【文献】
CHIAVERINI, A. et al.,Using interpolation of pre-computed hydrodynamic simulations to forecast flood inundation,37th Hydrology & Water Resources Symposium 2016: Water, Infrastructure and the Environment,2016年11月,pp.327-334
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
a) 複数の単位区域に分割された氾濫原について、破堤地点、越流量、及び粗度係数のうちの少なくとも1つが異なる複数の条件で実行された浸水シミュレーションの結果、及び該浸水シミュレーションの結果に基づいて作成された、前記複数の単位区域の相互間の浸水の発生状況の類似性を示す類似性情報が保存された記憶部と、
b) 少なくとも1つの前記単位区域における浸水深さの観測データを取得する観測データ取得部と、
c) 複数の前記浸水シミュレーションの結果及び前記観測データに基づいて再現浸水データを作成する再現浸水データ作成部と、
d) 前記観測データと前記再現浸水データとの差異を求める差異データ取得部と、
e) 前記再現浸水データに対し、前記類似性情報を用いて前記差異を反映することにより浸水ハザードマップを作成する浸水ハザードマップ作成部と
を備えることを特徴とする浸水ハザードマッピング装置。
前記再現浸水データ作成部が、前記観測データに基づいて、前記複数の浸水シミュレーションの結果のそれぞれに重み付けの係数を付して重ね合わせることにより前記再現浸水データを作成する
ことを特徴とする請求項1に記載の浸水ハザードマッピング装置。
前記表示処理部が、前記氾濫原の地図と、前記単位区域それぞれを、それぞれの浸水位に応じた表示態様で表示した前記浸水ハザードマップを重畳して前記表示部に表示する
ことを特徴とする請求項7に記載の浸水ハザードマッピング装置。
複数の単位区域に分割された氾濫原について、破堤地点、越流量、及び粗度係数のうちの少なくとも1つが異なる複数の条件で実行された浸水シミュレーションの結果、及び該浸水シミュレーションの結果に基づいて作成された、前記複数の単位区域の間の浸水の発生状況の類似性を示す類似性情報が保存された記憶部を備えたコンピュータを、
a) 少なくとも1つの前記単位区域における浸水深さの観測データを取得する観測データ取得部と、
b) 複数の前記浸水シミュレーションの結果及び前記観測データに基づいて再現浸水データを作成する再現浸水データ作成部と、
c) 前記観測データと前記再現浸水データの差異を求める差異データ取得部と、
d) 前記再現浸水データに対し、前記類似性情報を用いて前記差異を反映することにより浸水ハザードマップを作成する浸水ハザードマップ作成部
として動作させることを特徴とする浸水ハザードマッピング用プログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のシステムでは、リアルタイムで実行する浸水シミュレーション結果が実際の浸水状況と異なる場合には、粗度係数や越流量等を試行錯誤で調整し、両者が整合するまで繰り返す必要がある。そのため、シミュレーション技術に熟練した者がこの処理を行う必要がある。しかし、実際の水害時に必ずしも熟練者を確保できるとは限らず、その場合には実際の浸水状況を反映することが難しいという問題があった。また、実際の観測データをフィードバックしたパラメータを用いて、都度、氾濫解析を行うため、シミュレーションに時間がかかり即時性に欠けるという問題もあった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、シミュレーション技術に熟練した者でなくても、浸水深さ等の観測データを反映したハザードマップをリアルタイムで作成することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る浸水ハザードマッピング装置は、
a) 複数の単位区域に分割された氾濫原を対象に、破堤地点、越流量、及び粗度係数のうちの少なくとも1つが異なる複数の条件で実行された浸水シミュレーションの結果、及び該浸水シミュレーションの結果に基づいて作成された、前記複数の単位区域の相互間の浸水の発生状況の類似性を示す類似性情報が保存された記憶部と、
b) 少なくとも1つの前記単位区域における浸水深さの観測データを取得する観測データ取得部と、
c) 複数の前記浸水シミュレーションの結果及び前記観測データに基づいて再現浸水データを作成する再現浸水データ作成部と、
d) 前記観測データと前記再現浸水データの差異を求める差異データ取得部と、
e) 前記再現浸水データに対し、前記類似性情報を用いて前記差異を反映することにより浸水ハザードマップを作成する浸水ハザードマップ作成部と
を備えることを特徴とする。
【0010】
前記類似性情報は、複数の条件で実行した浸水シミュレーションにおける浸水位の相関性が高い単位区域間に高い類似性が与えられ、浸水シミュレーションにおいて浸水位の相関性が低い単位区域間に低い類似性が与えられるように決められる。この類似性情報は、水理学的な特性の近さを示す情報であると捉えることができる。なお、「浸水位」とは、浸水深さに地盤標高を加えたものである。
【0011】
前記観測データ取得部は、例えば、浸水深さを確認するために道路脇等に設けられた目盛り付きの標柱を撮影するカメラ、街中に設けられている防犯カメラ等のカメラと、それらのカメラにより取得した画像から浸水深さを求める画像処理部、あるいは現地の浸水深さに関する情報を直接伝達する装置などにより構成することができる。さらに、自治体の職員等が現地で取得した情報やソーシャルネットワークサービス等の利用者により提供された情報に適宜の処理を行って観測データを取得するような装置を用いることもできる。
【0012】
本発明に係るハザードマッピング装置では、予め複数の条件で浸水シミュレーションを実行し、その結果に基づいて単位区域間の水理学的な類似性を示す類似性情報を取得して、浸水シミュレーションの結果及び類似性情報を記憶部に保存しておく。実際の水害時には、まず、観測データ取得部により少なくとも1つの単位区域における浸水深さの観測データを取得し、続いて再現浸水データ作成部により複数の浸水シミュレーション結果を組み合わせて氾濫原における観測データを再現した再現浸水データを作成する。そして、差異データ取得部により観測データが取得された単位区域について該観測データと再現浸水データの差異を求め、これを、浸水ハザードマップ作成部により当該単位区域との類似性に応じて他の単位区域にも反映して浸水ハザードマップを作成する。これにより、観測データを得ることができない単位区域にも水理学的な類似性の高い単位区域で取得した観測データを反映した浸水ハザードマップが得られる。
【0013】
本発明に係るハザードマッピング装置では、実際の水害時に、時間がかかる浸水シミュレーションを行うのではなく、予め作成され記憶部に保存された浸水シミュレーションの結果から再現浸水データを作成し、類似性情報を用いて再現浸水データに観測データとの差異を反映する。そのため、リアルタイムでより現実に近い浸水ハザードマップを作成することができる。また、本発明に係るハザードマッピング装置では、実測データと符合するように氾濫解析のパラメータを試行錯誤で調整するなどの処理を熟練者が行う必要がないため、シミュレーション技術に熟練した者でなくても浸水ハザードマップを作成することができる。
【0014】
本発明に係る浸水ハザードマッピング装置は、さらに
f) 表示部と、
g) 前記浸水ハザードマップを前記表示部に表示する表示処理部と
を備えることが好ましい。また、この態様では、前記表示処理部が前記氾濫原の地図と前記浸水ハザードマップを重畳して前記表示部に表示することがより好ましい。
【0015】
この態様の浸水ハザードマッピング装置を用いることにより、浸水ハザードマップを視認して浸水の状況を的確に把握することができる。
【0016】
また、上記課題を解決するために成された本発明に係る浸水ハザードマッピング方法は、
a) 氾濫原を複数の単位区域に分割し、
b) 前記氾濫原を対象に、破堤地点、越流量、及び粗度係数のうちの少なくとも1つが異なる複数の条件で浸水シミュレーションを実行し、
c) 前記浸水シミュレーションの結果に基づいて、前記複数の単位区域の相互間の浸水の発生状況の類似性を示す類似性情報を取得し、
d) 実際の水害が生じたときに、少なくとも1つの前記単位区域における浸水深さの観測データを取得し、
e) 複数の前記浸水シミュレーションの結果及び前記観測データに基づいて再現浸水データを作成し、
f) 前記観測データと前記再現浸水データの差異を求め、
g) 前記再現浸水データに対し、前記類似性情報を用いて前記差異を反映することにより浸水ハザードマップを作成する
ことを特徴とする。
【0017】
さらに、上記課題を解決するために成された本発明に係る浸水ハザードマッピング用プログラムは、
複数の単位区域に分割された氾濫原について、破堤地点、越流量、及び粗度係数のうちの少なくとも1つが異なる複数の条件で実行された浸水シミュレーションの結果、及び該浸水シミュレーションの結果に基づいて作成された、前記複数の単位区域の間の浸水の発生状況の類似性を示す類似性情報が保存された記憶部を備えたコンピュータを、
a) 少なくとも1つの前記単位区域における浸水深さの観測データを取得する観測データ取得部と、
b) 複数の前記浸水シミュレーションの結果及び前記観測データに基づいて再現浸水データを作成する再現浸水データ作成部と、
c) 前記観測データと前記再現浸水データの差異を求める差異データ取得部と、
d) 前記再現浸水データに対し、前記類似性情報を用いて前記差異を反映することにより浸水ハザードマップを作成する浸水ハザードマップ作成部と
として動作させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る浸水ハザードマッピング技術を用いることにより、シミュレーション技術に熟練した者でなくても、浸水深さ等の実際の観測データを反映したハザードマップをリアルタイムで作成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る浸水ハザードマッピング装置、方法、及びプログラムの実施例について、以下、図面を参照して説明する。
図1は本実施例の浸水ハザードマッピング装置の要部構成図である。
【0021】
本実施例の浸水ハザードマッピング装置1は、データ処理部10、入力部40、及び表示部50を備えている。データ処理部10は、記憶部20のほか、機能ブロックとしてシミュレーション実行部31、類似性情報作成部32、観測データ取得部33、再現浸水データ作成部34、差異データ取得部35、浸水ハザードマップ作成部36、制御部37、及び表示処理部38を備えている。データ処理部10の実体はパーソナルコンピュータであり、CPUにより浸水ハザードマッピング用プログラム30を動作させることにより上記の各機能ブロックが具現化される。尚、入力部40は、キーボード、マウス等の入力媒体を含み、これを介して使用者(オペレータ)が適宜の情報(後述する浸水シミュレーションの条件や観測データなど)を入力する。表示部50は、液晶ディスプレイ等のディスプレイを含み、後述の工程により作成されるハザードマップ等を表示する。
【0022】
記憶部20には、観測データ蓄積部21、地図データベース22、及び浸水シミュレーションデータベース23を有している。観測データ蓄積部21には、浸水ハザードマッピングの対象地域(氾濫原)に配置されている外部監視システム100からの各種出力信号が、順次保存される。外部監視システム100には、河川の氾濫等を検知する河川監視システム101のほか、市中の各所に配置された目盛り付きの標柱を撮影する浸水モニタ102や、防犯カメラ103など、河川の状況等を監視したり、河川の氾濫等が生じた際に対象地域の浸水深さを観測したりすることが可能な各種装置(観測地点数M)が含まれている。
【0023】
地図データベース22には、氾濫原の地図データと、非浸水時の氾濫源の各所を撮影した画像データが保存されている。氾濫原は仮想的に複数の単位区域に分割されており、各単位区域の地図データとして、地形、構造物、盛土、建物、地盤標高等に関するデータが保存されている。なお、本実施例の氾濫原Aは10km四方の広さである。
【0024】
浸水シミュレーションデータベース23には、氾濫源Aについて予め複数の条件で行われた浸水シミュレーションの結果が保存されている。浸水シミュレーションのパラメータには、破堤地点、越流量、及び各単位区域の粗度係数が含まれる。浸水シミュレーションは、離間する複数の破堤地点、複数種類の越流量B、及び複数種類の粗度係数Θの組み合わせi毎に行われ、それぞれの結果が時系列データとして保存される。粗度係数Θは、水理公式集(土木学会の刊行物)や、氾濫シミュレーション・マニュアル(土木研究所の資料)等に記載の数値を参照して設定することができる。浸水シミュレーションの具体的な手法としては、非特許文献1に記載のRRIモデル、特許文献1に記載の氾濫解析、二次元不定流モデルを拡散波近似した解析法等、従来知られている種々の方法を用いることができる。
【0025】
本実施例の浸水ハザードマッピング装置1を用いた浸水ハザードマップの作成について説明する。
図2は、河川の氾濫等が起こる前に行っておく、事前準備の工程に関するフローチャートである。
【0026】
使用者は、シミュレーションの対象領域(氾濫原A)の地図を表示部50に表示し、氾濫原Aの分割数N(単位区域の数。本実施例では10,000)を入力する。ここでは使用者が氾濫原Aの分割数Nを数値で入力するものとしたが、予め用意されている複数の分割数Nの候補の1つを使用者に選択させたり、使用者が表示部50に表示した地図上で単位区域を分割する分割線を入力し、その入力の内容に応じて分割数Nを定めたりする等により分割数Nを決めるようにしても良い。
【0027】
使用者により単位区域の数Nが入力されると、シミュレーション実行部31は氾濫原Aを複数の単位区域に分割する(ステップS1)。本実施例では、
図3に示すように、10km四方の広さの氾濫原が、100×100(合計10,000)の単位区域a1〜a10000(単位区域数N)に分割される。各単位区域の広さは100m四方である。
【0028】
続いて、シミュレーション実行部31は、浸水シミュレーションの条件を入力する画面を表示部50に表示する。使用者が入力する条件には、各単位区域の粗度係数の値Θ、破堤地点の数あるいは破堤地点の離間距離、越流量の値Bが含まれる。破堤地点は、表示部50に表示した氾濫原Aの地図上で使用者が指定することにより入力することもできる。本実施例では、5種類の粗度係数の値Θ、破堤地点の離間距離200m、20種類の越流量の値Bを条件として入力する。使用者がこれらの条件を入力すると、シミュレーション実行部31は入力された条件の組み合わせi(i=1〜100)のそれぞれについて浸水シミュレーションを実行し(ステップS2)、浸水シミュレーションデータベース23にその結果(時系列データ)x
t(Θ
i,B
i)を破堤地点別に分けて保存する。添字iは粗度係数の値Θと越流量の値Bの組み合わせ毎に付される。
【0029】
破堤地点毎に、粗度係数Θと越流量の値Bの組み合わせが異なる複数の条件についての浸水シミュレーション結果x
t(Θ
i,B
i)が保存されると、類似性情報作成部32は、同一の条件で実行された浸水シミュレーションの時系列データから単位区域間の水理学的な類似性を示す類似性情報を作成し、浸水シミュレーションデータベース23に保存する。水理学的な類似性は、複数の浸水シミュレーションにおける挙動(浸水位)の近さを示すものである。「浸水位」とは、浸水深さに地盤標高を加えたものである。
【0030】
類似性情報は、例えば、同一の条件で実行された浸水シミュレーションの時系列データから氾濫原への浸水の総量が最大となる時刻の浸水位データを抽出し、条件が異なる複数のシミュレーション結果のそれぞれについて抽出した浸水位データを相互に比較することにより作成することができる。あるいは、同一の条件で実行された浸水シミュレーションの時系列データから、各単位区域の浸水位のピーク値を抽出して浸水位のピークデータを作成し、条件が異なる複数のシミュレーション結果のそれぞれについて作成された浸水位のピークデータを相互に比較することによっても作成することもできる。
【0031】
本実施例では、類似性情報として、各単位区域を行と列に並べた類似性行列(分散共分散行列)P(N行N列)を次式により作成する(ステップS3)。
【数1】
上式(1)において、Qは単位区域間の相関を示す相関行列、Sは標準偏差σ
sの対角行列である。標準偏差σ
sは、データ同化のパラメータとして適宜に設定される。相関行列Qの対角要素(q
1.1等)は1であり、非対角要素は上記水理学的な類似性を表す、0以上1未満の値である。
【0032】
上記ステップS1からS3と前後あるいは並行して、外部監視システム100の各装置(河川監視システム101、浸水モニタ102、防犯カメラ103等)の位置(観測地点数M)と上記単位区域(単位区域数N)の関係(各観測地点での観測データをどのように各単位区域の浸水位に反映するか)を表す観測行列H(M行N列)を作成する。河川監視システム101、浸水モニタ102、防犯カメラ103、あるいはその他の各種観測装置は、その種類や設置環境によって測定誤差の大小が異なる。そこで、各観測装置の誤差の程度を表す観測誤差行列(分散共分散行列)R(M行M列)も作成しておく(ステップS4)。このステップS4までが、事前準備の工程である。
【0033】
次に、実際に河川の氾濫が発生したときに実施する工程について、
図4のフローチャートを参照して説明する。
【0034】
河川監視システム101において河川の氾濫を検知した信号が出力されると、制御部37は、浸水ハザードマッピング用プログラムを実行し、観測データ取得部33、再現浸水データ作成部34、差異データ取得部35、浸水ハザードマップ作成部36、及び表示処理部38の各機能ブロックを動作させる。各部の動作について、動作の順に説明する。尚、自治体の担当者からの連絡や、ソーシャルネットワークサービスで投稿された情報などに基づいて、使用者が入力部40を介して、浸水ハザードマップ作成に必要な情報を入力して実行を開始させることとしてもよい。
【0035】
観測データ取得部33は、起動すると同時に、外部監視システム100の各装置(河川監視システム101、浸水モニタ102、及び防犯カメラ103)から観測信号を取得する。河川監視システム101からは河川の破堤地点を特定する情報を取得する。河川監視システム101による破堤地点の特定が不可能である場合は、使用者に破堤地点の入力を促す。浸水モニタ102及び防犯カメラ103からはそれぞれ映像信号を取得し、予め決められた画像処理を行って各地点の浸水位あるいは浸水深さを求める。このとき、得られたデータが浸水深さである場合には、当該地点の地盤標高を加味した浸水位に変換しておく。こうして、各装置の観測信号から浸水位に統一された観測データが生成される。観測データ取得部33により取得された観測信号と該観測信号から生成された観測データは、観測地点の位置情報と対応付けられ観測データ蓄積部21に保存される(ステップS11)。こうして得られた観測データは観測データ蓄積部21に順次、蓄積される。
【0036】
観測データ取得部33により外部監視システム100の各装置の観測データが保存されると、再現浸水データ作成部34は、河川監視システム101から取得した情報により特定された(あるいは使用者に入力された)破堤地点と一致し、破堤地点以外の条件が異なる複数の浸水シミュレーション結果を浸水シミュレーションデータベース23から読み出す。破堤地点が一致する浸水シミュレーション結果がない場合には、破堤地点が近い浸水シミュレーション結果を読み出す。そして、観測データ蓄積部21から観測地点と観測データの組を読み出し、複数の浸水シミュレーション結果をそれぞれ観測データと比較して、各浸水シミュレーション結果の尤度を求める。
【0037】
本実施例では、次式により尤度が計算される。
【数2】
上式において、x
t(Θ, B
i)は粗度係数Θ、越流量Bの組み合わせiについての浸水シミュレーション結果(氾濫発生時からの経過時間tにおける各単位区域の浸水位)を表した行列(N行1列)、y
tは前記経過時間tに取得された観測データ(M行1列)、Hは観測データを単位区域に対応付ける観測行列(M行N列)である。観測行列Hを浸水シミュレーション結果x
t(Θ
i, B
i)に作用させることにより、浸水シミュレーション結果x
t(Θ
i, B
i)と観測データy
tの比較が可能になる。上式(1)により求められた各浸水シミュレーション結果x
t(Θ
i, B
i)の尤度は、それらの合計が1となるように次式により補正される。次式のCは補正係数である。
【数3】
【0038】
再現浸水データ作成部34は、続いて、複数の浸水シミュレーション結果x
t(Θ
i, B
i)に、それぞれの尤度に応じた(上記補正後の尤度を係数として)重み付けを行い、次式により再現浸水データ(再現浸水位行列
xt。上付き線は使用不可であるため下線で示す。以下も同様。)を作成する(ステップS12。一次推定)。即ち、読み出した複数の浸水シミュレーション結果から10000行1列の行列を生成し、それぞれに重み付けの係数を付して重ね合わせることにより、10000行1列の行列である再現浸水位行列
xtを作成する。また、再現浸水データ作成部34は、再現浸水データの作成に使用した尤度を浸水シミュレーションデータベース23に保存する(ステップS13)。
【数4】
【0039】
再現浸水データが作成されると、差異データ取得部35は、観測データ蓄積部21に保存されている観測データと再現浸水データとの差(観測浸水位行列y
tと、観測行列Hと再現浸水位行列
xtの積の差)を求める(ステップS14)。
【0040】
観測データと再現浸水データの差が求められると、浸水ハザードマップ作成部36は、従来数学的に知られているデータ同化法を用いて推定浸水位データ(推定浸水位行列x^)を作成する(ステップS15。二次推定)。データ同化法としては最適内挿法を好適に用いることができる(例えば特許文献2)。最適内挿法を用いると、次のような行列計算によりステップS14とステップS15を同時に行って推定浸水位行列x^を得ることができる。
【数5】
【0041】
上式において、
xtは再現浸水位行列(ステップS12で得られた、一次推定による再現浸水位。N行1列)、x
t^は推定浸水位行列(本ステップS15で得られる、二次推定による推定浸水位。N行1列)、y
tは観測浸水位行列(M行1列)、Hは観測行列(M行N列)、Pは類似性行列(単位区域間の水理学的な類似性を反映した分散共分散行列。N行N列)、Rは観測誤差行列(M行M列)である。上述のとおり、Nは単位区域の数、Mは外部監視システム100の各装置により得られる観測データの数である。観測誤差行列Rは観測誤差の分散共分散行列であり、その対角成分は各観測の分散σ
0である。また、観測誤差行列Rの非対角成分は0であり、各観測データの誤差の相互の相関はないものとしている。上式(5)は線形カルマンフィルタに含まれる式であり、モデル予測情報の分散共分散行列(類似性行列P)と観測情報の分散共分散行列(観測誤差行列R)が既知である場合の最適内挿法(解析値の誤差分散が最小になるように重み付けを決定するデータ同化手法)である。線形カルマンフィルタでは観測情報に応じて逐次Pを更新するが、本実施例では浸水シミュレーションの結果に基づいて予め求められた類似性行列Pを固定している。
【0042】
上述のとおり、類似性行列Pの成分は、単位区域間の水理学的な類似性を反映したものであり、水理学的な特性が近い単位区域間の非対角要素には大きな値が入力されている。従って、上記の行列計算により、観測地点が位置する単位区域と類似性が高い単位区域にも観測データが反映される(二次推定)。そして、表示処理部38は、推定浸水位行列x^の各要素の値を対応する単位区域の浸水位に反映して浸水ハザードマップを作成し(ステップS16)、氾濫原Aの地図に重畳させて表示部50に表示する(ステップS17)。浸水ハザードマップは、単位区域それぞれを、それぞれの浸水位に応じた表示態様で表示したマップである。例えば、単位区域それぞれを、それぞれの浸水位に応じて異なる透明色で塗りわけ、地図に重ねて表示する。また、後述するように、新たな観測データが取得されて新たな浸水ハザードマップが作成された場合は、新たな観測データの観測地点を示すマーク画像を表示し、新たな観測データによって浸水位が変更された単位区域は、変更されたことが分かるような表示態様で表示する。この表示態様としては、例えば、点滅させる、予め定めた色や模様などを付して表示するなどである。
【0043】
浸水ハザードマップを作成、表示すると、使用者から浸水ハザードマップ作成終了の指示の有無を確認し(ステップS18)、終了指示があった場合(ステップS18でYES)は一連の動作を終了する。浸水ハザードマップ作成終了の指示がない場合は、新たな観測データが取得されているかを確認する(ステップS19)。このとき対象とする観測データは、上述した外部監視システム100の装置で得られたものに限らず、ソーシャルネットワークサービスで投稿された情報やインターネット上の掲示板に記載された情報、あるいは自治体の担当者等が自身の有するスマートフォン等の携帯型端末を用いて現地で取得しデータ処理部10に送信した情報などであってもよい。また、自治体の担当者からの連絡や、ソーシャルネットワークサービスで投稿された情報などに基づいて、使用者が入力部40を介して入力した情報であってもよい。こうして取得される情報はいずれも、適宜の方法により位置情報を有する浸水位(あるいは浸水深さ)の情報に変換されたものである。例えば、スマートフォン等の携帯型端末からこうした情報を取得する際には、全地球測位システムによって得られる該携帯型端末の位置情報を併せて取得する。また、ソーシャルネットワークサービス等に投稿された情報については、位置を特定可能な情報とともに投稿されたものを取得する。また、取得した情報が画像データである場合には、地図データベースに保存されている非浸水時の画像データの比較等により浸水深さを求め、当該地点の地盤標高を加味して浸水深さの情報に変換する。外部監視システム100の装置以外から取得する情報は事前に観測位置を特定することができないため、浸水位等の情報を取得した時点で、該情報とともに取得した位置情報を地図データベース22に保存されている氾濫原Aの地図情報と照合することにより一次的に使用する観測行列H’を作成する。この観測行列H’も上述の観測行列Hと同様に用いる。
【0044】
新たな観測データが取得されると(ステップS19でYES)、ステップS12に戻ってその観測データを反映した新しい再現浸水データを作成する。2度目以降の再現浸水データの作成時には、再現浸水データ作成部34は、浸水シミュレーションデータベース23に保存されている、前回の再現浸水データ作成時に求めた尤度を読み出し、これを更新することにより新たな再現浸水データを作成する。
【0045】
具体的には、最初に再現浸水データ及び浸水ハザードマップを作成した後に新たな観測データが取得されたときである時間t
1において2度目の再現浸水データを作成する場合、時間t
0において初回の再現浸水データを作成したときに求められ、浸水シミュレーションデータベース23に保存されている再現浸水データx
t0の尤度L
t0と、時間t
1に対応する複数の浸水シミュレーションの結果x
t1を組み合わせたものを初期値として時間t
1における再現浸水データx
t1を作成する。また、こうして得られた尤度L
t1も浸水シミュレーションデータベース23に保存され、次回(時間t
2)における再現浸水データの作成に用いられる。再現浸水データの作成後の各ステップは上述の通りであるため説明を省略する。
【0046】
再現浸水データの作成時に求められる尤度には、その時点の観測データの情報が反映される。本実施例のように、2度目以降の再現浸水データの作成時に、先に求められ浸水シミュレーションデータベース23に保存された尤度を利用し、その尤度を逐次更新する構成を採ることにより過去の観測データを反映した尤度を利用して新たな再現浸水データを作成することができる。従って、その都度、全ての観測情報を用いて尤度を計算して再現浸水データを作成するよりも計算時間を短縮することができ、効率よく再現浸水データを得ることができる。
【0047】
上記実施例では、新たな観測データが取得されたタイミングで、その観測データを反映した新しい浸水ハザードマップを作成するように構成されているため、時々刻々と変化する状況を順次反映した浸水ハザードマップを表示部50の画面上で確認することができる。
【0048】
上記実施例のように新たな観測データが取得されたタイミングで浸水ハザードマップを作成する以外の構成を採ることもできる。そのような変形例について、
図5のフローチャートを参照して説明する。なお、ステップS11からステップS17までの各ステップは上記実施例と同じであるため説明を省略する。
【0049】
変形例では、浸水ハザードマップを作成、表示すると、所定時間(例えば1時間)待機し、その時間が経過すると(ステップS28でYES)、次に使用者から浸水ハザードマップ作成終了の指示の有無を確認する(ステップS29)。使用者からの終了指示があった場合(ステップS29でYES)は一連の動作を終了する。
【0050】
一方、使用者からの終了指示がない場合(ステップS29でNO)、ステップS11に戻り、新しい観測データを取得する(ステップS11)。そして、その観測データを用いて新たな再現浸水データを作成する(ステップS12)。以降は上記同様の手順により浸水ハザードマップを作成し、表示部50に表示する。なお、この変形例では、ステップS11に戻った後に、ステップS12において、例えば2度目の再現浸水データを作成する場合の時間t
1は、初回の再現浸水データを作成した時間t
0に上記所定時間(例えば1時間)を加算した時刻となる。
【0051】
尚、
図4で示した実施例と
図5で示した実施例とを組み合わせたものとしてもよい。例えば、浸水ハザードマッピング装置1は、使用者から新しい観測データが入力部40を介して入力される毎に浸水ハザードマップを作成し表示する。この際、前回のハザードマップ作成時点よりも後に外部監視システム100により取得されて観測データ蓄積部21に保存された新たな観測データがある場合は、保存された新たな観測データと、入力された観測データとを用いて再現浸水データ及び浸水ハザードマップを作成し、浸水ハザードマップを表示する。そして、所定時間の間、使用者からの新しい観測データの入力が無かった場合、浸水ハザードマッピング装置1は、この所定時間の間に外部監視システム100により取得されて観測データ蓄積部21に保存された新たな観測データを用いて再現浸水データ及び浸水ハザードマップを作成し、浸水ハザードマップを表示するように構成することができる。
【0052】
以上説明したように、上記実施例の浸水ハザードマッピング方法及び装置では、予め複数の条件で浸水シミュレーションを実行し、その結果に基づいて単位区域間の水理学的な類似性を示す類似性情報(類似性行列P)を取得しておく。また、観測地点と単位区域を対応付ける情報(観測行列H)や観測誤差を表す情報(観測誤差行列R)も作成しておく。実際に河川の氾濫等の水害が起こった時には、まず、複数の浸水シミュレーション結果を組み合わせて観測データを再現する再現浸水位行列
xt(再現浸水データ)を作成する(一次推定)。そして、観測データが取得された単位区域について該観測データと再現浸水データの差異を求め、これを当該単位区域との類似性に応じて他の単位区域にも反映して推定浸水位行列x
t^を作成する(二次推定。最適内挿法を用いたデータ同化)。これにより、観測データを得ることができない単位区域にも水理学的な類似性の高い単位区域で取得した観測データを反映させる。このように、上記実施例では浸水シミュレーション結果から一次推定を行い、実際の観測データを反映して二次推定を行うため、浸水シミュレーションの結果とリアルタイムの観測データが同化され、実際の状況を適確に反映した浸水ハザードマップを得ることができる。
【0053】
また、上記実施例では、実際に水害が生じた時に、時間がかかる浸水シミュレーションを行うのではなく、予め作成された浸水シミュレーションの結果に重み付けを付して重ね合わせることにより再現浸水データを作成し、類似性情報を用いた演算(行列演算)により再現浸水データに観測データとの差異を反映させる。そのため、その都度シミュレーションを行う従来の方法に比べて演算負荷が小さくなり、リアルタイムで現地の浸水状況を反映した浸水ハザードマップを作成することができる。さらに、上記実施例では、実測データを氾濫解析のパラメータにフィードバックするなどの熟練者が行う必要がある工程を含まないため、シミュレーション技術に熟練した者でなくても浸水ハザードマップを作成することができる。
【0054】
以下、上記実施例の浸水ハザードマッピング方法及び装置を用いた実際の浸水ハザードマッピングの例を2例、説明する。
【0055】
まず、仮想的に設定した氾濫原(
図6)について、別のシミュレーションにより予め作成された浸水深さの仮想真値を本実施例の方法で再現することを試みた例(仮想氾濫ケース)について説明する。これは、浸水シミュレーションの重み付き平均で求められる一次推定の結果と、該一次推定に実際の観測データ(仮想観測データ)を反映して同化する二次推定の結果の間にどの程度の差異があるかを確認した例である。ここでは、左方に河川が流れ、河川と平行に2箇所の盛土(
図6(a)の左側中央と中央上部に白抜き矢印で示す箇所)が設けられた氾濫原について、
図6(a)に矢印で示す位置で河川が決壊した場合を想定した。
図6の凡例は浸水深さを示すもの(単位:m)であり、図中の白い表示ほど浸水深さが深いことを示している。
【0056】
このシミュレーションでは計算時間を48時間とした。また、5種類の粗度係数の値Θ(0.0 5m
-1/3s, 0.1 m
-1/3s, 0.2 m
-1/3s, 0.3 m
-1/3s, 0.4 m
-1/3s)、5種類の破堤地点(図の上方から10, 30, 50, 70, 90セル目での破堤を想定)、及び11種類の越流量の値Bを用いて事前計算を行った(
図7参照)。また、(仮想の)観測データは白丸で示す6地点においてのみ得られる設定とした。この仮想シミュレーションにおける真値は、粗度係数:0.1 m
-1/3s、破堤地点:図の上方から30セル目、越流量:時間の経過とともに変化(
図7参照)である。
【0057】
図6(a)は決壊後15時間経過時点での真値(仮想真値)である。
図6(b)は決壊後15時間経過時点での(仮想)観測データから浸水シミュレーション結果を用いて作成した再現浸水データ(一次推定結果)、
図6(c)はこの再現浸水データ(一次推定結果)に(仮想)観測データとの差異を反映(観測データを同化)した推定浸水データ(二次推定結果)である。
図6(b)と
図6(c)の比較から、上述のような二次推定を行うことにより、一次推定よりも真値に近い浸水ハザードマップを作成できることが分かる。また、
図8は
図6中に白三角で示す地点の浸水深さ(推定浸水位から地盤標高を差し引いたもの)の時系列変化を示すグラフである。この時系列変化からも、一次推定結果よりも二次推定結果の方がより(仮想)真値に近い結果を得られることが分かる。
【0058】
図9〜
図11は、2015年9月に実際に起こった鬼怒川の洪水について同様のシミュレーションを行った結果である。
【0059】
このシミュレーションでも計算時間を48時間とした。また、5種類の粗度係数の値Θ(0.05m-
1/3s, 0.1 m
-1/3s, 0.2 m
-1/3s, 0.3 m
-1/3s, 0.4 m
-1/3s)、5種類の破堤地点(図の上方から10, 30, 50, 70, 90セル目での破堤を想定)、及び11種類の越流量の値Bを用いて事前計算を行った(
図10参照)。この例でも、
図9中に白丸で示す地点においてのみ観測データが得られるという想定で一次推定及び二次推定を行った。この例における粗度係数の真値は0.1m
-1/3s、破堤地点は若宮戸(溢水)と三坂(越流)の2箇所であり、越流量は
図10に示すとおり時間に伴って変化している。
【0060】
図9(a)は真値、
図9(b)は一次推定結果、
図9(c)は二次推定結果であり、いずれも洪水発生後20時間経過時点のものである。
図9(b)と
図9(c)の比較からも、二次推定を行うことにより、一次推定よりも真値に近い浸水ハザードマップを作成できることが分かる。
図11は
図9に白三角で示す地点の浸水深さの時系列変化を示すグラフである。この時系列変化からも、一次推定結果よりも二次推定結果の方がより(仮想)真値に近い結果を得られることが分かる。
【0061】
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。
上記実施例では、一次推定及び二次推定に行列演算を用いたが、他の演算処理によりこれら推定を行うようにしてもよい。
また、上記実施例では、浸水モニタ、防犯カメラ等により得られる映像等を処理することにより浸水深さの観測データを取得する構成としたが、観測地点が時間的に変化することも含め、浸水深さ又は浸水位を求めることが可能なものであればこれら以外の構成を用いることもできる。
上記実施例では、類似性情報、観測データ、再現浸水データ等を行列で表し、行列演算により浸水ハザードマップのデータ(推定浸水位行列)を求める構成としたが、行列演算に代えてその他の代数演算を用いることもできる。