(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1にX線発生装置が開示されている。この従来のX線発生装置においては、内筒である仕切りパイプと外筒である回転シャフトが同軸状に設けられている。仕切りパイプも回転シャフトも中空の円筒である。仕切りパイプの先端にセパレータが取り付けられている。回転シャフトの先端にターゲットが取り付けられている。セパレータはターゲットの中に格納されている。
【0003】
ターゲットに電子が衝突すると、そのターゲットの電子が衝突した部分からX線が放射される。電子の衝突によりターゲットは高温に加熱される。ターゲットが許容限界以上に高温になることを防止するため、セパレータによって回転対陰極の内部に形成された冷媒流入路に冷媒、例えば水が供給される。供給された水は、ターゲットの裏側から当該ターゲットを冷却する。冷却後の水は冷媒流出路を通して回収される。
【0004】
上記従来のX線発生装置においては、ターゲットが高速で回転する。例えば、9000rpmの高速で回転する。一方、ターゲットの内部に配置されたセパレータは回転しないように位置不動に固定されていた。また、電子が衝突する部分のターゲットとセパレータとの間隔は、例えば1.5mmのように狭く設定されていた。この狭い間隔内を冷媒が流れるとき、ターゲットの内面に接する冷媒と、セパレータの外面に接する冷媒との速度差は非常に大きい。これにより水が効果的に攪拌され、その結果、ターゲットを内側から効率良く冷却することができた。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されたX線発生装置においては、ターゲットの内面とセパレータの外面との間で冷媒の速度差が大きくなり、そのため、ターゲットを回転させるための駆動源、例えば電動モータのトルクが大きくなければならないという問題があった。また、ターゲットの内面とセパレータの外面との間で冷媒が激しく攪拌されるので、振動が大きくなるという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るX線発生装置を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、本明細書に添付した図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0019】
(X線発生装置の第1の実施形態)
図1は、本発明に係るX線発生装置の一実施形態の全体的な構成を示している。同図においてX線発生装置1は、真空容器2と、対陰極組立体3とを有している。真空容器2の内部は真空吸引装置4によって真空状態に保持される。
図2において、対陰極組立体3は概ね円筒状のケーシング5を有している。ケーシング5に設けられたフランジ6が真空容器2に固定されている。
【0020】
ケーシング5の内部の中心部に内管8が設けられている。内管8は中空で円筒状の管である。内管8は、ケーシング5の左端部に固定され、ケーシング5の中心線X0に沿って延びている。内管8は回転もせず、位置移動もしない状態に固定されている。内管8の中空部は冷媒流入路8aとして機能する。冷媒流入路8aの左端部は入口用継手9につながっている。入口用継手9は
図1において冷媒供給装置13から延びる冷媒供給管42につなげられている。
【0021】
図2において、内管8の外側に外管10が設けられている。外管10は中空で円筒状の管である。外管10は2つの軸受11a,11bによって中心線X0を中心として回転自在に支持されている。内管8と外管10は共通の中心線X0に沿って
図2の左右方向へ延びている。内管8と外管10との間の空間は冷媒流出路10bとして機能する。冷媒流出路10bの左端部は出口用継手12につながっている。出口用継手12は
図1において冷媒供給装置13から延びる冷媒回収管43につなげられている。
【0022】
図2において、内管8の右側の先端にセパレータ15が取付けられている。セパレータ15は、
図3及び
図4に示すように、円板部16と、傾斜部17と、流入側スペーサとして機能する複数のフィン(すなわち、ヒレ部材又は羽根部材)18とを有している。傾斜部17は円板部16の周縁部に設けられている。フィン18は本実施形態では4個設けられている。4つのフィン18は角度90°の等配間隔で円板部16の中心点から放射状に延びている。円板部16の中心部の裏面に凹部19が設けられている。
【0023】
図5は、
図2におけるターゲット22の下半分の部分であるA部分を拡大して示している。
図5において、内管8の右側の先端部は半径方向(すなわち中心線X0と直角の方向)へ膨らみ出た円盤形状の膨出部8bとなっている。この膨出部8bがセパレータ15の裏面の凹部19に入った状態で内管8とセパレータ15とがつながっている。
【0024】
図2において、外管10の右側の先端にターゲット22が設けられている。ターゲット22は、ターゲット底部23とターゲット本体24とを有している。ターゲット底部23及びターゲット本体24は、いずれも、
図2の左側端部が開放端であり、右側端部が閉じた端部であり、左側端部と右側端部の間の側面部が円筒状である形状、すなわちカップ状となっている。ターゲット底部23は外管10と一体に形成されている。
【0025】
ターゲット本体24の周面の1ヶ所に対向して電子銃21が設けられている。電子銃21はフィラメント27を有している。
図1において、高圧電源20によりフィラメント27とターゲット22との間に管電圧V(例えばマイナス60kV)が印加される。管電圧Vが印加されたフィラメント27には管電流Iが流れる。このときフィラメント27は発熱して熱電子eを発生する。この熱電子eがターゲット22の表面に衝突し、熱電子eが衝突した領域からX線Rが発生する。熱電子eが衝突した領域、すなわちX線が発生する領域がX線焦点である。X線焦点は、例えば縦×横=40μm×400μmの大きさである。ここで、縦方向は
図2の紙面に対して直角の方向であり、横方向は
図2の紙面に平行の方向である。この大きさの焦点は、面積が小さいということから、マイクロフォーカスと呼ばれている。このX線焦点から発生したX線はマイクロフォーカスのX線と呼ばれている。
【0026】
図5において、ターゲット底部23の開放端の外周面に雄ネジ25が形成されている。一方、ターゲット本体24の開放端の内周面に雌ネジ26が形成されている。これらの雄ネジ25と雌ネジ26とを嵌合させることにより、ターゲット底部23とターゲット本体24が一体に組付けられてターゲット22が形成されている。ターゲット底部23の閉じた端部の表面には流出側スペーサ29が設けられている。流出側スペーサ29は、
図3及び
図4で示した流入側スペーサとしてのフィン18と同様に細長い突起として形成されている。また、流出側スペーサ29も複数個設けられている。複数の流出側スペーサ29もフィン18と同様に中心線X0に対して対称に配置されることが好ましい。
【0027】
ネジ25,26のところでターゲット底部23をターゲット本体24にネジ込むことにより、ターゲット底部23の流出側スペーサ29がセパレータ15のフィン(すなわち流入側スペーサ)18をターゲット本体24の閉じている端部の裏面に押付ける。この状態において、
図5に示すように、内管8の先端の膨出部8bとセパレータ15の裏面の凹部19の壁との間にカップ形状の隙間30が形成されている。符号30aは隙間30の上流側であり、符号30bは隙間30の下流側である。セパレータ15のフィン18はターゲット本体24に押付けられているので、ターゲット22が中心線X0を中心として回転する際にはセパレータ15もターゲット22と一緒に回転する。内管8の先端の膨出部8bとセパレータ15の凹部19の壁との間に隙間30が形成されるので、セパレータ15は、固定されている内管8に対して回転することができる。
【0028】
図2において、ケーシング5の内部であって外管10の周囲に、ターゲット駆動手段としてのダイレクトモータ31が設けられている。ダイレクトモータ31は、外管10の外周面に設けられたロータ32と、ケーシング5の内周面に設けられたステータ33とを有している。ステータ33に通電が成されると回転磁界が発生し、この回転磁界のためにロータ32が中心線X0を中心として回転し、その結果、内管8が中心線X0を中心として回転する。
【0029】
ケーシング5の右側の先端部に磁性流体シール装置36が設けられている。磁性流体シール装置36は周知の軸封装置である。この磁性流体シール装置36は、外管10の外周面上に磁性流体を磁力によって吸着させることにより外管10の外周面上に磁性流体膜を形成する。この磁性流体膜の働きにより、外管10を回転させている状態において、真空容器2の外部の大気圧と真空容器2の内部の真空との圧力差が維持される。外管10の左端部とケーシング5の左端部との間にメカニカルシール37が設けられている。メカニカルシール37は冷媒としての冷却水の漏れを防止する。
【0030】
図2において、電子銃21によってターゲット22の表面にX線焦点が形成される領域は高温に発熱する。X線の発生を継続して行うためにはこの領域を冷却しなければならない。以下この領域を冷却領域Bと呼ぶことにする。冷却領域Bはターゲット本体24の周面上に環状に存在する。
図6において、セパレータ15の傾斜部17の先端に形成されている接近表面38が冷却領域Bに対応して配置される。接近表面38に対向しているターゲット本体24の領域が被冷却面Cである。接近表面38と被冷却面Cによって挟まれる空間が接近通路Dである。フィラメント27から放射された電子eがターゲット本体24に衝突する領域であるX線焦点は被冷却面Cに含まれることが好ましい。
【0031】
ターゲット本体24とセパレータ15とによって挟まれた空間であって接近通路Dに至る部分の空間が冷媒流入路39aである。冷媒流入路39aは
図2において内管8の冷媒流入路8aにつながっている。
図6において、ターゲット底部23とセパレータ15とによって挟まれた空間であって接近通路Dから出ている空間が冷媒流出路39bである。冷媒流出路39bは
図2において外管10と内管8との間の空間である冷媒流出路10bにつながっている。
【0032】
以下、X線発生装置1の作用について説明する。
図1において、真空吸引装置4が作動して真空容器2の内部が真空状態に設定される。高圧電源20が作動してフィラメント27から電子が放出され、ターゲット22からX線Rが放射される。ターゲット22はダイレクトモータ31によって駆動されて中心線X0を中心として回転する。冷媒供給装置13が作動して、冷媒供給管42及び入口用継手9を介してX線発生装置1へ冷媒としての水が供給される。
【0033】
供給された水は、
図2において次の順に、すなわち、内管8の冷媒流入路8a,ターゲット22内の冷媒流入路39a、冷却領域B内の接近通路D(
図6参照)、ターゲット22内の冷媒流出路39b(
図6参照)、そして外管10の冷媒流出路10bの順に流れる。さらに水は、出口用継手12及び冷媒回収管43(
図1参照)を通して回収される。冷媒である水が
図6の接近通路D及びその近傍を流れるとき、ターゲット本体24のX線焦点を含む被冷却面Cが冷却される。
【0034】
本実施形態では、
図7に示すように、セパレータ15においてスペーサとして機能するフィン18がターゲット本体24の内面に押付けられている。さらに、内管8の先端の膨出部8bとセパレータ15の凹部19の壁との間に隙間30が設けられている。これらの構成により、内管8は固定されていて動かないのであるが、セパレータ15はターゲット22と共に中心線X0を中心として回転する。
【0035】
このように本実施形態においてはターゲット22とセパレータ15が一緒に同じ方向へ回転するので、
図2の冷却領域Bにおいてターゲット22の内面とセパレータ15の外面との間で水の速度差がなくなる。このため、ターゲット22を回転させるためのダイレクトモータ31のトルクを小さくできる。また、ターゲット22の内面とセパレータ15の外面との間で水が激しく攪拌されることがないので、X線発生装置1の振動が小さい。
【0036】
(X線発生装置の第2の実施形態)
図8は本発明に係るX線発生装置の他の実施形態の主要部の断面構造を示している。
図8は、第1の実施形態において
図7で示した構造に変形を加えたものである。本実施形態において
図8に示した構造以外の構造は第1実施形態で採用した構造と同じである。
【0037】
本実施形態において、内管8の先端の膨出部8bとセパレータ15の凹部19の壁との間に隙間30が形成されることは
図7に示した先の実施形態と同じである。先の実施形態において、
図2において、冷媒としての冷却水が冷却領域Bへ供給されて、
図6におけるX線焦点を含む被冷却面Cが冷却されることは既に説明した。そして、
図7において、内管8の先端の膨出部8bとセパレータ15の凹部19の壁との間に隙間30を設けることにより、内管8を動かないように支持した上で、中心線X0を中心としてセパレータ15を回転させることも説明した。
【0038】
しかしながら、
図7に示した実施形態においては、隙間30の上流側30aと下流側30bとの圧力差により、隙間30の入口近傍を流れる水の一部が隙間30の上流側30aに流れ込み、
図2の冷却領域Bへ向かう水の量が減少して、冷却領域Bにおける冷却効率が低下するおそれがあることが考えられた。これに対し、
図8に示す本実施形態では、内管8の先端部に冷媒流速加速手段としてのテーパ管44を形成した。テーパ管44は冷却水の流れ方向(
図8の左から右方向)に従って断面径が徐々に小さくなっている。テーパ管44の断面は隙間30に開口している所で最小になっている。
【0039】
テーパ管44を設けたことにより、隙間30の冷媒流入路8a側の開口付近の流速は冷媒流入路8aの上流領域を流れる冷却水の流速よりも速くなっている。冷却水の流速が隙間30の開口近傍で速くなったことにより、ベルヌーイの定理により、隙間30の上流側30aの圧力(静圧)はテーパ管44を設けない場合(
図7の状態)よりも低下している。このように本実施形態では隙間30の上流側30aの圧力を低下させて、冷却領域Bを通過した後の冷却水の帰還路に面している隙間30の下流側30bとほぼ同じ圧力にすることができる。このため、X線発生装置の稼動中に隙間30へ流れ込む水の量を減少させることができ、その分を
図2の冷却領域Bへ送り込むことができるようになった。この結果、冷却領域Bにおいてターゲット22における
図6の被冷却面Cを効率良く冷却できるようになった。
【0040】
(X線発生装置の第3の実施形態)
図9は本発明に係るX線発生装置のさらに他の実施形態の主要部の断面構造を示している。
図9は、第2の実施形態において
図8で示した構造にさらに変形を加えたものである。本実施形態において
図9に示した構造以外の構造は第1実施形態で採用した構造と同じである。
【0041】
図9において、テーパ管44の小面積側の端部開口である第1開口の径をD1とし、テーパ管44の開口を出た冷却水を受けるための開口である第2開口の径をD2とする。また、内管8の中を流れる冷却水の全量をQ1とし、隙間30に流れ込む冷却水の量をQ2としたとき、
T=Q2/Q1
を冷却水の短絡量率ということにする。本実施形態では、
1.2D1≦D2≦1.27D1
に設定されており、この条件により短絡量率Tを小さい値に抑えることができた。
【0042】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
【0043】
例えば、テーパ管を用いない
図7の実施形態に関しては、冷却水の流れ方向を逆にしても良い。つまり、
図2の入口用継手9と出口用継手12を逆にしても良い。
【0044】
(実施例1)
図8において内管8の内径D10を7mmとし、テーパ管44の隙間30の所の開口の径D0を3mm、4mm、5mm、7mmと変化させ、それらのときの短絡量率Tをシミュレーションソフトによって求めた。その結果、
図10に示す結果が得られた。
図10のグラフによれば、テーパ管44の開口径D0を小さくすれば短絡量率Tを下げることができ、
図2における冷却領域Bにおける冷却効率を高めることができる。但し、開口径D0を小さくし過ぎると冷却水流路の圧力損失が大きくなって実用的でない。シミュレーション実験によれば、テーパ管44の開口径D0は3mmが良好であった。
【0045】
(実施例2)
図9において、第1開口の径D1を3mm一定にし、第2開口の径D2を3.0mmから4.2mmの間で変化させて、シミュレーションソフトによって短絡量率Tを求めた。その結果、
図11に示す結果が得られた。
図11のグラフによれば、第2の開口の径D2が3.7mmであるときに短絡量率Tが最も低かった。グラフから判断すると、第2の開口の径D2が3.6mmから3.8mmにある場合に良好な短絡量率Tが得られた。第1の開口の径D1が3mmであることを考慮すれば、3.6mmは1.2倍であり、3.8mmは1.27倍である。従って、第1の開口の径D1と第2の開口の径D2との関係は、
1.2D1≦D2≦1.27D1
であることが好ましいと考えられる。
【0046】
(実施例3)
図9において、D1=3.0mm、D2=3.7mmとし、
図3においてセパレータ15の中心X0から4つのフィン18までの距離Lを3.20mm、3.68mm、4.15mmと変化させて、それぞれのときの短絡量率Tをシミュレーションソフトによって求めた。その結果、
図12に示す結果が得られた。グラフから判断すると、フィン18の中心X0からの距離を小さくすれば、短絡量率Tが小さくなって、ターゲットの冷却効果を高めることができることが分かった。しかしながら、
図9において第2開口の径D2はある程度の大きさが必要であり、そのことを理由としてフィン18の中心X0からの距離はある程度の長さが必要である。