【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0065】
実施例:酵素サイクリング反応を用いた結核菌群の測定
結核菌群に特異的な分泌タンパク質であるMPB64に対するモノクローナル抗体を使用し、当該抗体の標識酵素としてアルカリホスファターゼ(Alkaline phosphatase、以下「ALP」と記す。)、その基質として17β-メトキシ 5β-アンドロスタン 3-ホスフェート(17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate、以下「A3P」と記す。)を用い、酵素サイクリングの酵素として3α-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(3α-Hydroxysteroid dehydrogenase、以下「3α-HSD」と記す。)を用いた酵素サイクリング反応を行い、更に前記反応の結果生じたNADを補酵素として消費しNADHを生成する酵素反応を組み合わせる方法にて実施した。
【0066】
参考例1 (試料の調製)
マイコバクテリウムボビス BCG Tokyo株(以下「BCG」と記す。)をミドルブルック7H11液体培地に接種し、所定濁度まで培養し培養上清を得た。得られた培養上清を濁度McFarland No.1相当(濃度1x10
8 cfu/ml相当)に調製し被験試料とした。
【0067】
参考例2 (抗MPB64モノクローナル抗体の作出)
参考例1など常法により得た精製MPB64を免疫用抗原として、当該タンパク質に対するモノクローナル抗体を作出した。モノクローナル抗体の作出は常法に従って行った。
最終的にMPB64と反応するモノクローナル抗体産生細胞を最終的に2クローン得た。以下、それぞれのクローンが産生する抗体をモノクローナル抗体BL001、BL002と称する。
【0068】
参考例3 (ALP標識抗体の作製)
参考例2にて得られたモノクローナル抗体BL001を100mM 酢酸緩衝液(pH3.8)を用いて透析操作を行った。30分間の透析操作を3回行った。その透析後の抗体溶液に抗体量に対し5%になるようにペプシンを添加し、37℃で2時間加温した後に1.5M トリス塩酸緩衝液(pH8.8)を添加して中和した。反応溶液の一部をSDS(Sodium dodecyl sulfate)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供し、ペプシン消化処理によりF(ab')
2が生成していることを確認した後、Superdex 200 pgを充填したカラム(GEヘルスケア・ジャパン社の製品)を用いて精製し、F(ab')
2フラクションを得た。得られたF(ab')
2溶液を濃度1mg/mlに調製した。
【0069】
得られたF(ab')
2溶液0.9mlに対し、0.1M 2-メルカプトエチルアミン溶液を0.1ml添加し、37℃で90分加温し還元処理を実施した。90分間の還元反応後、反応液をSuperdex 200 pgを充填したカラムを用いて精製し、Fabフラクションを得た。
【0070】
17.14mg/mlのALPを含む5mMトリス塩酸緩衝液(pH7.0、5mM MgCl
2、0.1mM ZnCl
2、50% glycerolを含む) 0.1mlをPD-10カラム(GEヘルスケア・ジャパン社の製品)に供し、緩衝液を50mM ホウ酸ナトリウム緩衝液(pH7.6、1mM MgCl
2および0.1mM ZnCl
2を含む)に置換した。得られたALP溶液は1mg/mlに調製した。ALP溶液0.5mlに対し、N-(6-マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド(以下「EMCS」と記す。)を含むジメチルホルムアミド溶液(EMCS濃度 17mg/ml)を2.25ml添加し、37℃で30分間反応させた。反応混合液はPD-10カラムに供し、0.1M トリス塩酸緩衝液(pH7.0、1mM MgCl
2および0.1mM ZnCl
2を含む)に置換し、マレイミド化ALP溶液を得た。
【0071】
前記反応にて調製したFab抗体溶液とマレイミド化ALP溶液を混合し、4℃で一昼夜反応させた。反応液はSuperdex 200 pgを充填したカラムを用いて精製し、ALP標識Fabフラクションを得た。得られたALP標識Fab溶液を濃縮し所定濃度に調製し、ALP標識Fab抗体溶液を作製した。
【0072】
参考例4 (モノクローナル抗体固定化マイクロプレートの調製)
参考例2にて得られたモノクローナル抗体BL002を10mMトリス塩酸緩衝生理食塩水(pH7.5、以下「TBS」と記す。)にて20μg/mlに調製した。得られた抗体溶液を平底マイクロプレートの各ウェルに100μlずつ加え37℃で1時間静置した。その後、0.05% Tween20含有TBSにて複数回洗浄し、1% ウシ血清アルブミン(以下「BSA」と記す)含有TBS溶液を350μlずつ添加し、室温で1時間静置してブロッキング処理をした。ウェル内の溶液を除去した後、風乾させ、モノクローナル抗体固定化マイクロプレートを作製した。
【0073】
比較例 (酵素サイクリング反応によるMPB64の測定:従来法)
ALP標識抗MPB64 Fab抗体、酵素サイクリング反応基質としてA3P及び酵素サイクリング反応酵素として3α-HSDを用いる酵素サイクリング反応試液として以下の様に調製し測定を行った。
【0074】
反応試液1
0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH 9.0)
2.0 mM チオNAD
0.5 mM NADH
0.1 mM 17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate
20 U/ml 3α-Hydroxysteroid dehydrogenase
【0075】
測定方法
参考例4にて作製したモノクローナル抗体固定化マイクロプレートに、参考例1で調製した被験試料をサンプル希釈液(0.1% BSAおよび0.01% Tween20を含むTBS)で1x10
5倍希釈したものを100μl添加し、室温で1時間振とうさせた。次にウェル内の溶液を吸引除去後、0.05% Tween 20を含むTBSで3回洗浄し、参考例3にて作製したALP標識Fab抗体を2.5μg/mlの濃度で含有する抗体溶液を100μl加え、室温にて1時間振とうさせた。ウェル内の溶液を吸引除去後、0.05% Tween 20を含むTBSで3回洗浄した。次に各ウェルに前記反応試液1を100μlずつ添加し、37℃で加温しながらマイクロプレートリーダー(コロナ社製SH-9000)で405nmのフィルターを使用し、反応試液添加後5分ごとに各ウェルの吸光度を測定した。なお、被験試料を添加せずサンプル希釈液のみを同様に測定したものをブランク値とし、測定値からブランク値を差し引いた吸光度(以下「ΔO.D.」と記す。)を算出した。得られたΔO.D.をプロットしたグラフを
図1に示す。
【0076】
実施例1 (グルタミン酸デヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定)
ALP標識抗MPB64 Fab抗体、酵素サイクリング反応基質としてA3P及び酵素サイクリング反応酵素として3α-HSDを用いる酵素サイクリング反応試液1に、酵素サイクリング反応の結果生じるNADをNADHへ還元し回復させる反応系として、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(Glutamate Dehydrogenase、微生物由来)及び前記酵素基質としてL-グルタミン酸(L-Glutamate)を加え、以下に示す反応試液2を調製し測定を行った。
【0077】
反応試液2
0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH 9.0)
2.0 mM チオNAD
0.5 mM NADH
0.1 mM 17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate
20 U/ml 3α-Hydroxysteroid dehydrogenase
20 U/ml Glutamate Dehydrogenase
2.0 mM L-Glutamate
【0078】
測定方法
参考例4にて作製したモノクローナル抗体固定化マイクロプレートに、参考例1で調製した被験試料をサンプル希釈液(0.1% BSAおよび0.01% Tween20を含むTBS)で1x10
5倍希釈したものを100μl添加し、室温で1時間振とうさせた。次にウェル内の溶液を吸引除去後、0.05% Tween 20を含むTBSで3回洗浄し、参考例3にて作製したALP標識Fab抗体を2.5μg/mlの濃度で含有する抗体溶液を100μl加え、室温にて1時間振とうさせた。ウェル内の溶液を吸引除去後、0.05% Tween 20を含むTBSで3回洗浄した。次に各ウェルに前記反応試液2を100μlずつ添加し、37℃で加温しながらマイクロプレートリーダー(コロナ社製SH-9000)で405nmのフィルターを使用し、反応試液添加後5分ごとに各ウェルの吸光度を測定した。被験試料を添加せずサンプル希釈液のみを同様に測定したものをブランク値とし、測定値からブランク値を差し引いた吸光度(以下「ΔO.D.」と記す。)を算出した。
【0079】
得られたΔO.D.をプロットしたグラフを
図2に示す。反応試液2を添加した60分後においてもΔO.D.は平衡に達していないことから、酵素サイクリング反応により生じたNADを、グルタミン酸デヒドロゲナーゼによるL-グルタミン酸からα-ケトグルタル酸への酵素反応過程において、補酵素としてNADを消費しNADHを生成する反応が進行し、結果として酵素サイクリング反応試液におけるNADH濃度の減少が抑制され、チオNADHを生成する反応が継続的に進行していることが確認された。したがって比較例1に示される従来の酵素サイクリング反応による測定方法より、高感度かつ測定レンジの広い測定方法であることが確認された。
【0080】
実施例2 (ロイシンデヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定)
ALP標識抗MPB64 Fab抗体、酵素サイクリング反応基質としてA3P及び酵素サイクリング反応酵素として3α-HSDを用いる酵素サイクリング反応試液1に、酵素サイクリング反応の結果生じるNADをNADHへ還元し回復させる反応系として、ロイシンデヒドロゲナーゼ(Leucine dehydrogenase、Bacillus sp.由来)及び前記酵素基質としてL-ロイシン(L-Leucine)を加え、以下に示す反応試液3を調製し測定を行った。
【0081】
反応試液3
0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH 9.0)
2.0 mM チオNAD
0.5 mM NADH
0.1 mM 17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate
20 U/ml 3α-Hydroxysteroid dehydrogenase
20 U/ml Leucine dehydrogenase
2.0 mM L-Leucine
【0082】
測定方法
測定は実施例1に記載した方法に準拠して行った。得られたΔO.D.をプロットしたグラフを
図3に示す。
【0083】
反応試液3を添加した60分後においてもΔO.D.は平衡に達していないことから、酵素サイクリング反応により生じたNADを、ロイシンデヒドロゲナーゼによるL-ロイシンから4-メチル-2-オキソペンタン酸への酵素反応過程において、補酵素としてNADを消費しNADHを生成する反応が進行し、結果として酵素サイクリング反応試液におけるNADH濃度の減少が抑制され、チオNADHを生成する反応が継続的に進行していることが確認された。したがって比較例1に示される従来の酵素サイクリング反応による測定方法より、高感度かつ測定レンジの広い測定方法であることが確認された。
【0084】
実施例3 (アラニンデヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定)
ALP標識抗MPB64 Fab抗体、酵素サイクリング反応基質としてA3P及び酵素サイクリング反応酵素として3α-HSDを用いる酵素サイクリング反応試液1に、酵素サイクリング反応の結果生じるNADをNADHへ還元し回復させる反応系として、アラニンデヒドロゲナーゼ(Alanine dehydrogenase、Bacillus cereus遺伝子組み換え大腸菌由来)及び前記酵素基質としてL-アラニン(L-Alanine)を加え、以下に示す反応試液4を調製し測定を行った。
【0085】
反応試液4
0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH 9.0)
2.0 mM チオNAD
0.5 mM NADH
0.1 mM 17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate
20 U/ml 3α-Hydroxysteroid dehydrogenase
20 U/ml Alanine dehydrogenase
2.0 mM L-Alanine
【0086】
測定方法
測定は実施例1に記載した方法に準拠して行った。得られたΔO.D.をプロットしたグラフを
図4に示す。
反応試液4を添加した60分後においてもΔO.D.は平衡に達していないことから、酵素サイクリング反応により生じたNADを、アラニンデヒドロゲナーゼによるL-アラニンからピルビン酸への酵素反応過程において、補酵素としてNADを消費しNADHを生成する反応が進行し、結果として酵素サイクリング反応試液におけるNADH濃度の減少が抑制され、チオNADHを生成する反応が継続的に進行していることが確認された。したがって比較例1に示される従来の酵素サイクリング反応による測定方法より、高感度かつ測定レンジの広い測定方法であることが確認された。
【0087】
実施例4 (フェニルアラニンデヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定)
ALP標識抗MPB64 Fab抗体、酵素サイクリング反応基質としてA3P及び酵素サイクリング反応酵素として3α-HSDを用いる酵素サイクリング反応試液1に、酵素サイクリング反応の結果生じるNADをNADHへ還元し回復させる反応系として、L-フェニルアラニンデヒドロゲナーゼ(L-Phenylalanine dehydrogenase、Sporosarcina sp.由来)及び前記酵素基質としてL-フェニルアラニン(L-Phenylalanine)を加え、以下に示す反応試液5を調製し測定を行った。
【0088】
反応試液5
0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH 9.0)
2.0 mM チオNAD
0.5 mM NADH
0.1 mM 17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate
20 U/ml 3α-Hydroxysteroid dehydrogenase
20 U/ml L-Phenylalanine dehydrogenase
2.0 mM L-Phenylalanine
【0089】
測定方法
測定は実施例1に記載した方法に準拠して行った。得られたΔO.D.をプロットしたグラフを
図5に示す。
反応試液5を添加した60分後においてもΔO.D.は平衡に達していないことから、酵素サイクリング反応により生じたNADを、L-フェニルアラニンデヒドロゲナーゼによるL-フェニルアラニンからフェニルピルビン酸への酵素反応過程において、補酵素としてNADを消費しNADHを生成する反応が進行し、結果として酵素サイクリング反応試液におけるNADH濃度の減少が抑制され、チオNADHを生成する反応が継続的に進行していることが確認された。したがって比較例1に示される従来の酵素サイクリング反応による測定方法より、高感度かつ測定レンジの広い測定方法であることが確認された。
【0090】
実施例5 (リンゴ酸デヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定)
ALP標識抗MPB64 Fab抗体、酵素サイクリング反応基質としてA3P及び酵素サイクリング反応酵素として3α-HSDを用いる酵素サイクリング反応試液1に、酵素サイクリング反応の結果生じるNADをNADHへ還元し回復させる反応系として、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(Malate dehydrogenase、微生物由来)及び前記酵素基質としてリンゴ酸(L-Malate)を加え、以下に示す反応試液6を調製し測定を行った。
【0091】
反応試液6
0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH 9.0)
2.0 mM チオNAD
0.5 mM NADH
0.1 mM 17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate
20 U/ml 3α-Hydroxysteroid dehydrogenase
20 U/ml Malate dehydrogenase
2.0 mM L-Malate
【0092】
測定方法
測定は実施例1に記載した方法に準拠して行った。得られたΔO.D.をプロットしたグラフを
図6に示す。
【0093】
反応試液6を添加した60分後においてもΔO.D.は平衡に達していないことから、酵素サイクリング反応により生じたNADを、リンゴ酸デヒドロゲナーゼによるリンゴ酸からオキサロ酢酸への酵素反応過程において、補酵素としてNADを消費しNADHを生成する反応が進行し、結果として酵素サイクリング反応試液におけるNADH濃度の減少が抑制され、チオNADHを生成する反応が継続的に進行していることが確認された。したがって比較例1に示される従来の酵素サイクリング反応による測定方法より、高感度かつ測定レンジの広い測定方法であることが確認された。
【0094】
実施例6 (D-3-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定)
ALP標識抗MPB64 Fab抗体、酵素サイクリング反応基質としてA3P及び酵素サイクリング反応酵素として3α-HSDを用いる酵素サイクリング反応試液1に、酵素サイクリング反応の結果生じるNADをNADHへ還元し回復させる反応系として、D-3-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ(D-3-Hydroxybutyrate dehydrogenase 、Pseudomonas sp.由来)及び前記酵素基質としてD-3-ヒドロキシ酪酸(D-3-Hydroxybutyrate)を加え、以下に示す反応試液7を調製し測定を行った。
【0095】
反応試液7
0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH 9.0)
2.0 mM チオNAD
0.5 mM NADH
0.1 mM 17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate
20 U/ml 3α-Hydroxysteroid dehydrogenase
20 U/ml D-3-Hydroxybutyrate dehydrogenase
2.0 mM D-3-Hydroxybutyrate
【0096】
測定方法
測定は実施例1に記載した方法に準拠して行った。得られたΔO.D.をプロットしたグラフを
図7に示す。
反応試液7を添加した60分後においてもΔO.D.は平衡に達していないことから、酵素サイクリング反応により生じたNADを、D-3-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼによるD-3-ヒドロキシ酪酸からアセト酢酸への酵素反応過程において、補酵素としてNADを消費しNADHを生成する反応が進行し、結果として酵素サイクリング反応試液におけるNADH濃度の減少が抑制され、チオNADHを生成する反応が継続的に進行していることが確認された。したがって比較例1に示される従来の酵素サイクリング反応による測定方法より、高感度かつ測定レンジの広い測定方法であることが確認された。
【0097】
実施例7 (乳酸デヒドロゲナーゼを組み合わせた酵素サイクリング反応によるMPB64の測定)
ALP標識抗MPB64 Fab抗体、酵素サイクリング反応基質としてA3P及び酵素サイクリング反応酵素として3α-HSDを用いる酵素サイクリング反応試液1に、酵素サイクリング反応の結果生じるNADをNADHへ還元し回復させる反応系として、L-乳酸デヒドロゲナーゼ(Lactate Dehydrogenase、遺伝子組み換え大腸菌由来)及び前記酵素基質としてL-乳酸(L-lactate)を加え、以下に示す反応試液8を調製し測定を行った。
【0098】
反応試液8
0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH 9.0)
2.0 mM チオNAD
0.5 mM NADH
0.1 mM 17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate
20 U/ml 3α-Hydroxysteroid dehydrogenase
20 U/ml Lactate Dehydrogenase
2.0 mM L-lactate
【0099】
測定方法
測定は実施例1に記載した方法に準拠して行った。得られたΔO.D.をプロットしたグラフを
図8に示す。
反応試液8を添加した60分後においてもΔO.D.は平衡に達していないことから、酵素サイクリング反応により生じたNADを、L-乳酸デヒドロゲナーゼによるL-乳酸からピルビン酸への酵素反応過程において、補酵素としてNADを消費しNADHを生成する反応が進行し、結果として酵素サイクリング反応試液におけるNADH濃度の減少が抑制され、チオNADHを生成する反応が継続的に進行していることが確認された。したがって比較例1に示される従来の酵素サイクリング反応による測定方法より、高感度かつ測定レンジの広い測定方法であることが確認された。
【0100】
実施例8
参考例1で調製した被験試料をサンプル希釈液で希釈倍数1X10
7、1X10
6、1X10
5、1X10
4、1X10
3倍に希釈した各被験試料を実施例1にて調製した反応試液2を用い、補酵素としてNADを消費しNADHを生成する反応を組み合わせた酵素サイクリング法(以下「改良法」と称する)により被験試料中のMPB64の測定を実施した。対照として、比較例1にて調製した反応試液1を用いた従来の酵素サイクリング法(従来法、特許文献2に記載の方法に準じた方法)により同希釈系列の被験試料を測定した。
【0101】
反応試液1(従来法)
0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH 9.0)
2.0 mM チオNAD
0.5 mM NADH
0.1 mM 17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate
20 U/ml 3α-Hydroxysteroid dehydrogenase
【0102】
反応試液2(改良法)
0.1 M トリス塩酸緩衝液(pH 9.0)
2.0 mM チオNAD
0.5 mM NADH
0.1 mM 17β-methoxy-5β-Androstane 3-phosphate
20 U/ml 3α-Hydroxysteroid dehydrogenase
20 U/ml Glutamate Dehydrogenase
2.0 mM L-Glutamate
【0103】
測定方法
測定は、希釈倍数1X10
7、1X10
6、1X10
5、1X10
4、1X10
3倍に希釈し調製した各被験試料を反応試液1(従来法)と反応試液2(改良法)による二方法で測定した。それ以外は実施例1に記載した方法に準拠して行った。反応試液添加60分後のΔO.D.をプロットしたグラフを
図9に示す。
【0104】
反応試液1を用いた従来法と比較して、反応試液2を用いた改良法は、各希釈倍数の被験試料に対して吸光度が直線性を保つ範囲が広いこと、及び、吸光度が頭打ちになる現象を起こす被験試料の希釈倍数が低い、つまりは高濃度の被験試料でも定量的に測定が可能であることが確認された。これは、酵素サイクリング反応系において、グルタミン酸デヒドロゲナーゼによるL-グルタミン酸からα-ケトグルタル酸への酵素反応が同時に進行し、酵素サイクリング反応の結果反応系内に生じたNADをグルタミン酸デヒドロゲナーゼが補酵素としてNADを消費しNADHを生成する反応が起こり、結果として反応系内におけるNADH濃度の減少が抑制され(従来法よりもNADH濃度が維持され)、チオNADHを生成する反応が進んだ結果であると考えられた。したがって、本発明の方法は、従来法よりも高感度かつ測定レンジの広い測定方法であることが確認された。