特許第6960210号(P6960210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 伊藤 悦朗の特許一覧

<>
  • 特許6960210-タンパク質及び核酸の超高感度測定方法 図000004
  • 特許6960210-タンパク質及び核酸の超高感度測定方法 図000005
  • 特許6960210-タンパク質及び核酸の超高感度測定方法 図000006
  • 特許6960210-タンパク質及び核酸の超高感度測定方法 図000007
  • 特許6960210-タンパク質及び核酸の超高感度測定方法 図000008
  • 特許6960210-タンパク質及び核酸の超高感度測定方法 図000009
  • 特許6960210-タンパク質及び核酸の超高感度測定方法 図000010
  • 特許6960210-タンパク質及び核酸の超高感度測定方法 図000011
  • 特許6960210-タンパク質及び核酸の超高感度測定方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6960210
(24)【登録日】2021年10月13日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】タンパク質及び核酸の超高感度測定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/32 20060101AFI20211025BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20211025BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20211025BHJP
   G01N 33/535 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   C12Q1/32
   C12Q1/68 A
   G01N33/53 D
   G01N33/53 M
   G01N33/535
【請求項の数】13
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-68686(P2016-68686)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-176039(P2017-176039A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年3月18日
【審判番号】不服2020-15298(P2020-15298/J1)
【審判請求日】2020年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】507100649
【氏名又は名称】伊藤 悦朗
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 悦朗
(72)【発明者】
【氏名】三浦 敏明
(72)【発明者】
【氏名】吉村 昭毅
(72)【発明者】
【氏名】渡部 聡
【合議体】
【審判長】 田村 聖子
【審判官】 長井 啓子
【審判官】 平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/117816(WO,A1)
【文献】 国際公開第93/12254(WO,A1)
【文献】 特開2001−161399(JP,A)
【文献】 特開2008−187966(JP,A)
【文献】 特開2006−254730(JP,A)
【文献】 特開平4−278099(JP,A)
【文献】 特開平9−271398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q, G01N
CAPlus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JST7580/JMEDPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体酵素複合体の酵素による反応生成物の定量が、
NADHおよび/またはNADPH、チオNADおよび/またはチオNADP、並びにデヒドロゲナーゼ(DH)を用いた酵素サイクリング反応により、チオNADHおよび/またはチオNADPHを生成させ、生成したチオNADHおよび/またはチオNADPHの量を測定するか、または生成したチオNADHおよび/またはチオNADPHによる色の変化を計測することで行われる、抗体酵素複合体を用いる酵素測定方法であって、
前記酵素サイクリング反応の系に、前記酵素サイクリング反応でNADHおよび/またはNADPHから生成した、NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系を共存させること、並びに前記NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系は、基質が、抗体酵素複合体の酵素の基質及び酵素サイクリング反応の酵素の基質にならず、かつ酵素が、抗体酵素複合体の酵素の基質及び酵素サイクリング反応の酵素の基質と反応しない酵素であり、以下の(i)〜(ix)のいずれかの酵素と基質の組み合わせであることを特徴とする方法。
(i)グルタミン酸デヒドロゲナーゼ及びグルタミン酸、
(ii)ロイシンデヒドロゲナーゼ及びロイシン、
(iii)アラニンデヒドロゲナーゼ及びアラニン、
(iv)フェニルアラニンデヒドロゲナーゼ及びフェニルアラニン、
(v)セリンデヒドロゲナーゼ及びセリン、
(vi)バリンデヒドロゲナーゼ及びバリン、
(vii)トリプトファンデヒドロゲナーゼ及びトリプトファン、
(viii)アスパラギン酸デヒドロゲナーゼ及びアスパラギン酸、
(ix)D−3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ及びD−3−ヒドロキシ酪酸
【請求項2】
酵素標識核酸プローブの酵素による反応生成物の定量が、
NADHおよび/またはNADPH、チオNADおよび/またはチオNADP、並びにデヒドロゲナーゼ(DH)を用いた酵素サイクリング反応により、チオNADHおよび/またはチオNADPHを生成させ、生成したチオNADHおよび/またはチオNADPHの量を測定するか、または生成したチオNADHおよび/またはチオNADPHによる色の変化を計測することで行われる、酵素標識核酸プローブを用いる核酸プローブ測定方法であって、
前記酵素サイクリング反応の系に、前記酵素サイクリング反応でNADHおよび/またはNADPHから生成した、NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系を共存させること、並びに前記NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系は、基質が、酵素標識核酸プローブの酵素の基質及び酵素サイクリング反応の酵素の基質にならず、かつ酵素が、酵素標識核酸プローブの酵素の基質及び酵素サイクリング反応の酵素の基質と反応しない酵素であり、以下の(i)〜(ix)のいずれかの酵素と基質の組み合わせであることを特徴とする方法。
(i)グルタミン酸デヒドロゲナーゼ及びグルタミン酸、
(ii)ロイシンデヒドロゲナーゼ及びロイシン、
(iii)アラニンデヒドロゲナーゼ及びアラニン、
(iv)フェニルアラニンデヒドロゲナーゼ及びフェニルアラニン、
(v)セリンデヒドロゲナーゼ及びセリン、
(vi)バリンデヒドロゲナーゼ及びバリン、
(vii)トリプトファンデヒドロゲナーゼ及びトリプトファン、
(viii)アスパラギン酸デヒドロゲナーゼ及びアスパラギン酸、
(ix)D−3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ及びD−3−ヒドロキシ酪酸
【請求項3】
前記NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系の酵素と基質の組み合わせは、(i)〜(iv)及び(ix)のいずれかの酵素と基質の組み合わせである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記酵素サイクリング反応の酵素は、ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記酵素サイクリング反応系の酵素は、ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼであり、前記NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系の酵素は、CH−OHを電子供与体とするEC番号1.1.1.−で表される酵素群、アルデヒドまたはオキソ基を電子供与体とするEC番号1.2.1.−で表される酵素群、CH−CHを電子供与体とするEC番号1.3.1.−で表される酵素群、CH−NH2を電子供与体とするEC番号1.4.1.−で表される酵素群、CH−NHを電子供与体とするEC番号1.5.1.−で表される酵素群の中から選択される酵素である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記抗体酵素複合体の酵素または前記酵素標識核酸プローブの酵素が、アルカリホスファターゼ、グルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、フルクトシダーゼ、マンノシダーゼ、及びペルオキシダーゼから成る群から選ばれる少なくとも1種の酵素である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
以下の(1)〜(6)の試薬を含む酵素免疫測定用キット。
(1)標的タンパク質抗原に特異的な抗体を標識した酵素、
(2)上記(1)の酵素の基質、
(3)デヒドロゲナーゼ、
(4)NADHおよび/またはNADPH、
(5)チオNADおよび/またはチオNADP、
(6)NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系、
但し、前記NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系(6)は、基質が、(1)の酵素の基質及び(3)のデヒドロゲナーゼの基質にならず、かつ酵素が、(2)の基質及び(5)のチオNADおよび/またはチオNADPと反応しない酵素であり、以下の(i)〜(ix)のいずれかの酵素と基質の組み合わせである。
(i)グルタミン酸デヒドロゲナーゼ及びグルタミン酸、
(ii)ロイシンデヒドロゲナーゼ及びロイシン、
(iii)アラニンデヒドロゲナーゼ及びアラニン、
(iv)フェニルアラニンデヒドロゲナーゼ及びフェニルアラニン、
(v)セリンデヒドロゲナーゼ及びセリン、
(vi)バリンデヒドロゲナーゼ及びバリン、
(vii)トリプトファンデヒドロゲナーゼ及びトリプトファン、
(viii)アスパラギン酸デヒドロゲナーゼ及びアスパラギン酸、
(ix)D−3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ及びD−3−ヒドロキシ酪酸
【請求項8】
以下の(1)〜(6)の試薬を含む核酸プローブ測定用キット。
(1)標的核酸に特異的に結合する核酸プローブで標識した酵素、
(2)上記(1)の酵素の基質、
(3)デヒドロゲナーゼ、
(4)NADHおよび/またはNADPH、
(5)チオNADおよび/またはチオNADP、
(6)NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系、
但し、前記NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系(6)は、基質が、(1)の酵素基質及び(3)のデヒドロゲナーゼ基質にならず、かつ酵素が、(2)の基質及び(5)のチオNADおよび/またはチオNADPと反応しない酵素であり、以下の(i)〜(ix)のいずれかの酵素と基質の組み合わせである。
(i)グルタミン酸デヒドロゲナーゼ及びグルタミン酸、
(ii)ロイシンデヒドロゲナーゼ及びロイシン、
(iii)アラニンデヒドロゲナーゼ及びアラニン、
(iv)フェニルアラニンデヒドロゲナーゼ及びフェニルアラニン、
(v)セリンデヒドロゲナーゼ及びセリン、
(vi)バリンデヒドロゲナーゼ及びバリン、
(vii)トリプトファンデヒドロゲナーゼ及びトリプトファン、
(viii)アスパラギン酸デヒドロゲナーゼ及びアスパラギン酸、
(ix)D−3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ及びD−3−ヒドロキシ酪酸
【請求項9】
前記(6)の酵素反応系の酵素と基質の組み合わせは、(i)〜(iv)及び(ix)のいずれかの酵素と基質の組み合わせである請求項7及び8のいずれかに記載のキット。
【請求項10】
前記(3)のデヒドロゲナーゼは、ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(HSD)である請求項7〜9のいずれかに記載のキット。
【請求項11】
前記(6)の酵素反応系の酵素は、CH−OHを電子供与体とするEC番号1.1.1.−で表される酵素群、アルデヒドまたはオキソ基を電子供与体とするEC番号1.2.1.−で評される酵素群、CH−CHを電子供与体とするEC番号1.3.1.−で表される酵素群、CH−NH2を電子供与体とするEC番号1.4.1.−で表される酵素群、CH−NHを電子供与体とするEC番号1.5.1.−で表される酵素群の中から選択される酵素である、請求項7〜10のいずれかに記載のキット。
【請求項12】
前記(1)の抗体標識酵素の酵素が、アルカリホスファターゼ、グルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、フルクトシダーゼ、マンノシダーゼ、及びペルオキシダーゼから成る群から選ばれる少なくとも1種の酵素である、請求項7、9〜11のいずれかに記載のキット。
【請求項13】
前記(1)の核酸プローブ標識酵素の酵素が、アルカリホスファターゼ、グルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、フルクトシダーゼ、マンノシダーゼ、及びペルオキシダーゼから成る群から選ばれる少なくとも1種の酵素である、請求項8〜11のいずれかに記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質及び核酸の超高感度測定方法に関する。本発明は、より詳細には、酵素免疫測定法および核酸プローブ測定法を利用するタンパク質と核酸の高感度測定法およびキットに関する。特に本発明は、抗体または核酸プローブに標識する酵素により生成された酵素反応生成物を基質とするチオNADサイクリング法によりチオ-NAD(P)Hを増幅することで、標的タンパク質および核酸の超高感度測定を可能にする方法において、チオNADサイクリング法によるチオ-NAD(P)Hの増幅をより増強させた方法およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タンパク質や核酸の高感度測定法は、放射性物質を用いない方法が主である。タンパク質の測定の代表例は酵素免疫測定法(ELISA法)であり、核酸の測定にはPCR法を用いる方法がある。酵素免疫測定法は開発当初の比色法(10-13mole)から蛍光法、発光法へと高感度化(10-15mole)が進められ、専用測定装置の開発・改良も進んでいる。しかし、測定操作が簡便になっただけで感度的には限界に達している。また、核酸の高感度測定法としてのPCR法では、ターゲット特異的なシグナル検出の問題、増幅効率の問題、PCR産物がプラトーに達する条件等を考え合わせると、核酸の定量は厳密には難しい。
【0003】
WO2008/117816(特許文献1)及びWO2012/128338(特許文献2)には、チオNADサイクリング法を利用する抗体酵素複合体を用いる酵素測定方法及び酵素標識核酸プローブを用いる核酸プローブ測定方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2008/117816
【特許文献2】WO2012/128338
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法は、酵素免疫測定法を、酵素免疫測定法で用いる標識酵素の生成物を基質とする酵素サイクリング法と組み合わせ、シグナル物質としてチオNAD(P)Hを幾何級数的に増幅することで、比色法によって、高感度にタンパク質または核酸の定量や目視による検出が可能な方法である。
【0006】
特許文献2に記載の方法は、特許文献1に記載の方法における、標識酵素と基質との反応性や標識酵素に対する基質が酵素サイクリング法における酵素反応に対する部分的な阻害を回避した、より改良された方法である。
【0007】
しかし、特許文献1及び2に記載の方法における検出感度をより高めた方法が望まれている。特許文献1及び2に記載の方法の範囲内で検出感度を高めるためには、例えば、第一段階である酵素免疫測定法についての条件の最適化及び第二段階である酵素サイクリング法についての条件の最適化がある。本発明者らは、酵素サイクリング法についての条件の最適化及びその問題点について検討した。酵素サイクリング法の基本原理を下記に示す。第一段階である酵素免疫測定法または核酸プローブ法により基質(還元型)が生成し、この基質(還元型)とNAD(P)H及びチオ-NAD(P)+から、400nmに吸収を有するチオ-NAD(P)Hを生成させ、チオ-NAD(P)Hの生成量を定量するか、目視で検出する。
【0008】
【化1】
【0009】
この酵素サイクリング反応系においては、一定量の基質(還元型)に対して、チオ-NAD(P)Hの生成量が高くなればなるほど検出感度は高まり、それをより短時間に行うことができれば、操作時間を短縮することができる。
【0010】
本発明者らのその後の検討によれば、この酵素サイクリング反応系においては、脱水素酵素(デヒドロゲナーゼ)はNAD(P)H量が増すと阻害される傾向があり、一方、NAD(P)H量が少ないと、反応系内のNAD(P)Hが早期に枯渇してしまいチオ-NAD(P)+からチオ-NAD(P)Hへの反応量が少なく、チオ-NAD(P)Hの生成量が低くなり、検出感度を高めることができないことが判明した。それに対してこの問題は、チオ-NAD(P)+とNAD(P)Hの添加量を両者の比率を変えずに増加させることで解決できることが判明した。しかし、チオ-NAD(P)+の添加量を増すと、チオ-NAD(P)+の光吸収(400nm)により、反応開始前でも着色が生じてしまい、ブランクでも呈色するという新たな問題が判明し、検出感度の向上には適さない方法であった。
【0011】
この様な状況下、上記酵素サイクリング反応系において、一定量の基質(還元型)に対して、単位時間当たりのチオ-NAD(P)Hの生成量を高くして、検出感度を高め、これを酵素免疫測定法等と組み合わせて、従来よりさらに高感度でタンパク質または核酸の定量や目視による検出が可能である方法を提供することが、本発明の目的(解決すべき課題)である。
【0012】
尚、単位時間当たりのチオ-NAD(P)Hの生成量を高くできれば、同一のチオ-NAD(P)Hの生成量に到達する時間はより短くでき、操作時間を短縮することができる。
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々の実験検討を重ねた。その結果、上記酵素サイクリング反応系に、チオ-NAD(P)+とチオ-NAD(P)Hの反応には関与せず、酵素サイクリング反応で生成する-NAD(P)+を還元して、NAD(P)Hを生成(再生)させる系を共存させることで、上記課題を解決することができることを見出して、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の通りである。
[1]
抗体酵素複合体の酵素による反応生成物の定量が、
NADHおよび/またはNADPH、チオNADおよび/またはチオNADP、並びにデヒドロゲナーゼ(DH)を用いた酵素サイクリング反応により、チオNADHおよび/またはチオNADPHを生成させ、生成したチオNADHおよび/またはチオNADPHの量を測定するか、または生成したチオNADHおよび/またはチオNADPHによる色の変化を計測することで行われる、抗体酵素複合体を用いる酵素測定方法であって、
前記酵素サイクリング反応の系に、前記酵素サイクリング反応でNADHおよび/またはNADPHから生成した、NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系を共存させることを特徴とする方法。
[2]
前記NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系は、基質が、抗体酵素複合体の酵素の基質及び酵素サイクリング反応の酵素の基質にならず、かつ酵素が、抗体酵素複合体の酵素の基質及び酵素サイクリング反応の酵素の基質と反応しない酵素であり、[1]に記載の方法。
[3]
酵素標識核酸プローブの酵素による反応生成物の定量が、
NADHおよび/またはNADPH、チオNADおよび/またはチオNADP、並びにデヒドロゲナーゼ(DH)を用いた酵素サイクリング反応により、チオNADHおよび/またはチオNADPHを生成させ、生成したチオNADHおよび/またはチオNADPHの量を測定するか、または生成したチオNADHおよび/またはチオNADPHによる色の変化を計測することで行われる、酵素標識核酸プローブを用いる核酸プローブ測定方法であって、
前記酵素サイクリング反応の系に、前記酵素サイクリング反応でNADHおよび/またはNADPHから生成した、NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系を共存させることを特徴とする方法。
[4]
前記NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系は、基質が、酵素標識核酸プローブの酵素の基質及び酵素サイクリング反応の酵素の基質にならず、かつ酵素が、酵素標識核酸プローブの酵素の基質及び酵素サイクリング反応の酵素の基質と反応しない酵素であり、[3]に記載の方法。
[5]
前記NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系の酵素は、デヒドロゲナーゼである[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
前記酵素サイクリング反応の酵素は、ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼであり、前記NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系の酵素は、ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ以外のデヒドロゲナーゼである[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
前記酵素サイクリング反応系の酵素は、ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼであり、前記NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系の酵素は、CH-OHを電子供与体とするEC番号1.1.1.-で表される酵素群、アルデヒドまたはオキソ基を電子供与体とするEC番号1.2.1.-で表される酵素群、CH-CHを電子供与体とするEC番号1.3.1.-で表される酵素群、CH-NH2を電子供与体とするEC番号1.4.1.-で表される酵素群、CH-NHを電子供与体とするEC番号1.5.1.-で表される酵素群の中から選択される酵素である、[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
前記抗体酵素複合体の酵素または前記酵素標識核酸プローブの酵素が、アルカリホスファターゼ、グルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、フルクトシダーゼ、マンノシダーゼ、及びペルオキシダーゼから成る群から選ばれる少なくとも1種の酵素である、[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9]
以下の(1)〜(6)の試薬を含む酵素免疫測定用キット。
(1)標的タンパク質抗原に特異的な抗体を標識した酵素、
(2)上記(1)の酵素の基質、
(3)デヒドロゲナーゼ、
(4)NADHおよび/またはNADPH、
(5)チオNADおよび/またはチオNADP、
(6)NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系
[10]
以下の(1)〜(6)の試薬を含む核酸プローブ測定用キット。
(1)標的核酸に特異的に結合する核酸プローブで標識した酵素、
(2)上記(1)の酵素の基質、
(3)デヒドロゲナーゼ、
(4)NADHおよび/またはNADPH、
(5)チオNADおよび/またはチオNADP、
(6)NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系
[11]
前記(6)の酵素反応系の酵素は、デヒドロゲナーゼである[9]及び[10]のいずれかに記載のキット。
[12]
前記(6)の酵素反応系は、基質が、(1)の酵素の基質及び(3)のデヒドロゲナーゼの基質にならず、酵素が、(2)の基質及び(5)のチオNADおよび/またはチオNADPと反応しない、[9]〜[11]のいずれかに記載のキット。
[13]
前記(3)のデヒドロゲナーゼは、ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(HSD)であり、
前記(6)の酵素反応系の酵素は、HSD(ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ)以外のデヒドロゲナーゼである[9]〜[12]のいずれかに記載のキット。
[14]
前記(6)の酵素反応系の酵素は、CH-OHを電子供与体とするEC番号1.1.1.-で表される酵素群、アルデヒドまたはオキソ基を電子供与体とするEC番号1.2.1.-で評される酵素群、CH-CHを電子供与体とするEC番号1.3.1.-で表される酵素群、CH-NH2を電子供与体とするEC番号1.4.1.-で表される酵素群、CH-NHを電子供与体とするEC番号1.5.1.-で表される酵素群の中から選択される酵素である、[9]〜[13]のいずれかに記載のキット。
[15]
前記(1)の抗体標識酵素の酵素が、アルカリホスファターゼ、グルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、フルクトシダーゼ、マンノシダーゼ、及びペルオキシダーゼから成る群から選ばれる少なくとも1種の酵素である、[9]、[11]〜[14]のいずれかに記載のキット。
[16]
前記(1)の核酸プローブ標識酵素の酵素が、アルカリホスファターゼ、グルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、フルクトシダーゼ、マンノシダーゼ、及びペルオキシダーゼから成る群から選ばれる少なくとも1種の酵素である、[10]〜[14]のいずれかに記載のキット。
【発明の効果】
【0015】
従来法よりさらに高感度でタンパク質または核酸の定量や目視による検出が可能である、酵素免疫測定法および核酸プローブ測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】比較例(従来法)の測定結果。
図2】実施例1で得られたグルタミン酸デヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定結果。
図3】実施例2で得られたロイシンデヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定結果。
図4】実施例3で得られたアラニンデヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定結果。
図5】実施例4で得られたフェニルアラニンデヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定結果。
図6】実施例5で得られたリンゴ酸デヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定結果。
図7】実施例6で得られたD-3-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定結果。
図8】実施例7で得られた乳酸デヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定結果。
図9】実施例8で得られたグルタミン酸デヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定結果(従来法との比較を含む)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願明細書において、-NAD(P)+は、NADおよび/またはNADPと同義であり、NAD(P)Hは、NADHおよび/またはNADPHと同義であり、
チオ-NAD(P)+は、チオNADおよび/またはチオNADPと同義であり、
チオ-NAD(P)Hは、チオNADHおよび/またはチオNADPHと同義である。
また、デヒドロゲナーゼ(DH)は、脱水素酵素と同義である。
【0018】
<本発明の方法>
本発明は、抗体酵素複合体を用いる酵素測定方法及び酵素標識核酸プローブを用いる核酸プローブ測定方法(以下、「本発明の方法」と総称する)に関する。酵素測定方法における抗体酵素複合体の酵素による反応生成物の定量、及び核酸プローブ測定方法における酵素標識核酸プローブの酵素による反応生成物の定量は、NADHおよび/またはNADPH、チオNADおよび/またはチオNADP、並びにデヒドロゲナーゼ(DH)を用いた酵素サイクリング反応により、チオNADHおよび/またはチオNADPHを生成させ、生成したチオNADHおよび/またはチオNADPHの量を測定するか、または生成したチオNADHおよび/またはチオNADPHによる色の変化を計測することで行われる。
【0019】
本発明の方法で用いられている抗体酵素複合体は、標的タンパク質抗原に特異的な抗体に酵素を標識したものである。また、酵素標識核酸プローブは、標的核酸に特異的に結合する核酸プローブに酵素を標識したものである。抗体酵素複合体または酵素標識核酸プローブの酵素(標識酵素)は、例えば、EC番号2.-で表される転移酵素群、EC番号3.-で表される加水分解酵素群、EC番号4.-で表される除去付加酵素群およびEC番号5.-で表される異性化酵素群から成る群から選ばれる少なくとも1種の酵素であることができる。これらの酵素の具体例は、特許文献1の段落0020〜0024を参照できる。
【0020】
本発明の方法で用いられている抗体酵素複合体または酵素標識核酸プローブの酵素(標識酵素)は、より具体的には、例えば、アルカリホスファターゼ(ALP)、ガラクトシダーゼ、グルコシダーゼ、フルクトシダーゼ、マンノシダーゼまたはペルオキシダーゼであることができる。これらの酵素を用いる方法は、特許文献2の段落0024〜0027を参照できる。
【0021】
本発明に使用可能な代表的な標識酵素、基質及び酵素サイクリング用のデヒドロゲナーゼの組合せの例に関しては、もちろんこれらの組み合わせに限られるわけではないが、特許文献2の段落0044〜0051を参照できる。
【0022】
本発明の方法は、通常の酵素免疫測定法や核酸プローブ法と同様に実施することができる。例えば、被検体に特異的に結合する抗体や核酸プローブを表面に固着させた固相担体、例えば、マイクロプレートやプラスチックチューブ、磁気ビーズ等、通常の測定に用いられている固相担体を用いることができる。
【0023】
抗体−酵素複合体および核酸プローブ−酵素複合体は、常法により調製できる。
【0024】
抗体酵素複合体を構成する抗体は、本発明の酵素免疫測定方法により測定されるべき被検体に特異的に結合する抗体から適宜選択することができる。例えば、本発明の酵素免疫測定方法は、タンパク質の分析に用いられるが、その場合、抗体酵素複合体の抗体は、被検体であるタンパク質に特異的に結合する抗体である。また、この場合、被検体であるタンパク質に特異的に結合する抗体を表面に固着させた基板を用いる。また、抗体酵素複合体を構成する抗体および基板に固着させる抗体は、抗体の断片であっても良い。本発明の酵素免疫測定方法における、被検体は、タンパク質に限定されず、通常の酵素免疫測定方
法が測定対象とするタンパク質以外のすべての物質であることができる。
【0025】
核酸プローブ酵素複合体も同様に測定対象となる核酸に相補的なプローブを適宜選択することができる。
【0026】
本発明の方法において、抗体酵素複合体の酵素または酵素標識核酸プローブの酵素による反応生成物の定量は、NADHおよび/またはNADPH、チオNADおよび/またはチオNADP、並びにデヒドロゲナーゼ(DH)を用いて、酵素サイクリング反応によりチオNADHおよび/またはチオNADPHを生成させ、生成したチオNADHおよび/またはチオNADPHの量を測定するか、または生成したチオNADHおよび/またはチオNADPHによる色の変化を計測することで行う。
【0027】
さらに、本発明の方法は、酵素サイクリング反応の系に、酵素サイクリング反応でNADHおよび/またはNADPHから生成した、NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系を共存させることを特徴とする。NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系の「選択的に」とは、共存するチオNADおよび/またはチオNADPは、実質的に還元しない、ことを意味する。
【0028】
本発明の方法においては、酵素サイクリング反応系に、チオ-NAD(P)+とチオ-NAD(P)Hの反応には関与せず、酵素サイクリング反応で生成するNAD(P)を還元して、NAD(P)Hを生成(再生)させる系を共存させることで、従来法に比べて、さらに高感度でタンパク質または核酸の定量や目視による検出を可能とする。
【0029】
前記酵素反応系は、本発明の酵素免疫測定方法においては、基質が、抗体酵素複合体の酵素の基質及び酵素サイクリング反応の酵素の基質にならず、かつ酵素が、抗体酵素複合体の酵素の基質及び酵素サイクリング反応の酵素の基質と反応しない酵素であることが好ましい。また、核酸プローブ測定方法においては、前記酵素反応系は、基質が、酵素標識核酸プローブの酵素の基質及び酵素サイクリング反応の酵素の基質にならず、かつ酵素が、酵素標識核酸プローブの酵素の基質及び酵素サイクリング反応の酵素の基質と反応しない酵素であることが好ましい。
【0030】
本発明で用いられるNADおよび/またはNADPを選択的に還元する反応は、NADおよび/またはNADPを電子受容体とする酸化還元酵素により行われる。酸化還元酵素の中でもデヒドロゲナーゼが好ましい。その理由として、酵素サイクリング反応に用いる酵素もデヒドロゲナーゼであるため、至適条件が同等であることが望まれるためである。
【0031】
NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系の酵素は、デヒドロゲナーゼであることが好ましい。但し、酵素サイクリング反応の酵素も、デヒドロゲナーゼであることから、NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系の酵素であるデヒドロゲナーゼと酵素サイクリング反応の酵素であるデヒドロゲナーゼとは、互いに、異なる基質特異性を有するデヒドロゲナーゼから選択される。酵素サイクリング反応の酵素であるデヒドロゲナーゼは、好ましくは、ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼであるので、この場合、NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系の酵素は、ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ以外のデヒドロゲナーゼであること、即ちヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼと異なる基質特異性を有するデヒドロゲナーゼから選択される。
【0032】
酵素サイクリング反応系の酵素は、デヒドロゲナーゼ、好ましくはヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼであり、NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系の酵素は、これらのデヒドロゲナーゼとは異なる基質特異性を有する、CH-OHを電子供与体とするEC番号1.1.1.-で表される酵素群、アルデヒドまたはオキソ基を電子供与体とするEC番号1.2.1.-で評される酵素群、CH-CHを電子供与体とするEC番号1.3.1.-で表される酵素群、CH-NH2を電子供与体とするEC番号1.4.1.-で表される酵素群、CH-NHを電子供与体とするEC番号1.5.1.-で表される酵素群の中から選択されることが好ましい。
【0033】
EC番号1.1.1.-で表される酵素群に含まれるデヒドロゲナーゼはリンゴ酸デヒドロゲナーゼ、D-3-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼ、イジトール-2-デヒドロゲナーゼ、ガラクチトールデヒドロゲナーゼ、グリセリン酸デヒドロゲナーゼ、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、グロン酸-3-デヒドロゲナーゼ、リビトール-2-デヒドロゲナーゼ、グルコン酸-5-デヒドロゲナーゼ、3-イソプロプルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、ガラクトースデヒドロゲナーゼなどが挙げられる。
【0034】
EC番号1.2.1.- で表される酵素群に含まれるデヒドロゲナーゼは、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、マロン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、コハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼなどが挙げられる。
【0035】
EC番号1.3.1.-で表される酵素群に含まれるデヒドロゲナーゼは、ジヒドロウラシルデヒドロゲナーゼ、アシルCoAデヒドロゲナーゼ、プレフェン酸デヒドロゲナーゼなどが挙げられる。
【0036】
EC番号1.4.1.-で表される酵素群に含まれるデヒドロゲナーゼは、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、ロイシンデヒドロゲナーゼ、アラニンデヒドロゲナーゼ、フェニルアラニンデヒドロゲナーゼ、セリンデヒドロゲナーゼ、バリンデヒドロゲナーゼ、グリシンデヒドロゲナーゼ、リシンデヒドロゲナーゼ、トリプトファンデヒドロゲナーゼ、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼなどが挙げられる。
【0037】
EC番号1.5.1.-で表される酵素群に含まれるデヒドロゲナーゼは、メチレンテトラヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼ、サッカロピンデヒドロゲナーゼ、D-オクトピンデヒドロゲナーゼなどが挙げられる。
【0038】
前述のように、NADおよび/またはNADPを還元する酵素は、酵素サイクリング反応に用いるデヒドロゲナーゼの基質特異性等を考慮して、適宜選択する。酵素サイクリング反応に用いる基質と、NADおよび/またはNADPを還元する酵素の基質の構造が似ている場合には基質特異性が低くなる場合があることから、それぞれの酵素反応に影響を及ぼさないように適宜選択する。
【0039】
例えば、酵素サイクリング反応の酵素がヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(HSD)の場合は、NADを選択的に還元する酵素の基質となるものはステロイド骨格を持たないものが好ましい。ステロイド骨格を持たない基質となり得る物質としては、例えば、有機酸およびアミノ酸を挙げることができ、これらの物質を基質とするNADを選択的に還元する酵素としては、例えば、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、ロイシンデヒドロゲナーゼ、アラニンデヒドロゲナーゼ、フェニルアラニンデヒドロゲナーゼ、セリンデヒドロゲナーゼ、バリンデヒドロゲナーゼ、グリシンデヒドロゲナーゼ、リシンデヒドロゲナーゼ、トリプトファンデヒドロゲナーゼ、アスパラギン酸デヒドロゲナーゼなどを選択できる。
【0040】
尚、NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素は、標識酵素に対しても、基質特異性等を考慮することが好ましい。例えば、標識酵素にアルカリホスファターゼを用いる場合には、NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素としては、リン酸基を持つ物質以外の物質を基質とする酵素を選択する。リン酸基を持つ物質以外の物質を基質とする酵素としては、例えば、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、ロイシンデヒドロゲナーゼ、アラニンデヒドロゲナーゼ、フェニルアラニンデヒドロゲナーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、ガラクトースデヒドロゲナーゼ、などを挙げることができる。
【0041】
同様に、標識酵素にグルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、フルクトシダーゼ、マンノシダーゼを用いる場合は、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノースなどの糖残基を含む物質以外の物質を基質とする酵素を、NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素として用いる。糖残基を含む物質以外の物質を基質とする酵素としては、例えば、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、ロイシンデヒドロゲナーゼ、アラニンデヒドロゲナーゼ、フェニルアラニンデヒドロゲナーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼなどを挙げることができる。
【0042】
また、標識酵素にペルオキシダーゼを用いる場合は、ペルオキシド構造を持つ物質以外の物質を基質とするNADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素を用いる。ペルオキシド構造を持つ物質以外の物質を基質とする酵素としては、例えば、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、ロイシンデヒドロゲナーゼ、アラニンデヒドロゲナーゼ、フェニルアラニンデヒドロゲナーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、ガラクトースデヒドロゲナーゼ、などを挙げることができる。
【0043】
NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系の酵素及び基質の組合せは、これらの制限される意図ではないが、例えば、以下の組み合わせを挙げることができる。
【0044】
(1)グルタミン酸デヒドロゲナーゼ及びグルタミン酸、
(2)ロイシンデヒドロゲナーゼ及びロイシン、
(3)アラニンデヒドロゲナーゼ及びアラニン、
(4)フェニルアラニンデヒドロゲナーゼ及びフェニルアラニン、
(5)セリンデヒドロゲナーゼ及びセリン、
(6)バリンデヒドロゲナーゼ及びバリン、
(7)リシンデヒドロゲナーゼ及びリシン、
(8)トリプトファンデヒドロゲナーゼ及びトリプトファン
(9)アスパラギン酸デヒドロゲナーゼ及びアスパラギン酸
(10)リンゴ酸デヒドロゲナーゼ及びリンゴ酸、
(11)D-3-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ及びD-3-ヒドロキシ酪酸、
(12)乳酸デヒドロゲナーゼ及び乳酸、
(13)グリセロールデヒドロゲナーゼ及びグリセロール
(14)グリセリン酸デヒドロゲナーゼ及びグリセリン酸
(15)イソクエン酸デヒドロゲナーゼ及びイソクエン酸
【0045】
本発明の方法において、各成分の濃度は、例えば、以下の範囲にすることができる。
(1)抗体酵素複合体または酵素標識核酸プローブの濃度範囲
0.01μg/ml〜1 mg/ml
(2)標識酵素の基質の濃度範囲
1μM〜500 mM
(3)NADHおよび/またはNADPHの濃度範囲
0.01 mM〜50 mM
(4)チオNADおよび/またはチオNADPの濃度範囲
0.01 mM〜100 mM
(5)デヒドロゲナーゼ(DH)の濃度範囲
0.01 u/ml〜 5000u/ml
(6)NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系の酵素の濃度範囲
0.01 u/ml〜5000 u/ml
(7)NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系の酵素の基質の濃度範囲
1μM〜500 mM
【0046】
反応条件は、標識酵素、デヒドロゲナーゼ(DH)並びにNADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系の酵素の最適温度範囲を考慮して適宜決定できる。例えば、反応温度は、操作が簡便であることから、室温で実施することが好ましい。但し、標識酵素、デヒドロゲナーゼ(DH)並びにNADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系の酵素の最適温度範囲を考慮して室温より高い温度または低い温度で実施することもできる。
【0047】
反応時間は、生成したチオNADHおよび/またはチオNADPHの量の測定、または生成したチオNADHおよび/またはチオNADPHによる色の変化の計測が可能な程度まで、チオNADHおよび/またはチオNADPHが蓄積するに十分な時間とすることができる。但し、測定または計測に必要なチオNADHおよび/またはチオNADPHの蓄積量は、測定または計測条件により変化するで、条件に応じて適宜決定できる。
【0048】
酵素サイクリング系の中でチオNAD(P)を利用するサイクリング系は比較的最近になって登場したユニークなサイクリング系である。この系ではNAD(P)/NAD(P)Hを補酵素として利用するデヒドロゲナーゼ(Dehydrogenase;DH)を用い、NAD(P)/NAD(P)HとそのアナログであるチオNAD(P)/チオNAD(P)Hが共存する条件下でサイクリングを行い、デヒドロゲナーゼの基質をチオNAD(P)H(極大吸収波長:400 nm、モル吸光係数=11,900)として増幅定量する。チオNAD(P)サイクリング法の測定原理は、前掲の通りであるが、再度記載すると以下の通りである。
【0049】
【化2】
【0050】
NADHの極大吸収が340 nm(モル吸光係数=6,200)であるのに対し、チオNAD(P)Hは可視域に吸収を示すため(極大吸収波長:400 nm、モル吸光係数=11,900)、普及型の吸光光度計や比色測定用マイクロプレートリーダーを用いて測定できることをその長所としている。
【0051】
チオNAD(P)を利用するサイクリング系は、普及型の吸光光度計や比色測定用マイクロプレートリーダーを用いて測定できるという長所を利用して、NADHの吸収増加に基づくデヒドロゲナーゼ活性測定やその基質の定量法などの従来法のいくつかがチオNADを用いる方法に改良されている。このサイクリング系を酵素免疫測定法等の検出系として高感度化に利用した例は、特許文献1が初めてである。本発明では、標識酵素とサイクリング系を組み合わせ、さらにそれにNADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系を併用することにより、増幅反応をより促進することが可能となり、さらなる高感度化を行うことが可能となった。
【0052】
本発明の測定法では、酵素免疫測定法の例で示したとおり、酵素複合体とそれに組み合わせた基質で産生された生成物を次の酵素サイクリング反応の基質として用い、酵素サイクリング反応により生成したチオNAD(P)Hの吸収を比色定量するものである。この反応では1種のデヒドロゲナーゼで酵素サイクリングを行うため、酵素サイクリング反応の基質としては、還元型基質でも酸化型基質でもよい。さらに、本発明では、NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系を併用することで、酵素サイクリング反応により生成したNADおよび/またはNADPを選択的に還元する。NADおよび/またはNADPを選択的に還元して、NADHおよび/またはNADPHを系内で再生することで、反応開始時に、過剰量のチオNAD(P)、NADHおよび/またはNADPHを系に添加することなく、上記酵素サイクリング反応の進行を促進し、チオNAD(P)Hの生成を促進することができる。
【0053】
<酵素サイクリング用キット>
本発明は、反応性担体に標識化された酵素およびその基質、サイクリング反応用の酵素とその補酵素のチオNADとNADH、並びにNADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系(酵素および基質)を含む酵素サイクリング法用キットを包含する。
【0054】
反応性担体とは測定対象物と結合する活性を持った抗体・核酸プローブ・レクチン等を表す。反応性担体は測定対象物に適した物を用いればよく、標識酵素およびその基質も適した物を用いればよく特に限定はされない。
【0055】
より具体的には、本発明は、標識酵素及びその基質、サイクリング反応用の酵素とその補酵素のチオNADとNADH、並びにNADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系(酵素および基質)を含む酵素サイクリング法用キットを包含する。
【0056】
本発明のキットは、以下の(1)〜(6)の試薬を含む酵素免疫測定用キットである。
(1)標的タンパク質抗原に特異的な抗体を標識した酵素、
(2)上記(1)の酵素の基質、
(3)デヒドロゲナーゼ、
(4)NADHおよび/またはNADPH、
(5)チオNADおよび/またはチオNADP、
(6)NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系
【0057】
さらに本発明は、以下の(1)〜(6)の試薬を含む核酸プローブ測定用キットである。
(1)標的核酸に特異的に結合する核酸プローブで標識した酵素、
(2)上記(1)の酵素の基質、
(3)デヒドロゲナーゼ、
(4)NADHおよび/またはNADPH、
(5)チオNADおよび/またはチオNADP、
(6)NADおよび/またはNADPを選択的に還元する酵素反応系
【0058】
前記(6)の酵素反応系の酵素は、デヒドロゲナーゼであることが好ましい。
【0059】
前記(6)の酵素反応系は、基質が、(1)の酵素の基質及び(3)のデヒドロゲナーゼの基質にならず、酵素が、(2)の基質及び(5)のチオNADおよび/またはチオNADPと反応しない酵素であることが、好ましい。
【0060】
前記(3)のデヒドロゲナーゼは、ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(HSD)であり、前記(6)の酵素反応系の酵素は、HSD(ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ)以外のデヒドロゲナーゼであることが好ましい。
【0061】
前記(6)の酵素反応系の酵素は、CH-OHを電子供与体とするEC番号1.1.1.-で表される酵素群、アルデヒドまたはオキソ基を電子供与体とするEC番号1.2.1.-で評される酵素群、CH-CHを電子供与体とするEC番号1.3.1.-で表される酵素群、CH-NH2を電子供与体とするEC番号1.4.1.-で表される酵素群、CH-NHを電子供与体とするEC番号1.5.1.-で表される酵素群の中から選択される酵素であることが好ましい。
【0062】
(1)の標識酵素、(3)のデヒドロゲナーゼ(DH)、(6)の酵素反応系の酵素、それらの基質等については、上記本発明の方法で説明したものをそのまま利用できる。例えば、前記酵素免疫測定用キットの(1)の抗体標識酵素の酵素および前記核酸プローブ測定用キットの(1)の核酸プローブ標識酵素の酵素は、アルカリホスファターゼ、グルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、フルクトシダーゼ、マンノシダーゼ、及びペルオキシダーゼから成る群から選ばれる少なくとも1種の酵素であることができる。
【0063】
本発明のキットは、市販の酵素標識抗体等をこのキットの構成試薬と組合せて使用することも可能である。このキットは、酵素サイクリング法を用いる酵素免疫測定方法に利用できる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0065】
実施例:酵素サイクリング反応を用いた結核菌群の測定
結核菌群に特異的な分泌タンパク質であるMPB64に対するモノクローナル抗体を使用し、当該抗体の標識酵素としてアルカリホスファターゼ(Alkaline phosphatase、以下「ALP」と記す。)、その基質として17β-メトキシ 5β-アンドロスタン 3-ホスフェート(17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate、以下「A3P」と記す。)を用い、酵素サイクリングの酵素として3α-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(3α-Hydroxysteroid dehydrogenase、以下「3α-HSD」と記す。)を用いた酵素サイクリング反応を行い、更に前記反応の結果生じたNADを補酵素として消費しNADHを生成する酵素反応を組み合わせる方法にて実施した。
【0066】
参考例1 (試料の調製)
マイコバクテリウムボビス BCG Tokyo株(以下「BCG」と記す。)をミドルブルック7H11液体培地に接種し、所定濁度まで培養し培養上清を得た。得られた培養上清を濁度McFarland No.1相当(濃度1x108 cfu/ml相当)に調製し被験試料とした。
【0067】
参考例2 (抗MPB64モノクローナル抗体の作出)
参考例1など常法により得た精製MPB64を免疫用抗原として、当該タンパク質に対するモノクローナル抗体を作出した。モノクローナル抗体の作出は常法に従って行った。
最終的にMPB64と反応するモノクローナル抗体産生細胞を最終的に2クローン得た。以下、それぞれのクローンが産生する抗体をモノクローナル抗体BL001、BL002と称する。
【0068】
参考例3 (ALP標識抗体の作製)
参考例2にて得られたモノクローナル抗体BL001を100mM 酢酸緩衝液(pH3.8)を用いて透析操作を行った。30分間の透析操作を3回行った。その透析後の抗体溶液に抗体量に対し5%になるようにペプシンを添加し、37℃で2時間加温した後に1.5M トリス塩酸緩衝液(pH8.8)を添加して中和した。反応溶液の一部をSDS(Sodium dodecyl sulfate)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供し、ペプシン消化処理によりF(ab')2が生成していることを確認した後、Superdex 200 pgを充填したカラム(GEヘルスケア・ジャパン社の製品)を用いて精製し、F(ab')2フラクションを得た。得られたF(ab')2溶液を濃度1mg/mlに調製した。
【0069】
得られたF(ab')2溶液0.9mlに対し、0.1M 2-メルカプトエチルアミン溶液を0.1ml添加し、37℃で90分加温し還元処理を実施した。90分間の還元反応後、反応液をSuperdex 200 pgを充填したカラムを用いて精製し、Fabフラクションを得た。
【0070】
17.14mg/mlのALPを含む5mMトリス塩酸緩衝液(pH7.0、5mM MgCl2、0.1mM ZnCl2、50% glycerolを含む) 0.1mlをPD-10カラム(GEヘルスケア・ジャパン社の製品)に供し、緩衝液を50mM ホウ酸ナトリウム緩衝液(pH7.6、1mM MgCl2および0.1mM ZnCl2を含む)に置換した。得られたALP溶液は1mg/mlに調製した。ALP溶液0.5mlに対し、N-(6-マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド(以下「EMCS」と記す。)を含むジメチルホルムアミド溶液(EMCS濃度 17mg/ml)を2.25ml添加し、37℃で30分間反応させた。反応混合液はPD-10カラムに供し、0.1M トリス塩酸緩衝液(pH7.0、1mM MgCl2および0.1mM ZnCl2を含む)に置換し、マレイミド化ALP溶液を得た。
【0071】
前記反応にて調製したFab抗体溶液とマレイミド化ALP溶液を混合し、4℃で一昼夜反応させた。反応液はSuperdex 200 pgを充填したカラムを用いて精製し、ALP標識Fabフラクションを得た。得られたALP標識Fab溶液を濃縮し所定濃度に調製し、ALP標識Fab抗体溶液を作製した。
【0072】
参考例4 (モノクローナル抗体固定化マイクロプレートの調製)
参考例2にて得られたモノクローナル抗体BL002を10mMトリス塩酸緩衝生理食塩水(pH7.5、以下「TBS」と記す。)にて20μg/mlに調製した。得られた抗体溶液を平底マイクロプレートの各ウェルに100μlずつ加え37℃で1時間静置した。その後、0.05% Tween20含有TBSにて複数回洗浄し、1% ウシ血清アルブミン(以下「BSA」と記す)含有TBS溶液を350μlずつ添加し、室温で1時間静置してブロッキング処理をした。ウェル内の溶液を除去した後、風乾させ、モノクローナル抗体固定化マイクロプレートを作製した。
【0073】
比較例 (酵素サイクリング反応によるMPB64の測定:従来法)
ALP標識抗MPB64 Fab抗体、酵素サイクリング反応基質としてA3P及び酵素サイクリング反応酵素として3α-HSDを用いる酵素サイクリング反応試液として以下の様に調製し測定を行った。
【0074】
反応試液1
0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH 9.0)
2.0 mM チオNAD
0.5 mM NADH
0.1 mM 17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate
20 U/ml 3α-Hydroxysteroid dehydrogenase
【0075】
測定方法
参考例4にて作製したモノクローナル抗体固定化マイクロプレートに、参考例1で調製した被験試料をサンプル希釈液(0.1% BSAおよび0.01% Tween20を含むTBS)で1x105倍希釈したものを100μl添加し、室温で1時間振とうさせた。次にウェル内の溶液を吸引除去後、0.05% Tween 20を含むTBSで3回洗浄し、参考例3にて作製したALP標識Fab抗体を2.5μg/mlの濃度で含有する抗体溶液を100μl加え、室温にて1時間振とうさせた。ウェル内の溶液を吸引除去後、0.05% Tween 20を含むTBSで3回洗浄した。次に各ウェルに前記反応試液1を100μlずつ添加し、37℃で加温しながらマイクロプレートリーダー(コロナ社製SH-9000)で405nmのフィルターを使用し、反応試液添加後5分ごとに各ウェルの吸光度を測定した。なお、被験試料を添加せずサンプル希釈液のみを同様に測定したものをブランク値とし、測定値からブランク値を差し引いた吸光度(以下「ΔO.D.」と記す。)を算出した。得られたΔO.D.をプロットしたグラフを図1に示す。
【0076】
実施例1 (グルタミン酸デヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定)
ALP標識抗MPB64 Fab抗体、酵素サイクリング反応基質としてA3P及び酵素サイクリング反応酵素として3α-HSDを用いる酵素サイクリング反応試液1に、酵素サイクリング反応の結果生じるNADをNADHへ還元し回復させる反応系として、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(Glutamate Dehydrogenase、微生物由来)及び前記酵素基質としてL-グルタミン酸(L-Glutamate)を加え、以下に示す反応試液2を調製し測定を行った。
【0077】
反応試液2
0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH 9.0)
2.0 mM チオNAD
0.5 mM NADH
0.1 mM 17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate
20 U/ml 3α-Hydroxysteroid dehydrogenase
20 U/ml Glutamate Dehydrogenase
2.0 mM L-Glutamate
【0078】
測定方法
参考例4にて作製したモノクローナル抗体固定化マイクロプレートに、参考例1で調製した被験試料をサンプル希釈液(0.1% BSAおよび0.01% Tween20を含むTBS)で1x105倍希釈したものを100μl添加し、室温で1時間振とうさせた。次にウェル内の溶液を吸引除去後、0.05% Tween 20を含むTBSで3回洗浄し、参考例3にて作製したALP標識Fab抗体を2.5μg/mlの濃度で含有する抗体溶液を100μl加え、室温にて1時間振とうさせた。ウェル内の溶液を吸引除去後、0.05% Tween 20を含むTBSで3回洗浄した。次に各ウェルに前記反応試液2を100μlずつ添加し、37℃で加温しながらマイクロプレートリーダー(コロナ社製SH-9000)で405nmのフィルターを使用し、反応試液添加後5分ごとに各ウェルの吸光度を測定した。被験試料を添加せずサンプル希釈液のみを同様に測定したものをブランク値とし、測定値からブランク値を差し引いた吸光度(以下「ΔO.D.」と記す。)を算出した。
【0079】
得られたΔO.D.をプロットしたグラフを図2に示す。反応試液2を添加した60分後においてもΔO.D.は平衡に達していないことから、酵素サイクリング反応により生じたNADを、グルタミン酸デヒドロゲナーゼによるL-グルタミン酸からα-ケトグルタル酸への酵素反応過程において、補酵素としてNADを消費しNADHを生成する反応が進行し、結果として酵素サイクリング反応試液におけるNADH濃度の減少が抑制され、チオNADHを生成する反応が継続的に進行していることが確認された。したがって比較例1に示される従来の酵素サイクリング反応による測定方法より、高感度かつ測定レンジの広い測定方法であることが確認された。
【0080】
実施例2 (ロイシンデヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定)
ALP標識抗MPB64 Fab抗体、酵素サイクリング反応基質としてA3P及び酵素サイクリング反応酵素として3α-HSDを用いる酵素サイクリング反応試液1に、酵素サイクリング反応の結果生じるNADをNADHへ還元し回復させる反応系として、ロイシンデヒドロゲナーゼ(Leucine dehydrogenase、Bacillus sp.由来)及び前記酵素基質としてL-ロイシン(L-Leucine)を加え、以下に示す反応試液3を調製し測定を行った。
【0081】
反応試液3
0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH 9.0)
2.0 mM チオNAD
0.5 mM NADH
0.1 mM 17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate
20 U/ml 3α-Hydroxysteroid dehydrogenase
20 U/ml Leucine dehydrogenase
2.0 mM L-Leucine
【0082】
測定方法
測定は実施例1に記載した方法に準拠して行った。得られたΔO.D.をプロットしたグラフを図3に示す。
【0083】
反応試液3を添加した60分後においてもΔO.D.は平衡に達していないことから、酵素サイクリング反応により生じたNADを、ロイシンデヒドロゲナーゼによるL-ロイシンから4-メチル-2-オキソペンタン酸への酵素反応過程において、補酵素としてNADを消費しNADHを生成する反応が進行し、結果として酵素サイクリング反応試液におけるNADH濃度の減少が抑制され、チオNADHを生成する反応が継続的に進行していることが確認された。したがって比較例1に示される従来の酵素サイクリング反応による測定方法より、高感度かつ測定レンジの広い測定方法であることが確認された。
【0084】
実施例3 (アラニンデヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定)
ALP標識抗MPB64 Fab抗体、酵素サイクリング反応基質としてA3P及び酵素サイクリング反応酵素として3α-HSDを用いる酵素サイクリング反応試液1に、酵素サイクリング反応の結果生じるNADをNADHへ還元し回復させる反応系として、アラニンデヒドロゲナーゼ(Alanine dehydrogenase、Bacillus cereus遺伝子組み換え大腸菌由来)及び前記酵素基質としてL-アラニン(L-Alanine)を加え、以下に示す反応試液4を調製し測定を行った。
【0085】
反応試液4
0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH 9.0)
2.0 mM チオNAD
0.5 mM NADH
0.1 mM 17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate
20 U/ml 3α-Hydroxysteroid dehydrogenase
20 U/ml Alanine dehydrogenase
2.0 mM L-Alanine
【0086】
測定方法
測定は実施例1に記載した方法に準拠して行った。得られたΔO.D.をプロットしたグラフを図4に示す。
反応試液4を添加した60分後においてもΔO.D.は平衡に達していないことから、酵素サイクリング反応により生じたNADを、アラニンデヒドロゲナーゼによるL-アラニンからピルビン酸への酵素反応過程において、補酵素としてNADを消費しNADHを生成する反応が進行し、結果として酵素サイクリング反応試液におけるNADH濃度の減少が抑制され、チオNADHを生成する反応が継続的に進行していることが確認された。したがって比較例1に示される従来の酵素サイクリング反応による測定方法より、高感度かつ測定レンジの広い測定方法であることが確認された。
【0087】
実施例4 (フェニルアラニンデヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定)
ALP標識抗MPB64 Fab抗体、酵素サイクリング反応基質としてA3P及び酵素サイクリング反応酵素として3α-HSDを用いる酵素サイクリング反応試液1に、酵素サイクリング反応の結果生じるNADをNADHへ還元し回復させる反応系として、L-フェニルアラニンデヒドロゲナーゼ(L-Phenylalanine dehydrogenase、Sporosarcina sp.由来)及び前記酵素基質としてL-フェニルアラニン(L-Phenylalanine)を加え、以下に示す反応試液5を調製し測定を行った。
【0088】
反応試液5
0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH 9.0)
2.0 mM チオNAD
0.5 mM NADH
0.1 mM 17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate
20 U/ml 3α-Hydroxysteroid dehydrogenase
20 U/ml L-Phenylalanine dehydrogenase
2.0 mM L-Phenylalanine
【0089】
測定方法
測定は実施例1に記載した方法に準拠して行った。得られたΔO.D.をプロットしたグラフを図5に示す。
反応試液5を添加した60分後においてもΔO.D.は平衡に達していないことから、酵素サイクリング反応により生じたNADを、L-フェニルアラニンデヒドロゲナーゼによるL-フェニルアラニンからフェニルピルビン酸への酵素反応過程において、補酵素としてNADを消費しNADHを生成する反応が進行し、結果として酵素サイクリング反応試液におけるNADH濃度の減少が抑制され、チオNADHを生成する反応が継続的に進行していることが確認された。したがって比較例1に示される従来の酵素サイクリング反応による測定方法より、高感度かつ測定レンジの広い測定方法であることが確認された。
【0090】
実施例5 (リンゴ酸デヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定)
ALP標識抗MPB64 Fab抗体、酵素サイクリング反応基質としてA3P及び酵素サイクリング反応酵素として3α-HSDを用いる酵素サイクリング反応試液1に、酵素サイクリング反応の結果生じるNADをNADHへ還元し回復させる反応系として、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(Malate dehydrogenase、微生物由来)及び前記酵素基質としてリンゴ酸(L-Malate)を加え、以下に示す反応試液6を調製し測定を行った。
【0091】
反応試液6
0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH 9.0)
2.0 mM チオNAD
0.5 mM NADH
0.1 mM 17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate
20 U/ml 3α-Hydroxysteroid dehydrogenase
20 U/ml Malate dehydrogenase
2.0 mM L-Malate
【0092】
測定方法
測定は実施例1に記載した方法に準拠して行った。得られたΔO.D.をプロットしたグラフを図6に示す。
【0093】
反応試液6を添加した60分後においてもΔO.D.は平衡に達していないことから、酵素サイクリング反応により生じたNADを、リンゴ酸デヒドロゲナーゼによるリンゴ酸からオキサロ酢酸への酵素反応過程において、補酵素としてNADを消費しNADHを生成する反応が進行し、結果として酵素サイクリング反応試液におけるNADH濃度の減少が抑制され、チオNADHを生成する反応が継続的に進行していることが確認された。したがって比較例1に示される従来の酵素サイクリング反応による測定方法より、高感度かつ測定レンジの広い測定方法であることが確認された。
【0094】
実施例6 (D-3-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定)
ALP標識抗MPB64 Fab抗体、酵素サイクリング反応基質としてA3P及び酵素サイクリング反応酵素として3α-HSDを用いる酵素サイクリング反応試液1に、酵素サイクリング反応の結果生じるNADをNADHへ還元し回復させる反応系として、D-3-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ(D-3-Hydroxybutyrate dehydrogenase 、Pseudomonas sp.由来)及び前記酵素基質としてD-3-ヒドロキシ酪酸(D-3-Hydroxybutyrate)を加え、以下に示す反応試液7を調製し測定を行った。
【0095】
反応試液7
0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH 9.0)
2.0 mM チオNAD
0.5 mM NADH
0.1 mM 17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate
20 U/ml 3α-Hydroxysteroid dehydrogenase
20 U/ml D-3-Hydroxybutyrate dehydrogenase
2.0 mM D-3-Hydroxybutyrate
【0096】
測定方法
測定は実施例1に記載した方法に準拠して行った。得られたΔO.D.をプロットしたグラフを図7に示す。
反応試液7を添加した60分後においてもΔO.D.は平衡に達していないことから、酵素サイクリング反応により生じたNADを、D-3-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼによるD-3-ヒドロキシ酪酸からアセト酢酸への酵素反応過程において、補酵素としてNADを消費しNADHを生成する反応が進行し、結果として酵素サイクリング反応試液におけるNADH濃度の減少が抑制され、チオNADHを生成する反応が継続的に進行していることが確認された。したがって比較例1に示される従来の酵素サイクリング反応による測定方法より、高感度かつ測定レンジの広い測定方法であることが確認された。
【0097】
実施例7 (乳酸デヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定)
ALP標識抗MPB64 Fab抗体、酵素サイクリング反応基質としてA3P及び酵素サイクリング反応酵素として3α-HSDを用いる酵素サイクリング反応試液1に、酵素サイクリング反応の結果生じるNADをNADHへ還元し回復させる反応系として、L-乳酸デヒドロゲナーゼ(Lactate Dehydrogenase、遺伝子組み換え大腸菌由来)及び前記酵素基質としてL-乳酸(L-lactate)を加え、以下に示す反応試液8を調製し測定を行った。
【0098】
反応試液8
0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH 9.0)
2.0 mM チオNAD
0.5 mM NADH
0.1 mM 17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate
20 U/ml 3α-Hydroxysteroid dehydrogenase
20 U/ml Lactate Dehydrogenase
2.0 mM L-lactate
【0099】
測定方法
測定は実施例1に記載した方法に準拠して行った。得られたΔO.D.をプロットしたグラフを図8に示す。
反応試液8を添加した60分後においてもΔO.D.は平衡に達していないことから、酵素サイクリング反応により生じたNADを、L-乳酸デヒドロゲナーゼによるL-乳酸からピルビン酸への酵素反応過程において、補酵素としてNADを消費しNADHを生成する反応が進行し、結果として酵素サイクリング反応試液におけるNADH濃度の減少が抑制され、チオNADHを生成する反応が継続的に進行していることが確認された。したがって比較例1に示される従来の酵素サイクリング反応による測定方法より、高感度かつ測定レンジの広い測定方法であることが確認された。
【0100】
実施例8
参考例1で調製した被験試料をサンプル希釈液で希釈倍数1X107、1X106、1X105、1X104、1X103倍に希釈した各被験試料を実施例1にて調製した反応試液2を用い、補酵素としてNADを消費しNADHを生成する反応を組み合わせた酵素サイクリング法(以下「改良法」と称する)により被験試料中のMPB64の測定を実施した。対照として、比較例1にて調製した反応試液1を用いた従来の酵素サイクリング法(従来法、特許文献2に記載の方法に準じた方法)により同希釈系列の被験試料を測定した。
【0101】
反応試液1(従来法)
0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH 9.0)
2.0 mM チオNAD
0.5 mM NADH
0.1 mM 17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate
20 U/ml 3α-Hydroxysteroid dehydrogenase
【0102】
反応試液2(改良法)
0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH 9.0)
2.0 mM チオNAD
0.5 mM NADH
0.1 mM 17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate
20 U/ml 3α-Hydroxysteroid dehydrogenase
20 U/ml Glutamate Dehydrogenase
2.0 mM L-Glutamate
【0103】
測定方法
測定は、希釈倍数1X107、1X106、1X105、1X104、1X103倍に希釈し調製した各被験試料を反応試液1(従来法)と反応試液2(改良法)による二方法で測定した。それ以外は実施例1に記載した方法に準拠して行った。反応試液添加60分後のΔO.D.をプロットしたグラフを図9に示す。
【0104】
反応試液1を用いた従来法と比較して、反応試液2を用いた改良法は、各希釈倍数の被験試料に対して吸光度が直線性を保つ範囲が広いこと、及び、吸光度が頭打ちになる現象を起こす被験試料の希釈倍数が低い、つまりは高濃度の被験試料でも定量的に測定が可能であることが確認された。これは、酵素サイクリング反応系において、グルタミン酸デヒドロゲナーゼによるL-グルタミン酸からα-ケトグルタル酸への酵素反応が同時に進行し、酵素サイクリング反応の結果反応系内に生じたNADをグルタミン酸デヒドロゲナーゼが補酵素としてNADを消費しNADHを生成する反応が起こり、結果として反応系内におけるNADH濃度の減少が抑制され(従来法よりもNADH濃度が維持され)、チオNADHを生成する反応が進んだ結果であると考えられた。したがって、本発明の方法は、従来法よりも高感度かつ測定レンジの広い測定方法であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、高感度かつ簡便な測定が要求される臨床検査分野や食品検査分野を含む広い分野において好適に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9