(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
配列番号3、4、6、9、12、14、15、20、23、24、29〜33、35、37、38、47、57、60、65〜68、71〜75および77〜80のいずれかで表されるアミノ酸配列からなる、ペプチド。
複数のエピトープペプチドが連結されたポリエピトープペプチドであって、該エピトープペプチドとして、請求項1に記載のペプチドを少なくとも1つ含む、前記ポリエピトープペプチド。
請求項8に記載のT細胞受容体様抗体を作製するための方法であって、ファージディスプレイ法を利用して前記複合体を特異的に認識する前記T細胞受容体様抗体を取得することを含む、前記方法。
請求項1に記載のペプチドとHLAとの複合体を特異的に認識するT細胞受容体を含む人工CTLを作製するための方法であって、前記T細胞受容体をコードする遺伝子をT細胞にin vitroで遺伝子導入することを含む、前記方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明において「エピトープペプチド」とは、MHC(ヒトにおいてはHLA)と結合して、細胞表面に抗原提示され、かつ抗原性を有する(T細胞に認識され得る)ペプチドを意味する。エピトープペプチドには、MHCクラスIと結合して抗原提示され、CD8陽性T細胞に認識されるエピトープペプチドであるCTLエピトープペプチド、およびMHCクラスIIと結合して抗原提示され、CD4陽性T細胞に認識されるエピトープペプチドであるヘルパーエピトープペプチドが含まれる。
【0024】
エピトープペプチドのうち、腫瘍細胞において特異的にあるいは過剰に発現しているタンパク質由来のペプチドを、特に腫瘍抗原ペプチドという。抗原提示とは、細胞内に存在するペプチドがMHCと結合し、このMHC/抗原ペプチド複合体が細胞表面に局在化する現象をいう。上述のとおり、細胞表面に提示された抗原はT細胞などにより認識された後、細胞性免疫や液性免疫を活性化することが知られており、MHCクラスIに提示された抗原は、細胞性免疫を活性化するとともに、ナイーブT細胞のT細胞受容体に認識され、ナイーブT細胞を、細胞傷害活性を有するCTLへと誘導するため、免疫療法に用いられる腫瘍抗原ペプチドとしては、MHCクラスIと結合し、抗原提示されるペプチドが好ましい。
【0025】
本発明において、「腫瘍(tumor)」は、良性腫瘍および悪性腫瘍(がん、悪性新生物)を含む。がん(cancer)は、造血器の腫瘍、上皮性の悪性腫瘍(癌、carcinoma)と非上皮性の悪性腫瘍(肉腫、sarcoma)とを含む。本発明において「がん幹細胞」とは、がん組織中に存在する細胞のうち、幹細胞様の性質を示す細胞のことをいい、がんの発生、再発および転移に関わる原因細胞であると考えられている細胞である。一般的に「がん幹細胞」はがん組織中に僅かしか存在しないため、他の細胞と区別することが困難であるが、当該技術分野においてはがん幹細胞を単離/濃縮する方法は知られており、例えばSP分画法などが挙げられる。したがって本発明において「がん幹細胞」は、公知のがん幹細胞単離/濃縮法により単離/濃縮された細胞集団を意味し得る。
【0026】
(1)本発明のナチュラルペプチドの同定方法
本発明は一側面において、実際に細胞表面に抗原提示されているナチュラルペプチドを単離/同定する方法に関する。
本発明において、「ナチュラルペプチド」は、実際に細胞表面に抗原提示されているペプチドのことをいう。また「ナチュラル抗原ペプチド」は、ナチュラルペプチドのうち抗原性が確認できたものをいう。このナチュラル抗原ペプチドをがん細胞から単離し、配列およびその由来を決定することにより、CTLを用いたがんの標的治療に有用な知見を得ることが可能である。
【0027】
本方法は、ナチュラルペプチドを提示している細胞を溶解し、その溶解物(ライセート)からMHCとナチュラルペプチドとの複合体を単離する工程を含む。
本方法に用いる細胞は、ナチュラルペプチドを提示する細胞、すなわちMHCを発現する細胞であればとくに限定されないが、好ましくは腫瘍細胞、より好ましくはがん組織由来の腫瘍細胞、さらに好ましくはがん幹細胞である。とくにがん幹細胞を用いた場合、実際にがん幹細胞に抗原提示されているナチュラル抗原ペプチドを同定できるため、確実にがん幹細胞を標的とするCTLを誘導可能な腫瘍抗原ペプチドを得ることが可能となり、非常に有用である。
【0028】
MHCとナチュラルペプチドとの複合体を単離する方法としては、とくに限定されず、当該技術分野において公知のタンパク質単離法を用いることができる。具体的には、これに限定するものではないが、細胞内に豊富に存在するペプチドのうちMHCに結合したペプチドのみを選択する必要があることから、MHCに対する特異抗体を用いた免疫沈降法によるペプチド/MHC複合体の抽出法が好ましい。
適切な抗MHC抗体は、用いた細胞などにより変化し得、当業者であれば目的や実験条件に応じて最適なものを選択し得る。具体的には例えば、ヒトの細胞を用いた場合、抗MHC抗体としては抗HLA抗体を用いる。抗HLA抗体としては、これに限定するものではないが、例えば抗HLA−A02抗体、抗HLA−A24抗体などの、HLAクラスIに対する抗体が挙げられる。
【0029】
本方法は、上記MHCとナチュラルペプチドとの複合体から、ナチュラルペプチドを単離する工程をさらに含む。複合体をMHC分子とナチュラルペプチドとに分離する方法は、ナチュラルペプチドの構造を変化させるものでなければ特に限定されず、当業者であれば適切な方法を選択することが可能である。具体的には、これに限定するものではないが、例えば弱酸を用いたペプチド単離が挙げられる。
【0030】
さらに本方法は、上記単離ナチュラルペプチドの配列を解析する工程を含む。短鎖ペプチドの配列を解析する方法は当該技術分野において公知であり、当業者であれば適切な方法を選択することが可能である。具体的には、これに限定するものではないが、例えば液体クロマトグラフィーとタンデムマススペクトロメトリーを組み合わせたペプチド配列解析法が挙げられる。
以上の工程により、実際に細胞表面に抗原提示されているナチュラルペプチドを同定することができる。
【0031】
本発明の好ましい一態様において、ナチュラルペプチドの抗原性を確認する工程をさらに含む。ペプチドの抗原性を確認する方法は、当該技術分野において公知であり、当業者であれば適切な方法を選択することが可能である。具体的には、これに限定するものではないが、例えば細胞傷害性試験、ELISPOTアッセイ、TCR様抗体を用いたアッセイなどが挙げられる。ペプチドの抗原性の確認は、好ましくはナチュラルペプチドの配列が同定された後に行われるが、同定される前に行われてもよいし、ナチュラルペプチドの同定とは独立して行われてもよい。本発明の方法により同定されたナチュラルペプチドに対して、かかる工程によりさらに抗原性の確認を行うことで、前記ナチュラルペプチドをナチュラル抗原ペプチドとして同定することができる。
【0032】
本発明者らは、上記方法により、ヒトがん幹細胞において抗原提示されているナチュラル抗原ペプチドを解析した。その結果、がん幹細胞において抗原提示されているナチュラル抗原ペプチドとして、FAM83Bタンパク質に由来するペプチド(配列番号3)が同定された。かかる知見をもとにさらに研究を進めた結果、FAM83B遺伝子ががん幹細胞において特異的に高発現しており、がん幹細胞に対する分子標的治療の有用な候補遺伝子であることを見出した。FAM83Bが腫瘍抗原であること、更にはFAM83B由来のペプチドが腫瘍細胞表面にHLAクラスI抗原と結合して複合体を形成し、細胞表面に運ばれて抗原提示されていることは、これまで全く知られていなかった新たな知見である。
【0033】
(2)本発明のペプチド
本明細書において、「ヒトFAM83Bタンパク質」は、J Proteome Res. 2012;11:982-94やJ Clin Invest. 2012;122:3197-210で報告されている公知のタンパク質を意味し、具体的には配列番号2に記載のアミノ酸配列(Genbank Accession No: NP_001010872.1)で表されるタンパク質、およびそのホモログをいう。当該ホモログとしては、例えばスプライシングバリアント、個体差に基づくSNP等のバリアント等が挙げられる。具体的には、(1)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質、(2)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1又は複数、好ましくは1〜数個、更に好ましくは、1〜10個、1〜5個、1〜3個、1もしくは2個のアミノ酸が置換、欠失、付加または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。そのようなバリアントとして、配列番号2において第640番目のアミノ酸がスレオニン(T)に置換され、第907番目のアミノ酸配列がアスパラギン(N)に置換されたアミノ酸配列からなるGenbank Accession No.:BC112275のタンパク質等を例示することができる。本明細書において単に「FAM83Bタンパク質」といった場合は、別段の記載のない限り、ヒトFAM83Bタンパク質を意味する。
【0034】
ヒトFAM83Bタンパク質として、好ましくは配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、又は前記タンパク質において、1〜3個、好ましくは1もしくは2個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質を挙げることができる。さらに好ましくは配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質を挙げることができる。
本発明のペプチドは、一態様において、ヒトFAM83Bタンパク質の部分ペプチドであって、MHC、特にHLAと結合するペプチド、好ましくはMHC、特にHLAにより抗原提示されるペプチド、さらに好ましくはMHC、特にHLAにより抗原提示されてCTLを誘導可能なペプチドを含む。HLAにはいくつかの型が存在するが、本発明のペプチドは、好ましくはHLAクラスIに結合可能であり、より好ましくはHLA−A02またはHLA−A24に結合可能であり、さらに好ましくはHLA−A02およびHLA−A24の両方に結合可能である。本発明のペプチドは、MHCに結合する前にプロセシングなどの処理を経てもよく、それらの処理の結果エピトープペプチドを生成するようなペプチドも本発明のペプチドに含まれる。したがって、本発明のペプチドは、エピトープペプチドのアミノ酸配列を含む配列であれば、アミノ酸長は特に限定されない。しかしながら、本発明のペプチドそのものがエピトープペプチドであることが好ましく、したがってアミノ酸長は約8〜14アミノ酸程度が好ましく、約8〜11アミノ酸程度がより好ましく、約9〜約11アミノ酸程度が特に好ましい。
【0035】
ヒトのMHCクラスIであるHLAクラスIと結合するエピトープペプチドは、約8〜14アミノ酸長、好ましくは約9〜11アミノ酸長であり、その配列中に結合するHLA特有の結合モチーフを有することが知られている。例えばHLA−A02と結合するペプチドは、N末端から2番目のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはメチオニンであり、および/またはC末端のアミノ酸がバリン、ロイシンもしくはイソロイシンであるという結合モチーフを有し、HLA−A24と結合するペプチドは、N末端から2番目のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンもしくはトリプトファンであり、および/またはC末端のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはフェニルアラニンであるという結合モチーフを有する。
【0036】
したがって本発明のペプチドは、好ましい一態様において、FAM83Bタンパク質の部分ペプチドであって、該タンパク質のアミノ酸配列中の連続する8〜14アミノ酸からなり、N末端から第2番目のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはメチオニンであり、および/または、C末端のアミノ酸がバリン、ロイシンもしくはイソロイシンであるペプチドであるエピトープペプチドを含み、より好ましくは該エピトープペプチドそのものである。中でも特に好ましいのは、配列番号8、27〜58、60、71および81のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるエピトープペプチドである。
【0037】
また、別の好ましい一態様において、前記部分ペプチドにおいて、N末端から第2番目のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはメチオニンに置換されており、および/または、C末端のアミノ酸がバリン、ロイシンもしくはイソロイシンに置換されているペプチドであるエピトープペプチドを含み、より好ましくは該エピトープペプチドそのものである。中でも特に好ましいのは、配列番号8、27〜58、60、71および81のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチドにおいて、N末端から第2番目のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはメチオニンに置換されており、および/または、C末端のアミノ酸がバリン、ロイシンもしくはイソロイシンに置換されているエピトープペプチドである。
【0038】
本発明のペプチドは、別の好ましい一態様において、FAM83Bタンパク質の部分ペプチドであって、該タンパク質のアミノ酸配列中の連続する8〜14アミノ酸からなり、N末端から第2番目のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンもしくはトリプトファンであり、および/または、C末端のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはフェニルアラニンであるペプチドであるエピトープペプチドを含み、より好ましくは該エピトープペプチドそのものである。中でも特に好ましいのは、配列番号3〜26、53、58、67および78のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるエピトープペプチドである。
【0039】
また、別の好ましい一態様において、前記部分ペプチドにおいて、N末端から第2番目のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンもしくはトリプトファンに置換されており、および/または、C末端のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはフェニルアラニンに置換されているペプチドであるエピトープペプチドを含み、より好ましくは該エピトープペプチドそのものである。中でも特に好ましいのは、配列番号3〜26、53、58、67および78のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチドにおいて、N末端から第2番目のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンもしくはトリプトファンに置換されており、および/または、C末端のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはフェニルアラニンに置換されているエピトープペプチドである。
【0040】
本発明のペプチドは、別の好ましい一態様において、上記の部分ペプチドまたは置換された部分ペプチドにおいて、さらにN末端および/またはC末端に1個から数個のアミノ酸が付加されたペプチドである。
中でも特に好ましいのは、配列番号8、27〜58、60、71および81のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド、該ペプチドにおいてN末端から第2番目のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはメチオニンに置換されており、および/または、C末端のアミノ酸がバリン、ロイシンもしくはイソロイシンに置換されているペプチド、配列番号3〜26、53、58、67および78のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチドあるいは該ペプチドにおいてN末端から第2番目のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンもしくはトリプトファンに置換されており、および/または、C末端のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはフェニルアラニンに置換されているペプチドにおいて、さらにN末端および/またはC末端に1個から数個のアミノ酸が付加されたペプチドである。
【0041】
したがって、本発明のペプチドは一態様において、
Y
0−X
0−Z
0
と表すことが可能である。ここで、X
0、Y
0およびZ
0はいずれもペプチドである。
かかる態様において、X
0は以下の(1)〜(4):
(1)FAM83Bタンパク質の部分ペプチドであって、該タンパク質のアミノ酸配列中の連続する8〜14アミノ酸、好ましくは8〜11アミノ酸からなり、N末端から第2番目のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはメチオニンであり、および/または、C末端のアミノ酸がバリン、ロイシンもしくはイソロイシンであるペプチド;
(2)(1)の部分ペプチドにおいて、N末端から第2番目のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはメチオニンに置換されており、および/または、C末端のアミノ酸がバリン、ロイシンもしくはイソロイシンに置換されているペプチド;
(3)FAM83Bタンパク質の部分ペプチドであって、該タンパク質のアミノ酸配列中の連続する8〜14アミノ酸、好ましくは8〜11アミノ酸からなり、N末端から第2番目のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンもしくはトリプトファンであり、および/または、C末端のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはフェニルアラニンであるペプチド;または
(4)(3)の部分ペプチドにおいて、N末端から第2番目のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンもしくはトリプトファンに置換されており、および/または、C末端のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはフェニルアラニンに置換されているペプチド;
から選択されるペプチドである。ここで(2)は(1)の置換ホモログであり、(4)は(3)の置換ホモログであるため、X
0が(2)または(4)のペプチドであるY
0−X
0−Z
0を特に、「X
0ホモログ」という。
【0042】
また、Y
0およびZ
0は、互いに独立して、0から数個のアミノ酸からなる任意のペプチドである。ここで、「0から数個のアミノ酸」は、具体的には0〜5個のアミノ酸を意味し、例えば0個、1個、2個、3個、4個あるいは5個のアミノ酸が挙げられ、更に好ましくは、0個、1個、2個もしくは3個のアミノ酸が挙げられ、特に好ましいのは0個もしくは1個である。本発明において、Y
0および/またはZ
0が「存在しない」という場合、Y
0および/またはZ
0が0個のアミノ酸からなるペプチドである場合を意味する。
ここでY
0および/またはZ
0を構成するアミノ酸には特に限定が無く、タンパク質を構成する天然アミノ酸20種類の任意のものが挙げられるが、好ましくは、生体内に存在する酵素によって切断され得るアミノ酸を挙げることができる。また、FAM83Bタンパク質のアミノ酸配列において前記部分ペプチドのN末端側および/またはC末端側のアミノ酸配列に相当するアミノ酸配列であることが望ましい。
【0043】
したがって中でもさらに特に好ましいのは、X
0が配列番号8、27〜58、60、71および81のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド、該ペプチドにおいてN末端から第2番目のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはメチオニンに置換されており、および/または、C末端のアミノ酸がバリン、ロイシンもしくはイソロイシンに置換されているペプチド、配列番号3〜26、53、58、78および80のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド、あるいは該ペプチドにおいてN末端から第2番目のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンもしくはトリプトファンに置換されており、および/または、C末端のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはフェニルアラニンに置換されているペプチドのいずれかであり、さらにY
0および/またはZ
0が1個のアミノ酸である場合であり、さらに好ましくは、Y
0またはZ
0のいずれか一方が1個のアミノ酸であり、もう一方が存在しない場合である。
【0044】
また、別の好ましい一態様において、X
0が、8〜11アミノ酸からなる上記(1)〜(4)のいずれかであり、Y
0および/またはZ
0が、互いに独立して0〜3個のアミノ酸からなるペプチドであり、Y
0−X
0−Z
0が全体で9〜14アミノ酸長であるFAM83Bタンパク質の部分ペプチドをまたはそのX
0ホモログを構成する場合が挙げられる。かかる態様は、これに限定するものではないが、例えばX
0が配列番号3〜58、60、65、66、69〜78および80〜85のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するペプチドであって、かかるX
0のN末端側および/またはC末端側に0~3個のアミノ酸からなるペプチドY
0および/またはZ
0が付加されているが、かかるY
0−X
0−Z
0もまたFAM83Bタンパク質の部分ペプチドとなる場合が挙げられる。
【0045】
本発明のペプチドは、好ましい一態様において、X
0が、配列番号4、配列番号6、配列番号9、配列番号12、配列番号14、配列番号15、配列番号20、配列番号23、配列番号24、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号38、配列番号47、配列番号57、配列番号60、配列番号65、配列番号66、配列番号71、配列番号72、配列番号73、配列番号74、配列番号75、配列番号77、配列番号78および配列番号80のいずれかに記載のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列からなるペプチドを含む。この態様において、より好ましくは、本発明のペプチド(すなわちY
0−X
0−Z
0)がいずれも上記FAM83Bタンパク質の部分ペプチドとなる。かかるより好ましい態様において、例えば本発明のペプチドは、配列番号4、配列番号6、配列番号9、配列番号12、配列番号14、配列番号15、配列番号20、配列番号23、配列番号24、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号38、配列番号47、配列番号57、配列番号60、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号71、配列番号72、配列番号73、配列番号74、配列番号75、配列番号77、配列番号78、配列番号79および配列番号80のいずれかに記載のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列からなるペプチドである。
【0046】
配列番号4、配列番号6、配列番号9、配列番号12、配列番号14、配列番号15、配列番号20、配列番号23、配列番号24、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号38、配列番号47、配列番号57、配列番号60、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号71、配列番号72、配列番号73、配列番号74、配列番号75、配列番号77、配列番号78、配列番号79および配列番号80で表されるペプチドはそれぞれ、上記FAM83Bのアミノ酸位置23〜32の10アミノ酸、107〜116の10アミノ酸、176〜185の10アミノ酸、245〜255の11アミノ酸、276〜286の11アミノ酸、305〜313の9アミノ酸、475〜484の10アミノ酸、939〜947の9アミノ酸、971〜979の9アミノ酸、55〜65の11アミノ酸、63〜71の9アミノ酸、86〜95の10アミノ酸、103〜111の9アミノ酸、114〜124の11アミノ酸、131〜139の9アミノ酸、151〜160の10アミノ酸、179〜189の11アミノ酸、476〜484の9アミノ酸、799〜808の10アミノ酸、256〜266の11アミノ酸、62〜71の10アミノ酸、148〜156の9アミノ酸、239〜250の12アミノ酸、305〜316の12アミノ酸、55〜64の10アミノ酸、231〜240の10アミノ酸、257〜266の10アミノ酸、18〜27の10アミノ酸、47〜56の10アミノ酸、149〜158の10アミノ酸、153〜163の11アミノ酸、238〜250の13アミノ酸および239〜248の10アミノ酸からなるペプチドであり、いずれのペプチドも、HLA−A02および/またはHLA−A24と結合可能であり、かつCTL誘導能を有することが本発明者らにより見出されたものである。
【0047】
さらに好ましい一態様において、X
0が配列番号4、配列番号15、配列番号20、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号38、配列番号47、配列番号57、配列番号60、配列番号65、配列番号66、配列番号71、配列番号72、配列番号73および配列番号80に記載のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列からなるペプチドを含む。この態様において、より好ましくは、本発明のペプチド(すなわちY
0−X
0−Z
0)がいずれも上記FAM83Bタンパク質の部分ペプチドとなる。かかるより好ましい態様において、例えば本発明のペプチドは、配列番号4、配列番号20、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号38、配列番号47、配列番号57、配列番号60、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号71、配列番号72および配列番号73に記載のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列からなるペプチドである。
【0048】
配列番号4、配列番号20、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号38、配列番号47、配列番号57、配列番号60、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号71、配列番号72および配列番号73で表されるペプチドはそれぞれ、上記FAM83Bのアミノ酸位置23〜32の10アミノ酸、475〜484の10アミノ酸、55〜65の11アミノ酸、63〜71の9アミノ酸、86〜95の10アミノ酸、103〜111の9アミノ酸、114〜124の11アミノ酸、131〜139の9アミノ酸、151〜160の10アミノ酸、179〜189の11アミノ酸、476〜484の9アミノ酸、799〜808の10アミノ酸、256〜266の11アミノ酸、62〜71の10アミノ酸、148〜156の9アミノ酸、239〜250の12アミノ酸、305〜316の12アミノ酸、55〜64の10アミノ酸、231〜240の10アミノ酸および257〜266の10アミノ酸からなるペプチドであり、いずれのペプチドも、HLA−A02と結合可能であり、かつCTL誘導能を有することが本発明者らにより見出されたものである。
【0049】
別のさらに好ましい一態様において、X
0が、配列番号4、配列番号6、配列番号9、配列番号12、配列番号14、配列番号15、配列番号20、配列番号23、配列番号24、配列番号47、配列番号65、配列番号66、配列番号74、配列番号75、配列番号77、配列番号78および配列番号80に記載のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列からなるペプチドを含む。この態様において、より好ましくは、本発明のペプチド(すなわちY
0−X
0−Z
0)がいずれも上記FAM83Bタンパク質の部分ペプチドとなる。かかるより好ましい態様において、例えば本発明のペプチドは、配列番号4、配列番号6、配列番号9、配列番号12、配列番号14、配列番号15、配列番号20、配列番号23、配列番号24、配列番号47、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号74、配列番号75、配列番号77、配列番号78、配列番号79および配列番号80に記載のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列からなるペプチドである。
【0050】
配列番号4、配列番号6、配列番号9、配列番号12、配列番号14、配列番号15、配列番号20、配列番号23、配列番号24、配列番号47、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号74、配列番号75、配列番号77、配列番号78、配列番号79および配列番号80で表されるペプチドはそれぞれ、上記FAM83Bのアミノ酸位置23〜32の10アミノ酸、107〜116の10アミノ酸、176〜185の10アミノ酸、245〜255の11アミノ酸、276〜286の11アミノ酸、305〜313の9アミノ酸、475〜484の10アミノ酸、939〜947の9アミノ酸、971〜979の9アミノ酸、476〜484の9アミノ酸、62〜71の10アミノ酸、148〜156の9アミノ酸、239〜250の12アミノ酸、305〜316の12アミノ酸、18〜27の10アミノ酸、47〜56の10アミノ酸、149〜158の10アミノ酸、153〜163の11アミノ酸、238〜250の13アミノ酸および239〜248の10アミノ酸からなるペプチドであり、いずれのペプチドも、HLA−A024と結合可能であり、かつCTL誘導能を有することが本発明者らにより見出されたものである。
【0051】
また、別の好ましい一態様において、X
0が、配列番号4、配列番号15、配列番号20、配列番号47、配列番号65、配列番号66および配列番号80に記載のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列からなるペプチドを含む。この態様において、より好ましくは、本発明のペプチド(すなわちY
0−X
0−Z
0)がいずれも上記FAM83Bタンパク質の部分ペプチドとなる。かかるより好ましい態様において、例えば本発明のペプチドは、配列番号4、配列番号20、配列番号47、配列番号65、配列番号66、配列番号67および配列番号68に記載のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列からなるペプチドである。
【0052】
配列番号4、配列番号20、配列番号47、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68で表されるペプチドはそれぞれ、上記FAM83Bのアミノ酸位置23〜32の10アミノ酸、475〜484の10アミノ酸、476〜484の9アミノ酸、62〜71の10アミノ酸、148〜156の9アミノ酸、239〜250の12アミノ酸、305〜316の12アミノ酸からなるペプチドであり、いずれのペプチドも、HLA−A02およびHLA−A24の両方と結合可能であり、かつCTL誘導能を有することが本発明者らにより見出されたものである。
【0053】
本発明のペプチドは、そのN末端および/またはC末端が修飾されていてもよい。当該修飾として具体的には、N−アルカノイル化(例えば、アセチル化)、N−アルキル化(例えば、メチル化)、C末端アルキルエステル(例えば、エチルエステル)、およびC末端アミド(例えばカルボキサミド)等が挙げられる。
本発明のペプチドの合成については、通常のペプチド化学において用いられる既知の方法に準じて行うことができる。かかる既知の方法としては文献(Peptide Synthesis,Interscience,New York,1966; The Proteins,Vol 2,Academic Press Inc.,New York,1976;ペプチド合成,丸善(株),1975;ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株),1985;医薬品の開発 続 第14巻・ペプチド合成,広川書店,1991、これらの文献は引用により本願の一部を構成する)などに記載されている方法が挙げられる。
【0054】
本発明のペプチドは、後述するCTL誘導方法や、ヒトモデル動物を用いたアッセイ(WO02/47474号公報、Int J. Cancer:100,565-570 (2002))等に供することにより、in vivoでの活性を確認することができる。
【0055】
本発明のペプチドには、さらに、前記本発明のペプチドを少なくとも1つ含む複数のエピトープペプチドを連結したペプチド(ポリエピトープペプチド)も含まれる。したがって、該ポリエピトープペプチドであって、CTL誘導活性を有するペプチドも、本発明のペプチドの具体例として例示することができる。
本発明のポリエピトープペプチドは、具体的には、
(i)本発明のペプチド(エピトープペプチド)および任意の本発明のペプチド以外の1または2以上のCTLエピトープペプチドを直接、または適宜スペーサーを介して連結したペプチド、
(ii)本発明のペプチドおよび任意の1または2以上のヘルパーエピトープペプチドを直接、または適宜スペーサーを介して連結したペプチド、若しくは、
(iii)上記(i)に記載のポリエピトープペプチドに、さらに1または2以上ヘルパーエピトープペプチドを、直接、または適宜スペーサーを介して連結したペプチド
であって、抗原提示細胞内にてプロセッシングを受け、生じたエピトープペプチドが抗原提示細胞に提示され、CTL誘導活性を導くペプチドとして定義され得る。
【0056】
ここで、(i)における本発明のペプチド以外のCTLエピトープペプチドとしては特に限定はないが、具体的には、例えば本発明に含まれない他のヒトFAM83B由来のエピトープペプチドや、ヒトOR7C1、ヒトDNAJB8由来のエピトープペプチド(例えば、国際公開パンフレット:WO2010/050190に記載されたペプチド)などが挙げられる。
スペーサーとしては、抗原提示細胞内におけるプロセッシングに悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されず、好ましくはそれぞれのエピトープペプチドとペプチド結合で連結されるリンカーであり、例えばいくつかのアミノ酸が連結したペプチドリンカーや、両端にアミノ基およびカルボキシル基を有するリンカーなどが挙げられる。具体的にはグリシンリンカーやPEG(ポリエチレングリコール)リンカーなどが挙げられ、グリシンリンカーとしてはポリグリシン(例えばグリシン6個からなるペプチド;Cancer Sci, vol.103, p150-153)が挙げられ、PEGリンカーとしては、PEGの両端にアミノ基およびカルボキシ基を有する化合物由来のリンカーが挙げられる(例えば、H
2N−(CH
2)
2−(OCH
2CH
2)
3−COOH;Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 7551-7556)。
【0057】
本発明のポリエピトープペプチドに含まれる本発明のエピトープペプチドは、1種または2種以上が選択されてよい。すなわち、同一のエピトープペプチドが複数個連結されていてもよいし、複数の異なるエピトープペプチドが連結されたものであってもよい。当然ながら、2種以上のエピトープペプチドが選択される場合であっても、選択されたエピトープペプチドのうちの1種または2種以上が複数個連結されてもよい。本発明のペプチド以外のエピトープペプチドについても、同様に複数種および/または複数個のエピトープペプチドが連結されてよい。本発明のポリエピトープペプチドは、2〜12個のエピトープペプチドが連結されたものであってよく、好ましくは2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個のエピトープペプチドが連結されており、最も好ましくは2個のエピトープペプチドが連結されている。
ここで、本発明のペプチドに連結させるエピトープペプチドがヘルパーエピトープペプチドの場合、用いられるヘルパーエピトープペプチドとしては、例えばB型肝炎ウイルス由来のHBVc128−140や破傷風毒素由来のTT947−967などが挙げられる。また当該ヘルパーエピトープペプチドの長さとしては、13〜30アミノ酸程度、好ましくは13〜17アミノ酸程度を挙げることができる。
【0058】
このような複数のエピトープペプチドを連結させたペプチド(ポリエピトープペプチド)もまた、前述のように一般的なペプチド合成法によって製造することができる。またこれら複数のエピトープペプチドを連結させたポリエピトープペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列情報に基づいて、通常のDNA合成および遺伝子工学的手法を用いて製造することもできる。
すなわち、当該ポリヌクレオチドを周知の発現ベクターに挿入し、得られた組換え発現ベクターで宿主細胞を形質転換して作製された形質転換体を培養し、培養物より目的の複数のエピトープを連結させたポリエピトープペプチドを回収することにより製造することができる。これらの手法は、前述のように文献(Molecular Cloning, T.Maniatis et al., CSH Laboratory(1983)、DNA Cloning, DM.Glover, IRL PRESS(1985))に記載の方法などに準じて行うことができる。
【0059】
以上のようにして製造された複数のエピトープペプチドを連結させたポリエピトープペプチドを、前述のin vitroアッセイや、WO02/47474号公報およびInt J. Cancer:100,565-570 (2002)(これらの文献は引用により本願の一部を構成する)に記述のヒトモデル動物を用いたin vivoアッセイに供すること等によりCTL誘導活性を確認することができる。
本発明のペプチド(ポリエピトープペプチドを含む)は、本明細書に記載のとおり、がんの予防および/または治療などに有用であり、医薬組成物の有効成分とすることができる。また、本発明のペプチドは、がんの予防および/または治療のためのものであってもよい。さらに、本発明は、がんの予防および/または治療のための医薬の製造への本発明のペプチドの使用にも関する。
【0060】
(3)本発明のポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは、前記本発明のペプチドを少なくとも1つコードするポリヌクレオチドを含む。本発明のポリヌクレオチドは、cDNAやmRNA、cRNA、または合成DNAのいずれであってもよい。また1本鎖、2本鎖のいずれの形態であってもよい。具体的には、これに限定するものではないが例えば配列番号3〜85に記載のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、および配列番号3〜85から選択される任意の2以上のペプチド、または配列番号3〜85から選択されるペプチドおよびヘルパーエピトープを連結させたポリエピトープペプチドを、それぞれ発現可能なようにコードするヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドなどが挙げられる。
【0061】
本発明のポリヌクレオチドは、1本鎖および2本鎖のいずれの形態もとることができる。本発明のポリヌクレオチドが2本鎖の場合、前記本発明のポリヌクレオチドを発現ベクターに挿入することにより、本発明のペプチドを発現するための組換え発現ベクターを作製することができる。すなわち本発明のポリヌクレオチドの範疇には、本発明の2本鎖型ポリヌクレオチドを発現ベクターに挿入して作製された組換え発現ベクターも含まれる。
本発明のポリヌクレオチドは、本明細書に記載のとおり、がんの予防および/または治療などに有用であり、医薬組成物の有効成分とすることができる。また、本発明のポリヌクレオチドは、がんの予防および/または治療のためのものであってもよい。さらに、本発明は、がんの予防および/または治療のための医薬の製造への本発明のポリヌクレオチドの使用にも関する。
【0062】
本発明で用いる発現ベクターは、用いる宿主や目的等に応じて様々なものを用いることができ、当業者であれば適宜選択することができる。本発明で用い得る発現ベクターとしては、例えばプラスミド、ファージベクター、ウイルスベクター等が挙げられる。例えば、宿主が大腸菌の場合、ベクターとしては、pUC118、pUC119、pBR322、pCR3等のプラスミドベクター、λZAPII、λgt11などのファージベクターが挙げられる。宿主が酵母の場合、ベクターとしては、pYES2、pYEUra3などが挙げられる。宿主が昆虫細胞の場合には、pAcSGHisNT−Aなどが挙げられる。宿主が動物細胞の場合には、pCEP4、pKCR、pCDM8、pGL2、pcDNA3.1、pRc/RSV、pRc/CMVなどのプラスミドベクターや、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクターなどのウイルスベクターが挙げられる。
【0063】
前記ベクターは、発現誘導可能なプロモーター、シグナル配列をコードする遺伝子、選択用マーカー遺伝子、ターミネーターなどの因子を適宜有していてもよい。また、単離精製が容易になるように、チオレドキシン、Hisタグ、あるいはGST(グルタチオンS−トランスフェラーゼ)等との融合タンパク質として発現する配列が付加されていてもよい。この場合、宿主細胞内で機能する適切なプロモーター(lac、tac、trc、trp、CMV、SV40初期プロモーターなど)を有するGST融合タンパク質ベクター(pGEX4Tなど)や、Myc、Hisなどのタグ配列を有するベクター(pcDNA3.1/Myc−Hisなど)、さらにはチオレドキシンおよびHisタグとの融合タンパク質を発現するベクター(pET32a)などを用いることができる。
【0064】
前記で作製された発現ベクターで宿主を形質転換することにより、当該発現ベクターを含有する形質転換細胞を作製することができる。したがって、本発明には、前記発現ベクターを含む遺伝子導入用組成物が包含される。
形質転換に用いられる宿主としては、本発明のポリペプチドが有する機能を損なわない限りいかなる細胞を用いてもよく、例えば大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞などが挙げられる。大腸菌としては、E.coli K−12系統のHB101株、C600株、JM109株、DH5α株、AD494(DE3)株などが挙げられる。また酵母としては、Saccharomyces cerevisiaeなどが挙げられる。動物細胞としては、L929細胞、BALB/c3T3細胞、C127細胞、CHO細胞、COS細胞、Vero細胞、HeLa細胞、293−EBNA細胞などが挙げられる。昆虫細胞としてはsf9などが挙げられる。
宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、前記宿主細胞に適合した通常の導入方法を用いればよい。具体的にはリン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン法、エレクトロポレーション法、遺伝子導入用リピッド(Lipofectamine、Lipofectin; Gibco-BRL社)を用いる方法などが挙げられる。導入後、選択マーカーを含む通常の培地にて培養することにより、前記発現ベクターが宿主細胞中に導入された形質転換細胞を選択することができる。
【0065】
以上のようにして得られた形質転換細胞を好適な条件下で培養し続けることにより、本発明のペプチドを製造することができる。得られたペプチドは、一般的な生化学的精製手段により、さらに単離・精製することができる。ここで精製手段としては、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー等が挙げられる。また本発明のペプチドを、前述のチオレドキシンやHisタグ、GST等との融合タンパク質として発現させた場合は、これら融合タンパク質やタグの性質を利用した精製法により単離・精製することができる。
本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドは、DNAの形態であってもRNAの形態であっても良い。これら本発明のポリヌクレオチドは、本発明のペプチドのアミノ酸配列情報およびそれによりコードされるDNAの配列情報に基づき、当該技術分野において知られた通常の方法を用いて容易に製造することができる。具体的には、通常のDNA合成やPCRによる増幅などによって、製造することができる。
本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドは、前記エピトープペプチドをコードするポリヌクレオチドを包含する。
【0066】
(4)本発明のペプチドを有効成分とするCTL誘導剤/医薬組成物
本発明のペプチドはCTL誘導活性を有し、腫瘍抗原ペプチドとして、CTL誘導剤となり得る。また上述のとおり、本発明者らによりFAM83Bタンパク質が腫瘍抗原であること、FAM83Bタンパク質由来のペプチドが腫瘍細胞表面にHLAクラスI抗原と結合して複合体を形成し、細胞表面に運ばれて抗原提示されていることが初めて見出された。したがって、FAM83Bタンパク質そのものもまたCTL誘導剤となり得る。
すなわち、HLA−A02抗原またはHLA−A24抗原が陽性のヒトから末梢血リンパ球を単離し、in vitroで本発明のペプチドおよび/またはFAM83Bタンパク質を添加して刺激することにより、該ペプチドをパルスしたHLA−A02抗原陽性細胞、またはHLA−A24抗原陽性細胞を特異的に認識するCTLを誘導することができる(J.Immunol.,154,p2257,1995)。ここでCTLの誘導の有無は、例えば、抗原ペプチド提示細胞に反応してCTLが産生する種々のサイトカイン(例えばIFN−γ)の量を、例えばELISA法などによって測定することにより、確認することができる。また
51Crで標識した抗原ペプチド提示細胞に対するCTLの傷害性を測定する方法(
51Crリリースアッセイ、Int.J.Cancer,58:p317,1994)によっても確認することができる。
また、Int. J. Cancer, 39, 390-396, 1987、N. Eng. J. Med, 333, 1038-1044, 1995等に記載の方法により、CTLクローンを樹立することもできる。
【0067】
本発明のペプチドおよび/またはFAM83Bタンパク質によって誘導されたCTLは、本発明のペプチドおよび/または他のFAM83Bタンパク質由来のエピトープペプチドを抗原として提示する細胞に対する傷害作用やリンフォカインの産生能を有する。本発明のペプチドは上述のとおり腫瘍抗原ペプチドであり、またFAM83Bタンパク質は細胞内で分解されて腫瘍抗原ペプチドを生じるため、それら機能を介して抗腫瘍作用、好ましくは抗がん作用を発揮することができる。したがって本発明のペプチドおよび/またはFAM83Bタンパク質ならびにそれにより誘導されたCTLは、がんの予防および/または治療のための医薬や医薬組成物の有効成分とすることができる。
本発明のペプチドおよび/またはFAM83Bタンパク質を有効成分として含有するCTL誘導剤をがん患者に投与すると、抗原提示細胞のHLA−A02抗原またはHLA−A24抗原に本発明のペプチドおよび/またはFAM83Bタンパク質由来のエピトープペプチドが提示され、HLA−A02抗原またはHLA−A24抗原と提示されたペプチドとの結合複合体特異的CTLが増殖してがん細胞を破壊することができ、その結果、がんを予防および/または治療することができる。したがって、本発明のペプチドおよび/またはFAM83Bタンパク質を有効成分とするCTLの誘導剤は、好ましくは、HLA−A02抗原またはHLA−A24抗原陽性の対象であって、FAM83B陽性のがんに罹患している対象に対して使用することができる。FAM83B陽性のがんとしては、例えば大腸癌、肺癌、乳癌、口腔癌、子宮頚部癌、甲状腺癌、精巣腫瘍、卵巣癌等のがん(腫瘍)などが挙げられ、本発明のCTL誘導剤は、これらのがんの予防および/または治療のために使用することができる。
【0068】
ここでがんの「予防」には、患者のがんへの罹患の予防だけでなく、手術により原発巣の腫瘍を切除した患者における再発予防、手術、放射線療法もしくは薬物療法等のがん治療により完全に除去できなかった腫瘍の転移防止等が含まれる。また、がんの「治療」には、がんを縮小させるがんの治癒・症状改善のみでなく、がん細胞の増殖、腫瘍の拡大もしくは原発巣からのがん細胞の転移を抑制する進行防止等が含まれる。
【0069】
本発明のペプチドおよび/またはFAM83Bタンパク質を有効成分とするCTL誘導剤は、例えば配列番号2に記載のFAM83B陽性のがんに罹患している、HLA−A02またはHLA−A24陽性のがん患者に対して特に有効である。具体的には、例えば、大腸癌、肺癌、卵巣癌等のがん(腫瘍)の予防または治療のために使用することができる。したがって、本発明のペプチドおよび/またはFAM83Bタンパク質を有効成分として含む医薬組成物もまた、本発明に包含される。かかる医薬組成物は、好ましくはがんの予防および/または治療用の組成物、すなわちがんの予防および/または治療剤である。また、本発明の医薬組成物は、がん細胞(好ましくはがん幹細胞)に特異的なCTLを誘導、すなわちがん細胞特異的な細胞性免疫を活性化することによりがんを予防および/または治療するものであるため、好ましくはがんの予防および/または治療用ワクチンである。
【0070】
本発明のペプチドを有効成分とする医薬組成物は、単一のCTLエピトープ(本発明のペプチド)を有効成分とするものであっても、また他のペプチド(CTLエピトープやヘルパーエピトープ)と連結したポリエピトープペプチドを有効成分とするものであってもよい。近年、複数のCTLエピトープ(抗原ペプチド)を連結したポリエピトープペプチドが、in vivoで効率的にCTL誘導活性を有することが示されている。例えばJournal of Immunology 1998, 161: 3186-3194(本文献は引用により本願の一部を構成する)には、がん抗原タンパク質PSA由来のHLA−A2、−A3、−A11、−B53拘束性CTLエピトープ(抗原ペプチド)を連結した約30merのポリエピトープペプチドが、in vivoでそれぞれのCTLエピトープに特異的なCTLを誘導したことが記載されている。またCTLエピトープとヘルパーエピトープとを連結させたポリエピトープペプチドにより、効率的にCTLが誘導されることも示されている。このようなポリエピトープペプチドの形態で投与した場合、ポリエピトープペプチドが抗原提示細胞内に取り込まれ、その後、細胞内分解を受けて生じた個々の抗原ペプチドがHLA抗原と結合して複合体を形成し、該複合体が抗原提示細胞表面に高密度に提示され、この複合体に特異的なCTLが体内で効率的に増殖し、がん細胞を破壊する。このようにしてがんの治療または予防が促進される。
【0071】
本発明のペプチドおよび/またはFAM83Bタンパク質を有効成分とする医薬組成物は、細胞性免疫が効果的に成立するように、医薬として許容されるキャリアー、例えば適当なアジュバントと混合して投与、または併用して投与することができる。
【0072】
アジュバントとしては、文献(例えば、Clin Infect Dis.:S266-70, 2000)に記載のものなど、当該技術分野において既知のアジュバントが適用可能であり、具体的には、例えば、ゲルタイプとして水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムおよびリン酸カルシウムなど、菌体タイプとしてCpG、モノホスホリルリピドA(monophosphoryl lipid A;MPL)、コレラ毒素、大腸菌易熱性毒素、百日咳毒素およびムラミルジペプチド(Muramyl dipeptide;MDP)など、油乳濁液タイプ(エマルション製剤)としてフロイント不完全アジュバント、MF59およびSAFなど、高分子ナノ粒子タイプとして免疫刺激複合体(Immunostimulatory complex;ISCOMs)、リポソーム、生分解性マイクロスフェア(Biodegradable microsphere)およびサポニン由来のQS−21など、合成タイプとして非イオン性ブロックコポリマー、ムラミルペプチドアナログ(Muramyl peptide analogue)、ポリホスファゼンおよび合成ポリヌクレオチドなど、サイトカインタイプとしてIFN−γ、IL−2およびIL−12などを挙げることができる。
また、本発明のペプチドおよび/またはFAM83Bタンパク質を有効成分とするCTL誘導剤/医薬組成物の剤形としては、特に限定はないが、油乳濁液(エマルション製剤)、高分子ナノ粒子、リポソーム製剤、直径数μmのビーズに結合させた粒子状の製剤、リピッドを結合させた製剤、マイクロスフェア製剤、マイクロカプセル製剤などが挙げられる。
【0073】
投与方法としては、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与などの既知の任意の投与方法が挙げられる。製剤中の本発明のペプチドの投与量は、治療目的の疾患、患者の年齢、体重等により適宜調整することができるが、通常0.0001mg〜1000mg、好ましくは0.001mg〜1000mg、より好ましくは0.1mg〜10mgであり、これを数日ないし数月に1回投与するのが好ましい。
本発明のペプチドを実際に医薬として作用させる手法としては、当該ペプチドを直接体内に導入するin vivo法の他に、ヒトからある種の細胞を採集し体外で本発明のペプチドを作用させ、その細胞を体内に戻すex vivo法があり(日経サイエンス,1994年4月号,20−45頁、月刊薬事,
36(1),23−48(1994)、実験医学増刊,
12(15),(1994)、およびこれらの引用文献等、これらの文献は引用により本願の一部を構成する)、当業者であれば、かかる手法に適切な細胞、投与方法、投与形態および投与量を選択することができる。
【0074】
(5)本発明のポリヌクレオチドを有効成分とするCTL誘導剤/医薬組成物
本発明のポリヌクレオチドおよび/またはFAM83Bタンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現させた細胞は、本発明のペプチドおよび/または他のFAM83Bタンパク質由来のエピトープペプチドを抗原として提示する細胞となるため、T細胞受容体を介してT細胞に認識されるという特徴を有する。したがって、本発明のポリヌクレオチドおよび/またはFAM83Bタンパク質をコードするポリヌクレオチドもまたCTLの誘導剤となり得る。誘導されたCTLは、本発明のペプチドおよび/またはFAM83Bタンパク質によって誘導されたCTLと同様に、細胞傷害作用やリンフォカインの産生を介して抗腫瘍作用、好ましくは抗がん作用を発揮することができる。したがって本発明のポリヌクレオチドおよび/またはFAM83Bタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、がんの治療または予防のための医薬や医薬組成物の有効成分とすることができる。本発明のポリヌクレオチドおよび/またはFAM83Bタンパク質をコードするポリヌクレオチドを有効成分として含有するCTLの誘導剤は、例えば、本発明のポリヌクレオチドおよび/またはFAM83Bタンパク質をコードするポリヌクレオチドをがん患者に投与し発現させることで、がんを治療および/または予防し得るものである。
【0075】
例えば発現ベクターに組み込まれた本発明のポリヌクレオチドおよび/またはFAM83Bタンパク質をコードするポリヌクレオチドを以下の方法によりがん患者に投与すると、抗原提示細胞内で腫瘍抗原ペプチドが高発現する。その後、生じた腫瘍抗原ペプチドがHLA−A02抗原またはHLA−A24抗原と結合して複合体を形成し、該複合体が抗原提示細胞表面に高密度に提示されることにより、がん特異的CTLが体内で効率的に増殖し、がん細胞を破壊する。以上のようにして、がんの治療または予防が達成される。したがって、本発明のポリヌクレオチドおよび/またはFAM83Bタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む医薬組成物もまた、本発明に包含される。かかる医薬組成物は、好ましくはがんの予防および/または治療用の組成物、すなわちがんの予防および/または治療剤である。また、本発明の医薬組成物は、がん細胞(好ましくはがん幹細胞)に特異的なCTLを誘導、すなわちがん細胞特異的な細胞性免疫を活性化することによりがんを予防および/または治療するものであるため、好ましくはがんの予防および/または治療用ワクチンである。
【0076】
本発明のポリヌクレオチドを有効成分とするCTL誘導剤/医薬組成物は、好ましくは、HLA−A02抗原またはHLA−A24抗原陽性の対象であって、FAM83B陽性のがんに罹患した対象に対して使用することができる。FAM83B陽性のがんとしては、例えば大腸癌、肺癌、乳癌、口腔癌、子宮頚部癌、甲状腺癌、精巣腫瘍、卵巣癌等のがん(腫瘍)などが挙げられ、本発明のCTL誘導剤は、これらのがんの予防または治療のために使用することができる。
本発明のポリヌクレオチドおよび/またはFAM83Bタンパク質をコードするポリヌクレオチドを投与し細胞内に導入する方法としては、ウイルスベクターによる方法およびその他の方法(日経サイエンス,1994年4月号,20−45頁、月刊薬事,
36(1),23−48(1994)、実験医学増刊,
12(15),(1994)、およびこれらの引用文献等、これらの文献は引用により本願の一部を構成する)のいずれの方法も適用することができる。したがって、本発明の医薬組成物の一態様において、本発明のポリヌクレオチドおよび/またはFAM83Bタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターが有効成分として含有される。
【0077】
ウイルスベクターによる方法としては、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス等のDNAウイルスまたはRNAウイルスに本発明のDNAを組み込んで導入する方法が挙げられる。この中で、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ワクシニアウイルス等を用いた方法が特に好ましい。
その他の方法としては、発現プラスミドを直接筋肉内に投与する方法(DNAワクチン法)、リポソーム法、リポフェクチン法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等が挙げられ、特にDNAワクチン法、リポソーム法が好ましい。
【0078】
本発明のポリヌクレオチドおよび/またはFAM83Bタンパク質をコードするポリヌクレオチドを実際に医薬として作用させるには、当該ポリヌクレオチドを直接体内に導入するin vivo法、およびヒトからある種の細胞を採集し体外で本発明のポリヌクレオチドを該細胞に導入しその細胞を体内に戻すex vivo法がある(日経サイエンス,1994年4月号,20−45頁、月刊薬事,
36(1),23−48(1994)、実験医学増刊,
12(15),(1994)、およびこれらの引用文献等、これらの文献は引用により本願の一部を構成する)。in vivo法がより好ましい。
本発明のポリヌクレオチドおよび/またはFAM83Bタンパク質をコードするポリヌクレオチドをin vivo法により投与する場合は、治療目的の疾患、症状等に応じた適当な投与経路および投与形態を適宜選択して投与し得る。例えば、静脈、動脈、皮下、皮内、筋肉内等に注射可能な形態で投与することができる。in vivo法により投与する場合は、例えば、液剤等の製剤形態をとりうるが、一般的には有効成分である本発明のポリヌクレオチドを含有する注射剤等とされ、必要に応じて、医薬上許容されるキャリアー(担体)を加えてもよい。また、本発明のポリヌクレオチドを含有するリポソームまたは膜融合リポソーム(センダイウイルス(HVJ)−リポソーム等)においては、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤等のリポソーム製剤の形態とすることができる。
【0079】
製剤中の本発明のポリヌクレオチドの含量は、治療目的の疾患、患者の年齢、体重等により適宜調整することができるが、通常、ポリヌクレオチドの含量として、0.0001mg〜100mg、好ましくは0.001mg〜10mgの本発明のポリヌクレオチドを、数日ないし数月に1回投与するのが好ましい。
当業者であれば、好適な細胞、ベクター、投与方法、投与形態および投与量を適宜選択することが可能である。
【0080】
また近年、複数のCTLエピトープ(腫瘍抗原ペプチド)を連結したポリエピトープペプチドをコードするポリヌクレオチド、あるいはCTLエピトープとヘルパーエピトープとを連結させたポリエピトープペプチドをコードするポリヌクレオチドが、in vivoで効率的にCTL誘導活性を有することが示されている。例えばJournal of Immunology 1999, 162: 3915-3925(本文献は引用により本願の一部を構成する)には、HBV由来HLA−A02拘束性抗原ペプチド6種類、HLA−A11拘束性抗原ペプチド3種類、およびヘルパーエピトープを連結したエピトープペプチドをコードするDNA(ミニジーン)が、in vivoでそれぞれのエピトープに対するCTLを効果的に誘導したことが記載されている。
したがって、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを1種または2種以上連結させることにより、また場合によっては他のペプチドをコードするポリヌクレオチドも連結させることにより作製されたポリヌクレオチドを、適当な発現ベクターに組み込むことにより、CTLの誘導剤の有効成分とすることができる。このようなCTLの誘導剤も、前記と同様の投与方法および投与形態をとることができる。
【0081】
(6)本発明の抗原提示細胞
前記した本発明のペプチドおよびポリヌクレオチドは、例えば、以下のようにin vitroで利用することができる。すなわち本発明のペプチドおよびポリヌクレオチドのいずれかと抗原提示能を有する細胞とをin vitroで接触させることにより、抗原提示細胞を作製することができる。したがって本発明の一態様において、細胞表面にHLA−A02抗原またはHLA−A24抗原と本発明のペプチドとの複合体を提示させた抗原提示細胞、およびその製造方法を提供するものである。上述のとおり、本発明のペプチドおよびポリヌクレオチドはがんを予防および/または治療するために利用することが可能である。したがって本態様の抗原提示細胞またはその製造方法は、好ましくはがん患者由来の単離された細胞を利用するものである。具体的には、がん患者由来の単離された抗原提示能を有する細胞と、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドのいずれかをin vitroで接触させることにより、当該細胞の細胞表面にHLA−A02抗原またはHLA−A24抗原と本発明のペプチドとの複合体を提示させた抗原提示細胞を製造する。
【0082】
ここで「抗原提示能を有する細胞」とは、本発明のペプチドを提示することの可能なMHC、好ましくはHLA、より好ましくはHLA−A02抗原またはHLA−A24抗原を細胞表面に発現する細胞であれば特に限定されないが、これらのうち、プロフェッショナル抗原提示細胞が好ましく、特に抗原提示能が高いとされる樹状細胞がより好ましい。
また、前記抗原提示能を有する細胞から本発明の抗原提示細胞を調製するために添加される物質としては、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドのいずれであってもよい。
本発明の抗原提示細胞は、例えば、がん患者から抗原提示能を有する細胞を単離し、該細胞に本発明のペプチドをin vitroでパルスして、HLA−A02抗原またはHLA−A24抗原と本発明のペプチドとの複合体を提示させることにより得られる(Cancer Immunol.Immunother.,46:82,1998、J. Immunol.,158,p1796,1997、Cancer Res.,59,p1184,1999)。樹状細胞を用いる場合は、例えば、がん患者の末梢血からフィコール法によりリンパ球を分離し、その後非付着細胞を除き、付着細胞をGM−CSFおよびIL−4存在下で培養して樹状細胞を誘導し、当該樹状細胞を本発明のペプチドと共に培養してパルスすることなどにより、本発明の抗原提示細胞を調製することができる。
【0083】
また、前記抗原提示能を有する細胞に本発明のポリヌクレオチドを導入することにより本発明の抗原提示細胞を調製する場合は、当該ポリヌクレオチドは、DNAの形態であっても、RNAの形態であってもよい。具体的には、DNAの場合はCancer Res.,56:p5672,1996やJ.Immunol.,161: p5607,1998(これらの文献は引用により本願の一部を構成する)などを参考にして行うことができ、またRNAの場合はJ.Exp.Med., 184: p465,1996(本文献は引用により本願の一部を構成する)などを参考にして行うことができる。
【0084】
前記抗原提示細胞はCTLの誘導剤の有効成分とすることができる。当該抗原提示細胞を有効成分として含有するCTLの誘導剤は、抗原提示細胞を安定に維持するために、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、培地等を含むことが好ましい。投与方法としては、静脈内投与、皮下投与、皮内投与などが挙げられる。このような抗原提示細胞を有効成分として含有してなるCTLの誘導剤を患者の体内に戻すことにより、FAM83B陽性のがんに罹患している患者の体内で、本発明のペプチドを抗原提示するがん細胞に特異的なCTLが効率良く誘導され、結果として本発明のペプチドを抗原提示するFAM83B陽性のがんを治療することができる。
【0085】
(7)本発明の細胞傷害性T細胞(CTL)
本発明のペプチドおよびポリヌクレオチドは、例えば以下のようにin vitroで利用することができる。すなわち本発明のペプチドおよびポリヌクレオチドのいずれかと末梢血リンパ球とをin vitroで接触させることにより、CTLを誘導することができる。したがって本発明の一態様において、本発明のペプチドを抗原提示する細胞を特異的に傷害するCTLおよびその誘導方法を提供するものである。上述のとおり、本発明のペプチドおよびポリヌクレオチドはがんを予防および/または治療するために利用することが可能である。したがって本態様のCTLおよびその誘導方法には、好ましくは癌患者由来の末梢血リンパ球を利用するものである。具体的には、がん患者由来の末梢血リンパ球と、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドのいずれかをin vitroで接触させることにより、本発明のペプチドを抗原提示する細胞を特異的に傷害するCTLを誘導する。
【0086】
例えばメラノーマにおいては、患者本人の腫瘍内浸潤T細胞を体外で大量に培養して、これを患者に戻す養子免疫療法に治療効果が認められている(J.Natl.Cancer.Inst.,86:1159,1994)。またマウスのメラノーマにおいては、脾細胞を、in vitroで腫瘍抗原ペプチドTRP−2により刺激し、腫瘍抗原ペプチドに特異的なCTLを増殖させ、該CTLをメラノーマ移植マウスに投与することにより、転移抑制が認められている(J.Exp.Med.,185:453,1997)。これは、抗原提示細胞のMHCと腫瘍抗原ペプチドとの複合体を特異的に認識するCTLをin vitroで増殖させた結果に基づくものである。したがって、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドを用いて、in vitroで患者末梢血リンパ球を刺激して腫瘍特異的CTLを増やした後、このCTLを患者に戻す治療法は有用であると考えられる。
【0087】
当該CTLは、がんの治療剤または予防剤の有効成分とすることができる。該治療剤または予防剤は、CTLを安定に維持するために、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、培地等を含むことが好ましい。投与方法としては、静脈内投与、皮下投与、皮内投与などが挙げられる。このようなCTLを有効成分として含有してなるがんの治療または予防剤を患者の体内に戻すことにより、本発明のFAM83B陽性のがんに罹患した患者の体内でCTLによるがん細胞の傷害作用が促進され、がん細胞を破壊することにより、がんを治療することができる。
【0088】
本発明のCTLは、腫瘍細胞に抗原提示されている本発明のペプチドとHLAとの複合体を標的として細胞傷害活性を発揮することができる。すなわち本発明のCTLのT細胞受容体(TCR)は、本発明のペプチドとHLAとの複合体を認識するものである。近年、CTLに発現する特定のペプチド−HLA複合体を認識するTCRの遺伝子をクローニングし、当該TCR遺伝子をがん患者より採取したCD8
+T細胞に遺伝子導入して人工的にCTLを作製し、大量に培養した後、患者体内に戻す養子免疫療法が考案されている(例えばOchi et al., Blood. 2011 Aug 11;118(6):1495-503など)。本発明において、「人工CTL」という場合、前述のようにペプチドとHLAとの複合体を認識するTCRをコードする遺伝子を、T細胞に遺伝子導入して作製されたCTLを意味し、これもまた上述の天然のCTLと同様にがんの治療に用いることができるものである。したがってかかる人工CTLもまた、本発明のCTLに包含される。かかる態様において、人工CTLに遺伝子導入される、本発明のペプチドとHLAとの複合体を認識するTCRは、該複合体に対する結合親和性や細胞傷害活性を上げるために、適宜改変されてもよい。したがって、「人工CTL」には、本発明のペプチドとHLAとの複合体を認識するTCRをコードする遺伝子を、適宜遺伝子改変したのち患者由来のT細胞に遺伝子導入したCTLも包含される。人工CTLの作製には、当該技術分野において知られた方法を用いることができる。
【0089】
(8)本発明のペプチドを用いた腫瘍特異的CTL検出剤
本発明のペプチド、特に配列番号3〜85に記載のアミノ酸配列からなるペプチドは、腫瘍特異的CTLに認識されるため、腫瘍特異的CTL検出剤の成分として有用である。したがって、本発明はまた、本発明のペプチドを含む、腫瘍特異的CTL検出剤に関する。一態様において、本発明の腫瘍特異的CTL検出剤は、本発明のペプチドとHLA−A02またはHLA−A24とを含有するHLAマルチマー(モノマー、ダイマー、テトラマー、ペンタマーおよびデキストラマー)を含む。
【0090】
例えば、HLAテトラマーとは、HLAのα鎖とβ2ミクログロブリンをペプチド(エピトープペプチド)と会合させた複合体(HLAモノマー)をビオチン化し、アビジンに結合させることにより4量体化したものを指す(Science 279: 2103-2106(1998)、Science 274: 94-96 (1996))。 現在では種々の抗原ペプチドを含有するHLAテトラマーが市販されており(例えば(株)医学生物学研究所より)、本発明のペプチドとHLA−A02またはHLA−A24とを含有するHLAテトラマーを容易に作製することができる。また、HLAダイマーおよびHLAペンタマーも同様な原理に基づいており、これらにおいては、それぞれ、前記HLAモノマーが2量体化および5量体化されている。したがって、本発明のペプチドとHLA−A02またはHLA−A24とを含有するHLAマルチマーもまた、本発明の一態様である。
【0091】
具体的には、例えば配列番号3〜85に記載のアミノ酸配列からなるペプチドとHLA−A02またはHLA−A24とを含有するHLAテトラマーが挙げられる。当該HLAテトラマーは、フローサイトメトリー、蛍光顕微鏡等の既知の検出手段により結合したCTLを容易に選別または検出することができるように蛍光標識されていることが好ましい。具体的には、例えばフィコエリスリン(PE)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ペリジニンクロロフィルプロテイン(PerCP)などにより標識されたHLAテトラマーが挙げられる。
【0092】
HLAテトラマーの製法例としては、例えば、Science 279: 2103-2106(1998)、Science 274: 94-96 (1996)などの文献に記載のものが挙げられ、簡単に述べると以下のようになる。
まずタンパク質を発現可能な大腸菌や哺乳動物細胞に、HLA−A24あるいはHLA−A02のα鎖発現ベクターおよびβ2ミクログロブリン発現ベクターを導入し発現させる。ここでは大腸菌(例えばBL21)を用いることが好ましい。得られた単量体HLA−A24あるいはHLA−A02複合体と本発明のペプチドとを混合し、可溶性のHLA−ペプチド複合体を形成させる。次にHLA−ペプチド複合体におけるHLA−A02あるいはHLA−A24のα鎖のC末端部位の配列をBirA酵素によりビオチン化する。このビオチン化されたHLA−ペプチド複合体と蛍光標識されたアビジンとを4:1のモル比で混合することにより、HLAテトラマーを調製することができる。なお、前記各ステップにおいて、ゲルろ過等によるタンパク精製を行うことが好ましい。
【0093】
(9)がん幹細胞検出剤
上述のとおり、本発明者らはFAM83Bががん幹細胞において特異的に高発現していることを初めて見出した。すなわち本発明者らにより、FAM83Bは、がん幹細胞を含まないがん細胞や、通常の体細胞においては発現が見られないが、がん幹細胞においては高発現している遺伝子であることが初めて明らかとなった。かかる知見からFAM83Bは、がん細胞、特にがん幹細胞を識別するためのマーカーとして利用可能であることが見出された。したがって本発明は一側面において、FAM83Bの発現産物を検出するためのFAM83B検出剤を含む、がん幹細胞検出剤に関する。
【0094】
本発明において、単にFAM83Bという場合、別段の記載のない限りFAM83B遺伝子を意味する。好ましくはヒトFAM83B遺伝子であるが、そのホモログであってもよい。
本発明において「遺伝子の発現」とは、該遺伝子の転写を起点とする一連の生体反応をいい、「発現産物」とは、例えばmRNAや内在性ポリペプチドなど、この一連の生体反応によって生成される分子をいう。遺伝子の発現産物である内在性ポリペプチドは、好ましくは当該遺伝子の発現により最終的に産生されるタンパク質である。
本発明において「FAM83B検出剤」とは、FAM83B遺伝子またはその発現産物を、定性的および/または定量的に検出するための剤を意味する。
【0095】
本発明のがん幹細胞検出剤は、FAM83Bの発現産物を検出するためのFAM83B検出剤を含む。検出対象においてFAM83Bの発現産物が検出された場合、検出対象ががん幹細胞を有する、すなわちがん幹細胞が検出されたと決定できる。本発明のがん幹細胞検出剤は、in vivoでもin vitroでも用いることが可能であるが、好ましくは生物個体(検査対象)から採取された生体試料由来の細胞集団(検出対象)に対してin vitroで用いる。この場合、検出対象である生体試料由来の細胞集団においてがん幹細胞が検出されたことは、すなわち検査対象である生体試料が採取された生物個体においてもがん幹細胞が検出された、すなわち該生物個体ががん幹細胞を有することを意味する。したがって、後述するように、本発明のがん幹細胞検出剤を使用して、検査対象においてがん幹細胞を検出する方法も本発明に包含される。
検査対象である生物個体は、腫瘍を有し得る生物個体であればいかなる生物個体であってもよいが、好ましくはヒトおよび非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスターなどの齧歯類、チンパンジーなどの霊長類、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの偶蹄目、ウマなどの奇蹄目、ウサギ、イヌ、ネコなど)の個体であり、より好ましくはヒトの個体である。
検出対象の細胞集団は、上記検査対象から得られた任意の生体試料由来の細胞集団に対して用いることが可能であるが、好ましくはヒトから得られた生体試料に由来する細胞集団であり、より好ましくは組織の細胞においてFAM83Bがほとんど発現していないことが確認されている、心臓、脳、胎盤、肺、肝臓、骨格筋、腎臓、膵臓、脾臓、胸腺、前立腺、精巣、卵巣、小腸、大腸および血液からなる群から選択される1または2以上の生体試料に由来する細胞を含む細胞集団である。
【0096】
本発明のがん幹細胞検出剤に含まれるFAM83B検出剤は、検出する発現産物に依拠して変化し得、当業者であれば適宜最適なものを選択し得る。具体的には、例えば発現産物がmRNAである場合、当該技術分野において公知である任意のmRNA検出法を用いることができ、これに限定するものではないが、例えばRT−PCR法、in situハイブリダイゼーション法、ノーザンブロッティング法、リアルタイムRT−PCRなどが挙げられ、中でも検出感度の高さ、実験手技の簡便さなどから、RT−PCR法が好ましい。例えば発現産物が内在性ポリペプチド(好ましくはFAM83Bタンパク質)である場合は、これに限定するものではないが、例えばウェスタンブロッティング法、免役組織染色法などが挙げられる。用いるFAM83B検出剤は、検出する発現産物や採用する検出法に依存して変化し得、当業者は適宜最適なものを選択し得る。具体的には、例えば内在性ポリペプチドを検出する場合はFAM83B特異抗体(好ましくはモノクローナル抗体)など、mRNAを検出する場合は配列番号1に相補的な塩基配列を有するプローブおよび/またはプライマーなどが挙げられるが、これに限定するものではない。また検出する発現産物は、単一の発現産物であっても複数の発現産物を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
(10)本発明のペプチドとMHCとの複合体を認識するT細胞受容体様抗体
上述のとおり本発明のペプチドは、がん細胞、特にがん幹細胞によりCTLエピトープペプチドとして提示される。この際、MHCと複合体を形成して細胞表面に提示されるため、当該複合体を認識する抗体を用いることで、本発明のペプチドを腫瘍マーカーとして利用できる。このような抗体としては、例えば、本発明のペプチドとHLAとの複合体、好ましくはHLA−A24もしくはHLA−A02との複合体を認識するTCR(T細胞受容体)様抗体が挙げられる。したがって、本発明はまた、本発明のペプチドとMHCとの複合体を認識するT細胞受容体様抗体にも関する。
本発明において「TCR様抗体」は、断片化された抗原由来のペプチドと主要組織適合性抗原複合体(MHC)分子との複合体(pMHC)に対してTCR様の結合力(抗原認識能)を有する分子である。例えば、Eur J Immunol. 2004;34:2919-29等で報告されているように、腫瘍抗原由来のペプチドとMHCとの複合体を認識するTCR様抗体は、CTLが標的とし得る腫瘍抗原ペプチドを提示しているがん細胞、がん細胞を貪食してMHCクラスI上に腫瘍抗原ペプチドを提示している樹状細胞などを認識することができる。
【0098】
また、ウイルス等由来のペプチドとMHCとの複合体を認識する前記TCR様抗体は、提示した抗原が感染細胞上でどの様な提示動態およびCTL応答等を示すのかを、定量的・経時的に解析できる。
前記TCR様抗体は、Eur J Immunol. 2004;34:2919-29等で記載されている方法で作製することができる。例えば、MHCとペプチド複合体をマウス等の動物に免疫することにより複合体特異的な抗体を取得できる。また、ファージディスプレイ法を利用して複合体特異的抗体を取得することも可能である。
【0099】
上述のとおり、本発明のペプチドを提示するMHC複合体を認識することにより、該MHC複合体を細胞表面に提示する腫瘍細胞を検出することが可能である。したがって本発明は、上記TCR様抗体を含む腫瘍検出剤にも関する。また本発明のペプチドは、腫瘍細胞の他、抗原提示細胞、特に樹状細胞などのプロフェッショナル抗原提示細胞にも同様に提示されるため、上記TCR様抗体は、本発明のペプチドを提示する抗原提示細胞等の検出にも有用である。
また上述のとおり本発明のペプチドは、がん細胞、特にがん幹細胞によりCTLエピトープペプチドとして提示されるため、本発明のペプチドとHLAとの複合体、好ましくはHLA−A24もしくはHLA−A02との複合体を認識するTCR様抗体は、対象におけるがんの予防および/または治療剤としても有用である。したがって、本発明はまた、本発明のTCR様抗体を含む、がんの予防および/または治療剤にも関する。
【0100】
さらに、近年、腫瘍抗原に特異的なモノクローナル抗体の一部に遺伝子操作を加えて改変したキメラ抗原受容体(CAR)を患者由来のT細胞に遺伝子導入し、この遺伝子改変T細胞を体外で増幅培養した後に患者に輸注するという新たな免疫細胞治療法が考案されている(Nat Rev Immunol. 2012;12:269-81)。具体的には、患者から採取された末梢血単核球を抗CD3抗体とIL−2等の存在下で培養することによりT細胞を活性化したのち、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターなどの形質転換用ベクターを用いてCARをコードする遺伝子をT細胞に導入することにより、遺伝子改変T細胞を作製する。
本発明において、「キメラ抗原受容体」は、がん細胞の細胞表面に存在する分子を認識する抗体の抗体可変領域の軽鎖と重鎖を直列に結合させた単鎖抗体(scFv)をN末端側に、T細胞受容体(TCR)/CD3複合体を構成する分子のうちCD3ζ鎖をC末端側に持つように設計されたキメラタンパク分子である。このキメラ抗原受容体は、scFv領域で特定の抗原を認識すると、CD3ζ鎖を介してT細胞の活性化が生じる。T細胞の活性化を増強するために、scFvとζ鎖の間に1または2以上の共刺激分子(例えばCD28、4−1BB、ICOSなど)を組み込んでもよい。本発明においては、scFvとして、本態様のTCR様抗体(TCR様抗体から設計され得る抗体分子またはその断片を含む)を用いてCARを作製することができる。腫瘍抗原由来のペプチドとMHCとの複合体を認識するCARは、CTLが標的とし得る腫瘍抗原ペプチドを提示しているがん細胞、がん細胞を貪食してMHCクラスI上に腫瘍抗原ペプチドを提示している樹状細胞などを認識することができるため、前記CARを導入した遺伝子改変T細胞は、人工CTLと同様に、前記腫瘍抗原に特異的ながんの予防および/または治療剤として有用である。したがって、本発明はまた、本発明の腫瘍抗原由来のペプチドとMHCとの複合体を認識するCARを導入した遺伝子改変T細胞または人工CTLを含む、がんの予防および/または治療剤にも関する。
【0101】
(11)腫瘍の検出方法(検査方法、診断方法)
本発明は、前述した本発明のCTL検出剤、あるいはがん幹細胞検出剤または腫瘍検出剤を利用した腫瘍の検出方法(検査方法、診断方法)を提供するものである。
本発明のCTL検出剤を用いる本発明の検出方法(診断方法)は、典型的には、被験者の血液を採取するか、若しくは腫瘍が疑われる被験組織の一部をバイオプシ等で採取し、そこに含まれるFAM83B由来の腫瘍抗原ペプチドとHLA抗原との複合体を認識するCTLの量を、本発明のCTL検出剤によって検出・測定することにより、大腸癌、肺癌、乳癌、口腔癌、子宮頚部癌、甲状腺癌、精巣腫瘍、卵巣癌等のFAM83B陽性のがん(腫瘍)の罹患の有無またはその程度を検出、検査または診断するものである。
【0102】
本発明のがん幹細胞検出剤を用いる本発明の検出方法(検査方法、診断方法)は、典型的には、被験者の血液を採取するか、若しくは腫瘍が疑われる被験組織の一部をバイオプシ等で採取し、そこに含まれるFAM83B発現産物の量を、本発明のがん幹細胞検出剤によって検出・測定することにより、大腸癌、肺癌、乳癌、口腔癌、子宮頚部癌、甲状腺癌、精巣腫瘍、卵巣癌等のFAM83B陽性のがん(腫瘍)の罹患の有無またはその程度を検出、検査または診断するものである。
本発明の腫瘍検出剤を用いる本発明の検出方法(検査方法、診断方法)は、典型的には、被験者の血液を採取するか、若しくは腫瘍が疑われる被験組織の一部をバイオプシ等で採取し、そこに含まれるFAM83B由来の腫瘍抗原ペプチドとHLA抗原との複合体を提示する細胞の量を、本発明の腫瘍検出剤によって検出・測定することにより、大腸癌、肺癌、乳癌、口腔癌、子宮頚部癌、甲状腺癌、精巣腫瘍、卵巣癌等のFAM83B陽性のがん(腫瘍)の罹患の有無またはその程度を検出、検査または診断するものである。
【0103】
本発明の検出(検査、診断)方法は、例えば腫瘍を有する患者において、該腫瘍の改善のために治療薬を投与した場合における、該腫瘍の改善の有無またはその程度を検出(検査、診断)することもできる。さらに本発明の検出(検査、診断)方法は、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドを有効成分とする医薬を有効に適用できる治療対象患者の選択や、当該医薬による治療効果の予測や判定などにも利用できる。また、本発明の腫瘍検出剤を用いる態様においては、本発明のペプチドを有効成分とするがんワクチンを投与することにより患者生体内で誘導されるCTLが実際に標的とし得る、腫瘍抗原ペプチドを提示しているがん細胞を検出することが可能である。
【0104】
本発明のCTL検出剤を用いる本発明の検出(検査)方法の特定の態様は、次の(a)および(b)、および任意に(c)の工程を含むものである:
(a)被験者から得られた生体試料と本発明のCTL検出剤とを接触させる工程、
(b)該生体試料中のFAM83B由来の腫瘍抗原ペプチドとHLA抗原との複合体を認識するCTLの量を、上記CTL検出剤が結合した細胞の量を指標として測定する工程、
(c)(b)の結果をもとに、がんの罹患を判断する工程。
本発明のCTL検出剤を用いる本発明の診断方法の特定の態様は、上記(a)、(b)および(c)の工程を含む。
【0105】
本発明のがん幹細胞検出剤を用いる本発明の検出(検査)方法の特定の態様は、次の(d)および(e)、および任意に(f)の工程を含むものである:
(d)被験者から得られた生体試料と本発明のがん幹細胞検出剤とを接触させる工程、
(e)該生体試料中のFAM83B発現産物の量を測定する工程、
(f)(e)の結果をもとに、がんの罹患を判断する工程。
本発明のがん幹細胞検出剤を用いる本発明の診断方法の特定の態様は、上記(d)、(e)および(f)の工程を含む。
本発明のがん幹細胞検出剤を用いるがん幹細胞を検出する方法の態様は、上記(d)、(e)の工程および(f)に代えて下記(f’)の工程を含む:
(f’)(e)の結果をもとに、生体試料中のがん幹細胞の存在または不存在を決定する工程。
ここで用いられる生体試料としては、被験者の生体組織(がん細胞の存在が疑われる組織およびその周辺組織、または血液など)から調製される試料を挙げることができる。具体的には、該組織から採取された組織細胞を含む試料などを挙げることができる。
【0106】
本発明の腫瘍検出剤を用いる本発明の検出(検査)方法の特定の態様は、次の(g)および(h)、および任意に(i)の工程を含むものである:
(g)被験者から得られた生体試料と本発明の腫瘍検出剤とを接触させる工程、
(h)該生体試料中のFAM83B由来の腫瘍抗原ペプチドとHLA抗原との複合体を提示する細胞の量を、上記腫瘍検出剤が結合した細胞の量を指標として測定する工程、
(i)(h)の結果をもとに、がんの罹患を判断する工程。
本発明の腫瘍検出剤を用いる本発明の診断方法の特定の態様は、上記(g)、(h)および(i)の工程を含む。
ここで用いられる生体試料としては、被験者の生体組織(がん細胞の存在が疑われる組織およびその周辺組織、または血液など)から調製される試料を挙げることができる。具体的には、該組織から採取された組織細胞を含む試料などを挙げることができる。
【0107】
本発明のCTL検出剤を用いる本発明の検出方法(検査方法、診断方法)の一態様は、生体試料中の本発明のペプチド特異的CTLを検出し、その量を測定することによって実施される。具体的には、文献(Science,274:p94,1996、本文献は引用により本願の一部を構成する)に記載の方法に従って蛍光標識したHLA抗原と本発明のペプチドとの複合体の4量体(HLAテトラマー)を作製し、これを用いてがんが疑われる患者の末梢血リンパ球中の抗原ペプチド特異的CTLをフローサイトメーターにより定量することにより行うことができる。
【0108】
腫瘍の有無の予測、判定、判断または診断は、例えば、被験者の血液や腫瘍が疑われる被験組織における本発明のペプチド特異的CTLの量、または、本発明のペプチドを提示する細胞の量を測定することにより行うことができる。その際、場合によっては正常な対応組織におけるFAM83B遺伝子発現レベル、本発明のペプチドレベルまたはCTLレベル等を基準値として、該基準値と被験者から得られた試料における前記レベルとを比較し、両者の違いを判定することによって行うことができる。
ここで被験者の被験組織と正常な対応組織との前記レベルの比較は、被験者の生体試料と正常者の生体試料を対象とした測定を並行して行うことで実施できる。並行して行わない場合は、複数(少なくとも2つ、好ましくは3以上、より好ましくは5以上)の正常な組織を用いて均一な測定条件で測定して得られた本発明のペプチド特異的CTLの量または本発明のペプチドを提示する細胞の量の平均値または統計的中間値を、正常者の値すなわち基準値として、比較に用いることができる。
【0109】
被験者が、がんに罹患しているかどうかの判断は、例えば該被験者の組織における本発明のペプチド特異的CTLの量、または、本発明のペプチドを提示する細胞が、正常者のそれらのレベルと比較して例えば2倍以上、好ましくは3倍以上多いことを指標として行うことができる。
また、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドを投与されている被験者において、本発明のペプチド特異的CTLの量を測定することにより、実際にCTLが誘導されているか否かを判定することも可能である。例えば、該被験者の組織における本発明のペプチド特異的CTLの量が、正常者のそれらのレベルと比較して例えば2倍以上、好ましくは3倍以上多いことを指標として、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドによる治療が有効であると判定することができる。本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドは、主にワクチンとして作用し、CTLを誘導することにより抗腫瘍作用を発揮すると考えられることから、CTLの誘導は、投与した本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドがワクチンとして作用しているか否かを確認するためのいわゆるPOM(Proof of Mechanism)マーカーとして用いることができる。したがって本発明のCTL検出剤は、POMマーカーとしてのCTLを検出することにより、投与対象において投与したペプチドまたはポリヌクレオチドがワクチンとして作用しているか否かを確認するための診断薬として用いることができる。
【0110】
(12)がんの予防および/または治療方法
本発明はまた、対象におけるがんを予防および/または治療する方法であって、本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、CTL、抗原提示細胞、TCR様抗体、人工CTL、遺伝子改変T細胞からなる群から選択される有効成分の有効量を、それを必要とする対象に投与する工程を含む方法にも関する。
本発明における「対象」は、がんに罹患し得る生物個体であればいかなる生物個体であってもよいが、好ましくはヒトおよび非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスターなどの齧歯類、チンパンジーなどの霊長類、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの偶蹄目、ウマなどの奇蹄目、ウサギ、イヌ、ネコなど)の個体であり、より好ましくはヒトの個体である。本発明において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、がんの予防および/または治療が企図される場合には、典型的にはがんに罹患しているか、罹患するリスクを有する対象を意味する。本発明の一態様において、対象はHLA−A02陽性またはHLA−A24陽性である。本発明の一態様において、対象はFAM83B陽性のがんに罹患しているか、罹患するリスクを有する。本発明の一態様において、対象はHLA−A02陽性またはHLA−A24陽性であり、かつ、FAM83B陽性のがんに罹患しているか、罹患するリスクを有する。
【0111】
本発明の予防/治療方法に用いる本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、CTL、抗原提示細胞、TCR様抗体、人工CTL、および遺伝子改変T細胞としては、本明細書に記載の任意のものが挙げられる。本発明における有効量とは、例えば、がんの症状を低減し、またはその進行を遅延もしくは停止する量であり、好ましくは、がんを抑制し、または治癒する量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラットなどのモデル動物における試験により適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。有効成分の具体的な用量は、それを必要とする対象に関する種々の条件、例えば、症状の重篤度、対象の一般健康状態、年齢、体重、対象の性別、食事、投与の時期および頻度、併用している医薬、治療への反応性、剤形、および治療に対するコンプライアンスなどを考慮して決定され得る。
【0112】
具体的な用量としては、例えば、本発明のペプチドの場合、通常0.0001mg〜1000mg、好ましくは0.001mg〜1000mg、より好ましくは0.1mg〜10mgであり、これを数日ないし数月に1回投与するのが好ましい。また、本発明のポリヌクレオチドの場合、通常、0.0001mg〜100mg、好ましくは0.001mg〜10mgであり、これを数日ないし数月に1回投与するのが好ましい。また、本発明のTCR様抗体の場合、通常、0.0001mg〜2000mg、好ましくは0.001mg〜2000mgであり、これを1週間〜4週間に1回投与するのが好ましい。本発明の遺伝子改変T細胞または人工CTLの場合、通常、1×10
4〜1×10
8、好ましくは1×10
5〜1×10
7であり、これを1日〜4週間に1回投与するのが好ましい。また、投与方法としては、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与などの既知の任意の適切な投与方法を用いることができる。また、本発明のペプチドやヌクレオチドを直接体内に投与するin vivo法の他、ヒトからある種の細胞を採集し、体外で本発明のペプチドやポリヌクレオチドを用いてCTLや抗原提示細胞を誘導した後、これらの細胞を体内に戻すex vivo法を用いることもできる。
【0113】
本発明の予防/治療方法の一態様は、投与する工程の前に、HLA−A02陽性またはHLA−A24陽性の対象を予防/治療の対象として選択する工程をさらに含む。本発明のこの態様は、上記選択する工程の前に、対象のHLA型を決定する工程をさらに含んでもよい。対象のHLA型の決定は、既知の任意の手法により行うことができる。また、本発明の予防/治療方法の一態様は、投与する工程の前に、FAM83B陽性のがんを有する対象を予防/治療の対象として選択する工程をさらに含む。本発明のこの態様は、上記選択する工程の前に、対象におけるFAM83B陽性のがんを検出する工程をさらに含んでもよい。対象におけるFAM83B陽性のがんの検出は、上記(10)に記載の腫瘍の検出方法を用いることができる。
【0114】
本発明の予防/治療方法の一態様は、投与する工程の前に、HLA−A02陽性またはHLA−A24陽性であり、かつ、FAM83B陽性のがんを有する対象を予防/治療の対象として選択する工程をさらに含む。本発明のこの態様は、上記選択する工程の前に、対象のHLA型を決定する工程および対象におけるFAM83B陽性のがんを検出する工程をさらに含んでもよい。HLA−A02陽性またはHLA−A24陽性であり、かつ、FAM83B陽性のがんを有する対象は、本発明のペプチドおよび/またはポリヌクレオチドを有効成分として含有する医薬組成物を有効に適用できる対象である。したがって上記(11)に記載の腫瘍の検出方法に用いることができる腫瘍特異的CTL検出剤または腫瘍検出剤は、本発明の医薬組成物を用いたがんの処置方法が有効な治療対象を選択する、いわゆるコンパニオン診断用の診断薬として使用可能である。
【0115】
また、本発明の予防/治療方法の一態様は、本発明の医薬組成物を投与した患者において、本発明の医薬組成物による治療が有効であるか否かを判定し、本発明の医薬組成物による治療が有効な治療対象を選択する工程をさらに含んでもよい。上記(11)に記載されるとおり、本発明の医薬組成物を投与した場合に本発明のペプチド特異的CTLが誘導される対象は、本発明のペプチドおよび/またはポリヌクレオチドを有効成分として含有する医薬組成物による治療が有効である対象、すなわち本願医薬組成物を有効に適用できる対象であり、本発明のペプチド特異的CTLの誘導は、本発明の医薬組成物の治療効果を予測または判定するためのサロゲートマーカーとして用いることができる。したがって、上記(11)に記載の腫瘍の検出方法に用いることができる腫瘍特異的CTL検出剤は、本発明の医薬組成物を投与した患者における有効な治療対象を選択するための診断薬、または、上記サロゲートマーカーとしてのCTLを検出することにより、本発明の医薬組成物を投与した患者における当該医薬組成物の治療効果を予測または判定するための診断薬として使用可能である。
【0116】
(13)がん幹細胞を標的とするがん治療薬のスクリーニング方法
本発明のがん幹細胞検出剤を用いる態様において、検出対象におけるFAM83B発現産物の発現量は、検出対象中のがん幹細胞の量と相関していると考えられる。したがって、検出対象に対してがん治療薬の候補化合物を投与する前後におけるFAM83B発現産物の発現量を比較することで、投与した候補化合物ががん幹細胞を標的とするがん治療薬として有用であるか否かを判定することができる。
【0117】
本発明のスクリーニング方法は、以下の工程(I)、(II)および任意に(III)を含むものである:
(I)がん治療薬の候補化合物を、対象に投与する前に、該対象におけるFAM83B遺伝子の発現産物の検出量Aを測定する工程、
(II)前記候補化合物を前記対象細胞集団に投与した後に、該対象におけるFAM83B遺伝子の発現産物の検出量Bを測定する工程、および
(III)前記検出量AとBとを比較し、該検出量AがBより有意に大きい場合に、前記候補化合物を、がん幹細胞を標的とすることを特徴とするがん治療薬候補であると判定する工程。
本発明のスクリーニング方法の特定の態様は、上記工程(I)〜(III)を含む。ここで工程(I)および(II)の検出量を測定する工程は、それぞれ上記検出(検査、診断)方法における工程(d)および(e)を含む。
【0118】
本明細書中で言及する全ての特許、出願および他の出版物は、その全体を参照により本明細書に援用する。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例】
【0119】
実験例1:ヒト大腸がん細胞のSP画分の検出とサブクローニング
a)試薬の調製
培地として5%のウシ胎仔血清(FCS(HyClone Laboratories社))補充DMEM(Sigma-Alldrich社)培地を調製し、37℃に温めておいた。ベラパミル(Sigma-Aldrich社)は50mMに調整し、5%FCS補充DMEM培地で、5mMに希釈した。ヘキスト33342(Lonza社)は5%FCS補充DMEM培地で250μg/mLに調整した。DNase I(Qiagen社)はDDWで1mg/mLに調整し、0.2μmのフィルターでろ過滅菌した。
【0120】
b)フローサイトメトリー(FACS)用の細胞の調整
ヒト大腸がん細胞株(SW480(ATCC))を4mLの5%FCS補充DMEM培地で懸濁し、細胞数を数えた。さらに5%FCS補充DMEM培地を加えて細胞濃度を10×10
6個/mLに調整し、検体を得た。検体の一部を用いて分注し、主検体にはベラパミルを添加せず(ベラパミル(−)サンプル)、副検体にはベラパミルを最終濃度75μMになるように添加した(ベラパミル(+)検体)。その後、ベラパミル(+)検体およびベラパミル(−)検体にヘキスト33342の最終濃度が5.0μMとなるようにヘキスト33342溶液を添加した。
両検体を37℃で90分間振盪培養後、氷上にて冷却した。1500rpm、4℃で5分間遠心分離し、上清を取り除いた。5%FCS補充1×PBSで懸濁して、氷冷しておいたFACSチューブに移した。再び1500rpm、4℃で5分間遠心分離して上清を取り除き、5%FCS補充1×PBSで懸濁した。同様の洗浄を1回繰り返した後、2mMのEDTA入り2%FCS補充1×PBS2mLで懸濁した。DNase I液を2μL加え、混和後、FACS用フィルター(ベクトン・ディッキンソン(BD)社)にて細胞集塊を除去した。1mg/mLのプロピジウム・アイオダイド(PI)(Sigma-Aldrich社)を2μL添加後、フローサイトメーターとしてBD FACS Aria II special edition(登録商標)(BD社)を用い、流動速度1000〜2000個/秒で解析した。
【0121】
c)フローサイトメトリー(FACS)
FACSの操作は取扱説明書に従って行った。
先ず、ベラパミル(−)検体の細胞を解析し、主体となる細胞群(main population(MP))と比較して、発光強度の低い細胞群(side population(SP))細胞を検出した(
図1)。SP細胞がABCトランスポーター特異的にヘキスト33342色素低染色性であることを確認するため、ベラパミル(+)検体を同じ条件で解析し、SP細胞が消失することを確認した(
図1)。
SP細胞を単離し、細胞を4℃、1500rpmで15分間遠心分離し、上清を取り除いた後、100〜200μLの1×PBSで懸濁した。
【0122】
d)単一細胞レベルでのサブクローニング
SW480由来SP細胞を前記c)にて検出し、そのSPおよびMP細胞画分をそれぞれ96ウェルプレートに1細胞/1ウェルになるようにシングルセルソーティングを行った(
図2−1)。各ウェルには1%ペニシリン・ストレプトマイシン添加10%FCS補充DMEM培地を予め入れておいた。
2〜3週間培養後、各ウェルにおいて増殖した細胞株をそれぞれ、SW480−SPクローン細胞株、SW480−MPクローン細胞株とした。「SW480−SP−X」または「SW480−MP−Y」のXおよびYはそれぞれクローン番号とする。
共焦点顕微鏡でその形態を観察したところ、MPクローン細胞株は主に単層で増殖し、各細胞は紡錘形を示した。一方で、SPクローン細胞株は重層化傾向を示し、各細胞は円形〜類円形を示した。得られた代表的なSPクローンおよびMPクローンの顕微鏡画像を
図2−2に示す。
【0123】
実験例2:腫瘍形成能実験
実験例1で得られたSW480−SPおよびSW480−MPクローン細胞株それぞれのin vivoにおける造腫瘍能を確認するために、SPクローンおよびMPクローンそれぞれの代表的な3クローンを用いて、NOD/SCID免疫不全マウス(オリエンタル工房社)に移植した。
具体的には、同数のSPおよびMPクローン細胞をそれぞれ氷上で100μLの1×PBSに懸濁し、100μLのマトリゲル(BD社)と混和した。100μLの細胞マトリゲル混合液をNOD/SCIDマウス(オリエンタル工房社)の背部皮下にSPおよびMPクローン細胞をそれぞれ、100個、1000個、10000個、各グループ5匹にて接種し、腫瘍形成を観察した。腫瘍長径・短径の長さを測り、腫瘍体積を(体積=長径×短形2/2)の計算式にて算出した。10000個移植したマウスの腫瘍増大曲線を
図3に示す。
【0124】
その結果、10000個細胞移植群において、細胞接種後8週間にてSW480−MPクローン移植群では腫瘍形成が全くみられなかった。一方、SW480−SPクローン移植群では全てのマウスで腫瘍形成が観察され、作った腫瘍の体積はSW480−MPクローン群と比較して有意に高かった(
図3)。これはがん幹細胞が腫瘍形成の大きな要因であり、SPクローン細胞にがん幹細胞が濃縮されるという見解(Kondo T, Setoguchi T, Taga T. Persistence of a small subpopulation of cancer stem-like cells in the C6 glioma cell line. Proc Natl Acad Sci U S A. 20:781-786, 2004)と一致する。
【0125】
実験例3:ヒト大腸癌SP細胞のHLA−A24結合ナチュラルペプチドの同定
以下の手順にてヒト大腸癌細胞株SW480のSP画分細胞にのみ特異的に提示されるHLA−A24結合ナチュラルペプチドの溶出と配列解析とを行った。
a)細胞株
前記大腸がん細胞株由来クローンであるSW480−MPおよびSW480−SP系統は、10%FCSおよび1%ペニシリン・ストレプトマイシン(Gibco社)を添加したDMEM培地にて培養し、細胞数をそれぞれ1.5×10
9〜1.8×10
9個の範囲とした。
【0126】
b)抗体
抗HLA−A24抗体(C7709A2)を産生するハイブリドーマは、P. G. Coulie博士(de Duve Institute, Brussel)より供与されたものである。ハイブリドーマを、10%FCS、1%ペニシリン・ストレプトマイシン、55μMの2−メルカプトエタノール(Gibco社)、1mMのピルビン酸ナトリウム(Gibco社)、2mMのL−グルタミン(Sigma-Aldrich社)および20mMのHEPES(Gibco社)を添加したRPMI−1640(Sigma-Aldrich社)培地にて培養し、培養上清からセルロースチューブとポリエチレングリコール(PEG-20000)とを用いた逆浸透法により濃縮抗体を得た。濃縮抗体は0.03%アジ化ナトリウムとプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche Diagnostics社)とを添加し、4℃にて保存した。
【0127】
c)抗体とビーズの結合
30〜40mLの濃縮抗体を、3mLのプロテインAセファロースビーズ(GE Healthcare社)と4℃で一晩撹拌し結合させ、その後0.1Mのホウ酸と0.2Mのトリエタノールアミン緩衝液(pH8.2)とで洗浄した。抗体とビーズとは20mMのピメルイミド酸ジメチル二塩酸塩含有トリエタノールアミン緩衝液(pH8.3)にて60〜90分間室温で撹拌し共有結合させた。
d)HLA−A24結合ペプチドの免疫沈降
0.5%NP−40、50mMトリス塩酸(pH8)、150mM塩化ナトリウムおよびプロテアーゼ阻害剤を含んだ緩衝液を用いて、実験例3a)の細胞(SW480−SPおよびSW480−MP)をそれぞれ溶解した。細胞溶解液は段階的に遠心分離を行い(2000gで10分間、38000gで30分間、100000gで90分間)、上清を回収した。回収した上清は0.5mLのプロテインAセファロース懸濁液カラムを通過させ、プロテインAセファロースと非特異的に結合する成分を除去した後、実験例3c)で作製した抗体結合プロテインAセファロースビーズと混合し、4℃にて一晩ゆっくりと撹拌しながら、ナチュラルペプチドとHLA−A24分子との複合体を抗体ビーズに結合させた。
【0128】
その後、抗体ビーズは4種類の緩衝液([1]0.005%のNP−40、50mMのトリス塩酸(pH8.0)、150mMの塩化ナトリウム、5mMのEDTAおよびプロテアーゼ阻害剤;[2]50mMのトリス塩酸(pH8.0)および150mMの塩化ナトリウム;[3]50mMのトリス塩酸(pH8.0)および450mMの塩化ナトリウム;ならびに[4]50mMのトリス塩酸(pH8.0))を用いて段階的に洗浄した後、抗体に結合したペプチドおよびHLA−A24分子を10%酢酸処理にて溶出させた。続いて目的とするペプチドのみを3kDaカットオフフィルター(Millipore社)により抽出した。このペプチド含有抽出液を濃縮乾燥し、0.1%ギ酸を溶媒として再溶解し、サンプルとした。
【0129】
e)溶出ペプチドの配列解析
実験例3d)で得られたサンプルを、ナノフローHPLC(Kya Technologies Corporation社)にて分画し、MALDI基質へスポットした後、マススペクトロメーター(Applied Biosystems社;MDS SCIEX 4800 MALDI TOF/TOF)にて解析した。マススペクトロメトリー解析およびペプチド配列解析には、Applied Biosystems 4000 Series Explorer software(ver. 3.5.3)、ProteinPilot 3.0ソフトウェア(Applied Biosystems社)、およびipi.HUMAN FASTA タンパクデータベース(ver. 3.71)を使用した。得られたペプチド配列のうち、SW480−SPに特異的であったもののうち、実験例4以降にて後述するFAM83B遺伝子に由来するペプチドの配列および解析スペクトラムを
図4に示す。
【0130】
f)考察
抗HLA−A24抗体による免疫沈降とマススペクトロメトリー解析とを組み合わせた手法により、HLA−A24結合ペプチドの同定が可能であった。これらは大腸がん細胞の表面に提示されているナチュラルペプチドであると考えられる。また、MP分画細胞においても同様の手法を用いて解析を行い、両者を比較することにより、SP分画細胞に特異的に抗原提示されているナチュラルペプチドとして配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するナチュラルペプチドなどが同定された。これらのナチュラルペプチドは、がんのSP分画細胞に特異的に抗原提示されているペプチドとしては初めての同定となる。
【0131】
実験例4:HLA−A24結合ナチュラルペプチドをコードする遺伝子の発現
a)SP特異的な遺伝子発現
実験例3e)にてSP分画細胞に特異的なHLA−A24結合ナチュラルペプチドが複数同定された。このペプチドは大きく2つのグループに分類されると考えられる。すなわち、ペプチドをコードする遺伝子がSP分画細胞特異的に発現しているグループと、ペプチドをコードする遺伝子はSP分画細胞、MP分画細胞ともに発現しているが、タンパク質発現レベルまたはペプチドプロセシングの差から、MPではナチュラルペプチドとしてHLA−A24によって抗原提示されないグループである。
上記で同定されたナチュラルペプチドをこの分類目的において分類するため、SW480−SPおよびSW480−MPそれぞれのmRNAを抽出してRT−PCRによる遺伝子発現の検討を行ったところ、SP分画細胞特異的に発現する遺伝子の1つとしてFAM83B遺伝子を確認した。遺伝子発現解析の結果を
図5に示す。mRNA抽出と逆転写にはそれぞれTRIzol(Invitrogen社)およびSuperScript(登録商標)III Reverse Transcriptase(Invitrogen社)を製品添付書に従って使用した。RT−PCRに用いたプライマーおよびサーマルサイクラーの条件を表1に示す。RT−PCR産物は1.5%アガロースゲルを用いて、100Vで25分間電気泳動を行った。
【0132】
【表1】
【0133】
b)正常細胞でのFAM83B遺伝子発現
実験例4a)で確認されたFAM83Bについて、ヒト成人正常細胞において発現を調査した。ヒト成人正常組織由来mRNAパネルをクロンテック社から入手し、これを用いてRT−PCRを行った。mRNAパネルには、心臓、脳、胎盤、肺、肝臓、骨格筋、腎臓、膵臓、脾臓、胸腺、前立腺、精巣、卵巣、小腸、大腸、末梢血単核球の各成人正常細胞および組織由来のmRNAが含まれている。
まず、SuperScript(登録商標)III逆転写酵素(インビトロジェン社製)を用いて、キットのプロトコルに従ってmRNAからcDNAを合成した。合成したcDNAを、順行(Fw)プライマーおよび逆行(Rv)プライマー(表1)を用いて、RT−PCRによりFAM83BのcDNAを増幅した。またコントロールとして、GAPDHのcDNAを同様の方法で増幅した。PCR条件を表1に示す。増幅した増幅物に対して1.5%アガロースゲルを用いて、100Vで25分間電気泳動を行った。結果を
図6に示す。
【0134】
c)がん細胞株におけるFAM83B遺伝子発現
大腸がん細胞株4種類(HT15、HCT116、HT29、Colo205)、乳がん細胞株2種類(MCF7、HMC1)、口腔がん細胞株2種類(HSC3、HSC4)、肺がん細胞株1種類(LHK2)、膵がん細胞株1種類(Panc1)、メラノーマ細胞株2種類(1102mel、LG2mel)におけるFAM83B遺伝子発現を実験例4b)と同様の手法により確認した。結果を
図7に示す。
【0135】
d)考察
実験例3e)で得られた8種類のHLA−A24結合ナチュラルペプチドが由来するタンパク質をコードする遺伝子のうち、FAM83BのみがSP特異的な発現パターンを示した。FAM83B遺伝子は新規がん遺伝子としての報告があるが、SP特異的な遺伝子発現については知られていない。さらにFAM83B遺伝子は各種臓器における正常細胞には発現がみられず、逆に多くの上皮性悪性腫瘍細胞株において発現が確認された(
図6および
図7)。すなわち、FAM83B遺伝子およびその産物であるペプチドは、がんの治療標的として理想的な資質を有すると考えられる。
【0136】
実験例5:細胞傷害性T細胞(CTL)誘導
a)ヒト末梢血単核細胞(PBMC)の分離
インフォームドコンセントを得たHLA−A24陽性大腸がん患者またはHLA−A24陽性健常者の末梢血をヘパリン添加50mLシリンジにて採血した。全血を、リンフォプレップ(Nycomed社)を13mL添加した50mLチューブ(ファルコン社)に重層し、2000rpm、30分間遠心分離した。リンフォプレップ層上に沈殿したPBMC層をピペットにて回収し、PBSにて3回洗浄し、ヒトPBMCとした。
【0137】
b)CD8陽性細胞(CD8
+)およびCD8陰性細胞(CD8
−)の分離
前記のように分離したPBMCを10mLのAIM−V培養液(Life Technologies社)に懸濁後、10cmプラスチックシャーレにて約2時間37℃にて培養した。10cmシャーレをゆるやかに振盪し、浮遊細胞をAIM−V培養液とともに回収し、15mLチューブにて1500rpmで5分間遠心分離した。得られたペレットに、160μLの2mMのEDTA添加0.1%BSA補充PBSに懸濁し、40μLのCD8マイクロビーズ(Miltenyi Biotec社)を添加、混和後、4℃にて15分間培養し、2mMのEDTA添加0.1%BSA補充PBS5mLにて洗浄し、1500rpmで5分間遠心分離した。ペレットに、2mMのEDTA添加0.1%BSA補充PBS1mLを添加、混和し、マグネット装着カラムに添加し、2mMのEDTA添加0.1%BSA補充PBSにより5回洗浄後、カラムをマグネットから脱着しCD8
+細胞を回収した。カラムに付着しなかった細胞をCD8
−細胞とした。
【0138】
c)合成ペプチドによるCD8
+細胞刺激
CD8
−細胞およびCD8
+細胞を、10%ヒトAB血清(HS)添加AIM−V培養液にて培養した。一部のCD8
−細胞に、1mg/mLのフィトヘマグルチニン(PHA)(WAKO chemicals社)および100U/mLのインターロイキン2(IL−2)(武田薬品工業社)を添加し、7日間培養し、PHA−blast細胞を作製した。PHA−blast細胞に、実験例3e)にて同定されたFAM83B由来の配列(配列番号3)を有する合成ペプチドを20μg/mL添加し、室温にて1時間培養した。ペプチドパルスPHA−blast細胞を放射線照射機(Softex社)にて100Gy照射し、10mLのPBS添加後、1500rpmで5分間遠心分離した。ペレットを1mLの10%HS添加AMI−Vに懸濁し、細胞濃度を計算した。4×10
5個のPHA−blast細胞を、2×10
6個のCD8
+細胞に添加し、1mLの10%HS添加AIM−Vにて1週間37℃にて培養した。7日目に、同様にペプチドパルスしたPHA−blast細胞を100Gyの放射線で照射し、CD8
+細胞に添加した。8日目、CD8
+細胞に、20U/mLのIL−2を添加した。同様のPHA−blast細胞による刺激を14日目に行った。
【0139】
実験例6:インターフェロン(IFN)−γ ELISPOTアッセイ
a)ELISPOTプレートの作製
実験は、Human IFNγ ELISPOT set(BD社)を使用して行った。ELISPOTプレートに、200倍希釈した抗IFNγ抗体を4℃で一晩静置してコートした。10%FCS補充RPMI(Sigma-Aldrich社)にてプレートを室温にて2時間培養し、ブロッキングし、ELISPOTプレートとした。
【0140】
b)細胞培養
20μg/mLの濃度にて各ペプチドを、ヒトリンパ芽球様細胞T2細胞にHLA−A2402遺伝子を導入して発現させた細胞株であるT2−A24細胞(葛島先生、愛知県がんセンターより供与)に室温にて1時間パルスした。ペプチドパルス群は[1]ペプチドパルス無し、[2]HIVペプチドパルス、[3]FAM83Bペプチドパルスの3群とした。ペプチドパルス後PBS添加、1500rpmで5分間遠心分離した。細胞ペレットを5×10
5個/mLになるように懸濁し、ELISPOTプレートに各ウェル5×10
4個ずつ播種した。CTLを各ウェル5×10
4個播種し、37℃にて一晩培養した。
【0141】
c)スポットの検出
一晩培養したELISPOTプレートから培養液および細胞を除去後、Milli Q水にて2回、wash bufferにて3回洗浄した。各ウェルに250倍希釈したビオチン化検出抗体を添加、室温にて2時間培養した。Wash bufferにて3回洗浄後、100倍希釈したHRP標識ストレプトアビジンを各ウェルに添加、室温にて1時間培養した。Wash bufferにて3回洗浄およびPBSにて2回洗浄後、発色試薬を各ウェルに添加、室温にて15〜30分間発色反応を行った。十分な可視スポット形成を確認後、Milli Q水にて洗浄し、反応を終了した。ニトロセルロース膜を乾燥後、KS ELISPOT(ZEISS社)にて検出、撮影した。
図8に見られるように、FAM83Bペプチドパルス群にてIFNγスポットが検出された。
【0142】
実験例7:細胞傷害試験
a)カルセイン染色
T2−A24細胞およびHLA−class I欠失の白血病細胞K562(ATCCから入手)を1×10
6個/mLの細胞濃度で、10%FBS補充RPMIに懸濁した。カルセイン(Dojindoから入手)を最終濃度10μg/mLで添加し、37℃で30分間培養した。10mLの10%FBS補充RPMIにて3回洗浄した。
【0143】
b)CTLとの共培養
カルセイン染色したT2−A24細胞に、20μg/mLの濃度にて各ペプチドを室温にて1時間パルスした。ペプチドパルス群は、[1]ペプチドパルス無し、[2]HIVペプチドパルス、[3]FAM83Bペプチドパルスの3群とした。ペプチドパルス後、PBSにて2回洗浄した。各群細胞を1×10
4個/50μLの各ウェルに播種した。各ウェルに播種された細胞の蛍光強度(0時間)をテラスキャン(ミネルバテック社)にて測定した。
0時間測定後、エフェクター細胞(CTL)をエフェクター/ターゲット比(E/T ratio)3、10、30となるように各個数のCTLを各ウェルに播種した。自然遊離ウェルとして80℃にて不活化したヒトPBMCを播種した。最大遊離ウェルには2%のNP−40添加PBSを添加した。37℃で4時間〜6時間培養後、各ウェルの蛍光強度をテラスキャンにて測定した。細胞傷害活性を下記計算式にて計算した。
細胞傷害活性=(実験群の遊離量−実験群の自然遊離量)/(実験群の最大遊離量−実験群の自然遊離量)×100
図9に示すとおり、CTLは、[1]ペプチドパルス無し群、[2]HIVペプチドパルス群、K562と比較して[3]FAM83Bペプチドパルス群に対して高い細胞傷害活性を示した。このことは、CTLがFAM83Bペプチドに対して特異的細胞傷害活性を示す事を示唆する。
【0144】
実験例8:HLA−A*02:01およびHLA−A*24:02結合モチーフを有するFAM83B由来ペプチド
MHCとペプチドの結合予測プログラムであるBIMAS(http://www-bimas.cit.nih.gov/molbio/hla_bind/)、SYFPEITHI(http://www.syfpeithi.de/)およびIEDB(MHC-I processing predictions;http://www.iedb.org/)などを用いて、HLA−A*02:01および/またはHLA−A*24:02への結合が予測されるFAM83B由来のペプチド(配列番号3〜35、37〜41、43〜60および65〜85で表されるペプチド)を抽出した。これらペプチドをFmoc法で化学合成した。合成したペプチドを以下の表2−1および2−2に示す。Startは、合成したペプチドのN末端アミノ酸の、FAM83B(配列番号2)におけるアミノ酸位置を示し、Endは合成したペプチドのC末端アミノ酸の、FAM83B(配列番号2)におけるアミノ酸位置を示す。Lengthは合成したペプチドのアミノ酸数を表す。
【0145】
【表2-1】
【0146】
【表2-2】
【0147】
実施例9:FAM83B由来ペプチドのHLA−A*02:01あるいはHLA−A*24:02結合性評価
FAM83B由来ペプチドの各HLA分子への結合性評価はMHCクラスI発現安定化試験によって実施した。当試験ではヒトリンパ芽球様細胞株であるT2―A24細胞を利用した。T2細胞は細胞質から小胞体へのペプチドの輸送に関与するtransporter associated with antigen processing(TAP)を欠損している。MHCクラスI分子(HLA−A*02:01およびHLA−A*24:02)は、ペプチドが結合していない状態(empty MHC class I)では、構造が不安定であることが知られる。通常、T2細胞は細胞表面に低レベルのempty MHC class I分子しか発現できない。しかし、MHCクラスI分子に結合可能なペプチドを添加すると、empty MHC class I分子は該ペプチドと結合して細胞表面で安定化して存在できる。したがって、細胞表面MHCクラスI発現レベルはペプチドのMHCクラスI結合親和性に依存することとなる。
【0148】
T2−A24細胞は、37℃、5%CO
2下で継代培養した。ペプチドは、合成したFAM83B由来ペプチド、HLA−A02ポジティブコントロールとしてMelan A A27Lペプチド(アミノ酸配列:ELAGIGILTV;配列番号61)、HLA−A24ポジティブコントロールとしてHIV
584−592ペプチド(アミノ酸配列:RYLRDQQLL;配列番号62)、HLA−A02ネガティブコントロールとしてMAGE−1161−169ペプチド(アミノ酸配列:EADPTGHSY;配列番号63)、HLA−A24ネガティブコントロールとしてVSV
52−59ペプチド(アミノ酸配列:RGYVYQGL;配列番号64)をそれぞれ100μg/mLの濃度で用いて結合性を評価した。これらペプチドはDMSOに溶解され、さらに、RPMI160培地で200倍に希釈された。細胞懸濁液とペプチド溶液とを混合し、5%CO
2、26℃の条件で16〜18時間培養した。温度を37℃にして、さらに3時間共培養した後、遠心分離して上清を除き、細胞を単離した。単離した細胞を、3%FBSを含むPBSで洗浄し、FITCで蛍光標識した抗HLA−A02抗体(clone:BB7.2;医学生物学研究所)または抗HLA−A24抗体(clone:17A10;医学生物学研究所)を加え、室温で30分静置した。その後、細胞を、3%FBSを含むPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液を加え、室温で10分間静置することで細胞を固定した。固定した細胞は、フローサイトメーター(FACScan)にて、FITC蛍光強度を計測した。平均蛍光強度(mean fluorescence intensity;MFI)の溶媒比を算出した。
【0149】
HLA結合試験の結果を表3に示す。表3に示すとおり、配列番号4、配列番号12、配列番号20、配列番号29〜33、配列番号35、配列番号37、配列番号38、配列番号47、配列番号57、配列番号60および配列番号65〜73で表されるペプチドのHLA−A*02:01に対するMFIが1.5以上を示し、配列番号3〜6、配列番号9、配列番号12、配列番号14〜16、配列番号19、配列番号20、配列番号23、配列番号24、配列番号28、配列番号35、配列番号47、配列番号49、配列番号65〜70および配列番号74〜80で表されるペプチドのHLA−A*24:02に対するMFIが1.5以上を示し、配列番号4、配列番号12、配列番号20、配列番号35、配列番号47および配列番号65〜70で表されるペプチドのHLA−A*02:01およびHLA−A*24:02の両方に対するMFIが1.5以上を示した。
【0150】
【表3】
【0151】
実施例10:HLA−A*02:01遺伝子導入マウスおよびHLA−A*24:02遺伝子導入マウスを用いた、in vivoでのCTL誘導能の評価
実施例9においてHLA−A*02:01またはHLA−A*24:02に対するMFIが1.5以上のFAM83B由来ペプチドについて、CTL誘導能を、HLA−A*02:01遺伝子導入マウスあるいはHLA−A*24:02遺伝子導入マウスを用いたin vivoのCTL誘導試験によって評価した。
HLA−A*02:01遺伝子導入マウス(C57BL/6CrHLA−A2.1DR1)は、マウスのMHCを欠損し、ヒトのMHCであるHLA−A*02:01およびHLA−DRB1*01:01を発現するマウスであり、本マウスを用いることで、ヒトでCTLを誘導し得るペプチドの選択が可能である。また、HLA−A*24:02遺伝子導入マウスはヒトのMHCであるHLA−A*24:02を発現するマウスであり、本マウスを用いることで、ヒトでCTLを誘導し得るペプチドの選択が可能である。そこで、各ペプチドがCTL誘導活性を有するか否かは、上記マウスへのペプチド投与によって投与ペプチドに反応可能なT細胞が誘導されるか否かで判断した。
【0152】
具体的には、次のとおり行った。まず、ペプチドをジメチルスルホキシドで80mg/mLに溶解したのち注射用水で希釈し、等量の不完全フロイントアジュバント(IFAあるいはISA51VG)と混合し、エマルション化させた。エマルション化させたペプチドは、マウスの尾根部皮内に250μg/箇所の用量で2箇所投与した。1週間後に、マウスをCO
2ガスにより安楽死させたのち脾臓を摘出し、脾細胞を調製した。IFNγ産生の測定には、IFNγ ELISPOTアッセイキット(ベクトン・ディッキンソン社製)を用いた。脾細胞調製の前日に、ELISPOTプレートを抗IFNγ抗体で処理し、当日に10%FBSを含むRPMI1640培地でブロッキングした。調製した脾細胞を0.25〜1.0×10
6個/ウェルで、ブロッキングしたELISPOTプレートに播種した。投与したFAM83B由来ペプチドを、DMSOで40mg/mLに溶解し、さらに10%RPMI1640培地で20μg/mLに希釈した。希釈したペプチドを、50μL/ウェルでそのペプチドを投与した動物に由来する脾細胞に添加した。ペプチドを添加した脾細胞を、16〜18時間、37℃、5%CO
2下で培養することでin vitroにおけるペプチド再刺激を加えた。培養後に上清を除き、ELISPOTプレートを、添付のプロトコールに従って発色させた。発色したスポット数は、KS−ELISPOTによって測定した。
【0153】
IFNγ ELISPOTアッセイの結果は
図10〜
図19に示す。
本試験の結果、HLA−A*02:01遺伝子導入マウス由来の脾細胞において、ペプチド特異的なIFNγ産生が確認されたことより、配列番号4、20、29〜33、35、37、38、47、57、60、65〜68および71〜73で表されるFAM83B由来の各ペプチドがCTL誘導能を持つことがわかった。また、HLA−A*24:02遺伝子導入マウス由来の脾細胞において、ペプチド特異的なIFNγ産生が確認されたことより、配列番号4、6、9、12、14、15、20、23、24、47、65〜68、74、75および77〜80で表されるFAM83B由来のペプチドがCTL誘導能を持つことがわかった。したがって、配列番号4、20、47および65〜68で表されるFAM83B由来の各ペプチドが、HLA−A02型およびHLA−A24型の両方の対象においてCTL誘導能を有することが示された。
【0154】
実施例11:HLA−A24テトラマーアッセイ
a)ヒト末梢血単核細胞(PBMC)の分離
インフォームドコンセントを得たHLA−A24陽性がん患者の末梢血をヘパリン添加50mLシリンジにて採血した。全血を、リンフォプレップ(Axis-Shield PoC AS社)を15mL添加したLeucosepリンパ球分離チューブ50ML(グライナー社)に重層し、1000gで30分間遠心分離した。リンフォプレップ層上に沈殿したPBMC層をピペットにて回収し、PBSにて3回洗浄し、ヒトPBMCとした。
【0155】
b)MLPC
前記のように分離したPBMCを2mLのAIM−V培養液(Life Technologies社)に懸濁後、24ウェルプレートにて約1時間37℃で培養した。リンパ球が沈んだことを確認し、1mL培養液を捨てた。FAM83B(F476_9:配列番号47)ペプチド40μg/mLを添加後ピペッティングし、室温で30分静置した。37℃に温めておいた10%ヒトAB血清(HS)添加AIM−Vにインターロイキン2(IL−2)50U/mLを加えた培養液を1mL添加し、ピペッティングした後に37℃で7日間培養した。
【0156】
c)テトラマーアッセイ
7日間培養後のPBMCを15mLチューブ(BD社)に回収し、1×PBSを培養液の2倍量入れた後に1500rpm、5分、室温で遠心分離した。上澄みを捨てて、溶血用Lysing Buffer(BD社)を10倍希釈した溶液を2mL入れてピペッティングし、室温15分静置した。1500rpm、5分、室温で遠心分離し、上澄みを除いた後に1×PBSを2mL入れ、再び1500rpm、5分、室温で遠心分離した。上澄みを捨てて2%FBS(Thermo社)を加えた1×PBSを1mL入れてセルカウントを行った。5mL FACSチューブ(BD社)に10
5〜10
6個/100μLとなるように調整した細胞を、機器調整用4本とネガティブコントロール用1本、FAM83Bテトラマー用1本の計6本に100μLずつ分注した。ネガティブコントロールチューブにはHIV−PE、HIV−FITCテトラマー(MBL社)を各5μLずつ添加し、FAM83BテトラマーチューブにはHIV−FITC、FAM83B(F476_9)−PEテトラマー(MBL社)を各5μLずつ添加して氷上で1時間、遮光でインキュベートした。CD8−PC5(ベックマン・コールター社)を上記それぞれのチューブに3μLずつ添加した。また、機器調整用チューブにはCD8−FITC(ベックマン・コールター社)、CD8−PE(BD社)そしてCD8−PC5を各チューブに3μLずつ入れた。CD8添加後は氷上で1時間、遮光でインキュベートを行った。インキュベーション後、2%FBS入りPBS1mLを各チューブに添加し、1500rpm、5分、4℃で遠心分離した。この洗浄をもう一度繰り返し、1%ホルマリン(和光社)入りPBS液を500μL添加した。サンプルはFACS Calibur(BD社)にて解析を行った。
【0157】
結果を
図20に示す。患者Aから採取したPBMCおよび患者Bから採取したPBMCの両方において、ネガティブコントロールであるHIV−PEテトラマー陽性細胞数と比較して、FAM83B−PEテトラマー陽性細胞が有意に多く観察された(患者A:1.66%、患者B:2.36%)。これは、各患者由来のPBMCにF476_9ペプチドを添加してインキュベートすることによりCTLが誘導されたこと、該CTLをFAM83B−PEテトラマーにより検出できたことを示している。