(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6960157
(24)【登録日】2021年10月13日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】流体シリンダ
(51)【国際特許分類】
F15B 15/28 20060101AFI20211025BHJP
F15B 15/14 20060101ALI20211025BHJP
G01B 7/00 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
F15B15/28 J
F15B15/28 L
F15B15/14 375
G01B7/00 101M
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-230873(P2017-230873)
(22)【出願日】2017年11月30日
(65)【公開番号】特開2019-100433(P2019-100433A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2020年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】591186855
【氏名又は名称】株式会社東和製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寿久
【審査官】
大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−115905(JP,A)
【文献】
特開2015−031298(JP,A)
【文献】
特開2011−158027(JP,A)
【文献】
実開平03−107565(JP,U)
【文献】
実開昭60−142304(JP,U)
【文献】
実開昭63−027705(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 15/28
F15B 15/14
G01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンヘッドに磁石が設けられ、シリンダチューブの一端にセンサが設けられ、ピストンロッド内には前記センサから励起パルスが送出される磁歪線が設けられ、その磁歪線を介して前記センサにより前記磁石を検知することにより、ピストンの位置を検出するようにした流体シリンダにおいて、
前記ピストンヘッドは、前記磁石を有する筒状の内側ヘッド部材と、その内側ヘッド部材に外嵌された筒状の外側ヘッド部材とを備え、前記ピストンロッドが前記外側ヘッド部材内に挿入されるとともに、前記外側ヘッド部材の内周面と前記ピストンロッドの外周面との間に保持リングを介在させて、該保持リングにより前記ピストンロッドに対する前記外側ヘッド部材のヘッド側への移動を阻止し、
前記内側ヘッド部材のロッド側の端面を前記ピストンロッドの端面に当接させ、
前記内側ヘッド部材と前記外側ヘッド部材とを螺合した流体シリンダ。
【請求項2】
前記保持リングを前記ピストンロッドの外周の環状溝に嵌合するとともに、前記外側ヘッド部材のヘッド側の面に当接させた請求項1に記載の流体シリンダ。
【請求項3】
前記保持リングとして切り離し部を有するものを用いた請求項2に記載の流体シリンダ。
【請求項4】
前記内側ヘッド部材のロッド側の端面に形成した凹部内にピストンロッドを嵌合した請求項1に記載の流体シリンダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧シリンダなどの流体シリンダに関するものであって、特にピストンの位置を検出するためのセンサを有する流体シリンダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ピストンの位置を検出するためのセンサを有する流体シリンダが開示されている。この特許文献1においては、同文献1の
図1に記載されているように、ピストンロッドとして、軸心位置に挿通孔を形成したものが用いられている。そして、前記挿通孔にはピストンロッドとは別体のセンサロッドが挿入配置されている。そのセンサロッドを包囲するように、ピストンヘッドに磁石が設けられている。ピストンヘッドは、その内周のネジ部がピストンロッドの外周のネジ部に螺合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017−115905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のように、軸心位置に挿通孔を有するピストンロッドとピストンヘッドとをネジによって固定する構成においては、ピストンロッドの外周にクリアランス分を含むネジの谷が刻設される。このため、ピストンロッドのネジの部分の肉厚が足りなくなって、強度が低下するおそれがある。すなわち、ピストンロッドの外周にネジが形成されていると、ネジの谷の部分の肉厚が薄くなりやすい。これを回避するために、ピストンロッドの肉厚を確保すると、必然的にピストンロッドの径が大きくなって、シリンダの大径化や大重量化を招くことになる。
【0005】
このような構成においては、ネジの谷は鋭角状に形成されるため、強度低下に直結する応力集中が生じやすく、そのネジの谷を起点としたクラックが生じるおそれがあり、あるいは、ネジ山が欠けるおそれもある。このような事態を回避するためには、ピストンロッドの肉厚を大きくするとともに、ネジ山の高さを高くすることが考えられるが、このようにすれば、前記のようにシリンダの大径化や重量増加に繋がる。
【0006】
それ以外の構成として、
図4に示すように、ピストンロッド101とピストンヘッド102とを一体に削り出し形成したピストン一体ロッド100の場合は、ピストンロッド101とピストンヘッド102との外径が異なるため、センタレス研削によって加工することが不可能である。従って、ピストン一体ロッド100は大径のワークから旋盤などによって削り出す必要があって、その加工に時間がかかるだけではなく、材料に無駄が生じる。なお、
図4において、105はセンサを、106は磁歪線を内装したパイプを示す。
【0007】
また、ピストンヘッド102とピストンロッド101とが一体であるため、ピストンヘッド102に永久磁石装着用の凹部107を形成する必要に加えて、その凹部107の底部からピストンロッド101の先端に向かって前記パイプ106を挿通するための挿通孔104を穿設する必要がある。従って、挿通孔104の加工においても、手間のかかるものであった。
【0008】
さらに、
図5に示すように、ピストンロッド101とピストンヘッド102とを溶接によって固定した場合は、ピストンロッド101の外周とピストンヘッド102の内周との間の開先108に溶接金属109が充填されて盛り上がるため、その盛り上がった溶接金属109の余肉を除去する加工が必要になる。そして、前記溶接前には、ピストンロッド101やピストンヘッド102を研磨加工したり、メッキ加工したりすることが不可能な場合もあり、このような場合は、これらの加工を溶接後に行う必要がある。このため、それぞれ別体で、単純な形状であるピストンロッド101やピストンヘッド102に対してメッキや研磨を施す場合とは異なる。従って、一体化した複雑な形状のピストン一体ロッド100に対して加工を施すことになり、さらなる手間がかかることになる。また、溶接を必要とする構成においては、溶接熱によってシリンダの構成部材が熱変質して強度が低下するおそれもある。
【0009】
本発明の目的は、前記のような問題点を解消して、小径化を可能にした流体シリンダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明においては、ピストンヘッドに磁石が設けられ、シリンダチューブの一端にセンサが設けられ、ピストンロッド内には前記センサから励起パルスが送出される磁歪線が設けられ、その磁歪線を介して前記センサにより前記磁石を検知することにより、ピストンの位置を検出するようにした流体シリンダにおいて、前記ピストンヘッドは、前記磁石を有する筒状の内側ヘッド部材と、その内側ヘッド部材に外嵌された筒状の外側ヘッド部材とを備え、前記ピストンロッドが前記外側ヘッド部材内に挿入されるとともに、前記外側ヘッド部材の内周面と前記ピストンロッドの外周面との間に保持リングを介在させたことを特徴とする。
【0011】
以上の構成においては、ピストンヘッドとピストンロッドとが保持リングを介在させて連結されている。従って、ピストンロッドの外周面にネジを刻設する必要はない。このため、軸線位置に挿通孔を有するピストンロッドの肉厚を大きく確保できる。また、ピストンロッドにネジが不要であるため、ネジの谷における応力集中を避けることができて、ピストンロッドの強度低下を回避できる。このため、ピストンロッドの肉厚を薄くできて、ピストンロッドを小径化でき、流体シリンダの小径化及び軽量化を達成できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、小径化を可能にした流体シリンダを実現できるという効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態の流体シリンダを示す一部省略断面図。
【
図6】内側ヘッド部材の組み込みに関する変更例を示す断面図。
【
図7】(a)〜(c)は、それぞれリングの変更例を示す斜視図または一部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
図1及び
図2に示すように、流体シリンダとしての油圧シリンダ10のシリンダチューブ11の内部にはピストンアッシー12が挿入されており、そのピストンアッシー12は、ピストンヘッド13と、そのピストンヘッド13に固着された長尺円筒状のピストンロッド16とを備えている。そして、ピストンアッシー12は、ピストンロッド16がシリンダチューブ11の先端,すなわち前端のキャップ14から出没するように移動される。シリンダチューブ11の先端部にはロッド側ポート17が配置され、このロッド側ポート17を介してロッド側油室18と外部配管(図示しない)との間において作動油が出入りされる。シリンダチューブ11の基端部にはヘッド側ポート19が配置され、このヘッド側ポート19を介してヘッド側油室20と外部配管(図示しない)との間において作動油が出入りされる。
【0015】
シリンダチューブ11のヘッド側には、ヘッドユニット22が固定され、このヘッドユニット22には、ロッド側から順に、環状の固定部材23及び有底環状のボトム部材25が備えられている。そして、ボルト28により固定部材23及びボトム部材25が締結されている。固定部材23及びボトム部材25には、連通孔24を介して前記ヘッド側油室20に連通する収容室26が形成されている。
【0016】
前記ピストンヘッド13は、環状の外側ヘッド部材31と、同じく環状の内側ヘッド部材32とを備え、外側ヘッド部材31は前記ピストンロッド16の外周に嵌合されている。
【0017】
図2及び
図3に示すように、ピストンロッド16の基端部には断面半円状の環状溝35が形成されている。この環状溝35には保持リングとして切り離し部を有するほぼC形の金属製または合成樹脂製のリング36が内径側の半部において半埋め込み状態で嵌合されている。そして、このリング36の外径側は外側ヘッド部材31の内奥面の端面の円弧部311に係合して、ピストンロッド16に対する外側ヘッド部材31の後方移動を阻止している。
【0018】
外側ヘッド部材31の内周のネジ部30には前記内側ヘッド部材32の外周のネジ部37が螺合されている。従って、ネジ部30,37を介して、外側ヘッド部材31と内側ヘッド部材32とが連結固定されている。内側ヘッド部材32の前端面(ロッド側の端面)には凹部39が形成され、この凹部39の内底面391がピストンロッド16の基端面(後端面)に当接して、つまりインロー嵌合を介してピストンロッド16に対する内側ヘッド部材32の前方移動が阻止されている。従って、外側ヘッド部材31及び内側ヘッド部材32の前方及び後方への移動が阻止されている。
【0019】
内側ヘッド部材32の内周面には環状の永久磁石40が一対のカラー41によって前後から挟持された状態で保持され、カラー41及び永久磁石40は止めリング42によって抜け止め固定されている。
【0020】
前記収容室26には磁歪センサ51が収容されている。磁歪センサ51は、その磁歪センサ51から伸びる耐圧パイプ53を備え、この耐圧パイプ53は永久磁石40内を通ってピストンロッド16の挿通孔162の内部に挿入されている。耐圧パイプ53内にはピストンロッド16の軸線上に位置する磁歪線54が挿通されている。
【0021】
そして、磁歪センサ51から磁歪線54に励起パルスが送出され、この励起パルスに対して前記永久磁石40の外部磁場が作用すると、機械的な歪みパルスが磁歪線54内に発生される。磁歪センサ51は、この歪みパルスを受信し、励起パルスの発生から歪みパルスが受信されるまでの時間をカウントして、永久磁石40の位置を演算する。これによって、ピストンアッシー12の位置が検出される。
【0022】
次に、実施形態の油圧シリンダ10の作用を説明する。
以上のように構成された流体シリンダにおいて、ヘッド側ポート19を介してヘッド側油室20に作動油が供給されると、ピストンアッシー12が突出移動され、ロッド側ポート17を介してロッド側油室18に作動油が供給されると、ピストンアッシー12が没入移動される。この際、ピストンアッシー12の位置は磁歪センサ51を介して図示しない制御装置によって認識される。
【0023】
すなわち、ヘッド側油室20に作動油が供給された場合、そのヘッド側油室20からの圧力はピストンアッシー12に対して突出方向の推力として作用する。この場合、ヘッド側ポート19からの作動油は、図示しない流路を介して、ピストンロッド16,外側ヘッド部材31及び内側ヘッド部材32で構成するピストンアッシー12の受圧面積に作用する。そして、その推力は、内側ヘッド部材32の凹部39の内底面391とピストンロッド16の基端面との当接を介してピストンロッド16に伝達される。
【0024】
また、ロッド側油室18からの圧力に基づく推力は外側ヘッド部材31に作用する。そして、その推力はリング36を介してピストンロッド16に伝達される。
そして、本実施形態においては、以下の効果がある。
【0025】
(1)ピストンヘッド13とピストンロッド16とをそれらの間のネジで連結したものではないため、ピストンロッド16の外周面にネジを刻設する必要はない。このため、軸線位置に挿通孔162を有するピストンロッド16の肉厚を大きく確保できる。また、ネジが不要であるため、ネジの谷における応力集中を避けることができて、ピストンロッド16の強度低下を回避できる。すなわち、実施形態においては、環状溝35にリング36を半埋め込み状に嵌合しているため、ピストンロッド16の基端面の面積を広く確保できて、圧縮応力を小さくできる。しかも、環状溝35の断面形状を円形状にできるため、環状溝35の底部の応力集中を防止できる。
【0026】
(2)前記のように、環状溝35の底部の応力集中を回避できるため、ピストンロッド16の基端面の面積を広く確保しても、ピストンロッド16の肉厚を薄くできて、ピストンロッド16を小径化でき、油圧シリンダ10の小径化及び軽量化を達成できる。これに対し、特許文献1のような構成においては、ピストンロッドの肉厚を大きくしないと、ネジ部の応力集中によって同ピストンロッドの強度低下のおそれがあり、ピストンロッド16の基端面の面積を広く確保できない。その結果、特許文献1のような構成においては、ピストンロッドの径が大きくなり、シリンダの大径化及び大重量化を避けることができない。
【0027】
(3)ネジ部30,37をピストンアッシー12の軸方向の広い範囲にわたって形成できるため、ネジ部30,37において高い螺合強度を得ることができる。
(4)ピストンロッド16とピストンヘッド13とが別体であるため、ピストンロッド16やピストンヘッド13をそれぞれ単純な円筒形状に形成できる。従って、ピストンロッド16をセンタレス研磨によって容易に研削あるいは研磨加工でき、加工性を向上できる。
【0028】
(5)ピストンロッドとピストンヘッドとが一体のピストンと比較して、ピストンロッド16の端面からの穴あけ加工が可能になるため、ピストンロッド16の軸線位置の挿通孔162の加工が容易になる。
【0029】
(6)ピストンロッド16として、パイプ材を用いることが可能になるため、挿通孔の加工が不要になる。
(7)ピストンロッド16とピストンヘッド13との溶接が不要であるため、それらの熱変質を防止できて高強度を維持できる。また、溶接が不要であるため、開先部分の溶接金属の余肉の除去や研磨が不要になり、加工が容易になる。
【0030】
(8)前記のように、開先部分の溶接金属の余肉の除去や研磨が不要になるため、ピストンロッド16とピストンヘッド13とに対してそれらの組付け前にメッキ加工を施すことができて、そのメッキ加工を容易に行うことができる。
【0031】
(9)ピストンヘッド13が外側ヘッド部材31と内側ヘッド部材32とに分割形成されているため、外側ヘッド部材31及び内側ヘッド部材32として大きさの異なるものを複数種類用意しておけば、それらを適宜に組み合わせることにより、多種類のシリンダに対応できる。従って、各種のシリンダに対する柔軟な対応が可能になる。
【0032】
(10)リング36が切れ目を有するほぼC形であるため、環状溝35に対するリング36の嵌合が容易である。
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、以下のような態様で具体化することもできる。
【0033】
・空圧シリンダや水圧シリンダにおいて本発明を具体化すること。
・前記実施形態においては、内側ヘッド部材32とピストンロッド16とがインロー嵌合を介して連結されている。これに対し、
図6に示すように、内側ヘッド部材32とピストンロッド16とをインロー嵌合させることなく、それらの端面どうしを突き当てること。
【0034】
・
図7に示すように、リング36の構成を種々変更すること。例えば、リング36を複数の分割片によって構成したり(
図7(a))、リング36として伸縮性を有する合成樹脂などの環状弾性材を用いたりすること(
図7(b))。この構成の場合、切れ目の存在しない閉ループ構造が採用される。あるいは、リング36の断面形状を正方形あるいは長方形にすること(
図7(c))。このようにリング36の断面形状を正方形あるいは長方形にした場合は、ピストンロッド16に対するリング36の着座が安定する。
【符号の説明】
【0035】
10…油圧シリンダ、11…シリンダチューブ、12…ピストン、13…ピストンヘッド、16…ピストンロッド、31…外側ヘッド部材、32…内側ヘッド部材、35…環状溝、36…リング、39…凹部、40…永久磁石、51…磁歪センサ、54…磁歪線。