウインドウ像を示す(図24)。膵癌オルガノイド移植直後より、HUVECのネットワーク構築が観察される。クラニアルウインドウ内の血管網を可視化するため、マウス尾静脈より高分子量蛍光デキストラン(M.W. 2,000kDa)を注射し、15分以内に画像取得を行った。右図上段は蛍光遺伝子を発現する癌細胞および、高分子量蛍光デキストランでラベルした血管像を示す。膵癌オルガノイド移植後に形成されたゼノグラフト内では不均一で過度な分岐を示す腫瘍血管構造が確認される。さらに、膵癌オルガノイド移植後のゼノグラフトは低分子デキストランの血管外漏出が検出される。クラニアルウインドウ作製法参考文献:Takebe T, Taniguchi H et al., Nature. 2013 Jul 25;499(7459):481-4.

2-15 ゼノグラフト内での腫瘍血管の評価(漏洩性の評価)(図25)
膵癌オルガノイド(膵癌細胞(CFPAC-1)数:2.0×105)を移植したクラニアルウインドウ内で構築された血管の漏洩性を評価した。0.5%エバンスブルーを含む生理食塩水を尾静脈より投与後、クラニアルウインドウ内の血管周囲へのエバンスブルーの漏洩を評価した。非移植群では投与30分後にエバンスブルーの残留が少ない。一方、癌オルガノイド移植群では長時間にわたりエバンスブルーの残留が確認される。癌オルガノイド移植後に形成された血管は漏洩傾向にあることが確認される。
【0039】
以上の検討により、癌オルガノイドを用いたin vitroおよびin vivo薬剤評価系を確立している。癌オルガノイドを用いたこれらの薬剤評価系を用いることにより、癌細胞の薬剤感受性を生理的な条件下で評価することができる。癌微小環境を伴うオルガノイドを用いて癌細胞の薬剤感受性を評価することにより、癌細胞の薬剤耐性を正確に評価することが可能になるものと考えられる。
【0040】
これにより、癌の新たな治療薬開発への応用が期待される。さらに、癌オルガノイドは、手術摘出検体などの臨床検体から分離したプライマリ癌細胞を用いた薬剤評価に応用することができる。臨床検体より癌微小環境を有した癌オルガノイドを再構成し、薬剤評価を行うことにより、各癌患者に適した治療法を選択するための情報提供が可能となる。また、様々な患者から分離した癌細胞を用いて癌オルガノイドを作製し、様々な薬剤の感受性を指標として層別化を行うことにより、癌の層別化用のバイオマーカーの開発への波及効果も期待される。
【0041】
他方、当該手法は細胞間相互作用の解析など、基礎研究のための解析ツールとしても有益と考えられる。なお、本手法を応用することにより、がん微小環境に関与すると考えられる他の細胞成分(例えば、マクロファージ、神経細胞等)と癌細胞の相互作用を再現することも可能と考えられる。
【0042】
2-16 ヒト膵癌プライマリオルガノイドの再構成(図10)
インフォームドコンセントの元、膵癌患者の手術摘出標本より膵癌細胞を分離し、シスト培養法を用いて膵癌細胞を拡大培養した。拡大培養した膵癌細胞は細胞極性を保持して
いることが確認される(図10)。

2-17 ヒト膵癌プライマリオルガノイド内で再構成された膵管様構造(図11)
ヒトプライマリ膵癌細胞、HUVEC、hMSCをin vitroで三次元共培養し、得られたプライマリ膵癌オルガノイドの組織像を示す(図11)。左図は、培養1日目の形態を示す。右図は培養10日目の形態を示す。豊富な間質を有したプライマリ膵癌オルガノイドの内部で膵管様構造・血管様構造などの原発巣に近似した組織が観察される。プライマリ膵癌オルガノイド内では、明瞭なHUVECのネットワーク構造が確認される。また、HUVECの周囲にhMSCがHUVECを取り囲む様に存在することが確認される。

2-18 in vitroにおけるプライマリヒト膵癌オルガノイド内での血管内皮細胞のネットワーク構造(図13)
ヒトプライマリ膵癌細胞(膵癌細胞:2×105細胞)、HUVEC、hMSCをin vitroで三次元共培養し、得られたプライマリ膵癌オルガノイドの組織像を示す。本実験には、GFP遺伝子導入を行ったHUVEC、赤色蛍光タンパク質(クサビラオレンジ、KO)をコードする遺伝子を導入したhMSCを用いた。豊富なhMSCによりHUVECのネットワーク形成・維持が促進された。

2-19 プライマリヒト膵癌オルガノイドのin vitroでのゲムシタビン感受性評価(図27)
ルシフェラーゼ遺伝子を導入したプライマリヒト膵癌細胞を樹立し、in vitroでプライマリ膵癌オルガノイド(膵癌細胞2×104細胞)を再構成した後、ゲムシタビン存在下で72時間培養した。その後、発光基質を加え、各オルガノイドの発光強度を発光プレートリーダーで測定し、解析した。統計解析(Two-Way ANOVA Sidak's multiple comparisons test)の結果、プライマリ膵癌オルガノイドは膵癌シストに比べて、有意に高い薬剤耐性を示すことが確認された。

2-20 ヒトプライマリ膵癌オルガノイド由来ゼノグラフト内で膵癌に特徴的な細胞外基質の発現亢進が確認される(図26, 12)
ヒトプライマリ膵癌細胞(膵癌細胞:2×105細胞)を用いてプライマリ膵癌オルガノイド、あるいは、プライマリ膵癌シストを再構成した後、免疫不全マウスに移植した。移植後1.5ヶ月目の免疫染色像を示す。パネル上段はプライマリ膵癌オルガノイド移植群、下段はプライマリ膵癌シスト移植群の結果を示す(図26)。プライマリ膵癌オルガノイド移植後のゼノグラフトはプライマリ膵癌シスト移植群に比べて、膵癌に特徴的な線管構造が確認される他、αSMA陽性細胞より構成される間質が検出される。また、シリウスレッド染色後の偏向顕微鏡像より、プライマリ膵癌オルガノイド移植後のゼノグラフトでは同領域にコラーゲン繊維が豊富に存在することが確認される。図13では、プライマリ膵癌オルガノイドあるいはプライマリ膵癌サスペンジョンを移植した後に形成されるゼノグラフトにおける細胞外マトリクスの発現評価結果を示す。図はヒアルロン酸結合タンパク質(HABP)、フィブロネクチン(Fibronectin)、テネイシン(Tenescin)などの細胞外マトリクス群の免疫染色像を示す。プライマリ膵癌オルガノイド移植群では、HABP・Fibronectin・Tenescinの発現亢進が確認され、プライマリ膵癌オルガノイド内では、豊富な間質が再構成されている(図12)。

2-21 プライマリヒト膵癌オルガノイドのin vivo薬剤感受性(図28)
in vitroでプライマリ膵癌オルガノイド(膵癌細胞2×105細胞)を再構成した後、 免疫不全マウスに移植し、その後の腫瘍サイズの変動を観察した。なお、ゼノグラフトが100mm3に達した時点より3日に1回ゲムシタビンを投与した。プライマリ膵癌オルガノイド移植群は膵癌シスト移植群に比べて、有意に高い薬剤耐性を示すことが確認された。

2-22 ヒトプライマリ膵癌オルガノイドのin vivo放射線感受性(図30
プライマリ膵癌オルガノイド、あるいは、プライマリ膵癌サスペンジョンを免疫不全マウスに移植し、腫瘍形成を認めた後、放射線(炭素線)照射を実施した。照射後の腫瘍体積の変化を示す。プライマリ膵癌サスペンジョン移植群では放射線照射後に腫瘍体積の著明な減少を認める。一方、プライマリ膵癌オルガノイド移植群では放射線照射後の腫瘍体積の減少が少ない。

2-23 プライマリヒト膵癌オルガノイドの薬剤感受性と患者予後の相関(図31
各膵癌患者(術再発あり、術後再発なし)の手術摘出検体よりプライマリ膵癌細胞を分離し、拡大培養を行った後、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した。その後、ストロマ細胞と三次元的に共培養し、プライマリ膵癌オルガノイドを再構成した。再構成されたヒト膵癌オルガノイドを各濃度のゲムシタビン存在下で72時間培養し、ルシフェラーゼ活性を測定した。術後再発なしの肺癌患者の手術時摘出検体に由来する膵癌オルガノイドは、ゲムシタビンに感受性を示し、術後に再発を示す膵癌患者の手術時摘出検体に由来する膵癌オルガノイドは、ゲムシタビンに耐性を示す。一方、術後に遠隔転移を示す膵癌患者の手術時摘出検体に由来する膵癌オルガノイドは、ゲムシタビンに感受性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、創薬におけるin vivo薬剤感受性、放射線感受性などの治療薬抵抗性評価、創薬におけるin vitro薬剤感受性、放射線感受性などの治療薬抵抗性評価、難治癌の治療抵抗性のメカニズム解明の為のツールとして、利用可能である。
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