特許第6960194号(P6960194)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6960194ガラスを用いた構造体の製造方法、コーティング層の形成方法およびコーティング液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6960194
(24)【登録日】2021年10月13日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】ガラスを用いた構造体の製造方法、コーティング層の形成方法およびコーティング液
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/42 20060101AFI20211025BHJP
【FI】
   C03C17/42
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2021-80704(P2021-80704)
(22)【出願日】2021年5月12日
【審査請求日】2021年5月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595016440
【氏名又は名称】株式会社アイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100120640
【弁理士】
【氏名又は名称】森 幸一
(72)【発明者】
【氏名】室川 敏治
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/008380(WO,A1)
【文献】 国際公開第2019/065035(WO,A1)
【文献】 特開2019−183149(JP,A)
【文献】 特開2013−129557(JP,A)
【文献】 特表2019−514829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/00
B32B 1/00 − 43/00
C08K 3/00 − 13/08
C08L 1/00 − 101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面側の少なくとも一部がガラスにより構成されている、ガラスを用いた構造体の上記ガラスの表面に、フッ素樹脂溶液と無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンのうちの少なくとも無機ポリシラザンとを含有し、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、300質量部以上500質量部以下であり、かつ上記有機ポリシラザンが100質量部以上300質量部以下であり、または、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、400質量部以上600質量部以下であり、かつ上記無機ポリシラザンが400質量部で上記有機ポリシラザンが0質量部以上200質量部以下であるコーティング液を塗布する工程を有する、ガラスを用いた構造体の製造方法。
【請求項2】
少なくとも表面側の少なくとも一部がガラスにより構成されている、ガラスを用いた構造体の製造方法であって、
ッ素樹脂と無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンのうちの少なくとも無機ポリシラザンとを含有し、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、300質量部以上500質量部以下であり、かつ上記有機ポリシラザンが100質量部以上300質量部以下であり、または、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、400質量部以上600質量部以下であり、かつ上記無機ポリシラザンが400質量部で上記有機ポリシラザンが0質量部以上200質量部以下であるコーティング液を上記ガラスの表面に塗布して硬化させることによりコーティング層を形成する
ことを特徴とする、ガラスを用いた構造体の製造方法
【請求項3】
フッ素樹脂と無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンのうちの少なくとも無機ポリシラザンとを含有し、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、300質量部以上500質量部以下であり、かつ上記有機ポリシラザンが100質量部以上300質量部以下であり、または、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、400質量部以上600質量部以下であり、かつ上記無機ポリシラザンが400質量部で上記有機ポリシラザンが0質量部以上200質量部以下であるコーティング液を塗布して硬化させることによりコーティング層を形成する、コーティング層の形成方法
【請求項4】
フッ素樹脂溶液と無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンのうちの少なくとも無機ポリシラザンとを含有し、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、300質量部以上500質量部以下であり、かつ上記有機ポリシラザンが100質量部以上300質量部以下であり、または、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、400質量部以上600質量部以下であり、かつ上記無機ポリシラザンが400質量部で上記有機ポリシラザンが0質量部以上200質量部以下であるコーティング液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガラスを用いた構造体の製造方法、ガラスを用いた構造体、コーティング層およびコーティング方法に関し、例えば、表面にガラスを有する各種製品のガラスの表面改質に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマ溶射法によるセラミックス溶射材の樹脂基材への密着性の向上を図るために、ポリシラザンとフッ素樹脂粉などの無機充填剤とを含む樹脂組成物を樹脂基材の表面に塗布する技術が知られている(特許文献1参照)。特許文献1では、樹脂組成物中の無機充填剤の含有量は、ポリシラザン100質量部に対して、100質量部〜300質量部が好ましく、150質量部〜250質量部がより好ましいとされている。
【0003】
一方、有機ポリシラザンと無機ポリシラザンとフッ素コート剤と不活性有機溶剤とを含有し、有機ポリシラザンと無機ポリシラザンとの合計の濃度が0.05質量%以上1.00質量%以下、フッ素コート剤の濃度が20質量%以上70質量%以下であるコーティング液を繊維または皮革を用いた構造体の表面に塗布する技術が知られている(特許文献2参照)。この技術によれば、表面改質効果を失うことなく構造体の表面に対する表面改質コーティング剤の密着性の向上を図ることができ、それによって長期間に亘って撥水、撥油、防汚などの改質効果を得ることができ、耐光性および耐候性に優れており、完成品である繊維製品、皮革製品などを含む各種の繊維または皮革を用いた構造体に適用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020−158678号公報
【特許文献2】特許第6771202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2には、ガラス上にコーティングを行った場合の有効性については何ら開示されていない。
【0006】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、ガラスを用いた構造体のガラスの表面にコーティングを行った場合にコーティング層の持続性および撥水性の大幅な向上を図ることができる、ガラスを用いた構造体およびその製造方法を提供することである。
【0007】
この発明が解決しようとする他の課題は、上記のガラスを用いた構造体に適用して好適なコーティング層およびコーティング液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は、
少なくとも表面側の少なくとも一部がガラスにより構成されている、ガラスを用いた構造体の上記ガラスの表面に、フッ素樹脂溶液と無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンのうちの少なくとも無機ポリシラザンとを含有し、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、300質量部以上500質量部以下であり、かつ上記有機ポリシラザンが100質量部以上300質量部以下であり、または、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、400質量部以上600質量部以下であり、かつ上記無機ポリシラザンが400質量部で上記有機ポリシラザンが0質量部以上200質量部以下であるコーティング液を塗布する工程を有する、ガラスを用いた構造体の製造方法である。
【0009】
ここで、フッ素樹脂溶液は、フッ素を含むオレフィンを重合して得られる合成樹脂を不活性有機溶剤に含有させたものである。このフッ素樹脂溶液は、株式会社フロロサーフテクノロジーからフッ素コーティング剤として、商品番号FG−5084TH−0.1やFG−5084F130−0.1で市販されており、これらの商品は各種の濃度のフッ素樹脂含有溶液として入手して使用することができる。無機ポリシラザン(ペルヒドロポリシラザン(PHPS))は、珪素(Si)、窒素(N)および水素(H)のみから構成される化合物であり、炭素などの有機成分を含まない無機のポリマーであり、−(SiH2 NH)−ユニットから構成されている。この無機ポリシラザンは「Durazane」(登録商標)として、商品番号Durazane2200、Durazane2400、Durazane2600、Durazane2800で市販されており、これらの商品は各種の固形分濃度の有機溶剤溶液として入手して使用することができる。特に好ましいものはジブチルエーテルの溶液となっている商品番号Durazane2800である。有機ポリシラザン(オルガノポリシラザン(OPSZ))は、珪素(Si)、窒素(N)、水素(H)およびメチル基(CH3 )から構成される化合物であり、炭素を含む有機のポリマーであり、−(SiH2 NHCH3 )−ユニットから構成されている。この有機ポリシラザンは、ドイツメルク社から「Durazane」(登録商標)として、商品番号Durazane1033、Durazane1800、Durazane1500で市販されており、これらの商品は各種の固形分濃度の有機溶剤溶液として入手して使用することができる。特に好ましいものはジブチルエーテルの溶液となっていてかつ常温での硬化が速い商品番号Durazane1500RCである。
【0010】
コーティング液には、必要に応じて、フッ素樹脂溶液、無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザン以外の成分を含有させてもよい。例えば、コーティング液には、フッ素樹脂に加えて酸化チタン、銅、ヨウ素またはナノ銀系改質剤を含ませることができ、そうすることでガラス製品などについて防臭・抗菌・帯電防止効果を付与することができ、防汚効果の向上を図ることができる。
【0011】
ガラスを用いた構造体に対するコーティング液の塗布方法は特に限定されず、必要に応じて選択されるが、その構造体の形状に適した塗布方法が用いられ、例えば、スプレー法、ディッピング法、刷毛塗り法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ法、インクジェット法などが挙げられる。塗布量は特に限定されず、必要に応じて選択される。塗布層の硬化は、塗布後に空気中に放置しておいても進行するが、加熱することによって硬化を促進することができる。また、硬化には、塗布物に対するヒートブロワーなどの熱風加工機による加熱を行ってもよい。
【0012】
ガラスを用いた構造体は、少なくとも表面側の少なくとも一部がガラスにより構成されている限り、特に限定されないが、例えば、表面側の一部がガラスにより構成された各種の製品のほか、ガラス基板そのものも含む。表面側の一部がガラスにより構成された各種の製品としては、例えば、スマートフォン、タブレット端末、太陽電池パネル、自動車、医療機器などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、スマートフォンやタブレット端末のディスプレイの表面のガラス面にコーティング層を形成することにより、指先でディスプレイを操作するときの滑り性の向上、従って操作性の向上を図ることができることに加えて、ガラス面の防汚性能の向上を図ることができる。また、太陽電池パネル、自動車、医療機器などのガラス面にコーティング層を形成することにより、ガラス面の防汚性能の向上を図ることができる。
【0013】
また、この発明は、
少なくとも表面側の少なくとも一部がガラスにより構成されている、ガラスを用いた構造体の製造方法であって、
ッ素樹脂と無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンのうちの少なくとも無機ポリシラザンとを含有し、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、300質量部以上500質量部以下であり、かつ上記有機ポリシラザンが100質量部以上300質量部以下であり、または、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、400質量部以上600質量部以下であり、かつ上記無機ポリシラザンが400質量部で上記有機ポリシラザンが0質量部以上200質量部以下であるコーティング液を上記ガラスの表面に塗布して硬化させることによりコーティング層を形成する
ことを特徴とする、ガラスを用いた構造体の製造方法である。
【0014】
また、この発明は、
フッ素樹脂と無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンのうちの少なくとも無機ポリシラザンとを含有し、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、300質量部以上500質量部以下であり、かつ上記有機ポリシラザンが100質量部以上300質量部以下であり、または、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、400質量部以上600質量部以下であり、かつ上記無機ポリシラザンが400質量部で上記有機ポリシラザンが0質量部以上200質量部以下であるコーティング液を塗布して硬化させることによりコーティング層を形成する、コーティング層の形成方法である。
【0015】
このコーティング層の発明は、ガラスを用いた構造体のガラスの表面に適用して好適なものである。
【0016】
また、この発明は、
フッ素樹脂溶液と無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンのうちの少なくとも無機ポリシラザンとを含有し、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、300質量部以上500質量部以下であり、かつ上記有機ポリシラザンが100質量部以上300質量部以下であり、または、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、400質量部以上600質量部以下であり、かつ上記無機ポリシラザンが400質量部で上記有機ポリシラザンが0質量部以上200質量部以下であるコーティング液である。
【0017】
このコーティング液の発明は、上記のコーティング層の形成に適用して好適なものである。
【0018】
上記の、ガラスを用いた構造体、コーティング層およびコーティング液の各発明においては、特にその性質に反しない限り、上記のガラスを用いた構造体の製造方法の発明に関連して説明したことが成立する。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、ガラスを用いた構造体のガラスの表面に上記のコーティング液を用いてコーティングを行うことにより、コーティング層の表面の初期の摩擦力を低くすることができ、しかもコーティング層の表面が繰り返し摩擦されたときの摩擦力の増加を低く抑えることができることにより優れた持続性を有するだけでなく、高い撥水性を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】表1に示す各種のコーティング液を用いてガラス基板上にコーティングを行うことにより形成されたコーティング層に対してボールオンディスク摩擦摩耗試験機を用いて摩擦摩耗試験を行った結果得られた動的摩擦力の回転ディスクの回転数に対する変化を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」とする)について説明する。
【0022】
〈一実施の形態〉
[ガラスを用いた構造体の製造方法]
まず、この製造方法において使用されるコーティング液について説明する。
【0023】
コーティング液としては、フッ素樹脂溶液と無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンのうちの少なくとも無機ポリシラザンとを含有し、無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンの含有量が、フッ素樹脂100質量部に対し、300質量部以上500質量部以下であり、かつ有機ポリシラザンが100質量部以上300質量部以下であり、または、無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンの含有量が、フッ素樹脂100質量部に対し、400質量部以上600質量部以下であり、かつ無機ポリシラザンが400質量部で有機ポリシラザンが0質量部以上200質量部以下であるコーティング液を用いる。具体的には、ここでは、下記の組成のコーティング液Aまたはコーティング液Bを用いる。
【0024】
(コーティング液A)
フッ素樹脂溶液:フッ素樹脂成分0.1質量%、不活性有機溶剤99.4質量%以上99.6質量%以下
無機ポリシラザン+有機ポリシラザン:合計で0.3質量%以上0.5質量%以下
無機ポリシラザン:0.2質量%
有機ポリシラザン:0.1質量%以上0.3質量%以下
【0025】
(コーティング液B)
フッ素樹脂溶液:フッ素樹脂成分0.1質量%、不活性有機溶剤99.3質量%以上99.5質量%以下
無機ポリシラザン+有機ポリシラザン:合計で0.4質量%以上0.6質量%以下
無機ポリシラザン:0.4質量%
有機ポリシラザン:0質量%以上0.2質量%以下
【0026】
コーティング液Aまたはコーティング液Bを少なくとも表面側の少なくとも一部がガラスにより構成された、ガラスを用いた構造体のガラスの表面に塗布する。塗布方法は既に挙げた方法を用いる。
【0027】
上記のようにしてコーティング液の塗布を行った後、空気中に放置したり、例えば240℃以下の温度で加熱したり、ヒートブロワーなどの熱風加工機により加熱したりすることにより数分で塗布層を硬化させる。空気中に放置する場合は、コーティング液の溶剤の蒸発とともに、空気中の水分の吸収による加水分解が起き、通常は4日で硬化が完了する。構造体の素材の耐熱温度に従って温度と加熱時間とを調整することにより、耐熱性が低い構造体であっても表面処理を問題なく行うことができる。
【0028】
以上により、ガラスを用いた構造体のガラスの表面にコーティング層を形成することができ、表面改質を行うことができる
【0029】
[実施例]
(試験1)
試験1では、コーティング液中の無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンの濃度によって、最終的に得られるコーティング層の持続性にどのような違いが発生するかを評価した。
【0030】
試験1に用いた試料は次のようにして作製した。
【0031】
市販の厚さ1mmのシリカガラス大判の表面を無水エタノールで脱脂した後、4cm×4cm(摩擦摩耗試験での最大サイズで、接触角試験でのサイズを維持)に切断し、試料作製用のガラス基板を多数作製した。それぞれのガラス基板の表面に無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンの濃度の異なるコーティング液を塗布した。その際、シリカガラスでの表裏による違いを排除するため、各ガラス基板の同一面を塗布面とした。
【0032】
試料の番号およびコーティングに使用したコーティング液の組成を表1に示す。表1の冒頭に示されているNoneはコーティングを行っていない試料(ガラス基板そのもの)、Onlyは無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンのいずれも含有せず、フッ素樹脂のみ含有するコーティング液を用いてコーティングを行った場合である。コーティング液中のフッ素樹脂の濃度を0.10質量%に固定し、無機ポリシラザンの濃度および有機ポリシラザンの濃度を変えた。試料10−1、10−2、10−3は上記のコーティング液Aに含まれるコーティング液を用いた場合、試料20−0、20−1、20−2は上記のコーティング液Bに含まれるコーティング液を用いた場合である。有機ポリシラザンとしてはDurazane1500RC(100%溶液)、無機ポリシラザンとしてはDurazane2800(20%溶液)、フッ素樹脂溶液としては株式会社フロロテクノロジーのFG−5084F130−0.1(フッ素樹脂0.1質量%)を用いた。
【0033】
【表1】
【0034】
表1に示す各組成のコーティング液をガラス基板上にマイクロファイバークロスにて3回塗布した。塗布後、48時間超放置し、乾燥硬化させた。
【0035】
こうしてコーティング層を形成した各試料に対し、ボールオンディスク摩擦摩耗試験機(株式会社ナノテック製)を使用して常温で摩擦摩耗試験を行った。この摩擦摩耗試験では、直径1/6インチのポリテトラフルオロエチレン製のボールを使用し、試料が載せられる回転ディスクの回転数は50rpm、ボールに加えられる荷重は1ニュートン(N)、ボールの回転半径は18mm、計測は1Hzで行った。
【0036】
表1に各試料のコーティング層の持続性の評価結果を示す。ここで、持続性は、無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンを含有せず、フッ素樹脂のみ含有するコーティング液を用いてコーティングを行うことにより得られたNoneの試料と比較して摩擦力(動的摩擦力)および傾斜率(回転ディスクの回転数に対する摩擦力の変化率)が共に低いことが高評価であるものとする。また、図1は各試料について回転ディスクの回転数に対する摩擦力の推移をグラフ化したものである。表1より、無機ポリシラザンと有機ポリシラザンとの合計の濃度が0.30質量%以上0.50質量%以下かつ有機ポリシラザンの濃度が0.10質量%以上0.30質量%以下のコーティング液を用いてコーティングを行った試料10−1、10−2、10−3および無機ポリシラザンと有機ポリシラザンとの合計の濃度が0.40質量%以上0.60質量%以下かつ有機ポリシラザンの濃度が0質量%以上0.20質量%以下のコーティング液を用いてコーティングを行った試料20−0、20−1、20−1の持続性は極めて良好である。また、図1に示す結果からも、これらの試料10−1、10−2、10−3、20−0、20−1、20−2については、傾斜率が小さく持続性が良好であることが確認できる。
【0037】
(2)試験2
試験2では、摩擦摩耗試験を行う前の表1に示す試料について、コーティング液中の無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンの濃度によって、最終的に得られるコーティング層の撥水性にどのような違いが発生するかを接触角の測定を行って評価した。
【0038】
接触角の試験は、水滴接触角試験機(株式会社協和界面科学社製DM−501)を使用して行った。水滴接触角試験機では、液滴法で2μリットルの純水を滴下し、その接触角を測定した。
【0039】
接触角の測定結果を表1に示す。表1より、試料10−1、10−2、10−3、20−0、20−1、20−2については、接触角が90度〜99度と極めて大きく、極めて優れた撥水性を有することが確認できる。
【0040】
試験1、2の結果より、試料10−1、10−2、10−3、20−0、20−1、20−2については、持続性および撥水性とも優れていることがわかる。
【0041】
以上のように、この一実施の形態によれば、少なくとも表面側の少なくとも一部がガラスにより構成された、ガラスを用いた構造体のガラスの表面に、フッ素樹脂溶液と無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンのうちの少なくとも無機ポリシラザンとを含有し、無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンの含有量が、フッ素樹脂100質量部に対し、300質量部以上500質量部以下であり、かつ有機ポリシラザンが100質量部以上300質量部以下であり、または、無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンの含有量が、フッ素樹脂100質量部に対し、400質量部以上600質量部以下であり、かつ無機ポリシラザンが400質量部で有機ポリシラザンが0質量部以上200質量部以下であるコーティング液を塗布することにより、持続性および撥水性が共に優れたコーティング層を形成することができ、それによって長期間に亘って構造体のガラスの表面を低摩擦および高撥水性の状態に維持し続けることができる。また、コーティングは1回で済むため極めて容易でコストも掛からない。
【0042】
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
この発明は、表面にガラスを有する製品などの、ガラスを用いた構造体のガラスの表面改質に利用することが可能である。
【要約】
【課題】ガラスを用いた構造体のガラスの表面にコーティングを行った場合にコーティング層の持続性および撥水性の大幅な向上を図ることができる、ガラスを用いた構造体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ガラスを用いた構造体の製造方法は、そのガラスの表面に、フッ素樹脂溶液と無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンのうちの少なくとも無機ポリシラザンとを含有し、無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンの含有量が、フッ素樹脂100質量部に対し、300質量部以上500質量部以下であり、かつ有機ポリシラザンが100質量部以上300質量部以下であり、または、無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンの含有量が、フッ素樹脂100質量部に対し、400質量部以上600質量部以下であり、かつ有機ポリシラザンが0質量部以上200質量部以下であるコーティング液を塗布する工程を有する。
【選択図】図1
図1